説明

非円形歯車を用いた変速機構

【課題】 非円形歯車の歯面にかかる荷重を低減して小型化を図ることのできる非円形歯車を使用した変速機構を提供する。
【解決手段】 複数の非円形歯車を噛み合わせてなる非円形歯車を用いた変速機構において、相互に噛み合ってトルクを伝達する第1の非円形歯車2と第2の非円形歯車1A,1Bとのうち、第1の非円形歯車2の回転中心に対して対称となる位置のそれぞれに前記第2の非円形歯車1A,1Bが配置され、これらの第2の非円形歯車1A,1Bとの間でトルクが伝達される各第2の非円形歯車1A,1Bに共通の回転部材5が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、楕円歯車や指数関数的歯車あるいは中心から外れた偏心位置を中心に回転させられる円形の歯車などの非円形歯車、換言すれば、歯の噛み合い箇所の回転中心からの距離が変化する非円形歯車を使用した変速機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の非円形歯車を使用した変速機構の例が、特許文献1〜3に記載されている。これらの変速機構は、入力軸上の第1非円形歯車と、これに噛み合う第2非円形歯車と、その第2非円形歯車に噛み合っている第3非円形歯車とからなる基本歯車ユニットを備えており、その基本歯車ユニットでは、第1非円形歯車と第2非円形歯車との間の変速比と、第2非円形歯車と第3非円形歯車との間の変速比とに応じた変速比が設定される。そして、第1非円形歯車の回転中心と第2非円形歯車の回転中心とを結んだ線の延長線に対して、第2非円形歯車の回転中心と第3非円形歯車の回転中心とを結んだ線がなす角度を変化させることにより、すなわち第2非円形歯車に対する第1非円形歯車と第3非円形歯車とそれぞれの相対位相を変化させることにより、変速比が“1”から次第に小さい値になるようになっている。
【0003】
上記の基本歯車ユニットを用いて無段変速機を構成する場合、複数の基本歯車ユニットを軸線方向に配列するとともに、軸線方向に隣接する非円形歯車同士の相対的な位相をずらしておき、さらに全体として最も変速比が小さくなる基本歯車ユニットが入力部材と出力部材とに係合するように一方向クラッチを介装する。こうすることにより、各基本歯車ユニットが順次トルク伝達を担い、第2非円形歯車に対する第1非円形歯車の位相と第3非円形歯車の位相との相違に応じた所定の変速比を設定することができ、その位相を連続的に変化させることにより変速比が無段階に変化する。
【特許文献1】特公平6−13896号公報
【特許文献2】特公平6−63555号公報
【特許文献3】特公平5−78705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の基本歯車ユニットを複数組使用して構成した変速機では、各基本歯車ユニットでの出力回転数が脈動するものの、トルク伝達を担う基本歯車ユニットが順次切り替わるので、変速機の全体としての出力回転数の変動は、所定の変化幅内に収まる。しかしながら、複数組の基本歯車ユニットを備えていても、トルクの伝達を担う基本歯車ユニットが順次切り替わり、実際にトルクを伝達するのは一つの基本歯車ユニットであるから、各非円形歯車に掛かる荷重が大きくなる。これに対して、非円形歯車はその構造が、通常の円形歯車に比較して特殊であるから、熱処理などの強度を向上させる処理を通常の円形歯車と同程度におこなうことが難しく、結局、伝達するべきトルクに耐え得るものとするために各基本歯車ユニットにおける非円形歯車の歯幅あるいはその板厚を、大きくすることになる。しかも、軸線方向に複数の非円形歯車を配列する構造であるから、変速機の全体としての軸長が長く、大型化してしまう。
【0005】
また、非円形歯車の回転中心と噛み合い点との寸法が、トルクの伝達中には常に変動し、これが要因となって非円形歯車に作用するラジアル荷重が常に変動する。そのため、騒音や振動が生じ、あるいは軸受の寿命が短くなるなどの可能性がある。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、歯面に掛かる荷重を相対的に小さくし、またラジアル荷重を抑制することのできる非円形歯車を用いた変速機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、複数の非円形歯車を噛み合わせてなる非円形歯車を用いた変速機構において、相互に噛み合ってトルクを伝達する第1の非円形歯車と第2の非円形歯車とのうち、第1の非円形歯車の回転中心に対して対称となる位置のそれぞれに前記第2の非円形歯車が配置され、これらの第2の非円形歯車との間でトルクが伝達される各第2の非円形歯車に共通の回転部材が設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、第1の非円形歯車に対して二つの第2の非円形歯車が噛み合っている。したがってこれらの非円形歯車の間でのトルクの伝達は、第1の非円形歯車の二箇所でおこなわれ、それぞれの伝達部位で歯面に掛かる荷重が半減される。そのため、歯幅あるいは歯車の板厚を相対的に小さくすることができる。また、二つの第2の非円形歯車が、第1の非円形歯車の回転中心に対して対称となる位置に設けられているから、一方の第2の非円形歯車と第1の非円形歯車との間で生じるラジアル方向の荷重が、他方の第2の非円形歯車と第1の非円形歯車との間で生じるラジアル方向の荷重によって相殺されるので、トルク伝達の際に第1の非円形歯車と第2の非円形歯車との間の変速比が連続的に変化するとしても、第1の非円形歯車に対するラジアル荷重が変動したり、それに伴って振動や騒音が生じるなどの事態を防止もしくは抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。図1および図2はこの発明の一例を模式的に示しており、ここに示す例は、四つの非円形歯車を噛み合わせた歯車列を六列使用して変速機構が構成されている。これらの各歯車列が指数関数的歯車の場合は、同一の歯車では成立しないため、非円形歯車は、指数関数的歯車や楕円歯車などであり、回転中心に対するピッチ円の形状が円形となっていない歯車である。その一つの歯車列を図1に示してあり、同一諸元の一対の非円形歯車である入力歯車1A,1Bが所定の間隔を空けて中心軸線が平行となるように配置されており、これらの入力歯車1A,1Bの中間に非円形歯車である一つの中間歯車2が配置され、これらの歯車1A,1B,2が互いに噛み合っている。なお、図1にはピッチ円の形状で各歯車を示しており、歯は省略してある。
【0010】
したがって各入力歯車1A,1Bは、中間歯車2の回転中心に対して対称となる位置に配置されており、かつ中間歯車2に対する各入力歯車1A,1Bの回転位相は、同一になっている。すなわち、一方の入力歯車1Aが、その回転中心から中間歯車2との噛み合い点までの距離が最大となる状態で中間歯車2に噛み合っている状態では、他方の入力歯車1Bも、その回転中心から中間歯車2との噛み合い点までの距離が最大となる状態で中間歯車2に噛み合うようになっている。
【0011】
各入力歯車1A,1Bは、それぞれに対応して設けてある支持軸3A,3Bに取り付けられている。すなわち、中間歯車2の回転中心軸線と平行に二本の支持軸3A,3Bが所定の間隔を空けて配置され、これらの支持軸3A,3Bに入力歯車1A,1Bが取り付けられている。図に示す変速機構では、六列の歯車列が設けられているので、各支持軸3A,3Bのそれぞれに六個ずつの入力歯車1A,1Bが取り付けられている。それらの互いに軸線方向で隣接する入力歯車1A,1Bの取付位相が、(π/6)ずつずらされている。
【0012】
各支持軸3A,3Bは、その軸端をキャリヤ4によって回転自在に支持されている。すなわち、各支持軸3A,3Bがキャリヤ4によって連結されており、このキャリヤ4を回転させることにより、中間歯車2を挟んで位置している一対の入力歯車1A,1Bを中間歯車2の周囲に公転させるようになっている。
【0013】
支持軸3A,3Bの一方の端部側に位置するキャリヤ4の中心部、すなわち各支持軸3A,3Bを取り付けてある箇所の中間部には、入力軸5が貫通していて軸受6によって回転自在に支持されている。その入力軸5の先端部に円形歯車であるドライブギヤ7が取り付けられている。また、このドライブギヤ7に噛み合っている円形歯車であるドリブンギヤ8が、各支持軸3A,3Bに取り付けられている。なお、図2には一方のドリブンギヤ8のみを示してある。すなわち、各入力歯車1A,1Bは、これらドライブギヤ7およびドリブンギヤ8を介して入力軸5にトルク伝達可能に連結されている。したがってこの入力軸5がこの発明の共通の回転部材となっている。
【0014】
前記中間歯車2も同一軸線上に六個配列されており、これらの中間歯車2は、前記支持軸3A,3Bの間に配置した他の支持軸9に軸受10を介して回転自在に取り付けられている。そして、これらの中間歯車2も、上記の入力歯車1A,1Bと同様に、互いに軸線方向で隣接する中間歯車2同士の相対的な位相が(π/6)ずつずれている。
【0015】
各中間歯車2のそれぞれに非円形歯車からなる出力歯車11が噛み合っている。したがって出力歯車11は、中間歯車2と同様に、六個配置されている。これらの出力歯車11はそれぞれの諸元が同一のものであって、同一軸線上に配置されている。すなわち、前記支持軸9と平行に出力軸12が配置されており、この出力軸12に各出力歯車11が一方向クラッチ13を介して取り付けられている。この一方向クラッチ13は、出力歯車11が予め定めた方向に出力軸12よりも高速で回転しようとする際に係合してトルクを伝達するように構成されている。したがって軸線方向で互いに隣接する各出力歯車11同士の相対的な位相は、六つの歯車列における変速比の時々刻々の変化に応じて変化する。
【0016】
つぎに上述した変速機構の作用について説明する。キャリヤ4を図1に示す位置に保持している状態では、入力歯車1A,1Bと中間歯車2との間の変速作用と、中間歯車2と出力歯車11との間での変速作用とが同じになる。すなわち、入力歯車1A,1Bから中間歯車2にトルクを伝達している状態で、各入力歯車1A,1Bの回転中心から歯の噛み合い点までの距離が最大の状態(図1の状態)では、中間歯車2の回転中心から入力歯車1A,1Bとの噛み合い点までの距離が最小となるので、これらの歯車1A,1B,2の間の変速比が最小(最増速状態)になる。この状態では、中間歯車2の回転中心から出力歯車11との噛み合い点までの距離が最大で、かつ出力歯車11の回転中心から中間歯車2との噛み合い点までの距離が最小となっていて、中間歯車2から出力歯車11にトルクを伝達する際の変速比が最小(最増速状態)となる。すなわち、図1に示す状態にある歯車列での変速比が最小となる。
【0017】
入力歯車1A,1Bが図1に示す状態から次第に回転すると、回転中心から噛み合い点までの距離が次第に小さくなる。これは、中間歯車2と出力歯車11との間の関係でも同様である。したがってこの歯車列での変速比が次第に増大する。そのため、各歯車列での変速比は、変速比“1”を挟んで周期的に変化し、各歯車列の変速比はサインカーブに類似した曲線で表され、最大変速比と最小変速比とが一回転の間で二回生じる。そして、同一軸線上に配列された入力歯車1A,1B同士の回転方向での位相が(π/6)ずつずれており、しかも出力歯車11と出力軸12との間に上記の一方向クラッチ13が介装されているので、出力軸12には、変速比が最小となる歯車列を介して順次トルクが伝達される。言い換えれば、出力軸12に対してトルク伝達をおこなう歯車列が順次変化する。
【0018】
その出力軸12の回転数と入力軸5の回転数とを、前記ドライブギヤ7とドリブンギヤ8との間のギヤ比を“1”とした場合について図示すれば、図3のとおりである。図2および図3で、丸で囲んだ数字は、歯車列を示しており、したがって出力回転数は、順次切り替わって最小変速比を設定する歯車列で得られる増速された回転数となる。なお、図3に示すように、出力回転数は入力回転数が一定であっても脈動する。
【0019】
上記の入力歯車1A,1Bに対するトルクの入力は、入力軸5からドライブギヤ7とドリブンギヤ8とを介しておこなわれる。その場合、入力軸5のトルクが、先ず、各支持軸3A,3Bに分割され、これらの支持軸3A,3Bに取り付けられている入力歯車1A,1Bから中間歯車2にトルクが伝達される。したがって各入力歯車1A,1Bと中間歯車2との噛み合い点にかかる荷重は、入力トルクの半分のトルクに応じた荷重に半減される。そのため、非円形歯車であることにより強度の向上のための熱処理が通常の円形歯車ほど十分におこなえないなどの事情があっても、歯幅や歯車の板厚などを増大させる必要性が特には生じない。すなわち上記の構造であれば、軸線方向の寸法の増大要因を抑制して、軸長の短縮化を図ることができる。
【0020】
また、一方の入力歯車1Aと中間歯車2とが噛み合ってトルクを伝達することに伴って両者の間にはラジアル方向の荷重が生じる。これは、他方の入力歯車1Bと中間歯車2とが噛み合ってトルクを伝達する場合も同様であり、しかもこれらのラジアル荷重の大きさが同じで方向が反対であるために、上述した構成では、これらのラジアル荷重が相殺される。その結果、中間歯車2とこれを取り付けてある支持軸9との間に、伝達するべきトルクに応じた大きいラジアル荷重が作用することがなく、支持軸9の強度を低下させたり、あるいは軸受10の耐久性を向上させたりすることができる。
【0021】
なお、上記のキャリヤ4を図1の状態から時計方向もしくは反時計方向に回転させれば、中間歯車2と出力歯車11との間の変速比が最小となる状態では、入力歯車1A,1Bと中間歯車2との間の変速比が最小値より幾分大きくなるから、変速機構の全体としての変速比が図1に示す状態による最小値より幾分大きくなる。その変速比の変化は、キャリヤ4の回動角度に応じたものとなるので、結局、変速比を無段階に変化させることができる。
【0022】
ところで、上述した図1ないし図3に示す例は、入力歯車1A,1Bと中間歯車2との間で生じるラジアル荷重を相殺するように構成したであるが、スラスト方向の荷重を低減するためには、以下に示すように構成することが好ましい。すなわち、図4ないし図6はその例を模式的に示しており、入力歯車1と中間歯車2と出力歯車11とからなる歯車列が偶数列、設けられており、これらの歯車が、はす歯歯車によって構成されるとともに、軸線方向で隣接する歯車同士の歯の捩じれの方向が互いに反対になっている。さらに、各歯車は、指数関数的歯車で構成されていて、指数関数的歯車とは、駆動・被駆動の角速度比が回転角の指数関数式で与えられる歯車のことである。
【0023】
そして、トルク伝達をおこなう歯車列が軸線方向で隣接する歯車列に順次切り替わり、その切り替わりの過程でそれぞれの変速比が一致するラップ期間が生じるように構成されている。なお、図4ないし図6には、図1ないし図3と同一部分もしくは部材に、同一の符号を付してある。
【0024】
図4および図5に示す構成の変速機構で得られる変速比は図6に示すとおりであり、第1列の歯車列が出力軸12に対してトルクを伝達している間には、他の歯車列がトルク伝達する期間がラップしており、これらのラップ期間では、奇数列の歯車列と偶数列の歯車列とがトルク伝達に寄与し、しかもこれらの奇数列の歯車列と偶数列の歯車列とでははす歯の捩じれの向きが互いに反対になっているので、それぞれの歯車列で生じるスラスト力が互いに反対で同じ大きさになる。すなわち、トルク伝達に伴って各歯車列で生じるスラスト力が相殺される。そのため、図4および図5に示すように構成すれば、トルク伝達に伴うスラスト荷重を低減し、軸受や軸支持部などの耐久性を向上させ、あるいはその小型化もしくは低強度化を図ることができる。
【0025】
なお、この発明は上述した各具体例に限定されないのであって、使用できる歯車は楕円歯車以外に指数関数的歯車であってもよく、あるいは偏心位置を中心に回転しかつ互いに噛み合っている円形歯車であってもよい。また、中間歯車に対して入力歯車を一対設ける構成に替えて、中間歯車や出力歯車を一対設ける構成としてもよい。さらに、一方向クラッチは出力軸上に限らず、他の軸に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の一例を模式的に示す一部省略した正面図である。
【図2】図1のII−II線矢視断面図である。
【図3】入力回転数と出力回転数との関係を回転角度を横軸に取って示す線図である。
【図4】はす歯を備えた指数関数的歯車を使用した例を示す模式的な正面図である。
【図5】図4のV−V線矢視断面図である。
【図6】その入力回転数と出力回転数との関係を回転角度を横軸に取って示す線図である。
【符号の説明】
【0027】
1,1A,1B…入力歯車、 2…中間歯車、 5…入力軸、 11…出力歯車、 12…出力軸、 13…一方向クラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の非円形歯車を噛み合わせてなる非円形歯車を用いた変速機構において、
相互に噛み合ってトルクを伝達する第1の非円形歯車と第2の非円形歯車とのうち、第1の非円形歯車の回転中心に対して対称となる位置のそれぞれに前記第2の非円形歯車が配置され、これらの第2の非円形歯車との間でトルクが伝達される各第2の非円形歯車に共通の回転部材が設けられていることを特徴とする非円形歯車を用いた変速機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−57679(P2006−57679A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238324(P2004−238324)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)