説明

非危険物化した硝酸塩の生産方法

【課題】安価かつ簡便な手法で、硝酸塩の商品価値を保ちつつ非危険物化を達成することができる硝酸塩の非危険物化方法を提供すること。
【解決手段】硝酸塩の外側に、該硝酸塩の表面に形成した酸素封止剤のコーティング層を介してシリカを付着させる。前記コーティング層は、前記硝酸塩に対して前記酸素封止剤を0.01質量%以上添加して形成する。前記シリカは、前記硝酸塩に対して0.3質量%以上添加して付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、硝酸塩の非危険物化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硝酸バリウムは、加熱時に酸素を発生させる性質を有することから、主に酸化剤として光学ガラス、花火、火薬等の製造用途に利用される粉粒状の物質である。そして、その性質ゆえそのままの状態では、消防法(昭和二十三年法律第百八十六号)、危険物の規制に関する政令(昭和三十四年政令第三百六号)及び危険物の試験及び性状に関する省令(平成元年二月十七日自治省令第一号)で定められた危険物判定試験により、消防法上の危険物第一類(酸化性固体)と判定され、輸送及び保管に大幅な法的制約を受ける。
【0003】
しかし、硝酸バリウムに対し、危険物判定試験によって危険物第一類と認定されないレベルにまで改質を施した場合、その改質後の硝酸バリウムについては上記の法的制約を受けずに済み、硝酸バリウムの製造及び使用効率の向上、輸送及び管理コストの低減化等を図ることができる。
【0004】
ここで、硝酸バリウムは粉粒状の物品(目開きが2mmの網ふるいを回転させながら毎分160回の打振を与えてふるった場合に、当該網ふるいを30分間で通過するものが10%以上のもの)であり、危険物判定試験としては燃焼試験及び落球式打撃感度試験が行われる。燃焼試験では、試験物品と木粉との混合物を燃焼させた場合の燃焼時間を測定し、この時間が、標準物質(過塩素酸カリウム)と木粉との混合物を燃焼させた場合の燃焼時間(以下、基準燃焼時間という)と等しいかこれより短いと、酸化力の潜在的な危険性に係る政令で定める性状を有すると判断される。落球式打撃感度試験では、標準物質(硝酸カリウム)と赤りんとの混合物に鋼球を落下させた場合に50%の確率で爆発する高さから鋼球を試験物品と赤りんとの混合物に落下させた場合に当該混合物が爆発する確率を求め、この爆発確率が50%以上であると、衝撃に対する敏感性に係る政令で定める性状を有すると判断される。
【0005】
そして、燃焼試験において、改質後の硝酸バリウムの前記燃焼時間が基準燃焼時間よりも長く、かつ、落球式打撃感度試験において、改質後の硝酸バリウムの爆発確率が50%未満であれば、その改質後の硝酸バリウムは危険物第一類ではない(非危険物)と認定されることになる。斯かる両試験により非危険物と認定されるようにするための具体的な硝酸バリウムの改質方法としては、例えば、硝酸バリウムに対する不活性な無機物質の添加が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非危険物であるとの認定を確実に得るために、硝酸バリウムに対して不活性な無機物質を大量に添加し、硝酸バリウムの周りをその物質で取り囲むようにすると、硝酸バリウムに期待される酸化剤としての機能が発揮され難くなり、商品価値が損なわれてしまう。逆に、商品価値を保つために無機物質の添加を少量に抑えると、硝酸バリウムと可燃物との接触面積が大となり、上記危険物判定試験により危険物第一類と認定されてしまう。
【0007】
斯かる問題は、硝酸バリウム以外の危険物第一類に分類される硝酸塩についても同様に生じ得る。
【0008】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、安価かつ簡便な手法で、硝酸塩の商品価値を保ちつつ非危険物化を達成することができる硝酸塩の非危険物化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る硝酸塩の非危険物化方法は、硝酸塩の外側に、該硝酸塩の表面に形成した酸素封止剤のコーティング層を介してシリカを付着させる(請求項1)。
【0010】
上記硝酸塩の非危険物化方法において、前記コーティング層は、前記硝酸塩に対して前記酸素封止剤を0.01質量%以上添加して形成したものであることが好ましい(請求項2)。
【0011】
また、上記硝酸塩の非危険物化方法において、前記シリカは、前記硝酸塩に対して0.3質量%以上添加して付着させたものであるのが好ましい(請求項3)。
【発明の効果】
【0012】
請求項1〜3に係る発明では、安価かつ簡便な手法で、硝酸塩の商品価値を保ちつつ非危険物化を達成することができる硝酸塩の非危険物化方法が得られる。
【0013】
すなわち、各請求項に係る発明の硝酸塩の非危険物化方法では、硝酸塩の純分を充分に確保しつつ、危険物判定試験により非危険物と認定される性状を有するように硝酸塩を改質することができ、そのために高価な材料や極めて複雑な手法を用いる必要もない。
【0014】
しかも、硝酸塩に対する酸素封止剤の添加量が0.01質量%未満であると、硝酸塩全体がコーティングされずその表面が露出し、上記危険物判定試験で危険物と判定されてしまう可能性もあるが、請求項2に係る発明の硝酸塩の非危険物化方法では、硝酸塩に対する酸素封止剤の添加量を0.01質量%以上とするので、そのような恐れはない。
【0015】
また、硝酸塩に対するシリカの添加量が0.3質量%未満であると、酸素封止剤のコーティング層の大半はシリカによって覆われない状態となり、それだけコーティング層は衝撃を受けた際等に剥がれ易くなる上、このコーティング層が有機物質からなる場合、硝酸塩と共に反応し得るため、上記危険物判定試験で危険物と判定されてしまう可能性もある。しかし、請求項3に係る発明の硝酸塩の非危険物化方法では、硝酸塩に対するシリカの添加量を0.3質量%以上とするので、そのような恐れはない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
【0017】
本実施の形態に係る硝酸塩の非危険物化方法は、硝酸バリウム(硝酸塩の一例)の結晶の外側に、ドデシルベンゼンスルフォン酸(酸素封止剤の一例)のコーティング層を介してホワイトカーボン(シリカの一例)を付着させるものである。
【0018】
まず、硝酸バリウムの結晶は、例えば、硝酸バリウム溶液(硝酸塩溶液の一例)を適宜の手段により結晶化し、脱水(固液分離)して得られる結晶(精製物)である。そして、本実施例では、上記脱水時あるいは脱水後に、ドデシルベンゼンスルフォン酸を添加することにより、硝酸バリウム結晶の外側にドデシルベンゼンスルフォン酸のコーティング層を形成(表面コーティング)する。その後、必要に応じてコーティング済の硝酸バリウム結晶を適宜乾燥した(若干の湿り気は残した)上で、例えばV字混合機にて所定の比率でコーティング済の硝酸バリウムと微粉末状のホワイトカーボンとを混合し、硝酸バリウムの外側にコーティング層を介してホワイトカーボンを付着させる。
【0019】
ここで、ドデシルベンゼンスルフォン酸(酸素封止剤)の添加量は、硝酸バリウム(硝酸塩)に対して0.01質量%以上0.10質量%以下が好ましい。添加量が0.01質量%未満であると、各結晶全体がコーティングされず、硝酸バリウム(硝酸塩)の結晶面が露出し、上記危険物判定試験で危険物と判定されてしまう可能性もある。また、添加量が0.10質量%超であると、硝酸バリウム純分が少なく、商品価値が損なわれる恐れがある。
【0020】
一方、ホワイトカーボン(シリカ)の添加量は、硝酸バリウムに対して0.3質量%以上1.5質量%以下が好ましい。添加量が0.3質量%未満であると、ドデシルベンゼンスルフォン酸のコーティング層の大半はホワイトカーボンによって覆われない状態となり、それだけコーティング層は衝撃を受けた際等に剥がれ易くなる上、このコーティング層は有機物質からなり硝酸バリウムと共に反応し得るため、上記危険物判定試験で危険物と判定されてしまう可能性もある。また、添加量が0.10質量%超であると、硝酸バリウム純分が少なく、商品価値が損なわれる恐れがある。
【0021】
加えて、微粉末状のホワイトカーボン(シリカ)のメジアン径(D50)は5μm以下が好ましい。5μm超であると、ドデシルベンゼンスルフォン酸のコーティング層に対するホワイトカーボンの付着に大きなムラが生じるのに伴い、前記コーティング層においてホワイトカーボンで覆われない部分が形成され易く、この場合も、コーティング層の剥がれやドデシルベンゼンスルフォン酸の反応性等に起因して、上記危険物判定試験で危険物と判定されてしまう可能性もある。
【0022】
本実施形態の方法により改質した硝酸バリウム(組成物)を上述のように製造した場合、この硝酸バリウムに含まれるドデシルベンゼンスルフォン酸は加熱による除去が可能であり、また、ホワイトカーボン(シリカ)は液晶ガラスに多く含まれるものであるので、得られた上記硝酸バリウムは特に液晶ガラスの製造(添加剤)に用いて好適なものである。
【0023】
本発明の非危険物化方法の有効性を確認するため、上記実施形態に則って改質した硝酸バリウムのサンプル(No.1〜No.5)を作成し、各サンプルについて上記危険物判定試験を行った。その結果を表1に示す。尚、No.1〜No.5のサンプルは、上記実施形態の規定範囲内で、ドデシルベンゼンスルフォン酸の添加量、ホワイトカーボン(シリカ)のメジアン径及び添加量をそれぞれ異ならせたものである。
【0024】
【表1】

【0025】
ここで、燃焼試験では、上記燃焼時間が短いものほど酸化力が強いと判定され、二種の標準物質(過塩素酸カリウム、臭素酸カリウム)との比較でランクが決められる。具体的には、その燃焼時間が、過塩素酸カリウムの燃焼時間よりも長ければランク3、臭素酸カリウムの燃焼時間以下であればランク1、その間であればランク2となる。
【0026】
また、落球式打撃感度試験では、上記爆発確率が高いものほど衝撃に対する敏感性が高いと判定され、二種の標準物質(塩素酸カリウム、硝酸カリウム)との比較でランクが決められる。具体的には、その爆発確率が、硝酸カリウムの爆発確率よりも低ければランク3、塩素酸カリウムの爆発確率以上であればランク1、その間であればランク2となる。
【0027】
そして、燃焼試験及び落球式打撃感度試験において、ともにランク3と判定された場合に限り非危険物(危険物第一類には該当しない)と認定され、それ以外の場合は危険物第一類と認定される。
【0028】
表1から、上記実施形態に則って作成したサンプル(No.1〜No.5)はいずれも非危険物と認定されたことが把握される。すなわち、本発明の非危険物化方法の有効性は明らかである。
【0029】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0030】
上記実施の形態では、硝酸塩として硝酸バリウムを対象とする例を示したが、硝酸ストロンチウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カリウム等の他の硝酸塩を対象としてもよい。
【0031】
酸素封止剤は酸素封止機能とシリカ接着機能とを有するものであればよいのであり、ドデシルベンゼンスルフォン酸以外に、例えば、シラン系、チタネート系、アルミニウム系、ジルコアルミニウム系、カルボン酸系、リン酸系等のカップリング剤や、脂肪酸系、油脂系、ワックス系、界面活性剤系等の表面処理剤を酸素封止剤として用いることが考えられる。
【0032】
上記実施の形態ではシリカとしてホワイトカーボン(非晶質シリカ)を用いているが、定形シリカ(結晶質α石英)、無定形シリカ(非晶質二酸化ケイ素)の何れを用いてもよい。
【0033】
上記実施の形態では、コーティング済の硝酸塩(硝酸バリウム)とシリカ(ホワイトカーボン)との混合にV字混合機を用いているが、このような容器回転型の混合機に限らず、他の混合機を用いてもよい。
【0034】
なお、上記変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸塩の外側に、該硝酸塩の表面に形成した酸素封止剤のコーティング層を介してシリカを付着させる硝酸塩の非危険物化方法。
【請求項2】
前記コーティング層は、前記硝酸塩に対して前記酸素封止剤を0.01質量%以上添加して形成したものである請求項1に記載の硝酸塩の非危険物化方法。
【請求項3】
前記シリカは、前記硝酸塩に対して0.3質量%以上添加して付着させたものである請求項1または2に記載の硝酸塩の非危険物化方法。