説明

非可逆回路素子

【課題】整合容量電極と通信機器などのグランド電極との間で発生する浮遊容量を抑え、特性劣化の極めて少ない非可逆回路素子を得る。
【解決手段】永久磁石41と、該永久磁石41により直流磁界が印加されるフェライト32と、該フェライト32に配置された第1中心電極及び第2中心電極と、整合回路用の電極を内蔵した回路基板20と、を備えた非可逆回路素子(2ポート型アイソレータ)。第1中心電極の入力ポート側の電極53aの下方に入力ポートに接続されている電極54cが配置されている。また、前記電極53aの下方に第1中心電極の出力ポート側の電極54aが配置されるとともに、その下方に出力ポートに接続された電極55cが配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非可逆回路素子、特に、マイクロ波帯で使用されるアイソレータやサーキュレータなどの非可逆回路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アイソレータやサーキュレータなどの非可逆回路素子は、予め定められた特定方向にのみ信号を伝送し、逆方向には伝送しない特性を有している。この特性を利用して、例えば、アイソレータは、自動車電話、携帯電話などの移動体通信機器の送信回路部に使用されている。
【0003】
この種の非可逆回路素子では、素子の小型化のため、整合容量を形成するための電極を積層型の回路基板に内蔵させている。しかし、整合容量電極を回路基板に内蔵させると、ヨークなど他の導体との間で浮遊容量が発生する。入力部の整合容量に浮遊容量が発生すると、入力インピーダンスが設計値から外れ、入力整合が劣化する。また、出力部の整合容量に浮遊容量が発生すると、出力側の反射損失の中心周波数が変化し、結果的に順方向透過特性の中心周波数が変化し、所望帯域内の損失が増加してしまう。
【0004】
このような特性劣化を解消するため、特許文献1では、入力ポート側の電極や出力ポート側の電極とヨークとの間に発生する浮遊容量を軽減することを開示している。しかしながら、非可逆回路素子が携帯電話などの通信機器のプリント基板に実装された場合、プリント基板上のグランド電極と整合容量電極との間で浮遊容量が発生し、特性の劣化を生じてしまう。従来、このような通信機器のグランド電極との間に発生する浮遊容量に対する対策は講じられていなかった。
【特許文献1】国際公開第2007/086177号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、整合容量電極と通信機器などのグランド電極との間で発生する浮遊容量を抑え、特性劣化の極めて少ない非可逆回路素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の一形態である非可逆回路素子は、
永久磁石と、
前記永久磁石により直流磁界が印加されるフェライトと、
前記フェライトの少なくとも両主面に互いに絶縁状態で交差するように巻回した第1中心電極及び第2中心電極と、
前記第1中心電極に対してそれぞれ並列に接続された第1整合容量及び終端抵抗と、
前記第2中心電極に対して並列に接続された第2整合容量と、
少なくとも整合容量用の電極を内蔵した回路基板と、
を備え、
前記第1中心電極は、一端が入力ポートに第3整合容量を介して電気的に接続され、他端が出力ポートに第4整合容量を介して電気的に接続され、
前記第2中心電極は、一端が出力ポートに前記第4整合容量を介して電気的に接続され、他端がグランドポートに電気的に接続され、
前記回路基板に設けられた電極であって、第1中心電極の入力ポート側の電極の下方に、及び/又は、第1中心電極の出力ポート側の電極の下方に、他の電極が配置されていること、
を特徴とする。
【0007】
前記非可逆回路素子においては、回路基板に設けられた電極であって、第1中心電極の入力ポート側の電極の下方に、及び/又は、第1中心電極の出力ポート側の電極の下方に、他の電極が配置されているため、非可逆回路素子が通信機器などのプリント基板に実装された場合、プリント基板のグランド電極と入力ポート側の電極及び/又は出力ポート側の電極は、回路基板に設けた他の電極によって遮蔽され、プリント基板上のグランド電極との間で浮遊容量の発生が抑えられ、非可逆回路素子としての特性の劣化が防止される。
【0008】
前記非可逆回路素子にあっては、第1中心電極の入力ポート側の電極の下方に入力ポートに電気的に接続された電極が配置され、第1中心電極の出力ポート側の電極の下方に出力ポートに電気的に接続された電極が配置されていてもよい。
【0009】
また、前記回路基板を平面視した場合のほぼ半分の領域には、第1中心電極の入力ポート側の電極の下方に入力ポートに電気的に接続された電極が配置され、前記回路基板を平面視した場合の残りのほぼ半分の領域には、第1中心電極の入力ポート側の電極の下方に第1中心電極の出力ポート側の電極が配置されるとともに、その下方に出力ポートに電気的に接続された電極が配置されていてもよい。
【0010】
さらに、フェライトと永久磁石は、第1及び第2中心電極が配置された面と平行に両側から永久磁石によって挟着されたフェライト・磁石組立体を構成し、該フェライト・磁石組立体は、回路基板上に、第1及び第2中心電極が配置された面が該回路基板の表面に対して垂直方向に配置されていてもよい。非可逆回路素子の小型化、低背化を達成できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、通信機器などのプリント基板上のグランド電極と整合容量用電極との間で発生する浮遊容量を低減することができ、非可逆回路素子の特性劣化が解消される。詳しくは、第1中心電極35の入力ポート側の電極とプリント基板上のグランド電極との間に不要な浮遊容量成分の発生が防止されるので、入力インピーダンスが初期の値で安定し、入力整合が良好となる。第1中心電極35の出力ポート側の電極とプリント基板上のグランド電極との間に不要な浮遊容量成分の発生が防止されるので、出力側の反射損失の中心周波数が安定し、順方向透過特性の中心周波数が安定し、結果として低損失となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る非可逆回路素子の実施例について添付図面を参照して説明する。
【0013】
(アイソレータの全体構成、図1〜図5参照)
本発明に係る非可逆回路素子の一実施例である2ポート型アイソレータの分解斜視図を図1に示す。この2ポート型アイソレータは、集中定数型アイソレータであり、概略、平板状ヨーク10と、回路基板20と、フェライト32と永久磁石41とからなるフェライト・磁石組立体30とで構成されている。なお、図1において、斜線を付した部分は導電体である。
【0014】
フェライト32には、図2に示すように、表裏の主面32a,32bに互いに電気的に絶縁された第1中心電極35及び第2中心電極36が形成されている。ここで、フェライト32は互いに対向する平行な第1主面32a及び第2主面32bを有する直方体形状をなしている。
【0015】
また、永久磁石41はフェライト32に対して直流磁界を主面32a,32bに略垂直方向に印加するように主面32a,32bに対して、例えば、エポキシ系の接着剤42を介して接着され(図4参照)、フェライト・磁石組立体30を形成している。永久磁石41の主面41aは前記フェライト32の主面32a,32bと同一寸法であり、互いの外形が一致するように主面32a,41a、主面32b,41aどうしを対向させて配置されている。
【0016】
第1中心電極35は導体膜にて形成されている。即ち、図2に示すように、この第1中心電極35は、フェライト32の第1主面32aにおいて右下から立ち上がって2本に分岐した状態で左上に長辺に対して比較的小さな角度で傾斜して形成され、左上方に立ち上がり、上面32c上の中継用電極35aを介して第2主面32bに回り込み、第2主面32bにおいて第1主面32aと透視状態で重なるように2本に分岐した状態で形成され、その一端は下面32dに形成された接続用電極35bに接続されている。また、第1中心電極35の他端は下面32dに形成された接続用電極35cに接続されている。このように、第1中心電極35はフェライト32に1ターン巻回されている。そして、第1中心電極35と以下に説明する第2中心電極36とは、間に絶縁膜が形成されて互いに絶縁された状態で交差している。
【0017】
第2中心電極36は導体膜にて形成されている。この第2中心電極36は、まず、0.5ターン目36aが第1主面32aにおいて右下から左上に長辺に対して比較的大きな角度で傾斜して第1中心電極35と交差した状態で形成され、上面32c上の中継用電極36bを介して第2主面32bに回り込み、この1ターン目36cが第2主面32bにおいてほぼ垂直に第1中心電極35と交差した状態で形成されている。1ターン目36cの下端部は下面32dの中継用電極36dを介して第1主面32aに回り込み、この1.5ターン目36eが第1主面32aにおいて0.5ターン目36aと平行に第1中心電極35と交差した状態で形成され、上面32c上の中継用電極36fを介して第2主面32bに回り込んでいる。以下同様に、2ターン目36g、中継用電極36h、2.5ターン目36i、中継用電極36j、3ターン目36k、中継用電極36l、3.5ターン目36m、中継用電極36n、4ターン目36o、がフェライト32の表面にそれぞれ形成されている。また、第2中心電極36の両端は、それぞれフェライト32の下面32dに形成された接続用電極35c,36pに接続されている。なお、接続用電極35cは第1中心電極35及び第2中心電極36のそれぞれの端部の接続用電極として共用されている。
【0018】
即ち、第2中心電極36はフェライト32に螺旋状に4ターン巻回されていることになる。ここで、ターン数とは、中心電極36が第1又は第2主面32a,32bをそれぞれ1回横断した状態を0.5ターンとして計算している。そして、中心電極35,36の交差角は必要に応じて設定され、入力インピーダンスや挿入損失が調整されることになる。
【0019】
また、接続用電極35b,35c,36pや中継用電極35a,36b,36d,36f,36h,36j,36l,36nはフェライト32の上下面32c,32dに形成された凹部37(図3参照)に銀、銀合金、銅、銅合金などの電極用導体を塗布又は充填して形成されている。また、上下面32c,32dには各種電極と平行にダミー凹部38も形成され、かつ、ダミー電極39a,39b,39cが形成されている。この種の電極は、マザーフェライト基板に予めスルーホールを形成し、このスルーホールを電極用導体で充填した後、スルーホールを分断する位置でカットすることによって形成される。なお、各種電極は凹部37,38に導体膜として形成したものであってもよい。
【0020】
フェライト32としてはYIGフェライトなどが用いられている。第1及び第2中心電極35,36や各種電極は銀や銀合金の厚膜又は薄膜として印刷、転写、フォトリソグラフなどの工法で形成することができる。中心電極35,36の絶縁膜としてはガラスやアルミナなどの誘電体厚膜、ポリイミドなどの樹脂膜などを用いることができる。これらも印刷、転写、フォトリソグラフなどの工法で形成することができる。
【0021】
なお、フェライト32を絶縁膜及び各種電極を含めて磁性体材料にて一体的に焼成することが可能である。この場合、各種電極を高温焼成に耐えるPd又はPd/Agを用いることになる。
【0022】
永久磁石41は、通常、ストロンチウム系、バリウム系、ランタン−コバルト系のフェライトマグネットが用いられる。永久磁石41とフェライト32とを接着する接着剤42としては、一液性の熱硬化型エポキシ接着剤を用いることが最適である。
【0023】
回路基板20は、図7を参照して以下に詳述するように、複数枚の誘電体シート上に所定の電極を形成して積層し、焼結した積層型基板であり、その内部には、等価回路である図6に示すように、整合容量C1,C2,CS1,CS2,CP1,CP2,CP3が内蔵され、終端抵抗R(チップ抵抗、図1参照)が回路基板20上に外付けされている。また、上面には端子電極25a〜25eが、下面には外部接続用端子電極26,27,28(図7参照)がそれぞれ形成されている。
【0024】
回路基板20を構成する誘電体としては、ガラスとアルミナやその他の誘電体の混合物を焼成したもの、樹脂やガラスとその他の誘電体からなる複合基板などが用いられる。内部電極や外部端子電極には、銀や銀合金の厚膜、銅厚膜、銅箔などが用いられる。特に、外部端子電極には、0.1〜5μmのニッケルめっきを施したうえで、その表面に0.01〜1μmの金めっきを施すことが好ましい。
【0025】
前記フェライト・磁石組立体30は、回路基板20上に載置され、フェライト32の下面32dの各種電極が回路基板20上の端子電極25a,25b,25cとリフローはんだ付けされて一体化されるとともに、永久磁石41の下面が回路基板20上に接着剤にて一体化される。
【0026】
平板状ヨーク10は、電磁シールド機能を有するもので、前記フェライト・磁石組立体30の上面に接着剤層15を介して貼着されている。平板状ヨーク10の機能は、フェライト・磁石組立体30からの磁気の漏れ、高周波電磁界の漏れを抑えること、外部からの磁気の影響を抑えること、本アイソレータをチップマウンタを用いて図示しない基板に搭載する際に、バキュームノズルでピックアップする場所を提供することである。なお、平板状ヨーク10は必ずしも接地されている必要はないが、はんだ付けや導電性接着剤などで接地してもよく、接地すると高周波シールドの効果が向上する。
【0027】
平板状ヨーク10はニッケル板にAgのめっきが施されたものである。但し、ヨーク10の材質はニッケルに限定するものではなく、軟鉄鋼板、ケイ素鋼板などであってもよく、めっきはCuなどであってもよい。
【0028】
回路基板20上にフェライト・磁石組立体30が搭載され、さらに、フェライト・磁石組立体30の上面に平板状ヨーク10が貼着されている状態を図5に示す。回路基板20とヨーク10との間の空間部43は図示しない樹脂材にて封止される。
【0029】
(回路構成、図6参照)
整合用回路素子と前記第1及び第2中心電極35,36との接続関係は、図6の等価回路に示すとおりである。
【0030】
回路基板20の下面に形成された外部接続用端子電極26が入力ポートP1として機能し、この端子電極26は整合容量CS1を介して整合容量C1と終端抵抗Rとに接続されている。また、この端子電極26は整合容量CS1を介して回路基板20の上面に形成された端子電極25a及びフェライト32の下面32dに形成された接続用電極35bを介して第1中心電極35の一端に接続されている。
【0031】
第1中心電極35の他端及び第2中心電極36の一端は、フェライト32の下面32dに形成された接続用電極35c及び回路基板20の上面に形成された端子電極25bを介して終端抵抗R及び整合容量C1,C2に接続され、かつ、整合容量CS2を介して回路基板20の下面に形成された外部接続用端子電極27に接続されている。この端子電極27が出力ポートP2として機能する。また、整合容量C1は回路基板20の上面に形成された端子電極25d,25eに接続される。
【0032】
第2中心電極36の他端は、フェライト32の下面32dに形成された接続用電極36p及び回路基板20の上面に形成された端子電極25cを介して整合容量C2及び回路基板20の下面に形成された外部接続用端子電極28と接続されている。この電極28はグランドポートP3として機能する。
【0033】
また、入力ポートP1と整合容量CS1の接続点には接地されたインピーダンス調整用の容量CP1が接続され、第1中心電極35の一端には接地されたインピーダンス調整用の容量CP2が接続されている。同様に、出力ポートP2と整合容量CS2との接続点にも接地されたインピーダンス調整用の容量CP3が接続されている。
【0034】
以上の構成からなる2ポート型アイソレータにおいては、第1中心電極35の一端が入力ポートP1に接続され他端が出力ポートP2に接続され、第2中心電極36の一端が出力ポートP2に接続され他端がグランドポートP3に接続されているため、挿入損失の小さな2ポート型の集中定数型アイソレータとすることができる。さらに、動作時において、第2中心電極36に大きな高周波電流が流れ、第1中心電極35にはほとんど高周波電流が流れない。従って、第1中心電極35及び第2中心電極36によって生じる高周波磁界の方向は第2中心電極36の配置によってその方向が決まる。高周波磁界の方向が決まることにより、挿入損失をより低下させる対策が容易になる。
【0035】
フェライト・磁石組立体30は、フェライト32と一対の永久磁石41が接着剤42で一体化されていることで、機械的に安定となり、振動や衝撃で変形・破損しない堅牢なアイソレータとなる。
【0036】
(回路基板の構造、図7及び図8参照)
次に、回路基板20の構造、特に各種電極の積層構造について図7及び図8を参照して説明する。なお、各種電極のうち、第1中心電極35の入力ポートP1側の電極をA電極、第1中心電極35の出力ポートP2側の電極をB電極、グランド電極をC電極、入力ポートP1に接続される電極をD電極、出力ポートP2に接続される電極をE電極と称する。
【0037】
回路基板20は、図7に示すように、セラミックシート51A〜51Fを積層したもので、小さな円で図示したのはビアホールであり、上層の電極は該ビアホールを介して下層の電極と電気的に接続されている。
【0038】
詳しくは、シート51A上にはA電極25a,25d、B電極25b,25e及びC電極25cが形成されている。シート51B上にはA電極52a、B電極52b,52c及びC電極52dが形成されている。シート51C上にはA電極53a、B電極53b及びC電極53cが形成されている。シート51D上にはB電極54a、C電極54b及びD電極54cが形成されている。シート51E上にはC電極55a、D電極55b及びE電極55cが形成されている。シート51F上にはC電極56a、D電極56b及びE電極56cが形成されている。さらに、シート51Fの裏面にはC電極28、D電極26及びE電極27が形成されている。
【0039】
以上の積層構造において、A電極53aとD電極54cとの間に整合容量CS1が形成され、B電極54aとE電極55cとの間に整合容量CS2が形成される。さらに、A電極53aとB電極52b,54aとの間に整合容量C1が形成される。
【0040】
本実施例における回路定数は、第1中心電極35のインダクタンスL1は1.7nH、第2中心電極36のインダクタンスL2は22nHである。整合容量C1は4pFであり、アイソレーションの周波数を決定する役割を有し、動作周波数帯でアイソレーションが最大となる値が好ましい。整合容量C2は0.3pFで、通過周波数を決定する役割を有し、動作周波数帯で挿入損失が最小となる値が好ましい。整合容量CS1は2pF、整合容量CS2は3pFで、それぞれアイソレータを50Ωの特性インピーダンスに整合させる役割を有し、動作周波数帯で挿入損失が最小となる値が好ましい。終端抵抗Rは300Ωである。
【0041】
本実施例において、第1中心電極35の入力ポートP1側のA電極53aの下方に入力ポートP1に電気的に接続されたD電極54cが配置され、第1中心電極35の出力ポートP2側のB電極54aの下方に出力ポートP2に電気的に接続されたE電極55cが配置されている。特に、回路基板20を平面視した場合のほぼ半分の領域Xには、第1中心電極35の入力ポートP1側のA電極53aの下方に入力ポートP1に電気的に接続されたD電極54cが配置され、残りのほぼ半分の領域Yには、第1中心電極35の入力ポートP1側のA電極53aの下方に第1中心電極35の出力ポートP2側のB電極54aが配置されるとともに、その下方に出力ポートP2に電気的に接続されたE電極55cが配置されている。
【0042】
(領域XにおいてA電極の下方にD電極を配置した利点)
A電極53aの下方にD電極54cを配置すると、A電極53aと他のC電極やプリント基板上のグランド電極60との間に発生する浮遊容量CP2’を抑えることができ、整合容量CS1の設計自由度が向上する。回路基板20内でグランド電極60に対向してA電極53aが配置され、その下方に他の電極が存在しないと、回路基板20内のC電極56aなどとの間に浮遊容量CP2’を発生させてしまう。同様に、グランド電極60との間にも浮遊容量CP2’を発生させてしまう。アイソレータとグランド電極60との間には空隙が存在し、該空隙は比誘電率は約1.0と低いが、厚みは10〜30μmと薄い。また、近年、通信機器のプリント基板は薄くなっており、グランド電極60はプリント基板の表面に配置されているか、表面から100〜300μmに内蔵されている。その結果、A電極53aとグランド電極60との間に発生する浮遊容量CP2’は比較的大きくなる。
【0043】
本来、浮遊容量CP2’が発生しなければ、図9のスミスチャート上の第1象限のうち、直列整合容量CS1のみで整合できる領域にある。マイクロ波帯ではQが100程度の小型で低損失の容量は回路基板20内で容易に実現できる。他方、浮遊容量CP2’が発生すると、A点の特性インピーダンスがスミスチャート上のよりリアクタンスの小さい、直列整合容量CS1のみでは整合できない領域に移動してしまう。この領域でも並列インダクタや変成器を用いると整合させることができるが、マイクロ波帯では小型で低損失のインダクタは実現困難である。
【0044】
結果として、浮遊容量CP2’が発生すると、入力整合をとることが困難となる。あるいは、整合を得ると、大型化、大損失化してしまう。換言すれば、A点の動作インピーダンスが高いため、小さな浮遊容量であっても発生すると、整合が困難になってしまう。回路基板20の材料の比誘電率を非常に低くして、かつ、基板20を十分に大きくしてA電極53aとグランド電極60とが重ならないようにしても浮遊容量CP2’の発生を小さくできるが、回路基板20ひいてはアイソレータが大型化してしまう。また、基板20の材料の比誘電率を非常に低くして、かつ、十分に厚く構成しても、浮遊容量CP2’の発生を小さくできるが、基板20が厚くなり、アイソレータが高背化してしまう。本実施例のごとく、A電極53aの下方にD電極54cを配置すると、回路基板20を大型化することなく、浮遊容量CP2’の発生を最小限に抑えることができ、入力整合状態が良好で、小型、低背なアイソレータを実現できる。
【0045】
そして、A電極53aとD電極54cとが対向することで、A電極53aと入力ポートP1との間に直列に挿入される容量CS1を形成することができる。中心電極35,36をフェライト32に巻回した低損失の2ポート型アイソレータでは、A電極53aでの特性が80〜300Ω程度の比較的高インピーダンスとなる。そのため、整合容量CS1を挿入し、一般的に50Ωに設計されている通信機器の特性インピーダンスに整合させている。
【0046】
D電極54cは入力ポートP1に接続されるものであり、もとより回路基板20内のC電極やグランド電極60との間に容量CP1を持つ。従って、一定程度まで容量CP1が発生することは問題がない。
【0047】
なお、前記A電極53aの上方にB電極やD電極を配置してもよい。アイソレータの上方には通信機器のグランド電極が配置されることはなく、上方に通信機器のシールド板などが配置される場合であっても、シールド板などとの間に一定距離の空隙(通常、空気や樹脂などの誘電率の相対的に低い材料で満たされる)が存在するので、発生する浮遊容量は非常に小さくなるからである。A電極53aの上方にB電極やD電極を配置することで生じる容量C1,CS1は、アイソレータの整合回路の一部として機能する。
【0048】
また、本実施例では、D電極54cの下方に追加的にD電極55b,56bを配置している。これは、A電極53aとD電極54cとで形成される容量CS1の値を調整したり、A電極53aをD電極54cで覆うことをより完全なものに近づけるためである。
【0049】
(領域YにおいてA電極の下方にB電極を配置した利点)
A電極53aの下方にB電極54aを配置すると、A電極53aと他のC電極やプリント基板上のグランド電極60との間に発生する浮遊容量CP2’を抑えることができ、整合容量CS1の設計自由度が向上する。浮遊容量CP2’が発生すると、入力整合をとることが困難となり、整合をとると大型化、大損失化することは前述した。そして、A電極53aとB電極54aとが対向することで整合容量C1を形成することができる。
【0050】
(領域YにおいてB電極の下方にE電極を配置した利点)
さらに、本実施例では、前記B電極54aの下方にE電極55cを配置している。これは、B電極54aが回路基板20内の他のC電極や通信機器のグランド電極60との間に浮遊容量C2’が発生することを防止するためである。
【0051】
フェライト32の少なくとも両主面32a,32bに第1及び第2中心電極35,36を巻回したアイソレータでは、第2中心電極36のインダクタンスL2を大きく設定し、整合容量C2はB電極54aをトリミングして容量値を調整することで通過帯域中心周波数を設定するための最小限程度まで小さく設定することが望ましい。インダクタンスL2と整合容量C2からなる並列共振回路の周波数変化に対する共振特性を広帯域とすることで、広い通過周波数帯域での低損失を実現するためである。
【0052】
同時に、入力整合も広帯域にわたって良好なものとなる。入力整合が高帯域にわたって良好になると、アイソレータの前段となるパワーアンプの負荷インピーダンスが安定するので、パワーアンプの出力波形歪を減少させたり、消費電流も最低限とすることができる。
【0053】
整合容量C2が一定程度以上となると、アイソレータの動作帯域が狭帯域となってしまい、損失が増大し、入力整合が狭帯域となることで、アイソレータの前段となるパワーアンプの出力波形歪が増大したり、消費電流が増大する。浮遊容量C2’の発生を防止すると、アイソレータの実装状態に依存してアイソレータ総体としての整合容量C2が変化するおそれがなくなる。その結果、アイソレータの出力側の反射損失の中心周波数が安定し、順方向透過特性の中心周波数が安定し、低損失となる。そして、B電極54aとE電極55cが対向することで、B電極54aと出力ポートP2との間に挿入される整合容量CS2を形成することができる。
【0054】
第1及び第2中心電極35,36を備えた低損失の2ポート型アイソレータでは、B電極部分での特性インピーダンスが80〜300Ω程度の比較的高インダクタンスとなる。そのため、B電極部分と出力ポートP2との間に直列に整合容量CS2を挿入して、一般に50Ωに設計されている通信機器の特性インピーダンスに整合させている。
【0055】
E電極55cは出力端子電極であり、もとより回路基板20内のC電極56aや通信機器のグランド電極60との間に容量CP3を持つ。従って、一定程度まで容量CP3が発生することは問題がない。
【0056】
また、A電極53aの上方にB電極やD電極を配置してもよい。アイソレータの上部が通信機器のグランド電極に対向する懸念がないこと、上部に対向して通信機器のシールド板などが配置される場合も、該シールド板との間に一定距離の空隙や誘電率の相対的に低い樹脂材料が介在するので、発生する浮遊容量が非常に小さくなるからである。そして、A電極53aの上方にB電極やD電極を配置することにより生じる容量C1,CS1は、アイソレータの整合回路の一部として機能する。
【0057】
また、E電極55cの下方に追加的にE電極56cを配置したのは、B電極54aとE電極55cとで形成する整合容量CS2の値を調整したり、B電極54aの下方をE電極55cで覆う効果をより完全なものとするためである。以上の構成により、整合容量CS2の容量設計の自由度が向上し、整合容量CP3の不要な増大を解消することができる。
【0058】
(他の実施例)
なお、本発明に係る非可逆回路素子は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更することができる。
【0059】
特に、2ポート型アイソレータとしての回路構成は任意である。また、回路基板の積層構造も種々の形態を採用でき、終端抵抗が内蔵されていてもよい。また、実施例で示した回路定数はあくまで一例であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施例である非可逆回路素子(2ポート型アイソレータ)を示す分解斜視図である。
【図2】中心電極付きフェライトを示す斜視図である。
【図3】前記フェライトを示す斜視図である。
【図4】フェライト・磁石組立体を示す分解斜視図である。
【図5】組み立てられた回路基板、フェライト・磁石組立体、ヨークを示す断面図である。
【図6】前記2ポート型アイソレータの等価回路図である。
【図7】回路基板の積層構造を示す分解斜視図である。
【図8】回路基板を図7の矢印Fでカットした断面図である。
【図9】スミスチャート図である。
【符号の説明】
【0061】
20…回路基板
30…フェライト・磁石組立体
32…フェライト
35…第1中心電極
36…第2中心電極
41…永久磁石
25a,53a…A電極
25b,52b,54a…B電極
54c…D電極
55c…E電極
P1…入力ポート
P2…出力ポート
P3…グランドポート
C1…第1整合容量
C2…第2整合容量
CS1…第3整合容量
CS2…第4整合容量
R…終端抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石と、
前記永久磁石により直流磁界が印加されるフェライトと、
前記フェライトの少なくとも両主面に互いに絶縁状態で交差するように巻回した第1中心電極及び第2中心電極と、
前記第1中心電極に対してそれぞれ並列に接続された第1整合容量及び終端抵抗と、
前記第2中心電極に対して並列に接続された第2整合容量と、
少なくとも整合容量用の電極を内蔵した回路基板と、
を備え、
前記第1中心電極は、一端が入力ポートに第3整合容量を介して電気的に接続され、他端が出力ポートに第4整合容量を介して電気的に接続され、
前記第2中心電極は、一端が出力ポートに前記第4整合容量を介して電気的に接続され、他端がグランドポートに電気的に接続され、
前記回路基板に設けられた電極であって、第1中心電極の入力ポート側の電極の下方に、及び/又は、第1中心電極の出力ポート側の電極の下方に、他の電極が配置されていること、
を特徴とする非可逆回路素子。
【請求項2】
第1中心電極の入力ポート側の電極の下方に入力ポートに電気的に接続された電極が配置され、第1中心電極の出力ポート側の電極の下方に出力ポートに電気的に接続された電極が配置されていること、を特徴とする請求項1に記載の非可逆回路素子。
【請求項3】
前記回路基板を平面視した場合のほぼ半分の領域には、第1中心電極の入力ポート側の電極の下方に入力ポートに電気的に接続された電極が配置され、
前記回路基板を平面視した場合の残りのほぼ半分の領域には、第1中心電極の入力ポート側の電極の下方に第1中心電極の出力ポート側の電極が配置されるとともに、その下方に出力ポートに電気的に接続された電極が配置されていること、を特徴とする請求項1に記載の非可逆回路素子。
【請求項4】
前記フェライトと前記永久磁石は、前記第1及び第2中心電極が配置された面と平行に両側から永久磁石によって挟着されたフェライト・磁石組立体を構成し、
前記フェライト・磁石組立体は、前記回路基板上に、前記第1及び第2中心電極が配置された面が該回路基板の表面に対して垂直方向に配置されていること、
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の非可逆回路素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−206791(P2009−206791A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46608(P2008−46608)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)