説明

非対称性第8(VIII)族メタロセン化合物

非対称性二置換メタロセン化合物は、一般式、CpMCp′〔式中、Mは、Ru、Os、及びFeからなる群から選択された金属であり;Cpは、少なくとも一つの置換基Dを含む第一置換シクロペンタジエニル又はインデニル部分であり;Cp′は、少なくとも一つの置換基D′を含む第二置換シクロペンタジエニル又はインデニル部分である〕を有する。Dは、D′とは異なる。Dは、X;Ca1b1c1;Ca2b2c2(C=O)Ca1b1c1;又はCa2b2c2OCa1b1c1〔式中、Xは、ハロゲン原子又はニトロ基であり;a1は、2〜8の整数であり;b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;b1+c1は、少なくとも1であり;a2は、0〜8の整数であり;b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;そしてc2は、0〜2(a2)+1−b2の整数である。〕であり;そしてD′は、X;Ca1b1c1;Ca2b2c2(C=O)Ca1b1c1;又はCa2b2c2OCa1b1c1〔式中、Xは、ハロゲン原子又はニトロ基であり;a1は、1〜8の整数であり;b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;b1+c1は、少なくとも1であり;a2は、0〜8の整数であり;b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;そしてc2は、0〜2(a2)+1−b2の整数である。〕である。それら化合物は、フイルム蒸着法で前駆物質として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
化学蒸着(CVD)法は、半導体の製造又は処理中にウエーハ又は他の表面のような基体上に材料のフイルムを形成するのに用いられている。CVDでは、CVD化学的合成物としても知られているCVD前駆物質を、熱分解、化学的分解、光化学的分解、又はプラズマ活性化により分解し、希望の組成を有する薄膜を形成する。例えば、気相CVD前駆物質を、その前駆物質の分解温度よりも高い温度に加熱された基体と接触させ、その基体上に金属又は金属酸化物のフイルムを形成することができる。
【0002】
ルテニウム(Ru)、酸化ルテニウム(RuO)、又は鉄(Fe)を含む薄膜は、良好な電気伝導性、大きな仕事関数を有し、化学的及び熱的に安定であり、化学的層間拡散を起こしにくく、多くの誘電体基体材料との相容性を有する。例えば、RuとRuOフイルムは、DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー)装置のような半導体装置のための膜電極材料として研究されてきた。
【0003】
ビス(ペンタハプトシクロペンタジエニル)ルテニウム(ルテノセン)及び対称的ジエチル置換ルテノセン(1,1′−ジエチルルテノセン)は、CVD法によるルテニウム系薄膜を形成するための可能な前駆物質として研究されてきた。これらの化合物は、幾つかの合成経路により製造されてきた。
【0004】
ルテノセンを形成するための現存する一つの方法は、図1Aに示したように、Znの存在下でRuCl・XHOとシクロペンタジエンと反応させ、ルテノセン、ZnCl、及びHClを生成させることを含んでいる。図1Bに示したように、エチル置換シクロペンタジエンを用いた同様な方法を用いて1,1′−ジエチルルテノセンが製造されてきた。一般に、この方法により得られる収率は約70%である。
【0005】
図1Cに示したように、ベンゼン中でシクロペンタジエン、クロロ(シクロペンタジエニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)、及び水素化ナトリウム(NaH)を反応させることにより非置換ルテノセンも製造されてきた。クロロ(シクロペンタジエニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)前駆物質は、エタノール中で三塩化ルテニウムとトリフェニルホスフィンとを反応させることにより合成されてきた。
【0006】
ルテノセンを合成するために研究されてきた別の方法は、ビス(アルキルシクロペンタジエニル)鉄化合物と、RuCl・XHOとの金属交換反応を含み、低い収率で1,1′−ジアルキルルテノセン、三塩化鉄(FeCl)を形成する結果になり、鉄物質を分離するのが困難である。
【0007】
図1A及び1Bから分かるように、これらの合成方法は、両方のシクロペンタジエニル環を一段階で付加することを含み、従って、非置換ルテノセン又は対称的に置換された1,1′−ジエチルルテノセンを製造するのに適している。
【0008】
一置換ルテノセン、例えば、1−エチルルテノセンは、1,1′−ジエチルルテノセンを合成する間に不純物として形成される。別の一置換ルテノセン、t−ブチル(シクロペンタジエニル)(シクロペンタジエニル)ルテニウムは、ビス(シクロペンタジエニル)ルテニウム、塩化アルミニウム、及びポリ燐酸の加熱した混合物をt−ブチルアルコールと反応させ、次に蒸留することにより製造されてきた。
【0009】
ルテノセン及び1,1′−ジエチルルテノセンの両方共、比較的低い(100℃で10トールより低い)蒸気圧を有する。室温では、ルテノセンは固体であり、1,1′−ジエチルルテノセンは液体である。
【0010】
一般に、室温で固体であるよりも液体である前駆物質のように、一層揮発性のCVD前駆物質が好ましい。更に、CVD前駆物質は、適当なCVD条件下で熱分解することができ、均一なフイルムを形成することができることが望ましい。
【0011】
従って、室温で液体であり、比較的高い蒸気圧を有する新規なルテノセンを開発し、フイルムを蒸着するためのCVD前駆物質としてのそれらの可能性を研究する必要性が存在する。オスミウム−又は鉄−系フイルムを形成するため、CVD前駆物質として用いることができる他の第8(VIII)族メタロセン化合物を開発する必要性も存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の要約
本発明は、一般に、非対称性第8(VIII)族メタロセンに関する。一層詳しくは、本発明は、一般式、CpMCp′〔式中、Mは、Ru、Os、及びFeからなる群から選択された金属であり;Cpは、少なくとも一つの置換基Dを含む第一置換シクロペンタジエニル又はインデニル部分であり;そしてCp′は、少なくとも一つの置換基D′を含む第二置換シクロペンタジエニル又はインデニル部分である。〕の化合物に関する。
【0013】
二つの基、D及びD′は、互いに異なり、独立に選択される。
は、
X;
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1;又は
a2b2c2OCa1b1c1
〔式中、
Xは、ハロゲン原子、又はニトロ基(NO)であり;
a1は、2〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、少なくとも1であり;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数である。〕
にすることができ、
′は、
X;
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1;又は
a2b2c2OCa1b1c1
〔式中、
Xは、ハロゲン原子、又はNOであり;
a1は、1〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、少なくとも1であり;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数である。〕
にすることができる。
【0014】
本発明のメタロセン化合物の一つの特別な例は、1−メチル,1′−エチルルテノセンである。
【0015】
Cp又はCp′の少なくとも一つは、一つ以上の付加物置換基、例えば、D、D、D、D、D′、D′、D′、及びD′を含むことができる。
【0016】
本発明は、幾つかの利点を有する。本発明の化合物は、Ru−、Os−、又はFe−系薄膜をCVDにより製造する現存する方法に対し更に付加的な選択性及び融通性を与える。これらの化合物の或るものは室温で液体である。更に、1−メチル−1′−エチルルテノセンは、1,1′−ジエチルルテノセンより高い蒸気圧をもつことが判明している。本発明の化合物中のシクロペンタジエニル環の各々の独立した官能性化は、そのシクロペンタジエニル環の変性により、溶解度、蒸気圧、分解、燃焼及び他の反応経路、酸化/還元電位、幾何学性、好ましい配向、及び電子密度のような性質を変化させると考えられる。シクロペンタジエニル環の官能性化は、メタロセンを希望の用途に対し順応させるか又は最適にする。
【0017】
発明の詳細な記述
本発明の前記及び他の目的、特徴、及び利点は、図面に例示したように、本発明の好ましい態様についての次の一層特別な記述から明らかになるであろう。図中、同じ参照番号は、異なる図面全体に亙り同じ部分を指している。図面は必ずしも実物大ではなく、本発明の原理を例示することに重点が置かれている。
【0018】
本発明は、一般に第8(VIII)族非対称性メタロセンに関する。ここで用いられる用語「メタロセン」とは、フェロセンの構造と同様なサンドイッチ状構造を有する有機金属配位化合物を指し、この場合、遷移金属が環式部分にπ−結合していると考えられる(電子は、環の上及び下に伸びる軌道中を運動している)。ここに記載する非対称性メタロセンでは、環式部分はシクロペンタジエニル又はインデニルである。もしシクロペンタジエニル環中の5つの全ての炭素原子が遷移金属に結合しているならば、シクロペンタジエニル又はインデニル(フェニル環に融合したシクロペンタジエニル環)部分は、η−配位部分として記述することもできる。従って、フェロセンの完全な記述は、(η−CFeになるであろう。
【0019】
図2Aには、Mが第8(VIII)族金属、例えば、ルテニウム、オスミウム、又は鉄である場合の非置換メタロセンの互い違いになった形態のものが示されている。メタロセンは、図2Bに示したように、掩蔽形態(エクリプス配座)になることもできる。ここで用いられている分子式は、特定のメタロセン形態を描くことを意図したものではない。
【0020】
本発明は、一般式、CpMCp′(式中、Mは、Ru、Os、又はFeである)の第8(VIII)族非対称性メタロセンに関する。シクロペンタジエニル及びインデニル部分は、Cpとして省略されている。一つの例として、Cp及びCp′の両方がシクロペンタジエニル部分である。別の例として、Cp及びCp′の両方がインデニル部分である。更に別の例として、Cp及びCp′の一方がシクロペンタジエニルで、他方がインデニルである。
【0021】
本発明の化合物のCp及びCp′部分の各々では、少なくとも一つの水素(H)原子が、置換基、例えば、D及びD′により置換されている。
【0022】
二つの基、D及びD′は、互いに異なり、独立に選択される。
は、
X;
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1;又は
a2b2c2OCa1b1c1
〔式中、
Xは、ハロゲン原子、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、又は沃素(I);又はNOであり;
a1は、2〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、少なくとも1であり;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数である。〕
にすることができ、
′は、
X;
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1;又は
a2b2c2OCa1b1c1
〔式中、
Xは、ハロゲン原子、例えば、F、Cl、Br、又はI;又はNOであり;
a1は、1〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、少なくとも1であり;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数である。〕
にすることができる。
【0023】
ここで用いられる整数範囲は、それらの数字も含まれる。直鎖及び分岐鎖置換基D及びD′を用いることができる。例えば、D及び/又はD′は直鎖又は分岐鎖C1〜C8アルキル基にすることができる。
【0024】
本発明の一つの態様として、Dは、次のもの:
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1;又は
a2b2c2OCa1b1c1
〔式中、
Xは、ハロゲン原子、例えば、F、Cl、Br、又はIであり;
a1は、1〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、1に等しいか又はそれより大きく;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数であり;
b2+c2は、1に等しいか又はそれより大きい。〕
から選択され、D′は、次のもの:
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1;又は
a2b2c2OCa1b1c1
〔式中、
Xは、ハロゲン原子、例えば、F、Cl、Br、又はIであり;
a1は、1〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、1に等しいか又はそれより大きく;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数であり;
b2+c2は、1に等しいか又はそれより大きい。〕
から選択される。
【0025】
別の例として、Dは、ハロゲン原子、X、例えば、F、Cl、Br、I;又はNOであり、D′は次のもの:
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1;又は
a2b2c2OCa1b1c1
〔式中、
Xは、ハロゲン原子、例えば、F、Cl、Br、I;又はNOであり;
a1は、2〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、1に等しいか又はそれより大きく;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数であり;
b2+c2は、1に等しいか又はそれより大きい。〕
から選択される。
【0026】
本発明のメタロセン化合物(CpMCp′)の構造式の一つの例が、図3に示されている。
【0027】
場合により、本発明のメタロセン化合物のCp及びCp′部分の一方又は両方が、一つ以上の付加的置換基、Dを更に含む。一つの例として、Cp及びCp′の少なくとも一つは多置換シクロペンタジエニル又はインデニル部分である。
【0028】
本発明のCpMCp′メタロセン化合物の一般化された構造式を図4に示す。D及びD′は、上に記載したように独立に選択される。D、D、D、D、D′、D′、D′、及びD′は、独立に次のものから選択される:
X;
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1
a2b2c2OCa1b1c1
a2b2c2(C=O)OCa1b1c1;又は
a2b2c2O(C=O)Ca1b1c1
〔式中、
Xは、ハロゲン原子、例えば、F、Cl、Br、I;又はNOであり;
a1は、0〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、1に等しいか又はそれより大きく;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数であり;
b2+c2は、1に等しいか又はそれより大きい〕。
【0029】
本発明のルテノセン系メタロセン化合物の特別の例を表1及び図5に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
本発明のメタロセン化合物には、表1又は図6に示したものと同様なオスミウム系及び鉄系化合物も含まれる。
【0033】
本発明のメタロセン化合物を製造するのに適した合成方法は、代理人文書番号D−21245として本願と同時に出願された「メタロセン化合物の製造方法」(Methods for Making Metallocene Compounds)と題するデビッドM.トンプソン(David M. Thompson)及びシンシアA.フーバー(Cynthia A. Hoover)による米国特許出願(それらの全教示は参考のためここに入れてある)に記載されている。
【0034】
その方法は、金属塩化合物、リガンド(L)化合物、及び第一Cp化合物、例えば、置換シクロペンタジエン(HCp)、を結合させて中間体化合物を形成し、その中間体化合物を第二(Cp′)化合物、例えば、シクロペンタジエニド塩のようなシクロペンタジエニル陰イオンを含む化合物と反応させ、CpMCp′を形成する工程を含む。
【0035】
金属塩は、例えば、金属ハロゲン化物(例えば、塩化物、臭化物、沃化物、フッ化物)、金属硝酸塩、及び他の適当な金属塩のような金属(III)塩にすることができる。Mは第8(VIII)族金属、例えば、Ru、Os、又はFeである。一般に金属塩はMXとして省略される。ここで用いられる省略記号MXは、水和水を含み、当分野で知られているように、式、MX□□HO(□は0以外である)により一層特別に表すことができる金属塩化合物を排除するものではない。従って、特別な例として、ここで用いられる省略記号FeXは、フェロセン又はフェロセン状化合物を形成するのに用いることができる無水及び水和鉄塩を含む。
【0036】
リガンド(L)は、一般に電子対供与体化合物である。例えば、一つの例としてトリフェニルホスフィン(PPh)のような中性電子対供与体を用いる。一般式PRのトリシクロヘキシルホスフィン及び他のホスフィンのみならず、亜燐酸トリエステル、P(OR)(式中、Rはフェニル、シクロヘキシル、アルキル、又は分岐鎖アルキル、例えば、t−ブチル基である)を用いることもできる。他の適当な電子対供与体には、アミン、ホスフェート、カルボニル化合物、オレフィン、ポリオレフィン、キレート性ホスフィン、キレート性アミン等が含まれる。
【0037】
Cp化合物は、上に記載したCpMCp′化合物中のCp部分の前駆物質である。Cp化合物はHCp、例えば、シクロペンタジエン又はインデンであるのが好ましい。Cp化合物は、シクロペンタジエニル、又はインデニル陰イオンの塩、例えば、シクロペンタジエニルカリウム(KCp)、シクロペンタジエニルナトリウム(NaCp)、シクロペンタジエニルリチウム(LiCp)等にすることができる。ここに記載する合成法でシクロペンタジエニル陰イオンと共に用いるのに適した陽イオンには、トリメチルシリル(TMS)、Na、Li、K、Mg、Ca、及びTlが含まれる。
【0038】
Cp部分中の少なくとも一つの水素原子を、上で記載したように、基Dにより置換する。HCpの特別な例には、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、n−プロピル−又はイソプロピル−シクロペンタジエン、n−ブチル−、sec−ブチル−、又はt−ブチル−シクロペンタジエン、ハロ−シクロペンタジエン等が含まれる。
【0039】
Cp化合物は、ジ−、又は多−置換にすることができ、例えば、それはジ−、トリ−、テトラ−、及びペンタ−置換シクロペンタジエンにすることができる。置換基、D、D、D、及びDの特別な例は上に記載してある。
【0040】
MX、L、及びHCp成分の各々は、混ざりけのない形で与えるか、場合により適当な溶媒を含むことができる。本発明の方法で用いることができる好ましい溶媒には、例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、及び他のアルコールのようなアルコールが含まれる。酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、飽和又は不飽和炭化水素、芳香族複素環、アルキルハロゲン化物、シリル化炭化水素、エーテル、ポリエーテル、チオエーテル、エステル、ラクトン、アミド、アミン、ポリアミン、ニトリル、シリコーン油、及び他の非プロトン性溶媒も用いることができる。それら溶媒の組合せも用いることができる。
【0041】
一般に、MX、L、及びCpの濃度は、当分野で知られているように選択される。例えば、適当な溶媒中のMXのモル濃度は、約0.1Mから純粋なものまでの範囲にすることができる。適当な溶媒中のLのモル濃度は、約0.1Mから純粋なものまでの範囲にすることができる。適当な溶媒中のCpのモル濃度は、約0.1Mから純粋なものまでの範囲にすることができる。純粋なホスフィンを用いる場合、反応は極めて発熱性になるであろうと考えられる。単位体積当たりの反応熱量の実質的部分を発散させる方法及び装置は当分野で知られている。
【0042】
三つの成分はどのような順序で一緒にしてもよい。一つの例として金属成分とHCp成分とを同時にL成分へ添加する。別の態様として、金属成分とHCp成分とを一緒にして混合物を形成し、次に、例えば、L成分をその混合物に添加することによりその混合物をL成分と一緒にする。更に別の態様として、全ての成分を同時に一緒にする。
【0043】
典型的には、用いられるHCp対MXのモル比は、約50〜約1の範囲にあり、好ましくは約12〜約2、最も好ましくは約7〜約5の範囲にある。L対MXのモル比は、典型的には、約8〜約0の範囲にあり、好ましくは約6〜約2、最も好ましくは約5〜約3.5の範囲にある。もしHCp成分を大過剰の量で用いるならば、反応は(Cp)M生成物を形成するように駆動される。
【0044】
反応温度は、用いた溶媒の沸点、又は反応混合物の沸点の近辺にあるのが好ましい。他の適当な温度は、日常的実験により決定することができる。他の適当な温度は、日常的実験により決定することができる。一般に、反応は、凝固点より高い温度から、反応組成物のほぼ沸点までの範囲にある温度で行うことができる。例えば、反応は、約−100℃〜約150℃の範囲の温度で行うことができる。
【0045】
反応時間は、一般に温度、及び種々の反応物の濃度に依存し、例えば、約5分〜約96時間の範囲にすることができる。
【0046】
金属塩(MX)成分、リガンド(L)成分、及びHCpの反応により形成される中間体成分は、式CpMLX(式中、f=1又は2)により表すことができる。
【0047】
一つの例として、CpMLXを、例えば、濾過、遠心分離、又は再結晶化のような当分野で既知の方法により固体として分離する。中間体化合物、CpMLXは、次にCp′化合物と、好ましくは溶媒を存在させて反応させる。Cp′は、上に記載した本発明の化合物の中のCp′部分の陰イオンをであるのが好ましい。対イオンは、トリメチルシリル(TMS)、Na、Li、K、Mg、Ca、Tlを含むことができる。用いることができるシクロペンタジエニル化合物の特別な例には、エチルシクロペンタジエニドナトリウム又はリチウム、メチルシクロペンタジエニドナトリウム又はリチウム、イソプロピルシクロペンタジエニドナトリウム又はリチウム等が含まれるが、それらに限定されるものではない。Cp′部分のジ−、又は多−置換陰イオン(例えば、ジ−、トリ−、テトラ−、又はペンタ−置換シクロペンタジエニル陰イオン)を用いることができる。上に記載したように、非置換インデンの陰イオンも用いることができる。
【0048】
特別な例として、中間体化合物は、CpRu(PPh)Clである。それをCp′の塩と反応させる。Cp′の推奨される塩には、NaCp′、LiCp′(Cp′)Mg、TMS(Cp′)、及び(Cp′)Tlが含まれる。
【0049】
適当な溶媒の例には、ベンゼン、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、芳香族複素環、飽和又は不飽和炭化水素、アルキルハロゲン化物、シリル化炭化水素、エーテル、ポリエーテル、チオエーテル、エステル、ラクトン、アミド、アミン、ポリアミン、ニトリル、シリコーン等が含まれる。
【0050】
一般に、溶媒中のCp′成分のモル濃度は、約0.1M〜約3.5Mの範囲、好ましくは約0.5M〜約2.5Mの範囲、最も好ましくは約1.4〜約1.8Mの範囲にすることができる。
【0051】
CpMLXに対するCp′のモル比は、典型的には、約50〜約1の範囲、好ましくは約6〜約1、最も好ましくは約1.6〜約1.2の範囲にある。
【0052】
別の例として、中間体CpMLX成分は分離しない。溶液中でのその形成に続き、上に記載したようなCp′化合物を、CpMLXを含む溶液に添加する。
【0053】
Cp′と、中間体CpMLX(分離されていてもいなくても)との反応は、一般的に上に記載したような温度で行い、CpMCp′生成物を形成する結果になる。
【0054】
反応時間は、一般に温度、及び種々の反応物の濃度に依存し、約15分間〜約6日の範囲にすることができる。
【0055】
反応生成物、CpMCp′は、例えば溶媒、例えばヘキサンによる抽出に続き、蒸留、昇華、又はクロマトグラフィーを行うか、又は直接、蒸留、昇華、又はクロマトグラフィーを行うような、当分野で既知の方法により分離し、且つ/又は精製することができる。再結晶化、超遠心分離、及び他の技術も用いることができる。別法として、生成物は、更に分離又は精製することなく、反応混合物として更に用いることができる。
【0056】
本発明の化合物を形成する方法を、図6に示した化学反応により説明する。図6に描いた方法では、MCl・XHO、トリフェニルホスフィン、及びシクロペンタジエンをエタノール中で還流させながら反応させ、中間体化合物CpM(PPhClを形成し、次にそれをエチルシクロペンタジエニドナトリウムと反応させてCpMCp′を形成する。
【0057】
Cp及び/又はCp′の一方又は両方は、例えば、上に記載した基のような付加的置換基Dxを含むことができる。Cp及び/又はCp′の一方又は両方は、ジ−、トリ−、テトラ−、又はペンタ−置換シクロペンタジエン部分にすることができる。
【0058】
一般に、CpRu(PPhClの中間体を先ず製造し、次にこの中間体をCp′の塩と反応させることにより非対称性ルテノセンを製造することができる。Cp′の最も高く推奨される塩には、NaCp′、LiCp′、(Cp′)Mg、TMS(Cp′)、及び(Cp′)Tlが含まれる。CpRuCp′型の構造体を合成しようとした場合、そしてCp又はCp′の一方がケトン、エステル、又はエーテル官能基を含む場合、一層多くの数のケトン、エステル、又はエーテルを有する環をCp′環として同定し、それをTMS塩として中間体に添加することが好ましい。
【0059】
特定の二置換非対称性ルテノセン、即ち、1−メチル,1′−エチルルテノセン又は(メチル−シクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを形成するために用いることができる合成方式を図7に示す。図7に示したように、RuCl・XHO、トリフェニルホスフィンと、メチルシクロペンタジエンとをエタノール中で還流させながら反応させ、中間体化合物、クロロ(メチルシクロペンタジエニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)、即ち、(η−C)Ru(PPhClを形成し、それを次にエチルシクロペンタジエニドナトリウムと反応させて1−メチル,1′−エチルルテノセンを形成する。
【0060】
上に記載した合成方法により形成される化合物を特徴付けるために用いることができる技術の例には、分析ガスクロマトグラフィー、核磁気共鳴(NMR)、熱重量分析(TGA)、誘導結合したプラズマ質量分光分析(ICPMS)、蒸気圧及び粘度測定が含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0061】
本発明を解釈するのに特別な機構に束縛されるものではないが、Cp及びCp′環部分各々の特定の官能性化により、溶解度、蒸気圧、分解、燃焼、及び他の反応経路、還元/酸化電位、幾何学性、好ましい配向、及び電子密度分布のような性質が変わると考えられる。例えば、置換基D及び/又はD′を大きくすると分子エントロピーを増大するのに役立ち、本発明のメタロセン化合物は、前に開示した化合物と比較して、室温で液体に一層なり易いと考えられる。
【0062】
本発明の非対称性メタロセンは、科学的研究、例えば、フェロセン及びフェロセン状分子の有機金属化学の研究及び理解、及び化学的反応で有用であると考えられる。
【0063】
本発明の化合物は、固体推進剤のための燃焼変性剤としても用いることができると考えられている。或る場合には、親のフェロセンの官能性化が、固体推進剤のゴム状結合剤マトリックスから周囲の絶縁材料中へフェロセンが移行するのを防ぐことができるであろう。
【0064】
本発明のメタロセン化合物は、例えば、窒素酸化物を還元するためのゼオライト含浸メタロセン触媒中の触媒として、又はキラル有機合成での触媒としての用途を見出すことができるであろう。
【0065】
本発明の化合物は、動物及び植物のための鉄不足を補充する物;酸化防止剤及びアンチノック剤;モーター燃料及び油のための添加剤;着色顔料;放射線吸収剤;及び殺虫剤及び殺菌剤としての用途を見出すこともできるであろうと考えられる。
【0066】
本発明の非対称性メタロセンは、フイルム、被覆、又は粉末を形成するための方法、特にフイルム堆積法、例えば、CVD法の前駆物質として特に有用である。そのような方法は、代理人文書番号D−21267として本願と同時に出願された「第8(VIII)族メタロセン前駆物質を用いた蒸着法」(Deposition Process Using Group 8 (VIII) Metallocene Precursors)と題するデビッドM.トンプソン(David M. Thompson)及びシンシアA.フーバー(Cynthia A. Hoover)、ジョン.ペック(John Peck)及びマイク.リトウィン(Mike Litwin)による米国特許出願(それらの全教示は参考のためここに入れてある)に記載されている。
【0067】
実験
例1
工程A
5リットルの五口丸底フラスコに、中心の口を通って機械的撹拌パドルを配備した。次にそれにエタノール(2.0リットル)及びPPh(420g、1.6モル)を導入した。二つの500ml三口フラスコを、前記5リットルのフラスコの四つの口の中の二つの口に、容積移送式ポンプを通してテフロン(登録商標)(デュポン社の過フッ素化重合体)チューブにより接続した。前記5リットルフラスコの残りの口に凝縮器を配備した。前記5リットルフラスコの下に加熱マントルを置き、溶液を撹拌して還流するまで加熱した。還流時に、全てのトリフェニルホスフィンがエタノール中に溶解した。この系を、還流させながら、30分間窒素でパージした。
【0068】
これを行いながら、500ml丸底フラスコの一つに、RuCl・XHO(100g、0.40モル)、エタノール(300ml)、及びテフロン(登録商標)(デュポン社の過フッ素化重合体)被覆磁気撹拌棒を入れた。そのエタノール性溶液は、直ちに褐色/オレンジ色を発生した。RuCl・XHOの全てを溶解するためには、溶液を加熱する必要があった。この溶液を、1〜2ポンド/inゲージ(psig)の窒素源に接続した針を前記隔膜を通って溶液中へ挿入し、過剰の圧力を解放させるための別の針を前記隔膜に通すことにより、30分間窒素を散布した。
【0069】
アセトニトリル/ドライアイス浴を作り、別の500mlフラスコをこの浴中に浸漬した。次に、新しく蒸留したメチルシクロペンタジエン(窒素雰囲気中で新しく蒸留したもの、190g、270ml、2.4モル)を、その冷却したフラスコ中へ管で注入した。
【0070】
トリフェニルホスフィン及び三塩化ルテニウムのエタノール性溶液中への窒素散布が完了した後、二つの500mlフラスコの内容物を容積移送式ポンプにより両方の添加が5分で完了するような独立の速度で5.0リットルフラスコ中へ入れた。これを達成するため、エチルシクロペンタジエンを45ml/分の速度でポンプにより送り、エタノール性三塩化ルテニウムを50ml/分の速度でポンプで送った。
【0071】
この添加が完了した後、溶液を更に2時間還流するままにしておいた。この時間中、2リットルフラスコの壁上の溶液のメニスカスの上に小さなオレンジ色の結晶が蓄積するのを見ることができた。
【0072】
工程B
二つの容積移送式ポンプ及びテフロン(登録商標)(デュポン社の過フッ素化重合体)管を、2時間撹拌の後の、5リットルフラスコから取り外した。フラスコの口の一つに蒸留サイドアーム(sidearm)を接続し、約1リットルのエタノールを蒸留により除去した。機械的撹拌器を止め、オレンジ色の結晶がフラスコの底に沈降した。3時間に亙り溶液を室温へ冷却した。次に、1本のガラス管で、その端に粗いフリットを取付けた管を挿入し、減圧を用いてフラスコからそのフリットを通して溶液を引くことにより、フラスコから前記溶液を取り出した。結晶をヘプタン(300ml)で洗浄し、同じやり方でヘプタンを除去した。洗浄を3回行なった。
【0073】
工程C
フラスコの開口の全てをゴム膜で密封し、フラスコを真空にし、窒素で再び満たすことを3回行なった。THF(500ml、無水)をフラスコ中へ管で注入し、機械的撹拌を開始した。次に、リチウムエチルシクロペンタジエンのTHF溶液(500ml、1.2M、0.60モル)を、5リットルのフラスコ中へ管で注入した。内容物を還流するまで加熱し、4時間撹拌した。
【0074】
4時間の還流後、撹拌を止め、溶液を2リットルの一口丸底フラスコへ移した。この溶液を回転蒸発器で約200mlの体積まで濃縮した。次にその粘稠な液体を250mlの丸底フラスコへ移した。
【0075】
250ml丸底フラスコに、ビグロ目盛(vigreux indentations)付き短路蒸留アダプター及び100mlの保存フラスコ容器を取付けた。液体を真空蒸留し、幾らかのトリフェニルホスフィンを含む透明黄色液体、1−メチル,1′−エチルルテノセン(GCMSにより決定した)が得られた。その黄色液体の回転帯蒸留により、トリフェニルホスフィンを含まない1−メチル,1′−エチルルテノセンを99%より高い純度(GCMS、1H NMR)で84.6g(収率82%)与え、残余の不純物は1,1′−ジメチルルテノセン及び1,1′−ジエチルルテノセンに起因するものであった。TGA研究により、この液体の不揮発性残留物は0.01%より少ないことが示された。
【0076】
例2
2リットルの三口丸底フラスコに、テフロン(登録商標)(デュポン社の過フッ素化重合体)撹拌棒、エタノール(1.0リットル)、及びPPh(263g、1.0モル、5当量)を入れた。その2リットルフラスコの三つの口に250mlの滴下漏斗、150mlの浴ジャケット付き滴下漏斗、及び凝縮器を取付けた。両方の滴下漏斗にテフロン(登録商標)(デュポン社の過フッ素化重合体)バルブを取付け、それらを丸底フラスコの雰囲気から分離できるようにしたことに注意することは重要である。150mlの浴ジャケット付き滴下漏斗の頂部に、ゴム隔膜を結合した。凝縮器の頂部に、T型接合アダプターを取付け、不活性雰囲気に接続した。2リットル三口丸底フラスコの下に加熱マントルを置き、溶液を撹拌して還流するまで加熱した。還流時に、全てのトリフェニルホスフィンがエタノールに溶解した。その系を、還流させながら3時間窒素でパージした。
【0077】
これを行いながら、500mlのエーレンマイヤーフラスコに、RuCl・XHO(50g、0.20モル)、エタノール(150ml、1当量)、及びテフロン(登録商標)(デュポン社の過フッ素化重合体)被覆磁気撹拌棒を入れた。そのエタノール性溶液は、直ちに褐色/オレンジ色を発生した。RuCl・XHOの全てを溶解するため、溶液を穏やかに加熱する必要があった。この溶液を250mlの滴下漏斗中へ注ぎ、その滴下漏斗にゴム隔膜を取付けた。この溶液に、1〜2psigの窒素源に接続した針を前記隔膜を通って溶液中へ挿入し、過剰の圧力を解放させるための別の針を前記隔膜に通すことにより、30分間窒素を散布した。
【0078】
メタノール/ドライアイス浴を、150mlの浴ジャケット付き滴下漏斗中で作った。この滴下漏斗の内部を、他方の滴下漏斗中に散布したのと同じやり方で30分間窒素でパージした。次に、メチルシクロペンタジエン(窒素雰囲気中で二度蒸留したもの、96.2g、1.2モル、6当量)をゴム隔膜を通して冷却滴下漏斗中へ管で注入した。
【0079】
2リットル丸底フラスコのパージが3時間経過した後、滴下漏斗を系の他の部分から分離するテフロン(登録商標)(デュポン社の過フッ素化重合体)バルブの両方を開け、二つの溶液の滴下を同時に開始した。20分間に亙り、それら二つの溶液を一緒にエタノール性PPh溶液へ添加した。この全時間中、溶液を還流させた。溶液は急速に深い橙褐色を発生した。この添加が完了した後、溶液を更に2時間還流するままにしておいた。この時間中、2リットルフラスコの壁上の溶液のメニスカスの上にCpRu(PPh)Clの小さなオレンジ色の結晶が蓄積するのを見ることができた。
【0080】
1本の管で、一方の端に粗い多孔質フリットを取付けた管を、容積移送式ポンプに取付けた。その管のフリットを付けた端を反応器中に浸漬し、全ての液体を2リットル丸底フラスコからポンプで取り出した。この段階で滴下漏斗を反応器から取り外した。一方の側にK−ヘッド(K-Head)蒸留アダプターを取付け、他方の側にゴム隔膜を取付けた。そのフラスコを真空にし、窒素で再び満たし、それを3回行なった。窒素中で操作し、無水トルエン(1.0リットル)を、前記ゴム隔膜を通り5リットルのフラスコ中へ管で注入した。暗い不透明な溶液を還流するまで加熱し、K−ヘッド蒸留アダプターを開いて溶媒の一部分を蒸留除去した。ヘッド温度が109℃に到達するまで蒸留物を収集した(異なった実験では、これは異なった体積の溶媒、典型的には400〜600mlの液体を消費することに注意することは重要である)。次にその溶液を還流するより低い所まで冷却した。
【0081】
次にフラスコに、更にトルエンを入れ、約600mlの体積のトルエンが得られるようにした。次に、エチルシクロペンタジエニドリチウムのトルエンスラリー(35g、0.35モル、400ml)を、反応器ポット中へ管で注入した。この添加に続き、溶液を80℃で4時間撹拌した。この段階でフラスコをグローブボックスから取り出し、K−ヘッド蒸留アダプターを用いて大部分のトルエンを除去した。
【0082】
残留する液体(約400ml)を、傾瀉して1.0リットルの丸底フラスコ中へ入れた。この丸底フラスコにビグロ目盛付き短路蒸留アダプターを取付け、蒸留した。ビグロカラムから収集した液体を、再び回転帯蒸留を用いて真空中で蒸留し、44gの透明黄色液体、1−メチル,1′−エチルルテノセンを、99%より高い純度(GCMS)で得た。TGA研究により、この液体の持つ不揮発性残留物は0.01%より少ないことが示された。
【0083】
例3
リチウム(エチルシクロペンタジエニド)を次のようにして製造した。ジャケット付き2リットル三口丸底フラスコにテフロン(登録商標)(デュポン社の過フッ素化重合体)撹拌棒を入れた。止めコック・アダプター、サーモウエル(thermowell)を有するサーモウエル・アダプター、及びゴム隔膜を、そのフラスコの三つの口に取付けた。止めコック・アダプターに窒素/真空マニホルドを接続し、フラスコを真空にし、窒素を再び満たし、それを3回行なった。次に、無水物トルエン(1.0リットル)を、ゴム隔膜を通りフラスコ中へ入れた管で注入し、撹拌を開始した。そのジャケット付きフラスコの外側ジャケットに低温流体循環器を、ナルゲン(nalgene)管により接続し、低温流体(−15℃)をジャケット付きフラスコの外側壁を通って循環させた。トルエンが−10℃に到達したならば、新しく蒸留したエチルシクロペンタジエン(ビグロカラムで蒸留した中間留分)を、フラスコ中へ管で注入した(127g、1.35モル)。撹拌しながら、n−ブチルリチウム(800ml、ヘキサン中1.6M、1.28モル)を、温度を0℃より低く維持する速度でゆっくり管で注入した(約2時間)。n−ブチルリチウムの添加中、微細な白色析出物(エチルシクロペンタジエニドリチウム)が溶液中に明白に見られるようになった。
【0084】
この物質を懸濁物として用いるか、又は濾過及び溶媒の除去により固体として分離することができた。
【0085】
例4
窒素グローブボックス中で、250mlのフラスコに、THF(50ml、無水、開始剤無し)、クロロ(エチルシクロペンタジエニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(3.22g、0.004モル、1当量)、及びテフロン(登録商標)(デュポン社の過フッ素化重合体)撹拌棒を入れた。溶液を撹拌し、イソプロピルシクロペンタジエニドナトリウムの暗紅色THF溶液(0.20モル、30ml、1.5当量)をゆっくり添加した。この添加に続き、溶液は深い赤色を発生した。30分以内で、メニスカスは色が黄色に見えた。その溶液を一晩撹拌した。
【0086】
一部分(1.0ml)を溶液から取り、GC/MSにより分析した。301g/モルの質量を有するピークは、1−エチル−1′−イソプロピルルテノセンと一致することが観察された。アルキルシクロペンタジエン二量体、1,1′−ジエチルルテノセン、1,1′−ジイソプロピルルテノセン、及びトリフェニルホスフィンの存在と一致した質量を有する他のピークも観察された。
【0087】
次にTHF溶媒を減圧下でフラスコから除去した。250mlのフラスコに、真空ジャケット付き短路蒸留アダプターを取付け、フラスコの内容物を減圧(〜0.1トール)で蒸留した。淡黄色液体を収集した(0.72g)。次にこの液体をクロマトグラフィーにより精製した。ペンタン溶液中、シリカゲルを用いた。カラムは0.75″の直径及び6″の長さを持っていた。クロマトグラフィーにより0.53gの99+%純度の1−エチル−1′−イソプロピルルテノセンを分離した(収率41%)。
【0088】
例5
窒素グローブボックス中で、250mlのフラスコに、THF(50ml、無水、開始剤無し)、クロロ(メチルシクロペンタジエニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(5.02g、0.007モル、1当量)、及びテフロン(登録商標)(デュポン社の過フッ素化重合体)撹拌棒を入れた。溶液を撹拌し、イソプロピルシクロペンタジエニドナトリウムの暗紅色THF溶液(0.20モル、50ml、1.5当量)をゆっくり添加した。この添加に続き、溶液は深い赤色を発生した。30分以内で、メニスカスは色が黄色に見えた。その溶液を一晩撹拌した。
【0089】
一部分(1.0ml)を溶液から取り、GC/MSにより分析した。287g/モルの質量を有するピークは、1−メチル−1′−イソプロピルルテノセンと一致することが観察された。アルキルシクロペンタジエン二量体、1,1′−ジメチルルテノセン、1,1′−ジイソプロピルルテノセン、及びトリフェニルホスフィンの存在と一致した質量を有する他のピークも観察された。
【0090】
次にTHF溶媒を減圧下でフラスコから除去した。250mlのフラスコに、真空ジャケット付き短路蒸留アダプターを取付け、フラスコの内容物を減圧(〜0.1トール)で蒸留した。淡黄色液体を収集した(1.78g)。次にこの液体をクロマトグラフィーにより精製した。ペンタン溶液中、シリカゲルを用いた。カラムは0.75″の直径及び6″の長さを持っていた。クロマトグラフィーにより1.03gの98+%純度の1−メチル−1′−イソプロピルルテノセンが得られた(収率53%)。
【0091】
例6
窒素グローブボックス中で、250mlのフラスコに、ビス(プロピルシクロペンタジエニル)マグネシウム(5.15g、0.02モル、1当量)、クロロ(メチルシクロペンタジエニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(5.02g、0.007モル、1当量)、及びテフロン(登録商標)(デュポン社の過フッ素化重合体)撹拌棒を入れた。トルエン(120ml、無水、開始剤無し)を250mlの丸底フラスコ中へ管で注入し、内容物を撹拌した。溶媒の添加に続き、溶液は深い赤色を発生した。
【0092】
次にトルエン溶媒を減圧下でフラスコから除去した。トルエン溶媒を減圧下で除去し、フラスコに短路蒸留アダプターを取付けた。蒸留物を収集し、GC/MSは、短路蒸留からの主たる留分は、88.7%純度の1−プロピル−1′−エチルルテノセンであったことを表していた。
【0093】
同等事項
本発明を、その好ましい態様に関連して特別に示し、記述してきたが、特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から離れることなく、形態及び詳細な点で種々の変化を行えることは当業者によって理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1A】非置換ルテノセンを形成するための従来法の合成経路を描いた図である。
【図1B】1,1′−ジエチルルテノセンを形成するための従来法の合成経路を描いた図である。
【図1C】非置換ルテノセンを形成するのに用いられていた別の従来法を描いた図である。
【図2】図2において、図2Aは、互い違いにした形態のメタロセンの分子式を示す図であり、図2Bは、掩蔽形態のメタロセンの分子式を示す図である。
【図3】図3は、本発明の二置換非対称性メタロセン化合物の構造式を示す図である。
【図4】図4は、本発明のメタロセン化合物の一般化した構造式を示す図である。
【図5】図5は、本発明の非対称性ルテノセン化合物の例を示す図である。
【図6】図6は、本発明のメタロセン化合物を形成するために用いることができる一つの合成法を示す図である。
【図7】図7は、1−メチル,1′−エチルルテノセンを形成するための一つの合成方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式、CpMCp′:
〔式中、
Mは、Ru、Os、及びFeからなる群から選択された金属であり;
Cpは、少なくとも一つの置換基Dを含む第一置換シクロペンタジエニル又はインデニル部分であり;
Cp′は、少なくとも一つの置換基D′を含む第二置換シクロペンタジエニル又はインデニル部分であり;
ここで、
は、D′とは異なり;
は、
X;
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1;及び
a2b2c2OCa1b1c1
{式中、
Xは、F、Cl、Br、I、又はNOであり;
a1は、2〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、少なくとも1であり;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数である。}
からなる群から選択され;
′は、
X;
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1;及び
a2b2c2OCa1b1c1
{式中、
Xは、Fl、Cl、Br、I、又はNOであり;
a1は、1〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、1に等しいか又はそれより大きく;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数であり;そして
b2+c2は、1に等しいか又はそれより大きい。}
からなる群から選択されている。〕
の非対称性第8(VIII)族メタロセン。
【請求項2】
Cp及びCp′の一方又は両方が、次のもの:
X;
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1
a2b2c2OCa1b1c1
a2b2c2(C=O)OCa1b1c1;及び
a2b2c2O(C=O)Ca1b1c1
〔式中、
Xは、F、Cl、Br、I、又はNOであり;
a1は、0〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、1に等しいか又はそれより大きく;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数であり;そして
b2+c2は1に等しいか又はそれより大きい。〕
からなる群から選択された少なくとも一つの付加的置換基Dを含む、請求項1に記載の非対称性メタロセン。
【請求項3】
次の分子式:
【化1】


〔式中、
Mは、Ru、Os、及びFeからなる群から選択され;
は、D′とは異なり、;D及びD′は、次のもの:
X;
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1;及び
a2b2c2OCa1b1c1
{式中、
Xは、F、Cl、Br、I、又はNOであり;
a1は、1〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、少なくとも1であり;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;そして
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数である。}
からなる群から独立に選択される。〕
によって表されるメタロセン化合物。
【請求項4】
がメチルであり、D′が、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、及びt−ブチルからなる群から選択されたものである、請求項3に記載のメタロセン化合物。
【請求項5】
がエチルであり、D′が、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、及びt−ブチルからなる群から選択されたものである、請求項3に記載のメタロセン化合物。
【請求項6】
がプロピルであり、D′が、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、及びt−ブチルからなる群から選択されたものである、請求項3に記載のメタロセン化合物。
【請求項7】
がイソプロピルであり、D′が、n−ブチル、sec−ブチル、及びt−ブチルからなる群から選択されたものである、請求項3に記載のメタロセン化合物。
【請求項8】
がn−ブチルであり、D′が、sec−ブチル及びt−ブチルからなる群から選択されたものである、請求項3に記載のメタロセン化合物。
【請求項9】
がsec−ブチルであり、D′がt−ブチルである、請求項3に記載のメタロセン化合物。
【請求項10】
次の一般式:
【化2】


〔式中、
とDとは異なり、夫々が、次のもの:
X;
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1;及び
a2b2c2OCa1b1c1
{式中、
Xは、F、Cl、Br、I、又はNOであり;
a1は、1〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、少なくとも1であり;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数である。}
からなる群から独立に選択され、そして
、D、D、D、D′、D′、D′、及びD′は、次のもの:
X;
a1b1c1
a2b2c2(C=O)Ca1b1c1
a2b2c2OCa1b1c1
a2b2c2(C=O)OCa1b1c1;及び
a2b2c2O(C=O)Ca1b1c1
{式中、
Xは、F、Cl、Br、I、又はNOであり;
a1は、0〜8の整数であり;
b1は、0〜2(a1)+1−c1の整数であり;
c1は、0〜2(a1)+1−b1の整数であり;
b1+c1は、1に等しいか又はそれより大きく;
a2は、0〜8の整数であり;
b2は、0〜2(a2)+1−c2の整数であり;
c2は、0〜2(a2)+1−b2の整数であり;
b2+c2は、1に等しいか又はそれより大きい;}
からなる群から独立に選択されものである。〕
の化合物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−511598(P2006−511598A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502216(P2005−502216)
【出願日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2003/034497
【国際公開番号】WO2004/041832
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(392032409)プラクスエア・テクノロジー・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】