説明

非常時兼用トイレ

【課題】非常時には便槽に貯留される汚物を容易に回収することができ、かつ通常時の使用状態に復帰することが容易な非常時兼用トイレを提供する。
【解決手段】通常時は閉止され非常時に開口される非常排出口が設けられている便器と、非常排出口に連結されており汚物を通過させるための伸縮自在なつなぎ管と、つなぎ管を通常時において収納する収納部とを備えており、つなぎ管は、非常時に伸長されて便器より下方に設けられている便槽に連結可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常時には水洗トイレとして使用し、非常時には簡易トイレとして使用可能な非常時兼用トイレに関する。
【背景技術】
【0002】
水洗トイレは、自然災害等が発生して水供給が停止した場合、使用できない状態となってしまう。しかし、トイレは人間の生理現象の一つであるため、我慢できるものでもなく、一方で非常時に他の地域から簡易トイレを運び込むにしても対応するには時間を要する。
【0003】
そこで従来、通常時には上下水道を利用する水洗トイレとして使用し、非常時には簡易トイレとして使用可能な非常時兼用トイレが特許文献1〜3に記載されている。
【0004】
特許文献1及び2に記載の非常時兼用トイレは、通常時用の水洗便器と非常時用の簡易便器とを用意しておき、通常時用の水洗便器の下部の配管ピットを非常時用の便槽としたものである。通常時はこの便槽内に非常時用の簡易便器が収納されている。非常時は水洗便器と離脱自在のパイプとの接合を解除し、水洗便器と非常時用簡易便器とを交換して使用する。
【0005】
特許文献3に記載の非常時兼用トイレも、特許文献1及び2に記載の便器と同様に、便器の下部の配管ピットを非常用の便槽としたものである。この便器の排便口には、トラップとこのトラップと汚水メイン管とを繋ぐパイプが設けられている。非常時は排便口とトラップとを離脱させ、便器の下を開放して非常時トイレとして使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3927648号公報
【特許文献2】特開平11―36415号公報
【特許文献3】特許第3927649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の非常時兼用トイレによると、非常時に水洗便器と非常時用簡易便器とを交換しなければならず、配管も非常時用に切り替えなければならない。この交換には専門知識が必要であり、また、交換作業自体もかなり重労働を要する。さらに、交換後も水洗便器の保管場所が別途必要となり、これを廃棄してしまった場合には新たな水洗便器を購入しなければ通常時状態に戻すことができない。さらにまた、非常時状態から通常時状態に戻す際には、配管ピットに貯留されている汚物を除去する必要があり、次の非常時の使用を考慮して、清掃した配管ピット内に非常時用簡易便器を設置し配管を戻すことはより多くの労力を要する。
【0008】
特許文献3に記載の非常時兼用トイレでは、便器の交換は必要ないものの、非常時には配管ピット(非常時における便槽)内に入り、配管を非常時用に切り替えなければならないため、これも専門知識を必要とする。
【0009】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、通常時状態から非常時状態への切り替えが容易な非常時兼用トイレを提供することにある。
【0010】
本発明によれば、通常時は閉止され非常時に開口される非常排出口が設けられている便器と、非常排出口に連結されており汚物を通過させるための伸縮自在なつなぎ管と、つなぎ管を通常時において収縮して収納する収納部とを備えており、つなぎ管は、非常時に伸長されて便器より下方に設けられている便槽に連結可能に構成されている。
【0011】
非常排出口に連結されており汚物を通過させるための伸縮自在なつなぎ管は、通常時は収納部内に収納されているが、非常時に伸長されて便器より下方に設けられている便槽に連結される。このように、非常時においては、つなぎ管を伸長して非常用の便槽に連結するのみで汚物がその便槽に貯留されるので、汚物を容易に回収することができる。また、通常時は、つなぎ管を収縮状態として収納部に収納すれば良いため、通常使用状態への復帰が容易であり、しかも、次の非常時にも繰返して使用することが可能である。
【0012】
収納部は便器の下方に設けられている配管ピット内に設けられており、配管ピットは伸長されたつなぎ管が挿通する点検口を備えていることが好ましい。このように、収納部が一般的な構造物に設けられている配管ピットに設けるため、従来のトイレとの交換も容易であり、施工範囲も狭めることができる。また、配管ピットに点検口が設けられ、この点検口を伸長されたつなぎ管が挿通可能となっているので、通常時はつなぎ管と収納部を配管ピットに収納し、非常時は配管ピットの点検口と収納部を順に開口し、点検口を通ってつなぎ管を便槽へ向かって伸長させることができる。
【0013】
つなぎ管は伸長状態において、水平方向に移動可能に構成されていることが好ましい。このように、つなぎ管が伸長状態においても水平方向に移動可能となっているため、便槽が設置位置にあわせて柔軟に移動させることができる。
【0014】
便槽は便器の下方に設けられている配管ピットより下層フロアに配置されている、交換可能な簡易便槽であることが好ましい。このように、便槽が常時設置型ではなく、非常時にのみ設置される簡易便槽となっているため、簡易便槽が一杯になった場合においても容易に交換することができる。また、高層ビルのような建造物であっても、通常時状態への復帰後に簡易便槽のみを排出することが可能となる。
【0015】
また、便槽は便器の下方に設けられている配管ピットより下層の配管ピットに設けられている固定便槽であることも好ましい。このように、便槽が下層フロアの配管ピットに予め設けられているため、非常時に簡易便槽を準備する必要がなく、つなぎ管を便槽へ連結することで簡易水洗トイレへ切り替えることが可能である。
【0016】
便槽は屋外に設けられている固定便槽であることも好ましい。このように、便槽が屋外に設置されていることにより、通常時状態への復帰後の汲み取り車による汲み取りが容易となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非常時においては、つなぎ管を伸長して非常用の便槽に連結するのみで汚物がその便槽に貯留されるので、汚物を容易に回収することができる。また、通常時は、つなぎ管を縮めて収納部に収納すれば良いため、通常使用状態への復帰が容易であり、しかも、次の非常時にも繰返して使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の非常時兼用トイレの第1の実施形態として、洋式便器を設置したトイレを示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態におけるトイレの部分拡大図である。
【図3】本発明の第1の実施形態において、つなぎ管が伸長し簡易便槽に接続されている状態を示す断面図である。
【図4】本発明の非常時兼用トイレの第2の実施形態として、便槽が屋内の配管ピットに設けられているトイレを示す断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態において、つなぎ管が伸長し屋内の便槽に接続されている状態を示す断面図である。
【図6】本発明の非常時兼用トイレの第3の実施形態として、便槽が屋外に設けられているトイレを示す断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態において、つなぎ管が伸長し屋外の便槽に接続されている状態を示す断面図である。
【図8】本発明の非常時兼用トイレの第4の実施形態として、和式便器を設置したトイレを示す断面図である。
【図9】本発明の非常時兼用トイレの第5の実施形態として、小便器を設置したトイレを示す断面図である。
【図10】本発明の第5の実施形態において、つなぎ管が伸長し簡易便槽に接続されている状態を示す断面図である。
【図11】本発明の非常時兼用トイレの第6の実施形態として、洋式便器と小便器が並設したトイレを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施形態]
図1は本発明の非常時兼用トイレの第1の実施形態として、洋式便器を設置したトイレを示す断面図であり、図2は本発明の第1の実施形態におけるトイレの部分拡大図であり、図3は本発明の第1の実施形態において、つなぎ管が伸長し簡易便槽に接続されている状態を示す断面図である。
【0020】
本実施形態におけるトイレ1は、通常時には閉止され非常時には開口される非常排出口3が設けられている便器2と、この非常排出口3を通常時には閉止し非常時には取り外されて開口する栓部材9と、便器2がその上に設置されているスラブ14を挿通しており非常排出口3に連結されている落下案内管13と、非常時にはこの落下案内管13を介して非常排出口3に連結されて内部を汚物が通過するつなぎ管4と、つなぎ管4を通常時に収納するための収納部5と、非常時につなぎ管4が接続され、汚物を貯留するための簡易便槽8とを備えている。
【0021】
本実施形態における便器2は、FRP(繊維強化プラスチック)を構成材料とする洋式の便器2である。通常時の汚物の排出口として、下水管11に連通した水洗排出口10が設けられ、非常時の汚物の排出口として、汚物の落下する位置の真下方向に非常排出口3が設けられている。この非常排出口3の開口部には後述する栓部材9を取り付けるための受け段部2aが設けられている。なお、便器2を陶器等によって形成してもよい。
【0022】
非常排出口3は、開口形状が円形であり、汚物の落下する位置の真下方向に設けられている。さらにこの非常排出口3の下部には、落下案内管13が樹脂接着剤等によって接着固定され、この落下案内管13の下部には、後述するつなぎ管4が連結されている。本実施形態では、非常排出口3の内径は約200mmに設定されている。しかしながら、この内径は、汚物によってこの非常排出口3が閉塞されない径であればどのような大きさであってもよい。また、本実施形態においては、落下案内管13の軸断面形状が非常排出口3の開口形状に対応した円形状となっている。しかしながら、この軸断面形状は、非常排出口3と同様に内部が汚物によって閉塞されない形状であればどのような形状であってもよい。なお、本実施形態において、落下案内筒13は、FRPで形成されているが、陶器等によって形成されていてもよい。
【0023】
栓部材9は、図2に示すように前述の非常排出口3の開口形状に対応した円盤状の平面形状を有している。栓部材9の側面上部には凹溝9aが設けられ、側面下部には段部9bが設けられテーパ状に縮径している。凹溝9aにはリング状パッキンなどのシール部材9cが嵌め込まれ、栓部材9の上面中心部にはすり鉢状の凹部9dが形成されている。この凹部9dを差し渡るように取り外し用の取手部9eが設けられている。本実施形態において、栓部材9は、そのシール部材9dを除いた全ての部分が金属材料で形成されている。しかしながら、これらを、便器2と同様にFRPや陶器等の材料で形成してもよい。シール部材9cはゴム系材料で形成されているが、樹脂系材料などの水密性を十分確保することができる材料であれば如何なる材料で形成されていてもよい。また、栓部材9の形状も、非常排出口3を通常時には閉止し非常時には開口することができ、かつ通常時においては、非常排出口3における水密性を十分確保することができるものであれば如何なる形状であってもよい。
【0024】
つなぎ管4は、主要部を例えばナイロン材料で形成した、内径が約200mmの伸縮自在なフレキシブルチューブ(蛇腹チューブ)で構成されている。このつなぎ管4は、通常時は図1に示すように収縮状態で収納部5内に収納される。非常時は図3に示すように伸長されて便器2より下方に設けられている便槽8に連結可能に構成されている。このつなぎ管4は、連結部材(図示せず)によって一端が落下案内管13の下部に連結固定され、他端が自由端とされている。なお、このつなぎ管4は、伸長状態において便槽8に連結されるが、本実施形態のように、便槽8が常に固定位置に設置されておらず任意の位置に設置可能な場合にも対応できるように、伸長状態において水平方向に移動可能に構成されている。また、つなぎ管4の内径は、落下案内管15の内径に左右されるものの、非常排出口3や落下案内管13と同様につなぎ管4内部において汚物が閉塞しない内径であれば上述した内径に限定されない。
【0025】
収納部5は、図2に示すように、円筒状の筐体5aと、この筐体5aの一端(下端)にヒンジ5bを介して開閉自在に取り付けられた開閉蓋5cと、筐体5aの他端(上端)に設けられた鍔部5dとを備えている。この収納部5は、後述する配管ピット6内において、スラブ14の底面と鍔部5dとをネジ固定することにより、非常排出口3の直下に取り付けられている。なお、収納部5は、つなぎ管4を収縮状態にして収納できればよく、その構造、形状及び材質は任意に設定可能である。
【0026】
図1に示すように、収納部5は便器2の下方に位置する配管ピット6内に設けられており、この配管ピット6は吊ボルト12aによって支えられた吊天井12bとスラブ14とによって構成されている。なお、図示してはいないが、収納部5の周囲を仕切り板等で囲んで、配管ピット6内に密閉かつ独立した空間を形成してもよい。このように、収納部5の周囲に密閉かつ独立した空間を形成すれば、非常時に使用した場合にも、配管ピット6の他の部分への臭気漏れ、汚物飛散等を防止することができる。
【0027】
配管ピット6は、さらに、非常時に、伸長されたつなぎ管4が挿通する点検口7を備えている。図3に示すように、この点検口7は、配管ピット6の下層フロアの天井である吊天井12bに設けられており、矩形形状又は円形形状の開口部7aに係合する開閉蓋7cがヒンジ7bを介して開閉自在に取り付けられることにより構成されている。なお、点検口7の取り付け位置は、本実施形態では収納部5の直下に設けられているが、つなぎ管4を挿通可能であり、かつ、つなぎ管4の内部を通過する汚物が便槽8へスムーズに落下する位置であればいかなる位置であってもよい。また、点検口7の構造、形状及び材質も任意に設定可能である。
【0028】
便槽8は、簡易的な便槽である。この便槽8は、常時備え付けられているものであってもよいが、通常時には備え付けられておらず非常時にのみ備え付けられるものであってもよい。具体的には、バケツやドラム缶などの身近なものであって非常時に便槽として代用できるものであれば如何なるものであってもよい。
【0029】
次に、本実施形態における非常時兼用トイレの操作及び機能について説明する。
【0030】
通常時においては、便器2の非常排出口3が栓部材9により閉止されているので、汚物は水洗排出口10を通過して下水管11に流れ込む。この場合、つなぎ管4は収納部5内で収縮状態にて収納されている。
【0031】
非常時においては、栓部材9を取り外し具15(図3)等を利用して便器2の受け段部2a(図2)から取り外して非常排出口3を閉止状態から開口状態とする。さらに、配管ピット6の点検口7と収納部5とを順次開口状態とすることで、収納部5内において収縮状態で収納されているつなぎ管4を伸長させ、この点検口7を挿通させて便槽8に連結する。これにより、汚物は非常排出口3からつなぎ管4を介して便槽8へ落下する。また、便槽8は簡易便槽であるため、便槽8が一杯になった際には随時交換され、通常時の使用状態に復帰した際に排泄物処理業者等により処分されることが可能である。
【0032】
通常時の使用状態に戻す手順は、取り外されていた栓部材9を再び便器2の受け段部2aに取り付けることによって非常排出口3を閉止する。さらに、便器2の下層フロアにおいて伸長状態にあるつなぎ管4は、落下案内管13の下部とを連結している連結部材(図示せず)を取り外すことにより落下案内管13から取り外す。落下案内管13の下部に、新たなつなぎ管を再度連結部材(図示せず)によって落下案内管13に固定し、この新たなつなぎ管を収縮状態にして収納部5内に収納し、開閉蓋5cと開閉蓋7cとを順次閉止することにより通常時の使用状態とする。ここで、つなぎ管4は新たなつなぎ管に交換しているが、落下案内管13から取り外したつなぎ管4の内部を洗浄して乾燥し、再利用する形で再び落下案内管13に取り付けてもよい。
【0033】
以上説明したように本実施形態によれば、非常時には便器2の非常排出口3を開口し、便器2の下層フロアにおいてつなぎ管4を伸長して便槽8に接続することで配管ピット6および下層フロアを汚すことのない簡易便器となる。なお、便槽8は簡易的なものであり、一杯になった場合においても便槽8そのものが交換可能となっているので便槽8の容量限界を気に掛ける必要はなく、所定の位置に固定されるものではないので、状況に合わせた位置に備え付けることができる。また、通常時使用状態に戻すには、つなぎ管4又は新たなつなぎ管を縮めて収納部5内に収納すれば良いため、通常使用状態への復帰が容易である。しかも、この非常時兼用トイレは、次の非常時にも繰返して使用することが可能である。
【0034】
[第2の実施形態]
図4は本発明の非常時兼用トイレの第2の実施形態として、便槽が屋内の配管ピットに設けられているトイレを示す断面図であり、図5は本発明の第2の実施形態において、つなぎ管が伸長し屋内の便槽に接続されている状態を示す断面図である。これらの図に示すように、本実施形態は、第1の実施形態における簡易便槽8に代えて配管ピット6の下層フロアに便槽18を設けたものである。なお、本実施形態において、第1の実施形態の場合と同一の部分については同一符号を付して重複説明を省略する。
【0035】
本実施形態によれば、便槽16は便器2の下層フロアに設けられている。通常時の使用状態における汚物の流れは第1の実施形態と同様である。非常時の使用状態においては、栓部材9を取り外し具15等を利用して便器2から取り外し、非常排出口3を閉止状態から開口状態とする。一方、下層フロアからの操作で配管ピット6の点検口7と収納部5とを順次開口状態とし、収納部5内において収縮状態で収納されているつなぎ管4を点検口7を挿通して伸長させ、蓋16aが取り除かれた便槽16の便槽口16bに連結させる。これにより、汚物は非常排出口3からつなぎ管4を介して便槽16へ落下する。ここで便槽16は屋内に設けられているため、蓋16aと便槽口16bとは密封構造とすることにより臭気が便槽16から漏れない構造としておくことが好ましい。また、便槽16が一杯になった場合に備えて、第1の実施形態における簡易便槽8を用意しておくことが好ましい。なお、通常時の使用状態に戻す手順は、第1の実施形態の場合と同様である。
【0036】
[第3の実施形態]
図6は本発明の非常時兼用トイレの第3の実施形態として、便槽が屋外に設けられているトイレを示す断面図であり、図7は本発明の第3の実施形態において、つなぎ管が伸長し屋外の便槽に接続されている状態を示す断面図である。これらの図に示すように、本実施形態は、第1の実施形態における簡易便槽8に代えて屋外の地下に便槽19を設けたものである。なお、本実施形態において、第1の実施形態の場合と同一の部分については同一符号を付して重複説明を省略する。
【0037】
本実施形態では、便槽17は屋外の地下に設けられている。通常時の使用状態における汚物の流れは第1の実施形態の場合と同様である。非常時の使用状態においては、栓部材9を取り外し具15等を利用して便器2から取り外し、非常排出口3を閉止状態から開口状態とする。一方、下層フロアからの操作で配管ピット6の点検口7と収納部5とを順次開口状態とし、収納部5内において収縮状態で収納されているつなぎ管4を点検口7を挿通して伸長させ、屋外に設けられており蓋17aが取り除かれている便槽17の便槽口17bに連結させる。これにより、汚物は非常排出口3からつなぎ管4を介して便槽17へ落下する。通常時の使用状態に戻す手順は、第1の実施形態の場合と同様である。ここで、便槽17が屋外に設置されているため、通常時の使用状態に復帰した際、便槽17に貯留されている汚物は汲み取り車等による回収が容易となっている。
【0038】
[第4の実施形態]
図8は、本発明の非常時兼用トイレの第4の実施形態として、和式便器を設置したトイレを示す断面図である。同図に示すように、本実施形態は、第1の実施形態における洋式便器2を和式便器18としたものである。ここで便槽は、第1の実施形態の便槽8としているが、第2または第3の実施形態に示す便槽16または17としてもよい。また、本実施形態において、第1の実施形態の場合と同一の部分については同一符号を付して重複説明を省略する。
【0039】
本実施形態における便器18は、FRPから主として形成された和式の便器18であって、その底面に、通常時は閉止され非常時に開口される非常排出口3が設けられている。通常使用時の汚物の排出口として、下水管11に連通した水洗排出口10が設けられている。非常使用時の汚物の排出口として、汚物の落下位置に非常排出口3が設けられており、この非常排出口3の下部には落下案内管13が樹脂接着剤等によって接着固定されている。ここで、水洗排出口10と非常排出口3との開口形状および寸法は同一であり、双方には後述する栓部材19と嵌合する受け段部20が開口形状に対応して設けられている。便器18は、第1の実施形態における洋式の便器2の場合と同様に陶器等で形成してもよい。
【0040】
栓部材19は、水洗排出口10および非常排出口3の開口形状に対応した円盤状の平面形状を有しており、その周囲の側面には凹溝19aが設けられ、凹溝19aにはリング状パッキン等のシール部材19bが嵌め込まれている。栓部材19を構成する各材料については第1の実施形態における栓部材9の場合と同様である。
【0041】
本実施形態によれば、通常時においては、便器18の非常排出口3が栓部材19により閉止されているので、汚物は水洗排出口10を通過して下水管11に流れ込む。つなぎ管4は第1の実施形態の場合と同様に収納部5内で収縮状態にて収納されている。
【0042】
非常時においては、便器18の非常排出口3側の受け段部20aに設置されている栓部材19を取り外して、水洗排出口10側の受け段部20bに嵌め合わせる。一方、下層フロアからの操作でつなぎ管4を第1の実施形態の場合と同様の手順で便槽8に連結する。これにより、汚物は開口された非常排出口3から落下案内管13を通過し、つなぎ管4を介して便槽8へ落下する。ここで、水洗排出口10は栓部材19によって閉止されているので、汚物が下水管11に流入することなく便槽8へ落下する。通常時の使用状態に戻す手順としては、水洗排出口10側の受け段部20bから栓部材19を取り外し、非常排出口3側の受け段部20aに嵌め合わせる。一方、下層フロアからの操作でつなぎ管4を第1の実施形態の場合と同様の手順で収納部5に収縮状態で収納する。なお、本実施形態における和式便器18は、非常排出口3を通常時は閉止し非常時は開口し得る構造であれば、如何なる形態の便器であってもよい。
【0043】
[第5の実施形態]
図9は本発明の非常時兼用トイレの第5の実施形態として、小便器を設置したトイレを示す断面図であり、図10は、本発明の第5の実施形態において、つなぎ管が伸長し簡易便槽に接続されている状態を示す断面図である。
【0044】
第5の実施形態におけるトイレは、小便器を設置したトイレであり、下部に収納部24を有する小便器21と、この収納部24内に設けられ通常時は閉止され非常時は開口される排出口22aを有する排水トラップ管22と、この排出口22aに通常時は取り外され非常時はその一端が連結される小便誘導管27と、この小便誘導管27の自由端側が挿入される非常排出口30とを備えている。この収納部24には、非常時に使用する小便誘導管27が収納されている。なお、非常排出口30から下部には、第1から第3の実施形態に示すいずれかの便槽が設置される。また、本実施形態において、第1から第4の実施形態の場合と同一の部分については同一符号を付して重複説明を省略する。
【0045】
本実施形態における小便器21は、第1の実施形態の便器2と同様にFRPで形成されている。しかしながら、洋式の便器2と同様に陶器等で形成してもよい。この小便器21の下部には上述した収納部24が設けられており、その収納部24の底面には貫通孔28が、前面には点検扉25が開閉自在に設けられている。
【0046】
排水トラップ管22は、ポリ塩化ビニルによって形成されており、小便排出口21aと水洗排出口23とを連結している。この排水トラップ管22の底部には円形の開口形状を有するトラップ排出口22aが設けられている。トラップ排出口22aの外周面にはネジ溝が形成されている。なお、排水トラップ管22は、ポリ塩化ビニルとは異なる樹脂による管、金属管、又は樹脂及び金属の複合管で構成してもよい。
【0047】
栓部材26は、ポリ塩化ビニルによって形成されており、凹状の軸断面形状を有している。この栓部材26の内周面には、上述したトラップ排出口22aのネジ溝と螺合するネジ溝が設けられている。この栓部材26は、ポリ塩化ビニルとは異なる樹脂による管、金属管、又は樹脂及び金属の複合管で構成してもよいが、排水トラップ管22と同じ構成材料とすることが望ましい。
【0048】
小便誘導管27は、凹状の軸断面形状を有する連結部27aとこの連結部27aに連通しているホース部27bとから構成されている。連結部27aの内周面には前述のトラップ排出口22aに螺合するネジ溝が設けられており、ホース部27bはフレキシブルな蛇腹状ホースとなっている。本実施形態における小便誘導管27は樹脂材料で形成されている。しかしながら、小便誘導管27を、汚物をトラップ排出口22aから非常排出口30へ誘導可能とするものであれば、その他の材料、例えば金属等で形成してもよい。
【0049】
非常排出口30は、通常時は閉止具29によって閉じられており、非常時のみ閉止具29を開いて開口するように構成されている。この閉止具29は、嵌合部材29aと嵌入部材29bとから構成されており、嵌合部材29aは非常排出口30の形状に対応した環状の平面形状を有しており、その内周面にはネジ溝が設けられている。嵌入部材29bは嵌合部材29aの形状に対応した形状を有しており、その外周面には嵌合部材29aのネジ溝に螺合するネジ溝が設けられている。本実施形態における閉止具29は、樹脂材料で形成されている。しかしながら、非常排出口30を開閉自在な構成であれば、その他の材料、例えば金属等で形成してもよく、また、その構成も他の如何なるものであってもよい。
【0050】
通常時の使用状態では、排水トラップ管22のトラップ排出口22aが栓部材26によって閉口されているため、汚物は小便排出口21aから排水トラップ管22を通過して水洗排出口23へ流れる。
【0051】
非常時においては、貫通孔28から手を挿入して排水トラップ管22のトラップ排出口22aから栓部材26が取り外すと共に、小便器21の点検扉25を開口して収納部24に収納されている小便誘導管27を取り出し、貫通孔28の下方からトラップ排出口22aに小便誘導管27を取り付ける。さらに、非常排出口30を閉止している嵌入部材29bを取り外し、小便誘導管27の自由端側を挿通孔28に挿通させ、非常排出口30に挿入する。これにより、汚物は排水トラップ管22のトラップ排出口22aから小便誘導管27を介して非常排出口30へ流れ、水洗排出口23側へは流れない。取り外された栓部材26と嵌入部材29bとは、収納部24に収納しておくことが好ましい。通常時状態に戻す手順については、非常時の手順を逆にすることで通常時状態に復帰することができる。
【0052】
以上述べたように、本実施形態によれば、非常時おいては、汚物は水洗排出口23に流れ込むことなく、非常排出口30を通過して便槽に流れ込む。また、排水トラップ管22のトラップ排出口22aについては、洗面台などの水周り設備の配管において一般的に知られている構成であるため、使用者は、簡単な説明のみで通常時状態から非常時状態への切替え手順及びその逆の手順を理解することができる。
【0053】
[第6の実施形態]
図11は、本発明の非常時兼用トイレの第6の実施形態として、洋式便器と小便器が並設したトイレを示す断面図である。同図に示すように、本実施形態は、第1の実施形態におけるトイレと第5の実施形態におけるトイレが並列して設置されたトイレである。なお、本実施形態において、第1の実施形態または第5の実施形態の場合と同一の部分については同一符号を付して重複説明を省略する。
【0054】
本実施形態における洋式便器2は第1の実施形態の場合と同様に、非常排出口3が汚物の落下する位置の真下方向に設けられ、この非常排出口3の下部には、落下案内管13が樹脂接着剤等によって接着固定され、この落下案内管13の下部には、つなぎ管4が連結されている。一方、小便器21は非常排出口30に設けられている落下案内管31が洋式便器2の落下案内管13の側面に下方傾斜して連結している。なお、小便器21がつなぎ管4の直上に設けられていなくても、非常排出口30から流れ込む汚物が液体であるため、落下案内管13の連結部に対して下方傾斜している落下案内管31により、汚物を便槽へ誘導することができる。本実施形態におけるその他の構成及び作用は、第1及び第5の実施形態の場合と同様である。
【0055】
本実施形態によれば、非常時において洋式便器2の非常排出口3と小便器21の非常排出口30とから流れ込んだ汚物が1つの便槽に収集されることとなるため、汚物の処理が容易となる。また、通常時の使用状態に復帰する際にも1つの便槽を復帰させるだけでよい。
【0056】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0057】
1 トイレ
2 便器
3 非常排出口
4 つなぎ管
5 収納部
6 配管ピット
7 点検口
8 便槽
9 栓部材
10 水洗排出口
11 下水管
12a 吊ボルト
12b 吊天井
13 落下案内管
14 スラブ
15 取り外し具
21 小便器
22 排水トラップ管
23 水洗排出口
24 収納部
25 点検扉
26 栓部材
27 小便誘導管
28 貫通孔
29 閉止具
30 非常排出口
31 落下案内管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常時は閉止され非常時に開口される非常排出口が設けられている便器と、前記非常排出口に連結されており汚物を通過させるための伸縮自在なつなぎ管と、該つなぎ管を通常時において収縮して収納する収納部とを備えており、前記つなぎ管は、非常時に伸長されて前記便器より下方に設けられている便槽に連結可能に構成されていることを特徴とする非常時兼用トイレ。
【請求項2】
前記収納部は前記便器の下方に設けられている配管ピット内に設けられており、該配管ピットは伸長された前記つなぎ管が挿通する点検口を備えていることを特徴とする請求項1に記載の非常時兼用トイレ。
【請求項3】
前記つなぎ管は伸長状態において、水平方向に移動可能に構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の非常時兼用トイレ。
【請求項4】
前記便槽は前記便器の下方に設けられている配管ピットより下層フロアに配置されている、交換可能な簡易便槽であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の非常時兼用トイレ。
【請求項5】
前記便槽は前記便器の下方に設けられている配管ピットより下層の配管ピットに設けられている固定便槽であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の非常時兼用トイレ。
【請求項6】
前記便槽は屋外に設けられている固定便槽であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の非常時兼用トイレ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−117190(P2011−117190A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275643(P2009−275643)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(506218343)
【Fターム(参考)】