説明

非拡散性フッ素グリース組成物

【課題】 グリース成分中から基油であるフッ素オイルの離油、拡散が極めて少ないフッ素グリース組成物を提供する。
【解決手段】 基油であるフッ素オイルとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの増稠剤を含むフッ素グリースであり、ジメチルシリコーンオイルなどのシリコーンオイル0.1〜10重量%と、アミン系やアミド系などの含窒素系界面活性剤0.1〜5.0重量%とを含んでいる。上記シリコーンオイルとしては、40℃の動粘度が1〜500mm/sであるものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース中の油分が部材表面で拡散しない非拡散性のフッ素グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機構部品において潤滑剤は不可欠であり、各種の部位で多くの潤滑油剤が使用されている。例えばグリース製品は、潤滑油剤を機構部品に保持して流出を防止する目的で、油成分を増稠剤と呼ばれる物質で半固体状としたものである。
【0003】
しかしながら、このグリース製品でも油の滲み出し防止は完全ではなく、各種の基油拡散防止剤が提案されている。例えば、特開平8−176575号公報には、合成潤滑油を基油とするグリースへの拡散防止剤として、パーフルオロカーボンチェーンを持ち、且つ親水基としてポリオキシエチレンを持つフッ素系の界面活性剤が記載されている。しかしながら、このフッ素系界面活性剤は、基油の拡散防止性能が充分とはいえなかった。
【0004】
また、特開2000−109874号公報には、フッ素系グリースにシリコーンオイルを0.1〜50%混合した非拡散性のフッ素グリース組成物が開示されている。しかしながら、低粘度のフッ素オイルでは、充分な拡散防止性能が得られない。また、シリコーンオイルを含むことで、特に金属対金属間での耐荷重能が低下してしまい、その配合量によってはフッ素オイルのもつ耐荷重能を低下させるという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平8−176575号公報
【特許文献2】特開2000−109874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来の事情に鑑みてなされたものであり、基油であるフッ素オイルの拡散が極めて少ないフッ素グリース組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、フッ素グリースの主要成分であるフッ素オイルの拡散機構について検討した結果、以下の知見を得た。フッ素オイルの拡散は、フッ素グリースを塗布した部材表面にフッ素オイル分子が吸着することから始まる。従って、フッ素オイルの拡散を防止するには、フッ素と反発しあう異種物質を、フッ素オイル分子より速く吸着させることが有効であると考えた。
【0008】
その結果、フッ素オイルの拡散防止に有効な物質として、フッ素オイル分子より運動速度が高い、即ち、より低分子量であり、運動速度を代用する物性として動粘度がフッ素オイルと同等又はそれ以下であり、且つ、分子としての吸着力がフッ素オイルより強固な、評価基準として接触角の数値がフッ素オイル以下である物質が望ましいことが分った。
【0009】
そこで、本発明においては、本質的に上記機能を持つシリコーンオイルを基油拡散防止のための主成分とすると共に、窒素を含有する界面活性剤を併用することで、塗布した部材表面でシリコーンオイルの表面張力を著しく低減できることを見出し、両者の相乗効果によりシリコーンオイル単独では到達できなかったフッ素オイルの拡散防止能を驚異的に低減することができた。
【0010】
即ち、上記目的を達成するため、本発明が提供する非拡散性フッ素グリース組成物は、基油であるフッ素オイルと増稠剤を含むフッ素グリースに、シリコーンオイル0.1〜10重量%と含窒素系界面活性剤0.1〜5.0重量%を添加したことを特徴とするものである。また、前記シリコーンオイルとしては、40℃の動粘度が1〜500mm/sであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フッ素グリースから基油のフッ素オイルが離油することを防ぎ、フッ素オイルの拡散を従来よりも著しく小さくすることができる。従って、潤滑に供する部分にのみフッ素オイルが存在し、その他の部分にはフッ素オイルが流失しない、非拡散性に優れたグリース組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明による非拡散性フッ素グリース組成物は、フッ素オイルに増稠剤を添加してグリース化した通常のフッ素系グリースに、シリコーンオイルと含窒素系界面活性剤を添加混合したものである。フッ素オイルには、大別して直鎖タイプと側鎖タイプがあり、40℃での動粘度が1000mm/s前後の高粘度品から、40℃での動粘度が15mm/s程度の低粘度品まで様々の種類がある。また、増稠剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが一般に使用されている。
【0013】
本発明で用いるシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイルをはじめ、フェニル変性、カルボキシル変性、アミン変性など、従来から知られている各種のシリコーンオイルを使用することができる。これらシリコーンオイルの中でも、動粘度が40℃で1〜500mm/sのものが好ましい、40℃での動粘度が1mm/s未満では拡散防止効果が小さいうえ、高温又は低真空下で蒸発しやすい。また、40℃での動粘度が500mm/sを超えた場合にも、拡散防止効果が小さくなるため好ましくない。
【0014】
また、上記シリコーンオイルの配合量は、フッ素グリース組成物全体の0.1〜10重量%の範囲とする。シリコーンオイルの配合量が0.1重量%未満では、拡散防止効果が得られない。逆にシリコーンオイルの配合量が10重量%を超えると、シリコーンオイルの影響が大きくなり、耐荷重能をはじめフッ素オイルの持つ性能が低減する。また、シリコーンオイルが10重量%を超えると、増稠剤であるポリテトラフルオロエチレンとの相性が悪いために、グリースから油分離が起こる可能性がある。
【0015】
本発明で用いる含窒素系界面活性剤としては、アミド系の脂肪酸アルカノールアミド、脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸トリエタノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミドなどと、アミン系のポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンエチレンオキシド付加体などを好適に使用することができる。特にアミン系の含窒素系界面活性剤は、シリコーンオイルとの拡散防止性能の向上に対する相乗効果が大きく好ましい。
【0016】
上記含窒素系界面活性剤の配合量は、フッ素グリース組成物全体の0.1〜5.0重量%の範囲とする。含窒素系界面活性剤の配合量が0.1重量%よりも少ない場合、シリコーンオイルとの拡散防止性能の向上に対する相乗効果はほとんど認められなくなる。また、含窒素系界面活性剤の配合量を5.0重量%より増やしても、拡散防止性能に与える添加効果は頭打ちとなる。
【実施例】
【0017】
フッ素オイル、増稠剤、シリコーンオイル、界面活性剤を混合して、下記表1に示す試料1〜9の組成を有するフッ素グリース組成物を作製した。基油であるフッ素オイルは、ダイキン工業株式会社製のデムナムS−20(動粘度は40℃で約20mm/s)を使用した。増稠剤としては、三井・デュポンフルオロケミカル株式会社製のPTFEを使用した。
【0018】
シリコーンオイルは、信越化学工業株式会社製のジメチルシリコーンオイルで、動粘度が40℃で20mm/sのもの(DMSO−20と略記)と、350mm/sのもの(DMSO−350と略記)を用いた。含窒素系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルアミン(POEAAと略記)と、アルキルアミンエチレンオキシド(AAEOと略記)付加体を用いた。また、フッ素系界面活性剤の代表として、ポリαオレフィン系グリースの拡散防止剤として有効なパーフルオロアルキルカルボン酸塩(PFACA塩と略記)を使用した。
【0019】
【表1】

【0020】
上記試料1と試料2は本発明例であり、シリコーンオイルと含窒素系界面活性剤を添加したフッ素グリース組成物である。試料3〜9は比較例であり、試料3はフッ素オイルをPTFEで増稠した通常のフッ素グリースである。比較例の試料4〜5は、40℃での動粘度が異なるシリコーンオイルのみを添加し、含窒素系界面活性剤を添加していないフッ素グリース組成物である。
【0021】
また、比較例の試料6〜7は、含窒素系界面活性剤のみを添加し、シリコーンオイルを添加していないフッ素グリース組成物である。比較例の試料8は、フッ素系界面活性剤(パーフルオロアルキルカルボン酸塩)のみを添加したものである。更に、比較例の試料9は、シリコーンオイルと上記フッ素系界面活性剤を添加したフッ素グリース組成物である。
【0022】
上記試料1〜9のフッ素グリース組成物について、拡散防止性能を試験した。即ち、フッ素グリース組成物をラッピングペーパー(♯2000)に直径5mm、厚さ1mmの円柱状に塗布し、恒温槽内に50℃で24時間放置した後、円柱状のグリース外周部から外側に滲み出したオイルの端部までの平均距離を求め、得られた結果を下記表2に示した。
【0023】
【表2】

【0024】
比較例の試料3は拡散防止剤が添加されていない通常のフッ素グリースであるから、この試料3の結果と比較することで、各フッ素グリース組成物の拡散防止効果を評価する。まず、本発明例である試料1、2のフッ素グリース組成物は、比較例の試料3に比べて、いずれも著しい拡散防止効果の向上を示した。
【0025】
一方、シリコーンオイルのみを添加した比較例の試料4〜5、フッ素系界面活性剤のみを配合した比較例の試料8、シリコーンオイルとフッ素系界面活性剤を配合した比較例の試料9については、比較例の試料3に比べて、いずれも拡散防止効果の向上が認められた。しかし、その拡散防止効果は僅かしか向上しておらず、従来要求されている性能には達していない。
【0026】
また、比較例の試料6〜7のフッ素グリース組成物は、本発明に用いる含窒素系界面活性剤のみを配合したものであるが、含窒素系界面活性剤のみを配合しても拡散防止効果はほとんど認められなかった。以上のことから、シリコーンオイルと含窒素系界面活性剤の併用により初めて、要求仕様を十分満たす極めて優れた拡散防止性能を有するフッ素グリースが得られることが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油であるフッ素オイルと増稠剤を含むフッ素グリースに、シリコーンオイル0.1〜10重量%と含窒素系界面活性剤0.1〜5.0重量%を添加したことを特徴とする非拡散性フッ素グリース組成物。
【請求項2】
前記シリコーンオイルは、40℃の動粘度が1〜500mm/sであることを特徴とする、請求項1に記載の非拡散性フッ素グリース組成物。

【公開番号】特開2009−7425(P2009−7425A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168468(P2007−168468)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(591213173)住鉱潤滑剤株式会社 (42)
【Fターム(参考)】