説明

非接触給電用電力供給装置及び電源高調波の低減方法

【課題】電源高調波及び電源変動率を低減させる非接触給電用電力供給装置及び電源高調波の低減方法を提供する。
【解決手段】第1〜3交流リアクトルは、三相交流電源と整流回路との間を接続する第1〜3電源ラインのそれぞれに直列に挿入される。接続線は、第1〜3電源ラインを、三相交流電源と第1〜3交流リアクトルとの間で互いに接続する。第1〜3共振リアクトルは、接続線に直列に挿入され、第1〜3交流リアクトルとトランス結合するようにそれぞれ配置される。第1〜3接続コンデンサは、接続線に挿入され、第1〜3共振リアクトルの間に配置される。ここで、第1〜3共振リアクトルと第1〜3接続コンデンサとは、共振回路を構成し、共振回路の共振周波数より低い周波数であってかつ三相交流電源の電源周波数の2〜3倍の周波数で共振するようにそれぞれパラメータが設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触給電用電力供給装置及び電源高調波の低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工場等のクリーンルームでは、物品を搬送する走行車を駆動するために、非接触給電システムが使用されている。
【0003】
非接触給電システムは、電源として機能する給電装置及び給電線を含む一次側回路と、走行車のモータ等を含む二次側回路とを有している。
給電装置は、例えば可変電圧電源とインピーダンス変換部とを備える。このような給電装置では、インダクタ及びキャパシタにより構成されたインピーダンス変換部によって、可変電圧電源からの所定の電圧を所定の電流に変換して給電線へと電力を供給する。給電線は、走行車の軌道に沿って架設されており、電磁誘導によって二次側回路に電力を供給する(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、三相整流回路を採用し、三相交流電源からの交流電流を三相整流回路にて整流して走行車のモータ等へ電力を供給する給電装置が提案されている。このような三相整流回路を採用した給電装置では、電源電流に多くの高調波成分が発生し、電源系統に悪影響を与えるという問題が生じる。そのため、三相交流電源と三相整流回路との間に高調波を抑制するためのリアクトルが挿入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−354710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
給電装置においては、安定した出力電圧を提供するために整流後の直流電圧における電源変動率が低いことが要求される。しかし、電源高調波を改善することを目的として、相交流電源と三相整流回路との間に配置したリアクトルを大きくすれば、負荷量が増えるために電圧低下が発生し、電源変動率が上昇するという問題があった。
【0007】
本発明の課題は、非接触給電用電力供給装置において、電源高調波及び電源変動率を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
【0009】
本発明による一見地に係る非接触給電用電力供給装置は、整流回路と、第1〜3電源ラインと、第1〜3交流リアクトルと、接続線と、第1〜3共振リアクトルと、第1〜3接続コンデンサとを備える。整流回路は、三相交流電源を直流に変換する。第1〜3電源ラインは、三相交流電源と整流回路との間を接続する。第1〜3交流リアクトルは、第1〜3電源ラインのそれぞれに直列に挿入される。接続線は、第1〜3電源ラインを、三相交流電源と第1〜3交流リアクトルとの間で互いに接続する。第1〜3共振リアクトルは、接続線に直列に挿入され、第1〜3交流リアクトルとトランス結合するようにそれぞれ配置される。第1〜3接続コンデンサは、接続線に挿入され、第1〜3共振リアクトルの間に配置される。ここで、第1〜3共振リアクトルと第1〜3接続コンデンサとは、共振回路を構成し、共振回路の共振周波数より低い周波数であってかつ三相交流電源の電源周波数の2〜3倍の周波数で共振するようにそれぞれパラメータが設定されている。
【0010】
ここでは、接続線に挿入された第1〜3共振リアクトルと第1〜3接続コンデンサとが、共振回路を構成し、共振回路の共振周波数より低い周波数であってかつ電源周波数の2〜3倍の周波数で共振するようにそれぞれパラメータが設定されている。また、第1〜3交流リアクトルと第1〜3共振リアクトルとがそれぞれトランス結合されている。このような構成を有することにより、整流回路の動作によって負荷電流が発生しても、共振によって接続線を流れる電流によって負荷電流が打ち消されるため、三相交流電源の電源電流は、負荷電流の変動に影響されずに常にほぼ正弦波となる。つまり、高調波電流の抑制が実現できる。また、インダクタンスとして相殺関係にある第1〜3交流リアクトル及び第1〜3共振リアクトルによって、リアクトルが電源系統の直列インピーダンスとはならず、その結果、安定した電源電圧を供給できる。従って、電源高調波及び電源変動率の低減を実現できる。
【0011】
本発明の他の見地に係る電源高調波の低減方法は、整流回路と、第1〜3電源ラインと、第1〜3交流リアクトルと、接続線と、第1〜3共振リアクトルと、第1〜3接続コンデンサと、を備える非接触給電用電力供給装置において、整流回路から発生した負荷電流に起因して第1〜3共振リアクトルに電圧を誘起するステップと、第1〜3共振リアクトルと第1〜3接続コンデンサとが構成する共振回路を共振回路の共振周波数より低い周波数であってかつ三相交流電源の電源周波数の2〜3倍の周波数で共振させて、第1〜3共振リアクトルに流れるバイパス電流によって負荷電流を打ち消すステップと、を備える。ここで、整流回路は、三相交流電源を直流に変換する。第1〜3電源ラインは、三相交流電源と整流回路との間を接続する。第1〜3交流リアクトルは、第1〜3電源ラインのそれぞれに直列に挿入される。接続線は、第1〜3電源ラインを、三相交流電源と第1〜3交流リアクトルとの間で互いに接続する。第1〜3共振リアクトルは、接続線に直列に挿入され、第1〜3交流リアクトルとトランス結合するようにそれぞれ配置される。第1〜3接続コンデンサは、接続線に挿入され、第1〜3共振リアクトルの間に配置される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る非接触給電用電力供給装置では、電源高調波及び電源変動率を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】クリーンルーム内の天井搬送車システムの概略模式図。
【図2】レール内の縦断面概略図。
【図3】電力供給装置の給電機構を示す給電回路図。
【図4】実施例1における各素子のパラメータ例を示す図。
【図5】実施例1における低負荷電力時の電源電流i11、負荷電流i12及びバイパス電流i13の波形を示す図。
【図6】実施例1における高負荷電力時の電源電流i11、負荷電流i12及びバイパス電流i13の波形を示す図。
【図7】実施例1における低負荷電力時及び高負荷電力時の総合高調波ひずみ率とDC電源変動率とを示す図。
【図8】他の実施例における各素子の他のパラメータ例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)天井搬送車システム全体
図1を用いて、天井搬送車システム1について説明する。図1は、クリーンルーム内の天井搬送車システムの概略模式図である。天井搬送車システム1は、半導体工場などのクリーンルーム等に設けられ、FOUP(Front Opening Unified Pod)を搬送する。天井搬送車システム1は、主に、レール3と、レール3に沿って走行する天井搬送車5とを有している。
【0015】
半導体工場は、複数のベイ(工程)を有しており、遠隔のベイ同士を接続するためにインターベイルート101が設けられている。さらに各ベイはイントラベイルート103を有している。インターベイルート101及びイントラベイルート103は、レール3により構成されている。
【0016】
イントラベイルート103に沿って、半導体処理装置などの複数の処理装置105が配置されている。さらに、複数の処理装置105の近傍には、ロードポート107が設けられている。ロードポート107は、イントラベイルート103の直下に設けられている。以上の構成において、天井搬送車5はレール3を走行してロードポート107間でFOUPを搬送する。
【0017】
(2)レール
図2をさらに参照して、レール3について説明する。図2は、レール内の縦断面概略図である。レール3は、複数の支柱7によって天井9から吊り下げられている。レール3は、主に、走行レール11と、走行レール11の下部に設けられた給電レール13とを有している。
【0018】
走行レール11は、例えばアルミ製であり、図2に示すように、断面視逆U字状に構成されている。走行レール11は、上面部11aと、両側面部11bとを有している。両側面部11bの下には、内側に延びる一対の第1走行面11cが形成されている。さらに、両側面部11bの内側面の上部には第2走行面11dが形成され、上面部11aの下側面に第3走行面11eが形成されている。
【0019】
給電レール13は、走行レール11の下部両側に設けられた一対の給電線ホルダ15を有する。給電線ホルダ15には、銅線等の導電線を絶縁材料で被覆しリッツ線からなる一対の給電線17が配置されている。給電線17の一端には電力供給装置41が設けられ、一対の給電線17に電力が供給される。
【0020】
(3)天井搬送車
天井搬送車5は、主に、走行部21と、受電部23と、搬送車本体部25とを有している。走行部21は、走行レール11内に配置され、レール3上を走行するための機構である。受電部23は、給電レール13内に配置され、一対の給電線17から電力が供給されるための機構である。搬送車本体部25は、給電レール13の下方に配置され、FOUPを保持し、上下に昇降させるための機構である。
走行部21は、主に、走行レール11内に配置されており、一対の第1ガイド輪18と、一対の第2ガイド輪19と、走行駆動輪20と、走行モータ(図示せず)とを有している。一対の第1ガイド輪18は、走行部21の下部両側に配置され、左右方向に延びる車軸に回転自在に支持されている。第1ガイド輪18は、走行レール11の第1走行面11c上に載置されている。
【0021】
第2ガイド輪19は、走行部21の上部両側に配置され、垂直方向に延びる車軸に回転自在に支持されている。第2ガイド輪19は、走行レール11の第2走行面11dをガイド面として、天井搬送車5の進行方向に対する左右方向への位置ズレを防止している。
【0022】
走行駆動輪20は、走行部21の略中央に配置され、走行レール11の第3走行面11eに、スプリングなどの押圧手段により押圧されている。走行駆動輪20は、図示しない走行モータによって駆動される。その結果、天井搬送車5は走行レール11上を走行する。
【0023】
(4)受電部
受電部23は、一対の給電線17から電力を得るための一対のピックアップユニット27を有している。具体的には、一対のピックアップユニット27は、給電レール13内で左右に並んで配置されている。各ピックアップユニット27は、断面が略E字型をしたフェライト製のコア29と、コア29に巻かれたピックアップコイル31とを有している。具体的には、コア29は、両側の突出部29aと、その間の中央の突出部29bとを有しており、ピックアップコイル31は中央の突出部29bに巻かれている。
【0024】
給電線ホルダ15に保持された一対の給電線17が、両側の突出部29aと中央の突出部29bとの間に、それぞれ配置されている。この一対の給電線17に電流を流すことによって発生する磁界がピックアップコイル31に作用して、ピックアップコイル31に誘導電流が発生する。このようにして、一対の給電線17からピックアップユニット27に非接触で電力を供給し、走行モータを駆動したり、制御機器に電力を供給したりする。
【0025】
(5)電力供給装置
(5−1)電力供給装置の構成
次に、図3を参照して、一対の給電線17を用いて天井搬送車5に非接触電力供給方式によって電力を供給する電力供給装置41について説明する。図3は、電力供給装置の給電機構を示す給電回路図である。
【0026】
電力供給装置41は、三相交流電源43、整流回路45、平滑用コンデンサ47及び負荷49を含む。電力供給装置41は、さらに第1〜第3電源ライン51、53、55、第1〜3交流リアクトル57、59、61、接続線63、第1〜3共振リアクトル69、71、73及び第1〜3接続コンデンサ75、77、79を含む。
【0027】
三相交流電源43は、第1〜第3電源ライン51、53、55を介して位相が互いに120度ずれた三相(U相、V相、W相)の交流電圧を供給する。
整流回路45は、三相交流電源43からの交流を直流に整流する。整流回路45は、複数のダイオードD1、D2、D3、D4、D5、D6をブリッジ接続して構成されたダイオードブリッジである。
平滑用コンデンサ47(C4)は、整流回路45の直流出力端子間に接続され、直流電圧を平滑化する。
【0028】
負荷49には、平滑用コンデンサ47によって平滑された直流電圧が供給される。負荷49は給電線17に対応している。負荷49は、直流負荷RLを有し、整流回路45の直流出力端子間に、平滑用コンデンサ47と並列に接続される。図3中、Vdcは、直流負荷RLに加わる直流電圧を示す。
【0029】
第1〜第3電源ライン51、53、55は、三相交流電源43と整流回路45との間を接続する。具体的に第1電源ライン51は、三相交流電源43のU相の交流電源ラインである。また、第2電源ライン53は、三相交流電源43のV相の交流電源ラインであり、第3電源ライン55は、三相交流電源43のW相の交流電源ラインである。
【0030】
第1〜3交流リアクトル57(L1)、59(L2)、61(L3)は、三相交流電源43と整流回路45との間の第1〜第3電源ライン51、53、55それぞれに直列に挿入されたリアクトルである。具体的に第1交流リアクトル57は第1電源ライン51に挿入され、第2交流リアクトル59は第2電源ライン53に挿入され、第3交流リアクトル61は第3電源ライン55に挿入される。
【0031】
接続線63は、第1〜第3電源ライン51、53、55を、三相交流電源43と第1〜3交流リアクトル57、59、61との間で互いに接続する。
本実施形態では、接続線63は、第1〜4接続線64、65、66、67を有する。第1接続線64は、第1端が三相交流電源43と第1交流リアクトル57との間の第1電源ライン51に接続される。第2接続線65は、第1端が三相交流電源43と第2交流リアクトル59との間の第2電源ライン53に接続される。第3接続線66は、第1端が三相交流電源43と第3交流リアクトル61との間の第3電源ライン55に接続される。第1接続線64の第2端、第2接続線65の第2端及び第3接続線66の第2端は、互いに連結される。第4接続線67は、第1接続線64における第1共振リアクトル69の第2端側と、第2接続線65における第2共振リアクトル71の第2端側の間を接続するように配置される。ここで、第1共振リアクトル69の第2端とは、第1電源ライン51側にある第1端と反対側の一端である。また、第1共振リアクトル69の第2端とは、第2電源ライン53側にある第1端と反対側の一端である。
【0032】
第1〜3共振リアクトル69(L11)、71(L22)、73(L33)は、第1〜3接続線64、65、66のそれぞれに直列に挿入され、第1〜3交流リアクトル57、59、61とトランス結合するようにそれぞれ配置される。具体的に、第1共振リアクトル69は、第1接続線64に直列に挿入され、第1交流リアクトル57とトランス結合するように、第1交流リアクトル57と対面する位置に配置される。すなわち、第1交流リアクトル57と第1共振リアクトル69とは電磁結合され、電磁誘導作用によって第1交流リアクトル57の両端に発生した電圧は、第1共振リアクトル69側に電圧を誘起する。第2共振リアクトル71は、第2接続線65に直列に挿入され、第2交流リアクトル59とトランス結合するように、第2交流リアクトル59と対面する位置に配置される。第3共振リアクトル73は、第3接続線66に直列に挿入され、第3交流リアクトル61とトランス結合するように、第3交流リアクトル61と対面する位置に配置される。
ここで、第1共振リアクトル69と第1交流リアクトル57とで構成された第1結合トランス81の結合係数kは1であることが好ましい。又は、結合係数kは、1に限りなく近い値、例えば0.999であってもよい。なお、第2共振リアクトル71と第2交流リアクトル59とで構成された第2結合トランス83の結合係数及び第3共振リアクトル73と第3交流リアクトル61とで構成された第3結合トランス85の結合係数は、第1結合トランス81の結合係数と同様である。
【0033】
第1〜3接続コンデンサ75(C1)、77(C2)、79(C3)は、接続線63に挿入され、第1〜3共振リアクトル69、71、73間にそれぞれ配置される。具体的に第1接続コンデンサ75は、第1共振リアクトル69と第3共振リアクトル73との間に、第1接続線64に直列に挿入されて配置される。第2接続コンデンサ77は、第1共振リアクトル69と第2共振リアクトル71との間に、第4接続線67に直列に挿入されて配置される。第3接続コンデンサ79は、第2共振リアクトル71と第3共振リアクトル73との間に、第2接続線65に直列に挿入されて配置される。
【0034】
また、第1〜3接続コンデンサ75、77、79は、第1〜3共振リアクトル69、71、73と一体となって共振回路を構成する。第1〜3接続コンデンサ75、77、79及び第1〜3共振リアクトル69、71、73の6素子の各パラメータは、構成する共振回路の共振周波数より低い周波数であってかつ三相交流電源43の電源周波数の2〜3倍の周波数で共振するように設定される。このように6素子の各パラメータを設定することで、負荷電流が流れることにより第1〜3交流リアクトル57、59、61に電圧が発生した場合に、トランス結合を介して誘起された電圧によって第1〜3共振リアクトル69、71、73に流れるバイパス電流が負荷電流と同量の電流分変動される。詳細は後述する。
【0035】
(5−2)電力供給装置の動作
次に、電力供給装置41の給電回路の動作について説明する。なお、三相交流電源43の三相の各相では同じ現象が観測される。従って、以下、第1電源ライン51であるU相の交流電源ラインを例に挙げて説明する。図3において、第1電圧Va、第2電圧Vb、第3電圧Vcは、三相交流中性点からの電圧値をそれぞれ示す。また、第1電源ライン51に流れる電源電流を電源電流i11、第1交流リアクトル57に流れる電流を負荷電流i12、第1接続線64及び第1共振リアクトル69に流れる電流をバイパス電流i13という。なお、これら電流は、電源電流i11=負荷電流i12+バイパス電流i13の関係にある。
【0036】
(5−2−1)実施例1
実施例1における電力供給装置41の給電回路の動作について、図3と、さらに図4〜図5を参照して説明する。図4は、実施例1における各素子のパラメータ例を示す図である。図5は、実施例1における低負荷電力時における電源電流i11、負荷電流i12及びバイパス電流i13の波形を示す図である。
【0037】
前述のとおり電力供給装置41の給電回路では、第1〜3共振リアクトル69、71、73及び第1〜3接続コンデンサ75、77、79は、一体となって共振回路を構成する。第1〜3共振リアクトル69、71、73及び第1〜3接続コンデンサ75、77、79の各パラメータは、構成する共振回路の共振周波数より低い周波数であってかつ三相交流電源43の電源周波数の2〜3倍の周波数で共振するようにそれぞれ設定されている。ここで共振回路の共振周波数より低い周波数であってかつ三相交流電源43の電源周波数の2〜3倍の周波数とは、例えば137Hzである。このように上記6素子の各パラメータを設定し、構成する共振回路の共振周波数より低い周波数であって三相交流電源43の電源周波数の2〜3倍の周波数を利用することにより、電力供給装置41の給電回路において以下が実現される。すなわち、整流回路45から発生した負荷電流i12に起因して第1結合トランス81を介して第1〜3共振リアクトル69、71、73に電圧が誘起された場合に、バイパス電流i13を負荷電流i12と同量の電流分変動させることができる。なお、本実施形態において共振周波数とは、第1〜3接続コンデンサ75、77、79及び第1〜3共振リアクトル69、71、73によって構成される共振回路のインピーダンスが最小となる周波数をいう。
【0038】
具体的に実施例1では、図4に示すとおり、第1交流リアクトル57(L1)、第2交流リアクトル59(L2)及び第3交流リアクトル61(L3)は、1000μHに設定されている。第1共振リアクトル69(L11)、第2共振リアクトル71(L22)及び第3共振リアクトル73(L3)は、1500μHに設定されている。第1接続コンデンサ75(C1)、第2接続コンデンサ77(C2)及び第3接続コンデンサ79(C3)は、300μFに設定されている。
なお、実施例1において第1交流リアクトル57及び第1共振リアクトル69から構成された第1結合トランス81の結合係数kは、0.999である。
【0039】
まず、電力供給装置41の給電回路において負荷電流が発生していない場合には、バイパス電流i13には三相交流電源43からの1線の正弦波電流が流れている。
【0040】
その後、整流回路45のダイオードD1、D2に電圧が印加され、ダイオードD1、D2の動作によって負荷電流が発生すれば、図5(B)に示すとおり、発生した負荷電流と同量の電流が負荷電流i12として第1交流リアクトル57に流れる。また、第1交流リアクトル57に負荷電流i12が流れることにより、第1交流リアクトル57の両端に負荷電流i12に応じた電圧が発生する。
【0041】
負荷電流i12に応じて第1交流リアクトル57の両端に発生した電圧は、第1結合トランス81によって第1共振リアクトル69に電圧を誘起する。ここで、実施例1で採用された第1交流リアクトル57及び第1共振リアクトル69の結合係数は、k=0.999である。従って、第1共振リアクトル69に誘起された電圧は、第1交流リアクトル57の両端に発生した電圧と相似関係となり、かつ位相が反転される。また、前述したとおり、第1〜3接続コンデンサ75、77、79及び第1〜3共振リアクトル69、71、73は、トランス結合を介して負荷電流i12と同量の電流分バイパス電流i13を変動させるように設定されている。従って、正弦波電流であったバイパス電流i13に負荷電流i12と同量であって位相が反転された電流が作用することにより、バイパス電流i13の波形は、図5(c)で示されるように歪む。
【0042】
歪んだバイパス電流i13は、負荷電流i12を打ち消す方向に流れる。すなわち、第1〜3共振リアクトル69、71、73及び第1〜3接続コンデンサ75、77、79は、第1電圧Vaからみると、三相交流電源43の電源周波数の2〜3倍の周波数で共振する。従って、三相交流中性点からの第3電圧Vcは常に上昇していて、その結果、第3電圧Vcは、常に第2電圧Vbと同相でありかつ第2電圧Vbより高い状態にある。その結果、第3電圧Vcと2電圧Vbの電位差によって、歪んだバイパス電流i13は、負荷電流i12を打ち消す方向、すなわち図3に示す矢印方向とは逆方向に流れる。
このように歪んだバイパス電流i13が流れることにより、負荷電流i12は打ち消されて、電源電流i11は常に正弦波となる。すなわち、電源電流i11=負荷電流i12+バイパス電流i13の関係にあるため、バイパス電流i13が負荷電流i12を打ち消し、電源電流i11は、図5(A)で示すとおり正弦波を有する。
【0043】
上記の構成を有することにより、負荷電流i12が変動しても、その変動と同量分バイパス電流i13も変動するため、電源電流i11は変動することなく負荷電流i12が流れていない場合の電源電流i11と同値になる。その結果、電源電流i11は負荷電流i12の発生に関係なく常にほぼ正弦波であり、電源電流i11における高調波電流は抑制される。なお、第1交流リアクトル57及び第1共振リアクトル69の磁気定数の非直線等の理由から、電源電流i11には若干の高調波成分は残留するが僅少である。
【0044】
また、第1交流リアクトル57及び第1共振リアクトル69とはインダクタンスとして相殺関係にある。従って、第1交流リアクトル57又は第1共振リアクトル69が電源系統の直列インピーダンスとはならないため、安定した電源を供給できる。
上記のとおり、実施例1における電力供給装置41では、電源高調波及び電源変動率を共に低減させることができる。
また、三相交流電源43と整流回路45との間の間に受動素子だけを配置させればよいので、簡単な構成で電源高調波及び電源変動率を低減させる電力供給装置41を実現できる。
さらに、上記のとおり、実施例1では、第1〜3共振リアクトル69、71、73及び第1〜3接続コンデンサ75、77、79の共振回路の周波数は、電源周波数の2〜3倍の周波数の137Hzである。三相交流電源43からみて、共振回路のインピーダンスは、周波数が137Hz未満の場合にはコンデンサとみなせ、周波数が137Hz以上の場合ではインダクタンスとみなせる。従って、本実施例では、周辺機器に多用された三相整流方式で顕著に発生する第5次高調波(250Hz又は300Hz)及び第7次高調波(350Hz又は420Hz)において共振回路のインピーダンスをインダクタンスとみなせるので、周辺機器に悪影響を及ぼす可能性を低減できる。
【0045】
次に、実施例1におけるシミュレーション結果について説明する。具体的には、実施例1における低負荷電力時及び高負荷電力時における電流波形及び総合高調波ひずみ率を示す。また、実施例1における電源変動率を示す。
シミュレーション条件として、図4に示す条件の他に、電源電流i11=40.0Arms及び直流負荷RL=37Ωを採用する。また、結合係数k=0.999、三相交流電源43の交流電圧=200Vac及び三相交流電源43の周波数=50Hzを採用する。
【0046】
ここで総合高調波ひずみ率(基本波基準、以下THD−F(Total Harmonic Distortion−Fundamental)という)とは、基本波に対する高調波成分の比率である。THD−Fは、以下の数式1で表される。
【数1】


ここでI1=電源周波数電流値、n=次数、In=高調波電流値である。
THD−Fがより低いほど、高調波成分が少なく電流波形に歪みが小さいことが示される。総合高調波ひずみ率は、各種規格の要請により、13%以下であることが目標とされる。
【0047】
また、電源変動率とは、商用電源側からの入力電圧の変動に対する出力安定度を示す。電源変動率とは、以下の数式2で表される。なお、ここでは直流(DC)の電源変動率を求める。
【数2】


なお、低負荷電力とは2.5kW〜2.9kWであり、高負荷電力とは24kW〜25kWを指す。
【0048】
低負荷電力時における電源電流i11、負荷電流i12及びバイパス電流i13の波形は、すでに図5に示したとおりである。また、高負荷電力時の電源電流i11、負荷電流i12及びバイパス電流i13の波形は図6のとおりである。図6は、実施例1における高負荷電力時の電源電流i11、負荷電流i12及びバイパス電流i13の波形を示す図である。高負荷電力時の場合も低負荷電力時と同様に、電源電流i11はほぼ正弦波を有する。すなわち、電源電流i11=負荷電流i12+バイパス電流i13の関係にあり、歪んだバイパス電流i13が負荷電流i12を打ち消し、電源電流i11は常にほぼ正弦波となる。
【0049】
また、実施例1における低負荷電力時及び高負荷電力時における総合高調波ひずみ率とDC電源変動率とを図7に示す。図7は、実施例1における低負荷電力時及び高負荷電力時の総合高調波ひずみ率とDC電源変動率とを示す図である。総合高調波ひずみ率は上述の数式1を用いて算出される。また、DC電源変動率は上述の数式2を用いて算出される。
【0050】
図7に示すとおり、実施例1おいて、低負荷電力時の総合高調波ひずみ率は3.1%、高負荷電力時の総合高調波ひずみ率は5.0%というシミュレーション結果が得られた。これにより、本実施例では高調波成分が改善されていることが分かる。すなわち、各種規格によって、THD−Fは13%以下であることが目標とされるが、上記シミュレーション結果のとおり本実施例では目標値を実現できる。また、DC電源変動率は1.6%であり、実施例1ではDC電源変動率が十分に低い安定した電源電圧を提供できる。以上のとおり、実施例1では、電源高調波及び電源変動率を共に十分に低減させた良好な電力供給装置41を提供できることがシミュレーション結果により確認できる。
【0051】
(5−2−2)他の実施例
他の実施例における各素子のパラメータ例を示す。図8は、他の実施例における各素子のパラメータ例を示す図である。
【0052】
他の実施例における電力供給装置41は、上記の実施例1と各素子のパラメータが異なる以外は実施例1と同じ構成であり、またその動作も同じである。
実施例2では、第1交流リアクトル57(L1)、第2交流リアクトル59(L2)及び第3交流リアクトル61(L3)が、実施例1と比べて10%上昇され、1100μHに設定されている。第1共振リアクトル69(L11)、第2共振リアクトル71(L22)及び第3共振リアクトル73(L3)は、実施例1と同じ1500μHに設定されている。また、第1接続コンデンサ75(C1)、第2接続コンデンサ77(C2)及び第3接続コンデンサ79(C3)は、実施例1と同じ300μFに設定されている。
【0053】
実施例3では、第1交流リアクトル57(L1)、第2交流リアクトル59(L2)及び第3交流リアクトル61(L3)は、実施例1と同じ1000μHに設定されている。第1共振リアクトル69(L11)、第2共振リアクトル71(L22)及び第3共振リアクトル73(L3)は、実施例1と比べて10%上昇され、1650μHに設定されている。また、第1接続コンデンサ75(C1)、第2接続コンデンサ77(C2)及び第3接続コンデンサ79(C3)は、実施例1と同じ300μFに設定されている。
【0054】
実施例4では、第1交流リアクトル57(L1)、第2交流リアクトル59(L2)及び第3交流リアクトル61(L3)は、実施例1と同じ1000μHに設定されている。第1共振リアクトル69(L11)、第2共振リアクトル71(L22)及び第3共振リアクトル73(L3)は、実施例1と同じ1500μHに設定されている。一方、第1接続コンデンサ75(C1)、第2接続コンデンサ77(C2)及び第3接続コンデンサ79(C3)は、実施例1と比べて10%上昇され、330μFに設定されている。
【0055】
実施例5は、実施例1の素子のうちいくつかのパラメータを10%上昇させた例である。
具体的には、第1交流リアクトル57(L1)及び第3交流リアクトル61(L3)は、実施例1と比べて10%上昇されて1100μHに設定され、第2交流リアクトル59(L2)実施例1と同じ1000μHに設定されている。また、第1共振リアクトル69(L11)及び第3共振リアクトル73(L3)は、実施例1と比べて10%上昇されて1650μHに設定され、第2共振リアクトル71(L22)は実施例1と同じ1500μHに設定されている。さらに第1接続コンデンサ75(C1)及び第3接続コンデンサ79(C3)は、実施例1と比べて10%上昇されて330μFに設定され、第2接続コンデンサ77(C2)は実施例1と同じ300μFに設定されている。
【0056】
以上のように各素子のパラメータを設定し、実施例1と同様に、低負荷電力時及び高負荷電力時における電流波形及び総合高調波ひずみ率と電源変動率とを推定した。その結果、実施例2〜5のいずれにおいても、低負荷電力時及び高負荷電力時における電源電流はほぼ正弦波を有するというシミュレーション結果が得られた。また、低負荷電力時及び高負荷電力時における総合高調波ひずみ率は、実施例2〜5のいずれにおいても10%以下という良好な結果を得た。さらにDC電源変動率も、実施例2〜5のいずれにおいても約2%台という良好な結果が得られた。
【0057】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、自動倉庫及び工場を走行する走行車に非接触で電力を供給する非接触給電用電力供給装置に広く適用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 天井搬送車システム
3 レール
5 天井搬送車
11 走行レール
13 給電レール
15 給電線ホルダ
17 一対の給電線
21 走行部
23 受電部
25 搬送車本体部
27 一対のピックアップユニット
29 コア
31 ピックアップコイル
41 電力供給装置
43 三相交流電源
45 整流回路
47 平滑用コンデンサ
49 負荷
51 第1電源ライン
53 第2電源ライン
55 第3電源ライン
57 第1交流リアクトル
59 第2交流リアクトル
61 第3交流リアクトル
63 接続線
64 第1接続線
65 第2接続線
66 第3接続線
67 第4接続線
69 第1共振リアクトル
71 第2共振リアクトル
73 第3共振リアクトル
75 第1接続コンデンサ
77 第2接続コンデンサ
79 第3接続コンデンサ
81 第1結合トランス
83 第2結合トランス
85 第3結合トランス
101 インターベイルート
103 イントラベイルート
105 複数の処理装置
107 ロードポート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電源を直流に変換する整流回路と、
前記三相交流電源と前記整流回路との間を接続する第1〜3電源ラインと、
前記第1〜3電源ラインのそれぞれに直列に挿入された第1〜3交流リアクトルと、
前記第1〜3電源ラインを、前記三相交流電源と第1〜3交流リアクトルとの間で互いに接続する接続線と、
前記接続線に直列に挿入され、前記第1〜3交流リアクトルとトランス結合するようにそれぞれ配置された第1〜3共振リアクトルと、
前記接続線に挿入され、前記第1〜3共振リアクトルの間に配置された第1〜3接続コンデンサと、
を備え、
前記第1〜3共振リアクトルと第1〜3接続コンデンサとは、共振回路を構成し、前記共振回路の共振周波数より低い周波数であってかつ前記三相交流電源の電源周波数の2〜3倍の周波数で共振するようにそれぞれパラメータが設定されている非接触給電用電力供給装置。
【請求項2】
三相交流電源を直流に変換する整流回路と、
前記三相交流電源と前記整流回路との間を接続する第1〜3電源ラインと、
前記第1〜3電源ラインのそれぞれに直列に挿入された第1〜3交流リアクトルと、
前記第1〜3電源ラインを、前記三相交流電源と第1〜3交流リアクトルとの間で互いに接続する接続線と、
前記接続線に直列に挿入され、前記第1〜3交流リアクトルとトランス結合するようにそれぞれ配置された第1〜3共振リアクトルと、
前記接続線に挿入され、前記第1〜3共振リアクトルの間に配置された第1〜3接続コンデンサと、
を備え、
前記第1〜3共振リアクトルと第1〜3接続コンデンサとが、共振回路を構成した非接触給電用電力供給装置において、
前記整流回路から発生した負荷電流に起因して前記第1〜3共振リアクトルに電圧を誘起するステップと、
前記共振回路を前記共振回路の共振周波数より低い周波数であってかつ前記三相交流電源の電源周波数の2〜3倍の周波数で共振させて、前記第1〜3共振リアクトルに流れるバイパス電流によって前記負荷電流を打ち消すステップと、
を備えた電源高調波の低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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