説明

非晶質合金部材、真偽判定装置、非晶質合金部材の作製方法

【課題】容易且つ高精度に真偽を判定することが可能な真偽判定装置、真偽判定装置に用いる非晶質合金部材、及び非晶質合金部材の作製方法を提供する。
【解決手段】少なくとも体積率50%以上100%以下の非晶質相を含む非晶質合金からなり、中心線平均粗さRaが0.1μm以上1000μm以下である凹凸領域が予め形成された非晶質合金部材34であって、同一の金型を用いて作製した非晶質合金部材34毎に、真偽を判定するための基準となる基準特徴情報をメモリ86に予め記憶し、真偽判定対象となる非晶質合金部材34の凹凸領域34Aを読取り、該凹凸領域34Aの特徴を示す判定対象特徴情報と、基準特徴情報と、に基づいて真偽判定対象となる非晶質合金部材34の真偽を判定する。この非晶質合金部材34は、鋳造技術や鍛造技術を用いて作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質合金部材、真偽判定装置、及び非晶質合金部材の作製方法に係り、特に、真偽の判定に適用可能な非晶質合金部材、非晶質合金部材の作製方法、および非晶質合金部材を用いた真偽判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有価証券、各種の権利書、保険証書、住民票、出生証明書、保証書、旅券、銀行券、機密文書等の紙文書や、IDカード等偽造防止技術として、識別符号の印刷と共に、この識別符号の印刷に偽造を困難にするために高度な印刷技術や入手困難な特殊なインクを用いる方法が知られている。
【0003】
また、識別符号を用いずに書類を識別する技術として、紙等の媒体に発色反応を呈する反応体や、紫外線照射によって蛍光色を発する細片、赤外線吸収繊維や細片等を抄紙工程で紙に漉き込むなどすることで、用紙等の媒体にパターンを形成する方法がある(例えば特許技術文献1〜4参照)。その他にも磁性材料を該パターンに付与する方法や、スレッドを用紙中に挿入する方法もある(例えば、特許技術文献5参照)。このように機能性材料等の異物混入技術により、媒体毎に固有のパターンが形成された特殊な用紙を用いることで、偽造防止を図ることができる。
【0004】
また、識別符号と共にシート(用紙)中にパターンを形成する機能性材料を付与することで偽造を防止する方法や(特許技術文献6参照)、赤外吸収インクによって不可視パターンを印刷して偽造防止を図る方法もある(特許技術文献7〜8参照)。
【特許文献1】特開平6−287985号公報
【特許文献2】特開平7−166498号公報
【特許文献3】特開平8−120598号公報
【特許文献4】特開平10−269333号公報
【特許文献5】特開平10−219597号公報
【特許文献6】特開2002−83274号公報
【特許文献7】特開平6−210987号公報
【特許文献8】特開平2002−146254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの技術において、パターンの形成された媒体の真偽を判定する場合には、一般的に、各媒体に形成されたパターンの特徴を示す情報を予め記憶しておき、真偽判定対象となる媒体上のパターンの特徴情報を読み取り、読取り結果と一致する特徴情報が予め記憶した媒体毎の特徴情報の中に存在するか否かを判別することで、真偽判定を行っているが、各媒体の摩耗によるパターンの変化により、真偽判定能が低下する問題があった。
【0006】
また、上記真偽判定方法では、製造者側または媒体供給者側において、媒体毎の固有の特定情報を予め読取り記憶しておく必要があり、個々の媒体を識別するのではなく、単に各媒体の真偽を判定するシステムを構築する場合であっても、製造者側または媒体供給者側では、配布する各媒体の数に応じた固有の特定情報を予め保持しておく必要があった。
【0007】
本発明は上記問題点を解消するためになされたもので、容易且つ高精度に真偽を判定することが可能な真偽判定装置、真偽判定装置に用いる非晶質合金部材、及び非晶質合金部材の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の非晶質合金部材は、表面に中心線平均粗さRaが0.1μm以上1000μm以下である凹凸領域を有し、少なくとも該凹凸領域が体積率50%以上100%以下の非晶質相を有する非晶質合金を含んで構成される。
【0009】
請求項2に記載の非晶質合金部材は、請求項1の非晶質合金部材において、前記凹凸領域の中心線平均粗さRaが0.1μm以上100μm以下である。
【0010】
請求項3に記載の非晶質合金部材は、請求項1または請求項2の非晶質合金部材において、前記非晶質合金は、Zr系非晶質合金、Hf系非晶質合金、Fe系非晶質合金、Co系非晶質合金、Ni系非晶質合金、Ti系非晶質合金、Cu系非晶質合金、Au系非晶質合金、及びLa系非晶質合金から選択される少なくとも1種である。
【0011】
請求項4に記載の非晶質合金部材は、請求項1または請求項2に記載の非晶質合金部材において、前記非晶質合金は、下記一般式(1)〜一般式(7)から選択される少なくとも1種の組成を有する。
【0012】
一般式(1) M100-nTMn
【0013】
一般式(1)において、MはFe、Co、Ni、Cu、Ti、Zr、及びHfのうちの1種または2種以上の元素を表す。TMは、Cr,Mo,Nb,Al,Sn,Bよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を1原子%以上必ず含み、残部が3族、4族、5族、6族、8族、9族、10族、及び11族に属する元素からなる遷移金属元素(但し、Cr、Mo、Nb、及び上記Mに適用した元素を除く)、ならびに13族、14族、及び15族に属する元素からなる典型元素(但し、Al,Sn,Bを除く)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。nは原子%を示し、5≦n≦50である。
【0014】
一般式(2) CupTiqM1100-p-q
【0015】
一般式(2)において、M1は、鉄族に属する元素、白金族に属する元素、貴金属に属する元素、Al、Sn、Zn、Hf、及びZrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。p、qは原子%を示し、50≦p≦65、2≦q≦20である。
【0016】
一般式(3) Ni100-s-t-u Nbs(Zr, Hf)t M2u
【0017】
一般式(3)において、M2は、鉄族に属する元素、白金族に属する元素、貴金属に属する元素、Cu、及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。s、t、uは各々原子%を示し、10≦s≦25、5≦t≦20、5≦u≦25、10≦t+u≦35である。
【0018】
一般式(4) Fe100-x-yM3M4y
【0019】
一般式(4)において、M3は、3族、4族、5族、及び6族に属する元素からなる遷移金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M4は、Mn、Ru、Rh、Pd、Ga、Al、Ge、Si、B、Cのうちの何れか1種または2種以上の元素からなる。x、yは各々原子%を示し、2≦x≦35、5≦y≦30である。
【0020】
一般式(5) (Fe1-z(Co, Ni)z100-x-yM3M4y
【0021】
一般式(5)において、M3は、3族、4族、5族、及び6族に属する元素からなる遷移金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M4は、Mn、Ru、Rh、Pd、Ga、Al、Ge、Si、B、及びCのうちの何れか1種または2種以上の元素からなる。x、y、zは各々原子%を示し、2≦x≦35、5≦y≦30、0.1≦z≦0.7である。
【0022】
一般式(6) (Zr,Hf)aM5bM6c
【0023】
一般式(6)において、M5は、3族に属する元素、5族に属する元素、6族に属する元素、鉄族に属する元素、白金族に属する元素、貴金属に属する元素、Cu、Ti、及びMnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M6は、Be、Zn、Al、Ga、B、C、及びNよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。a、b、cは、各々原子%を示し、30≦a≦70、15≦b≦65、1≦c≦30である。
【0024】
一般式(7) Ti100-i-j-kCuiM7jM8k
【0025】
一般式(7)において、M7は、Zr、Hf、鉄族に属する元素、白金族に属する元素からなる遷移金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M8は、3族に属する元素、5族に属する元素、6族に属する元素、Al、Sn、Ge、Si、B、及びBeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。i、j、kは各々原子%を示し、5≦i≦35、10≦j≦35、1≦k≦20である。
【0026】
請求項5に記載の非晶質合金部材は、請求項1または請求項2に記載の非晶質合金部材において、前記非晶質合金は、下記一般式(8)〜一般式(13)から選択される少なくとも1種の組成を有する。
【0027】
一般式(8) M1a2bLnc3d4e5f
【0028】
一般式(8)中、M1はZr及びHfから選ばれる1種又は2種の元素を示し、M2はNi、Cu、Fe、Co、Mn、Nb、Ti、V、Cr、Zn、Al及びGaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、LnはY、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb及びMm(希土類元素の集合体であるミッシュメタル)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M3はBe、B、C、N及びOよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M4はTa、W及びMoよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M5はAu、Pt、Pd及びAgよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。a、b、c、d、e及びfはそれぞれ原子%で、25≦a≦85、15≦b≦75、0≦c≦30、0≦d≦30、0≦e≦15、0≦f≦15である。
【0029】
一般式(9) Al100-g-h-iLng6h3i
【0030】
一般式(9)中、LnはY、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb及びMmよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M6はTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M3はBe、B、C、N及びOよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、g、h及びiはそれぞれ原子%を示し、30≦g≦90、0<h≦55、0≦i≦10である。
【0031】
一般式(10) Mg100-p7p
【0032】
一般式(10)中、M7はCu、Ni、Sn及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、pは原子%を示し、5≦p≦60である。
【0033】
一般式(11) Mg100-q-r7q8r
【0034】
一般式(11)中、M7はCu、Ni、Sn及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M8はAl、Si及びCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。q及びrはそれぞれ原子%を示し、1≦q≦35、1≦r≦25である。
【0035】
一般式(12) Mg100-q-s7q9s
【0036】
一般式(12)中、M7はCu、Ni、Sn及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M9はY、La、Ce、Nd、Sm及びMmよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。q及びsはそれぞれ原子%を示し、1≦q≦35、3≦s≦25である。
【0037】
一般式(13) Mg100-q-r-s7q8r9s
【0038】
一般式(13)中、M7はCu、Ni、Sn及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、M8はAl、Si及びCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、M9はY、La、Ce、Nd、Sm及びMmよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示す。q、r及びsはそれぞれ原子%を示し、1≦q≦35、1≦r≦25、3≦s≦25である。
【0039】
請求項6に記載の真偽判定装置は、真偽判定基準となる、表面に中心線平均粗さRaが0.1μm以上1000μm以下である凹凸領域を有すると共に少なくとも該凹凸領域が体積率50%以上100%以下の非晶質相を有する非晶質合金を含んで構成される非晶質合金部材の、前記凹凸領域の特徴を示す基準特徴情報を予め記憶する記憶手段と、真偽判定対象となる、表面に中心線平均粗さRaが0.1μm以上1000μm以下である凹凸領域を有すると共に少なくとも該凹凸領域が体積率50%以上100%以下の非晶質相を有する非晶質合金を含んで構成される非晶質合金部材の、前記凹凸領域の特徴を示す判定対象特徴情報を読み取る読取手段と、前記読取手段によって前記判定対象特徴情報が読み取られたときに、該判定対象特徴情報と、前記基準特徴情報と、を比較し、比較結果に基づいて前記真偽判定対象の非晶質合金部材が真であるか否かを判別する判別手段と、を備えている。
【0040】
請求項7に記載の非晶質合金部材の作製方法は、表面に中心線平均粗さRaが0.1μm以上1000μm以下である凹凸形状領域を有する鋳造用金型に、少なくとも体積率50%以上100%以下の非晶質相を有する非晶質合金を作製できる溶湯を少なくとも前記凹凸形状領域に接するように流し込む流込工程と、前記鋳造用金型に流し込まれた溶湯を硬化させる硬化工程と、硬化した溶湯を、非晶質合金部材として前記鋳型から剥離する剥離工程と、を有する。
【0041】
請求項8に記載の非晶質合金部材の作製方法は、請求項7に記載の非晶質合金部材の作製方法において、前記鋳造用金型の前記凹凸形状領域の中心線平均粗さが0.1μm以上100μm以下である。
【0042】
請求項9に記載の非晶質合金部材の作製方法は、表面に中心線平均粗さRaが0.1μm以上1000μm以下である凹凸形状領域を有する鍛造用金型の該凹凸形状領域が形成された領域を、少なくとも体積率50%以上100%以下の非晶質相を有する非晶質合金からなる領域を有し中心線平均粗さRaが0.01μm以下の非晶質合金基板の該非晶質合金からなる領域に対向させた後に、該鍛造用金型により該非晶質合金基板へ圧力を加えて該非晶質合金基板の少なくとも一部を塑性変形することにより非晶質合金部材を作製する塑性加工工程と、を有する。
【0043】
請求項10に記載の非晶質合金部材の作製方法は、請求項9に記載の非晶質合金部材の作製方法おにおいて、前記鍛造用金型の前記凹凸形状領域の中心線平均粗さRaが0.1μm以上100μm以下である。
【発明の効果】
【0044】
上記に示したように、本発明の非晶質合金部材、真偽判定装置、及び非晶質合金部材の作製方法によれば、容易且つ高精度に真偽を判定することが可能な非晶質合金部材、真偽判定装置、及び非晶質合金部材の作製方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明の非晶質合金部材の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る非晶質合金部材34の表面には、中心線平均粗さRa0.1μm以上1000μm以下である凹凸領域34Aが形成されている。なお、「非晶質合金部材の表面」とは、非晶質合金部材34の使用形態における表裏とは関係なく、外界に曝されている部分を示す。
【0046】
この凹凸領域34Aは、微細な凹凸形状によって形成された領域であり、規則的または不規則的な凹部と凸部との配列による凹凸模様によって表される領域である。なお、凹凸領域34Aの偽造防止の観点から、この凹部と凸部の配列は不規則であることが好ましい。
なお、この凹凸領域34Aは、詳細は後述するが、非晶質合金部材の作成方法によって制作者側により意図的に形成される。
【0047】
凹凸領域34Aの中心線平均粗さRaは、0.1μm以上1000μm以下であることが必須であり、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0048】
上記凹凸領域34Aの中心線平均粗さRaが0.1μm未満であると、凹凸領域34Aを構成する凹部と凸部との密度が高くなり、通常の光学系ではその凹凸形状を採取することが困難であるため、この凹凸領域34Aを後述する真偽判定用の領域として用いることが困難となる。対して、凹凸領域の中心線平均粗さRaが1000μmより大きいと、凹凸領域34Aが容易に偽造されやすくなる場合がある。
【0049】
この中心線平均粗さRaは、JIS B 0651の方法に基づき、非晶質合金部材の表面の凹凸領域について、JIS−B−0601に規定される測定長さ4〜80mm、カットオフ値0.8〜8mmで測定した時の中心線平均粗さを三次元表面粗さ測定器(SE−3500、小坂研究所社製)を使用して測定することができる。
【0050】
このように、凹凸領域34Aは、顕微鏡レベルの微細な凹凸によって形成された領域であり、この凸部または凹部の幅はマイクロメートルオーダーと非常に小さく、これを使用者が偽造することは容易ではない。
【0051】
この非晶質合金部材34の少なくとも凹凸領域34Aは、少なくとも体積率50%以上100%以下の非晶質相を含む実質的に非晶質の合金としての非晶質合金を含んで構成されている。
【0052】
なお、本実施の形態では、説明を簡略化するために、非晶質合金部材34が少なくとも体積率50%以上100%以下の非晶質相を含む実質的に非晶質の合金としての非晶質合金から構成されるものとして説明するが、上述のように、少なくとも凹凸領域34Aに非晶質合金が含まれていれば良い。
【0053】
ここで、「非晶質相」とは、合金を形成する相が非晶質単層であることを意味する。非晶質合金が体積率50%未満の非晶質相を含む場合には、非晶質相より結晶質相が体積的に多いことを意味し、合金としては、結晶質合金に近い性質を示すため、非晶質相からなる合金が持つ、優れた特性(例えば、本発明においては、優れた転写性等)を活用できないという問題がある。
【0054】
非晶質合金は、詳細は後述するが、溶湯からの鋳造によっても、またガラス遷移領域を利用した粘性流動による成形加工によっても、容易に非晶質合金部材34を作製することができるとともに、優れた転写性を有し、作製時に用いる金型形状及び寸法を極めて忠実に再現することができる。このため、上記凹凸領域34Aに対応するような表面加工が施された金型を用いて金型鋳造や成形加工を行うことにより、金型の表面状態を微細に渡って忠実に転写することができ、上記凹凸領域34Aの形成された非晶質合金部材34を作製することができる(詳細後述)。
【0055】
本実施の形態に係る非晶質合金部材34を構成する非晶質合金としては、上述のように、少なくとも体積率50%以上100%以下の非晶質相を含む合金であれば全て使用可能であり、特定の材料に限定されるものではないが、具体的には、Zr系非晶質合金、Hf系非晶質合金、Fe系非晶質合金、Co系非晶質合金、Ni系非晶質合金、Ti系非晶質合金、Cu系非晶質合金、Au系非晶質合金、及びLa系非晶質合金から選択される少なくとも1種で有ることが好ましい。
【0056】
さらに、非晶質合金部材34を構成する非晶質合金として、下記一般式(1)〜一般式(7)から選択される少なくとも1種の組成を有する非晶質合金を好適に使用することができる。
【0057】
一般式(1) M100-nTMn
【0058】
一般式(1)において、MはFe、Co、Ni、Cu、Ti、Zr、及びHfのうちの1種または2種以上の元素を表す。TMは、Cr,Mo,Nb,Al,Sn,Bよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を1原子%以上必ず含み、残部が3族、4族、5族、6族、8族、9族、10族、及び11族に属する元素からなる遷移金属元素(但し、Cr、Mo、Nb、及び上記Mに適用した元素を除く)、ならびに13族、14族、及び15族に属する元素からなる典型元素(但し、Al,Sn,Bを除く)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。nは原子%を示し、5≦n≦50である。
【0059】
一般式(2) CupTiqM1100-p-q
【0060】
一般式(2)において、M1は、鉄族に属する元素、白金族に属する元素、貴金属に属する元素、Al、Sn、Zn、Hf、及びZrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。p、qは原子%を示し、50≦p≦65、2≦q≦20である。
【0061】
一般式(3) Ni100-s-t-u Nbs(Zr, Hf)t M2u
【0062】
一般式(3)において、M2は、鉄族に属する元素、白金族に属する元素、貴金属に属する元素、Cu、及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。s、t、uは各々原子%を示し、10≦s≦25、5≦t≦20、5≦u≦25、10≦t+u≦35である。
【0063】
一般式(4) Fe100-x-yM3M4y
【0064】
一般式(4)において、M3は、3族、4族、5族、及び6族に属する元素からなる遷移金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M4は、Mn、Ru、Rh、Pd、Ga、Al、Ge、Si、B、Cのうちの何れか1種または2種以上の元素からなる。x、yは各々原子%を示し、2≦x≦35、5≦y≦30である。
【0065】
一般式(5) (Fe1-z(Co, Ni)z100-x-yM3M4y
【0066】
一般式(5)において、M3は、3族、4族、5族、及び6族に属する元素からなる遷移金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M4は、Mn、Ru、Rh、Pd、Ga、Al、Ge、Si、B、及びCのうちの何れか1種または2種以上の元素からなる。x、y、zは各々原子%を示し、2≦x≦35、5≦y≦30、0.1≦z≦0.7である。
【0067】
一般式(6) (Zr,Hf)aM5bM6c
【0068】
一般式(6)において、M5は、3族に属する元素、5族に属する元素、6族に属する元素、鉄族に属する元素、白金族に属する元素、貴金属に属する元素、Cu、Ti、及びMnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M6は、Be、Zn、Al、Ga、B、C、及びNよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。a、b、cは、各々原子%を示し、30≦a≦70、15≦b≦65、1≦c≦30である。
【0069】
一般式(7) Ti100-i-j-kCuiM7jM8k
【0070】
一般式(7)において、M7は、Zr、Hf、鉄族に属する元素、白金族に属する元素からなる遷移金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M8は、3族に属する元素、5族に属する元素、6族に属する元素、Al、Sn、Ge、Si、B、及びBeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。i、j、kは各々原子%を示し、5≦i≦35、10≦j≦35、1≦k≦20である。
【0071】
上記一般式(1)〜一般式(7)の非晶質合金の内、アモルファス形成能が高く、真偽判定用部材の作製が容易である理由から、上記一般式(1)及び一般式(6)を用いることが好ましい。
【0072】
さらに、非晶質合金としては、アモルファス形成能が高く、強度、硬度等の機械的特性の良好なものを提供する理由から、下記一般式(8)〜一般式(13)の何れか1つで示される組成を有する非晶質合金を好適に用いることができる。
【0073】
一般式(8) M1a2bLnc3d4e5f
【0074】
一般式(8)中、M1はZr及びHfから選ばれる1種又は2種の元素を示し、M2はNi、Cu、Fe、Co、Mn、Nb、Ti、V、Cr、Zn、Al及びGaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、LnはY、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb及びMm(希土類元素の集合体であるミッシュメタル)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M3はBe、B、C、N及びOよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M4はTa、W及びMoよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M5はAu、Pt、Pd及びAgよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。a、b、c、d、e及びfはそれぞれ原子%で、25≦a≦85、15≦b≦75、0≦c≦30、0≦d≦30、0≦e≦15、0≦f≦15である。
【0075】
上記一般式(8)に示す非晶質合金は、下記一般式(8−a)〜(8−p)の非晶質合金を含んでいる。
【0076】
一般式(8−a) M1a2b
【0077】
一般式(8−a)の非晶質合金は、M2元素がZrまたはHfと共存するために、混合エンタルピーが負で大きく、アモルファス形成能が良いという特性を有する。
【0078】
一般式(8−b) M1a2bLnc
【0079】
この非晶質合金のように、上記一般式(8−a)の合金に希土類元素を添加することによりアモルファスの熱的安定性が向上する。
【0080】
一般式(8−c) M1a2b3d
【0081】
一般式(8−d) M1a2bLnc3d
【0082】
これら一般式(8−c)及び一般式(8−d)に示す非晶質合金のように、原子半径の小さな元素M3(Be,B,C,N,O)でアモルファス構造中の隙間を埋めることによって、その構造が安定化し、非晶質合金のアモルファス形成能が向上する。
【0083】
一般式(8−e) M1a2b4e
【0084】
一般式(8−f) M1a2bLnc4e
【0085】
一般式(8−g) M1a2b3d4e
【0086】
一般式(8−h) M1a2bLnc3d4e
【0087】
これら一般式(8−e)〜一般式(8−h)に示す非晶質合金のように、高融点金属M4(Ta,W,Mo)を添加した場合、非晶質合金のアモルファス形成能に影響を与えずに耐熱性、耐食性が向上する。
【0088】
一般式(8−i) M1a2b5f
【0089】
一般式(8−j) M1a2bLnc5f
【0090】
一般式(8−k) M1a2b3d5f
【0091】
一般式(8−l) M1a2bLnc3d5f
【0092】
一般式(8−m) M1a2b4e5f
【0093】
一般式(8−n) M1a2bLnc4e5f
【0094】
一般式(8−o) M1a2b3d4e5f
【0095】
一般式(8−p) M1a2bLnc3d4e5f
【0096】
これらの貴金属M5(Au,Pt,Pd,Ag)を含んだ非晶質合金の場合、結晶化が起きても脆くならないという特性を有する。
【0097】
一般式(9) Al100-g-h-iLng6h3i
【0098】
一般式(9)中、LnはY、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb及びMmよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M6はTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M3はBe、B、C、N及びOよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、g、h及びiはそれぞれ原子%を示し、30≦g≦90、0<h≦55、0≦i≦10である。
【0099】
上記非晶質合金は、下記一般式(9−a)及び(9−b)の非晶質合金を含んでいる。
【0100】
一般式(9−a) Al100-g-hLng6h
【0101】
一般式(9−a)の非晶質合金は、混合エンタルピーが負で大きく、アモルファス形成能が良い。
【0102】
一般式(9−b) Al100-g-h-iLng6h3i
【0103】
一般式(9−b)の非晶質合金においては、原子半径の小さな元素M3(Be,B,C,N,O)でアモルファス構造中の隙間を埋めることによって、その構造が安定化し、アモルファス形成能が向上する。
【0104】
一般式(10) Mg100-p7p
【0105】
一般式(10)中、M7はCu、Ni、Sn及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、pは原子%を示し、5≦p≦60である。
【0106】
一般式(10)の非晶質合金は、混合エンタルピーが負で大きく、アモルファス形成能が良い。
【0107】
一般式(11) Mg100-q-r7q8r
【0108】
一般式(11)中、M7はCu、Ni、Sn及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M8はAl、Si及びCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。q及びrはそれぞれ原子%を示し、1≦q≦35、1≦r≦25である。
【0109】
一般式(11)の非晶質合金のように、前記一般式(10)の合金において原子半径の小さな元素M8(Al,Si,Ca)でアモルファス構造中の隙間を埋めることによって、その構造が安定化し、アモルファス形成能が向上する。
【0110】
一般式(12) Mg100-q-s7q9s
【0111】
一般式(13) Mg100-q-r-s7q8r9s
【0112】
一般式(12)及び一般式(13)中、M7はCu、Ni、Sn及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、M8はAl、Si及びCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、M9はY、La、Ce、Nd、Sm及びMmよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示す。q、r及びsはそれぞれ原子%を示し、1≦q≦35、1≦r≦25、3≦s≦25である。
【0113】
一般式(12)及び一般式(13)の非晶質合金のように、前記一般式(10)及び(11)の合金に希土類元素を添加することによりアモルファスの熱的安定性が向上する。
【0114】
前記した非晶質合金の中でも、非晶質合金のガラス遷移温度(Tg)と、非晶質合金の結晶化温度(Tx)と、の温度差が極めて広いZr−TM−Al系及びHf−TM−Al系(TM:遷移金属)非晶質合金は、高強度、高耐食性を示す。
【0115】
さらに、過冷却液体温度領域ΔTx(ΔTx=Tx−Tg)が30K以上の非晶質合金であると、温度管理幅に余裕があり、成形し易いので好ましい。特に、Zr−TM−Al系非晶質合金は、過冷却液体温度領域ΔTxが60K以上と極めて広く、この過冷却温度領域では粘性流動により数10MPa以下の低応力でも非常に良好な加工性を示す。
【0116】
上記Zr−TM−Al系及びHf−TM−Al系非晶質合金は、合金組成、測定法によっても異なるが、非常に大きなΔTxの範囲を持っている。例えばZr60Al15Co2.5Ni7.5Cu15合金(Tg:652K、Tx:768K)のΔTxは、116Kと極めて広い。
また、一般に非晶質合金の製造には急速な冷却が必要とされるが、上述のようなΔTxが30K以上である非晶質合金は、冷却速度10K/s程度の冷却速度で溶湯から容易に非晶質単相からなるバルク材を得ることができ、非常に安定で製造し易い。また、その凝固表面はやはり極めて平滑であり、金型表面のミクロンオーダーの研磨傷でさえも忠実に再現する転写性を持っている。
【0117】
従って、このようなΔTxの広い非晶質合金を用いれば、金型の表面特性をそのまま忠実に再現することができる。
【0118】
また、上記Zr−TM−Al系及びHf−TM−Al系非晶質合金の硬度は、室温からTg付近までビッカース硬度(Hv)で460(DPN)、引張強度は1,600MPa、曲げ強度は3,000MPaに達する。熱膨張率αは、室温からTg付近まで1×10-5/Kと小さく、ヤング率は、91GPa、圧縮時の弾性限界は、4〜5%を超える。さらに靭性も高く、シャルピー衝撃値で60〜70kJ/m2を示す。このように非常に高強度の特性を示しながら、ガラス遷移領域まで加熱されると、流動応力は10MPa程度まで低下する。
このため上記Zr−TM−Al系及びHf−TM−Al系非晶質合金を用いれば、極めて加工が容易であり、これらの非晶質合金によって構成される非晶質合金部材が低応力で複雑な形状であっても、容易に成形することができる。
【0119】
また、一般に、非晶質合金はガラス遷移領域まで加熱すると長時間の保持によって結晶化が始まるが、上述のようなΔTxの広い合金は、非晶質相が安定であり、ΔTx内の温度を適当に選べば2時間程度までは結晶が発生せず、通常の成形加工においては結晶化を懸念する必要はない。
【0120】
なお、本発明を適用する非晶質合金部材34に用いられる材料としては、前記したような非晶質合金の他、特開平10−186176号、特開平10−311923号、特開平11−104281号、特開平11−189855号等に記載されている非晶質合金など、従来公知の各種非晶質合金を用いることができる。
【0121】
上記凹凸領域34Aの形成された非晶質合金部材34を、上述の非晶質合金を用いて作製する方法としては、鋳造技術や鍛造技術を用いることができる。
【0122】
非晶質合金は、上述のように、高精度の鋳造性及び加工性を有し、且つ金型の形状を微細にわたって忠実に再現できる優れた転写性を有するため、金型を適切に作製することにより、鋳造技術や鍛造技術を用いて、目的とする凹凸領域34Aを有する非晶質合金部材34を単一のプロセスで量産性良く製造することができる。
【0123】
鋳造技術を用いて非晶質合金部材を作製する方法の一例を、具体的に説明する。
【0124】
図2(A)に示すように、鋳造用金型20を用意する。この鋳造用金型20の材料には、その軟化温度Tsが非晶質合金部材34の材料として用いる非晶質合金の結晶化温度Txより十分大きな材料を使用する。例えば、シリコンや石英ガラスの融点は1000℃以上であり、鋳造用金型20として好適に使用できる。
【0125】
鋳造用金型20の内部には、冷却装置を構成する水通路22が形成されている。この水通路22に水が通されることにより、鋳造用金型20の凹部24に形成された非晶質合金部材を冷却することができる。
【0126】
非晶質合金部材34の作製においては、まず、鋳型作製工程として、この鋳造用金型20の凹部24の少なくとも一部の領域に、凹凸形状領域24Aを形成する。この凹凸形状領域24Aの凹凸形状が非晶質合金部材34上に転写されることにより、非晶質合金部材34上に上記凹凸領域34Aが形成される(図2(E)参照)。
【0127】
凹凸形状領域24Aは、上記凹凸領域34Aと同様に、微細な凹凸形状によって形成された領域であり、規則的または不規則的な凹部と凸部との配列による凹凸模様によって表される領域である。また、凹凸領域34Aの中心線平均粗さRaは、0.1μm以上1000μm以下であることが必須であり、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0128】
この凹凸形状領域24Aの形成は、偽造防止の観点から、制作者側が同一環境及び同一条件で凹凸形状領域24Aの形成を行った場合においても、再現することが困難な方法により鋳造用金型20上に形成することが好ましい。
この凹凸形状領域24Aの形成方法としては、上述のように同一環境及び同一条件でも同一形状を作製することが困難な方法であればよく、例えば、鋳造用金型20の凹部24への、プレス等による打痕加工、バイトなどによる切削加工、放電加工、研磨研粒を用いたブラスト加工等を用いることができる。
このため、各凹凸形状領域24Aの形状及び特徴は、凹凸形状領域24Aの形成された鋳造用金型20毎に固有のものとなる。
【0129】
図2(B)に示すように、第2の金型26には、鋳造用金型20の凹部24に対応する凹部としての通孔49が設けられていると共に、通孔49に対してプランジャ39が往復移動可能に設けられている。
【0130】
この鋳造用金型20と第2の金型26とが互いに型締めさると、キャビティ37が構成された状態となる。
【0131】
次に、図2(B)に示す流込工程において、凹凸形状領域24Aの形成された鋳造用金型20に第2の金型26を、鋳造用金型20の凹部24と第2の金型26の凹部としての通孔49とを対向するように重ね合わせた後に、鋳造用金型20と第2の金型26とを型締めする。そして、鋳造用金型20と第2の金型26とにより構成されたキャビティ37に、溶湯28を注湯する。
この溶湯28は、上記非晶質合金を製造するため溶湯であって、前記一般式に示されるような合金成分を調整して溶融することによって調整することができる。
この溶湯28は、第2の金型26に設けられた図示を省略するランナから通孔49に投入される。
【0132】
このときの非晶質合金の溶湯28の温度は、非晶質合金部材として構成する非晶質合金の融点(Tm)以上であることが必須であり、好ましくは融点(Tm)+100℃以上であることが好ましい。
【0133】
なお、注湯する前に、溶湯28に常法に従い清浄化処理を行ってもよい。清浄化処理には、溶湯中の水素等の不要ガスを除去するために、フラックス処理、アルゴンガス、塩素ガス等を用いる脱ガス処理、セラミックチューブフィルタ、セラミックフォームフィルタ等のいわゆるリジッドメディアフィルタや、アルミナフレーク、アルミナボール等をろ材とするフィルタや、グラスクロスフィルタ等を用いるフィルタリング処理、あるいは、脱ガス処理とフィルタリング処理を組み合わせた処理が行われる。
これらの清浄化処理は、溶湯中の非金属介在物、酸化物等の異物による欠陥や、溶湯に溶け込んだガスによる欠陥を防ぐために実施されることが好ましい。溶湯のフィルタリングに関しては、特開平6−57432号、特開平3−162530号、特開平5−140659号、特開平4−231425号、特開平4−276031号、特開平5−311261号、特開平6−136466号の各公報等に記載されている。また、溶湯の脱ガスに関しては、特開平5−51659号公報、実開平5−49148号公報等に記載されている。
【0134】
次に、図2(C)に示す硬化工程において、転写性を向上させるために、プランジャ39を鋳造用金型20の凹部24方向へと移動させることにより、注湯された溶湯28に圧力(鋳造圧力)を加える。このときの鋳造圧力は、真偽判定用部材を成形可能となるような圧力であればよく、例えば、数十MPaである。このとき、プランジャ39の凹部24の位置する方向の先端部は、溶湯28に接触しない位置で止められる。この加圧状態で、水通路22に水を流すことにより、溶湯28を冷却することで、溶湯28を冷却して硬化させる。
【0135】
このときの冷却速度は、300℃/秒以上10000000℃/秒以下の範囲内であることが好ましい。300℃/秒未満であると粗大な金属間化合物が多数形成されることがある。10000000℃/秒より速いと、理論的には非晶質合金を得ることは可能ではあるが、一般的な工業的手法からは得られない冷却速度である場合がある。
【0136】
なお、溶湯の酸化を防ぐために、図2(C)の硬化工程では、Ar、He等の不活性ガス雰囲気中、または、真空雰囲気中で行う事が好ましい。このときの真空条件は、10−1torr以下の真空条件下であることが好ましい。
【0137】
最後に、図2(D)に示す剥離工程において、プランジャ39を動かしながら鋳造用金型20と第2の金型26とを互いに型開きする。これにより、図2(E)に示すように、冷却により硬化した溶湯28、すなわち非晶質合金により構成され、且つ凹凸形状領域24Aが転写されて凹凸領域34Aの形成された非晶質合金部材34を作製することができる。
【0138】
すなわち、作製された非晶質合金部材34の少なくとも一部領域には、鋳造用金型20に形成された凹凸形状領域24Aの凹部に対応する凸部、及び凹凸形状領域24Aの凸部に対応する凹部の転写された凹凸領域34Aが形成された状態となる。
【0139】
ここで、上述のように、非晶質合金部材34を構成する非晶質合金は、金属でありながら、酸化物ガラスのように安定な非晶質(アモルファス)であり、高温で容易に変形(粘性流動)する。このため、図3(a)に示す結晶合金の断面モデル図、及び図3(b)に示す非晶質合金の断面モデル図に示すように、非晶質合金は、結晶合金に比べて、原子配列がランダムであるために、結晶合金に存在する特定の滑り面がなく、機械的強度に優れるとともに、鋳造用金型20の凹凸形状領域24Aの細かな凹凸形状を良好に再現するという良好な転写性を有する。
【0140】
このため、凹凸領域34Aを有する非晶質合金部材34の良好な耐久性を得ることができるとともに、鋳造用金型20の凹凸形状領域24Aを微細に渡って正確に転写することができる。
また、非晶質合金には、過冷却液体領域が存在するために凝固収縮を考慮する必要がなく、またアモルファスであるため表面が滑らかになる。このため、鋳造用金型20の凹凸形状領域24Aの表面状態を高精度に再現することができる。
【0141】
なお、上記では、鋳造において、固体鋳型を用いる場合を説明したが、連続鋳造法に代表される駆動鋳型を用いてもよい。
連続鋳造法としては、単ロール法、双ロール法(ハンター法)、3C法に代表される冷却ロールを用いる方法、双ベルト法(ハズレー法)、アルスイスキャスターII型に代表される冷却ベルトや冷却ブロックを用いる方法が挙げられる。
【0142】
これらの連続鋳造法を用いる場合についても、固体鋳造を用いる場合と同様にして鋳造を行うことにより、凹凸領域34Aの形成された非晶質合金部材34を作製することができる。
【0143】
次に、鍛造技術を用いて非晶質合金部材を作製する方法の一例を説明する。
鍛造技術としては、鍛造用金型を用いる型鍛造方法を用いることができ、素材の変形抵抗を減少させるために再結晶温度以上の高温に加熱して成型する熱間鍛造、再結晶温度以下の常温で成型する冷間鍛造、及び半凝固状態で加圧する溶湯鍛造の何れを用いても良い。
【0144】
鍛造技術により非晶質合金部材を作製する場合についても、上記鋳造技術により非晶性合金部材を作製する場合と同様に、凹凸形状領域24Aの形成された鍛造用金型を用いる作製ようにすればよい。
【0145】
熱間鍛造を用いた鍛造技術としては、具体的には、まず、図4(A)に示すように、まず鍛造用金型60を用意する。この鍛造用金型が60の材料には、上記鋳造用金型20と同様に、その軟化温度Tsが非晶質合金部材34の材料として用いる非晶質合金の結晶化温度Txより十分大きな材料を使用する。例えば、シリコンや石英ガラスの融点は1000℃以上であり、鍛造用金型60として好適に使用できる。
【0146】
次に、図4(B)に示す金型作製工程として、この鍛造用金型60の表面に、凹凸形状領域60Aを形成する。この凹凸形状領域60Aの凹凸形状が非晶質合金部材34上に転写されることにより非晶質合金部材34上に上記凹凸領域34Aが形成される。
【0147】
凹凸形状領域60Aは、上記凹凸領域34A及び上記凹凸形状領域24Aと同様に、微細な凹凸形状によって形成された領域であり、規則的または不規則的な凹部と凸部との配列による凹凸模様によって表される領域である。また、凹凸形状領域60Aの中心線平均粗さRaは、0.1μm以上1000μmであることが必須であり、0.1μm以上100μmであることが好ましい。
【0148】
この凹凸形状領域60Aの形成においても、凹凸形状領域24Aと同様に、偽造防止の観点から、制作者側が同一環境及び同一条件で凹凸形状領域60Aの形成を行った場合においても再現することが困難な方法により鍛造用金型60上に形成することが好ましい。
この凹凸形状領域60Aの形成方法としては、上記凹凸形状領域24Aと同様に、上述のように同一環境及び同一条件でも同一形状を作製することが困難な方法であればよく、例えば、鍛造用金型60表面への、プレス等による打痕加工、バイト等による切削加工、放電加工、研磨研粒を用いたブラスト加工等を用いることができる。
このため、各凹凸形状領域60Aの形状及び特徴は、凹凸形状領域60Aの形成された鍛造用金型60毎に固有のものとなる。
【0149】
次に、上記非晶質合金からなる非晶質合金基板35を用意する。この非晶質合金基板35は、少なくとも凹凸領域を形成する対象となる領域の中心線平均粗さRaを0.01μm以下になるように加工されたものである。
このような非晶質合金基板35は、上記図2を用いて説明した非晶質合金部材34の作製において、鋳造用金型20として、凹部24全領域を中心線平均粗さRaが0.01μm以下となるように鏡面加工された鋳造用金型を用意し、この鋳造用金型を用いて上記鋳造技術と同様にして鋳造を行うことにより作製することができる。
【0150】
次に、図4(C)に示す塑性加工工程として、鍛造用金型60の凹凸形状領域60Aの形成された領域を、上記用意した非晶質合金基板35の中心線平均粗さRaを0.01μm以下に加工された領域に対向させる。
【0151】
さらに、熱感鍛造の場合には、非晶質合金の酸化を抑制するために真空中またはAr等の不活性ガス中で、非晶質合金基板35の少なくとも鍛造用金型60との対向領域表面の温度が該非晶質合金基板35を構成する非晶質合金のガラス転移点Tg以上となるように非晶質合金基板35を加熱する。この加熱方法としては、高周波数加熱ヒータ等を用いて行うようにすればよい。
この非晶質合金基板35の加熱と同時に、鍛造用金型60を、非晶質合金基板35を構成する非晶質合金の過冷却液体温度領域ΔTx(ΔTx(過冷却液体温度領域)=Tx(非晶質合金の結晶化温度)−Tg(ガラス転移点))に加熱することが好ましい。
この状態で、鍛造用金型60により非晶質合金基板35へ一定の圧力を所定時間加える。
【0152】
この一定の圧力とは、過冷却液体状態にある非晶質合金基板の表面に塑性変形を可能となるような圧力であればよく、非晶質合金基板35を構成する非晶質合金の種類により定まる。また、この所定時間とは、上記一定の圧力を加えられることにより鍛造用金型60上の凹凸形状領域60Aが非晶質合金基板35表面に転写されうる時間であればよく、非晶質合金基板35を構成する材料の過冷却液体温度領域の大きさ等により定まる。
【0153】
上記塑性加工工程を経ることにより、非晶質合金基板35の表面には、鍛造用金型60の凹凸形状領域60Aが転写されて、図4(D)に示すように、凹凸領域34Aの形成された非晶質合金部材34を作製することができる。
【0154】
上述のように、非晶質合金部材34を構成する非晶質合金は、良好な転写性を有することから、鍛造技術を用いることにより、鍛造用金型60の凹凸形状領域60Aを微細に渡って正確に転写した凹凸領域34Aを有する非晶質合金部材34を作製することができる。
【0155】
なお、熱間鍛造を用いて非晶質合金部材34を作製する場合には、非晶質合金部材を構成する非晶質合金は、過冷却液体温度領域ΔTxが30K以上の非晶質合金であることが、温度管理幅に余裕があり、成形し易いので好ましい。このような特性を有する非晶質合金としては、アモルファス形成能が優れているという理由から、特に、前記一般式(8)で示される組成を有する非晶質合金を用いることが好ましい。
【0156】
なお、再結晶温度以下の常温で成型する冷間鍛造により非晶質合金部材34を作製する場合には、上記塑性加工工程において、非晶質合金基板35を加熱せずに常温下で、且つ鍛造用金型60についても常温下で、鍛造用金型60により非晶質合金基板35へ一定の圧力を所定時間加えればよい。
なお、冷間鍛造における圧力レベル及び圧力時間は、塑性変形可能となるように調整すればよい。
【0157】
また、半凝固状態で加圧する溶湯鍛造により非晶質合金部材34を作製する場合には、アモルファス形成能に優れた材料選定を行い、材料の結晶化が進まないような時間管理を厳密に行えばよい。
【0158】
非晶質合金部材34を構成する材料は非晶質合金であることから転写性に優れ、上述のような中心線平均粗さRaが0.1μm〜1000μm以下である微細な凹凸形状の転写も高精度で達成でき、鋳造用金型20及び鍛造用金型60に形成した凹凸形状領域の転写を精度良く行うことができる。
このため、同一の鋳造用金型20または鍛造用金型60を用いれば、製造者側は、金型(鋳造用金型20、及び鍛造用金型60)毎に、同一の特徴を有する凹凸領域34Aの形成された非晶質合金部材34を量産することができる。
【0159】
なお、凹凸領域34Aの形成された非晶質合金部材34表面の耐磨耗性を向上させるために、表面にセラミック系硬化膜を形成してもよい。
【0160】
この硬化膜の形成は、例えば、下記方法により形成することができる。
上記鋳造技術や鍛造技術により作製した非晶質合金部材34を、酸素または窒素を含む雰囲気下において、その非晶質合金部材34を構成する材料の等温変態曲線(TTT曲線)のアモルファス領域内の温度及び時間で熱処理することにより、上記非晶質合金部材34の表面に、非晶質合金部材34を構成する少なくとも一種の構成元素のセラミック化により形成された酸化物及び窒化物の何れか一方または双方からなるセラミック成分を主体とするセラミック系硬質層を硬化膜として形成することができる。
【0161】
このように熱処理法により硬化膜を形成するので、簡易な装置を用いて非晶質合金部材34に一体的に強固な硬質膜を形成することができ、凹凸領域34Aを保護することができる。
【0162】
なお、上記熱処理は、1ppm以上の酸素又は/及び窒素を含む雰囲気下又は大気雰囲気下で、非晶質相を維持して表面に硬質膜を形成する理由から、以下(1)から(4)に示した熱処理温度及び熱処理時間の範囲内の何れかで行うことが好ましい。(1)熱処理温度350℃、熱処理時間10分、(2)熱処理温度350℃、熱処理時間120分、(3)熱処理温度420℃、熱処理時間120分、(4)熱処理温度450℃、熱処理時間10分。
【0163】
これらの(1)〜(4)の熱処理温度及び熱処理時間の何れを用いるかは、非晶質合金の過冷却液体温度領域の大きさ、酸化、窒化のされやすさ等により定まり、作業効率等を考慮することにより選択される。
【0164】
このようにして形成されたセラミック系硬質層、例えばジルコニア膜は透明であることから、後述する真偽判定装置による凹凸領域34Aの読取り結果には、なんら影響を与えない。光源波長に対し不透明であるようなセラミック系硬質層が形成された場合であっても、この硬質層は、非晶質合金部材34を構成する少なくとも一種の構成元素のセラミック化による層であるため、非晶質合金部材34上に別途硬質膜をコーティングする場合とは異なり、凹凸領域34Aの中心線平均粗さRaが熱処理前後で変化することはほとんど無い。
このため、非晶質合金部材34上に形成された凹凸領域34Aを、硬質膜を形成しない場合に比べてさらに摩耗から保護することができる。
【0165】
次に上記非晶質合金部材34を用いた真偽判定装置10について説明する。
【0166】
図5に示すように、本実施の形態に係る真偽判定装置10は、非晶質合金部材34(図1参照)表面の凹凸領域34Aの特徴を読み取るための読取部14、入力部16、判定部18、及び表示部19を含んで構成されている。判定部18は、制御部82と、メモリ86と、を含んで構成されている。
【0167】
読取部14、入力部16、メモリ86、及び表示部19は、制御部82と信号授受可能に接続されている。
【0168】
なお、上記読取部14、入力部16、判定部18、及び表示部19は、一体的に構成されていてもよいし、物理的に異なる装置として構成され、ケーブル等により互いに信号授受可能に接続された構成であってもよい。
【0169】
入力部16は、各種情報を入力するときにユーザによって操作指示される。具体的には、非晶質合金部材34が読取部14の近傍に位置または接触された後に、ユーザが非晶質合金部材34上の凹凸領域34Aの特徴を読み取るための読取指示を行うときに操作指示されるものである。この入力部16は、キーボードであってもよいし、オペレータにより指先で操作されるスイッチであってもよい。
【0170】
表示部19は、各種情報を表示するためのものである。表示部19としては、液晶モニタ、CRT等の表示装置を用いることができる。
【0171】
判定部18は、読取部14による読取結果に基づいて凹凸領域34Aの形成された非晶質合金部材34の真偽(本物であるか、または偽物であるか)を判定する。制御部82は、CPU(中央処理装置)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)がバスを介してデータやコマンドの授受を可能に接続されたマイクロコンピュータを含んで構成されており、真偽判定装置10に設けられた各種デバイスを制御する。
【0172】
メモリ86は、基準となる非晶質合金部材34上の凹凸領域34Aの特徴を示す情報を示す基準特徴情報、後述する真偽判定プログラム、基準特徴情報登録プログラム、及び各種データを記憶する。
なお、この真偽判定プログラムは、真偽判定装置10において真偽判定を行うためのプログラムである。また、この基準特徴情報登録プログラムは、基準登録情報の登録時に実行されるプログラムである。
【0173】
読取部14は、図6に示すように、非晶質合金部材34の凹凸領域34Aに対して光を照射する照明部30と、照明部30により照射された光の非晶質合金部材34からの反射光を受光する受光部32とを含んで構成されており、照明部30により非晶質合金部材34に光を照射し、その反射光を受光部32により受光することで、非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの特徴を示す特徴情報を読み取るものである。
【0174】
読取部14は、略L字型に形成されており、その長辺側は、オペレータにより把持されるハンドル部40とされており、短辺側には、その端面を読取面42とするように、照明部30及び受光部32が埋め込まれている。オペレータは、ハンドル部40を把持して、読取面42を非晶質合金部材34表面の凹凸領域34Aに押し当てる。このように読取面42を凹凸領域34Aに押し当てることにより、読取部14全体が光学的に閉じられた状態となり、非晶質合金部材34表面の凹凸領域34Aの表面状態を外乱光の影響を受けることなく凹凸領域34Aの特徴を読み取ることができる。
【0175】
照明部30は、図7に示すように、光を出力する光源30Bと、光源30Bから出力された光を読取面42方向へと案内して読取面42が接触された非晶質合金部材34表面上の凹凸領域34Aへ照射する光導波路光学系30Aと、を含んで構成されている。光源30Bには、例えば、LED、ハロゲンランプ、蛍光灯、キセノン放電管などを用いることができる。また、光導波路光学系30Aの代わりに、非晶質合金部材34の表面に光を集める集光レンズを用いることもできる。また、周囲光の影響を受けないように、遮光板を設けてもよい。
【0176】
受光部32は、撮像素子32Bと、照明部30により照射された照明光の非晶質合金部材34表面からの反射光を撮像素子32Bの受光面に結像させるレンズユニット32Aと、を含んで構成されている。撮像素子32Bには、CMOS或いはCCDを用いることができ、各非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの特徴は、凹凸領域34Aの表面状態を示す濃淡情報として取得されることになる。
【0177】
本実施の形態では、撮像素子32Bによる読取解像度を400dpiとし、読取部14による読取りの階調を8ビットグレイスケールであるものとして説明する。なお、この読取解像度及び読取りの階調は、このような値に限られるものではない。
【0178】
次に、真偽判定装置10の制御部82で実行される処理を説明する。
【0179】
まず、判定対象となる非晶質合金部材34の真偽を判定する前に、上述のように、本物の、すなわち基準となる非晶質合金部材34上の凹凸領域34Aの特徴を示す基準特徴情報を予めメモリ86に記憶する必要がある。
【0180】
まず、この基準登録情報をメモリ86に記憶するときに、制御部82で実行される処理を説明する。
【0181】
制御部82では、所定時間毎に、図8に示す処理ルーチンが実行されてステップ100へ進む。
【0182】
ステップ100では、基準特徴情報の登録指示を示す基準特徴情報登録指示信号が入力されたか否かを判断し、否定されると本ルーチンを終了する。
【0183】
ステップ100の判断は、入力部16から基準特徴情報登録指示信号が入力されたか否かを判別することによって判断することができる。この基準特徴情報登録指示信号の制御部82への入力は、ユーザによりハンドル部40が挟持されて真偽判定基準となる非晶質合金部材34の凹凸領域34Aに読取面42を押し当てて接触させると共に、ユーザによる入力部16の操作によって、基準特徴情報の登録を指示するための予め定められた位置のキーが操作または予め定められた位置キーが予め定められた回数操作されたときに、入力部16から制御部82へ基準登録情報登録指示信号が出力されるようにすればよい。
【0184】
なお、この読取面42が非晶質合金部材34の表面に押し当てたか否かは、例えば、読取面42にセンサを設けるようにし、このセンサを制御部82に信号授受可能に接続してこのセンサからの入力信号を判別すればよい。
【0185】
上記ステップ100で肯定されると、メモリ86から基準特徴情報登録プログラムが読み出されてステップ102へ進む。この読み出された基準特徴情報登録プログラムが制御部82で実行されることにより、基準登録情報のメモリ86への登録処理が行われる。なお、この基準登録情報登録プログラムは、下記のステップ102からステップ104の処理に相当する。
【0186】
ステップ102では、非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの特徴を示す基準特徴情報として、真偽判定基準となる非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの内の予め定められたサイズの基準領域50(図9(A)参照)を読み取る。
【0187】
この基準領域50は、非晶質合金部材34上の任意の位置の領域であって、凹凸領域34Aより狭い予め定められたサイズの領域である。本実施の形態では、32×32ドットの領域であるものとして説明する。
【0188】
本実施の形態では、撮像素子32Bによる読取解像度を400dpiとし、読取部14による読取りの階調を8ビットグレイスケールであり、且つ上記基準領域50を凹凸領域34A上の32×32ドット(約2mm×約2mm)の広さの領域としているので、基準特徴情報のデータサイズは1024バイトとなり、個々の画素(ドット)の階調値(明度値)は0〜255の範囲内の整数値となる。
【0189】
ステップ102の処理によって、図9(A)に示すように、真偽判定基準となる非晶質合金部材34の凹凸領域34A内の基準領域50の表面状態を示す濃淡情報が、真偽判定基準となる非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの特徴を示す基準特徴情報として読み取られる。
【0190】
上記ステップ102の凹凸領域34A内の基準領域50の読取りによって得られた基準特徴情報に基づき、この基準特徴情報が表す画像(以下、基準画像と称する)を可視化(目視が容易なようにコントラスト補正)した基準画像の一例を図10(A)に示す。
【0191】
なお、本実施の形態では、基準領域50の大きさは32×32ドットであるとして説明するが、このような値に限られるものではなく、一般に基準領域50及び判定対象となる非晶質合金部材34上の凹凸領域34A上の読取り領域としての照合領域52(詳細後述)のサイズが大きくなるに従って真偽判定の判定精度は向上する。
【0192】
次のステップ104では、上記ステップ102で読み取った基準特徴情報を、メモリ86に記憶した後に、本ルーチンを終了する。
【0193】
上記非晶質合金部材34の作製方法で説明したように、同一の金型(鋳造用金型20、鍛造用金型60)を用いて作製した非晶質合金部材34には、同一の金型に応じた凹凸領域34Aが形成されていることから、同一の金型で作製した複数の非晶質合金部材34の1つを真偽判定基準となる非晶質合金部材34として定め、上記図8に示す処理ルーチンを実行すればよい。
このようにすれば、同一の金型を用いて作製した非晶質合金部材34毎に、真偽を判定するための基準となる基準特徴情報をメモリ86に記憶することができる。
【0194】
次に、真偽判定対象となる非晶質合金部材34の真偽判定について説明する。
【0195】
制御部82では、所定時間毎に図11に示す処理ルーチンが実行されて、ステップ200へ進み、真偽判定指示を示す真偽判定指示信号が入力されたか否かを判断し、否定されると本ルーチンを終了する。
【0196】
ステップ200の判断は、入力部16から真偽判定指示信号が入力されたか否かを判別することによって判断することができる。この真偽判定指示信号の制御部82への入力は、ユーザによりハンドル部40が挟持されて真偽判定対象となる非晶質合金部材34の凹凸領域34Aに読取面42を押し当てて接触させると共に、ユーザによる入力部16の操作によって、真偽判定の実行を指示するための予め定められた位置のキーが操作または予め定められた位置キーが予め定められた回数操作されたときに、入力部16から制御部82へ真偽判定指示信号が出力されるようにすればよい。
【0197】
上記ステップ200で肯定されると、メモリ86から真偽判定プログラムが読み出されてステップ204へ進む。この読み出された真偽判定プログラムが制御部82で実行されることにより、制御部82において真偽判定処理が行われる。なお、この真偽判定プログラムは、下記のステップ204からステップ226の処理に相当する。
【0198】
次のステップ204では、真偽判定対象となる非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの特徴を示す判定対象特徴情報として、真偽判定対象の非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの内の予め定められた大きさの照合領域52(図9(B)参照)を読み取る。
【0199】
図9(B)に示すように、この照合領域52は、非晶質合金部材34上の任意の位置の領域であって、凹凸領域34Aより小さいサイズであり、且つ上記基準領域50より大きいサイズの領域である。
例えば、上記基準領域50として32×32ドット(約2mm×2mm)の領域を定める場合には、図9(B)に示すように、基準領域50より大きく、且つ基準領域50を含む領域を照合領域(例えば、64×64ドット(約4mm×4mm))52として読み取る。
【0200】
ステップ204の処理によって、図9(B)に示すように、真偽判定対象となる非晶質合金部材34の凹凸領域34A内の照合領域52内の表面状態を示す濃淡情報が、真偽判定対象となる非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの特徴を示す判定対象特徴情報として読み取られる。
【0201】
上記ステップ204の凹凸領域34A内の基準領域50の読取りによって得られた判定対象特徴情報に基づき、この判定対象特徴情報が表す画像(以下、照合画像と称する)を可視化(目視が容易なようにコントラスト補正)した照合画像の一例を図10(B)に示す。
【0202】
次のステップ208では、照合領域52内におけるデータ取出位置(演算対象領域の位置)を初期化する。
本実施形態に係る真偽判定処理では、詳細は後述するが、照合領域52のデータから基準領域50と同サイズの領域(演算対象領域)に相当するデータを取り出し、該データとメモリ86に記憶されている基準特徴情報との相関値を演算することを、演算対象領域の位置を移動させながら繰り返す。このため、ステップ208では照合領域内におけるデータ取出位置(演算対象領域の位置)を初期化する。
【0203】
次のステップ210では、照合領域52のデータとしての判定対象特徴情報から、設定したデータ取出位置に位置している基準領域50と同サイズの領域のデータ(以下、照合データと称する)を取り出す。
【0204】
次のステップ212では下記(1)式に従い、メモリ86に記憶されている基準特徴情報と、上記ステップ210で抽出した照合データとの相関値を正規化相関法により演算し、演算によって得られた相関値をメモリ86に記憶する。
【0205】
【数1】

【0206】
但し、Fは基準画像(基準特徴情報の集合)、fiは基準画像の個々の画素の明度値、Nは基準画像(及び照合画像の部分領域)の総画素数、Gは照合画像の部分領域(の集合)、giは照合画像の部分領域の個々の画素の明度値、fAVEは基準画像の個々の画素の明度値の平均値、gAVEは照合画像の部分領域の個々の画素の明度値の平均値である。
【0207】
次のステップ214では、演算対象領域が照合領域52の全面をスキャンしたか否か判断する。ステップ214で否定された場合はステップ216へ移行し、データ取り出し位置を1ドットだけ縦方向または横方向に移動させた後にステップ210に戻る。
【0208】
すなわち、ステップ214の判断が肯定されるまで、ステップ210からステップ216の処理が繰り返される。
このように、照合領域52内で基準領域50と同サイズの領域を1ドットずつ移動させて、各移動毎に基準領域50と同サイズの照合データ各々について、上記の演算を行うことにより、基準画像のドット数をm×n、照合画像のドット数をM×Nとすると、単一の照合画像当たり(M―m+1)×(N−n+1)個の相関値が得られる。
本実施形態では基準領域50が32×32ドット、照合領域52が64×64ドットであるので、相関値の演算が(64−32+1)×(64−32+1)=1089回行われ、1089個の相関値が得られることになる。
【0209】
上記ステップ214の判断が肯定されると、ステップ218へ進み、上記ステップ208からステップ214の処理が行われることによって得られた多数個の相関値の中からその最大値を抽出する。
【0210】
次のステップ220では、上記ステップ200からステップ214の処理が行われることによって得られた多数個の相関値の分布具合を表す特徴量として、上記ステップ218で抽出した最大値のノーマライズド・スコアを下記(2)式に従って演算する。
【0211】
ノーマライズド・スコア=(相関値の最大値−相関値の平均値)÷相関値の標準偏差 …(2)
【0212】
次のステップ222では、ステップ218で求めた相関値の最大値が閾値以上で、かつステップ220で演算したノーマライズド・スコアが閾値以上か否か判定する。
【0213】
ここで、本発明者らによる特開2005−038389の技術に示されるように、同一の非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの基準領域50を含む照合領域52を、位置及び向きのずれなく読み取った場合には、相関値の最大値は非常に高い値を示す。また、相関値の分布も、相関値が最大となっているピーク部分以外の部分では、最大値に比して相関値が非常に低い値を示し、これに伴い相関値の最大値のノーマライズド・スコアも非常に高い値を示す。
異なる表面形状の凹凸領域34Aを読み取った場合には、相関値の最大値は非常に低い値となり、相関値の分布についても、ピーク部分を含めて全体的に相関値が低い値を示し、相関値の最大値のノーマライズド・スコアも非常に低い値となる。
【0214】
一方、同一の非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの基準領域50を含む照合領域52を位置及び向きを若干変えて読み取った場合、相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアは、何れも同一の非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの基準領域50を含む照合領域52を、位置及び向きのずれなく読み取った場合と、異なる表面形状の凹凸領域34Aの基準領域50を含む照合領域52を読み取った場合と、の中間的な値になる。
【0215】
真偽判定における誤判定には、真物を偽物と誤判定する場合と偽物を真物と誤判定する場合がある(なお、真物を偽物と誤判定する確率はFRR(:False Rejection Rate)と称し、偽物を真物と誤判定する確率はFAR(:False Acceptance Rate)と称する)。
本実施の形態の真偽判定装置では、これらFRR及びFARを低減するために、真偽判定のための閾値として、相関値の最大値の閾値及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアの閾値各々を、同一の非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの基準領域50を含む照合領域52を位置及び向きのずれなく読み取った場合と、異なる表面形状の凹凸領域34Aの基準領域50を含む照合領域52を読み取った場合と、の中間値に定める。
この閾値は、予めメモリ86に記憶すればよい。
【0216】
なお、複数の基準特徴情報が記憶される場合には、各基準特徴情報に対応づけて、予め測定した上記相関値の最大値の閾値、及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアの閾値各々を、メモリ86に記憶するようにし、ステップ222の判断時に、上記ステップ212で演算するときに用いた基準特徴情報に対応する閾値を読み取るようにすればよい。
【0217】
このように、ステップ222の処理において、相関値の最大値を閾値と比較すると共に相関値の最大値のノーマライズド・スコアを閾値と比較することで真偽判定を行うので、真偽判定対象となる非晶質合金部材34上の凹凸領域34A読み取り時における、読取部14による読取り位置及び向きが、基準領域50読取り時の位置及び向きと若干ずれている等のように真物が偽物と誤判定される確率が高いケースにおいて、相関値の最大値のみを用いて判定を行う場合よりも、真偽判定の判定精度を向上させることができる。
【0218】
ステップ224で肯定されると、真偽判定対象の非晶質合金部材34は「真物」であることを表すメッセージを表示部19に表示した後に本ルーチンを終了する。
【0219】
一方、上記ステップ224で否定されると、真偽判定対象の非晶質合金部材34は「偽物」であることを表すメッセージを表示部19に表示した後に、本ルーチンを終了する。
【0220】
以上説明したように、本実施の形態の真偽判定装置10によれば、同一の金型を用いて作製した非晶質合金部材34毎に、真偽を判定するための基準となる基準特徴情報をメモリ86に予め記憶し、真偽判定対象となる非晶質合金部材34の凹凸領域34Aを読取り、該凹凸領域34Aの特徴を示す判定対象特徴情報と、基準特徴情報と、に基づいて真偽判定対象となる非晶質合金部材34の真偽を判定する。
【0221】
このため、従来技術では、個々の媒体表面の特徴を示す情報を予め登録し、真偽判定時には、真偽判定対象となる媒体上の特徴情報を読み取り、読取り結果と一致する特徴情報が予め記憶した媒体毎の特徴情報の中に存在するか否かを判別することで、真偽判定を行っていたが、本実施の形態の真偽判定装置10では、同一の金型(鋳造用金型20、鍛造用金型60)を用いて作製した複数の非晶質合金部材34の内の1つの非晶質合金部材34を真偽判定の基準となる非晶質合金部材34とし、この非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの特徴を示す基準特徴情報を予め記憶すればよい。
【0222】
このように、真偽判定装置10によれば、同一の金型から作製した複数の非晶質合金部材34の内の1つを、真偽判定の基準となる非晶質合金部材として、この非晶質合金部材の凹凸領域の特徴を示す情報を基準特徴情報として予め記憶すればよいので、従来技術に比べて真偽判定におけるデータ登録処理の煩雑化を抑制することができると共にデータ管理の簡易化を図ることができる。
従って、簡易な構成で容易に真偽を判定することができる。
【0223】
また、真偽判定装置10によれば、非晶質合金からなる非晶質合金部材34を用いて真偽判定を行う。非晶質合金部材34は、転写性の良い非晶質合金から構成されることから、非晶質合金部材34上の凹凸領域34Aは、鋳造用金型20の凹凸形状領域24Aまたは鍛造用金型60の凹凸形状領域60Aを忠実に細部にわたって転写することにより形成された領域であるので、同一の鋳造用金型20または鍛造用金型60から作製された非晶質合金部材34は、同一形状及び特徴の凹凸領域34Aを有している。
このため、製造時のバラツキにより同一の金型から作製した非晶質合金部材34の凹凸領域34Aの形状にバラツキが発生することを抑制することができるので、同一の金型を用いて作成された複数の判定対象となる非晶質合金部材34各々について、同一の真偽判定結果を得ることができる。このため、精度良く真偽判定を行うことができる。
【0224】
さらに、非晶質合金は、高強度であり高硬度であるため、摩耗による凹凸領域34Aの表面状態が変化することを抑制することができるので、精度良く真偽判定を行うことができる。
【0225】
従って、容易且つ高精度に真偽を判定することが可能な真偽判定装置を提供することができる。
【0226】
次に、上記真偽判定装置10の判定部18の制御部82において実行される上記基準特徴情報登録処理、及び上記真偽判定処理をパーソナルコンピュータで実行した場合の一の実施の形態を説明する。
【0227】
図16に示すように、パーソナルコンピュータ(以下、コンピュータと称する)55は、各種情報を表示するディスプレイ58と、コンピュータ本体59と、を含んで構成されている。コンピュータ本体59の表面側には、記憶媒体52を装着するためのディスク装置54が設けられている。
【0228】
ここで、上記真偽判定処理装置10において説明した基準特徴情報登録処理の機能、及び真偽判定処理の機能は、コンピュータ55において実行可能なプログラム50によって実現することができる。
このコンピュータにより実行可能なプログラム50としては、真偽判定処理装置10で用いた基準特徴情報登録プログラム及び真偽判定プログラムをコンピュータ55により実行可能なコードに変換して用いればよい。
【0229】
プログラム50およびそのプログラム50が用いるデータなどは、予めコンピュータ55が読み取り可能な、後述する図17に示す記憶媒体52に記憶することも可能であり、コンピュータ55内の後述するHDD62やROM61に予め記憶するようにしてもよい。
記憶媒体52とは、コンピュータ55のハードウェア資源に備えられている読取装置54に対して、プログラムの記述内容に応じて、磁気、光、電気等のエネルギーの変化状態を引き起こし、それに対応する信号の形式で読取装置54にプログラムの記述内容を伝達できるものである。
【0230】
このような記憶媒体52としては、光磁気ディスク52A、光ディスク52B、磁気ディスク52C、及びPC本体59に装着可能なメモリ52D等がある。メモリ52Dの一例には、ICカードやメモリカード等が挙げられる。これらの記憶媒体52は、可搬型、及び非可搬型の何れであってもよい。
【0231】
上記読取装置54には、上記光磁気ディスク52Aに記憶されている各種データを読み取るための光磁気ディスク装置54A、光ディスク52Bに記憶されている各種データを読み取るための光ディスク装置53B、及び磁気ディスク52Cに記憶されている各種データを読み取るための磁気ディスク装置54C等がある。
【0232】
コンピュータ55は、図17に示すように、CPU(Central Processing Unit)60、ROM(Read Only Memory)61、及びRAM(Random Access Memory)63を含んで構成されている。これらのCPU60、ROM61、及びRAM63は、CPUバス等から構成されるホストバス71により信号授受可能に接続されている。これらCPU60、ROM61、及びRAM63からなる構成が、上記説明した真偽判定装置10の判定部18と同様の機能を有する。
【0233】
CPU60は、上記説明した真偽判定装置10の制御部82と同様の機能を有し、上記プログラム50に従った処理を実行する制御部である。ROM61は、CPU60が使用するプログラムや、演算パラメータや、プログラム50等を格納する。RAM63は、CPU60の実行において使用するプログラムや、その実行において適宜変化するパラメータ等を格納する。なお、ROM61及びRAM63からなるメモリ部67が、上記説明した真偽判定装置10のメモリ86として機能する。
【0234】
ホストバス71は、ブリッジ64を介して、PCI(Peripheral Co
mponent Interc onnect/Interface)バスなどの外部バス66にデータや信号を授受可能に接続されている。
【0235】
コンピュータ55には、キーボード60、マウス等のポインティングデバイス65、ディスプレイ58、HDD(Hard Disk Drive)62、読取装置54、接続ポート67、通信部70、読取部14、及びデータ出力部56が設けられている。
これらのキーボード60、マウス等のポインティングデバイス65、ディスプレイ58、各種データを記憶するためのHDD(Hard Disk Drive)62、読取装置54、接続ポート66、通信部70、読取部14、及びデータ出力部56は、インターフェース68、外部バス66、ブリッジ64、及びホストバス71を介して、CPU62に信号授受可能に接続されている。
【0236】
キーボード60及びポインティングデバイス65は、操作者によって操作される入力デバイスであり、上記真偽判定装置10の入力部16と同様の機能を有する。
ディスプレイ58は、液晶表示装置またはCRT(Cathode Ray Tube)などから成り、各種情報をテキストやイメージ情報として表示するデバイスであり、上記真偽判定装置10の表示部19と同等の機能を有する。
【0237】
記憶媒体52は、読取装置54に装着されることで、格納しているプログラム50等の各種データを読取装置54によって読み取られる。CPU60の制御によって、読取装置54は、装着された記憶媒体52に記憶されているプログラム50や各種データ等を読み出す。読取装置54によって読み出された真偽判定プログラム及びデータは、CPU60の制御によってインターフェース68、外部バス66、ブリッジ64、及びホストバス71を介してRAM63に格納される。
【0238】
接続ポート67は、コンピュータ55に接続する外部接続機器69を接続するためのポートであり、USB、IEEE1394等の接続部を有している。通信部70は、図示を省略する有線通信網または無線通信網を介して外部装置とデータや信号授受を行うためのデバイスである。
【0239】
読取部14は、真偽判定装置10の読取部14と同一の構成であるため詳細な説明を省略する。データ出力部56は、各種データを出力するための出力装置であって、例えば、プリンタを挙げることができる。
【0240】
このようなコンピュータ55において、上記記憶媒体52が読取装置54に装着されると、CPU60は、記憶媒体52に記憶されているプログラム50を読み出してRAM63に格納する。なお、プログラム50がHDD62またはROM61に記憶されている場合には、CPU60は、これらのHDD62またはROM61に記憶されているプログラム50を読み出してRAM63に格納する。
【0241】
CPU60では、このRAM63に格納したプログラム50の基準特徴情報登録プログラム、真偽判定プログラム各々を実行する。このプログラム50がCPU60によって実行されることによって、上記図8及び図11に示す処理ルーチンがCPU60において実行されて、コンピュータ55において、上記真偽判定装置10と同様にして基準特徴情報登録処理、及び真偽判定処理が実行される。
【0242】
このように、基準特徴情報登録プログラム及び真偽判定プログラムのプログラム50がコンピュータ55において実行されることによって、簡易な構成で、容易に非晶質合金部材34の真偽を判定することができる。
【実施例】
【0243】
以下に、本発明を適用した場合の真偽判定の判定精度を確認するために本願発明者等が行った実験について説明する。
【0244】
なお、各実施例及び比較例で行った中心線平均粗さRaの測定は、以下の方法で行った。
【0245】
―中心線平均粗さの測定―
JIS B 0651の方法に基づき、非晶質合金部材の表面の凹凸領域について、JIS−B−0601に規定される測定長さ12.5mm、カットオフ値2.5mmで測定した時の中心線平均粗さを、三次元表面粗さ測定器(SE−30K、小坂研究所社製)を使用して測定した。
【0246】
(実施例1)
[鋳造用金型の作製]
鋳造用金型として、SKD61からなる、図2(A)に示す形状の鋳造用金型20を用意した。
【0247】
次に、この鋳造用金型20の凹部24に放電加工を行うことにより、
40mm×20mmの凹凸形状領域24Aを形成した。この凹凸形状領域24Aの中心線平均粗さRaを計測したところ、中心線平均粗さRa=3.0μmであった。
【0248】
作製した鋳造用金型20の凹凸形状領域24Aを、金属顕微鏡を用いて倍率100倍で撮影した撮影画像を図12(A)に示した。
【0249】
次に、流込工程において、凹凸形状領域24Aの形成された鋳造用金型20に第2の金型26を、鋳造用金型20の凹部24と第2の金型26の凹部としての通孔49とを対向するように重ね合わせた後に、鋳造用金型20と第2の金型26とを型締めした。
なお、この第2の金型26としては、鋳造用金型20と同一の材料により構成され、鋳造用金型20と型締めされることによりキャビティ37を形成可能に加工された金型を用いた。
【0250】
一般式(6) (Zr,Hf)aM5bM6c、で示される材料として、一般式Zr50Hf10Cu30Al10の組成を有する合金を、1100℃で溶融することにより溶湯を用意した。
【0251】
上記型締めした鋳造用金型20と第2の金型26とによって形成されるキャビティ37内へ、10−1〜10−2torrの真空条件下で、上記調整した溶湯を注湯した。
【0252】
この溶湯が硬化した後に、プランジャ39を動かしながら鋳造用金型20と第2の金型26とを、お互いに型開きした。これにより、冷却により硬化した溶湯、すなわち非晶質(ガラス)合金により構成され、且つ凹凸形状領域24Aが転写されて凹凸領域の形成された非晶質合金部材(40mm×20mm、厚さ1mm)を作製した。
【0253】
作製した非晶質合金部材の凹凸領域を、金属顕微鏡を用いて、倍率100倍で撮影した撮影画像を図12(B)に示した。
図12(A)及び図12(B)に示されるように、鋳造用金型20に形成した凹凸形状領域(図12(A)参照)と、作製した非晶質合金部材の凹凸領域(図12(B)参照)と、は、凹凸形状によって示される模様が鏡像反転していることがわかる。このため、非晶質合金部材の表面に、鋳造用金型20の凹凸形状領域が精度良く転写されているといえる。
【0254】
また、上記作製した鋳造用金型20の凹凸形状領域と、この鋳造用金型20を用いて作製した非晶質合金部材の凹凸領域と、について、互いに転写時に接していた領域の表面粗さRyを測定したところ、図13に示す結果が得られた。
図13に示すように、上記作製した鋳造用金型20の凹凸形状領域と、この鋳造用金型20を用いて作製した非晶質合金部材の凹凸領域と、の転写時に接していた領域の表面粗さRyは、略同一の値が得られていることから、鋳造用金型20の凹凸形状領域が非晶質合金部材へ、サブミクロンオーダまで精度良く転写されているといえる。
【0255】
なお、表面粗さRyは、粗さ曲線の最大値と最小値の差でと定義された最大高さを表す値であり、触針式の膜厚計(小坂研究所社製、商品名:ET−30)を用いて測定した。
【0256】
作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X線回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相のX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0257】
さらに、実施例1の作製方法を用いて非晶質合金部材を複数作製し、非晶質合金部材を1万枚個作製した。
【0258】
実施例1で作製した非晶質合金部材1万枚の内から任意の71枚を選択し、選択した71枚の内の1枚を、真偽判定基準となる非晶質合金部材(すなわち、基準特徴情報採取用の非晶質合金部材)として選択し、上記真偽判定装置10を用いて、制御部82において上記図8に示す処理ルーチンを実行することにより基準特徴情報の登録処理を行った。
【0259】
詳細には、図15に示すように、上記基準特徴情報採取用として選択した基準特徴情報採取用の非晶質合金部材1枚に対して、全面に等間隔で144箇所の基準領域(32×32ドット)(図15中、基準領域50(50〜50))を設定した。この設定した各基準領域を、真偽判定装置10を用いて読取り、各基準領域の濃淡を示す濃淡情報各々を基準特徴情報としてメモリ86に記憶することにより、基準特徴情報の登録処理を行った。
【0260】
次に、上記選択した71枚の内の、上記基準特徴情報採取用の非晶質合金部材として選択した1枚以外の非晶質合金部材70枚各々を、真偽判定対象の非晶質合金部材とし、これらの非晶質合金部材各々について、上記基準特徴情報採取用の非晶質合金部材上の144箇所の基準領域各々に相当する領域を含む64×64ドットの領域を、照合領域として設定した。このようにして、144箇所の照合領域を設定した。
【0261】
さらに、真偽判定対象の非晶質合金部材70枚各々について、上記真偽判定装置10を用いて、制御部82において、上記図11に示す処理ルーチンを実行することにより真偽判定テストを行った。
この真偽判定テストとして、FRR(:False Rejection Rate(真物を偽物と誤判定する確率))確認のための実験と、FAR(:False Acceptance Rate(偽物を真物と誤判定する確率))確認のための実験と、を行った。
【0262】
〔FRR確認のための実験〕
上記メモリ86に登録した基準登録情報は144個であり、この144個の基準登録情報と、真偽判定対象の非晶質合金部材70枚各々上の144箇所各々の照合領域を読み取ることによって得られる判定対象特徴情報各々と、に基づいて真偽判定を行った。
このため、FRR確認のための実験においては、144(箇所)×70(枚)=10080(回)、すなわち10080回の真偽判定テストを行い、そのうちの何回について、偽物と誤判定したかを評価した。
【0263】
〔FAR確認のための実験〕
上記メモリ86に登録した基準登録情報144個の内の任意の1個を、基準登録情報としてメモリ86に残し、その他の143個の基準登録情報はメモリ86から削除した。
これにより、上記基準特徴情報採取用の非晶質合金部材(1枚)上の、上記設定した144箇所の基準領域の内の1箇所の基準領域の濃淡情報が、基準特徴情報としてメモリ86に登録された状態となった。
すなわち、基準特徴情報採取用の非晶質合金部材上の、144箇所の領域の内の1箇所の領域が基準領域として設定され、真偽判定対象の非晶質合金部材70枚上の144箇所の領域の内の、この基準領域として設定した領域に対応する領域以外の143箇所が照合領域として設定された。つまり、この143箇所は、「真物」と認識してはならない箇所である。なお、上記基準領域として設定した領域に対応する領域とは、鋳造用金型20を用いた非晶質合金部材作製時に、該基準領域と同一位置に位置した領域を示している。
【0264】
次に、上記真偽判定対象の非晶質合金部材70枚上の143箇所の照合領域について、真偽判定を行う処理を、基準特徴情報採取用の非晶質合金部材上の基準領域として選択する領域を順次変更して(すなわち144箇所)繰り返し行った。
このため、FAR確認のための実験においては、70(枚)×143(箇所)×144(箇所)、すなわち1441440回の真偽判定テストを行い、そのうちの何回について真物と誤判定したかを評価した。
【0265】
真偽判定は、下記の条件で行った。
・撮像素子32Bによる読取解像度 600dpi
・読取部14による読取りの階調を8ビットグレイスケール
・基準領域のサイズ:32ドット×32ドット
・照合領域のサイズ:64ドット×64ドット
・相関値の最大値の閾値:0.3
・相関値の最大値のノーマライズド・スコアの閾値:5
・光源30B:白色LED
・撮像素子32B:CCD
【0266】
(実施例2)
実施例1において、非晶質合金部材を構成する非晶質合金として、
一般式(1) M100−nTMn、の組成を有する合金として、
Fe44Ni28Si20Nbの組成を有する合金を、1400℃で溶融することにより溶湯を調整した以外は、実施例1と同様にして凹凸領域の形成された非晶質合金部材を作製し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0267】
なお、実施例2で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相とのX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0268】
(実施例3)
実施例1において、非晶質合金部材を構成する非晶質合金として、
一般式(2) CupTiqM1100-p-qの組成を有する合金として、
Cu60Ti10Zr30の組成を有する合金を、1200℃で溶融することにより溶湯を調整した以外は、実施例1と同様にして凹凸領域の形成された非晶質合金部材を作製し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0269】
なお、実施例3で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相とのX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0270】
(実施例4)
実施例1において、非晶質合金部材を構成する非晶質合金として、
一般式(3) Ni100-s-t-u Nbs(Zr, Hf)t M2uの組成を有する合金として
Ni51Nb20ZrTiCoCuの組成を有する合金を、1300℃で溶融することにより溶湯を調整した以外は、実施例1と同様にして凹凸領域の形成された非晶質合金部材を作製し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0271】
なお、実施例4で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相とのX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0272】
(実施例5)
実施例1において、非晶質合金部材を構成する非晶質合金として、
一般式(4) Fe100-x-yM3M4yの組成を有する合金として、
Fe7020NbSiの組成を有する合金を、1400℃で溶融することにより溶湯を調整した以外は、実施例1と同様にして凹凸領域の形成された非晶質合金部材を作製し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0273】
なお、実施例5で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相とのX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0274】
(実施例6)
実施例1において、非晶質合金部材を構成する非晶質合金として、
一般式(5) (Fe1-z(Co,Ni)z 100-x-yM3M4yの組成を有する合金として、Fe44Ni28Si20Nbの組成を有する合金を、1400℃で溶融することにより溶湯を調整した以外は、実施例1と同様にして凹凸領域の形成された非晶質合金部材を作製し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0275】
なお、実施例6で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相とのX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0276】
(実施例7)
実施例1において、非晶質合金部材を構成する非晶質合金として、
一般式(7) Ti100-i-j-kCuiM7jM8kの組成を有する合金として、
Ti50Cu20ZrNi20Siの組成を有する合金を、1200℃で溶融することにより溶湯を調整した以外は、実施例1と同様にして凹凸領域の形成された非晶質合金部材を作製し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0277】
なお、実施例7で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相とのX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0278】
(実施例8)
実施例1において、非晶質合金部材を構成する非晶質合金として、
一般式(8) M1a2bLnc3d4e5fの組成を有する合金として、
Zr65Pd10Cu10Al15の組成を有する合金を、1200℃で溶融することにより溶湯を調整した以外は、実施例1と同様にして凹凸領域の形成された非晶質合金部材を作製し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0279】
なお、実施例8で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相とのX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0280】
(実施例9)
実施例1において、非晶質合金部材を構成する非晶質合金として、
一般式(9) Al100-g-h-iLng6h3iの組成を有する合金として、
Al20La65Cu7.5Ni3.8CO3.7の組成を有する合金を、700℃で溶融することにより溶湯を調整した以外は、実施例1と同様にして凹凸領域の形成された非晶質合金部材を作製し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0281】
なお、実施例9で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相とのX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0282】
(実施例10)
実施例1において、非晶質合金部材を構成する非晶質合金として
一般式(12) Mg100-q-s7q9sの組成を有する合金として、
Mg65Cu2510の組成を有する合金を、700℃で溶融することにより溶湯を調整した以外は、実施例1と同様にして凹凸領域の形成された非晶質合金部材を作製し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0283】
なお、実施例10で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相とのX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0284】
(実施例11)
実施例1において、非晶質合金部材を構成する非晶質合金として
一般式(13) Mg100-q-r-s7q8r9sの組成を有する合金として、
Mg6510Cu20Alの組成を有する合金を、700℃で溶融することにより溶湯を調整した以外は、実施例1と同様にして凹凸領域の形成された非晶質合金部材を作製し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0285】
なお、実施例11で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相とのX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0286】
(実施例12)
実施例1において、鋳造用金型20の凹部24に、四角錐状のダイヤモンド針(明石製作所社製、商品名:微小硬度計MVK−EIII)を用いて、ダイヤモンド針により鋳造用金型20に押付けることによって、鋳造用金型20の凹部24に複数の圧痕を形成することにより、鋳造用金型20に凹凸形状領域を形成した以外は、実施例1と同様にして凹凸領域の形成された非晶質合金部材を作製し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0287】
なお、この凹凸領域に形成された各痕は、50μm×50μmの方形であり、深さ10μmであった。この凹凸形状領域24Aの中心線平均粗さRaを計測したところ、中心線平均粗さRa=0.2μmであった。この凹凸領域について、キーエンス社製、商品名:マイクロスコープを用いて×75の倍率で撮影した撮影画像を図14に示した。
【0288】
また、実施例12で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相とのX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0289】
(実施例13)
実施例1において、下記鋳造用金型を用いた以外は、実施例1と同様にして非晶質合金部材を作成し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0290】
鋳造用金型の作製
鋳造用金型として、高速度工具鋼(ハイス鋼:SKH51)からなる、図2(A)に示す形状の鋳造用金型20を用意した。
【0291】
次に、この鋳造用金型20の凹部24に放電加工を行うことにより、20mm×50mmの凹凸形状領域24Aを形成した。この凹凸形状領域24Aの中心線平均粗さRaを計測したところ、中心線平均粗さRa=0.1μmであった。
【0292】
なお、実施例13で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相のX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0293】
(実施例14)
実施例1で用いた鋳造用金型20に換えて、凹部24を鏡面加工(Ra=0.01μm)された鋳造用金型20を用い、実施例8で用いた溶湯を用いて非晶質合金基板を作製した。
【0294】
次に、鍛造用金型として、高速度工具鋼(ハイス鋼:SKH51)からなる鍛造用金型60を用意した。次に、この鍛造用金型に、実施例1と同様にして放電加工を行うことにより、鍛造用金型上に凹凸形状領域を形成した。
この凹凸形状領域24Aの中心線平均粗さRaを計測したところ、中心線平均粗さRa=1.0μmであった。
【0295】
この鍛造用金型を、鍛造機に取付けて、下記鍛造条件により非晶質合金基板の塑性加工を行うことにより、凹凸領域の形成された非晶質合金部材を形成した。
【0296】
鍛造条件
・非晶質合金基板を、この非晶質合金基板を構成する非晶質合金のガラス転移温度(Tg)410℃以上であり、この非晶質合金の結晶化温度(Tx)490℃未満である、420℃、450℃にそれぞれ加熱。
・鍛造用金型20から非晶質合金基板への圧力:10MPa
・圧力印加時間:加熱温度420℃、450℃に対して、それぞれ15分、2分以内。
【0297】
作製した非晶質合金部材について、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
【0298】
なお、実施例14で作製した非晶質合金部材の非晶質相の体積率を、X回折装置を用いて、結晶質相と非晶質相とのX線回折プロファイルの面積比により測定したところ、体積率100%であった。
【0299】
(比較例1)
実施例1において、非晶質合金部材を構成する材料として、非晶質合金に換えて、鋳造用アルミ合金ADC12を、700℃で溶融することにより溶湯を調整した以外は、実施例1と同様にして凹凸領域の形成された非晶質合金部材を作製し、実施例1と同様にして真偽判定テストを行った。
なお、相関値の最大値の閾値、及び相関値の最大値のノーマライズド・スコアの閾値は、実施例1と同一とした。
【0300】
実施例1〜実施例14における上記FRR確認のための実験における真偽判定テストでは、10080回の真偽判定テストにおいて、全て「真物」を示す評価結果が表示部19に表示され、「偽物」を示す誤判定は表示されなかった。このため、FRRは0%であった。
【0301】
一方、非晶質合金部材を構成する材料として非晶質合金を用いなかった場合(比較例1)においては、10080回の真偽判定テスト中、「真物」を示す評価結果の表示部19への表示は8568回であり、「偽物」を示す誤判定表示は1512回であった。このため、FRRは15%であった。
【0302】
また、実施例1〜実施例14における上記FAR確認のための実験における真偽判定テストでは、1441440回の真偽判定テストにおいて、全て「偽物」を示す評価結果が表示された。このため、FARは0%であった。
【0303】
一方、非晶質合金部材を構成する材料として非晶質合金を用いなかった場合(比較例1)においては、1441440回の真偽判定テスト中、「偽物」を示す評価結果の表示部19への表示は、1138738回であり、「真物」を示す誤判定表示は、302702回であった。このため、FARは21%であった。
【図面の簡単な説明】
【0304】
【図1】本発明の実施の形態に係る、非晶質合金部材を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る、鋳造技術を用いた非晶質合金部材の作製方法を示す模式図である。
【図3】原子配列モデルを示す模式図であり、(a)は、結晶合金の原子配列モデルを示し、(b)は非晶質合金の原子配列モデルを示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る、鍛造技術を用いた非晶質合金部材の作製方法を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る、真偽判定装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る、真偽判定装置の読取部の一例を示す外観図である。
【図7】読取部の詳細構成図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る、真偽判定装置で行われる基準特徴情報登録処理を示すフローチャートである。
【図9】(A)は、本発明の実施の形態に係る、非晶質合金部材の凹凸領域内の基準領域を示す模式図であり、(B)は、非晶質合金部材の凹凸領域内の照合領域を示す模式図である。
【図10】(A)は基準画像の一例を示すイメージ図であり、(B)は、照合画像の一例を示すイメージ図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る、真偽判定装置で行われる真偽判定処理を示すフローチャートである。
【図12】(A)は、実施例1において作製した鋳造用金型の凹凸形状領域の撮影画像であり、(B)は、実施例1において作製した非晶質合金部材の凹凸領域の撮影画像である。
【図13】実施例1において作製した鋳造用金型の凹凸形状領域の表面粗さRyと、非晶質合金部材の凹凸領域の表面粗さRyと、の関係を示す線図である。
【図14】実施例12において作製した非晶質合金部材の凹凸領域の撮影画像である。
【図15】実施例1において作製した非晶質合金部材の表面を示す撮影画像の模式図である。
【図16】真偽判定処理をパーソナルコンピュータで実行した場合の一の実施の形態を示す模式図である。
【図17】真偽判定処理を行うコンピュータ内の構成を示す概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0305】
10 真偽判定装置
14 読取部
18 判定部
20 鋳造用金型
34A 凹凸領域
34 非晶質合金部材
60 鍛造用金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に中心線平均粗さRaが0.1μm以上1000μm以下である凹凸領域を有し、少なくとも該凹凸領域が体積率50%以上100%以下の非晶質相を有する非晶質合金を含んで構成される非晶質合金部材。
【請求項2】
前記凹凸領域の中心線平均粗さRaが0.1μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の非晶質合金部材。
【請求項3】
前記非晶質合金は、Zr系非晶質合金、Hf系非晶質合金、Fe系非晶質合金、Co系非晶質合金、Ni系非晶質合金、Ti系非晶質合金、Cu系非晶質合金、Au系非晶質合金、及びLa系非晶質合金から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非晶質合金部材。
【請求項4】
前記非晶質合金は、下記一般式(1)〜一般式(7)から選択される少なくとも1種の組成を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非晶質合金部材。
一般式(1) M100-nTMn
一般式(1)において、MはFe、Co、Ni、Cu、Ti、Zr、及びHfのうちの1種または2種以上の元素を表す。TMは、Cr,Mo,Nb,Al,Sn,Bよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を1原子%以上必ず含み、残部が3族、4族、5族、6族、8族、9族、10族、及び11族に属する元素からなる遷移金属元素(但し、Cr、Mo、Nb、及び上記Mに適用した元素を除く)、ならびに13族、14族、及び15族に属する元素からなる典型元素(但し、Al,Sn,Bを除く)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。nは原子%を示し、5≦n≦50である。
一般式(2) CupTiqM1100-p-q
一般式(2)において、M1は、鉄族に属する元素、白金族に属する元素、貴金属に属する元素、Al、Sn、Zn、Hf、及びZrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。p、qは原子%を示し、50≦p≦65、2≦q≦20である。
一般式(3) Ni100-s-t-u Nbs(Zr, Hf)t M2u
一般式(3)において、M2は、鉄族に属する元素、白金族に属する元素、貴金属に属する元素、Cu、及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。s、t、uは各々原子%を示し、10≦s≦25、5≦t≦20、5≦u≦25、10≦t+u≦35である。
一般式(4) Fe100-x-yM3M4y
一般式(4)において、M3は、3族、4族、5族、及び6族に属する元素からなる遷移金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M4は、Mn、Ru、Rh、Pd、Ga、Al、Ge、Si、B、Cのうちの何れか1種または2種以上の元素からなる。x、yは各々原子%を示し、2≦x≦35、5≦y≦30である。
一般式(5) (Fe1-z(Co, Ni)z100-x-yM3M4y
一般式(5)において、M3は、3族、4族、5族、及び6族に属する元素からなる遷移金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M4は、Mn、Ru、Rh、Pd、Ga、Al、Ge、Si、B、及びCのうちの何れか1種または2種以上の元素からなる。x、y、zは各々原子%を示し、2≦x≦35、5≦y≦30、0.1≦z≦0.7である。
一般式(6) (Zr,Hf)aM5bM6c
一般式(6)において、M5は、3族に属する元素、5族に属する元素、6族に属する元素、鉄族に属する元素、白金族に属する元素、貴金属に属する元素、Cu、Ti、及びMnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M6は、Be、Zn、Al、Ga、B、C、及びNよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。a、b、cは、各々原子%を示し、30≦a≦70、15≦b≦65、1≦c≦30である。
一般式(7) Ti100-i-j-kCuiM7jM8k
一般式(7)において、M7は、Zr、Hf、鉄族に属する元素、白金族に属する元素からなる遷移金属元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。M8は、3族に属する元素、5族に属する元素、6族に属する元素、Al、Sn、Ge、Si、B、及びBeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。i、j、kは各々原子%を示し、5≦i≦35、10≦j≦35、1≦k≦20である。
【請求項5】
前記非晶質合金は、下記一般式(8)〜一般式(13)から選択される少なくとも1種の組成を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非晶質合金部材。
一般式(8) M1a2bLnc3d4e5f
一般式(8)中、M1はZr及びHfから選ばれる1種又は2種の元素を示し、M2はNi、Cu、Fe、Co、Mn、Nb、Ti、V、Cr、Zn、Al及びGaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、LnはY、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb及びMm(希土類元素の集合体であるミッシュメタル)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M3はBe、B、C、N及びOよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M4はTa、W及びMoよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M5はAu、Pt、Pd及びAgよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。a、b、c、d、e及びfはそれぞれ原子%で、25≦a≦85、15≦b≦75、0≦c≦30、0≦d≦30、0≦e≦15、0≦f≦15である。
一般式(9) Al100-g-h-iLng6h3i
一般式(9)中、LnはY、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Yb及びMmよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M6はTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta及びWよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M3はBe、B、C、N及びOよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、g、h及びiはそれぞれ原子%を示し、30≦g≦90、0<h≦55、0≦i≦10である。
一般式(10) Mg100-p7p
一般式(10)中、M7はCu、Ni、Sn及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、pは原子%を示し、5≦p≦60である。
一般式(11) Mg100-q-r7q8r
一般式(11)中、M7はCu、Ni、Sn及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M8はAl、Si及びCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。q及びrはそれぞれ原子%を示し、1≦q≦35、1≦r≦25である。
一般式(12) Mg100-q-s7q9s
一般式(12)中、M7はCu、Ni、Sn及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、M9はY、La、Ce、Nd、Sm及びMmよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表す。q及びsはそれぞれ原子%を示し、1≦q≦35、3≦s≦25である。
一般式(13) Mg100-q-r-s7q8r9s
一般式(13)中、M7はCu、Ni、Sn及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、M8はAl、Si及びCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、M9はY、La、Ce、Nd、Sm及びMmよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示す。q、r及びsはそれぞれ原子%を示し、1≦q≦35、1≦r≦25、3≦s≦25である。
【請求項6】
真偽判定基準となる、表面に中心線平均粗さRaが0.1μm以上1000μm以下である凹凸領域を有すると共に少なくとも該凹凸領域が体積率50%以上100%以下の非晶質相を有する非晶質合金を含んで構成される非晶質合金部材の、前記凹凸領域の特徴を示す基準特徴情報を予め記憶する記憶手段と、
真偽判定対象となる、表面に中心線平均粗さRaが0.1μm以上1000μm以下である凹凸領域を有すると共に少なくとも該凹凸領域が体積率50%以上100%以下の非晶質相を有する非晶質合金を含んで構成される非晶質合金部材の、前記凹凸領域の特徴を示す判定対象特徴情報を読み取る読取手段と、
前記読取手段によって前記判定対象特徴情報が読み取られたときに、該判定対象特徴情報と、前記基準特徴情報と、を比較し、比較結果に基づいて前記真偽判定対象の非晶質合金部材が真であるか否かを判別する判別手段と、
を備えた真偽判定装置。
【請求項7】
表面に中心線平均粗さRaが0.1μm以上1000μm以下である凹凸形状領域を有する鋳造用金型に、少なくとも体積率50%以上100%以下の非晶質相を有する非晶質合金を作製できる溶湯を少なくとも前記凹凸形状領域に接するように流し込む流込工程と、
前記鋳造用金型に流し込まれた溶湯を硬化させる硬化工程と、
硬化した溶湯を、非晶質合金部材として前記鋳型から剥離する剥離工程と、
を有する非晶質合金部材の作製方法。
【請求項8】
前記鋳造用金型の前記凹凸形状領域の中心線平均粗さが0.1μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項7に記載の非晶質合金部材の作製方法。
【請求項9】
表面に中心線平均粗さRaが0.1μm以上1000μm以下である凹凸形状領域を有する鍛造用金型の該凹凸形状領域が形成された領域を、少なくとも体積率50%以上100%以下の非晶質相を有する非晶質合金からなる領域を有し中心線平均粗さRaが0.01μm以下の非晶質合金基板の該非晶質合金からなる領域に対向させた後に、該鍛造用金型により該非晶質合金基板へ圧力を加えて該非晶質合金基板の少なくとも一部を塑性変形することにより非晶質合金部材を作製する塑性加工工程と、
を有する非晶質合金部材の作製方法。
【請求項10】
前記鍛造用金型の前記凹凸形状領域の中心線平均粗さRaが0.1μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項9に記載の非晶質合金部材の作製方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図1】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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