説明

非水系二次電池用セパレータ

【課題】本発明は、基材上に耐熱性多孔質層が積層された非水系二次電池用セパレータを用いた場合に、電池組み立て工程において安定に非水系二次電池を作製できる技術を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリオレフィン多孔質基材と、耐熱性樹脂を含んで形成され前記多孔質基材の片面または両面に積層された耐熱性多孔質層と、を備えた非水系二次電池用セパレータであって、当該セパレータの機械方向の引張強度SMDと機械垂直方向の引張強度STDの比が、2≦SMD/STD≦8であることを特徴とする非水系二次電池用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水系二次電池に用いるセパレータに関する。具体的には非水系二次電池の安全性を高めるセパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水系二次電池は、例えば携帯電話やノートパソコンと言った携帯用電子機器の主電源として広範に普及している。このようなリチウムイオン二次電池においては、さらなる高エネルギー密度化・高容量化・高出力化を達成すべく技術開発が進められており、今後もこの要求はさらに高まることが予想される。このような要求に応えていくためにも、電池の高度な安全性を確保する技術がより一層重要となってきている。
【0003】
一般的に、リチウムイオン二次電池のセパレータには、ポリエチレンやポリプロピレンからなる微多孔膜が用いられている。このセパレータには、リチウムイオン二次電池の安全性を確保する目的で、シャットダウン機能と呼ばれる機能が備わっている。このシャットダウン機能とは、電池温度が上昇してある温度に達したときに著しく抵抗が増大する機能を言う。このシャットダウン機能により、電池が何らかの原因で発熱したときに、電流を遮断することができ、電池のさらなる発熱を防止し、発煙・発火・爆発を防ぐことができる。このようなシャットダウン機能は、セパレータを構成する材料が溶融・変形し、セパレータの孔を閉塞することを作動原理としている。そのため、ポリエチレンからなるセパレータの場合はポリエチレンの融点近傍の140℃近傍でシャットダウン機能が作動し、ポリプロピレンの場合は165℃程度でこの機能が作動する。このシャットダウン機能は、確実に電池の安全性を確保するという観点からも、比較的に低温で作動することが好ましく、このためポリエチレンの方が一般的に用いられている。
【0004】
一方で、リチウムイオン二次電池のセパレータには、シャットダウン機能に加え、十分な耐熱性を有することも要求されている。その理由は次の通りである。従来のポリエチレン等の微多孔膜のみからなるセパレータにおいては、シャットダウン機能が作動した後、さらに電池がシャットダウン機能が作動する温度以上に曝され続けることで、セパレータの溶融(いわゆるメルトダウン)が進行してしまう。これはシャットダウン機能の原理から考えると当然である。このメルトダウンの結果、電池内部で短絡が生じ、これに伴って大きな熱が発生してしまうため、電池は発煙・発火・爆発といった危険に曝されることになる。このため、セパレータにはシャットダウン機能に加えて、シャットダウン機能が作動する温度近傍でメルトダウンが生じない程度の十分な耐熱性が要求される。
【0005】
ここにおいて、従来、シャットダウン機能と耐熱性の両方をセパレータに付与するために、ポリエチレン微多孔膜にポリイミドや芳香族ポリアミドなどの耐熱性樹脂からなる多孔質層をコーティングしたセパレータが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。このようなセパレータにおいては、ポリエチレンの融点近傍(140℃程度)でシャットダウン機能が作動すると共に、耐熱性多孔質層が十分な耐熱性を示すことにより180℃以上においてもメルトダウンが発生しない。
【0006】
しかし、このような非水系二次電池用セパレータは、正極と負極の間にセパレータを挟んで非水系二次電池を作製する際に、張力をかけて捲回するため、非水系二次電池用セパレータは機械方向及び機械垂直方向に対して変形することになる。そして、セパレータの変形のバランスによっては、セパレータに大きな変形や破損等が発生してしまう可能性もあるため、電池組み立て工程における工程通過性を高め、非水系二次電池をより安定的に作製できる技術が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/062727号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/156033号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、基材上に耐熱性多孔質層が積層された非水系二次電池用セパレータを用いた場合に、電池組み立て工程において安定に非水系二次電池を作製できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の構成により解決可能である事を見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の構成を採用する。
1. ポリオレフィン多孔質基材と、耐熱性樹脂を含んで形成され前記多孔質基材の片面または両面に積層された耐熱性多孔質層と、を備えた非水系二次電池用セパレータであって、当該セパレータの機械方向の引張強度SMDと機械垂直方向の引張強度STDの比が、2≦SMD/STD≦8であることを特徴とする非水系二次電池用セパレータ。
2. 前記耐熱性樹脂がメタ型全芳香族ポリアミドまたはパラ型全芳香族ポリアミドであることを特徴とする上記1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
3. 前記耐熱性多孔質層には無機フィラーが含まれていることを特徴とする上記1または2に記載の非水系二次電池用セパレータ。
4. 前記無機フィラーが、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属リン酸塩、金属水酸化物から選ばれる少なくとも1つ以上であることを特徴とする上記3に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基材上に耐熱性多孔質層が積層された非水系二次電池用セパレータを用いた場合に、電池組み立て工程において安定に非水系二次電池を作製できる技術を提供することができる。かかる本発明によれば、安全性に優れた非水系二次電池を効率良く生産することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。なお、これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
[非水系二次電池用セパレータ]
本発明の非水系二次電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質基材と、耐熱性樹脂を含んで形成され前記多孔質基材の片面または両面に積層された耐熱性多孔質層と、を備えた非水系二次電池用セパレータであって、当該セパレータの機械方向の引張強度SMDと機械垂直方向の引張強度STDの比が、2≦SMD/STD≦8であることを特徴とする。
【0012】
このような本発明の非水系二次電池用セパレータによれば、ポリオレフィン多孔質基材によりシャットダウン機能が得られると共に、耐熱性多孔質層によりシャットダウン温度以上の温度においてもポリオレフィンが保持されるため、メルトダウンが生じ難く、高温時の安全性を確保できる。特に、当該セパレータの機械方向の引張強度SMDと機械垂直方向の引張強度STDの比が2≦SMD/STD≦8であることで、工程通過性が向上し、電池組み立て工程において安定に非水系二次電池を作製できる。
【0013】
ここで、本発明における「工程通過性」とは、非水系二次電池用セパレータを捲回し、非水系二次電池を製作する際に、非水系二次電池用セパレータに変形や破損が無い事を意味する。また、機械垂直方向とは、機械方向に垂直な方向を意味する。また、耐熱性多孔質層を複合化した状態のセパレータにおける機械方向および機械垂直方向は、ポリオレフィン多孔質基材の機械方向および機械垂直方向とそれぞれ一致する。
【0014】
本発明において、非水系二次電池用セパレータは、機械方向における引張強度をSMDとした時、SMDが5〜100Nであることが、工程通過性の観点から好ましい。また、機械垂直方向における引張強度をSTDとした時、STDが2.5〜20Nであることが、工程通過性の観点から好ましい。
【0015】
上記のようにセパレータの機械方向の引張強度SMDと機械垂直方向の引張強度STDの比を制御する方法としては特に限定されるものではないが、例えばポリオレフィン多孔質基材の引張強度のバランスを制御する方法等が挙げられる。
【0016】
本発明の非水系二次電池用セパレータは、非水系二次電池のエネルギー密度の観点から、全体の膜厚が30μm以下であることが好ましい。セパレータのガーレ値(JIS・P8117)は、機械強度と膜抵抗のバランスが良くなるという観点から、100〜500sec/100ccであることが好ましい。セパレータの膜抵抗は、非水系二次電池の負荷特性の観点から、1.5〜10ohm・cmであることが好ましい。
【0017】
[ポリオレフィン多孔質基材]
本発明のセパレータに用いるポリオレフィン多孔質基材は、内部に多数の空孔ないし空隙を有し、かつ、これら空孔等が互いに連結された多孔質構造を有したものであれば特に限定されるものではない。このような基材としては、例えば微多孔膜、不織布、紙状シート、その他三次元ネットーワーク構造を有するシート等が挙げられる。このうちハンドリング性や強度の観点から微多孔膜が好ましい。また、当該ポリオレフィン多孔質基材は、所定の温度まで加熱されることにより、空孔等が閉塞し、シャットダウン機能が発現されるようになっている。
【0018】
ポリオレフィンとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。中でも良好なシャットダウン特性が得られるという観点で、ポリエチレンを90重量%以上含むものが好適である。ポリエチレンは、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどが好適に用いられ、特に、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンが好適である。さらに、高密度ポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの混合物からなるポリエチレンは、強度と成形性の観点から好ましい。
【0019】
ポリオレフィン多孔質基材の膜厚は、非水系二次電池のエネルギー密度、負荷特性、機械強度およびハンドリング性の観点から、5〜25μmであることが好ましい。ポリオレフィン多孔質基材の空孔率は、透過性、機械強度およびハンドリング性の観点から、30〜60%であることが好ましい。ポリオレフィン多孔質基材のガーレ値(JIS・P8117)は、機械強度と膜抵抗をバランス良く得るという観点から、50〜500sec/100ccであることが好ましい。
【0020】
本発明において、ポリオレフィン多孔質基材は、機械方向における引張強度をSMD’とした時、SMD’が4〜100Nであることが、工程通過性の観点から好ましい。また、ポリオレフィン多孔質基材は、機械垂直方向における引張強度をSTD’とした時、STD’が2〜20Nであることが、工程通過性の観点から好ましい。そして、ポリオレフィン多孔質基材は、SMD’/STD’が2〜8であることが、セパレータの引張強度のバランスを上述した範囲に制御する上で好ましい。
【0021】
また、ポリオレフィン多孔質基材の機械方向における引張強度SMD’と、複合膜である本発明の非水系二次電池用セパレータの機械方向の引張強度SMDとの比は、0.9≦SMD/SMD’≦1.2であることが好ましい。また、ポリオレフィン多孔質基材の機械垂直方向における引張強度STD’と、複合膜である本発明の非水系二次電池用セパレータの機械方向の引張強度STDとの比は、0.9≦STD/STD’≦1.2であることが好ましい。
【0022】
[ポリオレフィン多孔質基材の製造法]
本発明において、ポリオレフィン多孔質基材の製造法に特に制限は無いが、例えばポリオレフィン微多孔膜を例にとると、下記(1)〜(6)の工程を経て製造することができる。
(1)ポリオレフィン溶液の調整
ポリオレフィンを溶剤に溶解させた溶液を調整する。この時、溶剤を混合して溶液を作成しても構わない。溶剤としては、例えばパラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチルジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等が挙げられる。ポリオレフィン溶液の濃度は1〜35重量%が好ましく、より好ましくは10〜30重量%である。
(2)ポリオレフィン溶液の押出
調整した溶液を一軸押出機、もしくは二軸押出機で混練し、融点以上かつ融点+60℃以下の温度でTダイもしくはIダイで押し出す。好ましくは二軸押出機を用いる。そして、押し出した溶液をチルロールまたは冷却浴に通過させて、ゲル状組成物を形成する。この際、ゲル化温度以下に急冷しゲル化することが好ましい。
(3)脱溶媒処理
次いで、ゲル状組成物から溶媒を除去する。揮発性溶剤を使用する場合、予熱工程も兼ねて加熱等により蒸発させゲル状組成物から溶媒を除くこともできる。また不揮発性溶媒の場合は圧力をかけて絞り出すなどして溶媒を除くことができる。なお溶媒は完全に除く必要はない。
(4)ゲル状組成物の延伸
脱溶媒処理に次いで、ゲル状組成物を延伸する。ここで、延伸処理の前に弛緩処理を行っても良い。延伸処理は、ゲル状成形物を加熱し、通常のテンター法、ロール法、圧延法もしくはこれらの方法の組合せによって所定の倍率で2軸延伸する。2軸延伸は、同時または逐次のどちらであってもよい。また縦多段延伸や3、4段延伸とすることもできる。
延伸温度は、90℃〜ポリオレフィンの融点未満であることが好ましく、さらに好ましくは100〜120℃である。延伸倍率は、原反の厚さによって異なるが、1軸方向で少なくとも2倍以上、好ましくは4〜20倍で行うことが好ましい。特に、引張り強度を制御するという観点では、延伸倍率が機械方向に4〜10倍、また機械垂直方向に6〜15倍であることが好ましい。延伸後は必要に応じて熱固定を行い、熱寸法安定性を持たせる。
(5)溶剤の抽出・除去
延伸後のゲル状組成物を抽出溶剤に浸漬して、溶媒を抽出する。抽出溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、デカリン、テトラリンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、メチレンクロライドなどの塩素化炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類など易揮発性のものを用いることができる。これらの溶剤はポリオレフィン組成物の溶解に用いた溶媒に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いることができる。溶媒の抽出は、微多孔膜中の溶媒を1重量%未満に迄除去する。
(6)微多孔膜のアニール
微多孔膜をアニールにより熱セットする。アニールは80〜150℃で実施する。本発明においては、所定の熱収縮率を有するという観点から、アニール温度が115〜135℃であることが好ましい。
【0023】
[耐熱性多孔質層]
本発明において、耐熱性多孔質層としては、微多孔膜状、不織布状、紙状、その他三次元ネットーワーク状の多孔質構造を有した層を挙げることができるが、より優れた耐熱性が得られる点で、微多孔膜状の層であることが好ましい。ここで、微多孔膜状の層とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層のことを言う。
【0024】
本発明で用いられる耐熱性樹脂は、融点200℃以上のポリマー、あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマーが適当である。このような耐熱性樹脂の好ましい例としては、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドおよびセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。特に、耐久性の観点から、メタ型全芳香族ポリアミドあるいはパラ型全芳香族ポリアミドが好適である。
【0025】
本発明において、耐熱性多孔質層はポリオレフィン微多孔膜の両面または片面に形成すればよいが、ハンドリング性、耐久性および熱収縮の抑制効果の観点から、基材の表裏両面に形成した方が好ましい。なお、耐熱性多孔質層を基材上に固定するためには、耐熱性多孔質層を塗工法により基材上に直接形成する手法が好ましいが、これに限らず、別途製造した耐熱性多孔質層のシートを基材上に接着剤等を用いて接着する手法や、熱融着や圧着などの手法も採用することができる。
【0026】
本発明において、耐熱性多孔質層の厚みについては、耐熱性多孔質層が基材の両面に形成されている場合は、耐熱性多孔質層の厚みの合計が3μm以上12μm以下であることが好ましく、耐熱性多孔質層が基材の片面にのみ形成されている場合は耐熱性多孔質層の厚みが3μm以上12μm以下であることが好ましい。耐熱性多孔質層の空孔率は30〜80%の範囲が好適である。耐熱性多孔質層の目付けは、使用材料により異なるものであるため一概には言えないが、概ね2〜10g/mであることが好適である。
【0027】
本発明において、耐熱性多孔質層には無機フィラーが含まれていることが好ましい。無機フィラーとしては、特に限定はないが、例えばアルミナやチタニア、シリカ、ジルコニアなどの金属酸化物、炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩、リン酸カルシウムなどの金属リン酸塩、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0028】
中でも、無機フィラーとしては、200〜400℃において吸熱反応を生じるものであるものが好ましい。この様な特性を有する無機フィラーとしては、例えば金属水酸化物、硼素塩化合物または粘土鉱物等からなる無機フィラーであって、200〜400℃において吸熱反応を生じるものが挙げられる。具体的には、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム、ドーソナイト、硼酸亜鉛等が挙げられ、これらは単独若しくは2種以上を組合せて用いることができる。
【0029】
本発明において、無機フィラーの平均粒子径は、高温時の耐短絡性や成形性等の観点から、0.1〜2μmの範囲が好ましい。耐熱性多孔質層における無機フィラーの含有量は、50〜95重量%であることが好ましい。
【0030】
なお、耐熱性多孔質層中の無機フィラーは、耐熱性多孔質層が微多孔膜状である場合は耐熱性樹脂に捕捉された状態で存在しており、耐熱性多孔質層が不織布等の場合は構成繊維中に存在するか、樹脂などのバインダーにより不織布表面等に固定されていればよい。
【0031】
[非水系二次電池用セパレータの製造法]
本発明において、非水系二次電池用セパレータの製造法は、上述した構成の本発明のセパレータが製造できれば特に限定されないが、例えば下記(1)〜(5)の工程を経て製造することが可能である。
(1)塗工用スラリーの作製
耐熱性樹脂を溶剤に溶かし、塗工用スラリーを作製する。溶剤は耐熱性樹脂を溶解するものであればよく、特に限定は無いが、具体的には極性溶剤が好ましく、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。また、当該溶剤はこれらの極性溶剤に加えて耐熱性樹脂に対して貧溶剤となる溶剤も加えることができる。このような貧溶剤を適用することでミクロ相分離構造が誘発され、耐熱性多孔質層を形成する上で多孔化が容易となる。貧溶剤としては、アルコールの類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。塗工用スラリー中の耐熱性樹脂の濃度は4〜9重量%が好ましい。また必要に応じ、これに無機フィラーを分散させて塗工用スラリーとする。塗工用スラリー中に無機フィラーを分散させるに当たって、無機フィラーの分散性が好ましくないときは、無機フィラーをシランカップリング剤などで表面処理し、分散性を改善する手法も適用可能である。
(2)スラリーの塗工
スラリーをポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の表面に塗工する。ポリオレフィン微多孔膜の両面に耐熱性多孔質層を形成する場合は、基材の両面に同時に塗工することが、工程の短縮という観点で好ましい。塗工用スラリーを塗工する方法としては、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。この中でも、塗膜を均一に形成するという観点において、リバースロールコーター法が好適である。基材の両面に同時に塗工する場合は、例えば、基材を一対のマイヤーバーの間に通すことで基材の両面に過剰な塗工用スラリーを塗布し、これを一対のリバースロールコーターの間に通して過剰なスラリーを掻き落すことで精密計量するという方法が挙げられる。
(3)スラリーの凝固
スラリーが塗工された基材を、前記耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液で処理する。塗工用スラリーを塗工した基材を、当該耐熱性樹脂を凝固させることが可能な凝固液、あるいは湿熱雰囲気下で処理することにより、耐熱性樹脂を凝固させて、耐熱性多孔質層を形成する。凝固液で処理する方法としては、塗工用スラリーを塗工した基材に対して凝固液をスプレーで吹き付ける方法や、当該基材を凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法や、所定の湿度と温度の雰囲気下で析出させ、続いてに凝固浴に浸漬して凝固させる方法などが挙げられる。ここで、凝固浴を設置する場合は、塗工装置の下方に設置することが好ましい。凝固液としては、当該耐熱性樹脂を凝固できるものであれば特に限定されないが、水、または、スラリーに用いた溶剤に水を適当量混合させたものが好ましい。ここで、水の混合量は凝固液に対して40〜80重量%が好適である。水の量が40重量%より少ないと、耐熱性樹脂を凝固するのに必要な時間が長くなったり、凝固が不十分になったりという問題が生じる。また、水の量が80重量%より多いと、溶剤回収においてコスト高となったり、凝固液と接触する表面の凝固が速くなりすぎて表面が十分に多孔化されなかったりという問題が生じる。
(4)凝固液の除去
凝固液を水洗することによって除去する。
(5)乾燥
シートから水を乾燥して除去する。乾燥方法は特に限定は無いが、乾燥温度は50〜80℃が好適であり、高い乾燥温度を適用する場合は熱収縮による寸法変化が起こらないようにするためにロールに接触させるような方法を適用することが好ましい。
【0032】
[非水系二次電池]
本発明において、非水系二次電池は、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、上述したセパレータを用いたことを特徴とする。本発明のセパレータが適用される非水系二次電池の種類や構成は、何ら限定されるものではないが、正極とセパレータと負極が順に積層された電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となった構成であれば、いずれにも適用可能である。
【0033】
負極は、負極活物質、導電助剤およびバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料が挙げられ、例えば炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズ、ウッド合金などが挙げられる。導電助剤は、アセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。集電体には銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔などを用いることが可能である。
【0034】
正極は、正極活物質、導電助剤およびバインダーからなる正極合剤が、集電体上に成形された構造となっている。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePO、LiCo0.5Ni0.5、LiAl0.25Ni0.75等が挙げられる。導電助剤はアセチレンブラック、ケッチェンブラックといった炭素材料が挙げられる。バインダーは有機高分子からなり、例えばポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。集電体にはアルミ箔、ステンレス箔、チタン箔などを用いることが可能である。
【0035】
電解液は、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した構成である。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClOなどが挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネートなどが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。
【0036】
外装材は、金属缶またはアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型などがあるが、本発明のセパレータはいずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0038】
本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
[膜厚]
ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの膜厚は、接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することで求めた。ここで接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状のものを用いた。
[目付け]
非水系二次電池用セパレータの目付は、サンプルを10cm×10cmに切り出し重量を測定する。この重量を面積で割ることで1m当たりの重量である目付を求めた。
[空孔率]
構成材料がa、b、c…、nからなり、構成材料の重量がWa、Wb、Wc…、Wn(g・cm)であり、それぞれの真密度がda、db、dc…、dn(g/cm)で、着目する層の膜厚をt(cm)としたとき、空孔率ε(%)は以下の式より求めた。
ε={1−(Wa/da+Wb/db+Wc/dc+…+Wn/dn)/t}×100
[引張強度]
ポリオレフィン微多孔膜及び非水系二次電池用セパレータの引張強度は、10×100mmに調整したサンプルを引張試験機(A&D社製、RTC−1225A)を用い、ロードセル荷重5kgf、チャック間距離50mmの条件で測定した。
[工程通過性]
10×100mmに調整したサンプルを直径1mmのステンレス製の棒にたるみが無いように1.5Nの張力で巻きつけた。そして、機械方向及び機械垂直方向へのサンプルの変形が共に5%以内にあるサンプルを工程通過性が良好(○)と判断し、5%を超えたサンプルを不良(×)と判断した。
【0039】
[参考例1]
ポリエチレンパウダーとしてTicona社製GUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143を2:8(重量比)となる様にして、ポリエチレン濃度が30重量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製スモイルP−350:沸点480℃)とデカリン(和光純薬社製、沸点193℃)の混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。該ポリエチレン溶液の組成はポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:67.5:2.5(重量比)である。
【0040】
このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。該ベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、該ベーステープを縦延伸、横延伸を逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸8.5倍、延伸温度は90℃、横延伸は延伸倍率6倍、延伸温度は105℃とした。この後、120℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理することでポリオレフィン微多孔膜を得た。得られたポリオレフィン微多孔膜はフィブリル状ポリオレフィンが網目状に交絡し、細孔を構成する構造を有するものであった。
【0041】
得られたポリオレフィン微多孔膜の特性(膜厚、目付、空孔率、機械方向の引張強度SMD’、機械垂直方向の引張強度STD’、引張強度の比SMD’/STD’)の測定結果を表1に示す。なお、以下の参考例2,3および参考比較例1,2についても同様に表1に示す。
【0042】
[参考例2]
延伸倍率を縦延伸11倍、横延伸5倍とした以外は参考例1と同様にしてポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0043】
[参考例3]
延伸倍率を縦延伸7倍、横延伸8倍とした以外は参考例1と同様にしてポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0044】
[参考比較例1]
延伸倍率を縦延伸6.2倍、横延伸9倍としたこと以外、参考例1と同様にポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0045】
[参考比較例2]
延伸倍率を縦延伸13倍、横延伸4倍としたこと以外、参考例1と同様にポリオレフィン微多孔膜を得た。
【0046】
【表1】

【0047】
[実施例1]
参考例1で得られたポリオレフィン微多孔膜を用い、これに耐熱性樹脂と無機フィラーからなる耐熱性多孔質層を積層させて、本発明の非水系二次電池用セパレータを製造した。
【0048】
具体的に、耐熱性樹脂として、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(帝人テクノプロダクツ社製、コーネックス)を用いた。この耐熱性樹脂を、ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)が重量比50:50となっている混合溶媒に溶解させた。このポリマー溶液に、無機フィラーとしての水酸化マグネシウム(協和化学工業社製、キスマ−5P、平均粒子径1.0μm)を分散させて、塗工用スラリーを作製した。なお、塗工用スラリーにおけるポリメタフェニレンイソフタルアミドの濃度は5.5重量%となるようにし、かつ、ポリメタフェニレンイソフタルアミドと無機フィラーの重量比は25:75となるように調整した。そして、マイヤーバーを2本対峙させ、その間に塗工液を適量のせた。この後、ポリオレフィン微多孔膜を、塗工液がのっているマイヤーバー間を通過させて、ポリオレフィン微多孔膜の表裏面に塗工液を塗工した。ここで、マイヤーバー間のクリアランスは20μmに設定し、マイヤーバーの番手は2本とも#6を用いた。これを重量比で水:DMAc:TPG=50:25:25で40℃となっている凝固液中に浸漬し、次いで水洗・乾燥を行った。これにより、ポリオレフィン微多孔膜の表裏両面に耐熱性多孔質層が形成された非水系二次電池用セパレータを得た。
【0049】
得られた非水系二次電池用セパレータの特性(膜厚、目付、空孔率、機械方向の引張強度SMD、機械垂直方向の引張強度STD、引張強度の比SMD/STD、工程通過性)の測定結果を表2に示す。なお、以下の実施例2,3および比較例1,2についても同様に表2に示す。
【0050】
[実施例2]
ポリオレフィン微多孔膜として参考例2で作製したものを使用した以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
【0051】
[実施例3]
ポリオレフィン微多孔膜として参考例3で作製したものを使用した以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
【0052】
[比較例1]
ポリオレフィン微多孔膜として参考比較例1で作製したものを使用した以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
【0053】
[比較例2]
ポリオレフィン微多孔膜として参考比較例2で作製したものを使用した以外は、実施例1と同様にして非水系二次電池用セパレータを得た。
【0054】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン多孔質基材と、耐熱性樹脂を含んで形成され前記多孔質基材の片面または両面に積層された耐熱性多孔質層と、を備えた非水系二次電池用セパレータであって、
当該セパレータの機械方向の引張強度SMDと機械垂直方向の引張強度STDの比が、2≦SMD/STD≦8であることを特徴とする非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記耐熱性樹脂がメタ型全芳香族ポリアミドまたはパラ型全芳香族ポリアミドであることを特徴とする請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記耐熱性多孔質層には無機フィラーが含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記無機フィラーが、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属リン酸塩、金属水酸化物から選ばれる少なくとも1つ以上であることを特徴とする請求項3に記載の非水系二次電池用セパレータ。

【公開番号】特開2011−210573(P2011−210573A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77708(P2010−77708)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】