非水系空気電池
【課題】非水系空気電池において、充放電効率をより高める。
【解決手段】本発明の非水系空気電池は、酸素の酸化還元触媒を有する正極26と、負極活物質を有する負極24と、正極26と負極24との間に介在し、Csイオン及びNaイオンのうち少なくとも一方である添加イオンと、Liイオンと、を含む電解液28とを備えている。この添加イオンの割合は、Liイオンに対するモル比で0.10以上0.50以下の範囲で含まれている。この添加イオンの割合は、Liイオンに対するモル比で0.15以上0.45以下の範囲で含まれていることがより好ましい。また、電解液28は、添加イオンとしてCsイオンを含んでいることがより好ましい。
【解決手段】本発明の非水系空気電池は、酸素の酸化還元触媒を有する正極26と、負極活物質を有する負極24と、正極26と負極24との間に介在し、Csイオン及びNaイオンのうち少なくとも一方である添加イオンと、Liイオンと、を含む電解液28とを備えている。この添加イオンの割合は、Liイオンに対するモル比で0.10以上0.50以下の範囲で含まれている。この添加イオンの割合は、Liイオンに対するモル比で0.15以上0.45以下の範囲で含まれていることがより好ましい。また、電解液28は、添加イオンとしてCsイオンを含んでいることがより好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、負極活物質に金属を用い、正極活物質に空気中の酸素を用いる充放電可能な空気電池が知られている。こうした空気電池では、正極活物質である酸素を電池内に内蔵する必要がないため高容量化が期待される。リチウムを負極活物質とする空気電池では、正極において酸素の電気化学反応が起こり、放電時にリチウム過酸化物やリチウム酸化物が生成し、充電時にこれらの酸化物が分解して酸素ガスが生成する。このような正極での酸素の酸化還元反応を促進するために、正極には触媒を含めることが多い。例えば特許文献1には、触媒としてコバルトフタロシアニンやコバルトポルフィリンなどを正極表面に担持させることが記載されている。また、非特許文献1には電解二酸化マンガンを担持させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−286414号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(J.Am.Chem.Soc.)、128巻、1390−1393頁、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、非水系空気電池の二次電池化に向けての課題に、放電電圧に対して、充電電圧が著しく高く、クーロン効率が極めて低いことが挙げられる。例えば、非特許文献1においては、放電電圧が2.7V前後であるのに対して、正極触媒を用いても、充電電圧が4.0V以上であることが例示されている。また、非水系空気電池の二次電池化に向けての課題に、放電容量に対して充電容量が少ない、即ち、不可逆容量が大きいことが挙げられる。このような、充放電効率の低下を低減することが望まれていた。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、充放電効率をより高めることができる非水系空気電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、非水系電解液にLiイオンのほかにNaイオンやCsイオンを共存させると充放電効率をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の非水系空気電池は、酸素の酸化還元触媒を有する正極と、負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、Csイオン及びNaイオンのうち少なく一方である添加イオンと、Liイオンと、を含み、添加イオンの割合がLiイオンに対するモル比で0.10以上0.50以下の範囲で含まれている非水系イオン伝導媒体と、とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の非水系空気電池は、充放電効率をより高めることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、空気電池においては、充放電時に、酸素ラジカル(O2・)が生成することがある。この酸素ラジカルは、Liイオンとの反応性が高く、不安定で反応性の高いラジカル(LiO2・)が生じやすい。このLiO2・が多量に生じると、電解液の成分などと反応して不可逆容量が生じるものと推察される。ここに、CsイオンやNaイオンが存在すると、イオン半径の大きなCsイオンやNaイオンによって遮蔽され、このLiO2・の生成がブロッキングされることが考えられる。また、Cs2O2やNa2O2などは、Li2O2よりも放電時に生成する酸素ラジカルに対して化学的に安定であるから、Cs2O2やNa2O2などが優先的に生成されることにより、LiO2・の生成がより抑制され、不可逆容量が減少するものとも推察される。あるいは、Csイオンでは、負極Li表面でCsを含む被膜が生成し、この被膜により電解液の分解が抑制され、不可逆容量が減少するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】F型電気化学セル20の説明図。
【図2】実施例1の充放電曲線。
【図3】実施例2の充放電曲線。
【図4】比較例1の充放電曲線。
【図5】実施例3の充放電曲線。
【図6】実施例4の充放電曲線。
【図7】実施例5の充放電曲線。
【図8】実施例8の充放電曲線。
【図9】実施例9の充放電曲線。
【図10】比較例2の充放電曲線。
【図11】比較例3の充放電曲線。
【図12】比較例4の充放電曲線。
【図13】実施例10の充放電曲線。
【図14】比較例5の充放電曲線。
【図15】実施例1及び比較例1の正極上の析出物の二次イオン質量分析結果。
【図16】不可逆容量とCsの添加モル比との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の非水系空気電池は、酸素の酸化還元触媒を有する正極と、負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、Csイオン及びNaイオンのうち少なく一方である添加イオンと、Liイオンと、を含む非水系イオン伝導媒体と、とを備えたものである。
【0012】
本発明の非水系空気電池において、非水系イオン伝導媒体は、非水系電解液としてもよい。この非水系電解液は、例えばリチウムを有する支持塩を非水系の溶媒に溶解させたものであってもよい。リチウムを有する支持塩は、特に限定されるものではないが、例えば、ヘキサフルオロホスフェート塩(LiPF6),パークロレート塩(LiClO4),テトラフルオロボレート塩(LiBF4),ペンタフルオロアルシン塩(LiAsF5),ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(Li(CF3SO2)2N),ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド塩(LiN(C2F5SO2)2),トリフルオロメタンスルホン酸塩(Li(CF3SO3)),ノナフルオロブタンスルホン酸塩(Li(C4F9SO3))、などの公知の支持塩を用いることができる。このうち、パークロレート塩、テトラフルオロボレート塩、イミド塩であることが好ましく、Li(CF3SO2)2Nがより好ましい。また、ペンタフルオロアルシン塩(LiAsF5)も好ましい。この支持塩の濃度としては、0.1mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上1.2mol/L以下であることがより好ましい。リチウムを有する支持塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
電解液の溶媒には、3−メトキシプロピオニトリルやジメチルスルホキシド、アセトニトリルの重水素化溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド−d6、アセトニトリル−d3のいずれかの重水素化溶媒を用いることが好ましい。また、N,N−ジエチル−N−エチル‐N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、N−メチル−N−プロピルピペリジウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、などのイオン液体や、これらのいずれか1以上に、上記重水素化溶媒を混合した混合溶媒としてもよい。また、電解液の代わりに、公知のゲル電解質を用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子、アミノ酸誘導体、ソルビトール誘導体などの糖類に、上記支持塩を含む電解液を含ませてなるゲル電解質が挙げられる。その他に、エチレンカーボネート,プロピレンカーボネート,ブチレンカーボネート,ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジエチルカーボネート,ジメチルカーボネート,エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、ガンマブチロラクトン,ガンマバレロラクトンなどの環状エステルカーボネート、テトラヒドロフラン,2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル、ジメトキシエタン,エチレングリコールジメチルエーテルなどの鎖状エーテルなどのほか、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、3−メトキシプロピオニトリル、リン酸トリメチル、リン酸トリフェニル、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの公知の有機溶媒を用いることができる。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよいが、2以上を混合して用いてもよい。
【0014】
この非水系イオン伝導媒体は、Csイオン及びNaイオンのうち少なく一方である添加イオンAを含んでいる。このうち、添加イオンAとしては、Csがより好ましい。この添加イオンAの割合は、Liイオンに対するモル比(A/Li)で、0.10以上0.50以下の範囲で含まれているが、0.15以上0.45以下の範囲で含まれているのがより好ましく、0.25以上0.40以下の範囲で含まれているのが更に好ましい。A/Liが0.10以上であれば、添加イオンの添加効果、例えば不可逆容量をより効果的に低減することができ、A/Liが0.50以下であれば、充放電容量をより高めることができる。
【0015】
本発明の非水系空気電池において、正極は、酸素の酸化還元触媒を含んでいる。この正極は、気体からの酸素を正極活物質とするものである。気体としては、空気であってもよいし酸素ガスであってもよい。酸素の酸化還元触媒としては、二酸化マンガン、四酸化三コバルトなどの金属酸化物であってもよいし、Pt、Pd、Coなどの金属であってもよいし、金属ポルフィリン、金属フタロシアニン、イオン化フラーレン、カーボンナノチューブなどの有機及び無機化合物であってもよい。このうち、電解二酸化マンガンであれば、容易に入手することができる点で好ましい。また、酸素の酸化還元触媒としては、安定なラジカル骨格を含む構造を有する安定ラジカル化合物であってもよい。ここで、安定なラジカル骨格とは、ラジカルとして存在している時間の長いものをいい、例えば電子スピン共鳴分析で測定されたスピン密度が1019spins/g以上、好ましくは1021spins/g以上のものとしてもよい。安定なラジカル化合物としては、例えば、ニトロキシルラジカルを有する骨格、オキシラジカルを有する骨格、窒素ラジカルを有する骨格、硫黄ラジカルを有する骨格、炭素ラジカルを有する骨格及びホウ素ラジカルを有する骨格からなる群より選ばれたラジカル骨格を有するものが好ましい。具体的には、式(1)〜(9)に示すようなニトロキシルラジカルを有する骨格、式(10)に示すようなフェノキシラジカル(オキシラジカル)を有する骨格、式(11)〜(13)に示すようなヒドラジルラジカル(窒素ラジカル)を有する骨格、式(14),(15)に示すような炭素ラジカルを有する骨格を含むものなどが挙げられる。このうち、特にニトロキシルラジカルを有する骨格を含むものが好ましく、式(1),(2),(4)に示すような骨格を有するものがより好ましい。安定ラジカル化合物は、上述した骨格単独のものであってもよいが、多環式芳香環が安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物であってもよいし、ポリマーが安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物であってもよい。前者の場合には、正極中で個々に分散して存在しやすいため還元触媒機能を十分発揮することができ、後者の場合には、正極から流出しにくいため長期にわたって還元触媒機能を発揮することができる。多環式芳香環としては、例えばナフタレンやフェナレン、トリフェニレン、アントラセン、ペリレン、フェナントレン、ピレンなどが挙げられる。ポリマーとしては、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどが挙げられる。ポリマーや多環式芳香環は、ラジカル骨格に直接連結していてもよいし、エステル結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合、カルバミド結合、エーテル結合及びスルフィド結合からなる群より選ばれたものをスペーサとし該スペーサを介してラジカル骨格に連結していてもよい。式(16)は多環式芳香環(ピレン)がスペーサ(アミド結合)を介して安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物の一例であり、式(17)はポリマー(ポリプロピレン)がスペーサ(エステル結合)を介して安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物の一例である。なお、ポリマーは数平均分子量が5千以上50万以下であることが好ましく、重量平均分子量が1万以上100万以下であることが好ましい。酸化還元触媒は正極合材あたり2重量%以上60重量%以下であることが好ましく、50重量%以上60重量%以下であることがより好ましい。2重量%以上であれば酸素の酸化還元を行うのに少なすぎず、60重量%以下であれば、後述する導電材や結着剤が少なくなりすぎず電気伝導性や強度を確保することができる。
【0016】
【化1】
【0017】
【化2】
【0018】
本発明のリチウム二次電池の正極は、例えばリチウムを吸蔵放出可能な正極活物質と導電材と結着剤とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着剤は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。バインダ量としては、触媒を担持した導電材100重量部に対し3重量部以上15重量部以下であることが好ましい。3重量部以上であれば、正極の強度を保つために十分であり、15重量部以下であれば、酸化還元触媒や導電材の量が少なくなりすぎず、電池反応の進行を阻害しないと考えられるからである。正極活物質、導電材、結着剤を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、酸素の拡散を速やかに行わせるため、網状やメッシュ状など多孔体であることが好ましく、ステンレス鋼やニッケル、アルミニウム、銅などの多孔体の金属板であってもよい。なお、この集電体は、酸化を抑制するためにその表面に耐酸化性の金属または合金の被膜を被覆したものでもよい。また、InSnO2、SnO2、ZnO、In2O3等の透明導電材又はフッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)、アンチモンドープ酸化錫(SnO2:Sb)、錫ドープ酸化インジウム(In2O3:Sn)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、ガリウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)等の不純物がドープされた材料の単層又は積層を、ガラスや高分子上に形成させたものでもよい。その膜厚は、特に限定されるものではないが、3nm以上10μm以下であることが好ましい。なお、ガラスや高分子の表面はフラットなものでもよいし、表面に凹凸を有しているものでもよい。
【0019】
本発明の非水系空気電池において、負極は、負極活物質を有するものである。この負極活物質は、少なくともリチウムを吸蔵放出可能なものであればよく、空気電池に使用されるものであれば特に限定されない。リチウムを吸蔵放出可能な負極としては、例えば金属リチウムやリチウム合金のほか、金属酸化物、金属硫化物、リチウムを吸蔵放出する炭素質物質などが挙げられる。リチウム合金としては、例えばアルミニウムやスズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、シリコンなどとリチウムとの合金が挙げられる。金属酸化物としては、例えばスズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物などが挙げられる。金属硫化物としては、例えばスズ硫化物やチタン硫化物などが挙げられる。リチウムを吸蔵放出する炭素質物質としては、例えば黒鉛、コークス、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素などが挙げられる。この他、リン化鉄などとしてもよい。このような負極活物質を有するものとすれば、リチウム空気電池とすることができる。負極に用いられる導電材、結着剤、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。
【0020】
本発明の非水系空気電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、非水系空気電池の使用に耐え得る組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0021】
本発明の非水系空気電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0022】
以上詳述した本実施形態の非水系空気電池は、充放電効率をより高めることができる。この理由は、明らかではないが、例えば、比較的イオン半径の大きいCsイオンやNaイオンの存在による遮蔽効果により、不安定で反応性の高いラジカル(LiO2・)の生成がより抑制され、副次的な反応が抑制されるためではないかと推察される。あるいは、Li2O2よりも化学的に安定であるCs2O2やNa2O2などが優先的に生成されるため、LiO2・の生成がより抑制されるとも推察される。あるいは、Csイオンでは、負極Li表面でCsを含む被膜が生成し、この被膜により電解液の分解が抑制されるためであると推察される。
【0023】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0024】
以下には、本発明の非水系空気電池を具体的に作成した例を示す。
【0025】
[評価セルの作製]
図1は充放電試験に使用したF型電気化学セル20(北斗電工製)の断面図である。F型電気化学セル20はアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で次のようにして組み立てた。まず、SUS製のケーシング22に負極24を設置し、正極26と負極24とを対向するようにセットし、電解液28を5mL注入した。その後、正極26に発泡ニッケル板32を載せ、その上に、空気が正極26側へ流通可能なガス溜め34を配置し、セルを固定して実施例1の電気化学セルを得た。なお、F型電気化学セル20のガス溜め34にはドライ酸素を充填した。
【0026】
[充放電試験]
北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)にF型セルを接続し、正極と負極の間で正極材料あたり20mA/gの電流を流して、最大で正極合材あたり800mAh/gまで放電し、その後、10mA/gの電流で4.0Vまで充電し、不可逆容量を求めた。不可逆容量は放電容量と充電容量の差分値を放電容量800mAh/gで除算して算出した百分率で標記した。
【0027】
(実施例1)
正極は次のようにして作製した。触媒として電解二酸化マンガンを10重量部、導電助剤としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP−600JD)を85重量部、バインダーとしてテフロンパウダー(テフロン:登録商標,ダイキン工業製)を5重量部の比率で、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせた後、薄膜状に成形した合材を5mg、ステンレス製のメッシュ(ニラコ製SUS304)に圧着して、真空乾燥を行い、非水電解液空気二次電池の正極とした。負極は、直径10mm、厚さ0.4mmの金属リチウム(本城金属製)を用いた。図1に示す北斗電工製のF型電気化学セルにアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で正極と負極をセットし、1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド(東京化成製)溶液4mLに、1mol/Lの過塩素酸ナトリウム(関東化学製)/ジメチルスルホキシド溶液1mLを混合し、その混合溶液5mLをF型セルに注入した。実施例1では、Liに対するNaのモル比Na/Liは、0.25であった。図2は、実施例1の評価セルの充放電測定結果である。この実施例1の評価セルの不可逆容量は12%であった。
【0028】
(実施例2)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液6mLに、1mol/Lの過塩素酸ナトリウム/ジメチルスルホキシド溶液1mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例2とした。実施例2では、Liに対するNaのモル比Na/Liは、0.17であった。図3は、実施例2の評価セルの充放電測定結果である。この実施例2の評価セルの不可逆容量は21.9%であった。
【0029】
(比較例1)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液5mLのみの電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを比較例1とした。比較例1では、Liに対する添加イオンA(Na又はCs)のモル比A/Liは、0である。図4は、比較例1の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は27.6%であった。
【0030】
(実施例3)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液6mLに、1mol/Lの過塩素酸セシウム(アルドリッチ製)/ジメチルスルホキシド溶液1mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例3とした。実施例3では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.17であった。図5は、実施例3の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は11.2%であった。
【0031】
(実施例4)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液4mLに、1mol/Lの過塩素酸セシウム/ジメチルスルホキシド溶液1mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例4とした。実施例4では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.25であった。図6は、実施例4の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は0%であった。
【0032】
(実施例5)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液5mLに、1mol/Lの過塩素酸セシウム/ジメチルスルホキシド溶液2mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例5とした。実施例5では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.40であった。図7は、実施例5の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は0%であった。
【0033】
(実施例6)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液4mLに、1mol/Lの過塩素酸セシウム/ジメチルスルホキシド溶液2mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例6とした。実施例6では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.33であった。実施例6の評価セルの充放電測定結果では、不可逆容量は0%であった。また、この実施例6において、放電および充電のサイクルを5回行った。そのときの不可逆容量は、1回目が0%、2回目が0%、3回目が3.2%、4回目が7.8%及び5回目が10.8%であった。
【0034】
(実施例7)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液3mLに、1mol/Lの過塩素酸セシウム/ジメチルスルホキシド溶液3mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例7とした。実施例7では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.50であった。実施例7の評価セルの充放電測定結果では、不可逆容量は18.0%であった。
【0035】
(実施例8)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドのジメチルスルホキシド溶液5mLに、0.25gの過塩素酸セシウムを溶解した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例8とした。実施例8では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.21であった。図8は、実施例8の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は19.9%であった。
【0036】
(実施例9)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドのジメチルスルホキシド溶液5mLに、0.46gの過塩素酸セシウムを溶解した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例9とした。実施例9では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.42であった。図9は、実施例9の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は0%であった。
【0037】
(比較例2)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液3mLに、1mol/Lの過塩素酸セシウム/ジメチルスルホキシド溶液4mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを比較例2とした。比較例2では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.75であった。図10は、比較例2の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は53.0%であった。
【0038】
(比較例3)
1mol/Lの過塩素酸ナトリウム/ジメチルスルホキシド溶液5mLを電解液として用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを比較例3とした。比較例3では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、1.00である。図11は、比較例3の評価セルの充放電測定結果である。この比較例3の評価セルは、空気電池として30mAh/gと低い容量しか得られなかった。
【0039】
(比較例4)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液5mLに、1mol/Lの過塩素酸カリウム/ジメチルスルホキシド溶液2mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを比較例4とした。比較例4では、Liに対するKのモル比K/Liは、0.40であった。図12は、比較例4の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は30.8%であった。
【0040】
(実施例10)
正極は次のようにして作製した。触媒としてカーボンナノチューブ(CNI製)を77重量部、バインダーとしてテフロンパウダー(ダイキン工業製)を23重量部の比率で、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせた後、薄膜状に成形した合材を5mg、ステンレス製のメッシュ(ニラコ製SUS304)に圧着して、真空乾燥を行い、非水系空気電池の正極とした。この作製した正極を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例10とした。実施例10では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.20であった。図13は、実施例10の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は17.5%であった。
【0041】
(比較例5)
1mol/Lの過塩素酸ナトリウム/ジメチルスルホキシド溶液5mLを電解液として用いた以外は、実施例10と同様の工程により作製した評価セルを比較例5とした。比較例5では、Liに対する添加イオンAのモル比A/Liは、0である。図14は、比較例5の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は26.3%であった。
【0042】
(二次イオン質量分析)
実施例1及び比較例1の放電後の正極上に生成した析出物の二次イオン質量分析を行った。測定は、SIMS(ULVAC−PHI社製TRIFT II)を用いた。図15は、実施例1及び比較例1の放電後の正極上に生成した析出物の二次イオン質量分析結果である。図15に示すように、実施例1では、質量m/z=77.97にNa2O2に由来するシグナルが検出された。したがって、実施例1では、充放電時にNa2O2が生成していることがわかった。これに対して、比較例1では、質量m/z=46.02に現われるLi2O2に由来するシグナルは検出されなかった。
【0043】
(実験結果と考察)
表1は、実施例1〜10及び比較例1〜5の充放電試験の結果をまとめた表である。また、図16は、実施例3〜10及び比較例1〜3の不可逆容量とCsの添加モル比との関係をまとめた説明図である。表1及び図16に示すように、Na及びCsのいずれかの添加イオンを電解液に加えると、Li空気電池の不可逆容量が低減することが明らかとなった。この添加イオンAの量は、A/Liのモル比で、0.1以上0.5以下であることがよく、0.2以上0.45以下であることがより好ましいことがわかった。この理由について考察する。空気電池においては、充放電時に、酸素ラジカル(O2・)が生成することがある。この酸素ラジカルは、Liイオンとの反応性が高く、不安定で反応性の高いラジカル(LiO2・)が生じやすい。このLiO2・が多量に生じると、電解液の成分などと反応して不可逆容量が生じるものと推察される。ここに、CsイオンやNaイオンが存在すると、イオン半径の大きなCsイオンやNaイオンによって遮蔽され、このLiO2・の生成がブロッキングされることが考えられる。また、添加イオンがNaイオンの場合、放電後の正極上にはLiイオンの過酸化物(Li2O2)は検出されず、Naイオンの過酸化物(Na2O2)が検出されていることから、Li2O2よりもNa2O2の方が放電時に生成する酸素ラジカルに対して安定であることが予想される。このため、Na2O2の生成によりLiO2・の生成速度が低減する効果により不可逆容量が減少したものと推察される。一方、添加イオンがCsイオンの場合、Naイオンの場合と同様の理由により、不可逆容量が低減したとも考えられる。あるいは、Cs自体では空気電池としてほとんど作動しないことから、負極Li表面上でCsを含む被膜ができ、この被膜の作用によりLi表面での溶媒等の分解が抑制されて、結果として不可逆容量が減少したものと推察された。更に、Kにおいては、添加効果が得られなかった。この理由は明らかではないが、次のように考察することができる。例えば、酸素ラジカルと反応して生成すると考えられるKO2は、化学的に安定であるが、更に有機溶媒に溶解して酸素ラジカルを生成すると考えられる。この生成した酸素ラジカルにLiが反応するため、添加効果が生じにくいのではないかと推察された。このように、Li空気電池に1族元素を添加すればよいという単純なものではないことも明らかになった。
【0044】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の非水電解液空気電池は、主に電気化学産業に利用可能であり、例えばハイブリッド車や電気自動車の動力源、携帯電話やパソコンなど民生用家電機器の電源、ロードレベリング(負荷平準化)などへの電気化学的デバイスに利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
20 F型電気化学セル、22 ケーシング、24 負極、26 正極、28 電解液、32 発泡ニッケル板、34 ガス溜め。
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、負極活物質に金属を用い、正極活物質に空気中の酸素を用いる充放電可能な空気電池が知られている。こうした空気電池では、正極活物質である酸素を電池内に内蔵する必要がないため高容量化が期待される。リチウムを負極活物質とする空気電池では、正極において酸素の電気化学反応が起こり、放電時にリチウム過酸化物やリチウム酸化物が生成し、充電時にこれらの酸化物が分解して酸素ガスが生成する。このような正極での酸素の酸化還元反応を促進するために、正極には触媒を含めることが多い。例えば特許文献1には、触媒としてコバルトフタロシアニンやコバルトポルフィリンなどを正極表面に担持させることが記載されている。また、非特許文献1には電解二酸化マンガンを担持させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−286414号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(J.Am.Chem.Soc.)、128巻、1390−1393頁、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、非水系空気電池の二次電池化に向けての課題に、放電電圧に対して、充電電圧が著しく高く、クーロン効率が極めて低いことが挙げられる。例えば、非特許文献1においては、放電電圧が2.7V前後であるのに対して、正極触媒を用いても、充電電圧が4.0V以上であることが例示されている。また、非水系空気電池の二次電池化に向けての課題に、放電容量に対して充電容量が少ない、即ち、不可逆容量が大きいことが挙げられる。このような、充放電効率の低下を低減することが望まれていた。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、充放電効率をより高めることができる非水系空気電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、非水系電解液にLiイオンのほかにNaイオンやCsイオンを共存させると充放電効率をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の非水系空気電池は、酸素の酸化還元触媒を有する正極と、負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、Csイオン及びNaイオンのうち少なく一方である添加イオンと、Liイオンと、を含み、添加イオンの割合がLiイオンに対するモル比で0.10以上0.50以下の範囲で含まれている非水系イオン伝導媒体と、とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の非水系空気電池は、充放電効率をより高めることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、空気電池においては、充放電時に、酸素ラジカル(O2・)が生成することがある。この酸素ラジカルは、Liイオンとの反応性が高く、不安定で反応性の高いラジカル(LiO2・)が生じやすい。このLiO2・が多量に生じると、電解液の成分などと反応して不可逆容量が生じるものと推察される。ここに、CsイオンやNaイオンが存在すると、イオン半径の大きなCsイオンやNaイオンによって遮蔽され、このLiO2・の生成がブロッキングされることが考えられる。また、Cs2O2やNa2O2などは、Li2O2よりも放電時に生成する酸素ラジカルに対して化学的に安定であるから、Cs2O2やNa2O2などが優先的に生成されることにより、LiO2・の生成がより抑制され、不可逆容量が減少するものとも推察される。あるいは、Csイオンでは、負極Li表面でCsを含む被膜が生成し、この被膜により電解液の分解が抑制され、不可逆容量が減少するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】F型電気化学セル20の説明図。
【図2】実施例1の充放電曲線。
【図3】実施例2の充放電曲線。
【図4】比較例1の充放電曲線。
【図5】実施例3の充放電曲線。
【図6】実施例4の充放電曲線。
【図7】実施例5の充放電曲線。
【図8】実施例8の充放電曲線。
【図9】実施例9の充放電曲線。
【図10】比較例2の充放電曲線。
【図11】比較例3の充放電曲線。
【図12】比較例4の充放電曲線。
【図13】実施例10の充放電曲線。
【図14】比較例5の充放電曲線。
【図15】実施例1及び比較例1の正極上の析出物の二次イオン質量分析結果。
【図16】不可逆容量とCsの添加モル比との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の非水系空気電池は、酸素の酸化還元触媒を有する正極と、負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、Csイオン及びNaイオンのうち少なく一方である添加イオンと、Liイオンと、を含む非水系イオン伝導媒体と、とを備えたものである。
【0012】
本発明の非水系空気電池において、非水系イオン伝導媒体は、非水系電解液としてもよい。この非水系電解液は、例えばリチウムを有する支持塩を非水系の溶媒に溶解させたものであってもよい。リチウムを有する支持塩は、特に限定されるものではないが、例えば、ヘキサフルオロホスフェート塩(LiPF6),パークロレート塩(LiClO4),テトラフルオロボレート塩(LiBF4),ペンタフルオロアルシン塩(LiAsF5),ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩(Li(CF3SO2)2N),ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド塩(LiN(C2F5SO2)2),トリフルオロメタンスルホン酸塩(Li(CF3SO3)),ノナフルオロブタンスルホン酸塩(Li(C4F9SO3))、などの公知の支持塩を用いることができる。このうち、パークロレート塩、テトラフルオロボレート塩、イミド塩であることが好ましく、Li(CF3SO2)2Nがより好ましい。また、ペンタフルオロアルシン塩(LiAsF5)も好ましい。この支持塩の濃度としては、0.1mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上1.2mol/L以下であることがより好ましい。リチウムを有する支持塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
電解液の溶媒には、3−メトキシプロピオニトリルやジメチルスルホキシド、アセトニトリルの重水素化溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド−d6、アセトニトリル−d3のいずれかの重水素化溶媒を用いることが好ましい。また、N,N−ジエチル−N−エチル‐N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、N−メチル−N−プロピルピペリジウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−ブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、などのイオン液体や、これらのいずれか1以上に、上記重水素化溶媒を混合した混合溶媒としてもよい。また、電解液の代わりに、公知のゲル電解質を用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレングリコール、ポリアクリロニトリルなどの高分子、アミノ酸誘導体、ソルビトール誘導体などの糖類に、上記支持塩を含む電解液を含ませてなるゲル電解質が挙げられる。その他に、エチレンカーボネート,プロピレンカーボネート,ブチレンカーボネート,ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジエチルカーボネート,ジメチルカーボネート,エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、ガンマブチロラクトン,ガンマバレロラクトンなどの環状エステルカーボネート、テトラヒドロフラン,2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル、ジメトキシエタン,エチレングリコールジメチルエーテルなどの鎖状エーテルなどのほか、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、3−メトキシプロピオニトリル、リン酸トリメチル、リン酸トリフェニル、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの公知の有機溶媒を用いることができる。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよいが、2以上を混合して用いてもよい。
【0014】
この非水系イオン伝導媒体は、Csイオン及びNaイオンのうち少なく一方である添加イオンAを含んでいる。このうち、添加イオンAとしては、Csがより好ましい。この添加イオンAの割合は、Liイオンに対するモル比(A/Li)で、0.10以上0.50以下の範囲で含まれているが、0.15以上0.45以下の範囲で含まれているのがより好ましく、0.25以上0.40以下の範囲で含まれているのが更に好ましい。A/Liが0.10以上であれば、添加イオンの添加効果、例えば不可逆容量をより効果的に低減することができ、A/Liが0.50以下であれば、充放電容量をより高めることができる。
【0015】
本発明の非水系空気電池において、正極は、酸素の酸化還元触媒を含んでいる。この正極は、気体からの酸素を正極活物質とするものである。気体としては、空気であってもよいし酸素ガスであってもよい。酸素の酸化還元触媒としては、二酸化マンガン、四酸化三コバルトなどの金属酸化物であってもよいし、Pt、Pd、Coなどの金属であってもよいし、金属ポルフィリン、金属フタロシアニン、イオン化フラーレン、カーボンナノチューブなどの有機及び無機化合物であってもよい。このうち、電解二酸化マンガンであれば、容易に入手することができる点で好ましい。また、酸素の酸化還元触媒としては、安定なラジカル骨格を含む構造を有する安定ラジカル化合物であってもよい。ここで、安定なラジカル骨格とは、ラジカルとして存在している時間の長いものをいい、例えば電子スピン共鳴分析で測定されたスピン密度が1019spins/g以上、好ましくは1021spins/g以上のものとしてもよい。安定なラジカル化合物としては、例えば、ニトロキシルラジカルを有する骨格、オキシラジカルを有する骨格、窒素ラジカルを有する骨格、硫黄ラジカルを有する骨格、炭素ラジカルを有する骨格及びホウ素ラジカルを有する骨格からなる群より選ばれたラジカル骨格を有するものが好ましい。具体的には、式(1)〜(9)に示すようなニトロキシルラジカルを有する骨格、式(10)に示すようなフェノキシラジカル(オキシラジカル)を有する骨格、式(11)〜(13)に示すようなヒドラジルラジカル(窒素ラジカル)を有する骨格、式(14),(15)に示すような炭素ラジカルを有する骨格を含むものなどが挙げられる。このうち、特にニトロキシルラジカルを有する骨格を含むものが好ましく、式(1),(2),(4)に示すような骨格を有するものがより好ましい。安定ラジカル化合物は、上述した骨格単独のものであってもよいが、多環式芳香環が安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物であってもよいし、ポリマーが安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物であってもよい。前者の場合には、正極中で個々に分散して存在しやすいため還元触媒機能を十分発揮することができ、後者の場合には、正極から流出しにくいため長期にわたって還元触媒機能を発揮することができる。多環式芳香環としては、例えばナフタレンやフェナレン、トリフェニレン、アントラセン、ペリレン、フェナントレン、ピレンなどが挙げられる。ポリマーとしては、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどが挙げられる。ポリマーや多環式芳香環は、ラジカル骨格に直接連結していてもよいし、エステル結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合、カルバミド結合、エーテル結合及びスルフィド結合からなる群より選ばれたものをスペーサとし該スペーサを介してラジカル骨格に連結していてもよい。式(16)は多環式芳香環(ピレン)がスペーサ(アミド結合)を介して安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物の一例であり、式(17)はポリマー(ポリプロピレン)がスペーサ(エステル結合)を介して安定なラジカル骨格に連結した構造を有する化合物の一例である。なお、ポリマーは数平均分子量が5千以上50万以下であることが好ましく、重量平均分子量が1万以上100万以下であることが好ましい。酸化還元触媒は正極合材あたり2重量%以上60重量%以下であることが好ましく、50重量%以上60重量%以下であることがより好ましい。2重量%以上であれば酸素の酸化還元を行うのに少なすぎず、60重量%以下であれば、後述する導電材や結着剤が少なくなりすぎず電気伝導性や強度を確保することができる。
【0016】
【化1】
【0017】
【化2】
【0018】
本発明のリチウム二次電池の正極は、例えばリチウムを吸蔵放出可能な正極活物質と導電材と結着剤とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着剤は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。バインダ量としては、触媒を担持した導電材100重量部に対し3重量部以上15重量部以下であることが好ましい。3重量部以上であれば、正極の強度を保つために十分であり、15重量部以下であれば、酸化還元触媒や導電材の量が少なくなりすぎず、電池反応の進行を阻害しないと考えられるからである。正極活物質、導電材、結着剤を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、酸素の拡散を速やかに行わせるため、網状やメッシュ状など多孔体であることが好ましく、ステンレス鋼やニッケル、アルミニウム、銅などの多孔体の金属板であってもよい。なお、この集電体は、酸化を抑制するためにその表面に耐酸化性の金属または合金の被膜を被覆したものでもよい。また、InSnO2、SnO2、ZnO、In2O3等の透明導電材又はフッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)、アンチモンドープ酸化錫(SnO2:Sb)、錫ドープ酸化インジウム(In2O3:Sn)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、ガリウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)等の不純物がドープされた材料の単層又は積層を、ガラスや高分子上に形成させたものでもよい。その膜厚は、特に限定されるものではないが、3nm以上10μm以下であることが好ましい。なお、ガラスや高分子の表面はフラットなものでもよいし、表面に凹凸を有しているものでもよい。
【0019】
本発明の非水系空気電池において、負極は、負極活物質を有するものである。この負極活物質は、少なくともリチウムを吸蔵放出可能なものであればよく、空気電池に使用されるものであれば特に限定されない。リチウムを吸蔵放出可能な負極としては、例えば金属リチウムやリチウム合金のほか、金属酸化物、金属硫化物、リチウムを吸蔵放出する炭素質物質などが挙げられる。リチウム合金としては、例えばアルミニウムやスズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、シリコンなどとリチウムとの合金が挙げられる。金属酸化物としては、例えばスズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物などが挙げられる。金属硫化物としては、例えばスズ硫化物やチタン硫化物などが挙げられる。リチウムを吸蔵放出する炭素質物質としては、例えば黒鉛、コークス、メソフェーズピッチ系炭素繊維、球状炭素、樹脂焼成炭素などが挙げられる。この他、リン化鉄などとしてもよい。このような負極活物質を有するものとすれば、リチウム空気電池とすることができる。負極に用いられる導電材、結着剤、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。
【0020】
本発明の非水系空気電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、非水系空気電池の使用に耐え得る組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0021】
本発明の非水系空気電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0022】
以上詳述した本実施形態の非水系空気電池は、充放電効率をより高めることができる。この理由は、明らかではないが、例えば、比較的イオン半径の大きいCsイオンやNaイオンの存在による遮蔽効果により、不安定で反応性の高いラジカル(LiO2・)の生成がより抑制され、副次的な反応が抑制されるためではないかと推察される。あるいは、Li2O2よりも化学的に安定であるCs2O2やNa2O2などが優先的に生成されるため、LiO2・の生成がより抑制されるとも推察される。あるいは、Csイオンでは、負極Li表面でCsを含む被膜が生成し、この被膜により電解液の分解が抑制されるためであると推察される。
【0023】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0024】
以下には、本発明の非水系空気電池を具体的に作成した例を示す。
【0025】
[評価セルの作製]
図1は充放電試験に使用したF型電気化学セル20(北斗電工製)の断面図である。F型電気化学セル20はアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で次のようにして組み立てた。まず、SUS製のケーシング22に負極24を設置し、正極26と負極24とを対向するようにセットし、電解液28を5mL注入した。その後、正極26に発泡ニッケル板32を載せ、その上に、空気が正極26側へ流通可能なガス溜め34を配置し、セルを固定して実施例1の電気化学セルを得た。なお、F型電気化学セル20のガス溜め34にはドライ酸素を充填した。
【0026】
[充放電試験]
北斗電工製の充放電装置(HJ1001SM8A)にF型セルを接続し、正極と負極の間で正極材料あたり20mA/gの電流を流して、最大で正極合材あたり800mAh/gまで放電し、その後、10mA/gの電流で4.0Vまで充電し、不可逆容量を求めた。不可逆容量は放電容量と充電容量の差分値を放電容量800mAh/gで除算して算出した百分率で標記した。
【0027】
(実施例1)
正極は次のようにして作製した。触媒として電解二酸化マンガンを10重量部、導電助剤としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP−600JD)を85重量部、バインダーとしてテフロンパウダー(テフロン:登録商標,ダイキン工業製)を5重量部の比率で、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせた後、薄膜状に成形した合材を5mg、ステンレス製のメッシュ(ニラコ製SUS304)に圧着して、真空乾燥を行い、非水電解液空気二次電池の正極とした。負極は、直径10mm、厚さ0.4mmの金属リチウム(本城金属製)を用いた。図1に示す北斗電工製のF型電気化学セルにアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で正極と負極をセットし、1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド(東京化成製)溶液4mLに、1mol/Lの過塩素酸ナトリウム(関東化学製)/ジメチルスルホキシド溶液1mLを混合し、その混合溶液5mLをF型セルに注入した。実施例1では、Liに対するNaのモル比Na/Liは、0.25であった。図2は、実施例1の評価セルの充放電測定結果である。この実施例1の評価セルの不可逆容量は12%であった。
【0028】
(実施例2)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液6mLに、1mol/Lの過塩素酸ナトリウム/ジメチルスルホキシド溶液1mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例2とした。実施例2では、Liに対するNaのモル比Na/Liは、0.17であった。図3は、実施例2の評価セルの充放電測定結果である。この実施例2の評価セルの不可逆容量は21.9%であった。
【0029】
(比較例1)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液5mLのみの電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを比較例1とした。比較例1では、Liに対する添加イオンA(Na又はCs)のモル比A/Liは、0である。図4は、比較例1の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は27.6%であった。
【0030】
(実施例3)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液6mLに、1mol/Lの過塩素酸セシウム(アルドリッチ製)/ジメチルスルホキシド溶液1mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例3とした。実施例3では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.17であった。図5は、実施例3の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は11.2%であった。
【0031】
(実施例4)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液4mLに、1mol/Lの過塩素酸セシウム/ジメチルスルホキシド溶液1mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例4とした。実施例4では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.25であった。図6は、実施例4の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は0%であった。
【0032】
(実施例5)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液5mLに、1mol/Lの過塩素酸セシウム/ジメチルスルホキシド溶液2mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例5とした。実施例5では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.40であった。図7は、実施例5の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は0%であった。
【0033】
(実施例6)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液4mLに、1mol/Lの過塩素酸セシウム/ジメチルスルホキシド溶液2mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例6とした。実施例6では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.33であった。実施例6の評価セルの充放電測定結果では、不可逆容量は0%であった。また、この実施例6において、放電および充電のサイクルを5回行った。そのときの不可逆容量は、1回目が0%、2回目が0%、3回目が3.2%、4回目が7.8%及び5回目が10.8%であった。
【0034】
(実施例7)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液3mLに、1mol/Lの過塩素酸セシウム/ジメチルスルホキシド溶液3mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例7とした。実施例7では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.50であった。実施例7の評価セルの充放電測定結果では、不可逆容量は18.0%であった。
【0035】
(実施例8)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドのジメチルスルホキシド溶液5mLに、0.25gの過塩素酸セシウムを溶解した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例8とした。実施例8では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.21であった。図8は、実施例8の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は19.9%であった。
【0036】
(実施例9)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミドのジメチルスルホキシド溶液5mLに、0.46gの過塩素酸セシウムを溶解した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例9とした。実施例9では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.42であった。図9は、実施例9の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は0%であった。
【0037】
(比較例2)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液3mLに、1mol/Lの過塩素酸セシウム/ジメチルスルホキシド溶液4mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを比較例2とした。比較例2では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.75であった。図10は、比較例2の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は53.0%であった。
【0038】
(比較例3)
1mol/Lの過塩素酸ナトリウム/ジメチルスルホキシド溶液5mLを電解液として用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを比較例3とした。比較例3では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、1.00である。図11は、比較例3の評価セルの充放電測定結果である。この比較例3の評価セルは、空気電池として30mAh/gと低い容量しか得られなかった。
【0039】
(比較例4)
1mol/Lのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド/ジメチルスルホキシド溶液5mLに、1mol/Lの過塩素酸カリウム/ジメチルスルホキシド溶液2mLを混合した電解液を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを比較例4とした。比較例4では、Liに対するKのモル比K/Liは、0.40であった。図12は、比較例4の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は30.8%であった。
【0040】
(実施例10)
正極は次のようにして作製した。触媒としてカーボンナノチューブ(CNI製)を77重量部、バインダーとしてテフロンパウダー(ダイキン工業製)を23重量部の比率で、乳鉢を用いて混合かつ練り合わせた後、薄膜状に成形した合材を5mg、ステンレス製のメッシュ(ニラコ製SUS304)に圧着して、真空乾燥を行い、非水系空気電池の正極とした。この作製した正極を用いた以外は、実施例1と同様の工程により作製した評価セルを実施例10とした。実施例10では、Liに対するCsのモル比Cs/Liは、0.20であった。図13は、実施例10の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は17.5%であった。
【0041】
(比較例5)
1mol/Lの過塩素酸ナトリウム/ジメチルスルホキシド溶液5mLを電解液として用いた以外は、実施例10と同様の工程により作製した評価セルを比較例5とした。比較例5では、Liに対する添加イオンAのモル比A/Liは、0である。図14は、比較例5の評価セルの充放電測定結果であり、不可逆容量は26.3%であった。
【0042】
(二次イオン質量分析)
実施例1及び比較例1の放電後の正極上に生成した析出物の二次イオン質量分析を行った。測定は、SIMS(ULVAC−PHI社製TRIFT II)を用いた。図15は、実施例1及び比較例1の放電後の正極上に生成した析出物の二次イオン質量分析結果である。図15に示すように、実施例1では、質量m/z=77.97にNa2O2に由来するシグナルが検出された。したがって、実施例1では、充放電時にNa2O2が生成していることがわかった。これに対して、比較例1では、質量m/z=46.02に現われるLi2O2に由来するシグナルは検出されなかった。
【0043】
(実験結果と考察)
表1は、実施例1〜10及び比較例1〜5の充放電試験の結果をまとめた表である。また、図16は、実施例3〜10及び比較例1〜3の不可逆容量とCsの添加モル比との関係をまとめた説明図である。表1及び図16に示すように、Na及びCsのいずれかの添加イオンを電解液に加えると、Li空気電池の不可逆容量が低減することが明らかとなった。この添加イオンAの量は、A/Liのモル比で、0.1以上0.5以下であることがよく、0.2以上0.45以下であることがより好ましいことがわかった。この理由について考察する。空気電池においては、充放電時に、酸素ラジカル(O2・)が生成することがある。この酸素ラジカルは、Liイオンとの反応性が高く、不安定で反応性の高いラジカル(LiO2・)が生じやすい。このLiO2・が多量に生じると、電解液の成分などと反応して不可逆容量が生じるものと推察される。ここに、CsイオンやNaイオンが存在すると、イオン半径の大きなCsイオンやNaイオンによって遮蔽され、このLiO2・の生成がブロッキングされることが考えられる。また、添加イオンがNaイオンの場合、放電後の正極上にはLiイオンの過酸化物(Li2O2)は検出されず、Naイオンの過酸化物(Na2O2)が検出されていることから、Li2O2よりもNa2O2の方が放電時に生成する酸素ラジカルに対して安定であることが予想される。このため、Na2O2の生成によりLiO2・の生成速度が低減する効果により不可逆容量が減少したものと推察される。一方、添加イオンがCsイオンの場合、Naイオンの場合と同様の理由により、不可逆容量が低減したとも考えられる。あるいは、Cs自体では空気電池としてほとんど作動しないことから、負極Li表面上でCsを含む被膜ができ、この被膜の作用によりLi表面での溶媒等の分解が抑制されて、結果として不可逆容量が減少したものと推察された。更に、Kにおいては、添加効果が得られなかった。この理由は明らかではないが、次のように考察することができる。例えば、酸素ラジカルと反応して生成すると考えられるKO2は、化学的に安定であるが、更に有機溶媒に溶解して酸素ラジカルを生成すると考えられる。この生成した酸素ラジカルにLiが反応するため、添加効果が生じにくいのではないかと推察された。このように、Li空気電池に1族元素を添加すればよいという単純なものではないことも明らかになった。
【0044】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の非水電解液空気電池は、主に電気化学産業に利用可能であり、例えばハイブリッド車や電気自動車の動力源、携帯電話やパソコンなど民生用家電機器の電源、ロードレベリング(負荷平準化)などへの電気化学的デバイスに利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
20 F型電気化学セル、22 ケーシング、24 負極、26 正極、28 電解液、32 発泡ニッケル板、34 ガス溜め。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素の酸化還元触媒を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、Csイオン及びNaイオンのうち少なく一方である添加イオンと、Liイオンと、を含み、添加イオンの割合がLiイオンに対するモル比で0.10以上0.50以下の範囲で含まれている非水系イオン伝導媒体と、
を備えた、非水系空気電池。
【請求項2】
前記非水系イオン伝導媒体は、添加イオンの割合がLiイオンに対するモル比で0.15以上0.45以下の範囲で含まれている、請求項1に記載の非水系空気電池。
【請求項3】
前記非水系イオン伝導媒体は、添加イオンとしてCsイオンを含んでいる、請求項1又は2に記載の非水系空気電池。
【請求項1】
酸素の酸化還元触媒を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、Csイオン及びNaイオンのうち少なく一方である添加イオンと、Liイオンと、を含み、添加イオンの割合がLiイオンに対するモル比で0.10以上0.50以下の範囲で含まれている非水系イオン伝導媒体と、
を備えた、非水系空気電池。
【請求項2】
前記非水系イオン伝導媒体は、添加イオンの割合がLiイオンに対するモル比で0.15以上0.45以下の範囲で含まれている、請求項1に記載の非水系空気電池。
【請求項3】
前記非水系イオン伝導媒体は、添加イオンとしてCsイオンを含んでいる、請求項1又は2に記載の非水系空気電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−138329(P2012−138329A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291715(P2010−291715)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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