説明

非水電解質二次電池

【課題】エネルギー密度を大きく低下させることなく、非水電解質二次電池の出力特性、特にパルス放電特性を改善することを目的とする。
【解決手段】非水電解質二次電池は、正極集電体(ケース50)と第一活物質層12と第二活物質層13とを有する正極10と、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる負極活物質を含む負極20と、リチウムイオンとアニオンとの塩を含む電解液31とを備える。第一活物質層12は、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる第一活物質を含み、第二活物質層13は、アニオンを吸蔵および放出することができる有機化合物である第二活物質と、導電助剤とを含む。第二活物質層13は正極集電体(ケース50)と第一活物質層12との間に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯オーディオデバイス、携帯電話、ラップトップコンピュータといった携帯型電子機器が広く普及している。また、省エネルギーの観点、あるいは、二酸化炭素の排出量を低減する観点から、内燃機関と電気による駆動力とを併用するハイブリッド自動車が普及し始めている。これらの普及に伴い、電源として用いられる蓄電デバイスに対する高性能化への要求が高まっている。特に、リチウム二次電池に代表される非水電解質二次電池に対する研究開発が盛んに行われている。リチウム二次電池は電圧が3V以上と高く、またエネルギー密度も大きいことが特徴である。リチウム二次電池の特徴である高いエネルギー密度を維持したまま、出力特性、特に、瞬時の大電流特性であるパルス放電特性を改善することが要望されている。
【0003】
エネルギー密度を大きく低下させることなく、出力特性を改善するアプローチとして、活性炭を正極に添加することが提案されている(例えば、特許文献1〜5参照)。活性炭は、その表面におけるアニオンまたはカチオンの吸着または脱着による電気二重層容量を有する。電気二重層容量への充電および電気二重層容量からの放電が高速であることから、正極への活性炭の添加により、高エネルギー密度と高出力とを両立できる可能性がある。
【0004】
しかし、活性炭は非常に大きい表面積を有し、その表面は非常に活性である。このため、活性炭を正極に含むリチウム二次電池を充電状態にて保存している間に、活性炭の表面において電解液の分解が進行する傾向にある。
【0005】
また、活性炭は微量のガス成分および空気中の水分の吸着能が極めて高い。したがって、活性炭を正極材料として使用するためには、活性炭の吸着水分を真空乾燥および熱処理などの工程により除去する必要がある。この除去工程は長時間を要する。この除去工程を経てもなお、吸着水分を完全に除去することは難しい。表面に吸着水分が残存する活性炭を用いてリチウム二次電池の正極を作製した場合、充放電に伴う電池内におけるガス発生、充放電サイクル特性の劣化などが起こり易い。
【0006】
特許文献5には、擬似容量型の有機系キャパシタ材で表面が被覆された活性炭からなる正極が開示されている。擬似容量型の有機系キャパシタ材として導電性高分子が開示されている。
【0007】
しかし、特許文献5のキャパシタは活性炭を用いているため、上述の課題を有する。さらに、擬似容量型の有機系キャパシタ材として提案されている導電性高分子は、分子全体に電子共役が広がっているため、取り出せる電子数が小さく、出力特性を改善する効果が不十分である。
【0008】
特許文献6では、アニオンを吸蔵可能な炭素材を導電材の一部に代えて用いることにより、高容量化することが提案されている。この場合、アニオンを吸蔵可能な炭素材が充放電反応に寄与することによる高容量化は達せられるものの、リチウム二次電池の出力特性の改善までは期待できない。
【0009】
特許文献7では、正極合剤と金属製集電体との間に導電材と結着剤とを含む導電材層を備えた非水電解質二次電池が提案されている。
【0010】
しかし、正極合剤と金属製集電体との間に形成された導電材層によって、正極合剤と集電体との間の密着性は良くなるものの、電池の出力特性の改善までは期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−260634号公報
【特許文献2】特開2003−77458号公報
【特許文献3】国際公開第02/041420号
【特許文献4】特開2008−34215号公報
【特許文献5】特開2003−92104号公報
【特許文献6】特開平5−159773号公報
【特許文献7】特開2002−42888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のように、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる活物質とともに、第二成分である活物質を正極に添加することにより、リチウム二次電池の出力特性を改善する取り組みはなされている。しかし、最適な第二活物質および電極構造に関する知見は不十分であった。
【0013】
本発明は、これらの課題に鑑みてなされたものであり、エネルギー密度を大きく低下させることなく、非水電解質二次電池の出力特性、特に、パルス放電特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、
正極集電体と第一活物質層と第二活物質層とを有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵および放出することができる負極活物質を含む負極と、
リチウムイオンとアニオンとの塩を含む電解質とを備え、
前記第一活物質層は、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる第一活物質を主要な活物質として含み、
前記第二活物質層は、前記アニオンを吸蔵および放出することができる有機化合物である第二活物質を主要な活物質として含むとともに、導電助剤を含み、
前記第二活物質層が前記正極集電体と前記第一活物質層との間に設けられている、非水電解質二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、正極において、第一活物質と第二活物質との2種の活物質が用いられている。第一活物質層は、主要な活物質として、第一活物質を含む。第一活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる材料を用いることにより、十分なエネルギー密度を確保できる。第二活物質層は、主要な活物質として、第二活物質を含む。第二活物質は、さらに、導電助剤を含む。第二活物質は、電解質に含まれたアニオンを吸蔵および放出することができる有機化合物である。第二活物質層が第二活物質とともに導電助剤を含み、第一活物質層と正極集電体との間に形成されていることによってパルス放電特性を改善できる。このように、本発明によると、エネルギー密度を大きく低下させることなく、非水電解質二次電池の出力特性、特に、パルス放電特性を改善することができる。また、本発明における第二活物質は、活性炭と比較して水分吸着能が小さい。そのため、電池内部の水分量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による非水電解質二次電池の一実施形態であるコイン型電池を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明による非水電解質二次電池の別の実施形態であるコイン型電池を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の非水電解質二次電池の実施形態を説明する。図1は、本発明による非水電解質二次電池の一実施形態であるコイン型非水電解質二次電池1の模式的な断面を示している。このコイン型非水電解質二次電池1は、コイン型ケース(正極集電体)50、封口板51、およびガスケット52によって内部が密閉された構造を有する。コイン型非水電解質二次電池1の内部には、負極活物質層21および負極集電体22を備える負極20と、セパレータ30と、正極活物質層11とが収められている。コイン型ケース(正極集電体)50は正極集電体としての役割も有する。正極10は、正極活物質層11と、正極集電体であるコイン型ケース(正極集電体)50とにより構成される。正極10および負極20はセパレータ30を挟んで対向している。正極活物質層11および負極活物質層21がセパレータ30と接するように、正極活物質層11、セパレータ30および負極活物質層21が配置されている。
【0018】
正極活物質層11は第一活物質層12と第二活物質層13とを有する。正極活物質層11において、第二活物質層13は第一活物質層12とコイン型ケース(正極集電体)50との間に形成されている。本実施形態では、第二活物質層13の一方の面がコイン型ケース(正極集電体)50に接し、他方の面が第一活物質層12に接している。第一活物質層12の一方の面は第二活物質層13に接し、他方の面はセパレータ30に接している。
【0019】
正極活物質層11は、少なくとも2種の活物質を含む。2種の活物質うちの1種は、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる第一活物質である。2種の活物質のうちのもう1種は、アニオンを吸蔵および放出することができる有機活物質である、第二活物質である。第一活物質は第一活物質層12に含まれ、第二活物質は第二活物質層13に含まれている。電解液31は、リチウムイオンとアニオンとの塩を含む。正極10、負極20、およびセパレータ30からなる電極群には、電解液31が含浸されている。
【0020】
本発明の非水電解質二次電池が高容量と高出力(優れたパルス放電特性)とを実現できる理由として、以下に説明する3つの理由が挙げられる。
【0021】
第1の理由は、正極に含まれた2種の活物質がそれぞれ有する材料特性である。正極に含まれた2種の活物質のうち、1種は、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる正極活物質(第一活物質)である。第一活物質は、正極における主たる活物質である。なお、主たる活物質とは、非水電解質二次電池の全蓄電容量に対して50%を超える蓄電容量を占める活物質を意味する。充放電に伴い正極と負極との間でリチウムイオンが移動することにより、第一活物質は3V級の高電圧かつ高容量を実現することができる。他方、正極に含まれた2種の活物質のうち、もう1種は、アニオンを吸蔵および放出することができる有機活物質(第二活物質)である。有機化合物である第二活物質がアニオンを吸蔵および放出する反応は、第一活物質がリチウムイオンを吸蔵および放出する反応と比較して速い。このため、第二活物質は、高出力、特に、優れたパルス放電特性に寄与することができる。さらに、有機化合物である第二活物質は、活性炭よりも大きな容量を有することができる。そのため、当該有機化合物を用いた場合、代わりに活性炭を用いた場合よりも、高い容量を得ることができる。したがって、第二活物質は、高容量と高出力との両方に寄与することができる。
【0022】
第2の理由は、2種の活物質を複合することによる相乗効果である。ここで、重要なポイントは、第一活物質の反応イオンと、第二活物質の反応イオンとが互いに異なっていることである。第一活物質は、リチウムイオンを吸蔵および放出することができるので、第一活物質の反応イオンはリチウムイオンである。他方、第二活物質は、アニオンを吸蔵および放出することができるので、第二活物質の反応イオンはアニオンである。このように2種の活物質の反応イオンが互いに異なることにより、それぞれの活物質の反応は、相互に影響を与え合うことなくスムーズに進行することができる。
【0023】
高出力を必要としない場合、すなわち、充放電が比較的低速で行われる場合、反応速度の遅い活物質でも十分に反応ができるため、充放電に寄与する活物質は材料の反応速度に依存しない。したがって、いずれの活物質が優先的に反応するということがないため、結果として、主たる活物質である第一活物質が充放電に主として寄与することになる。言い換えれば、充放電に主として寄与するのは、第一活物質とリチウムイオンとの反応である。この場合、アニオンは正負極間をほとんど移動せずに電解質中にとどまり、主としてリチウムイオンが正負極間を移動する。
【0024】
他方、高出力を必要とする場合、すなわち、充放電が比較的高速で行われる場合、第一活物質と第二活物質との両方が充放電に関与する。言い換えれば、第一活物質とリチウムイオンとの反応に加えて、第二活物質とアニオンとの反応が進行する。この場合、リチウムイオンとアニオンとの両方が正負極間を移動する。具体的には、放電過程において、リチウムイオンは負極から正極の方へ移動し、アニオンは正極から負極の方へ移動する。一般に、電解質中のアニオンの移動速度(移動度)は、リチウムイオンと同等かあるいはそれ以上である。アニオンが反応イオンとして加わることにより、反応イオンの濃度がおよそ2倍に増加するため、大電流を取り出し、高出力を実現することができる。
【0025】
上述の説明の比較として、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる2種の活物質AおよびBを正極に用いた場合について説明する。ただし、活物質Bは活物質Aよりも充放電反応が速いと仮定する。この場合、活物質Aおよび活物質Bの反応イオンはともにリチウムイオンである。そのため、充放電を行うと、活物質Bとリチウムイオンとの反応が迅速に進行することによって、リチウムイオンが消費されてしまい、活物質Aの反応は抑制されてしまう。また、反応イオンがリチウムイオンのみであるため、出力特性は、電解質中のリチウムイオンの移動速度によって制限されてしまう。したがって、活物質Aに対して、反応イオンが活物質Aに共通する活物質Bを加えたとしても、A+Bの相乗効果を最大限に得ることはできない。
【0026】
また、従来技術では、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる活物質に対して、第二成分である活物質として活性炭を添加することが提案されている。しかし、活性炭の反応イオンは、リチウムイオンとアニオンとの両方であり、自然電位を境としてそれより高い電位ではアニオンと反応し、それより低い電位ではリチウムイオンと反応する。したがって、活性炭の添加により出力特性を改善する効果は、電位によって異なり、ある電位以上では得られる場合があり、また、ある電位以下では十分に得られない場合があり、技術的な制限を有するといえる。
【0027】
第3の理由は、第一活物質および第二活物質の2種を複合することによる弊害を有さないということである。上記従来技術のように、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる活物質に対して、第二成分である活物質として活性炭を添加した場合、正極は種々の弊害を有する。すなわち、活性炭の表面は非常に活性で反応性が高く、表面に水分や空気中の有機成分などが容易に吸着するため、十分な真空乾燥を行っても、なおその完全除去は難しい。また、活性炭上に吸着された水分および有機物は、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる活物質の表面において分解し、ガス発生による電池の膨れや容量低下などの信頼性の低下を引き起こす可能性がある。これらの弊害による影響は、保存試験やサイクル試験などの結果に顕著に現れる場合がある。他方、本発明において第二活物質として用いられた有機化合物は、水分の吸着性が低いため、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる活物質(第一活物質)と複合することによる弊害因子を有さない。このため、第一活物質に対して第二活物質を複合することにより、信頼性の高い非水電解質二次電池を得ることができる。
【0028】
以上の3つの理由により、本発明により、高容量と高出力(優れたパルス放電特性)とを有し、かつ、電池としての信頼性の高い非水電解質二次電池を提供することができる。
【0029】
さらに、本発明者らは、第二活物質層13の形態および第一活物質と第二活物質とを併用するための形態について検討し、適切な形態を見出した。
【0030】
まず、第二活物質層13の形態に関して以下に説明する。第二活物質層13は、第二活物質を含むとともに導電助剤を含む。このことにより、高容量と高出力とを両立できる。第二活物質として用いる有機化合物は、金属や酸化物材料と比較して電子伝導性が低いため、単独では高容量と高出力との両方の特性を十分に発揮することができない場合がある。例えば、有機化合物が単独で粒子として存在する場合、その電子伝導性の低さにより粒子内で電子伝導が効率的に行われず、表面の有機化合物のみが反応し、粒子内部に存在する有機化合物は反応に寄与できないことがある。高容量と高出力との両立には、第二活物質のすべてが高速かつ効率的に充放電反応に寄与する必要がある。第二活物質層13が導電助剤を含むことによって、第二活物質が導電助剤を経由して電子伝導を行うことができる。第二活物質の電子伝導性を補完することができる導電助剤の存在により、第二活物質層13は高出力と高容量との両方に寄与できる。
【0031】
さらに、有機化合物である第二活物質は、導電助剤の表面の少なくとも一部を被覆していることが好ましい。このような場合、第二活物質と導電助剤との接触面積が増大するため、導電助剤と第二活物質との間で酸化還元に伴う電子の移動がより円滑に行われる。第二活物質層13において第二活物質が導電助剤の表面を被覆していることにより、第二活物質の酸化還元反応が円滑に進行するので、パルス放電特性をさらに改善することができる。
【0032】
次に、第一活物質と第二活物質とを併用するための形態に関して以下に説明する。第二活物質は導電助剤とともに第二活物質層13に含まれ、第一活物質は第一活物質層12に含まれる。第二活物質層13は第一活物質層12と正極集電体(ケース50)との間に形成されている。このことにより、第一活物質が有する機能と第二活物質が有する機能との両方を発現させ、高容量と高出力とを両立することができる。この理由は明らかではないが、発明者らは次のように考えている。すなわち、第一活物質層12および第二活物質層13のそれぞれが有する機能を効果的に発現するためには、正極10において互いに隣接する部材間の接触が良好であることが好ましい。効率的な接触には点接触よりも面接触の方が望ましい。第一活物質層12に比べて、第二活物質層13は有機化合物である第二活物質と導電助剤とを含むので、隣接する部材との間により良好な面接触を形成することができる。
【0033】
第二活物質層13を第一活物質層12と正極集電体(ケース50)との間に配置することにより、第二活物質層13は第一活物質層12と電子伝導性を有する正極集電体との両方に対して良好な面接触を形成できる。それゆえ、第一活物質層12の機能と第二活物質層13の機能との両方を十分に発現させることができる。逆に、第二活物質層13を第一活物質層12とセパレータ30との間に配置した場合、第二活物質層13の片方の面が絶縁性のセパレータ30に接触する。この場合、第二活物質層13において第一活物質層12に接触した方の面近傍では反応が進行しうるが、第二活物質層13においてセパレータ30側にある方の面近傍では効率的な反応が困難になると推察される。
【0034】
一般に、コイン型電池のケースは集電体の機能を有しており、ケースと当該ケースに隣接する電極との間の接触抵抗は、電池の特性、特に出力特性に対して影響を与える因子である。本実施形態によると、有機活物質である第二活物質と導電助剤とを含んだ第二活物質層13が第一活物質層12と正極集電体との間に配置されている。それゆえ、正極活物質層11と正極集電体であるコイン型ケース(正極集電体)50との間の界面における電子伝導性を改善し、結果として正極10全体の電子伝導性を改善して高容量および高出力を両立することができる。正極集電体と第一活物質層12との間に第二活物質層13を形成することにより高容量と高出力とを両立する効果は、コイン型電池において特に大きい。
【0035】
以下、本実施形態のコイン型非水電解質二次電池1に用いることができる構成材料について説明する。
【0036】
リチウムイオンを吸蔵および放出することができる第一活物質としては、リチウムイオン電池の正極材料として公知のものを用いることができる。具体的には、第一活物質として、リチウムを含んでいてもよい遷移金属酸化物を用いることができる。言い換えれば、遷移金属酸化物や、リチウム含有遷移金属酸化物などを用いることができる。具体的には、コバルトの酸化物、ニッケルの酸化物、マンガンの酸化物、および、五酸化バナジウム(V25)に代表されるバナジウムの酸化物、ならびに、これらの混合物または複合酸化物などが第一活物質として用いられる。コバルト酸リチウム(LiCoO2)などの、リチウムと遷移金属とを含む複合酸化物が正極活物質として最もよく知られている。また、遷移金属のケイ酸塩、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)に代表される遷移金属のリン酸塩などを、第一活物質として用いることもできる。
【0037】
アニオンを吸蔵および放出することができる有機化合物である第二活物質としては、テトラカルコゲノフルバレン骨格を有する重合体が好適に用いられる。典型的には、テトラカルコゲノフルバレン骨格は重合体の繰り返し単位の中に含まれている。テトラカルコゲノフルバレン骨格を有する重合体において、テトラカルコゲノフルバレン骨格を有する部分は、π共役電子雲を有し、酸化還元部位として機能する。当該重合体は、酸化還元反応がリチウム基準で約3〜4Vの電位において進行するため、正極10における活物質材料として適している。
【0038】
テトラカルコゲノフルバレン骨格を有する部分の構造は、例えば、下記式(1)で表わされる。
【0039】
【化1】

【0040】
式(1)中、X1、X2、X3、およびX4は、互いに独立して、硫黄原子、酸素原子、セレン原子、またはテルル原子である。Ra、Rb、Rc、およびRdから選ばれる1つまたは2つは、重合体の主鎖または側鎖の他の部分と結合するための結合手である。Ra、Rb、Rc、およびRdから選ばれる、残りの3つまたは2つは、互いに独立して、鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、またはアルキルチオ基である。鎖状の脂肪族基および環状の脂肪族基は、それぞれ、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子およびホウ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。RaとRbとは、互いに結合して環を形成していてもよく、また、RcとRdとは、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0041】
式(1)において、X1、X2、X3、およびX4が硫黄原子であり、Ra、Rb、Rc、およびRdが水素原子である化合物、すなわち、下記式(2)に示す化合物は、テトラチアフルバレン(TTF)と称される。以下、TTFを例にとり、テトラカルコゲノフルバレン骨格を有する部分が酸化還元部位として機能し、電解質中のアニオンと反応するメカニズムについて説明する。
【0042】
【化2】

【0043】
TTFは、電解液に溶解した状態で1電子酸化を受けると、下記式(3)に示すように、2つの5員環のうち一方の5員環から電子が1つ引き抜かれ、正の1価に帯電する。この結果、対イオンとしてアニオン(式(3)の場合、PF6-)がテトラチアフルバレン骨格に1つ配位する。この状態からさらに1電子酸化を受けると、他方の5員環から電子が1つ引き抜かれ、正の2価に帯電する。この結果、対イオンとしてもう1つのアニオンがテトラチアフルバレン骨格に配位する。
【0044】
【化3】

【0045】
酸化された状態でも、その環状骨格は安定であり、再び電子を受け取ることにより、還元されて電気的に中性な元の状態に戻ることができる。言い換えれば、上記式(3)に例示される酸化還元反応は可逆である。本実施形態のコイン型非水電解質二次電池1は、テトラチアフルバレン骨格が有するこのような酸化還元特性を利用している。
【0046】
例えば、TTFを蓄電デバイスの正極に用いた場合、放電過程において、テトラチアフルバレン骨格が電気的に中性な状態へと向かう。言い換えれば、式(3)において左方向の反応が進行する。逆に、充電過程においては、テトラチアフルバレン骨格が正に帯電した状態へと向かう、つまり、式(3)において右方向の反応が進行する。
【0047】
式(1)において、X1、X2、X3、およびX4が、互いに独立して、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、または酸素原子であり、Ra、Rb、Rc、およびRdが水素原子である化合物は、テトラカルコゲノフルバレンまたはその酸素含有類縁体と総称される。これらの化合物は、TTFと同様の酸化還元特性を有する。このことは、例えば、TTF ケミストリー:テトラチアフルバレンの基礎と応用(TTF Chemistry:Fundamentals and Applications of Tetrathiafulvalene)、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(Journal of the American Chemical Society),第97版,第10部,1975年,p.2921−2922、および、ケミカル・コミュニケイション(Chemical Communications),1997年,p.1925−1926などにおいて報告されている。
【0048】
また、テトラカルコゲノフルバレン骨格に官能基が結合した化合物、すなわち、式(1)におけるRa、Rb、Rc、およびRdが種々の構造を有する化合物は、テトラカルコゲノフルバレンと同様の酸化還元特性を有する。このことは、例えば、TTF ケミストリー:テトラチアフルバレンの基礎と応用(TTF Chemistry:Fundamentals and Applications of Tetrathiafulvalene)において、これらの化合物の合成方法とともに報告されている。このように、良好な酸化還元特性を得るために重要な構造は、テトラカルコゲノフルバレン骨格自体の構造である。したがって、式(1)におけるRa、Rb、Rc、およびRdは、これらがテトラカルコゲノフルバレン骨格の酸化還元に大きな影響を及ぼさない構造である限り、特に限定されない。
【0049】
有機化合物は、分子量を大きくするほど有機溶媒に対する溶解度が低下する。したがって、テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位の中に含む重合体を第二活物質として用いることにより、有機溶媒を含む電解液への第二活物質の溶解を抑制し、サイクル特性の劣化を抑制することができる。
【0050】
テトラカルコゲノフルバレン骨格を有する重合体の分子量は大きいことが好ましい。具体的には、1分子中に、式(1)で表されるテトラカルコゲノフルバレン骨格を4個以上有することが好ましい。すなわち、重合体の重合度(数平均重合度)、具体的には、後述の式(4)におけるn、または、後述の式(6)におけるnとmとの和は、4以上であることが好ましい。これにより、有機溶媒に溶けにくい第二活物質を実現することができる。より好ましくは、重合体の重合度は、10以上であり、さらに好ましくは、20以上である。重合体の重合度の上限は特に限定されない。製造コスト、収率などの観点から、重合体の重合度は、例えば300以下であり、好ましくは150以下である。
【0051】
テトラカルコゲノフルバレン骨格は、当該重合体の主鎖に含まれていてもよいし、側鎖に含まれていてもよく、また、主鎖と側鎖との両方に含まれていてもよい。重合体がテトラカルコゲノフルバレン骨格を主鎖に含む場合、重合体の構造は、例えば、以下の式(4)で表される。
【0052】
【化4】

【0053】
式(4)中、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子である。R5およびR6は、互いに独立して、鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基、フェニル基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、またはニトロソ基である。鎖状飽和炭化水素基、鎖状不飽和炭化水素基、環状飽和炭化水素基、および環状不飽和炭化水素基は、それぞれ、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、およびケイ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。R9は、リンカーを表し、典型的にはアセチレン骨格およびチオフェン骨格の少なくとも1種を含む、鎖状不飽和炭化水素基または環状不飽和炭化水素基であり、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、およびケイ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。nは、モノマー単位の繰り返し数を表す整数である。
【0054】
式(4)は、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含む繰り返し単位と、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含まない繰り返し単位(式(4)中のR9)とが交互に配列した交互共重合体であるが、この結合の順序は特に限定されない。すなわち、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含む繰り返し単位と、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含まない繰り返し単位とを主鎖に有してなる重合体は、ブロック共重合体、交互共重合体、およびランダム共重合体のいずれであってもよい。ブロック共重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含む繰り返し単位が連続して直接結合したユニットと、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含まない繰り返し単位が連続して直接結合したユニットとが交互に配列した構造を有する。また、ランダム共重合体は、テトラカルコゲノフルバレン骨格を含む繰り返し単位およびテトラカルコゲノフルバレン骨格を含まない繰り返し単位がランダムに配列した構造を有する。
【0055】
例えば、式(4)におけるXが硫黄原子であり、R5およびR6がフェニル基であり、R9がジエチニルベンゼン基である重合体は、式(5)に示す構造式で表される重合体である。式(5)で表される重合体は、4,4’−ジフェニルテトラチアフルバレンと、1,3−ジエチニルベンゼンとの交互共重合体である。式(5)中のnは、モノマー単位の繰り返し数を表す整数である。
【0056】
【化5】

【0057】
重合体がテトラカルコゲノフルバレン骨格を側鎖に含む場合、重合体の構造は、例えば、以下の式(6)に示すように2つの繰り返し単位が記号*において互いに結合した構造で表される。なお、上述の説明と同様に、2つの繰り返し単位の結合する順序は特に限定されない。
【0058】
【化6】

【0059】
ただし、式(6)中、R10およびR12は、重合体の主鎖を構成する3価の基であり、互いに独立して、炭素原子、酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる少なくとも1つと、炭素数1〜10の飽和脂肪族基および炭素数2〜10の不飽和脂肪族基からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基または少なくとも1つの水素原子とを含む。L1は、R12と結合した、エステル基、エーテル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロキシル基、アルキル基、フェニル基、アルキルチオ基、スルホン基、またはスルホキシド基を含む1価の基である。R11は、R10およびM1と結合した2価の基であり、炭素数1〜4の置換基を有していてもよい、アルキレン、アルケニレン、アリーレン、エステル、アミド、およびエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。M1は、R11と結合した、式(1)で表すことのできる1価の基である。nおよびmは、各モノマー単位の繰り返し数を表す整数である。
【0060】
例えば、Xが硫黄原子である場合、以下の式(7)に示す構造を有する重合体が挙げられる。
【0061】
【化7】

【0062】
式(7)中、R21は、2価の基であり、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキレン;置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルケニレン;置換基を有していてもよいアリーレン;エステル;アミド;およびエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。R20およびR22は、互いに独立して、炭素数1〜4の飽和脂肪族基、フェニル基、または水素原子である。R25、R26、およびR27は、互いに独立して、鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、またはアルキルチオ基であり、R25とR26とは互いに結合して環を形成していてもよい。L1は、エステル基、エーテル基、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロキシル基、アルキル基、フェニル基、アルキルチオ基、スルホン基、またはスルホキシド基を含む1価の基である。nおよびmは、各モノマー単位の繰り返し数を表す整数である。
【0063】
例えば、式(7)におけるL1がエステル基を含む1価の基であり、R21が2価のエステル基であり、R20およびR22がメチル基であり、R25、R26、およびR27が水素原子である重合体は、以下の式(8)で表される構造を有する。式(8)中、nおよびmは、各モノマー単位の繰り返し数を表す整数である。
【0064】
【化8】

【0065】
第二活物質層13は、第二活物質に加えて導電助剤を含む。導電助剤は、例えば、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料、金属繊維、金属粉末類、導電性ウィスカー類、導電性金属酸化物などであり、これらの混合物を用いてもよい。導電助剤の形状は、特に限定されないが、例えば、粒子状である。導電助剤の少なくとも一部を被覆した第二活物質の形状は特に限定されないが、例えば、膜状である。
【0066】
第一活物質層12は、必要に応じて、正極10内の電子伝導性を補助する導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、第二活物質層13に含まれた導電助剤と同様の材料を使用できる。
【0067】
さらに、第一活物質層12および第二活物質層13は、必要に応じて、正極活物質層11の形状保持のための結着剤を含んでいてもよい。結着剤は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。結着剤は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)に代表されるフッ素系樹脂やそれらの共重合体樹脂;スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸およびその共重合体樹脂などであり、これらの混合物を用いてもよい。
【0068】
第一活物質層12における主要な活物質は、第一活物質である。すなわち、第一活物質層12における第一活物質は、第一活物質層12の容量に対して50%を超える容量を占める。第一活物質層12は、活物質として、実質的に第一活物質のみを含んでいてもよいし、第一活物質以外の活物質、例えば第二活物質など、を含んでいてもよい。第一活物質層12は、活物質として、第一活物質のみを含んでいてもよい。
【0069】
第二活物質層13における主要な活物質は、第二活物質である。すなわち、第二活物質層13における第二活物質は、第二活物質層13の容量に対して50%を超える容量を占める。第二活物質層13は、活物質として、実質的に第二活物質のみを含んでいてもよいし、第二活物質以外の活物質、例えば第一活物質など、を含んでいてよい。第二活物質層13は、活物質として、第二活物質のみを含んでいてもよい。
【0070】
正極活物質層11の全容量に対する第一活物質層12の容量は、例えば、50〜90%である。正極活物質層11の全容量に対する第二活物質層13の容量は、例えば、10〜50%である。ただし、第二活物質層13の容量がごくわずかであったとしても、第二活物質による充放電特性の改善効果を得ることができる。
【0071】
コイン型ケース(正極集電体)50としては、コイン型電池のケースとして公知の材料を用いることができる。コイン型ケース(正極集電体)50は、例えば、アルミニウム、ステンレスのような金属または金属混合体でできている。
【0072】
本実施形態では、コイン型ケース(正極集電体)50自体が正極集電体の役割を担っている。ただし、正極集電体は、コイン型ケース(正極集電体)50上に別途設けられていてもよい。この場合、正極集電体をコイン型ケース(正極集電体)50上に溶接または配置すればよい。正極集電体としては、非水電解質二次電池の正極集電体として公知の材料を用いることができる。正極集電体は、例えば、アルミニウム、ステンレスのような金属、カーボンなどでできた箔またはメッシュである。正極集電体として金属箔または金属メッシュを用いる場合、正極集電体をケース50に溶接することによって、良好な電気的接触を保つことができる。
【0073】
また、図2に示すコイン型非水電解質二次電池2のように、コイン型ケース(正極集電体)50の上、すなわち、コイン型ケース(正極集電体)50と第二活物質層13との間に、導電性補助層14が形成されていてもよい。導電性補助層14を備えることにより、正極15における第二活物質層13とコイン型ケース(正極集電体)50との間の電子伝導性を高め、コイン型非水電解質二次電池2の出力特性を改善することができる。導電性補助層14を備えることは、コイン型ケース(正極集電体)50自体を正極集電体として用いる場合において特に好ましい。
【0074】
導電性補助層14は、正極10内の電子伝導性を補助する導電助剤を含む。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料、金属繊維、金属粉末類、導電性ウィスカー類、導電性金属酸化物などであり、これらの混合物を用いてもよい。導電性補助層14は、形状保持のための結着剤を含んでいてもよい。結着剤としては、正極活物質層11が含んでいてもよい結着剤として上述した材料と同様のものを使用できる。
【0075】
負極活物質層21は、負極活物質を含む。負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出することができる公知の負極活物質を使用できる。負極活物質は、例えば、天然黒鉛および人造黒鉛に代表される黒鉛材料、非晶質炭素材料、リチウム金属、リチウム−アルミニウム合金、リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン酸化物、珪素、珪素を含む合金、珪素酸化物、錫、錫を含む合金、および錫酸化物などであり、これらの混合物であってもよい。負極集電体22としては、非水電解質二次電池の負極集電体として公知の材料を用いることができる。負極集電体22は、例えば、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属でできた箔またはメッシュである。負極活物質層21がペレットおよびフィルムなどのように自立した形状を保っている場合、負極集電体22を用いずに、負極活物質層21を直接、封口板51上に接触させた構成を採用してもよい。
【0076】
負極活物質層21は、負極活物質の他にも、必要に応じて、導電助剤および/または結着剤を含んでいてもよい。導電助剤および結着剤としては、正極活物質層11において用いることのできる導電助剤および結着剤と同様の材料を用いることができる。
【0077】
セパレータ30は、電子伝導性を有しない樹脂によって構成された樹脂層であり、大きなイオン透過度を有し、所定の機械的強度および電気的絶縁性を備えた微多孔膜である。耐有機溶剤性および疎水性に優れるという観点から、セパレータ30は、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはこれらを組み合わせたポリオレフィン樹脂でできていることが好ましい。セパレータ30の代わりに、電解液を含んで膨潤し、ゲル電解質として機能するイオン伝導性を有する樹脂層を設けてもよい。
【0078】
電解液31は、非水溶媒およびリチウムイオンとアニオンとの塩(電解質塩)を含む非水電解質である。リチウムイオンとアニオンとの塩は、リチウム電池において用いることができる塩であれば特に限定されず、例えば、リチウムイオンと以下に挙げるアニオンとの塩が挙げられる。すなわち、アニオンとしては、ハロゲン化物アニオン、過塩素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、4フッ化ホウ酸アニオン(BF4-)、6フッ化リン酸アニオン(PF6-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオンなどが挙げられる。リチウムイオンとアニオンとの塩として、これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
非水電解質は、リチウムイオンとアニオンとの塩の他にも、固体電解質を含んでいてもよい。固体電解質としては、Li2S−SiS2、Li2S−B25、Li2S−P25−GeS2、ナトリウム/アルミナ(Al23)、無定形または低相転移温度(Tg)のポリエーテル、無定形フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレンコポリマー、異種高分子ブレンド体ポリエチレンオキサイドなどが挙げられる。
【0080】
電解質塩が液体である場合、電解質塩自身を電解液31として用いてもよい。電解質が固体である場合、これを非水溶媒に溶解させて電解液31とすることが必要である。
【0081】
非水溶媒としては、非水二次電池や非水系電気二重層キャパシタにおいて用いることのできる公知の非水溶媒を用いることができる。具体的な非水溶媒としては、環状炭酸エステルを含む溶媒を好適に用いることができる。なぜなら、環状炭酸エステルは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートに代表されるように、非常に高い比誘電率を有するからである。環状炭酸エステルの中では、プロピレンカーボネートが好ましい。なぜなら、プロピレンカーボネートは、凝固点が−49℃とエチレンカーボネートよりも低いため、低温でも非水電解質二次電池を作動させることができるからである。
【0082】
また、環状エステルを含む溶媒も、非水溶媒として好適に用いることができる。なぜなら、環状エステルは、γ−ブチロラクトンに代表されるように、非常に高い比誘電率を有するからである。
【0083】
非水溶媒の成分としてこれらの溶媒を含むことにより、電解液31は、全体として非常に高い誘電率を有することができる。非水溶媒として、これらの溶媒のうちの1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。非水溶媒の成分としては、上記に挙げた以外にも、鎖状炭酸エステル、鎖状エステル、環状または鎖状のエーテルなどが挙げられる。具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジオキソラン、スルホランなどが挙げられる。
【0084】
コイン型非水電解質二次電池1は、別途作製した第二活物質層13および第一活物質層12をこの順でコイン型ケース(正極集電体)50上に重ねることで作製することができる。また、コイン型ケース(正極集電体)50上に直接第二活物質層13を形成し、その上に第一活物質層12を重ねることでコイン型非水電解質二次電池1を作製することもできる。
【0085】
コイン型非水電解質二次電池2は、正極集電体(ケース50)の上に形成された導電性活物質層14の上に、コイン型非水電解質二次電池1の場合と同様の方法で正極活物質層11を重ねることで作製することができる。導電性補助層14は、例えば、導電助剤と結着剤とを含む合剤をプレスすることにより形成できる。また、導電助剤、結着剤および溶媒を含むペースト状の合剤を正極集電体上に塗布して乾燥させることにより、正極集電体上に形成された導電性補助層14を作製してもよい。
【0086】
第一活物質層12は、第一活物質を含む合剤をプレスして成形するなど、通常の方法により作製できる。合剤には、必要に応じて導電助剤、結着剤などが含まれていてもよい。また、第一活物質と溶媒とを含むペースト状の合剤を調製し、これを適当な支持体上に塗布して乾燥させることにより第一活物質層12を作製することもできる。
【0087】
第二活物質層13は、乾式および湿式のいずれの方法により作製してもよい。乾式では、例えば、粒子状の第二活物質と粒子状の導電助剤とを含む合剤をプレスして成形することにより第二活物質層13が得られる。湿式では、例えば、第二活物質を溶媒に溶解させて第二活物質が分子レベルで均一に分散した溶液を調製し、これに導電助剤を加え、第二活物質と導電助剤とを含むペースト状の合剤を調製する。ペースト状の合剤を正極集電体上に塗布して形成した塗布膜を乾燥させることにより、正極集電体上に形成された第二活物質層13が得られる。第二活物質が導電助剤の表面を広く被覆している第二活物質層13を形成する観点から、湿式の方法を採用することが好ましい。
【0088】
以上のとおり、本発明の非水電解質二次電池、特に、コイン型非水電解質二次電池1および2は、従来の製造方法を大きく変えることなく簡便に製造できる。
【0089】
以上の実施形態により、高容量と高出力(優れたパルス放電特性)とが両立した、信頼性の高い非水電解質二次電池を提供することができる。
【0090】
また、従来、円筒型電池および角型電池において、高出力化を目的とする、電極の厚みおよび長さの最適化といった構造面からのアプローチが行われている。これに対し、本実施形態は、材料面からのアプローチによって高出力化を実現できる。このため、外装ケースが単純であり、かつ、その形状を変更できない場合、例えば、コイン型電池の場合において、本実施形態は最も有効な高出力化のアプローチであるといえる。
【実施例】
【0091】
以下に本発明の実施例を説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0092】
[テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に含む重合体の合成]
テトラカルコゲノフルバレン骨格を繰り返し単位に含む重合体として、下記式(8)で表される共重合体化合物(以下、共重合体化合物〔11c〕と記載する)を合成した。
【0093】
【化9】

【0094】
式(8)で表される共合成する共重合体化合物〔11c〕を構成する第1ユニット(側鎖に酸化還元部位を有するユニット)のユニット数nに対する第2ユニット(側鎖に酸化還元部位を有していないユニット)のユニット数mの構成比率m/nはおよそ1である。共重合体化合物〔11c〕は、側鎖に含まれるべきテトラチアフルバレン誘導体の合成、共重合体主鎖化合物の合成、および共重合体主鎖化合物へのテトラチアフルバレンのカップリングの3段階で合成した。以下、これらについて順に説明する。
【0095】
テトラチアフルバレン誘導体の合成は、以下の式(9)に示すルートで行った。フラスコに5gのテトラチアフルバレン〔9a〕(Aldrich社製)を入れ、さらに80mLのテトラヒドロフラン(Aldrich社製)を加えた。これを−78℃に冷却した後、リチウムジイソプロピルアミドのn−ヘキサン‐テトラヒドロフラン溶液(関東化学社製、濃度1mol/L)を10分間で20mL滴下し、その後、7.3gのパラホルムアルデヒド(関東化学社製)を加えて15時間攪拌することにより反応を進行させた。反応後の溶液を900mLの水に注ぎ、1Lのジエチルエーテル(関東化学社製)による抽出を2回行い、500mLの飽和塩化アンモニウム水溶液および500mLの飽和食塩水による洗浄の後、無水硫酸ナトリウムによる乾燥を行った。乾燥剤を除去した後、減圧濃縮して得られた粗生成物6.7gをシリカゲルカラム精製し、1.7gの精製物を得た。当該精製物が式(9)の右辺に示すテトラチアフルバレン誘導体〔9c〕であることを1H−NMRおよびIRにより確認した。
【0096】
【化10】

【0097】
共重合体主鎖化合物の合成は、以下の式(10)に示すルートで行った。モノマー原料として、21gのメタクリロイルクロライド〔10a〕(Aldrich社製)と40gのメチルメタクリレート〔10b〕(Aldrich社製)とを90gのトルエン(Aldrich社製)に混合し、重合開始剤として、4gのアゾイソブチロニトリル(Aldrich社製)を加えた。混合物を100℃で4時間攪拌することにより、反応を進行させた。反応後の溶液にヘキサンを添加して再沈殿を行うことにより、57gの沈殿生成物を得た。当該生成物が式(10)の右辺に示す共重合体主鎖化合物〔10c〕であることを1H−NMR、IRおよびGPCにより確認した。
【0098】
共重合体主鎖化合物〔10c〕は、Cl基を有するユニット(第1ユニット)およびメトキシ基を有するユニット(第2ユニット)からなる。クロロホルム溶媒中での1H−NMR測定の結果、共重合体主鎖化合物〔10c〕の主鎖に直接結合しているメチル基に由来するピークは0.5〜2.2ppm付近、第2ユニットが有するメトキシ基に由来するピークは3.6ppm付近に観測された。なお、これらのピークの積分値の比率から、共重合体主鎖化合物〔10c〕における第1ユニットに対する第2ユニットの構成比率m/nを算出することができる。IR測定では、第1ユニットが有するカルボニル基(C=O)およびCl基(C−Cl)ならびに第2ユニットが有するカルボニル基(C=O)のそれぞれが異なる吸収ピークとして現れた。GPCによる測定の結果、共重合体主鎖化合物〔10c〕の重合度(数平均重合度)は20を超えていた。
【0099】
【化11】

【0100】
共重合体主鎖化合物〔10c〕へのテトラチアフルバレン誘導体〔9c〕のカップリングは、以下の式(11)に示すルートで行った。Arガス気流下で、反応容器に1.0gのテトラチアフルバレン誘導体〔9c〕と26mLのテトラヒドロフランとを入れ、室温で撹拌した。反応液に0.17gのNaH(60wt% in mineral oil)(Aldrich社製)を滴下し、40℃で1時間撹拌しながら、8.5mLのテトラヒドロフランに0.58gの共重合体主鎖化合物〔10c〕を溶解させた溶液を加えた。得られた混合液を70℃で一晩撹拌することにより、反応を進行させた。このようにして得た溶液にヘキサンを加え、再沈殿により、0.2gの沈殿生成物を得た。当該生成物が式(11)の右辺に示す共重合体化合物〔11c〕であることを1H−NMR、IRおよびGPCにより確認した。1H−NMR測定の結果、共重合体化合物〔11c〕の主鎖とテトラチアフルバレン基とを結合しているメチレン基に由来するピークは4.8ppm付近、テトラチアフルバレン基に由来するピークは6.8〜7.0ppm付近に観測された。共重合体化合物〔11c〕は、テトラチアフルバレン基を有するユニット(第1ユニット)およびメトキシ基を有するユニット(第2ユニット)からなる。1H−NMR測定で得られた各ピークの積分値の比率から、上述と同様の方法により、共重合体化合物〔11c〕における第1ユニットに対する第2ユニットの構成比率m/nを算出した。構成比率m/nはおよそ1であった。共重合体化合物〔11c〕の重量平均分子量はおよそ28000であった。また、硫黄元素分析の結果、共重合体化合物〔11c〕の硫黄含有量は30.2wt%であった。硫黄含有量から共重合体化合物〔11c〕の理論容量を計算すると、125mAh/gとなった。
【0101】
【化12】

【0102】
(実施例1)
実施例1では、正極集電体と第一活物質層との間に形成された第二活物質層を備えた、図1に示すコイン型非水電解質二次電池を作製した。第一活物質層において、第一活物質としてはバナジウム酸化物(V25)を用いた。第二活物質層において、第二活物質としては上記で合成した共重合体化合物〔11c〕を用い、導電助剤としてはアセチレンブラックを用いた。第二活物質が導電助剤の表面の少なくとも一部を被覆するように第二活物質層を作製した。負極としてはリチウム金属を用いた。
【0103】
[正極の作製]
まず、第一活物質を含む第一活物質層を作製した。V25(Aldrich社製)1800mgと、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)100mgとを秤量し、これらを乳鉢に入れて混練した。さらに、結着剤としてPTFE100mgを含むディスパージョン(ダイキン工業社製)を添加して、乳鉢中で混錬、乾燥した。こうして得た合剤の一部を、16mmφの粉体圧縮成型機を用いて、圧力10MPaで圧縮成型し、厚み0.6mmのペレットを作製した。ペレット中の残留水分を除去するため、200℃の熱風でペレットを乾燥させた。こうして得られた第一活物質層を、水銀ポロシメーターを用いて評価した。第一活物質層は空孔率46%の多孔質構造を有していた。第一活物質層における第一活物質(V25)の重量は360mgであった。
【0104】
次に、第二活物質層を作製した。150mgの共重合体化合物〔11c〕をN−メチルピロリドン(和光純薬工業社製)3gに溶解させた。得られた溶液をレーザー回折式粒度分布(島津製作所社製)により測定した結果、粒子が存在していないことを確認した。よって、共重合体化合物〔11c〕は溶液中に完全に溶解していた。この溶液に、導電助剤としてアセチレンブラック150mgをさらに混合させてペースト状の合剤を調製した。スピンコーティングにより、当該ペースト状の合剤を正極集電体(コイン型電池のケース)上に16mmφとなるように塗布した。得られた塗布膜を120℃で1時間真空乾燥させることによって塗布膜中の溶媒を除去した。これにより、正極集電体と第二活物質層とを含む積層体が得られた。正極集電体の重量増加から計算される第二活物質(共重合体化合物〔11c〕)の担持重量は3.0mgであった。
【0105】
第一活物質層を第二活物質層の上に積層することにより正極を得た。
【0106】
[コイン型電池の作製]
上記正極を用いてコイン型電池を作製した。正極は、電解液を保持したセパレータに第一活物質層が接触するとともに、集電体であるコイン型電池ケース側に第二活物質層が位置するように、配置された。負極としてリチウム金属(厚み0.3mm)を用いた。電解質として、プロピレンカーボネート(PC)とγ−ブチロラクトン(GBL)とジメトキシエタン(DME)を体積比2:1:2で混合した溶媒中に、電解質としてホウフッ化リチウムを、濃度が1mol/L濃度となるように溶解させることによって電解液を調製した。
【0107】
電解液を、セパレータとしてのポリプロピレン製不織布(厚み80μm)、正極、および負極に含浸させた。その後、図1に示す構成となるように、正極、セパレータおよび負極をこの順で重ねた。ガスケットを装着した封口板でコイン型電池ケースの開口を閉じ、プレス機にてケースをかしめて封口した。以上により、実施例1のコイン型非水電解質二次電池が得られた。
【0108】
(実施例2)
実施例2では、正極集電体のみが実施例1と異なるコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0109】
15mmφに打ち抜いた金属メッシュ(SUS、30メッシュ、ニラコ社製)をスポット溶接によりコイン型電池ケース上に取り付け、正極集電体を得た。この正極集電体を用いた以外は、実施例1と同じ方法で正極を作製した。正極集電体上に担持された第二活物質(共重合体化合物〔11c〕)の担持重量は3.1mgであった。当該正極を用いた以外は実施例1と同じ方法でコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0110】
(実施例3)
実施例3では、正極集電体と第二活物質層との間に導電性補助層を形成したことのみが実施例1と異なるコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0111】
天然黒鉛20mgと、結着剤としてカルボキシメチルセルロース1mgと、PTFE1mgを含むディスパージョン(ダイキン工業社製)とを混合してペースト状の合剤を調製した。スピンコーティングにより、当該ペースト状の合剤をコイン型電池ケース上に塗布した。得られた塗布膜を乾燥させることにより、厚み30μmの導電性補助層を形成した。ケース上に形成された導電性補助層の上に、実施例1と同じ方法で第二活物質層を形成した。導電性補助層を有する正極集電体上に担持された第二活物質(共重合体化合物〔11c〕)の担持重量は3.2mgであった。当該第二活物質層の上に、実施例1と同じ方法で第一活物質層を積層することにより正極を得た。当該正極を用いた以外は実施例1と同じ方法でコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0112】
(比較例1)
比較例1では、第一活物質層のみを正極活物質層として備えた正極を作製し、コイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0113】
まず、実施例3と同じ方法で、導電性補助層を有する正極集電体を得た。また、実施例1と同じ方法で第一活物質層を作製した。
【0114】
当該導電性補助層の上に直接第一活物質層を積層することにより、正極を得た。当該正極を用いた以外は実施例1と同じ方法でコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0115】
(比較例2)
比較例2では、セパレータと第一活物質層との間に形成された第二活物質層を備えたコイン型非水電解質二次電池を作製した。
【0116】
まず、セパレータの片面に第二活物質層が形成された積層体を作製した。第二活物質と導電助剤とを含むペースト状の合剤を実施例1と同じ方法で調製した。バーコーターを用いて、当該ペースト状の合剤をポリプロピレン製不織布(厚み80μm)の片面のみに塗布した。得られた塗布膜を120℃で1時間真空乾燥させることによって塗布膜中の溶媒を除去した。得られた積層体を16mmφに打ち抜くことにより、セパレータと第二活物質層との積層体を得た。セパレータの重量増加から計算される第二活物質(共重合体化合物〔11c〕)の担持重量は3.0mgであった。
【0117】
次に、実施例1と同じ方法で第一活物質層を作製した。さらに、実施例3と同じ方法で、導電性補助層を有する正極集電体を得た。
【0118】
導電性補助層の上に第一活物質層を積層した。第二活物質層が第一活物質層に接触するように、セパレータと第二活物質層との積層体を第一活物質層上に積層した。これにより、正極とセパレータとの積層体が得られた。
【0119】
実施例1と同じ方法で電解液を調製した。負極としてはリチウム金属(厚み0.3mm)を用いた。電解液を正極とセパレータとの積層体および負極に含浸させた。その後、図1に示すように正極、セパレータおよび負極がこの順で積層された構成となるように、正極とセパレータとの積層体および負極を重ねた。ガスケットを装着した封口板でコイン型電池ケースの開口を閉じ、プレス機にてケースをかしめて封口した。以上により、比較例2のコイン型非水電解質二次電池が得られた。
【0120】
[電池の充放電特性の評価]
実施例1〜3、比較例1および2において得たそれぞれの電池に対して、充放電容量評価および出力(パルス放電特性)評価を行った。
【0121】
まず電池を放電し、次いで充電することによって充放電容量の評価を行った。なお、充放電容量の評価は25℃の恒温槽環境内に電池を置いて行った。充放電試験は、電池容量に対して20時間率(0.05CmA)となる電流値にて定電流充放電を行うことにより実施した。また、電圧範囲は、充電上限電圧を3.9V、放電下限電圧を2.8Vとした。充電終了後、放電を開始するまでの休止時間は30分とした。こうして得られた放電容量を、電池の充放電容量とした。
【0122】
出力(パルス放電特性)評価では、前述の充放電容量評価の後、すなわち電池の満充電状態から、10mAの電流値で1秒間の放電を行ったときの、1秒後の閉回路電圧を測定した。なお、出力評価は−20℃の恒温槽環境内に電池を置いて行った。出力(パルス放電特性)評価における電池の放電下限電圧は1Vとした。
【0123】
充放電容量評価および出力評価の結果を表1にまとめて示す。
【0124】
【表1】

【0125】
実施例1〜3、比較例1および2で用いた第一活物質層の厚みは等しく、実施例1〜3および比較例2で用いた第二活物質層の容量が非常に小さかったため、実施例1〜3、比較例1および2で得られた電池はすべて、第一活物質であるV25に由来する可逆かつ等しい充放電容量を有していた。出力評価の結果、第二活物質を添加しなかった比較例1における電池と比較して、実施例1〜3における電池では10mAの電流値で1秒間の放電を行ったときの閉回路電圧が高かった。これは、高速放電時に第二活物質が円滑に反応し、電圧降下が小さくなったことを示している。すなわち、実施例1〜3における電池は、比較例1における電池よりも優れた出力特性を有していた。以上のとおり、実施例1〜3では、加えた第二活物質の量が少量であり、第二活物質による電池の充放電容量への寄与が非常に小さかったにもかかわらず、電池の出力特性を大きく改善できた。
【0126】
正極集電体上に導電性補助層を有する実施例3の電池は、正極集電体上に導電性補助層を有しない実施例1の電池よりも優れた出力特性を示した。
【0127】
正極集電体上に第二活物質層を有する実施例1の電池は、正極集電体上に導電性補助層を有する比較例1の電池よりも優れた出力特性を示した。正極集電体上に導電性補助層を形成した場合よりも、正極集電体上に第二活物質層を形成した場合の方が、出力特性を改善する効果が大きいと考えられる。また、正極集電体上に形成された第二活物質層は、導電性補助層の役割も担えると考えられる。
【0128】
なお、実施例1で作製した正極から第二活物質層を除いた場合(比較例1で作製した正極から導電性補助層を除いた場合)、充放電試験において電流が取り出せないほど抵抗が高くなった。
【0129】
また、実施例3と比較例1との比較から、正極集電体上に導電性補助層を形成し、その上にさらに第二活物質を形成することが高出力化にとって有効であることが確認された。
【0130】
また、実施例2と比較例1の比較から、金属メッシュが取り付けられたコイン型ケースを正極集電体として用い、金属メッシュの上にさらに第二活物質を形成することが、高出力化にとって有効であることが確認された。
【0131】
実施例1〜3の電池が、比較例1および2の電池と比較して高出力を有していたのは、第二活物質が有機化合物であったことと、第二活物質層が正極集電体と第一活物質層との間に設けられていたこととの相乗効果によると考えられる。すなわち、第二活物質が有機化合物であったことにより、充放電反応が高速で進行したと考えられる。さらに、第二活物質層が正極集電体と第一活物質層との間に設けられていたことにより、正極集電体と正極活物質層との間の界面における接触抵抗が小さくなり、正極全体としての電子伝導性が向上したと考えられる。
【0132】
実施例2の電池は、パルス放電時の閉回路電圧が比較例2の電池よりも高かった。すなわち、比較例2の電池よりも実施例2の電池の方が高出力特性に優れていた。実施例2の電池では、第二活物質層を正極集電体と第一活物質層との間に配置した。比較例2の電池では、第二活物質層がセパレータ上に形成されていたため、接触抵抗を小さくする効果が得られず、第二活物質層の有する高出力特性を十分に発揮できなかったと考えられる。
【0133】
以上のとおり、本発明によれば、エネルギー密度を大きく低下させることなく、非水電解質二次電池の出力特性、特にパルス放電特性を改善することができる。
【0134】
なお、本発明の非水電解質二次電池は、コイン型電池としての実施形態に限らず、円筒型電池、角型電池など、種々の実施形態を採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の非水電解質二次電池は、高出力、高容量、および優れた繰り返し特性を有する。特に、本発明の非水電解質二次電池は、パルス放電特性に優れているため、瞬間的に大電流を必要とする各種携帯機器、輸送機器、無停電電源などにおいて好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0136】
1,2 コイン型非水電解質二次電池
10,15 正極
11 正極活物質層
12 第一活物質層
13 第二活物質層
14 導電性補助層
20 負極
21 負極活物質層
22 負極集電体
30 セパレータ
31 電解液(電解質)
50 コイン型ケース(正極集電体)
51 封口板
52 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と第一活物質層と第二活物質層とを有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵および放出することができる負極活物質を含む負極と、
リチウムイオンとアニオンとの塩を含む電解質とを備え、
前記第一活物質層は、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる第一活物質を主要な活物質として含み、
前記第二活物質層は、前記アニオンを吸蔵および放出することができる有機化合物である第二活物質を主要な活物質として含むとともに、導電助剤を含み、
前記第二活物質層が前記正極集電体と前記第一活物質層との間に設けられている、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記第二活物質が前記導電助剤の表面を被覆している請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記正極は、炭素材料と結着剤とで構成された導電性補助層をさらに有し、
前記導電性補助層が前記正極集電体と前記第二活物質層との間に設けられている請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記第二活物質は、テトラカルコゲノフルバレン骨格を有する重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記第一活物質は、リチウムを含有していてもよい遷移金属酸化物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記遷移金属酸化物はV25である請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記遷移金属酸化物はLiFePO4である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記第一活物質層が活物質として前記第一活物質のみを含み、
前記第二活物質層が活物質として前記第二活物質のみを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−12330(P2013−12330A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143066(P2011−143066)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】