説明

非水電解質電池セパレータ

【課題】充放電のサイクル安定性、とりわけ長期に亘り充放電を繰り返した時の容量安定性に優れ、高い耐短絡特性を有する非水電解質電池セパレータ。
【解決手段】ポリオレフィンを含む基材層と、耐熱性高分子を含む耐熱性多孔質層とを備え、条件(i)及び(ii)を満たす非水電解質電池セパレータ。(i)耐熱性多孔質層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ハロゲン及び珪素の群から選ばれる1種又は2種以上の元素を0.1〜1000ppm含む。(ii)基材層は、条件(A)から(E)の少なくとも1つを満たす。(A)Fe、Cr及びNiのうち1種以上の元素を0.1〜3ppm含む(B)Ti及びZrのうち1種以上の元素を0.1〜30ppm含む(C)Al及びBのうち1種以上の元素を0.1〜50ppm含む(D)アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち1種以上の元素を1〜70ppm含む(D)ハロゲン元素を1〜200ppm含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期に亘る充放電サイクル特性に優れると共に耐短絡性が向上した非水電解質電池セパレータに関し、さらに前述のセパレータを用いた非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池、特に、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、高エネルギー密度であり、携帯電話・ノートパソコンといった携帯用電子機器の主電源として広範に普及している。このリチウムイオン二次電池は、更なる高エネルギー密度化が求められているが、安全性の確保が技術的な課題となっている。リチウムイオン二次電池の安全性確保においてセパレータの役割は重要であり、とりわけシャットダウン機能の観点から、現状ではポリオレフィン、特にポリエチレン微多孔膜が用いられている。ここで、シャットダウン機能とは、電池の温度が上昇したときに、多孔膜の微細孔が閉塞し電流を遮断する機能のことを言い、電池の熱暴走を食い止める働きに有効とされている。
【0003】
一方、リチウムイオン二次電池は、年々高エネルギー密度化がなされており、安全性確保のためシャットダウン機能に加えてより高い耐熱性、耐短絡性も要求されてきている。しかしながら、シャットダウン機能は、ポリエチレン微多孔膜の溶融による細孔の閉塞をその作動原理としているため、耐熱性等とは必ずしも並立するものではない。すなわち、シャットダウン機能が作動した後、電池温度がさらに上昇することで、セパレータの溶融(いわゆるメルトダウン)が進行してしまう場合がある。この結果、電池内部で短絡が生じ、これに伴って大きな熱が発生して、電池は発煙・発火・爆発といった危険に曝されることになる。
【0004】
このため、セパレータにはシャットダウン機能に加えて、シャットダウン機能が発現する温度よりある程度高い温度でも短絡が生じる事が無く、さらにシャットダウンより高い温度に、ある程度保持されても短絡が生じない耐熱性が要求されている。この点において、シャットダウン機能を有するポリオレフィンと耐熱性を有するポリオレフィンとの併用がよく知られているが、ポリオレフィン自体の耐熱性がそれほど高くなく、十分な耐熱性が得られていない。
【0005】
さらに、ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に耐熱性多孔質層を被覆する提案、耐熱性繊維からなる不織布を積層させる提案などがなされている(特許文献1〜4参照)。これらの技術は、十分な耐熱性が得られ、シャットダウン機能と耐熱性を両立させるものであるが、セパレータの構成材料の不純物が電池のサイクル特性に与える影響を考慮していない。
【0006】
他方ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面に耐熱性多孔質層としてアラミド多孔質層を設置することにより耐熱性を向上させるセパレータにおいて、アラミド多孔質層中の特定元素、すなわちアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ハロゲン及び珪素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素の含有量を、0.1ppm以上1000ppm以下にすることにより、サイクル特性に優れると共に安全性が向上した非水電解質電池セパレータが提案されている(特許文献5)。この提案は、充放電の短期容量特性に関してはある程度の成功を収めているが、より長期に亘る充放電の容量安定性や耐短絡性に関しては、なんら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−355938号公報
【特許文献2】特開2005−209570号公報
【特許文献3】特開2005−285385号公報
【特許文献4】特開2000−030686号公報
【特許文献5】特開2009−205959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、前記問題を解決し、充放電のサイクル特性、とりわけ長期に亘り充放電を繰り返した時の容量安定性に優れるとともに、さらに高い耐短絡特性、すなわちより高い温度に保持された場合においても短絡の発生しにくくより高い耐熱性を有する非水電解質電池セパレータを提案し、さらに別の課題として、前述のセパレータを用いた非水電解質二次電池を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリオレフィンを含んで形成され内部に空孔ないし空隙を有しシャットダウン機能を有する基材層と、該基材層の片面または両面に積層された耐熱性多孔質層とを備えた非水電解質電池セパレータにおいて、長期に亘り充放電を繰り返したときの容量安定性、より高い耐短絡性及び安全性の実現に関し、研究を進めた結果、前記基材層中の特定元素の含有量を制御することにより、効果的にポリオレフィンの変質を抑制し、前述の課題が解決可能になることを見出し本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、以下の構成を採用するものである。
(1)ポリオレフィンを含んで形成され内部に空孔ないし空隙を有しシャットダウン機能を有する基材層と、耐熱性高分子を含んで形成され前記基材層の片面又は両面に積層された耐熱性多孔質層とを備え、次の条件(i)及び(ii)を満たす非水電解質電池セパレータ。(i)前記耐熱性多孔質層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ハロゲン及び珪素の群から選ばれる1種又は2種以上の元素を0.1〜1000ppm含む。(ii)前記基材層は、次の条件(A)から(E)の少なくとも1つの条件を満たす。(A)Fe、Cr及びNiのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜3ppm含み、(B)Ti及びZrのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜30ppm含み、(C)Al及びBのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜50ppm含み、(D)アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素のうち少なくとも1種以上の元素を1〜70ppm含み、(E)ハロゲン元素を1〜200ppm含む。
(2)前記基材層が、次の条件(A)から(E)の全ての条件を満たす前記(1)に記載の非水電解質電池セパレータ。(A)Fe、Cr及びNiのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜2ppm含み、(B)Ti元素を1〜20ppm含み、(C)Al元素を1〜20ppm含み、(D)Na、Ca及びMgのうち少なくとも1種以上の元素を1〜50ppm含み、(E)ハロゲン元素を1〜100ppm含む。
(3)前記ポリオレフィンが、酸化クロム触媒、メタロセン触媒及びチーグラーナッタ触媒の群から選択される少なくとも一種の触媒により重合されたポリエチレンであって、重量平均分子量が10万から1000万であるポリエチレンを含む前記(1)または(2)のいずれかに記載の非水電解質電池セパレータ。
(4)前記耐熱性多孔質層が、塗布により積層されてなる前記(1)から(3)のいずれかに記載の非水電解質電池セパレータ。
(5)前記耐熱性高分子が、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドからなる群から選ばれる1種又は2種以上である前記(1)から(4)のいずれかに記載の非水電解質電池セパレータ。
(6)前記耐熱性高分子が、ポリメタフェニレンイソフタルアミドである前記(5)に記載の非水電解質電池セパレータ。
(7)前記(1)から(6)のいずれかに記載の非水電解質電池セパレータを用いた、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シャットダウン機能を有し、長期に亘り充放電を繰り返したときの容量安定性に優れるとともに、さらに高い耐短絡特性を有した非水電解質電池セパレータを提供することができる。さらにそれを用いた非水電解質二次電池は、優れた電池特性を有するものであり、高温下での安全性にも優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の非水電解質電池セパレータは、ポリオレフィンを含んで形成され内部に空孔ないし空隙を有しシャットダウン機能を有する基材層と、耐熱性高分子を含んで形成され前記基材層の片面又は両面に積層された耐熱性多孔質層とを備え、次の条件(i)及び(ii)を満たすものである。(i)前記耐熱性多孔質層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ハロゲン及び珪素の群から選ばれる1種又は2種以上の元素を0.1〜1000ppm含む。(ii)前記基材層は、次の条件(A)から(E)の少なくとも1つの条件を満たす。(A)Fe、Cr及びNiのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜3ppm含み、(B)Ti及びZrのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜30ppm含み、(C)Al及びBのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜50ppm含み、(D)アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素のうち少なくとも1種以上の元素を1〜70ppm含み、(E)ハロゲン元素を1〜200ppm含む。
【0013】
以下に、本発明の実施形態について順次説明する。なお、これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0014】
[基材層]
本発明において、内部に空孔ないし空隙を有しシャットダウン機能を有する基材層としては、微多孔膜、不織布、紙状シート、その他三次元ネットワーク構造を有するシート等を挙げることができるが、特に微多孔膜が好ましい。
【0015】
また、本発明における基材層を構成する原料としては、ポリオレフィン系樹脂が挙げられ、中でもポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン及びそれらの共重合体が好適樹脂として例示される。その中でもポリエチレンがより好適である。原料としてポリエチレンを用いる場合、その製造法、触媒系は特に制限はないが、重量平均分子量に関しては、超高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンとそれ以外のポリエチレンの混合物、あるいは低分子量ポリエチレンなどが好適に使用されるが、強度、耐久性、さらには取り扱い時の傷つきにくさ(以下操作性と略称することがある)、例えば、ゲルボフレックス試験などの点より10万から1000万、好ましくは10万から500万、より好ましくは20万から300万の重量平均分子量を含むポリエチレンを使用することが好ましい。また係るポリエチレンは、高密度ポリエチレンを含むこと、とりわけ密度が0.94g/cmを超える高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。またセパレータのシャットダウンの温度特性より、ポリオレフィンの結晶融解温度が130℃以上、好ましくは135℃以上、より好ましくは140℃以上のポリエチレンの選択が好ましい。なお、本発明で用いる基材層は、主として、即ち、約90重量%以上がポリオレフィンからなるものであればよく、約10重量%以下の電池特性に影響を与えない他の成分を含んでいても構わない。
【0016】
[基材層中の不純物]
本発明における基材層は、耐熱性多孔質層が積層され、長期に亘り充放電を繰り返したとき、ポリオレフィンの変質が抑制され、容量変化が小さく、さらに耐熱性、とりわけ耐短絡性に優れた非水電解質電池セパレータとして機能する。このため、基材層中の不純物元素群は、基材層自体を変質させると同時に、耐熱性多孔膜に拡散して、耐熱性の低下を促進する場合があり、その作用の大きさより次の(A)から(E)の5グループに分類される。
【0017】
すなわち;
グループ(A);Fe、Cr、及びNi元素よりなるグループ;これらの元素はポリオレフィンを劣化させ、充放電の容量変化、さらには耐短絡性を低下させることがある。
グループ(B);Ti及びZr元素よりなるグループ;これらの元素はポリオレフィンの劣化、耐熱性多孔質層に拡散したとき、その耐熱性を低下させる効果が大であるが、シャットダウン特性の変化の程度がグループ(A)より小さい。
グループ(C);Al及びB元素よりなるグループ;これらの元素はポリオレフィンへの作用はグループ(A)、(B)よりはやや小さいが、耐熱性多孔質層に拡散した場合、耐熱性高分子の耐熱性を大きく低下させることがある。
グループ(D);アルカリ金属及びアルカリ土類金属元素;これらの元素はポリオレフィンへの作用はグループ(A)、(B)よりは小さいが、耐熱性多孔質層に拡散した場合、耐熱性高分子の耐熱性を大きく低下させることがある。
グループ(E);ハロゲン元素;電池機能すなわち正極集電体として用いられるアルミニウムの溶解を促進して、正極活物質のリチウムの脱挿入サイトを塞ぎ、二次電池性能が著しく損なわれる可能性が大きく、かつ耐熱性高分子を分解しその耐熱性を大きく低下させる可能性がある。
【0018】
基材層中の、各種不純物含有量は、一般的に少ないほど、それらの成分に起因する好ましくない効果は低減されるが、その含有量をすべて0ppm近傍まで低減することは、工業的に困難であると共に過大なコストを必要とする場合が多く、結果的にセパレータのコストが許容されない値となることが多い。従って、不純物元素を数グループに分別し、その含有量を特定範囲とすることは、そのコストを低減する有効な方法である。
【0019】
かかる特定グループが、そのグループに対応する限界量を超過して増大すると、長期に亘り充放電を繰り返したとき、ポリオレフィン樹脂が変質して、電池容量の低減、耐短絡性の悪化を招くことがある。さらに耐熱性多孔質層に拡散して、耐熱性樹脂の耐熱性を低下させ、所望の効果を低下させる場合が発生することがある。すなわち、本発明は、基材層中に含有される特定グループの元素量を特定範囲とすることにより、前述の問題を抑制できることを見出したものである。
【0020】
すなわち、セパレータ製造コストと前記問題の制御が両立する範囲として;
(i)耐熱性多孔質層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ハロゲン及び珪素の群から選ばれる1種又は2種以上の元素を、0.1〜1000ppm含み、
(ii)前記基材層は、次の条件(A)から(E)の少なくとも1つの条件を満たす。(A)Fe、Cr及びNiのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜3ppm含み、(B)Ti及びZrのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜30ppm含み、(C)Al及びBのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜50ppm含み、(D)アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも1種以上の元素を1〜70ppm含み、(E)ハロゲン元素を1〜200ppm含むことが好ましい。これにより、前述した長期にわたる充放電の容量安定性、及び良好な耐短絡性を発現することができる。(i)及び(ii)の各条件の上限値を超えて不純物を含んだ場合、前述の問題を制御することができず、下限値未満に低減することはコストの面から現実的ではない。
【0021】
なお、(i)の耐熱性多孔質層中の不純物について、耐熱性多孔質層に含まれる耐熱樹脂の量は、ポリオレフィンに比較して使用量が少なく、また、不純物は耐熱樹脂中に強く結合されているため、(ii)に比較してその影響は小さいことが多い。従って、上記観点より、好ましくは(ii)前記基材層は、次の条件(A)から(E)の全ての条件を満たすものである。(A)Fe、Cr及びNiのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜2ppm含み、(B)Ti元素を1〜20ppm含み、(C)Al元素を1〜20ppm含み、(D)Na、Ca及びMgのうち少なくとも1種以上の元素を1〜50ppm含み、(E)ハロゲン元素を1〜100ppm含む。
【0022】
[基材層中の不純物元素の減少法]
基材層中の前記(A)から(E)のグループを構成する元素の含有量を調整する方法は、特に限定はなく、具体的には、例えば以下の(1)〜(4)の方法などが例示される。また後述の耐熱性多孔質層の項で記述するごとく、耐熱性多孔質層の製造工程においては、基材層と耐熱性多孔質層の両層に関し、前記(A)から(E)のグループを構成する元素成分を同時に除去することも可能で、かかる方法は、工程の単純化、コストの低減の観点より好ましく選択される。
【0023】
(1)ポリオレフィン重合時、活性の高い触媒系を使用して、触媒系に由来する前記元素の含有量を減少させる方法。すなわち、高活性触媒の使用により、ポリオレフィン中の前記(A)から(E)のグループを構成する元素の含有量は低い水準となる。具体的には、酸化クロム触媒、メタロセン触媒及びチーグラーナッタ触媒の群より選択される少なくと一種の触媒により重合されることが好ましい。とりわけ好ましくはチーグラーナッタ触媒により重合されたポリオレフィンを含有することが好適に選択される。
【0024】
(2)重合後のポリオレフィン樹脂粉粒体の溶媒洗浄を繰り返す方法。
【0025】
(3)基材層の製造時、ポリオレフィン溶液の濾過あるいは吸着処理により、前記(A)から(E)のグループを構成する元素成分を除去する方法。すなわち、セライトなど各種公知の濾過材、モレキュラーシーブスなどの吸着材を通過させることにより、基材層中の前記(A)から(E)のグループを構成する元素成分を好適に低減することができる。また、ポリオレフィン溶液の押出時、ダイ通過前にフィルターを設置することにより、溶液に不溶性の前記(A)から(E)のグループを構成する元素成分を除去することも可能である。濾過材あるいは吸着材の使用量は、溶液中に含有する前記(A)から(E)のグループを構成する元素の含有量、濾過材あるいは吸着材の能力などにより適宜選択する必要がある。
【0026】
(4)延伸ポリオレフィン微多孔膜を溶媒抽出処理する方法。基材層としてポリオレフィン微多孔膜を用いる場合、その製造時において、延伸から熱固定の間、さらには熱固定の後、前記(A)から(E)のグループを構成する元素成分の抽出能力を有する溶媒、たとえば揮発性の極性溶媒、沸点が室温から200℃、好ましくは、室温から150℃の極性溶媒で溶媒抽出処理することができる。具体例としては例えば、水あるいはアルコール性水酸基、エーテル基、カルボニル基、アミド基、スルホキシド基及びスルホニル基より選択される少なくとも一種を保有する極性溶媒の少なくとも一種を含む溶媒で洗浄する方法が例示される。かかる溶媒としては、例えば水、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、シクロヘキサノールなどの低級アルコール類、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジブチルエーテル、アセトンなどの低級エーテル類、メチルエチルケトン、ジブチルケトン、シクロヘキサノン等の低級ケトン類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの低級アミド類、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの低級スルホキシド、スルホン類などが例示される。中でも水とこれら有機溶媒の混合溶媒の使用が好ましい。これらの方法により、前記(A)から(E)のグループを構成する元素の含有量を好適な範囲に制御することも可能であるが、いくつかの方法を組合せて実施することが好ましい。
【0027】
樹脂ユーザーとしては、(1)の方法を実施することは困難であるので、具体的組合せ法としては(2)、(3)及び(4)の方法、あるいは、これらの方法をいくつか組合せて実施する方法が実施の容易さ、効果の点より好ましい。なかでも(3)及び/または(4)を必須手段として包含する組合せ方法により前記(A)から(E)のグループを構成する元素成分を効果的に減少させることができる。とりわけ好ましくは、(3)と(4)の方法を組合せ実施する方法である。
【0028】
[洗浄溶剤の純度]
本発明において、ポリオレフィン樹脂粉粒体あるいはポリオレフィン微多孔膜の洗浄を行う洗浄溶剤としては、前記(A)から(E)のグループを構成する元素成分の含有量の少ない洗浄溶剤を使用することが好ましい。洗浄溶剤中の前記(A)から(E)のグループを構成する元素成分の含有量が、0.01〜50ppm、好ましくは0.02〜30ppm、より好ましくは0.05〜20pm、とりわけ好ましくは、1〜10ppmの溶剤が例示される。かかる特定グループを構成する元素成分の含有量の少ない溶媒は、電子工学用溶媒の使用により、容易に達成されるがコストの観点において好ましくない。しかし一般的な工業用溶媒を常圧あるいは減圧条件下の単蒸留あるいは多段蒸留、あるいは各種濾過材、吸着材の使用により、好ましくはこれらの方法を組合せた精製により、不純物含有量を前述の範囲内に制御することが可能である。本発明において、前記(E)グループを構成する元素成分に関し、ハロゲン系溶媒を使用することは可能であるが、ハロゲン系溶媒はポリオレフィン微多孔膜中に残存する可能性があり、かかる溶媒は使用しないことが好ましい。
【0029】
[基材層のその他の特性]
本発明における基材層としてポリオレフィン微多孔膜を用いた場合の特性について以下説明する。本発明におけるポリオレフィン微多孔膜は、たとえば常温、1000サイクルにおけるゲルボフレックス試験後のピンホール数が5個/m以下であることが好ましい。これにより非水電解質電池用セパレータの耐短絡性が優れたものとなる。
【0030】
本発明におけるポリオレフィン微多孔膜の膜厚は、非水電解質電池のエネルギー密度、負荷特性、機械強度及びハンドリング性の観点から、5〜25μmであることが好ましい。
【0031】
本発明におけるポリオレフィン微多孔膜の空孔率は、透過性、機械強度及びハンドリング性の観点から、30〜60%であることが好ましい。更に好ましくは、40%〜60%である。
【0032】
本発明におけるポリオレフィン微多孔膜のガーレ値(JIS・P8117)は、機械強度と膜抵抗をバランス良く得るという観点から、50〜500sec/100ccであることが好ましい。
【0033】
本発明におけるポリオレフィン微多孔膜の膜抵抗は、非水電解質電池の負荷特性の観点から、0.5〜5ohm・cmであることが好ましい。
【0034】
本発明におけるポリオレフィン微多孔膜の突刺強度は250g以上であることが好ましい。250gを下回ると、非水電解質電池を作製した場合、電極の凹凸や衝撃等でセパレータにピンホール等が発生し、非水電解質電池が短絡する可能性が高くなるため、好ましくない場合がある。
【0035】
本発明におけるポリオレフィン微多孔膜の引張強度は10N以上であることが好ましい。10Nを下回ると、非水電解質二次電池を作成する時にセパレータを捲回する際に、セパレータが破損する可能性が高くなるためである。
【0036】
本発明におけるポリオレフィン微多孔膜のシャットダウン温度は130〜150℃であることが好ましい。シャットダウン温度は、抵抗値が10ohm・cmとなった温度を指す。シャットダウン温度が130℃より小さい場合、シャットダウン現象が低温で発現するのと同じく、ポリオレフィン微多孔膜が完全溶融し短絡現象が発生するメルトダウンと呼ばれる現象も低温で発生する事になり、安全上好ましくない場合がある。また、シャットダウン温度が150℃より大きいと、セパレータを始めとする電池を構成する部材の高温時の安全機能が期待できないためである。かかる観点において、好ましくは135〜145℃の範囲が好適に選択される。
【0037】
本発明におけるポリオレフィン微多孔膜の105℃における熱収縮率は5〜40%であることが好ましい。熱収縮率がこの範囲にある時、ポリオレフィン微多孔膜を加工して得た非水電解質二次電池セパレータの形状安定性とシャットダウン特性のバランスがとれたものとなる。
【0038】
[基材層の製造法]
本発明における基材層としてポリオレフィン微多孔膜を用いた場合、その製造法に特に制限は無いが、具体的には下記(5)〜(10)の工程を経て製造することが好ましい。
【0039】
(5)ポリオレフィン溶液の調整
ポリオレフィンを溶剤に溶解させた溶液を調整する。この時、溶剤を混合して溶液を作成しても構わない。溶剤としては、例えばパラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、鉱油、ひまし油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリン、トルエン、キシレン、ジエチルトリアミン、エチルジアミン、ジメチルスルホキシド、ヘキサン等が挙げられる。本発明においては、溶剤中含有される前記(A)から(E)のグループを構成する元素の含有量を、電子工学用溶媒の使用、蒸留法あるいはモレキュラーシーブスなどへの吸着法により、低減した溶剤を使用することが好ましい。ポリオレフィン溶液の濃度は1〜35重量%が好ましく、より好ましくは10〜30重量%である。ポリオレフィン溶液の濃度が1重量%未満では、冷却ゲル化して得られるゲル状成形物が溶媒で高度に膨潤されるため変形し易く、取扱いに支障をきたす場合がある。一方、35重量%を超えると押し出しの際の圧力が高くなるため吐出量が低くなり生産性が上げられない場合があり、また押し出し工程での配向が進み、延伸性や均一性が確保できなくなる場合がある。
【0040】
(6)ポリオレフィン溶液の押出
調整した溶液を一軸押出機、もしくは二軸押出機で混練、融点から融点+60℃以下の温度でTダイもしくはIダイで押し出す。本発明においては、TダイもしくはIダイの直前に濾過フィルターを設置し、本溶液に不溶性の前記(A)から(E)のグループを構成する元素成分を濾過することも好ましい一態様として例示される。本発明において、押出機としては、好ましくは二軸押出機を用いる。そして、押し出した溶液をチルロールまたは冷却浴に通過させて、ゲル状組成物を形成する。この際、ゲル化温度以下に急冷しゲル化することが好ましい。
【0041】
(7)脱溶媒処理
次いで、ゲル状組成物から溶媒を除去する。揮発性溶剤を使用する場合、予熱工程も兼ねて加熱等により蒸発させゲル状組成物から溶媒を除くこともできる。また不揮発性溶媒の場合は圧力をかけて絞り出すなどして溶媒を除くことができる。なお溶媒は完全に除く必要はない。このとき、前述したように、揮発性溶媒として、前記(A)から(E)のグループを構成する元素成分の抽出能力を有する溶媒を使用することにより、ポリオレフィン微多孔膜中の前記(A)から(E)のグループを構成する元素成分を減少させることもできる。
【0042】
(8)ゲル状組成物の延伸
脱溶媒処理に次いで、ゲル状組成物を延伸する。ここで、延伸処理の前に弛緩処理を行っても良い。延伸処理は、ゲル状成形物を加熱し、通常のテンター法、ロール法、圧延法もしくはこれらの方法の組合せによって所定の倍率で2軸延伸する。2軸延伸は、同時または逐次のどちらであってもよい。また縦多段延伸や3、4段延伸とすることもできる。延伸温度は、90℃〜ポリオレフィンの融点未満であることが好ましく、さらに好ましくは100〜120℃である。加熱温度が融点を越える場合は、ゲル状成形物が溶解するために延伸できない。又、加熱温度が90℃未満の場合は、ゲル状成形物の軟化が不十分で延伸において破膜し易く高倍率の延伸が困難となる場合がある。また、延伸倍率は、原反の厚さによって異なるが、1軸方向で少なくとも2倍以上、好ましくは4〜20倍で行うことが好ましい。特に、結晶パラメータを制御するという観点では、延伸倍率が機械方向に4〜10倍、また機械垂直方向に6〜15倍であることが好ましい。さらに、延伸後、必要に応じて熱固定を行い、熱寸法安定性を持たせる。
【0043】
(9)溶剤の抽出・除去
延伸後のゲル状組成物を抽出溶剤に浸漬して、溶媒を抽出する。抽出溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、デカリン、テトラリンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、メチレンクロライドなどの塩素化炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類など易揮発性のものを用いることができる。これらの溶剤はポリオレフィン組成物の溶解に用いた溶媒に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いることができる。溶媒の抽出は、微多孔膜中の溶媒を1重量%未満に迄除去する。
【0044】
(10)微多孔膜のアニール
微多孔膜をアニールにより熱セットする。アニールは80〜150℃で実施する。本発明においては、所定の熱収縮率を有するという観点から、アニール温度が115〜135℃であることが好ましい。
【0045】
[耐熱性多孔質層]
本発明において耐熱性多孔質層とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層を意味する。
【0046】
本発明では耐熱性多孔質層の併用は必須であるが、耐熱性多孔質層の製造法は特に制限は無く、具体的には例えば特開2009−205959号公報に記載の方法に準拠して製造する方法が好ましい。すなわち、耐熱性高分子の水溶性有機溶剤による塗工液を作製する工程(11)、前記塗工液を基材層の片面あるいは両面に塗布する工程(12)、塗工された基材を水又は水と前記水溶性有機溶剤との混合液からなる凝固液中に浸漬して、耐熱性高分子を凝固させる工程(13)と、この凝固工程後の前記基材を水洗し乾燥する工程(14)を経る方法などが例示される。
【0047】
耐熱性多孔質層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ハロゲン及び珪素の群から選択される1種又は2種以上の元素が0.1〜1000ppmの範囲で含まれている耐熱性高分子を使用して製造されることが好ましい例として例示される。具体的且つ典型的な物質としては、アルカリ金属としては、Na又はLi元素が、アルカリ土類金属としては、Mg又はCa元素が、遷移金属としては、Fe元素が、ハロゲンとしては、塩素元素が例示される。前記物質は、非水電解質電池セパレータの耐熱性、とりわけ、耐熱性多孔質層の耐熱性及び安定性、さらには基材層への拡散によるシャットダウン特性、メルトダウン挙動に影響を及ぼす可能性があるが、耐熱性多孔質層中での含有量が0.1〜1000ppmの範囲であれば、それらの影響を避けることができる。そして、結果的に、サイクル特性、耐短絡性に優れたセパレータ、引いては電池を得ることが可能となる。
【0048】
アルカリ金属、中でもNa元素は、負極界面の皮膜を更新・除去するという効果もあり、必ずしも悪影響を与えるとは限らないが、耐熱性樹脂を熱分解する効果が顕著であるため、セパレータの耐熱性、耐短絡性の観点より前述の範囲に収めることが好ましい。Mg、Ca及びFe元素は、耐熱性多孔質層の熱分解を促進する効果が大きいため、好ましくは0.1〜800ppm、より好ましくは0.1〜700ppmの範囲が例示される。ハロゲンとりわけ塩素元素は、正極集電体として用いられるアルミニウムの溶解を促進して、正極活物質のリチウムの脱挿入サイトを塞ぎ、二次電池性能が著しく損なわれる可能性があるので、好ましくは0.1〜500ppm、とりわけ好ましくは0.1〜300ppmの範囲が例示される。
【0049】
かかる元素成分を所定の範囲とする方法は、例えば、工程(11)で製造された塗工液をモレキュラーシーブス等の吸着材で処理する方法、あるいは各種濾材で濾過して不溶性の前記成分を除去する方法が挙げられる。さらに耐熱性高分子を凝固させる工程(13)においては水性凝固液の使用により、また基材を水洗し乾燥する工程(14)においては水洗処理により、前記元素成分を低減することが可能である。とりわけ、(13)及び(14)の工程においては、前述した基材層及び耐熱性多孔質層に含有される元素成分を同時に低減することができる。従って、工程(14)においては、繰り返し水洗処理を行うことがより好ましい。
【0050】
塗工液を作製する工程(11)において、水溶性有機溶剤は、特に限定はなく、従来公知の溶媒を好適に使用することができるが、具体的には極性溶剤が好ましく、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。また、耐熱性多孔質層の多孔化を促進するため前記極性溶剤に耐熱性高分子に対して貧溶剤となる溶剤を一部混合して用いることもできる。貧溶剤としては、アルコールの類が好適であり、特にグリコールのような多価アルコールが好適である。
【0051】
塗工液を塗布する工程(12)において、塗布法は、特に限定はないが、具体的にはナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられる。塗膜を均一に塗布するという観点において、特にリバースロールコーター法が好適である。例えば、ポリエチレン微多孔膜等の基材の両面に耐熱性高分子の塗工液を塗工する場合は、一対のマイヤーバーの間を通して基材の両面あるいは片面に過剰に塗工液を塗布し、これを一対のリバースロールコーターの間を通し、過剰な塗工液を掻き落すことで精密計量するという方法が挙げられる。
【0052】
耐熱性高分子を凝固させる工程(13)では、耐熱性高分子の塗工された基材を、凝固液中に浸漬、凝固させて耐熱性多孔質層を形成する。凝固の方法としては、特に限定は無く、従来公知の方法を使用でき、例えば、凝固液をスプレーで吹き付ける方法、凝固液の入った浴(凝固浴)中に浸漬する方法などが挙げられる。凝固液は、耐熱性高分子を凝固できるものであれば特に限定されないが、水又は塗工液に用いた有機溶媒に水を適当量混合させたものが好ましい。水の混合量は凝固液に対して40〜80重量%が好適である。40重量%より少ないと耐熱性高分子を凝固する時間が長くなる問題、凝固が不十分な問題が生じることがある。また、80重量%より多いと高溶剤回収コストの問題、塗工膜の表面凝固が速すぎ表面多孔化が不十分となる問題が生じることがある。
【0053】
前記基材を水洗し乾燥する工程(14)は、前述の工程(13)に引き続き、得られたセパレータを水洗して、凝固液を除去し、次いで乾燥する工程である。乾燥方法は特に限定されないが、乾燥温度は50〜80℃が適当であり、高い乾燥温度を適用する場合は、熱収縮による寸法変化が起こらないようにするためにロールに接触させるような方法を適用することが好ましい。
【0054】
本発明で用いられる耐熱性高分子としては、融点200℃以上の高分子あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上の高分子が例示されるが、好ましくは、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドの群から選ばれる1種又は2種以上のものである。とりわけ好ましくは、芳香族ジアミン類と芳香族ジカルボン酸類のジクロライド類から得られた全芳香族ポリアミドが例示される。かかる全芳香族ポリアミドは、ホモポリマーであってもよいし、共重合ポリマーであってよく、若干の芳香族アミノカルボン酸クロリド類の共重合ポリマーであってもよい。さらには若干の脂肪族ジアミン類、ジカルボン酸類、アミノカルボン酸類が含有されていてもよい。全芳香族ポリアミドの中では、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが好ましい例として例示される。ポリエチレンとポリメタフェニレンイソフタルアミドはなじみが良く良好な接着性示すので、本発明においては、特に好ましい組合せである。
【0055】
耐熱性高分子の製法は特に問わず、従来公知の方法が好適に使用されるが、溶液重合又は界面重合で得られたものが好ましい。例えば、全芳香族ポリアミドの溶液重合では、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸クロライドとを、有機極性溶媒、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド中で反応させて全芳香族ポリアミドが得られる。この場合には、直接、塗工液を製造することができる。また、溶液重合で反応副生物として生成した塩類は、除去してもあるいはそれを含んだまま塗工液を調整しても良い。例えば、全芳香族ポリアミドの界面重合では、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸クロライドとを、生成するポリアミドに対し良溶媒でない有機溶媒(溶剤)、例えば、テトラハイドロフラン中で反応せしめて溶液若しくは分散液を作り、これを、炭酸ソーダ等の酸受容剤の水溶液と接触させ反応を完結せしめる。得られた全芳香族ポリアミドの水溶性有機溶剤溶液を、基材層の片面又は両面に塗工すれば良い。
【0056】
なお、耐熱性多孔質層は、主として、即ち、約90重量%以上が耐熱性高分子からなるものであれば良く、約10重量%以下の、電池特性に影響を与えない他の成分を含んでいても良い。
【0057】
本発明において耐熱性多孔質層は、例えばポリオレフィン微多孔膜の基材層の片面または両面に形成されるが、ハンドリング性、耐久性及び熱収縮の抑制効果の観点から、両面に形成した方がより好ましい。耐熱性多孔質層が基材層の両面に形成されている場合は耐熱性多孔質層の厚みの合計が、3μm以上12μm以下が好適に選択される。また、耐熱性多孔質層が基材層の片面にのみ形成されている場合は耐熱性多孔質層の厚みは、3μm以上12μm以下が好適に選択される。いずれの場合においても、耐熱性多孔質層の厚みの合計が3μm未満となると、十分な耐熱性、特に熱収縮抑制効果が得られなくなる。一方、耐熱性多孔質層の厚みの合計が12μmを超えると、適切なセパレータ厚みを実現することが困難となる。
【0058】
耐熱性多孔質層の空孔率は60〜90%の範囲が好適である。空孔率が90%を超えると耐熱性が不十分となる傾向にあり、60%より低いとサイクル特性や保存特性、放電性が低下する傾向となり好ましくない。
【0059】
本発明においては、前記耐熱性多孔質層に、所望の目的により、重量分率50〜95重量%の範囲で、無機フィラーを含有させることができる。無機フィラーとは、無機微粒子であり、その種類は特に限定されるものではないが、好ましいのは、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニアなどの酸化物、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物などである。特に、金属水酸化物が好ましい。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素、若しくはこれらの2種以上の組合せが好適である。無機フィラーの平均粒子径は、0.1〜1μmの範囲にあるものが好ましい。
【0060】
なお、本発明において耐熱性多孔質層に無機フィラーを添加した場合には、本発明で用いられる耐熱性高分子中に含まれていたアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ハロゲン及び珪素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の0.1〜1000ppmの物質と、分析・解析上は区別しにくい場合もあるが、それでも、耐熱性高分子中に元々含まれていた物質は、前記のような無機微粒子とは異なるので、耐熱性高分子の本質的な性質・性能に影響する可能性があるのである。
【0061】
無機フィラーの量が50〜95重量%の範囲であると、無機フィラーは耐熱性高分子と十分になじみ、分散性も良い。また、無機フィラーの作用で、耐熱性多孔質層を水中凝固により形成させる際に、耐熱性高分子の低分子量ポリマーが凝固液中に流出しにくくなるので、好適な孔形成が可能になる。そして、後述のガーレ値や膜抵抗が更に低くなるという効果も得られる。
【0062】
また、無機フィラーは、本発明の非水電解質電池セパレータを難燃化する上で有効に機能する。例えば、無機フィラーとして金属水酸化物を用いた場合には、金属水酸化物を加熱すると脱水反応が起こり酸化物となり、水が放出される。更に、この脱水反応は大きな吸熱を伴う反応である。この脱水反応時に水を放出することと、この反応の吸熱により、難燃効果が得られる。また、水を放出するため可燃性である電解液を水で希釈し、セパレータだけでなく電解液にも効果があり、電池そのものを難燃化する上で有効である。
【0063】
無機フィラーとしての金属水酸化物は、ハンドリング性の観点からも好ましい。また、金属水酸化物は、アルミナのような金属酸化物と比較して軟らかいため、従来のセパレータにあるような問題、即ち、セパレータに含まれる無機フィラーによって、製造時の各工程にて使用する部品が磨耗してしまうといった、ハンドリング性に関する問題が発生しにくいという点でも好ましい。
【0064】
耐熱性多孔質層として、重量分率で50〜95重量%の無機フィラーを含むものを作製する場合には、工程(11)において、耐熱性高分子の水溶性有機溶媒溶液に無機フィラーを分散させ、塗工用スラリーを作製すれば良い。本発明においては、かかる塗工用スラリーも、工程(11)の塗工液の概念に含まれるものである。無機フィラーの分散性が良好でない場合は、無機フィラーをシランカップリング剤等で表面処理し、分散性を改善する手法も適用可能である。
【0065】
[非水電解質電池セパレータ]
本発明の非水電解質電池セパレータの膜厚は、30μm以下が好ましく、さらに20μm以下が好ましい。セパレータの膜厚が30μmを超えるとこれを適用した電池のエネルギー密度や出力特性が低下し好ましくない。非水電解質電池セパレータの物性としては、ガーレ値(JIS・P8117)が10〜1000sec/100cc、好ましくは100〜400sec/100ccである。ガーレ値が10sec/100cc未満である場合は、シャットダウン機能の低下が著しく実用的でない。ガーレ値が1000sec/100ccを超えると、イオン透過性が不十分となり、セパレータの膜抵抗が増加して電池の出力低下を招くという不具合が生じる。膜抵抗は0.5〜10ohm・cm、好ましくは1〜5ohm・cmである。突刺し強度は10〜1000g、好ましくは200〜600gの範囲のものである。
【0066】
[非水電解質電池]
本発明の非水電解質電池セパレータは、公知のいかなる構成の非水電解質電池にも適用することができ、良好なサイクル特性と耐短絡性に優れた電池が得られる。かかる非水電解質電池は一次電池であっても二次電池であっても良く、その種類や構成は、何ら限定されるものではないが、本発明の製造方法で得られた非水電解質電池セパレータは、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質二次電池に好適に応用することができる。中でも、リチウムイオン二次電池への適用が好ましい。
【0067】
一般に非水電解質二次電池とは、負極と正極がセパレータを介して対向している電池要素に電解液が含浸され、これが外装に封入された構造となっているものをいう。負極は、負極活物質、導電助剤、バインダーからなる負極合剤が集電体(銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等)上に成形された構造となっている。負極活物質としては、リチウムを電気化学的にドープすることが可能な材料、例えば、炭素材料、シリコン、アルミニウム、スズかが用いられる。正極は、正極活物質、導電助剤、バインダーからなる正極合剤が集電体上に成形された構造となっている。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiMn、LiFePOが用いられる。電解液は、リチウム塩、例えば、LiPF、LiBF、LiClOを非水系溶媒に溶解した構成である。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネートなどが挙げられる。外装材は金属缶またはアルミラミネートパック等が挙げられる。電池の形状は角型、円筒型、コイン型などがあるが、本発明の製造方法で得られたセパレータは、いずれの形状においても好適に適用することが可能である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、本発明における各種の測定方法は、以下の通りである。
【0069】
[不純物含有量の測定方法]
試料に硫酸を添加して灰化後硫酸水素カリウムで融解した。希硝酸に溶解して、純水にて定容後、ICP発光分析法(ICP−AES法)により、各種金属元素の含有量を測定した。また、サンプルとなるポリマーを自動試料燃焼装置AQF−100(ダイアインスツルメンツ社製)によって燃焼させ、発生したガスを過酸化水素水30ppmに吸収させてイオンクロマトグラフ(ICS−1500、ダイオネクス社製)、カラム(IonPacAG12A/AS12A)によって、ハロゲン元素の定性及び定量を実施した。
【0070】
[膜厚]
膜厚は接触式の膜厚計(ミツトヨ社製)にて20点測定し、これを平均することで求めた。ここで接触端子は底面が直径0.5cmの円柱状のものを用い、接触端子に1.2kg/cmの荷重が印加されるような条件で測定した。
【0071】
[空孔率]
基材層の空孔率は、下記式から求めた。
ε={1−Ws/(ds・t)}×100
ここで、ε:空隙率(%)、Ws:目付(g/m)、ds:真密度(g/cm)、t:膜厚(μm)である。
【0072】
[ガーレ値]
非水電解質二次電池セパレータのガーレ値はJIS P8117に従って求めた。
【0073】
[膜抵抗]
非水電解質二次電池セパレータの膜抵抗は、以下の方法で求めた。
試料を2.6cm×2.0cmのサイズに切り出し、非イオン性界面活性剤(花王社製エマルゲン210P)を3重量%溶解したメタノール溶液(メタノール:和光純薬社製)に浸漬、風乾する。厚さ20μmのアルミ箔を2.0cm×1.4cmに切り出しリードタブを付ける。このアルミ箔を2枚用意して、アルミ箔間に切り出した試料をアルミ箔が短絡しないように挟み、電解液である1MのLiBFプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1重量比)を含浸させる。これをアルミラミネートパック中にタブがアルミパックの外に出るようにして減圧、封入する。このようなセルをアルミ箔中にセパレータが1枚、2枚、3枚となるようにそれぞれ作製する。該セルを20℃の恒温槽中に入れ、交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定する。測定されたセルの抵抗値をセパレータの枚数に対してプロットし、このプロットを線形近似し傾きを求める。この傾きに電極面積である2.0cm×1.4cmを乗じてセパレータ1枚当たりの膜抵抗(ohm・cm)を求めた。
【0074】
[突刺強度]
基材層及び非水電解質二次電池セパレータの突刺強度は、カトーテック社製KES−G5ハンディー圧縮試験器を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行い、最大突刺荷重を突刺強度とした。ここでサンプルは直径11.3mmの穴があいた金枠(試料ホルダー)にシリコンゴム製のパッキンも一緒に挟み固定した。
【0075】
[熱収縮率]
基材層及び非水電解質電池セパレータの熱収縮率は、サンプルを105℃で1時間加熱することによって測定した。
【0076】
[ゲルボフレックス試験]
基材層及び非水電解質電池セパレータのゲルボフレックス試験は、ゲルボフレックステスター(テスター工業製)を用い、常温(25℃)、1000サイクルの条件で実施した。
【0077】
[充放電サイクル特性の評価]
1)正極
コバルト酸リチウム(LiCoO、日本化学工業社製)粉末89.5重量部と、アセチレンブラック4.5重量部及びPVdFの乾燥重量が6重量部となるように、6重量%のPVdFのNMP溶液を用い、正極剤ペーストを作製した。得られたペーストを、厚さ20μmのアルミ箔上に塗布乾燥後プレスして、厚さ97μmの正極を得た。
2)正負極
負極活物質としてメソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB、大阪瓦斯化学社製)粉末87重量部と、アセチレンブラック3重量部及びPVdFの乾燥重量が10重量部となるように、6重量%のPVdFのNMP溶液を用い、負極剤ペーストを作製した。得られたペーストを、厚さ18μmの銅箔上に塗布乾燥後プレスして、厚さ90μmの負極を作製した。
3)ボタン電池の作製
作製した複合多孔膜をセパレータとし、上記の正極及び負極を用いて初期容量が4.5mAh程度のボタン電池(CR2032)を作製した。電解液には1M LiPF6 EC/DEC/MEC(1/2/1重量比)を用いた。作製したボタン電池を充電電圧4.2V、放電電圧2.75Vで充放電を繰返し、500サイクル目の放電容量を、初期容量で除して、長期に亘り充放電を繰り返したときの容量変化のパラメータとした。
【0078】
[シャットダウン温度]
ポリメタフェニレンイソフタルアミド層を両面に設置したポリオレフィン微多孔膜サンプルを直径19mmに打ち抜き、非イオン性界面活性剤(花王社製エマルゲン210P)を3重量%溶解したメタノール溶液(メタノール:和光純薬社製)に切り出したサンプルを浸漬し、風乾した。サンプルを直径15.5mmのSUS板に挟んだ。サンプルに電解液である1MのLiBFプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート(1/1重量比)(キシダ化学社製)を含浸させた。これを2032型コインセルに封入した。コインセルからリード線をとり、熱電対を付けてオーブンの中に入れた。昇温速度1.6℃/分で昇温させ、同時に交流インピーダンス法で振幅10mV、周波数100kHzにて該セルの抵抗を測定した。抵抗値が10ohm・cm以上となった温度をシャットダウン温度とした。
【0079】
[耐短絡性]
作製したボタン電池を充電電圧4.2V、放電電圧2.75Vで充放電を500サイクル繰り返した後、再度4.2Vまで充電し、オーブンに入れ、5kgの錘をのせた。この状態で電池温度が2℃/分で昇温するようにオーブンを設定し、150℃まで昇温した後、1時間保持した。そのとき150℃近傍で急激な電池電圧の低下が確認されたものについては耐短絡性が不良(×)と評価し、150℃においても電池電圧に大きな変化がなかったものについては耐短絡性が良好(〇)と評価した。
【0080】
[参考例1]
ポリエチレン微多孔膜(基材層)の製造
ポリエチレンパウダーとして、チーグラーナッタ触媒で製造されたTicona社製のGUR2126(重量平均分子量415万、融点141℃)とGURX143(重量平均分子量56万、融点135℃)を用いた。GUR2126とGURX143を、1:9(重量比)となるようにして、ポリエチレン濃度が30重量%となるように流動パラフィン(松村石油研究所社製;スモイルP−350P;沸点480℃)とデカリンの混合溶媒中に溶解させ、ポリエチレン溶液を作製した。このポリエチレン溶液の組成は、ポリエチレン:流動パラフィン:デカリン=30:45:25(重量比)であった。
このポリエチレン溶液を148℃でダイから押し出し、水浴中で冷却してゲル状テープ(ベーステープ)を作製した。このベーステープを60℃で8分、95℃で15分乾燥し、次いで、ベーステープを縦延伸、横延伸と逐次行う2軸延伸にて延伸した。ここで、縦延伸は5.5倍、延伸温度は90℃、横延伸は延伸倍率11.0倍、延伸温度は105℃とした。横延伸の後に125℃で熱固定を行った。次にこれを塩化メチレン浴に浸漬し、流動パラフィンとデカリンを抽出した。その後、50℃で乾燥し、120℃でアニール処理しポリエチレン微多孔膜を得た。
このポリエチレン微多孔膜の膜厚は12μm、空孔率36%、ガーレ値355sec/100cc、膜抵抗2.7ohm・cm、熱収縮率(MD/TD)21/8.8%、突刺強度475g、ゲルボフレックス試験4個/mであった。また、ポリエチレン微多孔膜中のFe/Ti/(Na、Ca)/Al/塩素元素の各々の存在量は4/40/(5、75)/70/250ppmであった。
【0081】
[参考例2]
界面重合法によるポリメタフェニレンイソフタルアミドの製造
イソフタル酸クロライド160.5gをテトラヒドロフラン1120mlに溶解し、撹拌しながら、メタフェニレンジアミン85.2gをテトラヒドロフラン1120mlに溶解した溶液を、細流として徐々に加えていくと白濁した乳白色の溶液が得られた。撹拌を約5分間継続した後、更に撹拌しながら炭酸ソーダ167.6g、食塩317gを3400mlの水に溶かした水溶液を速やかに加え、5分間撹拌した。反応系は数秒後に粘度が増大後、再び低下し、白色の懸濁液が得られた。これを静置し、分離した透明な水溶液層を取り除き、濾過によってポリメタフェニレンイソフタルアミドの白色重合体185.3gが得られた。このポリメタフェニレンイソフタルアミド中のFe/Na/塩素元素の各々の存在量は2/100/30ppmであった。
【0082】
[参考例3]
溶液重合法によるポリメタフェニレンイソフタルアミドの製造
温度計、撹拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、水分率が100ppm以下のNMP753gを入れ、このNMP中にメタフェニレンジアミン85.5gを入れ、0℃に冷却した。この冷却したジアミン溶液にイソフタル酸クロライド160.5gを撹拌しながら徐々に添加し反応させた。この反応で溶液の温度は70℃に上昇した。粘度変化が止まった後、水酸化カルシウム粉末を58.4g添加し、さらに40分間撹拌して反応を終了させて重合溶液を取り出し、水中で再沈殿させポリメタフェニレンイソフタルアミドを184.0g得た。ポリメタフェニレンイソフタルアミド中のFe/Ca/塩素元素の各々の存在量は3/120/200ppmであった。
【0083】
[比較例1]
参考例2のポリメタフェニレンイソフタルアミドと平均粒子径0.8μmの水酸化アルミニウム(昭和電工社製;H−43M)からなる無機フィラーとが、重量比で25:75となるように調整し、これらをポリメタフェニレンイソフタルアミド濃度が5.5重量%となるように、ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)が重量比50:50となっている混合溶媒に混合し、塗工用スラリーを得た。
一対のマイヤーバー(番手#6)を、20μmのクリアランスで対峙させた。マイヤーバーに、上記塗工用スラリーを適量のせ、一対のマイヤーバー間に参考例1のポリエチレン微多孔膜を通して、ポリエチレン微多孔膜の両面に塗工用スラリーを塗工した。そして、塗工されたものを、重量比で水:DMAc:TPG=50:25:25で40℃となっている凝固液中に浸漬した。次いで水洗・乾燥を行い、ポリエチレン微多孔膜の両面(表裏面)にポリメタフェニレンイソフタルアミド多孔質層片面各2μmからなる耐熱性多孔質層を形成し非水電解質電池セパレータを得た。
このセパレータのポリエチレン微多孔膜中のFe/Ti/(Na、Ca)/Al/塩素元素の各々の存在量は4/40/(4、70)/70/210ppm、耐熱性多孔質層中のFe/Na/塩素元素の各々の存在量は2/80/25ppmであった。また、該セパレータを使用した電池の充放電のサイクル特性は65%、シャットダウン温度は145℃、耐短絡特性は×であった。
【0084】
[比較例2]
参考例3のポリメタフェニレンイソフタルアミドと平均粒子径0.8μmの水酸化アルミニウム(昭和電工社製;H−43M)からなる無機フィラーとが、重量比で25:75となるように調整し、これらをポリメタフェニレンイソフタルアミド濃度が5.5重量%となるように、ジメチルアセトアミド(DMAc)とトリプロピレングリコール(TPG)が重量比50:50となっている混合溶媒に混合し、塗工用スラリーを得た。
一対のマイヤーバー(番手#6)を、20μmのクリアランスで対峙させた。マイヤーバーに、上記塗工用スラリーを適量のせ、一対のマイヤーバー間に参考例1のポリエチレン微多孔膜を通して、ポリエチレン微多孔膜の両面に塗工用スラリーを塗工した。そして、塗工されたものを、重量比で水:DMAc:TPG=50:25:25で40℃となっている凝固液中に浸漬した。次いで水洗・乾燥を行い、ポリエチレン微多孔膜の両面(表裏面)にポリメタフェニレンイソフタルアミドからなる耐熱性多孔質層を両面に各2μmを形成し非水電解質電池セパレータを得た。
このセパレータのポリエチレン微多孔膜中のFe/Ti/(Na、Ca)/Al/塩素元素の各々の存在量は4/40/(4、70)/70/210ppm、耐熱性多孔質層中のFe/Ca/塩素元素の各々の存在量は3/110/190ppmであった。また、該セパレータを使用した電池の充放電のサイクル特性は50%、シャットダウン温度は145℃、耐短絡特性は×であった。
【0085】
[実施例1]
参考例1において、ポリエチレン溶液をモレキュラーシーブス(4A)に10時間接触、濾過する以外は同様に処理してポリエチレン微多孔膜を製造した。このポリエチレン微多孔膜の膜厚は12μm、空孔率37%、ガーレ値351sec/100cc、膜抵抗2.6ohm・cm、熱収縮率(MD/TD)21.0/8.5%、突刺強度475g、ゲルボフレックス試験4個/mであった。またFe/Ti/(Na、Ca)/Al/塩素元素の各々の存在量は1/15/(3、40)/17/130ppmであった。
このポリエチレン微多孔膜を使用して比較例1と同様にして、ただし凝固液に浸漬後、イオン交換水で洗浄を繰り返した後、乾燥処理を行い、片面各々2μmのポリメタフェニレンイソフタルアミド耐熱性多孔質層を形成し非水電解質電池セパレータを得た。
該セパレータのポリエチレン微多孔膜中のFe/Ti/(Na、Ca)/Al/塩素元素の各々の存在量は1/15/(2、35)/17/95ppm、耐熱性多孔質層中の、Fe/Na/塩素元素の各々の存在量は2/45/20ppmであった。該セパレータを使用した電池の充放電のサイクル特性は85%、シャットダウン温度は143℃、耐短絡特性は○であった。
【0086】
[実施例2]
参考例1において、ポリエチレン溶液をモレキュラーシーブス(4A)に10時間接触、濾過、さらに塩化メチレンによる流動パラフィンとデカリンを抽出した後、イオン交換水により抽出処理を繰り返した以外は同様に処理してポリエチレン微多孔膜を製造した。このポリエチレン微多孔膜の膜厚は12μm、空孔率37%、ガーレ値351sec/100cc、膜抵抗2.6ohm・cm、熱収縮率(MD/TD)21.0/8.5%、突刺強度475g、ゲルボフレックス試験4個/mであった。またFe/Ti/(Na、Ca)/Al/塩素元素の各々の存在量は1/10/(2、30)/15/100ppmであった。
このポリエチレン微多孔膜を使用して比較例2と同様にして、ただし凝固液に浸漬後、イオン交換水で洗浄を繰り返した後、乾燥処理を行い、片面各々2μmのポリメタフェニレンイソフタルアミド耐熱性多孔質層を形成し非水電解質電池セパレータを得た。
該セパレータのポリエチレン微多孔膜中のFe/Ti/(Na、Ca)/Al/塩素元素の各々の存在量は1/10/(2、25)/15/80ppm、ポリメタフェニレンイソフタルアミド耐熱性多孔層中のFe/Ca/塩素元素の各々の存在量は3/90/160ppmであった。該セパレータを使用した電池の充放電のサイクル特性は84%、シャットダウン温度は143℃、耐短絡特性は○であった。
【0087】
以上実施例に見るごとく、本発明のセパレータは充放電のサイクル特性、とりわけ長期に亘り充放電を繰り返した時の容量安定性に優れるとともに、優れた耐短絡特性を発揮する。
【0088】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明により、サイクル特性及び耐短絡特性が良好な非水電解質電池セパレータの利用が可能になり、さらにそれを用いたリチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質二次電池の使用が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを含んで形成され内部に空孔ないし空隙を有しシャットダウン機能を有する基材層と、耐熱性高分子を含んで形成され前記基材層の片面又は両面に積層された耐熱性多孔質層とを備え、下記条件(i)及び(ii)を満たすことを特徴とする非水電解質電池セパレータ。
(i)前記耐熱性多孔質層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ハロゲン及び珪素の群から選ばれる1種又は2種以上の元素を、0.1〜1000ppm含む。
(ii)前記基材層は、下記条件(A)から(E)の少なくとも1つの条件を満たす。
(A)Fe、Cr及びNiのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜3ppm含む
(B)Ti及びZrのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜30ppm含む
(C)Al及びBのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜50ppm含む
(D)アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも1種以上の元素を1〜70ppm含む
(E)ハロゲン元素を1〜200ppm含む
【請求項2】
前記基材層が、下記条件(A)から(E)の全ての条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池セパレータ。
(A)Fe、Cr及びNiのうち少なくとも1種以上の元素を0.1〜2ppm含む
(B)Ti元素を1〜20ppm含む
(C)Al元素を1〜20ppm含む
(D)Na、Ca及びMgのうち少なくとも1種以上の元素を1〜50ppm含む
(E)ハロゲン元素を1〜100ppm含む
【請求項3】
前記ポリオレフィンが、酸化クロム触媒、メタロセン触媒及びチーグラーナッタ触媒の群から選択される少なくとも1種の触媒により重合されたポリエチレンであって、重量平均分子量が10万から1000万であるポリエチレンを含むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の非水電解質電池セパレータ。
【請求項4】
前記耐熱性多孔質層が、塗布により積層されてなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の非水電解質電池セパレータ。
【請求項5】
前記耐熱性高分子が、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドからなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の非水電解質電池セパレータ。
【請求項6】
前記耐熱性高分子が、ポリメタフェニレンイソフタルアミドであることを特徴とする請求項5記載の非水電解質電池セパレータ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の非水電解質電池セパレータを用いた、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2012−49018(P2012−49018A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190759(P2010−190759)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】