非火薬発熱組成物
【課題】火薬類取締法上の火薬に該当しない成分より構成されて取扱上及び製造上の安全性が高く、しかも着火性能に優れた非火薬発熱組成物を提供する。
【解決手段】酸化剤の二酸化テルル10〜50重量%、発熱剤としてのチタン粉及び硼素粉30〜70重量%、ガス発生剤としての硫酸アンモニウムアルミニウム12水0〜30重量%、結合剤としてのポリ酢酸ビニール1重量%を含有する。
【解決手段】酸化剤の二酸化テルル10〜50重量%、発熱剤としてのチタン粉及び硼素粉30〜70重量%、ガス発生剤としての硫酸アンモニウムアルミニウム12水0〜30重量%、結合剤としてのポリ酢酸ビニール1重量%を含有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火薬類取締法上の火薬に該当しない成分より構成される非火薬発熱組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
火薬類取締法上の火薬に該当しない成分より構成される非火薬ガス発生組成物として、下記特許文献1には、酸化第二銅、酸化第二鉄、又は過酸化マンガンよりなる酸化剤と、アルミニウム又はマグネシウムよりなる還元剤とからなるテルミット剤(金属酸化還元剤)と、カリウムアルミニウム明礬又は過硫酸アンモニウム等のガス発生剤と、ステアリン酸カルシウム等の鈍化剤と、塩化ビニール、アセチルセルロース等の結合剤を有する非火薬破砕薬剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−139036号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
硝酸塩、過塩素酸塩などの火薬を構成する成分を含まない上記特許文献1に開示される薬剤は、取扱上又は製造上の安全性が高く、法律上も火薬取締法上の制約を受けないが、燃焼に要する時間が長く、緊急作動を要する装置などへの使用には適さない。
【0005】
本発明は、取扱上及び製造上の安全性が高く、しかも上記特許文献1に開示される薬剤よりも着火性能に優れた非火薬発熱組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係わる発明の非火薬発熱組成物は、酸化物からなる酸化剤と、チタン粉及び硼素粉よりなる発熱剤を含有することを特徴とし、
請求項2に係わる発明は、請求項1に係わる発明の非火薬発熱組成物が前記酸化剤と発熱剤のほか、更にガス発生剤と結合剤を含有することを特徴とする。
【0007】
請求項3に係わる発明の非火薬発熱組成物は、酸化物からなる酸化剤10〜50重量%、チタン粉及び硼素粉よりなる発熱剤30〜70重量%、ガス発生剤0〜30重量%、結合剤0〜10重量%を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の非火薬発熱組成物は、火薬類取締法上の火薬に該当する成分を含まないから、取扱上及び製造上安全である。またアルミニウムと酸化物を含む非火薬薬剤に比べ着火性能が格段に向上したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ボンブ試験装置の模式図。
【図2】圧力波形の概念図。
【図3】実施例1の圧力波形を示す図。
【図4】実施例2の圧力波形を示す図。
【図5】実施例3の圧力波形を示す図。
【図6】実施例4の圧力波形を示す図。
【図7】実施例5の圧力波形を示す図。
【図8】実施例6の圧力波形を示す図。
【図9】比較例1の圧力波形を示す図。
【図10】比較例2の圧力波形を示す図。
【図11】比較例3の圧力波形を示す図。
【図12】比較例4の圧力波形を示す図。
【図13】比較例5の圧力波形を示す図。
【図14】比較例6の圧力波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の非火薬発熱組成物は、火薬取締法上の火薬に該当しない成分より構成されるもので、酸化物よりなる酸化剤、例えば酸化鉄、酸化銅、二酸化テルル、三酸化モリブデン、過酸化マンガンの一種又は二種以上と、チタン粉及び硼素粉よりなる発熱剤を含有するものであり、酸化剤は好ましくは10〜50重量%、発熱剤は好ましくは30〜70重量%含有される。
【0011】
着火性能を優先させるため、ガス発生剤や結合剤は使用しないのが望ましいが、本発明の非火薬発熱組成物を適用する火工品の要求する発生圧力や機械的強度を満足させるため、着火性能を損なわない範囲でガス発生剤や結合剤を含有させることもできる。ガス発生剤としては、例えばアルミニウム明礬、アンモニウム明礬、過硫酸アンモニウム、5−アミノテトラゾール、硫酸アルミニウム、ポリオキシメチレンの一種又は二種以上が30重量%以下用いられ、結合剤としては、例えばニトロセルロース、アセチルセルロース、ポリイソブチレン、塩化ビニール、ポリ酢酸ビニールの一種又は二種以上が10重量%以下用いられる。
【実施例1】
【0012】
チタン粉(株式会社レアメタリック社製325#pass)29重量%、硼素粉(エイチ・シー・スタルク株式会社製MIL−B−51092)13重量%及び酸化剤としての二酸化テルル(関東化学株式会社製)58重量%をメノウ製乳鉢に入れて混合し、60℃で12時間以上乾燥させたのち、非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。
【0013】
次にこの作成した薬剤を小さじで一盛掬い、磁性皿に入れて消防法危険物第2類可燃性固体の判定試験法に準じて小ガス炎試験を市販のチャッカマンを用いて行い、燃焼に要する時間を求めたところ、燃焼までの時間は1sec強であった。なお、時間は、試験をビデオで撮影し、画像を見ながらストップウォッチにて行った。
【0014】
次に前記作成薬剤を用い、ボンブ試験を次のようにして行った。
図1に示す中国化薬株式会社製の10ccボンブ容器1に前記薬剤2を0.5g秤量して充填し、充填後、同じく中国化薬株式会社製の電気雷管4を備えた耐圧ホルダー3で蓋をして固定した。ついで日油株式会社製の発破器5により電気雷管4に通電し、薬剤2を発火させた。そして発火したときの燃焼ガスの圧力を株式会社共和電業製の圧力変換器6及びアンプ7を用いて電圧に変換、増幅させたのち、横河電機株式会社製の計測器8により測定した。計測器8で得られたデータは図2に示すような波形となり、発破器5より発火信号を送ってボンブ容器内の薬剤2が発火するまでの実測での発火遅れ時間Tは、22msec、最大圧力Pは26.4kgf/cm2であった。前記と同じ小ガス炎試験とボンブ試験を繰返し行ったところ、燃焼までの時間は同じく1sec強で、発火遅れ時間Tは27msec、最大圧力Pは31.2kgf/cm2であった。図3は、1回目のボンブ試験での圧力波形を示す。
【実施例2】
【0015】
実施例1と同じチタン粉25重量%、硼素粉11重量%、二酸化テルル51重量%に、ガス発生剤としての硫酸アンモニウムアルミニウム12水(関東化学株式会社製)12重量%及び結合剤としてのポリ酢酸ビニール(日本合成株式会社製のゴーセニール(商品名))1重量%を配合し、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により、小ガス炎試験による燃焼までの時間を求めたところ、1回目は2sec、2回目は3secであった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を2回行ったところ、1回目では発火遅れ時間Tは50msec、最大圧力Pは48.6kgf/cm2であり、2回目では発火遅れ時間Tは65msec、最大圧力Pは49.6kgf/cm2であった。図4は、1回目のボンブ試験での圧力波形を示す。
【実施例3】
【0016】
実施例1と同じチタン粉41重量%、硼素粉18重量%に酸化剤として二酸化テルルに代え、関東化学株式会社製の三酸化モリブデン41重量%を加え、実施例1と同様の方法により、非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回共1sec強であった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行った結果、1回目の発火遅れ時間Tは30msec、最大圧力Pは17.7kgf/cm2、2回目の発火遅れ時間Tは40msec、最大圧力Pは16.8kgf/cm2であった。図5は、1回目のボンブ試験での圧力波形を示す。
【実施例4】
【0017】
実施例3と同じチタン粉34重量%、硼素粉15重量%、三酸化モリブデン34重量%に、実施例2で用いた硫酸アンモニウムアルミニウム12水16重量%、ポリ酢酸ビニール1重量%を配合し、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。得られた薬剤を用いて実施例1と同様にして燃焼までの時間を求めたところ、1回目は5sec、2回目は4secであった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、発火遅れ時間Tは98msec、最大圧Pは42.8kgf/cm2であった。図6は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
【実施例5】
【0018】
実施例1と同じチタン粉41重量%、硼素粉18重量%に酸化剤として関東化学株式会社製の酸化鉄粉を41重量%配合し、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1回目は4sec、2回目は5secであった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行った結果、発火遅れ時間Tは、72msec、最大圧力Pは10.7kgf/cm2であった。図7は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
【実施例6】
【0019】
実施例5と同じチタン粉34重量%、硼素粉15重量%、酸化鉄34重量%に、実施例2で用いた硫酸アンモニウムアルミニウム12水16重量%及びポリ酢酸ビニール1重量%を配合し、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃料までの時間を求めたところ、1回目は17sec、2回目は12secであった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行った結果、発火遅れ時間Tは、180msec、最大圧力Pは32.4kgf/cm2であった。図8は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
【0020】
比較例1
実施例1のチタン粉と硼素粉に代えてアルミニウム粉を用い、該アルミニウム粉(東洋アルミ製AC−5000)25重量%に二酸化テルル(関東化学株式会社製)75重量%を加え、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回とも2secであった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、1回目の発火遅れ時間Tは34msec、最大圧力Pは49.3kgf/cm2、2回目の発火遅れ時間Tは47msec、最大圧力Pは33.6kgf/cm2であった。図9は、1回目のボンブ試験での圧力波形を示す。
【0021】
比較例2
比較例1と同じアルミニウム粉22重量%、二酸化テルル65重量%に実施例2で用いた硫酸アンモニウムアルミニウム12水12重量%、ポリ酢酸ビニール1重量%を加え、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回とも30sec未満であった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、発火遅れ時間Tは、235msec最大圧力Pは67.4kgf/cm2であった。図10は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
【0022】
比較例3
実施例3のチタン粉と硼素粉に代えて、比較例1と同じアルミニウム粉を用い、該アルミニウム粉33重量%に酸化剤として二酸化テルルに代え三酸化モリブデン67重量%を加え、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回とも30sec未満であった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、1回目では、発火遅れ時間Tは21msec、最大圧力Pは19.7kgf/cm2、2回目では発火遅れ時間Tは27sec、最大圧力Pは17.3kgf/cm2であった。図11は、1回目のボンブ試験での圧力波形を示す。
【0023】
比較例4
比較例3と同じアルミニウム粉28重量%、三酸化モリブデン55重量%に実施例2で用いた硫酸アンモニウムアルミニウム12水16重量%、ポリ酢酸ビニール1重量%を加え、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回とも30sec未満であった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、発火遅れ時間Tは203msec、最大圧力Pは49.6kgf/cm2となった。図12は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
【0024】
比較例5
実施例5のチタン粉と硼素粉に代えてアルミニウム粉を用い、該アルミニウム粉33重量%に酸化鉄粉67重量%を加え、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回とも30sec未満であった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、発火遅れ時間Tは70sec、最大圧力Pは7.4kgf/cm2であった。図13は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
【0025】
比較例6
比較例5と同じアルミニウム粉28重量%、酸化鉄粉55重量%に実施例2で用いた硫酸アンモニウムアルミニウム12水16重量%、ポリ酢酸ビニール1重量%を加え、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回とも30sec未満であった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、発火遅れ時間Tは410msec、最大圧力Pは25.6kgf/cm2であった。図14は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
以上の結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0026】
表1と図の対比で見られるように、比較例1〜6のアルミニウムに代え、チタン粉と硼素粉を使用した実施例1〜6はいずれも着火して燃焼にいたるまでの時間が短く、また発火信号を送って薬剤2が発火するまでの着火遅れ時間が短くなり、着火性能が大幅に改善された。また添加される酸化剤は、二酸化テルル>三酸化モリブデン>酸化鉄の順で燃焼速度が速くなっている。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の非火薬発熱組成物は、切断器、液体噴射器、アクチュエイター等、民需用の火工品として使用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1・・ボンブ容器
2・・薬剤
3・・耐圧ホルダー
4・・電気雷管
5・・発破器
6・・圧力変換器
7・・アンプ
8・・計測器
【技術分野】
【0001】
本発明は、火薬類取締法上の火薬に該当しない成分より構成される非火薬発熱組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
火薬類取締法上の火薬に該当しない成分より構成される非火薬ガス発生組成物として、下記特許文献1には、酸化第二銅、酸化第二鉄、又は過酸化マンガンよりなる酸化剤と、アルミニウム又はマグネシウムよりなる還元剤とからなるテルミット剤(金属酸化還元剤)と、カリウムアルミニウム明礬又は過硫酸アンモニウム等のガス発生剤と、ステアリン酸カルシウム等の鈍化剤と、塩化ビニール、アセチルセルロース等の結合剤を有する非火薬破砕薬剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−139036号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
硝酸塩、過塩素酸塩などの火薬を構成する成分を含まない上記特許文献1に開示される薬剤は、取扱上又は製造上の安全性が高く、法律上も火薬取締法上の制約を受けないが、燃焼に要する時間が長く、緊急作動を要する装置などへの使用には適さない。
【0005】
本発明は、取扱上及び製造上の安全性が高く、しかも上記特許文献1に開示される薬剤よりも着火性能に優れた非火薬発熱組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係わる発明の非火薬発熱組成物は、酸化物からなる酸化剤と、チタン粉及び硼素粉よりなる発熱剤を含有することを特徴とし、
請求項2に係わる発明は、請求項1に係わる発明の非火薬発熱組成物が前記酸化剤と発熱剤のほか、更にガス発生剤と結合剤を含有することを特徴とする。
【0007】
請求項3に係わる発明の非火薬発熱組成物は、酸化物からなる酸化剤10〜50重量%、チタン粉及び硼素粉よりなる発熱剤30〜70重量%、ガス発生剤0〜30重量%、結合剤0〜10重量%を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の非火薬発熱組成物は、火薬類取締法上の火薬に該当する成分を含まないから、取扱上及び製造上安全である。またアルミニウムと酸化物を含む非火薬薬剤に比べ着火性能が格段に向上したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ボンブ試験装置の模式図。
【図2】圧力波形の概念図。
【図3】実施例1の圧力波形を示す図。
【図4】実施例2の圧力波形を示す図。
【図5】実施例3の圧力波形を示す図。
【図6】実施例4の圧力波形を示す図。
【図7】実施例5の圧力波形を示す図。
【図8】実施例6の圧力波形を示す図。
【図9】比較例1の圧力波形を示す図。
【図10】比較例2の圧力波形を示す図。
【図11】比較例3の圧力波形を示す図。
【図12】比較例4の圧力波形を示す図。
【図13】比較例5の圧力波形を示す図。
【図14】比較例6の圧力波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の非火薬発熱組成物は、火薬取締法上の火薬に該当しない成分より構成されるもので、酸化物よりなる酸化剤、例えば酸化鉄、酸化銅、二酸化テルル、三酸化モリブデン、過酸化マンガンの一種又は二種以上と、チタン粉及び硼素粉よりなる発熱剤を含有するものであり、酸化剤は好ましくは10〜50重量%、発熱剤は好ましくは30〜70重量%含有される。
【0011】
着火性能を優先させるため、ガス発生剤や結合剤は使用しないのが望ましいが、本発明の非火薬発熱組成物を適用する火工品の要求する発生圧力や機械的強度を満足させるため、着火性能を損なわない範囲でガス発生剤や結合剤を含有させることもできる。ガス発生剤としては、例えばアルミニウム明礬、アンモニウム明礬、過硫酸アンモニウム、5−アミノテトラゾール、硫酸アルミニウム、ポリオキシメチレンの一種又は二種以上が30重量%以下用いられ、結合剤としては、例えばニトロセルロース、アセチルセルロース、ポリイソブチレン、塩化ビニール、ポリ酢酸ビニールの一種又は二種以上が10重量%以下用いられる。
【実施例1】
【0012】
チタン粉(株式会社レアメタリック社製325#pass)29重量%、硼素粉(エイチ・シー・スタルク株式会社製MIL−B−51092)13重量%及び酸化剤としての二酸化テルル(関東化学株式会社製)58重量%をメノウ製乳鉢に入れて混合し、60℃で12時間以上乾燥させたのち、非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。
【0013】
次にこの作成した薬剤を小さじで一盛掬い、磁性皿に入れて消防法危険物第2類可燃性固体の判定試験法に準じて小ガス炎試験を市販のチャッカマンを用いて行い、燃焼に要する時間を求めたところ、燃焼までの時間は1sec強であった。なお、時間は、試験をビデオで撮影し、画像を見ながらストップウォッチにて行った。
【0014】
次に前記作成薬剤を用い、ボンブ試験を次のようにして行った。
図1に示す中国化薬株式会社製の10ccボンブ容器1に前記薬剤2を0.5g秤量して充填し、充填後、同じく中国化薬株式会社製の電気雷管4を備えた耐圧ホルダー3で蓋をして固定した。ついで日油株式会社製の発破器5により電気雷管4に通電し、薬剤2を発火させた。そして発火したときの燃焼ガスの圧力を株式会社共和電業製の圧力変換器6及びアンプ7を用いて電圧に変換、増幅させたのち、横河電機株式会社製の計測器8により測定した。計測器8で得られたデータは図2に示すような波形となり、発破器5より発火信号を送ってボンブ容器内の薬剤2が発火するまでの実測での発火遅れ時間Tは、22msec、最大圧力Pは26.4kgf/cm2であった。前記と同じ小ガス炎試験とボンブ試験を繰返し行ったところ、燃焼までの時間は同じく1sec強で、発火遅れ時間Tは27msec、最大圧力Pは31.2kgf/cm2であった。図3は、1回目のボンブ試験での圧力波形を示す。
【実施例2】
【0015】
実施例1と同じチタン粉25重量%、硼素粉11重量%、二酸化テルル51重量%に、ガス発生剤としての硫酸アンモニウムアルミニウム12水(関東化学株式会社製)12重量%及び結合剤としてのポリ酢酸ビニール(日本合成株式会社製のゴーセニール(商品名))1重量%を配合し、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により、小ガス炎試験による燃焼までの時間を求めたところ、1回目は2sec、2回目は3secであった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を2回行ったところ、1回目では発火遅れ時間Tは50msec、最大圧力Pは48.6kgf/cm2であり、2回目では発火遅れ時間Tは65msec、最大圧力Pは49.6kgf/cm2であった。図4は、1回目のボンブ試験での圧力波形を示す。
【実施例3】
【0016】
実施例1と同じチタン粉41重量%、硼素粉18重量%に酸化剤として二酸化テルルに代え、関東化学株式会社製の三酸化モリブデン41重量%を加え、実施例1と同様の方法により、非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回共1sec強であった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行った結果、1回目の発火遅れ時間Tは30msec、最大圧力Pは17.7kgf/cm2、2回目の発火遅れ時間Tは40msec、最大圧力Pは16.8kgf/cm2であった。図5は、1回目のボンブ試験での圧力波形を示す。
【実施例4】
【0017】
実施例3と同じチタン粉34重量%、硼素粉15重量%、三酸化モリブデン34重量%に、実施例2で用いた硫酸アンモニウムアルミニウム12水16重量%、ポリ酢酸ビニール1重量%を配合し、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。得られた薬剤を用いて実施例1と同様にして燃焼までの時間を求めたところ、1回目は5sec、2回目は4secであった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、発火遅れ時間Tは98msec、最大圧Pは42.8kgf/cm2であった。図6は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
【実施例5】
【0018】
実施例1と同じチタン粉41重量%、硼素粉18重量%に酸化剤として関東化学株式会社製の酸化鉄粉を41重量%配合し、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1回目は4sec、2回目は5secであった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行った結果、発火遅れ時間Tは、72msec、最大圧力Pは10.7kgf/cm2であった。図7は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
【実施例6】
【0019】
実施例5と同じチタン粉34重量%、硼素粉15重量%、酸化鉄34重量%に、実施例2で用いた硫酸アンモニウムアルミニウム12水16重量%及びポリ酢酸ビニール1重量%を配合し、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃料までの時間を求めたところ、1回目は17sec、2回目は12secであった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行った結果、発火遅れ時間Tは、180msec、最大圧力Pは32.4kgf/cm2であった。図8は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
【0020】
比較例1
実施例1のチタン粉と硼素粉に代えてアルミニウム粉を用い、該アルミニウム粉(東洋アルミ製AC−5000)25重量%に二酸化テルル(関東化学株式会社製)75重量%を加え、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回とも2secであった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、1回目の発火遅れ時間Tは34msec、最大圧力Pは49.3kgf/cm2、2回目の発火遅れ時間Tは47msec、最大圧力Pは33.6kgf/cm2であった。図9は、1回目のボンブ試験での圧力波形を示す。
【0021】
比較例2
比較例1と同じアルミニウム粉22重量%、二酸化テルル65重量%に実施例2で用いた硫酸アンモニウムアルミニウム12水12重量%、ポリ酢酸ビニール1重量%を加え、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回とも30sec未満であった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、発火遅れ時間Tは、235msec最大圧力Pは67.4kgf/cm2であった。図10は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
【0022】
比較例3
実施例3のチタン粉と硼素粉に代えて、比較例1と同じアルミニウム粉を用い、該アルミニウム粉33重量%に酸化剤として二酸化テルルに代え三酸化モリブデン67重量%を加え、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回とも30sec未満であった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、1回目では、発火遅れ時間Tは21msec、最大圧力Pは19.7kgf/cm2、2回目では発火遅れ時間Tは27sec、最大圧力Pは17.3kgf/cm2であった。図11は、1回目のボンブ試験での圧力波形を示す。
【0023】
比較例4
比較例3と同じアルミニウム粉28重量%、三酸化モリブデン55重量%に実施例2で用いた硫酸アンモニウムアルミニウム12水16重量%、ポリ酢酸ビニール1重量%を加え、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回とも30sec未満であった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、発火遅れ時間Tは203msec、最大圧力Pは49.6kgf/cm2となった。図12は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
【0024】
比較例5
実施例5のチタン粉と硼素粉に代えてアルミニウム粉を用い、該アルミニウム粉33重量%に酸化鉄粉67重量%を加え、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回とも30sec未満であった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、発火遅れ時間Tは70sec、最大圧力Pは7.4kgf/cm2であった。図13は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
【0025】
比較例6
比較例5と同じアルミニウム粉28重量%、酸化鉄粉55重量%に実施例2で用いた硫酸アンモニウムアルミニウム12水16重量%、ポリ酢酸ビニール1重量%を加え、実施例1と同様の方法により非火薬発熱組成物の薬剤を作成した。そして得られた薬剤を用いて実施例1と同様の方法により燃焼までの時間を求めたところ、1、2回とも30sec未満であった。また実施例1と同様の方法によりボンブ試験を行ったところ、発火遅れ時間Tは410msec、最大圧力Pは25.6kgf/cm2であった。図14は、ボンブ試験での圧力波形を示す。
以上の結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0026】
表1と図の対比で見られるように、比較例1〜6のアルミニウムに代え、チタン粉と硼素粉を使用した実施例1〜6はいずれも着火して燃焼にいたるまでの時間が短く、また発火信号を送って薬剤2が発火するまでの着火遅れ時間が短くなり、着火性能が大幅に改善された。また添加される酸化剤は、二酸化テルル>三酸化モリブデン>酸化鉄の順で燃焼速度が速くなっている。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の非火薬発熱組成物は、切断器、液体噴射器、アクチュエイター等、民需用の火工品として使用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1・・ボンブ容器
2・・薬剤
3・・耐圧ホルダー
4・・電気雷管
5・・発破器
6・・圧力変換器
7・・アンプ
8・・計測器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物からなる酸化剤と、チタン粉及び硼素粉よりなる発熱剤を含有することを特徴とする非火薬発熱組成物。
【請求項2】
更にガス発生剤と結合剤を含有することを特徴とする請求項1記載の非火薬発熱組成物。
【請求項3】
酸化物からなる酸化剤10〜50重量%、チタン粉及び硼素粉よりなる発熱剤30〜70重量%、ガス発生剤0〜30重量%、結合剤0〜10重量%を含有することを特徴とする非火薬発熱組成物。
【請求項1】
酸化物からなる酸化剤と、チタン粉及び硼素粉よりなる発熱剤を含有することを特徴とする非火薬発熱組成物。
【請求項2】
更にガス発生剤と結合剤を含有することを特徴とする請求項1記載の非火薬発熱組成物。
【請求項3】
酸化物からなる酸化剤10〜50重量%、チタン粉及び硼素粉よりなる発熱剤30〜70重量%、ガス発生剤0〜30重量%、結合剤0〜10重量%を含有することを特徴とする非火薬発熱組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−52059(P2011−52059A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200216(P2009−200216)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(391038659)中国化薬株式会社 (9)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(391038659)中国化薬株式会社 (9)
[ Back to top ]