説明

非特異吸着を抑制した基材表面

被分析物を検出するための物質または被分析物が固定された基材表面であって、基材表面に該物質または被分析物と同時にか、または該表面に該物質または被分析物が固定された後に、ポリエチレングリコール鎖セグメントをベースにする非架橋ポリマー含有液で処理して形成された基材表面が提供される。測定された試料中に共存する夾雑タンパク質等の非特異吸着が有意に抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、基材、特にバイオセンサーチップ等、の表面に関し、より具体的には、ポリエチレングリコール(以下、PEGと略記する場合あり。)鎖セグメントをベースにする非架橋ポリマーで処理された基材表面、ならび該表面を備えたバイオセンサーに関する。
【背景技術】
タンパク質や脂質などの生体分子混在下で特定の物質を検出する免疫診断法やバイオセンサー等は疾病の早期検出診断法として広く応用されてきている。しかしながら共存するバイオ分子のバイオセンサー表面への非特異吸着が特異的反応と同時に起こるため、バックグラウンドノイズとして妨害し、これが高感度化の妨げとなってきた。さらに、診断粒子にあっては非特異吸着によるバックグラウンドに加え、生物学的流体又はその希釈液中での分散安定化が大きな問題となっていた。本発明者らは以前、ポリエチレングリコールのような水溶性高分子を基材表面にブラシ状に構築することにより、センサー表面の非特異吸着を抑制するだけでなく、ナノ粒子の分散安定化も向上させ、新しいバイオ診断ツールとしての材料を供給してきた。具体的には、これらの発明を記載するものとして、増大した密度のポリ(エチレンオキシド)のブラシ様構造表面(例えば、WO 03/076933A1)、ポリ(エチレングリコール)セグメントを含有するポリマー誘導体を担持するバイオセンサー表面(例えば、特開2003−149245)、分散安定化機能性金属微粒子及び半導体微粒子(例えば、特開2002−080903)を挙げることができる。
これらの発明では構築したブラシ先端に抗体等のバイオ分子を結合させ、抗原認識等の特異的反応を高感度にセンシングするシステムとして利用される。しかしながらブラシ表面はタンパク質等の吸着を極めて妨げること等の原因により、ブラシ先端への抗体のようなタンパク質の担持量を上げることが困難な場合があり、これが高感度化を妨げることがあった。別法として、固相表面に抗体あるいは抗原を結合させた後に、固相表面の余分なタンパク質結合部位にグリコシルエチル(メタ)クリレート由来のポリマーを付着させて、測定試料中に含まれうる夾雑タンパク質等の非特異吸着を防止する方法(特開平10−123135号)、また、上記のグリコシルエチルに代え、ポリエチレングリコール鎖を有する(メタ)アクリレート由来のポリマーで免疫反応に使用する固相表面を保護すること(特開平11−287802号)も、提案されている。
しかし、これらのポリマーはタンパク質等の非特異吸着を抑制すべき固相表面への結合性または固定化能が十分でない場合や、仮に固定化能を高めた場合には免疫反応に関与する、例えば、抗体の抗原に対する特異的結合能に悪影響を及ぼすことがある。また、バイオ特異的結合対、例えばストレプトアビジンとビオチンとの親和性を利用して、予めストレプトアビジンを担持する固相にビオチン化抗体を結合させ、該固相をビオチン化ポリエチレ制することも提案されている(特開平11−211727号)。しかし、この方法は、固相表面に、予め、バイオ特異的結合対の一員を固定しておく必要がある。
【発明の開示】
本発明者らは、以上のような従来法に比べ、より安定な非特異吸着を抑制し得る表面であって、しかも簡単に調製できる表面を提供すべく検討してきた。その結果、意外にも、実用に供されている抗体または抗原等を固定化した免疫アッセイ用の固相表面(例えば、金、ポリスチレン、またはポリフッ化ビニリデン由来の表面)を、特別な結合手段を設けることなく、しかも抗体または抗原等の特異的結合能に悪影響を及ぼすことなく、PEG鎖ブラシを該表面に固定できることを見出した。また、抗体等の認識能がPEG鎖長依存的に作用するため、該鎖長の最適化等を考慮した設計をすることにより、特異的な分子認識を高感度で行う方法を見出した。
したがって、本発明によれば、被分析物を検出するための物質または被分析物が固定された基材表面であって、基材表面を該物質または被分析物と同時にか、または該表面に該物質または被分析物が固定された後に、ポリエチレングリコール鎖セグメントをベースにする非架橋ポリマー含有液で処理して形成された基材表面が提供される。
好ましい態様の本発明としては、上記のポリエチレングリコール鎖セグメントをベースにする非架橋ポリマーが、式(I):
−L−(CHCHO)−L−X (I)
(式中、Rは水素原子、メチル、保護されていてもよいホルミル、保護されていてもよいアミノ、保護されていてもよいカルボキシ、保護されていてもよいヒドロキシルまたはビニルスルホニル基を表し、
およびLは相互に独立して、原子価結合またはリンカーを表し、
Xは多孔質粒子表面に当該ポリマー分子を固定することのできる共有結合または物理的相互作用を介する結合を形成するための官能基または機能性部分を表し、そして
nは2〜20,000の整数である)
で表される基材表面が提供される。
別の態様の本発明としては、(A)基材表面を用意し、(B)該基材表面に固定しうるように修飾された被分析物を検出するための物質の水性溶液およびポリエチレングリコール鎖セグメントをベースにする非架橋ポリマー含有液を、同時かまたは続いて、それぞれが(A)の基材表面に固定化されるのに十分な条件下で該基材表面と接触させることを特徴とする請求資1記載の基材表面の作製方法が提供される。
また、別の態様の本発明として、上記の基材表面を備えたバイオセンサーも提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は、ヒトIgGを固定化した表面のブロッキング能と抗ヒトIgG抗体センジングの結果を示すグラフである。
図2は、ストレプトアビジン固定PEG化金コロイド溶液へのビオチン化BSAの添加前後の吸収の変動を示す図である。
図3は、ビオチン−PEGブラシ表面を有するsprセンサーへストレプトアビジン担持及びBSA担持PEG化金コロイド溶液を接触させたときのセンサーグラムの変化量を示すグラフである。
図4は、ビオチン−PEGブラシ表面を有するsprセンサーへ抗ビオチン抗体担持PEG化金コロイド溶液を接触させたときのセンサーグラムの変化量を示すグラフである。
図5は、磁性ラテックスに対するアセタール−PEG/PAMA表面処理条件とゼータ電位の関係を示すグラフである。
図6は、アセタール−PEG/PAMA表面処理及び未処理磁性ラテックスに対するウシ血清アルブミンの吸着量の洗浄回数に対する依存性を示すグラフである。
図7は、ヤギIgG抗体担持ダイナビーズをブロックポリマーでコーティングし、抗ヤギIgG検出能を比較した。左側5つのデータが各種粒子のセンシング能、右側5つのデータは表面に抗体を担持していない粒子への非特異吸着を示すグラフである。
図8は、図6より得られたS/Nを示すグラフである。PEHA−Ph−PEG−OHのブロッキングがもっともよい。
図9は、PEHA−Ph−PEG−OHによるJSR抗体担持磁性粒子の表面処理の結果を示すグラフである。非特異吸着が極めて抑制されていることが確認される。
図10は、PEHA−Ph−PEG−OHによるJSR抗体担持磁性粒子の表面処理の結果を示すグラフである。抗原検出能が十分高いことが確認された。
図11は、PEHA−Ph−PEG−OHによるダイナビーズ抗体担持磁性粒子の表面処理の結果を示すグラフである。抗原検出能が十分高いことが確認された。
図12は、PEHA−Ph−PEG−OHによるダイナビーズ抗体担持磁性粒子の表面処理の結果を示すグラフである。非特異吸着が表面処理により抑制されている。
図13は、PEHA−Ph−PEG−OHによるダイナビーズ抗体担持磁性粒子の表面処理、S/Nを示す。
図14は、ウエスタンブロット用PVDF膜への蛍光標識タンパクの非特異吸着の有無を示す図面に代わる写真である。
図15は、ガラス表面をAcetal−PEG−b−PAMAで処理したときの表面電位の比較を示すグラフである。
図16は、実施例16によるウエスタンブロット法を実施した結果を示す図面に代わる写真である。
図17は、シリコーン表面上を、ポリトリメトキシシリルプロピルメタクリレート−PEGグラフト共重合体(PTSPM−g−PEG110)で処理した時の表面電荷を、未処理のシリコーン表面と比較した図面である。
図18は、ポリトリメトキシシリルプロピルメタクリレート−PEGグラフト共重合体(PTSPM−g−PEG1100)を洗浄したガラス表面上に塗布し、それをモールドとしてシリコーンを成型加工すると同時に処理した時の表面電荷を、未処理のシリコーン表面、およびポリエチレングリコールホモポリマーで修飾した表面と比較した結果を示すグラフである。
図19は、表面処理後のシリコーン表面に対する、蛍光標識したヒトIgGの吸着性を未処理表面と比較した結果を示すグラフである。
図20は、表面処理後のシリコーン表面に対する、蛍光標識したウシ血清アルブミンの吸着性を未処理表面と比較した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明にいう、被分析物(analyte)を検出するための物質または被分析物には、バイオ特異的結合対、例えば、抗原もしくはハプテンと抗体、オリゴ核酸とそれにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸、酵素とその基質糖とレクチン、ホルモンとその受容体タンパク質、アビジン(ストレプトアビジンを包含する)とビオチン(テスチオビオチン、イミノビオチン、アミノビオチンを包含する)が挙げられる。したがって、特異的結合対の一員は、上記の結合対を形成するいずれか一方を意味する。
かような物質(これ自体が被分析物であってもよい)が固定化された基材表面は、固相の形態にあり、これらの物質を検出するためのバイオアッセイチップ、バイオセンサー等の表面であり、それらの表面の素材は、本発明の目的に沿うものであれば、いかなるものであってもよい。しかし、基材表面は、当該技術分野で通常用いられている電気化学センサー表面、(例えば、貴金属、酸化金属等製)、表面プラズモン(SPR)センサー表面(例えば、貴金属製)、水晶発振センサー表面、固相化酵素免疫アッセイ(ELISA)用マイクロプレート表面(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン製)、タンパク質ブロットもしくは核酸ブロット用プラスチック表面(例えば、ニトロセルロース等のセルロース誘導体、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン製)、核酸のハイブリダイゼーション用マイクロアレイ表面(例えば、ガラス、プラスチック製)、その他、ガラス製、シリコーン製(例えば、ポリジメチルシロキサン処理)表面が好ましい。また、基材および基材表面が一体となるような例としては、金粒子表面、半導体粒子表面、磁性体粒子表面、シリカ粒子表面、多孔質粒子表面、およびこれらの粒子のいずれか一種を含むラテックス粒子表面等が好ましい例として挙げられる。
上記の特異的結合対の一員または他の一員がこれらの表面に固定しうるように修飾されたものとは、当該技術分野でそれ自体既知の様式、例えば、基材表面が金の蒸着膜の場合、該一員の末端にメルカプト基を導入させたもの等を挙げることができる。
本発明の基材表面は、基材表面に固定しうるように修飾された被分析物を検出するための物質または被分析物(例えば、特異的結合対の一員)と同時にか、または表面に該物質もしくは被分析物が固定された後に、ポリエチレングリコール鎖セグメントをベースにする非架橋ポリマー含有液で基材表面を処理して形成されたものである。好ましくは、被分析物を検出するための物質または被分析物が、予め固定された基材表面に、その後、ポリエチレングリコール鎖セグメントをベースにする非架橋ポリマーで前記表面を処理して形成された基材表面を挙げることができる。本発明に従えば、該物質または被分析物が、予め固定された基材表面は、現在、当該技術分野で使用され、または使用すべく提案されている表面であって、上記に詳述した表面に該当するすべてを包含する。
このような表面処理に効果的に使用できるポリマーは、式(I)で表されるものである。式(I)のポリマーにおけるXの具体例としては、限定されるものでないが、メルカプト基(−SH)、シラノール基(S(OH))、カルボキシル基、アミノ基である。また、Xは、複数のイミノ基(−NH−)を主鎖に有するオリゴまたはポリイミノ主鎖部分、例えば、式
−(CHCHNH)−R
(ここで、Rは水素原子または低級アルキル(例えば、炭素原子数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキルであり、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ヘキシル等である。以下、同じ。)基を表し、mは1〜2,000の整数を表す。)
で表される。また、Xは、モノーもしくはジー低級アルキル置換アミノ基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、例えば、式

(ここで、R、R、RおよびRは独立して、水素原子または低級アルキルを表し、lは1〜2,000の整数を表し、Lは、

−CONH(CH−および−CONR(CH−からなる群より選ばれ、ここでは1〜10の整数であり、Rはヘテロ原子を含んでもよい低級アルキルを表す)表わす。このようなXを有するポリマーは、例えば、Y.Nagasaki et al.,Macromol.Chem.Rapid Commun.1997,18,927に記載の方法あるいは、特願2003−49000に従って製造することができる。
また、Xはシラノール基(またはトリメトキシシリル基)を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、例えば、式

(ここで、R、RおよびLは上記に同じであり、Rは低級アルキル、特にメチルであるかまたは水素原子である。)で表される。このようなXを有するポリマーは、例えば、上記Y.Nagasaki et al.,または米国特許第5,929,177号に記載の方法に準じて、製造できた、トリアルコキシシリル体を、必要により加水分解して得られる。
また、Xは、カルボキシル基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、例えば、式

(ここで、R、Rおよびlは上記に同じ。)
で表される。また、Xはオリゴまたはポリラクチド主鎖部分、例えば、式

(ここで、qは2〜10,000の整数である。)で表される。このようなXを有するポリマーは、例えば、米国特許第5,925,720号に記載されている。その他のポリマーも、種々のXを有するポリマーの製法に準じて、または改良して得ることができる。
なお、Xがトリメトキシシリル基を側鎖に有するポリマーの製造に使用できるモノマー、例えば、トリメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレートとポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとの共重合体、例えば、式

(ここで、r、sおよびtは独立して2〜10,000の整数であり、Rは独立して水素原子またはメチル基である。)
で表されるポリマーは、基材表面がシリコーン製である場合に、本発明にいうポリマーに包含される。このようなポリマーは、上述のようなバイオセンサー表面の処理だけでなく、キャピラリー電気泳動用カラム表面、その他のマイクロ流路表面を処理するためのポリマーとしても有用である。かような表面は試料溶液の流れに対して安定であり、また、例えば生体試料中のタンパク質等の吸着を抑制して、目づまり等を防止できる。
さらに、式(I)における、Lがリンカーである場合の代表的なものとしては、限定されるものでないが、−(CH−O−、−(CH

で表される連結基であることができ、ここでp、qおよびrはそれぞれ独立して0〜8の整数である。これらのリンカーは記載した方向性で上記の式(I)のL部分に組み込まれる構造を有する。一方、Lがリンカーである場合の代表的なものとしては、限定されるものでないが、−(CH−、

でき、ここで、kおよびlは1〜6の整数である。これらのリンカーは記載した方向性で上記の式(I)のL部分に組み込まれる構造を有する。
さらに、Rの定義における保護されていてもホルミルとは、式

で表され、RおよびRは、相互に独立して、低級アルキルを表すか、一緒になってメチル置換エチレンを表すか、あるいはR−OおよびR−O−が一緒になってO=を表す(この場合にホルミルOCH−となる)。また、保護されていてもよいアミノ、保護されていてもよいカルボキシ、保護されていてもよいヒドロキシルは、例えばペプチド合成等の技術分野で周知の保護基により保護されているか、または未保護の状態にある基を意味する。さらに、保護されたアミノ基にはマレイミドが包含され、ヒドロキシル保護基にはp−トルエンスルホニル基も包含される。
本発明に従う、基材表面は、基材表面を用意し、そして上述した修飾された被分析物を検出するための物質または被分析物の水性溶液(PBS等で緩衝化された水溶液を包含する。)と、上記のポリマー含有液(水混和性の有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、等、およびPBS等で緩衝化されていてもよい水性溶液)とを、同時に用いて、基材表面と、これらの物質およびポリマーが基材表面に固定化されるのに十分な条件下で、接解させることにより作製できる。十分な条件下としては、使用するポリマーおよび基材表面の性質によって異なるが、5℃から前記物質が変性しない温度、例えば、55℃までの温度で、数時間から数10時間インキュベートする条件が挙げられる。また、予め固定された該物質を有する基材表面をポリマーで処理する条件も、前記の条件とほぼ同じ条件で実施できる。こうして、本発明の基材表面が提供できる。このようなポリマーは、通常、基材表面の面積基準で、10−6〜10mg/cm、好ましくは10−4〜10mg/cm、さらに好ましくは10−3〜10mg/cmとなるように使用される。
以下、具体例を挙げ、本発明をさらに説明する。
参考例1:アセタール−PEG−OHの製造

アルゴン下、ナスフラスコ中、室温において、開始剤4−ヒドロキシメチルベンズアルデヒドジメチルアセタール1.0mmol(1.822mol/l−THF溶液、0.55ml)を溶媒テトラヒドロフラン(THF)25mlにマイクロシリンジで加え、K−ナフタレン1.0mmol(0.328mol/l−THF溶液、3.05ml)を加えて10分間メタル化を施した。次いで、エチレンオキシド140mmol(6.9ml)を加えて水冷下で2日間撹拌し、アニオン開環重合を行った。その後、純水を数滴加えて反応を停止させ、ジエチルエーテル沈澱(2l)、クロロホルム抽出(飽和食塩水に対して3回)、減圧乾燥、ベンゼン凍結乾燥により精製を行った。この生成物の収量は4.5g(90%)であった。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定により、得られたポリマーは単峰性であり、その数平均分子量は6,067であり、仕込み分子量6,000とほぼ一致していた。
同様にMALDI−TOF−MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計)の測定においても、得られたポリマーは単峰性であり、その数平均分子量は6,050であった。また、これらのピークの測定値と計算値を比較した結果、このポリマーはエチレンオキシド骨格を主鎖に有し、α−末端にアセタール基、ω−末端に水酸基を有するヘテロテレケリックポリエチレンオキシドであることが確認された。
さらに、得られたポリマーのDMSO中でのH−NMR(プロトン核磁気共鳴)スペクトルより、このポリマーはエチレンオキシド骨格を主鎖に有し、α−末端にアセタール基、ω−末端に水酸基を有するヘテロテレケリックポリエチレンオキシドであることが確認された。
参考例2:ベンズアルデヒド−PEG−OHの調製

上記までに得られたアセタール−PEO−OH1.0gをナスフラスコ中、35℃において90%酢酸水溶液20mlに溶解し、5時間攪拌する。その後10N−HClを用いてpHを8に調整し、純水に対する透析(区画分子量3500、1,2,4,6,8,12時間後に水を交換)を1日行い、次いで減圧乾燥、ベンゼン凍結乾燥により回収した。この生成物の収量は0.88g(88%)であった。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定によって、得られたポリマーは単峰性であった。またその数平均分子量は6,056であり、理論分子量6,054とほぼ一致していた。
同様にMALDI−TOF−MSの測定においても、得られたポリマーは単峰性であり、その数平均分子量は6,023であった。また、これらのピークの測定値と計算値を比較した結果、このポリマーはα−末端のアセタール基が脱保護された、ベンズアルデヒド−PEG−OHである事が確認された。
さらに、得られたポリマーのDMSO中でのH−NMR(プロトン核磁気共鳴)スペクトルより10ppm付近にアルデヒドプロトンのスペクトルが見られ、この結果からもα−末端のアセタール基が脱保護されて、アルデヒド(ホルミル基)となっていることが確認された。
参考例3:PEHA−Phenyl−PEG−OHの製造。

ベンズアルデヒド−PEG−OH250mgを、5mlのメタノールに溶解する。ナスフラスコにPEGの100倍mol量のPEHA(5mmol,1.2ml)を入れ、これを20mlのメタノールに溶解した後、氷冷しながら5N−HClを用いてpHを6に調整する。このPEHAメタノール溶液を激しく攪拌しながら、ベンズアルデヒド−PEG−OHメタノール溶液をゆっくり滴下し、室温で4時間攪拌してシッフ塩基を形成させる。次いで還元剤として5mmol(PEGの100倍mol量,約300mg)のNaBHCNを30分おきに計3回反応溶液に加えた後、24時間攪拌する。得られた反応溶液を純水に対して2日間透析する(区画分子量1,000、3,6,18,24,30,42,48時間後に水を交換)。その後、減圧濃縮により適当な濃度にし、凍結乾燥により回収した。この生成物の収量は75mg(30%)であった。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定によって、得られたポリマーは単峰性であった。またその数平均分子量は5,800であり、理論分子量6,270とほぼ一致していた。
また、得られたポリマーのDO中でのH−NMR(プロトン核磁気共鳴)スペクトルから、ベンズアルデヒド−PEG−OHにおいて10ppm付近に見られたアルデヒドプロトンのスペクトルが消失し、さらに3.4ppm付近にアミンとベンゼン環に挟まれたメチルプロトンのものと思われるスペクトルが新たに現れていることから、α−末端のアルデヒドにPEHAが還元アミノ化によって結合した、目的物のPEHA−Phenyl−PEG−OH(またはPEHA−Ph−PEG−OHとも略記する。)が合成されたことが確認された。
参考例4 磁性粒子担持ラテックスの調製
スチレン4mL、水45mL、過硫酸カリウム0.024gを200mLフラスコに加え、70°C,350rpsで28時間重合させた。得られたラテックスは平均粒径1μmの単分散であることをTEM及び動的光散乱測定から確認した。
このラテックス溶液25mLと水125mLを300mLフラスコ中混合し、塩酸にてpHを1.7に調製した後FeCl(0.405g)及びFeSO(0.25g)を添加し、激しく撹拌しながらアンモニア水によってpHを9にする。このようにして得られたフェリコロイドラテックスは磁石に容易に引き寄せられ、ラテックス表面にフェライトが生成していることが確認された。
参考例5 金チップ表面の調製
オゾン洗浄した金チップを,1mg/mLとなるように50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4,1M NaCl)に溶解させたacetal−PEG−SH(Mn=5,000)に浸漬させ,室温で30分間振盪した。これを50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4,1M NaCl)で1回洗浄し,50mM水酸化ナトリウムに30秒間浸してから,再び50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4,1M NaCl)で3回洗浄した。この操作を2回繰り返した。更に,このチップを,1mg/mLとなるように50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4,1M NaCl)に溶解させたMeO−PEG−SH(Mn=2,000)に浸漬させ、室温で30分間振盪した.これを50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4,1M NaCl)で1回洗浄し,50mM水酸化ナトリウムに30秒間浸漬させてから,再び50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4,1M NaCl)で金チップ表面を3回洗浄した。
この操作を2回繰り返すことにより,金チップ表面のPEG修飾を行った(混合ブラシの調製)。次にPEG修飾金チップを0.1mol/L塩酸に浸漬させ,室温で3時間,穏やかに振盪して,PEG末端のアセタール基をアルデヒド基に変換した。次に,1mg/mLとなるように100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5,1M NaCl)に溶解したビオシチン−ヒドラジド(EZ−LinkTM;PIERCE)に金チップを浸漬させ,室温で3時間振盪して,金チップ表面にビオチンを導入した。
実施例1 金表面に対する表面作製
オゾン洗浄した金基板(日本レーザー電子製)をシャーレ中、室温において、1mM 4,4’−dithiodibutyric acid(溶媒;エタノール)に少なくとも12時間浸漬した後、エタノールで2回洗浄した。1mLの蒸留水にEDC(1−ethyl−3−(3−dimetylaminopropyl)carbodiimide)25mgと9mlのジオキサンに溶解したNHS(N−hydroxysuccinimide)15mgの混合溶液をシャーレに加え、洗浄済みの基板を浸し、穏やかに室温で30分振盪し活性化させた。
活性化させた基板を表面プラズモンセンサー(日本レーザー電子製、SPR)にセットし、25°C、5・L/min、60μLのμL条件で1μMヒトIgGを表層に固定する。IgG固定化表面に25°C、5L/min、60μLの条件でエタノールアミン(pH8.6)と1mg/mLアセタール−ポリエチレングリコール−b−ポリ(メタクリル酸 2−N,N−ジメチルアミノエチル)(以後、Acetal−PEG/PAMAと略記、PEG鎖長及びPAMA鎖長はそれぞれ5660及び2780であり、(5660/2780)と略記する)を2回インジェクトした。このようにして得られた表面に対する非特異吸着能及び特異的吸着能をsprを用いて測定した。図1にしめすようにエタノールアミンでブロッキングした表面のリゾチーム非特異吸着能が4x10−2(°)に対して、acetal−PEG/PAMA(5660/2780)ではほぼ完全に非特異吸着を抑制する表面が得られた。また、抗ヒトIgG抗体を接触させると効率的に検出されることが確認された。
参考例6ビオチン標識BSAの調製方法
50mM炭酸緩衝液(pH9.6)1mlに溶解させたBSA(コーンフラクションV,WAKO)5mgに,20mg/mlとなるようにDMSOに溶解させたBiotin−(AC−OSu(DOJINDO)21ulを添加し,室温において2時間反応させた.これをゲル濾過して,未反応のBiotin−(AC−OSuを除くとともに,バッファを20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5,0.15M NaCl,1mM EDTA)に置換した.得られたビオチン標識BSAをHABA法により定量した結果,BSA1分子あたり,約5分子のビオチンが導入されたことが確認できた.
実施例2 ストレプトアビジン金コロイド粒子の調製とacetal−PEG−PAMA(4500/3200)による安定化(SAGCPEG/PAMA(4500/3200)と表記)
金コロイド溶液(Polyscience,平均粒径40nm,濃度0.01%)に金コロイド粒子の10倍となるように,ストレプトアビジン(ImmunoPure)水溶液を加え,室温において1時間インキュベートし,金粒子表面にストレプトアビジンを吸着させた.次いで,金粒子とポリマーのモル比が1:1×10となるようにacetal−PEG/PAMA(4500/3200)水溶液を加えて,4℃において一晩反応させた.その後,遠心分離[4℃,4000×g,30分]して,沈渣を回収する操作を3回繰り返して余剰のストレプトアビジンおよびポリマーを除いた。
得られたPEG修飾金コロイド粒子は,遠心精製後の再分散性がよく,10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4,0.15M NaCl)中でも安定に存在することがUV−visスペクトル測定により,確認できた。
このようにして調製したストレプトアビジン担持PEG化金コロイドの認識能を凝集試験による分子認識試験を行った。PEG修飾ストレプトアビジン金コロイド粒子に参考例6で調製したビオチン導入BSAを添加したとき,吸収スペクトル(800nm−400nm)におけるピークトップのシフトが認められ,金コロイド表面のストレプトアビジンとビオチンの相互作用が確認できた。(図2)
実施例3 ストレプトアビジン担持金コロイド粒子の調製とacetal−PEG−SH(Mn=10,000、5,000)による安定化(SAGCPEG−SH(10000)及びSAGCPEG−SH(5000)と表記)
実施例2のacetal−PEG−PAMA(4500/3200)の代わりにMeO−PEG−SH(Mn=10,000)及びMeO−PEG−SH(Mn=5,000)を用いたいた以外は実施例2と全く同様の方法でストレプトアビジン担持PEG化金コロイドを調製した。得られたストレプトアビジン担持PEG化金コロイドの分散安定性は実施例2と同様極めて高かった。
参考例7 牛胎児血清アルブミン(BSA)担持PEG化金コロイドの調製とacetal−PEG−PAMA(4500/3200)による安定化(BSAGCPEG/PAMA(4500/3200)と表記)
実施例2のストレプトアビジンの代わりにBSAを用いたいた以外は実施例2と全く同様の方法でストレプトアビジン担持PEG化金コロイドを調製した。得られたBSA担持PEG化金コロイドの分散安定性は実施例2と同様極めて高かった。
参考例8 牛胎児血清アルブミン(BSA)担持PEG化金コロイドの調製とacetal−PEG−SH(Mn=5,000)による安定化(BSAGCPEG−SH(5000)と表記)
実施例3のストレプトアビジンの代わりにBSAを用いたいた以外は実施例3と全く同様の方法でストレプトアビジン担持PEG化金コロイドを調製した。得られたBSA担持PEG化金コロイドの分散安定性は実施例2と同様極めて高かった。
実施例4 ストレプトアビジン及びBSA担持PEG化金コロイドの分子認識能の確認
このようにして得られた分散安定化したストレプトアビジン及びBSA担持PEG化金コロイドの分子認識能をspr(BIACORE1000)にて確認した。参考例5で調製したビオチンを有するPEG化金表面に測定温度25°C,流速10・L/minで,1%BSA(ウシ血清アルブミン)を含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4,0.15M NaCl)に溶解させた修飾金コロイド粒子を反応させて,表面プラズモン共鳴測定法により角度変化を測定した。
図3にsprの結果を示す。BSAを担持させた金コロイドはビオチン化spr表面では殆ど関知しない。また、PEG鎖10,000のストレプトアビジン担持PEG化金コロイドでもsprシグナルは小さかった。しかし、PEG5,000及びPEG/PAMA(4500/3200)で処理した金コロイドは極めて高い信号を出し、金コロイドに担持したストレプトアビジンがsprセンサー表面のビオチンと効率的に作用していることが確認された。
実施例5 抗ビオチン抗体担持金コロイド粒子の調製とacetal−PEG−PAMA(5660/2780)による安定化
ストレプトアビジン及びacetal−PEG/PAMA(4500/3200)の代わりに抗ビオチン抗体及びacetal−PEG/PAMA(5660/2780)を使った以外実施例2とまったく同様の方法で抗ビオチン担持PEG化金コロイドの調製を行い、分散安定化を確認した。
実施例6 抗ビオチン抗体担持金コロイド粒子の調製とace−PEG−SH(Mn=10,000、5,000)による安定化
ストレプトアビジン代わりに抗ビオチン抗体使った以外実施例3とまったく同様の方法で抗ビオチン担持PEG化金コロイドの調製を行い、分散安定化を確認した。
実施例7 抗ビオチン抗体担持PEG化金コロイドの分子認識の確認
このようにして得られた分散安定化した抗ビオチン抗体担持PEG化金コロイドの分子認識能を実施例4と全く同様の操作でspr(BIACORE1000)にて確認した。図4にsprの結果を示す。抗体を担持した金コロイドではストレプトアビジン担持PEG化金コロイド(Mn=10000)では検出されなかったace−PEG−SH(10000)でも高い信号を検出し、特異的認識能を有する抗体担持金コロイドが供出された。
実施例8 磁性粒子表面へのPEGブロッキング
参考例4で調製したフェライト担持ラテックスを用い、アセタール−PEG/PAMAで表面処理した。表1に示したように、サンプル管に所定量のアセタール−PEG/PAMAを量りとり、ここに10mMリン酸緩衝液(pH=7.18)5mlを加え攪拌溶解させた。この溶液に磁性ラテックスを加え、撹拌した後、洗浄操作(リン酸緩衝液×4回)を行い、未吸着PEG−b−PAMAの除去をおこなった。洗浄操作終了後、分散安定性の確認を行った上で、フェライト粒子の表面電荷を確認する目的でゼータ電位測定を行った。

図5に示すように、未処理ラテックスのゼータ電位は−40mVと負の値を示すのに対し、ブロックコーティングしたものはほぼ完全に表面電位が遮蔽されていることが確認され、きれいにコーティングされていることが確認された。
このようにして調製したアセタール−PEG/PAMAコーティング磁性ラテックスに対するタンパク質の非特異吸着性能を評価した。磁性ラテックス2.5mgにアセタール−PEG/PAMA3.2mgで処理したもの及びしていないものを上述と同様の条件で用意し、リン酸緩衝液中(pH=7.1;I=10mM)で2mLのリン酸緩衝液に溶解させたFITC−BSA17.8・g溶液を混合した。1時間後、磁石を使用して粒子の分離を行い、上澄み液について蛍光分光光度計を使用して励起波長490nmにおける発光波長520nmの蛍光強度を測定することで、FITC−BSA量を算出した。図6に洗浄回数に対する粒子表面に吸着したFITC−BSAの量を示す。ブロックポリマーをコーティングしていない粒子では洗浄によってタンパク質がはがれないものの、コーティングした粒子では4回の洗浄でほぼ完全にはがされ、非特異的な吸着を抑制できることが確認された。
実施例9表面にPEGブラシを有する磁性粒子の調製方法(2)
参考例4で調製した磁性ラテックスの代わりにJSRの磁性粒子を使った以外は実施例8と全く同様の方法で表面処理を行った。磁性粒子0.5mgに対してアセタール−PEG/PAMAを同量及び10倍量用いて表面処理を行ったところ、未処理のラテックスに比べて、分散性が飛躍的に向上した。実際未処理の粒子は沈降速度が速いため、ゼータ電位を測定することができないものの、ポリマー処理粒子のゼータ電位はそれぞれ−4mV及び+1mVであり、表面が遮蔽されていることが確認された。
実施例10トシル基を有する磁性粒子(ダイナビーズ)に抗体を担持させた後にアセタール−PEG/ポリアミンによって表面ブロッキングする方法
エッペンドルフチューブにダイナビーズの10mMトリス緩衝溶液(TBS溶液pH=8.12;0.15M NaCl):46.9・L(ダイナビーズ量:93.75・g)及びGoat−IgG/10mMトリス緩衝溶液(TB溶液pH=8.12):150μL(抗体量:30μg)を加え、37°C下にて30分間反応を行い、磁石で粒子を回収後、反応後未反応物の除去を目的として10mMTBS(pH=8.12)で3回洗浄を行った。
このようにして抗体を担持した磁性粒子表面にブロッキング剤/TB溶液:150μLを加え、室温下にて一時間反応を行った。反応終了後、未反応物の除去を目的として10mMTBS(pH=8.12)で3回洗浄を行った。洗浄終了後、Anti−Goat−IgG/TB溶液:150μLを加え、室温下にて1時間反応を行った。反応終了後、未反応物の除去を目的として10mMTBS(pH=8.12)で3回洗浄を行った。洗浄終了後、白色96穴プレートに分取し基質として4−MUP(4−Methylumblliferyl phosphate、シグマ):100μLを加え、室温下にて30分間反応を行った後0.5M NaOH水溶液:35μLを加えることで反応を終了させた。反応終了後、磁石を使用して粒子の分離を行い、上澄み液を黒色96穴プレートに分取した後、マイクロプレートリーダーを使用して励起波長355nmにおける発光波長460nmの蛍光強度を測定することで、粒子表面に結合されているGoat−IgGの検出を行った。なお、実験条件は表2に示した通りである。

*10mMTB:Trizma−base:1.0M HCl:蒸留水:pH=8.12
*10mMTBS:Trizma−base:1.0M HCl:蒸留水:pH=8.15 0.15M NaCl 1wt%グリシン/TB:10mMTB50mLにグリシン0.5gを溶解させたものを使用した
*10wt%グリシン/TB:10mMTB50mLにグリシン5gを溶解させたものを使用した
*BSA/TB:10mMTB(pH8.12)2mLにBSA15mgを溶解させたものを使用した
*PEG−b−PAMA/TB:10mMTB(pH8.12)5mLにPEG−b−PAMA1mgを溶解させたものを使用した
*PEHA−Ph−PEG/TB:10mMTB(pH8.12)mLにPEHA−Ph−PEG1mgを溶解させたもの使用した
*Anti Goat IgG ALP conjugate:原液を30,000倍に希釈し使用した
*4−MUP(Substrate):4−Methylumblliferyl phosphate
図7にはダイナビーズに結合された抗原の検出能評価結果を示し、図8には各系のS/N比を示した。図7に示したControl系において酵素(ALP)と基質(4−MUP)の反応に由来する発光強度は、「PEG−b−PAMA+1wt%グリシン」>「PEG−b−PAMA+10wy%グリシン」>「PEHA−Ph−PEG(P/B=1)」>「PEHA−PEG(P/B=10)」>「BSA」となることが確認された。図8に示したように各系のS/N比は「PEHA−Ph−PEG(P/B=10)」>「BSA」>「PEHA−Ph−PEG(P/B=1)」>「「PEG−b−PAMA+10wy%グリシン」>「PEG−b−PAMA+1wt%グリシン」となることが確認された。この結果より、ブロッキング剤としてPEHA−PEG(P/B=10)系がもっとも良いことがわかった。
実施例11 PEHA−Phenyl−PEG−OHによる表面処理(JSR磁性粒子)
PEHA−Phenyl−PEG−OH 0、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0wt%の各濃度と、JSR磁性粒子溶液(抗AFPラビット抗体担持、7ug/mg beads(0.35ug/test)、カルボン酸表面粒子、磁性粒子:10mg/ml)を1対1で混和し、ボルテックスで攪拌後4℃にて終夜回転することにより表面処理を行い1%BSA PBSで10倍希釈する。
10μLの50%NRS(正常ウサギ血清)/PBS、1%BSA/PBS、NHS(正常人血清)をそれぞれ1%BSA/PBS50μL及び磁性粒子溶液を50μL加え,ボルテックス撹拌後1時間振とうすることにより反応させる。磁石により分離TBST(トリスバッファー0.15M NaClにTWEEN20;0.05%含有)で2回洗浄した後、抗AFP−モノクロナール抗体(市販原液(Wako 016−14511)の3000倍希釈を50uL)を加え、1時間振とう反応させる。磁石により分離洗浄する(同上)。その後アンチマウスアルカリホスファターゼIgG抗体(抗マウス(ヤギ)−アルカリフォスファターゼ・コンジュゲート(sigma A3688)の原液を5000倍希釈。1%BSA/PBS)を加え、1時間振とう反応させる。洗浄後基質溶液4MUP(シグマ)120uLを加え撹拌後室温で30分静置後0.5規定のNaOH40μL加えて反応を停止。この溶液を100uLをプレート(ヌンク437111)に移し、プレートリーダー(Ex/Em=355/460nm)で測定した。
図9に示すようにPEHA−Ph−PEG−OHで処理することにより非特異吸着(NSB)が抑制されていることが確認された。また、図10に示すように高感度検出が可能となった。
実施例12実施例11の一次抗体を加える前にAFP(αフェトプロテイン;Aspen Bio Inc.105S(Lot.990628V1SS)500K IU/mg)を50%NRS、1%BSA PBS、NHSを用いて5、100、500、1000IU/mlに希釈調製し、各磁性粒子に加えた以外、同様の方法で測定を行った。この結果、PEHA−Ph−PEG−OHでブロッキングをしてもAFP検出が行われることを確認した。
実施例13 PEHA−Ph−PEG−OHによるダイナビーズ(表面トシル基)のブロッキング
▲1▼チューブに所定量のビーズ溶液及び抗原溶液を加え室温下にて1.0hr反応を行い、TBSで洗浄を行った。
▲2▼▲1▼にPEHA−Ph−PEG−OHを加え室温下にて1.0hr反応を行い、TBSで洗浄を行った。
▲3▼▲2▼を96穴プレートに分注し抗体溶液を加え室温下にて1.0hr反応を行い、TBSで洗浄を行った(実施例12と同様の方法)。
▲3▼▲3▼に基質(4−MUP)を加え室温下にて0.5hr反応を行い、0.5M NaOH水溶液を加え反応を終了させた。
▲4▼磁石を使用してビーズを固定し、上澄み液を新しい96穴プレートに分注した後、プレートリーダーを使用してEx/Em=355nm/460nmにおける発光強度を測定することで抗原の検出を行った。
▲5▼別途、▲1▼の処理を省き、▲2▼〜▲5▼の処理を行い、非特異吸着量を求めた。

*抗原溶液:抗原(Goat−IgG)をTBに溶解させ使用した
*0.65wt%ブロック剤溶液:種々のブロック剤(PEHA−Ph−PEG、BSA)をTBに溶解させ使用した
*抗体溶液:抗体(アルカリフォスファターゼコンジュゲートAnti Goat−IgG)をTBSで30,000倍に希釈し使用した
*基質:4−Methylumberiferyl phosphate(4−MUP)抗体検出量を図11、非特異吸着量を図12に示す。PEHA−Ph−PEG−OHでブロッキングした場合にも検出感度は低下せず、非特異吸着が大きく抑制されていることが確認された。
図13にS/N比を示す。アルブミンブロッキングに比べて効果的である。
実施例14 ウエスタンブロット法(1)
BSA検出系としてウエスタンブロット法を用い、各種ブロッキング剤と本発明で用いるポリマーの比較を行った。SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により分離したBSAを、ゲルからポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(イモビロンP、日本ミリポア社製)に1cmあたり1mAの定電流で、2時間転写を行った。ゼラチン(EIAグレード試薬、バイオラッド社製)、アセタール−ポリエチレングリコール/ポリメタクリル酸ジメチルアミノエチルブロック重合体(acetal−PEG−b−PAMA)、及びメトキシ−ポリエチレングリコール/ポリ乳酸ブロック重合体(PLAの分子量の違いにより、methoxy−PEG−PLA5000とmethoxy−PEG−PLA500の2種類を用いた)を用いて、ブロッキング剤の性能比較を行った。ブロッキング操作は、転写した膜を1%ポリマー含有PBS溶液に浸漬し、室温で2時間または4℃で一晩、軽く振とうすることにより行った。
検出は、一次抗体として抗BSA抗体(ウサギ)、二次抗体として、ビオチン標識抗ウサギ抗体(ロバ)を用い、蛍光標識ストレプトアビジンにより行った。結果を図14に示す。図から、従来汎用されているゼラチンに比べて、本発明で用いるポリマーでは良好な非特異吸着抑制効果が観察される。
実施例15 ガラス表面のPEGコーティング処理
本発明の表面処理剤を用いてガラス基盤表面にPEGグラフト鎖を構築した。測定には、分子量の異なる二種類のAcetal−PEG−b−PAMA(サンプル▲1▼:PEG Mw=4,600、PAMA Mw=3,800およびサンプル▲2▼:PEG Mw=10,000、PAMA Mw=3,800)を用いた。ζ電位測定に用いるガラス板(15×30×1mm)は、使用前に濃硫酸:過酸化水素水=1:1のピラニア溶液を用いて80℃で1時間煮沸洗浄を施し、脱イオン水で数回置換したあと超音波洗浄を10分間おこなった。
コーティング処理:処理法▲1▼(湯浴中、酸性条件下で吸着(分子運動の活性化)ζ電位測定時のイオン強度に合わせ、またPAMAのプロトン化促進のため試験官に7.5mMのHCl水溶液(pH=2.1)15mlを調製し、50℃および80℃の湯浴中で、0.5wt%のAcetal−PEG−b−PAMA溶液10mlを調整、温度を保ったまま、ガラスを浸漬し1時間静置することにより、ガラス表面処理を行った。
処理法▲2▼ (高塩濃度水溶液中において、室温・酸性条件下で吸着)
1M NaCl含有7.5mM HCl水溶液(pH2.1)10mlを調製し、1mg/mlの濃度でAcetal−PEG−b−PAMAを溶解した。本溶液中にガラスを浸漬し30分室温で静置し、1M NaCl含有7.5mM HCl水溶液(pH2.1)で洗浄し、再び上記のPEG水溶液に30分静置することにより表面処理を行った。
以上のサンプルを用い、表面処理による電気浸透流の抑制効果をζ電位のpH依存性をもとに評価した。
ζ電位測定:大塚電子株式会社製LEZA−600型装置を用い、レーザードップラー法により測定をおこなった。ζ電位のpH依存性は酸性側から初めて、pH3、5、7、8、9、10と上げていき、測定は各pHにつき2〜3回おこない、安定した値を測定値とした。
ζ電位のpH依存性:未修飾ガラスと25、50、80℃に置いて吸着処理を施したPEG修飾ガラス表面におけるζ電位のpH依存性を図15に示す。Acetal−PEG−b−PAMAを用いることにより、未修飾ガラスに比較して、pHによる表面電位の変動が小さく、表面が外部環境の影響を受けにくい表面が構築された。
実施例16 ウエスタンブロット法(2)
ウエスタンブロット法における発色系として、アルカリフォスファターゼ標識二次抗体を用い、α−フェトプロテイン(以下、AFP)の検出系における本発明のブロック共重合体のブロッキング効果を、従来汎用されているブロッキング剤と比較した例を示す。サンプルとして、▲1▼10倍希釈した正常人血清で8,000IU/mlとなるようにAFPを希釈したもの、および▲2▼蛋白濃度20μg/mlの細胞抽出液で8,000IU/mlとなるようにAFPを希釈したものを用い、実施例14に記載した方法に準じて、ウシ血清アルブミン(BSA)とメトキシ−ポリエチレングリコール/ポリ乳酸ブロック重合体(PEG−PLA)におけるブロッキング効果の比較を行った。
検出は、一次抗体として抗AFP抗体(ウサギ)、二次抗体として、アルカリフォスファターズ標識抗ウサギ抗体(ロバ)を用い、気質として、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルフォスフェート/ニトロブルーテトラゾリウム(BCIP/NBPT)を用いた。
結果を図16に示す。図から従来汎用されているBSAに比較して、本発明における表面処理剤MethoxyPEG−PLA5000において、良好な非特異吸着抑制効果によるバックグラウンドの低減が観察された。図16中の略号および各施行番号は、以下の意味を有する。
A:BSAを用いた場合
▲1▼ 一次抗体5000倍希釈、 二次抗体2500倍希釈
▲2▼ 一次抗体5000倍希釈、 二次抗体5000倍希釈
▲3▼ 一次抗体5000倍希釈、 二次抗体10000倍希釈
▲4▼ 一次抗体10000倍希釈、二次抗体2500倍希釈
▲5▼ 一次効体10000倍希釈、二次抗体5000倍希釈
▲6▼ 一次抗体10000倍希釈、二次抗体10000倍希釈
B:MethoxyPEG−PLA5000を用いた場合
▲7▼ 一次抗体5000倍希釈、二次抗体2500倍希釈
▲8▼ 一次抗体5000倍希釈、二次抗体5000倍希釈
▲9▼ 一次抗体5000倍希釈、二次抗体10000倍希釈
▲10▼一次抗体10000倍希釈、二次抗体2500倍希釈
▲11▼一次抗体10000倍希釈、二次抗体5000倍希釈
▲12▼一次抗体10000倍希釈、二次抗体10000倍希釈
実施例17 PEGセグメントを含有するグラフト共重合体を用いたマイクロ流路の表面処理
シリコーンコンパウンド表面を、PEGグラフトポリマーで修飾することによる表面の改質、およびタンパク吸着について検討した。
シリコーンコンパウンドの作製:ダウコーニング社製SILIGARD 184 ELASTMER KITを用い、SILICONE ELASTMER:SILICONE ELASTMER CURING AGENT=10:1(重量比)を混合して、ガラス製の型に流し、65℃で1時間、さらに100℃で1時間処理することにより、シリコーン基板の成型加工を行った。
上記の方法で調製したシリコーン表面を洗浄の後、ポリメトキシシリルプロピルメタクリレート−PEGグラフト共重合体(PTSPM−g−PEG1100)、PEGホモポリマー(PEG1100)を室温で4時間反応させ、シリコーン表面をPEGブラシで修飾した。
上記の方法で調製した表面における、ζ電位の比較を行った。その結果を図17に示す。本発明による方法で処理した表面は、pHによる表面電位の変化が少なく、電気的に中性であり、イオン的相互作用の少ない表面であることが示された。
実施例18ポリジメトキシシリル(PPMS)を作成する際にモールド表面にPTSPM−g−PEG又は重合性ビニル基を有するPEGマクロモノマーを塗っておくことによる一括表面処理法。
基盤となるPDMSを重合する際に、ガラス表面に直接PEGを含むグラフト共重合体、PTSPM−g−PEG1100をスピンコートし、そのガラスをモールドとして、PDMSの重合と同時にPEGによる表面処理を行い、ζ電位による評価を行った。
上記方法により処理した表面の、ζ電位、およびウシ血清の非特異吸着性を評価した。その結果を、図18に示す。未処理のシリコーン表面が、マイナスに帯電しているのに対し、PTSPM−g−PEG1100で処理した表面は、pH4〜8の範囲で、ほぼ中性を示し、PEGブラシで表面が修飾されたことが示された。
また、処理表面へのタンパク質の非特異吸着を蛍光標識したアルブミン、およびIgGを用いて評価した結果を、それぞれ図19,20に示す。いずれのタンパク質の場合も表面処理により吸着性が著しく減少し、しかも未処理のシリコーン表面では吸着量のばらつきが大きいのに対し、処理表面では再現性よく、非特異吸着の抑制が達成された。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、バイオセンサー基材表面への血液、血漿等の試料中に存在する夾雑タンパク質等の非特異吸着を有意に抑制した基材表面を提供できる。したがって、バイオセンサーの製造業またはバイオセンサーを用いる、例えば臨床診断業において利用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被分析物を検出するための物質または被分析物が固定された基材表面であって、基材表面を該物質または被分析物と同時にか、または該表面に該物質または被分析物が固定された後に、ポリエチレングリコール鎖セグメントをベースにする非架橋ポリマー含有液で処理して形成された基材表面。
【請求項2】
被分析物を検出するための物質または被分析物が特異的結合対の一員である請求項1記載の基材表面。
【請求項3】
特異的結合対の一員が抗原、ハプテン、抗体、オリゴ核酸、酵素、酵素の基質、糖、レクチン、ホルモン、受容体タンパク質、アビジンおよびビオチンからなる群より選ばれる請求項2記載の基材表面。
【請求項4】
ポリエチレングリコール鎖セグメントをベースにする非架橋ポリマーが、式(I):
−L−(CHCHO)−L−X (I)
(式中、Rは水素原子、メチル、保護されていてもよいホルミル、保護されていてもよいアミノ、保護されていてもよいカルボキシ、保護されていてもよいヒドロキシルまたはビニルスルホニル基を表し、
およびLは相互に独立して、原子価結合またはリンカーを表し、
Xは多孔質粒子表面に当該ポリマー分子を固定することのできる共有結合または物理的相互作用を介する結合を形成するための官能基または機能性部分を表し、そして
nは2〜20,000の整数である)
で表される請求項1記載の基材表面。
【請求項5】
Xがメルカプト基、シラノール基、カルボキシル基、アミノ基、またはモノーもしくはジー低級アルキル置換アミノ基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、メルカプト基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、シラノール基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、カルボキシル基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、スルホ基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、ヒドロキシル基を側鎖に有するオリゴまたはポリマー主鎖部分、複数のイミノ基(−NH−)を主鎖に有するオリゴまたはポリイミン主鎖部分、オリゴまたはポリラクチド主鎖部分からなる群より選ばれる請求項4記載の基材表面。
【請求項6】
基材表面が電気化学センサー表面、表面プラズモンセンサー表面、水晶発振センサー表面、固相化酵素免疫アッセイ(ELISA)用マイクロプレート表面、タンパク質ブロットもしくは核酸ブロット用プラスチックフィルム表面、および核酸のハイブリダイゼーション用マイクロアレイ表面からなる群より選ばれる請求項1記載の表面。
【請求項7】
基材表面が金粒子表面、半導体ナノ粒子表面、磁性体粒子表面、シリカ粒子表面、多孔質粒子表面、およびこれらの粒子のいずれか一種を含むラテックス粒子表面からなる群より選ばれる請求項1記載の表面。
【請求項8】
(A)基材表面を用意し、
(B)該基材表面に固定しうるように修飾された被分析物を検出するための物質または被分析物の水性溶液およびポリエチレングリコール鎖セグメントをベースにする非架橋ポリマー含有液を、同時かまたは続いて、それぞれが(A)の基材表面に固定化されるのに十分な条件下で該基材表面と接触させることを特徴とする請求項1記載の基材表面の作製方法。
【請求項9】
ポリエチレングリコール鎖セグメントをベースにする非架橋ポリマーが、式(I):
−L−(CHCHO)−L−X (I)
(式中、Rは水素原子、メチル、保護されていてもよいホルミル、保護されていてもよいアミノ、保護されていてもよいカルボキシ、保護されていてもよいヒドロキシルまたはビニルスルホニル基を表し、
およびLは相互に独立して、原子価結合またはリンカーを表し、
Xは多孔質粒子表面に当該ポリマー分子を固定することのできる共有結合または物理的相互作用を介する結合を形成するための官能基または機能性部分を表し、そして
nは2〜20,000の整数である)
で表される請求項7記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかの一項に記載の基材表面を備えたバイオセンサー。

【国際公開番号】WO2005/010529
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【発行日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512122(P2005−512122)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011123
【国際出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000125370)学校法人東京理科大学 (27)