説明

非線形光学材料

【課題】大きな分子超分極率β値をもつ新規な非線形光学材料及びその使用方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)


で表されるSym−トリインドール化合物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sym−トリインドール骨格を有する化合物の、大きなβ値を持つ新規な非線形光学材料としての用途に関し、詳しくは二次非線形光学材料、二光子吸収材料としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
非線形光学材料として用いられる化合物は、一般に、与えられた長さのある種の共役結合を有するドナー−π−アクセプター(D−π−A)構造の分子設計を行い、π系の長さ及びドナー、アクセプターとして適当なものを選択することによって分子超分極率βを適切化した化合物であり、そのような化合物は、それ自体で非線形光学材料として用いられる。
【0003】
一方、本発明者らは、Sym−トリインドール骨格を有する化合物を既に提供している(特許文献1参照)。特許文献1記載の化合物は、上記のようなD−π−A構造を有しており、当該化合物が非線形光学材料としての適用可能性がある旨も特許文献1には記載されているが、当該化合物が非線形光学材料としての用途に適性があることを具体的に示すデータの開示は成されていなかった。
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2005/077956A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、大きなβ値を有する、非線形光学材料として好適な、Sym−トリインドール骨格を有する化合物からなる非線形光学材料、詳しくは二次非線形光学材料、二光子吸収材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような状況に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、意外にも、前記文献に記載のSym−トリインドール骨格を有する化合物群の中で、Sym−トリインドール骨格にビニル基が結合した化合物が大きなβ値を有する上、大きな二光子吸収断面積(δ値)も有しており、非線形光学材料として好適な性質を具備していることを見出し、そのような化合物が非線形光学材料用途に適していることを知得し、上記課題を解決できることが判り、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法により、Sym−トリインドール骨格にビニル基が結合した化合物からなる非線形光学材料、特に二次非線形光学材料、二光子吸収材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は下記、〔1〕乃至〔6〕に記載の発明を提供するものである。
【0009】
〔1〕一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、RはC2〜C12アルキル基、置換C2〜C12アルキル基、又はC2〜C12ハロアルキル基を表し、Rは水素又はシアノ基を表し、Rはシアノ基、カルボン酸基、C2−C7アルコキシカルボニル基、C6−C10アリールオキシカルボニル基、アリール基、又は置換アリール基を表す。)
【0012】
で表されるSym−トリインドール化合物からなる非線形光学材料。
【0013】
〔2〕〔1〕に記載のSym−トリインドール化合物からなる二次非線形光学材料。
【0014】
〔3〕〔1〕に記載のSym−トリインドール化合物からなる二光子吸収材料。
【0015】
〔4〕〔1〕に記載のSym−トリインドール化合物を非線形光学材料として使用する方法。
【0016】
〔5〕〔1〕に記載のSym−トリインドール化合物を二次非線形光学材料として使用する方法。
【0017】
〔6〕〔1〕に記載のSym−トリインドール化合物を二光子吸収材料として使用する方法。
【0018】
本明細書において用いる用語について説明する。
【0019】
「C1−C6」等の表現は、これに続く基の炭素数が、この場合では1乃至6であることを示す。
【0020】
「ハロゲン」とは、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素を示す。
【0021】
「C1〜C6アルコキシ基」とは、炭素数1乃至6の直鎖又は分岐C1〜C6アルコキシ基を示し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等を例示できる。
【0022】
「C2〜C7アルコキシカルボニル基」とは、直鎖又は分岐(C1〜C6アルコキシ)カルボニル基を示し、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基基等を例示できる。
【0023】
「C7〜C11アリールオキシカルボニル基」とは、(C6〜C10アリールオキシ)カルボニル基を示し、例えば、フェノキシカルボニル基、1−ナフチルオキシカルボニル基、2−ナフチルオキシカルボニル基等を例示できる。
【0024】
「C2〜C12アルキル基」とは、炭素数2乃至12の直鎖又は分岐C2−C12アルキル基を示し、具体的には例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、3,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基等を例示できる。
【0025】
「C2〜C12ハロアルキル基」とは、同一又は相異なった、前記意味を有すハロゲンの1乃至13個で置換された直鎖又は分岐C2〜C12アルキル基を示し、例えばクロロエチル基、1,1−ジクロロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基等を例示できる。
【0026】
「カルボン酸基」とは、カルボキシル基、カルボキシル基のナトリウム、カリウム、リチウム、又はピリジニウム等の塩を包含する。
【0027】
「アリール基」とは、異項原子を含んでも良い、5員環又は6員環の単環又は5員環及び/又は6員環が任意に縮合した縮合環である芳香族基を示し、例えばフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラニル基、2−アントラニル基、9−アントラニル基、1−フェナントロリル基、2−フェナントロリル基、9−フェナントロリル基、3−フェナントロリル基、4−フェナントロリル基、1−ピレニル基、2−ピレニル基、4−ピレニル基等の単環或いは縮合環の芳香族炭化水素基;又は、2−ピリジル基、3−ピリジル基、ピロール基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、キノリニル基、インドリル基、イソインドリル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、フリル基、ベンゾフリル基、チアゾリル基、オキサジアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアジアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基等の、1以上の窒素、酸素、硫黄を異項原子として有する、単環或いは縮合環の芳香族複素環基を例示できる。
【0028】
「置換アリール基」とは、前記意味を有するハロゲン、シアノ基、ホルミル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基(エステル基)、カルバモイル基、アリール基の独立的な1〜7個で置換された前記意味を有するアリール基を示し、例えば2−クロロフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ホルミルフェニル基、4−ニトロフェニル基、4−メトキシカルボニルフェニル基、4−(N,N−ジメチルカルバモイル)フェニル基等を例示できる。
【0029】
「置換C2〜C12アルキル基」とは、同一又は相異なった、ヒドロキシ基、前記意味を有するC1−C6アルコキシ基、前記意味を有するアリール基の1乃至13個で置換された直鎖又は分岐C2〜C12アルキル基を示し、例えば、ヒドロキシエチル基、メトキシエチル基、フェニルエチル基を例示できる。
【0030】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0031】
本発明〔1〕は、一般式(1)で表されるSym−トリインドール骨格を有する化合物からなる非線形光学材料である。
【0032】
一般式(1)中のRはC2〜C12アルキル基、置換C2〜C12アルキル基、又はC2〜C12ハロアルキル基を表し、Rは水素原子またはシアノ基を表し、Rはシアノ基;例えばカルボキシル基、カルボキシル基のナトリウム、カリウム、リチウム、又はピリジニウム等の塩を包含するカルボン酸基;例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、フェノキシカルボニル等のアルコキシカルボニル基;フェニル基、ナフチル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、2−ピリミジニル基、4−ピリミジニル基、トリアジニル基等のアリール基;例えば、2−ニトロフェニル基、3−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、4−ホルミルフェニル基、4−シアノフェニル基、6−メチル−2−ピリジル基等の置換アリール基を表す。
一般式(1)で表されるSym−トリインドール骨格を有する化合物は、それ自体で非
【0033】
線形光学材料として使用することができ、例えば二次非線形光学材料としての使用、ニ光子吸収材料としての使用等をその使用方法として例示することができる。
本発明の非線形光学材料の使用形態としては、それ自体で単独で使用することもできるし、他の公知の非線形光学材料或いは公知の非線形光学性能を損なわない材料成分を併用又は混合して使用することもできる。
【0034】
一般式(1)で表されるSym−トリインドール骨格を有する化合物、即ち本発明の非線形光学材料は、特許文献1記載の方法により製造することができる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0036】
実施例1:〔1〕記載の発明
a)N−ヘキシル−5−(2,2−ジシアノビニル)トリインドールの分子超分極率βの測定
試料溶液からのハイパーレーリー散乱を観測することによりβを決定した。具体的には、ハイパーレーリー散乱光強度のレーザー光強度依存性および溶液濃度依存性の測定からβを評価した。下にハイパーレーリー散乱測定装置を示した。試料溶液の入ったサンプルセルにレーザー光を照射し、レーザー光の進行方向と直交方向に検出器(光電子増倍管)を置いて散乱光を観測した。レーザー光強度の調整は半波長板の回転により行った。検出器からの信号は増幅してからボックスカーで積分し、A/D変換後パソコンに取り込んで積算した。また、レーザー光強度をフォトダイオードで測定し、レーザー光強度の揺らぎに基づく散乱光強度の揺らぎを補正した。
【0037】
この装置で4−ニトロアニリン(β=29.2X10−30esu)を基準物質としてN−ヘキシル−5−(2,2−ジシアノビニル)トリインドールの分子超分極率βを測定したところ319X10−30esuであった。
【0038】
このβ値から、N−ヘキシル−5−(2,2−ジシアノビニル)トリインドールは、二次非線形光学材料として好適な化合物であり、二次非線形光学材料に使用できること事がわかる。
【0039】
実施例2:〔2〕記載の発明
a)N−ヘキシル−5−(2,2−ジシアノビニル)トリインドールの2光子吸収断面積δの測定
二光子吸収断面積が既知の化合物の蛍光強度と試料の蛍光強度の比からδを決定した。下に二光子発光スペクトル測定装置を示した。試料溶液の入ったサンプルセルにレーザー光を照射し、レーザー光の進行方向と直交方向に検出系(分光器と光電子増倍管)を設置し、二光子蛍光スペクトルを測定した。レーザー光強度の調整は半波長板の回転により行った。また、蛍光の偏光特性を解消するために、垂直から35.2°傾けた偏光子によりレーザー光の偏光方向を変えた。光電子増倍管からの信号は増幅してからボックスカーで積分し、A/D(アナログ/デジタル)変換後、データをパソコンに取り込んで積算した。また、レーザー光強度をフォトダイオードで測定し、レーザー光強度の揺らぎに基づく蛍光強度の揺らぎを補正した。
【0040】
この装置でローダミン640(δ=20GM(1064nm)、1GM=1X10−50cm・s・molecule−1・photon−1)を基準物質としてN−ヘキシル−5−(2,2−ジシアノビニル)トリインドールの二光子吸収断面積δを測定したところ92GM(900nm)であった。
【0041】
このβ値から、N−ヘキシル−5−(2,2−ジシアノビニル)トリインドールは、二光子吸収材料として好適な化合物であり、二光子吸収材料に使用できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、Sym−トリインドール骨格を有する化合物からなる、大きなβを持つ非線形光学材料が提供される。本発明の材料は、特に二次非線形光学材料、二光子吸収材料として有用であり、そのような用途での使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】N−ヘキシル−5−(2,2−ジシアノビニル)トリインドールの分子超分極率βの測定装置の構成図である。
【図2】N−ヘキシル−5−(2,2−ジシアノビニル)トリインドールの2光子吸収断面積δの測定装置の構成図である。
【符号の説明】
【0044】
PR:プリズム(prism)
A:アパーチャー(虹彩絞り、aperture)
W:半波長板(half-wave plate)
P:グランレーザー偏向子(glan polarizer)
G:ガラス板(glass plate)
ND:NDフィルター(neutral density filter)
:赤外透過可視吸収フィルター(IR-pass filter)
M:球面鏡(球面ミラー、spherical mirror)
AL:非球面レンズ(aspherical lens)
L:レンズ(lens)
D:ビームダンパー(Beam dumper)
:赤外吸収可視透過フィルター(IR-cut filter)
I:干渉フィルター(interference filter)
PMT:光電子増倍管(photomultiplier tube)
PD:フォトダイオード(photodiode)
OPO:光パラメトリック発振器(optical parametric oscillator)
Sample cell:資料箱
Computer:電子計算機
Oscillo.:デジタルオシロスコープ
Boxcar integrater:ボックスカー積分器
Amp.:高速電圧アンプ
Nd:YAG laser:ネオジウム・ヤグ・レーザー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、RはC2〜C12アルキル基、置換C2〜C12アルキル基、又はC2〜C12ハロアルキル基を表し、Rは水素又はシアノ基を表し、Rはシアノ基、カルボン酸基、C2−C7アルコキシカルボニル基、アリール基、又は置換アリール基を表す。)
で表されるSym−トリインドール化合物からなる非線形光学材料。
【請求項2】
請求項1記載のSym−トリインドール化合物からなる二次非線形光学材料。
【請求項3】
請求項1記載のSym−トリインドール化合物からなる二光子吸収材料。
【請求項4】
請求項1記載のSym−トリインドール化合物を非線形光学材料として使用する方法。
【請求項5】
請求項1記載のSym−トリインドール化合物を二次非線形光学材料として使用する方法。
【請求項6】
請求項1記載のSym−トリインドール化合物を二光子吸収材料として使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−219024(P2007−219024A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37261(P2006−37261)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000102049)イハラケミカル工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】