説明

非線形演算回路

【課題】MOS回路による非線形演算回路で利得可変とし、温度依存性やプロセスによる利得特性のばらつきを低減する。また、種々の非線形演算に適用可能とする。
【解決手段】 非線形演算回路1は、2つの乗算器10,20と演算増幅器30とを備える。演算増幅器30の正相入力端子に2つの乗算器の何れか一方の乗算器の出力端子を接続し、逆相入力端子に2つの乗算器の他方の乗算器の出力端子を接続する。さらに、演算増幅器30の出力端子に2つの乗算器の何れかの乗算器が備える一方の入力端子を接続し、これによって、演算増幅器の演算出力をその乗算器に帰還させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形演算回路、特にアナログ非線形演算回路に関する。
【背景技術】
【0002】
種々のアナログ信号を信号処理する回路として、例えば、乗算、除算、自乗、平方根、相乗平均などの処理を行う非線形演算回路が知られている。このような非線形演算回路では、利得が可変であることが求められる場合がある。
【0003】
例えば、非線形演算回路の一例として、2つの入力信号の積を出力する電圧乗算回路がある。この電圧乗算回路において、回路を構成する乗算器のバイアス電流の比によって利得を可変とすることが示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、乗算器において、バイポーラ回路で構成されるカレントミラー回路に流れる電流あるいは電流比によって利得を可変とすることが示されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
また、電気的に分離された2つの回路構成によって乗算回路の利得を可変とする構成も示されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
図24は、上記した回路構成の一例を説明するための回路図である。この乗算回路は、乗算器101によって入力信号UxにゲインKxを乗じて出力信号Uoを出力する第1の回路構成と、2つの入力信号Uy及びUzを入力する増幅器103、及び一方の入力信号UzにゲインKzを乗じる乗算器102とを備える第2の回路構成とを、それぞれ独立して備え、一方の乗算器101のゲインKxと他方の乗算器102のゲインKzとを増幅器103の出力電圧U1で制御する構成であり、ゲインKxとゲインKzが等しければ乗算回路の出力信号UoはUo=Ux・Uy/Uzで表される。
【0007】
【非特許文献1】山形健二、兵庫明、関根慶太郎“バイアス電流による利得可変な電圧乗算器”、電気学会電子回路研究会資料ECT-01-84,pp73-76,2003-09
【非特許文献2】C.Tourmazou,F.J.Lidgey,and D.G.Gaigh;”Analog IC design:the current-mode approach”,Peter Peregrinus Ltd,p56,57 1990
【非特許文献3】U.Tietze,and Ch.Schnk:”Electric Circuits”Springer-Verlag, p312〜223 1991
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した非特許文献で示される回路構成は、利得可変の機能をいずれも電流駆動によるバイポーラ回路で実現するによるものである。非線形演算回路を実現する回路構成として、バイポーラ回路のほかMOS回路がある。MOS回路においても同様に利得を可変とする機能が求められるが、本出願の発明者が知る限り、電圧駆動されるMOS回路において利得可変の機能を実現する回路構成は知られていない。
【0009】
また、上記した非特許文献3の構成では、ゲインKxとゲインKzを等しくすることができれば、Uo=Ux・Uy/Uzの入出力関係が得られる。この入出力関係から、乗算値Ux・Uyの利得を(1/Uz)によって制御することが考えられる。しかしながら、この回路構成では、増幅器101から第2の乗算器(ゲインKz)への負帰還が正帰還となって発振が発生しないように、入力Uzは十分に正方向に大きい必要がある。そのため、(1/Uz)によって変更し得る利得の範囲が制限されるおそれがある。
【0010】
また、非特許文献3の回路構成では、第1の乗算器(ゲインKx)と第2の乗算器(ゲインKz)の各ゲインは、増幅器101の出力電圧U1によって、それぞれ独立して制御される。そのため、各乗算器の温度依存性やプロセスが相違すると、その利得特性にばらつきが生じ、乗算器の利得特性が変動するため、ゲインKxとゲインKzを等しくすることは困難であり、結局Uo=Ux・Uy/Uzの入出力関係を得ることは難しいという問題がある。
【0011】
さらに、上記した各回路構成は乗算回路に関わる構成に過ぎず、その他の除算、自乗、平方根、相乗平均などの非線形演算への適用が困難であるという問題がある。
【0012】
本発明は前記した従来の問題点を解決し、バイポーラ回路及びMOS回路において適用することができる利得可変な非線形演算回路を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、温度依存性やプロセスによる利得特性のばらつきを低減することができる利得可変な非線形演算回路を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、乗算、除算、自乗、平方根、相乗平均などの種々の非線形演算に容易に適用するができる利得可変な非線形演算回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の非線形演算回路は、バイポーラ回路及びMOS回路に適用可能な回路構成であり、入力電圧によって利得を可変とする他、非線形演算回路を構成する乗算器の利得や利得比によって非線形演算回路の利得を可変とすることができる。
【0016】
また、本発明の非線形演算回路は、非線形演算回路を構成する演算増幅器に正相入力端子側と逆相入力端子側に乗算器を接続し、演算増幅器の出力を一方の入力端子側の乗算器に帰還する構成によって、その出力特性において、乗算器に含まれる温度依存性やプロセスによる利得特性のばらつきの項の影響を低減する。また、本発明の非線形演算回路は、電源変動に対する影響を低減することができる。
【0017】
また、本発明の非線形演算回路は、各乗算器の入力端子への入力において、演算の入力電圧と利得調整電圧との対応関係を切り替えることによって、共通する回路構成で乗算、除算、自乗、平方根、相乗平均などの種々の非線形演算に容易に切り替えて適用するができる。
【0018】
本発明の非線形演算回路の第1の態様は、構成要素として2つの乗算器と演算増幅器とを備える。
【0019】
乗算器は、入力電圧を乗算し、さらにゲイン倍して出力する。また、演算増幅器はオペレーションアンプとも呼ばれ、正相入力端子と逆相入力端子と出力端子を備える。
【0020】
本発明の非線形演算回路の基本的な構成は、演算増幅器の正相入力端子に2つの乗算器の何れか一方の乗算器の出力端子を接続し、逆相入力端子に2つの乗算器の他方の乗算器の出力端子を接続する。さらに、演算増幅器の出力端子に2つの乗算器の何れかの乗算器が備える一方の入力端子を接続し、これによって、演算増幅器の演算出力をその乗算器に帰還させる。
【0021】
演算増幅器は、正相入力端子に入力した電圧と逆相入力端子に入力した電圧とが等しくなるように動作する。この演算増幅器の動作によって、演算増幅器の出力において、各乗算器の入力電圧間に、乗算、除算、自乗、平方根、相乗平均などの所定の演算関係を形成する。非線形演算回路をいずれの演算機能として働かせるかは、乗算器の入力端子に入力する電圧と演算内容との対応関係、及び乗算器の入力端子間の接続関係によって切り替えることができる。
【0022】
本発明の非線形演算回路は、これらの入力電圧間の関係において、所定の演算内容によっていずれの入力電圧を演算に用いる入力電圧として用いるかが定まり、残余の入力電圧は演算結果の利得を調整する電圧として用いることができる。
【0023】
本発明の非線形演算回路の第1の形態は乗算回路であり、一方の乗算器が備える2つの入力端を2つの入力電圧用端子とし、他方の乗算器が備える一方の入力端を利得調整電圧端子とし、さらに、他方の乗算器が備える他方の入力端を帰還端子として演算増幅器の出力を他方の乗算器に帰還させる。
【0024】
この乗算回路の形態では、一方の乗算器に入力した2つの入力電圧の乗算結果を他方の乗算器に入力した入力電圧で除したものを出力する。ここで、他方の乗算器に入力した入力電圧は利得調整電圧として作用し、この入力電圧を調整することで乗算結果の利得を調整することができる。
【0025】
本発明の非線形演算回路の第2の形態は除算回路であり、一方の乗算器が備える一方の入力端子と他の乗算器が備える一方の入力端子を入力電圧用端子とし、一方の乗算器が備える他方の入力端を利得調整電圧端子とし、さらに、他方の乗算器が備える他方の入力端を帰還端子として演算増幅器の出力を他方の乗算器に帰還させる。
【0026】
この除算回路の形態では、一方の乗算器に入力した入力電圧を他方の乗算器に入力した入力電圧で除した除算結果に、一方の乗算器に入力した入力電圧を乗じたものを出力する。ここで、一方の乗算器に入力した入力電圧は利得調整電圧として作用し、この入力電圧を調整することで除算結果の利得を調整することができる。
【0027】
本発明の非線形演算回路の第3の形態は自乗回路であり、前記した第1の形態において、2つの入力電圧として同電圧を入力することで構成することができる。つまり、一方の乗算器が備える2つの入力端を入力電圧用端子として同一の入力電圧を入力し、他方の乗算器が備える一方の入力端を利得調整電圧端子とし、さらに、他方の乗算器が備える他方の入力端を帰還端子として演算増幅器の出力を他方の乗算器に帰還させる。
【0028】
この自乗回路の形態では、一方の乗算器に入力した同一の入力電圧を乗算することで得られる自乗結果を他方の乗算器に入力した入力電圧で除したものを出力する。ここで、他方の乗算器に入力した入力電圧は利得調整電圧として作用し、この利得調整電圧を調整することで自乗結果の利得を調整することができる。
【0029】
本発明の非線形演算回路の第4の形態は平方根回路であり、一方の乗算器が備える一方の入力端子を入力電圧用端子とし、一方の乗算器が備える他方の入力端を利得調整電圧端子とし、さらに、他方の乗算器が備える2つの入力端を帰還端子として演算増幅器の出力を他方の乗算器に帰還させる。
【0030】
この平方根回路の形態では、一方の乗算器に入力した入力電圧と利得調整電圧とを乗じた値の平方根を出力する。ここで、一方の乗算器の他方の入力端子に入力した電圧は利得調整電圧として作用し、この利得調整電圧を調整することで入力電圧の平方根の利得を調整することができる。
【0031】
本発明の非線形演算回路の第5の形態は相乗平均回路であり、一方の乗算器が備える2つの入力端子を2つの入力電圧用端子とし、さらに、他方の乗算器が備える2つの入力端を帰還端子として演算増幅器の出力を他方の乗算器に帰還させる。
【0032】
この相乗平均回路の形態では、一方の乗算器に入力した2つの入力電圧を乗じた値の平方を出力する。
【0033】
なお、上記した第1の形態から第5の形態において、二つの乗算器のゲインは同一としても、また、異ならせてもよい。
【0034】
本発明の非線形演算回路は、上記した乗算、除算、自乗、平方根、相乗平均の各形態の他に、他の機能として作用する形態を含む。
【0035】
本発明の非線形演算回路の第6の形態は入力電圧の利得調整回路であり、一方の乗算器が備える2つの入力端子を入力電圧用端子として同一の入力電圧を入力し、他方の乗算器が備える2つの入力端子を帰還端子として演算増幅器の出力を他方の乗算器に帰還させる。
【0036】
演算増幅器は、一方の乗算器による入力電圧の自乗値と、他方の帰還値の自乗値とを等価とする演算を行う。この形態では、入力電圧に2つの乗算器のゲインの比を平方した値を乗じたものを出力する。ここで、2つの乗算器のゲイン比により、入力電圧の利得を可変とすることができる。
【0037】
本発明の非線形演算回路の第7の形態は入力電圧の利得調整回路の他の形態であり、一方の乗算器が備える入力端子の一方を入力電圧用端子とし、一方の乗算器の他方の入力端子と他方の乗算器の一方の入力端子とを接続し、他方の乗算器が備える他方の入力端子に演算増幅器の出力端子を接続して演算増幅器の出力を他方の乗算器に帰還させる。
【0038】
演算増幅器は、一方の乗算器による2つの入力電圧の乗算値と、他方の乗算器による1入力電圧と出力電圧との乗算値とを等価とする演算を行う。この形態では、一方の乗算器に入力した電圧に2つの乗算器のゲインの比を乗じたものを出力する。ここで、2つの乗算器のゲイン比により、入力電圧の利得を可変とすることができる。
【0039】
本発明の非線形演算回路の第8の形態は入力電圧の利得調整回路の別の形態であり、一方の乗算器が備える入力端子と他方の乗算器が備える入力端子とを接続して入力電圧用端子とし、一方の乗算器が備える他方の入力端子と演算増幅器の出力端子とを接続して演算増幅器の出力を他方の乗算器に帰還させる。
【0040】
演算増幅器は、一方の乗算器による入力電圧の乗算値と、他方の乗算器による入力電圧と出力電圧との乗算値とを等価とする演算を行う。この形態では、入力電圧に2つの乗算器のゲインの比を乗じたものを出力する。ここで、2つの乗算器のゲイン比により、入力電圧の利得を可変とすることができる。
【0041】
本発明の非線形演算回路の第9の形態は入力電圧の利得調整回路のさらに別の形態であり、一方の乗算器が備える入力端子と他方の乗算器が備える入力端子とを接続し、他方の乗算器が備える他方の入力端子を入力電圧用端子とし、一方の乗算器が備える他方の入力端子と演算増幅器の出力端子を接続して演算増幅器の出力を一方の乗算器に帰還させる。
【0042】
演算増幅器は、一方の乗算器による入力電圧と出力電圧の乗算値と、他方の乗算器による2つの入力電圧の乗算値とを等価とする演算を行う。この形態では、他の乗算器に入力した電圧に2つの乗算器のゲインの比を乗じたものを出力する。ここで、2つの乗算器のゲイン比により、入力電圧の利得を可変とすることができる。
【0043】
本発明の非線形演算回路の第10の形態は基準電圧回路の形態であり、一方の乗算器が備える出力端子と他方の乗算器が備える入力端子とを接続し、他方の乗算器が備える入力端子と演算増幅器の出力端子を接続し演算増幅器の出力を他方の乗算器に帰還させる。
【0044】
この形態では、他の乗算器のゲインの逆数を出力する。ここで、乗算器のゲイン比により、基準電圧の利得を可変とすることができる
【0045】
さらに、本発明の非線形演算回路の第2の態様は、構成要素として複数の乗算器と演算増幅器とを備える。
【0046】
隣接する乗算器の出力端子と入力端子とを接続した2組のカスケード接続を形成し、一方のカスケード接続を演算増幅器の正相入力端子に接続し、他方のカスケード接続を演算増幅器の逆相入力端子に接続する。さらに、演算増幅器の出力端子と一方のカスケード接続の演算増幅器側に接続される乗算器の入力端子とを接続して、演算出力をその乗算器に帰還させる。
【0047】
第2の態様においても、前記した第1の態様と同様に、演算増幅器は正相入力端子に入力した電圧と逆相入力端子に入力した電圧とが等しくなるように動作する。この演算増幅器の動作によって、演算増幅器の出力において、各乗算器の入力電圧間に所定の演算関係を形成する。非線形演算回路を、いずれの演算機能として働かせるかは、乗算器の入力端子に入力する電圧と演算内容との対応関係、及び乗算器の入力端子間の接続関係によって切り替えることができる。
【0048】
本発明の非線形演算回路は、これらの入力電圧間の関係において、所定の演算内容によっていずれの入力電圧を演算に用いる入力電圧として用いるかが定まり、残余の入力電圧は演算結果の利得を調整する電圧として用いることができる。
【0049】
また、本発明の各態様では、演算増幅器演算増幅器は正相入力端子に入力した乗算器出力と逆相入力端子に入力した乗算器出力とが等しくなるように動作することによって、出力において、各乗算器のゲインに含まれる温度依存性のパラメータや乗算器を製造する際のプロセスパラメータを互いにキャンセルし、温度依存性やプロセスによる利得特性のばらつきを低減することができる。
【発明の効果】
【0050】
以上説明したように、本発明によれば、バイポーラ回路及びMOS回路において、利得可変な非線形演算回路に適用することができる。
【0051】
また、本発明の非線形演算回路は、温度依存性やプロセスによる利得特性のばらつきを低減することができる。
【0052】
また、本発明の非線形演算回路は、電源電圧の変動の影響を低減させることができる。
【0053】
また、本発明の非線形演算回路は、入力電圧の組み合わせや、入力端子間の接続を調整することによって、乗算、除算、自乗、平方根、相乗平均などの種々の非線形演算に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0055】
はじめに、図1を用いて本発明の非線形演算回路の基本構成について説明する。
【0056】
図1において、非線形演算回路1は、2つの乗算器10,20と演算増幅器30とを備える。演算増幅器30は、正相入力端子(図中の“+”で表示する)に第1の乗算器10の出力端子を接続し、逆相入力端子(図中の“−”で表示する)に第2の乗算器20の出力端子を接続し、演算増幅器30の出力端子に乗算器20の一方の入力端子を接続する。
【0057】
第1の乗算器10はゲインK1を有し、2つの入力端子に入力される入力電圧Vxと入力電圧Vyとを乗じた値にゲインK1を乗じたK1・Vx・Vyを出力する。また、第2の乗算器20はゲインK2を有し、一方の入力端子に入力される入力電圧Vzと出力端子から帰還された出力電圧Voutとを乗じた値にゲインK2を乗じた値K2・Vz・Voutを出力する。
【0058】
演算増幅器30は、第1の乗算器10からの出力K1・Vx・Vyと第2の乗算器20からの出力K2・Vz・Voutが等しくなるように動作する。この演算増幅器30の動作によって、入力電圧Vx,Vy,Vzと出力電圧Voutとの間には以下の式(1)で表される関係が形成される。
K1・Vx・Vy=K2・Vz・Vout …(1)
【0059】
上記式(1)で表される関係から、出力電圧Voutは以下の式(2)で表される。
Vout=(K1/K2)・(Vx・Vy/Vz) …(2)
【0060】
図2は乗算器の一構成例を説明するための図であり、図3は演算増幅器の一構成例を説明するための図である。図2に示す構成例は、要素乗算器として最も基本的なギルバートセルを用いた例であり、ここでは、レベルシフト回路を接続することによって、乗算器と演算増幅器(オペアンプ)との間の直流バイアスの相違を補償している。また、レベルシフト回路は、差動電圧(平衡電圧)を不平衡電圧に変換する機能も奏している。一般的には、平衡−不平衡変換には演算増幅器(オペアンプ)を用いるが、レベルシフト回路を用いることで回路構成を簡略化することができる。
【0061】
なお、図2及び図3に示す回路構成は一例に過ぎず、本発明の非線形演算回路は、他の構成の乗算器あるいは演算増幅器であっても適用することができる。
【0062】
ここで、第1の乗算器10と第2の乗算器20をMOS回路で構成したとき、MOS回路を同一のプロセスで生成した場合には、プロセスパラメータβが共通となるため、各乗算器のゲインK1,K2は以下の式(3)、(4)で表すことができる。
K1=Aβ(W/L)1 …(3)
K2=Bβ(W/L)2 …(4)
【0063】
なお、βはMOSFETの単位トランスコンダクタンス係数を表す。Wはデバイスのチャンネル幅、Lはチャンネル長さを表し、(W/L)はアスペクト比を示している。A,Bは回路によって決まる比例係数である。
【0064】
なお、単位トランスコンダクタンス係数βは、主にキャリア移動度と単位面積当たりのゲート酸化膜容量で決まり、短チャンネルデバイスでは、2次効果として他のプロセス条件にも依存する。
【0065】
また、MOSトランジスタの特性は、単位トランスコンダクタンス係数をβを用いて、飽和領域では、ID=K(W/L)(Vgs−Vth)2で表される。
【0066】
本発明の非線形演算回路の回路構成によれば、式(2)で表される出力電圧Voutは、以下の式(5)で表すことができる。
Vout=[((W/L)1/(W/L)2] ・(Vx・Vy/Vz) …(5)
【0067】
トランスコンダクタンス係数は温度依存性があるため、一般に、乗算器は温度依存性がある。
【0068】
上記式(5)から、本発明の非線形演算回路に出力電圧は、プロセスパラメータ(トランスコンダクタンス係数)βの項をキャンセルして除くことができるため、仮に温度依存性やプロセスによって乗算器の利得特性が変動したとしても、それらの利得特性の変動はキャンセルされ、非線形演算回路の出力の利得特性が変動するという問題は解消される。
【0069】
図4は温度変化による出力特性を示し、図4(a)は非線形演算回路を構成する要素乗算器の温度特性を示し、図4(b)は図1の回路構成による本発明の非線形演算回路の温度特性を示している。なお、図4(a)と図4(b)は利得が同じとなるように設定している。図4に示す出力電圧の比較から、本発明の非線形演算回路によれば温度依存性を50分の1以下に抑えることができ、温度依存性の低減効果を確認することができる。
【0070】
また、図5はプロセスパラメータ(トランスコンダクタンス係数)の変化による出力特性の変化を示し、図5(a)は非線形演算回路を構成する要素乗算器のプロセスパラメータ(トランスコンダクタンス係数)特性を示し、図5(b)は図1の回路構成による本発明の非線形演算回路のプロセスパラメータ(トランスコンダクタンス係数)特性を示している。図5は、ICウエハ上でMOSトランジスタの特性がばらついたときの出力特性のばらつきを評価しており、モデルパラメータ中心値(TYPで表示)と、4つの異なるトランジスタパラメータを用いてシミュレートして結果を示している。なお、図中のSSはトランジスタパラメータの上限を用いたシミュレート結果を示し、FFはトランジスタパラメータの下限を用いたシミュレート結果を示している。なお、このトランジスタ・モデルはコーナーモデルと呼ばれるもので、プロセスのばらつきを評価する際に一般的に用いられるものである。
【0071】
図5に示す出力電圧の比較から、本発明の非線形演算回路によればプロセスのばらつきの影響を抑制することができ、プロセス依存性の低減効果を確認することができる。
【0072】
さらに、本発明の非線形演算回路の利得中には、電源電圧の項が含まれていないので、電源電圧依存性についてもその影響が低減される。
【0073】
図6は電源電圧の変動による出力特性を示し、図6(a)は非線形演算回路を構成する電源電圧変動による出力特性を示し、図6(b)は図1の回路構成による本発明の非線形演算回路の電源電圧変動による出力特性を示している。なお、図6では、電源電圧を±10%変化させたときの出力特性を示している。図6に示す出力電圧の比較から、本発明の非線形演算回路によれば電源電圧変動の抑制効果を確認することができる。
【0074】
また、上記式(5)において、出力電圧Vout中の(Vx・Vy/Vz)あるいは、その一部の出力(例えば、Vx・VyやVx/Vz等の出力電圧Vout中で得られる任意の電圧の組み合わせ)に対して、[((W/L)1/(W/L)2]は利得調整項として取り扱うことができる。[((W/L)1/(W/L)2]を利得調整項とする場合には、例えば、各乗算器のデバイスの(W/L)で表されるアスペクト比によって利得調整のパラメータとすることができる。
【0075】
また、上記式(2)において、ゲインK1とゲインK2が等しい場合には、出力電圧Voutは以下の式(6)で表される。
Vout=(Vx・Vy/Vz) …(6)
【0076】
これによれば、出力電圧Voutは、入力電圧Vx,Vy,及びVzの関係で表すことができき、入力電圧Vxと入力電圧Vyは分子側の項であるため、出力電圧Voutに対して比例の関係にあり、また、入力電圧Vzは分母側に項であるため、出力電圧Voutに対して逆比例の関係にある。
【0077】
ここで、これら入力電圧Vx,Vy,Vzの関係を、非線形演算回路で実現しようとする演算内容に応じて所定の関係に設定することによって、乗算、除算、自乗、平方根、相乗平均等の演算機能を実現することができる。
【0078】
表1は、これらの演算機能と、入力、出力、及び利得調整電圧との関係を示している。
【表1】

【0079】
上記表中の乗算機能は、入力として入力電圧Vx及び入力電圧Vyを設定することにより、出力としてVx・Vyを取得する。このとき、利得は(1/Vz)によって調整することができる。除算機能は、入力として入力電圧Vx及び入力電圧Vzを設定することにより、出力としてVx/Vzを取得する。このとき、利得はVyによって調整することができる。
【0080】
図7は本発明の非線形演算回路による乗算特性を示す図である。図7の出力特性によれば、一方の入力Vxに比例した出力Voutが得られ、また、他方の入力Vyを変えることによっても、そのVyに比例した出力Voutが得られる。したがって、出力VoutはVxとVyとの乗算として得られ、本発明の非線形演算回路が乗算器として機能することが確認される。
【0081】
また、図8は本発明の非線形演算回路による利得可変特性を示す図である。図8によれば、利得調整用の電圧Vzを変えることによって、この電圧Vzに反比例した出力Voutを得ることが確認される。
【0082】
自乗機能は、入力として入力電圧Vxを設定することにより、出力としてVx2を取得する。このとき、利得は(1/Vz)で調整することができる。平方根機能は、入力として入力電圧Vxを設定することにより、出力としてVx1/2を取得する。このとき、利得はVy1/2で調整することができる。また、相乗平均機能は、入力として入力電圧Vxと入力電圧Vyを設定することにより、出力としてVx1/2・Vy1/2を取得する。
【0083】
また、ゲインK1とゲインK2が等しい場合には、出力電圧Voutは、各乗算器のゲインK1及びゲインK2と無関係とすることができるため、仮に各乗算器の温度依存性やプロセスが相違して、その利得特性にばらつきが生じた場合であっても、非線形演算回路の出力の利得特性が変動するという問題は解消される。
【0084】
また、バイポーラ回路の場合、出力はIC=αFSexp(VBE/VT)で表される。ここで、ISはMOS回路のβに相当するため、バイポーラ回路についてもMOS回路と同様に、ISの温度依存性の影響を除くことができる。
【0085】
以下、上記した乗算、除算、自乗、平方根、相乗平均の各演算機能を実現する回路構成について、図9〜図11を用いて説明する。なお、以下の各回路構成では、2つの乗算器のゲインを同一とした例について説明しているが、2つの乗算器のゲインを異ならせた構成としてもよく、その場合にはゲイン比に応じた出力が得られる他は、以下に示すゲインを同一とした例と同様である。
【0086】
はじめに、乗算の演算機能を実現する回路構成について図9(a)を用いて説明する。
【0087】
図9(a)において、非線形演算回路1Aは、2つの乗算器10,20のゲインを同一ゲインK1とし、一方の乗算器10が備える2つの入力端を2つの入力電圧用端子として入力電圧Vxと入力電圧Vyを入力し、他方の乗算器20が備える一方の入力端を利得調整電圧端子として入力電圧Vzを入力する。さらに、他方の乗算器20が備える他方の入力端を帰還端子として演算増幅器30の出力Voutを他方の乗算器30に帰還させる。この構成によって乗算回路を構成する。
【0088】
演算増幅器30の動作によって、乗算回路の出力電圧Voutは以下の式(7)で表される。
Vout=Vx・Vy/Vz …(7)
【0089】
上記した出力電圧Voutは、一方の乗算器10に入力した2つの入力電圧Vx及びVyを乗算演算して得られる乗算結果Vx・Vyを、他方の乗算器20に入力した入力電圧Vzで除したものとして表される。ここで、入力電圧Vzは乗算結果Vx・Vyの利得調整電圧として作用させることができる。
【0090】
次に、除算の演算機能を実現する回路構成について図9(b)を用いて説明する。
【0091】
図9(b)において、非線形演算回路1Bは、2つの乗算器10,20のゲインを同一ゲインK1とし、一方の乗算器10が備える一方の入力端子を入力電圧用端子として入力電圧Vxを入力し、他の乗算器20が備える一方の入力端子を入力電圧用端子とし入力電圧Vzを入力し、一方の乗算器10が備える他方の入力端を利得調整電圧端子として入力電圧Vyを入力する。さらに、他方の乗算器20が備える他方の入力端を帰還端子として演算増幅器30の出力Voutを他方の乗算器30に帰還させる。
【0092】
この構成によって除算回路を構成する。
【0093】
演算増幅器30の動作によって、除算回路の出力電圧Voutは以下の式(8)で表される。
Vout=(Vx/Vz)・Vy …(8)
【0094】
上記した出力電圧Voutは、一方の乗算器10に入力した入力電圧Vxを被除数とし、他方の乗算器20に入力した入力電圧Vzを除数として得られる除算結果Vx/Vzに、一方の乗算器10に入力した入力電圧Vyを乗じたものとして表される。ここで、入力電圧Vyは除算結果Vx/Vzの利得調整電圧として作用させることができる。
【0095】
次に、自乗の演算機能を実現する回路構成について図10(a)を用いて説明する。
【0096】
図10(a)において、非線形演算回路1Cは、2つの乗算器10,20のゲインを同一ゲインK1とし、一方の乗算器10が備える2つの入力端を2つの入力電圧用端子として同一の入力電圧Vxを入力し、他方の乗算器20が備える一方の入力端を利得調整電圧端子として入力電圧Vzを入力する。さらに、他方の乗算器20が備える他方の入力端を帰還端子として演算増幅器30の出力Voutを他方の乗算器30に帰還させる。この構成によって自乗回路を構成する。
【0097】
演算増幅器30の動作によって、自乗回路の出力電圧Voutは以下の式(9)で表される。
Vout=Vx2/Vz …(9)
【0098】
上記した出力電圧Voutは、一方の乗算器10に入力した入力電圧Vxを自乗演算して得られる自乗結果Vx2を、他方の乗算器20に入力した入力電圧Vzで除したものとして表される。ここで、入力電圧Vzは自乗結果Vx2の利得調整電圧として作用させることができる。
【0099】
次に、平方根の演算機能を実現する回路構成について図10(b)を用いて説明する。
【0100】
図10(b)において、非線形演算回路1Dは、一方の乗算器10が備える一方の入力端子を入力電圧用端子として入力電圧Vxを入力し、一方の乗算器10が備える他方の入力端を利得調整電圧端子とし入力電圧Vyを入力する。さらに、他方の乗算器20が備える2つの入力端を帰還端子として演算増幅器30の出力を他方の乗算器20に帰還させる。この構成によって平方根回路を構成し、一方の乗算器10に入力した入力電圧Vxと利得調整電圧Vyとを乗じた値の平方根を出力する。
【0101】
演算増幅器30の動作によって、平方根回路の出力電圧Voutは以下の式(10)で表される。
Vout=√Vx・√Vy …(10)
【0102】
上記した出力電圧Voutは、一方の乗算器10に入力した入力電圧Vxを平方演算して得られる平方根√Vxと、他方の乗算器10に入力した入力電圧Vyを平方演算して得られる平方根√Vyとの積として表される。ここで、入力電圧Vyは平方根√Vxの利得調整電圧として作用させることができる。
【0103】
次に、相乗平均の演算機能を実現する回路構成について図11を用いて説明する。
【0104】
図11において、非線形演算回路1Eは、一方の乗算器10が備える一方の入力端子を入力電圧用端子として入力電圧Vxを入力し、一方の乗算器10が備える他方の入力端を入力電圧用端子とし入力電圧Vyを入力する。さらに、他方の乗算器20が備える2つの入力端を帰還端子として演算増幅器30の出力を他方の乗算器20に帰還させる。この構成によって相乗平均回路を構成し、一方の乗算器10に入力した入力電圧Vxと入力電圧Vyとの乗算結果の平方根を出力する。
【0105】
演算増幅器30の動作によって、相乗平均回路の出力電圧Voutは以下の式(11)で表される。
Vout=√Vx・√Vy …(11)
【0106】
上記した出力電圧Voutは、一方の乗算器10の一方に入力端子に入力した入力電圧Vxを平方演算して得られる平方根√Vxと、一方の乗算器10に入力した入力電圧Vyを平方演算して得られる平方根√Vyとの積として表される。
【0107】
前記式(5)で示したように、上記した乗算、除算、自乗、平方根、相乗平均の各演算機能を実現する回路においても、乗算器を形成するデバイスの(W/L)で表されるアスペクト比によっても利得調整を行うことができる。
【0108】
上記した図1、図9〜図11に示した回路構成では、第1の乗算器の出力を演算増幅器の正相入力端子に入力し、第2の乗算器の出力を演算増幅器の逆相入力端子に入力する構成例を示しているが、演算増幅器の入力端子を入れ替えた構成としてもよい。図12は演算増幅器の入力端子の関係を入れ替えた非線形演算回路の構成例を説明する図である。
【0109】
図12に示す非線形演算回路1Fは、図1に示した非線形演算回路1において、演算増幅器30の入力端子に対して、第1の乗算器10と第2の乗算器20との関係を入れ替えた回路である。その他の構成は図1の構成と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0110】
演算増幅器30の動作によって、入力電圧Vx,Vy,Vzと出力電圧Voutとの間には、前記式(1)と同様に以下の式(12)で表される関係が形成される。
K1・Vx・Vy=K2・Vz・Vout …(12)
【0111】
上記式(12)で表される関係から、出力電圧Voutは前記式(2)と同様に以下の式(13)で表される。
Vout=(K1/K2)・(Vx・Vy/Vz) …(13)
【0112】
したがって、本発明の非線形演算回路は、回路の対称性を備えている。
【0113】
次に、本発明の非線形演算回路は、乗算器が2乗回路の場合にも同様に取り扱うことができる。図13に示す非線形演算回路1Gは、図1に示した非線形演算回路1において、第1の乗算器10を2乗器10gとした回路であり、2乗器10gには入力電圧Vxが入力され、Vx2を出力する。その他の構成は図1の構成と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0114】
演算増幅器30の動作によって、入力電圧Vx,Vzと出力電圧Voutとの間には、以下の式(14)で表される関係が形成される。
K1・Vx2=K2・Vz・Vout …(14)
【0115】
上記式(14)で表される関係から、出力電圧Voutは以下の式(15)で表される。
Vout=(K1/K2)・(Vx2/Vz) …(15)
【0116】
前記したように、2乗器10gと第2の乗算器20をMOS回路で構成したとき、MOS回路を同一のプロセスで生成した場合には、プロセスパラメータβが共通となるため、仮に温度依存性やプロセスによって乗算器の利得特性が変動したとしても、それらの利得特性の変動はキャンセルされ、非線形演算回路の出力の利得特性の変動を抑制することができる。
【0117】
また。入力電圧Vzを利得調整電圧として利得調整を行う他に、前記式(5)で示したように、乗算器として2乗器を備えた回路においても、この2乗器を形成するデバイスの(W/L)で表されるアスペクト比によっても利得調整を行うことができる。
【0118】
次に、本発明の非線形演算回路の第2の態様について説明する。第2の態様は、構成要素として複数の乗算器と演算増幅器とを備える態様である。
【0119】
図14、図15は本発明の第2の態様を説明するための図である。
【0120】
図14において、非線形演算回路2は、隣接する乗算器11と乗算器12において、乗算器11の出力端子と乗算器12の入力端子とを接続してカスケード接続を形成し、また、隣接する乗算器21と乗算器22において、乗算器21の出力端子と乗算器22の入力端子とを接続してカスケード接続を形成して、2組のカスケード接続を形成し、一方のカスケード接続を演算増幅器30の正相入力端子に接続し、他方のカスケード接続を演算増幅器30の逆相入力端子に接続する。
【0121】
さらに、演算増幅器30の出力端子と一方のカスケード接続の演算増幅器22側に接続される乗算器22の入力端子とを接続して、演算出力をその乗算器22に帰還させる。
【0122】
演算増幅器30の動作によって、一方のカスケード接続に入力される入力電圧Vp,Vq,Vrと、他方のカスケード接続に入力される入力電圧Vzと、出力電圧Voutとの間には、以下の式(16)で表される関係が形成される。
K1・K2・Vp・Vq・Vr=K3・K4・Vz2・Vout …(16)
【0123】
上記式(16)で表される関係から、出力電圧Voutは以下の式(17)で表される。
Vout=K1・K2・Vp・Vq・Vr/(K3・K4・Vz2) …(17)
【0124】
演算増幅器30の動作によって、演算増幅器30の出力において、各乗算器11,12の入力電圧間に所定の演算関係を形成する。非線形演算回路を、いずれの演算機能として働かせるかは、乗算器の入力端子に入力する電圧と演算内容との対応関係、及び乗算器の入力端子間の接続関係によって切り替えることができる。
【0125】
例えば、3つの入力電圧Vp,Vq,Vrの積Vp・Vq・Vrを取得することができ、入力電圧Vzを利得調整電圧とすることで、積Vp・Vq・Vrの出力利得を調整することができる。
【0126】
図15は本発明の第2の態様において、各カスケード接続でm個の乗算器を接続した構成例を示している。
【0127】
図15において、非線形演算回路2Aは、複数の乗算器11〜乗算器1mにおいて、隣接する乗算器の出力端子と入力端子とを接続してカスケード接続を形成し、また、複数の乗算器21〜乗算器2mにおいて、隣接する乗算器の出力端子と入力端子とを接続してカスケード接続を形成して、2組のカスケード接続を形成し、一方のカスケード接続を演算増幅器30の正相入力端子に接続し、他方のカスケード接続を演算増幅器30の逆相入力端子に接続する。
【0128】
演算増幅器30の動作によって、一方のカスケード接続に入力される入力電圧V11,V12,…,V1m+1と、他方のカスケード接続に入力される入力電圧V21〜V2mと、出力電圧Voutとの間には、以下の式(18)で表される関係が形成される。
K11・K12・〜・K1m・V11・V12・〜・V1m+1
=K21・K22・〜・K2m・V21・V22・〜・V2m・Vout …(18)
【0129】
上記式(18)で表される関係から、出力電圧Voutは以下の式(19)で表される。
Vout=K11・K12・〜・K1m・V11・V12・〜・V1m+1/
K21・K22・〜・K2m・V21・V22・〜・V2m …(19)
【0130】
本発明の非線形演算回路は、前記した第1の態様で示した乗算、除算、自乗、平方根、相乗平均の各形態の他に、他の機能として作用する形態を含む。
【0131】
以下、前記した第1の態様の更に別の構成例について、図16〜図20を用いて説明する。
【0132】
図16は、入力電圧の利得調整回路の例である。
【0133】
図16において、非線形演算回路3は、一方の乗算器10が備える2つの入力端子を入力電圧用端子として同一の入力電圧Vxを入力し、他方の乗算器20が備える2つの入力端子を帰還端子として演算増幅器30の出力を他方の乗算器に帰還させる。この構成によって入力電圧の利得調整回路を構成する。
【0134】
演算増幅器30の動作によって、利得調整回路の出力電圧Voutは以下の式(20)で表される。
Vout=(√K1/√K2)・Vx …(20)
【0135】
上記した出力電圧Voutは、一方の乗算器10に入力した入力電圧Vxにゲイン比(K1/K2)の平方根を乗じたものとして表される。ここで、ゲイン比(K1/K2)の平方根は入力電圧Vxの利得調整電圧として作用させることができる。
【0136】
図17は、入力電圧の利得調整回路の他の例である。
【0137】
図17において、非線形演算回路4は、一方の乗算器10が備える入力端子の一方を入力電圧用端子とし、一方の乗算器10の他方の入力端子と他方の乗算器20の一方の入力端子とを接続し、他方の乗算器20が備える他方の入力端子に演算増幅器30の出力端子を接続して演算増幅器30の出力を他方の乗算器20に帰還させる。演算増幅器30は、一方の乗算器10による入力電圧Vxと入力電圧Vyの乗算値Vx・Vyと、他方の乗算器20による入力電圧Vyと出力電圧Voutとの乗算値Vy・Voutとを等価とする演算を行う。この構成によって入力電圧の利得調整回路を構成する。
【0138】
演算増幅器30の動作によって、利得調整回路の出力電圧Voutは以下の式(21)で表される。
Vout=(K1/K2)・Vx …(21)
【0139】
上記した出力電圧Voutは、一方の乗算器10に入力した入力電圧Vxにゲイン比(K1/K2)を乗じたものとして表される。ここで、ゲイン比(K1/K2)は入力電圧Vxの利得調整電圧として作用させることができる。
【0140】
図18は、入力電圧の利得調整回路の別の例である。
【0141】
図18において、非線形演算回路5は、一方の乗算器10が備える2つの入力端子と他方の乗算器20が備える入力端子とを接続して入力電圧用端子として入力電圧Vxを入力し、他方の乗算器20が備える他方の入力端子と演算増幅器30の出力端子とを接続して演算増幅器30の出力を他方の乗算器20に帰還させる。演算増幅器30は、一方の乗算器10による入力電圧Vxの自乗値Vx2と、他方の乗算器20による入力電圧Vxと出力電圧Voutとの乗算値Vx・Voutとを等価とする演算を行う。この構成によって入力電圧の利得調整回路を構成する。
【0142】
演算増幅器30の動作によって、利得調整回路の出力電圧Voutは以下の式(22)で表される。
Vout=(K1/K2)・Vx …(22)
【0143】
上記した出力電圧Voutは、一方の乗算器10に入力した入力電圧Vxにゲイン比(K1/K2)を乗じたものとして表される。ここで、ゲイン比(K1/K2)は入力電圧Vxの利得調整電圧として作用させることができる。
【0144】
図19は、入力電圧の利得調整回路のさらに別の例である。
【0145】
図19おいて、非線形演算回路6は、一方の乗算器10が備える入力端子と他方の乗算器20が備える入力端子とを接続して入力電圧Vxを入力し、他方の乗算器20が備える他方の入力端子を入力電圧用端子として入力電圧Vyを入力し、一方の乗算器10が備える他方の入力端子と演算増幅器30の出力端子を接続して演算増幅器の出力を一方の乗算器10に帰還させる。
【0146】
演算増幅器30は、一方の乗算器10による2つの入力電圧Vxと出力電圧Voutの乗算値Vx・Voutと、他方の乗算器20による入力電圧VxとVyとの乗算値Vx・Vyとを等価とする演算を行う。この構成によって入力電圧の利得調整回路を構成する。
【0147】
演算増幅器30の動作によって、利得調整回路の出力電圧Voutは以下の式(23)で表される。
Vout=(K2/K1)・Vy …(23)
【0148】
上記した出力電圧Voutは、他方の乗算器20に入力した入力電圧Vyにゲイン比(K2/K1)を乗じたものとして表される。ここで、ゲイン比(K2/K1)は入力電圧Vyの利得調整電圧として作用させることができる。
【0149】
図20は、基準電圧回路の形態の例である。
【0150】
図20おいて、非線形演算回路7は、一方の乗算器10が備える出力端子と他方の乗算器10が備える入力端子とを接続し、他方の乗算器20が備える入力端子と演算増幅器30の出力端子を接続し演算増幅器30の出力を他方の乗算器20に帰還させる。
【0151】
演算増幅器30は、一方の乗算器10による入力電圧Vxの自乗値Vx2と、他方の乗算器20による自乗値Vx2と出力電圧Voutの乗算値Vx2・Voutとを等価とする演算を行う。この構成によって基準電圧回路を構成する。
【0152】
演算増幅器30の動作によって、基準電圧回路の出力電圧Voutは以下の式(24)で表される。
Vout=(1/K2) …(24)
【0153】
上記した出力電圧Voutは、他の乗算器20のゲインK2の逆数を出力する。ここで、乗算器のゲイン比により、基準電圧の利得を可変とすることができる。
【0154】
また、本発明の非線形演算回路によれば、入力電圧の2乗の出力や3乗の出力を得ることもできる。
【0155】
図21は、本発明の非線形演算回路により入力電圧の2乗の出力を構成した例である。
【0156】
図21において、非線形演算回路8は、乗算器11と乗算器12を自乗器としてカスケード接続して演算増幅器30の正相入力端子に接続し、また、乗算器21に乗算器22を自乗器としてカスケード接続して演算増幅器30の逆相入力端子に接続し、乗算器11に入力電圧Vxを入力し、乗算器21の一方の入力端子に利得調整電圧Vzを入力し、演算増幅器30の出力端子を乗算器21の他方の入力端子に接続する。
【0157】
この構成により、出力電圧Voutは以下の式(25)で表される。
Vout=[(K1・√K2)/(K3・√K4)]・Vx2/√Vz …(25)
【0158】
上記した出力電圧Voutは、入力電圧Vxの2乗値を出力する。入力電圧Vzは利得調整電圧として出力電圧Voutの利得を可変とすることができる
【0159】
図22は、本発明の非線形演算回路により入力電圧の3乗の出力を構成した例である。図22において、非線形演算回路9は、乗算器11と乗算器12を自乗器としてカスケード接続して演算増幅器30の正相入力端子に接続し、また、乗算器21を自乗器とし、乗算器22,23をカスケード接続して演算増幅器30の逆相入力端子に接続し、乗算器11に入力電圧Vxを入力し、乗算器21の入力端子に利得調整電圧Vzを入力し、演算増幅器30の出力端子を乗算器23の他方の入力端子に接続する。
【0160】
この構成により、出力電圧Voutは以下の式(26)で表される。
Vout=[(K12・K2)/(K3・K4・K5)]・Vx2/Vz2 …(26)
【0161】
上記した出力電圧Voutは、入力電圧Vxの3乗値を出力する。入力電圧Vzは利得調整電圧として出力電圧Voutの利得を可変とすることができる。
【0162】
図23は、図22に示した非線形演算回路の回路例による温度特性を説明するための図である。図23(a)は非線形演算回路が備える要素乗算器の温度による出力特性を示し、図23(b)は本発明の非線形演算回路の温度による出力特性を示している。図23によれば、図22に示した非線形演算回路においても温度依存性の低減効果が得られることが確認される。
【0163】
上記した各構成例の非線形演算回路はMOS回路において利得可変とすることができる。
【0164】
また、入力電圧あるいは、乗算器のゲインによって出力の利得を可変とすることができる。
【0165】
また、出力電圧において、乗算器のゲインを、分子側の項数と分母側の項数を合わせることで、温度依存性やプロセスによる利得特性のばらつきを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明は、アナログ信号処理回路に適用することができ、例えば、変調回路、復調回路、可変利得増幅回路、増幅器の自動利得制御、神経回路網の回路による構築、ログドメインフィルタ等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】本発明の非線形演算回路の基本構成を説明するための図である。
【図2】本発明の乗算器の一構成例を説明するための図である。
【図3】本発明の演算増幅器の一構成例を説明するための図である。
【図4】本発明の演算増幅器の温度変化による出力特性を説明するための図である。
【図5】本発明の演算増幅器のプロセスパラメータ(トランスコンダクタンス係数)の変化による出力特性を説明するための図である。
【図6】本発明の演算増幅器の電源電圧の変動による出力特性を説明するための図である。
【図7】本発明の非線形演算回路による乗算特性を説明するための図である。
【図8】本発明の非線形演算回路による利得可変特性を説明するための図である。
【図9】本発明の非線形演算回路を乗算回路及び除算回路に適用した回路構成を説明するための図である。
【図10】本発明の非線形演算回路を自算回路及び平方根回路に適用した回路構成を説明するための図である。
【図11】本発明の非線形演算回路を相乗平均回路に適用した回路構成を説明するための図である。
【図12】本発明の非線形演算回路において、演算増幅器の入力端子の関係を入れ替えた構成例を説明する図である。
【図13】本発明の非線形演算回路に自乗器を適用した構成を説明するための図である。
【図14】本発明の第2の態様を説明するための図である。
【図15】本発明の第2の態様を説明するための図である。
【図16】本発明の非線形演算回路を入力電圧の利得調整回路に適用した構成例を説明するための図である。
【図17】本発明の非線形演算回路を入力電圧の利得調整回路に適用した他の構成例を説明するための図である。
【図18】本発明の非線形演算回路を入力電圧の利得調整回路に適用した別の構成例を説明するための図である。
【図19】本発明の非線形演算回路を入力電圧の利得調整回路に適用したさらに別の構成例を説明するための図である。
【図20】本発明の非線形演算回路を基準電圧回路に適用した構成例を説明するための図である。
【図21】本発明の非線形演算回路を入力電圧の2乗の出力に適用した構成例を説明するための図である。
【図22】本発明の非線形演算回路を入力電圧の3乗の出力に適用した構成例を説明するための図である。
【図23】図22に示した非線形演算回路の回路例による温度特性を説明するための図である。
【図24】従来の非線形演算回路の回路構成の一例を説明するための回路図である。
【符号の説明】
【0168】
1,1A〜1G…非線形演算回路
10,11,12…第1の乗算器
20,21,22,23…第2の乗算器
30…演算増幅器
101,102…乗算器
103…演算増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの乗算器と演算増幅器とを備え、
前記演算増幅器は、
正相入力端子に前記2つの乗算器の何れか一方の乗算器の出力端子を接続し、
逆相入力端子に前記2つの乗算器の他方の乗算器の出力端子を接続し、
演算増幅器の出力端子に前記2つの乗算器の何れかの乗算器が備える一方の入力端子を接続し、演算増幅器の演算出力を接続した乗算器に帰還させることを特徴とする、非線形演算回路。
【請求項2】
前記一方の乗算器が備える2つの入力端を2つの入力電圧用端子とし、
前記他方の乗算器が備える一方の入力端を利得調整電圧端子とし、他方の入力端を帰還端子として、乗算回路を構成することを特徴とする、請求項1に記載の非線形演算回路。
【請求項3】
前記一方の乗算器が備える一方の入力端を被除数に相当する電圧を入力する入力電圧用端子とし、他方の入力端を除数に相当する電圧を入力する入力電圧用端子とし、
前記他方の乗算器が備える一方の入力端を利得調整電圧端子とし、他方の入力端を帰還端子として、除算回路を構成することを特徴とする、請求項1に記載の非線形演算回路。
【請求項4】
前記一方の乗算器が備える2つの入力端を入力電圧用端子として同一の入力電圧を入力し、
前記他方の乗算器が備える一方の入力端を利得調整電圧端子とし、他方の入力端を帰還端子として、自乗回路を構成することを特徴とする、請求項1に記載の非線形演算回路。
【請求項5】
前記一方の乗算器が備える一方の入力端を入力電圧用端子とし、他方の入力端を利得調整電圧端子とし、
前記他方の乗算器が備える2つの入力端を帰還端子として、平方根回路を構成することを特徴とする、請求項1に記載の非線形演算回路。
【請求項6】
前記一方の乗算器が備える2つの入力端を2つの入力電圧用端子とし、
前記他方の乗算器が備える2つの入力端を帰還端子として、相乗平均回路を構成することを特徴とする、請求項1に記載の非線形演算回路。
【請求項7】
複数の乗算器と1つの演算増幅器とを備え
前記演算増幅器の正相入力端子と逆相入力端子の各入力端子に、隣接する乗算器の出力端子と入力端子とを接続してなるカスケード接続をそれぞれ接続し、
演算増幅器の出力端子と一方のカスケード接続の演算増幅器側端に接続される乗算器の入力端子とを接続し、演算出力を当該乗算器に帰還させることを特徴とする、非線形演算回路。
【請求項8】
前記一方の乗算器が備える2つの入力端子を入力電圧用端子として同一の入力電圧を入力し、
前記他方の乗算器が備える2つの入力端子を帰還端子として演算出力を当該乗算器に帰還させ、
前記各乗算器による入力電圧の自乗値と帰還値の自乗値とを等価とする演算を行い、
両乗算器のゲイン比により利得可変とすることを特徴とする、請求項1に記載の非線形演算回路。
【請求項9】
前記一方の乗算器が備える入力端子の一方を入力電圧用端子とし、
前記一方の乗算器の他方の入力端子と他方の乗算器の他方の入力端子とを接続し、
前記他方の乗算器が備える入力端子に演算増幅器の出力端子を接続して演算出力を当該乗算器に帰還させ、
両乗算器のゲイン比により利得可変とすることを特徴とする、請求項1に記載の非線形演算回路。
【請求項10】
前記一方の乗算器が備える入力端子と他方の乗算器が備える入力端子とを接続して入力電圧用端子とし、
前記一方の乗算器が備える他方の入力端子と演算増幅器の出力端子とを接続して演算出力を当該乗算器に帰還させ、
両乗算器のゲイン比により利得可変とすることを特徴とする、請求項1に記載の非線形演算回路。
【請求項11】
前記一方の乗算器が備える入力端子と他方の乗算器が備える入力端子とを接続し、
前記一方の乗算器が備える他方の入力端子と演算増幅器の出力端子を接続して演算出力を当該乗算器に帰還させ、
前記他方の乗算器が備える他方の入力端子を入力電圧用端子とし、
両乗算器のゲイン比により利得可変とすることを特徴とする、請求項1に記載の非線形演算回路。
【請求項12】
前記一方の乗算器が備える出力端子と他方の乗算器が備える入力端子とを接続して演算出力を当該乗算器に帰還させ、
前記他方の乗算器が備える入力端子と演算増幅器の出力端子を接続し、
前記他方の乗算器のゲインにより利得可変とすることを特徴とする、請求項1に記載の非線形演算回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2007−133540(P2007−133540A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324572(P2005−324572)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月7日 社団法人電子情報通信学会発行の「EiC電子情報通信学会 2005年ソサイエティ大会講演論文集」に発表
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)