説明

靴用の透湿性・防水性底革、その底革を使用する靴、その底革およびその靴の製造方法

複数の貫通孔(15)が設けられた接地体(14)、および、水蒸気透過性・液体不透過性薄膜(17)と薄膜(17)の直下に配置された透湿性あるいは有孔の保護層(18)とを備えたパック(16)を備えてなる靴用の透湿性・防水性底革。接地体(14)は、パック(16)の表面にオーバーモールド加工されており、液体の上昇を防止する周辺封止部(24)を形成するためにパック(16)の縁部、下方周辺部分および上方周辺部分を包囲している。パック(16)は、保護層(18)の直下に配置された透湿性あるいは有孔の層状要素(19)を備え、層状要素(19)は、保護層(18)とともに成形するためのポリマー材料の接触を防止するように適合されている。層状要素(19)は、保護層(18)にさらに接合されていて水蒸気が流れることのできる少なくとも1つの界面区域(25)を形成し、この区域が蒸気の透過を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、靴用の透湿性・防水性底革(sole)に関するものである。この発明はまた、そのような底革で製造された靴に関するものでもある。この発明はさらに、そのような底革およびそのような靴の製造方法を備えているものでもある。
【背景技術】
【0002】
防水性かつ水蒸気透過性である靴用底革は、これまで数年にわたって知られてきた。このようにして、これらの底革によれば、足の裏での発汗によって発生した水蒸気の排出と、靴の快適さの明らかな改善とが可能になる。
【0003】
この型の底革は例えば、それぞれ底革の上方部分および下方部分であって、ゴムあるいは他の合成材料から作られて貫通孔が設けられている2つの層状部分から構成され、かつ、これら2つの層状部分の間に防水性・水蒸気透過性の薄膜(membrane)を介在させて、水の浸透ができないようにこの薄膜をその周辺で上記2つの部分へ気密封止状に接合することで構成されている透湿性底革に関する米国特許第5,044,096号に開示されている。
【0004】
米国特許第5,044,096号の登録発明者によって提案され、かつ、有孔の接地体(tread)が備わった底革の内側における透湿性・防水性薄膜の使用から導き出された他の解決法は、以下の特許に開示されている。
【0005】
例えば、国際特許出願公開パンフレットWO97/14326号には、直接射出による成形のための靴型の上に予備組み付けされた甲革(upper)へ直接射出成形された防水性・透湿性底革が備わった靴の製造方法が開示されている。
【0006】
この靴の製造には、第1金型の中へ有孔接地体の下方部分(地面に直接接するようになる接地体の部分)を射出成形することが必要である。
【0007】
その後、靴の底部から上方へ向かって設けられている、形成されたばかりの下方接地体要素、接地体孔が形成された領域に重ね合わされるように配置された保護層、透湿性・防水性薄膜、および最後の透湿性あるいは有孔の中物芯(filler)層が、第2金型の中へ挿入される。第2金型は、上記靴型の上に予備組み付けされた甲革の中底(insole)が上記3層状要素を下方接地体要素に対して圧縮するように、閉じられる。
【0008】
次いで、接地体の第2部分が射出成形され、上記層状要素を包囲し、かつ、下方接地体要素へ一体構造状に接合され、さらに、上記第2接地体部分によって、液体の上昇を防止する周辺封止部が上記層状要素の上に形成される。
【0009】
このため、この製造方法には、2つの別個の金型を用意するための2つの工程でそれらの金型が必要である。
【0010】
WO97/14326号には、第2実施形態が開示されている。この事例では、その靴に、直接射出成形のための靴型の上に予備組み付けされた甲革へ直接射出成形された防水性・透湿性底革が備わっている。
【0011】
この製造方法には、靴の底部から上方へ向かって設けられている、保護層、透湿性・防水性薄膜、および中物芯層によって構成されたパックを金型の中へ挿入する工程がある。この金型は、接地体の孔を設ける小さいピンがある金型キャビティの底部に対して上記パックの3つの要素を圧縮するように、閉じられる。接地体の材料を金型の中へ射出することによって、上記甲革へ固定状に接合されるとともに上記パックを内部に組み込み、実際には上記薄膜を周辺で封止し、それによって、その縁部の外側における液体の上昇を防止するする底革が形成される。
【0012】
この実施形態では、射出されたポリマー材料により、保護層が侵されて、薄膜が損傷するかあるいはその透湿性が阻害されるという必然的なおそれによって、保護層が貫通されることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明の目標は、透湿性・防水性底革の備わった靴の製造において認められた上記問題点を解決することである。
【0014】
この目標の範囲内で、この発明の1つの目的は、透湿性・防水性薄膜を損傷するおそれのない型成形技術によって製造することのできる透湿性・防水性薄膜が備わった底革を提供することにある。
【0015】
この発明の別の目的は、底革の透湿性を阻害するおそれのない型成形技術によって設けることのできる透湿性・防水性底革を提供することである。
【0016】
この発明の別の目的は、薄膜の透湿性を阻害するかあるいは薄膜を損傷するおそれがなく、同時に透湿性および防水性を維持して、甲革にオーバーモールド加工された透湿性・防水性底革の備わっている靴を提供することである。
【0017】
この発明のさらに別の目的は、透湿性・防水性底革および透湿性・防水性靴をオーバーモールド加工することにより、底革の透湿性および防水性を妨げることのない製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目標、これらの目的、およびこれ以降にいっそう明らかになる他の諸目的は、
靴用の透湿性・防水性底革であって、
複数の貫通孔が設けられた接地体、および
上記貫通孔の設けられた領域に重ね合わされるように配置され、かつ、水蒸気透過性および液体不透過性である薄膜と、この薄膜の直下に配置された透湿性あるいは有孔の保護層とを備えている多層パック
を備えてなり、
上記接地体が、上記パックの表面にオーバーモールド加工された型のものであり、上記接地体がさらに、液体の上昇を防止するように適合された周辺封止部を形成するために上記パックの下方周辺部分、上方周辺部分および上記縁部を包囲しており、
上記底革は、上記パックが、上記貫通孔の設けられた領域に重ね合わされるように上記保護層の直下に配置された透湿性あるいは有孔の層状要素を備え、上記層状要素が、接地体を成形する工程の間に上記保護層とともに成形するためのポリマー材料の接触を防止するように適合され、上記層状要素が、上記保護層にさらに接合されていて上記保護層と上記層状要素との間に水蒸気が流れることのできる少なくとも1つの界面区域を形成し、上記区域が、蒸気の透過を促進するように適合されている、ことを特徴とする靴用の透湿性・防水性底革によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
この発明のさらに別の特徴および利点は、添付図面における非限定的な例によって示された、好ましいが排他的ではないその実施形態の説明からいっそう明らかになる。
【図1】図1は、この発明による底革が備わった靴の一部分の模式的断面図である。
【図2】図2は、この発明による底革を製造するための第1金型の模式的断面図である。
【図3】図3aは、この発明による底革を製造するための第2金型の模式的断面図である。 図3bは、この発明による底革を製造するための第3金型の模式的断面図である。
【図4】図4は、この発明による底革が備わった靴を製造するための第4金型の模式的断面図である。
【図5】図5は、先の図による実施形態についての変形例である底革の実施形態の模式的断面図である。
【図6】図6は、完全に防水性・透湿性である、この発明による靴の一部分の模式的断面図である。 この特許取得処理の間にすでに知られたと認められるあらゆるものは、特許請求されることがなく、また、特許放棄の対象でない、と理解されることに留意すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
これらの図によれば、この発明による底革が備わった靴の一部分が参照符号10によって全体として表わされている。
【0021】
靴10には甲革部11があり、この甲革部11は透湿性甲革12aから構成され、その内側部分には同じような透湿性ライニング12bがあり、甲革12aおよびライニング12bは、下方領域において、有孔の、換言すれば透湿性の中底12cによって閉じられている。
【0022】
甲革12aおよびライニング12bの下方領域には、透湿性・防水性型の底革13が接合されている。底革13には接地体14が備わっており、接地体14には複数の貫通孔15がある。
【0023】
貫通孔15が設けられている領域の上方には多層パック16が配置されており、この多層パック16は、上方から下方へかけて設けられた、水蒸気透過性・液体不透過性の薄膜17、この薄膜17の直下に配置され、かつ、貫通孔15を通過することで薄膜17を損傷するおそれがある異物を阻止するように設計された透湿性あるいは有孔の保護層18、および貫通孔15が設けられた領域に重ね合わされるように保護層18の直下に配置された透湿性層状要素19から形成され、層状要素19が、貫通孔15の少なくとも入口で上記接地体を形成するポリマー材料に直接接している。
【0024】
薄膜17は、例えば商標名が「ゴアテックス」“Gore−Tex(登録商標)”あるいは「シンパテックス」“Sympatex(登録商標)”のような、市販されている種類のものであるのが好ましい。この実施形態では、薄膜17はその透湿性を損なうことのない合成材料から作られたメッシュ(図示略)へ接合されている。
【0025】
保護層18の表面寸法および形状は薄膜17のそれらと実質的に同一であり、変形例(図示略)において、保護層18には、薄膜17の縁部から間隔を置いた周辺縁部のある(代わりに、その周辺に沿って厚さが減少している)より小さい表面寸法があってもよい。保護層18は、例えば織布、不織布あるいはパイル生地またはニードルフェルトのような、例えば速く乾くことのできる撥水性材料から作られる。
【0026】
薄膜17および保護層18は例えば、耐加水分解性である接着剤(例えば「ホットメルト」として知られた接着剤あるいはカレンダー加工された粉末に基づく接着剤のような)を使用するスポット接着によって互いに接合される。
【0027】
この実施形態では、層状要素19は、保護層18に接する面に少量の接着剤で設けられているが、その理由は、製造工程の間に、そのような層状要素19が、多層パック16をいっしょに維持した状態で保護層18へ一時的に接着されるのを保証するためである。
【0028】
層状要素19は、以下でいっそう良好に説明されるように上記ポリマー材料への障壁を作製することのできる透湿性で撥水性の材料によって構成されているのが好ましく、層状要素19を構成する材料は、例えば不織布あるいはパイル生地、革、または微小孔のあるEVAであってよい。
【0029】
この底革は、金型の中に接地体を形成することによって製造される。例えば、図2には、参照符号20によって全体が表わされた注型のための種類である第1金型が模式的に示されている。この金型20には、下部(半)金型21と上部(半)金型23とがあり、金型21の底部22には上記接地体の貫通孔の凹部を画定するピン22aが設けられている。
【0030】
この成形方法は次のとおりである。多層パック16は、上部金型23の先端部23aへ取り付けられる(例えばそれを少量の接着剤で固定することによって)。多層パック16を上部金型23へ取り付ける前に多層パック16を予備組み付けすること、あるいは、多層パック16を多層状に上部金型23に組み付けることは、可能である。
【0031】
両方の事例において、必要であれば、有孔の、換言すれば透湿性の中物芯層30が、例えばスポット状に分布された接着剤によって、上部金型23の先端部23aと多層パック16の上面との間に取り付けられる。中物芯層30には、パック16の上方封止を可能にするために、薄膜17よりも小さい表面寸法がある。
【0032】
次いで、人はポリマー材料を下部金型21の中へ注入し始め、そして必要量が注入された後に、上部金型23が、そこへ取り付けられたパック16とともに閉じられる。この金型20は、パック16が組み付けられる接地体の膨張および硬化が起きるまで、閉じられたままにされる。金型20はその後に開かれて、底革13が引き出される。
【0033】
パック16は実際には、接地体14がオーバーモールドされる金型のインサートである。
【0034】
底革13の構造は、参照符号24によって全体が表わされ、液体の上昇を防止する周辺封止部をもたらすために、接地体14がパック16の縁部、下部周辺部分および上部周辺部分を包囲するように形成されている。
【0035】
説明された例に認められるように、封止部24を改良するため、層状要素19には、保護層18の縁部から間隔が置かれたその周辺縁部とともに、薄膜17および保護層18よりも小さい表面寸法があってもよい。
【0036】
層状要素19によれば、接地体14の成形の間に保護層18および薄膜17とともに成形するためのポリマー材料の接触を防止することができる。実際に、層状要素19によれば、成形工程の間に、ポリマー材料が保護層18を越えて流れることと、薄膜17へ達することとが阻止され、薄膜17が保護される。
【0037】
さらにまた、薄膜17をポリマー材料から隔離することで、層状要素19によって、貫通孔15どうしの間に構成された接地体14の部分がパック16に接することが防止され、水蒸気の通過が阻止され、従って、薄膜17、保護層18および貫通孔15を通る蒸気の流出が増大する。
【0038】
実際には、層状要素19は、接地体14のポリマー材料に接する領域において、その中に埋め込まれている(あるいは、いずれにせよ、そのポリマー材料と一体になる)が、しかしながら、貫通孔15の領域の上方で実質的に離れている、保護層18とともに薄膜17の機能を損なうことがない。
【0039】
層状要素19は、実際には、上記ポリマー材料のための下方当たり部として作用し、保護層18と層状要素19との間に、水蒸気が通り抜けて流れることができ、透湿性あるいは蒸散を促進する少なくとも1つの界面区域25が形成される。図1は、参照文字Vで、水蒸気の流出の様子を例示する破線を示している。
【0040】
層状要素19が保護層18へ周辺だけで接合されているときには、単一の大きい界面区域25が得られるであろう。これに対して、その接合が接着剤のスポットあるいは線によって行われているときには、切れ目のある1つの界面区域あるいは複数の界面区域がそれぞれもたらされるであろう。
【0041】
層状要素19は、接着剤接合の他に、例えば高周波縫製や他の固定手段によるなどの異なった仕方で、保護層18に接合することができる。別の方法として、層状要素19および保護層18は、接着手段によることなく、例えば金型の中での圧縮によって静止状態を維持して、互いに容易に当接することができる。
【0042】
いったん底革13が形成されると、底革13は、例えば周辺接着によって甲革部11へ組み付けられる。
【0043】
底革を注型によって製造する方法が開示されている。同様に、型成形は射出によって行うことができる。
【0044】
図3aによれば、参照符号26によって射出型の第2金型が表わされている。この事例では、パック16は上下が逆にされており、薄膜17は、下部(半)金型27に対向しており、また、下部金型27の底部27aへ取り付けられている。この事例においてもまた、パック16を下部金型27へ取り付ける前にパック16を予備組み付けするか、あるいは、パック16を多層状に下部金型27の上に構成することができる。
【0045】
次いで、下部金型27の上に上部(半)金型28が閉じられるが、上部金型28の天井部28aには、貫通孔15の凹部を形成するピン28bが設けられている。パック16を包囲する接地体14を形成するために、ポリマー材料が射出される。その後、金型26が開かれて、底革13が引き出される。
【0046】
図3bによれば、参照符号126によって射出型の第3金型が表わされている。下部(半)金型127の底部127aには、貫通孔15の凹部を画定するピン127bが形成されている。この事例では、パック16はピン127bの上に取り付けられており、薄膜17は上部金型128に対向している。
【0047】
上部金型128が閉じられた後に、パック16はピン127bに押し付けられる。パック16を包囲する接地体14を形成するために、ポリマー材料が射出される。その後、金型126が開かれて、底革13が引き出される。
【0048】
両方の事例において、必要であれば、多層パック16を金型26あるいは126の中へ挿入する前に、有孔の、換言すれば透湿性の中物芯層30(中物芯層30には、パック16の上方封止を可能にするために、薄膜17よりも小さい表面寸法がある)が、パック16の薄膜側に取り付けられる。中物芯層30およびパック16は、それらを金型の中へ配置する前に予備組み付けされるか、あるいは、多層状に下部金型27の上に構成される。
【0049】
いったん底革13が引き出されると、底革13は、例えば周辺接着によって甲革部11へ組み付けられる。
【0050】
甲革支持用靴型の上へ予備組み付けされた甲革部11へ底革13を直接オーバーモールドすることは可能である。この場合、図4によれば、甲革12aへの直接射出成形のための靴型29に、甲革12aをライニング12bおよび中底12cとともに予備組み付けすることが必要である。
【0051】
その後、必要であれば、もたらされる底革13の厚さに左右されるものの、有孔の、換言すれば透湿性の中物芯層30が、例えばスポット状に分布された接着剤によって中底12cの下面へ取り付けられる(中物芯層30には、パック16の上方封止を可能にするために、薄膜17よりも小さい表面寸法がなければならない)。
【0052】
パック16はその後、例えばスポット接着によって中物芯層30の下面へ取り付けられる。この事例においてもまた、パック16を中物芯層30へ取り付ける前にパック16を予備組み付けするか、あるいは、パック16を多層状に中物芯層30の上に構成することができる。さらにまた、パック16を中物芯層30とともに予備組み付けすることとパック16を中底12cへ直接取り付けることができる。
【0053】
靴型29は、甲革へ直接射出成形するための種類の第4金型を構成しており、この第4金型は参照符号31によって全体が表わされている。具体的には、靴型29は、下部(半)金型32の上方区域において閉じられていて、下部金型32の底部32aには、接地体14の貫通孔15の凹部を画定するピン32bが形成されている。
【0054】
靴型29は甲革部11およびパック16とともに下部金型32の上へ閉じられ、パック16はピン32bの上に押し付けられる。次いで、ポリマー材料が、射出されてパック16を包囲し、甲革12aの周辺で甲革12aと一体になり、接地体14が形成される。
【0055】
代案として、パック16を、中物芯層30とともにあるいは中物芯層30なしに、ピン32bの上に金型インサートとして直接取り付けることができ、その後、その金型は甲革支持用靴型で閉じられる。
【0056】
この最後の事例においてもまた、パック16を金型32の中へ配置する前にパック16を予備組み付けするか、あるいは、パック16を多層状に金型32の上に構成することができる。
【0057】
ここでは参照符号113によって全体が表わされた底革の構造的変形例では、ここでは参照符号119によって表わされた層状要素に、例えば接地体114の孔115をもたらす金型のピンと同じ寸法の孔140を開けることができる(実際には、孔140は孔115の上に同軸に設けられている)。
【0058】
このようにして、層状要素119、あるいは、代わりに薄膜117、保護層118および層状要素119によって構成されたパック116を、金型のピンの上に配置することができ、それによって、これらは、薄膜117の保護層118の表面に直接、当接される。
【0059】
この実施形態によれば、層状要素119を構成する材料は、例えばこの底革を構成する材料と相溶性であるポリマー材料のような、不透湿性材料であってもよい。
【0060】
このようにして、金型のピンによって設けられた接地体114の孔115は、薄膜117および保護層118をポリマー材料の射出から保護するために使用されるがその保護層118に接合された薄膜117の外側に直接接合される層状要素119で塞がれることがない。
【0061】
甲革12aに接合されたライニング12bが、有孔のあるいは透湿性の内側層と透湿性・防水性薄膜から構成された外側層とから構成されている種類のものであり、それによって、完全に防水性・透湿性である靴を得ることができる、ということは明らかである。
【0062】
例えば、図6によれば、この発明によって完全に防水性・透湿性であり、参照符号200によって表わされた靴の実施形態が示されている。
【0063】
この実施形態では、靴200の甲革部211は、靴型の上に取り付けられると靴型に合わされた組付体として一般に知られているが、透湿性甲革212aと、ライニング212bと、防水性インシュー(inshoe)241とによって構成されており、ライニング212が、透湿性あるいは有孔の内側層212b’と透湿性・防水性薄膜からなる外側層212b”とから構成され、有孔の(換言すれば透湿性の)中底212cが、ライニング212bとともに甲革212aへ取り付けられ、例えばストローベル(Strobel)として広く知られた構造に従った縫い付けによってライニング212bの内側層212b’の縁部へ接合され、インシュー241が、中底212cとライニング212bの外側層212b”(薄膜)とに、周辺封止部をもたらすために中底212cと薄膜212b”とが接合する領域に重ね合わされるように、接合されている。
【0064】
甲革212aはインシュー241へ接着され、また、甲革212aの下方縁部は折り曲げられてインシュー241に下に接合されている。記載されたように、インシュー241は、防水性・透湿性材料から作られているか、あるいは、蒸気透過のために設計された底革の領域に適切な孔を有している。
【0065】
極端な場合には、インシュー241に単一の大きい孔があってもよいが、実際には、インシュー241は、ライニング212bが薄膜212b”および中底212cへ接合される領域に封止部をもたらすために、防水性材料から作られたリングあるいはバンドから構成されている。
【0066】
先のいくつかの実施形態に記載されたようにして設けられた底革213は、ポリエチレン製靴型の上へ取り付けられることで得られた上記組付体へ接着によって取り付けることができ、あるいは、直接射出成形のための靴型の上へ取り付けられた上記組付体の上への射出による直接オーバーモールド加工によって設けることができる。
【0067】
例えば、インシュー241の下方部分に、2〜3滴の接着剤によって、透湿性あるいは有孔の中物芯要素230、薄膜217、その保護層218および層状要素219を接合することができる。中物芯230および層状要素219は、保護層218に接合された薄膜217よりも小さい。
【0068】
パック216の備わった甲革部211は、直接射出成形のための靴型に取り付けられ、接地体214に孔215を得るために必要とされる上記ピンが設けられた金型の下方部分に接するように層状要素219を動かし、また、この底革はオーバーモールド加工され、この底革は、有孔の接地体と、甲革212a、インシュー241およびパック216に封止部を形成する周辺部分とによって構成されている。
【0069】
いずれの事例でも、この底革は、蒸気透過に委ねられた中央部分に悪影響を及ぼすことなく、甲革212aでだけ、かつ、インシュー241の露出領域でだけ、靴型に合わされた組付体に気密封止状に接合されている。
【0070】
実際に、以上のように説明されたこの発明によって上記の目標および諸目的が達成されることがわかった。
【0071】
この発明によれば、透湿性・防水性薄膜が備わっていてその薄膜に損傷を及ぼすことがない底革(およびこの底革で設けられた靴)を設けるための成形方法が実際に提供される。このことは、上記底革の中に、上記薄膜の保護層と上記接地体の貫通孔との間に介在された層状要素を導入することによって、実際に達成された。
【0072】
このような層状要素によれば、この底革の透湿性を増大させることができるが、その理由は、この層状要素が、上記ポリマー材料によって塞がれることのない領域にわたって水蒸気の移動が可能になる保護層区域との界面に形成されるからである。
【0073】
このように構想されたこの発明は、そのすべてが特許請求の範囲の適用範囲内にある多数の改造および変更を行うことが可能であり、すべての細部は、技術的に等価な他の諸要素でさらに置き換えることができる。
【0074】
実際に、使用された諸材料は、それらが特定の使用と両立する限り、寸法と同様に、諸要件および最新技術に従う任意のものであってよい。
【0075】
この出願が優先権の利益を主張するイタリア特許出願PD2006A000437における開示は、参照によってこの明細書の中に組み入れられる。
【0076】
任意の特許請求の範囲で言及された技術的特徴が参照符号に従うときには、それらの参照符号は、特許請求の範囲の理解度を増大させる目的だけのために含まれており、従って、そのような参照符号は、そのような参照符号による例によって識別されたそれぞれの要素の解釈に関するどのような制限的効果も有していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴用の透湿性・防水性底革であって、
複数の貫通孔(15,115,215)が設けられた接地体(14,114,214)、および
前記貫通孔(15,115,215)の設けられた領域に重ね合わされるように配置され、かつ、水蒸気透過性および液体不透過性である薄膜(17,117,217)と、この薄膜(17,117,217)の直下に配置された透湿性あるいは有孔の保護層(18,118,218)とを備えている多層パック(16,116,216)
を備えてなり、
前記接地体(14,114,214)が、前記パック(16,116,216)の表面にオーバーモールド加工されており、前記接地体(14,114,214)がさらに、液体の上昇を防止するように適合された周辺封止部(24)を形成するために前記パック(16,116,216)の下方周辺部分、上方周辺部分および前記縁部を包囲しており、
前記底革は、前記パック(16,116,216)が、前記貫通孔(15,115,215)の設けられた領域に重ね合わされるように前記保護層(18,118,218)の直下に配置された透湿性あるいは有孔の層状要素(19,119,219)を備え、前記層状要素(19,119,219)が、接地体(14,114,214)を成形する工程の間に前記保護層(18,118,218)とともに成形するためのポリマー材料の接触を防止するように適合され、前記層状要素(19,119,219)が、前記保護層(18,118,218)にさらに接合されていて前記保護層(18,118,218)と前記層状要素(19,119,219)との間に水蒸気が流れることのできる少なくとも1つの界面区域(25)を形成し、前記区域が、蒸気の透過を促進するように適合されていることを特徴とする靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項2】
前記層状要素(19,119,219)は、前記薄膜(17,117,217)および前記保護層(18,118,218)よりも小さい表面寸法を有し、前記層状要素(19,119,219)の周辺縁部は、および前記保護層(18,118,218)の縁部から間隔が置かれていることを特徴とする請求項1に記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項3】
前記層状要素(19,119,219)は、前記保護層(18,118,218)に接するための面に、スポット状あるいは線状に分布され、かつ、製造の間に、前記層状要素(19,119,219)が前記多層パック(16,116,216)をいっしょに維持した状態で前記保護層(18,118,218)へ接着されるのを保証するために適合された接着剤で設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項4】
前記層状要素(19,119,219)は、前記接地体(14,114,214)を構成するポリマー材料への障壁を作製することのできる撥水性・透湿性材料によって構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項5】
前記層状要素(19,119,219)は、次の材料、すなわち、不織布あるいはパイル生地、あるいはニードルフェルト、革、微小孔のあるEVAのうちの1つによって構成されていることを特徴とする請求項4に記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項6】
前記保護層(18,118,218)の表面寸法および形状が、前記薄膜(17,117,217)のそれらと実質的に同一であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項7】
前記保護層(18,118,218)の周辺縁部は、減少した厚さを有していることを特徴とする請求項6に記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項8】
前記保護層(18,118,218)は、前記薄膜(17,117,217)の縁部から間隔が置かれたその周辺縁部を備え、前記薄膜(17,117,217)よりも小さい表面寸法を有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項9】
前記保護層(18,118,218)は、短時間で乾くことのできる撥水性材料から作られていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項10】
前記保護層(18,118,218)は、次の材料、すなわち、織布、不織布、パイル生地あるいはニードルフェルトのうちの1つによって構成されていることを特徴とする請求項9に記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項11】
前記薄膜(17,117,217)および前記保護層(18,118,218)は、耐加水分解性である接着剤によるスポット接着によって互いに接合されている請求項1〜10のいずれか1つに記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項12】
前記層状要素(119)に、接地体(114)の前記孔(115)と実質的に同一の寸法および分布を有し、かつ、その孔(115)の上に同軸に配置された貫通孔(140)が設けられていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つに記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項13】
有孔あるいは透湿性の中物芯層(30)が前記多層パック(16)の上面に取り付けられ、前記薄膜(17)が前記中物芯層(30)に対向していることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つに記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項14】
前記中物芯層(30)は、パック(16)の上方封止を可能にするために、前記薄膜(17)よりも小さい表面寸法を有していることを特徴とする請求項13に記載の靴用の透湿性・防水性底革。
【請求項15】
甲革部(11,211)を備え、この甲革部(11,211)は、透湿性甲革(12a,212a)から構成され、その内側部分にはこれまた透湿性あるいは有孔のライニング(12b,212b)があり、前記の甲革(12a,212a)およびライニング(12b,212b)は、下方領域において、透湿性あるいは有孔である中底(12c,212c)によって閉じられており、請求項1〜14のいずれか1つに記載の底革(13,113,213)が、下方領域で前記の甲革(12a,212a)およびライニング(12b,212b)に接合されていることを特徴とする靴。
【請求項16】
前記ライニング(212b)は、透湿性あるいは有孔の内側層(212b’)と防水性・透湿性薄膜によって構成された外側層(212b”)とから構成されていることを特徴とする請求項15に記載の靴。
【請求項17】
前記中底(212c)と前記ライニング(212b)の前記外側層(212b”)とに、周辺封止部をもたらすために前記中底(212c)と前記外側層(212b”)との間の接合領域に重ね合わされるように、接合された防水性インシュー(241)を備え、前記甲革(212a)は、前記インシュー(241)へ接着されているとともに、前記インシュー(241)の下に折り曲げられかつ接合された下方縁部を有しており、前記インシュー(241)は、さらに透湿性であるか、あるいは、蒸気透過のために設計された底革の領域に少なくとも1つの孔を有していることを特徴とする請求項16に記載の靴。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の底革を設けるための注型による型成形方法であって、
多層パック(16)を上部金型(23)の先端部(23a)へ取り付ける工程と、
接地体(14)を形成するためのポリマー材料を、接地体(14)の前記貫通孔(15)の凹部を形成するピン(22a)が底部(22)に設けられた下部金型(21)の中へ注入する工程と、
前記2つの金型(21,23)によって形成された金型(20)を閉じるとともに接地体(14)を硬化させることで、前記パック(16)が前記ピン(22a)に押し付けられる工程と、
金型(20)を開いて、底革(13)を引き出す工程と
を含んでいることを特徴とする型成形方法。
【請求項19】
前記パック(16)は、それを前記上部金型(23)へ取り付ける前に予備組み付けされることを特徴とする請求項18に記載の型成形方法。
【請求項20】
前記パック(16)は、金型の中で多層状に構成されることを特徴とする請求項18に記載の型成形方法。
【請求項21】
有孔あるいは透湿性の中物芯層(30)が上部金型(23)の先端部(23a)と前記多層パック(16)の上面との間に取り付けられ、前記薄膜(17)が前記中物芯層(30)に対向していることを特徴とする請求項18〜20のいずれか1つに記載の型成形方法。
【請求項22】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の底革を設けるための射出成形による型成形方法であって、
前記パック(16)を、前記パック(16)の薄膜(17)側が対向する下部金型(27)の底部(27a)へ取り付ける工程と、
ピン(28b)が上部金型(28)の天井部(28a)に設けられているとともに接地体(14)の前記貫通孔(15)の凹部を形成している上部金型(28)を下部金型(27)の上に閉じることで、前記パック(16)が前記ピン(28b)に押し付けられる工程と、
ポリマー材料を、前記接地体(14)を形成するように射出する工程と、
前記2つの金型(27,28)によって形成された金型(26)を開く工程と、
底革(13)を引き出す工程と
を含んでいることを特徴とする型成形方法。
【請求項23】
前記パック(16)は、それを前記下部金型(27)へ取り付ける前に予備組み付けされることを特徴とする請求項22に記載の型成形方法。。
【請求項24】
前記パック(16)は、金型の中で多層状に構成されることを特徴とする請求項22に記載の型成形方法。。
【請求項25】
有孔あるいは透湿性の中物芯層(30)が前記下部金型(27)の底部(27a)と前記多層パック(16)との間に取り付けられ、前記パック(16)の前記薄膜(17)側が前記中物芯層(30)に対向していることを特徴とする請求項22〜24のいずれか1つに記載の型成形方法。
【請求項26】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の底革を設けるための射出成形による型成形方法であって、
前記パック(16)を、下部金型(127)の底部(127a)に設けられているとともに接地体(14)の前記貫通孔(15)の凹部を形成しているピン(127b)に取り付ける工程と、
上部金型(128)を下部金型(127)の上に閉じることで、前記パック(16)が前記ピン(127b)に押し付けられる工程と、
ポリマー材料を、前記接地体(14)を形成するように射出する工程と、
前記2つの(半)金型(127,128)によって形成された金型(126)を開く工程と、
底革(13)を引き出す工程と
を含んでいることを特徴とする型成形方法。
【請求項27】
前記パック(16)は、それを前記ピン(127b)に取り付ける前に予備組み付けされることを特徴とする請求項26に記載の型成形方法。
【請求項28】
前記パック(16)は、前記金型(126)の中で多層状に構成されることを特徴とする請求項26に記載の型成形方法。
【請求項29】
有孔あるいは透湿性の中物芯層(30)が上部金型(128)の先端部(128a)と前記多層パック(16)との間に取り付けられ、前記薄膜(17)が前記中物芯層(30)に対向していることを特徴とする請求項26〜28のいずれか1つに記載の型成形方法。
【請求項30】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の底革で設けられた靴の製造方法であって、
甲革(12a)への直接射出成形のための靴型(29)に、甲革(12a)をライニング(12b)および中底(12c)とともに予備組み付けする工程と、
有孔あるいは透湿性の中物芯層(30)を前記中底(12c)の下面へ取り付ける工程と、
前記パック(16)を、前記中物芯層(30)の下面へ取り付ける工程と、
靴型(29)を、接地体(14)の貫通孔(15)の凹部を画定するピン(32b)が底部(32a)に設けられた下部金型(32)の上に閉じることで、前記パック(16)が前記ピン(32b)に押し付けられる工程と、
接地体(14)を形成するためのポリマー材料を、前記甲革(12a)に部分的に重ね合わされるように射出する工程と、
金型を開いて、前記靴型(29)から靴を引き出す工程と
を含んでいることを特徴とする靴の製造方法。
【請求項31】
前記パック(16)は、それを前記中物芯層(30)へ取り付ける前に予備組み付けされることを特徴とする請求項30に記載の製造方法。
【請求項32】
前記パック(16)は、前記中物芯層(30)に直接、多層状に構成されることを特徴とする請求項30に記載の製造方法。
【請求項33】
前記中物芯層(30)は、前記パック(16)へ組み付けられて、前記パック(16)とともに前記中底(12c)へ実質的に固定されることを特徴とする請求項30に記載の製造方法。
【請求項34】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の底革で設けられた靴の製造方法であって、
前記パック(16)を、接地体(14)の貫通孔(15)の凹部を画定するピン(32b)が下部金型(32)の底部(32a)に設けられている下部金型(32)へ取り付ける工程と、
甲革(12a)への直接射出成形のための靴型(29)に、甲革(12a)をライニング(12b)および中底(12c)とともに予備組み付けする工程と、
有孔あるいは透湿性の中物芯層(30)を前記中底(12c)の下面へあるいは前記パック(16)へ取り付ける工程と、
靴型(29)を、前記下部金型(32)の上に閉じることで、前記パック(16)が前記ピン(32b)に押し付けられる工程と、
接地体(14)を形成するためのポリマー材料を、前記甲革(12a)に部分的に重ね合わされるように射出する工程と、
金型を開いて、前記靴型(29)から靴を取り外す工程と
を含んでいることを特徴とする靴の製造方法。
【請求項35】
請求項18〜34のいずれか1つに記載の底革あるいは靴の製造方法であって、前記薄膜(17)および前記保護層(18)よりも小さい表面寸法がある前記層状要素(19)を備えている前記パック(16)を設ける工程を含んでいることを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−510009(P2010−510009A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537526(P2009−537526)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010045
【国際公開番号】WO2008/061710
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(502346105)ジェオックス エス.ピー.エー. (27)
【氏名又は名称原語表記】GEOX S.p.A.
【住所又は居所原語表記】Via Feltrina Centro 16,31044 MONTEBELLUNA(Treviso),Localita Biadene,ITALY
【Fターム(参考)】