説明

【課題】製造工程や部品点数を増大させることを有効に抑えながら、高い通気性を獲得することができる靴を提供する。
【解決手段】ソール1並びにアッパー2を有し、さらに、アッパー2の内部に設けられ、概略筒形状をなす筒本体31と、当該筒本体31の上端を開口させて設けられ履き口2aに向かって筒本体31内の空気を排出する排気部32と、前記アッパー2の下端よりも上側の位置から筒本体31内へアッパー2内部の空気を導入する吸気部とを有する筒状体3を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場や厨房などの作業場に広く活用されている作業用の靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、日常生活の場やあらゆる作業現場において、それぞれの用途目的に応じた種々の靴が提案されている。それらの靴に多く見られるのが、使用者の履き心地を向上させるため、靴の内部にたまった湿度の高い空気を速やかに外部に排出させるために、例えばアッパーに通気性の素材を適用したり、種々の形状を適用したりするなど、各種の改良がなされている。
【0003】
そのような通気性を向上させるための構成の一例として、ソール内部或いはソールからアッパーに亘って管を通し、この管を介して靴の外部へ空気を排気し得る靴も提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、このようなものでは、ソールに格別の加工を施すものとなっているため、靴の用途によってはソールとしての備えるべき機能を十分に担保し得なかったり、また、ソールからアッパーに亘って格別の構成を付与するために靴の製造工程が不意に増大したり、構造が複雑となり靴を製造する為の部品点数の増大を将来するおそれがある。
【0005】
そして勿論、通気性を確保する構成を付与しても、靴を使用する環境によっては、高い防水性を要求されたり、また、外方からの衝撃を軽減する等して当該衝撃から足を護るための強度やクッション性も求められたりしているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3063703号公報
【特許文献2】特開2003−334101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような背景のうち、製造工程の簡素化と通気性の確保に着目したものである。すなわち本発明は、靴の製造工程や部品点数を増大させることを有効に抑えながら、高い通気性を獲得することができる靴を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0009】
すなわち本発明に係る靴は、使用者の足を支持するソールと、このソールの周縁から立ち上がり、履き口から足を挿入した状態で足を側方及び上方から被覆して使用者の足に面する内側に通気層を配したアッパーとを具備している靴であって、アッパーの内部に設けられ、概略筒形状をなす筒本体と、当該筒本体の上端を開口させて設けられ前記履き口に向かって筒本体内の空気を排出する排気部と、前記アッパーの下端よりも上側の位置から筒本体内へアッパー内部の空気を導入する吸気部とを有する筒状体を具備することを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、アッパー内に配された筒状体により、靴の内部の空気を、通気層並びに筒状体を介して履き口から靴の外部へ有効に排出することができる。加えて本発明によれば当該構成を実現する為には、ソールには何らの加工を施さなくともアッパーのみに格別の構成を付与すれば足りるので、靴を製造する工程をいたずらに増大させたり靴を製造するための部品点数を不要に多数とさせたりすることを有効に回避しながら、通気性に優れた靴を提供することが可能となる。
【0011】
靴の内部の空気を、より速やか且つ効率良く外部へ排出するためには、吸気部を、筒状体の下端を開口させることによりアッパーの下端よりも上側の位置に位置付け設けられた下吸気口と、筒状体の側面に設けられた側吸気孔とを有するものとすることが望ましい。
【0012】
また、靴内部の空気の排出を促すための他の構成として筒状体を、上側の径を下側の径よりも大きく形成されたものとした構成を挙げることができる。
【0013】
そして、アッパーを、外側に面した防水層を有したものとすれば、防水性が要求される作業現場において所要の防水性を獲得しつつ、上記の通り通気性の高い靴とすることができる。
【0014】
そして、靴の内部から均一に空気を排出させるための構成としては、アッパーの内部に、前記筒状体を複数間欠的に配置しておくことが好ましい。
【0015】
靴内部の通気性のみならず、外からの衝撃から使用者の足を有効に保護するという機能をも付与し得る構成として、筒状体が、弾性変形し得る素材により構成されたものであると望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、靴を製造する工程をいたずらに増大したり靴を製造するための部品点数を不要に多数としたりすることを有効に回避しながら、通気性に優れた靴を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る外観図。
【図2】同実施形態に係る構成説明図。
【図3】同実施形態の要部を示す断面図。
【図4】同実施形態の要部を示す模式的な図。
【図5】同実施形態に係る作用説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態に係る靴は、図1ないし図5に示すように、使用者の足を支持するソール1と、このソール1の周縁から立ち上がり、履き口2aから足を挿入した状態で足を側方及び上方から被覆して使用者の足に面する内側に通気層21を配したアッパー2とを具備しているものである。この靴は、本実施形態では、その一例として、厨房や水を多く使用する工場など、床面が常に濡れているような作業現場において好適に使用される、一般的にコックシューズと呼ばれるタイプのものである。
【0020】
ソール1は、同図に示すように、本実施形態では、床面に接するアウターソール11と、靴の内部において使用者の足または靴下に接するインナーソール12とを有したものとしている。アウターソール11は、本実施形態では、濡れていたり、油分等が付着したような床面であったりしても内部にそれらを浸透させ得ないように完全に遮断し得るような素材並びに構造をなす。加えて、このような床面であっても靴が滑ることなく好適な動作をし得るような所要のパタンが図示しない底面側に施されたものとしている。また、歩行時の足に掛かる負担を軽減すべく、所要のクッション性を備えたものとしもよい。インナーソール12は、本実施形態では靴の内部空間Sにおいてアウターソール11の上側である靴底に敷設され、使用者の足裏の形状に好適に応じうるとともに、歩行時の衝撃を緩和し得る所要のクッション性や、所要の吸湿性等を備えたものとしている。
【0021】
アッパー2は、同図に示すように、ソール1の縁部に縫合や接着等の、継ぎ目からの水の侵入を確実に防止し得る所定の方法により接続され、履き口2aの部分を開口させて足を挿入し得る形状をなしたものである。このアッパー2は、靴の内部空間Sに面する内側から履き口2aに亘って設けられ得た通気層21と、靴の外側に面する外面を覆う防水層22と、これら通気層21及び防水層22との間に介在する空隙層23とを有している。通気層21は、アウターソール11のすぐ上側から立ち上がり、靴の内部空間Sの空気a(図5)が好適に通過出来るような素材からなるものである。この通気層21に適用し得る素材としては、布地やメッシュ素材や、アッパー2の内部に水が侵入し得ないように撥水性或いは防水透湿性を有する素材を挙げることができる。防水層22は、本実施形態では、例えば皮革や人工皮革、その他の単層又は複層シート状をなすそれ自体液体の侵入を完全に遮蔽し得る素材としている。さらに防水層22は、前記素材をソール1の外縁部から、継ぎ目からの水の侵入を確実に遮蔽し得る所定の方法により接続されたものとしている。この防水層22の素材は、このような素材の他にも、外側からの水等の侵入を遮断し得るような防水性を備えたものであれば、上述の防水透湿素材等を用いても良い。そして空隙層23は、これら通気層21及び防水層22との間に形成されたもので、内部空間Sの空気aを通過させるためのものである。使用によって湿度を増した内部空間Sの空気aは、内部空間Sから一旦通気層21の側面を通過してこの空隙層23に入り、しかる後に、履き口2aに位置する上端部20aから速やかに排出される。特に、使用者の歩行動作により、足と靴底、この場合はインナーソール12とが頻繁に接離する動作によって、空隙層23の下端に位置する下部空間23aでは、頻繁に内部空間Sの空気aが侵入するものとなっている。
【0022】
しかして本実施形態に係る靴は、上述したような空隙層23における内部空間Sの空気aの外部への排出をさらに好適なものとすべく、この空隙層23に、以下に詳述するような筒状体3を内蔵していることを特徴としている。
【0023】
筒状体3は、特に図4に示すように、概略筒形状をなす筒本体31と、当該筒本体31の上端を開口させて設けられ前記履き口2aに向かって筒本体31内の空気aを排出する排気部32と、前記アッパー2の下端よりも上側の位置から筒本体31内へアッパー2内部の空気aを導入する吸気部33とを有するものである。この筒状体3は、図2に示すように、上述したアッパー2の内部に、複数間欠的に配置されている。具体的には、アッパー2内に配置される部位に応じてそれぞれ長さ寸法を異ならせるとともに、互いに接しさせた筒状体3の対を、それぞれアッパー2内に間欠的に配置している。
【0024】
筒本体31は、例えば、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートのように、保形性を有し且つ弾性変形し得る合成樹脂素材からなるものとしている。そして、この筒状体3は、上側の径を下側の径よりも大きく形成された、概略逆円錐台形状をなすものとしている。勿論、本発明に係る筒本体31は、このような素材や形状に限定されるものではなく、アッパー2内で持続的に形状を保持し得る素材であれば種々の素材を適用することができる。また、形状についても、図示のような円筒形状のものに限られることはなく、断面視で種々の形状をなしたものとしてもよい。
【0025】
吸気部33は、靴の内部空間Sから通気層21の側面を通過してアッパー2内に侵入する空気aを筒本体31の側面及び底面側から受け入れるためのものである。この排気部32は、筒本体31の下端に形成された穴である下吸気口33aと、側面に複数形成された、下吸気口33aよりも小さい径をなす側吸気孔33bとを有している。下吸気口33aは、アッパー2の下端よりも例えば5mm〜8mm位上側の位置において位置付けられて開口することにより、空隙層23の下部空間23aの空気aを好適に筒本体31内へ案内し得るものである。
【0026】
排気部32は、筒本体31の上端に開口する排気口32aを主としている。この排気口32aは、履き口2aの上端部に接するくらいの位置に位置付けられている。これにより、排気口32aから速やかに筒本体31内の空気aがアッパー2外部へ排出される。
【0027】
そして、このような構成をなす靴を履いた状態で使用者が歩行等の動作をすることにより、図5に示すような空気aの流れが継続して起こる。
【0028】
同図に示すように、靴の内部空間Sにおいて、使用者の足とインナーソール12との間の隙間は、使用者の動作によって常に拡縮する。そのため、内部空間Sの空気aは通気層21を通って吸気部33を通って筒本体31内に導入される。ここで、使用者の動作は、例えば歩行動作などでは、インナーソール12と足との間のスペース、すなわち内部空間Sの下端付近の空気aの動きが最も激しくなる。そのため、空隙層23においても下部空間23aにおける空気aの流れが最も活発に起こることとなる。そこで、本願の筒状体3は、その下部空間23aからは筒本体31を退避させることによって、換言すれば筒状体3の下端を退避させて下部空間23aを形成することによって、このような空気aの流れを阻害しないようにしている。しかも下部空間23a近傍に下吸気口33aを配することにより、活発な空気aの流れを有効に利用しながら、吸気部33から排気部32に至る筒本体31内の空気aの流れと、この筒本体31から上端部を経た靴外部への空気aの排出とを速やかに行なわれる。また下吸気口33aから排気口32aへの空気aの流れは、筒本体31の側方における側吸気孔33bからの筒本体31内へ空気aを引き込む動作も促すこととなる。これにより、空隙層23内の空気aは、速やか且つ活発に、排気口32aを経て靴の外へ排出される。
【0029】
以上のような構成とすることにより、本実施形態に係る靴は、以上に記した筒状体3をアッパー2内に配することにより、内部空間Sの空気aを、通気層21並びに筒状体3を介して履き口2aから靴の外部へ速やかに排出することができる。また本実施形態では、ソール1には何らの新規な加工を施さなくともアッパー2内部に筒状体3という格別の構成を付与するのみで、所要の通気性獲得し得ている。つまり、本実施形態の靴は、靴を製造する工程を増大させたり靴を製造するための部品点数を不要に多数とさせたりすることなく、量産性に優れたものにもなっている。
【0030】
そして本実施形態では、吸気部33を、筒状体3の下端を開口させることによりアッパー2の下端よりも上側の位置に位置付けた下吸気口33aと、筒状体3の側面に設けられた側吸気孔33bとを有するものとしているので、靴の内部の空気aを、より速やか且つ効率良く外部へ排出し得るものとなっている。
【0031】
また筒状体3が、上側の径を下側の径よりも大きく形成さていることにより、内部空間Sの空気aの排出をより有効に促し得るものとなっている。
【0032】
そして、アッパー2を、外側に面した防水層22を設けているので、上述の通気性を有効に担保しつつ防水性が要求される作業現場においても十分に適用し得るものとなっている。
【0033】
加えて、筒状体3を複数間欠的に配置しておくことアッパー2内の空隙層23の容積を筒状体3によって有効に確保することにより、靴の内部から均一に空気aを排出し得るものとなっている。
【0034】
特に本実施形態では、筒状体3を弾性変形し得る素材により構成しているので、靴の内部空間Sの通気性のみならず、アッパー2が使用者の足の形状に有効にフィットし得るとともに、所要のクッション性を有することにより、外からの衝撃から使用者の足を有効に保護するという機能をも獲得している。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0036】
また上記実施形態並びに変形例の他、アッパーの形状や筒状体を配する具体的な位置等、の具体的な態様は上記実施形態のものに限定されることはなく、既存のものを含め、種々の態様のものを適用することができる。
【0037】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は工場や厨房などの作業場に広く活用されている作業用の靴として利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…ソール
2…アッパー
3…筒状体
2a…履き口
21…通気層
22…防水層
31…筒本体
32…排気部
33…吸気部
33a…下吸気口
33b…側吸気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の足を支持するソールと、このソールの周縁から立ち上がり、履き口から足を挿入した状態で足を側方及び上方から被覆して使用者の足に面する内側に通気層を配したアッパーとを具備している靴であって、
前記アッパーの内部に設けられ、概略筒形状をなす筒本体と、当該筒本体の上端を開口させて設けられ前記履き口に向かって筒本体内の空気を排出する排気部と、前記アッパーの下端よりも上側の位置から筒本体内へアッパー内部の空気を導入する吸気部とを有する筒状体を具備することを特徴とする靴。
【請求項2】
前記吸気部が、前記筒状体の下端を開口させることにより前記アッパーの下端よりも上側の位置に位置付け設けられた下吸気口と、前記筒状体の側面に設けられた側吸気孔とを有している請求項1記載の靴。
【請求項3】
前記筒状体が、上側の径を下側の径よりも大きく形成されたものである請求項1または2記載の靴。
【請求項4】
前記アッパーが、外側に面した防水層を有している請求項1、2または3記載の靴。
【請求項5】
前記アッパーの内部に、前記筒状体を複数間欠的に配置している請求項1、2、3または4記載の靴。
【請求項6】
前記筒状体を、弾性変形し得る素材により構成している請求項1、2、3、4または5記載の靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−250975(P2011−250975A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126516(P2010−126516)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(508348277)桂パテントマネージメント株式会社 (8)
【Fターム(参考)】