説明

音信号処理装置、および音信号処理方法

【課題】適切に周波数特性の補正を行うこと。
【解決手段】実施形態によれば、音信号処理装置は、入力された音の周波数特性を測定する測定手段と、第1のイヤホンから出力された音の周波数特性を示す第1のデータと目標周波数特性を示す第2のデータとに基づいて、第1のイヤホンから出力される周波数特性を補正するための補正データを生成する生成手段と、オーディオデータを補正データに基づいて補正をする補正手段と、補正されたオーディオデータに基づいたオーディオ信号を第1のイヤホンに出力するオーディオ信号出力手段とを具備する。目標周波数特性は、周波数特性測定装置によって測定された第2のイヤホンから出力された音の周波数特性と測定部によって測定された第3のイヤホンから出力された音の周波数特性との積と、周波数特性装置によって測定された第3のイヤホンから出力された音の周波数特性との比に基づいて生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、音信号処理装置、および音信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生した音楽や音声を個人で受聴する場合、ユーザは、イヤホンやステレオホン等のヘッドホンを用いることが多い。ヘッドホンから出力される音の周波数特性は製品によって異なっている。このため、ヘッドホンから出力される音の周波数特性が良好ではない場合がある。
【0003】
そこで、ヘッドホンから出力される音の周波数特性を良好にしたいという要求がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−226332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ユーザがイヤホンを使用する際に、当該イヤホンの音響特性(出力音の周波数特性)を補正するためには、客観的に正しい当該周波数特性を計測する手段が無いため、当該イヤホンに対して、適切な補正を行うことが難しかった。また、手動で調整するイコライザーを用いる場合には、ユーザは自身の主観に基づき楽音等を聴いてイコライザーの調整を行う必要があるが、主観による調整は音源やその時の気分等の影響を受けるため試行錯誤を繰り返したあげく、当該イヤホンに対して、適切な補正を行うことが難しかった。
【0006】
本発明は、適切な補正を行うことができる音信号処理装置、及び音信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、音信号処理装置は、入力された音の周波数特性を測定する測定手段と、第1のイヤホンから出力された音の周波数特性を示す第1のデータと目標周波数特性を示す第2のデータとに基づいて、前記第1のイヤホンから出力される周波数特性を補正するための補正データを生成する生成手段と、オーディオデータを前記補正データに基づいて補正をする補正手段と、前記補正されたオーディオデータに基づいたオーディオ信号を前記第1のイヤホンに出力するオーディオ信号出力手段とを具備する。前記目標周波数特性は、周波数特性測定装置によって測定された第2のイヤホンから出力された音の周波数特性と前記測定部によって測定された第3のイヤホンから出力された音の周波数特性との積と、前記周波数特性装置によって測定された前記第3のイヤホンから出力された音の周波数特性との比に基づいて生成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】コンピュータのディスプレイユニットを開いた状態における外観を示した図である。
【図2】コンピュータのハードウェア構成を示した図である。
【図3】コンピュータのメディアプレーヤのソフトウェア構成を示した図である。
【図4】コンピュータによるジグを用いたイヤホンの特性の測定例を示した図である。
【図5】コンピュータにおいて、補正目標となる高性能イヤホン及びユーザが使用するイヤホンについて、ジグを用いて計測した計測データの例を示した図である。
【図6】イヤホンのイヤーチップをマイクロフォンに近接させた状態を示した図である。
【図7】補正目標となる高性能イヤホン及びユーザが使用するイヤホンをマイクロフォンに近接させた状態で計測した計測データの例を示した図である。
【図8】実施形態の補正フィルタの設定処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】基準測定系の周波数特性測定装置における高性能イヤホンから出力される音の周波数特性の測定例を示す図である。
【図10】基準測定系の周波数特性測定装置における高性能イヤホンから出力される音の周波数特性の計測データの例を示した図である。
【図11】基準測定系の周波数特性測定装置におけるリファレンスイヤホンから出力される音の周波数特性の測定例を示す図。
【図12】基準測定系の周波数特性測定装置におけるリファレンスイヤホンから出力される音の周波数特性の計測データの例を示した図である。
【図13】実機におけるリファレンスイヤホンから出力される音の周波数特性の測定例を示す図。
【図14】実機におけるリファレンスイヤホンから出力される音の周波数特性の計測データの例を示した図である。
【図15】目標周波数特性データの生成の一例を示す図である。
【図16】基準測定系と、実機の各音響特性要素の関係の一例を示す図である。
【図17】ターゲットカーブチューニング特性tの一例を示す図である。
【図18】高性能イヤホンの実測周波数特性をターゲットカーブチューニング特性tによって補正した特性を示す図である。
【図19】目標周波数特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、第1の実施形態のコンピュータ(音信号処理装置)100のディスプレイユニットを開いた状態における外観を示した図である。図1に示すコンピュータ100は、コンピュータ本体111と、ディスプレイユニット112と、から構成されている。
【0011】
コンピュータ本体111は、薄い箱形状であって、上面にはキーボード113等が配置されている。また、ディスプレイユニット112には、マイクロフォンが設けられている。ディスプレイユニット112には、マイクロフォンが効率よく収音できるようにするためにマイク穴が設けられている。また、コンピュータ本体111の側面部にヘッドホン用の出力端子が設けられている。そして、コンピュータ本体111は、当該ヘッドホン用の出力端子を介して、イヤホン101と接続可能とする。
【0012】
イヤホン101は、コンピュータ100のヘッドホン用の出力端子に挿される。そして、コンピュータ100は、ヘッドホン端子を介してイヤホン101から測定用の信号を送出する。この信号をマイクロフォンで収音することで、イヤホン101の特性を測定できる。
【0013】
図2は、コンピュータ100のハードウェア構成を示した図である。図2に示されているように、コンピュータ100は、CPU201、ノースブリッジ202、主メモリ203、サウスブリッジ204、グラフィクスプロセッシングユニット(GPU)205、サウンドコントローラ206、BIOS−ROM209、LANコントローラ210、ハードディスクドライブ(HDD)211、DVDドライブ212、およびエンベデッドコントローラ/キーボードコントローラIC(EC/KBC)216等を備えている。
【0014】
CPU201はコンピュータ100の動作を制御するプロセッサであり、ハードディスクドライブ(HDD)211から主メモリ203にロードされる、オペレーティングシステム(OS)221、メディアプレーヤ222、および目標特性生成アプリケーションプログラム223のような各種アプリケーションプログラムを実行する。メディアプレーヤ222は、動画(映像)や音声のファイルを再生するためのアプリケーションプログラムである。目標特性生成アプリケーションプログラム223は、後述する目標特性を生成するアプリケーションプログラムである。また、CPU201は、BIOS−ROM209に格納されたBIOS(Basic Input Output System)も実行する。BIOSはハードウェア制御のためのプログラムである。
【0015】
ノースブリッジ202はCPU201のローカルバスとサウスブリッジ204との間を接続するブリッジデバイスである。ノースブリッジ202には、主メモリ203をアクセス制御するメモリコントローラも内蔵されている。また、ノースブリッジ202は、PCI-EXPRESS規格のシリアルバスなどを介してGPU205との通信を実行する機能も有している。
【0016】
GPU205は、コンピュータ100のディスプレイモニタとして使用される液晶パネルを制御する表示コントローラである。GPU205は、(図示しない)VRAMをワークメモリとして使用する。このGPU205によって生成される映像信号は液晶パネルに送られる。
【0017】
サウスブリッジ204は、バス上の各デバイスを制御する。また、サウスブリッジ204は、ハードディスクドライブ(HDD)211およびDVDドライブ212を制御するためのSATA(Serial Advanced Technology Attachment)コントローラを内蔵している。さらに、サウスブリッジ204は、サウンドコントローラ206との通信を実行する機能も有している。サウンドコントローラ206は音源デバイスであり、デジタル信号を電気信号に変換するD/Aコンバータ、電気信号を増幅するアンプリファイア等の回路を有する。また、サウンドコントローラ206は、マイクロフォン213から入力された電気信号をデジタル信号に変換するためのA/Dコンバータ等の回路を有する。
【0018】
エンベデッドコントローラ/キーボードコントローラIC(EC/KBC)216は、電力管理のためのエンベデッドコントローラと、キーボード(KB)113を制御するためのキーボードコントローラとが集積された1チップマイクロコンピュータとする。
【0019】
図3は、第1の実施形態にかかるコンピュータ100のメディアプレーヤ222のソフトウェア構成を示した図である。図3に示すように、メディアプレーヤ222は、信号測定部310と、補正・再生部320と、を備える。出力端子214は、イヤホン101を接続可能にする端子とする。信号測定部310が、イヤホン101の周波数特性を測定し、補正フィルタを設計する。そして、補正・再生部320が、設計された補正フィルタを用いて音声信号を補正し、補正した音声信号が出力端子214を介してイヤホン101から出力する。
【0020】
ところで、イヤホンの音響特性(イヤホンの出力音の周波数特性)を再現性良く計測するための手法として、ジグを用いて計測する手法が考えられる。図4は、コンピュータ400によるジグを用いたイヤホンの特性の測定例を示した図である。図4に示すジグは、管403と、マイクロフォン402と、吸音材404と、で構成されている。管403は、例えば樹脂製の筒状のもので、水道管やガス管のような直線上の形状で、人の外耳道の容積と同程度の容積とする。マイクロフォン402は、管403に取付け可能な構造とする。吸音材404は、最も空気が大きく振動する、管403内部の中央付近に配置して、定在波の影響を抑制している。
【0021】
コンピュータ400は、ジグに、測定対象のイヤホン101を装着した状態のデータを取得する。そして、ジグを用いた測定方法で取得されたデータは、実際に受聴する際の特性から外耳道内で発生する共鳴を除いた特性を含んでいる。そこで、当該ジグを用いた共通の測定系で、高品質のイヤホンの音響特性と、ユーザが使用するイヤホンの音響特性と、を取得する。そして、ユーザがイヤホンを使用する際に、高品質の周波数特性に近づけるようにイコライザーを設定することで、ユーザが使用するイヤホンの音質を、高品質のイヤホンの音質に近づけることができる。
【0022】
図5は、コンピュータ400において、ジグを用いて複数のイヤホンについて計測された周波数性のデータの例を示した図である。図5に示す計測データ501は、ユーザが使用するイヤホンの音響特性とする。計測データ502は、高性能イヤホンの音響特性とする。そして、コンピュータ400は、高性能イヤホンの計測データ502と、ユーザが使用するイヤホンの計測データ501と、の差分データ503を生成する。そして、コンピュータ400は、差分データ503のカーブに合わせた特性のイコライザーを使用することで、ユーザが使用するイヤホンの音質を、高性能イヤホンの音質に近づけることができる。
【0023】
次に、コンピュータ100によって、周波数特性を計測する際のイヤホンの状態について説明する。
【0024】
図6は、イヤホン101のイヤーチップをマイクロフォン213に近接させた状態を示した図である。図6に示すように、コンピュータ100は、キャビネット601の内部にマイクロフォン213を備えている。そして、ユーザが、マイクロフォン213の収音用の開口にイヤホン101のイヤーチップを近接させる。このようにイヤホン101のイヤーチップとキャビネット601とが近接した状態で、コンピュータ100がイヤホン101から測定用の信号を出力する。そして、コンピュータ100が出力された計測用の信号をマイクロフォン213から収音する。このようにして、コンピュータ100は、イヤホン101とマイクロフォン213とを近接させた状態における、イヤホン101の周波数特性を示した計測データを取得する。
【0025】
図7は、補正目標となる高性能イヤホン及びユーザが使用するイヤホン101をマイクロフォン213に近接させた状態で計測した計測データの例を示した図である。図7に示す例では、ユーザが使用するイヤホン101の計測データ701と、補正目標となる高性能イヤホンの計測データ702と、ユーザが使用するイヤホン101の計測データ701と高性能イヤホンの計測データ702と差分データ703と、が示されている。ジグを使用した場合の差分データ503と、図7の差分データ703と、を比較すると、概ね形状が類似していることが確認できる。
【0026】
図3に戻って、補正フィルタの設計、利用を行うコンピュータ100のメディアプレーヤ222の構成について説明する。
【0027】
メディアプレーヤ222の補正・再生部320は、補正フィルタ321と、音信号出力部322と、計測用信号記憶部325と、表示制御部323と、操作受付部324と、を備える。補正・再生部320は、音を補正し出力する。この音を測定に用いたイヤホンで聞くと理想的なイヤホンに近い音に聞こえるため、例えば音楽を再生する場合、高性能なイヤホンで聞くような高音質で音楽を楽しむことができる。
【0028】
計測用信号記憶部325は、イヤホン101の周波数特性を計測する際に用いる、計測用の音信号を記憶する。
【0029】
音信号出力部322は、補正フィルタ321を介した後、出力端子214に接続されたイヤホン101から、音信号を出力する。また、音信号出力部322は、必要に応じて、音信号出力部322に記憶されていた音信号を出力する。また、音信号出力部322が出力する音信号は、測定用の音信号に制限するものではなく、例えば、外部から入力された音信号でも、コンピュータ100のHDD211に記憶されていた音信号でも良い。なお、測定用信号を出力する際には、補正フィルタ321は補正を行わない設定にする。
【0030】
補正フィルタ321は、後述する信号測定部310により設定された補正フィルタ(補正パラメータ)321を用いて、音信号出力部322から入力された音信号を補正する。補正フィルタ321の例としては、一般的なパラメトリックイコライザなどを用いることが考えられる。
【0031】
表示制御部323は、計測データを計測する際に、ユーザに対して、イヤホン101の周波数特性を計測可能とするための表示を行う。操作受付部324は、計測開始する旨の選択を受け付ける。
【0032】
ユーザがイヤホン101をマイクロフォン213に近接させるよう保持する。そして、近接させた状態で、操作受付部324が、ユーザから計測開始ボタン1001の選択を受け付けた場合に、操作受付部324が、音信号出力部322に対して、音信号を出力するよう指示する。これにより、イヤホン101とマイクロフォン213とが近接状態での周波数特性の計測が開始される。
【0033】
メディアプレーヤ222の信号測定部310は、入力部311と、測定部312と、信号一時記憶部313と、補正フィルタ設計部314と、目標特性記憶部315と、を備える。
【0034】
目標特性記憶部315は、目標特性生成アプリケーションプログラム223によって生成された参照用の周波数特性を記憶する。
【0035】
マイクロフォン213は、入力された音を電気信号に変換する。
【0036】
入力部311は、マイクロフォン213を介して、音信号を入力処理する。また、入力部311は、音を示す電気信号について、A/Dコンバータを用いて変換し、デジタル信号に変換された音信号を、測定部312に出力する。
【0037】
測定部312は、入力部311から入力されたデジタルの音信号に基づいて、音の音圧レベルを測定する。そして、測定部312は、測定された音圧レベルに基づいた、音信号の周波数特性を示す計測データを生成する。さらに、測定部312は、生成した周波数特性を示す計測データを、信号一時記憶部313に記憶する。
【0038】
信号一時記憶部313は、補正フィルタ設計部314が読み出すまで、測定部312が記憶した音信号の周波数特性を示す計測データを一時的に記憶する。
【0039】
補正フィルタ設計部314は、生成部317と、設定部318と、を備え、目標特性記憶部315が記憶している周波数特性に近づけるよう補正フィルタを設計する。
【0040】
生成部317は、目標特性記憶部315に記憶された目標となる周波数特性のデータと、補正対象となるイヤホン101の周波数特性の計測データと、の差分に基づく補正パラメータを生成する。生成部317は、イヤホン101から出力されて鼓膜に届く音について、合成されたイヤホン101の周波数特性を、目標となる周波数特性に近づけるための補正パラメータを生成する。補正パラメータとしては、例えば一般的なパラメトリックイコライザで用いられるパラメータを有する。パラメトリックイコライザで用いられるパラメータは、中心となる周波数、調整する帯域の幅、および利得である。
【0041】
設定部318は、生成部317により生成された補正パラメータを、補正フィルタ321に対して設定する。
【0042】
次に、本実施の形態にかかるコンピュータ100における、補正フィルタの設定処理について説明する。図14は、本実施の形態にかかるコンピュータ100における上述した処理の手順を示すフローチャートである。
【0043】
まず、メディアプレーヤ222が、出力端子214に対して、イヤホン101が接続されているか否かを検出する(ステップ801)。そして、接続されていないことを検出した場合(ステップ801のNo)、表示制御部323が、出力端子214にイヤホン101を接続する旨を表示し(ステップ811)、再びイヤホン101が接続されているか否かの検出を行う(ステップ801)。
【0044】
一方、メディアプレーヤ222が、イヤホン101が接続されていることを検出した場合(ステップ801のYes)、補正フィルタ設計部314の設定部318が、補正フィルタ321に対して補正を行なわない設定にするとともに、測定用に音響設定の初期化を行う(ステップ802)。
【0045】
次に、表示制御部323が、イヤホン101を、マイクロフォン213に近接させる旨のガイダンス表示を行う(ステップ803)。
【0046】
そして、ユーザがイヤホン101をマイクロフォン213に近接させた後、計測を開始させるための操作を行う。これにより、操作受付部324が、計測開始の操作を受け付ける(ステップ804)。その後、音信号出力部322が計測用信号記憶部325から計測用の音信号を読み出して、当該音信号をイヤホン101から再生(出力)する(ステップ805)。
【0047】
その後、入力部311が、マイクロフォン213を介して、音信号の入力処理を行う(ステップ806)。そして、測定部312が、入力処理された音信号から、音信号の周波数特性を示す計測データを生成する。そして、測定部312は、計測データを生成する際にエラーが生じているか否かを判定する(ステップ807)。エラーが生じていると判定した場合(ステップ807のYes)、再度測定を行うためにステップ804から再び処理を開始する。
【0048】
一方、測定部312が、エラーが生じていないと判定した場合(ステップ807のNo)、生成した計測データを信号一時記憶部313に記憶させる。
【0049】
そして、生成部317は、目標特性記憶部315に記憶された目標となる周波数特性のデータと、信号一時記憶部313に記憶された補正対象となるイヤホン101の周波数特性の計測データと、の差分に基づく補正パラメータを生成する(ステップ808)。
【0050】
そして、設定部318が生成した補正パラメータを、補正フィルタ321に対して設定する(ステップ809)。さらに、設定部318は、ステップ803で初期化した音響設定を、補正パラメータを除いて書き戻す(ステップ810)。
【0051】
上述した処理手順により、コンピュータ100において、イヤホン101に適した補正フィルタが設計されることになり、イヤホン101での音質が、高性能イヤホンの音質やユーザの好みの音質に変更されることになる。
【0052】
以上説明したように本実施形態にかかるコンピュータ100を用いることで、容易にイヤホンの音響特性を測定することができる。これにより、イヤホンに適した周波数特性の補正を行うことができる。
【0053】
ところで、目標特性記憶部315に記憶された目標となる周波数特性のデータは、高性能イヤホンによって測定されたデータを用いることが好ましい。しかしながら、この方法では、この機能を持った機器を量産しようとした場合目標となる高性能イヤホンを生産ライン毎に用意しなければならず高価な高性能イヤホンが多数必要となりコストが問題となる。
【0054】
測定系毎に各種イヤホンの実測音響特性はその測定系のマイク特性等の測定系に依存する特性を含むため異なってしまうが、図7に示したように、各種イヤホン特性の違い(対数表示での差分)については、再現性があることが実験により確かめられた。また、イヤホンを含めた各測定系を線形システムと考えると、音響特性の要素毎の掛け算が全体の特性を表すことになる。
【0055】
このことに注目し、実機に適用する目標特性を作成する際に、高性能イヤホンを使用せずに、安価なリファレンスイヤホン(参照用イヤホン)を実機で測定する。
【0056】
図9に示すように、基準測定系の周波数特性測定装置900で高性能イヤホン901から出力される音の周波数特性を測定し、高性能イヤホン特性データ(基準測定系)を作成する。基準測定系の周波数特性測定装置900で測定された高性能イヤホン901から出力される音の周波数特性の例を図10に示す。そして、図11に示すように、基準測定系の周波数特性測定装置900でリファレンスイヤホン1101から出力される音の周波数特性を測定し、リファレンスイヤホン特性データ(基準測定系)を作成する。基準測定系の周波数特性測定装置900で測定されたリファレンスイヤホン1101から出力される音の周波数特性の例を図12に示す。そして、図13に示すように、実機(コンピュータ)100でリファレンスイヤホン1101から出力される音の周波数特性を測定し、リファレンスイヤホン特性データ(実機)を作成する。実機100で測定されたリファレンスイヤホン1101から出力される音の周波数特性の例を図14に示す。
【0057】
図15に示すように、測定された高性能イヤホン特性データ(基準測定系)1501、リファレンスイヤホン特性データ(基準測定系)1502、およびリファレンスイヤホン特性データ(実機)1503に基づいて目標特性生成アプリケーションプログラム223が目標周波数特性データ1511を生成する。
【0058】
図16に、基準測定系と、実機の各音響特性要素の関係をまとめた図を示す。図16において、ターゲットカーブチューニング特性tは、高性能イヤホン実測特性Ma×Iを補正するためのチューニング周波数特性である。図10に示した高性能イヤホン実測周波数特性Ma×Iの例では、5kHz辺りにピークが見られる。このピークはこの機種のイヤホンの特有の残響成分によるもので、このピークを抑えた方が音質が向上する。このピークを残したままターゲットカーブ(目標周波数特性)を生成するよりも、ピークを抑えてターゲットカーブを生成した方が別のイヤホンを補正した際の音質が改善される。ターゲットカーブチューニング特性tの例を図17に示す。図10に示した高性能イヤホン実測周波数特性Ma×Iを図17に示したターゲットカーブチューニング特性tによって補正した周波数特性を図18に示す。図18に示す周波数特性は、高性能イヤホン実測周波数特性Ma×Iとターゲットカーブチューニング特性tとの積である。式は掛け算になっているが、実際の計算は対数での加算を行う。周波数特性を示すグラフは、縦軸が[dB](デシベル)になっているため、図18に示す周波数特性は2つの周波数特性を加算したカーブになっている。
【0059】
次に、具体的な目標周波数特性データ1511の生成について説明する。
基準測定系の周波数特性測定装置900によって測定された高性能イヤホン901の実測周波数特性(Ma×I)およびリファレンスイヤホン1101の実測周波数特性(Ma×R)、および実機100によって測定されたリファレンスイヤホンの実測周波数特性(Mb×R)に基づいて、実機100で高性能イヤホン901を測定した場合の特性Mb×I×tを計算により求める(推定する)ことができ、これを実機における目標特性とすることができる。
【0060】
Mb×I×t=(Mb×R)×(Ma×I×t)/(Ma×R)
実機100のマイク周波数特性Mbは未知であり直接測定することは出来ないが、補正対象のイヤホンの測定結果およびターゲットカーブ(目標特性)の両方に共通に含まれるため補正特性を計算する際には問題とならない。リファレンスイヤホン特性Rおよびマイク特性(基準測定系)Maは約分の結果消える。
【0061】
目標周波数特性の例を図19に示す。
【0062】
ユーザイヤホンの特性を目標となる高性能イヤホンの特性(I×t)への補正は、ユーザイヤホンの特性Uと目標周波数特性I×tの比を掛けることで実現される。
【0063】
従って、U×(I×t/U)=I×tという関係である。なお、(I×t/U)が補正周波数特性である。
【0064】
実機100で、ユーザイヤホン101を測定すると、実機のマイク特性Mbを含んだ実測周波数特性Mb×Uが得られるが、目標周波数特性にも実機のマイク特性Mbが含まれているので、実測周波数特性Mb×Uを目標特性であるMb×I×tに補正する補正周波数特性は、その比を計算すれば良く、式で表すと以下の通りである。
【0065】
I×t/U=((Mb×I×t)/(Mb×U)
=((Mb×R)×(Ma×I×t)/(Ma×R))/(Mb×U)
以上説明したとおり、イヤホンの音響特性に応じて適切な補正を行うことができる。イヤホンの音響特性を補正するための目標特性を機種毎あるいは機器毎に設定するために高価な、高性能イヤホンを用いることなく、安価な基準用のリファレンスイヤホンを用いることが出来るようにしたことで、費用をかけずに効率よく目標特性の設定が行えるようになった。
【0066】
なお、リファレンスイヤホンを用いた周波数特性の測定、および目標周波数特性の生成は、例えば製造完了後の検査工程等で行われる。
【0067】
(変形例)
上記実施形態では、ユーザイヤホンを測定した結果をそのまま使って補正の計算が出来るように、目標周波数特性に測定系に依存する特性を含ませる方法を示したが、基準測定系の目標周波数特性Ma×I×tを共通の目標特性として、各機種または機器毎にはリファレンスイヤホンの実測結果(Mb×R)および(Ma×R)を使って、実測特性の測定系の違いを補正して基準系でユーザイヤホンを測定したことを想定した特性(Ma×U)を求めてからイヤホン特性の補正を行っても良い。
【0068】
(Ma×U)/(Mb×U)=(Ma×R)/(Mb×R)
の関係から、
Ma×U=((Ma×R)/(Mb×R))×(Mb×U)
となる。
【0069】
ユーザイヤホンの補正特性は、(Ma×I×t)と(Mb×U)との比であるから、補正周波数特性I×t/Uは下式のようになる。
【0070】
I×t/U=(Ma×I×t)/(Ma×U)
補正周波数特性I×t/×Uは、補正特性を含んだ目標特性とユーザイヤホンの特性のみで表現され、ユーザイヤホンの特性を目標となる高性能イヤホンの特性に補正できる。
【0071】
また、複数種の高性能イヤホンに基づいて生成された複数種の目標周波数特性をHDD211に格納しておき、ユーザが目標周波数特性を選択できるようにしてもよい。
【0072】
また、目標周波数特性をコンピュータ100で実行される目標特性生成アプリケーションプログラム223によって生成したが、コンピュータ100によって測定されたリファレンスイヤホンの音響特性データを外部に書き出し、別のコンピュータによって目標周波数特性を生成してもよい。
【0073】
上述した実施形態のコンピュータで実行されるメディアプレーヤ・プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD−R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0074】
また、上述した実施形態のコンピュータで実行されるメディアプレーヤ・プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、上述した実施形態のコンピュータで実行されるメディアプレーヤ・プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
【0075】
また、上述した実施形態のコンピュータで実行されるメディアプレーヤ・プログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0076】
本実施形態のコンピュータで実行されるメディアプレーヤ・プログラムは、上述した各部(信号測定部、補正・再生部)を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしてはCPU(プロセッサ)が上記記憶媒体からメディアプレーヤ・プログラムを読み出して実行することにより上記各部が主記憶装置上にロードされ、信号測定部、補正・再生部が主記憶装置上に生成されるようになっている。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
100…コンピュータ、101…イヤホン、112…ディスプレイユニット、201…CPU、202…ノースブリッジ、203…主メモリ、204…サウスブリッジ、205…グラフィクスプロセッシングユニット(GPU)、206…サウンドコントローラ、209…BIOS−ROM、210…LANコントローラ、211…ハードディスクドライブ(HDD)、212…DVDドライブ、213…マイクロフォン、214…出力端子、216…エンベデッドコントローラ/キーボードコントローラIC(EC/KBC)、222…メディアプレーヤ、223…目標特性生成アプリケーションプログラム、310…信号測定部、311…入力部、312…測定部、313…信号一時記憶部、314…補正フィルタ設計部、315…目標特性記憶部、317…生成部、318…設定部、320…補正・再生部、321…補正フィルタ、322…音信号出力部、323…表示制御部、324…操作受付部、325…計測用信号記憶部、402…マイクロフォン、403…管、404…吸音材、601…キャビネット、901…高性能イヤホン、1101…リファレンスイヤホン、1501…高性能イヤホン特性データ(基準測定系)、1502…リファレンスイヤホン特性データ(基準測定系)、1503…リファレンスイヤホン特性データ(実機)、1511…目標周波数特性データ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された音の周波数特性を測定する測定手段と、
第1のイヤホンから出力された音の周波数特性を示す第1のデータと目標周波数特性を示す第2のデータとに基づいて、前記第1のイヤホンから出力される周波数特性を補正するための補正データを生成する生成手段と、
オーディオデータを前記補正データに基づいて補正をする補正手段と、
前記補正されたオーディオデータに基づいたオーディオ信号を前記第1のイヤホンに出力するオーディオ信号出力手段とを具備する音信号処理装置であって、
前記目標周波数特性は、周波数特性測定装置によって測定された第2のイヤホンから出力された音の周波数特性と前記測定部によって測定された第3のイヤホンから出力された音の周波数特性との積と、前記周波数特性装置によって測定された前記第3のイヤホンから出力された音の周波数特性との比に基づいて生成される、
音信号処理装置。
【請求項2】
前記目標周波数特性を生成する生成手段をさらに具備する、
請求項1に記載の音信号処理装置。
【請求項3】
前記目標周波数特性は、前記周波数特性測定装置によって測定された前記第2のイヤホンから出力された音の周波数特性を補正した周波特性に基づいて生成される、
請求項1に記載の音信号処理装置。
【請求項4】
前記周波数特性装置は、前記第2のイヤホンおよび前記第3のイヤホンから出力され、ジグを介してマイクロフォンに入力された音に応じた音データを取得し、
前記ジグは、前記第2のイヤホンおよび前記第3のイヤホンから出力された音が入力される第1の口と、他端から前記入力された音を前記マイクロフォンに出力する第2の口とを有する管を具備する
請求項1に記載の音信号処理装置。
【請求項5】
前記ジグは、前記管内に吸音材を具備する請求項4に記載の音信号処理装置。
【請求項6】
音信号処理装置で実行される音信号処理方法であって、
第1のイヤホンから出力された音の周波数特性を示す第1のデータと目標周波数特性を示す第2のデータとに基づいて、前記第1のイヤホンから出力される音の周波数特性を補正するための補正データを生成し、
オーディオデータを前記補正データに基づいて補正し、
前記目標周波数特性は、周波数特性測定装置によって測定された第2のイヤホンから出力された音の周波数特性と前記測定部によって測定された第3のイヤホンから出力された音の周波数特性との積と、前記周波数特性装置によって測定された前記第3のイヤホンから出力された音の周波数特性との比に基づいて生成される、
音信号処理方法。
【請求項7】
前記目標周波数特性は、前記周波数特性測定装置によって測定された前記第2のイヤホンから出力された音の周波数特性を補正した周波すく特性に基づいて生成される、
請求項6に記載の音信号方法。
【請求項8】
前記周波数特性装置は、前記第2のイヤホンおよび前記第3のイヤホンから出力され、ジグを介してマイクロフォンに入力された音に応じた音データを取得し、
前記ジグは、前記第2のイヤホンおよび前記第3のイヤホンから出力された音が入力される第1の口と、他端から前記入力された音を前記マイクロフォンに出力する第2の口とを有する管を具備する
請求項6に記載の音信号処理方法。
【請求項9】
前記ジグは、前記管内に吸音材を具備する請求項8に記載の音信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−31125(P2013−31125A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167511(P2011−167511)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】