説明

音声信号処理装置、音声信号処理方法およびプログラム並びに入力装置

【課題】音声信号の特定成分を抽出して、抽出した音声成分に対して信号処理を施して距離感または広がり感を変化させる。
【解決手段】特定成分強調処理部31では、例えば音声信号に含まれる人の声の音声信号を抽出する。抽出した音声信号の周波数特性や音量を変化させる処理によって距離感を変化させる。また、特定成分強調処理部34では、例えば音声信号に含まれる歓声や拍手などの音声信号を抽出する。抽出した音声信号に対して例えばサラウンド処理を施し、広がり感を変化させる。距離感や広がり感を変化させた音声信号を合成してスピーカ19から再生する。このようにして、全体の音量バランスを変化させずに、例えば解説者などの声をより明瞭に聞くことができる。また歓声や拍手などの臨場音の広がり感が強調されることであたかもその場にいるような臨場感を得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音声信号処理装置、音声信号処理方法およびプログラム並びに入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビジョン受信装置やAV(Audio Visual)アンプ、DVD(Digital Versatile Disc)プレーヤ等のマルチメディア機器に対しては種々の設定ができる。例えば、再生される音声に関する設定では、音量レベルを調節するレベル設定、高周波帯域、中周波帯域、低周波帯域のバランス設定や音場設定などの設定ができる。これらの設定に対応する機能を実現するために、音声信号に対して所定の信号処理が行われる。
【0003】
下記特許文献1には、複数の周波数特性の異なるフィルタを備え、その中から所望の周波数の音声信号を選択的に再生するようにした音声信号出力回路に関する発明が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−200900号公報
【0005】
また、下記特許文献2には、左右チャンネルのスペクトル分析を行い、共通スペクトル成分を基にフロントチャンネルとサラウンドチャンネルの波形を生成して再生することで、より広がり感のある音響空間を得ることができるようにしたオーディオ装置に関する発明が記載されている。
【0006】
【特許文献2】特開平11−113097号公報
【0007】
また、下記特許文献3には、限られた音響空間において豊かな広がり感および奥行き感を実現する車載用音響再生装置に関する発明が記載されている。
【0008】
【特許文献3】特開2002−95096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したような従来の音声に関する設定では、音声の聴取者の希望を満足させることができない場合があった。例えば、スポーツ番組の音声には、スポーツの場面、進行状況を解説する解説者やゲストの声と、実際に競技場で観戦している観客の歓声や拍手などの臨場音とが含まれる。ラジオ放送などの場合は、聴覚から得られる音声信号からスポーツの種々の場面を想起するため、聴取者に対しては解説者の音声が聞こえる方が好ましい。テレビジョン放送では、スポーツの場面は視覚的に認識できるため、聴取者に対してはその場にいるような臨場感を得るべく歓声や拍手などの音声が聞こえるほうが好ましい。
【0010】
ところが、解説者の音声が聞こえるように、若しくはより臨場感を高めるために音量バランスや音場の設定を変更しても、音声全体の音量レベルが増加してしまい解説が聞き取りにくい状況や臨場感に欠ける状況を変化させることはできなかった。このため、解説者の音声が歓声や拍手にかき消されてしまいスポーツの場面を一時的に理解できなくなってしまうこともあった。反対に、解説者やゲストの音声によって歓声や拍手がかき消され、聴取者の味わう臨場感が低下してしまうこともあった。従って、音声信号に含まれる特定の音声信号成分に対する音量バランスや音場の設定をできるようにすることが望まれる。
【0011】
また、従来の音声に関する設定は、例えばディスプレイに設定メニュー画面を表示させ、次に音声設定画面に遷移させて、リモートコントロール装置等を操作して設定項目を選択するなどの一連の操作が必要とされる。このため、このような操作を面倒と感じる聴取者や、機器の操作に不慣れな人にとっては操作方法が煩雑であり、使いづらいという問題点があった。さらに、一度設定を行い音声を再生したときに、自身の好みに合わない場合は再度設定動作を行う必要があった。従って、容易かつ直感的に、またリアルタイムに音量バランスや音場の設定を行うことができることが望まれる。
【0012】
したがって、この発明の目的は、音声信号に含まれる特定の音声信号成分に対する設定を行うことができる音声信号処理装置、音声信号処理方法およびプログラム並びに入力装置を提供することである。
【0013】
また、この発明の他の目的は、音声信号に含まれる特定の音声信号成分に対する設定を、容易かつ直感的に行うことができる音声信号処理装置、音声信号処理方法およびプログラム並びに入力装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、この発明は、主たる音声信号を抽出する第1の音声信号抽出手段と、
副次的な音声信号を抽出する第2の音声信号抽出手段と、
抽出された主たる音声信号を処理することによって距離感を変化させる距離感制御手段と、
抽出された副次的な音声信号を処理することによって広がり感を変化させる広がり感制御手段と、
距離感制御手段を制御する第1の制御信号と、広がり感制御手段を制御する第2の制御信号とを生成する制御信号生成手段と、
距離感制御手段からの出力音声信号と、広がり感制御手段からの出力音声信号とを合成する合成手段と
を備える音声信号処理装置である。
【0015】
また、この発明は、主たる音声信号を抽出する第1の音声信号抽出ステップと、
副次的な音声信号を抽出する第2の音声信号抽出ステップと、
抽出された主たる音声信号を処理することによって距離感を変化させる距離感制御ステップと、
抽出された副次的な音声信号を処理することによって広がり感を変化させる広がり感制御ステップと、
距離感制御ステップにおいて使用される第1の制御信号と、広がり感制御ステップにおいて使用される第2の制御信号とを生成する制御信号生成ステップと、
距離感制御ステップからの出力音声信号と、広がり感制御ステップからの出力音声信号とを合成する合成ステップと
からなる音声信号処理方法である。
【0016】
また、この発明は、コンピュータに
主たる音声信号を抽出する第1の音声信号抽出ステップと、
副次的な音声信号を抽出する第2の音声信号抽出ステップと、
抽出された主たる音声信号を処理することによって距離感を変化させる距離感制御ステップと、
抽出された副次的な音声信号を処理することによって広がり感を変化させる広がり感制御ステップと、
距離感制御ステップにおいて使用される第1の制御信号と、広がり感制御ステップにおいて使用される第2の制御信号とを生成する制御信号生成ステップと、
距離感制御ステップからの出力音声信号と、広がり感制御ステップからの出力音声信号とを合成する合成ステップと
を実行させるプログラムである。
【0017】
また、この発明は、少なくとも第1および第2の二軸に沿って操作可能とされ、
第1の軸に沿う操作に応じて距離感を制御するための制御信号を生成し、第2の軸に沿う操作に応じて広がり感を制御するための制御信号を生成する入力装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながらこの発明の一実施形態について説明する。一実施形態では、この発明をテレビジョン受信装置に適用した例を用いて説明する。
【0019】
図1は、この発明の一実施形態におけるテレビジョン受信装置1の主要な構成を示す。テレビジョン受信装置1は、システムコントロール部11、アンテナ12、プログラムセレクタ13、映像データデコード部14、映像表示処理部15、表示ディスプレイ16、音声データデコード部17、音声処理部18、スピーカ19、受信処理部20を含む構成とされる。また、参照符号21はテレビジョン受信装置1を遠隔操作するリモートコントロール装置等の遠隔操作装置である。
【0020】
例えばBS(Broadcasting Satellite)ディジタル放送、CS(Communication Satellite)ディジタル放送、地上ディジタル放送等のディジタル放送の受信時における各部の処理を説明する。
【0021】
アンテナ12において受信された放送波はプログラムセレクタ13に供給される。プログラムセレクタ13では、復調処理や誤り訂正処理が施された後に、デスクランブル処理が行われることでトランスポートストリーム(以下、適宜、TSと称する)が復元される。そしてTSの中から、PID(Packet ID)を参照して目的のチャンネルの映像パケット、音声パケットとを抽出し、映像パケットを映像データデコード部14に供給し、音声パケットを音声データデコード部17に供給する。
【0022】
映像データデコード部14は、MPEG(Moving Picture Coding Experts Group)規格によって圧縮符号化された映像データを復号する処理や、必要に応じてフォーマット変換処理や補間処理を行う。そして復号した映像データを映像表示処理部15に供給する。
【0023】
映像表示処理部15は、例えばフレームメモリによって構成され、映像データデコード部14から供給される映像データを規定された周期でフレームメモリに書き込む。フレームメモリに書き込まれた映像データを所定のタイミングで読出し、必要に応じてD/A(Digital to Analog)変換を行い表示ディスプレイ16に表示する。表示ディスプレイ16は例えば、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイやLCD(Liquid Crystal Display)からなる。
【0024】
一方、音声データは、音声データデコード部17においてデコード処理等が行われ、必要に応じてD/A変換処理が行われる。音声データデコード部17からはアナロクまたはディジタルの音声信号が出力され、出力音声信号は後述する音声処理部18を介してスピーカ19に供給されて再生される。
【0025】
システムコントロール部11は、例えばマイクロプロセッサによって実現され、テレビジョン受信装置1の各部を制御する。システムコントロール部11は例えば、プログラムセレクタ13における番組選択処理や、音声処理部18における音声信号処理を制御する。
【0026】
受信処理部20は、遠隔操作装置21から送出された操作信号を受信し、受信した操作信号を復調して電気的な操作信号を生成する。生成された操作信号は受信処理部20からシステムコントロール部11に供給される。システムコントロール部11は、操作信号に応じた処理を実行する。
【0027】
遠隔操作装置21は、例えばリモートコントロール装置の操作部でありボタンや方向キー等の入力手段が配設される。テレビジョン受信装置1の視聴者は、遠隔操作装置21を操作することで所望の機能を実行させる。後述するように、この一実施形態では、操作部を操作して音声信号の距離感と広がり感を変化させることができる。
【0028】
なお、上述した説明では、ディジタル放送を受信する例を説明したが、テレビジョン受信装置1が地上アナログ放送やBSアナログ放送等のアナログ放送を受信できるようにしても良い。この発明に関連する部分について説明すれば、放送波はアンテナで受信され、チューナにおいて増幅処理が行われる。増幅処理された映像信号から検波回路によって音声信号が抽出される。抽出された音声信号が音声処理部18に供給されて、音声処理部18において後述する処理が行われてスピーカ19から再生される。
【0029】
次に、この発明の特徴の一つである音声処理部18について説明する。音声処理部18では、入力音声信号から主たる音声信号と副次的な音声信号とを抽出し、それぞれの音声信号に対して信号処理を施す。主たる音声信号と副次的な音声信号は例えば、人の声とそれ以外の音声、スポーツ番組における解説者の声と歓声や拍手などの周囲の臨場音、演奏会におけるメインの演奏者の奏でる楽器の音と他の演奏者が奏でる楽器の音、歌手の声と周囲の伴奏音などであり、所謂放送用語としての主音声、副音声とは異なる意味である。なお、以下の説明では、主たる音声信号をアナウンサや解説者などの人の声とし、副次的な音声信号を歓声や拍手などの臨場音として説明する。
【0030】
図2は、この発明の一実施形態における音声処理部18の構成の一例を示す。音声処理部18は、特定成分強調処理部31、距離感制御部32、音量調整処理部33、特定成分強調処理部34、広がり感制御部35、音量調整処理部36、ミックス処理部37を含む構成とされる。
【0031】
特定成分強調処理部31は、例えば特定の帯域の音声信号を通過させるフィルタによって構成され、目的とする音声信号周辺の周波数帯域を抽出する。ここでは目的とする音声信号は解説者等の人の声であるから、人の声の周波数である200Hz(ヘルツ)〜3500Hz付近の周波数帯域の音声信号が抽出される。抽出された音声信号は、距離感制御部32へ供給される。音声信号を抽出する処理は、例えばカラオケ装置などにおいて利用されているボイスキャンセラの技術を使用しても良い。つまり、歓声や拍手の周波数帯域のみを抽出し、その帯域の部分だけで左(L)チャンネルと右(R)チャンネルの差分をとり、他の成分をそのままにする処理を行うようにしても良い。
【0032】
また、一般にアナウンサや解説者等の人の声はセンターに定位する場合が多い。従って音声処理部18に供給される音声信号が2チャンネル以上の音声信号の場合は、LチャンネルとRチャンネルの音声信号のレベルを監視し、同じレベルであればセンターに定位する信号であることから、そのセンターに定位する音声信号を抽出することで人の声を抽出することも可能である。
【0033】
距離感制御部32は、例えばイコライザによって構成され、距離感制御部32に供給された音声信号の周波数特性を変化させる。人の声は声道が振動することで発生するが、声道の振動により発生した声帯波は単調なスペクトル構造を有することが知られている。このスペクトルの包絡線には山と谷ができる。この包絡線のピークとなる部分はフォルマントと称され、対応する周波数はフォルマント周波数と呼ばれる。一般的に男声は250Hzから3000Hz、女声は250Hzから4000Hzの周波数帯域に複数のフォルマントが存在するといわれ、周波数の低い方から第1フォルマント、第2フォルマント、第3フォルマント・・と呼ばれる。
【0034】
距離感制御部32は、特定の周波数領域に集中して発生する強調成分であるフォルマント周波数の帯域幅やレベルを調整することで、距離感を変化させる処理を行うことができる。また、フォルマント周波数のレベルの調整に限らず、距離感制御部32に供給される音声信号を、例えば低周波帯域、中周波帯域、高周波帯域の音声信号に分割し、高周波帯域の音声信号を遮断(若しくは減衰)させて距離感が近づくようにすることもできるし、低周波帯域の音声信号を遮断(若しくは減衰)させて距離感が遠くなるようにすることもできる。
【0035】
距離感制御部32において処理が行われた音声信号は、音量調整処理部33に供給される。音量調整処理部33では、音声信号の音量を変化させることで、距離感を変化させる処理を行う。例えば、距離感を近づけるようにするときには音量を大きくする処理を行い、距離感を遠ざけるようにするときには音量を小さくする処理を行う。音量調整処理部33から出力された音声信号はミックス処理部37に供給される。
【0036】
特定成分強調処理部31、距離感制御部32および音量調整処理部33は、システムコントロール部11から送出される第1の制御信号である距離感制御信号S1に応じて制御される。また、この一実施形態では距離感制御部32において音声信号の周波数特性を変化させる処理を行い、音量調整処理部33において音量を変化させる処理を行うようにしたが、いずれか一方の処理によって距離感を変化させるようにしても良い。
【0037】
一方、音声処理部18に供給される音声信号は特定成分強調処理部34に対しても供給される。特定成分強調処理部34では、歓声や拍手の周波数帯域周辺の音声信号を抽出する。また、特定の周波数帯域を通過させる処理ではなく、特定成分強調処理部34に供給される音声信号と特定成分強調処理部31で抽出された音声信号との差分をとることで、歓声や拍手の音声信号を抽出するようにしても良い。
【0038】
特定成分強調処理部34から出力された音声信号は、広がり感制御部35に供給される。広がり感制御部35は、音声信号を処理することで広がり感を変化させる。例えば、2チャンネルの音声信号が供給されたときは、音声信号に対してマトリクスデコード処理を行い、例えば5.1チャンネルなどのマルチチャンネルの音声信号を生成する。音声信号を再生するスピーカが5.1チャンネルに対応している場合は、5.1チャンネルのマルチチャンネル音声信号が広がり感制御部35から出力される。音声信号を再生するスピーカがLRの2チャンネルである場合は、バーチャルサラウンド処理を行うようにしても良い。
【0039】
バーチャルサラウンド処理が施された音声信号が再生されることで、視聴者は、視聴者の前方左右に位置するL/Rスピーカの2チャンネルを用いて、周囲のスピーカが存在しない方向からも音が出ているような三次元的な立体音響効果を得ることができる。バーチャルサラウンドを実現する方法は種々の方法が提案されているが、例えばL/Rスピーカから視聴者の両耳への頭部伝達関数を求め、頭部伝達関数を使用したマトリクス演算を、LスピーカおよびRスピーカから出力される音声信号に対して施すことで実現される。このバーチャルサラウンド処理によって、5.1チャンネルの音声信号を2チャンネルの音声信号として出力できる。そして、視聴者の前方左右に配置されたLおよびRスピーカによって音声が再生されることで、視聴者の周囲の所定の位置に音像を定位させることができ、視聴者は音の広がり感を得ることができる。
【0040】
広がり感制御部35では、上述したマトリクスデコード処理やバーチャルサラウンド処理に限らず、例えば冒頭に説明した特許文献2や特許文献3に記載された広がり感を制御する公知の技術を使用することができる。
【0041】
広がり感制御部35からの出力音声信号は、音量調整処理部36に供給される。音量調整処理部36では、広がり感を変化させるように処理された音声信号の音量を調節する処理が行われる。例えば、広がり感制御部35において広がり感を強調する処理が行われた場合は、音量調整処理部36において音量を大きくする処理が行われる。また、広がり感制御部35において強調した広がり感をデフォルトの状態に戻すようにする処理が行われた場合は、音量調整処理部36では、音量を小さくする処理が行われる。なお、音量調整処理部36における音量を調整しないで、広がり感制御部35による処理のみで広がり感を制御することも可能である。音量調整処理部36から出力される音声信号は、ミックス処理部37に供給される。
【0042】
なお、上述した音量調整処理部33において音量を大きくする処理が行われたときは、音量調整処理部36も音量を大きくするようにしても良い。また、反対に音量調整処理部33において音量を大きくする処理が行われたときは、音量調整処理部36は音量を小さくするように、相補的な処理を実行するようにしても良い。相補的な処理が実行されることで、音声信号全体の音量を大きくまたは小さくすることなく、距離感および広がり感だけを変化させることができる。
【0043】
特定成分強調処理部34、広がり感制御部35および音量調整処理部36は、システムコントロール部11から送出される第2の制御信号である広がり感制御信号S2に応じて制御される。
【0044】
ミックス処理部37は、音量調整処理部33からの出力音声信号と、音量調整処理部36からの出力音声信号とを合成する。ミックス処理部37における合成処理により生成された音声信号がスピーカ19に供給され、再生される。このように音声処理部18における処理により距離感および広がり感を変化させることができる。例えば距離感制御部32で行われる処理を距離感を近づけるように制御することで解説者の声をより明瞭に再生するようにすることができる。また、広がり感制御部35における処理を広がり感を強調するように制御することで、例えば歓声や拍手などを視聴者の周囲に音像定位することができ、あたかも視聴者がその場にいるような雰囲気を味わうことができる。
【0045】
次に、上述した距離感制御信号S1および広がり感制御信号S2を生成する入力装置について説明する。以下、説明する入力装置は、遠隔操作装置21に備えられる構成として説明するが、テレビジョン受信装置1の本体に備えられる構成としても良い。
【0046】
図3は、この発明の一実施形態における入力装置41の外観を示す。入力装置41は、支持体42と、支持体42によって支持されるスティック43を備える。スティック43は、縦(垂直)軸と横(水平)軸との二軸に沿う操作が可能とされる。例えば、縦軸に関してはスティックを操作者に対して奥に傾けて押し倒し、また操作者に対して手前に傾ける操作ができる。また、横軸に関しては、右方向および左方向に傾ける操作ができる。
【0047】
図4は、入力装置の変形例を示す。入力装置は、スティック状の装置に限らず、ボタンやキーでも良い。例えば図4Aに示す入力装置51は上下左右方向に方向キーが配設される例である。縦軸方向に上方向キー52と下方向キー53とを備え、横軸方向に右方向キー54と左方向キー55とを備える。操作時は縦軸に沿って上方向キー52または下方向キー53を押し、また横軸に沿って右方向キー54または左方向キー55を押す。
【0048】
入力装置は方向キーに限らず、図4Bに示す入力装置61のように縦軸方向と横軸方向に独立してボタン62〜ボタン65を配設しても良い。
【0049】
上述したような二軸に沿って操作可能とされる入力装置の操作例について説明する。図5は入力装置41の操作に応じて可変できる制御量を例を示す。この発明の一実施形態における入力装置41は、縦軸に沿う操作によって距離感の制御を行うことができ、横軸に沿う操作によって広がり感の制御が可能とされる。例えば、二軸の交差する点をテレビジョン受信装置1にデフォルトとして設定された値とし、縦軸に沿って上方向にスティック43を傾けたときは距離感を近づけるようにすることができ、下方向に傾けたときは距離感を遠ざけるようにすることができる。また、横軸に沿って左方向にスティック43を傾けたときは広がり感を強調することができ、右方向に傾けたときは強調した広がり感を元に戻すようにすることができる。広がり感に関しては、スティック43を左右いずれの方向に傾けても、広がり感を強調することができるようにしても良い。
【0050】
すなわち、この遠隔操作装置21に設けられる入力装置41の縦軸に沿う操作によって、遠隔操作装置21において距離感を制御する距離感制御信号S1が生成される。距離感制御信号S1は、例えばスティック43を縦軸に沿って上方向に操作したときは距離感を近づけるようにする信号とされ、下方向に操作したときは距離感を遠ざける信号とされる。
【0051】
生成された距離感制御信号S1に対して変調処理等が行われて、距離感制御信号S1はテレビジョン受信装置1に対して送出される。テレビジョン受信装置1の受信処理部20において受信された距離感制御信号S1は、復調処理等が施された後にシステムコントロール部11に対して供給される。
【0052】
システムコントロール部11は、音声処理部18の特定成分強調処理部31、距離感制御部32および音量調整処理部33に距離感制御信号S1を送出する。特定成分強調処理部31、距離感制御部32および音量調整処理部33はそれぞれ距離感制御信号S1に応じて距離感を近づける若しくは遠ざけるようにする処理を行う。
【0053】
一方、入力装置41の横軸に沿う操作によって、遠隔操作装置21において広がり感を制御する広がり感制御信号S2が生成される。広がり感制御信号S2は、例えばスティック43を横軸に沿って左方向に操作したときは広がり感を強調する信号とされ、右方向に操作したときは強調した広がり感を元に戻す信号とされる。
【0054】
生成された広がり感制御信号S2に対して変調処理等が行われ、広がり感制御信号S2はテレビジョン受信装置1に対して送出される。広がり感制御信号S2は、受信処理部20において復調処理等が行われた後、システムコントロール部11に対して供給される。システムコントロール部11は、広がり感制御信号S2を特定成分強調処理部34、広がり感制御部35および音量調整処理部36に供給する。特定成分強調処理部34、広がり感制御部35および音量調整処理部36はそれぞれ広がり感制御信号S2に応じて、広がり感を強調する処理若しくは強調した広がり感を戻す処理を行う。
【0055】
このように、入力装置41に備えられるスティック43を二軸に沿って操作するだけで、距離感および広がり感を変化させることができる。従って、距離感および広がり感の制御を、従来のようにメニュー画面を表示させ、さらに種々のキーを操作して所望の距離感および広がり感を得るように設定を行うといった煩雑な操作ではなく、容易かつ直感的な操作によって実現できる。
【0056】
ところで、オーディオを趣味とするような音響の世界に精通している人にとっては入力装置41を適切に操作することで、所望の距離感および広がり感を得ることができるが、そうでない人にとっては入力装置41による操作のみで所望の距離感および広がり感を得ることが困難な場合も有り得る。従って、入力装置41の操作によって、距離感および広がり感がどのように変化しているかを視覚的に表示することが望まれる。
【0057】
図6は、表示ディスプレイ16の表示スペースの一部を使用して表示される状態表示の一例を示す。状態表示51には、入力装置41の二軸に対応して、距離感に関する情報を示す縦軸と広がり感に関する情報を示す横軸が表示される。また、入力装置41の操作に応じて上下左右に移動するカーソルボタン52が表示される。
【0058】
カーソルボタン52は、デフォルトでは参照符号53で示す位置(横軸上の右端)に表示される。そして入力装置41の操作に応じて移動する。例えば、入力装置41のスティック43をユーザに対して奥の方向に傾けると、カーソルボタン52は状態表示51の上方向に移動する。また、スティック43をユーザに対して手前の方向に傾けると、カーソルボタン53は状態表示51の下方向に移動する。また、スティック43をユーザに対して左に傾けるとカーソルボタン52は状態表示51の左方向に移動する。反対にスティック43を右に傾けるとカーソルボタン52は状態表示51の右方向に移動する。
【0059】
状態表示51を表示させることで、デフォルトの位置から距離感および広がり感がどのように変化したかを、聴覚に加え視覚的にも認識することができる。従って、それほど音響の世界に精通していない人も距離感および広がり感の変化を認識できる。例えば、自分の所望の距離感および広がり感であるカーソルボタン52の位置を記憶することで、次に同じカテゴリの番組を視聴するときの距離感および広がり感を設定する手がかりとすることができる。
【0060】
状態表示51のデータは、例えばシステムコントロール部11において生成される。システムコントロール部11は、受信処理部20において受信された距離感制御信号S1および広がり感制御信号S2から状態表示51の表示データ(以下、適宜、状態表示データと称する)を生成する。生成した状態表示データをOSD(On Screen Display)部(図示しない)に供給する。OSD部において映像表示処理部15から出力される映像データと状態表示データとが重畳されて、表示ディスプレイ16に表示される。
【0061】
図7は、状態表示の他の例を示す。状態表示61は音の広がり感をよりわかりやすく示したものである。例えば、状態表示61には視聴者63と、テレビジョン受信装置62とが表示され、さらに視聴者63の周囲には音の広がりを示す領域64が表示される。状態表示61における領域64は、スティック43を左方向に傾けると視聴者63の周囲に拡大するようにされ、スティック43を右方向に傾けると縮小するようにされる。なお、状態表示51および状態表示61を選択的に表示するようにしても良い。
【0062】
図8は、テレビジョン受信装置1の音声処理部18において行われる処理の一例の流れを示すフローチャートである。以下、説明する処理は、ハードウェア的に処理されても良いし、プログラムを利用してソフトウェア的に処理しても良い。
【0063】
音声処理部18に音声信号が入力されると、ステップS1では、特定成分強調処理部31において入力音声信号から解説者等の人の声の周波数帯域周辺の周波数の音声信号を抽出する処理が行われる。続いて、処理がステップS2に進む。
【0064】
ステップS2では、距離感制御部32においてシステムコントロール部11から送出される距離感制御信号S1に応じて、距離感を制御する処理が行われる。例えば、イコライザを使用して特定の周波数の音声信号のレベルを調節する。若しくは、音声信号を複数の帯域に分割し、それぞれの帯域毎に独立してレベルを調節する。続いて、処理がステップS3に進む。
【0065】
ステップS3では、音量調整処理部33において音量を調節することで距離感を制御する処理が行われる。例えば、距離感を近づけるには音量を大きくする処理が行われ、距離感を遠ざけるには音量を小さくする処理が行われる。なお、距離感の制御はステップS2およびステップS3のいずれか一方のみの処理によって行われても良い。
【0066】
一方、ステップS1からステップS3の距離感を制御する処理と並列的に、広がり感を制御する処理が行われる。
【0067】
ステップS4では、特定成分強調処理部34において入力音声信号から歓声や拍手などの周波数帯域周辺の周波数の音声信号を抽出する処理が行われる。続いて、処理がステップS5に進む。
【0068】
ステップS5では、広がり感制御部35において広がり感を変化させる処理が行われる。広がり感を変化させるには、上述したように、例えばマトリクスデコード処理によってLR2チャンネル信号をマルチチャンネル(5.1チャンネル等)の音声信号へとすることで行われる。続いて、処理がステップS6に進む。
【0069】
ステップS6では、音量調整処理部36において音量を調節する処理が行われる。例えば、ステップS5において広がり感を強調する処理が行われたときは、ステップS6では音量を大きくする処理が行われる。また、ステップS5において、強調した広がり感を戻す処理が行われたときは、音量を小さくする処理が行われる。
【0070】
ステップS3およびステップS6に続いて、処理がステップS7に進む。ステップS7では、ミックス処理部37において距離感を制御する処理が施された音声信号と、広がり感を制御する処理が施された音声信号とをミックス(合成)する処理が行われる。そして、合成された音声信号が出力される。
【0071】
図9は、入力装置の操作に対応する制御の方法の一例の流れを示すフローチャートである。以下、説明する処理は、例えばシステムコントロール部11において実行される。
【0072】
ステップS11では、距離感のパラメータが変更されたか否かが判別される。ここで距離感のパラメータとは、距離感を近づける若しくは遠ざけるという制御のための変数を意味する。この距離感のパラメータは、図3を用いて説明した入力装置41においては、スティック43を縦軸に沿って操作することで変更される。距離感のパラメータが変更されると、処理がステップS12に進む。
【0073】
ステップS12では、距離感のパラメータが変更される。距離感のパラメータは、スティック43を縦軸に沿って傾けた時間や、回数等に応じて適切に決定される。
【0074】
ステップS11において、距離感のパラメータが変更されない場合若しくはステップS12においてパラメータが変更された後に、処理がステップS13に進む。
【0075】
ステップS13では、広がり感のパラメータが変更されたか否かが判別される。広がり感のパラメータとは、広がり感を強調する若しくは元に戻すという制御のための変数を意味する。広がり感のパラメータの変更は、スティック43を横軸に沿って操作することで変更される広がり感のパラメータが変更されると処理がステップS14に進む。
【0076】
ステップS14では、広がり感を制御するパラメータが変更される。広がり感のパラメータは、スティック43を横軸に沿って傾けた時間や、回数等に応じて適切に決定される。
【0077】
ステップS13において、広がり感のパラメータが変更されない場合若しくはステップS14においてパラメータが変更された後に、距離感および広がり感のパラメータが出力される。
【0078】
この発明は、この発明の要旨を逸脱しない範囲内でさまざまな変形や応用が可能であり、上述した一実施形態に限定されることはない。上述した一実施形態では、例えば入力装置41のスティック43を傾けると距離感若しくは広がり感が連続的に変化するものとして説明したが、ステップ状に変化するようにしても良い。例えば、デフォルトの設定を0として、スティック43をユーザに対して奥に傾けると+1となり、距離感が近づくようにされる。また、スティック43を手前に傾けると−1とされ、距離感が遠くなるようにされる。このように、距離感と広がり感を定量的に示して制御できるようにしても良い。
【0079】
また、例えば、野球、サッカー、ニュース、音楽演奏会、バラエティなどのテレビジョン番組のカテゴリと、それぞれのカテゴリに対する視聴者の所望の距離感および広がり感を記憶させて、その都度設定を行わないで済むようにすることもできる。
【0080】
上述した一実施形態ではテレビジョン受信装置を用いて説明したが、この発明はテレビジョン受信装置だけでなく、チューナ、ラジオ放送受信装置、携帯音楽プレーヤ、DVDレコーダ、HDD(Hard Disk Drive)レコーダ等の音声出力機能を有する機器に対しても適用できる。また、テレビジョン放送、インターネットを介して配信されるブロードバンド放送、インターネットラジオ放送を受信できるパーソナルコンピュータに対してもこの発明を適用できる。パーソナルコンピュータに適用されたときは、マウスやスクラッチパッドなどのポインティングデバイスや入力キーを入力装置として使用できる。
【0081】
また、上述した処理機能は、プログラムとしてパーソナルコンピュータによって実現される。処理内容を記述したプログラムは、磁気記録装置、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等のコンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】この発明の一実施形態におけるテレビジョン受信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の一実施形態におけるテレビジョン受信装置の音声処理部の構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の一実施形態における入力装置の外観を示す外観図である。
【図4】この発明の一実施形態における入力装置の他の例を示す略線図である。
【図5】この発明の一実施形態における入力装置の操作方向に対応する制御量を示す略線図である。
【図6】この発明の一実施形態における状態表示を示す略線図である。
【図7】この発明の一実施形態における状態表示の他の例を示す略線図である。
【図8】この発明の一実施形態における音声処理部で行われる処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】この発明の一実施形態における音声処理部における処理で使用されるパラメータの設定を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0083】
1 テレビジョン受信装置
11 システムコントロール部
18 音声処理部
21 遠隔操作装置
31、34 特定成分強調処理部
32 距離感制御部
33、36 音量調整処理部
35 広がり感制御部
41 入力装置
51、61 状態表示

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる音声信号を抽出する第1の音声信号抽出手段と、
副次的な音声信号を抽出する第2の音声信号抽出手段と、
抽出された上記主たる音声信号を処理することによって距離感を変化させる距離感制御手段と、
抽出された上記副次的な音声信号を処理することによって広がり感を変化させる広がり感制御手段と、
上記距離感制御手段を制御する第1の制御信号と、上記広がり感制御手段を制御する第2の制御信号とを生成する制御信号生成手段と、
上記距離感制御手段からの出力音声信号と、上記広がり感制御手段からの出力音声信号とを合成する合成手段と
を備える音声信号処理装置。
【請求項2】
上記制御信号生成手段は、少なくとも第1および第2の二軸に沿って操作可能とされる操作手段を有し、
上記第1の軸に沿う操作に応じて上記第1の制御信号を生成し、上記第2の軸に沿う操作に応じて上記第2の制御信号を生成する請求項1に記載の音声信号処理装置。
【請求項3】
上記主たる音声信号と上記副次的な音声信号とは、それぞれ周波数帯域の異なる音声信号である請求項1に記載の音声信号処理装置。
【請求項4】
上記主たる音声信号は人の声であり、上記副次的な音声信号は臨場音である請求項1に記載の音声信号処理装置。
【請求項5】
主たる音声信号を抽出する第1の音声信号抽出ステップと、
副次的な音声信号を抽出する第2の音声信号抽出ステップと、
抽出された上記主たる音声信号を処理することによって距離感を変化させる距離感制御ステップと、
抽出された上記副次的な音声信号を処理することによって広がり感を変化させる広がり感制御ステップと、
上記距離感制御ステップにおいて使用される第1の制御信号と、上記広がり感制御ステップにおいて使用される第2の制御信号とを生成する制御信号生成ステップと、
上記距離感制御ステップからの出力音声信号と、上記広がり感制御ステップからの出力音声信号とを合成する合成ステップと
からなる音声信号処理方法。
【請求項6】
コンピュータに
主たる音声信号を抽出する第1の音声信号抽出ステップと、
副次的な音声信号を抽出する第2の音声信号抽出ステップと、
抽出された上記主たる音声信号を処理することによって距離感を変化させる距離感制御ステップと、
抽出された上記副次的な音声信号を処理することによって広がり感を変化させる広がり感制御ステップと、
上記距離感制御ステップにおいて使用される第1の制御信号と、上記広がり感制御ステップにおいて使用される第2の制御信号とを生成する制御信号生成ステップと、
上記距離感制御ステップからの出力音声信号と、上記広がり感制御ステップからの出力音声信号とを合成する合成ステップと
を実行させるプログラム。
【請求項7】
少なくとも第1および第2の二軸に沿って操作可能とされ、
上記第1の軸に沿う操作に応じて距離感を制御するための制御信号を生成し、上記第2の軸に沿う操作に応じて広がり感を制御するための制御信号を生成する入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−67858(P2007−67858A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251686(P2005−251686)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】