説明

音響インクジェット記録装置

【課題】 高価なヘッドを増やすことなく、モノクロ印刷時にもカラー用ヘッドを活用し、これまでは考えられなかった高速な高パフォーマンスなインクジェットヘッドを得る。
【解決手段】 インク滴出射ノズルを含むインク層7が超音波出射ヘッド部1と分離されており、超音波出射ヘッドに対応するインク層が一つの超音波出射ヘッドに対して二つ以上あり、超音波出射ヘッドまたはインク層は移動可能な構造になっている。複数の印字モードをもち、印字モード設定する機能と印字モードを記憶する機能をもち、印字モードに応じたインク層が選択され超音波出射ヘッドから出射される超音波により液滴を出射する位置に移動する機能をもつ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種のインクを利用可能な音響式インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からインクジェット記録装置として種々の構造をもつものが知られている。そして、その中でも、たとえば超音波を音響レンズを使用し集束させた音響力によるインク滴を飛翔させる音響インクジェット記録装置に関する提案が数多くなされている(例えば、特許文献1,2,3等参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−166541号公報
【特許文献2】特開2000−108336号公報
【特許文献3】特開平07−068769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなインクジェット記録装置としては、音響インクジェット方式にかぎらず、サーマル方式、ピエゾ方式の各種インクジェットヘッド技術があるが、いずれも、インク滴生成エネルギ発生ヘッドとインクは一体であり分離されることはない。
【0005】
また、このような技術において開発されたカラーインクジェットプリンタにおいて、モノクロ印刷を行う場合はクロ色のヘッドのみを使用し、他のマゼンタ、シアン、イエローの3色またはそれ以上の数のカラーヘッドはその間休止して印刷に寄与することはなかった。
【0006】
また、リサイクルペーパ等の低品質な用紙と写真用紙とは、印字に適当なインクは当然異なるのであるが、このようにインク種を変えようとする場合にはヘッドそのものを入れ替えるか、または並列設置するか、プリンタ自体を別に準備するか、等の対策を講じる必要があった。
【0007】
しかし、このようなエネルギ発生ヘッドは高価であり、コストパフォーマンスの観点からなるべく数を減らす必要がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高価なヘッドを増やすことなく、モノクロ印刷時にもカラー用のヘッドを活用し、これまでのインクジェット記録装置では考えられなかった高速な高パフォーマンスなヘッドを備えてなる音響インクジェット記録装置を得ることを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、インク種を変える場合にも、複数のインク種に対して共通のヘッドを使用することを可能にしており、単一のプリンタで数多くのインク種の使用を容易に実現した音響インクジェット記録装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明)に係る音響インクジェット記録装置は、音響エネルギを記録画素単位に発生する音響エネルギ発生素子がライン状に配列されたラインヘッドと、異なる種類のインク層を前記ラインヘッドに選択的に作用すべく前記複数種のインク層を移動可能に保持するインク層保持手段と、異なる種類のインク層にそれぞれ対応して異なるモードで前記ラインヘッドを駆動するヘッド駆動制御手段とからなるラインヘッドユニットにより記録媒体に記録を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明(請求項2記載の発明)に係る音響インクジェット記録装置は、前記請求項1記載のラインヘッドユニットを複数用いて記録媒体に記録を行う音響インクジェット記録装置において、前記複数のラインヘッドユニットが異なる種類のインク層を用いて記録する第1のモードを有すると共に、前記複数のラインヘッドユニットが同種のインク層を用いて記録を行う第2のモードを有し、該第2モードによる記録の際に、前記記録媒体に記録すべき画像データを各前記ラインヘッドユニット毎に分割して供給する記録データ供給手段と、前記ラインヘッドユニットが同種のインク層で記録するユニット数をnとした場合、前記ラインヘッドユニットが前記記録媒体を前記第1のモードのn倍の速度で走査すべく記録媒体を移動搬送する搬送手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明に係る音響インクジェット記録装置によれば、ヘッドひとつあたり複数のインク層を設置し、モードによってインク層を移動可能にしたことにより、同一のプリンタで水性/油性等の異なる色調の切り分け印刷をしたり、用紙により粘度の異なるインクに切り替えたりすることを可能とすることができる。
【0013】
したがって、このような本発明によれば、簡単な構成であるにもかかわらず、高価なヘッドを増やすことなく、モノクロ印刷時にもカラー用のヘッドを活用し、これまでのインクジェット記録装置では考えられなかった高速な高パフォーマンスなヘッドを備えてなる音響インクジェット記録装置を得ることができるのである。
【0014】
また、本発明によれば、ヘッドひとつあたり複数のインク層を設置し、そのうち少なくても一つのインクを同じインクにしすべてのヘッドに対し同じインク滴を飛翔可能にするモードAを設定し、モードによってインク層を移動可能にし、モードA時の印刷データをそれぞれのヘッド用に分割する機能を設け、モードA時には印刷するターゲットの搬送速度をモードA用に設定する機能を設け、駆動タイミングもモードA用にしたことにより、ヘッドの数nのとき、ヘッドの最高印刷速度に対しn倍の印刷速度での印刷を可能にすることができる。
【0015】
そして、このような本発明によれば、インク種を変える場合にも、複数のインク種に対して共通のヘッドを使用することを可能にしており、単一のプリンタで数多くのインク種の使用を容易に実現することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1ないし図3は本発明に係る音響インクジェット記録装置の第1実施形態を示す。
ここで、この実施形態では、超音波出射ヘッドとインク層が分離した構造をもつライン型インク飛翔装置を説明する。また、ここではインク層として記述しているが、インク層の液剤はインクにこだわることなく液体であればなんでもよい。
【0017】
図1において、インク層ブロック7は、図示しない駆動機構により、位置Aと位置Bの間を移動し、どちらか一方の指定されたほうの位置でとまるように構成されている。
同図(a)に示す位置Aにおいて、ラインヘッド1は第1インク層4のインクを飛翔することのできる位置にある。
【0018】
超音波出射部3から図示されていない駆動機構により駆動され出射された超音波はカップリング剤2(図ではカップリング剤の位置のみを示している)を透過し第1インク層4内のインク滴を飛翔させ、記録ターゲット6に付着させる。
【0019】
また、同図(b)に示す位置Bでは、同様に第2インク層5内のインク滴を記録ターゲット6に付着させる。
【0020】
ひとつのラインヘッド1に対し2種のインク層4,5を設け、これらのインク層を可動とし、外部からの制御により第1インク層4または第2インク層5のどちらかのインク層のインク滴を飛翔させる。
なお、図1中、8は規制スリットである。
【0021】
図2に超音波出射部3のひとつの例を示す。
すなわち、セル11はPZTやZnO等の圧電材を電極ではさみ厚み方向の振動モードにより超音波を発射する。バースト波駆動によりインク層内のインクをインク滴化しターゲットに向かって飛翔させる。ここで、セル11がライン状に並び、各セルは図示されていない駆動系によりそれぞれ独立に高周波駆動され超音波を出射するようになっている。
【0022】
図3に本発明装置による具体的使用例を示す。
ここで、上述した図1とは上下反対に記述している。すなわち、図1では液滴は下向きに、図3では液滴は上向に飛翔する。
【0023】
インク種aではインク種aインク層(第1インク層4に相当する)が超音波出射部3に配置され、インク種bではインク種bインク層(第2インク層5に相当する)が超音波出射部3に配置され、それぞれのインク滴が飛翔するようにされている。
【0024】
ここで、インクaでは染料インクがインク種bでは顔料インクというように、または水性インクと油性インクというように異なるインク種を選択する。もちろん、液剤はインクである必要はなく、バイオチップ等での生体有機物液剤やディスプレイ等でのEL材等、各種液剤等の使用が可能であり、インク種も2種以上の複数種であってもよい。
【0025】
以上の構成によれば、インク滴出射ノズルを含むインク層(7;4,5)が超音波出射ヘッド部1と分離されており、超音波出射ヘッド1に対応するインク層4,5が一つの超音波出射ヘッド1に対して二つ以上あり、超音波出射ヘッド1またはインク層4,5は移動可能な構造になっている。さらに、複数の印字モードをもち、印字モード設定する機能と印字モードを記憶する機能をもち、印字モードに応じたインク層4,5が選択され超音波出射ヘッド1から出射される超音波により液滴を出射する位置に移動する機能をもつような構成となっている。
【0026】
そして、このような構成によれば、ヘッド1ひとつあたり複数のインク層4,5を設置し、モードによってインク層4,5を移動可能にしたことにより、同一のプリンタ(インクジェット記録装置)で水性/油性等の異なる色調の切り分け印刷をしたり、用紙により粘度の異なるインクに切り替えたりすることが可能となるのである。
【0027】
図4以降は、本発明による第2実施形態を示す。
ここで、超音波出射ヘッドとインク層が分離した構造をもつライン型インク飛翔装置についてである。また、ここではインク層として記述しているが、インク層の液剤はインクにこだわることなく液体であればなんでもよいことも、前述した実施形態と同様である。
【0028】
また、前述した図1において、インク層ブロック7は図示しない駆動機構により位置Aと位置Bの間を移動しどちらか一方の指定されたほうの位置でとまる。位置Aにおいてラインヘッド1は第1インク層4のインクを飛翔することができる位置にある。また、超音波出射部3から図示されていない駆動機構により駆動され出射された超音波はカップリング剤2(図ではカップリング剤の位置のみを示している)を透過し第1インク層4内のインク滴を飛翔させ、記録ターゲット6に付着させる。位置Bでは同様に第2インク層5内のインク滴を記録ターゲット6に付着させることも、前述した実施形態と同様である。
【0029】
さらに、ひとつのラインヘッド1に対し2種のインク層4,5を設けインク層を可動とし、外部からの制御により第1インク層4または第2インク層5のどちらかのインク層のインク滴を飛翔させることも、前述した実施形態と同様である。
【0030】
また、図2に示す超音波出射部のひとつの例において、セル11がPZTやZnO等の圧電材を電極ではさみ厚み方向の振動モードにより超音波を発射し、これによるバースト波駆動によりインク層内のインクをインク滴化しターゲットに向かって飛翔させること、さらにセル11がライン状に並び、各セルは図示されていない駆動系によりそれぞれ独立に高周波駆動され超音波を出射することも、前述した実施形態と同様である。
【0031】
図4はこの実施形態での具体的使用例を示す。
ここで、図1とは上下反対に記述しており、図1では液滴は下向きに、図4では液滴は上向に飛翔する。
【0032】
以上の構成において、カラーモードでは4つの超音波出射部3に対し、マゼンタインク層21、シアンインク層22、イエローインク層24、黒インク層23がそれぞれ所定の位置に設置された状態である。マゼンタ、シアン、イエローのそれぞれのインク層の横には黒インク層がそれぞれ配置されている。
【0033】
そして、モノモード時には黒インク層23以外の6つのインク層が移動し(図では左方向に)、全ての超音波出射部には黒インク層23,25(K-1 27、K-2 28、K-3 29、K-4 30)が配置される。これにより、カラーモードにはYMCK4色のインク滴飛翔が可能であったが、モノモード時には全て黒インクのみの飛翔モードになる。
【0034】
次に、駆動方法を示す。
図5はカラーモード時の超音波出射駆動タイミングを示す。
4色分の紙幅分のラインヘッドとしている。
そして、紙送り方向に対し4つのヘッドが順次並んでいるので、実際の駆動タイミングはヘッド位置に合わせたずれが見込まれるが、ここでは簡単のためにその反映はしていない。
【0035】
また、図7は印字指示が行われてから、印字開始までに、印刷がモノモードであるか、カラーモードであるかを判断し、その準備を行うフローチャートである。
【0036】
また、MCYKの4つのヘッドを同時に駆動し、1行目の印字M1,C1,Y1,K1を行う。次に、1dot分紙送りされた位置で2ライン目の駆動M2,C2,Y2,K2を行う。このときの紙送りの速度はヘッドの駆動周期により左右される。
一般的には駆動周期が最短になるように紙送り設定がされるが、インク滴飛翔の最大周波数を超える事はできない。
【0037】
図6はモノモードのときの駆動モードを示す。
紙送り速度をカラーモード時の4倍に設定し、1行目の黒印字はK1で行い、2行目の黒印字はK2の位置のヘッドによりK22のタイミングで同様に3行目4行目を印字し、K1の黒インクでは2回目の印字は5行目の印字K15を担当する。
このときの印字データの構造を、図9に示す。
【0038】
図8は本来印刷したいデータの印刷イメージである。
すなわち、横方向がラインヘッドの長さ分のデータであり、縦方向が印刷用紙の送り方向の印刷データを示している。ライン1から順に並んでいる。
【0039】
図9は図8のデータをモノ用に分割作成したものである。
ヘッドが4つある場合である。このように4つのデータファイルを作成し各ヘッドに送る。
このような駆動モードを持つことにより、各ヘッドの駆動周波数を上げることなく、図4、図6の場合には4倍の速度での高速印字をすることができるのである。
【0040】
以上の構成によれば、ヘッドひとつあたり複数のインク層を設置し、そのうち少なくても一つのインクを同じインクにし、すべてのヘッドに対し同じインク滴を飛翔可能にするモードAを設定し、モードによってインク層を移動可能にし、モードA時の印刷データをそれぞれのヘッド用に分割する機能を設け、モードA時には印刷するターゲットの搬送速度をモードA用に設定する機能を設け、駆動タイミングもモードA用にしたことにより、ヘッドの数nのとき、ヘッドの最高印刷速度に対しn倍の印刷速度での印刷を可能とすることができるのである。
【0041】
すなわち、上述した構成による装置では、複数の超音波出射ヘッドの出射タイミングモードをもち、インク層に応じた超音波出射ヘッドの出射タイミングを設定する機能をもち、印字用データを印字モードに応じて分割する機能をもち、印字モードに応じた印刷ターゲットの搬送速度をもつことにより、インク種を変える場合にも、複数のインク種に対して共通のヘッドを使用することを可能とし、単一のプリンタで数多くのインク種の使用を容易に実現することができるのである。
【0042】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、音響インクジェット記録装置を構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る音響インクジェット記録装置の第1実施形態を示し、(a),(b)は位置A,Bでのヘッドの状態を示す概略図である。
【図2】超音波出射部のひとつの例を示す図である。
【図3】本発明に係る音響インクジェット記録装置の具体的な使用例を説明するための説明図である。
【図4】本発明に係る音響インクジェット記録装置の第2実施形態での具体的な使用例を説明するための説明図である。
【図5】カラーモード時の超音波出射駆動タイミングを示す図である。
【図6】モノモードのときの駆動モードを示す図である。
【図7】印字時の指示から印字開始までの動作を説明するためのフローチャートである。
【図8】本来印刷したいデータの印刷イメージを示す図である。
【図9】図8のデータをモノ用に分割作成した場合を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1…ラインヘッド、2…カップリング剤、3…超音波出射部、4…第1インク層、5…第2インク層、6…記録ターゲット、7…インク層ブロック、8…規制スリット、11…セル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響エネルギを記録画素単位に発生する音響エネルギ発生素子がライン状に配列されたラインヘッドと、
異なる種類のインク層を前記ラインヘッドに選択的に作用すべく前記複数種のインク層を移動可能に保持するインク層保持手段と、
異なる種類のインク層にそれぞれ対応して異なるモードで前記ラインヘッドを駆動するヘッド駆動制御手段とからなるラインヘッドユニットにより記録媒体に記録を行うことを特徴とする音響インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記請求項1記載のラインヘッドユニットを複数用いて記録媒体に記録を行う音響インクジェット記録装置において、
前記複数のラインヘッドユニットが異なる種類のインク層を用いて記録する第1のモードを有すると共に、
前記複数のラインヘッドユニットが同種のインク層を用いて記録を行う第2のモードを有し、該第2モードによる記録の際に、
前記記録媒体に記録すべき画像データを各前記ラインヘッドユニット毎に分割して供給する記録データ供給手段と、
前記ラインヘッドユニットが同種のインク層で記録するユニット数をnとした場合、前記ラインヘッドユニットが前記記録媒体を前記第1のモードのn倍の速度で走査すべく記録媒体を移動搬送する搬送手段と、
を備えることを特徴とする音響インクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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