説明

音響モデル作成装置の制御方法、音響モデル作成装置

【課題】 多言語音声認識において、音響モデル作成に用いる音声データベースの言語ごとのサイズの違いに起因する言語間の音声認識の性能差を生じさせない音響モデルの作成方法を提供する。
【解決手段】 音声データベースから第一の音響モデルを作成するステップと、少なくとも2つ以上の言語からなる多言語音声データベースと前記第一の音響モデルから得られるデータを用いてデータを正規化するデータ正規化ステップと、前記正規化されたデータと前記多言語音声データベースを用いて第二の音響モデルを作成するステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多言語音声認識システムにおける多言語音響モデルの作成に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、音声認識技術およびこれを用いたサービスが一般的なものになってきている。複数言語の音声認識を行う多言語音声認識システムの構築に関しても、これまでに数々の検討がなされてきている。
【0003】
多言語音響モデルの作成は、通常最も時間を要する処理であり、多言語音声認識システムを構築する上で重要である。しかしながら、音響モデル作成用データベースの収集および開発は、通常多大な費用と労力を要する。その結果、全世界には数千もの言語が存在するが、利用可能な大規模音声コーパスはその中の数十言語しかない。しかし、異言語の発音はある意味では類似しており、異なる言語の類似性や共通性に関する研究は長い間行われてきた。あらゆる言語の音声を文字で表記する方法として国際音声記号(IPA)が定義された。理論的には、あらゆる言語の発音を表現するためにIPAで定義された記号セットを利用することができる。更に、全てのIPA記号に対して音響モデルを作成できれば、この音響モデルのセットを様々な言語の音声認識に利用できる。つまり、このように多言語音響モデルを作成することが可能である。
【0004】
近年、隠れマルコフモデルによる音響モデリングが一般的である。通常、音響モデルの基本単位には音素が用いられる。音響モデルの性能を改善するために、通常、音素に対して左と右(前後)の音素環境を考慮したトライフォンに拡張される。しかしながら、通常、トライフォンの数は非常に多くなる。ある言語がN個の音素を持つとすると、この言語のトライフォン数は、理論上はN×N×Nとなるため、音響モデルの数が劇的に大きくなる。トライフォンの音響モデルのサイズを減少させ、サイズと音声認識性能とのバランスを取るために、決定木に基づく方法が広く用いられている(
【特許文献1】参照)。これには、まず、対象とする複数の言語に出現する音素を網羅する多言語の音素セットを作成する。多言語音素セットに基づいて、多言語音響モデル作成のための多言語データベースを構築する。多言語データベースに出現するトライフォン数をカウントし、多言語のトライフォンリストを作成する。第一の音響モデル作成処理として、各トライフォンに対する多言語音響モデルを作成する。言語依存の音響モデル作成処理で行われる処理と共通の決定木処理を適用し、多言語トライフォンモデルをクラスタリングするための決定木を作成する。第二の音響モデル作成処理として、クラスタリングされた音響モデルを再学習し、最終的な多言語音響モデルを作成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許5794197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
異なる言語に対して、利用可能なデータベースのサイズは通常異なる。英語などの主言語に関しては、大量のデータが利用可能である。一方、少数言語に関しては、少量のデータしか利用できない、もしくはデータが利用できない場合がある。多言語音響モデルを作成するために用いられる多言語の音声データベースに関しても、通常、言語ごとにデータの量が不均一である。このように不均一なデータで作成された多言語音響モデルは、データ量が多い言語の音声認識性能よりもデータ量が少ない言語の性能の方が平均的に劣る。主な理由は次のように説明できる。
【0007】
(a)決定木の生成過程において、木の分割方法を決定する質問セットの中から最良の質問を選択するために用いられる統計情報(サンプル数と占有カウント)は多言語音声データベースから計算される。基本的に、これらの統計情報はデータ量が少ない言語よりもデータ量が多い言語を反映したものとなる。
【0008】
(b)決定木の生成にこれらの統計情報を利用した場合、決定木は、データ量の少ない言語よりもデータ量の多い言語に適合したものとなってしまう。すなわち、データ量の少ない言語は、十分なトライフォンのクラスタリングがなされない。その結果、多言語音響モデルは、データ量の少ない言語の音声認識性能は、データ量の多い言語よりも劣る。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、多言語音声認識において、音響モデル作成に用いる音声データベースの言語ごとのサイズの違いに起因する言語間の音声認識の性能差を生じさせない音響モデルの作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明に係る音響モデル作成方法は、以下のようなステップを有する。即ち、多言語音声認識のための音響モデル作成方法であって、音声データベースから第一の音響モデルを作成するステップと、少なくとも2つ以上の言語からなる多言語音声データベースと前記第一の音響モデルから得られるデータを用いてデータを正規化するデータ正規化ステップと、前記正規化されたデータと前記多言語音声データベースを用いて第二の音響モデルを作成するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により作成された多言語音響モデルは、データ量の多い言語に対してほとんど性能劣化を生じることなく、データ量の少ない言語の性能を大きく向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の多言語音声認識システムのブロック図。
【図2】本発明の多言語音響モデル作成装置のブロック図。
【図3】本発明の多言語音響モデル作成処理の説明図。
【図4】図3のステップ35の詳細フローチャート。
【図5】図3のステップ37の詳細フローチャート。
【図6】図3のステップ38の詳細フローチャート。
【図7】図6のステップ63の詳細フローチャート。
【図8】本発明と従来法の音声認識性能の比較。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施例1>
図1は、多言語音声認識のシステム構成図である。多言語音声認識システムは、同じ多言語音響モデルを用いて、異なる言語の音声が認識できるものである。
【0014】
A/D変換部11は、多言語音声信号を入力し、デジタル信号に変換する。特徴量抽出部12は、変換された信号より、音声の特徴量を抽出する。探索部13は、多言語音響モデル15、単語辞書16と言語モデル17を用いて、特徴量から、複数の多言語テキストの候補を探索する。信頼度測定部14は、多言語テキストの信頼度を測定し、信頼度の高い多言語テキストを出力する。単語辞書16と言語モデル17は、それぞれ、言語依存の単語辞書、言語依存の言語モデルで、言語毎に作成されている。多言語音響モデル15は、言語非依存の音響モデルであり、本発明の多言語音響モデルの作成について、以降で説明する。
【0015】
図2は、本発明による多言語音響モデル作成装置のブロック図である。
【0016】
第一の音響モデル作成部91は、音声データベースから、言語ごとに、第一の音響モデルを作成する。第一の音響モデル作成部91は、第一の音響モデルの作成に必要な前処理も行う。音声データベースは、言語毎の音声データベースである。
【0017】
データ正規化部92は、少なくとも2つ以上の言語からなる多言語音声データベースと第一の音響モデルから得られるデータを用いて、データを正規化する。多言語音声データベースは、言語非依存の音声データベースである。
【0018】
第二の音響モデル作成部93は、正規化されたデータと多言語音声データベースを用いて、第二の音響モデルを作成する。第二の音響モデル作成部93は、第二の音響モデル作成に関連する処理も行う。
【0019】
図3は、本発明による多言語音響モデルの作成処理フローである。図2の多言語音響モデル作成装置を制御することによって、実行する。
【0020】
ステップ31は、第一の音響モデル作成部91が、多言語音素セットを作成する。音素とは、ある言語に対して知覚的に区別可能な音の単位であり、例えば、英語では、”pad”、”bad”、”bat”の’p’、’b’、’d’、’t’などである。作成対象となる全ての言語に対して、多言語音素セットを作成する。具体的には、全ての言語に現れる全ての音素を用い、次に、IPA(国際音声信号)やSAMPA(Speech Assessment Methods Phonetic Alphabet)記号へ対応付ける。ここで、同じIPAもしくはSAMPA記号に対応付けられた音素は、1つの音素として統合される。
【0021】
ステップ32は、第一の音響モデル作成部91が、多言語音声データベースを作成する。多言語音声データベースは、多言語音響モデルを作成するために用いられる。このデータベースは、少なくとも2つ以上の言語からなる音声データと、ステップ31で作成された多言語音素セットによって関連付けられるラベルデータを含む。
【0022】
ステップ33は、第一の音響モデル作成部91が、ステップ32で作成された多言語音声データベースから、トライフォンリストを作成する。音響モデルの性能を改善するために、音素に換えてトライフォンを基本的な音響単位として用いる。トライフォンとは、音素の左(先行)および右(後続)の音素を考慮したものである。例えば、先行音素がbで後続音素がdであるa(”b−a+d”と表現する)と、先行音素がbで後続音素がtであるa(”b−a+t”)は異なるトライフォンである。多言語音声データベースからトライフォンリストを作成するには、まず、多言語音声データベースに含まれるラベルデータから先行音素および後続音素を考慮したトライフォンラベルを作成する。次に、このトライフォンラベルから異なるトライフォンをトライフォンリストとする。
【0023】
ステップ34は、第一の音響モデル作成部91が、決定木作成のための多言語質問セットを作成する。後述する決定木の作成において、音声学的もしくは言語学的な質問セットを全ての言語に対して作成する必要がある。例えば、質問の例としては、「中心音素が母音であるか?」や、「先行音素が英語の破裂音であるか?」などである。それぞれの質問に対しては、「はい」もしくは「いいえ」の2つの答えが用いられる。
【0024】
ステップ35は、第一の音響モデル作成部91が、多言語音声データベースを用いて、各言語ごとのスケーリング係数を計算する処理である(スケーリング係数計算処理)。ステップ34は、決定木作成のための多言語質問セットを作成する処理である。これらは、多言語音響モデルおよび決定木を作成するためのデータを準備するステップである。ステップ35は、ステップ37およびステップ38で行われる正規化処理を行う際に必要となるデータ作成処理である。
【0025】
ステップ36は、第一の音響モデル作成部91が、トライフォンリストに含まれるトライフォンごとに、トライフォンの音響モデル(第一の音響モデル)を作成する。隠れマルコフモデル(Hidden Markov Model:HMM)を用いて音響モデルは作成される。HMMは複数の状態からなり、HMMの各状態は、混合ガウス分布モデルが用いられる。このステップ36は、音響モデルをトライフォンHMMとして作成する処理である。
【0026】
ステップ37は、データ正規化部92が、トライフォンリストに含まれるトライフォンごとに、多言語音声データベースを用いて、トライフォンのサンプル数の計算および正規化を行う処理である(サンプル数正規化処理)。
【0027】
ステップ38は、データ正規化部92が、多言語音声データベースを用いて、トライフォンのHMMの状態ごとに、トライフォンのHMMの各状態の占有カウントの計算および正規化を行う処理である(占有カウント正規化処理)。ステップ37とステップ38は、トライフォンの正規化サンプル数、およびトライフォンの各状態の正規化占有カウントを計算するためのものであり、ステップ39の処理における最良の質問を選択する処理で用いられる。
【0028】
ステップ39は、第二の音響モデル作成部93が、トライフォンのHMMの状態ごとに、決定木の作成を行う。決定木は、質問セットを用いてトライフォンの状態を異なるクラスタに分割する。同じクラスタに属する状態は同じ音響モデルとして共有され、音響モデル全体のサイズは、クラスタ数を調整することによって変更することができる。更に、多言語音声データベースに存在しない未観測トライフォンは、決定木に対して質問に答えていくことにより、一つのクラスタに割り当てられる。
【0029】
ステップ310は、第二の音響モデル作成部93が、ステップ38とステップ39で処理すべきHMMがないかを判定する。処理すべきHMMなければ、ステップ311に進み、あれば、ステップ38に戻り、次のHMMについて、処理する。
【0030】
ステップ311は、第二の音響モデル作成部93が、ステップ35、ステップ37、ステップ38、ステップ39で処理すべきトライフォンがないかを判定する。処理すべきトライフォンがなければ、ステップ312に進み、あれば、ステップ36に戻り、次のトライフォンについて、処理する。
【0031】
ステップ312は、第二の音響モデル作成部93が、クラスタリングされた音響モデルの作成を行う。決定木を作成した後、同じ木の終端ノードに属する状態は、同じモデルとして共有されるよう統合される。この結果、クラスタリングされた音響モデル(第二の音響モデル)が作成される。このステップ312は、ステップ36で作成された第一の音響モデルをクラスタリングする決定木を作成するためのものである。
【0032】
ステップ313は、第二の音響モデル作成部93が、クラスタリングされた多言語音響モデルの再作成を行う。クラスタリングされた音響モデルは、多言語音声データベースを用いて再学習することにより作成される。なお、再学習とは、音響モデルの統計量(特徴量の平均および分散、HMMの遷移確率、混合ガウス分布の重み)を再計算する処理であり、EMアルゴリズムなどの学習アルゴリズムによって計算される。そして、再作成後の多言語音響モデルが多言語音声認識に使用される。このステップ313は、クラスタリングされた多言語音響モデルを再作成し、多言語音響モデルを作成するためのものである。
【0033】
以上のフローにより、トライフォンHMMのサンプル数とHMMの各状態の占有カウントからなる統計情報が異なる言語間で正規化され、その結果、本実施形態により得られる決定木は、全ての言語に対して最適化される。
【0034】
図4は、ステップ35の詳細フローチャートである。
【0035】
ステップ41は、ステップ32の多言語音声データベースの合計サイズ“S”を計算する。音声データベースのサイズを測定する方法はいくつかあるが、一般的な方法としては、音声データベースの音声の継続時間や、音声データベースの発声数などがある。ステップ42は、多言語音声データベースの各言語に対する処理である。全言語数をLとし、現在の言語のインデックスをi (i=1, …, L)とすると、全言語に対してステップ43および44の処理が終了した場合、図4の処理を終了する。ステップ43は、多言語音声データベースの言語内の音声データベースのサイズを計算する。言語iの音声データのサイズを“S”とする。ステップ44は、言語iのスケーリング係数SF(i)を多言語音声データベースの合計サイズに対する言語の音声データのサイズの比として次の式によって計算する。
【0036】
SF(i)= S/ S
この式では、多言語音声データベースのサイズに対する言語ごとの音声データのサイズの割合としてスケーリング係数を計算している。
【0037】
図5は、ステップ37の詳細フローチャートである。
【0038】
ステップ51は、トライフォンHMM(通常、先行音素および後続音素の音素環境考慮した音素を3つの状態からなるHMMとして表現されたもの)ごとの処理である。いま、全トライフォンHMMの数をTとし、k番目のトライフォンHMMをM (k=1, …, T)とするとき、全トライフォンに対してステップ52から55までの処理が終了した場合、図5の処理を終了する。ステップ52は、多言語音声データベースの各言語に対する処理である。全言語数をLとし、現在の言語のインデックスをi (i=1, …, L)とすると、全言語に対してステップ53から55の処理が終了した場合、ステップ55の処理を行う。ステップ53は、i番目の言語におけるk番目のトライフォンHMMのサンプル数N(k,i)を計算する。N(k,i)は、言語の音声データベースの中で、トライフォンが含まれる発声数の合計として求める。ステップ54は、言語iにおけるトライフォンMのスケーリングサンプル数Scale(N(k, i))を次式により計算する。
【0039】
Scale(N(k, i)) = N(k, i) / SF(i)
ステップ55は、全言語に対する(多言語音声データベース全体に対する)トライフォンMの正規化サンプル数Norm(N(k))を計算する。Norm(N(k))は、次式のように、スケーリングサンプル数Scale(N(k, i))を全ての言語に対して総和をとることによって計算する。
【0040】
Norm(N(k)) = Σ(Scale(N(k, i)) ) (i=1, …, L)
以上、説明したように、ステップ52から55の処理で、言語間のデータサイズの大きさの違いによる音響モデルのサンプル数に偏りを生じさせないよう正規化することができる。
【0041】
図6は、ステップ38の詳細フローチャートである。
【0042】
ステップ61は、トライフォンHMMを構成する状態ごとの処理である。いま、全トライフォンHMMの数をTとし、k番目のトライフォンHMMをM (k=1, …, T)、Mを構成する状態をSと(j=1,…,J)とする。全てのトライフォンの全ての状態に対してステップ62から65までの処理が終了した場合、図6の処理を終了する。ステップ62は、多言語音声データベースの各言語に対する処理である。全言語数をLとし、現在の言語のインデックスをi (i=1, …, L)とすると、全言語に対してステップ63から65の処理が終了した場合、ステップ65の処理を行う。ステップ63は、i番目の言語におけるk番目のトライフォンHMMのj番目の状態の占有カウントOC(k, j, i)を計算する。OC(k, j, i)の計算方法は後述する。ステップ64は、言語iにおけるトライフォンMの状態Sのスケーリング占有カウントScaled(OC(k, j, i) ) をOC(k, j, i)および言語毎のスケーリング係数SF(i)を用いて次式により計算する(データ重み付け処理)。
【0043】
Scaled(OC(k, j, i) ) = OC(k, j, i) / SF(i)
この式では、スケーリング係数を用いて、重み付けを行っている。
【0044】
ステップ65は、全言語に対する(多言語音声データベース全体に対する)トライフォンMの状態Sの正規化占有カウントNorm (OC(k, j)) を計算する。Norm (OC(k, j)) は、次式のように、スケーリング占有カウントScaled(OC(k, j, i) ) を全ての言語に対して総和をとることによって計算する。
【0045】
Norm (OC(k, j)) = Σ(Scaled(OC(k, j, i) ) (i=1, …, L)
以上、説明したように、ステップ62から65の処理で、言語間のデータサイズの大きさの違いによる状態の占有カウントに偏りを生じさせないよう正規化することができる。
【0046】
図7は、ステップ63の詳細フローチャートである。
【0047】
ステップ71は、トライフォンHMMを構成する状態ごとの処理である。いま、全トライフォンHMMの数をTとし、k番目のトライフォンHMMをM (k=1, …, T)、Mを構成する状態をSと(j=1,…,J)とする。言語iの音声データベースに含まれる状態Sに関する全ての音声サンプルO(r=1, …, N(k,i)) (音声サンプル数をN(k,i) とする)に対して、ステップ72から75までの処理が終了した場合、図7の処理を終了する。ステップ72は、音声サンプルOの発声内容に対する音素ラベル列を取得する。ステップ73は、音素ラベル列に対するトライフォンHMMを取得し、音素ラベル列の順にHMMを連結する。ステップ74は、トライフォンMの状態 S に対する音声サンプルO の占有カウントOC(k, i, r, j)の計算を行う。この計算は、良く知られた前向き後ろ向き確率の計算に基づき行う。具体的には、連結されたHMMに対して、音声サンプルOを入力し、各HMMの状態の占有カウントを計算し、これらの計算結果から、現在着目している占有カウントOC(k, i, r, j)を得る。ステップ75は、全ての音声サンプルに対して、占有カウントの計算を行い、次式のように総和を求める。
【0048】
OC (k,i, j) = Σ(OC(k, i, r, j ) ) (r=1, …, N(k, i))
図8は、従来技術と本発明によってそれぞれ作成した多言語音響モデルを用いた場合の音声認識性能の比較である。多言語音響モデルの作成に用いた多言語音声データベースは、26言語からなる合計1600時間である。このうち、9言語はデータ量が多く、合計で1400時間であり、残りの17言語は、データ量が少なく、合計で約200時間である。音声認識性能の評価に用いた音声データは、26言語で、各言語20話者からなり、各話者100種類の単語を発声している。また、SN比が15dBとなるように音声データに雑音を加えている。
【0049】
図8から次の3点のことが分かる。まず、第一に、データ量の多い9言語の音声認識性能は、90.44%から90.22%にわずかに性能が劣化している。第二に、データ量の少ない17言語の音声認識性能は、84.83%から86.61%と明らかに改善している。特に、アラビア語、オランダ語、ギリシア語については、4〜5%と大きく性能が改善できている。最後に、26言語全体の平均認識率も、86.56%から87.72%に改善している。
【0050】
以上、説明したように、本実施形態によれば、データ量の多い言語に対してほとんど性能劣化を生じることなく、データ量の少ない言語の性能を大きく向上させることができる。
【0051】
<その他の実施形態>
本発明の目的は前述した実施例の機能を実現するプログラムを記録した記録媒体を、システムあるいは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータが記録媒体に格納されたプログラムを読み出し実行することによっても達成される。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラム自体が前述した実施形態の機能を実現することとなり、そのプログラムを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0052】
プログラムを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM、DVDなどを用いることができる。
【0053】
また、コンピュータが読み出したプログラムを実行することにより、前述した実施例の機能が実現されるだけではない。そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOperating System(OS)などが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施例の機能が実現される場合も含まれる。
【0054】
さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに接続された機能拡張ユニットのメモリに書きこまれた後、その機能拡張ユニットのCPUが実際の処理の一部または全部を行い、前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多言語音声認識のための音響モデル作成装置の制御方法であって、
第一の音響モデル作成手段が、音声データベースから第一の音響モデルを作成するステップと、
データ正規化手段が、少なくとも2つ以上の言語からなる多言語音声データベースと前記第一の音響モデルから得られるデータを用いて、データを正規化するステップと、
第二の音響モデル作成手段が、前記正規化されたデータと前記多言語音声データベースを用いて第二の音響モデルを作成するステップとを有することを特徴とする音響モデル作成装置の制御方法。
【請求項2】
前記データ正規化ステップは、
前記多言語音声データベースのサイズを用いて言語ごとにスケーリング係数を計算するスケーリング係数計算ステップと、
前記スケーリング係数を用いて第一の音響モデルから得られるデータを重み付けするデータ重み付けステップを有することを特徴とする請求項1に記載の音響モデル作成装置の制御方法。
【請求項3】
前記スケーリング係数計算ステップは、
前記多言語音声データベース全体のサイズを計算するステップと、
言語ごとに音声データベースのサイズを計算するステップと、
前記多言語音声データベースのサイズに対する前記言語ごとの音声データのサイズの割合としてスケーリング係数を計算するステップを有することを特徴とする請求項2に記載の音響モデル作成装置の制御方法。
【請求項4】
前記データ重み付けステップは、
多言語音声データベースの各言語に対して第一の音響モデルのサンプル数を計算するステップと、
多言語音声データベースの各言語に対して第一の音響モデルのサンプル数をスケーリングするステップと、
前記スケーリングサンプル数を全ての言語に対して総和を計算することにより第一の音響モデルのサンプル数を正規化するサンプル数正規化ステップを有することを特徴とする請求項2に記載の音響モデル作成装置の制御方法。
【請求項5】
多言語音声データベースの各言語に対して第一の音響モデルの占有カウントを計算するステップと、
前記言語ごとのスケーリング係数を用いて前記占有カウントをスケーリングするステップと、
前記スケーリング占有カウントを多言語音声データベースの全ての言語に対して総和を計算することにより第一の音響モデルの占有カウントを正規化する占有カウント正規化ステップを有することを特徴とする請求項2に記載の音響モデル作成装置の制御方法。
【請求項6】
多言語音声認識のための音響モデル作成装置であって、
音声データベースから第一の音響モデルを作成する第一の音響モデル作成手段と、
少なくとも2つ以上の言語からなる多言語音声データベースと前記第一の音響モデルから得られるデータを用いてデータを正規化するデータ正規化手段と、
前記正規化されたデータと前記多言語音声データベースを用いて第二の音響モデルを作成する第二の音響モデル作成手段を有することを特徴とする音響モデル作成装置。
【請求項7】
コンピュータに読み込ませ実行させることで、前記コンピュータを、請求項6に記載の音響モデル作成装置の各手段として機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のプログラムを格納した、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−15579(P2013−15579A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146503(P2011−146503)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】