説明

音響機器

【課題】ユーザの好みに応じた音質を容易に設定できるようにする。
【解決手段】再生対象の音信号の音質を変更し、音質が異なる複数の音信号を選択候補として生成する(ステップS2)イコライザ処理手段と、前記イコライザ処理手段により生成された選択候補を切り替えて順次再生する(ステップS3)再生手段と、前記再生手段により再生された複数の選択候補の中からユーザにより選択された選択候補の音質の設定値を統計し(ステップS5,S6)、当該統計によって得られた設定値を前記再生対象の音信号の音質の設定値として設定する(ステップS10)制御手段と、を備える音響機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響機器に関する。
【背景技術】
【0002】
イコライザ機能が搭載された音響機器は、再生する音信号の周波数特性や遅延時間等の音質を調整することが可能である。例えば、「POPS」、「ROCK」、「JAZZ」のようなジャンル毎に、周波数特性等の音質の各項目について設定値を組み合わせたプリセット値を予め定めておき、ユーザにより選択されたジャンルのプリセット値を用いて音質を変更する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。さらに詳細な設定を行いたい場合には、音質の各項目についてユーザが任意の設定値に手動設定することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−284185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プリセット値によって音質を調整する場合、メーカ側で音質の設定値が固定されるため、ユーザが音質を変更できる範囲が限られ、幅広いユーザの好みに対応しきれない。
【0005】
これに対し、手動設定によればユーザが自由に設定値を決められるので、ユーザの好みに近い音質とすることができる。手動で設定できる音質の項目が多ければ多いほど、ユーザの好みに広く対応できる。しかし、音質の調整には専門的な知識も必要であり、音質の項目が多いと、不慣れなユーザにとっては設定が難しく、不便である。また、1つの項目について設定値を調整する毎に聴いている音の音質が変わっていくため、全ての項目について調整が終了する頃には、元々意図していた音質であるのかどうかが分からなくなってしまうこともあり、所望の音質に調整するのは容易ではない。
【0006】
本発明の課題は、ユーザの好みに応じた音質を容易に設定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、
再生対象の音信号の音質を変更し、音質が異なる複数の音信号を選択候補として生成するイコライザ処理手段と、
前記イコライザ処理手段により生成された選択候補を切り替えて順次再生する再生手段と、
前記再生手段により再生された複数の選択候補の中からユーザにより選択された選択候補の音質の設定値を統計し、当該統計によって得られた設定値を前記再生対象の音信号の音質の設定値として設定する制御手段と、
を備える音響機器が提供される。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、
前記イコライザ処理手段により音質が異なる複数の選択候補を生成して、前記再生手段が選択候補を再生し、そのうち選択された選択候補の音質の設定値を前記制御手段が累積加算して記憶手段に記憶する処理を複数回繰り返し、
前記制御手段は、前記複数回繰り返された処理によって前記記憶手段に記憶された各選択候補の音質の累計値を、前記再生対象の音信号の音質の設定値として設定する請求項1に記載の音響機器が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ユーザの好みに応じた音質を容易に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施の形態における音響機器の機能的構成を示す図である。
【図2】音質調整に用いられるデータベースの一例である。
【図3】音質の調整時に、音響機器により実行される処理を示すフローチャートである。
【図4】2つの選択候補の音質の設定値例を示す図である。
【図5】選択された選択候補の音質の設定値が累積加算されたデータベース例を示す図である。
【図6】選択候補の選択と当該選択によって得られる設定値について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る音響機器1の主な機能的構成を示す図である。
音響機器1は、音信号の再生にあたり、音質を変更することが可能なイコライザ機能を有する。音響機器1としては、例えばCD(Compact Disk)等のメディアに記憶されている音を再生するオーディオシステムや、車両に搭載されるカーステレオシステム、携帯用の音楽再生プレーヤー等が挙げられるが、イコライザ機能を有する音響機器であればこれらに限定されない。
【0013】
図1に示すように、音響機器1はマイクロコンピュータ10、操作部20、表示部30、CDメカ部40、チューナ部50、外部I/F60、イコライザ処理部70、再生部80を備えて構成されている。
【0014】
マイクロコンピュータ10は制御部11、記憶部12を備えて構成されている。
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等を備えて構成され、記憶部12に記憶されたプログラムとの協働により各種処理を実行し、各種演算を行うとともに各部の制御を行う。
【0015】
例えば、音質の調整時、制御部11は1つの音源から生成された、音質が異なる複数の音信号である選択候補のうち、ユーザにより選択された選択候補の音質の設定値を統計する。制御部11は当該統計によって得られた設定値を、再生対象の音信号の音質の設定値として設定する。
【0016】
記憶部12は各種プログラムの他、プログラムの実行に必要なファイル、データベース等を記憶している。記憶部12としては、ハードディスクやフラッシュメモリ等を用いることができる。記憶部12に再生の対象となるデジタル音源を記憶することとしてもよい。
【0017】
記憶部12は、音質の調整時に用いられるデータベースを記憶している。図2に示すデータベースTはその一例である。図2に示すように、データベースTには調整可能な音質の項目毎に累計値が記憶されている。音質の各項目には項目番号1〜nが付与されている。音質の項目としては、例えば低周波数域の周波数帯1、中低周波数域の周波数帯2といった周波数特性に関する項目の他、フェダー、バランス、遅延時間のような項目が挙げられる。累計値は音質の調整時にユーザによって選択された音質の設定値が累積加算された値である。
【0018】
操作部20は、再生キー、停止キー、選択キーといった各種操作キーの他、リモートコントローラを備え、これらの操作に応じた操作信号を生成して制御部11に出力する。
【0019】
表示部30は、制御部11の表示制御に従って、ディスプレイ上に操作画面等を表示する。
【0020】
CDメカ部40は、CDに記憶されているデジタル音源を音信号として読み取り、読み取ったアナログの音信号をイコライザ処理部70に出力する。
チューナ部50は、放送信号を入力してアナログの音信号に変換し、変換した音信号をイコライザ処理部70に出力する。
外部I/F60は、USBケーブル等を介して外部機器からアナログの音信号を入力し、入力した音信号をイコライザ処理部70に出力する。
【0021】
イコライザ処理部70は、制御部11の制御に従って、入力されたアナログの音信号に対し音量や音質の調整を行う。例えば、イコライザ処理部70は再生対象として入力された音信号を信号処理し、制御部11により設定された設定値の音質に変更する。音質が変更された音信号は再生部80に出力される。
再生部80は、イコライザ処理部70から入力された音信号を増幅してスピーカ群81に出力する。スピーカ群81は、アナログの音信号を音波として出力する。
【0022】
図3は、音質を調整する際に音響機器1によって実行される処理の流れを示すフローチャートである。当該処理は、メニューから音質調整モードがユーザにより選択されると開始される。
図3に示すように、まず制御部11はデータベースTを初期化し、データベースTに記憶されている累計値を0にリセットする。また、制御部11は音質調整する項目の項目番号nを初期化し、n=1に設定する(ステップS1)。次いで、イコライザ処理部70は再生対象の音信号の項目番号nの項目の音質を変更し、音質が異なる2つの音信号を生成する(ステップS2)。この2つの音信号を選択候補A、Bとする。再生対象となる音信号はCDメカ部40やチューナ部50、外部I/Fから取得された音信号でもよいし、記憶部12に記憶されている音信号でもよい。
【0023】
2つの選択候補A、Bの音質の設定値は制御部11が設定する。例えば、項目番号n=1は、図2に示すように低周波数域の周波数帯1の項目である。制御部11は図4に示すように選択候補Aの周波数帯1の設定値を5とし、その設定値5と所定値5だけ差を設けて選択候補Bの周波数帯1の設定値を10とし、周波数帯1以外の項目の設定値を0とする。イコライザ処理部70は、選択候補A、Bにおいて設定値が0とされている項目について音質の変更はしない。設定値が0を超える項目について音質が変更される。例えば、周波数帯1の設定値が5の選択候補Aは、元の音源の音信号から低周波数域が+5レベル強調された音信号である。設定値が0の他の項目の音質については、変更が加えられていない。
【0024】
生成された選択候補A、Bはそれぞれ再生部80に出力される。再生部80は、制御部11の再生制御に従って選択候補A、Bを所定時間毎に、例えば5秒間毎に交互に切り替えて再生する(ステップS3)。ユーザは再生される音を聴き、選択候補A、Bのうち好みの音質の選択候補を操作部20によって選択すればよい。例えば、好みの音質の選択候補が再生されているときに決定キーの操作をすることとしてもよい。
【0025】
選択候補Aが選択された場合(ステップS4;Y)、制御部11は選択候補Aの音質の設定値を、データベースTの累計値に累積加算し、統計する(ステップS5)。選択候補Aは、上述のように項目番号nの項目の音質のみ変更された音信号であり、項目番号n以外の項目の設定値は全て0である。結果として、データベースTの項目番号nの項目の累計値に、選択された選択候補Aの項目番号nの項目の音質の設定値が累積加算され、項目番号n以外の項目については累計値の変更がないこととなる。データベースTの初期化直後は、データベースTの各項目の累計値は全て0である。よって、データベースTを初期化した直後に図4に挙げた選択候補Aが選択された場合、データベースTの周波数帯1の累計値0に、選択候補Aの周波数帯1の設定値5が累積加算され、図5に示すようにデータベースTの周波数帯1の累計値は0+5=5に更新される。
【0026】
選択候補Aではなく、選択候補Bが選択された場合(ステップS4;N)、同様に制御部11は選択候補Bの音質の設定値を、データベースTの累計値に累積加算し、統計する(ステップS6)。図4に示す選択候補Bの場合、選択候補Bの周波数帯1の設定値は10、他の項目の設定値は0であるので、データベースTは周波数帯1の累計値のみ0+10=10に更新される。
【0027】
次に、制御部11は再生部80による再生を停止させ(ステップS7)、項目番号1〜nの全項目についてステップS2〜S6の処理を終えたか否かを判断する(ステップS8)。全ての項目について終了していない場合(ステップS8;N)、制御部11は項目番号nを+1インクリメントする(ステップS9)。その後、ステップS2の処理に戻り、+1インクリメントされた項目番号nの項目の音質についてステップS2〜S7の処理を繰り返す。ステップS2〜S7の処理を繰り返すことにより、図6に示すように、項目番号1〜nの各項目について、イコライザ処理部70が音質を変更した2つの選択候補An、Bnを生成し、再生部80が再生し、制御部11がユーザによって選択された選択候補の音質の設定値をデータベースTに累積加算して統計する処理が繰り返される。
【0028】
項目番号1〜nまでの全項目についてステップS2〜S6の処理が終了すると(ステップS8;Y)、制御部11はデータベースTから音質の各項目に対応する累計値を読み出し、当該累計値を音質の設定値として設定する(ステップS10)。累計値は選択された選択候補の音質の設定値を統計して得られた設定値である。すなわち、図6に示すように選択候補An、Bnの選択が繰り返されることによって、ユーザが好む音質の設定値が統計され、最終的な音質の設定値として決定される。
【0029】
制御部11により設定された設定値を用いて、イコライザ処理部70は再生対象の音信号の音質を変更する。音質が変更された音信号は再生部80に出力され、再生部80は音信号の再生を行う(ステップS11)。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、イコライザ処理部70が再生対象の音信号の音質を変更し、音質が異なる2つの音信号を選択候補として生成する。再生部80は生成された選択候補を切り替えて順次再生し、制御部11は再生された2つの選択候補のうちユーザにより選択された選択候補の音質の設定値をデータベースTに累積加算して統計する。この処理を各音質の項目について複数回繰り返し、その結果データベースTに記憶された各選択候補の音質の設定値を、制御部11は再生対象の音信号の音質の設定値とする。
【0031】
このようにユーザの選択結果を統計することにより、ユーザの好みの音質を分析し、その好みに合った音質の設定値を得ることができる。ユーザは音質調整に関する専門知識が無くとも選択候補を聴いて選択するという簡易な操作をするだけで好みの音質に設定することができ、音質調整された音の再生を楽しむことができる。音質調整時の操作が簡易であるため、他の作業中にも音質調整をすることができ、カーナビゲーション機器と一体となった音響機器1が車両に搭載されている場合等には特に有効である。
【0032】
選択候補は2者択一であるので、音質の違いを聴き分けることが容易となるともに、選択の操作も容易となる。
【0033】
なお、上記実施形態は本発明の好適な一例であり、これに限定されない。
例えば、上記実施形態では音質の選択を各項目につき1回行って統計しているが、各項目につき複数回行って統計することとしてもよい。選択された選択候補の音質の設定値はデータベースTに累計加算されて統計され、その累計値が再生対象の音の音質の設定値として設定される。
【0034】
例えば、項目番号1の周波数帯1の項目について、選択候補A(1)(周波数帯1の設定値は5)と選択候補B(1)(周波数帯1の設定値は10)の1回目の選択の後、選択候補A(2)(周波数帯1の設定値は10)と選択候補B(2)(周波数帯1の設定値は15)の2回目の選択を繰り返す。1回目の選択により選択候補B(1)、2回目の選択により選択候補A(2)が選択された場合、データベースTの周波数帯1の項目の累計値は、選択候補B(1)の設定値「10」と選択候補A(2)の設定値「10」が累積加算された「20」である。よって、再生対象の音の音質のうち、周波数帯1の音質については設定値「20」に設定される。
【0035】
このように、1つの項目につき複数回選択を繰り返し、その項目の設定値を統計することにより、ユーザの好みの音質の傾向を詳細に分析することができ、音質の設定値をユーザの好みにより近づけることができる。
【0036】
また、上記実施形態では、ユーザが選択しやすいように選択候補を2者択一としていたが、これに限らず、2つ以上の選択候補を提供し、その中から1つ又はそれ以上の選択候補を選択できる構成としてもよい。例えば、設定値を3段階で変更した3つの選択候補のうち1つを選択できる構成であってもよいし、5段階で変更した5つの選択候補のうち2つを選択できる構成であってもよい。制御部11は選択された選択候補の音質の設定値をデータベースTに累積加算する。
【0037】
また、最終的に設定された音質の設定値と、再生対象とされた音信号のデジタル音源を、ネットワーク上にあるサーバに蓄積し、サーバから音質の設定値とデジタル音源を取得できる構成としてもよい。これにより、各ユーザの好みを把握することができる。
【0038】
また、選択候補A、Bは所定時間毎に交互に切り替えて再生されるが、この再生時間は予め音響機器1において設定された時間であってもよいし、ユーザにより設定された時間であってもよい。
さらに、選択候補A、Bを最初から一曲を通して再生することとしてもよいし、選択候補A、Bのうちの数フレーズ分を繰り返し再生することとしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 音響機器
10 マイクロコンピュータ
11 制御部
12 記憶部
20 操作部
30 表示部
70 イコライザ処理部
80 再生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生対象の音信号の音質を変更し、音質が異なる複数の音信号を選択候補として生成するイコライザ処理手段と、
前記イコライザ処理手段により生成された選択候補を切り替えて順次再生する再生手段と、
前記再生手段により再生された複数の選択候補の中からユーザにより選択された選択候補の音質の設定値を統計し、当該統計によって得られた設定値を前記再生対象の音信号の音質の設定値として設定する制御手段と、
を備える音響機器。
【請求項2】
前記イコライザ処理手段により音質が異なる複数の選択候補を生成して、前記再生手段が選択候補を再生し、そのうち選択された選択候補の音質の設定値を前記制御手段が累積加算して記憶手段に記憶する処理を複数回繰り返し、
前記制御手段は、前記複数回繰り返された処理によって前記記憶手段に記憶された各選択候補の音質の累計値を、前記再生対象の音信号の音質の設定値として設定する請求項1に記載の音響機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−192995(P2010−192995A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32956(P2009−32956)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】