説明

音響装置、残響音付加方法、残響音付加プログラム及びその記録媒体

【課題】
十分な音の広がり感が得るために適切な残響音付加を行う。
【解決手段】
残響音生成部210j(j=L,R)は、チャンネル処理信号PCDjに基づいて残響音信号PRDjを生成する。引き続き、コンプレッサ部221jは、周期的に変化するコンプレス・パラメータ(閾値、効果量、アタック時間、リリース時間)を指定したコンプレス制御指令CMCjに従い、残響音信号PRDjに対してコンプレス処理を行う。コンプレス処理が施された信号は、音響補正部222jにおいて微小補正がなされた後に、加算器230においてチャンネル処理信号PCDjと合成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響装置、残響音付加方法、残響音付加プログラム、及び、当該残響音付加プログラムが記録された記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、楽曲等を再生する音響装置が広く普及している。こうした音響装置は、一般に一般家屋内や車両内に設置され、利用者の利用に供せられる。かかる音響装置に関する技術の発展は目覚しく、コンサートホール等において発生する初期反射音及び残響音(以下、総称して「残響音」と呼ぶ)までも模擬的に発生する技術が提案されている(特許文献1等参照:以下、「従来例」という)。
【0003】
かかる従来の技術では、メイン音響信号に基づいて振幅レベル及び遅延時間が規則的に変化する残響音信号を生成し、当該メイン音響信号に付加するようになっている。そして、従来の技術では、メイン音響信号のレベルに応じて、メイン音響信号から残響音を生成する乗算器の乗算計数を可変とすることにより、メイン音響信号のレベルが大きい場合における音の明領度の劣化を防止するとともに、メイン音響信号のレベルが小さい場合にも大ホールにおける音場感を確保できるようになっている。
【0004】
【特許文献1】実公平8−2720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、メイン音響信号に基づいて振幅レベル及び遅延時間を規則的に変化させることにより残響音を生成している。このため、残響音が単調であり、音の広がりが十分であるとはいえない傾向があった。
【0006】
このため、実際のコンサートホール等における音場感により近付けることができ、音のソースによらず、十分なる音の広がり感を実現できる残響音付加技術が待望されている。かかる要請に応えることが、本発明が解決すべき課題の一つとして挙げられる。
【0007】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、適切な残響音付加を行うことができる音響装置及び残響音付加方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、音響信号に基づいて、残響音信号を生成する残響音生成手段と;前記残響音信号に対する加工を制御する加工指令を発行する加工制御手段と;前記加工制御手段からの前記加工指令に従って、前記残響音信号の加工を行う残響音加工手段と;前記残響音加工手段による加工結果と、前記音響信号とを合成する合成手段と;を備えることを特徴とする音響装置である。
【0009】
請求項13に記載の発明は、音響信号に基づいて、残響音信号を生成する残響音生成工程と;前記残響音信号に対する加工を制御する加工指令を発行する加工制御工程と;前記加工制御工程による前記加工指令に従って、前記残響音信号の加工を行う残響音加工工程と;前記残響音加工工程による加工結果と、前記音響信号とを合成する合成工程と;を備えることを特徴とする残響音付加方法である。
【0010】
請求項14に記載の発明は、請求項13に記載の残響音付加方法を演算手段に実行させる、ことを特徴とする残響音付加プログラムである。
【0011】
請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の残響音付加プログラムが、演算手段により読み取り可能に記録された記録媒体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図1〜図7を参照して説明する。なお、以下の説明及び図面においては、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0013】
[構成]
図1には、一実施形態に係る音響装置100の概略的な構成がブロック図にて示されている。
【0014】
この図1に示されるように、音響装置100は、制御ユニット110と、ドライブユニット120とを備えている。また、音響装置100は、音出力ユニット130Lと、130Rとを備えている。
【0015】
ここで、音出力ユニット130Lはレフトスピーカ131Lを有し、音出力ユニット130Rはライトスピーカ131Rを有している。
【0016】
さらに、音響装置100は、表示ユニット140と、操作入力ユニット150とを備えている。
【0017】
なお、制御ユニット110以外の要素120〜150は、制御ユニット110に接続されている。
【0018】
制御ユニット110は、音響装置100の全体を統括制御する。この制御ユニット110の詳細については、後述する。
【0019】
ドライブユニット120は、音声コンテンツが記録されたコンパクトディスクCDがドライブユニット120に挿入されると、その旨を制御ユニット110に報告する。そして、ドライブユニット120は、コンパクトディスクCDが挿入された状態で、制御ユニット110から音声コンテンツの再生指令DVCを受けると、再生指定がなされた音声をコンパクトディスクCDから読み出す。かかる音声コンテンツの読み出し結果は、オーディオ信号であるコンテンツデータCTDとして、制御ユニット110へ向けて送られる。
【0020】
音出力ユニット130j(j=L,R)は、上述したスピーカ131jの他に、(i)制御ユニット110から受信したレフトチャンネルの音声を担う音声出力信号AODjをアナログ信号に変換するDA変換器(Digital to Analog Converter)と、(ii)当該DA変換器から出力されたアナログ信号を増幅する増幅器とを備えている。これらの音出力ユニット130jのそれぞれは、制御ユニット110による制御のもとで、楽曲等を再生して出力する。
【0021】
表示ユニット140は、(i)液晶表示パネル、有機EL(Electro Luminescence)パネル、PDP(Plasma Display Panel)等の表示デバイスと、(ii)制御ユニット110から送出された表示制御データに基づいて、表示ユニット140全体の制御を行うグラフィックレンダラ等の表示コントローラと、(iii)表示画像データを記憶する表示画像メモリ等を備えて構成されている。この表示ユニット140は、制御ユニット110による制御のもとで、操作ガイダンス情報等を表示する。
【0022】
操作入力ユニット150は、音響装置100の本体部に設けられたキー部、あるいはキー部を備えるリモート入力装置等により構成される。ここで、本体部に設けられたキー部としては、表示ユニット140の表示デバイスに設けられたタッチパネルを用いることができる。なお、キー部を有する構成に代えて、音声入力する構成を採用することもできる。
【0023】
この操作入力ユニット150を利用者が操作することにより、音響装置100の動作内容の設定が行われる。例えば、音声コンテンツの再生指令、後述する残響音加工部に向けて送る加工指令の指定等を、利用者が操作入力ユニット150を利用して行う。こうした入力内容は、操作入力データIPDとして、操作入力ユニット150から制御ユニット110へ向けて送られる。
【0024】
制御ユニット110は、上述したように、音響装置100の全体を統括制御する。この制御ユニット110は、図2に示されるように、加工制御手段としての制御処理部111と、オーディオ処理部112とを備えている。また、制御ユニット110は、残響音付加部113を備えている。
【0025】
制御処理部111は、操作入力ユニット150に入力された指令入力に基づいて、オーディオ処理部112と、残響音付加部113とを制御する。また、制御処理部111は、ドライブユニット120及び表示ユニット140を制御する。この制御処理部111の詳細については、後述する。
【0026】
オーディオ処理部112は、音声コンテンツを含む再生すべきコンテンツの指定入力がなされたことが操作入力ユニット150から報告された場合、及び、ドライブユニット120にコンパクトディスクCDが挿入されたときにコンテンツを自動再生すべき旨の設定がなされている場合に、制御処理部111から発行される音声コンテンツ処理制御指令APCに従って、当該再生すべきコンテンツに対応するコンテンツデータCTDをドライブユニット120から読み出して展開し、デジタル音データ信号を生成する。引き続き、オーディオ処理部112は、生成されたデジタル音データ信号を解析し、デジタル音データ信号に含まれるチャンネル指定情報に従って、デジタル音データ信号を、上述した音出力ユニット130L,130Rのそれぞれに供給されるように分離する。このようにして分離された信号は、チャンネル処理信号PCDL,PCDRとして、残響音付加部113へ向けて出力される。
【0027】
残響音付加部113は、オーディオ処理部112から送られてくるチャンネル処理信号(音響信号)PCDL,PCDRに対して残響音の付加を行う。この残響音付加部113は、チャンネル処理信号PCDLに対して残響音付加を行う個別残響音付加部114Lと、チャンネル処理信号PCDRに対して残響音付加を行う個別残響音付加部114Rとを備えている。
【0028】
個別残響音付加部114j(j=L,R)は、図3に示されるように、残響音生成手段としての残響音生成部210jと、残響音加工手段としての残響音加工部220jとを備えている。また、個別残響音付加部114jは、合成手段としての加算器230を備えている。
【0029】
残響音生成部210j(j=L,R)は、オーディオ処理部112からのチャンネル処理信号PCDLを受ける。そして、残響音生成部210jは、チャンネル処理信号PCDjに基づいて、例えば上述した従来例に場合と同様にして、残響音信号PRDjを生成する。こうして生成された残響音信号PRDjは、残響音加工部220jへ向けて出力される。
【0030】
残響音加工部220j(j=L,R)は、残響音信号PRDjに対してコンプレス処理と、音響補正処理の加工を行う。この残響音加工部220jは、コンプレス手段としてのコンプレッサ部221jと、音響補正手段としての音響補正部222jとを備えている。
【0031】
コンプレッサ部221j(j=L,R)は、残響音信号PRDjのレベル変化範囲を圧縮し、圧宿結果を残響コンプレス信号PPDjとして音響補正部222jへ向けて出力する。本実施形態のコンプレッサ部221jで行うコンプレス処理は、コンプレス・パラメータとして閾値THj、効果量EFj、アタック時間ATj、リリース時間REjを設定して行うものであり、入力信号である残響音信号PRDjと出力信号である残響コンプレス信号PPDjとの関係は、例えば、図4に示されるような特性(以下、この特性を「入出力特性」ともいう)となる。
【0032】
この図4に示される入出力特性では、閾値THjを境に、残響音信号PRDjのレベルに対応したコンプレス処理の加工内容が変更される。そして、残響音信号PRDjのレベルが閾値THj以下の場合には、残響音信号PRDjのレベルに対して一律に効果量EFjが増加される。
【0033】
アタック時間ATjは残響音信号PRDjのレベルが増加した場合に、その増加に対するコンプレス処理の結果値への変化時間である。また、リリース時間REjは残響音信号PRDjのレベルが減少した場合に、その減少に対するコンプレス処理の結果値への変化時間である。
【0034】
これらのコンプレス・パラメータのパラメータ値は、制御処理部111からの加工指令の一部である後述するコンプレス制御指令CMCjにより指定される。また、本実施形態では、上述したコンプレス・パラメータの値のそれぞれを、コンプレス制御指令CMCjより周期的に変化させる。図5(A)には、閾値がTH1jに指定されたときの入出力特性が実線で示され、閾値がTH2jに指定されたときの入出力特性が二点鎖線で示されている。コンプレス制御指令CMCj(より詳しくは、後述する閾値指定THCj)により、閾値をTH1j〜TH2jの間で周期的に変化させた場合は、入出力特性は図5(A)に示された範囲で周期的に変化する。
【0035】
また、図5(B)には、効果量がEF1jに指定されたときの入出力特性が実線で示され、効果量がTH2jに指定されたときの入出力特性が二点鎖線で示されている。コンプレス制御指令CMCj(より詳しくは、後述する効果量指定EFCj)により、効果量をEF1j〜EF2jの間で周期的に変化させた場合は、入出力特性は図5(B)に示された範囲で周期的に変化する。
【0036】
このコンプレッサ部221jは、図6に示されように、レベル検出部241jと、係数算出部242jと、係数乗算器243とを備えている。
【0037】
レベル検出部241j(j=L,R)は、残響音生成部210jからの残響音信号PRDjを受ける。そして、このレベル検出部241jは、残響音信号PRDjに対して絶対値処理を行い、その処理結果に基づいて残響音信号PRDjの信号レベルを検出する。かかる検出結果は、信号LVDjとして係数算出部242jへ向けて送られる。
【0038】
係数算出部242j(j=L,R)は、残響音信号PRDjに対して乗算する係数MCjを算出する。この係数決定部242jは、レベル検出部241jからの信号LVDjを受けるとともに、制御処理部111からのコンプレス制御指令CMCjを受ける。ここで、コンプレス制御指令CMCjには、閾値THjを指定する閾値指定THCj、効果量EFjを指定する効果量指定EFCj、アタック時間ATjを指定するアタック時間指定ATCj、リリース時間REjを指定するリリース時間RECjが含まれている。
【0039】
係数算出部242jは、信号LVDjが、閾値指定THCjが指定する閾値THj以上であるか否かを判断する。また、係数算出部242jは、信号LVDjから残響音信号PRDjのレベルが増減のいずれの方向であるかを判断する。そして、係数算出部242jは、これらの判断結果に基づいて、コンプレス制御指令CMCjにより指定されたコンプレス・パラメータを適用し、図4に示される出力特性となるように係数MCjを算出する。こうして算出された係数MCjは、係数算出部242jから係数乗算部243へ向けて送られる。
【0040】
係数乗算部243は、残響音生成部210jからの残響音信号PRDjを受けるとともに、係数算出部242jから係数MCjを受ける。そして、係数乗算部243は、残響音信号PRDjに係数MCjを乗算する。乗算結果は、残響コンプレス信号PPDjとして、音響補正部222jへ向けて出力される。
【0041】
図3に戻り、音響補正部222j(j=L,R)は、コンプレッサ部221jから残響コンプレス信号PPDjを受ける。この音響補正部222jは、不図示のイコライザ回路、フィルタ回路等を備えて構成されている。この構成においては、イコライザ回路、フィルタ回路等は、制御処理部111からの補正指令ACCに従い、残響コンプレス信号PPDjに対して音響補正を行う。かかる補正結果は、残響音補正信号PEDjとして、加算器230へ向けて出力される。
【0042】
加算器230は、オーディオ処理部112からチャンネル処理信号PCDjを受けるとともに、残響音加工部220jからの残響音補正信号PEDjを受ける。加算器230は、これらの信号の加算を行い、加算結果を音声出力信号AODjとして、音出力ユニット130jへ向けて出力する。
【0043】
図2に戻り、制御処理部111は、上述した他の構成要素を制御しつつ、音響装置100の機能を発揮させる。この制御処理部111は、図7に示されるように、コンプレス制御指令発行部251と、制御部256とを備えている。
【0044】
コンプレッサ制御指令発行部251は、制御部256からの指令CPCに従いコンプレス制御指令CMCjを生成し、このコンプレス制御指令CMCjをコンプレッサ部221jへ向けて発行する。ここで、コンプレス制御指令CMCjには、閾値指定THCj、効果量指定EFCj、アタック時間指定ATCj、リリース時間RECjが含まれている。このコンプレッサ制御指令発行部251は、閾値指定部252と、効果量指定部253と、アタック時間指定部254と、リリース時間指定部255とを備えている。
【0045】
閾値指定部252、効果量指定部253のそれぞれは、指令CPCを解析し、閾値THjを指定した閾値指定THCj、効果量EFjを指定した効果量指定EFCjを生成する。また、アタック時間指定部254、リリース時間指定部255のそれぞれは、指令CPCを解析して、アタック時間ATjを指定したアタック時間指定ATCj、リリース時間REjを指定したリリース時間指定RECjを生成する。
【0046】
制御部256は、操作入力ユニット150から受けた操作入力データIPDを解析し、残響音付加部113における残響音信号PRDjに対してのコンプレス加工、音響補正等の残響音加工の動作制御を行う。
【0047】
かかるコンプレス加工の動作の制御に際して、制御部256は、操作入力データIPDを解析し、コンプレス・パラメータの値の指定、上述した周期変化に関する周期指定、変化幅指定を含んだ指令CPCを、コンプレス制御指令発行部251へ向けて送る。
【0048】
また、制御部256は、かかる音響補正の動作の制御に際して、操作入力データIPDを解析し、イコライザ回路に設定するブースト量及びカット量、フィルタ回路に設定するカットオフ周波数を含む補正指令ACCiを、音響補正部222jへ向けて送る。
【0049】
また、制御部256は、利用者が再生すべき音声コンテンツの指定を支援するための案内画面を表示ユニット140に表示させる。そして、操作入力ユニット150から音声コンテンツを指定した再生指令が入力されると、制御部256は、ドライブユニット120を制御して、再生コンテンツのデータ読み出しを制御する。
【0050】
また、制御部256は、オーディオ処理部112を制御して、コンテンツデータCTDを2個のチャンネル処理信号PCDL,PCDRに分離させる。
【0051】
[動作]
次に、上記のように構成された音響装置100の動作について、残響音付加部113における残響音信号の加工処理の動作に主に着目して説明する。
【0052】
利用者が操作入力ユニット150に音声コンテンツを指定した再生指令を入力することにより、音響装置100における残響音信号の加工処理の動作が開始する。操作入力ユニット150からの再生指令を受けた制御処理部111は、ドライブユニット120を制御して、当該音声コンテンツのデータ読み出す。こうして読み出されたデータは、コンテンツデータCTDとしてオーディオ処理部112へ向けて送られる。コンテンツデータCTDを受けたオーディオ処理部112は、制御処理部111による制御のもとで、コンテンツデータCTDを、2個のチャンネル処理信号PCDL,PCDRに分離する。
【0053】
こうして分離されたチャンネル処理信号PCDL,PCDRは、残響音付加部113へ向けて送られる。ここで、チャンネル処理信号PCDLは残響音付加部113の個別残響音付加部114Lへ向けて送られ、チャンネル処理信号PCDRは残響音付加部113の個別残響音付加部114Rへ向けて送られる(図2参照)。
【0054】
個別残響音付加部114j(j=L,R)においては、チャンネル処理信号PCDjは残響音生成部210jに向けて送られるとともに、加算器230へ向けて送られる(図3参照)。
【0055】
まず、チャンネル処理信号PCDjを受けた残響音生成部210jは、チャンネル処理信号PCDjに基づいて、残響音信号PRDjを生成する。こうして生成された残響音信号PRDjは、コンプレッサ部221jのレベル検出部241へ向けて送られるとともに、係数乗算器243へ向けて送られる(図6参照)。
【0056】
次いで、残響音信号PRDjを受けたレベル検出部241jは、残響音信号PRDjに対して絶対値処理を行い、その処理結果に基づいて残響音信号PRDjの信号レベルを検出する。かかる検出結果は、信号LVDjとして、係数算出部242jへ向けて送られる。
【0057】
係数算出部242jは、レベル検出部241jからの信号LVDjを受けるとともに、制御処理部111からの閾値指定THCj、効果量指定EFCj、アタック時間指定ATCj、リリース時間RECjを含むコンプレス制御指令CMCjを受ける。そして、係数算出部242jは、信号LVDjが閾値THj以上であるか否かを判断し、また、信号LVDjから残響音信号PRDjのレベルが増減のいずれの方向であるかを判断する。そして、係数算出部242jは、これらの判断結果に基づいて、コンプレス制御指令CMCjにより指定されたコンプレス・パラメータを適用し、前述した図4に示される入出力特性となるように係数MCjを算出する。算出された係数MCjは、係数算出部242jから係数乗算部243へ向けて送られる。
【0058】
なお、本実施形態では、閾値THj、効果量EFj、アタック時間ATj、リリース時間REjのコンプレス・パラメータのそれぞれは、制御処理部111からのコンプレス制御指令CMCjに従って、独立に周期的に変化している。この各パラメータの周期、及び変化幅は、聴取者に広がり感を与えるものとなっており、実験、シミュレーション、経験等に基づいて予め定められる。
【0059】
続けて、係数乗算部243は、残響音生成部210jから残響音信号PRDjを受けるとともに、係数算出部242jから係数MCjを受ける。そして、係数乗算部243は、残響音信号PRDjに係数MCjを乗算し、残響コンプレス信号PPDjとして、音響補正部222jへ向けて出力する。
【0060】
音響補正部222jでは、制御処理部111からの補正指令ACCjに従い、残響コンプレス信号PPDjに対してイコライジングやフィルタリングの音響補正処理が行われる。なお、本実施形態で行われる音響補正処理は、微小な補正にとどまる。こうして微小補正された残響コンプレス信号PPDjは、残響音補正信号PEDjとして加算器230へ向けて出力される。
【0061】
続いて、加算器230は、オーディオ処理部112からチャンネル処理信号PCDjを受けるとともに、音響補正部222jからの残響音補正信号PEDjを受ける。加算器230は、これらの信号の加算を行い、チャンネル処理信号PCDjに残響音補正信号PEDjを付加する。
【0062】
このようにして残響音付加部113において残響音加工処理が施された信号は、音声出力信号AODL,AODRとして、音出力ユニット130L,130Rへ向けて送られる(図2参照)。そして、その加工結果に基づく再生音声がスピーカ131L,131Rから、音場空間へ向けて出力される。
【0063】
以上説明したように、本実施形態では、図4に示される入出力特性により、残響音信号PRDj(j=L,R)のレベル変化範囲を圧縮するコンプレス処理を行う。このため、残響音信号PRDjの信号レベルや量が時間的にコンテンツごとにばらつきがあったとしても、広がり感の違いを緩和させることができる。
【0064】
また、本実施形態で行うコンプレス処理は、微小レベルの残響音信号PRDjに対して、一律に効果量EFjを与えて信号レベルを増加させる。このため、広がり感、音場感を向上させることができる。
【0065】
また、本実施形態では、残響音信号PRDjのコンプレス処理に際して、閾値THjを周期的に変化させ、ゆらぎを与えた。このため、新たな残響音効果を創出することができ、広がり感を制御することができる。
【0066】
また、本実施形態では、残響音信号PRDjのコンプレス処理に際して、効果量EFjを周期的に変化させ、ゆらぎを与えた。このため、新たな残響音効果を創出することができ、広がり感を制御することができる。
【0067】
また、本実施形態では、残響音信号PRDjのコンプレス処理に際して、アタック時間ATjを周期的に変化させた。このため、新たな残響音効果を創出することができ、広がり感を制御することができる。
【0068】
また、本実施形態では、残響音信号PRDjのコンプレス処理に際して、リリース時間REjを周期的に変化させ、ゆらぎを与えた。このため、新たな残響音効果を創出することができ、広がり感を制御することができる。
【0069】
[実施形態の変形]
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0070】
例えば、上記の実施形態では、2個のスピーカを備えることとしたが、1個のスピーカから音出力をさせてもよく、また、3個以上のスピーカから音出力をさせるようにすることもできる。
【0071】
また、上記の実施形態では、残響音信号PRDj(j=L,R)のコンプレス処理に際して、周期的に変化させるコンプレス・パラメータとして、閾値THj、効果量EFj、アタック時間ATj、リリース時間REjとしたが、これらの周期変化させるコンプレス・パラメータの組み合わせは、いかなるものであってもよい。
【0072】
また、上記の実施形態では、周期的に変化させる各コンプレス・パラメータの周期及び変化幅は予め定められることとしたが、利用者が操作入力ユニット150から入力して指定可能とすることもできる。
【0073】
また、上記の実施形態では、各コンプレス・パラメータは一定周期で変化させることとしたが、この周期をランダムに変化させたうえでコンプレス・パラメータを変化させるようにしてもよい。
【0074】
また、上記の実施形態では、音響補正部222jは、イコライザ回路やフィルタ回路を備えることとした。これに対して、音響補正部222jは、ラウドネス回路やトーンコントロール回路等を備える構成であってもよいし、または、イコライザ回路、フィルタ回路、ラウドネス回路、トーンコントロール回路等の複数の回路を組み合わせた構成であってもよい。
【0075】
また、上記の実施形態では、残響音加工部220jは音響補正部222jを備えることとしたが、この音響補正部222jを備えない構成であってもよい。
【0076】
また、上記の実施形態では、コンプレス処理における信号の入出力特性は、図4に示されるものであるとした。これに対して、例えば、図8に示される信号の入出力特性により残響音信号PRDjに対してコンプレス処理を行うものであってもよい。
【0077】
なお、上記の実施形態における制御ユニット110の一部又は全部を中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、読出専用メモリ(ROM:Read Only Memory)、ランダムアクセスメモリ(RAM:Random Access Memory)等を備えた演算手段としてのコンピュータとして構成し、予め用意されたプログラムを当該コンピュータで実行することにより、上記の実施形態における処理の一部又は全部を実行するようにしてもよい。このプログラムはハードディスク、CD−ROM、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、当該コンピュータによって記録媒体から読み出されて実行される。また、このプログラムは、CD−ROM、DVD等の可搬型記録媒体に記録された形態で取得されるようにしてもよいし、インターネットなどのネットワークを介した配送の形態で取得されるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一実施形態に係る音響装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】図1の制御ユニットの構成を説明するためのブロック図である。
【図3】図2の個別残響音付加部の構成を説明するためのブロック図である。
【図4】一実施形態のコンプレッサによる信号の入出力特性を説明するための図である(その1)。
【図5】一実施形態のコンプレッサによる信号の入出力特性を説明するための図である(その2)。
【図6】図3のコンプレッサ部の構成を説明するためのブロック図である。
【図7】図2の制御処理部の構成を説明するための図である。
【図8】変形例のコンプレス処理による信号の入出力特性を説明するための図である。
【符号の説明】
【0079】
100 … 音響装置
111 … 制御処理部(加工制御手段)
210j … 残響音生成部(残響音生成手段)
220j … 残響音加工部(残響音加工手段)
221j … コンプレッサ部(コンプレス手段)
222j … 音響補正部(音響補正手段)
230 … 加算器(合成手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響信号に基づいて、残響音信号を生成する残響音生成手段と;
前記残響音信号に対する加工を制御する加工指令を発行する加工制御手段と;
前記加工制御手段からの前記加工指令に従って、前記残響音信号の加工を行う残響音加工手段と;
前記残響音加工手段による加工結果と、前記音響信号とを合成する合成手段と;
を備えることを特徴とする音響装置。
【請求項2】
前記残響音加工手段は、前記残響音信号のレベル変化範囲を圧縮するコンプレス処理を行うコンプレス手段を備え、
前記加工指令には、前記コンプレス処理の態様を指定するコンプレス制御指令が含まれる、
ことを特徴とする請求項1に記載の音響装置。
【請求項3】
前記コンプレス制御指令には、前記コンプレス処理における前記残響音信号のレベルに対応した加工内容を変更すべき閾値の指定が含まれる、ことを特徴とする請求項2に記載の音響装置。
【請求項4】
前記加工制御手段は、前記閾値を周期的に変化させる、ことを特徴とする請求項3に記載の音響装置。
【請求項5】
前記コンプレス制御指令には、前記残響音信号のレベルが前記閾値以下の場合に前記残響音信号のレベルに対して一律に増加させるべき効果量の指定が更に含まれる、ことを特徴とする請求項3又は4に記載の音響装置。
【請求項6】
前記加工制御手段は、前記効果量を周期的に変化させる、ことを特徴とする請求項5に記載の音響装置。
【請求項7】
前記コンプレス制御指令には、前記残響音信号のレベルが増加した場合に、前記増加に対応する前記コンプレス処理の結果値への変化時間であるアタック時間の指定が更に含まれる、ことを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載の音響装置。
【請求項8】
前記加工制御手段は、前記アタック時間を周期的に変化させる、ことを特徴とする請求項7に記載の音響装置。
【請求項9】
前記コンプレス制御指令には、前記残響音信号のレベルが減少した場合に、前記減少に対応する前記コンプレス処理の結果値への変化時間であるリリース時間の指定が更に含まれる、ことを特徴とする請求項2〜8のいずれか一項に記載の音響装置。
【請求項10】
前記加工制御手段は、前記リリース時間を周期的に変化させる、ことを特徴とする請求項9に記載の音響装置。
【請求項11】
前記残響音加工手段は、前記コンプレス手段による処理結果に音響補正を施す音響補正手段を更に備える、ことを特徴する請求項2〜10のいずれか一項に記載の音響装置。
【請求項12】
移動体に搭載される、ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の音響装置。
【請求項13】
音響信号に基づいて、残響音信号を生成する残響音生成工程と;
前記残響音信号に対する加工を制御する加工指令を発行する加工制御工程と;
前記加工指令に従って、前記残響音信号の加工を行う残響音加工工程と;
前記残響音加工工程における加工の結果と、前記音響信号とを合成する合成工程と;
を備えることを特徴とする残響音付加方法。
【請求項14】
請求項13に記載の残響音付加方法を演算手段に実行させる、ことを特徴とする残響音付加プログラム。
【請求項15】
請求項14に記載の残響音付加プログラムが、演算手段により読み取り可能に記録された記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−86481(P2009−86481A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258332(P2007−258332)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】