説明

風味原料の製造方法

【課題】「だし」取り用の風味原料において、風味原料の需要者からの要求品質である風味の均一化、短時間での「だし」取りを満たすための新規な風味原料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】従来の方法で製造された原料を微粉砕し、水溶液に接触させた後に乾燥・水分調整し、さらに抽出風味原料濃縮物などを表面コーティングすることを含む、最終水分含有量が5〜12重量%である風味原料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、だしパックやだしの素などの風味調味料と称されるインスタントだし調味料に使用する風味原料及びその製造方法に関する。詳しくは、本発明は、風味原料の品質を高め、安定化させることのできる製造方法及び該方法で得られた風味原料を含む調味料、食品に関する。
【背景技術】
【0002】
風味原料とは、狭義の意味では農林水産省の「風味調味料品質表示基準」で定義されている「節類(かつおぶし等)、煮干魚類、昆布、貝柱、乾しいたけ等の粉末又は抽出風味原料濃縮物」をいうが、実際の調味料、食品業界で料理に使う「だし」の原料に該当するものとして認識されている。この料理の「だし」に使用する風味原料は、かつお節、宗田かつお節、さば節、あじ節などの魚節類を始め、鰯を煮て干したような煮干魚類、昆布やしいたけなどのように乾燥させたものなどの様々なだし原料が古くから知られている。
【0003】
近年、一般家庭、外食産業、中食産業などでは、こうした料理の「だし」の原料に使用されるのは、かつお節、宗田かつお節などの魚節類や煮干類、乾燥昆布や乾燥しいたけなどの風味原料だけでなく、これらを切削或いは粉砕したものや、或いはそれらを不織布などに充填した風味調味料、いわゆるだしパックを利用したり、さらには、風味原料を切削或いは粉砕し、グルタミン酸ナトリウムやイノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなどの調味料と混合した、いわゆるだしの素やだしパックなどの風味調味料などが広く利用されている。ここで、本発明においては、用語の定義として、農林水産省の「風味調味料品質表示基準」で定義されている風味原料(節類(かつおぶし等)、煮干魚類、こんぶ、貝柱、乾しいたけ等の粉末又は抽出風味原料濃縮物をいう)と風味調味料(調味料(アミノ酸等)及び風味原料に砂糖類、食塩等(香辛料を除く。)を加え、乾燥し、粉末状、顆粒状等にしたものであって、調理の際風味原料の香り及び味を付与するものをいう)の概念で使用する。
【0004】
本来、風味調味料が広く需要者に用いられる理由としては、一般家庭、外食・中食産業などの家庭用、業務用に関係なく調理の簡便化志向があげられる。すなわち、調理時の「だし」取りにかける時間と手間を短くするためである。本来の「だし」取りを考えると、かつおだしであればかつお節を薄く削ったものを、沸騰した湯に入れて「だし」取りし、その後、かつお節を布やペーパーで濾して「だし」を得る。昆布だしは、水に漬けた昆布を鍋ごと火にかけて、沸騰直前に昆布を取り出して「だし」を得る。この方法での時間と手間、さらには「だし」取り後の残渣の問題を簡便に解決するために、だしパックやだしの素などの風味調味料が利用されている。
【0005】
ところが、このだしの素やだしパック調味料などに用いられる従来の風味原料は、かつお節や昆布などの水産物、農産物を簡単に加工したものが多いために、風味原料自体の品質のばらつきが起こり易いのが現状である。例えば、かつお節ならば原魚となる鰹のサイズ、脂肪分、漁獲時期や漁獲産地、さらにはかつお節製造する時の蒸煮や燻乾の方法によっても風味、味、香りが変わってくる。また、乾燥昆布であれば、生育海域、生育年数、乾燥方法によって、その品質は左右されている。このことは、かつお節や昆布などの風味原料が、産地や等級によって差別化されていることによってその品質が異なることが証となっている。さらに、こうした従来の風味原料は、水産物、農産物由来であるために、気候、収穫量や価格相場の影響を受けやすく安定供給についても課題を抱えている。
【0006】
また、従来の風味原料や風味調味料では、「だし」取りに時間がかかり、風味原料や風味調味料を使用する需要者の簡便化志向に対しても十分に対応できていない。そのため、こうした風味原料とそれを用いた風味調味料の味覚品質の安定化、供給の安定化を図るために風味調味料もしくは風味原料を加工・制御する様々な方法が用いられている。
【0007】
特許文献1には、かつお節などの魚節を50μm以下に切削し、この切削物を調味液で味付けして乾燥させ、破砕したものをティーバックに入れた、いわゆるだしパック調味料が記載されている。しかし、この製造方法では、厚さ50μm以下の切削物を調味して乾燥するとお互いの切削・調味物がくっ付いてしまうために裁断の工程を入れなければならず、さらにこれらを充填包装した後も乾燥工程が入るために、最終的には風味原料を切削、調味、乾燥、裁断、充填、乾燥と多くの工程が必要になってしまう。またこの製造方法では、厚さ50μmと小さく切削しているために乾燥中のこげ臭が発生しやすくなり、乾燥温度と時間の管理が複雑であるという課題が残る。包装充填後もさらに乾燥するために、ここでも乾燥温度と時間の管理が必要になり、二度の乾燥工程が入るために、香りや風味が飛散しやすくなるという問題も起こり得る。
【0008】
特許文献2には、魚節を破砕したものに調味料を加えて、水の代わりに魚節エキスを添加し、混練、押出造粒することで顆粒状の風味調味料を製造する方法が記載されている。この製造方法は、造粒後の乾燥による風味原料の香りの飛散を魚節エキスで補う方法であるが、風味調味料として製造することにより、風味原料以外の食塩、糖質などの需要者が必要としていない塩分、糖分まで加えることになり、風味原料本来の味を再現することにならず、風味原料本来の味を求めている需要者にとっては商品選択の対象から除外されているのが実情である。
【0009】
特許文献3には、魚節からあらかじめアルコール抽出で香りを抽出しておき、これを別の魚節に添加しながら粉砕することで、魚節の燻臭を強化した風味原料を得る方法が記載されている。この製造方法では、風味原料としての香りについては強化、安定化されるが、香りの中でもアルコール抽出できるフェノール類が中心に強化され、本来の魚節の風味のバランスが変わってしまう。さらには、「だし」としての呈味性については考慮されていない。
【0010】
特許文献4には、魚節粉砕物にオリゴ糖、澱粉、多糖類水溶液を添加して乾燥することで、魚節表面をコーティングして、魚節粉砕物の酸化劣化を防止するとともに、香りの飛散を防止するようにしたものが記載されている。しかしながら、このように魚節表面をコーティングしてしまうと、「だし」を取る時に「だし」成分の旨味成分が物理的に抽出しにくくなり、需要者の「だし」取りにおける簡便性や短時間での抽出ができなくなってしまうという問題がある。
【0011】
特許文献5には、魚節を切削、破砕あるいは粉砕したものと抽出風味原料濃縮物や酵母エキスなどをエタノール含有液とともに混合攪拌し乾燥させて、凝集体状「だし」を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許2972522号
【特許文献2】特開平6−303938号公報
【特許文献3】特開2002−281892号公報
【特許文献4】特開2002−320443号公報
【特許文献5】特開2006−238837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本来、かつお節や昆布を始めとする様々な風味原料と、それらを主原料とする風味調味料は、料理における「だし」を得るためのものであり、それら「だし」を利用する需要者が風味原料や風味調味料に要求する事項は、
1.簡単な操作で「だし」が取れる。
2.短時間で「だし」が取れる。
3.取った「だし」の味、香りなどの風味が常に一定で安定である。
の三点である。
【0014】
そこで、需要者のこのような要求を満たすために、本発明は、従来の風味原料の製造方法よりも品質が安定で、短時間で「だし」が取れる風味原料及びそれを製造する方法、さらにはその風味原料を主原料とした風味調味料を提供することを目的としている。すなわち、本発明は、需要者が料理における「だし」を得るために、常に、1.簡単な操作で、2.短時間で、3.味、香りなどの風味の均一で安定な「だし」を提供するための風味原料及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による風味原料の製造方法は、常法で製造されたかつお節、宗田かつお節、煮干し、昆布或いはしいたけなどの乾燥した少なくとも一種類の原料を平均粒径1〜5mmに微粉砕する工程、この微粉砕された原料を水溶液に接触させる工程、水溶液に接触させた後に、水分調整する乾燥工程及び水溶液に接触させた粉砕原料に魚節エキス、昆布エキス類などの抽出風味原料濃縮物を表面コーティングする工程を含むことを特徴としている。
【0016】
本発明による風味原料の製造方法においては、一実施形態では、粉砕された原料を接触させる水溶液が60〜100℃の温度に設定され得る。
【0017】
また、乾燥工程においては、一実施形態では、原料片の水分含有量は5〜30重量%に調整され得る。
【0018】
粉砕した原料を水溶液に接触させる工程が、原料を水溶液中に浸漬させる方法又は原料に通液する方法で行われ得る。
【0019】
表面コーティングする工程が、流動層造粒機又は高速攪拌機を用いて行われ得る。
【0020】
本発明の別の特徴によれば、本発明の方法によって製造された風味原料を含む風味調味料が提供される。本発明による風味調味料は、例えば、この風味原料だけを通液性のある袋(ペーパーフィルターバッグや不織布など)に充填されてなる、だしパック調味料として、或いは、この風味原料にたんぱく加水分解物、酵母エキス、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウムなどの旨味調味料を加えて通液性のある袋に充填されてなる、だしパック調味料として提供され得る。
【0021】
上記の従来の乾燥された原料を粉砕する工程は、原料を粉砕してその表面積を広げ、次工程の水溶液に接触させるための効率を上げると共に、最終的に出来上がる風味原料或いは風味調味料から「だし」が抽出され易くしている。また、この粉砕原料片を水溶液に接触させ、乾燥させる工程は、この水溶液接触と乾燥により限定的に水分調整することで次工程での抽出風味原料濃縮物を表面コーティングし易くなる。すなわち、抽出風味原料濃縮物は、液体タイプや粉末タイプがあるために、どちらのタイプにも利用できるように、抽出風味原料濃縮物自身の水分含有量に合わせて、乾燥風味原料の水分含有量を調整することにある。
【発明の効果】
【0022】
本発明による風味原料の製造方法においては、従来の魚節などの原料を元原料として、この原料を微粉砕することにより表面積が広くなり、「だし」を抽出しやすくなる。その上で、一度、水溶液に接触させた後に乾燥させることにより、さまざまな産地や収穫時期で集められた従来の風味原料の味、香りのバラツキを一定化するとともに水分調整も行うことになる。さらにこの後、だしの呈味や香りを補強できるような抽出風味原料濃縮物類を、水溶液に接触させた原料の表面にコーティングしてやり、短時間で「だし」が取れるようになる。
【0023】
本発明の製造方法によれば、従来の風味原料に比べて、産地、収穫時期、等級に関わりなく品質的に安定な風味原料を効率よく製造でき、さらにこの安定的な風味原料を主体としただしパック調味料を提供することができる。この提供されただしパック調味料では、調理時に料理用の「だし」を取る場合に簡単な操作で短時間で「だし」が取れると同時に、いかなる時期においても同様の品質の「だし」が取ることが可能となる。さらに、この製造方法で作られた風味原料や、この風味原料を用いた風味調味料は、簡単な操作で、短時間で味、香りの均一で安定な料理の「だし」を提供できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、農林水産省の「風味調味料品質表示基準」で定義される原料を、平均粒径1〜5mmに粉砕して原料片を得る工程を含む。本発明の製造方法に用いることができる原料は限定しないが、後の工程での品質や作業性を考慮すると、昆布、貝柱、乾しいたけなどよりも節類(魚節類)や煮干魚類などの方がより望ましい。また、これら推奨して用いる原料は、一種類でも複数種を混合しても用いることもできる。
【0025】
風味原料の粉砕方法としては、特に制限されず公知の方法を適用できる。例えば、高速回転衝撃剪断式のピンミル、ハンマ型ミル、ロール式のローラミル、ボウルミルなど、通常の食品製造に用いることのできる装置が使用できる。
【0026】
粉砕されることによって粉粒状になった原料は、その平均粒径が1〜5mmの範囲であることが望ましい。この粒径範囲外の場合では、例えば、粒径が1mmよりも小さくなると魚節エキス、昆布エキスなどを表面コーティングする時にダマになったり、風味原料同士が固結しやすくなってしまう。また逆に5mm以上の粒径になると、次の工程の粉砕原料を水溶液に接触させる際に水溶液の浸透、拡散に時間がかかり水分含有量の均一化の障害になると同時に乾燥・水分調整工程での時間がかかってしまう。こうした粉砕工程後の各工程の作業性、生産性を加味すると粉粒状の原料の平均粒径は1〜5mmが良い。
【0027】
本発明の製造方法は、原料片を水溶液に接触させる工程を含む。原料片を水溶液に接触させて、水分含有量を高くすることにより、次工程の抽出風味原料濃縮物としての魚節エキス、昆布エキス類などを表面コーティングするための水分含有量の調整をしやすくなる。従来の風味原料には、かつお節、宗田かつお節、さば節、あじ節などの魚節類と、煮干、あごなどの煮干魚類などがあるが、それぞれの種類、産地、時期によって水分含有量は異なる。これらを一種類だけでなく複数種混合して用いる時は、各風味原料の水分含有量が大きく異なり、品質がばらつくことになる。そこで、これらを粉砕し水溶液に接触させることで粉砕原料片の水分含有量を一定に調整しやすくなる。従来の各種風味原料の水分含有量は、非常に幅広く8〜35重量%にもなる。この広い水分含有量のばらつきを狭くするために、一度水溶液に原料片を接触させて水分含有量を上げるようにしている。
【0028】
本発明における水溶液は、特に制限されない。水であってもよいが、食品の製造に用いられる範囲であれば、付帯的な目的に応じて、調味成分、香味成分等の他の成分を含有してもよい。その例としては、アルコール、調味液、エキス、フレーバー等があげられる。
【0029】
原料片を水溶液に接触させる工程は、結果的に原料片に水溶液が接触し浸透する方法であれば特に限定されない。例えば、原料片を水溶液に浸漬させる方法、原料片に水溶液を通液させる方法、或いは原料片に水溶液を噴霧する方法などを用いることができる。
【0030】
ここで、原料片に接触させる水溶液の量は、任意に設定することができるが、原料片へ十分に水溶液を接触、浸透させるためには、少なくとも原料片に対して2倍重量以上であることが望ましい。また、原料片に接触させる水溶液の温度は、60〜100℃が好ましい。原料片を、60℃以下の水溶液に接触させる場合は、微生物増殖を制御する観点から好ましくない。また、次工程への製造を考えると、生臭い香りが生成することを避ける意味も含む。
【0031】
水溶液に接触させた原料片は、金属メッシュ、パンチングメタル、濾布などによって固液分離する。この固液分離により、水溶液に接触した原料片の余剰な水分を分離させることができる。余剰水分を除いた原料片に対して、次工程の乾燥、水分調整工程と抽出風味原料濃縮物としての魚節エキス、昆布エキス類などを表面コーティングする工程が実施される。なお、固液分離で分離させた余剰な水分は、原料片から溶出した一部の呈味成分、香味成分などを含んでいる場合があり、これらは別途、だしや調味料あるいは加工食品などの食品原料として用いることもできる。
【0032】
本発明の製造方法は、水溶液に接触させた後の原料片を乾燥、水分調整し抽出風味原料濃縮物として魚節エキス、昆布エキス類などを表面コーティングする工程を含む。
【0033】
乾燥する方法としては、特に制限されない。本発明の目的に適合した範囲で公知の機械、方法、例えば、通気乾燥、回転乾燥、気流乾燥、流動層乾燥などを用いることができる。また、その乾燥条件も特に制限されない。水溶液に接触させた原料片を乾燥することにより、次工程における抽出風味原料濃縮物である魚節エキス、昆布エキス類などを原料片の表面にコーティングするための水分調整を行うことができ、抽出風味原料濃縮物が液体か粉末かによって原料片の水分含有量は異なってくるために、その乾燥条件となる方法、時間、温度も変わってくる。例えば、抽出風味原料濃縮物が液体の場合には、原料片の水分含有量は10重量%以下であることが望ましく、逆に抽出風味原料濃縮物が粉末の場合には、15〜30重量%であることが望ましい。
【0034】
水分調整した原料片に、抽出風味原料濃縮物として魚節エキス、昆布エキス類などを表面コーティングする方法としては、特に制限されない。本発明の目的に適した範囲で公知の機械、方法を用いることができる。また、そのコーティング条件も特に制限されない。この抽出風味原料濃縮物として魚節エキス、昆布エキス類などを表面コーティングすることにより、従来の風味原料がその種類、産地、収穫時期、製造時期などによって品質がばらつき、さらにその風味原料で取った「だし」の呈味、香味などが変化するなどの問題を解決することができる。乾燥して水分調整した原料片の表面に抽出風味原料濃縮物をコーティングしてやることで、風味原料の呈味、香味を均一化し安定させることができる。表面にコーティングする理由としては、このコーティング風味原料を需要者が用いて「だし」を取った時に短時間で「だし」が抽出されるようにするためである。抽出風味原料濃縮物を表面コーティングではなく、浸透などで乾燥風味原料片に調味すると、需要者での「だし」抽出に時間がかかる。
【0035】
乾燥、水分調整した原料片に抽出風味原料濃縮物をコーティングする方法としては、例えば、流動層造粒機(例えば、フロイント産業株式会社製「フローコーター」)を使用する方法がある。この場合は、乾燥、水分調整した原料片を容器に入れ、下方から空気を送り込んで空中に浮遊懸濁し、その中に液体の抽出風味原料濃縮物をバインダーとともにスプレーすることでコーティングする。この場合は、原料片の初発水分含有量としては10重量%以下にすることにより、液体の抽出風味原料濃縮物がコーティングされやすい。また、その他の方法としては、高速攪拌機(例えば、深江パウテック株式会社製「ハイスピードミキサー」)を使用する方法があり、乾燥、水分調整した原料片と粉末の抽出風味原料濃縮物を容器に入れ、高速回転することでコーティングする。この場合は、原料片の初発水分含有量としては15〜30重量%の範囲にすることにより、粉末の抽出風味原料濃縮物がコーティングされ易い。
【0036】
このコーティング工程では、かつお節エキス、昆布エキスなどの抽出風味原料濃縮物の液体タイプ、粉末タイプだけにこだわらない。コーティングして得たい目的物が風味原料だけでなく風味調味料などの場合では、コーティングさせるものを抽出風味原料濃縮物に加えて、酵母エキス、たんぱく加水分解物などの呈味成分、グルタミン酸ナトリウムなどの旨味調味料あるいは、様々なフレーバーなどの香味成分であってもよい。最終的にコーティングされたものが、風味原料となっても風味調味料となっても良いがその最終水分含有量が5〜12重量%になることで、本発明の風味原料が得られる。
【0037】
本発明の風味原料は、そのまま粉末風味原料として製品化しても良いし、それを、例えば、だしの素やだしパックなどの風味調味料、あるいは、例えば、ふりかけなどの食品に配合しても良い。この最終水分含量の5〜12重量%は、このコーティングされた風味原料あるいは風味調味料自体の保管中の微生物増殖抑制の観点から好ましいレベルである。さらには、従来の各種風味原料の水分含有量のばらつきの8〜35重量%よりも、このコーティング風味原料、風味調味料の水分含量を5〜12%重量と狭く安定させることで、より安定的で均一な「だし」原料としての風味原料、風味調味料を提供することができる。
【0038】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、これらの実施例に本発明は限定されるものではない。
(風味原料の製造)
【実施例1】
【0039】
従来の方法によって製造されたかつお節(荒節)50重量%と宗田かつお節(荒節)50重量%を混合し、ハンマーミル(株式会社竹内製作所製ハンマーミル)で平均粒径2mm前後の粉粒状に粉砕し、混合原料片を得た。得られた混合原料500gを、容積5Lのステンレス容器に入れた後、これに水3Lを加えて90℃まで加熱し、90℃の温度に達した後、90℃を保持しながら10分間浸漬した。浸漬後、混合原料片を濾布で固液分離した。この時の混合原料片の平均水分含有量は、水接触前が15.3重量%で、水接触後が58.8重量%であった。
固液分離後の混合原料片は、トレイに薄く並べて棚式熱風乾燥機で80℃、4時間乾燥させることで水分含有量を10重量%前後に調整した。こうして得た乾燥原料片を流動層造粒機へ入れ、並行して液体かつお節エキス70重量%と液体昆布エキス30重量%を予備混合し、これに等量の水を加えて希釈した。流動層造粒機では、送風温度を80℃で送風して乾燥原料片を浮遊懸濁し、その中に希釈したかつお節エキス・昆布エキスを、乾燥風味原料片75重量%に対して25重量%になるようにスプレーし乾燥させてコーティングした。コーティング原料片の最終水分含有量は、9〜11重量%であった。これを実施例1の風味原料とした。
【実施例2】
【0040】
実施例1と同様に、従来の方法によって製造されたかつお節と宗田かつお節を粉砕し、水に接触させて乾燥して乾燥原料片を得た。この乾燥原料65重量%を高速混合機(深江パウテック株式会社製ハイスピードミキサー)へ入れ、並行して粉末かつお節エキス15重量%、粉末昆布エキス7.5重量%、粉末酵母エキス12.5重量%を加えて、主軸(縦)回転数5000rpm、副軸(横)回転数2000rpmで10分間、高速混合させてコーティングした。コーティングした原料片の最終水分含有量は、11〜12.8重量%を得た。このコーティングした原料片20重量%と、従来の方法で製造されたかつお節粉砕片70重量%、宗田かつお節粉砕片10重量%をリボンミキサーで20分間混合し、ポリエチレンテレフタレート製の不織布の袋に8g充填した。これを実施例2のだしパック風味原料とした。
【比較例1】
【0041】
通常の製造方法で製造されたかつお節(荒節)50重量%と宗田かつお節(荒節)50重量%を混合し、ハンマーミル(株式会社竹内製作所製ハンマーミル)で平均粒径2mm前後の粉粒状に粉砕し、混合風味原料片を得た。この混合風味原料片の水分含有量は13〜16重量%であり、これを比較例1の風味原料とした。
【比較例2】
【0042】
通常の製造方法で製造されたかつお節80重量%と宗田かつお節20重量%を混合し、ハンマーミルで平均粒径2mm前後の粉粒状に粉砕し、混合風味原料片を得た。この混合風味原料片の水分含有量は13〜16重量%であり、これをポリエチレンテレフタレート製の不織布の袋に8g充填した。これを比較例2のだしパック風味原料とした。
【実験例1】
【0043】
(風味原料から抽出した「だし」の比較評価)
実施例1及び比較例1の風味原料を、それぞれ60gづつ容積3Lのステンレス容器に入れ、これに2Lの水を加えて、95℃で20分間加熱して、「だし」を抽出した。その後、濾布で上澄み液のみ取り出して「だし」を得た。この「だし」を訓練されたパネラー10名によって「だし」の風味、特に呈味を比較評価した。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果のように、実施例1のサンプルは、従来製法での風味原料である比較例1に比べて、香りの質感は燻香だけでなく肉質香も感じられ変化すると共に、旨味の力価は強くなった。これは、比較例1の旨味成分がイノシン酸ナトリウムだけであるのに対して、実施例1では、かつお節のイノシン酸ナトリウムに加えて、昆布エキスなどのアミノ酸が付加されているために、味の相乗効果で力価があがったことによるものと考えられる。
【試験例2】
【0046】
(だしパック風味原料から抽出した「だし」の比較評価)
実施例2及び比較例2のだしパック風味原料を、それぞれ1袋(8g重量)を2L容のステンレス容器に入れ、これに700mlの水を加えて、95℃で5分間加熱して、「だし」を抽出する。その後、だしパックを袋ごと取り出して、だしパックに吸収されて持ち出された水の量を計算し、メスシリンダーで補正して「だし」を得た。さらに、比較例2のだしパック風味原料を、1袋(8g重量)を2L容のステンレス容器に入れ、これに700mlの水を加えて、95℃で20分間加熱して、「だし」を抽出し、先と同様にだしパックに吸収されて持ち出された水の量を計算し、メスシリンダーで補正して「だし」(比較例2−2)を得た。これら「だし」を訓練されたパネラー10名によって「だし」の風味、特に呈味を比較評価した。その結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2のだしパックでの短時間での「だし」抽出の結果では、実施例2は比較例2に比べて旨味と呈味のコクや厚みを有している。短時間での「だし」抽出での利用効果が認められた。また、比較例2での通常時間抽出の結果の比較例2−2に比べても、実施例1での短時間抽出での呈味力の強さが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
料理の「だし」を取る風味原料及びだしの素やだしパックと呼ばれる風味調味料は、外食産業や中食産業の発展と共に、さらに需要が増えてきている。かつお節、宗田かつお節などの魚節類や煮干類、乾燥昆布や乾燥しいたけなどの風味原料は、水産物、農産物を簡単に加工したものが多いために、風味原料自体の品質のばらつきが起こり易いのが現状である。さらに、利用される外食産業、中食産業あるいは一般家庭での「だし」取りの簡便化の傾向は、今後もさらに加速的に進んでいくことが予想されている。
【0050】
そうした中で、風味原料あるいは風味調味料に求められる事項、すなわち簡単な操作で「だし」が取れること、短時間で「だし」が取れること、及び取った「だし」の味、香りなどの風味が常に一定で安定であることという需要者の要求を満たすために、本発明の風味原料の製造方法によれば従来の風味原料よりも品質が安定で、短時間で「だし」が取れる風味原料、さらにはその風味原料を主原料とした風味調味料を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常法で製造されたかつお節、宗田かつお節、煮干し、昆布或いはしいたけなどの乾燥した少なくとも一種類の原料を平均粒径1〜5mmに微粉砕する工程、この微粉砕された原料を水溶液に接触させる工程、水溶液に接触させた後に、水分調整する乾燥工程及び水溶液に接触させた粉砕原料に魚節エキス、昆布エキス類などの抽出風味原料濃縮物を表面コーティングする工程を含むことを特徴とする風味原料の製造方法。
【請求項2】
粉砕された原料を接触させるのに使用する水溶液が60〜100℃の温度水溶液であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
原料片の水分含有量が5〜30重量%に調整されることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
粉砕した原料を水溶液に接触させる工程が、原料を水溶液中に浸漬させる方法又は原料に通液する方法で行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項5】
表面コーティングする工程が、流動層造粒機又は高速攪拌機を用いて行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項6】
表面コーティング後の最終水分含有量が5〜12重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により製造された風味原料。
【請求項8】
請求項7記載の風味原料を含む風味調味料。