説明

風船

【課題】 自然環境中において、廃棄された場合に、太陽光による温度、及び紫外線による酸化分解、及びバクテリヤによる生分解の双方を併用でき、しかも当該分解機能を発揮し得る無機物の相対量が少なくて済むような素材による風船の構成を提供すること。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂に、周期率表3A族に属する希土類元素、又は当該元素の酸化物を含有させた素材を採用したことに基づく風船であって、通常希土類としては、セシウム(Ce)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)の何れか又はこれらの組み合わせが選択され、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)を主成分とし、ポリプロピレン(PP)又はポリスチレン(PS)を補充成分として採用しており、しかも、ポリオレフィン系樹脂の相対量を90〜97重量%とし、希土類又はその酸化物の相対量を3重量%とすることによって、前記課題を達成することができる風船。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種イベントにおいて空中に浮遊させるか、又は日常の玩具として使用される風船に関するものである。
【背景技術】
【0002】
風船は、通常プラスチックフィルム又は当該プラスチックフィルムに、紙などの天然素材を積層した素材が採用されているが、空中に浮遊させた場合、又は既に玩具として使用済の場合の何れにおいても、結局プラスチック樹脂の素材が生活環境内に廃棄された状態とならざるを得ない。
【0003】
しかるに、プラスチックフィルムは、天然素材のように、分解し、土壌の一部と化す訳ではないことから、廃棄された風船は、生活環境を汚染する原因となっていた。
【0004】
このような点を改善するため、例えば下記特許文献1、2においては、何れも水溶性プラスチックフィルムを素材としている。
【0005】
しかしながら、水溶性プラスチックフィルムの場合には、樹木の陰、又は建物内などの雨、又は雪と十分接触状態できない場所に廃棄された場合には、必要な分解効果を発揮することができない。
【0006】
このような水溶性プラスチックフィルムの欠点を克服するために、例えば特許文献3においては、光分解性樹脂、又は光分解性と生分解性とを有する成分をプラスチック樹脂に混合させたことによる素材を採用している風船の構成が提唱されており、他方紫外線又は熱によって、十分な分解機能を有する化学分解性ポリオレフィンフィルムの構成が、特許文献4によって提唱されている。
【0007】
特許文献3における光分解機能を有する成分としては、光増感剤(ベンゾフェノン、アセトフェノン、アンソラキノンなど)、金属化合物(塩化鉄等の金属錯体)、ハロゲン化合物(ヘキサブロムアセトン、ジブロムブテン)などが採用されており、光分解性と生分解性とを有する成分としては、デンプン、変性デンプンなどの混合物、又は光官能基を有するモノマーとの共重合などが採用されているが、実際には、光分解又は生分解が十分実現している訳ではない。
【0008】
更には、特許文献4においては、ポリオレフィンフィルムに無機カーボネート、合成カーボネート、霞石閃長岩、タルク、水酸化マグネシウム、アルミニウム3水和物、けいそう土、雲母、天然又は合成シリカ及び力焼粘土の無機物を添加しているが、十分な分解機能を発揮するために、当該無機物の占める割合が40重量%以上である場合が多い。
【0009】
しかしながら、無機物の占める相対量がそのように多量である場合には、浮上することを不可欠としている風船の材料として不適切である。
【0010】
【特許文献1】実開平5−7295号公報。
【特許文献2】特開平8−112458号公報。
【特許文献3】実開平5−63595号公報。
【特許文献4】特表平7−500868号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、自然環境中において、廃棄された場合に、太陽光による温度、及び紫外線による酸化分解、及びバクテリヤによる生分解の双方を併用でき、しかも当該分解機能を発揮し得る無機物の相対量が少なくて済むような素材による風船の構成を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の基本構成は、ポリオレフィン系樹脂に、周期率表3A族に属する希土類元素、又は当該元素の酸化物を含有させた素材を採用したことに基づく風船からなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、少ない相対量の無機物である希土類元素、又は当該元素の酸化物における光分解、更には生分解によって、完全にプラスチックフィルムを二酸化炭素、水、及びバイオマスに分解することによって、生活環境の破壊が生ぜず、たとえ分解時に焼却しても、一切有害物が発生しないような風船を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
予め、本願発明の基本原理について説明するに、プラスチックフィルムとしてポリオレフィン系樹脂フィルムが選択されているのは、密度(比重)が小さい割にはガスバリアー機能が優れていることに由来している。
【0015】
通常ポリオレフィン系樹脂フィルムの分子量は、数十万であって、この段階では、バクテリヤによる分解は不可能であり、太陽光による温度、紫外線又は室内光から発生する紫外線による酸化分解が行われ、部分的に水と炭酸ガスに分解される。
尚、本願発明のフィルムは、機械的圧力を加えた場合においても、酸化分解が生ずるが、風船の場合には、当該圧力によって、酸化分解を生じさせる機会は、比較的乏しい。
【0016】
希土類又はその酸化物を含有した場合、加温又は紫外線によって、酸化分解が生ずる化学上の根拠が必ずしも明らかではないが、結局、希土類又はその酸化物が有している触媒機能に由来するものと考えられる。
【0017】
前記酸化分解によって、ポリオレフィンフィルムの分子量が3万程度に至った場合には、バクテリヤによる分解が可能となり、前記温度、紫外線による酸化分解と併存することになる。
【0018】
前記酸化分解と、バクテリヤ分解との進行によって、最終的には、ポリオレフィンフィルムは、水、二酸化炭素、及びバイオマスに分解される。
【0019】
本願発明の素材であるポリオレフィンフィルムとしては、経済コストが安価であること、更には密度が小さく、浮上し易いことなどの根拠によって、ポリエチレン(PE)が好適に選択される。
但し、風船の強度及びガスバリアー性を考慮し、ポリエチレンを主成分としたうえで、ポリプロピレン(PP)及び/又はポリスチレン(PS)を補充成分として混合させる構成が好適に採用されている。
【0020】
ポリオレフィンフィルムに含有される希土類又は希土類の酸化物は、その種類を問わないが、天然資源として比較的多量に存在し、かつ確保し易いことを考慮したうえで、セシウム(Ce)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)の何れか若しくはこれらの組み合わせ又はこれらの酸化物を選択することを特徴とする実施形態が好適に採用され得る。
【0021】
以下、実施例に即して説明する。
【実施例】
【0022】
実施例においては、ポリオレフィン系樹脂の割合を90〜97重量%とし、希土類又はその酸化物割合を3〜90重量%とすることを特徴としている。
【0023】
ポリエチレンを80重量%、ポリプロピレンを10重量%、ポリスチレンを7重量%とすることによって、これらの合計相対量を97.0重量%とし、酸化セリウム(CeO)を1.0重量%、酸化ランタノイド(La)を1.0重量%、酸化ネオジム(Nd)を1.0重量%を含有することによって、これらの酸化希土類の合計相対量を3.0重量%を含有した素材を風船として作成した。
【0024】
当該風船を屋外に保存し、太陽光に照射させた状態としたところ、55日経過した段階では、占有面積の殆ど全ての形状が崩壊し、かつ相互にクラックが生じており、酸化分解が進行したことが判明した。
【0025】
このように分解した状態のポリオレフィンフィルムを地中に埋設し、かつ保存したところ、プラスチックフィルムは、土壌中のバクテリヤによって分解され、150日後にはポリエチレンの形跡は全く存在しない状態と化した。
【0026】
このような実験結果において、本願発明のように、希土類元素又はその酸化物を添加した場合の分解機能の有効性が証明されている。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、イベント用の風船及び玩具用の風船の双方に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂に、周期率表3A族に属する希土類元素、又は当該元素の酸化物を含有させた素材を採用したことに基づく風船。
【請求項2】
希土類元素として、セシウム(Ce)、イットリウム(Y)、ネオジム(Nd)の何れか又はこれらの組み合わせを選択することを特徴とする請求項1記載の風船。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂として、ポリエチレン(PE)を主成分とし、ポリプロピレン(PP)及び、又はポリスチレン(PS)を補充成分として混合させた素材を採用することを特徴とする請求項1記載の風船。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂の割合を90〜97重量%とし、希土類又はその酸化物割合を10〜3重量%とすることを特徴とする請求項1記載の風船。
【請求項5】
ポリエチレンを80重量%、ポリプロピレンを10重量%、ポリスチレンを7重量%とし、酸化セリウム(CeO)を1.0重量%、酸化ランタノイド(La)を1.0重量%、酸化ネオジム(Nd)を1.0重量%とすることを特徴とする請求項4記載の風船。

【公開番号】特開2007−117355(P2007−117355A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−312761(P2005−312761)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(599051890)株式会社風船工房匠 (13)
【Fターム(参考)】