説明

飛行機の揚力部材を胴体に固定する装置

本発明は、直線移動時および回転時の剛性が軸方向(X)、垂直方向(Z)および横方向(Y)にパラメータ化可能である弾性ジョイント(1)を含む揚力部材(9)を胴体(8)に固定する少なくとも1つの装置を具備する飛行機に関する。特に、これらの弾性ジョイントを介して翼構造を胴体のボディに結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は少なくとも飛行機の揚力部材と胴体の間の結合部に関する。揚力部材とは、飛行機の翼構造または水平尾翼などの揚力面構成部を意味する。より正確には、本発明は、そのような揚力部材を飛行機の胴体構造に固定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機は、飛行時に、翼構造、胴体、およびこれら2つの要素の結合部に影響を与えるような種々の空力応力を受ける。たとえば、翼構造は飛行時に、垂直方向の負荷によりたわむ傾向があり、それにより胴体の側面が圧縮される。同様に、翼構造に圧縮応力および推進応力が加えられ、前記翼構造の下面の伸張および上面の短縮が発生し、胴体の下部に含まれる翼構造のセンター・ボックスにも同様の変形が生じる。飛行機の翼構造と胴体との結合部もまた、翼構造のたわみ、翼構造のたわみ時のエンジンの側面負荷、翼構造のたわみモーメント、空力的負荷、および翼構造のせん断力に由来する力による応力に耐えなければならない。同様に、飛行機の翼構造と胴体との結合部は、胴体の体積全体を変形させる胴体の側壁の圧力および圧縮力による変形に耐えなければならない。
【0003】
現状、飛行機の機械的制約および製造時の制約を考慮して翼構造を胴体に結合することができる種々の固定装置が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、胴体の中央部分の下部に位置する翼構造の場合、十字およびT字形の結合を使用することが知られている。そのために、胴体はその内部体積内に翼構造のセンター・ボックスを組み込み、それぞれの半翼構造が翼構造のセンター・ボックスの右または左隔壁の側面に付加され、そこで固定される。水平十字形によりセンター・ボックスの上面パネルと翼構造とを結合することが可能である一方、水平T字形により下面パネルと翼構造とを結合することが可能である。胴体は水平十字形およびフレームにより翼構造のセンター・ボックスに主に結合される。そのような固定装置のため、胴体の特に中央部分における製造は著しく複雑になる。実際、いくつかの操作時の胴体と翼構造部分との間の変位に前記胴体が追従できるように、胴体構造を適合させることが必要である。また、半翼構造はきわめて複雑であり、全ての下面/上面パネル同士を結合するには多数の固定を必要とする。
【0005】
また「ヨーク・ジョイント」タイプの結合を介して胴体の上部に翼構造を固定する方法も知られている。そのような翼構造は一続きで作製され、作製が終了すると、同じく作製が終了した胴体の上部に付加される。負荷の取り込みが局在していること、および部品点数が多いという2つの理由から、そのようなアセンブリの質量は最適化されていない。またそのような装置は、構造に合わせて寸法推定した飛行の場合に、場合によっては翼構造の後部ロンジュロンに応力が集中するような矢印形低位置翼を有する飛行機に質量上の犠牲を払わずに適用するのは困難である。
【0006】
また、引っ張りボルトによる結合を使用する方法も知られている。しかしながら、そのような結合では翼構造のねじれ応力の胴体への最適化された伝達ができないため、これらの結合では充分ではない。
【0007】
本発明においては、現在使用されている結合と比較して簡略化された、飛行機の胴体と揚力面構成部との結合を作製して胴体と揚力面構成部の間の組み立てを簡易化することがねらいとなっている。本発明による組み立て方法は先行技術のアセンブリよりも短時間かつ簡単であり、それにより特に飛行機の製造コストを低減することが可能である。
【0008】
この目的で、本発明においては、Y方向において機械的に柔軟であるがXおよびZ方向においては剛性の固定具を介して揚力面構成部を胴体のボディに固定する。X、YおよびZ方向とは飛行機座標点を基準とする方向で、Xは飛行機の胴体の長手方向軸であり、Yは幅方向(すなわち横方向軸)であり、Zは垂直軸である。より正確には、飛行機の胴体に翼構造を結合するのにきわめて適したHUTCHINSON社の製造による弾性ジョイントなどを使用するが、これは得られる結合が小振幅の振動および回転運動を抑制するからである。従来、弾性結合は、予備圧縮されたエラストマー・リングが間に挿入された2つの同心チューブで構成される。弾性結合は、特にエラストマー層の厚さを変えることによりおよび/または同心チューブ間に中間リーフを付加することにより、作製を所望する結合が有すべき機械特性に回転時および直線移動時の剛性を適合させるように、パラメータ化が可能であることが有利である。弾性ジョイントの積層化もまた、半径方向の大きな負荷を受けるエラストマーの仕事率を軽減するのに寄与する。たとえば、前記弾性ジョイントの長手軸がY軸に沿って延び、Y軸において直線移動運動が可能になるように、弾性ジョイントを配置することができる。ジョイントのXZ面内での剛性を高め、ひねり時においてはほぼ同じ柔軟性を維持しつつ、半径方向面における変位を制限するように、積層型の、すなわちエラストマー塊内に少なくとも1つの中間リーフを含む弾性ジョイントを優先的に使用する。こうして、翼構造と胴体との間の結合の場合、ファスナすなわち弾性ジョイントをパラメータ化し、Xにおいて若干の回転、およびZにおいてさらに若干の回転ができるようにする。このようにして翼構造はたわむことができるため、Yにおけるファスナの圧縮が可能になり、翼構造と胴体部分との間で運動を別々にすることができる。本発明の固定装置を使用することにより、翼構造は、それが胴体の上部に固定されるようになっている場合であれ下部に固定されるようになっている場合であれ、有利には一続きで作製することができる。一続きとは、アセンブリを胴体に固定する前に翼が翼構造のセンター・ボックスに固定されることを意味する。胴体と垂直尾翼との間の結合の場合、Y軸を中心とする回転を可能にし、X軸およびZ軸を中心とする回転を制限するように弾性結合をパラメータ化する。また、ファスナが弾性を有しているため、組み立てがより簡単でより容易であり、そのことが飛行機の寿命の向上に寄与する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって本発明は、直線移動時および回転時の剛性が軸方向、垂直方向および横方向にパラメータ化可能である弾性ジョイントを含む、揚力部材を胴体に固定する少なくとも1つの装置を具備することを特徴とする飛行機を対象とする。
【0010】
本発明の実施形態の例によれば、以下の追加的特徴の全てまたは一部を実現することが可能である。
− 弾性ジョイントが積層ジョイントである
− 前記ジョイントの長手軸が飛行機の長手方向軸に対して横方向に延びるように前記ジョイントの向きが決められる
− 揚力部材が飛行機の翼構造である
− 弾性ジョイントにより胴体の右サイドおよび左サイドが翼構造のうちの右翼および左翼にそれぞれ結合される
− 翼構造が胴体上で低位置にある
− 弾性ジョイントにより胴体の中央長手方向ビームが翼構造のセンター・ボックスに結合される
− 翼が胴体上で高位置にある
− 翼構造が一体構造である、すなわち翼および翼構造のセンター・ボックスが一続きで作製された後に胴体に固定される
−揚力部材が前記飛行機の水平尾翼である
【0011】
本発明は、以下に続く説明を読み添付の図面を参照することにより、よりよく理解されよう。図面は本発明の非限定的例として示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の固定装置内で使用することができる積層弾性ジョイントの等角図である。
【図2】低位置にある翼構造を備える胴体の中央断面の等角図である。
【図3−4】翼構造と胴体の中央断面との間における本発明による固定の第1の例を示す図である。
【図5】翼構造と胴体の中央断面との間における本発明による固定の第2の例を示す図である。
【図6−7】本発明による飛行機の翼構造と胴体の接続部における弾性ジョイントの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1には本発明の固定装置内で使用することができる弾性ジョイント1の例が示されている。
【0014】
弾性ジョイント1は、アウター・リング2、インナー・リング3、および2つのリング2、3の間に挿入されたリーフ4を含み、3つの同心チューブを形成している。第1のエラストマー層5はアウター・リング2とリーフ4との間に展開し、第2のエラストマー層6は中間リーフ4とインナー・リング3との間に展開する。もちろん、必要に応じて、リーフ4のない弾性ジョイント1、あるいはアウター・リング2とインナー・リング3との間に挿入された複数のリーフ4を含む弾性ジョイント1を使用することも可能である。
【0015】
有利には、図6および図7に示すように、弾性ジョイント1の長手軸Aが飛行機基準の軸Y方向に延びるように固定装置内で弾性ジョイント1の向きが決められ、その結果、揚力部材と胴体との間で得られるジョイント結合ジョイントにより、Yにおける若干の直線移動、Xにおける若干の回転が可能になるとともに、Zにおいてはほぼ不動となることができる(図7)。
【0016】
図2には翼構造9の結合部における胴体8の部分を示したが、前記翼構造9は胴体8の部分の下部に固定される。翼構造9は2つの翼10および11とセンター・ボックス12(図3および図4に図示)を含む。以下に詳細に説明するが、本発明による固定装置により翼部9が部分8に固定される場合には、この翼部は一続きで作製した後、部分9に固定することができる。
【0017】
図3および図4では、見やすくする配慮から、翼10および11は図示しなかった。図3は、横から見た胴体8の中央部分および翼構造のセンター・ボックス12を示し、図4は下方の図である。
【0018】
有利には翼構造9全体を作製する、すなわち、翼10および11を翼構造のセンター・ボックス12の側面壁に固定した後、胴体8の中央部分を前記翼構造9に設置し、それにより、翼構造のセンター・ボックス12を、胴体8の中央部分の下部に設けられた凹部13に格納する。次に、複数の弾性ジョイント1を使用して、翼構造のセンター・ボックス12のアッパー・サイド・レッジ14を胴体の中央部分8の対応する側面壁15に固定する。弾性ジョイント1は単一の長手方向列に配置され、各弾性ジョイントはその長手軸が胴体の長手方向軸に対して横(横断)方向に延びるように配置される。もちろん弾性ジョイント1の縦列を複数用意し重ねるように配置することも可能である。同様に、弾性ジョイント1の列を連続的なものにすること、すなわち翼構造のセンター・ボックス12のアッパー・サイド・レッジ14の長さ全体にわたり弾性ジョイントが一定の間隔で配置されるようにすることが可能である。長さとは、胴体の長手方向軸に対して平行に延びる翼構造のセンター・ボックス12の寸法を意味する。反対に、図5に示すように、弾性ジョイント1の列を断続的なものにすることもできる。この第2の実施形態の例においては、弾性ジョイント1は翼構造のセンター・ボックス12のアッパー・サイド・レッジ14の前部および後部に集中される。前部および後部とは飛行機の進行方向を基準とする方向を意味する。こうすることにより弾性ジョイント1の合計数が減少し、それにより固定装置の総重量が減り、前記弾性ジョイント1が翼構造/胴体結合部の作用ゾーンのレベルに集中する。
【0019】
翼構造のセンター・ボックス12のアッパー・サイド・レッジ14が胴体8の側面隔壁15に固定されると、ベントラル・ビーム16は翼構造のセンター・ボックス12の下側に位置するようになり、その結果、格納部13が閉じられる。ベントラル・ビーム16は、胴体8の長手方向軸に対して平行に延びる長手方向ビームである。翼構造のセンター・ボックス12のローワー・サイド・レッジ17は2つの弾性ジョイント1を介してベントラル・ビーム16に固定される。もちろん、より多数の弾性ジョイント1を使用することができる。胴体8のレベルにおける翼構造の応力の伝達は3つの転移ゾーンを介して行われ、うち2つは胴体8の側面上に位置し、最後の1つはセンター・ベントラル・ビーム16上のレベルに位置する。
【0020】
別の実施形態においては、センター・ビーム16により格納部13を閉じることはしない。同様に、翼構造9が胴体8の中央部分の高位置にある場合には、センター・ビーム16により格納部13を閉じる必要はない。
【0021】
本発明による固定装置内で弾性ジョイント1を使用することにより、一続きの翼構造9を作製することができ、その結果、1回だけで翼構造を胴体8に固定することができるようになる。もちろんこれを3回で行うこと、すなわち翼構造のセンター・ボックス12を胴体8に組み込んだ後、2つの翼10、11のそれぞれを固定するようにすることも可能である。また、エラストマー層5、6が存在することにより弾性ジョイント1が柔軟であるため、胴体8の隔壁15と翼構造9との間が万一若干ずれていてもこれを補正することができる組み立て公差をもつことができる。
【0022】
本発明による固定装置の弾性ジョイント1によりシステムを超静圧的かつ等圧的なものにすることができる。
【0023】
翼構造結合の一環としてのこれらの弾性ジョイント1により、単純かつ位置決めに対して許容性をもつ組み立てを実現しつつ、胴体8と翼10、11との間における変形の適合性を確保することができる。またこれらの弾性ジョイント1は、特にエンジン、システム、トレインの振動を受けて、胴体と翼構造との間で高周波振動をろ過する役割を持つこともできる。
【0024】
図6および図7に示すように、弾性ジョイント1の長手方向軸は飛行機基準の軸Y方向に延びるように弾性ジョイント1の向きが決められ、その結果、Yにおいては低い剛性、XおよびZにおいては高い剛性が得られ、Yにおいて10mm程度の若干の直線移動、Xにおいて1°程度の若干の回転が可能になる。
【0025】
もちろん、固定装置の用途に応じて、回転時および直線移動時における剛性を軸方向、半径方向および横方向において適合させなければならない。弾性ジョイント1の数量および寸法はこれらのジョイントを通過する負荷に応じて変えるのが有利であり、これらの負荷は翼構造毎または水平尾翼毎に変化することがある。特に水平尾翼の場合、Yにおける回転が可能でなければならずXにおいてはほとんど0でなければならない限りにおいて、弾性ジョイントの直線移動および回転における剛性を別々にパラメータ化する。当業者であればそのような適合化は容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0026】
1 弾性ジョイント; 2 アウター・リング; 3 インナー・リング;
4 リーフ; 5 第1のエラストマー層; 6 第2のエラストマー層;
8 胴体; 9 翼構造; 10,11 翼; 12 センター・ボックス;
13 凹部; 14 アッパー・サイド・レッジ; 15 側面壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線移動時および回転時の剛性が軸方向(X)、垂直方向(Z)および横方向(Y)にパラメータ化可能である弾性ジョイント(1)を含む、揚力部材(9)を胴体(8)に固定する少なくとも1つの装置を具備すること、および
弾性ジョイントが積層ジョイントであること
を特徴とする飛行機。
【請求項2】
ジョイントの長手方向軸(A)が飛行機の長手方向軸(X)に対して横方向に延びるように前記ジョイントの向きが決められることを特徴とする請求項1に記載の飛行機。
【請求項3】
揚力部材が翼構造(9)であることを特徴とする請求項1または2に記載の飛行機。
【請求項4】
弾性ジョイントにより胴体の右サイドおよび左サイドが翼構造のうちの右翼および左翼(10、11)にそれぞれ結合されることを特徴とする請求項3に記載の飛行機。
【請求項5】
翼構造が胴体上で低位置にあることを特徴とする請求項3または4に記載の飛行機。
【請求項6】
弾性ジョイントにより胴体の中央長手方向ビーム(16)が翼構造のセンター・ボックスに結合されることを特徴とする請求項5に記載の飛行機。
【請求項7】
翼が胴体上で高位置にあることを特徴とする請求項3または4に記載の飛行機。
【請求項8】
翼構造が一体構造であることを特徴とする請求項3から7のいずれか一項に記載の飛行機。
【請求項9】
揚力部材が前記飛行機の水平尾翼であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の飛行機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2010−524763(P2010−524763A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503559(P2010−503559)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050668
【国際公開番号】WO2008/145892
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(506355257)エアバス フランス (117)