説明

食味・食感に優れた雑穀麺の製造方法および雑穀酒種を用いた雑穀麺

【課題】この発明は、雑穀由来の食味に、雑穀酒種を用いることで味・風味が加味され、食感に優れた雑穀麺の製造方法について確立することを目的とする。
【解決手段】大麦、きび、あわ、黒米、黒豆等の雑穀類・豆類を単数、もしくは複数配合した雑穀類を用い、この雑穀類を粉砕することで得た雑穀粉に米麹と水を加えて発酵させた雑穀酒種材を製造し、この雑穀酒種材を小麦粉等に配合して練り合わせ、所定の太さに切出すことによって麺に仕上げることを特徴とする食味・食感に優れた雑穀麺の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は食味・食感に優れた雑穀麺の製造方法および雑穀酒種を用いた雑穀麺に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小麦粉を主原料とする麺類は、古くから日本人に食され、各地で様々な形で発展を遂げている。また、季節によって主に食べられる麺類が異なり、例えば夏場の素麺、冬場のうどんが代表的である。
麺類の製造は、主原料の小麦粉に水を加え、あるいはこれらに副原材料を配合し、混捏して生地を形成する。そしてこれを延ばし、次いで包丁等で切出すことによって麺が作り出される。
一般的に麺類は、色相・透明感等の外観、硬さ・弾力感・滑らかさ等の食感、味・風味で評価されることが多く、麺の種類によって重要視される項目が異なる。
【0003】
一方、米、あるいは小麦を除く穀物は雑穀類として知られており、栄養機能特性に優れ、近年の健康志向の高まりにより注目すべき食物として取り上げられている。
雑穀類を麺に配合することによって、見た目に素材感が増し、穀物の味・風味が付与した麺に仕上がることが考えられる。
【0004】
これまでに雑穀類・豆類をそのまま、又はこれらを粉砕したものを原材料として製麺した雑穀麺について、雑穀由来の味・風味が特徴となった製品が市場に出ている。しかしながら、雑穀のえぐみが強く感じられ、一般に受け入れ難いものであった。また、雑穀類の存在により口当たりが悪くボソボソとした食感があり、弾力感も乏しい食感であった。
【0005】
麺類の品質向上を狙った製法技術としては、麺質改良剤としてポリソルベートを配合させた麺類の製造方法(特開2004−215543公報、特許文献1参照)や、グルコースポリマーを配合させた麺類の製造方法(特開2007−089407公報、特許文献2参照)が示されているが、上記技術で用いられている麺質改良剤はそのものが食品添加物に指定、または食品添加物に化学処理を施して製造されている。近年の消費者の天然・自然志向に鑑みて、これらの技術は受け入れ難い。

【特許文献1】特開2004−215543公報
【特許文献2】特開2007−089407公報
【0006】
上記課題を解決するため、元来から食品加工技術に利用されている麹を用いて、雑穀を糖化処理した酒種材を製造し、これを麺に配合することとした。この効果により、滑らかさ・硬さ・弾力感が優れた麺に仕上がり、雑穀の甘さも付与され、えぐみが抑えられた雑穀麺を提供できる。
この発明で使用される酒種を配合させた穀物加工品としてはパン類があるが、酒種を麺類に適用した例はこれまでに存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、雑穀由来の食味に、雑穀酒種を用いることで味・風味が加味され、食感に優れた雑穀麺の製造方法および雑穀酒種を用いた雑穀麺を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明での食味・食感に優れた雑穀麺の製造方法は、まず、大麦、きび、あわ、黒米、黒豆等の雑穀類・豆類を単数、もしくは複数配合した雑穀類を用い、この雑穀類を粉砕することで得た雑穀粉に米麹と水を加えて発酵させた雑穀酒種材を製造する。次いで、この雑穀酒種材を小麦粉等に配合して練り合わせ、所定の太さに切出すことによって麺に仕上げることを特徴とするものである。
また、前記雑穀麺の製造方法に基づいて雑穀酒種材を配合させ、新規な雑穀酒種を用いた雑穀麺を得ることをも特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
この発明により、雑穀粉を原材料とする酒種を製造し麺に配合することで、雑穀が有する素材感と味・風味のある特徴に加え、酒種によって滑らかさ・硬さ・弾力感等の食感が優れ、えぐみを抑えた食味も特徴とする雑穀麺が製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】十六穀酒種材の発酵開始から発酵終了時点の糖度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下この発明の食味・食感に優れた雑穀麺の製造方法、および雑穀酒種を用いた雑穀麺の実施の形態について、図面および実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
*十六穀麺
(原材料の調製)
雑穀粉として十六穀粉を採用した。原材料は株式会社はくばく製「十六穀ブレンド」の雑穀類・豆類を使用した。この「十六穀ブレンド」には、もちあわ、発芽玄米、黒米、黒豆、アマランサス、たかきび、キヌア、小豆、黒ごま、白ごま、はと麦、赤米、もちきび、大麦、とうもろこし、ひえの16種類が配合されている。これらを衝撃式粉砕機によって0.5mm以下の粒度になるように粉砕した。
乾燥米麹はコーヒーミルにて粗粉砕したものを使用した。
【0013】
(十六穀酒種材の調製)
十六穀酒種材の配合条件を表1に示す。十六穀粉70重量%に対し、粉砕した米麹30重量%を混捏させた酒種原料に原料と同量の加水を行い、55℃で4時間の条件下で発酵させた(糖化十六穀)。発酵開始から発酵終了時点の糖度は図1のように変化した。発酵終了の糖度(Brix%)は20%以上が望ましく、雑穀の甘みが感じられるものとなった。発酵させた糖化十六穀を放冷し、次いで麹菌による発酵工程を止めるため5分間の煮沸処理を行い、十六穀酒種材を得た。

【表1】

【0014】
(十六穀麺の製造)
十六穀酒種を用いた麺の配合条件を表2で示す。十六穀酒種材に含まれている十六穀粉を10重量%、20重量%、30重量%配合した麺を製造した。加水量は、十六穀酒種材を用いた量を考慮し、製麺時、原材料部に対して40重量%となるように調整した。これらを混捏して生地を形成させ、次いで生地を圧延させた。表3で示した麺線形態に切り出し、常法の乾燥工程を経て半生麺の製品として仕上げた。

【表2】


【表3】

【0015】
[結果]
実施例A、B、Cの十六穀麺の茹で上がった状態について、穀物類のホシが飛んでおり良好な色相であった。十六穀酒種材の配合量が増えるほど、黒い麺に仕上がることが観察された。十六穀酒種材が30重量%と多い実施例Cにおいて、麺表面部の荒れ(茹で溶け)が観られはじめた。味・風味については、穀物由来の甘さが強く感じられるものであり、風味も豊かであった。十六穀酒種材の配合量が増えるほど、味・風味が強いものとなった。食感について、もちもちとした弾力感の強い食感を有し、麺として良好なものであった。
実施例A〜Cにおいて、十六穀酒種材の配合は20重量%が最も良好であった。
【0016】
[比較例との評価]
表2で記した配合条件において、比較例1に対して実施例Bとの試食評価をした。6名のパネラーにより、硬さ・弾力感の強弱について評価した。その結果を表4に示す。強い評価はプラス、弱い評価はマイナスと示す。
また、食感の良し悪しについても試食評価した。評価項目を以下に示し、その結果を表5に示す。
【0017】
(評価項目)
食感評価 : 硬さ、弾力感、滑らかさ
食味評価 : 味・風味

【表4】


【表5】


表4により、比較例1と比較すると実施例Bの十六穀麺は硬さが抑えられ、弾力感が強くなる食感の傾向となった。また表5から、食味食感の評価は、硬さ・弾力感・滑らかさの何れの項目とも基準品より良好な評価であった。また、味・風味も好ましく酒種材から付与された味・風味があるものと考えられた。
一方、穀物由来のえぐみは抑えられた食味に仕上がり、味・風味の評価に繋がった。
【実施例2】
【0018】
*もちきび麺
(原材料の調製)
もちきびを衝撃式粉砕機によって0.5mm以下の粒度になるように粉砕し、もちきび粉を得た。
段落[0011]の原材料の調製のときと同様に、乾燥米麹はコーヒーミルにて粗粉砕したものを使用した。
【0019】
(もちきび酒種材の調製)
もちきび酒種材の配合条件を表6に示す。もちきび粉70重量%に対し、粉砕した米麹30重量%を混捏させた酒種原料に原料と同量の加水を行い、前述の条件と同様に55℃で4時間の条件下で発酵させた(糖化もちきび)。発酵させた糖化もちきびを放冷し、次いで麹菌による発酵工程を止めるため5分間の煮沸処理を行い、もちきび酒種材を得た。

【表6】


(もちきび麺の製造)
もちきび酒種を用いた麺の配合条件を表7で示す。表2と同様に、加水量は、もちきび酒種材を用いた量を考慮し、製麺時、原材料部に対して40重量%となるように調整した。これらを混捏して生地を形成させ、次いで生地を圧延させた。表3で示した麺線形態に切り出し、常法の乾燥工程を経て半生麺の製品として仕上げた。

【表7】

【0020】
[結果]
表7で記した配合条件において、比較例2に対して実施例Dとの試食評価をした。6名のパネラーにより、硬さ・弾力感の強弱について評価した。その結果を表8に示す。強い評価はプラス、弱い評価はマイナスと示す。
また、食感の良し悪しについても試食評価した。評価項目を以下に示し、その結果を表9に示す。
【0021】
(評価項目)
食感評価 : 硬さ、弾力感、滑らかさ
食味評価 : 味・風味

【表8】


【表9】


表8より、基準品と比較すると実施例Dのもちきび麺は硬さ、弾力感とも強くなる評価となった。また表9から、食味食感では、硬さ・弾力感・滑らかさの何れの項目とも基準品より良い評価を受けた。基準品ではパサパサとした食感があったが、実施例Dのもちきび麺ではもちもちとした食感が良好であった。また、酒種材から感じられる味・風味があり、もちきび由来の味・風味に加えより深みのあるものとなった。
一方、もちきび由来の青臭さは酒種材にすることで抑えられ、食べ易い味となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦、きび、あわ、黒米、黒豆等の雑穀類・豆類を単数、もしくは複数配合した雑穀類を用い、この雑穀類を粉砕することで得た雑穀粉に米麹と水を加えて発酵させた雑穀酒種材を製造し、この雑穀酒種材を小麦粉等に配合して練り合わせ、所定の太さに切出すことによって麺に仕上げることを特徴とする食味・食感に優れた雑穀麺の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した雑穀麺の製造方法に基づいて雑穀酒種材を配合させたことを特徴とする雑穀酒種を用いた雑穀麺。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−92153(P2011−92153A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251902(P2009−251902)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(592211688)株式会社はくばく (9)
【Fターム(参考)】