説明

食害防止装置及び食害防止工法

【課題】鹿等の草食動物による食害の根本的な解決に寄与する食害防止装置及び食害防止工法を提供すること。
【解決手段】地面を覆うように配置される有孔板1と、有孔板1を地面から離間させ、有孔板1と地面との間に植物生育空間Sを形成するためのスペーサ2と、地面上に配置され、スペーサ2に接合または連設されてスペーサ2が地中に沈み込むのを防止する荷重分散材3とを備え、植物生育空間Sにおいて生育した植物が有孔板1の孔1aを通って伸長することができるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、鹿等の草食動物による食害を防止するための食害防止装置及び食害防止工法に関する。なお、ここでいう草食動物とは、一般に言う草食動物に限らず、植物を摂食して食害を及ぼす哺乳動物全般をも指す。
【背景技術】
【0002】
法面等の植生を鹿等の草食動物から保護することは、法面の侵食抑制の面から重要であり、これまで種々の方法が検討されている。その一方法として、特許文献1には、斜面上に敷設されることになる植生帯と、この植生帯の表面側に部分的に取り付けられて、植生植物の動物による食害を防止する網体との間に、高さ保持部材を挿入することにより、縦断面が三角形となる保護空間を形成する技術が開示されている。
【0003】
上記技術によれば、保護空間内に位置する植生植物の根や茎は保護され、また、野生鹿は不安定になっている網体上を歩くことができず、奥の方にも生えている植生植物を食することができなくなるとの記載が特許文献1にはある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−165431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように鹿が歩けないような不安定な網体を山間部等に設置することは、鹿の生息地を奪ってしまうことに繋がり、生息地を奪われた鹿は新たな生息地を求めて他の地域へ移動し、そこで食害をもたらす。従って、引用文献1記載の技術では食害の根本的な解決を図ることはできない。また、鹿と同様に人間の歩行も困難となってしまうため、設置後の植生推移調査などの際に危険が生じる場合も有る。
【0006】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、鹿等の草食動物による食害の根本的な解決に寄与する食害防止装置及び食害防止工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る食害防止装置は、
地面を覆うように配置される有孔板と、
前記有孔板を前記地面から離間させ、前記有孔板と前記地面との間に植物生育空間を形成するためのスペーサと、
前記地面上に配置され、前記スペーサに接合または連設されて該スペーサが地中に沈み込むのを防止する荷重分散材とを備え、
前記植物生育空間において生育した植物が前記有孔板の孔を通って伸長することができるように構成されている(請求項1)。
【0008】
上記食害防止装置において、前記荷重分散材が、前記地面を覆う有孔板状または網状の部分を有していることが好ましい(請求項2)。
【0009】
また、上記食害防止装置が、前記保護エリアの地中に向けて打設され、前記有孔板、前記スペーサまたは前記荷重分散材に当接する固定部材を備えていてもよい(請求項3)。
【0010】
一方、上記目的を達成するために、本発明に係る食害防止工法は、請求項1〜3の何れか一項に記載の食害防止装置を地面に設置する(請求項4)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1〜4に係る発明では、鹿等の草食動物による食害の根本的な解決に寄与する食害防止装置及び食害防止工法が得られる。
【0012】
すなわち、請求項1〜4に係る発明では、植生植物の生長点を有孔板の下方に形成される植物生育空間内に位置させて保護するようにすれば、植生植物に対する鹿等の草食動物による食害や踏み荒らしを確実に防止することができる。そして、施工後の食害防止装置に、人や鹿等が上に載っても変形しない程度以上の強度(保形性)を持たせれば、食害防止装置によって人や鹿等の移動が妨げられないので、施工性が向上するのみならず、植生植物において有孔板の孔よりも外側に伸長した部分(茎や葉)を鹿等が摂食することを許容して、鹿等との共生を積極的に図ることができ、鹿等が食害防止装置の設置エリアから他の地域に移動して、その地域で新たに食害をもたらすというようなことを無くして、食害の根本的な解決にも繋がる対策をとることも可能となる。
【0013】
しかも、請求項1〜4に係る発明では、食害防止装置の施工直後から、有孔板は地面を覆い、荷重分散材は地面を押圧することになるので、風雨による地面の侵食を極めて効果的に抑制することができる。
【0014】
また、請求項2に係る発明では、食害防止装置の設置後において、荷重分散材に植生植物が絡み易く、従って、草の緊縛力によって食害防止装置は地面に強固に一体化されることになり、その設置安定性は優れたものとなる。しかも、有孔板の孔から露出した植物の端部を鹿等がくわえて引っ張っても、荷重分散材に絡まった植物は根元から抜けてしまう(根こそぎ食べられる)ことはなく、荷重分散材との接触部分等(中間部分)で切れるに止まる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る食害防止装置及び食害防止工法の構成を概略的に示す説明図である。
【図2】(A)及び(B)は、前記食害防止装置の構成を概略的に示す分解斜視図及び縦断面図である。
【図3】前記食害防止装置の変形例の構成を概略的に示す縦断面図である。
【図4】前記食害防止装置の他の変形例の構成を概略的に示す縦断面図である。
【図5】前記食害防止装置の別の変形例の構成を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
本実施形態に係る食害防止装置は、例えば、山間部の平地や斜面(法面)等に設置され(図1参照)、草食動物(例えば鹿等の大型草食動物)による食害の防止を図るためのものである。
【0018】
そして、食害防止装置は、図1、図2(A)及び(B)に示すように、地面を覆うように配置される有孔板1と、有孔板1を地面から離間させ、有孔板1と地面との間に植物生育空間Sを形成するためのスペーサ2と、地面上に配置され、スペーサ2(装置下部)が地中に沈み込むのを防止する荷重分散材3とを備えている。
【0019】
有孔板1は、その上を人や鹿等が歩ける程度以上の強度を有していることが望ましく、その素材としては例えば樹脂(合成樹脂及び天然樹脂を含む)又は金属を用いることができ、短期的あるいは長期的に分解する分解性のものであってもよいし、非分解性のものであってもよい。本実施形態では、有孔板1として、市販の合成樹脂製の簀の子(縦横共にに50cm)を用いる。
【0020】
スペーサ2は、図1及び図2(A)に示すように、本実施形態では有孔板1と同等の長さを有する略直方体形状の木材(厚さ2cm、高さ8cm、長さ50cm)からなり、有孔板1の長手方向に沿って延びるスペーサ2が所定間隔(例えば5〜10cm間隔)置きに複数(図示例では5本)設けられている。
【0021】
荷重分散材3は有孔板状の部材であり、本実施形態の荷重分散材3は有孔板1と同一物(市販の合成樹脂製の簀の子)である。そして、荷重分散材3は、スペーサ2に加わる荷重を分散させてスペーサ2(装置全体)の沈み込みを防止することができるように、大きな接地面積を有している。具体的には、荷重分散材3は、食害防止装置の施工面積の5〜50%に相当する接地面積を有していることが望ましい。これは、荷重分散材3の接地面積が施工面積の5%未満であると荷重分散機能(装置全体の沈み込み防止機能)が良好に発揮されず、50%より大きいと緑化(植生)面積が十分に確保されなくなるためである。
【0022】
そして、各スペーサ2は、有孔板1の下面(地面に対向する面)及び荷重分散材3の上面(地面に対向する面とは逆側の面)にそれぞれ接合(本実施形態では接着剤により接着)され、これにより、有孔板1と、各スペーサ2と、荷重分散材3とは一体化されている。
【0023】
上記構成の食害防止装置は、食害から保護しようとする植生エリア(地面上)に運搬・配置された後、例えばアンカーピン等の固定部材(図示していない)の打設によって地面に固定され、これにより、食害防止装置の設置(食害防止工法)が完了する。尚、本実施形態の食害防止装置は、比較的軽量であるので、施工地までの運搬作業や施工地における設置作業(すなわち、本実施形態に係る食害防止工法)を、低労力で行うことができる。
【0024】
尚、前記固定部材は、地中に向けて打設された際に、有孔板1、スペーサ2または荷重分散材3に当接(係止)することにより食害防止装置を地面に固定することができるように構成されていればよく、固定部材としてはアンカーピンの他に杭等を用いることもできる。
【0025】
そして、地面に設置された食害防止装置は、全体として、人や鹿等に踏まれても形状を保てる強度(保形性)を有しており、施工性の点からは、食害防止装置が設置される地面は予め整地されていることが好ましい。尚、食害防止装置は全体として100kgf/cm2 以上の曲げ強度を有することが、鹿等の歩行性の点で好適である。
【0026】
上記のように食害防止工法が行われ食害防止装置が設置されたエリア(食害防止エリア)では、有孔板1の下方の植物生育空間Sにおいて荷重分散材3を避けて生育した植物が、やがて有孔板1の孔1aを通って伸長するまでになる(図1参照)。
【0027】
すなわち、図1、図2(A)及び(B)に示すように、有孔板1には多数の孔1aが設けられている。そして、各孔1aの縦横を約1cm以上約5cm以下(各孔1aの面積を1cm2 以上25cm2 以下)とするのが好ましく、特に約3cm以下(各孔1aの面積を10cm2 以下)とすることが好適である。孔1aの縦横が約1cm(孔1aの面積が1cm2 )未満では植物の成長に支障をきたし、約5cm(孔1aの面積が25cm2 )を超えると鹿等の蹄が孔1aに入ってしまいその歩行の障害となる(鹿等が有孔板1の上をスムースに移動できなくなる)。また、有孔板1に対する孔1a全体の面積比率は25〜90%とすることが望ましく、この範囲よりも小さいと植物の成長に不具合が生じ、逆に大きいと鹿等の歩行に耐え得る強度を有孔板1に持たせるのが困難となる。尚、図示例では孔1aの形状は略矩形状であるが、これに限らず円形状等でもよい。
【0028】
また、一般的な植物は鹿等に根こそぎ食べられると再生不能となるが、例えば、トールフェスクなどの牧草は、地上約2cmにある生長点より上側の部分を食べられても再生可能である。従って、植物の成長を確保するには、植物の再生に不可欠な生長点を保護すればよいのであり、本実施形態では、植物の生長点を保護するために、孔1aを、鹿等の草食動物が孔1aから口を入れて植生植物を根こそぎ摂食できない位の大きさとしてある。
【0029】
具体的には、スペーサ2及び荷重分散材3に支持された有孔板1の地面からの平均離間距離(平均浮設高さ)は30cmであることを考慮して、各孔1aを、縦横7cmの矩形状に形成してある。すなわち、各孔1aの位置、大きさ、形状等は、植物の成長に支障をきたさず、鹿等の歩行を困難にせず、必要な強度を有孔板1に付与することができる範囲において、保護しようとする生長点の位置や、有孔板1の平均浮設高さ等を考慮して適宜に設定すればよく、要は、各孔1aを植生植物が通れ、かつ、少なくとも鹿等の草食動物が孔1aから口を入れて植生植物を根こそぎ摂食できないようにしてあればよい。
【0030】
本実施形態の食害防止装置では、植生植物の生長点を有孔板1の下方に形成される植物生育空間S内に位置させて保護するので、植生植物に対する鹿等の草食動物による食害や踏み荒らしを確実に防止することができる。
【0031】
また、施工後の食害防止装置は、人や鹿等が上に載っても変形しない程度以上の強度(保形性)を有し、人や鹿等の移動を妨げないので、施工性が向上するのみならず、植生植物において有孔板1の孔1aよりも外側に伸長した部分(茎や葉)を鹿等が摂食することを許容して、鹿等との共生を積極的に図ることができ、鹿等が食害防止装置の設置エリアから他の地域に移動して、その地域で新たに食害をもたらすというようなことを無くして、食害の根本的な解決にも繋がる対策をとることも可能とする。
【0032】
例えば、食害防止装置を林道の道路わきの法面に設置した場合には、鹿等は地面から届く範囲(食べ易い範囲)の植生植物の有孔板1の孔1aよりも外側に伸長した部分を摂食し、いわば刈り込みを行ってくれるので、植生植物が道路に向かって大きく飛び出して幅員を狭めたり視界を遮ってしまうことがなく、林道管理における草刈り労力の低減を図ることもできる。
【0033】
また、本実施形態の食害防止装置では、その設置後において、簀の子からなる荷重分散材3に植生植物が絡み易く、従って、固定部材による固定だけでなく、草の緊縛力によっても食害防止装置は地面に強固に一体化されることになり、その設置安定性は優れたものとなる。しかも、有孔板1の孔1aから露出した植物の端部を鹿等がくわえて引っ張っても、荷重分散材3に絡まった植物は根元から抜けてしまう(根こそぎ食べられる)ことはなく、荷重分散材3との接触部分等(中間部分)で切れるに止まる。
【0034】
また、本実施形態の食害防止装置及び食害防止工法では、施工直後から有孔板1は地面を覆い、荷重分散材3は地面を押圧することになり、特に荷重分散材3には植生植物が絡むこともあって、風雨による地面の侵食を極めて効果的に抑制することができる。
【0035】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0036】
上記実施の形態では、有孔板1とスペーサ2と荷重分散材3とは互いに別体に成形されているが、スペーサ2は、有孔板1の一面側(下面側)に連設されていても(有孔板1とスペーサ2が一体成形されていても)よく、同様に、荷重分散材3は、スペーサ2の一面側(下面側)に連設されていても(荷重分散材3とスペーサ2が一体成形されていても)よい。
【0037】
上記実施の形態では、荷重分散材3はスペーサ2の下部を支持しているが、荷重分散材3がスペーサ2の下部以外の部位(例えば中間部位)を支持するように構成されていてもよい。
【0038】
上記実施の形態では、食害防止装置を地面上に直接設置する。しかし、食害防止工法が施工される地面は、必ずしも水分に富んでいるとは限らず、むしろ、硬質土壌や軟岩地などのように植物の生育環境が劣悪である場合が多い。このような場合、例えば、図3に示すように、食害防止装置の下側に、保水性を有する種子や肥料等の植生基材4が付着した薄綿シート5と、ジオテキスタイルネット(グリッド材)6とを敷設すれば、緑化の早期化や確実化を図ることができる。
【0039】
ここで、ジオテキスタイルネット6は、例えば、ポリエチレンやポリエステルなどの合成高分子材料を素材とするものであり、強度が1t/m〜8t/m程度、重量が200g/m2 〜300g/m2 程度で、その目合いが例えば7〜30mmのものであり、図示していない受圧板やアンカーピン等により、地面に固定される(例えば、特開2001−164576号公報参照)。
【0040】
この場合、荷重分散材3を省略し、スペーサ2の下部をジオテキスタイルネット6の目合いに差し込むことにより、スペーサ2とジオテキスタイルネット6とを接合(連結)するようにしてもよく、この場合にはジオテキスタイルネット6あるいは薄綿シート5が荷重分散材としての機能を発揮することになる。
【0041】
そして、上記薄綿シート4やジオテキスタイルネット6に加えて、あるいはこれらに代えて、保水性や遮光性等、適宜の性能を有する公知の植生マットや椰子繊維ネット等を敷設するようにしてもよく、あるいは公知の植生基盤材(肥料や植物種子等)を地面に吹付けした上に、食害防止装置を設置するようにしても同様の効果が得られる。
【0042】
また、上記実施の形態の荷重分散材3は、簀の子よりなるので、植生植物が絡み易く、植生植物が荷重分散材3に絡むことによって種々の効果が得られることは上述した通りである。そして、植生植物3が絡み易いという点から、荷重分散材3は、地面を覆う有孔板状または網状の部分を有していることが望ましく、同様の理由から、植物生育空間Sの内部に、植物が絡み易い部分が存在することが望ましい。そのような部分は、鹿等の口が届かないような地面に近接した位置にあるのが好ましいが、例えば、図4に示すように、スペーサ2を中空で多数の孔2aを有する筒状体あるいは箱状体によって構成しても得ることができる。
【0043】
また、図5に示すように、上下2枚の突起7付き有孔板8を、突起7を相対させて組み合わせることにより、食害防止装置を構成するようにしてもよい。ここで、突起7の先端部は二又になっており、上下の有孔板8を対向させる際に、下側の有孔板8に対して上側の有孔板8の位相を上下方向の軸まわりに90°ずらしておくことにより、下側の有孔板8の各突起7に上側の有孔板8の各突起7を差し込んで連結させることができる。そして、この場合、上側の有孔板8は、上記実施の形態における有孔板1にスペーサ2を連設したものに該当し、下側の有孔板8は、上記実施の形態における荷重分散材3に該当するものとなる。
【0044】
そして、この場合、下側の有孔板8に代えて、上側の有孔板8の突起7が嵌合する雌孔を有する有孔板(図示していない)等を用いるようにしてもよい。
【0045】
なお、上記変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0046】
1 有孔板
1a 孔
2 スペーサ
3 荷重分散材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面を覆うように配置される有孔板と、
前記有孔板を前記地面から離間させ、前記有孔板と前記地面との間に植物生育空間を形成するためのスペーサと、
前記地面上に配置され、前記スペーサに接合または連設されて該スペーサが地中に沈み込むのを防止する荷重分散材とを備え、
前記植物生育空間において生育した植物が前記有孔板の孔を通って伸長することができるように構成されている食害防止装置。
【請求項2】
前記荷重分散材が、前記地面を覆う有孔板状または網状の部分を有している請求項1に記載の食害防止装置。
【請求項3】
前記保護エリアの地中に向けて打設され、前記有孔板、前記スペーサまたは前記荷重分散材に当接する固定部材を備えた請求項1または2に記載の食害防止装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の食害防止装置を地面に設置する食害防止工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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