説明

飼料用塩成形体及びその製造方法

【課題】食品加工残渣から回収した食塩を利用した、強度が高く、且つ過酸化物が形成されるのを抑制できる塩成形体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】食品加工残渣から分離した食塩と、粗タンパクとからなる食塩組成物を加温して圧縮固化させて得られる飼料用塩成形体であり、有機性の酸化還元性物質を酸化還元当量として10meq/kg以上含有し、かつ粗タンパクを0.1〜10重量%含有することを特徴とする飼料用塩成形体及び食塩組成物を成形用型に充填する前に50〜110℃に加温し、もしくは、充填した後に50〜110℃に加温し、その後、0.1〜10kg/cm(0.01〜1MPa)の圧力で圧縮固化し、成形することを特徴とする飼料用塩成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飼料用塩成形体及びその製造方法に関し、詳しくは食品加工残渣から回収した食塩を利用した飼料用塩成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜の飼料用塩成形体としては、特許文献1、2に記載のようなものが知られている。
【0003】
特許文献1は、原料塩に、α−デンプンと脂肪酸カルシウムを添加して、型からの離形性に優れ、低圧圧縮成型でも耐水性や強度に優れる塩圧縮形成体を製造している。
【0004】
特許文献2は、原料塩に、低融点の脂肪酸を添加して、500〜1000kg/cmで加圧して、唾液によって崩壊しない固形塩を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−289736号公報
【特許文献2】特公昭42−15912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、梅干や漬物などを製造する際に、下漬け工程・本漬け工程を含め、大量の食塩が使用されており、これらの食品加工残渣として残される液は、漬物材料に含まれるミネラル類や、アミノ酸などが溶解している一方で、飽和状態の食塩を含有している。
【0007】
特許文献1、2には、かかる食品加工残渣から回収した塩を飼料用塩成形体として利用する技術は開示していない。
【0008】
本発明者は、かかる食品加工残渣から回収した塩を飼料用塩成形体として利用することを試み、鋭意検討した結果、食品加工残渣から回収した塩には、粗タンパク成分や粗脂肪成分が含まれることが多く、これらの成分が含まれる回収塩を加熱、圧縮して、飼料用塩成形体を成形しようとしたところ、加熱過程で、粗タンパク成分や粗脂肪成分を酸化して過酸化物を生成し、飼料に適さない問題があることがわかった。
【0009】
そこで、本発明の課題は、食品加工残渣から回収した食塩を利用した、強度に優れ、且つ過酸化物が形成されるのを抑制できる塩成形体及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0012】
(請求項1)
食品加工残渣から分離した食塩と、粗タンパクとからなる食塩組成物を加温して圧縮固化させて得られる飼料用塩成形体であり、有機性の酸化還元性物質を酸化還元当量として10meq/kg以上含有し、かつ粗タンパクを0.1〜10重量%含有することを特徴とする飼料用塩成形体。
【0013】
(請求項2)
前記有機性の酸化還元性物質が、前記食品加工残渣に由来することを特徴とする請求項1記載の飼料用塩成形体。
【0014】
(請求項3)
食品加工残渣から分離した食塩と、粗タンパクを0.1〜10重量%含有する食塩組成物を成形用型に充填する前に50〜110℃に加温し、もしくは、充填した後に50〜110℃に加温し、その後、0.1〜10kg/cm(0.01〜1MPa)の圧力で圧縮固化し、成形することを特徴とする飼料用塩成形体の製造方法。
【0015】
(請求項4)
前記食塩組成物が、有機性の酸化還元性物質を酸化還元当量として10meq/kg以上含有することを特徴とする請求項3記載の飼料用塩成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、食品加工残渣から回収した食塩を利用した、強度が高く、且つ過酸化物が形成されるのを抑制できる塩成形体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
<原料塩>
本発明において、成形体の主な原料になる食塩組成物には、食品加工残渣から回収された食塩を含む。
【0019】
食品加工残渣は、梅干や、漬物を製造する際の下漬け、本漬けに用いられた漬液であり、漬け上げ後調味液、梅酢などが含まれる。
【0020】
食品加工残渣から食塩を回収する方法としては、食品加工残渣を減圧加熱濃縮して溶解している食塩を析出させ、遠心分離機などで固形分(析出した食塩)を回収する方法などが挙げられる。
【0021】
前述のような減圧加熱濃縮して食塩を析出させ、遠心分離機で回収された食塩は、食品加工残渣が含有する漬物材料に由来するカリウム、鉄分などの無機質、γアミノ酪酸、アスパラギン酸、アラニン、スレオニンなどのアミノ酸類、その他ポリフェノール類などを含む。
【0022】
本発明において、食塩組成物は、粗タンパクを含有する。粗タンパクの含有量は0.1〜10重量%の範囲となるように調整する。食塩組成物中に元来含まれている場合には添加量を少なくできる。
【0023】
粗タンパクとしては、卵白や肉汁などの各種タンパク含有液が挙げられ、中でも卵白が好ましい。
【0024】
これらのタンパク成分は、食塩中で腐敗することなく存在する。食塩中のタンパク成分は、家畜にとっては栄養成分でもある。
【0025】
本発明において、食塩組成物には、酸化還元性物質を含み、その含有量は、10meq/kg以上である。酸化還元性物質は、食品加工残渣に由来するもののみで上記の当量を満たしてもよいし、あるいは食品加工残渣に由来するもので上記当量を満たさない場合には不足分を添加して上記当量を満たしてもよい。
【0026】
有機性の酸化還元性物質としては、ポリフェノール類をはじめとする物質と、カフェイン酸等その類似物質が含まれる。酸化還元物質は、成形時の加熱により、塩組成物中の粗脂肪酸などの物質が酸化され、過酸化物が形成されるのを防ぐ。
【0027】
本発明において、食塩組成物中には、上記以外に、亜鉛やセレン等家畜の有用成分などを含有することができる。
【0028】
<塩成形体>
上記のように調整された食塩組成物を成形用型に充填する前に50〜110℃に加温し、もしくは、充填した後に50〜110℃に加温し、その後、0.1〜10kg/cm(0.01〜1MPa)、好ましくは0.8〜3kg/cm(0.08〜0.3MPa)の圧力で圧縮固化し、成形する。
【0029】
加温温度は、より好ましくは50〜105℃、さらに好ましくは50〜80℃である。
【0030】
50〜110℃に加温されることにより、食塩組成物に混合された粗タンパクのタンパク質変性により、食塩をつなぎとめる役割をするので、高い強度がもたらされる。
【0031】
タンパク質は、高温で完全に変性させなくても、成形体に強度を付与する効果がある。
【0032】
粗タンパクの添加量は、上記のように0.1〜10重量%に調整され、好ましくは、0.1〜7重量%、より好ましくは2〜6重量%の範囲に調整される。10重量%を超えると、強度は高くなるが、成形体表面に変性したタンパク質が多く析出してしまうので好ましくない。
【0033】
本発明では、添加された粗タンパクが食塩をつなぎとめるので、成形に際して特許文献1や2のような高い圧力を必要せず、0.1〜10kg/cm(0.01〜1MPa)、好ましくは0.8〜3kg/cm(0.08〜0.3MPa)で強度の高い塩成形体を得ることが可能である。
【0034】
成形用型としては、木製、プラスチックコーティングした金属製などの公知のものを使用することができ、公知の圧縮成形機を用いることもできる。
【0035】
以上のように、本発明の塩成形体の製造方法によれば、低い圧力で強度の高い塩成形体を製造することができ、また、製造された塩成形体は、原料塩が漬物材料に由来するカリウム、鉄分などの無機質、γアミノ酪酸、アスパラギン酸、アラニン、スレオニンなどのアミノ酸類、その他ポリフェノール類などにより、10meq/kg以上の有機性の酸化還元性物質を含むので、成形時の熱や圧力によって増加する過酸化物の生成量を抑えることができる。
【実施例】
【0036】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0037】
実施例1
食品発酵残渣から分離した食塩に、粗タンパクとして卵白を0.1重量%添加し、混合しながら50℃に加熱したのち、10cm四方の角型に入れ、1kg/cmの圧力をかけながら室温に冷まし、型から取り出して乾燥させて食塩成形体とした。
【0038】
この成形体は、JIS A1108:2006の圧縮強度試験方法に準拠して行った試験で、10kg/cmの荷重をかけても破損することはなかった。(使用機器:100トン(1000kN)万能試験機(REH−100;島津製作所製))
【0039】
また、搾乳牛に与えたところ、十分な嗜好性を示すと共に、搾乳牛が舐めても成形体の形を崩すこと(崩壊)がなかった。
【0040】
実施例2
実施例1において、粗タンパクを4.5重量%とした以外は同様にして成形体を製造し、強度、搾乳牛への嗜好性と、崩壊の有無を調査した。
【0041】
実施例1と同様に、10kg/cmの荷重をかけても破損することがなく、搾乳牛の嗜好性も高く、崩壊もなかった。
【0042】
実施例3
実施例1において、粗タンパクを6.5重量%とした以外は同様にして成形体を製造し、強度、搾乳牛への嗜好性と、崩壊の有無を調査した。
【0043】
実施例1と同様に、10kg/cmの荷重をかけても破損することがなく、搾乳牛の嗜好性も高く、崩壊もなかった。
【0044】
比較例1
実施例1において、粗タンパク添加しない以外は同様にして成形体を製造し、強度、搾乳牛への嗜好性と、崩壊の有無を調査した。
【0045】
比較例1では、10kg/cmの荷重をかけると崩れてしまった。搾乳牛の嗜好性は高かったが、崩壊してしまった。
【0046】
実施例4
酸化還元物質量が、10meq/kgの食塩を、実施例1と同様に0.1%の粗タンパクを加えて成形し、食塩成形体を得て、食塩成形体の過酸化物価を測定した。
【0047】
酸化還元物質の測定は、Fe(III)を用いる酸化還元適定法によってその酸化還元当量を求めた。
【0048】
過酸化物濃度はヨードメトリーによって測定した。
【0049】
比較例2
食塩を酸化還元物質量が、5meq/kgの食塩とした以外は、実施例3と同様に評価した。
【0050】
実施例4及び比較例2の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品加工残渣から分離した食塩と、粗タンパクとからなる食塩組成物を加温して圧縮固化させて得られる飼料用塩成形体であり、有機性の酸化還元性物質を酸化還元当量として10meq/kg以上含有し、かつ粗タンパクを0.1〜10重量%含有することを特徴とする飼料用塩成形体。
【請求項2】
前記有機性の酸化還元性物質が、前記食品加工残渣に由来することを特徴とする請求項1記載の飼料用塩成形体。
【請求項3】
食品加工残渣から分離した食塩と、粗タンパクを0.1〜10重量%含有する食塩組成物を成形用型に充填する前に50〜110℃に加温し、もしくは、充填した後に50〜110℃に加温し、その後、0.1〜10kg/cm(0.01〜1MPa)の圧力で圧縮固化し、成形することを特徴とする飼料用塩成形体の製造方法。
【請求項4】
前記食塩組成物が、有機性の酸化還元性物質を酸化還元当量として10meq/kg以上含有することを特徴とする請求項3記載の飼料用塩成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−205942(P2011−205942A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75996(P2010−75996)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】