説明

飼料要求率を低下させるまたは生育速度を増加させるためのブタの処置

本発明は、ブタを飼育するのに用いられる飼料要求率を低下させる目的のおよび/またはブタの生育速度を増加させるための、ブタの非治療的処置方法に関する。処置は、少なくとも1種のグリシン化合物をブタに経口投与することを含み、このグリシン化合物は、式(I)またはその塩もしくはエステルに一致し、式中、RおよびRは、独立して、1〜18個、好ましくは1〜6個の炭素原子を含有するアルキル、アルケニル、もしくはヒドロキシアルキルラジカルであるか、またはRおよびRはN原子とともに一緒になって複素環式5員環もしくは6員環を形成する。グリシン化合物は、好ましくはN,N−ジメチルグリシン(DMG)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の剤を用いる、ブタに給餌するために用いられる飼料要求率を低下させるための、および/またはブタの生育速度を増加させるための、ブタの非治療的処置方法、ならびに規定された量の前記剤を含有するブタ用飼料に関する。
【0002】
養豚業界では、不可避的に、ブタの系統用の繁殖技術、ならびに仔ブタ(grower pigs)および仕上げ期のブタ(finisher pigs)の生育速度を増加させるための飼養技術の改善および開発が行われてきた。ブタの飼養方法においては、生育速度および飼料要求率にとくに重点が置かれている。高カロリー飼料により、より低い飼料要求率を達成すること、すなわち、ある量の豚肉を生産するのに必要な飼料の量をより少なく済ませること、が可能になる。しかし、生産コストを下げるために、飼料要求率の更なる低下または生育速度の更なる増加が常に要求されている。
【0003】
実際に、より高いエネルギーまたは栄養価を有する(より高価な)飼料を用いることなく、飼料要求率、すなわち、1kgの生産性(productivity)に必要な飼料の量、の減少を可能にすることは、経済的に非常に重要なことである。生産(production)とは、離乳した仔ブタの体重の増加または生産量の増加である。
【0004】
したがって、本発明の目的は、ブタに給餌するのに用いられる飼料要求率を低下させることができる、すなわち、離乳した仔ブタ/肥育中のブタの場合、ある量の豚肉を生産するのに必要な飼料の量を低減できる、または雌ブタの場合、ある量の仔ブタを生産するのに必要な飼料の量を低減できる、新規なブタの処置方法を提供することである。
【0005】
第1の側面では、本発明は、ブタに給餌するのに用いられる飼料要求率を低下させる目的の、および/またはブタの生育速度を増加させるための、ブタの非治療的処置方法であって、処置がグリシン化合物をブタに経口投与することを含む方法に関し、このグリシン化合物は、下記式I
【化1】


またはその塩もしくはエステルに相当する方法に関し、式中、RおよびRは、独立して、1〜18個、好ましくは1〜6個の炭素原子を含有するアルキル、アルケニル、もしくはヒドロキシアルキルラジカルである、またはRおよびRはN原子とともに一緒になって複素環式5員環もしくは6員環を形成する。
【0006】
第2の側面では、本発明は、少なくとも0.001重量%の前記グリシン化合物を含む、ブタ用飼料に関する。
【0007】
好ましい態様では、本グリシン化合物は、N,N−ジメチルグリシン(DMG)、N,N−ジエチルグリシン、N,N−ジエタノールグリシン、N,N−ジ−n−プロピルグリシン、N,N−ジイソプロピルグリシン、N,N−ジ−n−ブチルグリシン、N,N−ジイソブチルグリシン、N,N−ジ−t−ブチルグリシン、またはその混合物および/もしくは塩もしくはエステルであり、本グリシン化合物は、好ましくは、DMGまたはその塩もしくはエステルである。
【0008】
N,N−ジメチルグリシン(DMG)は、活性分子パンガミン酸(6−O−(ジメチルアミノアセチル)−D−グルコン酸、PA)の一部として、1938年に最初に検出された(Krebs E.T.、Beord N.H.、Malin R.、Int.Red.Med.164、18(1954))。Krebsによる原報は、PAが常に既知のB−ビタミンとともに見出されることを明記しており、この事実は、与えられた(assigned)生物学的機能と合わせて、PAをビタミンB15と見なす理由であると解釈されたが、該物質の欠乏のみに帰し得る病的状態は今までのところ存在しない。ロシアの研究者らは、パンガミン酸カルシウムが、運動選手のパフォーマンス、ならびに心臓血管および肝臓の機能に対して正の効果を有する可能性があることを報告した。更に、ロシアの研究では、パンガミン酸処方が、高強度のX線にさらされたモルモットおよびラットの免疫系の修復にいくらかの影響を及ぼすことが示された(Nizametidinova,G.、Reports of the Kazan Veterinary Institute 112, 100−104(1972))。
【0009】
US−A−3907869は、パンガミン酸カルシウム成分を、ジメチルグリシンおよびグルコン酸カルシウムのエステルとして定義し、PAの利点として、細胞および組織における酸化的代謝を高め、かつ低酸素現象を解消することに加えて、脂質代謝を促進し、かつ解毒剤として作用する能力を記載している。
【0010】
Roger V.KendallおよびJohn W.Lawson、「N,N−ジメチルグリシン(DMG)に関する最近の知見:新世紀の新しい栄養素(Recent Findings on N,N−Dimethylglycine(DMG):A new Nutrient for the New Millenium)」(2000)の論文に記載されているように、パンガミン酸カルシウムは、正常な消化プロセス下では安定ではなく、経口投与後に摂取されたとき急速にDMGに加水分解されるであろう。したがって、これらの著者らはかれらの論文でDMGの既知の効果について記載したとき、DMGがパンガミン酸カルシウムの活性成分であると見なした。
【0011】
WO99/04784は、マイコプラズマまたは他の同様の損傷を引き起こす生物による感染に対する動物の耐性を高めるための、予防薬、とくにベタインまたは関連する生成物の使用について開示している。この特許出願公報に記載されている唯一の例では、仔ブタ期〜仕上げ期の雄のブタの飼料に0.125%のベタインを補ったところ、マイコプラズマ感染により損傷を受ける肺の面積が著しく減少した。また、ベタインの使用により、マイコプラズマ感染に曝露されたときの生育中のブタの生育速度、および飼料要求率のような他のパフォーマンス特性が改善されることも見出された。したがって、WO99/04784は、一義的にベタインの治療的(予防的)使用に関する。DMGについても言及されているが、マイコプラズマ感染に対するブタの耐性を高めるのに好適である可能のある他の予防薬の中の1つにしか過ぎないものとしてである。これらの他の予防薬はただ列挙されているにすぎず、試験は全く行われていない。
WO99/04784に開示されている方法とは対照的に、本発明による方法は、健常ブタの飼料要求率もまた著しく改善され得るように、ブタを非治療的に処置する方法である。
【0012】
Kalmar I.D.らは、9th ESVCN Congress、2005年9月22日〜24日、Grugliaslco(TO)、Italyにおける発表の抄録「ブロイラーにおけるパフォーマンスおよび腹水関連パラメータに対するジメチルグリシンの効果(Effect of dimethylglycine on performance and ascites−related parameters in broiler chickens)」で、DMGが生育中のブロイラーにおける飼料要求率に対してプラスの効果を有することを開示している。しかし、家禽とブタは異なる生理を有しているため、家禽に対する効果からブタに対する効果を推定することはできない。例えば、鳥の肺は堅く、胸腔に固定されており、哺乳類の肺のように呼吸のたびに膨張、収縮しない。更に、鳥類の肺は哺乳類の肺よりも体重に対する割合が低い。これらの鳥類の呼吸器系に特異的な解剖学的および生理学的特徴により、鳥、とくに生育の速い肉用鶏は、肺高血圧症候群(ブロイラー腹水症候群)を発症する傾向が強く、これはブロイラーの最も重大な死因の1つであると考えられている。Kalmarらの抄録に記載されている実験は、まず第1に、腹水に対するDMGの可能性のある効果を評価することを目的としていた。更に、Kalmarらによると、DMGの補給は、ブタについて本明細書で記載しているように、ブロイラーにおける飼料要求率を低下させるが、ブタに関する本発明とは対照的に、体重増加に対しては重大な影響は与えなかった。観察されたブロイラーとブタとの間のDMGの効果および効果の大きさの差は、DMGの作用機序が複数存在するという仮説を支持し、これは標的種の特異的な解剖学的形態、生理、および飼養条件により決定されるものであって、鳥と哺乳類とで表れ方は異なる。
【0013】
Fekete(Fekete S.、Hegedus M.、Sos E.、Magyar Allatorvosok Lapja 34(5)、311−314(1978))はまた、DMGではなく代わりに、D−グルコン酸とDMGとのエステルであるパンガミン酸(ビタミンB15)を食餌に補給することにより、ブロイラーの飼料要求率を低下させることができるかどうかを検証する試験を実施した。Feketeは、体重増加の低減を観察したが、飼料要求率はパンガミン酸による影響を受けなかった。
【0014】
本発明により、DMGをブタに経口投与することによって、ブタ、とくに完全に健常なブタに対して、またその雄ブタおよび雌ブタの両方に対して、飼料要求率を実質的に低下させることができることが見出された。ブロイラーとは対照的に、雄ブタおよび雌ブタの集団の生育速度もまた、DMGの補給により上昇させることができた。これは主に、雄ブタの生育速度の大幅な上昇によるものである。なぜなら、雌ブタの生育速度はむしろ低下したからである。
【0015】
先に述べたように、本発明は、特定の剤をブタに経口投与することにより、ブタに給餌するのに用いられる飼料要求率を低下させる目的のおよび/またはブタの生育速度を増加させるための、ブタの非治療的処置方法、ならびにその剤を含むブタ用飼料に関する。
【0016】
本発明は、あらゆる種類の商業用養豚業(commercial pig operation)に適用可能であるが、主にブタ生育業(growing pig operation)に関する。商業用ブタ生産業(commercial pig production operation)では、群(herd)は典型的にはかなりのストレス下におかれる。周知のように、通常の業界の生育条件は場内における相当な密度を含み、例えば25kg以下の仔ブタ1頭あたり約1.1mオーダーという密度である。更に、このような商業用生育事業における換気は、正確に制御された運用ではないことが多く、加熱および冷却を含む適切な換気の決定は非常に主観的な運用である。更に、食肉処理用ブタの寿命は約6カ月であるが、一方雌ブタは通常3ラウンド後に除かれ、その結果、生育/繁殖が達成される条件における誕生から市場までの全体的運用は、群にとって非常にストレスが多い。更に、その問題を悪化させることであるが、飼育者は、典型的に、推奨された業界の条件の限界を押し広げ、群へのストレスをたやすく増加させる。
【0017】
これらの高パフォーマンスの条件によって、とくに仔ブタにおいて、代謝障害の発生率は既に実際にかなり高くなっており、更に多くの代謝的ストレスまたは酸化的ストレスを引き起こす新規な飼料または生産方法の開発が制限されている。より高い酸化的ストレスは、例えば飼料組成物が、飼料の3重量%超、または4もしくは更には5重量%超という、多くの不飽和脂肪酸を含有するときに生じ、一方高い代謝的ストレスは、ブタがパフォーマンスを上げるために多くのカロリーを摂取させられたときに生じる。飼料組成物に含有される脂肪酸は、遊離脂肪酸、または例えばジグリセリドもしくはトリグリセリドに結合した脂肪酸である。
【0018】
昨今、ブタ用飼料組成物には、魚油のより安価な代用品として、および動物性脂肪のより安全な代用品として、植物性原料由来の脂肪が補給されることが増えている。これは、PCB、ダイオキシン、またはBSE汚染物質のような動物性脂肪に特有の潜在的危険を避けるために、食肉製品に植物性食餌を用いることに対する消費者の要求が高まっているためである。第2の理由は、食肉中のPUFA(多価不飽和脂肪酸)の量を増加させることであり、これは動物用飼料の総エネルギー価を損なうことなく、豚肉の栄養価を改善するものである。この飼料中の植物性脂肪の量の増加の直接的な作用として、食餌誘導性酸化的ストレスが増加し、これは遺伝毒性(DNA損傷)および組織損傷を導く。
【0019】
本発明により、適切で有効な量の、式(I)またはその塩もしくはエステル、例えばカリウム、ナトリウム、またはカルシウム塩に対応する本グリシン化合物、とくにDMGまたはその塩もしくはエステルを、商業用生育事業下で生育されているブタに投与することにより、飼料要求率を低下させることが可能になり、それによって飼料をより効率よく使用することが可能になることが見出された。WO99/04784においてベタインで得られた結果と対照的に、これらの効果はマイコプラズマ肺炎感染の減少によるものではなく、DMGを用いた酸化的ストレスの減少により説明できると思われる。更なる試験では、飼料要求率に対するDMGの効果の誘導が少なくとも部分的に酸化的ストレスの減少によるものであるかどうかを明らかにしなければならない。
【0020】
ブタに投与される本グリシン化合物は、好ましくは、N,N−ジメチルグリシン(DMG)、N,N−ジエチルグリシン、N,N−ジエタノールグリシン、N,N−ジ−n−プロピルグリシン、N,N−ジイソプロピルグリシン、N,N−ジ−n−ブチルグリシン、N,N−ジイソブチルグリシン、N,N−ジ−t−ブチルグリシン、またはこれらの化合物の塩もしくはエステル、例えばナトリウム、カリウム、またはカルシウム塩である。本グリシン化合物はまた、これらの化合物および/またはその塩もしくはエステルの混合物を含んでもよい。最も好ましい本グリシン化合物は、DMGまたはその塩もしくはエステルである。本グリシン化合物は、好ましくは、式(I)に対応する酸、またはその塩である。
【0021】
本グリシン化合物が、DMGのように水溶性である場合、ブタの飲料水中に投与してもよい。しかし、最も好ましくは、本グリシン化合物は、ブタの飼料を介して投与される。
【0022】
本グリシン化合物が添加される基礎食餌は、生産の目的、すなわち、生育、妊娠、または授乳、に応じた栄養的要件を満たす、あらゆる典型的なブタ食餌であってよい。従来の食餌は、種々のタンパク質、炭水化物、ビタミン、およびミネラル源の中から選択されたものを含み、一般に約8〜26重量%の粗タンパク質、2〜12重量%の粗脂肪、および2〜13重量%の粗繊維を含有する。生育用のブタの食餌は、好ましくは、1〜5kg、5〜10kg、10〜20kg、20〜50kg、および50〜110kgの食肉処理用または肥育中のブタの場合の、それぞれ少なくとも18重量%、18重量%、17重量%、14重量%、および12重量%の粗タンパク質含量を有する。生育用ブタの食餌は、更に好ましくは、4〜9重量%の粗脂肪含量、5.5重量%未満の粗繊維含量を有する。成体の、繁殖中雄ブタおよび雌ブタ用の食餌は、好ましくは、3.5〜11重量%の粗脂肪含量、および少なくとも13重量%の粗タンパク質含量を有する。授乳中の雌ブタ用の食餌は、好ましくは、少なくとも13重量%の粗タンパク質を含有する。
【0023】
主たる成分は、一般に、穀物および加工された穀物の副生成物であり、これらは炭水化物および一部のタンパク質を供給する。ダイズ、アルファルファ、トウモロコシグルテン、綿実、ヒマワリ、および他の植物由来のタンパク質食品を用いて、動物副生成物と同様に、食餌に追加のタンパク質を供給することが多い。ブタ飼料組成物には、一般に、種々のビタミンおよびミネラル(通常、本グリシン化合物も補給することができるプレミックスの形で)を補い、糖蜜を添加して、嗜好性を改善し、かつエネルギー水準を上昇させまたはバランスを取る。ブタ飼料組成物は、一般に、15重量%未満、好ましくは14重量%未満の水分含量を有する。一般に、National Research Council、Nutrient Requirements of Swine(第9改訂版、1988)を参照されたい。
【0024】
本発明による飼料は、通常、食肉処理用(肥育中)ブタ用では、少なくとも12.4MJ/kgおよび最大16.7MJ/kg、1〜5kgの食肉処理用(肥育中)ブタ用では、好ましくは少なくとも13.5MJ/kg、5〜50kgの食肉処理用ブタ用では、少なくとも13.6MJ/kg、50〜110kgの食肉処理用ブタ用では、少なくとも13.7MJ/kgの代謝性エネルギー(ME)価を有する。発育中の雄ブタおよび雌ブタ用では、飼料は、通常、少なくとも13.0MJ/kg、好ましくは少なくとも13.6MJ/kgおよび最大14.0MJ/kgの代謝性エネルギー価を有し、妊娠中の雌ブタでは、飼料は通常、少なくとも10MJ/kgのME値を有し、授乳中の雌ブタ用では、少なくとも13.0MJ/kg、好ましくは少なくとも13.4MJ/kgおよび最大15.7MJ/kgのME値を有する。このような高カロリー飼料を用いて、高い生育速度および低い飼料要求率を達成することができる。本グリシン化合物は、好ましくは、少なくとも、その期間中の実際の飼料要求率が4未満、好ましくは3.5未満、より好ましくは3未満となるように選択および飼育されたブタに投与される。本グリシン化合物は、好ましくは、7日間以上、好ましくは14日間以上の期間投与される。
【0025】
本明細書で代謝性エネルギーと称するものは、摂取飼料の総エネルギー量(総カロリー)から、糞便および尿に排出されるエネルギーの量(廃棄カロリー)を減じることにより得られ、実際に組成物の代謝エネルギーを得るためには、各飼料組成物に通常の熱量測定法を適用することができる。一般に、鶏用飼料の代謝性エネルギー価は、それに対する既知のカロリー成分表を基にして得られ、このような既知の表を本明細書で使用して、問題の代謝性エネルギーを得ることができる。見かけの代謝性エネルギー価は、より具体的には、下記式:
AME(MJ/kg)=19.7CP+32.2EE+18.2St+15.9Su+0.5Re
式中:AME=見かけ上の代謝性エネルギー価(MJ/kg)
CP=粗タンパク質(%)
EE=エーテル抽出物(=粗脂肪)(%)
St=デンプン(%)
Su=糖類(%)
Re=残分
を用いて算出することができる
(Noblet J、van Milgen J、(2004)、ブタ飼料のエネルギー価:ブタの体重およびエネルギー評価系に対する効果(Energy value of pig feeds:Effect of pig body weight and energy evaluation system.)、J.Anim Sci.82:E229−E238を参照)。L
【0026】
標準的な(AOAC International)分析法は:
− 乾物:乾燥、
− 粗タンパク質:Kjeldahl法、
− 粗灰分:灰化、
− 粗脂肪:エーテル抽出(ソックスレー(Sohxlet)法)、
− 粗繊維:Fibertec分析、
− デンプンおよび糖類:Luff−Schoorl分析(偏光分析法)
(Official Methods of Analysis of AOAC International、第16版、The Association of Official Analytical Chemists、Arlington、VAを参照)である。
【0027】
本発明の好ましい態様では、仕上げ期用飼料中の本グリシン化合物の好ましい添加範囲は、約0.001〜0.5乾燥重量%、好ましくは約0.005〜0.1乾燥重量%、より好ましくは約0.01〜0.08乾燥重量%である。大量に使用しても、処置されたブタに何らかの毒性の問題を引き起こした事例はない。コストを考慮することが重要になるかもしれない。
【0028】
実験結果
以下に記載する実験の設定は、ブタ用モデル種におけるパフォーマンス:死亡率、飼料要求率(FCR)、1日あたりの生育(dG)、体重(BW)に対するDMGの影響を評価するためのものである。
【0029】
方法および材料
ブタ飼料へのジメチルグリシン(DMG)の補給に関連する全ての効果を調べるために、モデル種としてRattlerow Seghers由来のブタで試験を設計した。この給餌試験では、均一な性分布の60頭の離乳した仔ブタを42日間飼育した。仔ブタの歯の切り取り(clipped)、生後第1週の間に雄仔ブタを去勢した。試験開始時に、仔ブタを、檻あたり3頭の仔ブタを含む20個の檻に、性別ごとに無作為に(ad random)分割し、檻のレベルで体重分布が均一であるとみなした。仔ブタに、試験期間の最初の日から終わりの日まで1種類の飼料を与えた。飼料の種類は、無作為な方式により、ハウジングごとに異なるものとした。対照飼料は、5%トウモロコシ油で強化して、飼料中の酸化的ストレスを増加させた市販の仔ブタ用飼料に基づいたものであった。飼料は以下の組成を有していた:91%の乾物、5%の灰分、18%の粗タンパク質、8%の粗脂肪、4%の粗繊維、および56%の他の炭水化物。それは、約13.9MJ/kgの代謝性エネルギー価を(計算値として)有する。
【0030】
第2の種類の飼料では、対照飼料で記載したのと同じ組成の飼料に、1キログラムあたり500mgのDMGを添加した。試験期間全体にわたって、ブタは1日あたり、仔ブタ1頭あたり、平均約290mgのDMGを消費した。仔ブタのハウジングは、総面積1.785mであり、1.05m×1.7mのスラット床のブタの檻からなるものであった。飼料および水は、常時無制限に摂取可能とした。
【0031】
それぞれの仔ブタにつき、4回、すなわち0、14、29、および42日目に、一晩絶食させた後に計量した。各個体について、全生育期間の1日あたりの生育(dG)、ならびに3種の期間中(開始日と14日目の間(dGI)、14日目と29日目の間(dGII)、および29日目と42日目の間(dGIII))の1日あたりの生育を算出した。これらの期間中の各檻における飼料摂取も測定した。最初の2週間を除いた生育期間(FRCII+III)と、総生育期間(FRC)の両方について、各檻における飼料要求率を算出した。この飼料要求率は、総飼料消費を、実験期間中全体の仔ブタの体重増加で除することにより算出した。
【0032】
結果
開始時の体重は、両方の実験群間で差はなかった。全ての動物は実験中健康なままであった、より具体的には、感染性もしくは非感染性の呼吸器疾患、腸疾患、もしくは皮膚疾患の臨床的徴候を示したり、足の障害が生じた動物は、存在しなかった。仔ブタの終了時の体重および1日あたりの生育(去勢ブタおよび雌ブタを合わせて)は、DMGの補給により数値的には改善されたが、有意な改善ではなかった(改善=それぞれ1.9%および3.5%、P値>0.05)。一方、飼料要求率は、対照群(1.98)に比べて、DMGの補給群(1.87)で有意に低下した(改善度=5.9%、P値=0.044)。この飼料要求率の改善度は、最初の2週間を除く生育期間で更により高かった(改善度7.6%、P値=0.004%)。(表1)。
【0033】
表1:仔ブタ(去勢ブタおよび雌ブタ)のパフォーマンスに対する、仔ブタ用飼料へのDMGの補給(500mg/kg)の効果(平均±SD)
【表1】

【0034】
技術のパフォーマンスに対するDMGの効果は、性に依存していた。全体的に、雌ブタに比べて去勢ブタにおける効果の方がより顕著であった。
【0035】
去勢ブタに対するDMGの補給により、終了時の体重が有意により大きくなり(改善度=+10.7%、P値=0.038)、生育速度が有意に高くなり(改善度=+18.0、P値=0.036)、および飼料要求率が有意に低くなった(改善度=8.4%、P値=0.019%)。一方、DMGを補給した食餌を与えた雌ブタにおいては、終了時の体重および生育速度は数値的には低いものの有意な減少ではなかったが、最初の2週間を除いた生育期間中(FCRII+III)の飼料要求率は有意に低かった(改善度=8.9%、P値=0.012)(表2)。
【0036】
表2:対照食餌を与えた仔ブタとDMG(500ppm)を補給した同じ食餌を与えた仔ブタとの比較についての、技術のパフォーマンスの性間差(平均±SD)
【表2】

【0037】
要するところ、飼料1kgあたり500mgの本グリシン化合物、より具体的にはDMGの補給は、ブタの技術のパフォーマンスに対して有益な効果を有することが見出された。DMGの補給は、一般に養豚における重要な経済的パラメータである、飼料要求率に対して明らかな影響を及ぼす。去勢ブタは、雌ブタに比べて、DMGの補給によってより顕著な好ましい影響を受けた。本試験において、飼料効率は、去勢ブタでは有意に、8.4%改善されたが、雌ブタでは数値的に、3.6%しか改善されなかった。しかし、離乳後の最初の2週間を除くと、雌ブタの飼料要求率は、DMGを食餌に補給した場合、有意に、8.9%改善された。1日あたりの生育および終了時の体重は、去勢ブタにおいてDMGの補給により、それぞれ18.0%および10.7%、有意に向上した。したがって、食餌性DMGの補給は、去勢ブタで生育および飼料効率を有意かつ妥当に改善することが示された。更に、DMGの補給は、雌ブタで飼料効率を有意に改善することが示された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタに給餌するのに用いられる飼料要求率を低下させるための、および/またはブタの生育速度を増加させるための、ブタの非治療的処置方法であって、該処置は、少なくとも1種のグリシン化合物またはその塩もしくはエステルをブタに経口投与することを含み、該グリシン化合物は、下記式(I)に相当する方法:
【化1】


式中、RおよびRは、独立して、1〜18個、好ましくは1〜6個の炭素原子を含有するアルキル、アルケニル、もしくはヒドロキシアルキルラジカルであるか、またはRおよびRはN原子とともに一緒になって複素環式5員環もしくは6員環を形成する。
【請求項2】
グリシン化合物が、N,N−ジメチルグリシン(DMG)、N,N−ジエチルグリシン、N,N−ジエタノールグリシン、N,N−ジ−n−プロピルグリシン、N,N−ジイソプロピルグリシン、N,N−ジ−n−ブチルグリシン、N,N−ジイソブチルグリシン、N,N−ジ−t−ブチルグリシン、またはその混合物もしくは塩もしくはエステルからなる群から選択され、好ましくはグリシン化合物がDMGまたはその塩もしくはエステルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グリシン化合物が、ブタの飲料水を介して投与される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
グリシン化合物が、飼料を介して投与される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
グリシン化合物が、飼料の0.001〜0.5乾燥重量%の量、好ましくは飼料の0.005〜0.1乾燥重量%の量、より好ましくは飼料の0.01〜0.08乾燥重量%の量で投与される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
グリシン化合物が、雄ブタに経口投与される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ブタが、離乳した仔ブタまたは肥育中のブタを含み、グリシン化合物が、好ましくは、ブタに給餌される飼料に含まれる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ブタが21日齢〜7カ月齢であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ブタが妊娠中または授乳中の雌ブタを含み、飼料要求率が、雌ブタの体重、ならびに授乳中の雌ブタでは、雌ブタおよびその仔ブタの体重を考慮して決定され、グリシン化合物が、好ましくは、雌ブタに給餌される分娩用飼料または授乳用飼料に含まれる、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ブタに給餌するのに用いられる飼料要求率を低下させるためのおよび/またはブタの生育速度を増加させるためのグリシン化合物の使用であって、該グリシン化合物は、下記式(I)に相当する使用:
【化2】


式中、RおよびRは、独立して、1〜18個、好ましくは1〜6個の炭素原子を含有するアルキル、アルケニル、もしくはヒドロキシアルキルラジカルであるか、またはRおよびRはN原子とともに一緒になって複素環式5員環もしくは6員環を形成する。
【請求項11】
グリシン化合物が、ブタの生育速度を増加させるために用いられる、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
グリシン化合物が、飼料要求率を低下させるために用いられる、請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
グリシン化合物が、ブタ用飼料に添加される、請求項10〜12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
ブタが雄ブタである、請求項10〜13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
少なくとも0.001乾燥重量%、好ましくは少なくとも0.005乾燥重量%のグリシン化合物を含むブタ用飼料であって、該グリシン化合物は、下記式(I)に相当する飼料:
【化3】


式中、RおよびRは、独立して、1〜18個、好ましくは1〜6個の炭素原子を含有するアルキル、アルケニル、もしくはヒドロキシアルキルラジカルであるか、またはRおよびRはN原子とともに一緒になって複素環式5員環もしくは6員環を形成する。
【請求項16】
グリシン化合物が、N,N−ジメチルグリシン(DMG)、N,N−ジエチルグリシン、N,N−ジエタノールグリシン、N,N−ジ−n−プロピルグリシン、N,N−ジイソプロピルグリシン、N,N−ジ−n−ブチルグリシン、N,N−ジイソブチルグリシン、N,N−ジ−t−ブチルグリシン、またはその混合物もしくは塩もしくはエステルからなる群から選択され、グリシン化合物が好ましくはDMGまたはその塩もしくはエステルである、請求項15に記載の飼料。
【請求項17】
0.001〜0.5乾燥重量%の量、好ましくは0.005〜0.1乾燥重量%の量、より好ましくは0.01〜0.08乾燥重量%の量のグリシン化合物を含む、請求項15または16に記載の飼料。
【請求項18】
肥育中のブタを飼育するための、少なくとも12.4MJ ME/kg重量、好ましくは16.7MJ ME/kg重量未満の代謝性エネルギー価を有する、請求項15〜17のいずれかに記載の飼料。
【請求項19】
繁殖目的で維持されている成体雄ブタおよび雌ブタを発育させるための、13.0〜14.0MJ ME/kg重量の代謝性エネルギー価を有する、請求項15〜17のいずれかに記載の飼料。
【請求項20】
授乳中の雌ブタのための、少なくとも13.0MJ ME/kg重量、好ましくは15.7MJ ME/kg重量未満の代謝性エネルギー価を有する、請求項15〜17のいずれかに記載の飼料。
【請求項21】
妊娠中の雌ブタのための、10.0〜14.0MJ ME/kg重量の代謝性エネルギー価を有する、請求項15〜17のいずれかに記載の飼料。
【請求項22】
28%未満の粗タンパク質含量を有する、請求項15〜21のいずれかに記載の飼料。
【請求項23】
2〜7重量%の不飽和脂肪酸含量を有する、請求項15〜22のいずれかに記載の飼料。
【請求項24】
15重量%未満、好ましくは14重量%未満の水分含量を有する、請求項15〜23のいずれかに記載の飼料。
【請求項25】
重量により飼料1kgあたり少なくとも100フィターゼ単位の量の、フィターゼ、より好ましくは3−フィターゼおよび/または6−フィターゼを含み、0.68未満の(メチオニン+システイン):リジン比を有する、請求項15〜24のいずれかに記載の飼料。

【公表番号】特表2010−538627(P2010−538627A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524491(P2010−524491)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/062107
【国際公開番号】WO2009/034151
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(507416850)
【Fターム(参考)】