養子細胞療法のための細胞を培養する方法
細胞療法適用のための細胞を培養する方法であって、抗原提示細胞、フィーダ細胞、またはその両方の存在下において、培地量対表面積の比は、増殖表面が気体透過性材料を含まない場合は1ml/cm2以下であり、増殖表面が気体透過性材料を含む場合は2ml/cm2以下であって、所望の細胞を増殖させる工程を含む方法。所望の細胞は、生産サイクルの始めには表面密度が0.5×106細胞/cm2未満であり、所望の細胞の表面密度と、前記抗原提示細胞、フィーダ細胞、またはその両方の表面密度との和は、少なくとも約1.25×105細胞/cm2である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、細胞を培養する方法に関し、より具体的には細胞療法のための細胞を培養することに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養は、細胞療法のコストおよび複雑さの大きな要因である。現在の方法では、細胞を培養する処理は時間がかかり高価である。多くの細胞を生産するために、インビトロの培養工程は、典型的に、段階的に進行するように行なわれる。最初の段階では所望の細胞は、細胞培養装置中に配置される細胞組成物内において、比較的小さな集団として存在する。この段階では、細胞組成物は、所望の細胞源(末梢血単核細胞など)、所望の細胞の増殖を刺激するフィーダ細胞、および/または抗原提示を典型的に含む。細胞の存在する培地をおおむね無撹拌状態とすることの可能な培養装置および培養方法は、細胞が比較的無撹拌のままであるので好まれる。このような装置には、標準組織培養プレート、フラスコおよびバッグが含まれる。培養は段階的に進行され、この段階は一般に、細胞組成物がグルコースなどの増殖基質の培地を枯渇させることができるようにすること、使用済み培地を除去すること、使用済み培地を新鮮培地に交換すること、および、所望の細胞を所望量得られるまでこの処理を繰り返すことからなる。所望の細胞集団が増加するとともに追加の増殖表面が必要になるにつれて、新たな生産段階を開始するために、他の装置に細胞組成物をしばしば移動させる。しかしながら、従来の方法では、増殖表面上の細胞集団が増加するにつれて、所望の細胞集団の増殖速度は遅くなる。最終的に、所望の細胞の相当に大きい集団を生産するには非常に時間がかかり複雑であるという結果となる。
【0003】
エプスタインバーウイルス(Epstein Barr virus)に対し抗原特異性を有するTリンパ球(EBV−CTL)を生じさせるための最新式生産方法は、生産の複雑さを示す例である。EBV−CTLの最適な増殖のための従来の方法は、標準24ウェル組織培養プレートを使用する。各ウェルは、細胞が常駐するその表面積が2cm2であって、気体移動の必要性のため、1ml/cm2に制限された培地量を有している。培養工程は、照射済みの抗原提示細胞系の存在下にPBMC(末梢血単核細胞)を含む細胞組成物を入れることにより始まるが、リンパ芽球様細胞系(LCL)であってもよく、表面密度(つまり増殖表面の、細胞/cm2)比は約40:1で、約1×106PBMC/cm2および約2.5×104照射抗原提示細胞/cm2である。これによって細胞組成物内のEBV−CTLの集団の量が大きくなる。9日後、EBV−CTLは、最小表面密度約2.5×105EBV−CTL/cm2、新たな表面密度比4:1で、照射抗原提示LCLの存在下に選択的に再増殖する。酸素が細胞に達することができるように、培地量は、増殖表面の面積に関する比で最大1ml/cm2までに制限されるが、これによってグルコースなどの増殖溶質が制限される。その結果、達成することができる最大表面密度は約2×l06EBV−CTL/cm2になる。このように、週当たりの最大細胞増殖は約8倍(つまり2×l06EBV−CTL/cm2を2.5×105EBV−CTL/cm2で除す)以下である。EBV−CTLを継続的に増殖させるために、抗原再刺激を有する追加の24ウェルプレートにEBV−CTLを毎週移動させ、24ウェルプレートの各ウェル内の培地および増殖因子を週に2度交換する必要がある。EBV−CTL表面密度がウェル当たりの可能な最大量に接近するにつれて、従来の方法はEBV−CTL集団増殖の速度が遅くなる結果をもたらすので、細胞注入、ならびに無菌性アッセイ、同定アッセイ、および効力アッセイなどの品質管理手段に十分な量のEBV−CTLを得るために、これらの操作をしばしば4週間から8週間にもなる長い生産期間にわたり繰り返さなければならない。
【0004】
EBV−CTLの培養は、細胞療法に固有の複雑な細胞生産工程の一例に過ぎない。生産時間を削減し、同時に生産コストおよび複雑さを低減することができる、細胞療法のための細胞を培養する、より実用的な手段が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生産の全体を通して集団増殖速度を増加させる新規な方法を生み出し、そうすることによって細胞を生産する複雑さおよび所要時間を削減する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
生産工程の全体を通して従来とは異なる条件を定期的に再確立させる段階的な生産工程を使用することによって、現在可能であるより短期間かつ経済的な方式で、細胞療法のための細胞生産を生じさせることができることが見出された。従来とは異なる条件は、所望の細胞の表面密度(つまり細胞/cm2)の低減、抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞に対する所望の細胞の新規の比、および/または培地量対表面積の比が増大した気体透過性材料を含む増殖表面の使用を含む。
【0007】
本発明の実施形態は細胞療法適用のための細胞を培養する改良された方法に関する。それらの実施形態は、生産工程の全体を通して、所望の細胞集団が従来の方法と比較してより高い増殖速度を維持することを可能にするさまざまな新しい方法を使用することによって、所望の細胞を所望の数を生じさせるために必要な、時間、コストおよび複雑さを低減する方法を含む。
【0008】
本発明の一態様は、培養工程を段階的に行うこと、および、所望の細胞集団の増殖速度が現在可能な速度を超えることを可能にする、1つ以上の段階の始めにおける条件を確立することに依存する。培養の少なくとも1つの段階および好ましくはほぼすべての段階が、表面密度が従来と異なって低く、所望の細胞当たりの抗原提示細胞(および/またはフィーダ細胞)の比が従来と異なっていて、気体透過性でない増殖表面または気体透過性である増殖表面のいずれかに静置されている所望の細胞を含む開始条件を確立する。本発明のこの態様の新規の実施形態を使用することによって、所望の細胞集団は、従来の方法によって可能であるよりも短い期間でさらに倍加させることができ、それによって生産の期間を削減することができる。
【0009】
本発明の別の態様は、培養工程を段階的に行うこと、および所望の細胞集団の増殖速度が現在可能な速度を超えるように、1つ以上の段階の始めにおける条件を確立することに依存する。培養の少なくとも1つの段階、および好ましくはほぼすべての段階が、培地量対増殖表面積の比が従来と異なって高く、気体透過性材料を含む増殖表面上に静置されている所望の細胞を含む条件を確立する。本発明のこの態様の新規の実施形態を使用することによって、所望の細胞集団は、従来の方法によって可能であるよりも短い期間でさらに倍加することができ、それによって生産の期間を削減することができる。
【0010】
本発明の別の態様は、培養工程を段階的に行うこと、および所望の細胞集団の増殖速度が現在可能な速度を超えるように、各段階の条件を確立することに依存する。培養の少なくとも1つの段階、および好ましくはほぼすべての段階が、培地量対増殖表面積の比が従来と異なって高く、所望の細胞当たりの抗原提示細胞(および/またはフィーダ細胞)の比が従来と異なり、表面密度(つまり、細胞/cm2)が従来と異なって低く、気体透過性材料を含む増殖表面上に静置されている所望の細胞を含む開始条件を確立する。本発明のこの態様の新規の実施形態の使用によって、所望の細胞集団を、従来の方法によるよりも短い期間でさらに倍加することができ、それによって生産期間を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】A:実施例1における抗原特異的T細胞の集団が、最初の7日間にわたり、開始刺激の後に少なくとも7回の細胞倍加を受けることを示す図、B:実施例1についての四量体解析によって測定された、時間の経過につれて細胞組成物内のT細胞集団が増殖する大きさを実証するデータを示す図、C:実施例1において、23日の期間にわたり抗原特異的T細胞の集団増殖速度が減少することを示す図。
【図2】実施例1において、抗原特異的T細胞に関する予測される増殖倍と観察された増殖倍との間の相違を例示する表。
【図3】A:実施例2の刺激後の抗原特異的T細胞の存在を示す図、B:実施例2において、抗原特異的T細胞対抗原提示細胞の比を4:1に維持しながら、表面密度が1×l06/cm2から3.1×104/cm2まで減少するときの抗原特異的T細胞の集団増殖を示す図、C:実施例2において、抗原提示細胞の一定数の存在下で、表面密度が1×106/cm2から3.1×104/cm2まで減少するときの抗原特異的T細胞の集団増殖を示す図。
【図4】図3に記載される研究を継続する際に得られた結果の例を示す図であって、所望の細胞が他の細胞の支援を必要とするとき、フィーダ細胞および/または抗原提示細胞の適切な供給がある限り、所望の細胞の表面密度が従来と異なって低い状態で集団増殖を開始できることをさらに実証する図。
【図5】3種の異なる細胞表面密度(CTL/cm2)で培養を開始することによって、所望の細胞の集団増殖の大きさを、繰り返す能力を実証するヒストグラム。
【図6】データを得るために使用した気体透過性試験装置の横断面図。
【図7】A:本発明に従って生産された抗原特異的T細胞の増殖曲線を示す図であって、実施例5で行なったような従来の方法と比較する図、B:実施例5において、フローサイトメトリーの前方散乱対側方散乱によって測定したとき、細胞生存率は、本発明に従って生産された抗原特異的T細胞における方が従来の方法と比較して有意に高かったことを示す図、C:実施例5において、Annexin−PI7AADによって測定したとき、細胞生存率は、本発明に従って生産された抗原特異的T細胞における方が従来の方法と比較して有意に高かったことを示す図、D:実施例5において、本発明の新規の方法において生産された細胞の優位な増殖が、各日のCFSE標識細胞のフローサイトメトリー解析によって測定されたとき、従来の方法を使用して培養された細胞のような、細胞特異的増殖速度を示しておりこれにより、細胞増殖速度の増加が細胞死の減少に起因したことを確かなものにしたことを示す図。
【図8】A:培地を交換する必要のない従来の方法において可能であった範囲を超えて、EVB−CTLがどのように増殖することができたかを示す図、B:EBERを定量PCRによって評価したとき、実施例6の培養条件が最終細胞産物をどのように改変しなかったか示す図、C:B細胞マーカであるCD20を定量PCRによって評価したとき、実施例6の培養条件が最終細胞産物をどのように改変しなかったかを示す図。
【図9】所望の細胞および抗原提示細胞の表面密度の累積が非常に低い(ここでは、AL−CTL細胞およびLCL細胞が混合されて表面密度30,000細胞/cm2の細胞組成物となっている)ことによって、AL−CTL集団が増殖を開始できなかったことを実験的に実証したことの例を示す図。
【図10】A:細胞を培養する新規の2つの方法が、23日の期間にわたって、従来の方法より多くの細胞をどのように生産するかを示す実施例8のデータを提示する図、B:実施例8における試験装置の中で培養された細胞の写真、C:実施例8において、2つの新規の培養方法および従来の方法のすべてが、同じ表現型を有する細胞を生産することを示す図、D:実施例8で、LMP1、LMP2、BZLF1由来の、EBVペプチドエピトープおよびEBVのEBNA1で刺激され、HLA−A2−LMP2ペプチド五量体染色法で染色されたT細胞がペプチド特異的T細胞と同様の発生頻度を示した代表的な培養を示す図、E:51Cr放出アッセイによって評価したとき、細胞は細胞溶解活性および細胞特異性を維持し、自己EBV−LCLを死滅させたが、HLA不適合EBV−LCLの死滅は低かったことを実施例8の新規の方法および従来の方法のために示す図。
【図11】本発明の一態様を使用した所望の細胞型の集団増殖と、従来のシナリオ下における増殖表面上の所望の細胞の集団増殖とを比較したグラフ。
【図12】気体透過性材料を含む増殖表面、および、1または2ml/cm2を超える、従来と異なって高い培地量対増殖表面積の比を利用することにより得ることができる利点の一例を示す図。
【図13】完了時の細胞表面密度が従来の表面密度より極めて大きい、本発明の一実施形態下における所望の細胞型集団増殖と従来のシナリオ下における増殖表面上の所望の細胞集団増殖の新規の方法を比較したグラフ。
【図14】従来の方法を超える別のさらなる利点を提供する細胞生産の別の新規な方法を示す図。
【図15】新規な方法の能力を実証するべく図14に示した各生産方法の比較を示すとともに、十分に効率を獲得するために、さまざまな段階で生産手順を調節することがなぜ有用であるかを示す図。
【図16】生産が進むにつれて効率を獲得するために、新規な方法では生産手順をどのように調節することができるのかの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、添付図面に関する以下の詳細な説明を考慮することで、本発明のさまざまな実施形態をより深く理解できる。
定義
抗原提示細胞(APC:antigen presenting cell):特定の抗原に応答するように所望の細胞を惹起するために作用する細胞。
【0013】
CTL:細胞傷害性T細胞
所望の細胞:生産処理において量を増やすことを目標とする特異的な型の細胞。一般に、所望の細胞は浮遊細胞であり、例は制御性T細胞(Treg)、ナチュラルキラー細胞(NK)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、初代Tリンパ球およびさまざまな抗原特異的細胞、および他の多くのもの(それらはすべて、機能、インビボの残留性または安全性を改良するように遺伝子改変することができる)を含む。臨床的使用に必要な細胞は、フィーダ細胞および/または抗原提示細胞で増殖することができ、この抗原提示細胞は、PBMC、PHA blast、OKT3 T、B blast、LCLおよびK562(天然であるか、または発現するように遺伝子改変されていて、抗原および/またはエピトープ、ならびに41BBL、OX40L、CD80、CD86、HLA、および他の多くのものなどの共刺激分子)を含むことができ、これらはペプチドまたは関連する他の抗原でパルスする場合もあれば、しない場合もある。
【0014】
EBV(Epstein Barr virus):エプスタインバーウイルス
EBV−CTL:EBV感染細胞またはEBV由来のペプチドを発現したり提示したりする細胞を、T細胞表面受容体により特異的に認識したT細胞。
【0015】
EBV−LCL:エプスタインバーウイルスで形質転換されたBリンパ芽球様細胞系。
フィーダ細胞:所望の細胞の量を増加させるように作用する細胞。状況によっては抗原提示細胞もフィーダ細胞として作用することができる。
【0016】
増殖表面:細胞がその上に静置される、培養装置内の領域。
PBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cell):末梢血由来の末梢血単核細胞で、いくつかの所望の細胞の源となり、フィーダ細胞として作用することができる。
【0017】
応答細胞(R):刺激細胞に反応する細胞。
静置細胞培養:日常の操作のために培養装置の設定場所が移動される場合、および/または細胞に新鮮培地などが定期的に供給される場合以外は、撹拌されたり混合されたりしない培地中で細胞を培養する方法。一般に、静置培養中の培地は、通常、静止状態にある。本発明は静置細胞培養方法に関する。
【0018】
刺激:抗原提示および/またはフィーダ細胞が所望の細胞上で有する作用。
刺激細胞(S):応答細胞に影響を及ぼすであろう細胞。
表面密度:細胞が静置される装置内の表面の、単位面積当たりの細胞量。
【0019】
養子T細胞療法のための所望の細胞集団の生産を単純化する新規の方法を見つけようとしたとき、細胞療法適用のための細胞のより効率的な培養に門戸を開いていた一連の実験が行なわれた。本発明の多数の例示的な実施例およびさまざまな態様は、従来の方法と比較して、生産時間および複雑さを低減する能力をどのように達成することができるかを示すべく記載される。
【0020】
実施例1:従来の方法の限界の実証
この実施例のデータは、ウェル当たり2ml(つまり培地の高さが1.0cmで、培地量対表面積の比が1ml/cm2)の培地量を使用する標準24ウェル組織培養プレート(つまり1ウェル当たりの表面積が2cm2)におけるEBV−CTL生産のための、従来の培養方法の限界を実証する。
【0021】
培養段階1、0日目:培地量対増殖表面積の比1ml/cm2、および、40:1の比(PBMC:LCL)の抗原提示γ線照射(40Gy)自己EBV−LCLで、正常なドナー由来のPBMC(約1×106細胞/ml)細胞組成物を培養し、45%のクリック培地(Irvine Scientific,Santa Ana,CA)、2mMのGlutaMAX−I、および10%のFBSを補充したRPMI1640中の細胞組成物表面密度を約1×106細胞/cm2に確立することによって、EBV−CTLの集団増殖を開始した。
【0022】
培養段階2、9日目から16日目:9日目に、段階1で生み出された細胞組成物からEBV−CTLを回収し、表面密度0.5×106EBV−CTL/cm2で新鮮培地に再懸濁し、CTL:LCLが4:1の比(表面密度0.5×106CTL/cm2:1.25×105LCL/cm2)の照射自己EBV−LCLで再刺激した。13日目に、24ウェルプレートの各ウェル中の培地量2mlのうち1mlを除去し、組換えヒトIL−2(lL−2)(50U/ml)(Proleukin;Chiron,Emeryville,CA)を含む新鮮培地1mlと交換した。
【0023】
培養段階3、17日目から23日目:段階2の条件は、IL−2の添加を週に2度繰り返し、23日目に培養を終結した。培養は終結したが、段階2および3の培養を模倣した追加の培養段階を続けることができる。
【0024】
細胞毒性試験における標的細胞として使用するための細胞系および腫瘍細胞:アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC,Rockville,MD,USA)からBJAB(B細胞リンパ腫)およびK562(慢性赤血球白血病)を得た。細胞はすべて、10%の熱失活したウシ胎仔血清(FCS)、2mMのL−グルタミン、25IU/mLのペニシリン、および25mg/mLのストレプトマイシン(すべてBioWhittaker,Walkersville,MO)を含むRPMI1640培地(GIBCO−BRL、Gaithersburg、MD)で培養を維持した。細胞は37℃で5%の二酸
化炭素を含んでいる加湿雰囲気に維持した。
【0025】
免疫表現型検査:
細胞表面:Becton−Dickinson(Mountain View,CA,USA)のフィコエリトリン(PE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、periodinクロロフィル蛋白質(PerCP)、および、アロフィコシアニン(APC)結合抗CD3、CD4、CD8、CD56、CD16、CD62L、CD45RO、CD45RA、CD27、CD28、CD25、CD44モノクローナル抗体(MAbs)で細胞を染色した。PE結合四量体(Baylor College of Medicine)およびAPC結合五量体(Proimmune Ltd,Oxford,UK)は、EBV−CTL前駆体発生頻度を定量化するために使用された。細胞表面および五量体染色のためのそれぞれ10,000および100,000のライブイベントをFACSCaliburフローサイトメータで得て、データをCell Quest software (Becton Dickinson)を使用して分析した。
【0026】
細胞分裂を測定するためのCFSE標識:2×107の倍加速度を評価するために、PBMCまたはEBV特異的CTL(EBV−CTL)を2度洗浄し、0.1%のウシ胎仔血清(FBS)(Sigma−Aldrich)を含んでいる850μlの1×リン酸緩衝食塩水(PBS)に再懸濁した。染色に先立って、一定分量のカルボキシフルオレセインジアセテート、サクシニミジルエステル(CFSE)(ジメチルスルホキシド中10mM)(Celltrace(商標)CFSE細胞増殖キット(C34554)Invitrogen)を解凍し、1×PBSで1:1000に希釈し、その希釈物150μlを細胞懸濁液(標識濃度は1μMだった)に加えた。CFSEで室温に10分間、細胞をインキュベートした。次に、1mlのFBSを細胞懸濁液に加え、続いて37℃で10分間、インキュベートした。その後、細胞を1×PBSで2度洗浄し、計数し、かつ、記載の抗原で刺激した。
【0027】
AnnexinV−7−AAD染色:培養におけるアポトーシス細胞および壊死細胞の百分率を測定するために、製造者(BD Pharmingen(商標)#559763,San Diego,CA)の指示通りにAnnexin−7−AAD染色を実施した。簡潔に説明すると、24ウェルプレートまたはGRexから冷PBSでEBV−CTLを洗浄し、1×106細胞/mlの濃度で1×結合バッファーに再懸濁し、暗所に室温(25℃)で15分間Annexin V−PEおよび7−AADで染色した。インキュベーションに続いて、フローサイトメトリーによって細胞を直ちに分析した。
【0028】
クロム放出試験:標準4時間の51Cr放出アッセイにおいてEBV−CTLの細胞障害活性を評価した。所望の細胞として、自己ならびに、HLAクラスIおよびクラスII不適合EBV形質転換リンパ芽球様細胞系(EBV−LCL)を使用して、MHC拘束およびMHC非拘束による死滅を測定し、K562細胞系を使用して、ナチュラルキラー活性を測定した。培地だけで、または1%のトリトンX−100でインキュベートした、クロム標識した所望の細胞を使用して、自然および最大51Cr放出をそれぞれ測定した。三種のウェルの特異的な溶菌の平均百分率は以下のように算出された:[(テスト総数−自然発生総数)/(最大総数−自然発生総数)]×100。
【0029】
酵素免疫スポット(エリスポット)アッセイ:エリスポットアッセイを使用して、抗原刺激に応答してIFNγを分泌したT細胞の発生頻度および機能を定量化した。24ウェルプレート、またはG−Rexの中で増殖したCTL系統を、照射LCL(40Gy)またはLMP1、LMP2、BZLF1およびEBNA1 pepmix(1μg/mlに希釈)(JPT Technologies GmbH,Berlin,Germany)、またはEBVペプチドHLA−A2 GLCTLVAML=GLC、HLA−A2
CLGGLLTMV=CLG、HLA−A2−FLYALALLL=FLYおよびHLA−A29 ILLARLFLY=ILL(Genemed Synthesis,Inc.San Antonio,Texas)で刺激し、2μMの最終濃度に希釈し、ネガティブコントロールとしてCTLを単独で機能させた。CTLはエリスポット培地[5%のヒト血清(Human Serum)(Valley Biomedical,Inc.,Winchester,Virginia)および2mMのL−グルタミン(GlutaMAX−I,Invitrogen,Carlsbad,CA)を補充したRPMI1640(Hyclone,Logan,UT)]中に1×106/mlで再懸濁した。
【0030】
96ウェル濾過プレート(MultiScreen,#MAHA84510,Millipore,Bedford,MA)は、10μg/mLの抗IFN−γ抗体(Catcher−mAB91−DIK,Mabtech,Cincinnati,OH)で4℃で一晩被覆し、次いで、洗浄し、37℃で1時間、エリスポット培地でブロックした。応答細胞および刺激細胞を20時間プレート上でインキュベートし、次いで、プレートを洗浄し、ビオチン結合抗IFN−γモノクローナル第二抗体(Detector−mAB(7−B6−1−Biotin)、Mabtech)を用いてインキュベートし、続いてアビジンすなわち、ビオチン化された西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体(Vectastain Elite ABCキット(標準),#PK6100,Vector Laboratories,Burlingame,CA)でインキュベートし、次いで、AEC基質(Sigma,81.Louis,MO)で発色させた。培養条件をそれぞれ3回繰り返した。評価のためにプレートをZellnet Consulting,New York,NY.に送った。スポット形成単位(SFC)および投入した細胞数をプロットした。
【0031】
統計解析:インビトロのデータは平均±1SDとして提示される。ステューデントt検定を使って試料間の違いの統計的有意差を測定し、P<0.05の場合に有意差があると判定した。
【0032】
これらの培養条件下では、図1のAに示すように、開始刺激の後、最初の7日間にわたって抗原特異的T細胞の集団は少なくとも7回細胞倍加を受ける。したがって、T細胞が一週間で128倍増殖すると予想する(抗原特異的T細胞の発生頻度に、細胞組成物の細胞総数を乗じて評価)。第1、第2および第3刺激の後の四量体陽性細胞の発生頻度を図1のBに示す。0日目には、2種のEBV四量体、RAKおよびQAKに対する反応性T細胞の発生頻度はそれぞれ0.02%および0.01%であった。0日目に1回だけ刺激した後、9日目までに、細胞組成物中の四量体陽性T細胞の発生頻度は0.02%および0.01%から2.7%および1.25%までそれぞれ増加していた。このように、RAKおよびQAKによって測定したとき、細胞組成物内に存在している抗原特異的四量体陽性T細胞の百分率は、135倍および125倍増を達成した。さらに培養段階1の0日目に1回だけ刺激した後、9日目までに、細胞組成物中の細胞の表面密度においても1.1倍の増加(データは示していない)(約1.1×106細胞/cm2が存在した)を観察した。PBMC組成物内の大多数の細胞が刺激抗原に特異的ではないので、総細胞数における全体的な増加はほとんど観察されないが、図1のCに示すように、組成物内の抗原特異的細胞集団の増殖倍は、培養の第1段階の間に、約280であった。CSFEで測定すると、培養の第2段階および第3段階の間、細胞倍加の数は同じであったが、不運にも、培養の第2段階または第3段階の間、抗原特異的T細胞増殖はこの速度を持続せず、段階2では5.7、および段階3では4.3に過ぎなかった。図2は、抗原特異的T細胞(n=3)の、予測される増殖と観察した増殖との間の相違を例示する表を示す。
【0033】
所望の細胞の集団増殖の速度はその後の培養段階において減少するので、所望の細胞を生産するのに要する時間は、典型的に、ほぼ最初の生産の週の後に遅くなることを、実施
例1は実証する。
【0034】
実施例2:所望の細胞集団を増加させるための所要時間の削減は、培養の任意の所与の1段階または複数の段階の始めに、所望の細胞集団の細胞表面密度を低減することにより達成することができる。
【0035】
第2のT細胞刺激に続く所望の細胞集団増殖速度が、第1の刺激と比較して低下したのは、活性化誘導細胞死(AICD)をもたらす細胞培養条件に限定したためと仮定した。たとえば、図3のAを参照すると、第1刺激では、PBMCのうちのEBV抗原特異的T細胞構成成分は多くとも集団の2%であるため、抗原特異的応答T細胞の播種密度はcm2当たり2×l04未満である。残りのPBMCは、非増殖フィーダ細胞(図3のAにおいてCFSE陽性細胞と見なされる)として作用し、抗原特異的CTLの増殖を可能にする最適な細胞間接触を持続させる。対照的に、9日目の第2刺激において、大多数のT細胞は抗原特異的であり、組成物の総細胞密度はほぼ同じであるが、増殖細胞密度は50〜100倍高い。その結果、再刺激で、大多数の細胞が増殖し、これにより急速に培地の栄養素および酸素供給を消費し消耗させる可能性がある。
【0036】
培養条件を限定することが最適以下のT細胞増殖速度の原因だったかどうかを判断するために、より低い細胞密度で蒔いた活性化T細胞の増殖を測定した。方法は前述の実施例1のとおりである。
【0037】
図3のBに示すように、各ウェルが2cm2の増殖表面積を有する標準24ウェルプレートのウェルに、応答細胞対刺激細胞の比(R:S)を4:1に維持しつつ1×106/cm2から3.1×104/cm2の範囲で縮小していく表面密度を生み出す倍加希釈で、活性化EBV特異的T細胞を播種した。cm2当たり1.25×l05の開始CTL表面密度において、最大のCTL増殖(4.7±1.1倍)が達成されたが、図3のBに示すように、さらなる希釈は増殖速度を減少させた。この限定的な希釈効果はおそらく細胞間接触が無いためであると推測されるので、一定数のフィーダ細胞(1.25×105/cm2の表面密度で蒔かれたEBV−LCL)とともに、1×106から3.1×l04までの表面密度のEBV−CTLの倍加希釈を培養し、7日の期間にわたる細胞増殖を評価した。図3のCに提示するように、1×106/cm2の表面密度のEBV−CTLでのわずか2.9±0.8倍の増殖から、3.1×104/cm2の表面密度のEBV−CTLでの34.7±11倍の増殖に至るまで、CTL増殖における劇的な増加を観察した。重要なことは、この培養条件の変更は、細胞の機能または抗原特異性を変化させなかった(データは示していない)ことである。そのため、活性化された抗原特異的T細胞の集団は従来の培養方法によるよりも、より高い増殖が可能である。注目すべきは、達成された最大の表面密度は刺激(1.7から2.5×106/cm2)後、開始表面密度に関係なく同じだったことである。
【0038】
このように、従来の培養条件は限定的であり、所望の細胞集団に従来の方法の表面密度の限界を超えさせるために、培地量対増殖表面積の比を従来の1ml/cm2を超えて増加させる必要があることを示している。さらに、任意の培養段階の始めに、所望の細胞集団の表面密度を従来の方法未満に低減することによって、約34倍まで抗原特異的CTLの増殖を改良することができる。このことは細胞療法に相当な派生効果を有している。この細胞療法では、生産の始めの細胞量がかなり限定されていることがしばしばある。たとえば、限定量の所望の細胞を、増大した表面積上に、より低下された表面密度で分配することによって、従来の表面密度と比較して集団増殖速度が劇的に増加するので、より短い期間でより多くの所望の細胞集団が得られる。
【0039】
実施例3:所望の細胞および/または抗原提示細胞を含む細胞集団の最小表面密度によ
って、非常に低い表面密度で播種される所望の細胞集団の増殖を可能にすることができる。
【0040】
図3に記載される研究を継続する際に得た結果の実施例を図4に示し、さらに、所望の細胞が他の細胞の支援を必要とするとき、フィーダ細胞および/または抗原提示細胞の適切な供給がある限り、所望の細胞の表面密度が従来と異なって低い状態で集団増殖を開始することができることを実証した。これらの実験において、R:S比が8対1で約1.0×l06所望の細胞/cm2とR:S比が1対32で単に約3900所望の細胞/cm2との間のR:S比および表面密度で、実験を中止した時点で開始表面密度の50倍を超えるまで、総細胞組成物がどのように所望の細胞を大幅に増殖させることができるかについて実証を続ける。
【0041】
実施例4:生産工程が段階的に繰り返すことを可能にする能力は、所望の細胞が従来とは異なって低い表面密度で段階を開始することによって、集団増殖、段階の終了、および条件の繰り返しを可能にし、反復可能な結果を生ずることを実証した。
【0042】
図5に示すように、所望の細胞の3種の表面密度(CTU/cm2)で、実施例3に記載される評価を続けた。各特異的播種密度は一貫して同じ倍率まで増加させることができた。このことの有する意味について、所望の細胞集団のための生産時間を劇的に低減する能力に関連して、さらに詳細に記載する。
【0043】
実施例5:気体透過性材料を含む増殖表面上で所望の細胞を培養する一方、同時に、増殖表面積に対する培地量を増加させることは、従来の方法と比較して、所与の培養段階で所望の細胞が倍加できる回数を増加させ、達成可能な表面密度を増加させる。
【0044】
細胞系および腫瘍細胞、免疫表現型検査、CFSE標識、AnnexinV−7−AAD染色、クロム放出アッセイ、酵素免疫スポット(エリスポット)アッセイ、Tリンパ球のレトロウイルス生産および形質導入、および統計解析は、実施例1に記載されるとおりである。
【0045】
試験装置(以下、一般的に「G−Rex」と称す)は、図6で示すように構築した。各G−Rex10の底部20は、気体透過性シリコーン膜を含み、厚さ約0.127mm(0.005インチ)から0.1778mm(0.007インチ)である。Wilsonに対する出願継続中の米国特許出願第10/961,814号明細書は、代替気体透過性材料の使用に関する多くの情報源の中でも特に、本発明の実施形態の多くにとって有益である気体透過性培養装置の形状、特徴、および他の有用な特性について当業者に知らせるために使用することができる。この実施例3において、G−Rex(「G−Rex40」と称する)は10cm2の増殖表面積を有しており、その上に細胞組成物(アイテム30として示した)を静置したが、細胞組成物の特性は、記載の通り、実験の全体を通して多様だった。培地空間(アイテム40として示した)は、特に明記しない限り、30mLだったが、培地量対増殖表面積の比3ml/cm2を生み出した。
【0046】
活性化EBV特異的CTLおよび照射自己EBV−LCLは、CTL:LCL比を従来の4:1にしてG−Rex40装置の中で培養された。G−Rex40の中に5×105細胞/cm2の表面密度でEBV−CTLを播種し、EBV−CTL集団増殖速度を、増殖表面積に対する培地量1ml/cm2で標準24ウェルプレートの中に同じ表面密度で播種したEBV−CTLと比較した。図7のA(p=0.005)に示したように、3日後、G−Rex40の中のEBV−CTLは、培地交換無しで、5×105/cm2から7.9×106/cm2(範囲5.7〜8.1×106/cm2の中央値)まで増加した。対照的に、従来の24ウェルプレートで3日間培養されたEBV−CTLは、3日目ま
でに、5×105/cm2の表面密度から1.8×106/cm2(範囲1.7から2.5×106/cm2の中央値)までしか増加しなかった。G−Rex40の中に培地を補充することによって表面密度をさらに増加させることができるのに対して、24ウェルプレートの中に培地またはIL2を補充することによって細胞表面密度を増加させることはできなかった。たとえば、7日目に、培地およびIL2を補充すると、その後、EBV−CTL表面密度は、G−Rex40の中で、9.5×106細胞/cm2(範囲8.5×106から11.0×106/cm2)までさらに増加した(データは示していない)。
【0047】
G−Rex装置における優位な細胞増殖の背後にある機構を理解するために、培養の5日目に、OKT3に刺激された末梢血T細胞の生存能をフローサイトメトリーの前方散乱対側方散乱を用いて評価した。培養物に残留照射EBV−LCLが存在し、これが解析の妨げとなって、このアッセイでは、EBV−CTLを評価することができなかった。図7のBに示すように、細胞生存率は、G−Rex40培養における方が有意に高かった(G−Rex40の中の生存率89.2%対24ウェルプレートの中の生存率49.9%)。次いで、7日間の各日、生存細胞とアポトーシス性/壊死性細胞とを識別するためにAnnexin−PI 7AADを使用して培養物を分析し、図7のCに示すように、24ウェルプレートの中で増殖するT細胞において、G−Rexの中のものと比較して、一貫してより低い生存率を観察した。増殖細胞の生存が累積的に改良されたことが、24ウェルプレートと比較したG−Rex装置の中の細胞数の増加に寄与したことを、これらのデータは示す。
【0048】
さらなる寄与が存在するかどうかをG−Rex対24ウェルプレートの中の増加細胞分裂数から判断するために、0日目にT細胞をCFSEで標識し、培地量40mlのG−Rex40装置と、各ウェルの培地量が2mlの24ウェルプレートとに分けた。各日のフローサイトメトリー解析によって、1日目から3日目までに細胞分裂数における相違がないことを実証した。しかしながら、3日目以降、図7のDに示すようにG−Rex40の中で培養された所望の細胞の集団は、2mlウェルの縮小速度を超える速度で増加し続けたが、このことは、培養条件が限定的になっていたことを示している。このように、従来の方法と比較して、G−Rex40試験装置の中の所望の細胞の大きな集団は、細胞死の減少と増殖の維持との組合せからもたらされた。
【0049】
実施例6:従来と異なって高い培地量対増殖表面積の比の使用、および、気体透過性材料を含む増殖表面の使用によって、生産の間に培養物に供給する必要性を低減することができる一方、同時に従来と異なって高い所望の細胞の表面密度を得ることができる。
【0050】
これは、EBV:LCLの開始および増殖のためのG−Rex試験装置の使用によって、実証された。本実施例では、G−Rex2000は図8に記載されるような装置を指すが、例外は、底部が100cm2の増殖表面積を含み、2000mlの培地容量が使用可能であることである。G−Rex2000の中でEBV−LCLを培養し、細胞表現型を変化させることなく増殖した。培地量対表面積の比10ml/cm2を生み出すために、1000mlのRPMI完全培地とともに、表面密度1×l05細胞/cm2でG−Rex2000の中にEBV−LCLを播種した。比較のために、培地量対表面積の比約0.18ml/cm2を生み出すために、RPMI完全培地30mlとともに表面密度5×l05細胞/cm2でT175フラスコの中にEBV−LCLを蒔いた。図8のAに提示したように、G−Rex2000の中で培養されたEBV−LCLは、いかなる操作または培地の交換も必要とせずにT175フラスコの中で培養されたものより大きく増殖した。図8のBおよび図8のCに提示するように、EBERおよびB細胞マーカのCD20を定量PCRによって評価したとき、この培養条件では細胞の最終産物は改変されなかった。
【0051】
実施例7:培養の始めに十分なフィーダ細胞および/または抗原細胞が存在しないと、
所望の細胞は増殖しない場合がある。しかしながら、細胞組成物は、増殖させるために、フィーダ細胞および/または抗原細胞として作用する追加の細胞型を含むように変更することができる。
【0052】
図9は、所望の細胞および抗原提示細胞の表面密度の累積が非常に低い(ここでは、AL−CTL細胞およびLCL細胞が混合されて表面密度30,000細胞/cm2の細胞組成物となっている)ことによって、AL−CTL集団が増殖を開始することができなかったことを、実験的に実証した例を示す。しかしながら、フィーダ細胞として作用する別の細胞型を含むように組成物を変更することによって、これと同じ細胞組成物が増殖するようにすることもできる。ここでは、表面密度が約0.5×106細胞/cm2である3種の様々な照射済みK562細胞のフィーダ層を評価した。そして、全ての場合において、AL−CTLの集団は、ヒストグラムの最初のカラムに示された開始細胞組成物から増殖し、14日間にわたり、表面密度わずか15,000細胞/cm2から表面密度4.0×106細胞/cm2まで変化した。さらに、第3の細胞型の添加とは対照的に、LCL集団の増加が同様の好ましい結果を達成したことを実証した。細胞組成物が適切な数のフィーダ細胞および/または抗原特異的細胞を含むとき、増殖を開始するために所望の細胞の非常に低い集団を使用することができることを実証するために、LCLまたはK562に使用される高い表面密度を任意に選んだ。フィーダ細胞が供給不足であったり、高価であったり、または用意するのが煩わしいときは、フィーダ細胞の表面密度を0.5×106細胞/cm2未満に低減することを推奨する。一般に、および実証してきたように、抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞が細胞組成物中にあるとき、抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞および所望の細胞の付加的な表面密度は、所望の細胞の集団増殖を開始する細胞組成物中に十分な表面密度を生み出すために、好ましくは少なくとも約0.125×106細胞/cm2であるべきである。さらに、標準表面密度の限界を超えて連続する増殖を達成するために、気体透過性材料を含む増殖表面を、培地量対表面積の比4ml/cm2とともにこの実施例に使用した。
【0053】
実施例8:所望の細胞の表面密度を低減し、刺激細胞に対する応答細胞の比を変更し、増殖表面積に対する培地の比を増大し、かつ気体透過性材料を含む増殖表面上に対して表面密度の低い培養物で細胞を定期的に分配することによって、他の方法と比較して、より多くの所望の細胞がより短い期間で生産できるようになり、生産工程が単純化する。
【0054】
所望の細胞の生産を単純化し短期化する能力についてさらに判断するために、EBV−CTLの開始および増殖のためのG−Rex試験装置を使用した。本実施例では、G−Rex500は図6に記載されるような装置を指すが、例外は、底部が100cm2の増殖表面積を含み、500mlの培地容量が使用可能であることである。
【0055】
EBV−CTL生産の開始段階として、表面密度1×106/cm2(合計=G−Rex40の増殖表面積10cm2に分配された107個のPBMC)で、G−Rex40中に、PBMCを播種し、PBMC:EBV−LCLが40:1の比を使用したEBV−LCLでPBMCを刺激した。CTL生産にとって、この40:1の比は最初の刺激により応答T細胞の抗原特異性を維持するには好ましい。培養の開始段階の後、9日目に第2段階を開始し、1×107応答T細胞をG−Rex40からG−Rex500試験装置に移動した。培養の段階2を開始するために、200mlのCTL培地をG−Rex500の中に置くことにより、段階2の始めでの培地量対表面積の比は2ml/cm2となり、培地高さは増殖表面領域より2.0cm高くなった。段階2の始めの所望の細胞の表面密度は1×105CTL/cm2であって、抗原提示細胞の表面密度は5×105LCL/cm2であり、そのため、抗原提示細胞に対する所望の細胞の比は、従来とは異なる1:5となった。この段階で、2細胞の表面密度およびR:S比は、すべての検査されたドナーにおいて継続的なEBV−CTL増殖を引き起こした。4日後(13日目)、IL−2(
50U/ml−最終濃度)を培養物に直接加え、同様に新鮮培地200mlを加え、これにより培地量対表面積の比が4ml/cm2となった。CTLの表面密度中央値として、cm2当たり6.5×106を得た(2.4×106から3.5×107の範囲)。
【0056】
気体透過性材料を含む増殖表面の使用により、従来の手順と比較して、培地量対表面積の比の増大(つまり1ml/cm2より大きい)、細胞表面密度の減少(つまり0.5×106/cm2未満)および、刺激細胞に対する応答細胞の比(4:1未満)の変更が可能となり、生産時間が短縮される。図10のAは、実施例8のこのG−Rex手法と、実施例1の従来の方法の使用および実施例5に記載されるG−Rex手法との比較を示す。示すように、いずれかのG−Rex方法において約10日で生ずることができるのと同数の所望の細胞を生ずるために、従来の方法は23日を必要とする。23日後、実施例8のG−Rex手法によって、実施例5のG−Rex方法よりも、所望の細胞を23.7多く生産することができ、実施例1の従来の方法よりも所望の細胞を68.4倍多く生産することができた。さらに、細胞表面密度が7×106/cm2を超えたときに培養物を分割したところ、この所望の細胞は、追加の抗原提示細胞刺激を必要とせずに、27〜30日まで分裂し続けた。
【0057】
光学顕微鏡を使用してG−Rexの中のCTLを明確に見ることはできないが、CTLのクラスターを目視または倒立顕微鏡によって見えるようにすることができる。培養の9、16および23日目の細胞の外観を図10のBに示す。図10のCに示すように、G−Rexの培養は、増殖細胞の表現型を変化させず、細胞組成物の90%以上はCD3+細胞であり(G−Rex対24ウェルで96.7±1.7対92.8±5.6)、それらの大部分はCD8+(62.2%±38.3対75%±21.7)であった。活性化マーカCD25およびCD27、ならびに記憶マーカCD45RO、CD45RA、およびCD62Lの評価は、各培養条件下で増殖したEBV−CTL間で本質的な違いがなかったことを実証した。エリスポット(ELispot)および五量体解析により測定したところ、抗原特異性も、培養条件によって影響されなかった。図10のDは、LMP1、LMP2、BZLF1およびEBNA1由来のEBVペプチドエピトープで刺激され、HLA−A2−LMP2ペプチド五量体染色で染色されたT細胞が、ペプチド特異的T細胞と同様の発生頻度を示した代表的な培養を示す。さらに、図10のEに示すように51Cr放出アッセイによって評価したところ、増殖された細胞は、その細胞溶解活性および細胞溶解特異性を維持しており、自己EBV−LCLを死滅させた(G−Rex対24ウェルプレートについて、20:1の比で62%±12対57%±8 E:T)。HLA不適合EBV−LCLの死滅は減少した(20:1の比で、15%±5対12%±7)。
【0058】
細胞療法のための改良された細胞生産のためのさまざまな新規方法の考察:生産サイクルの始めでの所望の細胞集団の表面密度の低減、応答細胞と刺激細胞との間の表面密度比の低減、気体透過性材料を含む増殖表面、および/または培地量対増殖表面積の比の増加を含むさまざまな条件について、細胞療法の研究および臨床適用のための細胞の生産を促進し、単純化するために、どのように使用することができるかを当業者に実証するために、実施例1〜8を提示してきた。実施例1〜8は、抗原特異的T細胞の生産に関連していたが、これらの新規の培養条件は、臨床的適合性を有する(または概念マウスモデルの前臨床証拠に必要とされる)多くの重要な浮遊細胞型に適用することができ、制御性T細胞(Treg)、ナチュラルキラー細胞(NK)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、初代Tリンパ球、多種多様な抗原特異的細胞、および他の多くのもの(それらはすべて、機能、インビボの残留性または安全性を改良するために、遺伝子改変することもできる)が含まれる。細胞は、フィーダ細胞および/または抗原提示細胞を用いて増殖させることができるが、このフィーダ細胞および/または抗原提示細胞は、PBMC、PHA blast、OKT3 T、B blast、LCL、およびK562、(天然、または発現するために遺伝子改変されていて、抗原および/またはエピトープ、ならびに、41BBL、OX
40L、CD80、CD86、HLA、および他の多くのものなどの共刺激分子)を含むことができ、これらはペプチドまたは関連する他の抗原でパルスする場合もあれば、しない場合もある。
【0059】
従来と異なった低い開始表面密度:本発明の一態様は、従来の方法と比較して、所望の細胞の低い表面密度を使用することによって生産時間を削減することができることの発見である。この方式では、所望の細胞は、従来の方法において可能であるより、最小細胞表面密度と最大細胞表面密度との間に大きな数値差を有することができる。所望の細胞集団の増殖速度は縮小し始めたが、所望の細胞の量が、生産を終了するにはまだ十分ではないときに、気体透過性材料を含む追加の増殖表面上に再び低い開始表面密度で所望の細胞を再分配するのが好ましい。
【0060】
より低い表面密度に依存する新規の細胞生産方法が、任意の所与の培養段階の始めに、どのように適用することができるのかを説明するために、ここで一例が記載される。図11は、本発明の一態様を使用した所望の細胞型の集団増殖と比較した、従来のシナリオの下での増殖表面上の所望の細胞集団増殖に関するグラフ表示を示す。この新規の方法では、生産段階の始めでの所望の細胞の表面密度は、従来の表面密度より少ない。この新規の方法の利点に焦点を合わせるために、本説明では、所望の細胞集団を最初に得る工程については記載していない。当業者がこの新規の方法の、時間に関する利点をより容易に判断することができるように、培養の「日」は「0」で開始する。この例において、従来の方法の各生産サイクルは、従来の表面密度0.5×106所望の細胞/cm2で始まるが、一方この例の各生産サイクルは、はるかに低く従来と異なる表面密度0.125×106所望の細胞/cm2で始まる。このように、この例で培養を開始するためには、従来の方法が要求するより4倍多くの表面積(つまり500,000/125,000)が必要である。この例では、従来の方法の所望の細胞は、14日で最大の表面密度2×106細胞/cm2に達する。このように、増殖面積1cm2によって2×106細胞/cm2がもたらされ、次いで、従来の開始密度0.5×106細胞/cm2(つまり、4cm2×0.5×106細胞=2×l06細胞)を使用して生産を続けることができるように、増殖面積の4cm2上に2×106細胞/cm2を再分配する。このサイクルは、最大細胞表面密度に再び達するまでさらに14日間繰り返され、それぞれ2.0×106細胞を生じ増殖表面積4cm2で合計8.0×106細胞となる。次いで、これらが増殖面積16cm2の上に分配され、42日間にわたって合計で32×106細胞を生ずるように増殖サイクルが繰り返される。
【0061】
図11で表された新規の方法では、生産の始めに1cm2の上に500,000の所望の細胞を堆積させる従来の方法を使用する代わりに、従来と異なって低い開始表面密度の125,000所望の細胞/cm2を0日目に生み出すために、増殖面積4cm2の上に均等に500,000の細胞を分配する。例では、新規の方法は、従来の方法を用いたときのように、7日目にまさに減少するところであるその増殖速度を有している。新規の方法における細胞は表面密度が1×106細胞/cm2である。このように、増殖速度がまさに減少するところである時点で、この培養段階によって、4×106細胞を生産し、次いで、開始表面密度0.125×106細胞/cm2(つまり32cm2×0.125×106細胞=4×106細胞)を使用して段階2における生産を続けることができるように増殖面積32cm2の上にそれを再分配する。生産サイクル、または生産段階は、14日目までさらに7日間繰り返すが、14日目には所望の細胞1.0×106を含む各増殖表面積32cm2で最大細胞表面密度に再び達し、わずか14日で、合計で32×106細胞を産出する。従来の方法におけるように、各生産サイクルの終わりに、終了表面密度を開始表面密度で除した倍数を、新規の方法がどのようにして生ずるかに注意されたい。しかしながら、細胞が増殖生産に入る前に開始細胞表面密度を減少させ、かつ、各生産段階を完了することによって、時間は著しく削減される。この例は、所望の細胞の表面密度
を減少する(この場合0.125×106細胞/cm2)ことによって、従来の細胞表面密度と比較して、従来の方法のときの時間のわずか33%(14日対42日)で、同量の所望の細胞がどのようにして生まれるかについて記載している。
【0062】
0.125×106細胞/cm2の開始表面密度を使用して、利点を定量化したが、当業者は、本発明のこの例が、従来の細胞表面密度を下回る任意の減少により生産所要時間が削減し得ることを実証することに気付くべきである。さらに、当業者は、本明細書に提示された本方法および他の新規の方法に記載される細胞増殖速度、および細胞増殖の減少が起きる時点は、説明の目的のみのためにあり、実際の速度は、培地組成物、細胞型、などのさまざまな条件に基づいた各適用において多様であることを認識すべきである。さらに、本発明のこの態様の利点は、生産時間の削減であり、任意の特定用途において従来の細胞表面密度より表面密度を減少することに起因するが、この例示的な例に使用される特定の従来の表面密度は、適用ごとに様々である場合があることを、当業者は所与の適用のために認識すべきである。
【0063】
このように、低減された細胞表面密度を使用することによって、細胞組成物内に存在する所望の細胞の所与の一定量を生産する期間を最小限にする要望があるときの、本発明の方法の一態様がここに記載される。所望の細胞は、以下のような、従来と異なって低い細胞表面密度で増殖表面上に堆積すべきである。
a.所望の細胞が、抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞の存在化にあり、増殖表面が気体透過性を備えない場合は1ml/cm2まで、および、増殖表面が気体透過性を備える場合は2ml/cm2までの培地量対表面積の比であり、
b.好ましい表面密度条件は、生産サイクルの始めに標的細胞の表面密度が、0.5×106細胞/cm2未満であるのが好ましく、かつ、図4に記載されるように、さらに減少することがなお好ましく、
c.所望の細胞の表面密度に抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞の表面密度を加えた表面密度が、少なくとも約1.25×105細胞/cm2であるのが好ましい。
【0064】
1.25×105細胞/cm2未満の抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞の表面密度をさらに低減しようと試みる場合、所望の細胞集団増殖が限定的にならないことを、上記の例に基づいて、検証することが賢明である。抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞の適切な供給によって増大させるとき、従来と異なった低密度で所望の細胞集団の増殖を達成することができることを実証する目的に基づいて1.25×105細胞/cm2を選択した。
【0065】
気体透過性材料を含む増殖表面、および、培地量対増殖表面積のより高い比の使用によって生産を単純化し短期化することができる。本発明の別の態様では、気体透過性材料を含む増殖表面、および、従来の比を超える培地量対増殖表面積の比の使用、および、徐々に増殖表面積の量を増加させる生産サイクルの繰り返しが、生産所要時間を削減するであろうことを見出した。
【0066】
これらの条件は、どのように生産所要時間を削減することができるかを例示するための例をここで提示する。気体透過性材料を含む増殖表面、および、1/cm2または2ml/cm2を超える従来と異なって高い培地量対増殖表面積の比の利用によって得ることができる利点の例を示すために、図12は考察を増大する。続く考察はこのような方法の使用によって、生産時間の削減、使用する増殖表面積量の低減、ならびに/または労働および汚染リスクの低減を含み、どのようにしていくつかの選択肢が使用可能になるかを当業者に実証することを意図している。図12および関連する考察は単に例に過ぎず、本発明の範囲を限定しないことを当業者は認識できるであろう。
【0067】
この例示的な例における所望の細胞集団を含む細胞組成物は、「X」時間当たり約1ml消費すると仮定する。図12は、「従来の方法」および「新規の方法」に分類される2つの生産工程を示す。増殖の始めに、各工程は、表面密度0.5×106/cm2で所望の細胞から始まる。しかしながら、新規の方法における増殖表面は、気体透過性材料、および従来の方法の1ml/cm2と対照的に2ml/cm2の培地量対表面積の比を含む。時間「X」において、従来の方法の所望の細胞集団は、2×106/cm2の表面密度プラトーに達し栄養素を枯渇させるが、一方、新規の方法の追加の培地量は増殖の継続を可能にし、所望の細胞表面密度は3×106/cm2となる。新規の方法が継続する場合、表面密度は4×l06/cm2に達する。このように、多くの有益な選択肢が生じる。新規の方法は、従来の方法より多くの細胞を生産して時間「X」より前に終結することができ、従来の方法より約1.5倍多くの細胞を生産して時間「X」に終結することができ、または、従来の方法の2倍多く所望の細胞を生産して、時間は2倍かかるが供給用の装置を扱う必要が全く無く、培地が栄養素を枯渇させるまで継続することができる。従来の方法が同数の細胞を集めるためには細胞を回収しなければならず、工程を再開するには、労働、および、起こり得る汚染リスクが加わる。細胞療法適用は典型的に、一定数の細胞を用いないと始めることができないので、従来の方法では生産の始めに簡単に表面積を増加させるという選択肢は認められない。
【0068】
2回以上の生産サイクルがどのようにより有益になりえるかを示すために、図13は図12の例を継続する。図13は、新規の方法の表面密度が従来の方法の表面密度を超える、本発明の新規方法の下での所望の細胞型の集団増殖と比較した、従来の方法の下での増殖表面上の所望の細胞集団増殖のグラフ表示を示す。この例に焦点を合わせるために、この説明では、所望の細胞集団を得る工程については記載していない。本発明のこの態様の時間に関連する利点を、当業者がより容易に判断することができるように、培養の「日」は0で開始する。この例において、「0日目」に従来の所望の細胞の表面密度0.5×105細胞/cm2を使用して両方の培養を開始する。この例示的な例において、従来の方法の増殖表面も、気体透過性材料を含む。しかしながら、従来の方法における増殖表面比に対する培地量は、新規の方法における4ml/cm2と対照的に1ml/cm2である。図13で示すように、従来の方法における所望の細胞集団は約4日で、表面密度約l.5×106細胞/cm2のとき、増殖速度が低下し始め、14日で最大表面密度2×106細胞/cm2に達する。その時点で、所望の細胞集団を、新鮮培地1.0ml/cm2の中に、表面密度0.5×106/cm2で、増殖面積の4cm2に分配し、生産サイクルは再び始まり、さらに14日で、表面密度2×106細胞/cm2に達し、28日に8×106の所望の細胞を生じる。比較すると、新規の方法における所望の細胞集団は、ほぼ10日から11日で表面密度約3×106細胞/cm2のとき増殖速度が低下し始め、28日で最大表面密度4×106細胞/cm2に達することができた。しかしながら、生産を促進するために、所望の細胞集団がまだ高増殖率にあるときにサイクルが終了する。このように、約10〜11日に、新鮮培地4.0ml/cm2の中に増殖表面積6cm2に対して表面密度0.5×106/cm2で3×106細胞を再分配し、生産サイクルは再び始まり、所望の細胞集団はほぼさらなる10〜11日で表面密度3×106細胞/cm2に達し、およそ21日で18×106の所望の細胞を生んだ。このように、新規の方法は、従来の方法と比較して、約75%の時間で、2倍を超える数の所望の細胞を生産した。
【0069】
気体透過性材料を含む増殖表面上に10×106細胞/cm2を超える細胞表面密度を得ることができたが、高い表面密度を使用する本発明の態様は、この例に記載される密度に限定するものではないことを実証した。
【0070】
このように、低減された細胞表面密度を使用することによって、細胞組成物内に存在する所与の量の所望の細胞を生産するための所要時間を最小限にする要望があるときの、本
発明の方法の別の例がここに記載される。
a.抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞の存在下において、培地量対表面積の比が少なくとも2ml/cm2で、気体透過性材料を含む増殖表面領域に所望の細胞を播種すること、および、
b.生産サイクルの始めに、標的細胞の表面密度が約0.5×106細胞/cm2の従来の密度内であるような、好ましい表面密度条件を確立すること、および、
c.所望の細胞集団が従来の表面密度約2×106細胞/cm2を超えて増殖することができるようにすること、および、
d.さらに多くの所望の細胞が求められる場合、気体透過性材料を含む追加の増殖表面に所望の細胞を再分配すること、および、所望の細胞を十分得られるまでステップa〜dを繰り返すこと。
【0071】
これらの新規の方法を使用するとき、以下の培養を開始する特性を組み合わせることによってさらなる有益性を達成することができる。すなわち、従来と異なって低い表面積を使用すること、所望の細胞および/またはフィーダ細胞の新規の表面密度比を使用すること、気体透過性材料を含む増殖表面領域を利用すること、従来と異なって高い培地量対増殖表面積の比を利用すること、およびサイクルで生産を行なうことである。この条件は、所望の結果を達成するために、低減生産時間、表面積利用、供給頻度などの間のバランスを取るなど、任意の生産サイクルで多様になることがあり得る。
【0072】
図14は、従来の方法に関連したまたさらなる利点が得られる、別の新規の方法を示す。本明細書に記載した、他の例示的な実施形態のように、本明細書の記載は、本発明の範囲を限定しないが、改良された生産効率の利点を達成する方法について記載されるように作用することを、当業者は認識しえるだろう。
【0073】
この例において、所望の細胞は、従来の条件において毎週倍加している。当業者がこの実施形態の時間に関する利点をより容易に判断することができるように、培養の「日」は「0」で開始する。さらに、この例を単純化するために、フィーダ細胞および/または抗原提示細胞の表面密度比に関する前述のことは繰り返さない。例示の目的で、従来の条件において7日間の倍加時間で500,000の所望の細胞の開始集団が「0日目」の生産を表していると仮定する。従来の方法は、表面密度0.5×106細胞/cm2でおよび培地量対表面積の比1ml/cm2で始める。示すように、所望の細胞集団が表面密度2×l06細胞/cm2に達すると、細胞を表面密度0.5×106細胞/cm2で追加の表面領域上に分配し、生産サイクルを新たに始める。本例の新規の方法を、表面密度0.06×106細胞/cm2、気体透過性材料を含む増殖表面領域、および培地量対表面積の比6ml/cm2で始める。示すように、集団が増殖プラトーの始まりに近づいているとき、細胞をさらなる増殖表面領域に再分配する。この場合、細胞表面密度が、培地量対表面積の比の1.5倍(つまり約1.5×l06細胞/ml)に接近すると従来の方法においてプラトーが開始されることに注意して、集団がプラトーに達していることを測定する。このように、約9日目に、表面密度約4.5×106細胞s/cm2で細胞を増殖表面積36cm2上に分配し、生産サイクルを新たに始める。
【0074】
図15は、図14で表された各生産方法の比較を作表し、かつ、新規の方法の能力、および、十分に効率を獲得するためにさまざまな段階で生産手順を調節することはなぜ賢明かを実証するべく段階に拡大する。新規の方法は従来の方法を圧倒し、生産サイクルのわずか第2段階を完了しただけで、必要表面積がわずか61%でわずか約半分の時間でほぼ1.37倍多くの細胞を生ずることに注意されたい。一方、生産サイクルの第3段階が、どのように、細胞における量の増加を生み出し、かつ表面積に相当する増加を生み出すかに注意されたい。このように、任意の所与の工程ごとに、最適水準の効率を達成するために、工程の各サイクルの全体を通して、最初の細胞表面密度および/または最終の細胞表
面密度をどのように調節するかを予想するために、生産サイクルはモデル化されるべきである。
【0075】
1つの例として、図16は、生産が進むにつれて効率を獲得するため、新規の方法においてどのように可変量を変更することができるのかの例を示す。たとえば、サイクル3の開始表面密度の0.06から0.70細胞/cm2までの増加、および、最終表面密度の4.5から7.5細胞/cm2までの変化を行なうことができる。最終表面密度の増加は、開始の6ml/cm2を超えて大きな数まで、培地量対表面積の比の増加の問題である。表面積に対する培地量が大きければ大きいほど、サイクルはそれだけ長く急増殖相にとどまる(つまりプラトーより前の集団増殖)。ここでは、5日の延長を許し、急増殖相を完了させて、培地量対表面積の比を約8ml/cm2に上げた。そうすることにより、この例において、合理的な表面積を用いて34日で3兆を超える細胞を生産できる。たとえば、装置を構築して気体透過性材料を含む増殖表面約625cm2でテストした。これは従来の方法より明らかに優位な細胞生産の手法である。
【0076】
このように、低減された細胞表面密度を使用することによって細胞組成物内に存在する所与の量の所望の細胞を生産するための所要時間を最小限にする要望があるときの、本発明の方法の好ましい別の実施形態がここに記載される。
a.抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞の存在下において、少なくとも2ml/cm2の培地量対表面積の比で、気体透過性材料を含む増殖表面領域に所望の細胞を播種すること、および
b.生産サイクルの始めに、標的細胞の表面密度が従来の密度未満であり、好ましくは約0.5×106所望の細胞/cm2〜約3900所望の細胞/cm2の間であり、かつ所望の細胞と抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞との合計が少なくとも約1.25×l05細胞/cm2であるような、好ましい表面密度条件を確立すること、および
c.所望の細胞集団が従来の表面密度約2×106細胞/cm2を超えて増殖することを可能にすること、および
d.さらに多くの所望の細胞が求められる場合、気体透過性材料を含む追加の増殖表面に所望の細胞を再分配すること、および、十分な所望の細胞が得られるまでステップa〜dを繰り返すこと。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、細胞を培養する方法に関し、より具体的には細胞療法のための細胞を培養することに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養は、細胞療法のコストおよび複雑さの大きな要因である。現在の方法では、細胞を培養する処理は時間がかかり高価である。多くの細胞を生産するために、インビトロの培養工程は、典型的に、段階的に進行するように行なわれる。最初の段階では所望の細胞は、細胞培養装置中に配置される細胞組成物内において、比較的小さな集団として存在する。この段階では、細胞組成物は、所望の細胞源(末梢血単核細胞など)、所望の細胞の増殖を刺激するフィーダ細胞、および/または抗原提示を典型的に含む。細胞の存在する培地をおおむね無撹拌状態とすることの可能な培養装置および培養方法は、細胞が比較的無撹拌のままであるので好まれる。このような装置には、標準組織培養プレート、フラスコおよびバッグが含まれる。培養は段階的に進行され、この段階は一般に、細胞組成物がグルコースなどの増殖基質の培地を枯渇させることができるようにすること、使用済み培地を除去すること、使用済み培地を新鮮培地に交換すること、および、所望の細胞を所望量得られるまでこの処理を繰り返すことからなる。所望の細胞集団が増加するとともに追加の増殖表面が必要になるにつれて、新たな生産段階を開始するために、他の装置に細胞組成物をしばしば移動させる。しかしながら、従来の方法では、増殖表面上の細胞集団が増加するにつれて、所望の細胞集団の増殖速度は遅くなる。最終的に、所望の細胞の相当に大きい集団を生産するには非常に時間がかかり複雑であるという結果となる。
【0003】
エプスタインバーウイルス(Epstein Barr virus)に対し抗原特異性を有するTリンパ球(EBV−CTL)を生じさせるための最新式生産方法は、生産の複雑さを示す例である。EBV−CTLの最適な増殖のための従来の方法は、標準24ウェル組織培養プレートを使用する。各ウェルは、細胞が常駐するその表面積が2cm2であって、気体移動の必要性のため、1ml/cm2に制限された培地量を有している。培養工程は、照射済みの抗原提示細胞系の存在下にPBMC(末梢血単核細胞)を含む細胞組成物を入れることにより始まるが、リンパ芽球様細胞系(LCL)であってもよく、表面密度(つまり増殖表面の、細胞/cm2)比は約40:1で、約1×106PBMC/cm2および約2.5×104照射抗原提示細胞/cm2である。これによって細胞組成物内のEBV−CTLの集団の量が大きくなる。9日後、EBV−CTLは、最小表面密度約2.5×105EBV−CTL/cm2、新たな表面密度比4:1で、照射抗原提示LCLの存在下に選択的に再増殖する。酸素が細胞に達することができるように、培地量は、増殖表面の面積に関する比で最大1ml/cm2までに制限されるが、これによってグルコースなどの増殖溶質が制限される。その結果、達成することができる最大表面密度は約2×l06EBV−CTL/cm2になる。このように、週当たりの最大細胞増殖は約8倍(つまり2×l06EBV−CTL/cm2を2.5×105EBV−CTL/cm2で除す)以下である。EBV−CTLを継続的に増殖させるために、抗原再刺激を有する追加の24ウェルプレートにEBV−CTLを毎週移動させ、24ウェルプレートの各ウェル内の培地および増殖因子を週に2度交換する必要がある。EBV−CTL表面密度がウェル当たりの可能な最大量に接近するにつれて、従来の方法はEBV−CTL集団増殖の速度が遅くなる結果をもたらすので、細胞注入、ならびに無菌性アッセイ、同定アッセイ、および効力アッセイなどの品質管理手段に十分な量のEBV−CTLを得るために、これらの操作をしばしば4週間から8週間にもなる長い生産期間にわたり繰り返さなければならない。
【0004】
EBV−CTLの培養は、細胞療法に固有の複雑な細胞生産工程の一例に過ぎない。生産時間を削減し、同時に生産コストおよび複雑さを低減することができる、細胞療法のための細胞を培養する、より実用的な手段が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生産の全体を通して集団増殖速度を増加させる新規な方法を生み出し、そうすることによって細胞を生産する複雑さおよび所要時間を削減する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
生産工程の全体を通して従来とは異なる条件を定期的に再確立させる段階的な生産工程を使用することによって、現在可能であるより短期間かつ経済的な方式で、細胞療法のための細胞生産を生じさせることができることが見出された。従来とは異なる条件は、所望の細胞の表面密度(つまり細胞/cm2)の低減、抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞に対する所望の細胞の新規の比、および/または培地量対表面積の比が増大した気体透過性材料を含む増殖表面の使用を含む。
【0007】
本発明の実施形態は細胞療法適用のための細胞を培養する改良された方法に関する。それらの実施形態は、生産工程の全体を通して、所望の細胞集団が従来の方法と比較してより高い増殖速度を維持することを可能にするさまざまな新しい方法を使用することによって、所望の細胞を所望の数を生じさせるために必要な、時間、コストおよび複雑さを低減する方法を含む。
【0008】
本発明の一態様は、培養工程を段階的に行うこと、および、所望の細胞集団の増殖速度が現在可能な速度を超えることを可能にする、1つ以上の段階の始めにおける条件を確立することに依存する。培養の少なくとも1つの段階および好ましくはほぼすべての段階が、表面密度が従来と異なって低く、所望の細胞当たりの抗原提示細胞(および/またはフィーダ細胞)の比が従来と異なっていて、気体透過性でない増殖表面または気体透過性である増殖表面のいずれかに静置されている所望の細胞を含む開始条件を確立する。本発明のこの態様の新規の実施形態を使用することによって、所望の細胞集団は、従来の方法によって可能であるよりも短い期間でさらに倍加させることができ、それによって生産の期間を削減することができる。
【0009】
本発明の別の態様は、培養工程を段階的に行うこと、および所望の細胞集団の増殖速度が現在可能な速度を超えるように、1つ以上の段階の始めにおける条件を確立することに依存する。培養の少なくとも1つの段階、および好ましくはほぼすべての段階が、培地量対増殖表面積の比が従来と異なって高く、気体透過性材料を含む増殖表面上に静置されている所望の細胞を含む条件を確立する。本発明のこの態様の新規の実施形態を使用することによって、所望の細胞集団は、従来の方法によって可能であるよりも短い期間でさらに倍加することができ、それによって生産の期間を削減することができる。
【0010】
本発明の別の態様は、培養工程を段階的に行うこと、および所望の細胞集団の増殖速度が現在可能な速度を超えるように、各段階の条件を確立することに依存する。培養の少なくとも1つの段階、および好ましくはほぼすべての段階が、培地量対増殖表面積の比が従来と異なって高く、所望の細胞当たりの抗原提示細胞(および/またはフィーダ細胞)の比が従来と異なり、表面密度(つまり、細胞/cm2)が従来と異なって低く、気体透過性材料を含む増殖表面上に静置されている所望の細胞を含む開始条件を確立する。本発明のこの態様の新規の実施形態の使用によって、所望の細胞集団を、従来の方法によるよりも短い期間でさらに倍加することができ、それによって生産期間を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】A:実施例1における抗原特異的T細胞の集団が、最初の7日間にわたり、開始刺激の後に少なくとも7回の細胞倍加を受けることを示す図、B:実施例1についての四量体解析によって測定された、時間の経過につれて細胞組成物内のT細胞集団が増殖する大きさを実証するデータを示す図、C:実施例1において、23日の期間にわたり抗原特異的T細胞の集団増殖速度が減少することを示す図。
【図2】実施例1において、抗原特異的T細胞に関する予測される増殖倍と観察された増殖倍との間の相違を例示する表。
【図3】A:実施例2の刺激後の抗原特異的T細胞の存在を示す図、B:実施例2において、抗原特異的T細胞対抗原提示細胞の比を4:1に維持しながら、表面密度が1×l06/cm2から3.1×104/cm2まで減少するときの抗原特異的T細胞の集団増殖を示す図、C:実施例2において、抗原提示細胞の一定数の存在下で、表面密度が1×106/cm2から3.1×104/cm2まで減少するときの抗原特異的T細胞の集団増殖を示す図。
【図4】図3に記載される研究を継続する際に得られた結果の例を示す図であって、所望の細胞が他の細胞の支援を必要とするとき、フィーダ細胞および/または抗原提示細胞の適切な供給がある限り、所望の細胞の表面密度が従来と異なって低い状態で集団増殖を開始できることをさらに実証する図。
【図5】3種の異なる細胞表面密度(CTL/cm2)で培養を開始することによって、所望の細胞の集団増殖の大きさを、繰り返す能力を実証するヒストグラム。
【図6】データを得るために使用した気体透過性試験装置の横断面図。
【図7】A:本発明に従って生産された抗原特異的T細胞の増殖曲線を示す図であって、実施例5で行なったような従来の方法と比較する図、B:実施例5において、フローサイトメトリーの前方散乱対側方散乱によって測定したとき、細胞生存率は、本発明に従って生産された抗原特異的T細胞における方が従来の方法と比較して有意に高かったことを示す図、C:実施例5において、Annexin−PI7AADによって測定したとき、細胞生存率は、本発明に従って生産された抗原特異的T細胞における方が従来の方法と比較して有意に高かったことを示す図、D:実施例5において、本発明の新規の方法において生産された細胞の優位な増殖が、各日のCFSE標識細胞のフローサイトメトリー解析によって測定されたとき、従来の方法を使用して培養された細胞のような、細胞特異的増殖速度を示しておりこれにより、細胞増殖速度の増加が細胞死の減少に起因したことを確かなものにしたことを示す図。
【図8】A:培地を交換する必要のない従来の方法において可能であった範囲を超えて、EVB−CTLがどのように増殖することができたかを示す図、B:EBERを定量PCRによって評価したとき、実施例6の培養条件が最終細胞産物をどのように改変しなかったか示す図、C:B細胞マーカであるCD20を定量PCRによって評価したとき、実施例6の培養条件が最終細胞産物をどのように改変しなかったかを示す図。
【図9】所望の細胞および抗原提示細胞の表面密度の累積が非常に低い(ここでは、AL−CTL細胞およびLCL細胞が混合されて表面密度30,000細胞/cm2の細胞組成物となっている)ことによって、AL−CTL集団が増殖を開始できなかったことを実験的に実証したことの例を示す図。
【図10】A:細胞を培養する新規の2つの方法が、23日の期間にわたって、従来の方法より多くの細胞をどのように生産するかを示す実施例8のデータを提示する図、B:実施例8における試験装置の中で培養された細胞の写真、C:実施例8において、2つの新規の培養方法および従来の方法のすべてが、同じ表現型を有する細胞を生産することを示す図、D:実施例8で、LMP1、LMP2、BZLF1由来の、EBVペプチドエピトープおよびEBVのEBNA1で刺激され、HLA−A2−LMP2ペプチド五量体染色法で染色されたT細胞がペプチド特異的T細胞と同様の発生頻度を示した代表的な培養を示す図、E:51Cr放出アッセイによって評価したとき、細胞は細胞溶解活性および細胞特異性を維持し、自己EBV−LCLを死滅させたが、HLA不適合EBV−LCLの死滅は低かったことを実施例8の新規の方法および従来の方法のために示す図。
【図11】本発明の一態様を使用した所望の細胞型の集団増殖と、従来のシナリオ下における増殖表面上の所望の細胞の集団増殖とを比較したグラフ。
【図12】気体透過性材料を含む増殖表面、および、1または2ml/cm2を超える、従来と異なって高い培地量対増殖表面積の比を利用することにより得ることができる利点の一例を示す図。
【図13】完了時の細胞表面密度が従来の表面密度より極めて大きい、本発明の一実施形態下における所望の細胞型集団増殖と従来のシナリオ下における増殖表面上の所望の細胞集団増殖の新規の方法を比較したグラフ。
【図14】従来の方法を超える別のさらなる利点を提供する細胞生産の別の新規な方法を示す図。
【図15】新規な方法の能力を実証するべく図14に示した各生産方法の比較を示すとともに、十分に効率を獲得するために、さまざまな段階で生産手順を調節することがなぜ有用であるかを示す図。
【図16】生産が進むにつれて効率を獲得するために、新規な方法では生産手順をどのように調節することができるのかの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、添付図面に関する以下の詳細な説明を考慮することで、本発明のさまざまな実施形態をより深く理解できる。
定義
抗原提示細胞(APC:antigen presenting cell):特定の抗原に応答するように所望の細胞を惹起するために作用する細胞。
【0013】
CTL:細胞傷害性T細胞
所望の細胞:生産処理において量を増やすことを目標とする特異的な型の細胞。一般に、所望の細胞は浮遊細胞であり、例は制御性T細胞(Treg)、ナチュラルキラー細胞(NK)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、初代Tリンパ球およびさまざまな抗原特異的細胞、および他の多くのもの(それらはすべて、機能、インビボの残留性または安全性を改良するように遺伝子改変することができる)を含む。臨床的使用に必要な細胞は、フィーダ細胞および/または抗原提示細胞で増殖することができ、この抗原提示細胞は、PBMC、PHA blast、OKT3 T、B blast、LCLおよびK562(天然であるか、または発現するように遺伝子改変されていて、抗原および/またはエピトープ、ならびに41BBL、OX40L、CD80、CD86、HLA、および他の多くのものなどの共刺激分子)を含むことができ、これらはペプチドまたは関連する他の抗原でパルスする場合もあれば、しない場合もある。
【0014】
EBV(Epstein Barr virus):エプスタインバーウイルス
EBV−CTL:EBV感染細胞またはEBV由来のペプチドを発現したり提示したりする細胞を、T細胞表面受容体により特異的に認識したT細胞。
【0015】
EBV−LCL:エプスタインバーウイルスで形質転換されたBリンパ芽球様細胞系。
フィーダ細胞:所望の細胞の量を増加させるように作用する細胞。状況によっては抗原提示細胞もフィーダ細胞として作用することができる。
【0016】
増殖表面:細胞がその上に静置される、培養装置内の領域。
PBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cell):末梢血由来の末梢血単核細胞で、いくつかの所望の細胞の源となり、フィーダ細胞として作用することができる。
【0017】
応答細胞(R):刺激細胞に反応する細胞。
静置細胞培養:日常の操作のために培養装置の設定場所が移動される場合、および/または細胞に新鮮培地などが定期的に供給される場合以外は、撹拌されたり混合されたりしない培地中で細胞を培養する方法。一般に、静置培養中の培地は、通常、静止状態にある。本発明は静置細胞培養方法に関する。
【0018】
刺激:抗原提示および/またはフィーダ細胞が所望の細胞上で有する作用。
刺激細胞(S):応答細胞に影響を及ぼすであろう細胞。
表面密度:細胞が静置される装置内の表面の、単位面積当たりの細胞量。
【0019】
養子T細胞療法のための所望の細胞集団の生産を単純化する新規の方法を見つけようとしたとき、細胞療法適用のための細胞のより効率的な培養に門戸を開いていた一連の実験が行なわれた。本発明の多数の例示的な実施例およびさまざまな態様は、従来の方法と比較して、生産時間および複雑さを低減する能力をどのように達成することができるかを示すべく記載される。
【0020】
実施例1:従来の方法の限界の実証
この実施例のデータは、ウェル当たり2ml(つまり培地の高さが1.0cmで、培地量対表面積の比が1ml/cm2)の培地量を使用する標準24ウェル組織培養プレート(つまり1ウェル当たりの表面積が2cm2)におけるEBV−CTL生産のための、従来の培養方法の限界を実証する。
【0021】
培養段階1、0日目:培地量対増殖表面積の比1ml/cm2、および、40:1の比(PBMC:LCL)の抗原提示γ線照射(40Gy)自己EBV−LCLで、正常なドナー由来のPBMC(約1×106細胞/ml)細胞組成物を培養し、45%のクリック培地(Irvine Scientific,Santa Ana,CA)、2mMのGlutaMAX−I、および10%のFBSを補充したRPMI1640中の細胞組成物表面密度を約1×106細胞/cm2に確立することによって、EBV−CTLの集団増殖を開始した。
【0022】
培養段階2、9日目から16日目:9日目に、段階1で生み出された細胞組成物からEBV−CTLを回収し、表面密度0.5×106EBV−CTL/cm2で新鮮培地に再懸濁し、CTL:LCLが4:1の比(表面密度0.5×106CTL/cm2:1.25×105LCL/cm2)の照射自己EBV−LCLで再刺激した。13日目に、24ウェルプレートの各ウェル中の培地量2mlのうち1mlを除去し、組換えヒトIL−2(lL−2)(50U/ml)(Proleukin;Chiron,Emeryville,CA)を含む新鮮培地1mlと交換した。
【0023】
培養段階3、17日目から23日目:段階2の条件は、IL−2の添加を週に2度繰り返し、23日目に培養を終結した。培養は終結したが、段階2および3の培養を模倣した追加の培養段階を続けることができる。
【0024】
細胞毒性試験における標的細胞として使用するための細胞系および腫瘍細胞:アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC,Rockville,MD,USA)からBJAB(B細胞リンパ腫)およびK562(慢性赤血球白血病)を得た。細胞はすべて、10%の熱失活したウシ胎仔血清(FCS)、2mMのL−グルタミン、25IU/mLのペニシリン、および25mg/mLのストレプトマイシン(すべてBioWhittaker,Walkersville,MO)を含むRPMI1640培地(GIBCO−BRL、Gaithersburg、MD)で培養を維持した。細胞は37℃で5%の二酸
化炭素を含んでいる加湿雰囲気に維持した。
【0025】
免疫表現型検査:
細胞表面:Becton−Dickinson(Mountain View,CA,USA)のフィコエリトリン(PE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、periodinクロロフィル蛋白質(PerCP)、および、アロフィコシアニン(APC)結合抗CD3、CD4、CD8、CD56、CD16、CD62L、CD45RO、CD45RA、CD27、CD28、CD25、CD44モノクローナル抗体(MAbs)で細胞を染色した。PE結合四量体(Baylor College of Medicine)およびAPC結合五量体(Proimmune Ltd,Oxford,UK)は、EBV−CTL前駆体発生頻度を定量化するために使用された。細胞表面および五量体染色のためのそれぞれ10,000および100,000のライブイベントをFACSCaliburフローサイトメータで得て、データをCell Quest software (Becton Dickinson)を使用して分析した。
【0026】
細胞分裂を測定するためのCFSE標識:2×107の倍加速度を評価するために、PBMCまたはEBV特異的CTL(EBV−CTL)を2度洗浄し、0.1%のウシ胎仔血清(FBS)(Sigma−Aldrich)を含んでいる850μlの1×リン酸緩衝食塩水(PBS)に再懸濁した。染色に先立って、一定分量のカルボキシフルオレセインジアセテート、サクシニミジルエステル(CFSE)(ジメチルスルホキシド中10mM)(Celltrace(商標)CFSE細胞増殖キット(C34554)Invitrogen)を解凍し、1×PBSで1:1000に希釈し、その希釈物150μlを細胞懸濁液(標識濃度は1μMだった)に加えた。CFSEで室温に10分間、細胞をインキュベートした。次に、1mlのFBSを細胞懸濁液に加え、続いて37℃で10分間、インキュベートした。その後、細胞を1×PBSで2度洗浄し、計数し、かつ、記載の抗原で刺激した。
【0027】
AnnexinV−7−AAD染色:培養におけるアポトーシス細胞および壊死細胞の百分率を測定するために、製造者(BD Pharmingen(商標)#559763,San Diego,CA)の指示通りにAnnexin−7−AAD染色を実施した。簡潔に説明すると、24ウェルプレートまたはGRexから冷PBSでEBV−CTLを洗浄し、1×106細胞/mlの濃度で1×結合バッファーに再懸濁し、暗所に室温(25℃)で15分間Annexin V−PEおよび7−AADで染色した。インキュベーションに続いて、フローサイトメトリーによって細胞を直ちに分析した。
【0028】
クロム放出試験:標準4時間の51Cr放出アッセイにおいてEBV−CTLの細胞障害活性を評価した。所望の細胞として、自己ならびに、HLAクラスIおよびクラスII不適合EBV形質転換リンパ芽球様細胞系(EBV−LCL)を使用して、MHC拘束およびMHC非拘束による死滅を測定し、K562細胞系を使用して、ナチュラルキラー活性を測定した。培地だけで、または1%のトリトンX−100でインキュベートした、クロム標識した所望の細胞を使用して、自然および最大51Cr放出をそれぞれ測定した。三種のウェルの特異的な溶菌の平均百分率は以下のように算出された:[(テスト総数−自然発生総数)/(最大総数−自然発生総数)]×100。
【0029】
酵素免疫スポット(エリスポット)アッセイ:エリスポットアッセイを使用して、抗原刺激に応答してIFNγを分泌したT細胞の発生頻度および機能を定量化した。24ウェルプレート、またはG−Rexの中で増殖したCTL系統を、照射LCL(40Gy)またはLMP1、LMP2、BZLF1およびEBNA1 pepmix(1μg/mlに希釈)(JPT Technologies GmbH,Berlin,Germany)、またはEBVペプチドHLA−A2 GLCTLVAML=GLC、HLA−A2
CLGGLLTMV=CLG、HLA−A2−FLYALALLL=FLYおよびHLA−A29 ILLARLFLY=ILL(Genemed Synthesis,Inc.San Antonio,Texas)で刺激し、2μMの最終濃度に希釈し、ネガティブコントロールとしてCTLを単独で機能させた。CTLはエリスポット培地[5%のヒト血清(Human Serum)(Valley Biomedical,Inc.,Winchester,Virginia)および2mMのL−グルタミン(GlutaMAX−I,Invitrogen,Carlsbad,CA)を補充したRPMI1640(Hyclone,Logan,UT)]中に1×106/mlで再懸濁した。
【0030】
96ウェル濾過プレート(MultiScreen,#MAHA84510,Millipore,Bedford,MA)は、10μg/mLの抗IFN−γ抗体(Catcher−mAB91−DIK,Mabtech,Cincinnati,OH)で4℃で一晩被覆し、次いで、洗浄し、37℃で1時間、エリスポット培地でブロックした。応答細胞および刺激細胞を20時間プレート上でインキュベートし、次いで、プレートを洗浄し、ビオチン結合抗IFN−γモノクローナル第二抗体(Detector−mAB(7−B6−1−Biotin)、Mabtech)を用いてインキュベートし、続いてアビジンすなわち、ビオチン化された西洋ワサビペルオキシダーゼ複合体(Vectastain Elite ABCキット(標準),#PK6100,Vector Laboratories,Burlingame,CA)でインキュベートし、次いで、AEC基質(Sigma,81.Louis,MO)で発色させた。培養条件をそれぞれ3回繰り返した。評価のためにプレートをZellnet Consulting,New York,NY.に送った。スポット形成単位(SFC)および投入した細胞数をプロットした。
【0031】
統計解析:インビトロのデータは平均±1SDとして提示される。ステューデントt検定を使って試料間の違いの統計的有意差を測定し、P<0.05の場合に有意差があると判定した。
【0032】
これらの培養条件下では、図1のAに示すように、開始刺激の後、最初の7日間にわたって抗原特異的T細胞の集団は少なくとも7回細胞倍加を受ける。したがって、T細胞が一週間で128倍増殖すると予想する(抗原特異的T細胞の発生頻度に、細胞組成物の細胞総数を乗じて評価)。第1、第2および第3刺激の後の四量体陽性細胞の発生頻度を図1のBに示す。0日目には、2種のEBV四量体、RAKおよびQAKに対する反応性T細胞の発生頻度はそれぞれ0.02%および0.01%であった。0日目に1回だけ刺激した後、9日目までに、細胞組成物中の四量体陽性T細胞の発生頻度は0.02%および0.01%から2.7%および1.25%までそれぞれ増加していた。このように、RAKおよびQAKによって測定したとき、細胞組成物内に存在している抗原特異的四量体陽性T細胞の百分率は、135倍および125倍増を達成した。さらに培養段階1の0日目に1回だけ刺激した後、9日目までに、細胞組成物中の細胞の表面密度においても1.1倍の増加(データは示していない)(約1.1×106細胞/cm2が存在した)を観察した。PBMC組成物内の大多数の細胞が刺激抗原に特異的ではないので、総細胞数における全体的な増加はほとんど観察されないが、図1のCに示すように、組成物内の抗原特異的細胞集団の増殖倍は、培養の第1段階の間に、約280であった。CSFEで測定すると、培養の第2段階および第3段階の間、細胞倍加の数は同じであったが、不運にも、培養の第2段階または第3段階の間、抗原特異的T細胞増殖はこの速度を持続せず、段階2では5.7、および段階3では4.3に過ぎなかった。図2は、抗原特異的T細胞(n=3)の、予測される増殖と観察した増殖との間の相違を例示する表を示す。
【0033】
所望の細胞の集団増殖の速度はその後の培養段階において減少するので、所望の細胞を生産するのに要する時間は、典型的に、ほぼ最初の生産の週の後に遅くなることを、実施
例1は実証する。
【0034】
実施例2:所望の細胞集団を増加させるための所要時間の削減は、培養の任意の所与の1段階または複数の段階の始めに、所望の細胞集団の細胞表面密度を低減することにより達成することができる。
【0035】
第2のT細胞刺激に続く所望の細胞集団増殖速度が、第1の刺激と比較して低下したのは、活性化誘導細胞死(AICD)をもたらす細胞培養条件に限定したためと仮定した。たとえば、図3のAを参照すると、第1刺激では、PBMCのうちのEBV抗原特異的T細胞構成成分は多くとも集団の2%であるため、抗原特異的応答T細胞の播種密度はcm2当たり2×l04未満である。残りのPBMCは、非増殖フィーダ細胞(図3のAにおいてCFSE陽性細胞と見なされる)として作用し、抗原特異的CTLの増殖を可能にする最適な細胞間接触を持続させる。対照的に、9日目の第2刺激において、大多数のT細胞は抗原特異的であり、組成物の総細胞密度はほぼ同じであるが、増殖細胞密度は50〜100倍高い。その結果、再刺激で、大多数の細胞が増殖し、これにより急速に培地の栄養素および酸素供給を消費し消耗させる可能性がある。
【0036】
培養条件を限定することが最適以下のT細胞増殖速度の原因だったかどうかを判断するために、より低い細胞密度で蒔いた活性化T細胞の増殖を測定した。方法は前述の実施例1のとおりである。
【0037】
図3のBに示すように、各ウェルが2cm2の増殖表面積を有する標準24ウェルプレートのウェルに、応答細胞対刺激細胞の比(R:S)を4:1に維持しつつ1×106/cm2から3.1×104/cm2の範囲で縮小していく表面密度を生み出す倍加希釈で、活性化EBV特異的T細胞を播種した。cm2当たり1.25×l05の開始CTL表面密度において、最大のCTL増殖(4.7±1.1倍)が達成されたが、図3のBに示すように、さらなる希釈は増殖速度を減少させた。この限定的な希釈効果はおそらく細胞間接触が無いためであると推測されるので、一定数のフィーダ細胞(1.25×105/cm2の表面密度で蒔かれたEBV−LCL)とともに、1×106から3.1×l04までの表面密度のEBV−CTLの倍加希釈を培養し、7日の期間にわたる細胞増殖を評価した。図3のCに提示するように、1×106/cm2の表面密度のEBV−CTLでのわずか2.9±0.8倍の増殖から、3.1×104/cm2の表面密度のEBV−CTLでの34.7±11倍の増殖に至るまで、CTL増殖における劇的な増加を観察した。重要なことは、この培養条件の変更は、細胞の機能または抗原特異性を変化させなかった(データは示していない)ことである。そのため、活性化された抗原特異的T細胞の集団は従来の培養方法によるよりも、より高い増殖が可能である。注目すべきは、達成された最大の表面密度は刺激(1.7から2.5×106/cm2)後、開始表面密度に関係なく同じだったことである。
【0038】
このように、従来の培養条件は限定的であり、所望の細胞集団に従来の方法の表面密度の限界を超えさせるために、培地量対増殖表面積の比を従来の1ml/cm2を超えて増加させる必要があることを示している。さらに、任意の培養段階の始めに、所望の細胞集団の表面密度を従来の方法未満に低減することによって、約34倍まで抗原特異的CTLの増殖を改良することができる。このことは細胞療法に相当な派生効果を有している。この細胞療法では、生産の始めの細胞量がかなり限定されていることがしばしばある。たとえば、限定量の所望の細胞を、増大した表面積上に、より低下された表面密度で分配することによって、従来の表面密度と比較して集団増殖速度が劇的に増加するので、より短い期間でより多くの所望の細胞集団が得られる。
【0039】
実施例3:所望の細胞および/または抗原提示細胞を含む細胞集団の最小表面密度によ
って、非常に低い表面密度で播種される所望の細胞集団の増殖を可能にすることができる。
【0040】
図3に記載される研究を継続する際に得た結果の実施例を図4に示し、さらに、所望の細胞が他の細胞の支援を必要とするとき、フィーダ細胞および/または抗原提示細胞の適切な供給がある限り、所望の細胞の表面密度が従来と異なって低い状態で集団増殖を開始することができることを実証した。これらの実験において、R:S比が8対1で約1.0×l06所望の細胞/cm2とR:S比が1対32で単に約3900所望の細胞/cm2との間のR:S比および表面密度で、実験を中止した時点で開始表面密度の50倍を超えるまで、総細胞組成物がどのように所望の細胞を大幅に増殖させることができるかについて実証を続ける。
【0041】
実施例4:生産工程が段階的に繰り返すことを可能にする能力は、所望の細胞が従来とは異なって低い表面密度で段階を開始することによって、集団増殖、段階の終了、および条件の繰り返しを可能にし、反復可能な結果を生ずることを実証した。
【0042】
図5に示すように、所望の細胞の3種の表面密度(CTU/cm2)で、実施例3に記載される評価を続けた。各特異的播種密度は一貫して同じ倍率まで増加させることができた。このことの有する意味について、所望の細胞集団のための生産時間を劇的に低減する能力に関連して、さらに詳細に記載する。
【0043】
実施例5:気体透過性材料を含む増殖表面上で所望の細胞を培養する一方、同時に、増殖表面積に対する培地量を増加させることは、従来の方法と比較して、所与の培養段階で所望の細胞が倍加できる回数を増加させ、達成可能な表面密度を増加させる。
【0044】
細胞系および腫瘍細胞、免疫表現型検査、CFSE標識、AnnexinV−7−AAD染色、クロム放出アッセイ、酵素免疫スポット(エリスポット)アッセイ、Tリンパ球のレトロウイルス生産および形質導入、および統計解析は、実施例1に記載されるとおりである。
【0045】
試験装置(以下、一般的に「G−Rex」と称す)は、図6で示すように構築した。各G−Rex10の底部20は、気体透過性シリコーン膜を含み、厚さ約0.127mm(0.005インチ)から0.1778mm(0.007インチ)である。Wilsonに対する出願継続中の米国特許出願第10/961,814号明細書は、代替気体透過性材料の使用に関する多くの情報源の中でも特に、本発明の実施形態の多くにとって有益である気体透過性培養装置の形状、特徴、および他の有用な特性について当業者に知らせるために使用することができる。この実施例3において、G−Rex(「G−Rex40」と称する)は10cm2の増殖表面積を有しており、その上に細胞組成物(アイテム30として示した)を静置したが、細胞組成物の特性は、記載の通り、実験の全体を通して多様だった。培地空間(アイテム40として示した)は、特に明記しない限り、30mLだったが、培地量対増殖表面積の比3ml/cm2を生み出した。
【0046】
活性化EBV特異的CTLおよび照射自己EBV−LCLは、CTL:LCL比を従来の4:1にしてG−Rex40装置の中で培養された。G−Rex40の中に5×105細胞/cm2の表面密度でEBV−CTLを播種し、EBV−CTL集団増殖速度を、増殖表面積に対する培地量1ml/cm2で標準24ウェルプレートの中に同じ表面密度で播種したEBV−CTLと比較した。図7のA(p=0.005)に示したように、3日後、G−Rex40の中のEBV−CTLは、培地交換無しで、5×105/cm2から7.9×106/cm2(範囲5.7〜8.1×106/cm2の中央値)まで増加した。対照的に、従来の24ウェルプレートで3日間培養されたEBV−CTLは、3日目ま
でに、5×105/cm2の表面密度から1.8×106/cm2(範囲1.7から2.5×106/cm2の中央値)までしか増加しなかった。G−Rex40の中に培地を補充することによって表面密度をさらに増加させることができるのに対して、24ウェルプレートの中に培地またはIL2を補充することによって細胞表面密度を増加させることはできなかった。たとえば、7日目に、培地およびIL2を補充すると、その後、EBV−CTL表面密度は、G−Rex40の中で、9.5×106細胞/cm2(範囲8.5×106から11.0×106/cm2)までさらに増加した(データは示していない)。
【0047】
G−Rex装置における優位な細胞増殖の背後にある機構を理解するために、培養の5日目に、OKT3に刺激された末梢血T細胞の生存能をフローサイトメトリーの前方散乱対側方散乱を用いて評価した。培養物に残留照射EBV−LCLが存在し、これが解析の妨げとなって、このアッセイでは、EBV−CTLを評価することができなかった。図7のBに示すように、細胞生存率は、G−Rex40培養における方が有意に高かった(G−Rex40の中の生存率89.2%対24ウェルプレートの中の生存率49.9%)。次いで、7日間の各日、生存細胞とアポトーシス性/壊死性細胞とを識別するためにAnnexin−PI 7AADを使用して培養物を分析し、図7のCに示すように、24ウェルプレートの中で増殖するT細胞において、G−Rexの中のものと比較して、一貫してより低い生存率を観察した。増殖細胞の生存が累積的に改良されたことが、24ウェルプレートと比較したG−Rex装置の中の細胞数の増加に寄与したことを、これらのデータは示す。
【0048】
さらなる寄与が存在するかどうかをG−Rex対24ウェルプレートの中の増加細胞分裂数から判断するために、0日目にT細胞をCFSEで標識し、培地量40mlのG−Rex40装置と、各ウェルの培地量が2mlの24ウェルプレートとに分けた。各日のフローサイトメトリー解析によって、1日目から3日目までに細胞分裂数における相違がないことを実証した。しかしながら、3日目以降、図7のDに示すようにG−Rex40の中で培養された所望の細胞の集団は、2mlウェルの縮小速度を超える速度で増加し続けたが、このことは、培養条件が限定的になっていたことを示している。このように、従来の方法と比較して、G−Rex40試験装置の中の所望の細胞の大きな集団は、細胞死の減少と増殖の維持との組合せからもたらされた。
【0049】
実施例6:従来と異なって高い培地量対増殖表面積の比の使用、および、気体透過性材料を含む増殖表面の使用によって、生産の間に培養物に供給する必要性を低減することができる一方、同時に従来と異なって高い所望の細胞の表面密度を得ることができる。
【0050】
これは、EBV:LCLの開始および増殖のためのG−Rex試験装置の使用によって、実証された。本実施例では、G−Rex2000は図8に記載されるような装置を指すが、例外は、底部が100cm2の増殖表面積を含み、2000mlの培地容量が使用可能であることである。G−Rex2000の中でEBV−LCLを培養し、細胞表現型を変化させることなく増殖した。培地量対表面積の比10ml/cm2を生み出すために、1000mlのRPMI完全培地とともに、表面密度1×l05細胞/cm2でG−Rex2000の中にEBV−LCLを播種した。比較のために、培地量対表面積の比約0.18ml/cm2を生み出すために、RPMI完全培地30mlとともに表面密度5×l05細胞/cm2でT175フラスコの中にEBV−LCLを蒔いた。図8のAに提示したように、G−Rex2000の中で培養されたEBV−LCLは、いかなる操作または培地の交換も必要とせずにT175フラスコの中で培養されたものより大きく増殖した。図8のBおよび図8のCに提示するように、EBERおよびB細胞マーカのCD20を定量PCRによって評価したとき、この培養条件では細胞の最終産物は改変されなかった。
【0051】
実施例7:培養の始めに十分なフィーダ細胞および/または抗原細胞が存在しないと、
所望の細胞は増殖しない場合がある。しかしながら、細胞組成物は、増殖させるために、フィーダ細胞および/または抗原細胞として作用する追加の細胞型を含むように変更することができる。
【0052】
図9は、所望の細胞および抗原提示細胞の表面密度の累積が非常に低い(ここでは、AL−CTL細胞およびLCL細胞が混合されて表面密度30,000細胞/cm2の細胞組成物となっている)ことによって、AL−CTL集団が増殖を開始することができなかったことを、実験的に実証した例を示す。しかしながら、フィーダ細胞として作用する別の細胞型を含むように組成物を変更することによって、これと同じ細胞組成物が増殖するようにすることもできる。ここでは、表面密度が約0.5×106細胞/cm2である3種の様々な照射済みK562細胞のフィーダ層を評価した。そして、全ての場合において、AL−CTLの集団は、ヒストグラムの最初のカラムに示された開始細胞組成物から増殖し、14日間にわたり、表面密度わずか15,000細胞/cm2から表面密度4.0×106細胞/cm2まで変化した。さらに、第3の細胞型の添加とは対照的に、LCL集団の増加が同様の好ましい結果を達成したことを実証した。細胞組成物が適切な数のフィーダ細胞および/または抗原特異的細胞を含むとき、増殖を開始するために所望の細胞の非常に低い集団を使用することができることを実証するために、LCLまたはK562に使用される高い表面密度を任意に選んだ。フィーダ細胞が供給不足であったり、高価であったり、または用意するのが煩わしいときは、フィーダ細胞の表面密度を0.5×106細胞/cm2未満に低減することを推奨する。一般に、および実証してきたように、抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞が細胞組成物中にあるとき、抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞および所望の細胞の付加的な表面密度は、所望の細胞の集団増殖を開始する細胞組成物中に十分な表面密度を生み出すために、好ましくは少なくとも約0.125×106細胞/cm2であるべきである。さらに、標準表面密度の限界を超えて連続する増殖を達成するために、気体透過性材料を含む増殖表面を、培地量対表面積の比4ml/cm2とともにこの実施例に使用した。
【0053】
実施例8:所望の細胞の表面密度を低減し、刺激細胞に対する応答細胞の比を変更し、増殖表面積に対する培地の比を増大し、かつ気体透過性材料を含む増殖表面上に対して表面密度の低い培養物で細胞を定期的に分配することによって、他の方法と比較して、より多くの所望の細胞がより短い期間で生産できるようになり、生産工程が単純化する。
【0054】
所望の細胞の生産を単純化し短期化する能力についてさらに判断するために、EBV−CTLの開始および増殖のためのG−Rex試験装置を使用した。本実施例では、G−Rex500は図6に記載されるような装置を指すが、例外は、底部が100cm2の増殖表面積を含み、500mlの培地容量が使用可能であることである。
【0055】
EBV−CTL生産の開始段階として、表面密度1×106/cm2(合計=G−Rex40の増殖表面積10cm2に分配された107個のPBMC)で、G−Rex40中に、PBMCを播種し、PBMC:EBV−LCLが40:1の比を使用したEBV−LCLでPBMCを刺激した。CTL生産にとって、この40:1の比は最初の刺激により応答T細胞の抗原特異性を維持するには好ましい。培養の開始段階の後、9日目に第2段階を開始し、1×107応答T細胞をG−Rex40からG−Rex500試験装置に移動した。培養の段階2を開始するために、200mlのCTL培地をG−Rex500の中に置くことにより、段階2の始めでの培地量対表面積の比は2ml/cm2となり、培地高さは増殖表面領域より2.0cm高くなった。段階2の始めの所望の細胞の表面密度は1×105CTL/cm2であって、抗原提示細胞の表面密度は5×105LCL/cm2であり、そのため、抗原提示細胞に対する所望の細胞の比は、従来とは異なる1:5となった。この段階で、2細胞の表面密度およびR:S比は、すべての検査されたドナーにおいて継続的なEBV−CTL増殖を引き起こした。4日後(13日目)、IL−2(
50U/ml−最終濃度)を培養物に直接加え、同様に新鮮培地200mlを加え、これにより培地量対表面積の比が4ml/cm2となった。CTLの表面密度中央値として、cm2当たり6.5×106を得た(2.4×106から3.5×107の範囲)。
【0056】
気体透過性材料を含む増殖表面の使用により、従来の手順と比較して、培地量対表面積の比の増大(つまり1ml/cm2より大きい)、細胞表面密度の減少(つまり0.5×106/cm2未満)および、刺激細胞に対する応答細胞の比(4:1未満)の変更が可能となり、生産時間が短縮される。図10のAは、実施例8のこのG−Rex手法と、実施例1の従来の方法の使用および実施例5に記載されるG−Rex手法との比較を示す。示すように、いずれかのG−Rex方法において約10日で生ずることができるのと同数の所望の細胞を生ずるために、従来の方法は23日を必要とする。23日後、実施例8のG−Rex手法によって、実施例5のG−Rex方法よりも、所望の細胞を23.7多く生産することができ、実施例1の従来の方法よりも所望の細胞を68.4倍多く生産することができた。さらに、細胞表面密度が7×106/cm2を超えたときに培養物を分割したところ、この所望の細胞は、追加の抗原提示細胞刺激を必要とせずに、27〜30日まで分裂し続けた。
【0057】
光学顕微鏡を使用してG−Rexの中のCTLを明確に見ることはできないが、CTLのクラスターを目視または倒立顕微鏡によって見えるようにすることができる。培養の9、16および23日目の細胞の外観を図10のBに示す。図10のCに示すように、G−Rexの培養は、増殖細胞の表現型を変化させず、細胞組成物の90%以上はCD3+細胞であり(G−Rex対24ウェルで96.7±1.7対92.8±5.6)、それらの大部分はCD8+(62.2%±38.3対75%±21.7)であった。活性化マーカCD25およびCD27、ならびに記憶マーカCD45RO、CD45RA、およびCD62Lの評価は、各培養条件下で増殖したEBV−CTL間で本質的な違いがなかったことを実証した。エリスポット(ELispot)および五量体解析により測定したところ、抗原特異性も、培養条件によって影響されなかった。図10のDは、LMP1、LMP2、BZLF1およびEBNA1由来のEBVペプチドエピトープで刺激され、HLA−A2−LMP2ペプチド五量体染色で染色されたT細胞が、ペプチド特異的T細胞と同様の発生頻度を示した代表的な培養を示す。さらに、図10のEに示すように51Cr放出アッセイによって評価したところ、増殖された細胞は、その細胞溶解活性および細胞溶解特異性を維持しており、自己EBV−LCLを死滅させた(G−Rex対24ウェルプレートについて、20:1の比で62%±12対57%±8 E:T)。HLA不適合EBV−LCLの死滅は減少した(20:1の比で、15%±5対12%±7)。
【0058】
細胞療法のための改良された細胞生産のためのさまざまな新規方法の考察:生産サイクルの始めでの所望の細胞集団の表面密度の低減、応答細胞と刺激細胞との間の表面密度比の低減、気体透過性材料を含む増殖表面、および/または培地量対増殖表面積の比の増加を含むさまざまな条件について、細胞療法の研究および臨床適用のための細胞の生産を促進し、単純化するために、どのように使用することができるかを当業者に実証するために、実施例1〜8を提示してきた。実施例1〜8は、抗原特異的T細胞の生産に関連していたが、これらの新規の培養条件は、臨床的適合性を有する(または概念マウスモデルの前臨床証拠に必要とされる)多くの重要な浮遊細胞型に適用することができ、制御性T細胞(Treg)、ナチュラルキラー細胞(NK)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)、初代Tリンパ球、多種多様な抗原特異的細胞、および他の多くのもの(それらはすべて、機能、インビボの残留性または安全性を改良するために、遺伝子改変することもできる)が含まれる。細胞は、フィーダ細胞および/または抗原提示細胞を用いて増殖させることができるが、このフィーダ細胞および/または抗原提示細胞は、PBMC、PHA blast、OKT3 T、B blast、LCL、およびK562、(天然、または発現するために遺伝子改変されていて、抗原および/またはエピトープ、ならびに、41BBL、OX
40L、CD80、CD86、HLA、および他の多くのものなどの共刺激分子)を含むことができ、これらはペプチドまたは関連する他の抗原でパルスする場合もあれば、しない場合もある。
【0059】
従来と異なった低い開始表面密度:本発明の一態様は、従来の方法と比較して、所望の細胞の低い表面密度を使用することによって生産時間を削減することができることの発見である。この方式では、所望の細胞は、従来の方法において可能であるより、最小細胞表面密度と最大細胞表面密度との間に大きな数値差を有することができる。所望の細胞集団の増殖速度は縮小し始めたが、所望の細胞の量が、生産を終了するにはまだ十分ではないときに、気体透過性材料を含む追加の増殖表面上に再び低い開始表面密度で所望の細胞を再分配するのが好ましい。
【0060】
より低い表面密度に依存する新規の細胞生産方法が、任意の所与の培養段階の始めに、どのように適用することができるのかを説明するために、ここで一例が記載される。図11は、本発明の一態様を使用した所望の細胞型の集団増殖と比較した、従来のシナリオの下での増殖表面上の所望の細胞集団増殖に関するグラフ表示を示す。この新規の方法では、生産段階の始めでの所望の細胞の表面密度は、従来の表面密度より少ない。この新規の方法の利点に焦点を合わせるために、本説明では、所望の細胞集団を最初に得る工程については記載していない。当業者がこの新規の方法の、時間に関する利点をより容易に判断することができるように、培養の「日」は「0」で開始する。この例において、従来の方法の各生産サイクルは、従来の表面密度0.5×106所望の細胞/cm2で始まるが、一方この例の各生産サイクルは、はるかに低く従来と異なる表面密度0.125×106所望の細胞/cm2で始まる。このように、この例で培養を開始するためには、従来の方法が要求するより4倍多くの表面積(つまり500,000/125,000)が必要である。この例では、従来の方法の所望の細胞は、14日で最大の表面密度2×106細胞/cm2に達する。このように、増殖面積1cm2によって2×106細胞/cm2がもたらされ、次いで、従来の開始密度0.5×106細胞/cm2(つまり、4cm2×0.5×106細胞=2×l06細胞)を使用して生産を続けることができるように、増殖面積の4cm2上に2×106細胞/cm2を再分配する。このサイクルは、最大細胞表面密度に再び達するまでさらに14日間繰り返され、それぞれ2.0×106細胞を生じ増殖表面積4cm2で合計8.0×106細胞となる。次いで、これらが増殖面積16cm2の上に分配され、42日間にわたって合計で32×106細胞を生ずるように増殖サイクルが繰り返される。
【0061】
図11で表された新規の方法では、生産の始めに1cm2の上に500,000の所望の細胞を堆積させる従来の方法を使用する代わりに、従来と異なって低い開始表面密度の125,000所望の細胞/cm2を0日目に生み出すために、増殖面積4cm2の上に均等に500,000の細胞を分配する。例では、新規の方法は、従来の方法を用いたときのように、7日目にまさに減少するところであるその増殖速度を有している。新規の方法における細胞は表面密度が1×106細胞/cm2である。このように、増殖速度がまさに減少するところである時点で、この培養段階によって、4×106細胞を生産し、次いで、開始表面密度0.125×106細胞/cm2(つまり32cm2×0.125×106細胞=4×106細胞)を使用して段階2における生産を続けることができるように増殖面積32cm2の上にそれを再分配する。生産サイクル、または生産段階は、14日目までさらに7日間繰り返すが、14日目には所望の細胞1.0×106を含む各増殖表面積32cm2で最大細胞表面密度に再び達し、わずか14日で、合計で32×106細胞を産出する。従来の方法におけるように、各生産サイクルの終わりに、終了表面密度を開始表面密度で除した倍数を、新規の方法がどのようにして生ずるかに注意されたい。しかしながら、細胞が増殖生産に入る前に開始細胞表面密度を減少させ、かつ、各生産段階を完了することによって、時間は著しく削減される。この例は、所望の細胞の表面密度
を減少する(この場合0.125×106細胞/cm2)ことによって、従来の細胞表面密度と比較して、従来の方法のときの時間のわずか33%(14日対42日)で、同量の所望の細胞がどのようにして生まれるかについて記載している。
【0062】
0.125×106細胞/cm2の開始表面密度を使用して、利点を定量化したが、当業者は、本発明のこの例が、従来の細胞表面密度を下回る任意の減少により生産所要時間が削減し得ることを実証することに気付くべきである。さらに、当業者は、本明細書に提示された本方法および他の新規の方法に記載される細胞増殖速度、および細胞増殖の減少が起きる時点は、説明の目的のみのためにあり、実際の速度は、培地組成物、細胞型、などのさまざまな条件に基づいた各適用において多様であることを認識すべきである。さらに、本発明のこの態様の利点は、生産時間の削減であり、任意の特定用途において従来の細胞表面密度より表面密度を減少することに起因するが、この例示的な例に使用される特定の従来の表面密度は、適用ごとに様々である場合があることを、当業者は所与の適用のために認識すべきである。
【0063】
このように、低減された細胞表面密度を使用することによって、細胞組成物内に存在する所望の細胞の所与の一定量を生産する期間を最小限にする要望があるときの、本発明の方法の一態様がここに記載される。所望の細胞は、以下のような、従来と異なって低い細胞表面密度で増殖表面上に堆積すべきである。
a.所望の細胞が、抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞の存在化にあり、増殖表面が気体透過性を備えない場合は1ml/cm2まで、および、増殖表面が気体透過性を備える場合は2ml/cm2までの培地量対表面積の比であり、
b.好ましい表面密度条件は、生産サイクルの始めに標的細胞の表面密度が、0.5×106細胞/cm2未満であるのが好ましく、かつ、図4に記載されるように、さらに減少することがなお好ましく、
c.所望の細胞の表面密度に抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞の表面密度を加えた表面密度が、少なくとも約1.25×105細胞/cm2であるのが好ましい。
【0064】
1.25×105細胞/cm2未満の抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞の表面密度をさらに低減しようと試みる場合、所望の細胞集団増殖が限定的にならないことを、上記の例に基づいて、検証することが賢明である。抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞の適切な供給によって増大させるとき、従来と異なった低密度で所望の細胞集団の増殖を達成することができることを実証する目的に基づいて1.25×105細胞/cm2を選択した。
【0065】
気体透過性材料を含む増殖表面、および、培地量対増殖表面積のより高い比の使用によって生産を単純化し短期化することができる。本発明の別の態様では、気体透過性材料を含む増殖表面、および、従来の比を超える培地量対増殖表面積の比の使用、および、徐々に増殖表面積の量を増加させる生産サイクルの繰り返しが、生産所要時間を削減するであろうことを見出した。
【0066】
これらの条件は、どのように生産所要時間を削減することができるかを例示するための例をここで提示する。気体透過性材料を含む増殖表面、および、1/cm2または2ml/cm2を超える従来と異なって高い培地量対増殖表面積の比の利用によって得ることができる利点の例を示すために、図12は考察を増大する。続く考察はこのような方法の使用によって、生産時間の削減、使用する増殖表面積量の低減、ならびに/または労働および汚染リスクの低減を含み、どのようにしていくつかの選択肢が使用可能になるかを当業者に実証することを意図している。図12および関連する考察は単に例に過ぎず、本発明の範囲を限定しないことを当業者は認識できるであろう。
【0067】
この例示的な例における所望の細胞集団を含む細胞組成物は、「X」時間当たり約1ml消費すると仮定する。図12は、「従来の方法」および「新規の方法」に分類される2つの生産工程を示す。増殖の始めに、各工程は、表面密度0.5×106/cm2で所望の細胞から始まる。しかしながら、新規の方法における増殖表面は、気体透過性材料、および従来の方法の1ml/cm2と対照的に2ml/cm2の培地量対表面積の比を含む。時間「X」において、従来の方法の所望の細胞集団は、2×106/cm2の表面密度プラトーに達し栄養素を枯渇させるが、一方、新規の方法の追加の培地量は増殖の継続を可能にし、所望の細胞表面密度は3×106/cm2となる。新規の方法が継続する場合、表面密度は4×l06/cm2に達する。このように、多くの有益な選択肢が生じる。新規の方法は、従来の方法より多くの細胞を生産して時間「X」より前に終結することができ、従来の方法より約1.5倍多くの細胞を生産して時間「X」に終結することができ、または、従来の方法の2倍多く所望の細胞を生産して、時間は2倍かかるが供給用の装置を扱う必要が全く無く、培地が栄養素を枯渇させるまで継続することができる。従来の方法が同数の細胞を集めるためには細胞を回収しなければならず、工程を再開するには、労働、および、起こり得る汚染リスクが加わる。細胞療法適用は典型的に、一定数の細胞を用いないと始めることができないので、従来の方法では生産の始めに簡単に表面積を増加させるという選択肢は認められない。
【0068】
2回以上の生産サイクルがどのようにより有益になりえるかを示すために、図13は図12の例を継続する。図13は、新規の方法の表面密度が従来の方法の表面密度を超える、本発明の新規方法の下での所望の細胞型の集団増殖と比較した、従来の方法の下での増殖表面上の所望の細胞集団増殖のグラフ表示を示す。この例に焦点を合わせるために、この説明では、所望の細胞集団を得る工程については記載していない。本発明のこの態様の時間に関連する利点を、当業者がより容易に判断することができるように、培養の「日」は0で開始する。この例において、「0日目」に従来の所望の細胞の表面密度0.5×105細胞/cm2を使用して両方の培養を開始する。この例示的な例において、従来の方法の増殖表面も、気体透過性材料を含む。しかしながら、従来の方法における増殖表面比に対する培地量は、新規の方法における4ml/cm2と対照的に1ml/cm2である。図13で示すように、従来の方法における所望の細胞集団は約4日で、表面密度約l.5×106細胞/cm2のとき、増殖速度が低下し始め、14日で最大表面密度2×106細胞/cm2に達する。その時点で、所望の細胞集団を、新鮮培地1.0ml/cm2の中に、表面密度0.5×106/cm2で、増殖面積の4cm2に分配し、生産サイクルは再び始まり、さらに14日で、表面密度2×106細胞/cm2に達し、28日に8×106の所望の細胞を生じる。比較すると、新規の方法における所望の細胞集団は、ほぼ10日から11日で表面密度約3×106細胞/cm2のとき増殖速度が低下し始め、28日で最大表面密度4×106細胞/cm2に達することができた。しかしながら、生産を促進するために、所望の細胞集団がまだ高増殖率にあるときにサイクルが終了する。このように、約10〜11日に、新鮮培地4.0ml/cm2の中に増殖表面積6cm2に対して表面密度0.5×106/cm2で3×106細胞を再分配し、生産サイクルは再び始まり、所望の細胞集団はほぼさらなる10〜11日で表面密度3×106細胞/cm2に達し、およそ21日で18×106の所望の細胞を生んだ。このように、新規の方法は、従来の方法と比較して、約75%の時間で、2倍を超える数の所望の細胞を生産した。
【0069】
気体透過性材料を含む増殖表面上に10×106細胞/cm2を超える細胞表面密度を得ることができたが、高い表面密度を使用する本発明の態様は、この例に記載される密度に限定するものではないことを実証した。
【0070】
このように、低減された細胞表面密度を使用することによって、細胞組成物内に存在する所与の量の所望の細胞を生産するための所要時間を最小限にする要望があるときの、本
発明の方法の別の例がここに記載される。
a.抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞の存在下において、培地量対表面積の比が少なくとも2ml/cm2で、気体透過性材料を含む増殖表面領域に所望の細胞を播種すること、および、
b.生産サイクルの始めに、標的細胞の表面密度が約0.5×106細胞/cm2の従来の密度内であるような、好ましい表面密度条件を確立すること、および、
c.所望の細胞集団が従来の表面密度約2×106細胞/cm2を超えて増殖することができるようにすること、および、
d.さらに多くの所望の細胞が求められる場合、気体透過性材料を含む追加の増殖表面に所望の細胞を再分配すること、および、所望の細胞を十分得られるまでステップa〜dを繰り返すこと。
【0071】
これらの新規の方法を使用するとき、以下の培養を開始する特性を組み合わせることによってさらなる有益性を達成することができる。すなわち、従来と異なって低い表面積を使用すること、所望の細胞および/またはフィーダ細胞の新規の表面密度比を使用すること、気体透過性材料を含む増殖表面領域を利用すること、従来と異なって高い培地量対増殖表面積の比を利用すること、およびサイクルで生産を行なうことである。この条件は、所望の結果を達成するために、低減生産時間、表面積利用、供給頻度などの間のバランスを取るなど、任意の生産サイクルで多様になることがあり得る。
【0072】
図14は、従来の方法に関連したまたさらなる利点が得られる、別の新規の方法を示す。本明細書に記載した、他の例示的な実施形態のように、本明細書の記載は、本発明の範囲を限定しないが、改良された生産効率の利点を達成する方法について記載されるように作用することを、当業者は認識しえるだろう。
【0073】
この例において、所望の細胞は、従来の条件において毎週倍加している。当業者がこの実施形態の時間に関する利点をより容易に判断することができるように、培養の「日」は「0」で開始する。さらに、この例を単純化するために、フィーダ細胞および/または抗原提示細胞の表面密度比に関する前述のことは繰り返さない。例示の目的で、従来の条件において7日間の倍加時間で500,000の所望の細胞の開始集団が「0日目」の生産を表していると仮定する。従来の方法は、表面密度0.5×106細胞/cm2でおよび培地量対表面積の比1ml/cm2で始める。示すように、所望の細胞集団が表面密度2×l06細胞/cm2に達すると、細胞を表面密度0.5×106細胞/cm2で追加の表面領域上に分配し、生産サイクルを新たに始める。本例の新規の方法を、表面密度0.06×106細胞/cm2、気体透過性材料を含む増殖表面領域、および培地量対表面積の比6ml/cm2で始める。示すように、集団が増殖プラトーの始まりに近づいているとき、細胞をさらなる増殖表面領域に再分配する。この場合、細胞表面密度が、培地量対表面積の比の1.5倍(つまり約1.5×l06細胞/ml)に接近すると従来の方法においてプラトーが開始されることに注意して、集団がプラトーに達していることを測定する。このように、約9日目に、表面密度約4.5×106細胞s/cm2で細胞を増殖表面積36cm2上に分配し、生産サイクルを新たに始める。
【0074】
図15は、図14で表された各生産方法の比較を作表し、かつ、新規の方法の能力、および、十分に効率を獲得するためにさまざまな段階で生産手順を調節することはなぜ賢明かを実証するべく段階に拡大する。新規の方法は従来の方法を圧倒し、生産サイクルのわずか第2段階を完了しただけで、必要表面積がわずか61%でわずか約半分の時間でほぼ1.37倍多くの細胞を生ずることに注意されたい。一方、生産サイクルの第3段階が、どのように、細胞における量の増加を生み出し、かつ表面積に相当する増加を生み出すかに注意されたい。このように、任意の所与の工程ごとに、最適水準の効率を達成するために、工程の各サイクルの全体を通して、最初の細胞表面密度および/または最終の細胞表
面密度をどのように調節するかを予想するために、生産サイクルはモデル化されるべきである。
【0075】
1つの例として、図16は、生産が進むにつれて効率を獲得するため、新規の方法においてどのように可変量を変更することができるのかの例を示す。たとえば、サイクル3の開始表面密度の0.06から0.70細胞/cm2までの増加、および、最終表面密度の4.5から7.5細胞/cm2までの変化を行なうことができる。最終表面密度の増加は、開始の6ml/cm2を超えて大きな数まで、培地量対表面積の比の増加の問題である。表面積に対する培地量が大きければ大きいほど、サイクルはそれだけ長く急増殖相にとどまる(つまりプラトーより前の集団増殖)。ここでは、5日の延長を許し、急増殖相を完了させて、培地量対表面積の比を約8ml/cm2に上げた。そうすることにより、この例において、合理的な表面積を用いて34日で3兆を超える細胞を生産できる。たとえば、装置を構築して気体透過性材料を含む増殖表面約625cm2でテストした。これは従来の方法より明らかに優位な細胞生産の手法である。
【0076】
このように、低減された細胞表面密度を使用することによって細胞組成物内に存在する所与の量の所望の細胞を生産するための所要時間を最小限にする要望があるときの、本発明の方法の好ましい別の実施形態がここに記載される。
a.抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞の存在下において、少なくとも2ml/cm2の培地量対表面積の比で、気体透過性材料を含む増殖表面領域に所望の細胞を播種すること、および
b.生産サイクルの始めに、標的細胞の表面密度が従来の密度未満であり、好ましくは約0.5×106所望の細胞/cm2〜約3900所望の細胞/cm2の間であり、かつ所望の細胞と抗原提示細胞および/またはフィーダ細胞との合計が少なくとも約1.25×l05細胞/cm2であるような、好ましい表面密度条件を確立すること、および
c.所望の細胞集団が従来の表面密度約2×106細胞/cm2を超えて増殖することを可能にすること、および
d.さらに多くの所望の細胞が求められる場合、気体透過性材料を含む追加の増殖表面に所望の細胞を再分配すること、および、十分な所望の細胞が得られるまでステップa〜dを繰り返すこと。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を生産する方法において、
抗原提示細胞、フィーダ細胞、またはその両方の存在下において所望の細胞を増殖させる工程であって、表面積に対する培地量の比は、増殖表面が気体透過性材料を含まない場合には1ml/cm2以下であり、増殖表面が気体透過性材料を含む場合には2ml/cm2以下である、前記工程を含み、
前記所望の細胞の表面密度は、生産サイクルの始めには0.5×106細胞/cm2未満であり、前記所望の細胞の表面密度と、前記抗原提示細胞、フィーダ細胞、またはその両方の表面密度との和は、約1.25×105細胞/cm2以上である、細胞を生産する方法。
【請求項1】
細胞を生産する方法において、
抗原提示細胞、フィーダ細胞、またはその両方の存在下において所望の細胞を増殖させる工程であって、表面積に対する培地量の比は、増殖表面が気体透過性材料を含まない場合には1ml/cm2以下であり、増殖表面が気体透過性材料を含む場合には2ml/cm2以下である、前記工程を含み、
前記所望の細胞の表面密度は、生産サイクルの始めには0.5×106細胞/cm2未満であり、前記所望の細胞の表面密度と、前記抗原提示細胞、フィーダ細胞、またはその両方の表面密度との和は、約1.25×105細胞/cm2以上である、細胞を生産する方法。
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1】
【図3】
【図7】
【図10】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1】
【図3】
【図7】
【図10】
【公表番号】特表2013−512694(P2013−512694A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543271(P2012−543271)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/059591
【国際公開番号】WO2011/072088
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(506118799)ウィルソン ウォルフ マニュファクチャリング コーポレイション (10)
【氏名又は名称原語表記】WILSON WOLF MANUFACTURING CORPORATION
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/059591
【国際公開番号】WO2011/072088
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(506118799)ウィルソン ウォルフ マニュファクチャリング コーポレイション (10)
【氏名又は名称原語表記】WILSON WOLF MANUFACTURING CORPORATION
【Fターム(参考)】
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