説明

養殖魚の体脂肪を減少させる方法

【課題】 適度に脂がのった肉質に改善し、しかも可食部の歩留まりを高くする養殖魚の肉質改善法を提供すること。
【解決手段】 養殖魚にトウガラシあるいはトウガラシ成分よりなる肉質改善剤を与えることを特徴とする養殖魚の肉質改善法。肉質改善剤を添加した飼料を給餌することにより与える。上記の飼料は飼料原料100重量部に対して肉質改善剤0.1〜25重量部の割合で添加する飼料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖魚に給餌することにより、適度に脂がのった肉質に改善する養殖魚の肉質改善法、すなわち養殖魚の体脂肪を減少させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖魚は必要以上に脂がのりすぎていることが食味を落としている一因とされている。また、養殖魚は天然魚と比較して腹腔に多量の脂肪を蓄積しているため、体重に対する内臓の重量比が高く可食部の歩留まりが低い。
【0003】
非特許文献1には、トウガラシ辛味成分の吸収についてラットを用いて検討し、トウガラシ辛味成分であるカプサイシンを添加したラードを主成分とする高脂肪食を10日間与えたラットでは、対照群と比較して、体重の変化はほぼ同じであったが、腎周囲脂肪組織重量および血清トリグリセリド値に有意な低下が認められたと報告されている。
【非特許文献1】日本栄養・食糧学会誌Vol.45,No.4,303〜312,1992、河田照雄「香辛料辛味成分の機能に関する栄養生化学的研究」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、これら養殖魚の問題点を解決し、適度に脂がのった肉質に改善し、しかも可食部の歩留まりを高くする養殖魚の肉質改善法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、養殖魚にトウガラシあるいはトウガラシ成分の溶け込んだ油を添加した飼料を給餌することにより、適度に脂がのった肉質に改善し、しかも可食部の歩留まりを高くすることができることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、養殖魚に、養殖魚が摂取する飼料量100重量部につき0.1〜10重量部の量のトウガラシよりなる肉質改善剤を与えること、好ましくは肉質改善剤を添加した飼料を給餌することにより与えることを特徴とする養殖魚の体脂肪を減少させる方法である。
【0007】
上記の飼料が魚粉および大豆粕を含有する飼料原料100重量部に対して肉質改善剤0.1〜10重量部の割合で添加する飼料であり、本発明は、養殖魚に、魚粉を含有する飼料原料100重量部に対してトウガラシよりなる肉質改善剤0.1〜10重量部の割合で添加する飼料を給餌することにより与えることを特徴とする養殖魚の体脂肪を減少させる方法である。
【0008】
本発明が対象とする魚類は好ましくは養殖魚である。具体的には、ブリ、マダイ、ギンザケ、ニジマス、ヒラメ、フグ、アジ、アユ、コイ、ウナギ、ティラピア等の魚類が例示される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、適度に脂がのった肉質に改善し、しかも可食部の歩留まりを高くすることができる養殖魚の肉質改善法を提供することができる。
(1)体脂肪の減少
養殖魚は脂が乗りすぎていることが指摘されている。トウガラシ添加飼料の給餌により、魚の体脂肪を減少させることができる。
(2)摂餌性、成長性および飼料効率の向上
トウガラシ添加飼料の給餌により、摂餌性が向上し、成長が良くなる。また、飼料効率が向上する。
(3)歩留まりの向上
養殖魚は内臓および腹腔に多量の脂肪を蓄積していることが多い。トウガラシ添加飼料の給餌により、体重に占める腹腔脂肪を含む内臓重量の割合が減少することにより、可食部の歩留まりが向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いるトウガラシは、主成分がカプサイシンであり、アスコルビン酸、カロチノイドを含み、消化液の分泌促進、下痢止め、鎮痛、血管の収縮及び拡張作用を有する。トウガラシは粉末状を用いることができるが、トウガラシ果実をそのまま用いることもてきる。飼料添加油は主に魚油が挙げられるが、植物油脂、動物油脂の限定はない。
【0011】
トウガラシを飼料中に添加する量は、飼料原料100gに対して0.1〜25gの割合で配合する。あるいは、飼料添加油100gに対して0.1〜250gの割合で混合した混合物を飼料に添加する。
【0012】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
ティラピアヘの給餌試験
方法:平均体重23.1gのティラピアを30尾用いた。試験区は60×30×30(cm3)水槽を用い、コントロール(Control)区、トウガラシ−1区、トウガラシ−2区の3区設け、各試験区に10尾づつ収容した。
【0014】
各試験区に共通する飼料配合は、飼料原料中に魚粉25%、大豆粕20%、小麦27%、α−スターチ10%、ビタミンミックス2%、ミネラルミックス1%であった。コントロール区の飼料は飼料原料中に米糠10%、イワシフィードオイル5%を上記共通配合に配合した。トウガラシ−1区の飼料は飼料原料中にトウガラシ粉末10%、イワシフィードオイル5%を配合し上記共通配合に配合した。トウガラシ−2区の飼料は飼料原料中にトウガラシ粉末10%、イワシフィードオイル5%になるように混合し50℃に一晩置いたものを上記共通配合に配合した。飼料は原料を全て均一に混合後、ペレッターを用いて作製した。
【0015】
給餌は1日4回、飽食給餌とし、飼育は153日間行った。飼育水温は25℃であった。飼育開始から37日後に体重を測定し、体重増加率と飼料効率を求めた。
飼育開始から100日後に体重を測定し、体重増加率と飼料効率を求め、体重が3〜7番目に重い個体については一般成分の分析と腹腔脂肪を含む内臓重量の測定を行った。
飼育開始から153日後に体重を測定し、体重増加と飼料効率を求め、可食部の粗脂肪含量の分析と腹腔脂肪を含む内臓重量の測定を行った。
飼育開始から37、100、153日後のいずれの測定日においても、2日間の餌止めを行った。
【0016】
結果:図1に示すとおり、飼育開始から37日後の体重増加はコントロール区が1.93倍であったのに対し、トウガラシ−1区が1.97倍、トウガラシ−2区が1.94倍でありトウガラシあるいはトウガラシ抽出油添加区がいずれも高かった。飼育開始から153日後の体重増加率はコントロール区が5.18倍であったのに対し、トウガラシ−1区が6.16倍、トウガラシ−2区が6.53倍でありいずれも高かった。
【0017】
図2に示すとおり、飼育開始から37日後の飼料効率はコントロール区が101.0%、トウガラシ−1区が91.6%、トウガラシ−2区が99.3%といずれも高かった。しかし、飼育開始から153日後の飼料効率はコントロール区が50.3%であったのに対し、トウガラシ−1区が58.6%、トウガラシ−2区が82.8%でありいずれも高かった。
【0018】
表1(魚体重に対する内臓の割合)に示すとおり、飼育開始から100日後の体重に対する腹腔脂肪を含む内臓の割合は、コントロール区が10.1%であったのに対し、トウガラシ−1区が9.7%、トウガラシ−2区が7.9%でありトウガラシあるいはトウガラシ抽出油添加区がいずれも低かった。
飼育開始から153日後の体重に対する腹腔脂肪と内臓の割合は、コントロール区が8.4%であったのに対し、トウガラシ−1区が10.0%、トウガラシ−2区が7.4%であった。
その時の魚体重を表2(内臓重量を測定した平均魚体重)に示した。
表3に示すとおり、飼育開始から153日後の魚体重に対する腹腔内の粗脂肪の絶対量は、コントロール区が3.7%であったのに対し、トウガラシ−1区が3.4%、トウガラシ−2区が2.9%であった。
【0019】
[表1]
(%)
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飼育日数 コントロール トウガラシ−1 トウガラシ−2
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
100 10.1 9.7 7.9
153 8.4 10.0 7.4
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【0020】
[表2]
(g)
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飼育日数 コントロール トウガラシ−1 トウガラシ−2
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100 104.8 112.9 95.0
153 182.2 237.9 236.8
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【0021】
[表3]
(%)
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飼育日数 コントロール トウガラシ−1 トウガラシ−2
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
153 3.7 3.4 2.9
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【実施例2】
【0022】
ハマチへの給餌試験
方法:平均体重34.8gのハマチを60尾用いた。試験区は2t水槽を用い、コントロール区、トウガラシ区の2区設け各試験区に30尾、1水槽につき15尾ずつ収容した。
【0023】
各試験区に共通する飼料配合は、飼料原料中に魚粉59.32%、大豆粕4.24%、小麦11.86%、ホスピタンC0.01%、モノプロンS0.13%、澱粉2.54%、ビタミンマダイ1.02%、ミネラルモイスト0.17%、炭酸カルシウム0.50%、第一リン酸カルシウム0.42%、イワシフィードオイル15.26%であった。コントロール区の飼料は飼料原料中に米糠4.53%を上記共通配合に配合した。トウガラシ区の飼料は飼料原料中にトウガラシ粉末0.10%、米糠4.43%を配合し上記共通配合に配合した。飼料は原料を全て均一に混合後、2軸エクストルーダを用いて作製した。
【0024】
給餌は1日4回、飽食給餌とし、飼育は90日間行った。飼育水温は25℃であった。飼育開始から30日後に体重を測定し、体重増加率と飼料効率を求めた。間引きをして各試験区5尾にし、90日後に官能検査を行った。
【0025】
表4に示すとおり、飼育開始から30日後の体重増加率はコントロール区が375.4%であったのに対し、トウガラシ区が439.5%であり、一方、飼料効率はコントロール区が1.17であったのに対し、トウガラシ区が1.24であり、いずれもトウガラシ区が高かった。
【0026】
[表4]
(%)
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コントロール区 トウガラシ区
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体重増加率 375.4 439.5
飼料効率 1.17 1.24
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【0027】
表5に示すとおり、パネル10人で官能検査を行ったところ、コントロール区と比べトウガラシ区は、脂っこさがなく、歯応えがあり、生臭さが少なく、味が強く、総合評価で好まれた。
【0028】
[表5]
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脂っこさ 歯応え 生臭さ 味の強さ 総合評価
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コントロール区 強い 弱い 強い 弱い 好ましくない
トウガラシ区 弱い 強い 弱い 強い 好ましい
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ティラピアの体重変化を示す説明図である。
【図2】ティラピアの飼料効率を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖魚に、養殖魚が摂取する飼料量100重量部につき0.1〜10重量部の量のトウガラシよりなる肉質改善剤を与えることを特徴とする養殖魚の体脂肪を減少させる方法。
【請求項2】
肉質改善剤を添加した飼料を給餌することにより与える請求項1の養殖魚の体脂肪を減少させる方法。
【請求項3】
上記の飼料が魚粉を含有する飼料原料100重量部に対して肉質改善剤0.1〜10重量部の割合で添加する飼料である請求項2の養殖魚の体脂肪を減少させる方法。
【請求項4】
養殖魚がブリ、マダイ、ギンザケ、ニジマス、ヒラメ、フグ、アジ、アユ、コイ、ウナギおよびティラピアからなる群から選ばれる魚類である請求項1ないし3のいずれかの養殖魚の体脂肪を減少させる方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−152(P2007−152A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−274667(P2006−274667)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【分割の表示】特願2001−191461(P2001−191461)の分割
【原出願日】平成8年10月12日(1996.10.12)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】