説明

養液栽培方法と植物工場

【課題】食料自給率の改善を目標として安定的な野菜の供給を図ることを目的として、大量の野菜を供給するため、植物工場における単位期間あたりの生産量を増加させる。
【解決手段】
循環経路41を介して人口培地2と養液タンク4とを繋ぎ、前記培養タンク4に印加電極5を設け、培養タンク4で生成され、高電圧を印加された養液Fを人口培地2に循環供給する植物工場1であり、印加電極5は、6000V〜15000Vの高電圧を養液Fに印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養液(培養液)が供給される培地で植物を栽培する養液栽培方法と、これを利用した植物工場に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食料自給率の改善を目標として安定的な野菜の供給を図るため、屋内で植物を栽培する植物工場の開発が盛んになってきている。一般的な植物工場は、例えば特許文献1に見られるように、空調設備を備えた空間に、対となる照明と共に人工培地を多段に配置し、植物を植えた各人工培地に養液を供給して前記植物を育成する構成である。各人工培地に植えられた植物は、空調設備と照明とによる人工的な環境下で、人工培地に供給される養液を吸収させながら育成される。養液は、養液タンクから循環経路(往路)を通じて各人工培地に供給され、余剰は循環経路(復路)を通じて養液タンクに戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-021065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
植物工場により植物を栽培する目的は、上述の通り、食料自給率の改善を目標として安定的な野菜の供給を図ることにあり、これはより多くの野菜を供給することにも繋がる。すなわち、少しでも食物の栽培期間が短くなれば、それだけ単位期間あたりの生産量が増加して好ましい。この点、従来の植物工場は、照明や養液の最適化の観点から改良が進められていたが、単位期間あたりの生産量を増加させるまでに至っていない。そこで、大量の野菜を供給するため、植物工場における単位期間あたりの生産量を増加させることについて検討した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
検討の結果開発したものが、養液が供給される培地で植物を栽培するに際し、養液に印加電極を水没させ、高電圧を印加する養液栽培方法である。本発明は、人工培地に養液が供給される植物工場で好適に利用されるが、植物工場以外でも、養液が人工培地又は自然培地(畑等)に供給される養液栽培であれば、前記養液に高電圧を印加する態様で利用できる。
【0006】
本発明は、養液に高電圧を印加することにより、何もしない養液を供給して栽培する場合に比べて植物の生長を促進させる(同じ栽培期間であればより大きく成長し、収穫可能な大きさまでより短い栽培期間で成長する)。養液に高電圧を印加できればよいので、例えば培地において養液に電極を水没させ、高電圧を印加してもよいが、好ましくは、培地と循環経路を介して繋がれた養液タンクに貯留される養液に印加電極を水没させ、高電圧を印加する。
【0007】
養液に印加される高電圧は6000V〜15000Vが好適である。高電圧が6000V未満であると、植物の生長が高電圧を印加しない場合に比べてそれほど促進しないため、本発明の効果が低くなる。また、高電圧が15000Vより大きいと、電源装置が高価になりすぎて費用対効果が著しく低下する。
【0008】
また、高電圧は直流でもよいが、金属が析出して電極表面に付着することを防止又は低減するため、印加電極の極性が切り替わる交流が好ましい。この場合、交流高電圧の周波数は50Hz又は60Hzがよい。50Hz又は60Hzは商用周波数で、交流高電圧を商用電圧から昇圧トランスを経て取り出すことができる。
【0009】
本発明を適用した植物工場は、循環経路を介して培地と養液タンクとを繋ぎ、前記培養タンクに印加電極を設け、培養タンクで生成され、高電圧を印加された養液を培地に循環供給する構成となる。印加電極は、上述同様、6000V〜15000Vの高電圧を養液に印加する。また、高電圧は直流又は交流でもよく、交流高電圧の周波数は、上述同様、50Hz又は60Hzである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に基づいて高電圧が印加された養液は、何もしない養液に比べて吸収率が改善され、植物の成長速度を高める。このため、植物の栽培期間を短縮でき、例えば植物工場における単位期間あたりの生産量を増加させることができる。また、高電圧が印加された養液を吸収して成長した植物は、何もしない養液を吸収した植物に比べて劣化が抑制され、より長い期間鮮度を保つ(例えば蒸散率が低い)。これにより、本発明を利用して栽培された植物は長期保存ができるほか、長距離輸送に耐えることから、例えば植物工場から広範囲に植物を輸送できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した植物工場の断面図である。
【図2】実施例及び比較例の成長を比較した経過日数-収穫数のグラフである。
【図3】実施例及び比較例の劣化を比較した経過時間-蒸散率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。本発明は、図1に見られるように、植物工場1に好適である。植物工場1は、従来同種の構成でよく、例えば床面11、壁面12及び天井面13に囲まれ、外界から隔絶された空間に仕切棚14を設け、各仕切棚14に人工培地2を設ける。人工培地2は、養液Fが満たされる栽培ベッド21に発泡スチロールを主体とする浮遊培地22を浮かべて構成される。植物Pは、前記浮遊培地22に植えられる。人工培地2それぞれに対となる照明3が設けられる。
【0013】
養液Fは、床面11に設置された養液タンク4に貯留され、ポンプ42により、循環経路41を通じて各人工培地2の栽培ベッド21へ供給される。本例の循環経路41は、まず上段の人工培地2へ溶液Fを供給し、順次下段の人工培地2へ養液Fを流し、降ろしてくる。養液タンク4は、循環させる大量の養液Fを一定量以上貯留させる貯留区画であると共に、適宜外部から養液Fを補充させ、水分の蒸発等により濃度が変化した場合に水(水道水)を追加して、濃度調整させる調整区画でもある。養液Fの変更や養液タンクFの洗浄に際しては、養液タンク4から一時的に養液Fを排水する。
【0014】
印加電極5は、養液タンク4に貯留された養液Fに水没させ、制御装置51により給電される高電圧を前記溶液Fに印加する。印加電極5の構造及び材質は限定されないが、構造は図示された平板状や棒状を挙げることができ、また材質は防錆を考慮してステンレスや防錆処理を施した安価な鉄等を挙げることができる。制御装置51は、高電圧発生回路を備え、高電圧の印加を入切できる構成であれば限定されない。最も簡易には、商用電源から昇圧トランスで高電圧を発生させる高電圧発生回路を備えた構成とすればよく、この場合、高電圧は50Hz又は60Hzの交流電圧となる。
【実施例】
【0015】
本発明の効果を確認するため、本発明を適用した植物工場において実際に植物を栽培してみた。使用した植物工場は、上述した図1に準ずる構成である。栽培対象の植物は、小松菜を用いた。小松菜は、人工培地2における140cm×70cmの浮遊培地22に、等間隔で5行×6列に3株ずつまとめて植えた。すなわち、栽培開始時における株数は90株である。照明3は蛍光灯を用いた。養液Fは、水道水10Lに水溶性化成肥料(商品名「マツザキ1号」)50gと、水溶性硝酸石灰(商品名「マツザキ2号」)30gとをそれぞれ希釈して生成し、養液タンク4に12L貯留して5L/分のポンプ42により各人工培地2へ循環供給した。
【0016】
実施例は、上記養液タンク4に貯留した養液Fに、20cm×3cm、厚さ3mmのステンレス製平板からなる印加電極5を水没させ、8000V、60Hzの交流高電圧を印加した。比較例は、こうした高電圧の印加がないだけで、その他の栽培条件を実施例に同じとしている。実施例と比較例とは、小松菜が収穫できる大きさ(草丈15cm)にまで成長する株数の変化、すなわち収穫された株数(=収穫数)の累積により比較した。
【0017】
実施例と比較例との収穫数の変化を経過日数-収穫数のグラフ(図2)に示す。経過日数が30日になるまでは実施例及び比較例共に収穫がないため、省略している。実施例及び比較例は、途中経過のためにそれぞれ30株及び35株を抜き取っているため、収穫対象となる株数が実施例で60株、比較例で55株となっている。比較例は、経過日数33日までは収穫がなく、その後も収穫数の累積は緩慢で、経過日数37日に至っても10株を超えず、収穫対象の株数のうち収穫された割合は16.4%であった。
【0018】
これに対し、実施例は、経過日数30日で最初の1株が収穫された後、経過日数33日に至ると急激に収穫数が増え、経過日数37日に至ると51株が収穫され、収穫対象の株数のうち収穫された割合は86.7%に達した。これから理解されるように、本発明を適用することで植物の生長が促進され、単位期間あたりの生産量を増やすことができる。これは、本発明が特に植物工場に好適な技術であることを示す。
【0019】
更に、実施例と比較例とは、収穫された小松菜の劣化具合を蒸散率(=(開始時重量-経過時重量)/開始時重量×100%)の変化により比較した。収穫した実施例又は比較例の小松菜は、それぞれ外界の影響を受けないようにポリエチレン袋に密封し、温度7.3℃、湿度36%の冷蔵庫内に収納して、4時間毎に重量を計測した。実施例の開始時重量は5g、比較例の開始時重量は4.6gであった。これからも、本発明を適用すると植物がより大きく生育することが理解できる。
【0020】
実施例と比較例との収穫数の変化を経過時間-蒸散率のグラフ(図3)に示す。経過時間4時間における最初の計測の段階から、比較例は実施例の倍以上の蒸散率を示し、劣化の早いことが窺われる。こうした実施例と比較例との関係は一度も変わることがなく、比較例の蒸散率が経過時間20時間で20%を超えたのに対し、実施例の蒸散率は経過時間48時間に至っても結局20%を超えることがなかった。
【0021】
植物の劣化は蒸散率のみで決定されるわけではないが、本発明を適用することにより、例えば野菜の瑞々しさをより長い期間保持できることがわかる。近年は、冷蔵庫に野菜を長期保存する機能が付加されたりしているので、本発明は前記機能と相まって野菜をより長い期間保存できるようにする。また、野菜を運搬又は保管するに祭し、本発明を適用して栽培された植物は、長い期間瑞々しさを保つので、従来より長い距離又は長い期間保管できるようになり、よう広範囲への植物の輸送を実現する。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、植物工場に好適に利用されうるが、このほか植物工場以外の養液栽培にも利用できるほか、養液を散布したりする従来の土壌栽培に対しても、前記養液に高電圧を印加することで利用できる。
【符号の説明】
【0023】
1 植物工場
2 人工培地
3 照明
4 養液タンク
5 印加電極
P 植物
F 養液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液が供給される培地で植物を栽培するに際し、
養液に印加電極を水没させ、高電圧を印加することを特徴とする養液栽培方法。
【請求項2】
培地と循環経路を介して繋がれた養液タンクに貯留される養液に印加電極を水没させ、高電圧を印加する請求項1記載の養液栽培方法。
【請求項3】
養液に印加される高電圧は6000V〜15000Vである請求項1又は2いずれか記載の植物工場における養液栽培方法。
【請求項4】
養液が供給される培地で植物を栽培する植物工場において、
循環経路を介して培地と養液タンクとを繋ぎ、前記培養タンクに印加電極を設け、
培養タンクで生成され、高電圧を印加された養液を培地に循環供給することを特徴とする植物工場。
【請求項5】
印加電極は、6000V〜15000Vの高電圧を養液に印加する請求項4記載の植物工場における植物工場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−120537(P2011−120537A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281784(P2009−281784)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(508353846)
【出願人】(509341754)
【出願人】(508353765)
【Fターム(参考)】