説明

香味バランスのとれた、氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の製造方法

【課題】香味バランスのとれた、氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の提供。
【解決手段】乳糖、アセスルファムカリウムおよびスクラロースからなる群から選択されるいずれか一つの甘味料の発酵麦芽飲料中の濃度を、氷と混合した際、発酵麦芽飲料の香味バランスがとれるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味バランスのとれた、氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の製造方法、それにより得られる発酵麦芽飲料、および、氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の香味バランスの改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒のような発酵麦芽飲料は、主原料として麦芽を、副原料として米、麦、コーン、スターチ等の澱粉質原料、およびこれにホップ、水を原料にして製造されるが、日本の酒税法においては、麦芽使用比率で比較すると、ビールは、水を除く麦芽の使用量が全原料中、67重量%以上と規定されている。一方、発泡酒には、上記原料の内、水を除く麦芽の使用量が50重量%以上66.7重量%未満、および25重量%以上50重量%未満、および25重量%未満の3種類が規定されている。
【0003】
上記のように、ビールも発泡酒も日本の酒税法上は、麦芽を原料の一部として用いた発泡性酒類に属するものであり、いずれも麦芽の活性酵素や、カビ由来などの精製された酵素を用いて、麦芽や副原料である澱粉質を糖化させ、この糖化液を酵母によりアルコール発酵させて、アルコール、炭酸ガスに分解して、アルコール飲料としている発酵麦芽飲料である点で共通している。
【0004】
発酵麦芽飲料の製造においては、麦芽使用比率の調整、ホップによる苦味の調整および発酵条件の調整等によって、発酵麦芽飲料に香味を付与することが従前行われてきた(例えば、特許文献1:特開2001−211872、特許文献2:特開2002−81113、特許文献3:特開2003−102458参照)。
【0005】
また、発酵麦芽飲料の飲み方についても種々の検討がなされている。しかしながら、発酵麦芽飲料は、氷と共に飲用することは通常行われていない。ビールや発泡酒のような発酵麦芽飲料を氷と共に飲む場合、飲用温度の低下や氷の溶解が進行し、飲み応えや、それをささえる香味バランスを好適な範囲に維持することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−211872
【特許文献2】特開2002−81113
【特許文献3】特開2003−102458
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、氷を発酵麦芽飲料に加えた際に生じる香味の変化を鋭意検討した結果、特に甘味の感じ方が低下して香味バランスに影響を与えることを見出し、特定の甘味料の発酵麦芽飲料中の濃度を調整すると、氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の香味バランスを顕著に改善しうることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0008】
したがって、本発明は、香味バランスのとれた氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の製造方法、およびそれにより得られる発酵麦芽飲料、ならびに氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の香味バランスの改善方法の提供をその目的としている。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)香味バランスのとれた、氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の製造方法であって、
乳糖、アセスルファムカリウム、およびスクラロースからなる群から選択されるいずれか一つの甘味料の発酵麦芽飲料中の濃度を、氷と混合した際の発酵麦芽飲料の香味バランスがとれるように調整することを含んでなる、方法。
(2)以下の(a)〜(c)のうちいずれか一つとなるように、上記甘味料の発酵麦芽飲料中の濃度を調整する、(1)に記載の製造方法:
(a)乳糖の濃度が、発酵麦芽飲料の15〜39g/L;
(b)アセスルファムカリウムの濃度が、発酵麦芽飲料の30〜250mg/L;
(c)スクラロースの濃度が、発酵麦芽飲料の24〜120mg/L。
(3)上記発酵麦芽飲料と、氷とを混合することをさらに含んでなる、(1)または(2)に記載の方法。
(4)氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の温度が0〜8℃である、(3)に記載の方法。
(5)(1)〜(4)のいずれか一項に記載の方法により得られる、発酵麦芽飲料。
(6)氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の香味バランスの改善方法であって、
乳糖、アセスルファムカリウム、およびスクラロースからなる群から選択されるいずれか一つの甘味料の発酵麦芽飲料中の濃度を、氷と混合した際の発酵麦芽飲料の香味バランスがとれるように調整することを含んでなる、方法。
【0010】
本発明によれば、氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の香味バランスを顕著に改善することができる。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明の発酵麦芽飲料は、乳糖、アセスルファムカリウム、およびスクラロースからなる群から選択される甘味料の濃度が、氷と混合した際に発酵麦芽飲料特有の香味バランスが好適な範囲に維持されるように調整されてなることを一つの特徴としている。温度低下および希釈の進行する氷の存在下で、上記特定の甘味料が発酵麦芽飲料の香味バランスの改善作用を示すことは意外な事実である。
【0012】
本発明における甘味料の発酵麦芽飲料中の濃度の調整手法は、特に限定されないが、例えば、氷と共に飲用する際の発酵麦芽飲料の香味バランスがとれるような比率で、発酵麦芽飲料と甘味料とを混合することにより行うことができる。
【0013】
甘味料は、氷と共に飲用する際の発酵麦芽飲料の香味バランスがとれる限り、発酵麦芽飲料の原料と混合してもよく、発酵麦芽飲料自体と混合してもよい。より具体的には、甘味料は、糖化、煮沸、発酵、貯蔵等のいずれかの工程の後に、発酵麦芽飲料の原料と混合してもよく、一連の製造工程後に得られる発酵麦芽飲料自体と混合してもよい。
【0014】
また、甘味料の発酵麦芽飲料中の濃度は、例えば、本明細書の試験例1〜3に記載の官能評価方法に準じて、氷と共に飲用する際の発酵麦芽飲料の香味バランスを指標として当業者は決定することができる。
【0015】
そして、甘味料が乳糖の場合、乳糖の発酵麦芽飲料中の濃度は、好ましくは15〜 39g/Lであり、より好ましくは17〜35g/Lである。
【0016】
また、甘味料がアセスルファムカリウムの場合、アセスルファムカリウムの発酵麦芽飲料中の濃度は、好ましくは30〜250mg/Lであり、より好ましくは40〜160mg/Lである。
【0017】
また、甘味料がスクラロースの場合、スクラロースの発酵麦芽飲料中の濃度は、好ましくは24〜120mg/Lであり、より好ましくは32〜80mg/Lである。
【0018】
また、本発明の発酵麦芽飲料では、上記甘味料のうち二つ以上の組み合わせを用いて香味バランスを調節してもよく、本発明にはかかる態様も包含される。
【0019】
本発明の甘味料は、発酵麦芽飲料の製造原料由来成分を用いてもよく、それ以外の成分を用いてもよい。また、上記甘味料は、氷と飲用する際の発酵麦芽飲料の香味バランスがとれる限り、天然物の形態であっても合成物であっても用いてよい。
【0020】
また、本発明において、発酵麦芽飲料とは、麦を原料の一部として使用し、発酵させた飲料をいい、好ましくは、麦の中でも麦芽を原料の一部として使用して製造したアルコール含有飲料をいう。より具体的には、本発明の発酵麦芽飲料としては、日本における酒税法上の酒類の分類上、ビール、発泡酒、リキュール類、スピリッツ類に分類される発酵麦芽飲料である。
【0021】
発酵麦芽飲料の原料の一部として用いられる麦とは、通常のビールや発泡酒の原料として用いられる麦由来の加工品のことをいい、例えば、麦芽、大麦、精白大麦、大麦エキス、大麦フレーク、小麦、ハト麦、ライ麦、エン麦などを挙げることができる。そのなかでも、特に、麦芽を好適に用いることができる。また、本発明において、発酵麦芽飲料の原料として用いられるその他の原料とは、麦芽発泡酒の主な原料である麦芽、ホップおよび水以外の原料をいい、例えば、米、トウモロコシ、コウリャン、バレイショ、デンプン、糖類、麦芽以外の麦、苦味料、または着色料などを挙げることができる。
【0022】
発酵麦芽飲料は、上述の原料を用いて、それらを通常製造する方法と同様の方法に従って製造すればよい。
【0023】
また、本発明の発酵麦芽飲料は、上述の通り、氷と共に飲用される。発酵麦芽飲料と混合する氷の量およびサイズは、特に限定されず、通常飲料に用いられる量であってよい。氷の量は、例えば、発酵麦芽飲料1Lに対して少なくとも60gであり、好ましくは60 〜200gである。また、氷のサイズは、好ましくは3〜30cm/個である。
【0024】
また、氷と混合する際の発酵麦芽飲料の温度は、特に限定されず、通常飲料されるのと同様の温度(例えば5〜10℃)でも、常温程度(例えば、20〜30℃)であってもよい。
【0025】
本発明の発酵麦芽飲料では、上記方法により、発酵麦芽飲料に特有の香味バランスを維持するように、氷の存在下での香味バランスを改善することができる。かかる発酵麦芽飲料の香味バランスを構成する好適な例としては、麦芽原料由来の特有の香味の、「ボディ感」、「旨味」、「甘味」、「苦味」、「酸味」、「ホップ香」、「エステル香」等が挙げられる。
【0026】
また、本発明の発酵麦芽飲料の飲用する際の温度は、例えば、0〜8℃であり、好ましくは0〜6℃である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
試験例1:乳糖を混合したビール(麦芽比率74%)
麦芽(74重量%)、大麦、およびスターチからなる原料を粉砕混合し、50〜65℃で糖化したもろみを調製した。糖化したもろみは濾過し、煮沸工程にて、ホップ、および乳糖を添加して、約90分煮沸した。煮沸後約90℃で熱凝固の沈殿工程を経て、冷却(遠心分離)して、酵母を添加し、10〜20℃で約7日間発酵した。発酵液は、更に低温(約−1〜0℃)で12日間貯蔵熟成を行った。この貯蔵熟成液を、珪藻土濾過機で濾過し、ビールを得た。なお、乳糖は、ビール全量中0〜48g/Lとなるように調整した。
次に、得られたビール(50mL、12℃)および氷(約30g、約10cmサイズ/個)をジョッキ(容積150mL)中に添加した。
【0029】
ジョッキに添加して約5分間経過後、以下のスコアに従って、訓練されたパネル3名により官能評価を行い、平均点で3〜5が適正な範囲(○)であると判断した。
0:氷と共に飲用するとボディの弱さと酸味が目立ち、香味バランスが崩れる。
1:氷と共に飲用するとボディの弱さが目立ち、香味バランスが崩れる。
2:氷と共に飲用するとボディがやや弱くなり、香味バランスが崩れる。
3: 氷と共に飲用しても香味バランスが良い
4:氷と共に飲用するとボディを感じ、香味バランスが良く、甘さを感じる。
5:氷と共に飲用するとボディを感じ、香味バランスが良いが、甘さがやや目立つ。
6:氷と共に飲用するとボディは感じるが、甘さが突出しており、香味バランスが崩れる
【0030】
結果は、表1に示される通りであった。
【表1】

乳糖の濃度が17〜35g/Lである場合、氷と共に飲用してもビール特有の香味バランスは適正範囲に維持されていた。
【0031】
試験例2:アセスルファムカリウムを混合した発泡酒(麦芽比率25%未満)
麦芽(24重量%)、大麦、および他の成分(米、コーン、スターチ、液糖)からなる原料を粉砕混合し、50〜65℃で糖化したもろみを調製した。糖化したもろみは濾過し、煮沸工程にて、ホップを添加して、約60分煮沸した。煮沸後約90℃で熱凝固の沈殿工程を経て、冷却(遠心分離)して、酵母を添加し、10℃で約7日間発酵した。発酵液は、更に低温(約で−1〜0℃)で19日間貯蔵熟成を行った。この貯蔵熟成液を、珪藻土濾過機で濾過し、発泡酒を得た。次に発泡酒全量中、0〜320mg/Lとなるようにアセスルファムカリウムを添加した。
次に、得られた発泡酒(50mL、12℃)および氷(約30g、約10cmサイズ/個)をジョッキ(容積150mL)中に添加した。
【0032】
次に、試験例1と同様の手法により、発泡酒の官能評価を行った。
結果は、表2に示される通りであった。
【表2】

アセスルファムカリウムの濃度が40〜160mg/Lである場合、氷と共に飲用しても発泡酒特有の香味バランスは適正範囲に維持されていた。
【0033】
試験例3:スクラロースを混合した発泡酒(麦芽比率50%未満)
麦芽(49重量%)、大麦、および他の成分(米、コーン、スターチ、液糖)からなる原料を粉砕混合し、50〜65℃で糖化したもろみを調製した。糖化したもろみは濾過し、煮沸工程にて、ホップを添加して、約70分煮沸した。煮沸後約90℃で熱凝固の沈殿工程を経て、冷却(遠心分離)して、酵母を添加し、11℃で約7日間発酵した。発酵液は、更に低温(約−1〜0℃)で19日間貯蔵熟成を行った。この貯蔵熟成液を、珪藻土濾過機で濾過し、発泡酒を得た。次に発泡酒全量中、0〜160mg/Lとなるようにスクラロースを添加した。
次に、得られた発泡酒(50mL、12℃)およびに氷(約30g、約10cmサイズ/個)をジョッキ(容積150mL)中に添加した。
【0034】
次に、試験例1と同様の手法により、発泡酒の官能評価を行った。
結果は、表3に示される通りであった。
【表3】

スクラロースの濃度が32〜80mg/Lである場合、氷と共に飲用しても発泡酒特有の香味バランスは適正範囲に維持されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
香味バランスのとれた、氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の製造方法であって、
乳糖、アセスルファムカリウム、およびスクラロースからなる群から選択されるいずれか一つの甘味料の発酵麦芽飲料中の濃度を、氷と混合した際の発酵麦芽飲料の香味バランスがとれるように調整することを含んでなる、方法。
【請求項2】
以下の(a)〜(c)のうちいずれか一つとなるように、前記甘味料の発酵麦芽飲料中の濃度を調整する、請求項1に記載の製造方法:
(a)乳糖の濃度が、発酵麦芽飲料の15〜39g/L;
(b)アセスルファムカリウムの濃度が、発酵麦芽飲料の30〜250mg/L;
(c)スクラロースの濃度が、発酵麦芽飲料の24〜120mg/L。
【請求項3】
前記発酵麦芽飲料と、氷とを混合することをさらに含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の温度が0〜8℃である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法により得られる、発酵麦芽飲料。
【請求項6】
氷と共に飲用する発酵麦芽飲料の香味バランスの改善方法であって、
乳糖、アセスルファムカリウム、およびスクラロースからなる群から選択されるいずれか一つの甘味料の発酵麦芽飲料中の濃度を、氷と混合した際の発酵麦芽飲料の香味バランスがとれるように調整することを含んでなる、方法。

【公開番号】特開2013−9615(P2013−9615A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143379(P2011−143379)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)