説明

香味及び香味発現が増強、改善された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物

【課題】喫食当初は香りの発現が低く食品本来の味を堪能することが可能でありながらも、喫食時間と共に香り、更には呈味が発現し、食品にボディ感と高級感を与えることが可能な酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を提供する。
【解決手段】酵母の菌体内に香料及び/又は香辛料抽出物を内包したマイクロカプセルの表面を油脂で被覆する。
【効果】油脂で被覆された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物は少量の添加量であっても、食品に十分な香味増強効果をもたらし、十分なボディ感や高級感を食品に付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料及び/又は香辛料抽出物の香味発現、持続性が増強、改良された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物に関する。詳細には、喫食当初に香りが発現し、短時間で香りが消失する従来の香料や香辛料抽出物とは異なり、喫食当初は香りの発現が低く食品本来の味を堪能することが可能でありながらも、喫食時間と共に呈味や呈味に伴う香りが発現し、スパイシー感や濃厚感といった十分なボディ感や高級感を付与することが可能な酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物に関する。更には加熱殺菌や長期保存下においても香味安定性に優れ、顕著に香味が増強された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、香料や香辛料抽出物の香りの発現性や持続性を改善する技術として、酵母などの微生物の細胞壁をカプセル化皮膜として利用した微生物マイクロカプセルを用いる方法が知られている。例えば酵母菌体の内容成分を除去せずにそのまま香料などを内包させる方法(特許文献1)、酵母菌体内の内因性成分を除去した後に該菌体内に香料等を内包させる方法(特許文献2)、更には菌体内に外因性物質を内包させた酵母の表面にマンニトールを付着させる方法(特許文献3)、及び同様にして酵母表面に糖類、ゼラチン、ゼラチン加水分解物、トウモロコシタンパク質、カゼイン、カゼインナトリウム及びコラーゲンよりなる群から選択される少なくとも1種で被覆する方法(特許文献4)が開示されている。また、特許文献5には、酵母細胞壁画分及び増粘多糖類、少糖類、硬化油脂、ワックス、糖アルコール及び澱粉加水分解物から選ばれた少なくとも1種とからなるコーティング剤を用いて香料組成物、色素、酸味料、調味料、甘味料、香辛料抽出物等の芯物質をコーティングすることにより、加熱処理を伴う飲食品の香気香味付与剤として香気発現の持続性及び制御性に優れたコーティング粉末を提供できること、特許文献6には常温で固体状の芯物質(香料等)を融点40℃以上の脂質粉状体でコーティングすることにより、飲食時に長時間にわたり芯物質の効果が持続し、満足感を付与可能であることが開示されている。
【0003】
しかし、特許文献1乃至4には微生物カプセル(いわゆる酵母マイクロカプセル)の表面を油脂で被覆することについて一切開示されておらず、特許文献5に開示されている技術は酵母細胞壁の画分と硬化油脂等から選ばれる1種以上を各々混合したコーティング剤を用いて香料等の芯物質をコーティングする技術であり(図1)、酵母細胞壁の形状を保持し、内包された香料及び/又は香辛料抽出物を容易に外部に逃がさない構造に保たれている本願発明(図2)とは異なる技術である。その上特許文献1乃至6のマイクロカプセルや粉末香料は、喫食直後もしくは喫食から少時間経過後に香りが発現するため、喫食当初は望まれた香りに賦香された食品を提供することができるが、時間経過と共に香りが消失してしまう、また、香料及び/又は香辛料抽出物が有する呈味が低く、賦香した食品のボリューム感に欠けるなど、その香味増強効果や香味持続性は未だ改良の余地があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−88871号公報
【特許文献2】特開平4−4033号公報
【特許文献3】特許第3837440号公報
【特許文献4】特許第3885195号
【特許文献5】特開2002−53807号公報
【特許文献6】特開平09−65850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、喫食当初は香りの発現が低く食品本来の味を堪能することが可能でありながらも、喫食時間と共に香り、更には呈味が発現し食品にスパイシー感や濃厚感といった十分なボディ感や高級感を付与することが可能な酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を提供することを目的とする。更には加熱殺菌や長期保存下においても香味安定性に優れ、顕著に香味が増強された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、酵母の菌体内に香料及び/又は香辛料抽出物を内包したマイクロカプセルの表面を油脂で被覆することにより、全体として香料及び/又は香辛料抽出物の香味が顕著に増強され、従来にない香味発現を有する食品を提供できることを見出して本発明を完成した。詳細には喫食当初は香りの発現が低く食品本来の味を堪能することが可能でありながらも、喫食時間と共に香料及び/又は香辛料抽出物の香り及び呈味が増加し、後味にボディ感のある香味を付与できるといった従来にない香味発現及び持続性を有する酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物となることを見出して、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、以下の態様を有する香味発現及び香味持続性が改良された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物、並びに該酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を含有することを特徴とする食品及び食品の製造方法に関する;
項1.酵母の菌体内に香料及び/又は香辛料抽出物を内包したマイクロカプセルの表面が油脂で被覆されていることを特徴とする酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物。
項2.項1に記載の酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を含有してなる食品。
項3.食品が畜肉加工食品、惣菜食品、米飯加工食品、調味料又はレトルト食品である、項2に記載の酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を含有してなる食品。
項4.菌体内に香料及び/又は香辛料抽出物を内包した酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物をあらかじめ油脂で被覆後、原材料に添加混合し、加熱処理工程を経ることを特徴とする食品の製造方法。
項5.対象食品が畜肉加工食品、惣菜食品、米飯加工食品、調味料又はレトルト食品である、項4に記載の製造方法。
【0008】
更に、本発明は下記態様を有する酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物の香味増強、又は香味発現改良方法に関する。
項6.酵母の菌体内に香料及び/又は香辛料抽出物を内包したマイクロカプセルの表面を油脂で被覆することを特徴とする、酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物の香味増強、又は香味発現改良方法。
【発明の効果】
【0009】
喫食当初は香りの発現が低く食品本来の味を堪能することが可能でありながらも、喫食時間と共に香料及び/又は香辛料抽出物の香り及び呈味が増加し、後味にボティ感や高級感のある香味を付与できるといった従来にない香味発現及び持続性を有する酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を提供でき、ひいては香味発現及び香味持続性に優れた食品を提供できる。更には加熱殺菌や長期保存下においても香味安定性に優れ、顕著に香味が増強された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物、並びに食品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、酵母の菌体内に香料及び/又は香辛料抽出物を内包したマイクロカプセルの表面を油脂で被覆することを特徴とする。本発明で用いる酵母は、麦酒酵母菌、パン酵母菌、トルラ酵母菌等のように人体への投与に適したものを任意に使用することができる。具体的には、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ルーキシイ(Saccharomyces rouxii)、及びサッカロマイセスカールスバーゲンシス(Saccharomyves carlsbergensis)などのサッカロマイセス属に属する酵母菌;キャンディダ・ウチリス(Candida utilis)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、及びキャンディダ・フラベリ(Candida flaveri)などのキャンディダ属に属する酵母を例示することができる。これらの酵母は単独で使用されてもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。なお、これらの酵母は特に制限されないが、1〜20μm、好ましくは1〜10μmの範囲の粒径を有していることが好ましい。
【0011】
酵母は、香料及び/又は香辛料抽出物を内包させるにあたり、生菌及び死菌の別、また湿潤及び乾燥状態の別、及び内因性の菌体内成分の有無の別などを問うことなく、いずれの状態のものを使用することができる。好適には、予め、アミノ酸成分、ペプチドやタンパク質成分(酵素を含む)、糖質成分、拡散成分、並びに脂質成分などを含む内因性の菌体内成分を菌体外に溶出させた酵母を使用することが望ましい。これにより、より多くの香料や香辛料抽出物を酵母の菌体内に入れることができ、さらに内因性の菌体内成分に由来する望ましくない味や臭いの発生や、内因性の菌体内成分による香料や香辛料抽出物の分解や変質などが防止できる。
【0012】
内因性の菌体内成分を菌体外に溶出させる方法としては、特に制限されず、公知の方法を任意に使用することができる。例えば、公知の方法としては、加温処理、pH処理などの物理的処理法、溶出促進剤添加法、菌体内成分溶出酵素などの酵素を用いた酵素処理法、またはこれらの組み合わせ等を挙げることができる(特開平4−4033号公報等)。
【0013】
ここで加温処理は、酵母懸濁液を通常30〜100℃、好ましくは30〜60℃に加温し、数分から数時間かけて撹拌することによって実施することができる。この際、菌体内成分の溶出をより効果的に効率よく行うためには溶出促進剤を併用することもできる。かかる溶出促進剤としては、例えばエタノールなどの低級アルコール、酢酸エチル及びアセトンなどの極性有機溶剤;無機塩類、糖類、4級アンモニウム塩、各種防菌・抗菌・殺菌剤および水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基類等を挙げることができる。具体的には、酵母の水分散液にアセトンを添加し、撹拌下温度40℃の条件で24時間振盪する方法を例示することができる。
【0014】
また菌体内成分溶出酵素処理法には、酵母が有する自己消化酵素を利用する方法(Babayan,T.L. and Bezrukov,M.G., 1 Acta Biotechnol.0,5,129-136(1985))、プロテアーゼ、またはプロテアーゼとヌクレアーゼ、β−グルカナーゼ、エステラーゼまたはリパーゼのいずれか少なくとも1種の酵素と組み合わせて酵母を処理する方法などが含まれる。具体的には、自己消化酵素を有する酵母の水分散液あるいは上記酵素を添加した酵母の水分散液を30〜60℃の温度範囲で1〜48時間インキュベーションすることによって実施することができる。
【0015】
かくして得られる処理物はさらに遠心分離により上清を除去し、さらに必要に応じて洗浄、加熱、pH調整処理を行うことによって、菌体内成分が除去された酵母菌体残渣を得ることができる。
【0016】
本発明で用いられる酵母には、上記に例示した溶出方法に関わらず、また溶出程度に関わらず、菌体内成分を溶出させて除去したものが広く包含される。このような酵母として、好ましくは未処理酵母菌の絶対乾燥質量100質量%に対する溶出成分の絶対乾燥重量の割合(溶出率)が10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%となるように、内因性の菌体内成分を溶出させた酵母を挙げることができる。かかる内因性の菌体内成分(菌体内容成分)を除去してなる酵母としては、簡便には商業的に入手可能なものを使用することもできる。
【0017】
当該菌体内の内因性成分が除去された酵母(菌体残渣)は、菌体内部にできるだけ多くの香料及び/又は香辛料抽出物を封入させるために、さらに酸性処理(特開平8−243378号公報)、アルカリ性処理(特公平7−32871号公報)、アルコール処理(特公平8−29246号公報)などの任意の処理を施してもよい。なお、上記記載の方法はいずれも公知の方法であるが、調製される酵母の細胞壁がマイクロカプセルの被膜として許容される化学的、物理的性質を有していることを限度として、これらの方法に限定されるものではない。
【0018】
具体的に、酸性処理としては、酵素処理後の菌体残渣を塩酸、リン酸、硫酸、乳酸、クエン酸、酢酸、またはアスコルビン酸などの酸性水溶液(pH2以下)に懸濁し、所定時間かけて撹拌しながら加熱(50〜100℃)する方法を挙げることができる。
【0019】
アルカリ性処理は、対象とする酵母をアルカリ性水溶液、好ましくはpH9〜13、より好ましくはpH10〜12を有する水溶液中で数分から数時間かけて撹拌することによって実施することができる。当該水溶液の温度は特に制限されず、通常20〜100℃の範囲を用いることができるが、好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜80℃の加温状態である。アルカリ性水溶液の調整には、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウムなどの無機塩;またはアンモニア、モノエタノールジアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン水溶液などの有機窒素系化合物を用いることができる。
【0020】
アルコール処理としては、酵素処理後の菌体残渣に一価のアルコール類を添加する方法を挙げることができる。
【0021】
酵母の菌体内部に内包させる香料及び/又は香辛料抽出物は、液状物であれば親水性、疎水性及び両親媒性の別を問わない。好ましくは疎水性の香料及び/又は香辛料抽出物である。
【0022】
香料としては、食品に適用可能なものを好適に例示することができる。かかるものとして具体的には、燻製香を有するスモーク系香料;ビーフ、ポーク、チキン、ハム、ソーセージ、ベーコン、サラミ及びコンビーフ等のミート系香料;ペパー、ワサビ、マスタード、オールスパイス、オリーブ、ローズマリー、パプリカ、サンショウ、シナモン、クローブ、ナツメグ、ジンジャー、ターメリック、ガーリック、オニオン、サフラン、バジル、ベイリーブス、マジョラム、オレガノ、パセリ、ローズマリー、セージ、タラゴン、タイム、アニス、キャラウェイ、カルダモン、コリアンダー、クミン、ディル、フェンネル等のスパイス系香料;味噌様フレーバー、醤油様フレーバー、ウスターソース様フレーバー、トマトケチャップ様フレーバー、たれ様フレーバー、ドレッシング様フレーバー等の調味料系香料;水産物、魚介類、甲殻類、節類及び海藻類等の水産物系香料;アーモンド、ピーナッツ、ウォルナッツなどのナッツ系香料、野菜系香料、その他オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ、マンダリン、タンジェリンなどのシトラス系香料;アップル、バナナ、チェリー、グレープ、メロン、ピーチ、パイナップル、プラム、ラズベリー、ストロベリー等のフルーツ系香料;バニラ、コーヒー、ココア、チョコレートなどのビンズ系香料;ペパーミント、スペアミント等のミント系香料、バター、マーガリン、チーズ、ミルク等の乳製品系香料、スナック系香料を例示することができる。好ましくは、喫食の経過と共に香味が発現、増強され、喫食の後半部において強い香味を有することが好まれる香料、例えば上記ペパー、ガーリック、オニオン、レモン、バター及びチーズからなる群から選ばれる1種以上の香料を挙げることができる。
【0023】
香料と同様、本発明で用いる香辛料抽出物も食品に適用可能なものを好適に例示することができ、具体的にはペパー、ワサビ、マスタード、オールスパイス、パプリカ、オリーブ、ローズマリー、サンショウ、シナモン、クローブ、ナツメグ、ジンジャー、ターメリック、ガーリック、オニオン、サフラン、バジル、ベイリーブス、マジョラム、オレガノ、パセリ、ローズマリー、セージ、タラゴン、タイム、アニス、キャラウェイ、カルダモン、コリアンダー、クミン、ディル、フェンネル等の香辛料から得られた抽出物が挙げられる。好ましくは喫食の経過と共に香味が発現、増強され、喫食の後半部において強い香味を有することが好まれる香辛料抽出物、例えばペパー、ジンジャー、ガーリック、オニオン、ナツメグ、タイムからなる群から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0024】
前述の香料及び/又は香辛料抽出物の中でも、ペパー、シナモン、カルダモン、ジンジャー、タイム及びワサビなどの香料及び/又は香辛料抽出物は、耐熱性が弱く食品製造における加熱処理工程で香味が劣化することが課題とされていた。しかし、本発明にかかる油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物として用いることにより、厳しい加熱処理工程においても香味の劣化を防止することができる。例えば、圧力下での加熱条件(米飯加工食品製造時の炊飯条件やレトルト殺菌条件)や、200℃付近で加熱を行うオーブンでの加熱処理といった厳しい加熱条件においても顕著に香味の劣化を防止することができる。
【0025】
また、ペパー、ガーリック、オニオン、ジンジャー、ナツメグ、タイム、レモン、バター及びチーズなどの香料及び/又は香辛料抽出物は、香りだけでなく呈味が食品に与える影響が多大である。しかし、従来の香料や香辛料抽出物、酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を用いた場合は、食品を香り付けすることは可能であるものの、その機能は香り付けに留まり、舌で感知する呈味感といった食品への呈味付与効果は望めない、もしくは呈味付与効果が不十分であることが課題とされていた。一方、本発明にかかる構成、つまり酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を油脂で被覆して用いることにより、上記香料及び/又は香辛料抽出物を使用した場合であっても、香りだけでなく呈味までもが増強され、食品に十分な呈味を付与することが可能となった。更に本発明の油脂で被覆された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物は少量の添加量であっても、食品に十分な香味増強効果をもたらし、十分なボディ感や高級感を食品に付与することが可能である。
【0026】
前述する香料及び/又は香辛料抽出物は、前記酵母菌体(菌体残渣)と混合することによって、酵母の菌体内に内包させることができる。具体的には、前記酵母菌体(菌体残渣)の水分散液に香料及び/又は香辛料抽出物を添加し、所望によりpHや温度を調整して、所定時間、撹拌することによって実施することができる。pHは特に制限されないが通常pH5〜9、好ましくは6〜8の範囲で適宜選択することができる。温度は特に制限されないが、通常40〜80℃、好ましくは50〜70℃の範囲で適宜選択することができる。撹拌も特に制限されないが、撹拌翼を有するブレンダー、乳化機、分散機、ホモジナイザー等の各種の撹拌装置を使用することによってより効果的に香料及び/又は香辛料抽出物を酵母菌体内に内包させることができる。この際、撹拌速度や撹拌回転数等も特に制限されないが、通常1000〜10000rpmの範囲から適宜選択調整することができる。香料及び/又は香辛料抽出物と前記酵母菌体(菌体残渣)との混合に際しては、当該混合系に硬膜剤、酸化防止剤、安定剤、分散剤、乳化剤、pH調整剤、防腐剤、または劣化防止剤などを配合してもよい。
【0027】
本発明で用いる上記酵母マイクロカプセル(酵母の菌体内に香料及び/又は香辛料抽出物を内包したマイクロカプセル)は、従来技術である酵母細胞壁をコーティング剤として香料等の芯物質をコーティングした図1に示す形態とは異なり、酵母細胞壁が当初の細胞壁の形態を保持し、図2に示すように、内包物が容易に外部に溶出しない構造を有していることを特徴とする。
【0028】
なお、本発明の油脂による被覆対象となる酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物は商業的に入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のイーストシール[商標]シリーズを挙げることができる。
【0029】
本発明ではかかる酵母マイクロカプセルを油脂で被覆することを特徴とする。用いられる油脂としては食用油脂として適用可能な油脂を用いることができ、具体的には、菜種油、大豆油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、オリーブ油、グレープシードオイル、ゴマ油、コメ油、トウモロコシ油、落花生油、パーム油、ヤシ油などの食品用植物性油脂;上記食品用植物性油脂を水素添加処理した硬化油脂、及び牛脂、豚脂、魚鯨油等の動物性油脂、バター、マーガリン、ラード等の油脂加工品を挙げることができる。好ましくは菜種油、大豆油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、オリーブ油、グレープシードオイル、ゴマ油、コメ油、トウモロコシ油、落花生油、パーム油、ヤシ油などの食品用植物性油脂、ラード及びバターからなる群から選ばれる1種以上、更に好ましくは菜種油、大豆油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、コメ油及びトウモロコシ油からなる群から選ばれる1種以上を挙げることができる。これらの油脂を用いることにより、酵母マイクロカプセル中の香料及び/又は香辛料抽出物の風味に影響を与えることなく、顕著に香味の発現を増強することが可能となる。
【0030】
酵母マイクロカプセルを油脂で被覆する方法としては、油脂中に酵母マイクロカプセルの乾燥物を添加、混合することにより被覆する方法、粉末状の酵母マイクロカプセルに油脂を噴霧する方法などが挙げられる。好ましくは油脂中に酵母マイクロカプセルの乾燥物を添加、混合することにより被覆する方法である。
【0031】
本発明でいう油脂を被覆する方法は、食品の製造工程中に適用することも可能である。例えば、油脂を含有する食品の原料油脂中に酵母マイクロカプセルを添加、混合後、通常の食品製造工程を取ることができる。食品の原料油脂以外の油脂を用いて別途酵母マイクロカプセルを油脂で被覆後、食品を製造することも可能であり、食品の原料油脂や製造工程によって適宜選択することが可能である。なお、食品の原材料の一種として油脂を用いる場合、食品に占める油脂含量が少ないと、油脂と他の原材料が混合された中に酵母マイクロカプセルを添加して食品を製造した場合に、酵母マイクロカプセルへの油脂の被覆が不十分となる。そのため、予め酵母マイクロカプセルに油脂を被覆させておく必要がある。
【0032】
酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物と油脂の割合は、用いられる食品に応じて適宜調整することが可能であるが、具体的には本発明の酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物1質量部に対し、少なくとも油脂を0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上添加することが好ましい。
【0033】
かくして、酵母マイクロカプセルの表面に全面に亘って油脂が被覆(コーティング)されてなる本発明の酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物が調製される。
【0034】
上記製造方法にて製造された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を用いることにより、喫食当初は香りの発現が低く食品本来の味を堪能することが可能でありながらも、喫食時間と共に香り、更には呈味が発現し十分なボディ感や高級感を有する食品を製造することが可能である。その上、本発明の酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物は、加熱処理工程を経た場合においても香味が劣化することなく、加熱処理工程を必須とする食品においても、求められる食味を食品に付与することが可能である。
【0035】
本発明の酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物は種々の食品に適用可能であるが、好ましくは喫食時間の経過と共に香味が発現し、後味にボディ感を呈することが求められる食品に適用することができる。かかる食品の具体例として、ソーセージ、プレスハム、ハンバーグ、つくね、サラミ、ミートローフ、ミートボール等の畜肉加工食品;ミンチカツ、コロッケ、ギョウザ、シュウマイ、春巻き、肉まん、チキンナゲット等の惣菜食品;炊き込みご飯、ピラフ、チャーハン、チキンライス等の米飯加工食品;乳化型ドレッシング、セパレートドレッシング、マヨネーズ、ソース類、タレ等の調味料;カレー、シチュー、ホワイトソース、パスタソース、スープ等のレトルト食品;クッキー、サブレ、マフィン、パン等の焼菓子類を挙げることができる。好ましくは畜肉加工食品又は米飯加工食品である。
【0036】
従来の香料や香辛料抽出物を用いて製造された各種食品は、喫食当初に香りが発現し、喫食時間と共に香りが消失すること、及び呈味が低いことが課題とされていた。同様にして、油脂で被覆されていない従来の酵母マイクロカプセルを用いた場合であっても、食品自体が保有する水分によって、食品の製造工程時に酵母細胞壁が崩壊して内包物である香料及び/又は香辛料抽出物が酵母マイクロカプセルから流出し、食品の香りが低下する、従来の香料や香辛料抽出物を用いた場合よりやや香りの発現を遅延することは可能であるが呈味が低く、食品自体にボディ感を付与することはできなかった。
【0037】
一方、油脂で被覆された本発明の酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物は、水分を含有した食品製造工程中、及び加熱工程中においても酵母細胞壁中の香料及び/又は香辛料抽出物が酵母マイクロカプセルから流出することなく、喫食時に咀嚼することによってはじめて香味及び/又は香辛料抽出物が流出する。従って、香味発現が通常の香料や酵母カプセルに比較して遅く、喫食当初は香りの発現が低く食品本来の味を堪能することが可能でありながらも、喫食時間と共に香り、更には呈味が発現し食品にボディ感や高級感を与えることが可能となった。また、従来の香料や香辛料抽出物、油脂で被覆されていない酵母マイクロカプセルは、食品自体に香りを付与することが特徴であったが、本発明の油脂で被覆された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物は、喫食時に呈味を有し、その呈味から由来する香り(喫食時に鼻から抜ける香り)によって食品が香味付けされる点が特徴である。このように、本発明の酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物は、香料及び/又は香辛料抽出物自体の呈味が顕著に強いこと、及び喫食後半に強い香味発現があり、後味が強く残る点が特徴であり、かかる効果は従来の香料や香辛料抽出物、油脂で被覆されていない酵母マイクロカプセルには見られない新規の効果である。
【0038】
一方、畜肉加工品や惣菜食品、レトルト食品等の食品は、香り付与効果に加え、畜肉臭やレトルト臭といった対象食品自体のマスキングを目的として香料や香辛料、香辛料抽出物を用いる場面も多々見られる。しかし、マスキング効果及び香り付与効果の増強を目的として香料などの添加量を増やすと、食品本来の風味が消され持ち味が出ないことが課題とされていた。一方、本発明の油脂で被覆された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物は、喫食当初は香味発現がそれ程強くないため、畜肉等の食品本来の旨味を感じることができる。また、喫食時間と共に香味が強く発現するため、十分なマスキング効果を示すと共に、食品の呈味感が増強される。
【0039】
更に、本発明の油脂で被覆された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物は、上記各種食品をはじめとした冷凍食品に好適に使用できる。通常、冷凍食品は、長期保存を目的に冷凍状態(−18℃以下)で製造、流通、販売され、冷凍食品は喫食時の解凍工程や、長期間に渡る保存下において、食品の風味や香味が劣化することが課題となっていた。しかし、表面が油脂で被膜された本発明の酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を用いて冷凍食品を調製することにより、凍結解凍時や長期保存下においても香味が劣化することなく、製造時と遜色ない香味発現やボディ感、高級感を呈する食品を提供することが可能となった。
【0040】
本発明の油脂で被覆された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物(以下、本発明において必要に応じて「油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物」という)を含有してなる食品の製造方法は、油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を含有する以外は通常の食品の製造工程を採ることができる。好ましくは酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を予め油脂に接触処理後、原材料に添加混合する方法が挙げられる。油脂への接触処理は、前述のコーティング方法を用いることができる。
【0041】
以下、本発明の油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を用いた食品製造の一例を具体例として示す。
【0042】
(A)畜肉加工食品、惣菜食品
本発明でいう畜肉加工食品とは、牛肉、豚肉、鶏肉、鴨肉、羊肉、馬肉、または食用に適した畜肉を用いて加工され、畜肉含量が50%以上である食品を広く指し、具体的にはソーセージ、プレスハム、ハンバーグ、つくね、サラミ、ミートローフ、ミートボール等の食品が挙げられ、好ましくはソーセージである。また、本発明でいう惣菜食品とは、上記畜肉を用いて加工された食品(畜肉含量が50%未満)を指し、例えばミンチカツ、コロッケ、ギョウザ、シュウマイ、春巻き、肉まん、チキンナゲット等を挙げることができる。
【0043】
用いられる香料及び/又は香辛料抽出物は特に限定されないが、前述のスモーク系香料、ミート系香料、スパイス系香料、調味料系香料、水産物系香料、ナッツ系香料、野菜系香料、シトラス系香料、及び乳製品系香料等が例示できる。
【0044】
例えば、ソーセージは以下に示す方法など各種方法を用いて調製できる。(I)豚肉、豚脂などの原料肉や脂肪に氷水、食塩、亜硝酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、重合リン酸塩、カゼインナトリウム、砂糖、ソルビン酸カリウム等の原料及び香料、香辛料又は香辛料抽出物等を添加し、カッティング、練り上げたものをソーセージ用のケーシングに充填後、加熱処理を行う方法。(II)ミンチにした豚肉、豚脂などの原料肉や脂肪に氷水、食塩、亜硝酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、重合リン酸塩、カゼインナトリウム、砂糖、ソルビン酸カリウム等の原料及び香料、香辛料又は香辛料抽出物等を添加してフードミキサー等で混合後、冷蔵庫にて一晩塩漬したものを再度混合後、ソーセージ用のケーシングに充填して加熱処理を行う方法。(III)豚肉と豚脂などに、食塩、亜硝酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、重合リン酸塩などの塩漬剤を、添加・混合し一晩冷蔵庫で静置後、上記混合物に氷水、カゼインナトリウム、砂糖、ソルビン酸カリウム、香料、香辛料又は香辛料抽出物等を添加しミキシングし、ソーセージ用のケーシングに充填後、加熱処理を行う方法。一方、本発明では別途、サラダ油や菜種油等の油脂に酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加、混合することにより、酵母マイクロカプセルを油脂コーティングしておく。そして油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を、通常の香料及び/又は香辛料抽出物を添加する段階で代わりに添加することにより、呈味及び香味発現が顕著に増強されたソーセージを提供することができる。
【0045】
同様にして、プレスハムは、豚肉等の原料肉の肉塊を塩漬、練り合わせることにより製造される。本発明では事前に油脂と接触処理(コーティング処理)を施した酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を練り合わせ時に添加することにより製造できる。ハンバーグ、つくねも通常の製造工程中で香料及び/又は香辛料抽出物を添加する段階で本発明の油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加、混合することにより製造可能である。
【0046】
その他、例えばミンチカツ、コロッケ、ギョウザ、シュウマイ、春巻き、肉まん、チキンナゲット等の惣菜食品であれば、ミンチ肉や野菜といった原材料を混合する際に、本発明の油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加する以外は、常法に従って香味が増強された惣菜食品を製造できる。
【0047】
(B)米飯加工食品
米飯加工食品として具体的には、炊き込みご飯、ピラフ、チャーハン、チキンライス等を挙げることができる。
【0048】
用いられる香料及び/又は香辛料抽出物は特に限定されないが、前述のスパイス系香料、調味料系香料、ミート系香料、水産物系香料、ナッツ系香料、野菜系香料、及び乳製品系香料等が例示できる。
【0049】
例えば炊き込みご飯やピラフなどの米飯加工食品は、米を炊飯する際に炊飯器等の調理器具内に米飯と共に調味料や香料、香辛料、香辛料抽出物を添加し、炊飯することにより製造される。しかし、炊飯工程は開放された系で加熱されるため、添加した調味料や香料、香辛料、香辛料抽出物等の香気成分が揮発しやすく、呈味感が増強した米飯加工食品を製造することが困難であった。本発明では、酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加、混合した油脂を米に添加後、炊飯することにより香味増強効果に優れ、呈味感が増強された米飯加工食品を製造することが可能である。一方、チャーハンやチキンライスなどの米飯加工食品は、通常、炊き上がった米飯に具材や調味料、香料、香辛料、香辛料抽出物等を添加してフライパンや中華鍋等の調理器具で炒めることにより製造される。本発明では、酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加、混合した油脂を別途調製しておき、香料、香辛料、香辛料抽出物等の調味料によって調味付けが行われる段階で該油脂を具材や米飯に添加、混合することにより香味が顕著に増強された米飯加工食品を製造できる。一方、本発明の油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物は、米飯加工食品の調理後に添加することによっても顕著に米飯加工食品の香味を増強することが可能である。
【0050】
(C)調味料
調味料として具体的には、乳化型ドレッシングやセパレートドレッシング等のドレッシング類やマヨネーズ;ウスターソース、オイスターソース、トンカツソース、お好みソース等のソース類;及び焼肉のタレ、蒲焼のタレ、あんかけに用いるタレ等の各種タレ類を挙げることができる。
【0051】
用いられる香料及び/又は香辛料抽出物は特に限定されないが、前述のスパイス系香料、スモーク系香料、調味料系香料、ミート系香料、野菜系香料、乳製品系、シトラス系香料等が例示できる。
【0052】
例えば乳化型ドレッシングであれば、水に食酢、醤油、みりん、ワイン、果汁等を適宜選択して添加したものに、糖類、食塩、酸類、調味料、各種香料、香辛料、香辛料抽出物等を適宜添加、混合して水相部を調製する。そして水相部に、コーンサラダ油やゴマ油、オリーブオイル等の各種油脂を含有する油相部を混合してホモミキサー等の撹拌機やコロイドミル等の均質機を用いて乳化を行い、脱気後、容器充填することにより調製することができる。本発明では油相部に予め酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加、混合しておくことにより、長期保存下における香味劣化が顕著に抑制された乳化型ドレッシングを調製できる。調製された乳化型ドレッシングは、喫食当初はドレッシングの添加対象である食品本来の味を堪能することが可能でありながらも、喫食時間と共にドレッシングの呈味や呈味に伴う香りが発現し、食品に強い香味を付与することができる。なお、乳化安定を図るために卵黄や増粘多糖類、乳化剤等を適宜選択して使用することができる。一方、セパレートドレッシングであれば、前述の水相部及び予め酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物と混合して調製された油相部を容器に充填することにより調製できる。
【0053】
マヨネーズであれば、例えば水に卵黄、砂糖類、食酢、かんきつ類の果汁、タンパク加水分解物、食塩、香辛料、調味料(アミノ酸等)を含有する水相部を攪拌しながら食用植物油脂を添加し、ホモミキサー等の撹拌機やコロイドミル等の均質機を用いて乳化を行い、容器充填することにより調製できる。この際、油相部に本発明の酵母マイクロカプセル化香辛料抽出物を添加混合しておくことにより、前述のドレッシングと同様に、喫食当初はマヨネーズの添加対象である食品本来の味を堪能することが可能でありながらも、喫食時間と共にマヨネーズの呈味や呈味に伴う香りが発現する、濃厚感あふれるマヨネーズを調製できる。
【0054】
なお、本発明では油相部に予め酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加混合することにより酵母マイクロカプセルを油脂コーティングすることを特徴とするが、これは水相部への香料や香辛料抽出物の添加を排除するものではない。油相部に予め酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物が添加されていれば、別途水相部に水溶性香料、香辛料抽出物を添加してもよく、同様にして油相部に油溶性香料や香辛料抽出物を添加してもよい。
【0055】
ウスターソース、オイスターソース、トンカツソース、お好みソース等のソース類;及び焼肉のタレ、蒲焼のタレ、あんかけに用いるタレであれば、ソース類やタレ類の原料として用いる油脂に酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加することにより調製できる。もしくは酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を含有した油脂をソース類やタレ類に別添加する以外は常法に従って調製することができる。
【0056】
(D)レトルト食品
本発明でいうレトルト食品は、アルミニウム箔を積層した遮光性プラスチックフィルムまたは酸素透過性の低い透明プラスチックフィルムで製造した袋状の容器(パウチ)に食品を詰め、開口部をヒートシール法により熱密封し、加圧式殺菌装置(レトルト)を用いて100℃を超える温度で商業的加熱殺菌を施して製造した食品であって常温で長期保存が可能な食品のことを指す。具体的には、カレー、シチュー、ホワイトソース、パスタソース、スープ等のレトルト食品が挙げられる。
【0057】
用いられる香料及び/又は香辛料抽出物は特に限定されないが、前述のスパイス系香料、スモーク系香料、調味料系香料、ミート系香料、水産物系香料、乳製品系、野菜系香料等が例示できる。
【0058】
レトルト食品は、従来の香料や香辛料、香辛料抽出物に代わって本発明の油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を用いて製造する以外は、レトルト詰めされる食品の常法の製造方法に従って製造可能である。本発明の油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を用いることにより、例えば100〜130℃で1分〜90分や121℃で20〜30分間といった加圧下での加熱という極めて厳しい加熱条件においても、香味劣化を防止し、顕著に香味が増強されたレトルト食品を製造することが可能である。更に、レトルト食品はその容器特有のアルミ臭やプラスティック臭(いわゆるレトルト臭)が内部の食品に移行し、風味に影響を与えることが多い。しかし、本発明の油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を用いることにより、レトルト臭を顕著に低減し、食品素材本来の風味や香料及び/又は香辛料の香味が豊かな食品を製造することが可能である。なお、レトルト食品の殺菌条件として上記に一例を挙げたが、殺菌条件は殺菌機の種類や殺菌対象の食品の種類によって適宜調整することが可能である。
【0059】
(E)焼菓子
焼菓子として具体的には、クッキー、サブレ、マフィン、パン等を挙げることができる。
【0060】
用いられる香料及び/又は香辛料抽出物は特に限定されないが、前述のフルーツ系香料、レモン等のシトラス系香料、シナモン等のスパイス系香料、ナッツ系香料、バニラ、コーヒー、ココア、チョコレートなどのビンズ系香料、ミント系香料及び乳製品系香料等が例示できる。
【0061】
焼菓子は通常バター、マーガリン等の油脂を原材料とし、小麦粉、卵等の原材料を添加、混合後、オーブン等によって焼成(加熱)されることにより製造される。通常、焼菓子の賦香方法としては原材料中に香料等を添加する方法、焼成後に焼菓子表面に香料等をスプレー、塗布、散布する方法が用いられている。しかし、焼菓子は、焼成前のドウの段階でpHがかなりアルカリ側にある点、及びオーブン等の高温で焼成する製造工程を有するため香料及び香辛料抽出物の劣化防止が重要な課題となっている。一方、本発明ではバター、マーガリン等の原料油脂中に酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を予め添加、混合することにより香味の発現及び持続性が改良された焼菓子を製造することが可能である。また、以下に示す方法によっても製造可能である。予め酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加、混合した油脂を調製しておき、焼菓子の原材料混合時に該油脂を添加する方法。又は予め酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加、混合した油脂を焼菓子表面に噴霧する方法。本発明では上記製造方法をとることにより、オーブン等の高熱での加熱工程を経た場合においても、香味の劣化が防止され、喫食時間と共に増強された呈味及び香り発現する焼菓子を提供できる。なお、バターやマーガリン等の原料油脂中に予め酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加、混合して使用する際は、原料油脂を室温で放置もしくは加熱することによって溶融した状態にしておくことが好ましい。溶融状態の油脂に酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加、混合することにより、酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料を均一に油脂コーティングすることができる。
【0062】
以上、各種食品の調製例を列挙したが、上記調製例に限定されず、油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を用いることにより、喫食当初は香りの発現が低く食品本来の味を堪能することが可能でありながらも、喫食時間と共に呈味、及び呈味に伴う香りが発現し、ボディ感や高級感が付与された食品を調製できる。本発明の該効果は通常の香料や香辛料抽出物を油脂コーティングした際には見られない、酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を用いた場合の特有の効果である。更に本発明の方法にて製造された食品は、加熱処理工程を経た場合においても香味の劣化が防止されるため、加熱処理工程が必須となる食品において好適に使用される。
【0063】
また、本発明の油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を用いることにより、食品製造時に食品中の水分によって酵母マイクロカプセルの酵母細胞壁から香料及び/又は香辛料抽出物が流出することを防止できる。これにより、通常の香料や香辛料抽出物、油脂コーティングされていない酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物と異なり、食品製造の当初段階で酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加しても香味の低下を防止することが可能である。しかし、好ましくは通常の食品製造工程における香料及び/又は香辛料抽出物の添加時期、もしくは食品製造の後半時に本発明の油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を添加することが好ましい。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは、「質量部」、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0065】
調製例1:酵母マイクロカプセル化香料の調製
(1)酵母菌体内の内因性成分の除去
ビール酵母(Saccharomyces cerevisiae)100gを水に分散した泥状液2000gにプロテアーゼ2gを添加後、温度50℃で20時間振とうし、菌体内成分を菌体外に溶出させた。得られたスラリーを8000回転で30分間遠心分離し、上清を除去して、酵母菌残渣350g(乾燥固形分20%)を得た。これに、水930g及び濃塩酸120gを加えて、攪拌下80℃で10分間加熱した後(酸処理)、冷却した。その後、8000回転で30分間遠心分離し、上清を除去して、酸処理酵母菌残渣500g(乾燥固形分10%)を得た。次に、これに水500gを添加し、8000回転で30分間遠心分離し、上清を除去し、得られた残渣500g(乾燥固形分10%)に10%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.0に調整した。
(2) 酵母菌体内への香料の封入
斯くして調製された、菌体内の内因性成分が除去された酵母を含む水分散液(乾燥固形分10%)450gを70℃に加温し、これに香辛料抽出物(ペパー)25gを添加して5000rpmで2時間攪拌して、当該酵母の菌体内に香辛料抽出物(ペパー)が入った、酵母マイクロカプセル化香辛料抽出物を調製した。
【0066】
実験例1:香味発現及び持続性試験(ソーセージ)
上記調製例1で調製された酵母マイクロカプセル化香辛料抽出物、及び同じくペパー風味の粉末香辛料抽出物を用いて表1にかかる処方でペパー風味のウインナーソーセージを製造し、各香辛料抽出物の香味発現及び持続性を評価した。詳細には、豚ウデ肉、豚脂、氷水、食塩、重合リン酸塩、L−アスコルビン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、カゼインナトリウム、砂糖、ソルビン酸カリウム、各調味料、各香辛料抽出物(実施例1、比較例1〜4)を添加し、サイレントカッターにて最終肉温が14℃となるまで練り上げた。練り上げた上記混合物を羊腸に充填し、加熱(乾燥50℃ 30分・スモーク 60℃ 15分・スチーム80℃ 中心70℃)した。ここで、実施例1及び比較例3の香辛料抽出物は予めコーンサラダ油に調製例1で調製した酵母マイクロカプセル化香辛料抽出物(実施例1)、及び粉末香辛料抽出物(比較例3)を添加混合し、分散させておいたものを使用した。製造されたソーセージを80℃で3分間ボイル後、香辛料抽出物の香味発現及び持続性を評価した。結果を図3に示す。なお、粉末状香辛料抽出物粉末及び液体状香辛料抽出物は、酵母マイクロカプセル化香辛料抽出物と同等の力価を有するものを使用した。
【0067】
【表1】

【0068】
注1)サンライク※アミノベースUR(N)*使用
注2)サンライク※スパイスミックスSW−1*使用
注3)サンコック※ペパーCT−6122*使用
注4)ペパーSP−61524*使用
【0069】
図3より、通常の液状香辛料抽出物や粉末状香辛料抽出物を用いた場合は、喫食当初すぐに香りが発現し、ソーセージにペパー風味を付与したが、喫食に伴い香りが消失し満足のいく香味を付与することができなかった(比較例2、比較例4)。同様に、酵母マイクロカプセル化香辛料抽出物であって、油脂コーティングを行わなかった酵母マイクロカプセル化香辛料抽出物を用いた場合は、粉末状香辛料抽出物に比べ若干香りの発現が遅くなったが、喫食時間の経過と共に香りが消失し、十分な香味増強効果は得られない点は粉末状香辛料抽出物と同様の傾向を示した(比較例1)。一方、油脂コーティングを行った場合であっても、通常の粉末状香辛料抽出物を油脂コーティングした場合(比較例3)は、喫食当初に香りが発現し喫食と共に香りが消失する点で、油脂コーティングしていない粉末状香辛料抽出物と同様の傾向を示すに留まり、むしろ製造工程を一工程増加させる点で利便性に欠けるものであった。更に比較例1〜4のいずれの香辛料抽出物も呈味の点でソーセージへの呈味付与効果が弱く、得られたソーセージはボティ感に欠けるものであった。一方、本発明の油脂コーティングした酵母マイクロカプセル化香辛料抽出物を用いた場合(実施例1)は、従来の香辛料抽出物に比べ香りの発現が遅く、喫食当初はソーセージ本来の味を堪能することが可能でありながらも、喫食時間の経過と共に酵母マイクロカプセル化香辛料抽出物から香辛料抽出物が流出し、舌に呈味感及び呈味に伴う香り(鼻から抜ける香り)が増強された、従来にない香味特徴を有するソーセージとなった。更に実施例1のソーセージは長時間の加熱処理工程(乾燥50℃ 30分・スモーク 60℃ 15分・スチーム80℃ 中心70℃)を経たにも関わらず香味が劣化することなく喫食が終わるまでペパー特有の香味が増強された状態を保持し、ボディ感のあるソーセージであった。
【0070】
実施例2:荒挽きソーセージの調製
下記表2の処方に従って荒挽きソーセージを調製した。予めコーンサラダ油及び酵母マイクロカプセル化香辛料抽出物を混合し、分散させた。一方、豚ウデ肉及び豚脂を2〜3cm角にカットし混合後、ミンサーにて5mmφプレートを通したものに、氷水、食塩、重合リン酸塩、L−アルコルビン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、カゼインナトリウム、砂糖、調味料、ソルビン酸カリウム、予め調製された油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香辛料抽出物を加え、フードミキサーで混合後、冷蔵庫にて一昼夜塩漬した。塩漬後、再度混合し、羊腸に充填後、スモークハウスにて加熱した(乾燥50℃ 30分・スモーク60℃ 15分、スチーム80℃ 中心70℃)。
【0071】
【表2】

【0072】
注5)サンライク※アミノベースNAG*使用
注6)サンライク※スパイスミックスAR−1*使用
注7)イーストシール※ガーリックSP−2111F*使用
【0073】
調製されたソーセージを80℃で3分間ボイル後、食したところ、喫食当初は別途添加した調味料や混合香辛料特有のスパイス及びソーセージ本来の味が強調された風味を呈しながらも、喫食時間の経過と共に酵母マイクロカプセル化香辛料抽出物から香辛料抽出物が流出し、舌にガーリックの呈味感及び呈味に伴う香り(鼻から抜ける香り)が増強され、従来にない香味特徴を有するソーセージとなった。更に、実施例2のソーセージは長時間の加熱処理(乾燥50℃ 30分・スモーク 60℃ 15分・スチーム80℃ 中心70℃)が行われたにも関わらず香味が劣化することなく喫食が終わるまでガーリック特有の香味が増強された状態を保持し、ボディ感のあるソーセージであった。
【0074】
実施例3:ハンバーグの調製
表3の処方に従ってハンバーグを調製した。詳細には、予め酵母マイクロカプセル化香料を大豆白絞油に混合、分散しておいた。次いでハンバーグ原料部(牛肉、豚ウデ肉、豚脂、粒状植物性タンパク質、玉ねぎ(みじん切り後、ソテーしたもの)、生パン粉、水)、ハンバーグ原材料部(食塩、乳清タンパク質、畜肉用品質改良剤、トレハロース、調味料、混合香辛料、日持ち向上剤)及び前述の酵母マイクロカプセル化香料を含有した大豆白絞油を混合し、成型した。次いでホットプレート(180℃)にて片面1分ずつ焼成し、スチーム処理(90℃ 中心80℃)を行い急速凍結した。
【0075】
【表3】

【0076】
注8)イーストシール※ビーフ2098F*使用
注9)ミルプロ※LG*使用
注10)ミルプロ※No.142*使用
注11)エスプローゲン※M−50R(F)*使用
注12)サンライク※ポーク2211E*使用
注13)サンライク※ビーフ風味4309P*使用
注14)サンライク※スパイスミックスBW−1*使用
注15)サンキーパー※S−30*使用
【0077】
調製した実施例3のハンバーグを−18℃で30日間保存後、湯せんで解凍し、喫食した。喫食当初は畜肉本来の食味や他の調味料、香辛料抽出物の香り立ちが強かったものの、次いで酵母マイクロカプセル化香料の香りが発現し、特に舌への呈味感が顕著に増強されたハンバーグであった。更に、実施例3のハンバーグは原料の畜肉本来が有する、特有の畜肉臭が顕著に低減され、また凍結解凍を経たにも関わらず香味が劣化することなく、増強された香味を有するハンバーグであった。
【0078】
実験例2:米飯加工食品(エビピラフ)の調製
表4の処方に従ってエビピラフを調製した。詳細には、予め酵母マイクロカプセル化香料をコーン油に添加、分散させたコーン油を用意した。次いで、洗米した米に表3に示す原材料を混合した調味液、前述のコーン油を添加・混合し、常法に従って炊飯した。次いで予めボイルしておいたエビ及びみじん切り後、ソテーされた玉ねぎを混合し、急速冷凍してエビピラフ(冷凍食品)を調製した(実施例4)。一方、酵母マイクロカプセル化香料の代わりに通常の粉末香料を用いる以外は実施例4と同様の製法にて比較例5のエビピラフを調製した。一方、比較例6及び7のエビピラフを、以下に示す製法に従って調製した。洗米した米に表4に示す原材料を混合した調味液、コーン油、酵母マイクロカプセル化香料若しくは粉末香料を添加・混合し、常法に従って炊飯した。次いで予めボイルしておいたエビ及びみじん切り後、ソテーされた玉ねぎを混合し、急速冷凍してエビピラフ(冷凍食品)を調製した。比較例6及び7の製法では、米、調味液、コーン油、酵母マイクロカプセル化香料をオールミックスで混合しているため、酵母マイクロカプセル化香料や従来の香料が油脂によって予めコーティングされた形態をとらない点で実施例4、比較例5の形態と異なる。一方、表4の処方のうち、予め3質量%のコーン油に酵母マイクロカプセル化香料を添加・混合したコーン油を調製しておき、洗米した米に該調製したコーン油、残りの7質量%のコーン油、及び原材料を混合した調味液を添加・混合して炊飯することによっても本発明のエビピラフを調製することも可能である。調製された実施例4及び比較例5〜7のエビピラフを−18℃で30日間冷凍状態で保存後、電子レンジで解凍調理した。解凍調理した各エビピラフを喫食し、香りの発現及び増強効果について評価した。結果を図4に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
注16)サンライク※基礎あじ(エビ・カニ用)*使用
注17)サンライク※エビ RE*使用
注18)サンライク※チキンコンソメ*使用
注19)サンフィックス※バターNo.2036F*使用
注20)イーストシール※バターNo.2097F*使用
【0081】
図4からも明らかなように、従来の粉末香料を用いて調製された冷凍エビピラフ(比較例5、7)は、香味発現は早いものの喫食に伴う香りの消失も早く、更に米飯炊飯時に蒸気中に香りが多量に流出し、調製されたエビピラフの香りは乏しいものであった。同様にして酵母マイクロカプセル化香料を用いて調製されたエビピラフであっても、油脂コーティングを行うことなく調製されたエビピラフは、米飯炊飯時に蒸気と共に香りが多量流出し、エビピラフに十分な香りを付与することはできなかった(比較例6)。実際に、比較例5〜7のいずれのエビピラフも炊飯時に出る蒸気自体が強い香気を有していた。一方、油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料を用いて調製されたエビピラフは、炊飯時に香気成分が流出することなく、喫食時間と共にバター特有の濃厚感ある香りや呈味が発現し、濃厚なバター風味が十分に付与された高級感あふれるエビピラフとなった(実施例4)。なお、粉末香料の場合は、油脂コーティングの有無に関わらず香味発現や香りの強さ、持続性にほとんど差が見られなかった(比較例5、7)ことからも、該効果は酵母マイクロカプセル化香料を油脂コーティングした際の特有の効果であることが分かる。更に、実施例4のエビピラフは長期保存下におかれ、凍結解凍工程を経たにも関わらず、香気成分が劣化、低下することなく濃厚感あふれるエビピラフであった。これにより、油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料を用いることにより、炊飯といった開放系での加熱処理工程や凍結解凍工程を経た場合においても、顕著に香味の発現を増強、改善できることが判明した。
【0082】
実験例3:乳化型ドレッシング(サウザンドアイランドドレッシング)の調製
表5の処方に従って乳化型ドレッシングを調製した。詳細には、水にキサンタンガムを加え80℃で10分間撹拌溶解した。次いで醸造酢、トマトペースト、トマト濃縮汁、レモン濃縮果汁、ウスターソース、食塩、スクラロース、L−グルタミン酸ナトリウム、調味料を加え攪拌溶解後、60℃まで冷却して卵黄を加え攪拌した(水相部)。一方、予め酵母マイクロカプセル化香料A及びBをコーンサラダ油に添加、混合して油相部を調製した。調製した油相部を前記水相部に添加し、ホモミキサーを用いて乳化後、みじん切りしたピクルスを加え混合し、乳化型ドレッシング(実施例5)を調製した。一方、予め酵母マイクロカプセル化香料A及びBをコーンサラダ油と混合することなく、以下の製法に従って比較例8の乳化型ドレッシングを調製した。水にキサンタンガムを加え80℃で10分間撹拌溶解した溶液に醸造酢、トマトペースト、トマト濃縮汁、レモン濃縮果汁、ウスターソース、食塩、スクラロース、L−グルタミン酸ナトリウム、調味料、および酵母マイクロカプセル化香料A、Bを加え攪拌溶解後、60℃まで冷却して卵黄を加え攪拌した(水相部)。次いでコーンサラダ油(油相部)を添加し、ホモミキサーを用いて乳化後、みじん切りしたピクルスを加え混合し、乳化型ドレッシングを調製した。なお、本実施例以外の方法として、予め5質量%のコーンサラダ油にマイクロカプセル化香料A及びBを添加・混合した油脂を調製し、調製した油脂を残部の30質量%のコーンサラダ油に混合して油相部を調製することによっても、本発明の乳化型ドレッシングを調製することが可能である。
【0083】
【表5】

【0084】
注21)イーストシール※オニオンNo.2099F*使用
注22)イーストシール※ガーリックNo.2106F*使用
注23)CLEAR TOMATO CONCENTRATE 60°BX(CTC)*使用
注24)サンスイート※SU−100*使用
注25)サンライク※アミノベースNAG*使用
注26)サンエース※NXG−S*使用
【0085】
調製された実施例5及び比較例8の乳化型ドレッシングを生野菜に添加して喫食した。予めコーンサラダ油と混合することにより油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料を用いることにより、予め油脂コーティングすることなく従来の方法で酵母マイクロカプセル化香料を添加して調製された乳化型ドレッシングに比べ、オニオン及びガーリックの香味発現が遅くなった。詳細には、喫食当初は生野菜本来の味や他に添加した調味料の香りや風味を堪能でき、喫食経過と共にオニオンとガーリックの香りが発現し様々な香りと風味を楽しむことができるドレッシングであった。更に、実施例5の乳化型ドレッシングは比較例8の乳化型ドレッシングと比して顕著に香料の風味が増強され、更には舌に呈味感を有する乳化型ドレッシングとなり、その香味持続性も長く極めて優れた乳化型ドレッシングであった。また、ドレッシングはその使用特性から長期保存形態をとる場合が多く、経時変化に伴う香味劣化が問題となっていたが、本発明にかかる油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料を用いることにより、長期保存下における香味安定にも優れたドレッシングの提供が可能となった。
【0086】
実施例6:焼肉のタレの調製
表6の処方に従って焼肉のタレを調製した。まず予めコーンサラダ油と酵母マイクロカプセル化香料を混合し、分散させた。一方で、水に還元水飴、砂糖、増粘多糖類を加え、80℃で10分間加熱攪拌溶解し、これに上記コーンサラダ油及び酵母マイクロカプセル化香料の混合物、濃口醤油、アップルペースト、玉ねぎ(すりおろし後、ソテーしたもの)、リンゴ酢、ガーリックペースト、食塩、フルーツチャツネ、醸造調味料、調味料を加え攪拌溶解した。次いで容器に充填し、85℃で30分殺菌することにより焼肉のタレを調製した(実施例6)。
【0087】
【表6】

【0088】
注27)サンライク※ミートシーズニング7474E*使用
注28)サンライク※コウボ1013E*使用
注29)サンライク※ガーリック6332E*使用
注30)ビストップ※TAR−S*(キサンタンガム、タマリンドシードガム及びグァーガム含有製剤)使用
注31)イーストシール※ジンジャーNo.2105F*使用
【0089】
調製された焼肉のタレを用いて焼肉を食したところ、喫食当初は別添加した調味料及び肉本来の味が堪能できつつも、喫食時間と共に油脂コーティングされた酵母マイクロカプセル化香料から流出した香料が舌に呈味感及び呈味に伴う香りを発現し、ジンジャーの呈味が強く発現し、パンチのある味となった。
【0090】
実験例4:レトルト食品(シチュー)の調製
表7の処方に従ってレトルトシチューを調製した。詳細には、水に牛乳、小麦粉、ワキシーコーンスターチ、砂糖を加え80℃で10分間加熱攪拌溶解した。次いで、予め酵母マイクロカプセル化香料を添加して分散させておいたコーン油、食塩、調味料を混合し、攪拌溶解後、容器に充填し、レトルト殺菌(121℃ 20分間/100g)することによりレトルトシチューを調製した(実施例7)。比較として、マイクロカプセル化香料の代わりに通常の粉末香料を用いる以外は実施例7と同様の製法にて比較例9のレトルトシチューを調製した。一方、予め香料を油脂コーティングすることなく、比較例10及び11のレトルトシチューを、以下に示す製法に従って調製した。水に牛乳、小麦粉、ワキシーコーンスターチ、砂糖を加え、80℃で10分間加熱攪拌溶解した。次いでコーン油、食塩、調味料、酵母マイクロカプセル化香料又は粉末香料を添加、攪拌溶解し、容器に充填後、レトルト殺菌(121℃ 20分間/100g)することにより比較例10及び11のレトルトシチューを調製した。比較例10及び11の製法では、水に牛乳等の原材料を添加し加熱攪拌した溶液にコーン油、食塩、調味料、酵母マイクロカプセル化香料又は粉末香料をオールミックスで混合しているため、酵母マイクロカプセル化香料や粉末香料が油脂によって予めコーティングされた形態をとらない点で実施例7の形態と異なる。
【0091】
【表7】

【0092】
注32)サンライク※ソテードオニオン 9Y55E*使用
注33)サンライク※香味野菜 CE*使用
【0093】
調製されたレトルトシチューを常温で30日間保存後、80℃で5分間ボイルして喫食したところ、粉末香料及び油脂コーティングした粉末香料を用いて調製されたレトルトシチューは香り立ちが早く、喫食当初すぐにレトルトシチューにバター風味を付与したが、喫食に伴い香りが消失し、またその香味増強効果も不十分であり、満足のいく香味を付与することができなかった(比較例9、11)。なお、粉末香料を用いた際は油脂コーティングの有無によってその香りの発現や強さ、持続性共にほぼ影響を与えなかった。むしろ、粉末香料を油脂コーティングする技術は製造工程を一工程増加させる点で利便性に欠けるものであった。油脂でコーティングされていない酵母マイクロカプセル化香料を用いて調製されたレトルトシチュー(比較例10)も、香り立ちは良好であるものの、比較例9、11と同様にして香りによる呈味増強効果が弱く、呈味感を付与することができなかった。一方で、本発明の油脂コーティングした酵母マイクロカプセル化香料を用いることにより(実施例7)、喫食当初は併用した調味料の香りや呈味を堪能しつつも、喫食と共にバターの香味が発現し、従来にない香味発現特性を有したレトルトシチューを調製することができた。更に、実施例7のレトルトシチューは121℃で10分間レトルト殺菌といった極めて過酷な加熱条件工程を経たにも関わらず、比較例9〜11と比して顕著な香味増強効果を示し、香りの強さだけに留まることなく、舌への呈味感が十分に付与された濃厚なバター風味を有する高級感あふれるレトルトシチューであった。またレトルト特有の臭いも一切感じることのない、極めて優れた香味を有するレトルトシチューであった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明にかかる酵母マイクロカプセル化香料を用いることにより、喫食当初は香りの発現が低く食品本来の味を堪能することが可能でありながらも、喫食時間と共に呈味、及び呈味に伴う香りが発現し、ボディ感や高級感が付与された食品が提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】特許文献5(特開2002−53807号公報)に開示されている香料の模式図である。
【図2】本願発明の油脂で被覆された酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物の模式図である。
【図3】実験例1の香味発現及び持続性試験の結果を示す図である。
【図4】実験例2の香味発現及び持続性試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母の菌体内に香料及び/又は香辛料抽出物を内包したマイクロカプセルの表面が油脂で被覆されていることを特徴とする酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物。
【請求項2】
請求項1に記載の酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を含有してなる食品。
【請求項3】
食品が畜肉加工食品、惣菜食品、米飯加工食品、調味料又はレトルト食品である、請求項2に記載の酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物を含有してなる食品。
【請求項4】
菌体内に香料及び/又は香辛料抽出物を内包した酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物をあらかじめ油脂で被覆後、原材料に添加混合し、加熱処理工程を経ることを特徴とする食品の製造方法。
【請求項5】
対象食品が畜肉加工食品、惣菜食品、米飯加工食品、調味料又はレトルト食品である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
酵母の菌体内に香料及び/又は香辛料抽出物を内包したマイクロカプセルの表面を油脂で被覆することを特徴とする、酵母マイクロカプセル化香料及び/又は香辛料抽出物の香味増強、又は香味発現改良方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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