説明

香味油及び、それを用いて風味改善された動物脂

【課題】本発明の目的は、独特の風味とこくを有する、汎用性ある香味油の提供と、それをマスキング剤として用いた、風味の改善された動物脂の提供にある。
【解決手段】油脂へ所定量の酵母エキスを添加し所定温度で加熱、その後固形分を除去することで、独特の風味とコクを有する、透明感のある汎用性高い香味油を得ることができた。その用途を検討する中で、独特の獣臭が嫌われる傾向がある、ラードや牛脂などに代表される動物脂の臭気をマスキングする効果があることを見出した。そして、本発明の香味油によりマスキングされた動物脂を使用することで、異風味が抑えられた、フィリング用マーガリン等に代表される、油中水型乳化油脂組成物が得られること見出し、本発明を完成させるに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は香味油とその製造法、および当該香味油により風味改善された動物脂とその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂中で、糖類、アミノ酸類等を加熱攪拌し、その反応によって発現した風味を油脂へ移行させ、香味油として利用することは従来より行われており、各種加工食品に利用されている。その中には、酵母エキスを油脂に添加し、加熱することで香味油を調製するものもある。特許文献1(特開2006−166873号公報)においては、実質的にビタミンEを添加していない食用固形脂へ水と酵母エキス加工調味料を添加し、加熱して香味油を得ている。この出願では、ビタミンEを添加していない食用固形脂しか使用することができないため、多くの油脂にビタミンEが添加されている昨今では汎用性は低い。また、使用する酵母エキス加工調味料は「酵母エキスに還元糖を添加して加熱することによりメイラード反応を起こして得られるもの」(特許文献1:〔0007〕)と特殊なものであり、その他の一般的な酵母エキスを使用することができない点でも汎用性は低い。そもそもこの出願では、ビタミンEを添加していない食用固形脂を使用する点、また水を添加した上で加熱する点から、油脂が部分的に劣化している可能性が考えられる。よって、ここで言う「風味」は、この部分的に劣化した風味も含んだものと推察されるが、このような部分的に劣化した油脂は保存安定性が劣る傾向があり、好ましくない。
【特許文献1】特開2006−166873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、独特の風味とこくを有する、汎用性ある香味油の提供と、それをマスキング剤として用いた、風味の改善された香味油含有動物脂の提供にある。そして、その風味の改善された香味油含有動物脂を用いた、油中水型乳化油脂組成物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、油脂へ所定量の酵母エキスを添加し所定条件で加熱、その後固形分を除去することで、独特の風味とコクを有する、透明感のある汎用性高い香味油を得ることができることを見出した。その用途を検討する中で、独特の獣臭が嫌われる傾向がある、ラードや牛脂などに代表される動物脂の臭気をマスキングする効果があることを見出した。そして、臭気がマスキングされた動物脂を使用することで、風味良好な油中水型乳化油脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は
(1)油脂と酵母エキスを混合し加熱する工程、および加熱後固形分を除去する工程で製造される香味油。
(2)酵母エキスの量が油脂100重量部に対し6〜20重量部である、(1)記載の香味油。
(3)油脂が植物性である、(1)、(2)いずれか記載の香味油。
(4)加熱処理温度が80〜170℃である、(1)〜(3)いずれか記載の香味油。
(5)加熱工程において実質的に水を含まない、(1)〜(4)いずれか記載の香味油の製造方法。
(6)(1)〜(4)いずれか記載の香味油を、10〜30重量%含有する、香味油含有動物脂。
(7)動物脂がラード、牛脂から選ばれる1以上である、(6)記載の香味油含有動物脂。
(8)(6)、(7)いずれか記載の香味油含有動物脂を使用する、油中水型乳化油脂組成物。
に関するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、独特の風味とコクを有し、透明感があり汎用性のある香味油を得ることができる。また、これを用いることで、ラード、牛脂に代表される動物脂の獣臭をマスキングすることができる。この、臭気をマスキングされた動物脂を使用することで、風味良好な油中水型乳化油脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明において酵母エキスとともに加熱される油脂としては、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米ぬか油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、やし油、パーム核油等の植物性油脂、あるいはラードや牛脂などの動物脂、それら油脂類の単独又は混合油あるいはそれらの分別、硬化、エステル交換等を施した加工油脂が例示できる。ただ、香味油のベースとなる油脂としては、その油脂自体はあっさりした風味のものが好ましく、その点では植物油を使用することが好ましい。また、液状脂であれば汎用性が高く好適である。
【0007】
本発明で使用する酵母エキスは、酵母菌体もしくはその自己消化物、酵素分解品またはそれらから抽出された成分であり、各種の市販品を使用することができる。本発明で使用する酵母エキスは、油脂の劣化を防ぐため水分含量の低いものが好ましく、例えば10重量%以下であるのが好ましく、より好ましくは7重量%以下である。酵母エキスの水分量が最大でも10重量%であれば、その後の加熱においても油脂の劣化は最小限に抑えることができる。このように、水分量10重量%以下の酵母エキスを用い、それ以外に水を添加しない状態を「実質的に水を含まない状態」と称する。
酵母エキスは油脂100重量部に対して、6〜20重量部使用するのが好ましく、より好ましくは6〜15重量部である。6重量部より少ないと油脂に十分な風味が付与されにくくなり、20重量部を超えると加熱処理した後油脂から酵母エキスを除去するのが煩雑となる。
【0008】
本発明の香味油調製においては、まず油脂に酵母エキスを添加した後、加熱処理する。加熱温度は80℃〜170℃が好ましく、より好ましくは 100〜140℃である。80℃未満では油脂に有意な風味を付与することが難しくなり、また170℃を超えると逆に風味が悪くなり劣化臭を感じる場合もあり、好ましくない。加熱方法は特に限定されないが、電気ヒーターによる加熱であれば、温度の制御が容易であり好適である。また、加熱の際には適宜攪拌することが好ましい。また、40〜150Torrに減圧することが好ましく、より好ましくは55〜100Torrである。
【0009】
加熱時間は40〜90分、より好ましくは50〜70分である。加熱後60℃程度まで冷却し、その後酵母エキス固形分を除去する。酵母エキスを除去する方法は特に限定されず、ろ過、遠心分離、デカンテーション等、従来公知の分離手段にて油脂と固形分とに分離することにより香味油を得ることができる。
【0010】
こうして得られた香味油は、一定の透明感があり、各種の食品への風味付けやこくみ付けの用途に幅広く使用することができる。
【0011】
また、この香味油はラードや牛脂に代表される動物脂の獣臭低減の効果がある。すなわち、この香味油を10〜30重量%、より好ましくは15〜25重量%含有することで、動物脂の獣臭を低減することができる。含有量が10重量%よりも少ないと、動物脂のもつ獣臭を低減する効果が少なく、好ましくない。一方、含有量が30重量%を超えると、本香味油の風味が強く出すぎるため、好ましくない。
【0012】
ここで得られた香味油含有動物脂は、フライ油などに使用することができるが、マーガリンやショートニングなどの油中水型乳化油脂組成物の原料として使用することもできる。このとき、動物脂に対する香味油の存在比率が上記の規定どおりであれば、香味油や動物脂、およびそれ以外の油脂の配合順序は問わない。具体的な製品としては、たとえばフィリング用マーガリンなどでは、本発明の香味油を使用することで動物脂の持つ獣臭を顕著に低減することができ、好適である。

以下に実施例を記載する。なお、例中、%及び部は重量基準を意味する。
【実施例】
【0013】
<実施例1>
菜種油100部に酵母エキス8部(株式会社日本たばこ産業製バーテックスIG20)を加えて、60Torrの減圧下で攪拌しながら120℃、1時間の加熱処理後、60℃まで冷却し、油脂と固形分をろ別して香味油を得た。
風味評価
5名のパネラーにより風味評価した。未処理の菜種油と同時に、5点満点にて風味評価を行ったところ、実施例1で調製した香味油は平均4.6点と、多くの人が風味良好と判断した。なお、未処理の菜種油の得点は2.6点と風味の評価は低かった。
【0014】
<実施例2><比較例1>
「マーガリンの調製」
実施例1で得た香味油5部、食用精製加工油脂41部、ラード20部、菜種油15部を配合融解し、乳化剤として、レシチン0.2部、ステアリン酸モノグリセリド0.1部を加えて油相を調製した。次に、脱脂粉乳1.5部、食塩0.9部、水16.3部を混合した水相を油相へ徐々に添加し、予備乳化したものを80℃で15分間殺菌し、次いでコンビネーターにて急冷可塑化してマーガリンを得た(実施例2)。
他方、香味油の代わりに未処理の菜種油5部を使用し、そのほかは実施例2と同じにしてマーガリンを得た(比較例1)。
風味評価
実施例1と同様の方法にて風味評価を実施した。ここでは絶対的な風味のほか、獣臭の有無についても評価を行った。なお、獣臭については、そのマスキング効果の高いものを5点、低いものを1点とした。
結果、実施例2の風味は4.4点、マスキング効果は4.2点であった。一方、比較例1の風味は2.6点、マスキング効果は1.6点であり、風味、マスキング効果とも実施例1の香味油を使用したものが、未処理の菜種油を使用したものよりも勝っていた。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明により、各種の食品に使用することのできる、風味良好な香味油が得られる。特にこの香味油は、ラードや牛脂などの動物脂の異風味をマスキングする能力があり、これら動物脂の用途拡大に寄与するものである。それら、本発明の香味油によりマスキングされた動物脂を使用することで、異風味が抑えられた、フィリング用マーガリン等に代表される、油中水型乳化油脂組成物をえることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と酵母エキスを混合し加熱する工程、および加熱後固形分を除去する工程で製造される香味油。
【請求項2】
酵母エキスの量が油脂100重量部に対し6〜20重量部である、請求項1記載の香味油。
【請求項3】
油脂が植物性である、請求項1、2いずれか記載の香味油。
【請求項4】
加熱処理温度が80〜170℃である、請求項1〜3いずれか記載の香味油。
【請求項5】
加熱工程において実質的に水を含まない、請求項1〜4いずれか記載の香味油の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4いずれか記載の香味油を、10〜30重量%含有する、香味油含有動物脂。
【請求項7】
動物脂がラード、牛脂から選ばれる1以上である、請求項6記載の香味油含有動物脂。
【請求項8】
請求項6、7いずれか記載の香味油含有動物脂を使用する、油中水型乳化油脂組成物。