説明

香辛料及びその加工方法

【課題】
本発明は、 香辛料本来が保持しているフレッシュな風味を残しつつ焙煎処理することで焙煎特有の香ばしい風味を付与し、より香りに深みのある風味豊かな香辛料、香辛料の加工方法及び新規な食品を提供する。
【解決手段】
低酸素若しくは無酸素条件の密閉系下において、香辛料をそのまま、又は予め香辛料を油脂と混合若しくは香辛料に油脂をコーティングして、飽和水蒸気、過熱水蒸気にて処理してなる新規な香辛料の加工方法、香辛料及び香辛料を用いてなる食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飽和水蒸気処理、過熱水蒸気処理してなる香辛料に関する。
また、本発明は、該香辛料を用いた加工食品を含めた食品に関する。
さらに、本発明は、飽和水蒸気若しくは110℃〜400℃に加熱した過熱水蒸気にて処理してなる香辛料の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
香辛料の焙煎については、古今東西を問わず風味増強のために用いられ、例えば、日本においては、東京、長野、京都など各地方に伝わるミックススパイスである七味唐辛子、国民食とも言えるカレーを始め幅広い使われ方がされているカレー粉、インド料理に主要スパイスであるガラムマサラなどの香辛料は、該香辛料の前処理やミックス品の処理としては、ホウロウや鍋を使用し直火にて、香辛料を焦がさない様に丹念に長時間炒めることにより得られる。
しかしながら、このような方法では、以下の問題点があった。
(1) 温度管理が難しく、長時間に至る焙煎処理など、工程が非常に煩雑である。
(2) また、一度に大量の仕込みが出来ないので効率が悪く、また装置の洗浄等に時間がかかる。
(3) 加工条件によっては、原料の壊れによる色ムラや、焦げ付きが発生し、香辛料中に含まれる油脂の酸化や、風味の劣化等を促進させる。
【0003】
一般に、水蒸気とは加圧下で蒸発させた飽和水蒸気をさすが、過熱水蒸気とは飽和水蒸気をさらに加熱した水蒸気であり、常圧過熱水蒸気とは、常圧においてその飽和温度(100℃)以上に熱せられた水蒸気をいう。過熱水蒸気と飽和水蒸気の温度差を過熱度(℃)といい、過熱度が大きいほど対象物質を乾燥させる能力は高くなる。また、空気による伝熱は対流に限られるが、過熱水蒸気では放射が加わって伝熱する。従って、魚や肉を加熱する場合は、直火や電熱オーブンで焼いたのと同じように焼くことができ、こげ等を作ることができる。常圧過熱水蒸気による加熱はほぼ空気遮断の状態で行われ無酸素状態に近いため、油の酸化等を防止できる。また、火災や爆発などの危険性がない。過熱水蒸気は、高温の水蒸気のため、熱交換が容易で、省エネルギー化が図られ、温度制御も比較的簡単に行える。このように、過熱水蒸気を調理に利用するとさまざまな長所があり、酸化作用を伴わない高温による調理等を目的として過熱水蒸気を用いて食品を製造する技術(特許文献1〜4参照)が開発されている。しかしながら、最近の傾向である料理への嗜好性の多様化から、消費者が満足するものは得られていない。
【0004】
【特許文献1】特開平3-083547号公報
【特許文献2】特開平8-173059号公報
【特許文献3】特開平2-177879号公報
【特許文献4】特開平8-252177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、香辛料本来が保持しているフレッシュな風味を残しつつ焙煎処理することで焙煎特有の香ばしい風味を付与し、より香りに深みのある風味豊かな香辛料を提供する。
また、本発明は、香辛料が本来保持する風味の増強、若しくは香辛料が従来保持していない風味を付与することが可能な香辛料の加工方法を提供する。
さらに、本発明は、加工に際して簡単に使用できる香辛料を提供すること、本発明の香辛料を使用し、消費者の料理への嗜好性の多様化を満足させ、商品価値の高い新規な食品を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、香辛料を、低酸素若しくは無酸素条件の密閉系下において、飽和水蒸気若しくは110℃〜400℃に加熱した過熱水蒸気のいずれか又はこれらの組み合わせにて処理しているので、風味豊かな香辛料を得ることができる。また、香辛料を、予め油脂と混合若しくは油脂の噴霧コーティングすることで、調理感の有る焙煎風味豊かな香辛料を得ることができるなどの効果を奏する。さらには、本発明の香辛料を、加工食品を含めた食品に用いることで、今までにない風味豊かな食品を得ることができる。さらには、各種調味料としても幅広く使用することができる。
【0007】
本発明によれば、本発明の香辛料は短時間によるロースト処理を行うことから力価が強く、処理条件により、例えば短時間で表面のみを焙煎すれば、香辛料を破砕若しくは粉末化した際に、該表面の焙煎特有の香ばしい香と、内部の香辛料が本来有しているフレッシュな風味を併せ持つ香辛料若しくは該香辛料を含有する調味料を得ることが可能となる。
【0008】
従来の香辛料の使用方法としては、香辛料が本来保持しているフレッシュな香辛料風味を特徴として、複数の香辛料を調合することが主流であった。本発明の香辛料及びその加工方法を提供することにとより、従来の香辛料に無い新規の風味を有する香辛料を得ることができ、より広い消費者の嗜好にあわせることが可能となった。
例えば、本発明の香辛料について、例えば、ホールの唐辛子を被処理物とした本発明の唐辛子(ホール)は辛味が強くなり、糸切唐辛子等の細切りした唐辛子を被処理物とした本発明の唐辛子(細切り)は赤みの色彩が鮮やかになり、弾力性が向上し壊れにくいと言う商品価値の向上に付与した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、食品の加工は加工温度と加工速度との相関関係にあり、温度が高いと反応速度は上がり加工時間が短縮されると言う観点から、香辛料の焙煎に際して、低酸素又は無酸素条件の密閉系下において、飽和水蒸気若しくは過熱水蒸気を用いることで、該香辛料が本来保持している成分や風味の消失が少なく、素材の品質に悪影響を及ぼさない充分な効果が得られること見いだし、また、あらゆる種類の香辛料に対して、焙煎風味豊かな香辛料を提供することができるということを見出した。
【0010】
さらに、本発明者は、低酸素又は無酸素の密閉系状態を低コストに実現でき、酸素濃度を可変設定でき、加工対象物ごとに酸素濃度や加工時間を最適な調節条件に可変可能な香辛料の加工方法を提供することを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の香辛料は、一般的に香辛料植物として使用されているものであり、辛味もしくは特有の香気、色素を有する植物であれば良く、スパイス類、ハーブ類などがあげられる。例えば、セージ、タイム、マジョラム、オレガノ、バジル、ミント、シソ、バルム、セイボリー、ローズマリー、シソなどのシソ科植物、唐辛子、パプリカなどのナス科植物、黒胡椒、白胡椒などのコショウ科植物、ベイリーフ、サッサフラス、シンナモン、ローリエ、カッシャなどのクスノキ科植物、スターアニスなどのモクレン科植物、ワサビ、西洋ワサビ、ミズガラシ、マスタードなどのアブラナ科植物、トンカ豆、フェネグリーフなどのマメ科植物、陳皮、花椒、山椒、レモンなどのミカン科植物、オールスパイス、クローブなどのフトモモ科植物、セリ、アンゲリカ、チャービル、パセリ、セロリ、アニス、フェンネル、ボウフウ、コリアンダーシード、クミン、ディル、キャラウェー、ミツバなどのセリ科植物、ガーリック、ラッキョー、オニオン、ネギ、ワケギなどのユリ科植物、サフランなどのアヤメ科植物、カランガ、カルダモン、ジンジャー、ガシュツ、ターメリックなどのショウガ科植物、ポピーなどのケシ科植物、クチナシなどのアカネ科植物、バニラなどのラン科植物、アーモンドなどのバラ科植物、ジュニバーなどのヒノキ科植物、ウィンターグリーンなどのツツジ科植物、ゴマ,セザムなどのゴマ科植物、ナツメグ、メースなどのニクズク科植物、タラゴンなどのキク科植物などの植物に限らずあげられ、またこれらの任意の混合物を例示することができ、さらにこれらの任意の香辛料を含有する食品を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
また、本発明の香辛料を封入する容器としては、種々の容器をあげることができる。例えば、ガラスビン、ペットボトル、チューブ、ラミネートフィルム、セロハンフィルム、スチール缶、アルミ缶等をあげることができる。
【0013】
本発明の香辛料を含有する食品は、調味料、加工食品を含め食品全般があげられる。例えば、うどん、そば、ラーメン等の麺類用液状つゆ、またはその粉末調味料、カレールウ、ピラフ用調味料、フライ用調味料、漬物用調味料、どんぶり料理用、炊き込みご飯用、混ぜご飯用等のご飯用調味料、ドレッシング、パスタソース、麻婆豆腐用などの中華料理用調味料、ポテトチップ用等のスナック用調味料、米菓用調味料、焼き肉のタレ用、ハンバーグ用、ステーキソース用等の肉料理用調味料、照り焼き用、蒲焼き用、佃煮用等の魚介料理用調味料などがあげられるが、これらに限定されるものではない。この調味料の成分としては、通常用いられる各種の成分を任意に選択し使用すればよい。
【0014】
本発明の香辛料は、香辛料を未粉砕のまま、若しくは粗粉砕して行ってもよく、また、該香辛料の加工方法としては、低酸素若しくは無酸素条件の密閉系下において、飽和水蒸気若しくは過熱水蒸気のいずれか又はこれらの組み合わせにて処理を行えばよく、上記香辛料はフレーバー、精油成分、呈味成分、辛味成分、色素成分を含有しているため、加熱時間を可能な限り短時間処理することが好ましい。より好ましくは、香辛料の形状を破壊することの無い加工方法で行えばよい。例えば、低酸素若しくは無酸素条件の密閉系下において、飽和水蒸気若しくは過熱水蒸気の処理条件として、処理温度においては400℃以下、好ましくは110℃〜370℃、より好ましくは150℃〜340℃、最適には210℃〜300℃であり、最適には処理時間においては60分以下、好ましくは20秒〜40分、より好ましくは50秒〜20分であり、香辛料の種類、形態、処理量、飽和水蒸気若しくは過熱水蒸気の装置の能力等により、適宜変更して行えばよい。
また、本発明は、低酸素若しくは無酸素条件の密閉系下における飽和水蒸気若しくは過熱水蒸気の処理を行う香辛料を含有する食品についても開示し、香辛料を含有する食品に対する該処理条件として、処理温度においては400℃以下、好ましくは110℃〜370℃、より好ましくは150℃〜340℃、最適には210℃〜300℃であり、処理時間においては60分以下、好ましくは20秒〜40分、より好ましくは50秒〜20分であり、香辛料を含有する食品の種類、使用態様、処理量、飽和水蒸気若しくは過熱水蒸気の装置の能力等により、適宜変更して行えばよい。
【0015】
具体的には、例えば、過熱水蒸気を用いた加工方法が有効である。該過熱水蒸気を用いて香辛料を加熱する手段としては、原料である香辛料に向け過熱水蒸気を噴霧する気流式による方法が好ましい。該気流式過熱蒸気装置自体は公知であり、気流式過熱蒸気置における加工条件は、過熱水蒸気の圧力、温度と時間により行い、例えば、過熱水蒸気を流し、圧力1〜2Pa、温度210〜350℃、時間として10分以下が適当である。この条件は原料となる香辛料の種類や形態、香辛料自体の加熱による品質の変化の程度で、また、香辛料を含有する食品の種類や使用態様などにより適宜変更すればよく、できるだけ短時間又は/及びできるだけ高温で処理することが好ましい。
【0016】
また、香辛料を予め油脂と混合ないしは油脂の噴霧コーティングすることで、均一な加熱状態および均一な伝熱機構を有する状態を作成できるとともに、過熱蒸気の効果の1つである脱油現象により最終的に含有油脂量を制御できる。該油脂は、なたね、とうもろこし、大豆、綿実、大豆胚芽、ごま、ひまわり、落花生、エゴマ、クルミ、しそ、紅花、小麦胚芽、パームオレイン、やし油などの植物油脂や、スパイス類、ハーブ類中の精油中に含まれるテルペン類、リモネン類、アルデヒド類その他炭化水素類、中鎖飽和脂肪酸トリグリセライド(例えば、カプロン酸トリグリセライド、カプリル酸トリグリセライド、カプリン酸トリグリセライドおよびこれらの任意の混合物の如きC6 〜C12を有する中鎖飽和脂肪酸のトリグリセライドをあげることができる)、魚油等の動物油脂などがあげられ、またこれらの任意の混合物を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
従って、飽和水蒸気若しくは110℃〜400℃に加熱した過熱水蒸気の特徴を生かしつつ、各種香辛料を焙煎風味(ロースト感)のある香ばしい香辛料に再加工できる。
【0017】
また、従来のように、乾燥する前の段階で、焙煎処理等するのでなく、すでに加工された香辛料を再加工してもよく、取り扱いが簡単で、低コストに香辛料の再加工ができる。
本発明の香辛料の加工方法は、例えば、常圧下、低酸素若しくは無酸素条件の密閉系状態で過熱水蒸気を利用した連続式処理装置を用いれば、食品載置コンベアーに載せた香辛料を導き、過熱水蒸気の排気量と酸素濃度の関係テーブルに基づき、過熱水蒸気による噴射ないしは同環境下で処理することにより、すなわち、110℃〜400℃に加熱した過熱水蒸気を10秒〜60分間、噴射ないしは同環境下で、香辛料を処理する香辛料の加工方法があげられる。上記のように過熱水蒸気を噴霧することで、装置内の空気および過熱水蒸気を排気するため、少なくとも該処理装置内の空気の流入を防止しすることができる。本発明の方法によれば、装置内の酸素濃度を可変設定することができる装置を使用することが好ましい。
【0018】
本発明の香辛料の加工装置は、低酸素若しくは無酸素状態の環境下の飽和水蒸気装置内若しくは過熱水蒸気装置であって、装置内に香辛料を導き、飽和水蒸気装置内若しくは過熱水蒸気の排気量、低酸素若しくは酸素濃度が可変設定可能であり、過熱水蒸気による噴射ないしは同環境下で処理することが可能であり、また、本発明の香辛料を加工可能な装置であることが望ましい。例えば、110℃〜400℃に加熱した過熱水蒸気を10秒〜60分間、噴射ないしは同環境下で処理可能な香辛料の加工装置であればよい。原料をコンベアー上にて移動しながら焙煎処理を行う連続式処理装置、トレイや容器中に原料を入れ、容器内を過熱蒸気で満たすことにより加熱処理を行うバッチ式処理装置、配管内に過熱蒸気を流しつつ、該配管内に粉末等の原料を通し加熱処理を行う気流式処理装置、回転ドラムの中に原料を入れ、該ドラム内に過熱蒸気を満たすことにより加熱処理を行う回転ドラム式乾燥装置、その他には、家庭用処理装置として市販されている蒸気をヒーターにて加熱し過熱処理を行う装置などがあるが、本発明において限定されない。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【0020】
[実施例1]
過熱水蒸気装置の酸素濃度を3%に設定して、シナモン(スティック状)を、ステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、下表1の処理温度、処理時間で連続式処理装置を用いて、本発明の香辛料(シナモン)を得た。得た本発明の香辛料を粉砕後、パネル10人による風味についての官能検査試験を行った。過熱水蒸気処理を行わず、上記の過熱水蒸気処理前の香辛料であるシナモンを粉砕して未処理品とし、該官能検査試験のコントロールとして用いた。
【0021】
【表1】

【0022】
上記と同様にして、上記のシナモンの代わりにウコン(ホール)を表2の処理条件に従い過熱水蒸気処理を行い、本発明の香辛料(ウコン)を得た。該香辛料(ウコン)を粉砕後、パネル10人による風味についての官能検査試験を行った。過熱水蒸気処理を行わず、上記の過熱水蒸気処理前の香辛料であるウコンを粉砕して未処理品とし、該官能検査試験のコントロールとして用いた。官能検査試験結果を下表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
また、同様に上記のシナモンの代わりにジンジャー(ホール)を表3の処理条件に従い過熱水蒸気処理を行い、本発明の香辛料(ジンジャー)を得た。該香辛料(ジンジャー)を粉砕後、パネル10人による風味についての官能検査試験を行った。過熱水蒸気処理を行わず、上記の過熱水蒸気処理前の香辛料であるジンジャーを粉砕して未処理品とし、該官能検査試験のコントロールとして用いた。官能検査試験結果を下表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
また、同様に上記のシナモンの代わりにカルダモン(ホール)を表4の処理条件に従い過熱水蒸気処理を行い、本発明の香辛料(カルダモン)を得た。該香辛料(カルダモン)を粉砕後、パネル10人による風味についての官能検査試験を行った。過熱水蒸気処理を行わず、上記の過熱水蒸気処理前の香辛料であるカルダモンを粉砕して未処理品とし、該官能検査試験のコントロールとして用いた。官能検査試験結果を下表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
[実施例2]
過熱水蒸気装置の酸素濃度を3%に設定して、乾燥した唐辛子をステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、表5の処理温度、処理時間で連続式処理装置を用いて、本発明の唐辛子を得た。得た本発明の唐辛子を粉砕後、該唐辛子自体をパネル10人による風味についての官能検査試験を行った。また、該唐辛子を0.2gふりかけたすうどんを食品として、前記と同様に官能検査試験を行った。
【0029】
【表5】

【0030】
その結果、該唐辛子自体の官能検査試験及び収率結果を表5に示した。また、該唐辛子を0.2gふりかけたすうどんの官能検査の結果は、No.2が、唐辛子の焙煎した特有の香ばしい風味がうどんとダシに良く合っていたという良好の評価を得た。
【0031】
[実施例3]
過熱水蒸気装置本体の酸素濃度を2%に設定して、黒胡椒のホールをステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、表6の処理温度、処理時間でバッチ式処理装置を用いて、本発明の黒胡椒(ホール)を得た。得た本発明の黒胡椒(ホール)を粉砕後、該黒胡椒自体をパネル10人による風味についての官能検査試験を行った。また、該黒胡椒を0.2gふりかけた豚骨ラーメンを食品として、前記と同様に官能検査試験を行った。
【0032】
【表6】

【0033】
その結果、該黒胡椒自体の官能検査試験及び収率結果を表6に示した。また、該黒胡椒を0.2gふりかけた豚骨ラーメンの官能検査の結果は、No.2が、黒胡椒の焙煎した香ばしい風味がスープに良く合っていたという良好の評価を得た。
【0034】
[実施例4]
過熱水蒸気装置本体の酸素濃度を2%に設定して、乾燥した糸切唐辛子をステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、表7の処理温度、処理時間でバッチ式処理装置を用いて、本発明の糸切唐辛子を得た。得た本発明の糸切唐辛子自体をパネル10人による風味、外観観察、物性についての官能検査試験を行った。また、該糸切唐辛子をトッピングにしたサラダを食品として、前記と同様に官能検査試験を行った。
【0035】
【表7】

【0036】
その結果、該糸切唐辛子自体の官能検査試験及び収率結果を表7に示した。また、糸切唐辛子自体をトッピングにしたサラダの官能検査の結果は、No.2の条件により得た本発明の糸切唐辛子が、サラダのトッピングとして、焙煎による唐辛子の香ばしい風味と鮮やかな色調が野菜のサラダに良く合っていたという良好な評価を得た。
また、得たNo.1、No.2の条件により得た本発明の糸切唐辛子は、赤みの色彩が鮮やかになり、物性が弾力性を向上させ壊れにくい性質を示した。本発明の過熱水蒸気処理を行うことで、大腸菌群は陰性、カビや酵母は0(ヶ/g)となり一般生菌数も著しく減少した。
【0037】
[実施例5]
過熱水蒸気装置本体の酸素濃度を2%に設定して、黒胡椒のホールをステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、処理温度230℃、処理時間5分でバッチ式処理装置を用いて加工した。その後、室温まで静置冷却して本発明の黒胡椒を得た。該黒胡椒5gを粉砕せず95%エタノール10gに浸漬後、30分間室温で静置した。その後、ろ紙(#2)によるろ過後、GC-MS分析を行った。コントロールとして、過熱水蒸気処理を行っていない黒胡椒を用いた以外は、同一の条件でGC-MS分析を行った。
本実施例で得た本発明の黒胡椒は、コントロールと比較して、β−ピネン、3−カレン、α−フェランドレン、リモネン、p−シメン、テルピノーレン、テルピネン、β−フェランドレン、コパエン、α−カリオフィレン、α−キュベベン等のテルペン系化合物の香気成分や、ピペロナール等の芳香族アルデヒドの香気成分が優位に減少していた。
【0038】
[実施例6]
過熱水蒸気装置本体の酸素濃度を2%に設定して、黒胡椒のホールをステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、処理温度250℃、処理時間10分間と、15分間の2種の条件で各々をバッチ式処理装置を用いて加工した。その後、室温まで静置冷却して、本発明の黒胡椒を得た。各々の該黒胡椒5gを、夫々別々に粉砕し95%エタノール10gに浸漬後、30分間室温で静置した。その後、ろ紙(#2)によるろ過後、GC-MS分析を行った。コントロールとして、過熱水蒸気処理を行っていない黒胡椒を用いた以外は、同一の条件でGC-MS分析を行った。
【0039】
コントロールと比較した結果、過熱水蒸気処理が250℃、10分間加工を行った本発明の黒胡椒は、フルフリルアルコールの香気成分が発現した。また、過熱水蒸気処理が250℃、15分間加工を行った本発明の黒胡椒は、ピリジン、フルフリルアルコールの香気成分が発現した。これらの香気成分は、コーヒー、ココアなどに存在しており、該フルフリルアルコールは、甘いオイル様の焼く様なキャラメル的香気を有する化合物である。
【0040】
フルフリルアルコール、ピリジンの香気成分生成のメカニズムについては、焙煎により多糖類の性質が変化し一部は単糖類に分解し、一部はグルコサン等の脱水物を経て相互に、或いは蛋白質、アミノ酸、ポリフェノール類等と反応したこと、また、単糖類からフラン化合物を経てポリマー形成によるカラメル化が促進されたこと、低酸素若しくは無酸素状態の過熱処理でフラン化合物が還元されてアルコール類を形成したこと、など様々な反応パターンにより、特有のクッキングフレーバーが生成したと考えられる。
【0041】
[実施例7]
過熱水蒸気装置本体の酸素濃度を2%に設定して、コリアンダー(ホール)をステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、処理温度210℃、処理時間7分でバッチ式処理装置を用いて加工した。上記の過熱水蒸気処理前の香辛料であるコリアンダー(ホール)を、過熱水蒸気処理の代わりにフライパンを用いて粉砕後に同程度の色になるまで160℃で50分間炒めた。この炒めたコリアンダーをコントロールとして用いた。
各々の処理により得たコリアンダーを室温まで静置冷却した後、粉砕した。この粉砕したコリアンダー粉末3gを95%エタノール9gに浸漬後、25分間室温で静置した。その後、ろ紙(#2)によるろ過後、GC−MS分析を行った。
【0042】
本実施例で得た本発明のコリアンダーには、コントロールには発生していない2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン等の香気成分が発現した。前者はポテトチップス様、後者はフライドポテト様の甘いロースト香を有する化合物である。
【0043】
[実施例8]
過熱水蒸気装置本体の酸素濃度を2%に設定して、クミン(ホール)をステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、処理温度220℃、処理時間7分でバッチ式処理装置を用いて加工した。上記の過熱水蒸気処理前の香辛料であるクミン(ホール)を、過熱水蒸気処理の代わりにフライパンを用いて粉砕後に同程度の色になるまで160℃で55分間炒めた。この炒めたクミンをコントロールとして用いた。
【0044】
各々処理により得たクミンを室温まで静置冷却した後、粉砕した。この粉砕したクミン粉末3gを95%エタノール9gに浸漬後、25分間室温で静置した。その後、ろ紙(#2)によるろ過後、GC−MS分析を行った。
本実施例で得た本発明のクミンは、コントロールには発生していない2,6−ジメチルピラジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン等の香気成分が発現した。
【0045】
[実施例9]
クミン(ホール:15g)、コリアンダー(ホール:75g)、カルダモン(ホール:40g)、ローレル(5g)、クローブ(ホール:50g)、黒胡椒(ホール:50g)、ナツメグ(パウダー:15g)、シナモン(4g)を配合する香辛料のミックスを、過熱水蒸気装置本体の酸素濃度を2%に設定して、ステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、処理温度180℃、処理時間5分でバッチ式処理装置を用いて加工し、その後、室温まで静置冷却した。該過熱水蒸気処理により得た上記の香辛料のミックスと、メース(パウダー:15g)を、すり鉢に入れて混合し粉末化し、本発明の香辛料ミックスであるガラムマサラを得た。
【0046】
また、コントロールとして、上記と同一の配合量の香辛料ミックスを用いて、ガラムマサラを以下の方法で作成した。該作成方法については、ローリエとシナモンは細かく刻み、カルダモンは荒くつぶした後、ガスコンロによりフライパンで軽く炒り、メース以外の全てのスパイスをいれて焦がさないよう、弱火で丁寧に炒った。その後、火を止め、室温まで冷却し、すり鉢内にて、メースとを加え、混合し粉末化し、コントロールの香辛料ミックスであるガラムマサラを得た。
【0047】
本発明のガラムマサラ、塩、レモン汁、小麦粉及びとき卵を混合したバッター中に、エビを浸して冷蔵庫で2時間静置した。油で揚げる直前にエビをバッター中から取り出し、パン粉をまぶし、色付くまで揚げ、エビフライを得た。また、コントロールとして、前記本発明のガラムマサラの代わりに、コントロールのガラムマサラを用いた以外は同一の配合量及び方法で、エビフライを得た。本発明のガラムマサラ自体をパネル10人による風味、外観観察についての官能検査試験を行った。また、該ガラムマサラを用い調理した該エビフライを食品として、前記と同様に官能検査試験を行った。
【0048】
その結果、本発明のガラムマサラを使用したエビフライは、コントロールと比較して、エビが持つ生臭みが消えており、甘味が生じているなど良好の評価が得られた。さらに、焙煎した特有のコクの有る香ばしい風味がエビの風味と良く合っていて、消費者の嗜好に十分満足できる、商品価値の高い香辛料ミックスである評価を得た。
【0049】
[実施例10]
下記表8、表9、表10の配合により、各処理条件の香辛料ミックスを用いてタンドーリチキンを得た。該タンドリーチキンを、パネル10人による風味、外観観察についての官能検査試験を行った。
【0050】
【表8】

【0051】
(1)切り込みを入れた鶏モモ肉に自然塩、レモン汁、にんにく、生姜、ハチミツをすり込み寝かせておいた。
(2)三個のボウルに、各々にスパイスA、スパイスBまたはスパイスCを個々に含有する下記マサラソースの材料を入れて、各々を泡立て器で良く混ぜ合わせた。
(3)各ボウルの各マサラソースに(1)を入れ、冷蔵庫で半日間漬け込んだ。
(4)鶏肉表面のソースを軽く拭い、溶かしバターを塗り、オーブンで250℃、20分間焼いた。
【0052】
【表9】

【0053】
マサラソースには、下記配合量、処理条件のスパイス用いた。ガラムマサラを除く表10に記載した香辛料を混合し、過熱水蒸気装置本体の酸素濃度を2%に設定して、ステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、処理温度210〜220℃、処理時間7分でバッチ式処理装置を用いて加工し、その後、室温まで静置冷却した。該過熱水蒸気処理により得た上記の香辛料のミックスと、実施例9で得た本発明のガラムマサラを混合し、スパイスAを得た。
【0054】
ガラムマサラを除く表10に記載した香辛料のミックスを混合し、フライパンで、スパイスAと同程度の色になるまで100℃で30分間炒め、その後、室温まで静置冷却した。該フライパン処理により得た上記の香辛料のミックスと、実施例9で得た本発明のガラムマサラを混合し、スパイスBを得た。
コントロールとして、表10に記載した香辛料のミックスを混合してスパイスCを得た。なお、ガラムマサラは、実施例9で得た本発明のガラムマサラを用いた。
【0055】
【表10】

【0056】
その結果、コントロールであるスパイスCを使用して得たタンドーリチキンと比べて、スパイスAを使用して得たタンドーリチキンは、スパイスのフレッシュな香りに焙煎香が加わり、総じて風味の力価が上がっていた。フライパン処理で得たスパイスBを使用して得たタンドーリチキンは、コントロールに比べ、香りが篭っており重たい風味を有していた。
【0057】
[実施例11]
各処理条件のウコン粉末を用いた下記表11の配合によるウコンドリンクを得た。
各ウコン粉末を含む下記表11の配合で混合後、1.7gを100mlの水に溶解し、得たウコンドリンクの風味、外観観察についてパネル15人による官能検査試験を行った。
ウコン粉末A、ウコン粉末B及びウコン粉末Cは、各々下記条件のウコン(10mmφ×60mmの塊状)を本実施例で用い得た。過熱水蒸気装置本体の酸素濃度を2%に設定して、ステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、処理温度230℃、処理時間12分でバッチ式処理装置を用いて加工し、その後、室温まで静置冷却した。該過熱水蒸気処理により得たウコンを粉末状に粉砕し本発明のウコン粉末Aを得た。
【0058】
上記のウコン(粒状)を、フライパンで100℃、40分間煎り、その後、室温まで静置冷却した。該フライパン処理により得たウコンを粉末状に粉砕しウコン粉末Bを得た。
コントロールとして、上記の過熱水蒸気処理やフライパンによる加熱処理をせず、加熱処理前のウコン(粒状)を粉末状に粉砕してウコン粉末Cを得た。
【0059】
【表11】

【0060】
その結果、ウコン粉末Aを使用して得た本発明のウコンドリンクは、ウコン由来の土臭さが除かれた上に香ばしい焙煎香が広がり飲み易い結果であった。フライパン処理で得たウコン粉末Bを使用して得たウコンドリンクは、ウコン由来の焙煎香が出るが苦味があった。ウコン粉末Cを使用して得たウコンドリンクは、後味にウコン由来の土臭い匂いが残り飲み難い結果であった。
【0061】
[実施例12]
過熱水蒸気装置本体の酸素濃度を1%に設定して、ネギ(スライス)70部に対しパーム油(融点10℃)30部を噴霧コーティングした該ネギをステンレス製トレイに重ならない様に均一に広げ、処理温度210℃、処理時間4分でバッチ式処理装置を用いて加工し、その後、室温まで静置冷却し、本発明の乾燥ネギを得た。比較試験(1)は、ネギ(スライス)70部に対しパーム油(融点10℃)30部を噴霧コーティングした該ネギを、フライパンを用いて160℃で18分間炒めた後、室温まで静置冷却した。比較試験(2)は、フライパンによる処理温度を120℃に及び処理時間を75分に変更した以外は、上記比較試験(1)と同様にして得た。本実施例で得た本発明の乾燥ネギと、比較試験(1)及び(2)の乾燥ネギとの油脂劣化の違いを見る為に、各々の乾燥ネギのPOVを測定した。
コントロールとして、上記でネギの噴霧コーティングに使用した油脂(パーム油)についてのPOVを測定した。
【0062】
【表12】

【0063】
その結果、油脂で噴霧コーティングした乾燥ネギを過熱水蒸気で処理した本発明の乾燥ネギは、フライパンで処理した比較試験(1)及び(2)の乾燥ネギよりも、油脂の劣化が優位に押さえられていた。よって、本発明で、香辛料を油脂にてコーティングすることは有用であり、より商品価値の高い香辛料を得ることが可能となる。
【0064】
上記各実施例から、飽和水蒸気若しくは110℃〜400℃に加熱した過熱水蒸気を用いて加工した香辛料は、香ばしい風味が得られ商品価値が向上する。その要因については、一般に食品はアミノ酸やペプタイドを含めた蛋白質、炭水化物、脂質を中心に構成されており、加熱による風味(香り)の変化はこれらの成分による化学反応等によって引き起こされた結果である。香辛料については以上の物性の変化が起こったことが示唆された。酸素が介在する割合が高いほど、対象物の表面の焼き目、焦げ目が強くなり、苦味が発生する従来の加工法による問題点も、本発明によれば調節可能であり解決された。
【0065】
また、他の香辛料についても同様の作用があることも示唆された。
従来、火力を必要とする調理加工食品を工場レベルで大量生産する場合、熱効率の面で充分な加工ができていなかったが、本発明により、酸素濃度、処理温度、処理時間を任意に選択することによって熱効率に優れた加工を実現でき、広範囲にわたって加工の自由度が向上した。また、従来、香ばしい調理感のある香辛料の加工においては、前処理、収率、作業性の面で限界があったが、本発明により、極めて短時間に、収率よく加工できるようになった。加工中、酸素が介在しないか非常に少ないので、油脂の酸化等、品質の劣化が抑えられるという効果も奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低酸素若しくは無酸素条件の密閉系下において、飽和水蒸気若しくは過熱水蒸気のいずれか又はこれらの組み合わせにて処理してなる香辛料。
【請求項2】
請求項1記載の処理が、110℃〜400℃に加熱した過熱水蒸気を噴射処理してなる香辛料。
【請求項3】
請求項1記載の香辛料をそのまま、又は予め香辛料を油脂と混合若しくは香辛料に油脂をコーティングしてなる請求項1〜2記載の香辛料。
【請求項4】
請求項1記載の香辛料を、加工食品を含めた食品に用いてなる食品。
【請求項5】
低酸素若しくは無酸素条件下において、飽和水蒸気若しくは過熱水蒸気にて処理してなる香辛料の加工方法。
【請求項6】
請求項1記載の処理が、110℃〜400℃に加熱した過熱水蒸気を噴射処理してなる香辛料の加工方法。
【請求項7】
請求項1記載の香辛料をそのまま、又は予め香辛料を油脂と混合若しくは香辛料に油脂を噴霧コーティングしてなる請求項1〜2記載の香辛料の加工方法。

【公開番号】特開2007−61015(P2007−61015A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252284(P2005−252284)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000210067)池田食研株式会社 (35)
【Fターム(参考)】