説明

駆動式患者台、駆動式患者台の制御装置、駆動式患者台制御用プログラム及びこれらを用いた粒子線治療装置

【課題】治療計画時に策定した位置に合わせる位置決め作業を効率的に行うことができる駆動式患者台を得ることを目的とする。
【解決手段】固定座標系10に対して、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各軸方向に天板8を並進させる並進手段3、4、5と、X軸周りのθ方向、Y軸周りのφ方向、Z軸周りのξ方向の各方向に天板8を回転させる回転手段6、7、8と、入力された希望回転中心点P及び希望回転角に基づいて並進手段3、4、5及び回転手段6、7、8を制御する制御装置とを備え、制御装置は、並進手段3、4、5と回転手段6、7、8の基準状態aから天板8を希望回転角に回転移動させる回転駆動信号を生成する回転駆動信号生成手段と、回転移動によって生ずる希望回転中心点Pの並進移動量が所定値以下となるように並進手段3、4、5を並進させる並進駆動信号を生成する並進駆動信号生成手段とを有した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用や研究用に用いられる粒子線治療装置や放射線治療装置に関し、特に駆動式患者台、駆動式患者台の制御装置、駆動式患者台制御用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用機器の開発や医療の進歩に伴い、近年、医療用機器はますます高度化し、従来にはまったくなかった形態のものが登場している。例えば、がん治療において、従来は外科、投薬及び/又は放射線による治療が主流であったが、最近では陽子線や炭素線に代表される粒子線を照射して治療する、粒子線治療装置が大変注目を浴びている。粒子線治療装置による治療は、低浸襲であることが最大の特徴であり、治療後の患者のQOL(Quality of Life)を保つことができる。現在、粒子線治療装置は国内で合わせておよそ10施設が稼動若しくは建設予定であり、施設によっては年間1000人に迫る患者を治療していることが報告されている。
【0003】
したがって、粒子線治療を受けるときに患者がのるベッドや椅子等(以降、「患者台」)は、粒子線治療に適した機能が求められており、また、粒子線治療に適した機能の患者台を開発し、よりよい医療用機器を製造することは、医療機器産業の発達に寄与することにつながる。
【0004】
粒子線治療装置は、簡単に言えば、患部の形状に合わせてピンポイントで粒子線を照射する。そのためには、粒子線治療装置を操作する医師若しくは技師(以降「技師等」)は、患部の形状に合わせて粒子線を照射できるよう、照射中心であるアイソセンタを基準位置として、患部の位置や姿勢を計画値に合わせる作業、すなわち位置決め作業をする必要がある。位置決め作業は、X線撮像装置によって患部の位置を観察しながら、治療計画の段階で定めた方向から粒子線が患部に照射されるように治療台の角度調整を行うが、この位置決め作業は時間がかかるので、効率的に行いたいという要求がある。
【0005】
治療用ベッド上面に固定された患者に対して任意の方向と距離からの照射、特に照射方向が患者軸心に対して直角ではないノンコンプラナー照射を実現することを目的として、放射線治療用ベッドシステムが提案されている(特許文献1)。この放射線治療用ベッドシステムは、治療シミュレーション時に計算された患部の位置データ(X、Y、Z座標系)及び陽子線を放射する角度が入力され、この入力されたデータ(位置や角度)は、ベッドのX軸、Y軸、Z軸方向の位置、i軸(相対アイソセントリック回転)、p軸(ピッチング回転)、r軸(ローリング回転)の回転角度、患者の患部位置として座標変換され、ベッドの各軸はこれらの変換データを入力位置データとして捕らえ、各軸を駆動して患者の患部を所望の位置に移動させていた。
【0006】
ところが、患部等をX線撮像装置で観察しながらi軸、p軸、r軸の各軸を調整すると、通常は各軸の回転中心を通るように患部を配置できないため、それに伴って患部がX軸方向、Y軸方向若しくはZ軸方向又はこれらを組合せた方向に移動してしまう。この結果、患部がX線撮像装置の撮像エリア外に出てしまう場合もあり、この撮像エリアから出ないようにするためには、患部の位置が移動しないように、X軸、Y軸、Z軸の各軸を微妙に調整しながら行わなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−313900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の放射線治療用ベッドシステムは、駆動軸の自由度を6つ有し、各軸を駆動して患者の患部を所望の位置に移動させことができるものの、現実の患部の位置決め作業においては上記のようなX軸、Y軸、Z軸の各軸の微妙な調整を行わなければならず、この調整は技師等が作業する上で極めて煩わしい上に、位置決めに時間を要するため粒子線治療装置のスループット向上が図れないという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、患部の位置及び姿勢を、治療計画時に策定したものに合わせるための位置決め作業を効率的に行うことができる駆動式患者台を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
設置場所に固定された固定座標系に対して、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各軸方向に前記天板を並進させる並進手段と、X軸周りのθ方向、Y軸周りのφ方向、Z軸周りのξ方向の各方向に天板を回転させる回転手段と、入力された希望回転中心点及び希望回転角に基づいて並進手段及び回転手段を制御する制御装置と、を備えた。制御装置は、並進手段と回転手段の基準状態から天板を希望回転角に回転移動させる回転駆動信号を生成する回転駆動信号生成手段と、回転移動によって生ずる希望回転中心点の並進移動量が所定値以下となるように並進手段を並進させる並進駆動信号を生成する並進駆動信号生成手段と、を有した。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る駆動式患者台は、入力された希望回転中心点及び希望回転角に基づいて、天板の回転駆動と天板を希望回転角に回転移動させることによって生ずる希望回転中心点の並進移動量が所定値以下となるように並進させる並進駆動とを組み合わせて駆動し、希望回転中心点での回転から所定の距離以内で駆動式患者台を自動回転させることができるので、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1及び2による駆動式患者台(患者台)の概略構成図である。
【図2】希望する位置を中心に回転駆動させることを説明した図である。
【図3】図1の患者台の三面図である。
【図4】図1の患者台を制御対象とした場合の座標系を表した三面図である。
【図5】図4にロール回転部品の座標系を追加した三面図である。
【図6】図5にピッチ回転部品の座標系を追加した三面図である。
【図7】実施の形態1及び2によるプログラムのフローチャートである。
【図8】実施の形態1の患者台の制御を説明するブロック図である。
【図9】図8の目標位置姿勢変換部のブロック図である。
【図10】実施の形態2の患者台の制御を説明するブロック図である。
【図11】実施の形態3及び4による患者台コントローラを示す図である。
【図12】実施の形態3及び4による患者台操作端末の外観図である。
【図13】実施の形態5の患者台の制御を説明するブロック図である。
【図14】実施の形態5の患者台の制御を説明する他のブロック図である。
【図15】実施の形態7による粒子線治療装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による駆動式患者台(患者台)の概略構成図である。図1に基づいて、制御対象である患者台の構成について説明する。駆動式患者台(ベッドタイプ)1は、実施の形態1における制御対象の一例である。床面2は、駆動式患者台1が設置される床である。患者台構成部品(X並進部品)3は、患者台を構成する部品のひとつであり、床面2に対してX方向に駆動される。患者台構成部品(Z並進部品)4は、患者台を構成する部品のひとつであり、X並進部品3に対してZ方向に駆動される。患者台構成部品(Y並進部品)5は、患者台を構成する部品のひとつであり、Z並進部品4に対してY方向に駆動される。患者台構成部品(ヨー回転部品)6は、患者台を構成する部品のひとつであり、Y並進部品5に対してヨー回転駆動される。患者台構成部品(ロール回転部品)7は、患者台を構成する部品のひとつであり、ヨー回転部品6に対してロール回転駆動される。患者台構成部品(ピッチ回転部品)8は、患者台を構成する部品のひとつであり、ロール回転部品7に対してピッチ回転駆動される。X並進部品3、Z並進部品4、Y並進部品5は並進手段である。ヨー回転部品6、ロール回転部品7、ピッチ回転部品8は回転手段である。各患者台構成部品3〜8は、制御装置29(図示せず)からの制御信号に基づいて駆動装置(図示せず)により駆動される。
【0014】
次に図2に基づいて、本発明で行う「希望する位置を中心に回転駆動させる」ことを説明する。図2は、希望する位置を中心に回転駆動させる実現方法を説明した図である。図2(a)は平面図であり、図2(b)は鳥瞰図である。駆動対象20は、患者台の天板などの、駆動対象を表す。回転駆動中心(軸)21は、モータ等の回転駆動機器により、駆動対象20を回転駆動させるときの回転駆動中心(軸)を表す。希望する位置22は、照射基準であるアイソセンタなどの、みかけ上の回転中心として希望する位置を表した点(希望回転中心点)である。
【0015】
図2は、剛体である駆動対象20を、回転駆動中心(軸)21で回転し、同時に並進移動させることによって、みかけ上の回転中心が希望する位置22になることを表している。本実施の形態では、このように回転駆動と並進駆動を組み合わせることによって、駆動対象の希望する位置において回転移動させることを行う。
【0016】
図3は、実施の形態1による患者台の三面図である。図3(a)は患者台1の平面図であり、図3(b)は患者台1の正面図であり、図3(c)は患者台1の側面図である。ヨー回転部品6は、Y並進部品5に対してヨー回転中心(軸)15でヨー回転駆動される。ロール回転部品7は、ヨー回転部品6に対してロール回転中心16でロール回転駆動される。ピッチ回転部品8は、ロール回転部品7に対してピッチ回転中心17でピッチ回転駆動される。
【0017】
図4〜6は、実施の形態1において、図1の患者台1を制御対象とした場合の座標系を表した三面図である。図4は患者台を制御対象とした場合の座標系を表した三面図であり、図5は図4にロール回転部品の座標系を追加した三面図であり、図6は図5にピッチ回転部品の座標系を追加した三面図である。図4(a)、図5(a)、図6(a)は患者台1の平面図であり、図4(b)、図5(b)、図6(b)は患者台1の正面図であり、図4(c)、図5(c)、図6(c)は患者台1の側面図であり、図4(d)、図5(d)、図6(d)は患者台1の鳥瞰図である。図4〜6に基づいて本発明における座標系について説明する。
【0018】
座標系10は、治療室に固定された座標系Ofix(固定座標系)である。座標系11は、Y並進部品5に固定された座標系oである。座標系10と座標系11との関係は、X並進部品3、Z並進部品4及びY並進部品5の状態によって唯一に決まり、並進移動により座標系を重ねることができる。
【0019】
座標系12は、ヨー回転部品6に固定された座標系oである。座標系11と座標系12との関係は、ヨー回転部品6の状態によって唯一に決まる。座標系12を、図4のようにヨー回転の回転軸上に配置すれば、ヨー回転部品6の状態に拠らず、座標系11の原点から座標系12の原点への方向ベクトルは一定で、並進移動とヨー回転により座標系を重ねることができる。
【0020】
座標系13は、ロール回転部品7に固定された座標系oである。座標系12と座標系13との関係は、ロール回転部品7の状態によって唯一に決まる。座標系13を、図5のようにロール回転の回転軸上に配置すれば、ロール回転部品7の状態に拠らず、座標系12の原点から座標系13の原点への方向ベクトルは一定で、並進移動とロール回転により座標系を重ねることができる。
【0021】
座標系14は、ピッチ回転部品8(天板)に固定された座標系oobj(移動座標系)である。座標系13と座標系14との関係は、ピッチ回転部品8の状態によって唯一に決まる。座標系14を、図6のようにピッチ回転の回転軸上に配置すれば、ピッチ回転部品8の状態に拠らず、座標系13の原点から座標系14の原点への方向ベクトルは一定で、並進移動とピッチ回転により座標系を重ねることができる。
【0022】
図7は、実施の形態1によるプログラムのフローチャートである。このプログラムは制御装置29に搭載される。図7に基づいて、プログラムのフローについて説明する。
【0023】
ステップS1は、初期化を行うステップである。ここでは、変数の宣言や定義を行う。ステップS2は、読込みを行うステップである。ここでは、患者台の状態a(基準状態)において、患者台構成部品3〜8各々の位置及び姿勢を特定するデータを読込む。ステップS3は、読込みを行うステップである。ここでは、照射基準点であるアイソセンタなどの、見かけ上の回転中心を希望する点(希望回転中心点)Pの座標Pfix(X,Y,Z)の読込みを行う。
【0024】
ステップS4は、計算を行うステップである。ここでは、患者台が状態aであるときに、固定座標系Ofixでみた場合の前記希望する点Pfix(X,Y,Z)を、「天板に固定された座標系oobj」でみた場合の座標p(x,y,z)へと座標変換を行う。ステップS5は、読込みを行うステップである。ここでは、患者台の状態bにおいて、患者台構成部品3〜8の位置及び姿勢を特定するデータを読込む。このデータ読み込みは希望回転角の読み込みに相当する。ステップS6は、計算を行うステップである。ここでは、前記「天板に固定された座標系oobj」でみた場合の座標p(x,y,z)が、天板に固定されたまま患者台が状態bになったと仮定して、「治療室に固定された座標系Ofix」でみた場合の座標Pab(X,Y,Z)へと座標変換を行う。
【0025】
ステップS7は、差分を演算する差分演算ステップである。ここでは、ステップS3で読込んだPfix(X,Y,Z)と、ステップS6で求めたPab(X,Y,Z)との差分を演算する。ステップS8は、出力を行う出力ステップである。ここでは、ステップS7で計算したPab(X,Y,Z)−Pfix(X,Y,Z)を出力する。
【0026】
制御装置29は、回転駆動前である患者台の状態a及び駆動目標(姿勢目標)である患者台の状態bに基づいて、すなわち患者台の状態aから状態bに回転させる希望回転角に基づいて、状態aから状態bに回転させる回転手段の回転駆動信号を生成する回転駆動信号生成手段と、演算された差Pab(X,Y,Z)−Pfix(X,Y,Z)を補正して並進手段を並進させる並進駆動信号を生成する並進駆動信号生成手段を有し、回転駆動信号及び並進駆動信号を生成する。詳細は、以下に、ステップ毎に内容を記載する。
【0027】
ステップS1は、初期化を行うステップであり、その詳細を以下に示す。ここでは、実施の形態1に示すプログラムに必要な変数の宣言や、患者台の幾何学的な情報を表すパラメータ等の定義を行う。プログラムに必要な変数とは、例えば、患者台1の位置や姿勢を特定するもの(以下「患者台の状態」)、見かけ上の回転中心を希望する点の座標、回転行列(一次変換行列)などである。患者台1の幾何学的な情報を表すパラメータとは、患者台1の各駆動機器がすべて基準位置にあったときの、言い換えれば、患者台構成部品3〜8がすべて基準位置にあったときの(以下「基準位置状態」。)、座標系11〜14の原点の位置を表した位置ベクトル等である。
【0028】
患者台1の状態は、{x,y,z,θ,φ,ξ}のように表わされる。ただし、x,y,z,θ,φ,ξは以下の通りである。
は、X並進部品3の、床面2上の基準位置に対するx方向変位量である。
は、Y並進部品5の、Z並進部品4上の基準位置に対するy方向変位量である。
は、Z並進部品4の、X並進部品3上の基準位置に対するz方向変位量である。
θは、ピッチ回転部品8の、ロール回転部品7上の基準位置に対するピッチ回転方向の変位角である。
φは、ロール回転部品7の、ヨー回転部品6上の基準位置に対するロール回転方向の変位角である。
ξは、ヨー回転部品6の、Y並進部品5上の基準位置に対するヨー回転方向の変位角である。
【0029】
みかけ上の回転中心を希望する点Pの座標は、Pfix(X,Y,Z)のように表わされる。ピッチ回転、ロール回転、ヨー回転の回転行列は、それぞれ(1)式〜(3)式のように表わされる。
【0030】
【数1】

【0031】
【数2】

【0032】
【数3】

【0033】
基準位置状態における患者台の幾何学的な情報を表すパラメータは、座標系11〜14の原点の位置を表した位置ベクトルであり、それぞれ(4)式〜(7)式のように表わされる。
【0034】
【数4】


−Ofixは固定座標系から見た、座標系11の原点の位置である。
【0035】
【数5】


−Ofixは固定座標系から見た、座標系12の原点の位置である。
【0036】
【数6】


−Ofixは固定座標系から見た、座標系13の原点の位置である。
【0037】
【数7】


obj−Ofixは固定座標系から見た、座標系14の原点の位置である。
【0038】
ステップS2は、読込みを行うステップであり、その詳細を以下に示す。ここでは、患者台の状態aにおいて、患者台構成部品3〜8各々の位置及び姿勢を特定するデータを読込む。状態aとは、希望回転中心点Pを設定するときの患者台の状態である。患者台の状態を表す変数は、ステップS1の詳細で示したとおりなので、その変数に具体的な値を代入していく。
患者台1の状態aは、{x,y,z,θ,φ,ξ}のように表わされる。
【0039】
ステップS3は、読込みを行うステップであり、その詳細を以下に示す。ここでは、照射基準点であるアイソセンタなどの、見かけ上の回転中心を希望する点Pの座標Pfix(X,Y,Z)の読込みを行う。見かけ上の回転中心を希望する点Pの座標Pfix(X,Y,Z)は、通常、ある一連の作業中は変わらないので、変える必要があるときのみ読込み、上書きする。
【0040】
ステップS4は、計算を行うステップであり、その詳細を以下に示す。ここでは、患者台が状態aであるときに、固定座標系Ofixでみた場合の前記希望する点Pfix(X,Y,Z)を、「天板に固定された座標系oobj」でみた場合の座標p(x,y,z)へと座標変換を行う。
【0041】
まず、図4に基づいて、座標系10と座標系11との関係について説明する。ステップS1の詳細に示したとおり、基準位置状態においては、座標系11の原点座標は、固定座標系(すなわち座標系10)から見て(4)式のように表される。いま、患者台が状態aであるので、座標系11の原点座標は、固定座標系(すなわち座標系10)から見て以下のように表される。
【0042】
【数8】

【0043】
つまり座標系11は、上記の方向ベクトル分だけ負方向に戻せば、座標系10と重なる。したがって、座標系11から固定座標系(すなわち固定座標系10)への座標変換は、以下の式により求めることができる。
【0044】
【数9】


ただし、Qfixは、任意の点qを固定座標系で表したものである。また、qは、その任意の点qをY並進部品5に固定された座標系11で表したものである。
【0045】
次に、図4に基づいて、座標系11と座標系12との関係について説明する。座標系12からみた任意の点qは、座標系11からみれば、まず座標系11の原点から座標系12の原点まで並進移動し、座標系12の座標系11に対する変位角であるξだけヨー回転することによって一致する。すなわち、式で書けば以下のようになる。
【0046】
【数10】


ただし、qは、その任意の点qをヨー回転部品6に固定された座標系12で表したものである。
【0047】
同様に、図5に基づいて、座標系12と座標系13との関係について説明する。座標系13からみた任意の点qは、座標系12からみれば、まず座標系12の原点から座標系13の原点まで並進移動し、座標系13の座標系12に対する変位角であるφだけロール回転することによって一致する。すなわち、式で書けば以下となる。
【0048】
【数11】


ただし、qは、その任意の点qをロール回転部品7に固定された座標系13で表したものである。
【0049】
最後に、図6に基づいて、座標系13と座標系14との関係について説明する。座標系14からみた任意の点qは、座標系13からみれば、まず座標系13の原点から座標系14の原点まで並進移動し、座標系14の座標系13に対する変位角であるθだけピッチ回転することによって一致する。すなわち、式で書けば以下となる。
【0050】
【数12】


ただし、qobjは、その任意の点qをピッチ回転部品8(天板)に固定された座標系14で表したものである。
【0051】
以上数式(9)〜数式(12)をまとめると、患者台が状態aにおいて、「天板に固定された座標系oobj」から「治療室に固定された座標系Ofix」への座標変換を求めることができる。したがって数式(13)が得られる。
【0052】
【数13】


なお、数式(13)は「天板に固定された座標系oobj」(移動座標系)から「治療室に固定された座標系Ofix」(固定座標系)への座標変換手段C2(第2の座標変換手段)である。
【0053】
また、数式(13)を変形すれば、「治療室に固定された座標系Ofix」(固定座標系)から「天板に固定された座標系oobj」(移動座標系)への座標変換も求めることができる。
【0054】
【数14】


なお、数式(14)は「治療室に固定された座標系Ofix」(固定座標系)から「天板に固定された座標系oobj」(移動座標系)への座標変換手段C1(第1の座標変換手段)である。
【0055】
したがって、ステップS4は、数式(14)の座標変換手段C1を用いて、患者台1が状態aであるときの、固定座標系Ofixでみた場合の前記希望する点Pfix(X,Y,Z)を、「天板に固定された座標系oobj」でみた場合の座標p(x,y,z)へと座標変換する。具体的には、数式(14)において、任意の点qをピッチ回転部品8に固定された座標系14で表したものであるqobjにpを代入し、任意の点qを固定座標系で表したものであるQfixに希望する点Pfixを代入し、変位角θ、φ、ξに患者台の状態aにおける変位角θ、φ、ξを代入する。ステップS4で数式(15)が得られる。
【0056】
【数15】

【0057】
ステップS5は、読込みを行うステップであり、その詳細を以下に示す。ここでは、患者台1の状態bにおいて、患者台構成部品3〜8各々の位置及び姿勢を特定するデータを読込む。状態bとは、例えば、これから達成しようとする目標の患者台1の姿勢である。希望回転角は状態bの角度、すなわち絶対角度で与えられる。患者台1の並進位置は、見かけ上の回転中心を希望する点になるよう一意に決まるため、ステップS5ではどのような値を代入してもよい。簡単のため、ここでは状態aのときの値をそのまま残すことにする。
患者台1の状態bは、{x,y,z,θ,φ,ξ}のように表わされる。
【0058】
ステップS6は、計算を行うステップであり、その詳細を以下に示す。ここでは、前記「天板に固定された座標系oobj」でみた場合の座標p(x,y,z)が、天板8に固定されたまま患者台1が状態bになったと仮定して、「治療室に固定された座標系Ofix」でみた場合の座標Pab(X,Y,Z)へと座標変換を行う。具体的には、ステップS6は、数式(13)の座標変換手段C2を用いて、「天板に固定された座標系oobj」でみた場合の座標p(x,y,z)が、天板8に固定されたまま患者台1が状態bになったと仮定して、「治療室に固定された座標系Ofix」でみた場合の座標Pab
X,Y,Z)へと座標変換演算を行う。ステップS6で数式(16)が実行される。
【0059】
【数16】

【0060】
ステップS7は、差分を演算する差分演算ステップであり、その詳細を以下に示す。ここでは、ステップS3で読込んだPfix(X,Y,Z)と、ステップS6で求めたPab(X,Y,Z)との差分を演算する。ステップS7で数式(17)が得られる。
【0061】
【数17】

【0062】
ステップS8は、出力を行う出力ステップでありその詳細を以下に示す。ここでは、ステップS7で計算したΔP=Pab−Pfixを、各患者台構成部品3〜5の駆動装置の制御器へ、補正量として出力する。この補正量は並進駆動信号となる。ΔP=Pab−Pfixの物理的な意味は、固定座標系Ofixからみた、状態aでの点Pから状態bでの点Pの方向ベクトル、すなわち、点Pが動いたベクトル量である。したがって、状態bに対し、ステップS7で計算したΔP=Pab−Pfix分だけ補正すれば、患者台1の姿勢は状態bのままで、回転中心を希望の点Pとすることができる。したがって、補正した患者台1の状態b’は以下のように表わされる。
{x−ΔP,y−ΔP,z−ΔP,θ,φ,ξ
ただし、ΔPはΔPのx成分、ΔPはΔPのy成分、ΔPはΔPのz成分を表す。
【0063】
図7のフローチャートに示したプログラムは、制御器34に組み込まれる。制御器34が患者台1を制御する方法を説明する。図8は実施の形態1による患者台1の制御を説明するブロック図であり、図9は目標位置姿勢変換部のブロック図である。制御器34(34a)は4つの入力部65a、65b、65c、65dと、目標位置姿勢変換部60と、モード切替スイッチ66と、出力部67を有する。モード切替スイッチ66は、入力部65aからの目標位置姿勢{x*,y*,z*,θ*,φ*,ξ*}と、目標位置姿勢変換部60からの目標位置姿勢{x*,y*,z*,θ*,φ*,ξ*}とを切替える。入力部65aからの目標位置姿勢に基づいて患者台1の駆動装置に指令信号を出力する場合がモード1であり、目標位置姿勢変換部60からの目標位置姿勢に基づいて患者台1の駆動装置に指令信号を出力する場合がモード2である。モード1は従来から行われている場合であり、モード2は図7のフローチャートを実行する場合である。なお、*付きの符号は時間的に変化しない目標値であることを示したものであり、以降に説明する符号における*付きの符号も同様である。
【0064】
ステップS2、S3で読み込まれる患者台の状態a及び希望回転中心点座標Pfix(X,Y,Z)は、入力部65c、65dに入力される。前述したように状態aは希望回転中心点座標Pfixが入力されたときの患者台1の状態である。ステップS5で読み込まれる患者台の目標姿勢(状態b)は、入力部65bに入力される。目標位置姿勢変換部60はステップS6〜S8を実行し、目標位置姿勢(状態b’){x−ΔP,y−ΔP,z−ΔP,θ,φ,ξ}を演算する。出力部67は、補正した患者台1の状態b’の目標位置姿勢{x*,y*,z*,θ*,φ*,ξ*}に基づいて、指令信号sig1a〜sig1fを、それぞれ6軸の駆動装置35〜40(図11参照)に出力する。駆動装置(モータ)35〜40には、それぞれエンコーダ等の回転角度を検出するセンサを配置する。図において、それぞれ6軸のモータ及びエンコーダをモータ・エンコーダ69a〜69fと表示した。通常、駆動装置35〜40の制御はドライバが行っている。駆動装置(モータ)35〜40は駆動信号sig2a〜sig2fにより駆動され、駆動装置(モータ)35〜40の現在の状態x(t)〜ξ(t)をエンコーダ等で検出し、エンコーダ等の検出信号sig3a〜sig3fはモータドライバ68a〜68fにフィードバックされ、駆動装置35〜40は制御される。
【0065】
指令信号sig1a、駆動信号sig2a、検出信号sig3a、現在の状態x(t)、ドライバ68a、モータ・エンコーダ69aは、駆動装置(X並進モータ)35に対応するものである。指令信号sig1b、駆動信号sig2b、検出信号sig3b、現在の状態y(t)、ドライバ68b、モータ・エンコーダ69bは、駆動装置(Y並進モータ)36に対応するものである。指令信号sig1c、駆動信号sig2c、検出信号sig3c、現在の状態z(t)、ドライバ68c、モータ・エンコーダ69cは、駆動装置(Z並進モータ)37に対応するものである。指令信号sig1d、駆動信号sig2d、検出信号sig3d、現在の状態θ(t)、ドライバ68d、モータ・エンコーダ69dは、駆動装置(ヨー回転モータ)38に対応するものである。指令信号sig1e、駆動信号sig2e、検出信号sig3e、現在の状態φ(t)、ドライバ68e、モータ・エンコーダ69eは、駆動装置(ロール回転モータ)39に対応するものである。指令信号sig1f、駆動信号sig2f、検出信号sig3f、現在の状態ξ(t)、ドライバ68f、モータ・エンコーダ69fは、駆動装置(ピッチ回転モータ)40に対応するものである。
【0066】
目標位置姿勢変換部60の動作を、図9を用いて説明する。目標位置姿勢変換部60は第1の座標変換手段C1(61)、第2の座標変換手段C2(62)、演算手段63、目標位置姿勢演算手段64を有する。第1の座標変換手段C1(61)はステップS4を実行する。第1の座標変換手段C1(61)は、そのプログラム変数71に設定された状態aにおいて、固定座標系の希望回転中心点座標Pfix(X,Y,Z)を移動座標系の座標p(x,y,z)に変換する。
【0067】
第2の座標変換手段C2(62)はステップS6を実行する。第2の座標変換手段C2(62)は、そのプログラム変数72に設定された状態b(目標位置{x,y,z}、目標姿勢{θ,φ,ξ})になったと仮定して、移動座標系の希望回転中心点の座標p(x,y,z)を固定座標系の座標Pab(X,Y,Z)へと座標変換を行う。演算手段63は、ステップS7を実行し、ΔP=Pab−Pfixを演算する。目標位置姿勢演算手段64は、ステップS8を実行し、補正した患者台1の状態b’における目標位置姿勢{x*,y*,z*,θ*,φ*,ξ*}、すなわち{x−ΔP,y−ΔP,z−ΔP,θ,φ,ξ}を演算する。
【0068】
状態bの与え方は、大きく3つ考えられる。それは、レギュレータ型、サーボ系型及びJOG運転型である。レギュレータ型の与え方とは、最終的に得たい目標姿勢を与える方法である。この場合、状態bは、一連の動作中は変化しない。サーボ系型の与え方とは、途中の通過点(姿勢)も指示する方法である。この場合、状態bは、あらかじめ決められたシーケンスどおり変化する。JOG運転型の与え方とは、JOGレバーにより指示する方法である。この場合、状態bは、JOGレバーが入ったときに一定速度で変化する。JOG運転に関しては、実施の形態3で詳しく述べる。
【0069】
実施の形態1の患者台1は、希望する位置P(希望回転中心点P)及び希望回転角に基づいて、回転駆動と状態aにおける任意の点(希望する位置P)の座標及び状態bにおける任意の点の座標との差を補正して並進させる並進駆動を組み合わせることによって、患者台1の希望する位置Pにおいて回転させることを行うことができる。回転駆動を行う制御入力を行うだけで、希望する位置Pを中心に回転駆動させることができるので、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を効率的に行うことができる。
【0070】
また、患者台1の希望する位置Pを粒子線治療装置の照射中心であるアイソセンタとすることで、患者台1の動きをコンパクトにすることができる。患者台1の動きがコンパクトになるので、治療計画時に策定した位置に合わせる位置決め作業において、患者台1や患者台に固定された患者と粒子線治療装置の患者台1以外の機器等との干渉を起こしにくくすることができる。
【0071】
実施の形態1の患者台1の位置決め方法を実行するプログラムによれば、ベッド、椅子、いずれのタイプを問わず、ハードウエア的な改造や追加工事を行うことなく、既設の患者台に対してであっても適用できる。このように拡張性があるため簡単に、患部を希望する点Pを中心とした回転制御ができ、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を容易にすることができる。その結果、治療準備の時間を大幅に削減することができる。
【0072】
なお、希望回転角は状態bの角度、すなわち絶対角度により与えられる例で説明したが、希望回転角は状態aから状態bへの相対角度により与えられるようにしても構わない。いすれの場合でも、患部を希望回転角に示した姿勢にすることができる。
【0073】
以上のように実施の形態1の駆動式患者台1によれば、設置場所に固定された固定座標系10に対して、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各軸方向に天板8を並進させる並進手段3、4、5と、X軸周りのθ方向、Y軸周りのφ方向、Z軸周りのξ方向の各方向に天板8を回転させる回転手段6、7、8と、入力された希望回転中心点P及び希望回転角に基づいて並進手段3、4、5及び回転手段6、7、8を制御する制御装置とを備え、制御装置は、並進手段3、4、5と回転手段6、7、8の基準状態aから天板8を希望回転角に回転移動させる回転駆動信号を生成する回転駆動信号生成手段と、回転移動によって生ずる希望回転中心点Pの並進移動量を補正するように並進手段3、4、5を並進させる並進駆動信号を生成する並進駆動信号生成手段とを有したので、患部を希望回転中心点Pを中心とした回転制御ができ、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を効率的に行うことができる。
【0074】
実施の形態2.
実施の形態1では、患部を希望回転中心点Pを中心とした回転制御を行う場合で説明したが、患部を希望回転中心点Pでの回転から所定の距離以内で回転させる、すなわち患部を希望回転角で回転させ、移動座標系における希望回転中心点Pが固定座標系から見て所定の距離以内に移動させる場合でも、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を効率的に行うことができる。前述したように、患部の位置決め作業は、この作業中に患部がX線撮像装置の撮像エリア内にあればよいので、例えば患者台1の駆動装置の誤差等による位置ずれ(座標ずれ)やオフセットを設定した目標位置姿勢{x*,y*,z*,θ*,φ*,ξ*}に基づく指令信号sig1a〜sig1fにより駆動装置を制御したとしても、希望回転中心点Pで回転させる位置から所定の距離以内になるように駆動対象20(天板8)を回転させることで患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を効率的に行うことができる。所定の距離は、例えば撮像エリアの外周と患部との距離であり、並進移動量の所定値はこの所定の距離である。
【0075】
オフセットを設定した指令信号sig1a〜sig1fにより駆動装置を制御する場合は、次のような効果がある。例えば、患部がX線撮像装置の撮像画面の下側に映っている場合に、患部を希望回転中心点Pを中心に姿勢を回転させ、患部全体を撮像画面の中央に持っていくことができる。このようにすれば、患部を撮像画面の中央に移動させてから、希望回転中心点Pで回転させるよりも、短い時間で患部を所望の位置に移動することができる。
【0076】
患者台1の駆動装置の誤差等による位置ずれ(座標ずれ)が発生する場合は、図7のステップS1〜ステップS8と同様である。オフセットを設定した指令信号sig1a〜sig1fにより駆動装置を制御する場合を説明する。図10は、実施の形態2による患者台1の制御を説明するブロック図である。実施の形態1の図8とは、制御器34(34b)に、入力部65e、演算手段70が追加され、目標位置姿勢変換部60で演算した目標位置姿勢に{Δx*,Δy*,Δz*,0,0,0}を加算して目標位置姿勢{x*,y*,z*,θ*,φ*,ξ*}を生成する点で異なる。
【0077】
図7のステップS1〜ステップS8までは同様であるが、その後にステップS9を実行する。ステップS9はステップS8で演算した目標位置姿勢{x−ΔP,y−ΔP,z−ΔP,θ,φ,ξ}に、希望回転中心点座標Pfix(X,Y,Z)から前記所定値以下となる偏差P(X,Y,Z)である並進移動量{Δx*,Δy*,Δz*}を加算する。並進移動量{Δx*,Δy*,Δz*}は入力部65eに入力される。演算手段70は、目標位置姿勢変換部60で演算した目標位置姿勢{x−ΔP,y−ΔP,z−ΔP,θ,φ,ξ}に並進移動量{Δx*,Δy
*,Δz*}を加算して目標位置姿勢{x*,y*,z*,θ*,φ*,ξ*}を生成する。出力部67は、生成した目標位置姿勢{x*,y*,z*,θ*,φ*,ξ*}に基づいて指令信号sig1a〜sig1fを、それぞれ6軸の駆動装置35〜40(図11参照)に出力する。
【0078】
以上のように各患者台構成部品3〜5の駆動装置35〜40の制御器への補正量は、Pab(X,Y,Z)−Pfix(X,Y,Z)+P(X,Y,Z)となる。制御器34(34b)は、回転駆動前である患者台の状態aから駆動目標(姿勢目標)である患者台の状態bに回転させる希望回転角に基づいて、回転手段の回転駆動信号を生成し、ステップS7で演算された差Pab(X,Y,Z)−Pfix(X,Y,Z)から前記所定値以下となるように補正して並進手段を並進させる並進駆動信号を生成する。
【0079】
患部を希望回転中心点Pでの回転から所定の距離以内で回転させることは、結果的に他の回転中心点(見かけの回転中心点)で回転させることと等価な場合がある。以下に説明する。1座標系で表された座標をq、2座標系で表された座標をq、θ回転後の並進をa(べクトル)とする。1座標系をθ回転させその後にa並進させれば2座標系に重なる位置関係なので、(18)式のように表わせる。
=R(θ)q+a ・・・(18)
ただし、R(θ)は回転行列である。
【0080】
見かけの回転中心点が存在すれば、見かけの回転中心点は不動点であるため、すなわち1座標系でも2座標系でも同じ座標で表わすことができるので、不動点の座標qfixは以下のように求めることができる。(18)式のq、qにqfixを代入し、変形すると(19)式が得られる。
(I−R(θ))qfix=a ・・・(19)
ただし、Iは単位行列である。(I−R(θ))の逆行列(I−R(θ))−1が存在する場合は、不動点の座標qfixは(20)式のように表わせる。
fix=(I−R(θ))−1a ・・・(20)
【0081】
例えば、Z軸を中心軸として回転させ、Z方向に並進することを考えると、(I−R(θ))−1が存在しないので不動点の座標qfixを求めることはできない。しかし、回転と並進が2次元平面に限られ、かつ、回転角度が0でないときに限り、不動点が存在する。不動点が存在する場合は、患部を見かけの回転中心点で回転させることができる。
【0082】
実施の形態2の患者台1は、希望回転中心点P及び希望回転角に基づいて、天板8の回転駆動と天板8を希望回転角に回転移動させることによって生ずる希望回転中心点Pの並進移動量が所定値以下となるように並進させる並進駆動とを組み合わせて駆動し、希望回転中心点Pでの回転から所定の距離以内で患者台1を自動回転させることができる。したがって、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を効率的に行うことができる。
【0083】
実施の形態2の患者台1の位置決め方法を実行するプログラムによれば、実施の形態1と同様に、ベッド、椅子、いずれのタイプを問わず、ハードウエア的な改造や追加工事を行うことなく、既設の患者台に対してであっても適用できる。このように拡張性があるため簡単に、希望回転中心点Pでの回転から所定の距離以内で患者台1を自動回転させることができる。したがって、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を容易に行うことができる。その結果、治療準備の時間を大幅に削減することができる。
【0084】
以上のように実施の形態2の駆動式患者台1によれば、設置場所に固定された固定座標系10に対して、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各軸方向に天板8を並進させる並進手段3、4、5と、X軸周りのθ方向、Y軸周りのφ方向、Z軸周りのξ方向の各方向に天板8を回転させる回転手段6、7、8と、入力された希望回転中心点P及び希望回転角に基づいて並進手段3、4、5及び回転手段6、7、8を制御する制御装置とを備え、制御装置は、並進手段3、4、5と回転手段6、7、8の基準状態aから天板8を希望回転角に回転移動させる回転駆動信号を生成する回転駆動信号生成手段と、回転移動によって生ずる希望回転中心点Pの並進移動量が所定値以下となるように並進手段3、4、5を並進させる並進駆動信号を生成する並進駆動信号生成手段とを有したので、希望回転中心点Pでの回転から所定の距離以内で駆動式患者台1を自動回転させることができ、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を効率的に行うことができる。
【0085】
実施の形態3.
本発明の実施の形態3は、実施の形態1で示したプログラムを組み込んだ、制御装置である患者台コントローラを備えた患者台である。患者台コントローラは、従来、吊り下げられた患者台操作端末、いわゆるペンダント型の患者台操作端末を有していた。
【0086】
図11は、実施の形態3による患者台コントローラを示す図であり、図12は、実施の形態3によるペンダント型の患者台操作端末の外観図である。図12(a)は鳥瞰図、図12(b)は正面図、図12(c)は断面図である。図11及び図12に基づいて、本発明の実施の形態3による患者台のコントローラについて説明する。
【0087】
患者台コントローラ29は患者台操作端末30と制御器34を有する。患者台操作端末30で操作された信号情報は、制御器34に入力される。制御器34には実施の形態1で示したプログラムが組み込まれている。制御器34は、患者台構成部品3〜8を駆動する駆動装置35〜40に制御信号を出力する。駆動装置(X並進モータ)35は、患者台構成部品(X並進部品)3を駆動する。駆動装置(Y並進モータ)36は、患者台構成部品
(Y並進部品)5を駆動する。駆動装置(Z並進モータ)37は、患者台構成部品(Z並進部品)4を駆動する。駆動装置(ヨー回転モータ)38は、患者台構成部品(ヨー回転部品)6を駆動する。駆動装置(ロール回転モータ)39は、患者台構成部品(ロール回転部品)7を駆動する。駆動装置(ピッチ回転モータ)40は、患者台構成部品(ピッチ回転部品)8を駆動する。
【0088】
患者台操作端末30は、ペンダント型で携帯可能な大きさの患者台1の操作端末である。患者台操作端末30により、患者台1の位置と姿勢を制御する。非常停止ボタン31は、非常時に使用する停止ボタンである。非常停止ボタン31を押すことにより、患者台1のすべての動きを安全に停止させることができる。ハードワイヤスイッチ32は、物理的に配線を切断及び接続することによって状態を切り替える回路方式のスイッチである。ハードワイヤスイッチ32により、患者台1は、操作者が患者台操作端末30を握っているときのみに駆動が可能となり、手を離したときには動きが停止するように設計する。JOG運転モード用の入力器であるレバー33は、JOG運転モードのときに使用するレバースイッチである。レバー33は、物理的に配線を切断及び接続することによって3状態(停止、第1方向移動、第1方向と逆方向である第2方向移動)を切り替える回路方式のスイッチである。レバー操作を用いることで、患者台操作端末30を見ることなく、患者台や患者の動きを見ながら操作できるので、操作性が向上でき、安全な操作ができる。3つのJOG運転モード用のレバー33a、33b、33cは、それぞれX軸用、Y軸用、Z軸用である。3つのJOG運転モード用のレバー33d、33e、33fは、それぞれヨー回転軸用、ロール回転軸用、ピッチ回転軸用である。3つのJOG運転モード用のレバー33g、33h、33iは、それぞれ後述する新たなJOG運転モードにおける新ヨー回転用、新ロール回転用、新ピッチ回転用である。運転モードについては、次の段落で詳しく説明する。
【0089】
本発明の実施の形態3の患者台コントローラ29において、運転モードは、大きく分けて、自動運転モードとJOG運転モードとがある。自動運転モードは、所望する患者台の状態を、ボタンスイッチ等の入力器により数値として入力し、運転開始を指示すると患者台1がその所望の状態に駆動制御される。一方、JOG運転モードは、駆動軸(装置)ごとに割振られた前記JOG運転モード用のレバー33を、入れることにより、対応した軸が駆動される。例えば、X軸用のJOG運転モード用のレバー33aを上に倒すと、X並進部品3はXの正方向に並進し、反対に下に倒すと、負方向に並進する、というようになる。回転方向に関しても同様に、例えば、ヨー回転用のJOG運転モード用のレバー33dを上に倒すと、ヨー回転部品6はヨー回転の正方向に回転し、反対に下に倒すと、負方向に回転する。JOG運転モード用のレバー33による入力は制御器34に入力され、制御器34にてレバー33を接続状態にしている間はあらかじめ設定しておいた一定速度で駆動するように制御信号を対応する軸の駆動装置に出力する。ただし、制御器34は、レバー33による入力が各軸の駆動範囲をこえる場合は、上限または下限となる制御信号を出力する。結果としてレバー33a、33b、33cの接続時間の長さによって、並進移動量が決まり、レバー33d、33e、33fの接続時間の長さによって、回転移動量が決まる。
【0090】
本発明の実施の形態3の患者台コントローラ29は、上記の自動運転モード及びJOG運転モードのほか、あらたな自動運転モードとあらたなJOG運転モードとを備える。あらたな自動運転モードは、実施の形態1のプログラムを用いて、所望する患者台の姿勢をボタンスイッチ等の入力器により数値入力し運転開始指示をすると、アイソセンタを中心にヨー回転、ロール回転、ピッチ回転するように患者台1を制御し、その結果、駆動の前後で天板8上でのアイソセンタの位置が変わらないよう、患者台1が駆動制御される。あらたなJOG運転モードは、実施の形態1のプログラムを用いて、回転駆動軸(装置)ごとに割振られたJOG運転モード用のレバー33g、33h、33iを操作する。レバー
33g、33h、33iを倒している間は、あらかじめ設定しておいた一定角速度で、対応する軸まわりに患者台1の対応部分が回転する。すなわち、レバー33g、33h、33iを入れることにより、対応した回転方向に、あたかも着目点(例えばアイソセンタ)を中心として、患者台1が駆動制御される。その結果、常に天板8上での着目点(例えばアイソセンタ)、すなわち希望する点22の位置が変わらないよう、患者台1が駆動制御される。
【0091】
本発明の実施の形態3の患者台コントローラ29によれば、ベッド、椅子、いずれのタイプを問わず、ハードウエア的な改造や追加工事を行うことなく、既設の患者台に対してであっても適用できる。このように拡張性があるため簡単に、操作性よく患部を希望する点Pを中心として回転制御できる。また、回転制御の希望する中心点Pをアイソセンタにすることで、常に天板8上のアイソセンタを変えずに患者台1の姿勢をJOG運転できるため、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を容易にすることができる。その結果、治療準備の時間を大幅に削減することができる。
【0092】
実施の形態3の患者台コントローラ29を備えた患者台1は、回転駆動と並進駆動を組み合わせた位置決め方法を実行するので、操作性よく患部を希望する点Pを中心として回転制御できる。また、回転制御の希望する中心点Pをアイソセンタにすることで常に天板8上のアイソセンタを変えずに患者台1の姿勢を自動運転またはJOG運転できるため、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を容易にすることができる。その結果、治療準備の時間を大幅に削減することができる。
【0093】
なお、回転制御の希望する中心点Pは、プログラムで予め決められていても良いが、患者台操作端末30からのボタン操作により変更できるようにしていてもよい。例えば、回転制御の希望する中心点Pして、アイソセンタの他に患者毎のランドマーク等の位置情報がプログラム中にパラメータ登録され、この位置情報を切替えて使用する。
【0094】
また、実施の形態1で示したプログラムを制御器34に組み込んだ例で説明したが、制御器34は患者台操作端末30に内蔵されていても構わない。
【0095】
実施の形態4.
本発明の実施の形態4は、実施の形態2で示したプログラムを組み込んだ、制御装置である患者台コントローラを備えた患者台である。実施の形態4による患者台コントローラは、実施の形態3による患者台コントローラ(図11、図12)と同様である。あらたな自動運転モードとあらたなJOG運転モードについて説明する。
【0096】
あらたな自動運転モードは、実施の形態2のプログラムを用いて、所望する患者台の姿勢をボタンスイッチ等の入力器により数値入力し運転開始指示をすると、希望回転中心点Pを中心にヨー回転、ロール回転、ピッチ回転するように患者台1を制御し、その結果、希望回転中心点Pでの回転から所定の距離以内になるように患者台1が駆動制御される。あらたなJOG運転モードは、実施の形態2のプログラムを用いて、回転駆動軸(装置)ごとに割振られたJOG運転モード用のレバー33g、33h、33iを操作する。レバー33g、33h、33iを入れることにより、対応した回転方向に患部の姿勢が回転し、患部の位置が希望回転中心点Pで回転させる位置から所定の距離以内になるように、患者台1は駆動制御される。通常、患者台1の駆動装置の誤差等による位置ずれ(座標ずれ)距離は短いので、患者台1の駆動装置の誤差等による位置ずれ(座標ずれ)が発生しても、JOG運転モードによる位置決め作業に支障はない。
【0097】
本発明の実施の形態4の患者台コントローラ29によれば、実施の形態3と同様にベッド、椅子、いずれのタイプを問わず、ハードウエア的な改造や追加工事を行うことなく、
既設の患者台に対してであっても適用できる。このように拡張性があるため簡単に、希望回転中心点Pでの回転から所定の距離以内で患者台1を自動回転させることができる。したがって、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を容易に行うことができる。その結果、治療準備の時間を大幅に削減することができる。
【0098】
実施の形態4の患者台コントローラ29を備えた患者台1は、実施の形態3と同様に回転駆動と並進駆動を組み合わせた位置決め方法を実行するので、操作性よく患部の姿勢を回転でき、患部の位置を希望回転中心点Pで回転させる位置から所定の距離以内になるように制御できる。患者台1の姿勢を自動運転またはJOG運転できるため、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を容易にすることができる。その結果、治療準備の時間を大幅に削減することができる。
【0099】
オフセットを設定した制御信号により駆動装置を自動運転により制御する場合は、オフセットを患者台操作端末30からのボタン操作により変更できるようにすることで、例えば、患部がX線撮像装置の撮像画面の下側に映っている場合に、患部を希望回転中心点Pを中心に姿勢を回転させ、患部全体を撮像画面の中央に持っていく等の操作を操作性よく行うことができる。このようにすれば、患部を撮像画面の中央に移動させてから、希望回転中心点Pで回転させるよりも、短い時間で患部を所望の位置に移動することができる。
【0100】
なお、実施の形態3同様に、回転制御の希望する中心点Pは、プログラムで予め決められていても良いが、患者台操作端末30からのボタン操作により変更できるようにしていてもよい。また、制御器34は患者台操作端末30に内蔵されていても構わない。
【0101】
実施の形態5.
実施の形態1乃至4においては、駆動式患者駆動台1の回転駆動信号と並進駆動信号を、すなわち駆動式患者台1への指令信号sig1a〜sig1fの指令値をどのように生成すれば希望回転中心点Pでの回転が実現できるかについて述べた。実施の形態1乃至4においては、制御器34で生成した回転駆動信号と並進駆動信号とを、フィードフォワード制御信号として用いる。実施の形態5においては、まったく別のアプローチをとる。
【0102】
実施の形態5では、フィードバック制御を行って当該課題を解決する。以下、図13に基づいて具体的に示す。図13は実施の形態5による患者台1の制御を説明するブロック図である。実施の形態1の図8とは、制御器34(34c)に、調整部73(73a)が追加され、調整部73(73a)から出力される差分指令信号sig4a〜sig4fにより駆動装置35〜40を制御する点で異なる。前述したように、通常、エンコーダ等の検出信号はモータドライバにフィードバックされ、モータの制御はドライバが行っている。本発明の実施の形態5では、エンコーダ等の検出信号を、制御器34(34c)に入力し、制御器34(34c)によりモータを制御する。
【0103】
実施の形態1乃至4と同様の方法で求めた目標位置姿勢{x*,y*,z*,θ*,φ*,
ξ*}に対して、制御器34(34c)の調整部73(73a)で現在の患者台1の状態
x(t)〜ξ(t)(位置姿勢)と比較して、誤差に応じてトルク指令等の差分指令信号sig4a〜sig4fの指令値を生成すればよい。これにより実施の形態1乃至4と同様の効果を得られる。
【0104】
調整部73(73a)は、駆動装置(モータ)35〜40に対応して、伝達関数74a〜74fを有するフィードバック系を備える。各フィードバック系には、目標位置姿勢{x*,y*,z*,θ*,φ*,ξ*}を実現するための信号と、現在の患者台1の状態x(t)〜ξ(t)を検出した検出信号sig3a〜sig3fが入力される。ここで、図13において、図8から追加された符号は以下の通りである。伝達関数74a、差分指令信号sig4aは駆動装置(X並進モータ)35に対応するものである。伝達関数74b、差分指令信号sig4bは駆動装置(Y並進モータ)36に対応するものである。伝達関数74c、差分指令信号sig4cは駆動装置(Z並進モータ)37に対応するものである。伝達関数74d、差分指令信号sig4dは駆動装置(ヨー回転モータ)38に対応するものである。伝達関数74e、差分指令信号sig4eは駆動装置(ロール回転モータ)39に対応するものである。伝達関数74f、差分指令信号sig4fは駆動装置(ピッチ回転モータ)40に対応するものである。
【0105】
制御器34において、トルク指令等の指令値を生成する部分において、不感帯を設定することが考えられる。図14は実施の形態5による患者台1の制御を説明する他のブロック図である。図13とは、制御器34(34d)の調整部73(73b)における伝達関数が、不感帯が設定された伝達関数75a〜75fである点で異なる。不感帯を設定したP制御の場合は次の数式に示すとおりである。数式(21)は、伝達関数75aの特性であり、駆動装置(X並進モータ)35のP制御に不感帯を設ける例である。
【0106】
【数18】


ただし、Kは比例ゲイン、εは不感帯の大きさを決めるパラメータである。不感帯を設けることにより、モータのチャタリングを防止することができる。
【0107】
駆動装置(X並進モータ)35以外の他の駆動装置36〜40についても、数式(21)と同様にP制御に不感帯を設ける。駆動装置(Y並進モータ)36に対応する伝達関数75bの特性を示す数式は、数式(21)のxをyに変えたものを用いることができる。駆動装置(Z並進モータ)37に対応する伝達関数75cの特性を示す数式は、数式(21)のxをzに変えたものを用いることができる。駆動装置(ヨー回転モータ)38に対応する伝達関数75dの特性を示す数式は、数式(21)のxをθに変えたものを用いることができる。駆動装置(ロール回転モータ)39に対応する伝達関数75eの特性を示す数式は、数式(21)のxをφに変えたものを用いることができる。駆動装置(ピッチ回転モータ)40に対応する伝達関数75fの特性を示す数式は、数式(21)のxをξに変えたものを用いることができる。
【0108】
なお、実施の形態5の説明は、実施の形態1の図8から変更した図13及び図14を用いて説明したが、実施の形態2の図10から変更したものにも適用できる。図10の出力部67から患者台1への制御を、図13及び図14の出力部67から患者台1への制御に変えたものを用いる。これにより実施の形態2及び4と同様の効果を得られる。
【0109】
以上のよう構成したので、実施の形態5による患者台1、患者台1の位置決め方法を実行するプログラム、患者台コントローラ29は、希望回転中心点Pでの回転から所定の距離以内で駆動式患者台1を自動回転させることができ、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を効率的に行うことができる。
【0110】
実施の形態6.
実施の形態6では、実施の形態5より更に変則的な方法を示す。実施の形態6では、患者台1の姿勢と位置の制御を分けて行う。患者台1の目標姿勢は、明示的に与えられる。したがって、患者台1の姿勢の制御は、従来技術のとおり独立して行えばよい。問題は、患者台の位置の制御である。その方法を以下に示す。
【0111】
制御器34は、エンコーダ等の検出信号sig3a〜sig3fより、現時刻での患者台の実際の状態{x(t),y(t),z(t),θ(t),φ(t),ξ(t)}を把握する。ここで、制御器34は、数式(13)に表される「天板に固定された座標系oobj」(移動座標系)から「治療室に固定された座標系Ofix」(固定座標系)への座標変換手段C2(第2の座標変換手段)を有しているため、天板上のある位置が、治療室上のどの位置にあるかを常に計算することができる。
【0112】
希望回転中心点の入力に関しては、実施の形態1乃至5とまったく同様である。制御器34は、駆動する前の(状態aの)希望回転中心点の移動座標系での座標p及び固定座標系での座標Pfixが入力されている。状態bは、患者台の目標姿勢を入力するかわりに、現時刻での状態を入力する。
【0113】
制御器34は、現時刻での患者台の状態{x(t),y(t),z(t),θ(t),φ(t),ξ(t)}と、初期状態(状態a)での移動座標系での希望回転中心点の座標pから、現時刻(状態b)での固定座標系での希望回転中心点の位置座標Pabを計算する。さらに、制御器34は、この現時刻(状態b)での固定座標系での希望回転中心点の位置座標と初期状態(状態a)での固定座標系での座標Pfixとの差分を計算し、この差分の絶対値が所定の値以下となるよう、患者台の並進駆動信号を補正する。
【0114】
以上のよう構成したので、実施の形態6による患者台1、患者台1の位置決め方法を実行するプログラム、患者台コントローラ29は、希望回転中心点Pでの回転から所定の距離以内で駆動式患者台1を自動回転させることができ、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を効率的に行うことができる。
【0115】
実施の形態7.
本発明の実施の形態7は、実施の形態1乃至6に示した患者台1を備えた粒子線治療装置である。図15は本発明の実施の形態7における粒子線治療装置の概略構成図である。粒子線治療装置51は、イオンビーム発生装置52と、イオンビーム輸送系59と、粒子線照射装置58a、58bと、患者を載せて固定する患者台1a、1bとを備える。イオンビーム発生装置52は、イオン源(図示せず)と、前段加速器53と、シンクロトロン54とを有する。粒子線照射装置58bは回転ガントリー(図示せず)に設置される。粒子線照射装置58aは回転ガントリーを有しない治療室に設置される。イオンビーム輸送系59の役割はシンクロトロン54と粒子線照射装置58a、58bの連絡にある。イオンビーム輸送系59の一部は回転ガントリー(図示せず)に設置され、その部分には複数の偏向電磁石55a、55b、55cを有する。
【0116】
イオン源で発生した陽子線等の粒子線である荷電粒子ビームは、前段加速器53で加速され、シンクロトロン54に入射される。荷電粒子ビームは、所定のエネルギーまで加速される。シンクロトロン54から出射された荷電粒子ビームは、イオンビーム輸送系9を経て粒子線照射装置58a、58bに輸送される。粒子線照射装置58a、58bは荷電粒子ビームを患者台1a、1bに載せられた患者の照射対象(図示せず)に照射する。なお、図10において、患者台1aは椅子タイプであり、患者台1bはベッドタイプである。
【0117】
実施の形態7の粒子線治療装置51は、回転駆動と並進駆動を組み合わせた位置決め方法が実行される患者台1を備えたので、患部の位置と姿勢を治療計画時に策定したものに合わせる位置決め作業を効率的にすることができる。その結果、治療準備の時間を大幅に削減することができる。また、粒子線治療装置のスループットを向上させることができる。
【0118】
なお、実施の形態1乃至6に示した駆動式患者台、駆動式患者台の制御装置、駆動式患者台制御用プログラムは、粒子線治療装置に限らず、X線等を照射する放射線治療装置にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明に係る駆動式患者台、駆動式患者台の制御装置、駆動式患者台制御用プログラムは、医療用や研究用に用いられる放射線治療装置や粒子線治療装置に好適に適用できる。本発明に係る粒子線治療装置は、医療用や研究用に用いられる粒子線治療装置に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0120】
1 駆動式患者台(患者台) 1a 駆動式患者台(患者台)
1b 駆動式患者台(患者台) 2 床面
3 患者台構成部品(X並進部品) 4 患者台構成部品(Z並進部品)
5 患者台構成部品(Y並進部品) 6 患者台構成部品(ヨー回転部品)
7 患者台構成部品(ロール回転部品)
8 患者台構成部品(ピッチ回転部品、天板)
10 座標系 14 座標系
29 患者台コントローラ 33 JOG運転モード用のレバー
33g 新ヨー回転用のレバー 33h 新ロール回転用のレバー
33i 新ピッチ回転用のレバー 51 粒子線治療装置
52 イオンビーム発生装置 54 シンクロトロン
58 粒子線照射装置 58a 粒子線照射装置
58b 粒子線照射装置 59 イオンビーム輸送系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射対象に照射する際に、前記照射対象を固定する天板を有する駆動式患者台であって、
当該駆動式患者台が設置される設置場所に固定された固定座標系に対して、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各軸方向に前記天板を並進させる並進手段と、
前記X軸周りのθ方向、前記Y軸周りのφ方向、前記Z軸周りのξ方向の各方向に前記天板を回転させる回転手段と、
入力された希望回転中心点及び希望回転角に基づいて前記並進手段及び前記回転手段を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記並進手段と前記回転手段の基準状態から前記天板を前記希望回転角に回転移動させる回転駆動信号を生成する回転駆動信号生成手段と、前記回転移動によって生ずる前記希望回転中心点の並進移動量が所定値以下となるように前記並進手段を並進させる並進駆動信号を生成する並進駆動信号生成手段と、
を有した駆動式患者台。
【請求項2】
前記並進駆動信号生成手段は、前記回転移動によって生ずる前記希望回転中心点の並進移動量を補正するように前記並進手段を並進させる並進駆動信号を生成することを特徴とする請求項1記載の駆動式患者台。
【請求項3】
前記並進駆動信号生成手段は、
前記基準位置状態の時の前記固定座標系における前記希望回転中心点の座標Pfixを、前記天板に固定された移動座標系へ座標変換した座標pを生成する手段と、
前記座標pが前記天板と共に前記希望回転角に回転移動したと仮定したときの座標を前記固定座標系で見た場合の座標Pabへと変換する手段と、
前記並進手段の各軸方向の移動量を、前記座標Pfixと座標Pabとの差から前記所定値以下となるような並進駆動信号を生成する手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の駆動式患者台。
【請求項4】
前記並進駆動信号生成手段は、
前記基準位置状態の時の前記固定座標系における前記希望回転中心点の座標Pfixを、前記天板に固定された移動座標系へ座標変換した座標pを生成する手段と、
前記座標pが前記天板と共に前記希望回転角に回転移動したと仮定したときの座標を前記固定座標系で見た場合の座標Pabへと変換する手段と、
前記並進手段の前記各軸方向の移動量を、前記座標Pfixと座標Pabとの差を補正するような並進駆動信号を生成する手段と、
を備えたことを特徴とする請求項2記載の駆動式患者台。
【請求項5】
前記制御装置は、前記照射対象の希望回転角を数値により入力する入力器を有する患者台操作端末を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の駆動式患者台。
【請求項6】
前記制御装置は患者台操作端末を備え、
前記患者台操作端末は、前記回転手段の回転軸に対応する入力器を有し、前記入力器を接続状態にしているときのみ前記並進手段及び前記回転手段を駆動することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の駆動式患者台。
【請求項7】
放射線を照射対象に照射する際に、前記照射対象を固定する天板を有する駆動式患者台を駆動する制御信号をコンピュータによって生成する駆動式患者台制御用プログラムであって、
前記駆動式患者台は、設置される設置場所に固定された固定座標系に対して、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の各軸方向に前記天板を並進させる並進手段と、
前記X軸周りのθ方向、前記Y軸周りのφ方向、前記Z軸周りのξ方向の各方向に前記天板を回転させる回転手段とを有し、
当該駆動式患者台制御用プログラムは、入力された希望回転中心点及び希望回転角に基づいて、前記並進手段と前記回転手段の基準状態から前記天板を前記希望回転角に回転移動させる回転駆動信号を前記回転手段へ出力する回転駆動信号生成手段と、
前記回転移動によって生ずる前記希望回転中心点の並進移動量が所定値以下となるように前記並進手段を並進させる並進駆動信号を前記並進手段へ出力する並進駆動信号生成手段として機能させるための駆動式患者台制御用プログラム。
【請求項8】
前記並進駆動信号生成手段は、前記回転移動によって生ずる前記希望回転中心点の並進移動量を補正するように前記並進手段を並進させる並進駆動信号を前記並進手段へ出力することを特徴とする請求項7記載の駆動式患者台制御用プログラム。
【請求項9】
前記並進駆動信号生成手段は、
前記基準位置状態の時の前記固定座標系における前記希望回転中心点の座標Pfixを、前記天板に固定された移動座標系へ座標変換した座標pを生成する手順と、
前記座標pが前記天板と共に前記希望回転角に回転移動したと仮定したときの座標を前記固定座標系で見た場合の座標Pabへと変換する手順と、
前記並進手段の前記各軸方向の移動量を、前記座標Pfixと座標Pabとの差から前記所定値以下となるような並進駆動信号を生成する手順と、
を実行させるための請求項7記載の駆動式患者台制御用プログラム。
【請求項10】
前記並進駆動信号生成手段は、
前記基準位置状態の時の前記固定座標系における前記希望回転中心点の座標Pfixを、前記天板に固定された移動座標系へ座標変換した座標pを生成する手順と、
前記座標pが前記天板と共に前記希望回転角に回転移動したと仮定したときの座標を前記固定座標系で見た場合の座標Pabへと変換する手順と、
前記並進手段の前記各軸方向の移動量を、前記座標Pfixと座標Pabとの差を補正するような並進駆動信号を生成する手順と、
を実行させるための請求項8記載の駆動式患者台制御用プログラム。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか1項に記載の駆動式患者台制御用プログラムを搭載した駆動式患者台の制御装置であって、
前記照射対象の希望回転角を数値により入力する入力器を有する患者台操作端末を備えたことを特徴とする駆動式患者台の制御装置。
【請求項12】
請求項7乃至10のいずれか1項に記載の駆動式患者台制御用プログラムを搭載した駆動式患者台の制御装置であって、
前記回転手段の回転軸に対応する入力器を有し、前記入力器を接続状態にしているときのみ前記並進手段及び前記回転手段を駆動することを特徴とする駆動式患者台の制御装置。
【請求項13】
荷電粒子ビームを発生させ、加速器により所定のエネルギーまで加速するイオンビーム発生装置と、前記イオンビーム発生装置により加速された荷電粒子ビームを輸送するイオンビーム輸送系と、前記イオンビーム輸送系で輸送された荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置と、前記照射対象を固定する天板を有する駆動式患者台とを備え、前記駆動式患者台は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の駆動式患者台であることを特徴とする粒子線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−182868(P2011−182868A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49150(P2010−49150)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】