説明

駆動装置、ロボット装置及び駆動方法

【課題】伝達するトルクの許容値を正確に設定する。
【解決手段】被移動物体を移動させるアーム部を駆動する駆動装置であって、アーム部を構成するリンク部を駆動する駆動力を発生する駆動部と、アーム部の関節部に配置され、駆動部によって発生された駆動力を駆動部からリンク部に伝達するとともに、リンク部に伝達される駆動力の許容値が可変であって、リンク部に伝達される駆動力を許容値に基づいて制限するトルク制限部と、リンク部に与えられる力に基づいて駆動力の許容値を算出する制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置、ロボット装置及び駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば工業分野に限られず、医療や福祉などの広い産業分野において、作業者の負担軽減等を目的として、ロボット装置が用いられている。ロボット装置の構成として、例えばアーム部を構成する複数のリンク部(被駆動体)が連結され、連結部(関節部)を中心としてリンク部が回転する構成が知られている。リンク部の連結部には、駆動力を伝達する動力伝達機構が設けられている。また、リンク部の先端には、例えば物や人などの被移動物体に接触可能で被移動物体を把持したり押圧したりする手先部が設けられている。
【0003】
このようなロボット装置は、例えば重量物である被移動物体を支持したり、所定の位置へ移動したりするなどの動作をする際のパワー及び精度を求められる。そのため、ロボット装置のアーム部には高い剛性が不可欠となる。一方で、例えばロボット装置がアーム部を移動させる動作を行う場合、ロボット装置周囲の人や物に、アーム部の一部(リンク部など)が衝突する場合が想定されうる。このような場合、アーム部が破損したり、衝突された人や物が損傷したりするおそれがあるため、アーム部や連結部には一定の柔軟性が求められる。従って、ロボット装置は、剛性及び柔軟性という相反的な性質を兼ね備えていることを求められる。
【0004】
このようなロボット装置を実現するため、例えば、アーム部の連結部の動力伝達機構を機械構造的に柔軟にする構成が知られている(例えば、特許文献1参照。)。例えば、ばねなどの弾性体や磁性流体などを用いて、伝達するトルクの許容値を制限するトルク制限機構が知られている。このようなトルク制限機構は、許容値を超える外力が連結部に加わった場合に、連結部をすべらせることにより、リンク部や衝突された人や物の損傷を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−241462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようなロボット装置は、トルクの許容値が小さければ連結部の剛性が不足して被移動物体を移動させることができなくなり、トルクの許容値が大きければ連結部の柔軟性が不足して衝突時の損傷を低減することができなくなることがある。したがって、ロボット装置は、アーム部の動作に必要なトルクに応じて、トルクの許容値を正確に設定することが求められる。しかしながら、例えば、上述のようなロボット装置は、伝達するトルクがリンク部(ひいてはアーム部)の姿勢変化に対応して変化するため、伝達するトルクに応じたトルクの許容値を正確に設定できない場合があるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、伝達するトルクの許容値を正確に設定することができる駆動装置、及びロボット装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、被移動物体を移動させるアーム部を駆動する駆動装置であって、前記アーム部を構成するリンク部を駆動する駆動力を発生する駆動部と、前記アーム部の関節部に配置され、前記駆動部によって発生された前記駆動力を前記駆動部から前記リンク部に伝達するとともに、前記リンク部に伝達される前記駆動力の許容値が可変であって、前記リンク部に伝達される前記駆動力を前記許容値に基づいて制限するトルク制限部と、前記リンク部に与えられる力に基づいて前記駆動力の許容値を算出する制御部とを備えることを特徴とする駆動装置である。
【0009】
また、本発明の一実施形態は、上述の実施形態における駆動装置と、前記アーム部とを備えることを特徴とするロボット装置である。
【0010】
また、本発明の一実施形態は、被移動物体を移動させるアーム部と、前記アーム部のうちのリンク部を駆動する駆動力を発生する駆動部と、前記アーム部における複数の関節部に配置され、前記駆動部によって発生された前記駆動力を前記駆動部から前記リンク部に伝達するとともに、前記リンク部に伝達される前記駆動力の許容値が可変であって、前記リンク部に伝達される前記駆動力を前記許容値に基づいて制限するトルク制限部と、前記リンク部に与えられる力に基づいて算出した前記許容値を前記トルク制限部に設定する制御部とを備えることを特徴とするロボット装置である。
【0011】
また、本発明の一実施形態は、被移動物体を移動させるアーム部と、前記アーム部のうちのリンク部を駆動する駆動力を発生する駆動部と、前記アーム部における複数の関節部に配置され、前記駆動力を前記駆動部から前記リンク部に伝達するとともに、前記リンク部に伝達される前記駆動力の許容値が可変であって、前記リンク部に伝達される前記駆動力を前記許容値に基づいて制限するトルク制限部と、前記リンク部の手先部に与えられる力を算出する手段と、算出された前記手先部に与えられる力をもとに前記許容値を前記関節部ごとに算出する手段と、を有する制御部とを備えることを特徴とするロボット装置である。
【0012】
また、本発明の一実施形態は、ロボット装置が備えるアーム部を構成するリンク部のうち被移動物体に接触可能な手先部に与えられる力を算出する第1ステップと、前記第1ステップにおいて算出された当該力に基づいて、前記手先部が前記被駆動物体から与えられることが許容される力の最大値を算出する第2ステップと、前記第2ステップにおいて算出された当該最大値に基づいて、前記アーム部の関節部に配置されるトルク制限部における駆動力の許容値を算出する第3ステップと、を有することを特徴とするトルク制限部における許容値の算出方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、駆動装置は、伝達するトルクの許容値を正確に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る駆動装置の構成の一例を示す構成図である。
【図2】本実施形態における関節部(第2関節部)の構成の一例を示す構成図である。
【図3】本実施形態における関節部(第1関節部)の構成の一例を示す構成図である。
【図4】本実施形態におけるトルク制限部の構成の一例を示す断面図である。
【図5】本実施形態における駆動力の伝達経路の一例を示す断面図である。
【図6】本実施形態におけるオイラーの原理に基づく摩擦係数μを変化させたときの有効巻き付き角θと伝達効率の値との関係を示すグラフである。
【図7】本実施形態における駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図8】本実施形態における駆動装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図9】本実施形態における手先部の位置に基づいて許容値を設定する駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図10】本実施形態における複数の関節部に検出部を備える駆動装置の構成の一例を示す構成図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る駆動装置の構成の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る一例としての駆動装置10の構成を示す構成図である。
図1に示すように、本実施形態の駆動装置10は、ロボット装置90に備えられており、ロボット装置90のアーム部(アーム)91を駆動する。アーム部91は、被移動物体WKを移動させる。アーム部91は、複数のリンク部(リンク)で構成され、本実施形態においては、第1リンク部91a及び第2リンク部91bを備えている。なお、本実施形態におけるロボット装置90は、例えば、複数のリンク部(例、第1リンク部91a及び第2リンク部91b)を備える多軸(例、6軸)の多関節ロボット装置などに適用することが可能である。
第1リンク部91aは、一端が関節部94(本実施形態においては、第1関節部94a)を介してロボット装置90の台座部93に連結されており、他端が関節部94(本実施形態においては、第2関節部94b)を介して第2リンク部91bの一端に連結されている。
第2リンク部91bは、一端が関節部94(本実施形態においては、第2関節部94b)を介して第1リンク部91aに連結されており、他端に被移動物体に接触可能な手先部92と、手先部92に加わる力を検出する検出部30(本実施形態においては、30c)とを備えている。
手先部92は、被移動物体WKを、例えば把持し又は押圧して被移動物体WKを移動させる。
検出部30(本実施形態においては、検出部30c)は、被移動物体WKからアーム部91(又はリンク部)に与えられる力Fを検出する。また、検出部30は、例えば力センサであって、第2リンク部91bの端部(先端部)である手先部92の取り付け部に備えられる。検出部30は、例えば、手先部92が被移動物体WKを把持したり押圧したりすることによって手先部92に与えられる力Fを検出する。
このように、本実施形態のロボット装置90は、台座部93、第1関節部94a、第1リンク部91a、第2関節部94b、第2リンク部91bの順に連結されている。ロボット装置90は、第2リンク部91bの先端部に備えられる手先部92によって、被移動物体WKを移動させる。
【0016】
また、駆動装置10は、駆動部20(本実施形態においては、駆動部20a及び駆動部20b)と、トルク制限部50と、制御部60とを備えている。
駆動部20(駆動部20a及び駆動部20b)は、被移動物体WKを移動させるアーム部91(第1リンク部91a及び第2リンク部91b)を駆動する駆動力を発生する。本実施形態においては、駆動部20aは、第1リンク部91aを駆動する駆動力を発生する。また、駆動部20bは、第2リンク部91bを駆動する駆動力を発生する。
トルク制限部50は、アーム部91の関節部94(本実施形態においては第1関節部94a及び第2関節部94b)に備えられ、駆動部20(本実施形態においては、駆動部20a及び駆動部20b)によって発生された駆動力を駆動部20からアーム部91(本実施形態においては、第1リンク部91a及び第2リンク部91b)に伝達するとともに、アーム部91(本実施形態においては、第1リンク部91a及び第2リンク部91b)に伝達されるトルク(駆動力)の許容値が可変であって、アーム部91(本実施形態においては、第1リンク部91a及び第2リンク部91b)に伝達されるトルクの許容値に基づいて制限する。
制御部60は、被移動物体WK(被移動部)からアーム部91(第1リンク部91a及び第2リンク部91b)に与えられる力に基づいてトルクの許容値を算出する。ここで、制御部60は、検出部30(検出部30c)によって検出されたアーム部91(第1リンク部91a及び第2リンク部91b)に与えられる力に基づいて許容値を算出する。
【0017】
なお、以下の説明において、特に明示しない限り、アーム部91の記載は、第1リンク部91a及び第2リンク部91bを含んで示している。同様に、関節部94の記載は、第1関節部94a及び第2関節部94bを、駆動部20の記載は、駆動部20a及び駆動部20bをそれぞれ含んで示している。
【0018】
次に、図2及び図3を参照して、関節部94の構成を説明する。
図2は、第2関節部94bの構成の一例を示す図である。
第2関節部94bは、第1リンク部91aと第2リンク部91bとを連結している。
第1リンク部91aは、駆動部20bを備えている。
駆動部20bは、例えばモータなどの電動機22bと、電動機22bが発生させた駆動力の出力軸としての駆動軸21(本実施形態においては、駆動軸21b)とを備えている。
駆動軸21bは、第1リンク部91aが備える軸受95b−1、軸受95b−2及び軸受95b−5を貫通しており、第2リンク部91bが備える軸受95b−3及び軸受95b−4に接続されている。つまり、第2リンク部91bは、駆動軸21bが回転することによって、駆動軸21bを中心にして回転する。
電動機22bは、第1リンク部91aが備える軸受95b−5に取り付けられており、後述する上位装置80から供給されるトルク指令値に基づいたトルクによって駆動軸21bを回転させる。
【0019】
図3は、第1関節部94aの構成の一例を示す図である。
第1関節部94aは、台座部93と第1リンク部91aとを連結している。
台座部93は、駆動部20aを備えている。
駆動部20aは、例えばモータなどの電動機22aと、電動機22aが発生させた駆動力の出力軸としての駆動軸21(本実施形態においては、駆動軸21a)とを備えている。
電動機22aは、台座部93の軸受95a−5に取り付けられ、後述する上位装置80から供給されるトルク指令値に基づいた駆動力によって駆動軸21aを回転させる。
駆動軸21aは、拡径部24aを備えており、台座部93の軸受95a−1及び軸受95a−2と、第1リンク部91aの軸受95a−3及び軸受95a−4と、被駆動軸23aとを貫通している。
【0020】
第1リンク部91aは、第1関節部94aに、被駆動軸23aと、トルク制限部50とを備えている。
被駆動軸23aは、第1リンク部91aの軸受95a−4に接続されており、軸受95a−4とともに回転する。つまり、第1リンク部91aは、被駆動軸23aが回転することによって、被駆動軸23aを中心にして回転する。
トルク制限部50は、駆動素子51と、ベルト部52とを備えている。
駆動素子51は、一端が第1リンク部91aに接続され、他端がベルト部52の一端に接続されており、制御部60から出力される制御信号により変形することによってベルト部52の張力を変化させる。
ベルト部52は、駆動軸21aの拡径部24aと被駆動軸23aとに対して接触可能にされて(例えば、巻きかけられて)おり、例えば張力に対応する許容値によって駆動軸21aの駆動力を被駆動軸23aに伝達する。つまり、駆動軸21aの拡径部24aから被駆動軸23aに伝達されるトルクの許容値は、トルク制限部50が備えるベルト部52の、例えば張力によって設定される。
【0021】
次に、図4を参照して、トルク制限部50が備える駆動素子51とベルト部52との詳細な構成について説明する。
図4は、トルク制限部50の構成を示す断面図である。
ベルト部52は、その端部(第一端部52a、第二端部52b)が、拡径部24a及び被駆動軸23aの周方向の基準位置Pを挟むように所定の隙間を空けて対向して配置されている。また、ベルト部52の形状は、例えば、帯状又は線状などである。
【0022】
拡径部24aと被駆動軸23aとは同一の径を有しているため、拡径部24aの外周面と被駆動軸23aの外周面との間では段差が発生することが無い。このため、ベルト部52と拡径部24aとの間、及び、ベルト部52と被駆動軸23aとの間には、ほぼ同一の張力及び摩擦力が発生することになる。
【0023】
駆動素子51(本実施形態においては、第一駆動素子51−1及び第二駆動素子51−2)は、ベルト部52と拡径部24a及び被駆動軸23aとの間の接触状態を調整する。第一駆動素子51−1及び第二駆動素子51−2としては、例えば電歪素子(例、ピエゾ素子)や磁歪素子などの電気機械変換素子が用いられている。例えば、第一駆動素子51−1及び第二駆動素子51−2は、駆動電圧が供給されることにより、一方向に伸縮する構成である。
【0024】
第一駆動素子51−1は、伸縮方向の一方の端部がベルト部52の第一端部52aに接続されている。また、第一駆動素子51−1の他方の端部は、第1リンク部91aの端面から突出した支持部54に固定されている。したがって、第一駆動素子51−1は、第一端部52aと支持部54とで挟まれた構成となっている。第一駆動素子51−1のうち第一端部52aとの接続部分には、フレクシャ機構53−1が形成されている。
【0025】
第二駆動素子51−2は、伸縮方向の一方の端部がベルト部52の第二端部52bに接続されている。また、第二駆動素子51−2の他方の端部は、第1リンク部91aの端面から突出した支持部54に固定されている。したがって、第二駆動素子51−2は、第二端部52bと支持部54とで挟まれた構成となっている。第二駆動素子51−2のうち第二端部52bとの接続部分には、フレクシャ機構53−2が形成されている。
【0026】
上述したように、制御部60は第一駆動素子51−1及び第二駆動素子51−2に接続されており、当該第一駆動素子51−1及び第二駆動素子51−2に対して駆動電圧を供給可能になっている。制御部60は、第一駆動素子51−1及び第二駆動素子51−2に印加する駆動電圧の電圧値を変化させることにより、第一駆動素子51−1及び第二駆動素子51−2の伸縮量を調整する。
【0027】
例えば、第一駆動素子51−1が伸びると、ベルト部52の第一端部52aが第二端部52bに近づく方向に移動する。また、第二駆動素子51−2が伸びると、ベルト部52の第二端部52bが第一端部52aに近づく方向に移動する。このため、ベルト部52が拡径部24aの周面(例、外周面や内周面)及び被駆動軸23aの周面(例、外周面や内周面)に巻きつき、当該ベルト部52に張力が加わる。第一駆動素子51−1が縮むと、第一端部52aが第二端部52bから離れる方向に移動する。また、第二駆動素子51−2が縮むと、第二端部52bが第一端部52aから離れる方向に移動する。このため、ベルト部52が拡径部24a及び被駆動軸23aから離れて、ベルト部52が弛緩する。このように、例えば、ベルト部52は、駆動素子51の駆動(例、伸縮)によって駆動軸21の径方向及び被駆動軸23aの径方向に力(例、張力や押圧力)が加えられる。これによって、ベルト部52と拡径部24aとの間、及びベルト部52と被駆動軸23aとの間で、それぞれ摩擦力が生じる。なお、本実施形態は、例えば、駆動素子51を縮ませることによって、ベルト部52が拡径部24a及び被駆動軸23aに巻きついて、当該ベルト部52に張力が加わる構成にしてもよい。そして、本実施形態は、駆動素子51が伸びることによって、ベルト部52が拡径部24a及び被駆動軸23aから離れて弛緩する構成にしてもよい。
【0028】
次に、図5を参照して、電動機22aによって発生される駆動力が被駆動軸23aに伝達されるトルク(駆動力)の伝達経路の一例を説明する。
図5は、本実施形態におけるトルク(駆動力)の伝達経路の一例を示す断面図である。
まず、電動機22aは、所定の駆動力を発生させて、発生させた駆動力によって駆動軸21aを回転させる。この駆動軸21aの駆動力は、拡径部24aと、トルク制限部50のベルト部52との間に生じる摩擦力によって、ベルト部52に伝達される(図5のTq1)。次に、ベルト部52の駆動力(トルク)は、ベルト部52と、被駆動軸23aとの間に生じる摩擦力によって、被駆動軸23aに伝達される(図5のTq2)。このようにして、電動機22aによって発生された駆動力は、被駆動軸23aに伝達される。上述したように、電動機22aは、台座部93の軸受95a−5に固定されており、被駆動軸23aは、第1リンク部91aの軸受95a−4に固定されている。この駆動力によって、第1リンク部91aは、台座部93を基準にして回転される。
【0029】
次に、本実施形態に係るトルク制限部50において、駆動軸21(駆動軸21a)から被駆動軸23(被駆動軸23a)へ駆動力を伝達し、当該被駆動軸23に駆動力を作用させる原理を説明する。被駆動軸23を駆動させる際には、拡径部24(拡径部24a)及び被駆動軸23に巻き付いたベルト部52に有効張力を生じさせ、当該有効張力によって拡径部24と被駆動軸23とを連結する。拡径部24と被駆動軸23とがベルト部52によって連結されることで、駆動軸21から被駆動軸23へと駆動力が伝達可能となる。
【0030】
オイラーの摩擦ベルト理論により、拡径部24a及び被駆動軸23aに巻き付いたベルト部52の第一端部52a側の張力(T1)及び第二端部52b側の張力(T2)が下記(式1)を満たすとき、ベルト部52と拡径部24aとの間、ベルト部52と被駆動軸23aとの間で、それぞれ摩擦力が生じ、ベルト部52が拡径部24の外周面及び被駆動軸23の外周面に対してすべりを生じることの無い状態(接触状態)となる。なお、本実施形態では、ベルト部52が短手方向に等しい寸法ずつ拡径部24a及び被駆動軸23aに掛けられているため、生じる摩擦力の大きさは、ベルト部52と拡径部24aとの間、及び、ベルト部52と被駆動軸23aとの間で、ほぼ等しくなる。
【0031】
ベルト部52は、拡径部24a及び被駆動軸23aに対して接触状態となったときに、摩擦力によって駆動軸21a及び被駆動軸23aと共に移動する。この移動により、駆動軸21aから被駆動軸23aに駆動力が伝達される。ただし、(式1)において、μはベルト部52と拡径部24a及び被駆動軸23aとの間の見かけ上の摩擦係数であり、θはベルト部52の有効巻き付き角(接触角度)である。有効巻き付け角θについては、拡径部24aの外周面及び被駆動軸23aの外周面のうちベルト部52に対して接触状態となりうる部分の範囲である。
【0032】
【数1】

【0033】
このとき、駆動力の伝達に寄与する有効張力は、(T1−T2)によって表される。上記(式1)に基づいて有効張力(T1−T2)を求めると、(式2)のようになる。
【0034】
【数2】

【0035】
上記(式2)より、駆動軸21aから被駆動軸23aに伝達される駆動力は、例えば第一駆動素子51−1の伸縮によってベルト部52に生じる張力T1によって一意に決定されることがわかる。(式2)の右辺の張力T1の係数部分は、ベルト部52と拡径部24a及び被駆動軸23aとの間における摩擦係数μ、及び、ベルト部52の有効巻き付き角θにそれぞれ依存する。
【0036】
図6は、オイラーの原理に基づく摩擦係数μを変化させたときの有効巻き付き角θと係数部分の値との関係を示すグラフである。グラフの横軸は有効巻き付き角θを示しており、グラフの縦軸は係数部分の値を示している。図6に示すように、例えば摩擦係数μが0.3の場合には、有効巻き付き角θが300°以上のときに係数部分の値が0.8以上となっている。
【0037】
このことから、摩擦係数μが0.3の場合には、有効巻き付き角θを300°以上とすることにより、第一駆動素子51−1による張力T1の80%以上の力が被駆動軸23の駆動力に寄与することがわかる。この巻き付き角の他(例、180°、270°、360°、360°以上)、図6のグラフから、例えばベルト部52と、拡径部24a及び被駆動軸23との間の摩擦係数を大きくするほど、係数部分の値が大きくなることが推定される。このように、駆動軸21aから被駆動軸23aに伝達される駆動力の上限値(許容値)の大きさは第一駆動素子51−1による張力T1によって一意に決定されることになる。このように、本実施形態におけるトルク制限部50は、駆動軸21a(拡径部24a)と被駆動軸23aとの相対的な変位(例、滑り)を生じさせるトルク(駆動力)の許容値を制御部60によって可変にする。また、これらによって、本実施形態におけるトルク制限部50は、例えばリンク部に許容値を超えるような過大なトルクが加わった場合などに、駆動軸21a(拡径部24a)と被駆動軸23aとに相対的な変位を生じさせることが可能である。
【0038】
次に、制御部60の構成について説明する。
図7は、制御部60の構成の一例を示すブロック図である。
上述したように、本実施形態のロボット装置90は、上位装置80に接続されており、上位装置80が備えるトルク指令部83から、駆動部20の電動機22にトルク指令値が供給される。上位装置80のトルク指令部83は、手先位置設定部84が設定した手先部92の位置座標Xに基づいて、駆動部20の電動機22に供給するトルク指令値を算出する。電動機22の駆動軸21(駆動軸21a、駆動軸21b)は、トルク制限部50を介してリンク部の被駆動軸23(被駆動軸23a、被駆動軸23b)に、電動機22によって発生されたトルクを伝達する。手先部92は、アーム部91によって移動される。検出部30は、被移動物体WKからリンク部に与えられる力を検出する。
【0039】
制御部60は、図7に示すように取得部61と、算出部62と、記憶部64とを有している。
取得部61は、検出部30(本実施形態においては検出部30c)によって検出された被移動物体WKからリンク部に与えられる力Fを、検出部30から取得する。また、取得部は、上位装置80の手先位置設定部84が設定した手先部92の位置座標Xを、手先位置設定部84から取得する。
算出部62は、取得部61によって取得された力Fと、位置座標Xとに基づいて、駆動部20からリンク部(第1リンク部91aや第2リンク部91b)に伝達されるトルクτの許容値を算出する。また、算出部62は、算出したトルクτの許容値に基づいた駆動素子51の駆動電圧、トルク制限部50に出力する。
記憶部64には、トルクτの許容値と、駆動素子51の駆動電圧とが関連付けられて予め記憶されている。
【0040】
ここで、手先部92に力Fを加えた場合に、各関節部94(第1関節部94a、第2関節部94b)に発生するトルクτは、既知の(式3)によって示される。
【0041】
【数3】

【0042】
上記の(式3)において、Jは手先部92の位置座標Xと関節角θの関係を表す式(X=f(θ))のヤコビアン行列であり、次の(式4)から求められる。なお、(式3)において、JはJの転置行列を示す。
【0043】
【数4】

【0044】
上記の(式4)において、手先部92の位置座標Xは、直交座標(x、y、z)及びオイラー角(Φ、Θ、Ψ)を用いて、(式5)によって示される。なお、(式5)において、は転置行列を示す。
【0045】
【数5】

【0046】
上記の(式3)〜(式5)によれば、手先部92に与えられる力Fと手先部92の位置座標Xとから、各関節部94に発生するトルクτを求めることができる。つまり、手先部92に与えられる力Fの許容値を定めたとすれば、上記の(式3)〜(式5)によって、各関節部94に発生するトルクτの許容値を求めることができる。
本実施形態の算出部62は、取得部61が取得した手先部92に与えられる力Fと、手先部92の位置座標Xとに基づいて、駆動部20から第1リンク部91aに伝達される駆動力(トルクτ)の許容値を算出する。このとき、制御部60は、被移動物体WKからアーム部91を構成するリンク部に与えられる力Fと所定の係数とに基づいて、駆動力の許容値を算出する。ここで、所定の係数は、例えば、リンク部が衝突した場合の衝撃力の許容値に基づいて設定される係数であって、例えば、1.2が予め設定されている。例えば、算出部62は、上述したように求めた各関節部94に発生するトルクτに、所定の係数(例えば、1.2)を乗じて、駆動力の許容値を算出する。このようにして、制御部60は、リンク部に与えられる力Fに基づいて駆動力の許容値を算出する。このことにより、本実施形態の制御部60は、リンク部(ひいてはアーム部91)の姿勢に対応した各関節部94に発生するトルクτの許容値を求めることができる。つまり、制御部60は、リンク部(ひいてはアーム部91)の姿勢が変化しても、各関節部94に発生するトルクτの許容値を求めることができるため、正確に許容値を設定することができる。
【0047】
次に、図8を参照して、制御部60がトルクの許容値を算出する手順を説明する。
図8は、制御部60が許容値を算出する手順の一例を示すフローチャートである。
まず、制御部60は、ロボット装置90が備えるアーム部91を構成するリンク部のうち被移動物体WKに接触可能で被移動物体WKを移動させる手先部92に与えられる力Fを算出する(ステップS110)。本実施形態において、制御部60の取得部61は、検出部30(本実施形態においては検出部30c)によって検出された被移動物体WKからリンク部に与えられる力Fを、算出すべき力Fとして検出部30から取得する。本実施形態の検出部30cは、手先部92に与えられる力Fを検出する。
【0048】
次に、制御部60の算出部62は、ステップS110において算出した力Fに基づいて、手先部92が被駆動物体から与えられることが許容される力の最大値を算出する(ステップS120)。本実施形態において、算出部62は、被移動物体WKからリンク部(本実施形態においては第1リンク部91aや第2リンク部91b)に与えられる力Fに、例えば所定の係数を乗じて、手先部92が被駆動物体から与えられることが許容される力の最大値を算出する。この所定の係数は、上述したように例えば、リンク部が衝突した場合の衝撃力の許容値に基づいて設定される係数であって、例えば、1.2が予め設定されている。
【0049】
次に、制御部60の算出部62は、ステップS120において算出された力の最大値に基づいて、アーム部91の関節部94(第1関節部94a)に配置されるトルク制限部50における駆動力の許容値を算出する(ステップS130)。本実施形態において、制御部60の取得部61は、上位装置80の手先位置設定部84が設定した手先部92の位置座標Xを、手先位置設定部84から取得する。そして、制御部60の算出部62は、上述した(式3)〜(式5)により、手先部92が被駆動物体から与えられることが許容される力の最大値と手先部92の位置座標Xとから、トルク制限部50に設定するトルクτの許容値を算出する。
【0050】
次に、制御部60の算出部62は、算出したトルクτの許容値に基づいて、トルク制限部50の駆動素子(電歪素子)51を駆動して手順を終了する(ステップS140)。本実施形態において、算出部62は、算出したトルクτの許容値に関連付けられている駆動素子51の駆動電圧を記憶部64から読み出して、読み出した駆動電圧によってトルク制限部50の駆動素子51を駆動する。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の駆動装置10は、被移動物体WKを移動させるアーム部91を構成するリンク部(第1リンク部91aや第2リンク部91b)を駆動する駆動力を発生する駆動部20を備えている。また、本実施形態の駆動装置10は、アーム部91の関節部94に配置され、駆動部20によって発生された駆動力を駆動部20からリンク部に伝達するとともに、リンク部に伝達される駆動力の許容値が可変であって、リンク部に伝達される駆動力を許容値に基づいて制限するトルク制限部50を備えている。また、本実施形態の駆動装置10は、リンク部に与えられる力Fに基づいて駆動力の許容値を算出する制御部60を備えている。これにより、本実施形態の駆動装置10は、伝達するトルクの許容値がアーム部の姿勢変化に対応して変化するロボット装置においても、アーム部の姿勢変化に対応して正確に許容値を設定することができる。
【0052】
また、本実施形態の駆動装置10の制御部60は、リンク部のうちの手先部92に与えられる力に基づいて、駆動部20からリンク部に伝達される駆動力の許容値を算出する。これにより、本実施形態の駆動装置10は、上位装置80からリンク部を駆動する駆動トルクを取得することなく、アーム部の姿勢変化に対応する許容値を設定することができる。つまり、本実施形態の駆動装置10は、上位装置80が設定する駆動トルクの大きさによらずに、手先部92に与えられる力の上限値を、予め定めておくことができる。
【0053】
また、本実施形態の駆動装置10の制御部60は、被移動物体WKからリンク部に与えられる力と所定の係数とに基づいて、駆動力の許容値を算出する。これにより、本実施形態の駆動装置10は、例えば、リンク部が衝突した場合の衝撃力の許容値に基づいて、駆動力の許容値を所定の範囲内に設定することができる。つまり、本実施形態の駆動装置10は、リンク部(第1リンク部91aや第2リンク部91b)が衝突した場合の衝撃力の上限値を予め定めておくことができる。
【0054】
また、本実施形態の駆動装置10は、被移動物体WKからリンク部に与えられる力を検出する検出部30を備えている。これにより、本実施形態の駆動装置10は、上位装置80からリンク部を駆動する駆動トルクを取得することなく、リンク部(ひいてはアーム部)の姿勢変化に対応する許容値を設定することができる。つまり、本実施形態の駆動装置10は、上位装置80が設定する駆動トルクの大きさによらずに、手先部92に与えられる力の上限値を、予め定めておくことができる。
【0055】
また、本実施形態の駆動装置10は、第1ステップによって、ロボット装置90が備えるアーム部91を構成するリンク部の手先部92に与えられる力を算出する。また、本実施形態の駆動装置10は、第2ステップによって、第1ステップにおいて算出された当該力に基づいて、手先部92が被駆動物体から与えられることが許容される力の最大値を算出する。また、本実施形態の駆動装置10は、第3ステップによって、第2ステップにおいて算出された当該最大値に基づいて、アーム部91の関節部94に配置されるトルク制限部50におけるトルク(駆動力)の許容値を算出する。これにより、本実施形態の駆動装置10は、伝達するトルクの許容値がアーム部の姿勢変化に対応して変化するロボット装置においても、アーム部の姿勢変化に対応して正確に許容値を設定することができる。
【0056】
なお、図9に示すように、駆動装置10は、制御部60の取得部61が、上位装置80の手先位置検出部85が検出した手先部92の位置座標X2を、手先位置検出部85から取得してもよい。
図9は、本実施形態における手先部92の位置に基づいて許容値を設定する、駆動装置10の構成の一例を示すブロック図である。
この場合、制御部60の算出部62は、上述した所定の係数に代えて、被移動物体WKからリンク部に与えられる力Fと、手先位置設定部84から取得された手先部92の位置座標Xと、手先位置検出部85から取得された手先部92の位置座標X2とに基づいて、トルクの許容値を算出してもよい。この場合、例えば、算出部62は、手先位置設定部84から取得された手先部92の位置座標Xと、手先位置検出部85から取得された手先部92の位置座標X2とに基づいて、手先部92の位置座標X2の目標位置(すなわち位置座標X)からの誤差(すなわち、位置座標X2と位置座標Xとの差)を算出する。ここで、手先位置検出部85は、例えば各関節部94に備えるエンコーダなどの角度検出センサによって、各関節部94におけるリンク部(第1リンク部91aや第2リンク部91b)の角度を取得し、取得した各関節部94におけるリンク部の角度に基づいて手先部92の位置を検出してもよい。
【0057】
そして、算出部62は、上述したように求めた各関節部94に発生するトルクτに、この位置座標の誤差に応じた係数を乗じて、駆動力の許容値を算出してもよい。つまり、制御部60は、手先部92の目標の位置と手先部92の実際の位置との差に応じて、駆動力の許容値を算出してもよい。これにより、手先部92の位置座標X2に適応させて係数を変化させることができるため、所定の係数に基づいて許容値を算出した場合に比べて、さらに正確に許容値を設定することができる。
【0058】
なお、図10に示すように、ロボット装置90は、関節部94(第1関節部94a、第2関節部94b)にリンク部を駆動する駆動軸に生じるトルクを検出する検出部30(検出部30a、検出部30b)を備えていてもよい。
図10は、本実施形態における複数の関節部94に検出部30を備える駆動装置10の構成の一例を示す構成図である。
この場合、上記の(式3)〜(式5)によれば、各関節部94に発生するトルクτと手先部92の位置座標Xとから、手先部92に与えられる力Fとを求めることができる。つまり、算出部62は、各関節部94に発生するトルクτに基づいて、手先部92に与えられる力Fを求めることができる。このようにして本実施形態の駆動装置10は、求めた手先部92に与えられる力Fに例えば所定の係数を演算して(乗じて)各関節部94に発生するトルクの許容値を求めることができる。これにより、本実施形態の駆動装置10は、手先部92に与えられる力Fを検出する例えば力センサがなくても、各関節部94の駆動部20が備える例えばトルクセンサによって、許容値を設定することができる。
【0059】
[第2の実施形態]
次に、図11を参照して、本発明の第2の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態において説明した構成及び動作と同一の構成及び動作は、説明を省略する。
図11は、本発明の第2の実施形態に係る一例としてのロボット装置90の構成を示すブロック図である。
図11に示すように、本実施形態の駆動装置10の制御部60は、推定部63を備えている。推定部63は、上位装置80のトルク指令部83からトルク指令値を取得し、関節角検出部86から、関節角検出部86が検出した各関節部94の関節角を取得する。そして、推定部63は、これら取得したトルク指令値及び各関節角を入力にして構成する、リンク部(第1リンク部91aや第2リンク部91b)に与えられる力を推定する外乱オブザーバ(オブザーバ)によって推定された力に基づいて許容値を算出する。
【0060】
本実施形態の外乱オブザーバは、次のように構成されている。まず、各関節部94の運動方程式は、(式6)によって示される。
【0061】
【数6】

【0062】
ここで、ωは関節部94の回転速度である。また、ドットは一階微分である。つまり、(式6)におけるωドットは、関節部94の回転加速度である。また、Tは指令トルク値であり、Iは駆動系のイナーシャであり、τdは変動トルク(外乱トルク)である。
この(式6)を状態方程式によって表すと、例えば、(式7)になる。
【0063】
【数7】

【0064】
なお、上述したようにθは関節角である。ここで、変動トルクτdをゼロ次の外乱と仮定して、変動トルクτdを既知のシステム行列に拡張すると、(式7)は、例えば(式8)になる。
【0065】
【数8】

【0066】
この(式8)を用いて、トルク指令値Tと関節角θとから、外乱トルク推定値τdハットを求める既知の外乱オブザーバを構成する。本実施形態においては、外乱オブザーバの係数行列Aを、例えば(式9)に示す行列にする。
【0067】
【数9】

【0068】
また、この外乱オブザーバの係数行列Bを、例えば(式10)に示す行列にする。
【0069】
【数10】

【0070】
また、この外乱オブザーバの係数行列Cを、例えば(式11)に示す行列にする。
【0071】
【数11】

【0072】
また、この外乱オブザーバの係数行列Dを、例えば(式12)に示す行列にする。
【0073】
【数12】

【0074】
本実施形態の外乱オブザーバは、上述した係数行列A〜Dを用いれば(式13)及び(式14)によって示される。
【0075】
【数13】

【0076】
【数14】

【0077】
この(式13)においてKは、この外乱オブザーバのゲイン行列である。また、(式13)においてθハットは関節角θの推定値である。また、(式13)においてXハットは、関節角θの推定値θハットと、関節角の回転速度ωの推定値ωハットと、外乱トルク推定値τdハットとを要素にする、(式15)によって示される行列である。
【0078】
【数15】

【0079】
このように、本実施形態において制御部60の推定部63は、外乱オブザーバ(オブザーバ)によってリンク部(ひいてはアーム部91)に与えられる力を推定する。
【0080】
次に、本実施形態の算出部62が許容値を算出する構成の一例について説明する。
算出部62は、時刻における変動トルクτdから、手先部92の負荷推定値Fハットを次の(式16)によって求める。
【0081】
【数16】

【0082】
この(式16)は、上述した(式3)の左辺と右辺とを入れ替えた式に、(式13)及び(式14)によって推定される変動トルクτdを代入した式である。この(式16)において、Jインバースは、上述したヤコビアン行列の転置行列の逆行列である。
ここで、時刻における手先部92の負荷推定値Fハットのx方向成分をF、y方向成分をF、z方向成分をFとすれば(式17)によって示される。
【0083】
【数17】

【0084】
また、算出部62は、時刻Nの次の時刻(N+1)における手先部92の負荷許容値SN+1を、(式18)によって求める。
【0085】
【数18】

【0086】
ここで、係数Ksは、Ks>0である。また、係数Kfは、手先部92の負荷推定値Fハットに対する許容幅を決めるゲインである。また、rは、手先位置検出部85が検出した手先部92の位置座標X2を示すベクトル、つまり手先部92の位置ベクトルである。また、rは、手先位置設定部84から取得された手先部92の位置座標X、つまり手先部92の位置指令値である。この(式18)の右辺第2項は、手先部92の位置誤差、つまり位置座標X2と位置座標Xとの差が、負荷の力の方向と同じ場合には、手先部92の負荷許容値SN+1が大きくなることを示している。同様に、(式18)の右辺第2項は、手先部92の位置誤差、つまり位置座標X2と位置座標Xとの差が、負荷の力の方向と逆の場合には、手先部92の負荷許容値SN+1が小さくなることを示している。つまり、(式18)の右辺第2項は、正であれば手先部92が負荷によって引かれている状態を示しており、負であれば手先部92が負荷によって押されている状態(つまり衝突状態)を示している。
【0087】
さらに、算出部62は、時刻(N+1)における変動トルクτdの許容値τLN+1を(式19)によって求める。
【0088】
【数19】

【0089】
そして、算出部62は、この(式19)によって求めた変動トルクτdの許容値τLN+1にトルク指令値Tを加えて、トルク制限部50に設定する設定値TLN+1を求める(式20)。
【0090】
【数20】

【0091】
算出部62は、このようにして求めた設定値TLN+1をトルク制限部50に出力する。
【0092】
このように、本実施形態において制御部60の推定部63は、外乱オブザーバ(オブザーバ)によってリンク部に与えられる力を推定する。そして、本実施形態の算出部62は、推定部63によって推定された力、すなわち外乱トルク推定値τdハットに基づいて許容値を算出する。これにより、本実施形態の駆動装置10は、手先部92に与えられる力を検出する検出部30を備えていなくても、許容値を算出することができる。つまり、本実施形態の駆動装置10は、検出部30(例えば、圧力センサ)によらず許容値を算出することができるため、検出部30の校正や交換を不要にすることができ、メンテナンスを容易にすることができる。さらに、本実施形態の駆動装置10は、検出部30が不要であるため、コストを低減させることができるとともに、小型化することができる。
また、本実施形態におけるロボット装置90は、作業者などの物体をリンク部やアーム部によって挟み込んでしまう場合に対して安全に作用することが可能である。例えば、ロボット装置90がワークなどの被移動物体を鉛直方向に降ろす時に作業者がワークの下側で挟まれた場合、位置座標X2と位置座標Xとの差(手先部92の位置誤差)が負荷の力の方向と逆の方向であるため、上記したように(式18)に基づいて手先部92の負荷許容値SN+1が小さくなる。したがって、ロボット装置90は、(式19)により設定値TLN+1は更に小さくなり、駆動軸21aと被駆動軸23aとに相対的な変位が生じる(例、駆動軸21aが空回りする)ことによって作業者を挟む力が小さくなるため、安全に作用することが可能となる。
【0093】
[第3の実施形態]
次に、図12を参照して、本発明の第3の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態及び第2の実施形態において説明した構成及び動作と同一の構成及び動作は、説明を省略する。
図12は、本発明の第3の実施形態に係る一例としてのロボット装置90の構成を示す構成図である。
【0094】
本実施形態のロボット装置90は、台座部93と第1リンク部91aとを連結する第1関節部94aと、第1リンク部91aと第2リンク部91bとを連結する第2関節部94bとの各関節部94に、トルク制限部50(トルク制限部50a、トルク制限部50b)をそれぞれ備えている。また、本実施形態の制御部60は、手先部92に与えられる力に基づいて、複数の関節部94が有するトルク制限部50ごとにトルク(駆動力)の許容値を算出する。アーム部91はトルク制限部50を有する複数の関節部94を備えており、制御部60は手先部92に与えられる力に基づいて複数の関節部94が有するトルク制限部50ごとにトルクの許容値を算出する。
【0095】
本実施形態の制御部60は、(式3)〜(式5)によれば、手先部92に与えられる力Fと手先部92の位置座標Xとから、各関節部94に発生するトルクτを求めることができる。
例えば、本実施形態の算出部62は、取得部61が取得した手先部92に与えられる力Fと、手先部92の位置座標Xとに基づいて、駆動部20(駆動部20a)から第1リンク部91aに伝達されるトルクの許容値と、駆動部20(駆動部20b)から第2リンク部91bに伝達されるトルクの許容値とを算出する。このとき、制御部60は、被移動物体WKから第1リンク部91aに与えられる力F1と所定の係数とに基づいて、駆動部20aから第1リンク部91aに伝達されるトルクの許容値を算出する。また、制御部60は、被移動物体WKから第2リンク部91bに与えられる力F2と所定の係数とに基づいて、駆動部20bから第2リンク部91bに伝達されるトルクの許容値を算出する。ここで、所定の係数は、上述したように、例えばリンク部が衝突した場合の衝撃力の許容値に基づいて設定される係数であって、例えば、1.2が予め設定されている。例えば、算出部62は、上述したように求めた各関節部94(第1関節部94a、第2関節部94b)に発生するトルクτ(トルクτa、トルクτb)に、所定の係数(例えば、1.2)を乗じて、トルクの許容値を算出する。このようにして、制御部60は、リンク部に与えられる力Fに基づいてトルクの許容値を算出する。このことにより、本実施形態の制御部60は、リンク部(ひいてはアーム部91)の姿勢に対応した各関節部94に発生するトルクτの許容値を求めることができる。つまり、制御部60は、アーム部91の姿勢が変化しても、各関節部94に発生するトルクτの許容値を求めることができるため、正確に許容値を設定することができる。
【0096】
なお、本実施形態のロボット装置90は、第2の実施形態において説明した駆動装置10を備えていてもよい。この場合、本実施形態のロボット装置90が備える制御部60の推定部63は、外乱オブザーバ(オブザーバ)によってリンク部に与えられる力を推定する。そして、本実施形態の算出部62は、推定部63によって推定された力、すなわち外乱トルク推定値τdハットに基づいて許容値を算出する。これにより、本実施形態の駆動装置10は、手先部92に与えられる力を検出する検出部30を備えていなくても、許容値を算出することができる。つまり、本実施形態の駆動装置10は、検出部30(例えば、圧力センサ)によらずトルクの許容値を算出することができるため、検出部30の校正や交換を不要にすることができ、メンテナンスを容易にすることができる。さらに、本実施形態の駆動装置10は、検出部30が不要であるため、コストを低減させることができるとともに、小型化することができる。
【0097】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
なお、上記の各実施形態におけるロボット装置90は、各関節部94に発生するトルクの許容値を求める手段を有するため、予め記憶されたトルクの許容値を用いることが困難であるような場合(例、重さや形状が常に一定でない被移動物体に対してロボット装置90を力制御する場合、や複数台のロボット装置90を非同期で協調させて動作させる場合、など)であっても、安全に正確に動作させることができる。
【0098】
なお、上記の各実施形態における制御部60又はこの制御部60が備える各部は、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、メモリおよびマイクロプロセッサにより実現させるものであってもよい。
【0099】
なお、この制御部60又はこの制御部60が備える各部は、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、この制御部60又はこの制御部60が備える各部はメモリおよびCPU(中央演算装置)により構成され、制御部60、又はこの制御部60が備える各部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
【0100】
また、制御部60、又はこの制御部60が備える各部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、制御部60、又はこの制御部60が備える各部による処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0101】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【符号の説明】
【0102】
10…駆動装置、20…駆動部、30…検出部、50…トルク制限部、60…制御部、90…ロボット装置、91…アーム部、91a,91b…リンク部、92…手先部、94…関節部、WK…被移動物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被移動物体を移動させるアーム部を駆動する駆動装置であって、
前記アーム部を構成するリンク部を駆動する駆動力を発生する駆動部と、
前記アーム部の関節部に配置され、前記駆動部によって発生された前記駆動力を前記駆動部から前記リンク部に伝達するとともに、前記リンク部に伝達される前記駆動力の許容値が可変であって、前記リンク部に伝達される前記駆動力を前記許容値に基づいて制限するトルク制限部と、
前記リンク部に与えられる力に基づいて前記駆動力の許容値を算出する制御部と
を備えることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記リンク部のうちの前記被移動物体に接触可能な手先部に与えられる力に基づいて、前記駆動部から前記リンク部に伝達される前記駆動力の許容値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記アーム部は複数の前記関節部を備え、
前記複数の関節部に前記トルク制限部が配置され、
前記制御部は、前記手先部に与えられる力に基づいて、前記複数の関節部が有する前記トルク制限部ごとに前記駆動力の許容値を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記手先部の目標の位置と前記手先部の実際の位置との差に応じて、前記駆動力の許容値を算出する
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記被移動物体から前記リンク部に与えられる力と所定の係数とに基づいて、前記駆動力の許容値を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記リンク部に与えられる力を推定するオブザーバによって推定された力に基づいて前記許容値を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記被移動物体から前記リンク部に与えられる力を検出する検出部を備え、
前記制御部は、
前記検出部によって検出された前記リンク部に与えられる力に基づいて前記許容値を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記検出部は、前記リンク部を駆動する駆動軸に生じるトルクを検出する
ことを特徴とする請求項7に記載の駆動装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のうちいずれか一項に記載の駆動装置と、
前記アーム部と、
を備えることを特徴とするロボット装置。
【請求項10】
被移動物体を移動させるアーム部と、
前記アーム部のうちのリンク部を駆動する駆動力を発生する駆動部と、
前記アーム部における複数の関節部に配置され、前記駆動部によって発生された前記駆動力を前記駆動部から前記リンク部に伝達するとともに、前記リンク部に伝達される前記駆動力の許容値が可変であって、前記リンク部に伝達される前記駆動力を前記許容値に基づいて制限するトルク制限部と、
前記リンク部に与えられる力に基づいて算出した前記許容値を前記トルク制限部に設定する制御部と
を備えることを特徴とするロボット装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記リンク部のうちの前記被移動物体に接触可能な手先部に与えられる力に基づいて、前記駆動部から前記リンク部に伝達される前記駆動力の許容値を算出する
ことを特徴とする請求項10に記載のロボット装置。
【請求項12】
被移動物体を移動させるアーム部と、
前記アーム部のうちのリンク部を駆動する駆動力を発生する駆動部と、
前記アーム部における複数の関節部に配置され、前記駆動力を前記駆動部から前記リンク部に伝達するとともに、前記リンク部に伝達される前記駆動力の許容値が可変であって、前記リンク部に伝達される前記駆動力を前記許容値に基づいて制限するトルク制限部と、
前記リンク部の手先部に与えられる力を算出する手段と、算出された前記手先部に与えられる力をもとに前記許容値を前記関節部ごとに算出する手段と、を有する制御部と
を備えることを特徴とするロボット装置。
【請求項13】
ロボット装置が備えるアーム部を構成するリンク部のうち被移動物体に接触可能な手先部に与えられる力を算出する第1ステップと、
前記第1ステップにおいて算出された当該力に基づいて、前記手先部が前記被移動物体から与えられることが許容される力の最大値を算出する第2ステップと、
前記第2ステップにおいて算出された当該最大値に基づいて、前記アーム部の関節部に配置されるトルク制限部における駆動力の許容値を算出する第3ステップと、
を有することを特徴とするトルク制限部における許容値の算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−94928(P2013−94928A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242138(P2011−242138)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】