説明

騒音シミュレーション装置および方法

【課題】 騒音源と受音位置の間に設けた障壁の効果、障壁による反射音の影響をリアルに体験可能とすること。
【解決手段】 住宅の各区画部材に関する情報、各部屋に関する情報、および聞きたい騒音源の種類・位置、障壁の位置・高さと騒音の聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定し、次に、入力された情報から各区画部材の遮音性能、音の経路毎の距離減衰・障壁減衰を計算し、最後に計算結果に基づき、騒音をスピーカやヘッドホーンなどから音として出力するもの。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、住宅の壁、窓、ドアなどの遮音性能がどの程度か、仕様による差異がどの程度あるかなど、遮音性能を実際に体験でき、さらに部材の遮音性能の評価に利用できることを目的とした装置、方法に関する。特に屋外経由で漏れてくる騒音(例えば窓を全開にしたため、隣室から漏れてくる騒音・交通騒音など)に対する障壁(住宅の屋外に設置されるブロック塀、レンガ塀、石塀、コンクリート塀など)の影響(効果)をリアルに体験できる装置、方法に関する。また、特に屋外経由で漏れてくる騒音(例えば窓を全開にしたため、隣室から漏れてくる騒音・交通騒音など)が障壁(住宅の屋外に設置されるブロック塀、レンガ塀、石塀、コンクリート塀など)で反射する音の影響をリアルに体験できる装置、方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、特願平9-043985に係る「騒音シミュレーション装置および方法」がある。これは平面図上で騒音源の位置と受音位置を指定することにより、受音位置に漏れてくる騒音をリアルに体験できる装置、方法である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】住宅を建てようとする顧客と設計者(あるいは営業マン)の間で商談を進める場合、平面図などを用いて話を進めるのが一般的である。その際、例えば「洗濯機を浴室の横に置くと、その騒音が寝室にかなり伝わるのではないか」といった不安を顧客がもつ場合があり、その騒音を実際に体験したい、との要望も見受けられる。
【0004】この要望を解決すべく、我々は特願平9-043985に係る「騒音シミュレーション装置および方法」を考案したが、例えば屋外からの騒音を減らすために住宅の周りに設ける障壁の効果、該障壁による反射音の影響は体験できなかった。
【0005】本発明の課題は、騒音源と受音位置の間に設けた障壁の効果、障壁による反射音の影響をリアルに体験可能とすることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の本発明に係る騒音シミュレーション装置は、騒音を録音および再生するための騒音録音・再生手段と、騒音録音の際、その音響パワーレベルを測定する音響パワーレベル測定手段と、住宅の間取り、住宅外の障壁の位置・高さ等の平面図を入力するための位置情報入力手段と、録音・測定した騒音の内、聞きたい騒音源の種類(屋内騒音:洗濯機、冷蔵庫、換気扇、TVの音など、屋外騒音:交通騒音、隣家の騒音など)、およびその騒音源の平面図上での位置(平面図上でどの位置に騒音源があるか)を指定するための騒音源入力手段と、その騒音の聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定する受音位置入力手段と、平面図に表れる壁、窓、ドアなどで構成される各区画部材に関する情報(断面構成、面積、密度など)、各部屋に関する情報(体積、吸音力など)を入力する部材情報入力手段と、入力された情報を基に、各区画部材の遮音性能(音響透過損失)を計算する遮音性能計算手段と、指定された騒音源位置から受音位置(体験者が居ると想定する部屋の位置)へ向かう音の経路毎に、距離減衰を計算する距離減衰計算手段と、障壁による減衰量を計算する障壁減衰計算手段と、音の経路上にある複数の区画部材の音響透過損失およびその間での距離減衰および障壁による減衰量から、音源−受音位置間の音圧レベル差を計算する音圧レベル差計算手段と、上記計算結果に応じて騒音を減衰加工する騒音加工手段と、騒音加工手段で加工した騒音を、音として出力するための音発生手段を用意するようにしたものである。
【0007】請求項2に記載の本発明に係る騒音シミュレーション方法は、体験したい騒音を録音すると共に、音響パワーレベルを測定し、次に、体験したい住宅の平面図(間取り、障壁の位置・高さ等)を入力し、次に、各区画部材に関する情報(断面構成、面積、密度など)、各部屋に関する情報(体積、吸音力など)を入力し、次に、上記情報を基に、各区画部材の遮音性能(音響透過損失)を計算し、次に、録音済みの複数の騒音から、騒音源の種類、位置を指定し、次に、その騒音の聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定し、次に、音の経路上にある複数の区画部材の遮音性能、その間での距離減衰および障壁による減衰量の計算結果から、音源−受音位置間の音圧レベル差を計算し、次に、音圧レベルの差に応じて、騒音信号を減衰加工し、その後、減衰加工された騒音を、音として出力するよう構成したものである。
【0008】請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載の本発明において更に、前記障壁による減衰量を計算する手段として、フレーネル数の計算式を用いるようにしたものである。
【0009】請求項4に記載の本発明に係る騒音シミュレーション装置は、騒音を録音および再生するための騒音録音・再生手段と、騒音録音の際、その音響パワーレベルを測定する音響パワーレベル測定手段と、住宅の間取り、住宅外の障壁の位置・高さ等の平面図を入力するための位置情報入力手段と、録音・測定した騒音の内、聞きたい騒音源の種類(屋内騒音:洗濯機、冷蔵庫、換気扇、TVの音など、屋外騒音:交通騒音、隣家の騒音など)、およびその騒音源の平面図上での位置(平面図上でどの位置に騒音源があるか)を指定するための騒音源入力手段と、その騒音の聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定する受音位置入力手段と、平面図に表れる壁、窓、ドアなどで構成される各区画部材に関する情報(断面構成、面積、密度など)、各部屋に関する情報(体積、吸音力など)を入力する部材情報入力手段と、入力された情報を基に、各区画部材の遮音性能(音響透過損失)を計算する遮音性能計算手段と、指定された騒音源位置から受音位置(体験者が居ると想定する部屋の位置)へ向かう音の経路毎に、距離減衰、障壁による反射を計算する屋外騒音計算手段と、音の経路上にある複数の区画部材の音響透過損失およびその間での距離減衰および障壁による反射量から、音源−受音位置間の音圧レベル差を計算する音圧レベル差計算手段と、上記計算結果に応じて騒音を減衰加工する騒音加工手段と、騒音加工手段で加工した騒音を、音として出力するための音発生手段を用意するようにしたものである。
【0010】請求項5に記載の本発明に係る騒音シミュレーション方法は、体験したい騒音を録音すると共に、音響パワーレベルを測定し、次に、体験したい住宅の平面図(間取り、障壁の位置・高さ等)を入力し、次に、各区画部材に関する情報(断面構成、面積、密度など)、各部屋に関する情報(体積、吸音力など)を入力し、次に、上記情報を基に、各区画部材の遮音性能(音響透過損失)を計算し、次に、録音済みの複数の騒音から、騒音源の種類、位置を指定し、次に、その騒音の聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定し、次に、音の経路上にある複数の区画部材の遮音性能、その間での距離減衰および障壁による反射量の計算結果から、音源−受音位置間の音圧レベル差を計算し、次に、音圧レベルの差に応じて、騒音信号を減衰加工し、その後減衰加工された騒音を、音として出力するよう構成したものである。
【0011】請求項6に記載の本発明は、請求項5に記載の本発明において更に、前記障壁による反射量を計算する手段として、音線法を用いるようにしたものである。
【0012】
【作用】請求項1〜3に記載の本発明によれば下記■、■の作用がある。
■本発明では、まず、各区画部材に関する情報(断面構成、面積、密度など)、各部屋に関する情報(体積、吸音力など)、および聞きたい騒音源の種類・位置、障壁の位置・高さと聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定する。次に、入力された情報から各区画部材の遮音性能(音響透過損失)、音の経路毎の距離減衰・障壁減衰を計算する。最後に計算結果に基づき、騒音をスピーカやヘッドホーンなどから音として出力することにより、指定した部屋での騒音がどの程度か、体験者はリアルに体験できるようになった。そのため実際、顧客が検討している平面図に対応して、その騒音環境を体験でき、さらに間取りを変更した場合の騒音環境の変化も随時、確認できる。特に屋外経由で漏れてくる騒音に対する障壁の影響(効果)をリアルに体験できる様になった。
【0013】■特に、請求項3では、請求項1、2に示す騒音シミュレーション装置、方法において、障壁による減衰量を計算する手段として、フレーネル数の計算式を用いた。つまりフレーネル数N=δ/(λ/2)[ ]障壁の有無による音の経路差δ=A+B−d[m](図4R>4参照)
音の波長λ=340/f[m]
を計算し、フレーネル数と障壁による減衰量を示す図(図4)から障壁減衰量を計算するものとした。これにより、簡単な障壁減衰計算式を用いたため、短時間に簡便に障壁減衰の効果を考慮することができる。
【0014】請求項4〜6に記載の本発明によれば下記■、■の作用がある。
■本発明では、まず、各区画部材に関する情報(断面構成、面積、密度など)、各部屋に関する情報(体積、吸音力など)、および聞きたい騒音源の種類・位置、障壁の位置・高さと聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定する。次に、入力された情報から各区画部材の遮音性能(音響透過損失)、音の経路毎の距離減衰・障壁反射を計算する。最後に計算結果に基づき、騒音をスピーカやヘッドホーンなどから音として出力することにより、指定した部屋での騒音がどの程度か、体験者はリアルに体験できるようになった。そのため実際、顧客が検討している平面図に対応して、その騒音環境を体験でき、さらに間取りを変更した場合の騒音環境の変化も随時、確認できる。特に屋外経由で漏れてくる騒音が障壁で反射する音の影響をリアルに体験できる様になった。
【0015】■特に、請求項6では、請求項4、5に示す騒音シミュレーション装置、方法において、障壁による反射量を計算する手段として、音線法を用いるものとした。この音線法を利用することにより、障壁などによる反射の影響を考慮することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】図1は第1実施形態の構成例を示す模式図、図2は第1実施形態の平面図の例を示す模式図、図3は第1実施形態の騒音伝搬経路の例を示す模式図、図4は第1実施形態の障壁減衰量の計算例を示す模式図、図5は第2実施形態の構成例を示す模式図、図6は第2実施形態の平面図の例を示す模式図、図7は第2実施形態の騒音伝搬経路の例を示す模式図である。
【0017】(第1実施形態)(図1〜図4)
第1実施形態の騒音シミュレーション装置1Aは、図1に示す如く、録音・測定部10、情報入力部20、騒音計算部30、騒音加工部40、音発生部50を有している。そして、録音・測定部10として騒音録音・再生部11、音響パワーレベル測定部12を有し、情報入力部20として、位置情報入力部21、部材情報入力部22、騒音源入力部23、受音位置入力部24を有し、騒音計算部30として遮音性能計算部31、距離減衰計算部32、障壁減衰計算部33、音圧レベル差計算部34を有している。
【0018】この騒音シミュレーション装置1Aを用いた、騒音シミュレーション方法で騒音を体験するための手順の一例を以下に示す。
1.体験したい騒音がある場合、事前に騒音録音・再生部11で体験したい騒音を録音する必要がある。騒音録音・再生部11は、例えば、テープレコーダとマイクロホンと接続ケーブルからなる。テープレコーダはアナログ式、ディジタル式、ミニディスク装置など機種は問わない。また例えば、収録した騒音信号をAD変換器などを通し、コンピュータのハードディスクに取り込んでおいても良い。さらに暗騒音を付加するための再生部を別途、用意しても良いし、コンピュータを利用して暗騒音を合成しても良い。同時に、騒音源からどの程度の音が出力されているか、音響パワーレベル測定部12で音響パワーレベルを測定する。またカタログ、文献などで音響パワーレベルが既知の場合、その値を代用しても良い。
【0019】2.体験したい住宅の平面図(間取り、障壁の位置・高さ等)を入力する。間取り図などを参考に位置情報入力部21で入力する。例えば、マウスおよびCAD(Computer Aided Design ) ソフトを使って入力するものとする。またスキャナを使って取り込んだ間取り図から自動的に平面図をおこしてもよいものとする。平面図の一例を図2に示す。
【0020】3.部材情報入力部22で各区画部材に関する情報(断面構成、面積、密度など)、各部屋に関する情報(体積、吸音力など)を入力する。開放窓(開け放たれた窓)がある場合、その位置を入力する。例えば図2の場合、部屋数は2、区画部材は間仕切壁、窓■〜■、障壁の4つである。
【0021】4.遮音性能計算部31で、上記情報を基に各区画部材の遮音性能(音響透過損失)を計算する。区画部材が複数の部材で構成される場合(例えば壁にドアが付いている場合など)、各部材の音響透過損失の値および面積から総合的な音響透過損失を求めるものとする。
【0022】※なお、1から4の手順を事前に行い、データベース化されている場合などは、次の手順5から始めてもよいものとする。
【0023】5.騒音源入力部23で、騒音源の種類、位置を指定する。騒音録音・再生部11で複数の騒音源を録音・測定済みである場合、その内のいずれかを選択しなくてはならない。例えば、騒音源がコンピュータのハードディスクに取り込んである場合、そのファイル名を入力するわけである。また騒音源位置を入力する。位置の入力は、例えばコンピュータディスプレイに表示される平面図上を、例えばマウスでピックすることにより指定する。位置指定の一例を図3に示す。
【0024】6.受音位置入力部24で、その騒音の聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定する。位置の入力は、例えばコンピュータディスプレイに表示される平面図上を、例えばマウスでピックすることにより指定する。位置指定の一例を図3に示す。
【0025】7.距離減衰計算部32、障壁減衰計算部33および音圧レベル差計算部34で、音の経路上にある複数の区画部材の遮音性能、その間での距離減衰および障壁減衰の計算結果から、音源−受音位置間の音圧レベル差を計算する。騒音が伝搬する経路としては複数考えられる。計算の一例を図3に沿って説明する。
【0026】■考えられる全ての経路を洗い出す。ただし経路は一方向に進場合に限定する。図3の場合、経路a、bの2つを考慮する。
【0027】■まず、経路a(障壁、窓1を透過する経路)について、障壁が無い場合の距離減衰量を求める。今回、窓1は開放窓(開け放たれた窓)とする。例えば、距離r離れた点における音圧レベルLp=音響パワーレベルLw−10log(r)−5なる計算式に基づき、距離減衰を計算する。なお上式は半自由空間中の点音源に関する式であるが、必要に応じて自由空間に対する式を採用してもよく、また線音源、面音源に対する式を採用してもよいものとする。
【0028】次に、各周波数毎にフレーネル数を計算する。例えばフレーネル数N=δ/(λ/2)[ ]障壁の有無による音の経路差δ=A+B−d[m](図4R>4参照)
音の波長λ=340/f[m]
なる計算式に基づき、フレーネル数を計算する。次に、フレーネル数と障壁による減衰量を示す図(図4)から障壁減衰量を計算する。
【0029】最後に、距離減衰量と障壁減衰量を加え合わせて、実際の減衰量を計算し、音響パワーレベルから実際の減衰量を引いて部屋1での音圧レベルを求める。
【0030】※本例は障壁の遮音性能が十分に大きく、障壁を透過する音は無視できる場合であるが、そうでない場合は、障壁を透過する経路も考慮して計算することも可能である。
【0031】■同様に経路b(窓2および間仕切壁を透過)について計算する。今回、窓2は開放窓とする。まず、音源から窓2までの距離減衰量を前述の式から求め、窓から入ってくる騒音の音圧レベルを求める。次に、間仕切壁の音響透過損失から部屋1と部屋2の部屋空間音圧レベル差を求める。これらの結果を基に、部屋2での音圧レベルを求める。
【0032】(部屋2での音圧レベル)=(窓から入ってくる騒音の音圧レベル)−(空間音圧レベル差)
※本例では、住宅レベルのスケールで考えた場合、住宅内での距離減衰は無視できるものとして計算したが、厳密に住宅内での距離減衰を計算することも可能である。
【0033】■得られた部屋1での音圧レベルを全て加え合わせ、最終的に受音位置での音圧レベルを求める。
【0034】■最後に、「騒音源位置での音圧レベル(音響パワーレベル)と受音位置での音圧レベルの差」を求める。
【0035】8.騒音加工部4で、「騒音源位置での音圧レベル(音響パワーレベル)と受音位置での音圧レベルの差」に応じて、騒音信号を減衰加工する。ただし、減衰が大きすぎて騒音信号が負になった場合は、出力を零とする。
【0036】9.減衰加工された騒音を音発生部5から出力する。音発生部5は、例えばオーディオアンプとスピーカで構成されるものであってもよいし、ヘッドホーン・イヤホーンなどで構成されるものであってもよいが、出来るだけ周波数特性の良好な(平坦な)ものが望まれる。
【0037】この第1実施形態によれば、以下の作用効果がある。即ち、まず、各区画部材に関する情報(断面構成、面積、密度など)、各部屋に関する情報(体積、吸音力など)、および聞きたい騒音源の種類・位置、障壁の位置・高さと聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定する。次に、入力された情報から各区画部材の遮音性能(音響透過損失)、音の経路毎の距離減衰・障壁減衰を計算する。最後に計算結果に基づき、騒音をスピーカやヘッドホーンなどから音として出力することにより、指定した部屋での騒音がどの程度か、体験者はリアルに体験できるようなった。そのため実際、顧客が検討している平面図に対応して、その騒音環境を体験でき、さらに間取りを変更した場合の騒音環境の変化を随時、確認できる。特に屋外経由で漏れてくる騒音に対する障壁の影響(効果)を考慮できるようなったため、例えば騒音源と受音位置の間に設けた障壁の効果もリアルに体験可能となった。本装置、方法は顧客に対する販売促進ツールとして、また設計者あるいは研究者を対象に部材の遮音性能の評価にも利用できる。
【0038】(第2実施形態)(図5〜図7)
第2実施形態の騒音シミュレーション装置1Bは、図5に示す如く、録音・測定部110、情報入力部120、騒音計算部130、騒音加工部140、音発生部150を有している。そして、録音・測定部110として騒音録音・再生部111、音響パワーレベル測定部112を有し、情報入力部120として位置情報入力部121、部材情報入力部122、騒音源入力部123、受音位置入力部124を有し、騒音計算部130として遮音性能計算部131、屋外騒音計算部(音線法等)132、音圧レベル差計算部133を有している。
【0039】この騒音シミュレーション装置1Bを用いた、騒音シミュレーション方法で騒音を体験するための手順の一例を以下に示す。
1.体験したい騒音がある場合、事前に騒音録音・再生部111で体験したい騒音を録音する必要がある。騒音録音・再生部111は、例えば、テープレコーダとマイクロホンと接続ケーブルからなる。テープレコーダはアナログ式、ディジタル式、ミニディスク装置など機種は問わない。また例えば、収録した騒音信号をAD変換器などを通し、コンピュータのハードディスクに取り込んでおいても良い。さらに暗騒音を付加するための再生部を別途、用意しても良いし、コンピュータを利用して暗騒音を合成しても良い。同時に、騒音源からどの程度の音が出力されているか、音響パワーレベル測定部112で音響パワーレベルを測定する。またカタログ、文献などで音響パワーレベルが既知の場合、その値を代用しても良い。
【0040】2.体験したい住宅の平面図(間取り、障壁の位置・高さ等)を入力する。間取り図などを参考に位置情報入力部121で入力する。例えば、マウスおよびCAD(Computer Aided Design ) ソフトを使って入力するものとする。またスキャナを使って取り込んだ間取り図から自動的に平面図をおこしてもよいものとする。平面図の一例を図6に示す。
【0041】3.部材情報入力部122で各区画部材に関する情報(断面構成、面積、密度など)、各部屋に関する情報(体積、吸音力など)を入力する。開放窓(開け放たれた窓)がある場合、その位置を入力する。例えば図6の場合、部屋数は1、区画部材は外壁、窓、障壁の4つである。
【0042】4.遮音性能計算部131で、上記情報を基に各区画部材の遮音性能(音響透過損失)を計算する。区画部材が複数の部材で構成される場合(例えば壁にドアが付いている場合など)、各部材の音響透過損失の値および面積から総合的な音響透過損失を求めるものとする。
【0043】※なお、1から4の手順を事前に行い、データベース化されている場合などは、次の手順5から始めてもよいものとする。
【0044】5.騒音源入力部123で、騒音源の種類、位置を指定する。騒音録音・再生部111で複数の騒音源を録音・測定済みである場合、その内のいずれかを選択しなくてはならない。例えば、騒音源がコンピュータのハードディスクに取り込んである場合、そのファイル名を入力するわけである。また騒音源位置を入力する。位置の入力は、例えばコンピュータディスプレイに表示される平面図上を、例えばマウスでピックすることにより指定する。位置指定の一例を図7に示す。
【0045】6.受音位置入力部124で、その騒音の聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定する。位置の入力は、例えばコンピュータディスプレイに表示される平面図上を、例えばマウスでピックすることにより指定する。位置指定の一例を図7に示す。
【0046】7.屋外騒音計算部132および音圧レベル差計算部133で、音の経路上にある複数の区画部材の遮音性能、その間での距離減衰および障壁反射の計算結果から、音源−受音位置間の音圧レベル差を計算する。騒音が伝搬する経路としては複数考えられる。計算の一例を図7に沿って説明する。
【0047】■考えられる全ての経路を洗い出す。ただし経路は一方向に進む場合に限定する。図7の場合、経路a、bの2つを考慮する。
【0048】■まず、経路a(障壁で反射し、窓を透過する経路)について、音線法により距離減衰、反射減衰を考慮した実際の減衰量を求める。今回、窓は開放窓(開け放たれた窓)とする。次に、音響パワーレベルから実際の減衰量を引いて部屋での音圧レベルを求める。
【0049】■同様に経路b(外壁を透過する経路)について計算する。まず、遮音性能計算部131で求めておいた外壁の音響透過損失から屋外と部屋の間の音圧レベル差を求める。この結果を基に、部屋での音圧レベルを求める。
【0050】(部屋での音圧レベル)=(外壁面外側での騒音の音圧レベル)−(屋外−部屋間音圧レベル差)
※本例では、住宅レベルのスケールで考えた場合、住宅内での距離減衰は無視できるものとして計算したが、厳密に住宅内での距離減衰を計算することも可能である。
【0051】■得られた部屋での音圧レベルを全て加え合わせ、最終的に受音位置での音圧レベルを求める。
【0052】■最後に「騒音源位置での音圧レベル(音響パワーレベル)と受音位置での音圧レベルの差」を求める。
【0053】8.騒音加工部140で、「騒音源位置での音圧レベル(音響パワーレベル)と受音位置での音圧レベルの差」に応じて、騒音信号を減衰加工する。ただし、減衰が大きすぎて騒音信号が負になった場合は、出力を零とする。
【0054】9.減衰加工された騒音を音発生部150から出力する。音発生部150は、例えばオーディオアンプとスピーカで構成されるものであってもよいし、ヘッドホーン・イヤホーンなどで構成されるものであってもよいが、出来るだけ周波数特性の良好な(平坦な)ものが望まれる。
【0055】この第2実施形態によれば以下の作用効果がある。即ち、まず、各区画部材に関する情報(断面構成、面積、密度など)、各部屋に関する情報(体積、吸音力など)、および聞きたい騒音源の種類・位置、障壁の位置・高さと聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定する。次に、入力された情報から各区画部材の遮音性能(音響透過損失)、音の経路毎の距離減衰・障壁反射を計算する。最後に計算結果に基づき、騒音をスピーカやヘッドホーンなどから音として出力することにより、指定した部屋での騒音がどの程度か、体験者はリアルに体験できるようなった。そのため実際、顧客が検討している平面図に対応して、その騒音環境を体験でき、さらに間取りを変更した場合の騒音環境の変化を随時、確認できる。特に反射音を取り扱えることにより、例えば騒音源と受音位置の間に設けた障壁により、反射して到達する騒音も体験可能となった。本装置、方法は顧客に対する販売促進ツールとして、また設計者あるいは研究者を対象に部材の遮音性能の評価にも利用できる。
【0056】以上、本発明の実施の形態を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0057】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、騒音源と受音位置の間に設けた障壁の効果、障壁による反射音の影響をリアルに体験することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は第1実施形態の構成例を示す模式図である。
【図2】図2は第1実施形態の平面図の例を示す模式図である。
【図3】図3は第1実施形態の騒音伝搬経路の例を示す模式図である。
【図4】図4は第1実施形態の障壁減衰量の計算例を示す模式図である。
【図5】図5は第2実施形態の構成例を示す模式図である。
【図6】図6は第2実施形態の平面図の例を示す模式図である。
【図7】図7は第2実施形態の騒音伝搬経路の例を示す模式図である。
【符号の説明】
1A、1B 騒音シミュレーション装置
10、110 録音・測定部
11、111 騒音録音・再生部
12、112 音響パワーレベル測定部
20、120 情報入力部
21、121 位置情報入力部
22、122 部材情報入力部
23、123 騒音源入力部
24、124 受音位置入力部
30、130 騒音計算部
31、131 遮音性能計算部
32 距離減衰計算部
33 障壁減衰計算部
34、133 音圧レベル差計算部
132 屋外騒音計算部
40、140 騒音加工部
50、150 音発生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 騒音を録音および再生するための騒音録音・再生手段と、騒音録音の際、その音響パワーレベルを測定する音響パワーレベル測定手段と、住宅の間取り、住宅外の障壁の位置・高さの平面図を入力するための位置情報入力手段と、録音・測定した騒音の内、聞きたい騒音源の種類、およびその騒音源の平面図上での位置を指定するための騒音源入力手段と、その騒音の聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定する受音位置入力手段と、平面図に表れる各区画部材に関する情報、各部屋に関する情報を入力する部材情報入力手段と、入力された情報を基に、各区画部材の遮音性能を計算する遮音性能計算手段と、指定された騒音源位置から受音位置へ向かう音の経路毎に、距離減衰を計算する距離減衰計算手段と、障壁による減衰量を計算する障壁減衰計算手段と、音の経路上にある複数の区画部材の音響透過損失およびその間での距離減衰および障壁による減衰量から、音源−受音位置間の音圧レベル差を計算する音圧レベル差計算手段と、上記計算結果に応じて騒音を減衰加工する騒音加工手段と、騒音加工手段で加工した騒音を、音として出力するための音発生手段を用意することを特徴とする騒音シミュレーション装置。
【請求項2】 体験したい騒音を録音すると共に、音響パワーレベルを測定し、次に、体験したい住宅の平面図を入力し、次に、各区画部材に関する情報、各部屋に関する情報を入力し、次に、上記情報を基に、各区画部材の遮音性能を計算し、次に、録音済みの複数の騒音から、騒音源の種類、位置を指定し、次に、その騒音の聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定し、次に、音の経路上にある複数の区画部材の遮音性能、その間での距離減衰および障壁による減衰量の計算結果から、音源−受音位置間の音圧レベル差を計算し、次に、音圧レベルの差に応じて、騒音信号を減衰加工し、その後、減衰加工された騒音を、音として出力するよう構成した騒音シミュレーション方法。
【請求項3】 前記障壁による減衰量を計算する手段として、フレーネル数の計算式を用いる請求項2記載の騒音シミュレーション方法。
【請求項4】 騒音を録音および再生するための騒音録音・再生手段と、騒音録音の際、その音響パワーレベルを測定する音響パワーレベル測定手段と、住宅の間取り、住宅外の障壁の位置・高さの平面図を入力するための位置情報入力手段と、録音・測定した騒音の内、聞きたい騒音源の種類、およびその騒音源の平面図上での位置を指定するための騒音源入力手段と、その騒音の聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定する受音位置入力手段と、平面図に表れる各区画部材に関する情報、各部屋に関する情報を入力する部材情報入力手段と、入力された情報を基に、各区画部材の遮音性能を計算する遮音性能計算手段と、指定された騒音源位置から受音位置へ向かう音の経路毎に、距離減衰、障壁による反射を計算する屋外騒音計算手段と、音の経路上にある複数の区画部材の音響透過損失およびその間での距離減衰および障壁による反射量から、音源−受音位置間の音圧レベル差を計算する音圧レベル差計算手段と、上記計算結果に応じて騒音を減衰加工する騒音加工手段と、騒音加工手段で加工した騒音を、音として出力するための音発生手段を用意することを特徴とする騒音シミュレーション装置。
【請求項5】 体験したい騒音を録音すると共に、音響パワーレベルを測定し、次に、体験したい住宅の平面図を入力し、次に、各区画部材に関する情報、各部屋に関する情報を入力し、次に、上記情報を基に、各区画部材の遮音性能を計算し、次に、録音済みの複数の騒音から、騒音源の種類、位置を指定し、次に、その騒音の聞こえ具合を体験したい部屋を平面図上で指定し、次に、音の経路上にある複数の区画部材の遮音性能、その間での距離減衰および障壁による反射量の計算結果から、音源−受音位置間の音圧レベル差を計算し、次に、音圧レベルの差に応じて、騒音信号を減衰加工し、その後、減衰加工された騒音を、音として出力するよう構成した騒音シミュレーション方法。
【請求項6】 前記障壁による反射量を計算する手段として、音線法を用いる請求項5記載の騒音シミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平11−224273
【公開日】平成11年(1999)8月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−23470
【出願日】平成10年(1998)2月4日
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)