説明

骨成長促進性の被覆のための方法及び装置

【課題】医療用インプラントの表面に骨成長を促進する被覆を施すことができる簡単で廉価なかつ迅速に使用できる方法が要求されている。
【解決手段】被覆されるべき少なくとも1つの表面を有する医療用インプラントを提供し、5.5以下のモース硬度を有する少なくとも1つのカルシウム塩を少なくともその表面上に有する物体を提供し、そして前記カルシウム塩を含有する表面を有する前記物体を前記医療用インプラントの被覆されるべき少なくとも1つの表面上に擦り付けて、この医療用インプラントの表面を少なくともそのカルシウム塩で被覆する、医療用インプラントの被覆方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用インプラントの被覆方法、医療用インプラントの被覆のための物体の使用並びに医療用インプラントの被覆のためのスティックに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用インプラントは、長い間、医学において、身体の機能を補うかあるいは置き換えるという使命で使用されている。特に、欠損した身体の関節は、一段と大きな成功を伴って関節インプラントによって置き換えられている。これは、しばしば対象となる患者の生活の質の明らかな向上を伴う。
【0003】
股関節、膝関節及び肩関節の置換のために、目下、セメント式の関節エンドプロテーゼの他に、ますます非セメント式の関節エンドプロテーゼも使用されている。非セメント式の関節エンドプロテーゼは、その際、一般にチタン合金から完成され、かつ大抵は骨組織の増殖を改善するために粗面化(しばしばサンドブラスト処理)された又は構造化された多孔質表面を有する。
【0004】
先行技術から、インプラント表面の骨組織に対する適合性を改善する試みは知られている。その際、常に、耐力バルク相は、主として必要とされる生体力学的特性をもたらすべきであり(構造適合性)、そして表面相は、隣接する骨組織に対する適合性(表面適合性)を保証するべきである(WINTERMANTEL:Biokompatible Werkstoffe und Bauweisen:Implantate fuer die Medizin und Umwelt.Springer Verlag,Berlin,Heidelberg,New York,1996)。構想は、骨組織の無機相を模造する表面構造を作成することにある。ヒトの骨組織の無機相は、カーボネートアパタイト/ヒドロキシルアパタイトによって形成される。従って、インプラントの表面適合性の改善のための主要な重点は、リン酸カルシウム層の発生にある。
【0005】
骨組織接点(股関節、膝関節、肩関節のエンドプロテーゼ)の範囲において、非常に種々の方法(熱的吹き付け法、電気化学的析出、ゾル・ゲル技術、イオンビームスパッタリング、レーザアブレーション)を用いて、表面適合性の改善の達成が試みられた。今までに工業的には、リン酸カルシウム層のプラズマ溶射法(DE GROOT,KLEIN,WOLKE:Plasma−sprayed coatings of caicium phosphate.CRC Press,Boca Raton,Ann Arbor,Boston,1990;DE GROOT,KLEIN,WOLKE:Chemistry of calcium phosphate bioceramics.CRC Handbook of bioactive ceramics,2(1996)3−16;W02009062671)と、リン酸カルシウム層の電気化学的析出(BAN,MARUNO:Morphology and microstructure of electrochemically deposited caicium phosphates in a modified simulated body fluid.Biomaterials,19(1998)1245−1253;DE4431862;W02009147045;CN101485901;CN101406711;EP2037980;US2006134160;W02004098436;W02004024201;EP1264606;EP0774982;EP0232791)のみが成果を収めていた。
【0006】
しかしながら、臨床的な長期試験により、長期安定であると見なされるプラズマ溶射されたリン酸カルシウム層は生物学的な周囲環境において部分的な分解を受けることが示された(WHEELER:Eight−year clinical retrospective study of titanium plasma−sprayed and hydroxyapatite−coated cylinder implants.International Journal of Oral and Maxillofacial Implants,11,3(1996)340−350.OSHBORN:Die biologische Leistung der Hydroxylapatit−keramik−Beschichtung auf dem Femurschaft einer Titanendoprothese−erste histologische Auswertung eines Humanexplantats.Biomedizinische Technik,32(1987)177−183.)。その際、一方で、骨組織との境界面で相変化が生じ、他方で、この方法は、主として晶質の相成分(粒子)の被包及び/又は剥離をもたらす。
【0007】
Cooleyによる調査(COOLEY,VAN DELLEN,BURGESS,WINDELER:The advantages of coated titanium implants prepared by radiofrequency sputtering from hydroxyapatite.J.Prosthet.Dent.,67(1992)93−100.)及びMaxianによる調査(MAXIAN,ZAWADSKI,DUNN:Effect of CaP coating resorption and surgical fit on the bone/implant interface.Journal of Biomedical Material Research,28(1994)1311−1319.)においては、金属の基体上に電気化学的方法によって施与された完全に分解可能な生体活性層の高い効率が証明されている。動物実験による研究と臨床的な研究の評価により、高溶解性のリン酸カルシウム層の迅速かつ完全な分解にもかかわらず、インプラント表面で確実な骨増殖挙動が示されているという結論がもたらされた。
【0008】
従って、迅速に溶解するリン酸カルシウム層は、臨床的に良好な結果をもたらしうることが確認できる。インプラント表面の骨組織に対する適合性の改善のためには、インプラント表面上に長期安定な被覆は必要ないことは明らかである。
【0009】
しかしながら、今までの通常のあらゆる電気化学的な析出法では、前記のリン酸カルシウム層を前記の医療用インプラント上に施与するためには、かなりの装置的な費用と時間的な消耗が必要となることが欠点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】W02009062671
【特許文献2】DE4431862
【特許文献3】WO2009147045
【特許文献4】CN101485901
【特許文献5】CN101406711
【特許文献6】EP2037980
【特許文献7】US2006134160
【特許文献8】WO2004098436
【特許文献9】WO2004024201
【特許文献10】EP1264606
【特許文献11】EP0774982
【特許文献12】EP0232791
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】WINTERMANTEL:Biokompatible Werkstoffe und Bauweisen:Implantate fuer die Medizin und Umwelt.Springer Verlag,Berlin,Heidelberg,New York,1996
【非特許文献2】DE GROOT,KLEIN,WOLKE:Plasma−sprayed coatings of caicium phosphate.CRC Press,Boca Raton,Ann Arbor,Boston,1990
【非特許文献3】DE GROOT,KLEIN,WOLKE:Chemistry of calcium phosphate bioceramics.CRC Handbook of bioactive ceramics,2(1996)3−16
【非特許文献4】BAN,MARUNO:Morphology and microstructure of electrochemically deposited caicium phosphates in a modified simulated body fluid.Biomaterials,19(1998)1245−1253
【非特許文献5】WHEELER:Eight−year clinical retrospective study of titanium plasma−sprayed and hydroxyapatite−coated cylinder implants.International Journal of Oral and Maxillofacial Implants,11,3(1996)340−350
【非特許文献6】OSHBORN:Die biologische Leistung der Hydroxylapatit−keramik−Beschichtung auf dem Femurschaft einer Titanendoprothese−erste histologische Auswertung eines Humanexplantats.Biomedizinische Technik,32(1987)177−183
【非特許文献7】COOLEY,VAN DELLEN,BURGESS,WINDELER:The advantages of coated titanium implants prepared by radiofrequency sputtering from hydroxyapatite.J.Prosthet.Dent.,67(1992)93−100
【非特許文献8】MAXIAN,ZAWADSKI,DUNN:Effect of CaP coating resorption and surgical fit on the bone/implant interface.Journal of Biomedical Material Research,28(1994)1311−1319
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、医療用インプラントの表面に骨成長を促進する被覆を施すことができる簡単で廉価なかつ迅速に使用できる方法が要求されている。
【0013】
従って、本発明は、医療用インプラントの被覆方法であって、それによりカルシウム塩を簡単にコスト集中的な被覆装置を用いずに少ない時間的消費で医療用インプラントの表面に施与できる方法を提供することであった。前記方法は、特に移植の直前に手術室において使用できることが望ましい。更に、前記方法は、骨成長を刺激すると同時に止血性に作用する非セメント式の関節エンドプロテーゼの被覆の製造を可能にすることが望ましい。
【0014】
同様に、本発明による方法を実施できる装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の課題は、医療用インプラントの被覆方法であって、
(i)被覆されるべき少なくとも1つの表面を有する医療用インプラントを提供し、
(ii)5.5以下のモース硬度を有する少なくとも1つのカルシウム塩を少なくともその表面上に有する物体を提供し、そして
(iii)前記カルシウム塩を含有する表面を有する前記物体を前記医療用インプラントの被覆されるべき少なくとも1つの表面上に擦り付けて、この医療用インプラントの表面を少なくともそのカルシウム塩で被覆する、
医療用インプラントの被覆方法によって解決される。
【0016】
この方法の実施のために、医療用インプラントの被覆のためのスティックであって、中空体と、該中空体中で可動的かつ該中空体から少なくとも部分的に導出可能に配置された物体とを有し、前記物体が5.5以下のモース硬度を有するカルシウム塩及び医薬作用物質を含むスティックを使用することができる。
【0017】
本発明は、医療用インプラント、特に非セメント式の関節エンドプロテーゼが、骨組織の良好な統合を達成するために、通常は、粗面の又は構造化された表面を有するという認識を基礎としている。驚くべきことに、医療用インプラントは、簡単な様式で、5.5以下のモース硬度を有するカルシウム塩で、このカルシウム塩を前記医療用インプラントの表面上に擦り付けることで被覆することができると判明した。擦り付けに際して、医療用インプラントの粗面の又は構造化された表面に残っている軟質のカルシウム塩の磨り減りが起こる。溶解性のリン酸カルシウム層を用いた結果が示すように、インプラント表面上には一次的にのみ被覆が存在せねばならないことで明らかに十分なので、分解可能な軟質の被覆材料の使用が可能である。
【0018】
従って、本発明は、手術室での移植直前にユーザーによって、医療用インプラントを少なくとも1つのカルシウム塩で被覆することを可能にする。従って、本発明による被覆方法の実現のために、特別なロジスティックな措置は採られないため、例えば膝エンドプロテーゼであって、種々の材料からなり種々の形状を有し、かつ種々の製造元によるものを、更なる技術的な方策なく少なくとも1つのカルシウム塩で被覆できる。少なくとも1つのカルシウム塩の他に、被覆すべき表面は、本発明による方法によって、1種又は複数種の更なる物質でも被覆することができる。
【0019】
従って、本発明によれば、医療用インプラントの被覆方法が提供される。特に、骨成長を促進する被覆を医療用インプラントの表面上に製造するための方法が提供される。この方法によって、同様に、止血性に作用する被覆を医療用インプラントの表面上に製造することに成功する。更に、本発明の対象は、5.5以下のモース硬度を有するカルシウム塩を有する医療用インプラントの表面の被覆である。
【0020】
この方法は、本発明によれば、ヒト又は動物の生体の外側で行われる。
【0021】
このために、まず、被覆されるべき少なくとも1つの表面を有する医療用インプラントが提供される。
【0022】
本発明の範囲においては、医療用インプラントの被覆とは、インプラントの少なくとも1つの表面の少なくとも一部を覆うことを意味する。好ましい一実施形態によれば、医療用インプラントの被覆とは、インプラントの少なくとも1つの表面の少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、なおもより好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも60%、殊に好ましくは少なくとも70%を覆うことを意味する。
【0023】
医療用インプラントという概念には、本発明によれば、外科手術の過程で少なくとも部分的に体内に組み込まれる材料及び装置が含まれる。これらのインプラントは、骨と支持装置及び運動装置の別のエレメントと接触することがあり、同様にまた血液又は結合組織とも接触することがある。
【0024】
好ましい一実施態様によれば、医療用インプラントは、エンドプロテーゼである。エンドプロテーゼとは、持続的に体内に留まり、身体各部を完全に又は部分的に置換するインプラントを意味する。
【0025】
特に好ましい一実施態様によれば、医療用インプラントは、関節エンドプロテーゼである。例示される関節エンドプロテーゼとしては、膝関節エンドプロテーゼ及び股関節エンドプロテーゼを挙げることができる。好ましくは、関節エンドプロテーゼは、非セメント式の関節エンドプロテーゼである。
【0026】
これらの医療用インプラントは、種々の材料から完成されていてよい。好ましい一実施態様によれば、医療用インプラントは、チタンもしくはチタン合金を含むか、又は実質的にそれらからなる。
【0027】
本発明によれば、少なくとも1つの表面が粗面であることが好ましいことがある。好ましい一実施態様によれば、医療用インプラントの少なくとも1つの表面は、少なくとも0.5μmの、特に好ましくは少なくとも0.75μmの、殊に好ましくは少なくとも1.0μmの平均粗さRaを有する。平均粗さRaは、表面上での、中心線に対する測定点の平均距離を示す。中心線は、基準区間(Bezugsstrecke)内で、実際のプロフィールを、そのプロフィールの(中心線に対する)偏差の合計が最小限になるように横切る。従って、平均粗さRaは、中心線からの偏差の算術平均に相当する。粗さの測定のために、本発明によれば、輪郭形状測定器(Tastschnittgeraet)を使用したプロフィールを基礎とする方法が好ましい。少なくとも0.5μmの、特に好ましくは少なくとも0.75μmの、殊に好ましくは少なくとも1.0μmの平均粗さRaを有する少なくとも1つの表面は、好ましくは、医療用インプラントの被覆されるべき表面である。驚くべきことに、粗いインプラント表面は、特に簡単かつ安定にカルシウム塩で被覆できることが明らかになった。そのことは、少なくとも1つのカルシウム塩を含有する物体を医療用インプラントの粗い表面に擦り付けた場合に、カルシウム塩を含有する摩耗(Abrieb)が生じ、その摩耗が医療用インプラントの表面のプロフィールを定義づける凹部の間に堆積することに起因しうる。
【0028】
医療用インプラントの被覆されるべき表面は、更に好ましくは、少なくとも3.5の、より好ましくは少なくとも4.0の、なおもより好ましくは少なくとも4.5の、殊に好ましくは少なくとも5のモース硬度を有する。5.5以下のモース硬度を有するカルシウム塩の摩耗は、医療用インプラントの被覆されるべき表面のモース硬度が大きければ大きいほど、医療用インプラントの表面上で一層多くなることが示されている。特に好ましい一実施態様によれば、医療用インプラントの被覆されるべき表面は、カルシウム塩のモース硬度よりも大きいモース硬度を有する。特に好ましい更なる実施態様によれば、医療用インプラントの被覆されるべき表面は、カルシウム塩を有する物体表面のモース硬度よりも大きいモース硬度を有する。
【0029】
本発明によれば、医療用インプラントの被覆のために、5.5以下の、より好ましくは5.0以下の、なおもより好ましくは4.5以下の、特に好ましくは4.0以下の、殊に好ましくは3.5以下のモース硬度を有する少なくとも1つのカルシウム塩を少なくともその表面上に有する物体が使用される。
【0030】
本発明の範囲において、物体とは、その形状に関して何ら制限のないあらゆる物を表す。特に、物体は、円柱体であってよい。好ましい一実施態様によれば、該物体は、一方の手の少なくとも3本の指でつかむことができる。更なる好ましい一実施態様によれば、該物体は、少なくとも50mm3の体積、より好ましくは少なくとも100mm3の体積、なおもより好ましくは少なくとも250mm3の体積、特に好ましくは少なくとも330mm3の体積、殊に好ましくは少なくとも15000mm3の体積を有する。
【0031】
前記物体は、少なくともその表面上に、5.5以下の、より好ましくは5.0以下の、なおもより好ましくは4.5以下の、特に好ましくは4.0以下の、殊に好ましくは3.5以下の、特に3.1以下のモース硬度を有する少なくとも1つのカルシウム塩を有する。好ましくは、前記物体の全ての表面は、5.5以下の、より好ましくは5.0以下の、なおもより好ましくは4.5以下の、特に好ましくは4.0以下の、殊に好ましくは3.5以下の、特に3.1以下のモース硬度を有する少なくとも1つのカルシウム塩を有する。好ましい一実施態様によれば、前記物体の少なくとも1つの表面だけが、5.5以下の、より好ましくは5.0以下の、なおもより好ましくは4.5以下の、特に好ましくは4.0以下の、殊に好ましくは3.5以下の、特に3.1以下のモース硬度を有するカルシウム塩を有さない。特に、5.5以下の、より好ましくは5.0以下の、なおもより好ましくは4.5以下の、特に好ましくは4.0以下の、殊に好ましくは3.5以下の、特に3.1以下のモース硬度を有する少なくとも1つのカルシウム塩が、均質に又は不均質に前記物体中に分配されていることが好ましい。
【0032】
前記物体の少なくとも表面上に存在するカルシウム塩は、好ましくは生体適合性である。
【0033】
好ましい一実施態様によれば、前記物体の少なくとも1つの表面は、特にインプラントの被覆されるべき表面上に擦り付けられる物体の表面は、5.5以下の、より好ましくは5.0以下の、なおもより好ましくは4.5以下の、特に好ましくは4.0以下の、殊に好ましくは3.5以下の、特に3.1以下のモース硬度を有する。
【0034】
更に、前記物体は、好ましくは0〜70容量%の範囲の気孔率を有する。気孔率とは、本発明によれば、前記物体の中空室体積の全体積に対する比率を意味する。
【0035】
一実施態様によれば、物体の気孔率は、0〜15%の範囲、より好ましくは0〜10%の範囲、特に好ましくは0〜5%の範囲にあることが好ましいことがある。この場合に、前記物体は、少なくとも1つのカルシウム塩の他に、更なる内容物、特に以下に挙げられる内容物(例えば少なくとも1種の医薬作用物質)を含有することが好ましい。ユーザーがこの内容物のインプラント被覆中での存在を必要と思うなら、医療用インプラントの表面は、従って、この物体によって直接的に被覆することができ、この内容物をユーザーによって該物体に添加する必要がなくなる。この物体の低い気孔率は、少なくとも1つのカルシウム塩の高い摩耗を、医療用インプラントの表面上で生ずるためには、特に適していると見なされている。
【0036】
更なる実施態様によれば、物体の気孔率は、10〜70%の範囲、より好ましくは20〜70%の範囲、特に好ましくは30〜70%の範囲にあることが好ましいことがある。この場合には、該物体に、使用直前に、更なる内容物を、特に以下に挙げる内容物(例えば少なくとも1種の医薬作用物質)を添加することを予定することができる。ユーザーがこの内容物のインプラント被覆中での存在を必要と思うなら、この内容物を該物体に添加し、上記の気孔率に基づき該物体中に含有されたままとなりうる。例えば、該物体を使用前に、少なくとも1種の更なる内容物、例えば医薬作用物質を含有する溶液で含浸させることが可能である。示された気孔率に基づき、該物体は、この内容物を収容することができる。それによって、通常は、該物体の気孔率は低下するが、そのおかげで医療用インプラントの表面は、この物体によって簡単にかつ確実に被覆することができる。従ってこの実施形態は、更なる内容物を含有し、インプラント受容者の特別な要求に適合されている被覆の製造のための物体の調製を可能にする。
【0037】
好ましい更なる実施態様によれば、該物体は、0〜70質量%の範囲の含水率を有する。その含水率は、例えば該物体内に閉じ込められた水及び/又はカルシウム塩と結合された結晶水に起因されうる。
【0038】
その際、一方では、該物体が0〜20質量%の範囲の、より好ましくは0〜10質量%の範囲の、特に好ましくは0〜5質量%の範囲の含水率を有することが好ましいことがある。この含水率は、一方で、該物体が既に全ての所望される内容物を含有して、医療用インプラントの被覆の製造のために直接的に使用できる場合("レディー・トゥ・ユース")に示されていてよい。他方で、前記の含水率は、該物体がまだ全ての内容物を含有しておらず、該物体に更なる内容物を使用直前に添加すべき場合に示されていてよい。この場合に、該物体は、その低い含水率に基づき、この更なる内容物の溶液を収容することができる。従って、前記の低い含水率を有する物体は、簡単な様式で、例えば少なくとも1種の更なる内容物の溶液での含浸によって調製して、インプラント受容者の特別な要求に適合されたインプラント被覆を作成できる物体を得ることができる。
【0039】
他方では、該物体が20〜70質量%の範囲の、より好ましくは25〜65質量%の範囲の、特に好ましくは30〜60質量%の範囲の含水率を有することが好ましいことがある。この含水率は、特に、該物体へと使用直前に更なる内容物を、例えば少なくとも1種の更なる内容物の水溶液で含浸させることによって添加し、そして該物体の乾燥を行わない場合に達成される。
【0040】
なおも更なる好ましい実施態様によれば、カルシウム塩は、25℃の温度での水中での可溶性少なくとも2g/l、より好ましくは少なくとも5g/l、なおもより好ましくは少なくとも10g/lを有する。高い水溶性を有し、カルシウムを遊離するカルシウム塩が、本発明によれば好ましい。それというのも、それは、血液凝固因子IVとして止血薬であり、移植の後に血液凝固カスケードを活性化するからである。ここで血液凝固が医療用インプラントの表面上に存在する物質によって引き起こされる場合に、それは移植の直後にフィブリン層の形成をもたらし、その層が医療用インプラントの骨への癒着(Anwachsen)を促進する。
【0041】
本発明によれば、該物体中に含まれるカルシウム塩が無機カルシウム塩である場合に好ましいことがある。他方で、該物体中に無機カルシウム塩の他に有機カルシウム塩も含まれていることが可能である。
【0042】
好ましくは、該物体中でのカルシウム塩の割合は、該物体の質量に対して、少なくとも50質量%、より好ましくは少なくとも60質量%、なおもより好ましくは少なくとも70質量%、特に好ましくは少なくとも75質量%、殊に好ましくは少なくとも80質量%、特に少なくとも85質量%である。例えば、該物体中には、物体の質量に対して、50〜100質量%の、より好ましくは60〜100質量%の、なおもより好ましくは70〜100質量%の、特に好ましくは75〜100質量%の、殊に好ましくは80〜100質量%の、特に85〜100質量%のカルシウム塩が含まれていてよい。同様に、該物体中には、例えば、物体の質量に対して、50〜90質量%の、より好ましくは50〜85質量%の、なおもより好ましくは55〜85質量%の、特に好ましくは60〜85質量%の、殊に好ましくは65〜85質量%の、特に60〜80質量%のカルシウム塩が含まれていてよい。
【0043】
更なる好ましい実施態様によれば、該カルシウム塩は、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択される。
【0044】
本発明によれば、カルシウム塩という概念とは、結晶水を含有するカルシウム塩も、結晶水を含まないカルシウム塩もいずれも意味している。ここで、例えば硫酸カルシウムは、結晶水を含有する硫酸カルシウムと結晶水を含まない硫酸カルシウムからなる群から選択されてよい。その場合、結晶水を含有する硫酸カルシウムは、好ましくは、硫酸カルシウム二水和物及び硫酸カルシウム半水和物からなる群から選択される。カルシウム二水和物は、その場合に特に好ましいと見なされた。それというのも、それは硬化された状態で多孔質であるので、水又は水溶液を吸収しうるからである。それによって、例えば簡単な様式で、形成された物体を、後に、例えば医薬作用物質などの更なる内容物の水溶液で浸漬させることができる。
【0045】
特に好ましい一実施態様によれば、硫酸カルシウムは、結晶水を含まない硫酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物及び硫酸カルシウム半水和物からなる群から選択される。
【0046】
更なる特に好ましい実施態様によれば、リン酸カルシウムは、結晶水を含まないリン酸カルシウム、α−リン酸三カルシウム(α−TCP)及びβ−リン酸三カルシウム(β−TCP)からなる群から選択される。
【0047】
なおも更なる特に好ましい実施態様によれば、リン酸水素カルシウムは、ブルッシャイト及びモネタイトからなる群から選択される。
【0048】
好ましくは、該物体は、更に、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸塩、1000g/モル以下のモル質量を有するポリエチレングリコール及び1000g/モル未満のモル質量を有するオリゴマーの乳酸エステルからなる群から選択される化合物を含有する。特に好ましい一実施態様によれば、前記の化合物は、グリセリン三脂肪酸エステルである。
【0049】
これらの化合物は、例えば、更なる内容物、特に更なる医薬作用物質を前記物体に結合させるために用いることができる。更に、前記化合物は、該物体の製造に際してのバインダーとして用いることができる。
【0050】
更なる実施態様によれば、該物体は、医薬作用物質を含有する。
【0051】
この医薬作用物質は、好ましくは抗生物質、防腐剤、抗炎症薬、ステロイド、ホルモン、成長因子、ビスホスホネート、細胞分裂抑制薬、遺伝子ベクター及びプラスミドからなる群から選択されてよい。特に好ましい一実施態様によれば、少なくとも1種の医薬作用物質は、抗生物質である。
【0052】
少なくとも1種の抗生物質は、好ましくは、アミノグリコシド系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、リンコサミド系抗生物質、キノロン系抗生物質、オキサゾリジノン系抗生物質、ジャイレースインヒビター、カルバペネム、環状リポペプチド、グリシルサイクリン及びペプチド抗生物質の群から選択される。
【0053】
特に好ましい一実施態様によれば、少なくとも1種の抗生物質は、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、バンコマイシン、テイコプラニン、ダルババンシン、リンコサミン、クリンダマイシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、ドリペネム、メロペネム、チゲサイクリン、リネゾリド、エペレゾリド、ラモプラニン、メトロニダゾール、チニダゾール、オミダゾール及びコリスチン並びにそれらの塩及びエステルからなる群から選択されるメンバーである。
【0054】
従って、少なくとも1種の抗生物質は、硫酸ゲンタマイシン、塩酸ゲンタマイシン、硫酸アミカシン、塩酸アミカシン、硫酸トブラマイシン、塩酸トブラマイシン、塩酸クリンダマイシン、塩酸リンコサミン及びモキシフロキサシンからなる群から選択することができる。
【0055】
少なくとも1種の抗炎症薬は、好ましくは、非ステロイド系抗炎症薬及びグルココルチコイドからなる群から選択される。特に好ましい一実施態様によれば、少なくとも1種の抗炎症薬は、アセチルサリチル酸、イブプロフェン、ジクロフェナク、ケトプロフェン、デキサメタゾン、プレドニゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン及びフルチカゾンからなる群から選択される。
【0056】
少なくとも1種のホルモンは、好ましくは、セロトニン、ソマトトロピン、テストステロン及びエストロゲンからなる群から選択される。
【0057】
少なくとも1種の成長因子は、好ましくは、線維芽細胞成長因子(FGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、インスリン様成長因子(IGF)、肝細胞成長因子(HGF)、骨形態発生タンパク質(BMP)、インターロイキン−1B、インターロイキン8及び神経成長因子からなる群から選択される。
【0058】
少なくとも1種の細胞分裂抑制薬は、好ましくは、アルキル化物質、白金類似体、挿入剤(Interkalatien)、有糸分裂阻害剤、タキサン類、トポイソメラーゼインヒビター及び代謝拮抗物質からなる群から選択される。
【0059】
少なくとも1種のビスホスホネートは、好ましくは、ゾレドロネート及びアレドロネートからなる群から選択される。
【0060】
遺伝子ベクターは、ウイルスベクター又はコスミドベクターであってよい。
【0061】
該物体中での医薬作用物質の含有率は、これ以上制限されない。前記含有率は、例えば物体の質量に対して、0.1〜30質量%の範囲、より好ましくは0.5〜20質量%の範囲、特に好ましくは1〜15質量%の範囲にあってよい。
【0062】
医薬作用物質は、該物体上に被覆として存在するか、又は均質に該物体中に分配されて存在してよい。
【0063】
該物体は更に少なくとも1種の着色剤を含有してよい。着色剤は、特に好ましくは、食用色素である。特に好ましい一実施態様によれば、着色剤は、E101、E104、E132、E141(クロロフィリン)、E142、リボフラビン及びリサミングリーンからなる群から選択される。着色剤という概念には、本発明によれば、レーキ(Farblacke)、例えばグリーンレーキ、E104とE132の混合物も含まれる。該着色剤の存在によって、該物体のユーザーには、本発明による被覆方法の間に、医療用インプラントのどの領域が既に被覆されているか否かを簡単に認識されうる。
【0064】
本発明の範囲において、該物体が、マグネシウム塩、ストロンチウム塩及びリチウム塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩を含有することが好ましいこともある。好ましい一つの塩は、例えば硫酸ストロンチウムである。これらの塩を用いて、前記物体によって被覆された医療用インプラント、特に関節エンドプロテーゼの改善された骨結合の達成が可能である。
【0065】
好ましい一実施態様によれば、該物体は、70〜90質量%の硫酸カルシウム及び10〜30質量%の炭酸カルシウムを含有する。硫酸カルシウムは、この場合、好ましくは硫酸カルシウム二水和物である。
【0066】
更なる好ましい一実施態様によれば、該物体は、40〜90質量%の硫酸カルシウム、0.1〜40質量%の炭酸カルシウム及び0.1〜20質量%の硫酸ストロンチウムを含有する。ここで、硫酸カルシウムが硫酸カルシウム二水和物であることが好ましいことがある。
【0067】
更なる好ましい一実施態様によれば、該物体は、20〜90質量%の硫酸カルシウム、0.1〜40質量%の炭酸カルシウム及び0.5〜50質量%の医薬作用物質を含有する。
【0068】
なおも更なる好ましい実施態様によれば、該物体は、70〜73質量%の硫酸カルシウム、16〜20質量%の炭酸カルシウム、8〜10質量%の三パルミチン酸グリセリン及び1〜2質量%の硫酸ゲンタマイシンを含有する。カルシウム塩は、好ましくは硫酸カルシウム二水和物である。
【0069】
本発明による物体は、種々の様式で製造することができる。
【0070】
好ましい一実施態様によれば、該物体は、粉末の圧縮によって製造される。この粉末は、好ましくは、本願で該物体に関して記載されるのと、同じ成分を、好ましくは同じ組成で有する。該物体は、前記粉末から簡単な圧縮によって、好ましくは偏心プレス(Exzenterpresse)を用いて成形することができる。圧入深さ(Einpresstiefe)の変更によって、その場合、該物体の気孔率及び摩耗挙動を制御することができる。その場合に、バインダー、特にグリセリン三脂肪酸エステルの添加が特に好ましいことが判明した。
【0071】
更なる好ましい実施態様によれば、該物体は、自己硬化性の混合物のキャスティングによって製造される。この自己硬化性の混合物は、好ましくは、少なくとも1種のカルシウム塩、例えば硫酸カルシウム半水和物及び水を含有する。好ましくは、該物体は、直接的に、以下に記載される中空体中で、自己硬化性の混合物の流し込みによって製造される。前記の実施態様によれば、簡単な様式で、水中に可溶性又は懸濁可能な成分、例えば医薬作用物質を、自己硬化性の混合物中に一緒に導入することができる。これらの成分は、従って、該混合物の硬化に際して該物体中に閉じ込められる。該混合物の硬化は、好ましくは、該混合物中に含まれるカルシウム塩への水の付加によって行われる。カルシウム塩が、例えば硫酸カルシウム半水和物である場合に、この水付加に際して硫酸カルシウム二水和物が形成される。この付加によって、絡まった結晶構造の形成の結果として、混合物の硬化が生ずる。
【0072】
本願に記載される物体を使用して、医療用インプラントの少なくとも1つの表面を被覆することができる。このために、カルシウム塩を含有する表面を有する物体は、医療用インプラントの被覆されるべき少なくとも1つの表面上に擦り付けられ、この医療用インプラントの表面は少なくともそのカルシウム塩で被覆される。
【0073】
該物体を擦り付けるとは、好ましくは、該物体を、医療用インプラントの被覆されるべき表面に対して、該物体の同時の逆方向への運動をさせつつ、医療用インプラントの被覆されるべき表面に沿って機械的に押圧することを意味する。擦り付ける際に、該物体の表面上に少なくとも含まれるカルシウム塩の磨り減りが、医療用インプラントの被覆されるべき表面上で生ずる。その他に、該物体の他の任意に含まれる内容物も、医療用インプラントの被覆されるべき表面上で磨り減る。驚くべきことに、該物体から磨り減らされた材料は、医療用インプラント上で、該医療用インプラントを体内に確実に取り込むのを保証するのに十分に安定的に固定されていることが確かめられた。
【0074】
従って、本発明によれば、5.5以下のモース硬度を有するカルシウム塩を少なくともその表面上に有する物体を、前記カルシウム塩を少なくとも含有する被覆を、医療用インプラント上に擦り付けにより施与するために用いる使用が提供される。
【0075】
該物体は、好ましい一実施態様によれば、医療用インプラントの被覆のために用いることができるスティックの部分である。このスティックは、(i)中空体と、(ii)該中空体中で可動的かつ該中空体から少なくとも部分的に導出可能に配置された物体と、を有し、前記物体が5.5以下のモース硬度を有するカルシウム塩及び医薬作用物質を有する。
【0076】
前記のスティックの物体は、好ましくは、本願で記載されているのと同じ物体である。この物体は、本発明によれば医薬作用物質を有する。好ましくは、前記スティックは、円柱の形状を有する。円柱という概念とは、好ましくは、球状の物体であって、それが2つの平行な平面(底面と蓋面(Deckflaeche))及び平行な直線から形成される面(Mantelflaeche)あるいは円柱面によって境界が区切られている物体を意味する。同様に、この概念には、底面及び/又は蓋面が平坦でなく、円くなっているか又は先細っている物体が含まれる。円柱体は、好ましくは5〜25mmの直径、より好ましくは10〜15mmの直径を有する。前記の直径を有する円柱状の物体では、それは、医療用インプラントの到達が困難な表面領域にも至り、被覆することができる。
【0077】
本発明によるスティックは、中空体を含む。この場合に、中空体とは、中空室を有する物体を意味する。該中空体は、本発明による物体を少なくとも部分的に格納できるように構成されている。
【0078】
スティックの物体は、少なくとも部分的に前記中空体に収容されている。該物体は、中空体の中空室中で、それが中空体中で可動であるように配置されている。好ましくは、該物体は、中空体中で、中空体の軸に沿って可動である。スティックの物体は、中空体中で更に、該物体が中空室から少なくとも部分的に導出可能であるように配置されている。
【0079】
好ましくは、中空体に、物体に又は中空体と物体に、該中空体から押出運動もしくは回転運動によって該物体の少なくとも一部の導出を可能にする手段が取り付けられている。
【0080】
好ましい一実施態様によれば、中空体に、物体に又は中空体と物体に、該中空体に対するある位置での該物体の保持を可能にする手段が取り付けられている。
【0081】
更に、中空体は、ユーザーにより該中空体を簡単につかむことを可能にする手段を有することが好ましいことがある。更に、中空体上には、ユーザーの手が物体の方向に滑ることを防ぐ手段が存在することが好ましいことがある。
【0082】
従って、少なくとも2つの、好ましくは少なくとも4つの取手(Steg)が中空体の外側に垂直に取り付けられていることが好ましい。その際、2つの取手は、互いに、中空体の軸と垂直に交わる一つの軸上に存在する。好ましくは、2つの相対する取手は、そこから円柱体が出る中空体の開口部に直接取り付けられており、ユーザーがその手もしくは手袋で中空体の押出をする際に該物体と触れうるのが防止される。従って、この配置によって、効果的にコンタミネーションの危険性を低下させることができる。2つの別の取手は、該物体の押出に際して中空円筒体の固定のために用いることができる。
【0083】
好ましい一実施態様によれば、本発明によるスティックは、ピストンを有する。該ピストンは、本発明による物体を中空体から引き出すために用いられることが望ましい。このピストンは、従って、少なくとも部分的に中空体内に配置されている。好ましくは、中空体内に配置されたピストン部分は、中空体内で可動に配置されている。その場合、中空体内に配置されたピストン部分は、中空円筒体の軸に沿って可動であることが好ましい。更に、該ピストンは、好ましくは中空体と結合されている。この結合は、固定結合又は可解結合(starre oder loesbare Verbindung)であってよい。例えば、該ピストンは、形状接続的に(formschluessig)又は摩擦接続的に(kraftschluessig)中空体と結合されていてよい。好ましい一実施態様によれば、更に、ピストンの長さと中空体の長さの合計は、中空円筒体の長さより大きい。
【0084】
ピストンの面には、更に、1つ以上の固定ピン(Befestigungsstift)が配置されていてよい。これらの固定ピンは、物体をピストンに固定するために用いることができる。ピストンの相対する面には、好ましくはグリップが配置されている。このグリップは、本発明によるスティックの使用の過程でオペレーターによって把持されることができ、従ってそれは、中空体の押出に際してオペレーターの手のひらにある。押し出すときには、少なくとも2本の指で握ったスティックの取手を、手のひらの上にあるグリップに対して押す。それによって、ピストンは、中空体の開口部の方向に前向きに動きうる。
【0085】
更なる好ましい実施態様によれば、中空体に、ピストンに、又は中空体とピストンに、物体用の少なくとも1つのストッパ装置(Rastvorrichtung)が配置されている。好ましくは、中空体での物体用のストッパとして、その停止位置で物体の軸方向を向いている可動のストッパ取手(Rastungssteg)が配置されている。該ストッパによって、該物体を医療用インプラントの表面上に擦り付けるときにピストンが中空体から落ちることが防止される。
【0086】
更に、ストッパとしてピストン上に複数の歯もしくは環状の固定取手(Befestigungssteg)が配置されて中空体中に溝が配置されているか、又はストッパとして中空体上に固定取手もしくは溝が配置されてピストン中に溝が配置されていることが好ましいことがある。
【0087】
本発明を以下の実施例により説明するが、それらは本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0088】
実施例1:
71.7質量%の硫酸カルシウム二水和物、17.9質量%の炭酸カルシウム、8.8質量%の三パルミチン酸グリセリン及び1.6質量%の硫酸ゲンタマイシンの混合物を、偏心プレスを用いて圧縮して、直径22mm及び高さ10mmを有する円柱体とした。前記円柱体を、サンドブラスト処理された直径27mmを有するチタンディスクの両側に擦り付けた。擦り付けたときに、密な無色の層が形成された。該被覆は、124.7mgの質量を有していた。そのディスクを、5mlの0.1Mのリン酸緩衝液中で37℃で貯蔵した。一日後に、その緩衝液を完全に取り出して、新たな緩衝液と交換した。二日目と七日目に、緩衝液をまたもや交換した。その都度に取り除いた緩衝溶液を、そのゲンタマイシン含有率について、Abbott社製のTDXアナライザを用いて調査した。
【0089】
【表1】

【0090】
実施例2:
61.7質量%の硫酸カルシウム二水和物、10.0質量%の硫酸ストロンチウム、17.9質量%の炭酸カルシウム、8.8質量%の三パルミチン酸グリセリン及び1.6質量%の硫酸ゲンタマイシンの混合物を、偏心プレスを用いて圧縮して、直径15mm及び高さ30mmを有する円柱体とした。前記円柱体を、サンドブラスト処理された直径27mmを有するチタンディスクの両側に擦り付けた。擦り付けたときに、密な無色の層が形成された。該被覆は、111.2mgの質量を有していた。
【0091】
実施例3:
61.7質量%の硫酸カルシウム二水和物、10.0質量%の硫酸ストロンチウム、17.9質量%の炭酸カルシウム、8.8質量%の三パルミチン酸グリセリン及び1.6質量%の硫酸ゲンタマイシンの混合物を、偏心プレスを用いて圧縮して、直径15mm及び高さ30mmを有する円柱体とした。前記円柱体を、サンドブラスト処理された直径27mmを有するチタンディスクの両側に擦り付けた。擦り付けたときに、密な無色の層が形成された。該被覆は、111.2mgの質量を有していた。
【0092】
実施例4:
71.7質量%の硫酸カルシウム二水和物、17.9質量%の炭酸カルシウム、8.8質量%の三パルミチン酸グリセリン及び1.6質量%の硫酸ゲンタマイシンの混合物を、偏心プレスを用いて圧縮して、直径15mm及び高さ30mmを有する円柱体とした。前記円柱体を、サンドブラスト処理された直径27mmを有するチタンディスクの両側に擦り付けた。擦り付けたときに、密な無色の層が形成された。該被覆は、112.1mgの質量を有していた。
【0093】
実施例5:
71.9質量%の硫酸カルシウム二水和物、17.9質量%の炭酸カルシウム、8.8質量%の三パルミチン酸グリセリン及び1.4質量%の硫酸アミカシンの混合物を、偏心プレスを用いて圧縮して、直径15mm及び高さ30mmを有する円柱体とした。前記円柱体を、サンドブラスト処理された直径27mmを有するチタンディスクの両側に擦り付けた。擦り付けたときに、密な無色の層が形成された。該被覆は、110.4mgの質量を有していた。
【0094】
実施例6:
72.3質量%の硫酸カルシウム二水和物、17.9質量%の炭酸カルシウム、8.8質量%の三パルミチン酸グリセリン及び1.0質量%の塩酸バンコマイシンの混合物を、偏心プレスを用いて圧縮して、直径15mm及び高さ30mmを有する円柱体とした。前記円柱体を、サンドブラスト処理された直径27mmを有するチタンディスクの両側に擦り付けた。擦り付けたときに、密な無色の層が形成された。該被覆は、117.1mgの質量を有していた。
【0095】
実施例7:
70.0質量%の硫酸カルシウム二水和物、18.6質量%の炭酸カルシウム、10.0質量%のポリエチレングリコール1000及び1.4質量%の硫酸アミカシンの混合物を、偏心プレスを用いて圧縮して、直径15mm及び高さ30mmを有する円柱体とした。前記円柱体を、サンドブラスト処理された直径27mmを有するチタンディスクの両側に擦り付けた。擦り付けたときに、密な無色の層が形成された。該被覆は、110.4mgの質量を有していた。
【0096】
実施例8:
71.9質量%の硫酸カルシウム二水和物、17.9質量%の炭酸カルシウム、8.8質量%のパルミチン酸及び1.4質量%の硫酸アミカシンの混合物を、偏心プレスを用いて圧縮して、直径15mm及び高さ30mmを有する円柱体とした。前記円柱体を、サンドブラスト処理された直径27mmを有するチタンディスクの両側に擦り付けた。擦り付けたときに、密な無色の層が形成された。該被覆は、113.2mgの質量を有していた。
【0097】
実施例9:
60質量%の硫酸カルシウム半水和物、10質量%の炭酸カルシウム、1.6質量%の硫酸ゲンタマイシン及び28.4質量%の水からなる混合物を激しく混合した。無色の塗布可能な材料が得られ、それをシリコーン型に充填した。そのシリコーン型は、直径15mm及び長さ40mmを有する円柱状の内側の中空室を有していた。前記材料は、ほぼ15分後に硬化した。次いで、円柱体を取り出して乾燥させた。乾燥させた円柱体を、サンドブラスト処理された直径27mmを有するチタンディスクに擦り付けた。形成された被覆は、128.2mgの質量を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用インプラントの被覆方法であって、
(i)被覆されるべき少なくとも1つの表面を有する医療用インプラントを提供し、
(ii)5.5以下のモース硬度を有する少なくとも1つのカルシウム塩を少なくともその表面上に有する物体を提供し、そして
(iii)前記カルシウム塩を含有する表面を有する前記物体を前記医療用インプラントの被覆されるべき少なくとも1つの表面上に擦り付けて、この医療用インプラントの表面を少なくともそのカルシウム塩で被覆する、
医療用インプラントの被覆方法。
【請求項2】
医療用インプラントが関節エンドプロテーゼであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
医療用インプラントの被覆されるべき表面が、少なくとも0.5μmの平均粗さRaを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
医療用インプラントの被覆されるべき表面が、前記物体のカルシウム塩を有する表面のモース硬度よりも大きいモース硬度を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記物体が、0〜70容量%の範囲の気孔率を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記物体が、0〜70質量%の含水率を有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのカルシウム塩が、25℃の温度での水中での溶解性を少なくとも2g/lで有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記物体が、50〜100質量%のカルシウム塩を含有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記カルシウム塩が、無機カルシウム塩であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記カルシウム塩が、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム及び炭酸カルシウムからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記硫酸カルシウムが、結晶水を含有する硫酸カルシウムと結晶水を含まない硫酸カルシウムからなる群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記結晶水を含有する硫酸カルシウムが、硫酸カルシウム二水和物及び硫酸カルシウム半水和物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記物体が、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸塩、1000g/モル以下のモル質量を有するポリエチレングリコール及び1000g/モル未満のモル質量を有するオリゴマーの乳酸エステルからなる群から選択される化合物を有することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記物体が、少なくとも1種の医薬作用物質を含有することを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記物体が、少なくとも1種の着色剤を含有することを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記物体が、マグネシウム塩、ストロンチウム塩及びリチウム塩からなる群から選択される塩を含有することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記物体が、70〜90質量%の硫酸カルシウム及び10〜30質量%の炭酸カルシウムを含有することを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記物体が、40〜90質量%の硫酸カルシウム、0.1〜40質量%の炭酸カルシウム及び0.1〜20質量%の硫酸ストロンチウムを含有することを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記物体が、20〜90質量%の硫酸カルシウム、0.1〜40質量%の炭酸カルシウム及び0.5〜50質量%の医薬作用物質を含有することを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記物体が、70〜73質量%の硫酸カルシウム、16〜20質量%の炭酸カルシウム、8〜10質量%の三パルミチン酸グリセリン及び1〜2質量%の硫酸ゲンタマイシンを含有することを特徴とする、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
5.5以下のモース硬度を有するカルシウム塩を少なくともその表面上に有する物体を、前記カルシウム塩を少なくとも含有する被覆を医療用インプラント上に擦り付けにより施与するために用いる使用。
【請求項22】
中空体と、該中空体中で可動的かつ該中空体から少なくとも部分的に導出可能に配置された物体と、を有する、医療用インプラントの被覆のためのスティックであって、前記物体が5.5以下のモース硬度を有するカルシウム塩及び医薬作用物質を有する前記スティック。

【公開番号】特開2012−11199(P2012−11199A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144133(P2011−144133)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(508316210)ヘレーウス メディカル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (21)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Medical GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp−Reis−Str. 8/13, D−61273 Wehrheim, Germany
【Fターム(参考)】