説明

骨材のアルカリシリカ反応性判定装置及び判定方法

【課題】電気化学的方法により骨材のアルカリシリカ反応性を確実に、かつ迅速に判定することのできる判定装置及び判定方法を提供する。
【解決手段】アルカリシリカ反応性判定装置は、アルカリシリカ反応性が不明の骨材及び水等が収容される容器と、容器内を二室に分割するように配設される隔膜と、隔膜を挟んで対峙させるように配置される二つの電極と、電極のそれぞれに電気的に接続される膜電位測定部とを備え、隔膜が、表面にスルホン酸基を有する親水性多孔質膜を過酸化水素水溶液に浸漬させた後、硫酸水溶液に浸漬させることにより表面改質されてなる改質膜であり、水等が収容された二室のそれぞれにおける水等の容量に対する骨材の添加量が相違するように、二室のそれぞれに骨材を添加し、所定時間経過後の膜電位が0V未満であるか否かにより、骨材のアルカリシリカ反応性を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨材のアルカリシリカ反応性を判定するための装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリシリカ反応(アルカリ骨材反応)は、骨材中のシリカ(SiO)とコンクリートに含まれるアルカリとが反応することによって生じた生成物が吸水して膨張し、コンクリートにひび割れ等を生じさせる現象である。
【0003】
アルカリシリカ反応は、「コンクリートの癌」とも呼ばれるように、一度劣化が始まると抑止することが困難であり、やがてコンクリート構造物に重大なダメージを与えることになる。したがって、アルカリシリカ反応性を有する骨材を排除することが必要であり、骨材のアルカリシリカ反応性を評価するための試験方法が各種提案されている。
【0004】
アルカリシリカ反応の特徴点が、(1)骨材中の特定の鉱物を原因とする点、(2)化学反応である点、(3)膨張してコンクリートを劣化させる点にあることから、骨材のアルカリシリカ反応性を評価する試験方法は、(1)鉱物学的観察試験、(2)化学法、(3)膨張率試験の三つに大別される。
【0005】
鉱物学的観察試験方法は、岩石を偏光顕微鏡等で直接観察し、反応性のあるシリカ質鉱物(オパール、カルセドニー、トリジマイト、クリストバライト、隠微晶質・非晶質シリカ、歪みのある石英、シリカ質の火山ガラス等)又は反応性のある炭酸塩鉱物(ドロマイト)が存在しているか否かを観察する手法であり、日本ではJCI−DD3がこれに相当し、有害鉱物に特化した試験方法になっている。
【0006】
化学法は、骨材とアルカリとを反応させ、溶出するシリカ量(Sc:mmol/L)と消費されるアルカリ量(Rc:mmol/L)との関係が、Rc/Sc≧1である場合には、その骨材は無害(アルカリシリカ反応性が低い)であると判定する手法であり、ASTM−C289、JIS−A1145に代表される。化学法では、骨材をアルカリで溶解する反応を行うため、骨材粒度が結果に影響を及ぼすことを考慮し、粒径が150〜300μmとなるように粉砕された骨材が用いられる(非特許文献1参照)。また、骨材とアルカリとの反応が平衡に達する時間は100時間以上であるが、反応時間が結果に影響を及ぼすことを考慮し、反応時間は24時間±15分間に設定される(非特許文献1参照)。また、骨材から溶出するシリカ量は質量法、原子吸光光度法又は吸光光度法によって定量され、アルカリ消費量はフェノールフタレイン指示薬を用いて塩酸で滴定することにより測定される(非特許文献1参照)。
【0007】
膨張率試験法(モルタルバー法)は、砂サイズに粒度構成を調整した骨材試料でモルタルを成形し、その膨張量より反応性を判定する手法であり、ASTM−C227、JIS−A1146に代表される。膨張率試験は、比較的安定した結果が得られるが、判定に少なくとも6ヶ月の期間が必要である。
【0008】
上記三つの試験法のうち、結果が比較的短期間に得られる化学法が汎用されており、化学法において骨材から溶出するシリカ量を定量するためには、質量法、原子吸光光度法又は吸光光度法を用いる必要がある。
【0009】
しかしながら、質量法、原子吸光光度法又は吸光光度法により溶出シリカ量を定量するのは、作業が煩雑であり、特に原子吸光光度法又は吸光光度法においては、吸光度の測定に高度な技術や高価な試験装置が必要であるという問題がある。
【0010】
そのため、骨材のアルカリシリカ反応性を迅速に、かつ簡易に判定することのできる新たな方法が望まれており、従来、電気化学的手法を用い、骨材のアルカリシリカ反応性を判定する方法が提案されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】日本工業規格 骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(化学法) JIS−A1145:2001 日本規格協会発行
【非特許文献2】日本建築学会構造系論文集,「電気化学的立場から見た反応性骨材の迅速判定方法試案」,福田禮一郎・露木尚光・笠井芳夫著,第499号,第1頁〜第8頁,1997年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記非特許文献2に記載の電気化学的手法を用いた骨材のアルカリシリカ反応性の判定方法は、トレーシングペーパー製の隔膜で仕切られた2つの水槽内に純水(蒸留水)を収容し、一方の水槽内にアルカリシリカ反応性が不明な骨材を添加して膜電位を測定し、当該膜電位の測定結果に基づいて骨材のアルカリシリカ反応性を判定するものであるが、かかる判定方法によっては、骨材のアルカリシリカ反応性の判定が困難な場合があるという問題がある。
【0013】
上記課題に鑑みて、本発明は、電気化学的方法により骨材のアルカリシリカ反応性を確実に、かつ迅速に判定することのできる判定装置及び判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、アルカリシリカ反応性が不明の骨材、及び水又はリン酸水溶液が収容される容器と、前記容器内を第1室及び第2室に分割するようにして前記容器内に配設される隔膜と、前記隔膜を挟んで対峙させるようにして前記第1室及び第2室のそれぞれに配置される二つの電極と、前記電極のそれぞれに電気的に接続される膜電位測定部とを備え、前記隔膜が、表面にスルホン酸基を有する親水性多孔質膜を過酸化水素水溶液に浸漬させた後、硫酸水溶液に浸漬させることにより表面改質されてなる改質膜であり、前記水又はリン酸水溶液が収容された前記第1室及び第2室のそれぞれにおける前記水又はリン酸水溶液の容量に対する前記骨材の添加量が相違するように、前記第1室及び第2室のそれぞれに前記骨材を添加し、前記膜電位測定部により測定された膜電位が0V未満である場合に、前記骨材のアルカリシリカ反応性が高いと判定し、当該膜電位が0V以上である場合に、前記骨材のアルカリシリカ反応性が低いと判定することを特徴とする骨材のアルカリシリカ反応性判定装置を提供する(請求項1)。
【0015】
本発明において「膜の表面」とは、水溶液中のイオン(陽イオン、陰イオン)が接触し得る膜の表面のことを意味し、膜の外表面の他、膜の細孔内の表面等も含む概念である。
【0016】
上記発明(請求項1)によれば、容器内部を所定の隔膜により分割し、分割された各室における骨材の添加量(水又はリン酸水溶液の容量に対する添加量)を相違させて隔膜の膜電位を測定することで、当該膜電位の測定結果に基づいて、骨材のアルカリシリカ反応性を確実に、かつ迅速に判定することができる。特に、容器内を第1室及び第2室に分割するための隔膜が、所定の処理により表面改質されていることで、膜を介したイオンの移動度を向上させることができ、それにより測定される膜電位の絶対値を大きくすることができるため、骨材のアルカリシリカ反応性をより確実に、かつ迅速に判定することができる。
【0017】
これは、以下のような作用に基づくものと考えられる。
一般に、骨材から溶出されるイオン(陽イオン、陰イオン)を含有する水溶液中の膜電位は、陽イオン交換膜を用いた場合には、Nernst-Planckの下記式(1)により表される。
【0018】
【数1】

【0019】
上記式(1)中、Δφは「拡散電位(膜電位)」を、Rは「気体定数(=8.3145(Jmol-1K-1))」を、Tは「絶対温度」を、Fは「ファラデー定数(=9.6485×104(Cmol-1))」を、C+1及びC+2はそれぞれ「電解質水溶液1に接している膜表面の陽イオン濃度」及び「電解質水溶液2に接している膜表面の陽イオン濃度」を、Pは「イオンの透過係数」を表す。
【0020】
水又はリン酸水溶液中に骨材を浸漬させると、イオン(例えば、鉄イオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等の陽イオン;ケイ酸イオン等の陰イオン)が水又はリン酸水溶液中に溶解するが、隔膜がその表面にスルホン酸基を有することで、水又はリン酸水溶液の容量に対する骨材の添加量が多い方(電解質水溶液2)から少ない方(電解質水溶液1)へと陽イオンのみが移動する。
【0021】
この場合に、アルカリシリカ反応性の低い骨材(無害と判定され得る骨材)のように、水又はリン酸水溶液中に溶解するイオン量が少なく、陽イオンが移動した場合、上記式(1)中、
ΣP+1>ΣP+2
となるため、隔膜の膜電位は、下記式(2)で表されるものと考えられる。
【0022】
【数2】

【0023】
式(2)中、CS+1は「電解質水溶液1側に添加した骨材から電解質水溶液1に溶解した陽イオンの濃度」を、CS+2は「電解質水溶液2側に添加した骨材から電解質水溶液2に溶解した陽イオンの濃度」を、CT+1は「電解質水溶液2側から電解質水溶液1側に移動した陽イオンの濃度」を、CA+2は「電解質水溶液2側に溶解した陽イオンのうち隔膜に吸着した陽イオンの濃度」を表す。
【0024】
一方、アルカリシリカ反応性の高い骨材(無害でないと判定され得る骨材)のように、水又はリン酸水溶液中に溶解するイオン量が多い場合であって、電解質水溶液2中に存在する骨材から溶解した陽イオンが、隔膜を通じて電解質水溶液1側に移動し、さらに電解質水溶液1中の陰イオンと結合してイオン会合体(ケイ酸化合物等)を生成した場合、上記式(1)中、
ΣP+1<ΣP+2
となるため、隔膜の膜電位は、下記式(3)で表されるものと考えられる。
【0025】
【数3】

【0026】
式(3)中、CS+1は「電解質水溶液1側に添加した骨材から電解質水溶液1に溶解した陽イオンの濃度」を、CS+2は「電解質水溶液2側に添加した骨材から電解質水溶液2に溶解した陽イオンの濃度」を、CT+1は「電解質水溶液2側から電解質水溶液1側に移動した陽イオンの濃度」を、CC+1は「電解質水溶液1中の陰イオンと結合してイオン会合体(ケイ酸化合物等)を生成した陽イオンの濃度」を、CA+2は「電解質水溶液2側に溶解した陽イオンのうち隔膜に吸着した陽イオンの濃度」を表す。
【0027】
したがって、上記発明(請求項1)によれば、膜電位の測定値を指標として、骨材のアルカリシリカ反応性を確実に、かつ迅速に判定することができる。
【0028】
上記発明(請求項1)においては、前記硫酸水溶液の硫酸濃度が、0.2〜1.2mol/Lであるのが好ましく(請求項2)、前記過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度が、1〜5質量%であるのが好ましい(請求項3)。
【0029】
上記発明(請求項2,3)によれば、膜の表面改質処理に使用される硫酸水溶液の硫酸濃度及び過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度が上記範囲内にあることで、さらに確実に、かつ迅速に骨材のアルカリシリカ反応性を判定することができる。
【0030】
上記発明(請求項1〜3)に係る骨材のアルカリシリカ反応性判定装置は、前記水又はリン酸水溶液の温度が、10〜20℃であっても用いることができる。一般に、低温下(10〜20℃程度)であると、骨材から水又はリン酸水溶液へのイオンの溶解量が低減し、イオンの移動度が低下するため、骨材のアルカリシリカ反応性判定装置にて測定される膜電位の絶対値が小さくなり、骨材のアルカリシリカ反応性を確実に判定することが困難となるおそれがあるが、第1室及び第2室を隔てる隔膜が所定の処理により表面改質されてなる改質膜であることで、上記のような低温下においてもイオンの移動度を向上させ、測定される膜電位の絶対値を大きくすることができるため、確実に骨材のアルカリシリカ反応性を判定することができる。
【0031】
上記発明(請求項1〜3)においては、前記第1室への前記水又はリン酸水溶液の容量に対する前記骨材の添加量と前記第2室への前記水又はリン酸水溶液の容量に対する前記骨材の添加量との比が、1:0.96〜0.99であるのが好ましい(請求項4)。
【0032】
上記発明(請求項4)によれば、分割された二室のうちの第1室と第2室とにおける骨材の添加量が上記範囲内にあることで、骨材のアルカリシリカ反応性をより確実に、かつ迅速に判定することができる。
【0033】
また、本発明は、上記発明(請求項1〜4)に係る骨材のアルカリシリカ反応性判定装置用の隔膜であって、表面にスルホン酸基を有する親水性多孔質膜を過酸化水素水溶液に浸漬させた後、硫酸水溶液に浸漬させることにより得られることを特徴とする骨材のアルカリシリカ反応性判定装置用隔膜を提供する(請求項5)。
【0034】
上記発明(請求項5)によれば、表面にスルホン酸基を有する親水性多孔質膜を過酸化水素水溶液に浸漬させた後に硫酸水溶液に浸漬させることで、親水性多孔質膜表面のスルホン酸基の数を増加させることができるため、隔膜のイオンの移動度を向上させることができる。その結果として、上記アルカリシリカ反応性判定装置における膜電位の測定値の絶対値を大きくすることができ、より確実に、かつ迅速に骨材のアルカリシリカ反応性を判定することが可能となる。
【0035】
上記発明(請求項5)においては、前記硫酸水溶液の硫酸濃度が、0.2〜1.2mol/Lであるのが好ましく(請求項6)、前記過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度が、1〜5質量%であるのが好ましい(請求項7)。
【0036】
上記発明(請求項6,7)によれば、膜の表面改質処理に使用される硫酸水溶液の硫酸濃度及び過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度が上記範囲内にあることで、骨材のアルカリシリカ反応性をさらに確実に判定可能な隔膜とすることができる。
【0037】
さらに、本発明は、表面にスルホン酸基を有する親水性多孔質膜を、過酸化水素水溶液に浸漬させた後、硫酸水溶液に浸漬させて表面改質されてなる改質膜を用意し、前記改質膜を介して第1室及び第2室の二室に分割された容器の当該第1室及び第2室内に、アルカリシリカ反応性が不明の骨材と水又はリン酸水溶液とを、前記第1室及び第2室のそれぞれにおける前記水又はリン酸水溶液の容量に対する前記骨材の添加量が相違するように添加し、前記骨材と水又はリン酸水溶液とを前記第1室及び第2室内にて接触させた状態で測定した前記隔膜の膜電位が0V未満である場合に、前記骨材のアルカリシリカ反応性が高いと判定し、当該膜電位が0V以上である場合に、前記骨材のアルカリシリカ反応性が低いと判定することを特徴とする骨材のアルカリシリカ反応性判定方法を提供する(請求項8)。
【0038】
上記発明(請求項8)によれば、所定の隔膜にて分割された各室内への骨材の添加量が相違するように骨材と水又はリン酸水溶液とを添加し、骨材と水又はリン酸水溶液とを接触させた状態で隔膜の膜電位を測定することで、当該膜電位の測定結果に基づいて、骨材のアルカリシリカ反応性を確実、かつ迅速に判定することができる。特に、容器内を第1室及び第2室に分割するための隔膜が、所定の処理により表面改質されてなるものであることで、測定される膜電位の絶対値が大きくなるため、骨材のアルカリシリカ反応性をより確実に、かつ迅速に判定することができる。
【0039】
上記発明(請求項8)においては、前記硫酸水溶液の硫酸濃度が、0.2〜1.2mol/Lであるのが好ましく(請求項9)、前記過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度が、1〜5質量%であるのが好ましい(請求項10)。
【0040】
上記発明(請求項9,10)によれば、膜の表面改質処理に使用される硫酸水溶液の硫酸濃度及び過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度が上記範囲内にあることで、さらに確実に、かつ迅速に骨材のアルカリシリカ反応性を判定することができる。
【0041】
上記発明(請求項8〜10)に係る骨材のアルカリシリカ反応性判定方法は、水又はリン酸水溶液の温度が10〜20℃であっても使用することができる。一般に、低温下(10〜20℃程度)であると、骨材から水又はリン酸水溶液へのイオンの溶解量が低減し、イオンの移動度が低下するため、骨材のアルカリシリカ反応性判定装置にて測定される膜電位の絶対値が小さくなり、骨材のアルカリシリカ反応性を確実に判定することが困難となるおそれがあるが、第1室及び第2室を隔てる隔膜が所定の処理により表面改質されてなる改質膜であることで、上記のような低温下においてもイオンの移動度を向上させ、測定される膜電位の絶対値を大きくすることができるため、確実に骨材のアルカリシリカ反応性を判定することができる。
【0042】
上記発明(請求項8〜10)においては、前記第1室への前記水又はリン酸水溶液の容量に対する前記骨材の添加量と前記第2室への前記水又はリン酸水溶液の容量に対する前記骨材の添加量との比が1:0.96〜0.99となるように、前記第1室及び第2室のそれぞれに前記骨材と前記水又はリン酸水溶液とを添加するのが好ましい(請求項11)。
【0043】
上記発明(請求項11)によれば、骨材の添加量の比が上記範囲内であることで、骨材のアルカリシリカ反応性をより確実、かつ迅速に判定することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、電気化学的方法により骨材のアルカリシリカ反応性を確実に、かつ迅速に判定することのできる判定装置及び判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態に係る骨材のアルカリシリカ反応性判定装置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の一実施形態に係る骨材のアルカリシリカ反応性判定装置を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る骨材のアルカリシリカ反応性判定装置を示す概略構成断面図である。
【0047】
図1に示すように、本実施形態に係る骨材のアルカリシリカ反応性判定装置1は、上部が開口する第1室21及び第2室22、並びに第1室21と第2室22とをそれらの下部において連結する連結部23を有する断面コの字状の容器2と、第1室21及び第2室22内のそれぞれに配置される電極3A,3Bと、2つの電極3A,3Bに電気的に接続された膜電位測定装置4とを備える。
【0048】
容器2の連結部23の上面部及び下面部のそれぞれには、第1室21及び第2室22の水平方向に延伸する凸条23A,23Bが設けられており、かかる凸条23A,23Bに隔膜5の両端辺が取り付けられていることで、容器2内が第1室21側と第2室22側との二室に分割されている。
【0049】
容器2の材料としては、特に限定されるものではないが、容器2内に収容される水又はリン酸水溶液中にその構成成分が溶出し得ないものであるのが好ましく、例えば、ガラスや、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂が挙げられる。
【0050】
隔膜5としては、表面にイオン交換基としてのスルホン酸基を有する親水性多孔質膜の膜表面を所定の処理により改質してなる改質膜を用いることができる。骨材のアルカリシリカ反応性に応じて、骨材から水又はリン酸水溶液中に溶解するイオン濃度(陽イオン濃度及び陰イオン濃度)が変動し得るため、上記改質膜を隔膜5として用いることで、水又はリン酸水溶液中に溶解した陽イオンの移動度や隔膜への吸着量等に応じて膜電位が変化することになる。よって、この膜電位を測定することで骨材のアルカリシリカ反応性を確実に、かつ迅速に判定することができる。特に、本実施形態においては、表面にスルホン酸基を有する親水性多孔質膜の膜表面を改質してなる改質膜を隔膜5として用いることで、骨材から水又はリン酸水溶液中に溶解した陽イオンの移動度を向上させることができるため、測定した膜電位の絶対値を大きくすることができ、より確実に骨材のアルカリシリカ反応性を判定することができる。
【0051】
上記隔膜5としての改質膜は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン骨格を主鎖とし、かつ側鎖としてパーフルオロアルキルエーテル基を有し、その側鎖の末端にイオン交換基としてのスルホン酸基を有する親水性多孔質膜(例えば、ナフィオン(デュポン社製)等)を過酸化水素水溶液に浸漬させた後、硫酸水溶液に浸漬させることで得ることができる。
【0052】
上記親水性多孔質膜は、疎水性の主鎖の集合した骨格領域とイオン交換基(スルホン酸基)を含む側鎖が集合した親水性のクラスター領域とに相分離した構造を有する。そして、このクラスター領域に水が取り込まれてパスを形成し、このパスをイオンが移動することになる。
【0053】
この親水性多孔質膜を何らの表面改質処理に付することなく上記隔膜5として使用すると、骨材のアルカリシリカ反応性の程度によっては、膜電位の絶対値が小さく、骨材のアルカリシリカ反応性を判定するのが困難であることが、本発明者らの鋭意研究により明らかとなった。
【0054】
これは、以下の理由によるものと考えられる。
すなわち、上記親水性多孔質膜は、膜の製造時において膜表面に硫黄化合物、塩、有機物等の不純物が付着してしまったり、スルホン酸基とともにそれ以外の塩基等が導入されてしまったりする場合があるため、陽イオン量が少ない場合には、膜を介したイオンの移動度が低下してしまうと考えられる。そのため、JIS化学法において「無害でない」と判定され得るような骨材であっても、当該骨材から水又はリン酸水溶液に溶解する陽イオン量が少ないものでは、膜を介したイオンの移動度が低く、膜電位の絶対値が小さくなってしまうと予想される。
【0055】
そこで、親水性多孔質膜の表面を改質することにより、膜を介したイオンの移動度を向上させることで、膜電位の絶対値を大きくすることができ、骨材のアルカリシリカ反応性の程度によることなく、確実に骨材のアルカリシリカ反応性を判定することができると考えられる。
【0056】
具体的には、まず、親水性多孔質膜を過酸化水素水溶液に浸漬させる。これにより、膜表面に付着した不純物等を除去するとともに、スルホン酸基以外の塩基等を少なくとも脱離させることができる。その後、硫酸水溶液に浸漬させることで、膜表面における当該塩基等を脱離させた部位にスルホン酸基を導入させることができる。これにより、膜表面のスルホン酸基の数を増加させ、膜を介したイオンの移動度を向上させることができる。
【0057】
親水性多孔質膜を浸漬させる過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度は、1〜5質量%であるのが好ましく、特に3質量%程度であるのが好ましい。過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度が1質量%未満であると、膜表面における塩基等の脱離が不十分となるおそれがあり、5質量%を超えると、当該塩基等とともにスルホン酸基も脱離してしまい、結果としてスルホン酸基の数を増加させることが困難となるおそれがある。
【0058】
親水性多孔質膜を過酸化水素水溶液に浸漬させる温度条件は、特に限定されるものではないが、好ましくは60〜100℃、特に好ましくは80〜100℃である。100℃を超えると、親水性多孔質膜が熱劣化してしまうおそれがあるため好ましくない。また、浸漬時間も特に限定されるものではないが、好ましくは0.5〜2.0時間、特に好ましくは1.0〜1.5時間である。
【0059】
親水性多孔質膜を浸漬させる硫酸水溶液の硫酸濃度は、0.2〜1.2mol/Lであるのが好ましく、特に0.2〜1.0mol/Lであるのが好ましい。硫酸水溶液の硫酸濃度が0.2mol/L未満であると、上述の過酸化水素水溶液での処理により塩基等が脱離した膜表面の部位にスルホン酸基を十分に導入することができないおそれがあり、1.2mol/Lを超えると、膜表面の過剰のスルホン酸基や残存硫酸イオンにより骨材から溶解したイオンが捕捉されてしまい、骨材のアルカリシリカ反応性を判定するのが困難となるおそれがある。
【0060】
親水性多孔質膜を硫酸水溶液に浸漬させる温度条件は、特に限定されるものではないが、好ましくは60〜100℃、特に好ましくは80〜100℃である。また、浸漬時間も特に限定されるものではないが、好ましくは0.5〜2.0時間、特に好ましくは1.0〜1.5時間である。
【0061】
親水性多孔質膜を硫酸水溶液に浸漬させた後、熱水に当該膜を浸漬させるのが好ましい。これにより、親水性多孔質膜のパス内に残存する硫酸イオンを十分に除去することができる。なお、過酸化水素水溶液に浸漬させた後、硫酸水溶液を浸漬させる前にも、同様に当該膜を熱水に浸漬させるのが好ましい。
【0062】
隔膜5の厚さは、スルホン酸基の導入量に応じて適宜設定することができるが、250μm以下であるのが好ましく、125〜250μmであるのがより好ましい。膜厚が250μmを超えると、水又はリン酸水溶液中の溶解イオンの移動が困難となるため、骨材のアルカリシリカ反応性を確実に判定するのが困難となるおそれがある。
【0063】
電極3A,3Bとしては、特に限定されるものではなく、例えば、白金線又は白金板等を用いればよい。また、膜電位測定装置4も、容器2の連結部23に設けられた隔膜5の膜電位を測定し得るものであれば特に限定されるものではなく、微小な電位変化を測定し得る高い入力抵抗(1011〜1014Ω)を有する電極電位測定装置、例えば、エレクトロ・メータ、ポテンションスタット等を用いることができる。
【0064】
このような構成を有する骨材のアルカリシリカ反応性判定装置1を用いて骨材のアルカリシリカ反応性を判定するためには、まず、第1室21及び第2室22に水又はリン酸水溶液(好ましくはリン酸水溶液)Wを収容する。第1室21及び第2室22に収容されたリン酸水溶液は、電気伝導率の高い水溶液であるため、測定時の電位の変動が小さくなり、より正確に電位を測定でき、また、第1室21及び第2室22への骨材添加前に、隔膜5(親水性多孔質膜)がリン酸水溶液に浸漬された状態になることで、隔膜5の表面がリン酸により修飾されて陽イオンの吸着性がより向上するため、膜電位(電位差)の絶対値をより大きくすることができ、骨材のアルカリシリカ反応性をさらに確実に判定することができるようになる。
【0065】
なお、第1室21及び第2室22に収容する水としては、電解質成分等が可能な限り除去されたものであるのが好ましく、具体的には、電気抵抗率(比抵抗)が0.1〜1×10Ω・cm程度のものであるのが好ましい。このような水としては、例えば、純水、蒸留水、精製水、イオン交換水等が挙げられる。
【0066】
第1室21及び第2室22にリン酸水溶液を収容する場合、当該リン酸水溶液のリン酸濃度は10〜30μmol/Lであるのが好ましく、特に20〜25μmol/Lであるのが好ましい。リン酸水溶液のリン酸濃度が30μmol/Lを超えると、骨材から溶出した陽イオン(金属イオン)とリン酸イオン(PO3−)とから不溶性塩が生成してしまうと考えられ、それにより、骨材のアルカリシリカ反応性の判定が困難になるおそれがある。
【0067】
第1室21及び第2室22に収容する水又はリン酸水溶液の温度は、10〜20℃であるのが好ましい。一般に、水又はリン酸水溶液の温度が10〜20℃程度であると、骨材から水又はリン酸水溶液へのイオンの溶解量が低減し、イオンの移動度が低下してしまうため、測定した膜電位の絶対値が小さくなり、骨材のアルカリシリカ反応性の判定が困難となるおそれがあるが、本実施形態によれば、第1室21及び第2室22の間の隔膜が上述のようにして表面改質処理がなされた改質膜であることで、イオンの移動度が低下し得るような低温(10〜20℃程度)下であったとしても、骨材のアルカリシリカ反応性を確実に判定することが可能となる。
【0068】
第1室21及び第2室22に、水又はリン酸水溶液Wを収容するとともに、アルカリシリカ反応性が不明の骨材A(以下単に「骨材」という。)を添加する。これにより、当該骨材Aからの溶解イオン量に応じた膜電位の変化に基づいて、骨材Aのアルカリシリカ反応性を判定することができる。
【0069】
この場合において、第1室21に添加される水又はリン酸水溶液Wの容量に対する骨材Aの添加量(以下単に「骨材添加量」という場合がある。)と、第2室22に添加される水又はリン酸水溶液の容量に対する骨材添加量とが、相違するように第1室21及び第2室22のそれぞれに骨材Aを添加する。例えば、第1室21における骨材添加量よりも、第2室22における骨材添加量を少なくしてもよいし、その逆であってもよい。なお、本実施形態においては、第1室21における骨材添加量を、第2室22における骨材添加量よりも多くしている。
【0070】
具体的には、例えば、第1室21における骨材添加量と第2室22における骨材添加量との比が1:0.96〜0.99となるように、骨材Aを第1室21及び第2室22に添加するのが好ましく、特に1:0.96〜0.98となるように添加するのが好ましい。骨材添加量の比が上記範囲内であれば、骨材Aのアルカリシリカ反応性をより確実に、かつ迅速に判定することができる。
【0071】
第1室21における骨材添加量は、0.015〜0.05g/mLであるのが好ましく、特に0.025〜0.04g/mLであるのが好ましい。骨材添加量が0.015g/mL未満であったり、骨材添加量が0.05g/mLを超えたりすると、骨材Aのアルカリシリカ反応性の判定が困難になるおそれがある。
【0072】
第1室21及び第2室22に添加される骨材Aの粒径(平均粒径)は、75〜300μmであるのが好ましく、75〜150μmであるのがさらに好ましい。骨材の粒径が75μm未満であると、微粉末が凝集してしまうことで、骨材Aから水又はリン酸水溶液Wに溶解するイオン量にバラツキが生じてしまい、骨材Aのアルカリシリカ反応性を判定するのが困難となるおそれがある。
【0073】
容器2の第1室21及び第2室22に骨材Aを添加し、水又はリン酸水溶液Wと骨材Aとを接触させてから所定時間経過した後の膜電位を、膜電位測定装置4により測定する。
【0074】
膜電位の測定時間は、20分以内であればよく、好ましくは1〜20分、特に好ましくは3〜15分である。20分を超えて測定を継続しても、骨材Aのアルカリシリカ反応性の判定精度の向上が見込めず、不経済となるおそれがある。
【0075】
このようにして測定した膜電位が0V以上である場合には、骨材のアルカリシリカ反応性が低い、すなわち、当該骨材は「無害である」と判定することができる。一方、膜電位が0V未満である場合には、骨材のアルカリシリカ反応性が高い、すなわち、当該骨材は「無害でない」と判定することができる。
【0076】
本実施形態に係る骨材のアルカリシリカ反応性判定装置1によれば、隔膜によって分割されてなる(仕切られてなる)第1室21及び第2室22のそれぞれに、水又はリン酸水溶液Wと骨材Aとを、第1室21及び第2室22の骨材添加量が相違するようにして添加し、その状態で膜電位を測定することによって、1〜20分程度の短時間で、かつ確実に骨材Aのアルカリシリカ反応性を判定することができる。しかも、熟練した操作も必要なく、簡単な作業のみで骨材Aのアルカリシリカ反応性を判定することができる。
【0077】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0078】
〔化学法による骨材のアルカリシリカ反応性試験〕
複数の所定産地の骨材から無作為に抽出した複数の骨材を被験試料とし(骨材1〜4)、これらの骨材についてJIS−A1145(化学法)に準拠してアルカリシリカ反応性の試験をした。
結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
上記化学法による試験の結果、骨材1〜2は「無害である」と判定され得る骨材であり、骨材3〜4は「無害でない」と判定され得る骨材であることが確認された。
【0081】
〔骨材のアルカリシリカ反応性判定試験1〕
図1に示す骨材のアルカリシリカ反応性判定装置1を作製し、骨材1及び骨材3について膜電位を測定した。上記アルカリシリカ反応性判定装置1においては、溶媒として20℃の水(第1室21に97mL,第2室22に85mL収容)を用い、隔膜5としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜(デュポン社製,製品名:ナフィオン,膜厚:125μm)に下記(1)〜(9)のようにして表面改質処理を施した改質膜を用い、電極3A,3Bとして白金電極を用い、膜電位測定装置4としてエレクトロ・メータ(北斗電工社製,製品名:エレクトロ・メータHE−106)を用い、第1室21に骨材を3.91g、第2室に骨材を3.04g添加した(第1室21と第2室22との骨材添加量の比=0.96)。結果を表2に示す。
【0082】
<膜表面改質処理>
(1)3%過酸化水素水溶液+0.2mol/L硫酸水溶液
上記パーフルオロスルホン酸膜を3%過酸化水素水溶液に100℃で1時間浸漬させた後、熱水に1時間浸漬させた。その後、当該膜を0.2mol/L硫酸水溶液に100℃で1時間浸漬させた後、熱水に1時間浸漬させた。
【0083】
(2)3%過酸化水素水溶液+1.0mol/L硫酸水溶液
上記パーフルオロスルホン酸膜を3%過酸化水素水溶液に100℃で1時間浸漬させた後、熱水に1時間浸漬させた。その後、当該膜を1.0mol/L硫酸水溶液に100℃で1時間浸漬させた後、熱水に1時間浸漬させた。
【0084】
(3)3%過酸化水素水溶液+1.2mol/L硫酸水溶液
上記パーフルオロスルホン酸膜を3%過酸化水素水溶液に100℃で1時間浸漬させた後、熱水に1時間浸漬させた。その後、当該膜を1.2mol/L硫酸水溶液に100℃で1時間浸漬させた後、熱水に1時間浸漬させた。
【0085】
(4)3%過酸化水素水溶液+1.5mol/L硫酸水溶液
上記パーフルオロスルホン酸膜を3%過酸化水素水溶液に100℃で1時間浸漬させた後、熱水に1時間浸漬させた。その後、当該膜を1.5mol/L硫酸水溶液に100℃で1時間浸漬させた後、熱水に1時間浸漬させた。
【0086】
(5)3%過酸化水素水溶液
上記パーフルオロスルホン酸膜を3%過酸化水素水溶液に100℃で1時間浸漬させた後、熱水に1時間浸漬させた。
(6)0.2mol/L硫酸水溶液
上記パーフルオロスルホン酸膜を0.2mol/L硫酸水溶液に100℃で1時間浸漬させた後、熱水に1時間浸漬させ、改質膜を得た。
【0087】
(7)未処理
気乾状態の上記パーフルオロスルホン酸膜を水に20℃で30分間浸漬させた。
(8)水中浸漬処理
上記パーフルオロスルホン酸膜を水に20℃で2時間浸漬させた。
(9)熱水浸漬処理
上記パーフルオロスルホン酸膜を熱水(100℃)に4時間浸漬させた。
【0088】
【表2】

【0089】
表2に示すように、パーフルオロスルホン酸膜の膜表面を過酸化水素水溶液及び0.2〜1.2mol/L硫酸水溶液により改質処理を施した改質膜を用いた場合(膜表面処理方法(1)〜(3))、無害と判定され得る骨材(骨材1)及び無害でないと判定され得る骨材(骨材3)のいずれも、膜電位の絶対値が大きく、また1〜20分程度で判定が可能であり、確実に、かつ短時間で骨材のアルカリシリカ反応性を判定可能であることが判明した。
【0090】
一方、パーフルオロスルホン酸膜の膜表面を過酸化水素水溶液及び1.5mol/L硫酸水溶液により改質処理を施した改質膜を用いた場合(膜表面処理方法(4))、骨材のアルカリシリカ反応性を判定することができなかった。硫酸水溶液による改質処理の際の硫酸水溶液の硫酸濃度が1.5mol/Lであると、膜表面のスルホン酸基が多すぎて、当該スルホン酸基が骨材から溶解したイオンを捕捉してしまうため、判定ができなかったものと考えられる。
【0091】
また、過酸化水素水溶液による改質処理のみを施した改質膜及び水中浸漬処理を施したパーフルオロスルホン酸膜(膜表面処理方法(5)及び(8))を用いた場合には、骨材のアルカリシリカ反応性の判定をすることができるものの、無害でないと判定され得る骨材(骨材3)の膜電位の絶対値が小さく、例えば、JIS化学法におけるRc/Scが0.9程度の骨材等では、骨材からの陽イオンの溶解量が少なく、骨材のアルカリシリカ反応性の判定が困難となるおそれがあると考えられた。
【0092】
さらに、硫酸水溶液による改質処理のみを施した改質膜及び未処理のパーフルオロスルホン酸膜(膜表面処理方法(6)及び(7))を用いた場合には、骨材のアルカリシリカ反応性を判定するのが困難であることが判明した。硫酸水溶液による改質処理のみでは、不純物の除去やスルホン酸基以外の塩基等を脱離させることが難しく、膜表面にスルホン酸基をさらに導入するのが困難であったものと考えられる。
【0093】
さらにまた、熱水浸漬処理を施したパーフルオロスルホン酸膜(膜表面処理方法(9))を用いた場合には、骨材のアルカリシリカ反応性を判定することができなかった。
【0094】
パーフルオロスルホン酸膜の膜表面を過酸化水素水溶液及び0.2〜1.2mol/L硫酸水溶液により改質処理を施した改質膜を用いた場合(膜表面処理方法(1)〜(3))を比較すると、硫酸水溶液の硫酸濃度が0.2〜1.0mol/Lまでは、硫酸濃度の増加に伴い電位差の絶対値が大きくなる傾向があったが、1.2mol/Lとなると、その絶対値が小さくなる傾向があった。よって、0.2〜1.0mol/Lの硫酸水溶液を用いてパーフルオロスルホン酸膜の膜表面の改質処理を行うことで、骨材のアルカリシリカ反応性をより確実に、かつ迅速に判定することができると考えられる。
【0095】
〔骨材のアルカリシリカ反応性判定試験2〕
図1に示す骨材のアルカリシリカ反応性判定装置1を作製し、骨材3及び骨材4について膜電位を測定した。上記アルカリシリカ反応性判定装置1においては、溶媒として10℃又は20℃の水(第1室21に97mL,第2室22に85mL収容)を用い、隔膜5としてパーフルオロスルホン酸陽イオン交換膜(デュポン社製,製品名:ナフィオン,膜厚:125μm)に所定の表面改質処理を施した改質膜を用い、電極3A,3Bとして白金電極を用い、膜電位測定装置4としてエレクトロ・メータ(北斗電工社製,製品名:エレクトロ・メータHE−106)を用いい、第1室21に骨材を3.43g、第2室に骨材を2.98g添加した(第1室21と第2室22との骨材添加量の比=0.99)。結果を表3に示す。
【0096】
【表3】

【0097】
表3に示すように、水中浸漬処理によるパーフルオロスルホン酸膜(膜表面処理方法(8))を用いた装置では、水温20℃の条件下においてはアルカリシリカ反応性の判定が可能であるものの、水温10℃の条件下においてはアルカリシリカ反応性を判定することができなかった。
【0098】
一方、過酸化水素水溶液及び1.0mol/L硫酸水溶液による改質処理を施した改質膜(膜表面処理方法(2))を用いた装置であれば、水温10℃の条件下においても骨材のアルカリシリカ反応性の判定が可能であることが判明した。
【0099】
このように、パーフルオロスルホン酸膜を所定の処理により表面改質した改質膜を骨材のアルカリシリカ判定装置1の隔膜5として用いることで、水温の低下により骨材からのイオンの溶解量が低減し、イオンの移動度が低下している条件下であっても確実に骨材のアルカリシリカ反応性を判定可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に係る骨材のアルカリシリカ反応性判定装置は、アルカリシリカ反応性の不明な骨材における当該反応性の確実、かつ迅速な判定に有用である。
【符号の説明】
【0101】
1…骨材のアルカリシリカ反応性判定装置
2…容器
21…第1室
22…第2室
3A,3B…電極
4…膜電位測定装置
5…隔膜
A…骨材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリシリカ反応性が不明の骨材、及び水又はリン酸水溶液が収容される容器と、前記容器内を第1室及び第2室に分割するようにして前記容器内に配設される隔膜と、前記隔膜を挟んで対峙させるようにして前記第1室及び第2室のそれぞれに配置される二つの電極と、前記電極のそれぞれに電気的に接続される膜電位測定部とを備え、
前記隔膜が、表面にスルホン酸基を有する親水性多孔質膜を過酸化水素水溶液に浸漬させた後、硫酸水溶液に浸漬させることにより表面改質されてなる改質膜であり、
前記水又はリン酸水溶液が収容された前記第1室及び第2室のそれぞれにおける前記水又はリン酸水溶液の容量に対する前記骨材の添加量が相違するように、前記第1室及び第2室のそれぞれに前記骨材を添加し、前記膜電位測定部により測定された膜電位が0V未満である場合に、前記骨材のアルカリシリカ反応性が高いと判定し、当該膜電位が0V以上である場合に、前記骨材のアルカリシリカ反応性が低いと判定することを特徴とする骨材のアルカリシリカ反応性判定装置。
【請求項2】
前記硫酸水溶液の硫酸濃度が、0.2〜1.2mol/Lであることを特徴とする請求項1に記載の骨材のアルカリシリカ反応性判定装置。
【請求項3】
前記過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度が、1〜5質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の骨材のアルカリシリカ反応性判定装置。
【請求項4】
前記第1室への前記水又はリン酸水溶液の容量に対する前記骨材の添加量と、前記第2室への前記水又はリン酸水溶液の容量に対する前記骨材の添加量との比が、1:0.96〜0.99であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の骨材のアルカリシリカ反応性判定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の骨材のアルカリシリカ反応性判定装置用の隔膜であって、
表面にスルホン酸基を有する親水性多孔質膜を過酸化水素水溶液に浸漬させた後、硫酸水溶液に浸漬させることにより得られることを特徴とする骨材のアルカリシリカ反応性判定装置用隔膜。
【請求項6】
前記硫酸水溶液の硫酸濃度が、0.2〜1.2mol/Lであることを特徴とする請求項5に記載の骨材のアルカリシリカ反応性判定装置用隔膜。
【請求項7】
前記過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度が、1〜5質量%であることを特徴とする請求項5又は6に記載の骨材のアルカリシリカ反応性判定装置用隔膜。
【請求項8】
表面にスルホン酸基を有する親水性多孔質膜を、過酸化水素水溶液に浸漬させた後、硫酸水溶液に浸漬させて表面改質されてなる改質膜を用意し、
前記改質膜を介して第1室及び第2室の二室に分割された容器の当該第1室及び第2室内に、アルカリシリカ反応性が不明の骨材と水又はリン酸水溶液とを、前記第1室及び第2室のそれぞれにおける前記水又はリン酸水溶液の容量に対する前記骨材の添加量が相違するように添加し、
前記骨材と水又はリン酸水溶液とを前記第1室及び第2室内にて接触させた状態で測定した前記隔膜の膜電位が0V未満である場合に、前記骨材のアルカリシリカ反応性が高いと判定し、当該膜電位が0V以上である場合に、前記骨材のアルカリシリカ反応性が低いと判定することを特徴とする骨材のアルカリシリカ反応性判定方法。
【請求項9】
前記硫酸水溶液の濃度が、0.2〜1.2mol/Lであることを特徴とする請求項8に記載の骨材のアルカリシリカ反応性判定方法。
【請求項10】
前記過酸化水素水溶液の過酸化水素濃度が、1〜5質量%であることを特徴とする請求項8又は9に記載の骨材のアルカリシリカ反応性判定方法。
【請求項11】
前記第1室への前記水又はリン酸水溶液の容量に対する前記骨材の添加量と前記第2室への前記水又はリン酸水溶液の容量に対する前記骨材の添加量との比が1:0.96〜0.99となるように、前記第1室及び第2室のそれぞれに前記骨材と前記水又はリン酸水溶液とを添加することを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の骨材のアルカリシリカ反応性判定方法。

【図1】
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