説明

骨穿孔用中空ドリル

【課題】 簡易な構造で安価に製造でき、穿孔時に骨の削り屑や切り屑の発生量が極めて少ないと共に、容易に骨髄を採取可能な骨穿孔用中空ドリルを提供すること。
【解決手段】 骨に孔を開けると共に骨髄B1を採取するための骨穿孔用中空ドリル1であって、円筒状の中空ドリル本体2の先端に、真円の円環状に延在していると共に先端に向けて肉厚が漸次薄くされた切れ刃3が形成され、少なくとも中空ドリル本体2の先端部の内周面に、後端側に向いた段差2aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨に孔を開けると共に骨髄を採取可能な骨穿孔用中空ドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨の内部にある骨髄を採取する手段としては、筒状の外針とこれに挿通された内針とによる二重刺針構造を有した骨髄穿刺針を、骨に刺して骨皮質から骨髄腔まで貫通させ、先端が骨髄に達した状態で内針を抜き、残った外針を使用して骨髄を吸引する方法が知られている。また、この骨髄穿刺針は手動で骨を穿孔していたが、電動ドリルを用いて掘削穿孔する方法も提案されている(特許文献1)。さらに、骨を穿孔する器具として、先端部に斜切欠状の刃部または鋸歯状の刃部を有する穿孔パイプにより構成された中空型骨穿孔具が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−178468号公報
【特許文献2】実開昭58−120709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来、二重刺針構造を有した骨髄穿刺針で骨に孔を開けて骨髄を採取しているが、内針と外針とが必要なために複雑な構造であると共に高価になってしまう不都合があった。また、骨髄採取に吸引作業が必要になり、手間と時間がかかってしまう不都合があった。特に、少ない骨髄をサンプル的に採取したい場合等では、より簡易にかつ短時間で採取することが要望されている。さらに、電動ドリルで穿孔する場合、特許文献1に記載の技術のように、先端縁に尖った切れ刃が形成されたものでは、回転して骨を穿孔する際に、削りながら穿孔するために骨の削り屑や切り屑が多く発生してしまう問題があった。また、特許文献2に記載のような穿孔パイプによって骨を穿孔する器具もあるが、先端部に斜切欠状の刃部を有する穿孔パイプでは、骨に針のように刺し入れて使用することから、硬く太い骨の場合、奥まで刺し入れることが困難である。また、先端部に鋸歯状の刃部を有する穿孔パイプでは、回転させることで鋸歯状の刃部によって硬い骨でも骨を削りながら孔を開けることも可能であるが、やはり骨の切り屑が発生してしまう問題があった。また、二重刺針構造や吸引の手段を用いないと共に、ドリル1本のみで切り屑を出さずに、骨髄を容易に採取することはできなかった。
【0005】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、簡易な構造で安価に製造でき、穿孔時に骨の削り屑や切り屑の発生量が極めて少ないと共に、容易に骨髄を採取可能な骨穿孔用中空ドリルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の骨穿孔用中空ドリルは、骨に孔を開けると共に骨髄を採取するための骨穿孔用中空ドリルであって、円筒状の中空ドリル本体の先端に、真円の円環状に延在していると共に先端に向けて肉厚が漸次薄くされた切れ刃が形成され、少なくとも前記中空ドリル本体の先端部の内周面に、凹凸または後端側に向いた段差が形成されていることを特徴とする。
【0007】
この骨穿孔用中空ドリルでは、円筒状の中空ドリル本体の先端に、真円の円環状に延在していると共に先端に向けて肉厚が漸次薄くされた切れ刃が形成され、少なくとも中空ドリル本体の先端部の内周面に、凹凸または後端側に向いた段差が形成されているので、骨の削り屑や切り屑をほとんど出さずに、骨を円環状に切り抜くと共に、ドリルを引き抜く際に、内部の骨髄を凹凸または段差に係止させた状態で容易に採取することができる。すなわち、この骨穿孔用中空ドリルの先端を、回転または振動させながら骨に押し込むことで、先端の円環状の鋭利な切れ刃によってカッターやパンチのごとく骨を円環状に切りながら孔を開けることができ、鋸歯状の刃部のように骨を削りながら孔を開ける際に生じる骨の削り屑がほとんど生じない。また、骨の内部まで先端が達した際に先端部の内部に骨髄が詰まった状態となり、この状態で骨穿孔用中空ドリルを引き抜くと、先端部の内周面に形成された凹凸や段差に骨髄が係止されて、柔らかい骨髄でも先端から抜け落ち難くなり、そのまま先端部に多くが詰まった状態で骨の外部に抜き出されて採取することができる。また、引き抜く際に、切り抜いた骨片が内部に詰まった状態であるため、該骨片に密着していた骨髄を抜き出し易い。このように、この骨穿孔用中空ドリルでは、孔開け後に単に引き抜くだけで骨髄を採取可能であり、1本だけの簡易な構成で短時間の作業で容易に骨髄採取が可能である。
【0008】
また、本発明の骨穿孔用中空ドリルは、前記中空ドリル本体の先端部の内周面に、先端から後端に向けて内径が漸次小さくなった内部テーパ部が形成され、該内部テーパ部の後端に前記段差が形成されていることを特徴とする。
すなわち、この骨穿孔用中空ドリルでは、中空ドリル本体の先端部の内周面に形成された内部テーパ部の後端に段差が形成されているので、骨の内部まで先端が達した際に骨穿孔用中空ドリルを引き抜くと、内部テーパ部後端の段差に骨髄が係止されて、先端から抜け落ち難くなり、容易に採取することができる。
【0009】
また、本発明の骨穿孔用中空ドリルは、前記凹凸または段差が、内周面に螺旋状に形成されていることを特徴とする。
すなわち、この骨穿孔用中空ドリルでは、凹凸または段差が、内周面に螺旋状に形成されているので、回転させながら骨に押し込む際に、内周面の螺旋状の凹凸または段差に対応させた方向に回転させることで、ネジ的な効果により導入し易くなると共に、引き抜く際に、螺旋状の長い凹凸または段差に骨髄が係止されて、より多くを採取することが可能になる。
【0010】
また、本発明の骨穿孔用中空ドリルは、前記中空ドリル本体の先端部の外周面に、先端から後端に向けて外径が漸次大きくなった外部テーパ部が形成され、該外部テーパ部より後端側が前記外部テーパ部の最大外径よりも小さい外径とされていることを特徴とする。
すなわち、この骨穿孔用中空ドリルでは、外部テーパ部より後端側が外部テーパ部の最大外径よりも小さい外径とされて細くなっているので、外部テーパ部の後端側に逃げが付いた形状となり、孔開け時に、骨に押し込む際の抵抗が少なくなる。
【0011】
また、本発明の骨穿孔用中空ドリルは、前記切れ刃に、先端から後端に向けて軸方向と平行なスリットが軸線に対して対称な位置に一対形成されていることを特徴とする。
すなわち、この骨穿孔用中空ドリルでは、切れ刃に、先端から後端に向けて軸方向と平行なスリットが軸線に対して対称な位置に一対形成されているので、スリットの先端角で切れ刃が骨に食い込みやすくなり、穿孔がしやすくなる。また、スリットが軸線に対して対称な位置に一対形成されているので、回転時のバランスが良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る骨穿孔用中空ドリルによれば、円筒状の中空ドリル本体の先端に、真円の円環状に延在していると共に先端に向けて肉厚が漸次薄くされた切れ刃が形成され、少なくとも中空ドリル本体の先端部の内周面に、凹凸または後端側に向いた段差が形成されているので、骨の削り屑や切り屑をほとんど出さずに、骨を円環状に切り抜くと共に、内部の骨髄を凹凸または段差に係止させた状態でドリルを引き抜く際に容易に採取することができる。したがって、この骨穿孔用中空ドリルを用いれば、1本だけの簡易な構造で、骨の孔開けと同時に骨髄のサンプリングが可能になり、採取作業が容易かつ短時間で可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る第1実施形態の骨穿孔用中空ドリルにおいて、全体の構成を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態において、中空ドリル本体の先端部を示す斜視図および断面図である。
【図3】本発明に係る第2実施形態の骨穿孔用中空ドリルにおいて、中空ドリル本体の先端部を示す断面図である。
【図4】本発明に係る第3実施形態の骨穿孔用中空ドリルにおいて、中空ドリル本体の先端部を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る骨穿孔用中空ドリルを超音波発生器に取り付けた応用例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る骨穿孔用中空ドリルの第1実施形態を、図1および図2を参照しながら説明する。
【0015】
本実施形態の骨穿孔用中空ドリル1は、骨に孔を開けると共に骨髄を採取するための骨穿孔用中空ドリルであって、図1および図2に示すように、円筒状の中空ドリル本体2の先端に、真円の円環状に延在していると共に先端に向けて肉厚が漸次薄くされた切れ刃3が形成され、少なくとも中空ドリル本体2の先端部の内周面に、後端側に向いた段差2aが形成されている。
【0016】
すなわち、上記中空ドリル本体2の先端部の内周面に、先端から後端に向けて内径が漸次小さくなった内部テーパ部2bが形成され、該内部テーパ部2bの後端に上記段差2aが円環状に形成されている。
また、上記中空ドリル本体2の先端部の外周面に、先端から後端に向けて外径が漸次大きくなった外部テーパ部2cが形成され、該外部テーパ部2cより後端側が外部テーパ部2cの最大外径よりも小さい外径とされている。
【0017】
この骨穿孔用中空ドリル1は、図1に示すように、シャンク部である基端部がヘッド部4の先端に固定され、該ヘッド部4の基端部をハンドル部5の先端にネジで固定して使用される。
この中空ドリル本体2は、例えばSUS316L、SUS630等のステンレスやチタン等の材料で形成されている。また、中空ドリル本体2は、例えば長さ30〜60mmであり、先端の切れ刃3の直径φは、4〜6mmである。
【0018】
次に、本実施形態の骨穿孔用中空ドリル1を用いて骨に孔を開けて骨髄を採取する方法について説明する。
【0019】
まず、骨穿孔用中空ドリル1の先端を、回転させながら骨に押し込むことで、先端の円環状の鋭利な切れ刃3によってカッターやパンチのごとく骨を円環状に切りながら孔を開けることができ、鋸歯状の刃部のように骨を削りながら孔を開ける際に生じる骨の削り屑がほとんど生じない。
【0020】
また、骨の内部まで先端が達した際に、図2の(b)に示すように、先端部の内部に骨髄B1が詰まった状態となり、この状態で骨穿孔用中空ドリル1を引き抜くと、先端部の内周面に形成された段差2aに骨髄B1が係止されて、柔らかい骨髄B1でも先端から抜け落ち難くなり、そのまま先端部に多くが詰まった状態で骨の外部に抜き出されて採取することができる。
【0021】
また、引き抜く際に、切り抜いた骨片B2が内部に詰まった状態であるため、該骨片B2に密着していた骨髄B1を抜き出し易い。このように、この骨穿孔用中空ドリル1では、孔開け後に単に引き抜くだけで骨髄B1を採取可能であり、1本だけの簡易な構成で短時間の作業で容易に骨髄採取が可能である。
【0022】
したがって、本実施形態の骨穿孔用中空ドリル1は、円筒状の中空ドリル本体2の先端に、真円の円環状に延在していると共に先端に向けて肉厚が漸次薄くされた切れ刃3が形成され、少なくとも中空ドリル本体2の先端部の内周面に、内部テーパ部2bの後端に後端側に向いた段差2aが形成されているので、骨の削り屑や切り屑をほとんど出さずに、骨を円環状に切り抜くと共に、ドリルを引き抜く際に、内部の骨髄B1を段差2aに係止させた状態で容易に採取することができる。
【0023】
また、外部テーパ部2cより後端側が外部テーパ部2cの最大外径よりも小さい外径とされて細くなっているので、外部テーパ部2cの後端側に逃げが付いた形状となり、孔開け時に、骨に押し込む際の抵抗が少なくなる。
【0024】
次に、本発明に係る骨穿孔用中空ドリルの第2実施形態および第3実施形態について、図3および図4を参照して以下に説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0025】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、中空ドリル本体2の先端部の内周面に内部テーパ部2bが形成され、その後端側に段差2aが形成されているのに対し、第2実施形態の骨穿孔用中空ドリル11では、図3に示すように、中空ドリル本体12の先端部の内周面に螺旋状の凹凸12aが形成されている点である。すなわち、第2実施形態では、中空ドリル本体12の先端部の内周面に螺旋状に連続する溝による凹凸12aが形成されている。
【0026】
したがって、第2実施形態の骨穿孔用中空ドリル11では、凹凸12aが、先端部の内周面に螺旋状に形成されているので、回転させながら骨に押し込む際に、内周面の螺旋状の凹凸12aに対応させた方向に回転させることで、ネジ的な効果により導入し易くなると共に、引き抜く際に、螺旋状の長い凹凸12aに骨髄が係止されて、より多くを採取することが可能になる。
なお、第2実施形態では、螺旋状の溝によって凹凸12aを形成しているが、螺旋状の突条部または段差によって凹凸を形成しても構わない。
【0027】
次に、第3実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、真円の円環状に連続して延在した切れ刃3が形成されているのに対し、第3実施形態の骨穿孔用中空ドリル21では、図4に示すように、中空ドリル本体22の切れ刃23に、先端から後端に向けて軸方向と平行なスリット23aが軸線に対して対称な位置に一対形成されている点である。
すなわち、第3実施形態では、切れ刃23の途中の2箇所に角溝形状にスリット23aが形成されている。
【0028】
したがって、第3実施形態の骨穿孔用中空ドリル21では、切れ刃23に、先端から後端に向けて軸方向と平行なスリット23aが軸線に対して対称な位置に一対形成されているので、スリット23aの先端角で切れ刃23が骨に食い込みやすくなり、穿孔がしやすくなる。また、スリット23aが軸線に対して対称な位置に一対形成されているので、回転時のバランスが良い。
【0029】
なお、軸線方向に平行な単なるスリット23aであるため、右回転・左回転のいずれでも回転方向によらずに、切れ刃23の食い込みが向上する。また、多数のスリット23aを形成すると、従来の鋸歯状の刃部と同様に、スリットの先端角だけで骨を削って穿孔するようになり、骨の多くの削り屑が発生してしまうことから、本実施形態ではスリット23aは一対のみとし、あくまで円環状の鋭利な切れ刃23で削らずにカットおよびパンチによって穿孔する。
【0030】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0031】
例えば、上記各実施形態では、ヘッド部を取り付けた本発明の骨穿孔用中空ドリルをハンドル部に取り付けて手動で穿孔作業を行っているが、電動ドリル本体に基端のシャンク部を取り付けて、電動で骨穿孔用中空ドリルを回転させて使用しても構わない。
また、図5に示すように、超音波発生器30に本発明の骨穿孔用中空ドリル1を取り付けて、超音波による振動によって穿孔を行っても構わない。この場合、超音波発生器30で超音波を骨穿孔用中空ドリル1に加えながら手動で骨に中空ドリル本体2の先端の切れ刃3を押しつけることで、振動により切れ刃3が骨を切り込み、穿孔することができる。
【符号の説明】
【0032】
1…骨穿孔用中空ドリル、2,12,22…中空ドリル本体、2a…段差、2b…内部テーパ部、2c…外部テーパ部、3,13,23…切れ刃、12a…凹凸、23a…スリット、30…超音波発生器、B1…骨髄、B2…骨片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨に孔を開けると共に骨髄を採取するための骨穿孔用中空ドリルであって、
円筒状の中空ドリル本体の先端に、真円の円環状に延在していると共に先端に向けて肉厚が漸次薄くされた切れ刃が形成され、
少なくとも前記中空ドリル本体の先端部の内周面に、凹凸または後端側に向いた段差が形成されていることを特徴とする骨穿孔用中空ドリル。
【請求項2】
請求項1に記載の骨穿孔用中空ドリルにおいて、
前記中空ドリル本体の先端部の内周面に、先端から後端に向けて内径が漸次小さくなった内部テーパ部が形成され、該内部テーパ部の後端に前記段差が形成されていることを特徴とする骨穿孔用中空ドリル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の骨穿孔用中空ドリルにおいて、
前記凹凸または段差が、内周面に螺旋状に形成されていることを特徴とする骨穿孔用中空ドリル。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の骨穿孔用中空ドリルにおいて、
前記中空ドリル本体の先端部の外周面に、先端から後端に向けて外径が漸次大きくなった外部テーパ部が形成され、該外部テーパ部より後端側が前記外部テーパ部の最大外径よりも小さい外径とされていることを特徴とする骨穿孔用中空ドリル。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の骨穿孔用中空ドリルにおいて、
前記切れ刃に、先端から後端に向けて軸方向と平行なスリットが軸線に対して対称な位置に一対形成されていることを特徴とする骨穿孔用中空ドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−65839(P2012−65839A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212946(P2010−212946)
【出願日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(510255037)有限会社木内製作所 (1)
【Fターム(参考)】