説明

骨関節疾患の治療又は予防において使用するための医薬組成物

本発明は、場合により適当な医薬担体又は希釈剤、ポリサッカリド及び/又はグリコサミノグリカン、抗炎症剤、並びに幹細胞を含む、骨関節疾患の急性治療(若しくは予防)及び/又は長期間治療(若しくは予防)のための医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野に属するものであり、急性及び/又は慢性の骨関節疾患の治療又は予防に使用するための新規医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症は、関節炎の中で最も一般的なものであり、関節の軟骨における遅い変性プロセス、周辺の骨棘形成を伴う軟骨下骨、及び軽度の炎症によって特徴付けられる疾患である。変形性関節症は、人口の15%が慢性型に罹患していると解されている。そのうち、四分の一は重度の障害がある。変形性関節症の大半の場合は、原因が未知であり、一次性変形性関節症と称される。変形性関節症の原因が既知の際は、二次性変形性関節症と称される。二次性変形性関節症は、他の病気又は疾患によって生じる。二次的変形性関節症を生じさせることができる疾患は、関節構造に対する反復した外傷又は手術、出生時における異常な関節(先天性の異常)、痛風、糖尿病、及び他のホルモン障害を含む。関節炎の他の形態は、関節リウマチ及び全身性エリテマトーデス(SLE)などの全身疾患である。
【0003】
変形性関節症は、主に、腰、膝、背骨、及び指節間関節に影響を与える。変形性関節症の最も一般的な症状は、反復して使用した後の、罹患した関節のおける痛みである。関節の痛みは、一日の後半に悪化することが多い。罹患した関節が腫れて、熱をもち、かつ、きしむこともあり得る。関節の痛み及びこわばりは、長期間にわたって活動しなかった後にも生じ得る。重度の変形性関節症では、軟骨のクッションが完全に喪失することによって、骨の間で摩擦が生じ、休息時における痛み又は限られた動きで痛みが生じる。
【0004】
変形性関節症は、数年にわたる軟骨のゆっくりとした分解によって特徴付けられる。正常な軟骨では、マトリックス合成と分解との間に繊細なバランスが存在する。しかしながら、変形性関節症では、軟骨の分解が合成を超えている。合成と分解との間のバランスは、加齢によって影響を受け、サイトカイン、増殖因子、アグリカナーゼ、及びマトリックスメタロプロテイナーゼを含む滑膜及び軟骨細胞によって生産される複数の因子によって制御されている。水に加えて、細胞外マトリックスは、コラーゲンフレームワーク又は線維マトリックス内に封入された、ヒアルロン酸からなる主鎖に結合したグリコサミノグリカンからなるプロテオグリカンからなる。関節の軟骨内のかなりのプロテオグリカンは、ヒアルロン酸に結合し、軟骨に圧縮性及び弾性を与える助けとなるアグリカンである。アグリカンはアグリカナーゼによって切断され、その分解産物を生じ、その後に軟骨の侵食を生じさせる。軟骨マトリックスからのアグリカンの消失は、OA(変形性関節症)において観察される最初の病理学的変化の1つである。
【0005】
滑膜及び軟骨細胞によって生産されるサイトカイン、特にIL−1β及び腫瘍壊死因子α(TNF−α)も、軟骨の分解において重要な役割を担っている。IL−1βは、変形性関節症の軟骨から自然に放出されるが、正常な軟骨からは放出されない。IL−1β及びTNF−αの双方が、自らの生産及び他のサイトカイン(例えば、IL−8、IL−6、及びロイコトリエン阻害因子)、プロテアーゼ、及びプロスタグランジンE(PGE)の生産を刺激する。炎症性サイトカインであるIL−1β及びTNF−αの合成並びにそれらの受容体の発現が変形性関節症において促進される。それらのサイトカイン双方が、インビトロにおける軟骨分解を強力に誘導することが示されている。変形性関節症で過剰発現する他の炎症性サイトカインは、IL−6、IL−8、IL−11、及びIL−17、並びにロイコトリエン阻害因子を含む。
【0006】
軟骨を形成する細胞外マトリックス(ECM)は、局所的に生産されたマトリックスプロテイナーゼによって分解される。IL−1β、TNF−α、IL−17、及びIL−18を含む炎症性サイトカインは、マトリックスメタロプロテイナーゼの合成を増大させ、マトリックスメタロプロテイナーゼ酵素インヒビターを低減させ、細胞外マトリックス合成を低減させる。
【0007】
細胞外マトリックスの分解から回復させるために、軟骨細胞は、プロテオグリカンを含むマトリクス成分の合成を増大させる。この活性が増大しても、軟骨上層のプロテオグリカンの純損失が認められる。変形性関節症の滑膜において認められる高レベルの抗炎症性サイトカインは、IL−4、IL−10、及びIL−13を含む。それらの役割は、IL−1β、TNF−α、及びマトリックスメタロプロテイナーゼの生産を低減させ、プロスタグランジン放出を阻害することである。インスリン様増殖因子1、トランスフォーミング増殖因子、線維芽細胞増殖因子、及び骨形成タンパク質などの増殖因子及び分化因子の局所的な生産もマトリックス合成を刺激する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Baroon,M.C.,2007,J.Am.Osteopath.,107,ES21−27
【非特許文献2】Bellamy et al,2006;Cochrane Database Syst Rev.2006 Apr 19;(2):CD005321
【非特許文献3】Barron,M.C.,2007,J.Am.Osteopath.,107,ES21−27
【非特許文献4】ZOUHER A et al.;Paediatr Anaesth.2005 Nov;15(11):964−70
【非特許文献5】Luiz−Cleber P.et al.;Anesth Analg.2005 Sep;101(3):807−11
【非特許文献6】Murphy DR ”A non−surgical approach to low back pain” Med.Health R.I.,2000 April;83(4):104−7)
【非特許文献7】S. Armand et al;Br J Anaesth.1998 Aug;81(2):126−34
【非特許文献8】Gentili M,et al.Pain 1996;64:593−596
【非特許文献9】Reuben S,et al.Anesthesiol.1999;91:654−658.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在利用可能な薬物療法は、痛みの緩和を目的とし、鎮痛剤(すなわち、アセトアミノフェン、シクロオキシゲナーゼ−2−特異的インヒビター、非選択的非ステロイド抗炎症薬、トラマドール、オピオイド)を含む。しかしながら、変形性関節症の臨床的所見は、多くの場合、経時的に強度及び位置が変化しながら、単数の関節又は少数の関節に現れる。したがって、全身への悪影響を避けるために、局所的な治療態様を考えることが論理的である。幾つかの化合物が、関節内(例えば、グルココルチコイド、ヒアルロン酸)又は局所的(例えば、カプサイシン、メチルサリチレート)に使用されている。しかしながら、関節内のグルココルチコイドの利益は数日のみ持続する(Baroon,M.C.,2007,J.Am.Osteopath.,107,ES21−27)。
【0010】
ポリサッカリドは、その潜在的な有用性がより認められてきている物質の一種である。その生物学的な活性とは別に、ポリサッカリドの最も重要な特性の1つは、ヒドロゲルを形成する能力である。ヒドロゲルの形成は、多数のメカニズムで生じる可能性があり、かつ、含まれるモノサッカリドの種類並びに置換基の存在及び性質によって強く影響を受ける。ポリサッカリドゲル形成は、一般的に、水素結合及びイオン結合の二種である。水素結合ゲルは、典型的にはアガロース(熱によるゲル化)及びキトサン(pH依存性のゲル化)などの分子であり、イオン結合ゲルはアルギネート及びカラギーナンが典型的である。
【0011】
プロテオグリカンは、関節の軟骨において認められる主要な高分子の1つである。これらの分子は、コアタンパク質及び結合したグリコサミノグリカン(GAG)からなる。GAGは長く、分枝していないヘテロポリサッカリドであり、ウロン酸アミノ糖という一般構造を有する反復ジサッカリド単位からなる。軟骨特異的なGAGは、コンドロイチン4−スルフェート(グルクロン酸及び4炭素位にSOを有するN−アセチル−ガラクトサミン)、コンドロイチン6−スルフェート(グルクロン酸及び6炭素位にSOを有するN−アセチル−ガラクトサミン)、及びケラタンスルフェート(ガラクトース及び6−炭素位にSOを有するN−アセチル−グルコサミン)を含む。
【0012】
これらの分子は、反対の電荷を有するイオン性ポリマー、特に、カチオン性ポリサッカリドキトサンとヒドロゲル複合体を形成することができる。この相互作用は、軟骨組織エンジニアリングに通じる新規材料の基礎を形成する可能性がある。他の重要な軟骨GAGは、ヒアルロン酸(グルクロン酸及びN−アセチル−グルコサミン)である。この分子は、滑液における主要な成分の1つである。ヒアルロン酸分子は、プロテオグリカン中の主鎖構造が凝集して軟骨マトリックス内にも存在する。一般的には、ヒアルロン酸は、細胞外マトリックスの形成体として主要な役割を担っている。精製したヒアルロン酸は、その大きな分子量及びゲル形成能のために、構造的な生体材料として利用される。前記分子の特性は、化学修飾によって広範に変化され得る。例えば、カルボキシル基の部分的なエステル化は、ポリマーの水溶性を低減させ、その粘度を増大させる。大規模なエステル化は、非水溶性フィルム又は膨潤可能なゲルを形成する材料をもたらす。エチル及びベンジルエステル化されたヒアルロン酸エステル膜は、優れた治癒応答及び生分解性特性を有する。完全にエステル化された膜は、数ヶ月のインビボにおける寿命を有し、部分的にエステル化された形態では数週間内に分解されることが示されている。
【0013】
ヒアルロン酸は、潤滑剤及び衝撃吸収剤の双方として働く滑液の粘弾性の質に関与する。滑液では、ヒアルロン酸が、関節の軟骨の表面を被覆し、コラーゲン線維及び硫酸化プロテオグリカンの間で軟骨のより深い空間を共有している。それによって、軟骨を保護し、かつ、軟骨マトリックスから滑膜にプロテオグリカンが損失することを防ぎ、正常な軟骨マトリックスを維持している。変形性関節症における膝関節由来の滑液では、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、及びケラタンスルフェートの濃度が、正常な膝関節由来の滑液よりも低い。加えて、ウサギ滑膜細胞を使用する実験によって、炎症性サイトカインであるIL−1及びTNF−αがヒアルロン酸合成の発現を刺激して、炎症条件下におけるヒアルロン酸の分解に寄与し得ることが示された。外因性ヒアルロン酸は、新しく合成されるヒアルロン酸の生産を容易にし得る。ヒアルロン酸及びその誘導体は、関節表面の潤滑性を改善して関節の痛みを軽減する手段として、変形性関節症の治療における治療手段として使用されている。幾つかのインビトロ培養試験は、ヒアルロン酸が、フィブロネクチン断片によって媒介される軟骨細胞軟骨融解を阻害することによる有益な効果を有することを示している。ヒアルロン酸は、抗炎症効果、並びにプロスタグランジン合成とプロテオグリカン放出及び分解とに対する阻害効果を有することが示されている。
【0014】
部分的に脱アセチル化されたキチン誘導体であるキトサンは、節足動物の外骨格において認められる、様々な数のランダムに配置されたN−アセチル−グルコサミン基とともにβ(1−4)結合D−グルコサミン残基からなる直鎖ポリサッカリドである他のプロテオグリカンである。かくして、関節の軟骨に存在する各種のGAG及びヒアルロン酸と幾つかの特徴を共有する。供給源及び調製方法に依存して、キトサンの平均分子量は、約50から約100kDaの範囲にある可能性がある。現在利用可能な調製物は、約50から約90%の範囲の脱アセチル化の程度を有する。キトサンは、半結晶ポリマーであり、結晶化度は、脱アセチル化の程度に依存する。結晶化度は、キチン(すなわち、0%の脱アセチル化)及び完全に脱アセチル化(すなわち、100%)キトサンの双方で最大である。最小の結晶化度は、脱アセチル化が中程度である際に達成される。
【0015】
生体材料としてのキトサンの潜在力の大半は、そのカチオン性及び高い電荷密度に基づく。その電荷密度によって、キトサンは、各種の広範な水溶性アニオン性ポリマーと不溶性イオン性複合体又は複合体コアセルベートを形成することが可能である。
【0016】
事実、キトサンオリゴサッカリドは、マクロファージに対する刺激効果及びアセチル化残基に結合する効果を有することが示されている。さらに、キトサン及びその親分子であるキチンの双方が、インビトロ及びインビボの双方で好中球に対する化学誘引効果を有することが示されている。インビボでは、キトサンは酵素による加水分解によって分解される。キトサンスカフォールドの機械的特性は、孔サイズ及び孔配向に大きく依存する。
【0017】
グリコサミノグリカンであるヒアルロン酸は、膝の変形性関節症の治療に広く使用されている。英国の2つの一般診療における調査では、約15%の変形性関節症患者が、ヒアルロン酸調製物を用いた関節内治療を受けたことが示された。その粘断特性のために、ヒアルロン酸は滑液を置換し得る。さらに、痛みの感覚を低減し得る。有益な分子及び細胞効果も報告されている。ヒアルロン酸は、関節内注射によって頻繁に適用されるが、臨床的関連性に関する証拠は矛盾している。最先端の全体的なレヴュー及びメタ分析が最近公開され、それらの著者は、関節内ヒアルロン酸は、良くても小さな効果を有するのみであり、痛みの視覚的なアナログ指標では少なくとも15mmの改善である臨床的に意味のある効果を有するのみである(Bellamy et al,2006;Cochrane Database Syst Rev.2006 Apr 19;(2):CD005321)。これらのデータは、変形性関節症患者におけるヒアルロン酸の関節内投与の使用の基礎を為す。その利益は、注射の一年後にのみ分かる場合があり、幾つかの実験では、注射は、週に3から5回実施しなければならない(Barron,M.C.,2007,J.Am.Osteopath.,107,ES21−27)。
【0018】
α−2−アドレナリン作動性受容体リガンド、特にアゴニストは、降圧剤物質として医療行為において一般的に使用され、一般的及び局所領域の麻酔又は鎮痛成分として臨床麻酔学的に一般的に使用される薬剤である。それらは、不安緩解、鎮痛、沈静、麻酔薬節約効果、及び有効な血行安定効果をもたらす。悪性の神経毒性試験によって、全身及び脊髄周囲の経路による、末梢神経ブロックのための、それらの使用(主にクロニジン)が可能である。臨床的に利用可能なα−2−アドレナリン受容体アゴニストのうち、クロニジンは広く使用されている。前記物質は、神経毒性をさけるとともに、より強力でよりα−2−アドレナリン作動性受容体選択的なアゴニストであるデキスメデトミジンよりも少ない副作用(低血圧及び沈静)を示す。強力なα−2−アドレナリン作動性受容体部分アゴニストであるクロニジンは、高血圧の治療に主に使用された。この薬剤は、血管運動中枢においてα−2−アドレナリン作動性受容体を刺激し、中枢神経系から交感神経流出の低減を生じさせる。心拍出量及び末梢抵抗の双方が減少して、血圧低減を生じさせる。より高い濃度は、血管平滑筋におけるシナプス後受容体の活性化による血管収縮を生じさせる。しかしながら、その薬剤の顕著な利点は、口の乾燥、鎮静、及び、眩暈を含む副作用によって退行されている。さらに、抗炎症効果などの、これらの化合物の他の活性は、経口投与によっては全く報告されていない。
【0019】
脊髄投与したα−2−アドレナリン(α−2−アドレナリン受容体)アゴニストのよく知られた鎮痛効果に加えて、それらの末梢における使用が、急性の痛みの条件において一般的に報告されている。手術前の鎮痛技術のために、クロニジンが、末梢神経ブロックにおける局所麻酔に添加して、鎮痛の強度及び期間を向上させる。ZOUHER A et al.;Paediatr Anaesth.2005 Nov;15(11):964−70;Luiz−Cleber P.et al.;Anesth Analg.2005 Sep;101(3):807−11,Murphy DR ”A non−surgical approach to low back pain” Med.Health R.I.,2000 April;83(4):104−7)。さらに、クロニジンの関節内注射及び血管内局所麻酔用局所麻酔溶液へのその添加は、抗侵害受容作用も示す(S. Armand et al;Br J Anaesth.1998 Aug;81(2):126−34;Gentili M,et al.Pain 1996;64:593−596;Reuben S,et al.Anesthesiol.1999;91:654−658.)。しかしながら、ここでは、その効果は数日又は数週間持続しないように設計される。
【0020】
α−2−アドレナリン受容体アゴニストは、TNF−α及びIL−1βなどの炎症性サイトカインの組織含量の増大を妨げ、抗炎症性サイトカインであるTGFβの組織含量を増大することが知られている。このことは、末梢神経ブロックによるα2アドレナリン作動性受容体アゴニストの局所適用による、坐骨神経の部分結紮による炎症性神経痛モデルにおいて示されている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、急性又は慢性の骨関節疾患及び急性又は慢性の骨関節疾患の症状、特に変形性関節症の治療及び/又は予防において使用するための新規(関節内)医薬組成物であって、
− 場合により適当な医薬担体又は希釈剤;
− ポリサッカリド及び/又はグリコサミノグリカン、好ましくはグリコサミノグリカン(プロテオグリカンを含む);
− 幹細胞(分化しているか又はしていない)(ただし、当該幹細胞はヒト胚性幹細胞ではなく、潜在的に抗炎症特性を有する);並びに
− 十分な量の抗炎症剤(化合物)
を含む、組成物に関する。
【0022】
本発明の医薬組成物では、ポリサッカリド又はグリコサミノグリカン(プロテオグリカンを含む)は、フィルム又はマトリックスとして、好ましくは、ペースト又はゲル、より好ましくは、十分な量の水性溶媒を含むヒドロゲルの形態で存在してよい。
【0023】
好ましくは、前期抗炎症剤(化合物)は、ステロイド抗炎症化合物(プレドニソロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアミシノロンなど)、非ステロイド抗炎症化合物(イブプロフェン、ジクロフェナク、ナプロキセン、cox−2インヒビターなど)、疾患修飾抗リウマチ薬(DMARD、例えば、メトトレキセート、レフルノミドなど)、α2アドレナリン作動性受容体アゴニスト、抗CD20剤、抗サイトカイン剤(抗IL1、抗IL6、抗IL17)、抗TNF剤(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、リツキシマブなど)、又はそれらの混合物からなる群から選択される。
【0024】
有利には、抗炎症化合物は、α−2−アドレナリン作動性受容体と相互作用する化合物であり、好ましくは、α−2−アドレナリン作動性受容体アゴニストである。
【0025】
α−2−アドレナリン作動性受容体アゴニストは、クロニジン、p−アミノクロニジン、チアメニジン、5−ブロモ−6−(2イミダゾリジン−2−イルアミノ)キノキサリン、デキスメデトミジン、デトミジン、メデトミジン、αメチルドーパ、オキシメタゾンリン、ブリモニジン、チザニジン、ミバゼロール、ロフェキシジン、キシラジン、クアンファシン、クアンクロフィン(quanclofine)、クアノキサベンズ、又はそれらの誘導体若しくは構造類似体、α−メチノレフェリン(methyinorepherine)、アゼペキソール、インドラミン、6−アリル−2−アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロ4H−チアゾロ[4,5−d]アゼピン2HCl、又は表1に記載の化合物からなる群から選択される。
【0026】
本発明に係る組成物では、ポリサッカリドに基づくゲル及びグリコサミノグリカンは、共有結合していないか又は共有結合している。
【0027】
好ましくは、前記グリコサミノグリカンは、低い(900kDa未満)又は高い(900kDa超)の分子量を有するヒアルロン酸からなる群から選択される。
【0028】
本発明の組成物では、ヒアルロン酸及びα2アドレナリン作動性受容体アゴニストは、共有結合していないか又は共有結合している。
【0029】
本発明に係る組成物では、グリコサミノグリカンは、プロテオグリカン、コンドロイチンスルフェート、ケラチンスルフェート、ヒアルロン酸、(それらの誘導体を含む)、キトサン、キトサン若しくはキチン誘導体、又はそれらの混合物からなる群から選択される。
【0030】
有利には、前記組成物の非ヒト胚性幹細胞は、骨髄又は脂肪組織又は骨組織又は関節組織(から得られる細胞)、造血細胞及び間葉系間質細胞の混合物(拡大しているか又はしていないもの)、間葉系間質細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0031】
本発明者は、本発明に係る医薬組成物が、変形性関節症、変性性関節炎、変形性膝関節炎、変形性股関節症、関節に関わる他の炎症性の一般的な疾患、例えば、自己免疫疾患、特に、関節リウマチ、及び全身性エリテマトーデス(SLE)脊椎関節症、リウマチ性多発筋痛、強直性脊椎炎、ライター症候群、乾癬性関節症、腸疾患性関節炎(炎症性腸疾患、例えば、出血性大腸炎、及びクローン病)、神経障害性関節症、急性リウマチ熱、痛風、軟骨石灰化症、カルシウムヒドロアパタイト結晶沈着症、ライム病、及び全ての他の変性性関節症などの、炎症に由来する急性及び/又は慢性骨関節症及び関連する症状(特に、骨関節痛、骨関節可動性、又は骨関節機能)の治療又は予防に適切であることを発見した。
【0032】
本発明の組成物は、幹細胞の効率的な増殖を得ること、そのため、再生する組織又は損傷した組織を改善することにも適している。処理した組織の再生に対する、この効果は、本発明の組成物に存在する活性化合物の相乗効果によって有利に誘導される。
【0033】
したがって、本発明に係る組成物は、抗炎症活性、組織又は細胞の再生効果、並びに急性及び/又は慢性骨関節症及び/又は症状の有利かつ効率的な治療及び/又は予防によって特徴付けられる。これらの効果は、本発明に係る組成物において組み合わされるであろう。
【0034】
本発明の好ましい実施態様によれば、前記組成物は、好ましい製剤、好ましくは、組成物中に存在する有効量(治療用量)の活性化合物を、ヒト患者を含む哺乳動物の対象に、特に対象の膝、腰、及び背骨に送達させるための注射溶液である製剤を提供する。
【0035】
好ましくは、この注射可能な溶液は、体重に対して約0.1mgから約100mg/kg、好ましくは約1mgから約10mg/kgのポリサッカリド及び/又はグリコサミノグリカンを、好ましくはポリサッカリドに基づくヒドロゲルの形態で含み、患者の体重に対して約0.1mgから約100mg/kg、好ましくは患者の体重に対して約0.1mgから約0.8mg/kgの抗炎症化合物、好ましくは、α−2−アドレナリン作動性受容体を活性化する化合物、好ましくは、α−2−アドレナリン作動性受容体アゴニストを含んでよい。
【0036】
前記注射可能な溶液は、哺乳動物の対象、好ましくはヒト患者の関節における関節内投与(経皮注射)に適当である。
【0037】
当該製剤は、局所投与(哺乳動物の対象、好ましくはヒト患者の炎症を起こした関節又はその付近への経皮注射)、表皮、筋肉、又は任意の深部器官に関する局所投与注射にも適当である。
【0038】
本発明の他の態様は、上述の疾患及び/又は当該疾患によって誘導される症状(痛み)の治療及び/又は予防における医薬の製造のための前記医薬組成物の使用に関する。
【0039】
本発明は、当該医薬組成物の哺乳動物の対象、好ましくはヒト患者に対する関節内投与が、骨関節症に関連する症状の改善、例えば、上述の疾患又は症状によって誘導される骨関節痛の緩和、関節可動性及び/又は機能の改善、炎症液の関節における蓄積の低減をもたらすという驚くべき発見に関する。
【0040】
本発明は、哺乳動物の対象、特にヒト患者に対する本発明に係る医薬組成物の関節内投与が、骨関節症に関連する症状の改善における上述の効果と併せて、炎症及び関節の変性の低減の双方をもたらし、疾患の改善及び関節再生効果を生じるという驚くべき発見にも関する。これらの効果は、前記組成物に存在する成分の相乗的な組み合わせによって得られる。
【0041】
本発明は、哺乳動物の対象、特にヒト患者に対する本発明に係る医薬組成物の関節内投与が、第一の成分の治療作用が始まるまでの時間の短縮及び第一の成分が作用する期間の増大ももたらすという驚くべき発見にも関する。
【0042】
本発明の組成物及び方法は、所望の効力を得るために必要な投与の数を低減することを可能にし、かつ、作用の開始をより早くすることも可能にする。
【0043】
本発明は、関節内投与、特に哺乳動物、好ましくはヒト患者の膝、腰、及び背骨、又は任意の関節(例えば、指関節)への関節内投与による、哺乳動物の対象、好ましくはヒト患者への十分な量の本発明の医薬組成物の投与による、上述の疾患又は症状からなる群から選択される疾患の治療及び/又は予防(防止)のための方法にも関する。
【0044】
本発明の最後の態様は、本発明の組成物の成分(担体/希釈剤、ポリサッカリド、グリコサミノグリカン、抗炎症剤(又は化合物)、幹細胞、又はそれらの組み合わせ)を有する1つ又は複数のバイアルを含み、かつ、当該成分(同時又は連続的に)又は組成物を、上述の骨関節疾患又は症状(特に痛み)に罹患した哺乳動物の対象、好ましくはヒト患者に送達するための装置であって、
− 当該医薬組成物を貯蔵するための容器手段、
− 当該医薬組成物を投薬するための容器の縦軸に沿って可動のピストン手段、及び
− 哺乳動物の対象の末梢神経に当該医薬組成物を送達するための前記容器手段に取り付けられた中空針
を有する装置を含む、キットオブパーツに関する。
【0045】
以下の発明の詳細な説明を、添付の実施例と共に読めば、これら及び他の本発明の目的及び特徴がより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、MSCの表面上のPBMCの接着を示す。
【図2】図2は、異なる培養条件:対照、A2A(クロニジン単独)、HA(ヒアルロン酸単独)、及びHA/A2A(ヒアルロン酸とクロニジンとの組み合わせ)における低倍率(上)及び高倍率(下)におけるアルシアンブルー染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本明細書で使用する用語「関節内」は、本発明の医薬組成物を用いた関節の経皮注射を意味する。
【0048】
本明細書で使用する用語「局所投与」は、炎症を起こした関節又はその付近における経皮注射を意味する。かくして、局所投与注射は、表皮、真皮、筋肉、又は任意の深部器官に関する。
【0049】
局所投与の主な利点は、鎮痛効果を選択的に損傷領域に限定することである。さらに、局所投与は、全身への放出がほとんど又は全くなく、高い局所的な濃度レベルを可能にする。ヒアルロン酸の局所投与及び関節内注射は、上述の疾患の既知の治療である。
【0050】
抗炎症化合物及び幹細胞の局所投与及び関節内注射は、容易に達成可能であり、かつ、プロテオグリカンと組み合わせて長く持続する効果を与える。したがって、侵襲的な薬剤送達系の位置に関する問題、及び全身放出による厄介な副作用の問題は、強力に最小化される。健康に関連するクオリティ・オブ・ライフ、患者の満足、及び経済予測は、その様な治療、特に慢性疾患におけるその様な治療で改善されるであろう。
【0051】
好ましくは、投与されるプロテオグリカンは、ポリサッカリドに基づくヒドロゲル又はグリコサミノグリカン、例えば、ヒアルロン酸若しくはその塩又はヒアルロン酸の脂肪族、複素環式脂肪族、若しくは環式脂肪属のアルコールとのエステル、又はヒアルロン酸の硫酸化形態、又はヒアルロン酸を含有する薬剤の組み合わせからなる群から選択される。ポリサッカリドに基づくヒドロゲル若しくはグリコサミノグリカン又はそれらの誘導体の適切な用量は、典型的には、約0.1mgから約100mg/kg体重/日又は約0.5mgから約10mg/kg体重/日、より好ましくは約2mgから約8mg/体重/日であろう。
【0052】
有利には、投与される幹細胞は、骨髄、脂肪組織、骨組織、又は関節組織由来であり、造血細胞及び間葉系間質細胞の混合物、間葉系間質細胞(拡大しているか又はしていないもの)、骨芽細胞、若しくは軟骨細胞の混合物、又はそれらの任意の組み合わせからなる。
【0053】
第一の実施態様によれば、投与される幹細胞は、骨芽細胞、又は好ましくは、骨幹細胞、前骨芽細胞、及び骨芽細胞からなる群から選択される細胞集団である。
【0054】
第二の実施態様によれば、投与される幹細胞は、軟骨細胞、又はより好ましくは、軟骨幹細胞、前軟骨細胞、及び軟骨細胞からなる群から選択される細胞集団である。
【0055】
好ましい実施態様では、α2アドレナリン作動性受容体アゴニストは、クロニジン、p−アミノクロニジン、チアメニジン、5−ブロモ−6−(2イミダゾリジン−2−イルアミノ)キノキサリン、デキスメデトミジン、デトミジン、メデトミジン、αメチルドーパ、オキシメタゾンリン、ブリモニジン、チザニジン、ミバゼロール、ロフェキシジン、キシラジン、クアンベンズ、クアンファシン、クアンクロフィン(quanclofine)、クアノキサベンズ、又はそれらの誘導体若しくは構造類似体、α−メチノレフェリン(methyinorepherine)、アゼペキソール、インドラミン、6−アリル−2−アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロ4H−チアゾロ[4,5−d]アゼピン2HCl、それらの類似体、又は表1及びそれらの類似体から選択される化合物であってよい。
【表1】


【0056】
本発明にしたがって使用される活性化合物は既知である。ヒアルロン酸を含有する医薬調製物が市販されており、クロニジン及び他のα2アドレナリン作動性受容体アゴニストも同様である。前記化合物は、従来技術として開示されている方法に本質的にしたがって、既知の様式で製造することができる。
【0057】
本明細書で使用する用語「クロニジン」は、N−(2,6−ジクロロフェニル)−4,5−ジヒドロ−1H−イミダゾール−2−アミンを意味し、製薬学的に許容されるその塩を含み、例えば、ヒアルロン酸などの無機酸の塩、又は有機酸、例えば、酢酸、フマル酸、若しくは酒石酸などの低級脂肪族モノカルボン酸若しくはジカルボン酸、若しくはサリチル酸などの芳香族カルボン酸の塩も適切である。
【0058】
クロニジンは、治療上有効量で使用される。本発明は、関節又はその付近の領域に送達するための注射可能な製剤の製造のためのα2アドレナリン作動性受容体アゴニスト、すなわち、関節内注射による前記アゴニストの治療用量の使用であって、前記溶液が、約3μgから約1500μgの前記α2アドレナリン作動性受容体アゴニストを含む、使用も含む。好ましくは、前記製剤は、約30μgから約500μgの前記α2アドレナリン作動性受容体アゴニストを含む。より好ましくは、前記溶液は、50μgから350μgの前記α2アドレナリン作動性受容体アゴニストを含む。好ましい実施態様では、α2アドレナリン作動性受容体アゴニストはクロニジンである。クロニジンの実際の濃度は、治療する疼痛症候群の性質及び程度並びに前記薬剤が治療目的又は予防目的のいずれのために投与されるかに依存して変化してよい。
【0059】
それらの抗炎症特性に基づいて、炎症性サイトカインであるTNF−α及びIL1−βの阻害、並びにTGFβなどの抗炎症性サイトカイン、α2受容体アゴニストの注射投与における増大が、骨関節炎症性疾患及び上述のような骨関節炎症性疾患が存在する病気における用途を有するであろうという仮説が立てられる。
【0060】
本発明の方法及び製剤によれば、ヒアルロン酸及びα2アドレナリン作動性受容体アゴニスト形態の組み合わせの注射が、ヒト及び骨関節痛の動物モデルの双方の場合において、長く持続する痛みの緩和を誘導する。前記方法は安全であり、大きな薬剤の副作用が無く、急性及び慢性の治療及び予防を過度に侵襲的な技術を使用せずに可能とする。
【0061】
保存剤が、組成物中の細菌、酵母、及びカビなどの微生物の増殖を阻害するのに有効な量で含まれてよい。製品の微生物汚染に対する任意の従来の保存剤が、製薬学的に許容され、かつ、クロニジンと反応しないかぎり、使用することができる。好ましい保存剤は、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、及びフェネチルアルコールなどの抗微生物芳香族アルコール、並びに一般的にパラベン化合物と称されるパラヒドロキシ安息香酸のエステル、例えば、パラヒドロキシ安息香酸のメチル、エチル、プロピル、及びブチルエステルなど、並びにそれらの混合物であるが、それらに限らない。特に好ましいものは、ベンジルアルコール及びフェノキシエタノールである。
【0062】
最適には、麻酔剤、例えば、リドカインなどを含むことができる。本発明による投与のために、神経痛を緩和する化合物の有効量を、従来の医薬賦形剤及び/又は添加剤とともに固体又は液体の医薬製剤に含めることができる。
【0063】
化合物を溶解又は分散させることによって調製される、有効成分の液剤、懸濁剤、又は乳剤などの液体の製剤が、従来の希釈剤、例えば、水、油、及び/又は懸濁助剤、例えば、ポリエチレングリコール、並びに任意の医薬アジュバントを、担体、例えば、生理食塩水溶液、デキストロース水溶液、グリセロール、又はエタノール中に含み、液剤又は懸濁剤などを形成することができる。保存剤及び香味剤などのさらなる添加剤も添加してよい。
【実施例】
【0064】
α2アドレナリン受容体アゴニスト(例えば、クロニジン)、グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸)、及び幹細胞の組み合わせの効果を、刺激された末梢血単核細胞を有する炎症モデルで試験した。
【0065】
健康なボランティアのヘパリン化した静脈血に由来するPBMC(末梢血単核細胞)を、フィコール勾配遠心分離によって単離した。MNC(単核細胞)をPBSで三回洗浄して、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、及び10%熱不活化FBS(ウシ胎仔血清)を添加したRPMI−1640培地に再懸濁した。細胞を、200μL/ウェルの総容量で、96ウェルプレートに100,000細胞播種した。
【0066】
100,000細胞/200μLでPBMCを96ウェルマイクロタイタープレートに播種して、10μg/mLのフィトヘマグルチニン(PHA)で刺激するか又はしなかった。ヒアルロン酸「HA」(200μg/mL)及びp−アミノクロニジン「A2A」(5μM)の効果をPBMCに対して試験した。
【0067】
MSC(間葉系間質細胞)は、健康なボランティアの腸骨稜から得られた20から60mLのヘパリン化した骨髄(BM)に由来するものであった。BMは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、2v:v)と混合し、密度勾配フィコール溶液上に層にした。遠心分離した後に、単核球を界面から回収し、PBSで二回洗浄した。細胞は、15%FBSを添加した標準MEM培地に再懸濁した。前記細胞を2×10細胞/75cmフラスコに播種して、5%CO2を含有する37℃の加湿雰囲気下に維持した。細胞を24時間接着させて、その後に最初の培地交換を行った。細胞を10日目にトリプシン−EDTA溶液を使用して1から5分で37℃において剥がした。次いで、細胞を照射(2200Ciで10分間)して、その後に12,500細胞/ウェルで増殖アッセイのために96ウェルに播種して、1:8の比率(MSC:PBMC)を得た。
【0068】
増殖アッセイ
培養を終える前の24時間にわたって、1μCi/mLの3H−チミジンと培養物をインキュベートし、増殖を測定した。次いで、細胞を氷冷PBSで二回洗浄し、氷冷5%トリクロロ酢酸(TCA)で二回洗浄した。最後に、細胞を0.1N NaOH−0.1% Triton−X100で可溶化した。上清を回収して、シンチレーション液の存在下でβカウンターで分析した。結果は、cpm(「カウント/分」=一分の一連の連続カウントで観察された放射活性成分の崩壊回数)で得た。IL−1β(ベータ)検出(ELISAによる)。PBMC又は培養物上清からのIL−1βのレベルを、Quantikine ELISA kit(R&D Systems Inc,Mineapolis,USA)によって測定した。IL−1βの最小の検出可能な濃度は、1.0pg/mLであると見積もられた。
【0069】
PBMCによるIL−1βの放出、及びPHA刺激によって誘導されるPBMCの増殖を対照に設定し、HA及び/又はA2Aで処理したPBMCについての測定値と比較した。
【0070】
IL−1βのPBMC放出の阻害、及びTH1細胞のLPS刺激によって誘導されるPBMC増殖の阻害も測定し、PHA刺激した細胞と同様の傾向が得られた。
【0071】
【表2】

【0072】
PHA刺激によって誘導されたIL−1β分泌は、基本状態(IL−1βレベルは検出不可能であった)を超える顕著な増大を示し、これを100と設定した。PBMC細胞の増殖も顕著に20倍に増大した。驚くべきことに、同様のサイトカインの増大(基本状態を超える)がHA単独の添加で認められたが、PBMC増殖は影響を受けなかった。PHAによって刺激した際は、HAの添加が、IL−1β分泌を相乗的に増大させ、刺激条件の3倍であったが、PBMC増殖を1/2に低減し得た。
【0073】
【表3】

【0074】
A2Aは、基本(未刺激の)状態に対して効果を有しなかった。興味深いことに、PHAで刺激した際には、A2Aの添加が、PHA刺激によるIL−1β分泌における増大を検出可能なレベルまで完全に抑制したが、PBMC増殖を阻害することはできなかった。
【0075】
【表4】

【0076】
興味深いことに、HA/A2Aの組み合わせは、PHA/HA条件を超える強力な抗炎症効果を示す。実際、A2Aの添加は、PHA/HA刺激によるIL−1βにおける増大を顕著に逆行させ(50%超)、PHA単独条件と同程度に戻すことが可能であった。A2Aは、さらに35%、PBMC増殖を阻害することができた。
【0077】
MSC添加の効果
PBMC増殖及びIL−1β分泌に対するMSCの効果を試験して、基本(未刺激の)状態を超える刺激効果が認められた。驚くべきことに、増殖効果は、刺激条件(例えば、PHAの存在)に維持されたが、IL−1β分泌に対する炎症効果の代わりに、強力な阻害効果が認められた(−62%)。
【0078】
【表5】

【0079】
PHA刺激条件及びヒアルロン酸の存在下では、MSCは、中程度(約10%)に抗炎症及び抗増殖であった。
【0080】
【表6】

【0081】
最後に、PHA刺激条件下及びA2Aの存在下では、MSCは何ら影響を有しなかった。
【0082】
【表7】

【0083】
炎症の間、ヒアルロン酸のより低分子量の断片が、IL−6及び単球化学誘引タンパク質(MCP−1)などのサイトカインの分泌を誘導することによる、炎症及び免疫刺激剤であることが知られている。HAは、細胞外マトリックスに対するリンパ球及び単球の接着を促進する特性も有する(Yamawaki et al.,2009)。本実験は、ヒアルロン酸が、PBMCを増殖させずに、サイトカイン(例えば、IL−1β)生産に対する強力な刺激効果を有することを示す。
【0084】
クロニジンは、Th1/Th2サイトカイン生産を変化させることも示されている(Xu et al.,2007;Cook−Mills et al.,1998)。本実験は、α2アドレナリン受容体アゴニストの添加がPHA刺激によるサイトカイン(例えば、IL−1β)分泌の増大を完全に抑制するが、PBMC増殖を阻害することはできないことを示す。
【0085】
驚くべきことに、HA/A2Aの組み合わせは、サイトカイン生産及び炎症細胞増殖の双方に対して強力な抗炎症効果を示す。実際、HAに対するA2Aの添加は、IL−1β分泌における増大を顕著に阻害することができ、かつ、PBMC増殖を阻害することもできた。
【0086】
MSCのインビトロ特性は、各種のタイプのリンパ球の増殖を低減させる機能であるが、インビトロ及びインビボで免疫特権を有する(Bocelli−Tyndall et al.,2007)。しかしながら、MSCの数及びインキュベート時間は、MSCのリンパ球調節において重要な因子であることが示された。リンパ球増殖の阻害は、MSC濃度に用量依存的である(LeBlanc,2003)。
【0087】
興味深いことに、これらの結果は、MSCが、IL−1β分泌及びPBMC増殖の双方を増大させることによって、未刺激のPBMCに対する中程度の刺激効果を有することを示す。それどころか、MSCは、IL−1β分泌に対する強力な抗炎症効果を示したが(−62%)、PBMC増殖を増大させた。本発明者は、MSCがPBMCの増殖を誘導しなかったが、その生存率を増大させることができたのだと仮説を立てた。これは、MSCの表面上のPBMCの接着によって説明される(添付の図1参照)。このことは、MSC存在下のPHA刺激PBMCにおける生存率の増大によって確認されるようである(20%の生存率の増大)。
【0088】
再生効果
MSCは、7、14、及び21日間にわたって軟骨形成培地で培養し、4つの条件:
− 対照
− A2A:5μMアミノクロニジン
− HA:200μg/mlのヒアルロン酸
− HA+A2A:200μg/mlのヒアルロン酸及び5μMアミノクロニジン
で試験した。
【0089】
14日目及び21日目に、ペレットを10%緩衝化ホルマリンで6時間にわたって固定化し、PBSで二回洗浄した。次いで、ペレットをOCT(Sakura Finetek,Belgium)に埋め込んだ。切片を5μmの厚みで切り出して、アルシアンブルーで染色した後に、ヌクレアファストレッド(Klinipath,Belgium)で対比染色した。
【0090】
アルシアンブルーは、グリコサミノグリカン(GAG)を表わすために最も広く使用されているカチオン染料の1つである。GAGは青色に染色され、ヌクレアファストレッドは、細胞の核をピンク又は赤色に、及び細胞質を薄いピンクに対比染色する。簡潔には、手順は、1)アルシアンブルー溶液における30分間にわたる染色;3)2分間にわたって流れている水道水で洗浄;4)蒸留水ですすぎ;5)5分間にわたってヌクレアファストレッド溶液で対比染色;6)1分間にわたって流れる水道水で洗浄;7)95%アルコールで脱水、無水アルコールで二回交換、各々3分;8)キシレン置換品であるUltraclear(Klinipath,Belgium)で清澄にする;9)Ultrakitマウント培地(Klinipaht,Belgium)でマウントする。トルイジンブルーは、赤から紫色にプロテオグリカンを染色し(異性性染色)、核を青色に染色する(正染性染色)。染料溶液から異なる色で組織成分を染色する、異性染色は、pH、染料濃度、及び塩基性染料の温度による。異性染色組織成分で、青色又はすみれ色の染料は赤色へのシフトを示し、赤色の染料は黄色へのシフトを示すであろう。トルイジンブルーは、軟骨などの組織でプロテオグリカン及びグリコサミノグリカンを染色するために使用されることが多い。
【0091】
結果
異なる条件に由来するペレットは同様のサイズであったが(平均0.7mm、0.9から0.4mmの範囲)、アルシアンブルー染色は、ペレットの細胞質が、条件の変化に顕著に影響を受けたことを明らかにする。例えば、ヒアルロン酸の添加は、ペレットの細胞質を多く低減する。同時に、マトリックス(すなわち、ムコポリサッカリド及びグリコサミノグリカン)含量は、青色染色が存在しないことによって図2に示されるように対照及びA2A単独ではほぼ0であったが、ヒアルロン酸及びヒアルロン酸/クロニジン条件下では、スライドは一様に青色に染色され、重要なマトリックス生産を示した。HA/A2Aの併用条件は、さらに、HA単独条件を超えてマトリックス生産を増大させる。
【0092】
図2は、異なる培養条件:対照、A2A(クロニジン単独)、HA(ヒアルロン酸単独)、及びHA/A2A(ヒアルロン酸とクロニジンとの組み合わせ)における低倍率(上)及び高倍率(下)におけるアルシアンブルー染色を示す。興味深いことに、細胞の核の染色は、クロニジン(HA/A2A)のヒアルロン酸(HA)への添加がペレットの細胞質を増大させることを示す。
【0093】
結論として、ヒアルロン酸、抗炎症性化合物、例えば、α2アドレナリン受容体アゴニスト、及び間葉系間質細胞の組み合わせは、驚くべきことに、相乗的な抗炎症効果及び再生効果を示す:
− 間葉系間質細胞の存在は、軟骨マトリックスの新たな生産に必要とされる;
− この生産は、ヒアルロン酸によって顕著に増大(及び加速)されるが、ヒアルロン酸の添加は炎症誘発効果がある;
− このヒアルロン酸の強力な炎症誘発効果は、α2アドレナリンアゴニストの添加によって完全に中和される;
− α2アドレナリンアゴニスト剤の添加は、細胞集団の細胞質及びマトリックス生産を増大させることによって、間葉系間質細胞及びヒアルロン酸の組み合わせの再生効果を支援する。
[参考文献]


【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくは関節内注射によって、急性及び/又は慢性の骨関節疾患及び/又は症状の治療及び/又は予防に使用するための医薬組成物であって、
− 場合により適当な医薬担体又は希釈剤、
− ポリサッカリド及び/又はグリコサミノグリカン、
− 有効量の抗炎症化合物、及び
− 有効量の幹細胞(ただし、前記幹細胞はヒト胚性幹細胞ではない)
を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記グリコサミノグリカンが、プロテオグリカン、コンドロイチンスルフェート、ケラチンスルフェート、又はヒアルロン酸、その誘導体、キトサン、キトサン誘導体、又はキチン誘導体からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗炎症化合物が、ステロイド化合物、非ステロイド抗炎症化合物、疾患修飾性抗リウマチ薬、α2アドレナリン作動性受容体アゴニスト、抗CD20剤、抗サイトカイン剤、抗TNF剤、又はそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗炎症化合物がα2アドレナリン作動性受容体アゴニストである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記アゴニストが、クロニジン、p−アミノクリオニジン、チアメニジン、5−ブロモ−6−(2−イミダゾリジン−2−イルアミノ)キノキサリン、デキスメデトミジン、デトミジン、メデトミジン、αメチルドーパ、オキシメタゾンリン、ブリモニジン、チザニジン、ミバゼロール、ロフェキシジン、キシラジン、クアナベンズ、クアンファシン、クアンクロフィン、クアノキサベンズ、又はそれらの誘導体若しくは構造類似体、α−メチノレフェリン、アゼペキソール、インドラミン、6−アリル−2−アミノ−5,6,7,8−テトラヒドロ4H−チアゾロ[4,5−d]アゼピン2HClからなる群から選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記幹細胞が、骨髄濃縮物、造血幹細胞及び間葉系幹細胞の混合物(拡大しているか又はしていない)、間葉系幹細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
体重に対して0.1から100mg/kgのポリサッカリド又はグリコサミノグリカンを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
体重に対して0.1から100mg/kgの抗炎症化合物を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記幹細胞が、成人の間葉系幹細胞又は(非ヒト)胚性間葉系幹細胞である、請求項1から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
注射可能な溶液である、請求項1から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記注射可能な溶液の注射が、週二回、好ましくは週一回、より好ましくは二週又は三週に一回実施される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記急性又は慢性の骨関節の症状が、痛み、可動性、及び/又は機能からなる群から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記骨関節疾患が、変形性関節症、変性性関節炎、変形性膝関節炎、変形性股関節症、関節に関わる他の炎症性の一般的な疾患又は症状、例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)、脊椎関節症、リウマチ性多発筋痛、強直性脊椎炎、ライター症候群、乾癬性関節症、腸疾患性関節炎(炎症性腸疾患、例えば、出血性大腸炎及びクローン病に関連する)、関節リウマチ、神経障害性関節症、急性リウマチ熱、痛風、軟骨石灰化症、カルシウムヒドロアパタイト結晶沈着症、及びライム病からなる群から選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
− 請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物を有するバイアル、
− 哺乳動物の対象の炎症を起こした関節に前記組成物を送達するための装置であって
・前記組成物を貯蔵するための容器手段、
・前記医薬組成物を投薬するための容器の縦軸に沿って可動のピストン手段、及び
・哺乳動物の対象の末梢神経に前記医薬組成物を送達するための前記容器手段に取り付けられた中空針
を備える装置
を含む、キットオブパーツ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−523934(P2011−523934A)
【公表日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546357(P2010−546357)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/051816
【国際公開番号】WO2009/101210
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(510149758)
【Fターム(参考)】