説明

骨髄始原細胞および/またはリンパ系始原細胞について富化される細胞集団、ならびに製造方法および使用方法

【課題】骨髄および/またはリンパ系および樹状突起始原細胞が富化された造血細胞集団を富化する方法であって、骨髄、リンパ系および樹状突起細胞(DC)またはリンパ系およびDC分化能力を有する始原細胞が富化された細胞集団を提供すること。
【解決手段】骨髄始原細胞およびリンパ系始原細胞について富化される造血細胞を含有する組成物を得る方法であって、ヒト造血細胞の混合物を、リンパ系細胞、骨髄細胞、および樹状突起細胞に分化し得るが、実質的に赤芽球細胞には分化しない細胞を含有する富化画分に分離する工程を包含する、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞特異的マーカーに基づく、骨髄始原細胞および/またはリンパ系始原細胞について富化される造血細胞集団を富化する方法に関する。本方法はまた、リンパ系分化能力を有する始原細胞に富む細胞集団を提供する。細胞およびその細胞から得られる細胞集団に富化された組成物もまた、本発明によって提供される。細胞の使用方法もまた、包含される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
哺乳動物の造血(血液)細胞は、広範囲の生理的活性を提供する。造血細胞は、リンパ系統、骨髄系統、および赤芽球系統に分かれる。リンパ系統(B細胞、T細胞、およびナチュラルキラー(NK)細胞を含む)は、抗体の産生、細胞免疫系の調節、血液中の外来病原体の検出、宿主に対して外来性の細胞の検出などに供する。骨髄系統(単球、顆粒球、巨核球および他の細胞を含む)は、外来体の存在をモニターし、新生物性細胞に対する保護を提供し、外来物質を排除し、血小板を産生するなどを行う。赤芽球系統は、酸素キャリアーとして作用する赤芽球細胞を提供する。
【0003】
本明細書中に引用されるすべての刊行物は、その全体が参考として本明細書中に引用される。
【0004】
造血細胞の性質、形態、特徴、および機能の多様性にも関わらず、現在までこれらの細胞は、造血「幹細胞」と命名された単一の細胞集団に由来すると考えられている。より多くの「成熟」血液細胞とは異なり、幹細胞は自己再生し得るが、もはや多分化せず、そして制限された自己再生を有する始原細胞にも分裂し得る。これらの始原細胞は、繰り返し分裂し、より成熟した細胞を形成する。この成熟細胞は、最終的に末端分化し、種々の成熟造血細胞を形成する。従って、非常に多くの成熟造血細胞が、増殖プロセスおよび分化プロセスによって幹細胞の少ない保有体から誘導される。
【0005】
始原細胞は2分化能細胞に成熟し、次いで決定付けられた系統になる。すなわち2つ以上の系統に成熟し得ない。始原細胞という語の使用は、もはや幹細胞ではないが、まだ最終的に分化していない細胞集団を指す。始原細胞と関連した用語リンパ系、骨髄、または赤芽球の使用は、始原細胞が成熟し得る潜在的な細胞集団を指す。
【0006】
幹細胞の高度に精製された集団については、現在、完全な造血系の再増殖における使用が見いだされている。個々の系統の精製された始原細胞については、種々の系統を再増殖(repopulating)または増大させることにおける使用が見いだされた。始原細胞は大規模に自己再生をしないと考えられているので、再増殖または増大は制限されている。
【0007】
幹細胞および始原細胞は、造血細胞の総数の内のわずかの割合しか構成しない。造血細胞は、種々の細胞表面タンパク質「マーカー」の存在によって同定され得る。このようなマーカーは、特定の系統に特異的であるか、あるいは1より多い細胞型上に存在し得るかのいずれかである。このマーカーはまた、分化の段階とともに変化する。現在、どれくらい多くの分化細胞に関連するマーカーがまた、幹細胞および始原細胞上に存在するかは知られていない。1つのマーカー(CD34)は、幹細胞上および有意数の始原細胞上に見いだされている。米国特許第5,061,620号は、ヒト幹細胞を含有する組成物を記載している。
【0008】
表1は、胎児、成人、および動員末梢血液(mobilized peripheral blood)中の幹細胞の考えられる表現型を要約している。本明細書中の下記および上記、ならびに表1において用いられる、マイナス符号、または大文字のマイナス符号、( ̄ )は、特定のマーカーのレベルが、免疫フローサイトメトリー分析によりイソ型Igコントロールを越えて、検出不可能であることを意味し、そして技術の感受性閾値未満である特定のマーカーの非常に低い発現を有する細胞を包含し得る。
【0009】
【表1】

【0010】
幹細胞から決定付けられる系統および最終分化へと起こる分化の段階の正確な系列は知られていない;同様に、関連する様々な細胞の分集団も、特徴付けされていない。
【0011】
リンパ球は、高度に特異化された造血細胞である。Bリンパ系統およびTリンパ系統の発達の間、原始細胞の表現型および分子分化は、リンパ球抗原レセプター(すなわち、免疫グロブリン(Ig)、またはT細胞レセプター(TCR)鎖)の再構成が生じる成熟段階に導く。Van Noesel および Lier(1993)Blood 82:363-373;およびGodfrey および Zlotnik(1993)Immunol. Today 14:547-553。B細胞系列への決定付け、B細胞レセプター複合体の発現、およびIg遺伝子再構成は、骨髄または胎児の肝臓で生じる。Uckun(1990)Blood 76:1908-1923;およびLiら(1993) J. Exp. Med. 178:951-960。
【0012】
ヒトにおいては、白血病、胎児の肝臓、および骨髄の広範な分析は、B系統に決定付けられた細胞の最も初期の認識可能な集団が、マーカーCD34、HLA-DR、およびCD10を発現し、そして生殖系列配置においてIg遺伝子と核内末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ活性を有することを示している。Uckun(1990)。マーカーCD19は、その後に発現され、そしてB細胞分化のほとんどのより後の段階を通して発現され続け、これらの段階はさらに、表面Igを含有するマーカーの配列の発現により同定される。マーカーCD2は、CD19発現時に、初期のB細胞前駆体上に一時的に見いだされ、そのため最も初期のB細胞前駆体は、CD19およびCD2の非存在下でCD34およびCD10の発現により同定される。Uckun(1990)。CD10、またはCALLAは、いくつかの造血細胞および非造血細胞によって発現される中性エンドペプチターゼである。LeBienおよびMcCormack(1989)Blood73:625。
【0013】
B細胞分化とは異なり、T細胞の発達は、効果的なT細胞レセプター(TCR)再配列および主要な組織適合性複合体(MHC)限定を達成するために、胸腺を通るT始原細胞の通過を必要とする。胸腺段階においては、未成熟T細胞は胸腺細胞といわれる。T細胞の発達の胸腺内段階は、マウスにおいて広範に研究され、ヒトにおいてはより狭い範囲で研究されている。GodfreyおよびZlotnik(1993);Galyら(1993)J. Exp. Med. 178:391-401;Terstappenら、(1992)、Blood 79:666-677;およびSanchezら、(1993)J. Exp. Med. 178:1857-1866。T細胞分化アッセイおよびマルチパラメーターフローサイトメトリーの使用により、CD34は、CD1、CD4、CD8、およびCD3抗原の細胞表面発現を欠く最も未成熟な胸腺細胞上で発現されることが示された。Galyら、(1993);およびTerstappenら(1992)。CD34レベルは、骨髄系統、赤芽球系統、およびB細胞系統への成熟の場合のように、T細胞成熟過程で減少する。Terstappenら、(1991)Blood 77:1218-1227。マウスまたはウズラ/ニワトリキメラを用いる動物における研究、および代理(surrogate)重症複合型免疫不全(SCID)マウスに移植した胎児肝臓および胸腺の構築物を用いるヒトにおける研究は、造血細胞の連続的な投入が、サイモポイエシス(thymopoiesis)を持続するために必要であることを示している。LeDouarin および Jotereau(1973) Nature New Biol. 246:25-27;Scollayら、(1986) Immunol.Rev. 91:129-157;およびMcCuneら、(1988) Science 241:1632-1639。
【0014】
しかし、プロ胸腺細胞始原細胞の性質は、よく定義されていない。ヒトにおいて、T細胞分化能を有するプレ胸腺細胞は、種々の造血組織から回復されている。胸腺内T細胞再構成は、胎児肝臓(FL)から単離された血統特異的抗原(Lin-)を欠くCD34+細胞の注射後に達成される。Galyら(1993);およびPeaultら(1991)J.Exp.Med.174:1283-1286。CD34+Lin-FL細胞のさらなる分画は、Tリンパ球能力がCD7-およびCD7dullサブセットの両方に存在することを示した。Barcenaら(1993)Blood82:3401-3414。T細胞分化は、CD34+Lin-胎児骨髄(FBM)細胞で開始され得、そしてCD34+Thy-1+およびCD34+Thy-1-画分の両方で見出される。Baumら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:2802-2804。
【0015】
胸腺細胞への分化はまた、成体組織を用いて達成され得る。正常成体骨髄(ABM)または癌患者のアフェレーシスされたサイトカイン動員末梢血(MPB)から単離されたCD34+Lin-細胞は、新たな胸腺造血(thymopoiesis)を行い、そして続いてTCRαβ+およびTCRγδ+T細胞への完全成熟へと進行することが最近示された。Galyら(1994)Blood84:104-110。
【0016】
ヒツジ胎児への子宮内注射後、ヒトABMから単離されたCD34+HLA-DR-細胞が、成熟T細胞およびB細胞の産生を含む長期(7か月)の多系統造血を提供することが最近報告された。Srourら(1993)Blood82:3333-3342。これらの報告は、プレ胸腺T始原細胞活性の予備マッピングを提供するが、T始原細胞プールの表現型組成ならびにその成分の階層順列は主として未調査のままである。
【0017】
対照的に、ABMCD34+細胞の広範な表現型分画が骨髄造血および赤血球形成を研究するために行われている。Terstappenら(1991);Baumら(1992);LansdorpおよびDragowska(1992)J.Exp.Med.175:1501-1509;Srourら(1991)BloodCells 17:287-295;Craigら、(1993)J.Exp.Med.177:1331-1342;およびUdomsakdiら(1991)Exp.Hematol.19:338-342。特に、CD45イソ型は、原始骨髄細胞を決定付けられている骨髄細胞と区別するのに有用なマーカーである。Lansdorpら(1990)J.Exp.Med.172:363-366。CD45抗原は、オルタナティブスプライシングにより作製される種々のイソ型に存在するタンパク質チロシンホスファターゼである。Thomas(1989)Ann.Rev.Immunol.7:339-369。高分子イソ型(p205-p220)は、CD45RAと命名され、そして長期培養開始細胞(LTCIC)活性を有するABM原始始原細胞の細胞表面では発現されない。LansdorpおよびDragowska(1992)。対照的に、CD45RAは、より原始でない骨髄始原細胞ならびに特異的機能特性と相関すると考えられる成熟T細胞のサブセット(ナイーブT細胞)で見出される。Sandersら(1988)Immunol.Today9:195-199。
【0018】
CD45RAはまた、胸腺細胞の画分、特に胸腺内発生の非常に早い段階での細胞で発現される。Deansら(1991)J.Immunol.147:4060-4068。即時型(immediate)プレ胸腺骨髄由来始原細胞は、CD45RAを発現することが、マルチパラメーターフローサイトメトリーを用いて実際に推測されているが、機能的証拠は提供されていない。Terstappenら(1992)。
【0019】
明確なT細胞マーカーは、T細胞抗原レセプター(TCR)である。現在2つの定義されたタイプのTCRがある;TCR-2は、2つのジスルフィド結合貫膜ポリペプチド(αおよびβ)のヘテロダイマーであり、TCR-1は、構造的には類似するがγおよびδポリペプチドからなる。αおよびβまたはγおよびδポリペプチドは、抗原認識部位を含むヘテロダイマーを形成する。これらのヘテロダイマーは、抗原提示細胞の表面のMHC分子と会合している抗原を認識する。これらのタンパク質は全て、抗原認識部位に寄与する可変領域および分子の塊(bulk)を形成し、そして貫膜領域および細胞質性尾部を含む定常領域を含有する。両方のレセプターとも、CD3複合体を編成するポリペプチドの複合体と会合する。CD3複合体は、γ、ζおよびε貫膜ポリペプチドを含有する。CD3複合体は、T細胞がTCRへの抗原結合により活性化される場合に、シグナル伝達を仲介する。
【0020】
血液T細胞の約95%がTCR-2を発現し、そして血液T細胞の5%までがTCR-1を有する。TCR-2を有する細胞は、2つの別の重複しない集団にさらに細分され得る。MHCクラスII分子と会合している抗原を一般に認識するCD4+T細胞、およびMHCクラスI分子と会合している抗原を認識するCD8+T細胞。
【0021】
多数のマーカーが、静止(resting)T細胞によってではなくB細胞によって保有される。大多数のB細胞は、T細胞との協同に重要なMHCクラスII抗原を保有する。IgGに対するFcレセプター(FcRII、CDw32)もまた存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0022】
(項目1) 骨髄始原細胞およびリンパ系始原細胞について富化される造血細胞を含有する組成物を得る方法であって:
ヒト造血細胞の混合物を、リンパ系細胞、骨髄細胞、および樹状突起細胞に分化し得るが、実質的に赤芽球細胞には分化しない細胞を含有する富化画分に分離する工程を包含する、方法。
(項目2) リンパ系始原細胞について富化される造血細胞を含有する組成物を得る方法であって:
ヒト造血細胞の混合物を、リンパ系細胞に分化し得るが、実質的に骨髄細胞および赤芽球細胞には分化しない細胞を含有する富化画分に分離する工程を包含する、方法。
(項目3) 樹状突起細胞について富化される造血細胞を含有する組成物を得る方法であって:
ヒト造血細胞の混合物を、樹状突起細胞に分化し得るが、実質的に骨髄細胞および赤芽球細胞には分化しない細胞を含有する富化画分に分離する工程を包含する、方法。
(項目4) 骨髄始原細胞およびリンパ系始原細胞について富化される造血細胞を含有する組成物を得る方法であって:
ヒト造血細胞の混合物を、細胞表面マーカーCD34およびCD45RAを発現するが、CD19を発現しない細胞を含有する富化画分に分離し、CD34+CD45RA+細胞を得る工程を包含する、方法。
(項目5) 項目4に記載の方法であって、
前記細胞を、細胞表面マーカーCD10を発現しない富化画分に分離し、CD34+CD45RA+CD10-細胞を得る工程をさらに包含する、方法。
(項目6) 樹状突起細胞前駆体について富化される造血細胞を含有する組成物を得る方法であって:
ヒト造血細胞の混合物を、細胞表面マーカーCD34、CD45RA、およびCD10を発現する細胞を含有する富化画分に分離し、CD34+CD45RA+CD10+細胞を得る工程を包含する、方法。
(項目7) 前記富化細胞が、細胞表面マーカーCD19を発現しない、項目6に記載の方法。
(項目8) ヒト造血骨髄始原細胞およびヒト造血リンパ系始原細胞について富化される造血細胞を含有する組成物であって、該細胞が、リンパ系細胞および骨髄細胞に分化し得るが、実質的に赤芽球細胞には分化しない、組成物。
(項目9) ヒト造血リンパ系始原細胞およびヒト造血樹状突起始原細胞について富化される造血細胞を含有する組成物であって、該細胞が、リンパ系細胞および樹状突起細胞に分化し得るが、実質的に赤芽球細胞および骨髄細胞には分化しない、組成物。
(項目10) ヒト造血樹状突起始原細胞について富化される造血細胞を含有する組成物であって、該細胞が、樹状突起細胞に分化し得るが、実質的に赤芽球細胞および骨髄細胞には分化しない、組成物。
(項目11) 細胞表面マーカーCD34およびCD45RAを発現するが、CD19を発現しないヒト造血細胞について富化されるヒト造血細胞の組成物。
(項目12) 項目11に記載の組成物であって、前記富化細胞が細胞表面マーカーCD10を発現しない、組成物。
(項目13) 細胞表面マーカーCD34、CD45RA、およびCD10を発現するヒト造血細胞について富化されるヒト造血細胞の組成物。
(項目14) 項目13に記載の組成物であって、前記富化細胞が、細胞表面マーカーCD19を発現しない、組成物。
(項目15) 骨髄始原細胞および/またはリンパ系始原細胞の増殖および/または分化に関与する生物学的反応修飾物質を得る方法であって、
細胞表面マーカーCD34およびCD45RAを発現するヒト造血細胞の増殖および/または分化に対する効果についてサンプルを試験する工程を包含する、方法。
(項目16) 樹状突起始原細胞の増殖および/または分化に関与する生物学的反応修飾物質を得る方法であって、
細胞表面マーカーCD34、CD45RAおよびCD10を発現するヒト造血細胞の増殖および/または分化に対する効果についてサンプルを試験する工程を包含する、方法。
(項目17) リンパ系始原細胞の増殖および/または分化に関与する生物学的反応修飾物質を得る方法であって、
細胞表面マーカーCD34、CD45RA、およびCD10を発現するヒト造血細胞の増殖および/または分化に対する効果についてサンプルを試験する工程を包含する、方法。
(項目
18) 項目17に記載の方法であって、前記富化細胞が細胞表面マーカーCD19を発現しない、方法。
(項目19) 被験体のリンパ系細胞および骨髄細胞を一時的に再定住させる方法であって、ヒト造血骨髄始原細胞およびヒト造血リンパ系始原細胞について富化される造血細胞を含有する治療有効量の組成物を被験体に投与する工程を包含し、該始原細胞が、リンパ系細胞および骨髄細胞に分化し得るが、実質的に赤芽球細胞には分化しない、方法。
(項目20) 項目19に記載の方法であって、前記富化細胞が、細胞表面マーカーCD34およびCD45RAを発現するが、CD19を発現しない、方法。
(項目21) 被験体のリンパ系細胞を一時的に再定住させる方法であって、ヒト造血リンパ系始原細胞について富化される造血細胞を含有する治療有効量の組成物を被験体に投与する工程を包含し、該始原細胞が、リンパ系細胞に分化し得るが、実質的に赤芽球細胞および骨髄細胞には分化しない、方法。
(項目22) 項目21に記載の方法であって、前記富化細胞が、細胞表面マーカーCD34、CD45RAおよびCD10を発現する、方法。
(項目23) 項目22に記載の方法であって、前記富化細胞が、細胞表面マーカーCD19を発現しない、方法。
(項目24) 被験体の樹状突起細胞を一時的に再定住させる方法であって、ヒト造血樹状突起始原細胞について富化される造血細胞を含有する治療有効量の組成物を被験体に投与する工程を包含し、該始原細胞が、樹状突起細胞に分化し得るが、実質的に赤芽球細胞および骨髄細胞には分化しない、方法。
(項目25) 項目24に記載の方法であって、前記富化細胞が、細胞表面マーカーCD34、CD45RAおよびCD10を発現する、方法。
(項目26) 項目25に記載の組成物であって、前記富化細胞が、細胞表面マーカーCD19を発現しない、方法。
(項目27) 項目9または10に記載のヒト造血始原細胞集団を含有する組成物であって、組換えDNA分子を含有する、組成物。
(項目28) 組換えDNA分子を含有する項目9または10に記載のヒト造血始原細胞集団を含有する組成物であって、該組換えDNA分子が抗原特異的領域からなるポリペプチドをコードし、そして成熟細胞で発現される場合、シグナルを伝達し得る、組成物。
(項目29) 項目28に記載の組成物であって、前記組換えDNA分子がT細胞レセプターをコードする、組成物。
(項目30) 項目29に記載の組成物であって、前記T細胞レセプターがαおよびβ鎖を含む、組成物。
(項目31) 項目28に記載の組成物であって、前記組換えDNA分子が、機能的なシグナル伝達領域および抗体に由来する抗原結合部位を含有するキメラタンパク質をコードする、組成物。
発明の要旨
本発明は、骨髄および/またはリンパ系および樹状突起始原細胞が富化された造血細胞集団を富化する方法に関する。この方法はまた、骨髄、リンパ系および樹状突起細胞(DC)またはリンパ系およびDC分化能力を有する始原細胞が富化された細胞集団を提供する。この細胞が富化された組成物およびそれから得られた細胞の集団もまた、本発明により提供される。遺伝学的に改変された細胞のための方法および組成物もまた提供される。遺伝学的に改変された細胞の組成物もまた提供される。この細胞の使用方法もまた包含される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
発明の詳細な説明
リンパ球の系統の発生経路を研究するためのシステムを有することは、有用である。B、TおよびNK細胞を生じさせ得るリンパ系拘束始原細胞の同定が必要である。最も実用的な応用の一つは、AIDSのような免疫抑制疾患、あるいは白血病またはリンパ腫のようなリンパ系の他の疾患の理解および治療における。また、リンパ系始原細胞の発生、分化および増殖に関わる既知の成長因子または転写因子が存在しないので、このようなシステムは、このような因子の単離および特徴づけを可能にする。さらに、(特に転写レベルでの)リンパ系遺伝子調節の限られた理解しか存在しないので、限界があるので、このようなシステムは、このような遺伝子調節の分析および特徴づけを可能にする。これらの初期の始原細胞集団ならびにそれらの全体の骨髄能力およびリンパ系能力は、新たなサイトカイン、新たなサイトカインレセプターまたは新たな転写因子を調べるために非常に重要である。本発明は本明細書において、これらの問題に取り組むためのメカニズムを提供する。
【0024】
多能性の幹細胞からリンパ系決定づけ(commitment)への段階を描写するために、胸腺再構成能は、骨髄、赤芽球系およびB-リンパ系およびNK始原細胞の活性と相関させた。CD45RAを、CD34+Lin-成人骨髄(ABM)細胞を分画するために、最初に用い、そしてリンパ系決定づけの分析を、同定し得る最も初期のB-細胞前駆体集団のT-始原細胞活性を検討することにより改良した。次いでCD10を用いてCD45RA+集団をさらに精製し、そして得られた細胞集団を、それらのリンパ系始原細胞およびDC活性について評価した。
【0025】
得られた結果は、原始のおよび決定づけされた骨髄サブセットにおいて、リンパ系、骨髄、ナチュラルキラー、およびDC始原細胞活性が存在することを示し、そしてリンパ系の発生に強く拘束される小さなサブセットが存在することを示す。従って、リンパ系統および、重要なことに、DC系統は、より原始の多能性の幹細胞から、ならびに赤芽球系および骨髄の始原細胞から、分離され得る。
【0026】
ヒトCD34+細胞のDCへの分化を誘導する条件が、同定されている(Cauxら(1994)J.Exp.Med.180:1263)が、DCの発生経路および系列加入(affiliation)は、今なお明確ではない。実際に、DCは、単球/マクロファージとは機能的に異なる細胞タイプとして、長く認識されてきた。この結論は、DCおよび単球/マクロファージの形態、表現型、食細胞活性、抗原提示能、サイトカイン産生、および細胞代謝置換(turnover)速度に基づいた。Steinman(1991)Ann.Rev.Immunol.9:271;Macatoniaら(1993)Int.Immunol.5:1119;およびKampinga(1990)J.Immunol.145:1659。共通の胸腺内始原細胞プールのマウスにおける分離に基づく、およびDCとT細胞との間に共有されるいくつかの細胞表面抗原の発現により、DCとリンパ系細胞とを結ぶ間接的な証拠が存在する。Ardavinら(1993)Nature362:761;およびWinkelら(1994)Immunol.Lett.40:93。本明細書中で提供されるデータは、DC系統が赤芽球、単球および顆粒球を生じさせる造血始原細胞とは異なる始原細胞に由来することの、最初の直接的な証拠である。これらの結果は、DCが発生上、骨髄細胞よりもリンパ系細胞により近縁であり得ることを示唆する。
【0027】
本発明は、骨髄細胞、DCおよび全てのクラスのリンパ系細胞へ分化し得る始原細胞、およびDCおよび全てのクラスのリンパ系細胞へ分化し得る始原細胞について富化された組成物を包含する。これらの始原細胞集団は以下の表現型により特徴づけされる:それぞれCD45RA+CD34+Lin-(以下RA+とする)およびCD45RA+CD10+Lin-CD34+(以下「10+」とする)。10+細胞は、「中央リンパ系始原細胞」とも呼ばれる。本明細書中で略記される他の細胞集団は、CD45RA-CD10-Lin-CD34+(以下「RA-10-」とする);CD45RA+CD10-Lin-CD34+(以下「RA+10-」とする);およびCD45RA-CD34+Lin-(以下「RA-」とする)である。RA+細胞は、骨髄、DCおよびリンパ系活性を有し、そしてCD10によりRA+10+およびRA+10-へ細分化され得る。RA+10+集団は、全てのクラスのリンパ系細胞およびDCに拘束される分化能力を有する小サブセットである。
【0028】
従って、本発明は、種々の始原細胞について、実質上富化された組成物を包含する。一つの実施態様において、富化された細胞は、RA+、骨髄、DCおよびリンパ系始原細胞である。別の実施態様においては、富化された細胞は、10+、リンパ系およびDC始原細胞である。別の実施態様においては、富化された細胞は、RA+10-、骨髄、およびリンパ系始原細胞である。RA+10-細胞は、例えば、10+白血病細胞が存在し、そして別にRA+集団が混入するような状況で有用であり得る。80%を超える、通常約95%を超えるRA+または10+細胞を有する組成物が、本明細書中で記載されている。従って、実質的に富化された細胞は、特定の(単数または複数の)マーカーを発現する細胞について、約80%富化される。好ましくは、細胞は、特定の(単数または複数の)マーカーを発現する細胞に対して、約80%富化される。さらに好ましくは、細胞は、特定のマーカーを発現する細胞について、約80〜90%富化される。最も好ましくは、細胞は、特定の(単数または複数の)マーカーについて、90%富化される。
【0029】
本明細書で記述される始原細胞は、リンパ系/骨髄/DC系統とリンパ系/DC系統とに分化可能である。いずれの集団も赤芽球系統には分化し得ない。図1は、細胞のタイプとそれらの系統能力を模式的に示す。Lin-細胞は一般に、T細胞(CD2、CD3、CD4およびCD8など)、B細胞(CD19および20など)、骨髄細胞(CD14、15および16など)、NK細胞(CD56およびCD16など)、ならびに赤芽球(グリコホリンAなど)に関連するマーカーを欠く細胞をいう。好ましくは、系統パネルは少なくともCD19を含む。CD19に加えて使用する便利な系統マーカーは、CD2、CD4およびCD15を含む。より分化した細胞の除去を確実にするために、他の系統マーカーが用いられ得るが、その使用は、得られた始原細胞集団を実質的にさらに富化しない。
【0030】
従って、本発明の実施態様は、これらの始原細胞およびそれによって得られる組成物を精製または富化する方法に関する。細胞の供給源は、骨髄、胎児、新生児、または成人、あるいは他の造血細胞供給源など(例えば、胎児の肝臓、末梢血、または臍帯血液など)の、当該分野で公知の任意であり得る。
【0031】
これらの始原細胞の選択は、細胞特異的マーカーを用いて達成する必要はない。ネガティブ選択(他の決定付けられている細胞の除去)とポジティブ選択(細胞の単離)との組み合わせを用いることにより、富化された細胞集団が達成され得る。
【0032】
専門化された(dedicated)系統の細胞を最初に除去することにより細胞を分離するために、様々な技術が用いられ得る。特定の細胞系統および/または分化の段階と関連するマーカーを同定するためには、モノクローナル抗体が特に有用である。
【0033】
所望であれば、末端まで分化した細胞の大部分が、まず「比較的粗い」分離を用いることにより除去され得る。例えば、多数の系統が決定付けられている細胞を除去するために、まず磁気ビーズ分離が用いられ得る。望ましくは、全造血細胞の少なくとも約80%、通常少なくとも70%が除去される。
【0034】
分離の手順は、抗体がコートされた磁気ビーズ、アフィニティークロマトグラフィー、モノクローナル抗体に連結されるかまたはモノクローナル抗体と共に用いられる細胞毒性剤(補体および細胞毒を包含するがこれらには限定されない)を用いる磁気分離、および固体マトリックス(例えば、プレート)に結合された抗体を用いる「パンニング」、洗浄、または他のいずれかの便利な技術を包含し得るが、これらには限定されない。
【0035】
正確な分離を提供する技術は、フローサイトメトリーを包含するが、これには限定されない。フローサイトメトリーは、洗練の様々な度合い(例えば、複数のカラーチャネル、低角度且つ鈍角の(obtuse)光散乱検出チャネル、およびインピーダンスチャネルなど)を有し得る。
【0036】
代表的には約1×108-9、好ましくは約5×108-9細胞で開始する分離において、CD34に対する抗体は、1つの螢光色素に結合され得、他方様々な専門化された系統に対する抗体は、異なる螢光色素により発色され得る。マルチカラー分析において用いられ得る螢光色素は、フィコビリタンパク質(例えば、フィコエリトリンおよびアロフィコシアニン);フルオレセインならびにテキサスレッドを含む。
【0037】
系統の各々は別の工程で分離され得るが、系統は望ましくは、CD34ならびにCD45RAおよび/またはCD10がポジティブに選択されている時に同時に分離される。一般に、最初のバルク精製工程は、約1×108細胞を生じる。この集団からの系統特異的細胞の涸渇により、約10〜20,000の10+細胞および1.5×105の10-細胞を含む約1〜3×107細胞を生じる。10-細胞において、約50,000〜1×105がRA+10-であり、1×105がRA-10-である。
【0038】
細胞は、死滅した細胞に関連する色素(例えば、ヨウ化プロピジウム)を用いることにより、死滅した細胞に対して選択され得る。好ましくは、細胞は2%ウシ胎児血清(FCS)または0.2%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む培地において収集される。
【0039】
アフィニティーカラムなどの、正確な分離を可能にする、ポジティブ選択のための他の技術が用いられ得る。この方法は、残量が非始原細胞集団の約20%未満、好ましくは約5%未満になるまで除去することを可能にすべきである。
【0040】
分離の特定の順序は本発明には重要でないと考えられるが、示される順序が好ましい。好ましくは、まず細胞を粗分離で分離し、次いで標的細胞に関連するマーカーのポジティブ選択および標的細胞に関連しないマーカーのネガティブ選択により精密に分離する。細胞は、光散乱特性および様々な細胞表面抗原の発現に基づいて選択され得る。
【0041】
RA+および/または10+細胞が一旦単離されると、骨髄、胎児胸腺、または胎児肝臓から得られ得、そして始原細胞維持に関連する成長因子の分泌を供給することが示されるストロマ細胞由来の馴化培地中で増殖させることにより、これらの細胞を増殖させ得る。これらの細胞はまた、このようなストロマ細胞と共存培養されることによっても増殖され得る。この場合、ストロマ細胞は、自己、同種異系または異種であり得る。混合ストロマ細胞調製物は、共存培養において用いられる前に、照射、細胞毒性薬物または望ましくない細胞を除去するのに適したモノクローナル抗体(例えば、抗体−毒素結合体、抗体および補体など)を用いて造血細胞を除去され得る。あるいは、ストロマ株が同種異系または異種であり得る場合には、クローンされたストロマ細胞株が用いられ得る。
【0042】
細胞の培養に用いられる培地は、好ましくは定義された富化培地であり、通常、塩、アミノ酸、ビタミン、5×10-5M β−メルカプトエタノール(β-ME)、ストレプトマイシン/ペニシリン、および10%FCSを含むIMDM(Iscove改変ダルベッコ培地)、IMDMとRPMIとの50:50の混合物を含むが、これらに限られない。この培地は時々、通常少なくとも1週間に約1〜2回変更され得る。
【0043】
RA+および10+細胞から生成された細胞は、以下に述べるインビボアッセイにおいてT細胞を生じる。骨髄およびB細胞産生が、RA-細胞からのみインビボにおいて見られる。骨髄産生は、RA-およびRA+全体からインビトロにおいて見られる。10+はほとんどインビトロ骨髄活性を有さない。短期間インビトロアッセイにおけるB細胞産生が、RAと10+との両方で見られる。RAおよび10+細胞はインビトロでNKおよびDC細胞を生じる。さらに、 RA10-培養物はCD34+10+の少量のサブセットを生じた。
【0044】
T細胞への分化を示すために、胎児胸腺を単離し、約25℃で4〜7日間培養して、リンパ系集団を実質的に涸渇させる。次いで、T細胞活性に関してテストすべき始原細胞を胸腺組織にマイクロインジェクションする。ここで、注入された集団のHLAは胸腺細胞のHLAとミスマッチしている。次いで、米国特許第5,147,784号に記載されるように、胸腺組織をscid/scidマウスに、(特に腎臓被膜下に)移植し得る。
【0045】
特に、ソートされた集団を、HLAがミスマッチしている胸腺断片にマイクロインジェクションし得る。6〜10週後、胸腺断片のアッセイを行い、ドナー由来T細胞を評価し得る。T−リンパ系能を有する細胞で注入された胸腺断片は、始原細胞とともにCD3+、CD4+およびCD8+T細胞を生成および維持する。
【0046】
様々な細胞集団の分化能力をさらに示すことは、以下の実施例に記載されるストロマ細胞アッセイにおける骨髄およびNK細胞の産生の検出により達成され得る。
【0047】
本発明はまた、RA+および/または10+細胞集団を用いる方法も包含する。このような方法は、リンパ系および骨髄またはリンパ系細胞集団を各々再構成または増加すること;リンパ系および骨髄始原細胞の成熟を担う成長因子をスクリーニングすること、始原細胞特異的抗体(ポリクローナルとモノクローナルとの両方)についてのマーカーを同定すること、リンパ系または骨髄特異的遺伝子を同定すること、リンパ系統特異的遺伝的調節配列を同定すること、および遺伝子治療における使用を含むが、これらに限定されない。
【0048】
リンパ系および/または骨髄細胞集団の再構成および増加は、様々な医療環境において有用である。治療すべき適用は、例えば、免疫不全および幹細胞移植を含む。始原細胞は、造血細胞の移植と再集団(repopulation)との間の遅滞期を減少させるために、幹細胞移植中に特に有用である。始原細胞を得る方法は、本明細書に記載されており、造血細胞を患者に投与する方法は当業者の技術の範囲内である。
【0049】
10+リンパ系拘束始原細胞集団の同定は、この集団を病因(例えば、白血病)として評価することを可能にし、従って自己移植片からこのような細胞を浄化する(purge)ことにおいて有用である。本発明はまた、様々な目的のためのDC始原細胞としてRA+または10+細胞を用いることを包含する。DCは体内の最も強力な抗原提示細胞の1つであり、1次免疫応答を誘導し得る。従って、DCは、免疫応答を開始する能力を高めるための細胞移植片として有用であり得る。DCまたはDC前駆体は、ワクチンストラテジーにおいて用いられ得、それにより細胞に抗原がロードされ、そして細胞が特定の免疫応答を誘導するために注入される。あるいは、注入された細胞は、特異的抗原に対する寛容を誘導するために用いられ得る。
【0050】
RA+および10+細胞は、様々な遺伝子治療アプローチのために用いられ得、この遺伝子治療においては外因性遺伝能力の発現がリンパ系および/または骨髄系統において所望される。本明細書に記載される始原細胞の使用は、幹細胞に基づく遺伝子治療に対する別の方法を提供する。始原細胞は、外因性遺伝能力の発現が永久的ではなく一時的であることが所望される場合に好ましい。さらに、10+細胞の使用は、発現がリンパ系細胞に制限されることを可能にする。また、遺伝子移入は、幹細胞におけるよりも始原細胞における方がより効率的であるようである。なぜなら、始原細胞は幹細胞より活発にサイクルし、そしてレトロウイルスベクターは、組換えDNAの効率的な組み込みのために活発にサイクルする細胞を必要とすることが知られているからである。
【0051】
さらに、遺伝子治療には、成熟したリンパ系細胞を用いることに比較して、リンパ系始原細胞を用いることが好都合である。現在、T細胞遺伝子治療は、サイトカインを用いるT細胞のエクスビボ拡大を必要とする。修飾されたT細胞は、再注入するとしばしば標的器官には適切に帰還(home)せず、肺、肝臓、または脾臓においてトラップ(およびクリアー)され得る。この不適切な帰還は、エクスビボ処理中の膜の変化、または帰還レセプターのダウンレギュレーションなどにより得る。T細胞のエクスビボ拡大は費用がかかり、面倒で、且つ時間がかかり、従って治療としては理想的ではない。修飾された始原細胞の使用は、エフェクターT細胞のエクスビボ拡大を不要にし、従ってインビボにおける変化したトラフィキング(trafficking)および永続に関する。さらに、修飾された始原細胞の使用は、始原細胞数の増幅を可能にし、それによりエクスビボ拡大の必要性を減少させそして投与の頻度を減少させる。
【0052】
造血細胞に関連する遺伝性疾病は、自己または同種異系始原細胞を遺伝的に修飾して遺伝的欠陥を訂正することにより治療され得る。例えば、アデノシンジアミナーゼ欠損症、リコンビナーゼ欠損症、リコンビナーゼ調節遺伝子欠損症を含むがこれらに限定されない疾病は、野生型遺伝子を、相同的組換えまたはランダムな組換えにより細胞に導入することにより訂正され得る。遺伝子治療の他の適用は、正常始原細胞が選択圧に利点を有しそれに供されることを可能にする薬剤耐性遺伝子(例えば多剤耐性(MDR)遺伝子)を導入することである。
【0053】
造血細胞に関連する疾病以外の疾病もまた治療され得る。その場合、疾病は、ホルモン、酵素、インターフェロン、因子などを含むがこれらに限定されない、特定の分泌産物の欠失に関する。適切な調節開始領域を用いることにより、欠損タンパク質の誘導性産生が達成され得、それにより、タンパク質の産生は、通常このようなタンパク質を産生する細胞タイプとは異なる細胞タイプにおいて行われても天然産生と相似する。また、特定の遺伝子産物または疾病(特に、血液リンパ性疾病(hematolymphotropic disease)(例えば、HIV)に対する感受性を阻止するために、リボザイム、アンチセンスまたは他のメッセージを挿入することも可能である。
【0054】
細胞の遺伝的改変は、組換えDNA構築物で実質的に均質な細胞組成物を形質導入することにより、それらの維持の間のいずれの時点においても達成され得る。好ましくは、DNA構築物を細胞に導入するためにレトロウイルスベクターが用いられる。次いで、得られた細胞は、改変されていない細胞についての条件に類似の条件下で増殖し得、それにより改変された細胞は拡大され得、様々な目的に使用され得る。
【0055】
細胞の遺伝的改変のためには、通常レトロウイルスベクターが用いられるが、他のいずれの適切なベクターまたは送達システムも用いられ得る。これらは、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、および酵母由来の人工染色体を含む。レトロウイルスと適切なパッケージング株との組み合わせもまた適しており、その場合、キャプシドタンパク質はヒト細胞を感染させる機能を有する。様々な両種性ウイルス産生細胞株が知られており、これらは、PA12(Millerら、(1985) Mol. Cell. Biol. 5:431-437)、PA317 (Millerら、(1986)Mol. Cell. Biol. 6:2895-2902)、およびCRIP (Danosら、(1988) Proc. Natl. Acad. Sci USA85:6460-6464)を含むが、これらには限られない。
【0056】
形質導入に用いられ得る方法は、産生細胞(producer cell)との細胞の直接共存培養(例えば、Bregniら、(1992) Blood 80:1418-1422 の方法)、または適切な成長因子およびポリカチオンの存在下または非存在下でのウイルス上清のみとの培養(例えば、Xuら、(1994)Exp. Hemat. 22:223-230 およびHughesら、(1992) J. Clin. Invest. 89:1817 の方法)を含む。
【0057】
また本明細書には、細胞の形質導入における使用に適切な組換えT細胞レセプター(TCR)構築物が記載および提供されている。適切な構築物およびその使用は、参考のため本明細書中に援用する国際特許出願第US94/10033号に記載されている。組換えTCRは、T細胞内でのみ発現するように、T細胞特異的プロモーターの制御下におかれ得る。例えば、プロモーターはグランザイムAまたはグランザイムBであり得、これらは組換えTCRを、主にNK細胞および細胞傷害Tリンパ球(CTL)において発現させる。細胞傷害リンパ球は、同種異系の標的細胞におけるDNAフラグメント化およびアポトーシスの急速誘導のために、グランザイムBを必要とする。Heuselら、(1994)Cell 76:977-987。形質導入された細胞由来のT細胞は、帰還して正常に循環するはずである。なぜなら、これらの細胞はインビボで成熟しており、それに続いてエクスビボで直接操作されていないからである。次いで、これらの細胞の数は、インビボにおいてサイトカインを投与することにより増加され得る。1次的に抗原活性化された細胞はサイトカインに応答して増殖するため、標的抗原を認識する改変されたT細胞は比較的増幅されるはずである。また、形質導入された細胞由来のT細胞からより強い応答を得ることが可能であり得る。より多くの成熟T細胞が組換えTCRで形質導入される場合、これらのT細胞が「メモリー」細胞(すなわち、以前に抗原に曝露されている)であれば、弱まった応答を有し得、そのため、「バイアスがかかっている(biased)」。
【0058】
遺伝的に改変された始原細胞が成熟T細胞に対して有する別の利点は、1より多い造血系統において組換えTCRを発現させる能力である。例えば、マクロファージは腫瘍細胞を飲み込む能力を有することが知られているため、マクロファージ内で組換えTCRを発現させることは有用であり得る。
【0059】
構築物は、様々な従来の方法で調製され得る。現在、長末端反複、マーカー遺伝子、および制限部位などの所望の特徴を提供し、当該分野で公知の技術によりさらに改変され得る多くのベクターが入手可能である。構築物は、組換えTCRが翻訳後適切にプロセシングされて細胞表面に発現することを確実にするために、抗原性特異性領域および細胞質シグナリング配列に加えてシグナルペプチド配列をコードする。好ましくは、構築物はT細胞特異的プロモーターの制御下にある。適切なT細胞特異的プロモーターは、グランザイムA、グランザイムB、およびCD8を含むが、これらに限定されない。
【0060】
1つの実施形態において、シグナル伝達領域および抗原性特異的領域は両方とも、TCR(「クラシック(classic)TCR」)より得られる。別の実施形態においては、構築物は、T細胞特異的レセプターまたはFcγレセプター、および免疫グロブリンまたはNKレセプターの抗原結合部分から得られるシグナル伝達領域を含むキメラポリペプチド(「キメラTCR」)をコードする。
【0061】
組換えクラシックTCRは、既知の抗原性特異性を有するT細胞由来の、機能的な、好ましくは全長のTCRαおよびβまたはγおよびδポリペプチドである。抗原特異的レセプターの適切な供給源は、細胞傷害性Tリンパ球、Tヘルパー細胞、およびNK細胞を含むが、これらに限定されない。別の実施形態においては、ポリペプチドは、抗原結合部位を形成するVαおよびVβ領域を有する単一の機能的なポリペプチドを形成するように、組み換えられ得る。別の実施形態においては、TCRに異なる特異性を与えるために、異なるTCR由来のVαおよびVβ領域が組み換えられ得る。
【0062】
組換えクラシックTCRポリペプチドを含む細胞のT細胞子孫(progeny)は、「MHC拘束」されている。すなわち、上記子孫は、MHCの存在下においてのみ抗原を認識する。従って、患者を治療するためにこれらの細胞を用いる場合、TCRは宿主と同一のハプロタイプを認識できなければならない。宿主のハプロタイプが特定のTCRと適合可能であるか否かを決定することは十分に当業者の技術の範囲内である。クラシックTCRを用いるアプローチは、抗原が内部的にプロセシングされることにより細胞表面上の短いペプチドとして発現され、そしてMHC分子の溝内に提示される場合に有利である。
【0063】
キメラTCRの場合、キメラ分子は、抗体または別のレセプター由来の抗原結合配列、貫膜配列、およびシグナルを伝達し得且つ機能を誘起し得る配列を含む。様々なこれらおよび関連分子がクローン化され、様々なT細胞株中で発現されてきた。Kuwanaら、(1987)Biochem. Biophys. Res. Comm. 149:960-968、Grossら、 (1989) Trans. Proc. 21:127-130、Beckerら、(1989)Cell 58: 911-921、Grossら、(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:10024-10028、およびGovermanら、(1990)Cell 60:929-939。いくつかのキメラTCRが作製され、T細胞を抗体結合部位によって認識される抗原に対して標的化することにおいて活性であることが判明している。Eshhar、(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:720-724およびHwuら、(1993) J. Exp. Med. 178:361-366。
【0064】
適切なシグナル伝達領域は、FCレセプターのγ鎖、CD3ζ鎖、IL-2レセプターγ鎖、CD8またはCD28を含むがこれらに限定されない特異的鎖を介する活性化能力を有するレセプターから得られ得る。あるいは、抗原結合ドメインはTCRαまたはβ鎖定常部に会合し得、上記定常部は、内因性CD3ζ鎖との会合を介してシグナルを伝達する。好ましくは、キメラ分子の機能性部分は、Fcγまたはζポリペプチドのシグナリング領域であり、抗原結合領域は、抗体の可変領域である。可変領域は、VHまたはVL領域のいずれかであり得、あるいは好ましくはそれらの単鎖組換え体であり得る。
【0065】
哺乳動物の細胞における組換えの方法は、Molecular Cloning, A Laboratory Manual、Sambrook、FritschおよびManiatis、Cold Spring Harbor, NY (1989)に見られ得る。
【0066】
キメラTCR分子を含む細胞のT細胞子孫は、抗原結合部位が抗体由来であり従ってMHC拘束され得ない場合、MHCの不在下で抗原を認識し得る。これらの分子は、ハプロタイプにかかわらず、全ての宿主における使用に適している。
【0067】
遺伝的に修飾された細胞が宿主に再導入され次いで分化すると、特異的抗原に特異的に対するT細胞が生成される。一般に、適切な抗原は、ウイルス感染した細胞および特異的癌細胞上に見られる抗原を含む。より特定すると、適切な抗原は、ウイルスコートタンパク質および癌細胞の特異的表面タンパク質を含むが、これらに限定されない。
【0068】
多くの場合において、細胞免疫療法は、骨髄または他の造血細胞の供給源をヒト宿主から取り出すこと、始原細胞を供給源から単離すること、および単離された細胞を必要に応じて拡大することを含む。他方、宿主は、天然造血能力を、部分的、実質的、または完全に除去するように治療され得る。単離された細胞は、この期間に、所望の遺伝的修飾を有する細胞を供給するように改変され得る。造血細胞完全除去の場合、幹細胞の増加もまた必要とされる。宿主の治療が終了した後、改変された細胞は、宿主に回復されて新しい能力を供給し得る。造血細胞除去、宿主除去、および幹/始原細胞再集団の方法は、当該分野において公知である。必要であれば、改変された細胞の実質的な再集団を確実にするために、プロセスが反復され得る。
【0069】
修飾された細胞は、任意の生理学的に受容可能なビヒクルにおいて、通常血管注射により投与され得るが、骨、または細胞が再生および分化のための適切な部位を発見し得る他の便利な部位(例えば、胸腺)にも導入され得る。通常、少なくとも1×105、好ましくは1×106以上の細胞が投与される。細胞は、注入、またはカテーテルなどにより導入され得る。所望であれば、インターロイキン(例えばIL-2、IL-3、IL-6およびIL-11および他のインターロイキン)、G-、M-およびGM-CSFのようなコロニー刺激因子、インターフェロン(例えば、γ−インターフェロン)、エリトロポエチンを含むがこれらには限定されない因子もまた含まれ得る。
【0070】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。以下の実施例において、以下の主要な結果が得られた。まず、原始造血幹細胞活性について富化された集団は、胸腺部位に導入されればT細胞を生成し得る。第2に、T細胞再構成能力は、CD34+ ABM細胞の様々なサブセットにおいて遍在的に存在していると考えられるが、例えば、CD45RAコンパートメント中に存在するリンパ系能力により説明され得る。第3に、造血多能性幹細胞または胸腺内プレT細胞以外の他の細胞は、T細胞に分化し得る。これは、以前には完全には関連づけられていなかった発見である。第4に、限られた骨髄能力を有するが強いTおよびBリンパ系始原細胞活性(10+)を有する細胞の小さなサブセット(CD34+Lin-細胞の約5.9±3.7%)が発見された。第5に、RA+10-および10+細胞がNK細胞に分化し得る。第6に、RA+10-および10+細胞がDC細胞に分化し得る。
【実施例】
【0071】
実施例1
フローサイトメトリー選別のための
サンプルプロセッシングおよび染色
成人骨髄(ABM)吸引液を健康な成人ボランティアの後腸骨稜から一致して得た。勾配遠心分離(Lymphoprep、Nycomed Pharma)により得られた低濃度(<1.077g/ml)の単核細胞(MNC)をリン酸緩衝生理食塩水と0.2%ウシ血清アルブミン(BSA、Sigma)とからなる染色緩衝液(SB)で2回洗浄し、そして1mg/mlの熱失活ヒトγグロブリン(Gamimune、Miles、Inc.)でインキュベートしてマウス抗体の非特異的Fcレセプター結合をブロックした。顆粒細胞を、抗CD15モノクローナル抗体(MAbs)でコートした磁気ビーズ(DynalM450)(Medarex)と共にインキュベートすることによるか、または10% DMSO(Sigma)、10% 仔ウシ血清(FCS)(Hyclone)の存在下で液体窒素中で凍結させ、そして解凍することによるかのいずれかで除去した。細胞を以下の系列特異的フィコエリトリン(PE)結合MAbと共にインキュベートした:抗CD2、抗CD4、抗CD8、抗CD56、抗CD16、抗CD19、抗CD20(BectonDickinson)および抗グリコホリンA(Amac)(PE-Lin)。SB中で2回洗浄した後、細胞をヒツジ抗マウス免疫グロブリン被覆ビーズ(Dynal)と共にインキュベートし、そして磁界に暴露した後、ビーズ結合細胞を廃棄した。抗CD34MAb(Tuek-3;Dr. Ziegler、University of Berlin、Berlin、Germany)またはIgG3イソ型コントロールMAbを全容量0.5mlSBの10細胞あたり0.3μgにて20分間氷上で添加した。細胞をSB中で2回洗浄し、次いでTexas Red(TR)結合ヤギ抗マウスIgG3(GAMγ3)抗体(Southern Biotechnologies Associates)およびFITC標識化抗CD45RA MAb(Becton Dickinson)と共にインキュベートし、続いてSB中で2回洗浄した。この細胞を、二重アルゴンイオンレーザー(488nmにて一次発光および600nmにて染料レーザー(Rhodamine 6G)発光)(Coherent Innova 90、Santa Clara、CA)を備えるFACStar Plus cell sorter(Becton Dickinson)で選別した。ネガティブコントロールの値より高いPE-Linレベルを発現する全細胞を電気ゲート(electronic gating)により排除し、そして残りをCD34とCD45RAとに基づいて選別した。
【0072】
CD38選別のために、細胞を、TR結合GAMγ3により認識される抗CD34(Tuek-3)MAb、FITC-LinMAb(Lin=CD2、CD14、CD15、CD16、CD19およびグリコホリンA)およびPE抗CD38MAb(Becton Dickinson)を用いて染色した。Thy-1選別のために、細胞を、イソ型特異的TR-GAMγ3抗体(Southern Biotechnologies Associates)およびPE-抗-マウスIgG1抗体(Caltag、South San Francisco、CA)によりそれぞれ認識される抗CD34および抗THy-1MAb(GM201)を用いて標識化し、次いでマウスIgG1(Sigma)を用いて十分にブロックした後、FITC-Lin MAb(Lin=CD2、CD14、CD15、CD16、CD19およびグリコホリンA)を添加した。HLA-DR選別のために、FITC-CD15のみを、PE抗HLA-DRMAb(Becton Dickinson)と共に、Linマーカーとして用いた。CD34/CD45RA/Thy-1単離のために、連続選別を2回行った。最初の細胞を、上記のように、抗CD34、抗Thy-1およびFITC-LinMAbを用いて標識化した。良好な純度(>90%)で選別されたCD34Lin細胞を再びFITC-CD45RAMAbを用いて染色し、そして第二の選別をCD45RAおよびThy-1の発現に基づいて行った。
【0073】
CD10の研究のために、試験したほとんどのABMサンプルに、まず特許出願WO9402016号に記載のようなビオチン化抗CD34およびビオチン競合系を用いるCD34ポジティブ選別を施した。ポジティブ選別されたCD34細胞を、上記のように、抗CD34Tuek-3 MAb(細胞をポジティブ選別するのに使用したものとは異なるエピトープを認識する)と、TRヤギ抗マウス(GAM)γ3、PE-Lin(CD2、CD4、CD8、CD56、CD16、CD19、CD20およびグリコホリンA)+CD10-FITCまたは関連コントロールMAbとを用いて染色した。CD10細胞を欠くCD45RAサブセットを得るために、2つの連続選別を行った。まず、CD34CD10LinおよびCD34CD10Lin細胞を選別した。後者の集団をFITCイソ型コントロールまたは抗CD45RAFITC MAbのいずれかを用いて再染色し、そしてCD34LinCD10CD45RAおよびCD34LinCD10CD45RAサブセットを選別した。いくつかの実験において、CD34Mab(Tuek3)をスルホローダミンと直接結合させた。
【0074】
実施例2
CD34細胞サブセット細胞集団の表現型分析
選別されたCD34Lin細胞を、PE結合させた抗CD38および抗HLA-DRMAb(Becton Dickinson)を用いて再染色した。選別されたCD34LinCD45RAまたはCD34LinCD45RA細胞を、PE結合させた抗CD33MAb(Becton Dickinson)、またはPE結合ヤギ抗マウスIgM抗体(Southern Biotechnologies Associates)により認識される抗c-kitMAb(Amac)を用いて再染色した。適切なイソ型コントロールもまた、染色の特異性を確認し、そして選別からのバックグラウンド(試験サンプルのPEチャネル中において1%未満)を確立するために使用した。
1.表現型分析。
【0075】
CD45RA抗原は、種々の骨髄細胞で顕著に発現される。LansdorpおよびDragowska(1992);ならびにSchwinzer(1989)Leukocyte Typing IV. White Cell Differentiation Antigens (Knappら、編) Oxford University Press、New York、628-634頁。リンパ芽球系ゲート(gate)におけるCD34LinABM細胞を、CD45RA発現に基づいて2種の集団に明確に分割する(表2中のパネルA)。示されるように、CD34LinCD45RA細胞は、いくらかのCD34-細胞で見られるより低い、中程度のレベルのCD45RA抗原を発現する。CD34LinCD45RA細胞は、負のレベルから低い(dull)レベルのThy-1(図2中のパネルB)、高レベルのCD38およびHLA-DR(図2中のパネルCおよびD)を発現し、そして明らかに正のレベルか負のレベルかのいずれかのCD33および明らかに正のレベルか負のレベルかのいずれかのc-kit抗原(図2中のパネルE-H)を有する細胞を含んだ。CD34LinCD45RA細胞は、より均一に低いレベルのc-kitおよびCD33を発現するが、Thy-1、CD38およびHLA-DRの発現に対しては不均一(heterogeneous)であった。負のレベルから低いレベルのCD38とHLA-DRを有する細胞は、ほとんどCD45RA集団において見出された。原始造血幹細胞は、Thy-1、CD38low、c-kitlow、CD33lowおよびHLA-DRlowに対する独立した研究により特徴づけられ、そしてこれらのパラメーターの積分(integration)は、これらが、以前報告されたように、CD34ABM細胞のCD45RAコンパートメント中に見られることを示す。Terstappenら、(1991);Baumら(1992);LansdorpおよびDragowska(1992);Srourら(1991);Craigら(1993);Gunjiら(1993)Blood 82:3283-3289;およびMayaniおよびLansdorp (1994) Blood 83:2410-2417。
【0076】
検出可能な細胞は、CD34LinCD45RAコンパートメントにおける原始造血幹細胞の表現型基準の全てを満たさなかったので、ゆえに、これらは、単に始原細胞でしかないようである。CD45RACD10中枢リンパ系始原細胞を、多くの抗体を用いる染色試験によりさらに特徴づけ、そしてこれらの細胞は、図2に示した結果から示されるように、CD38HLADRおよびThy-1であることが示された。
【0077】
CD7、CD5およびCD25のような未熟T細胞のマーカーは、CD34LinCD10ABM細胞で有意に発現せず、そしてc-kitレセプターは、CD34LinCD10で検出可能ではなかった(表2)。種々の造血アッセイを用いて、このCD34LinCD10細胞集団の分化能を決定した。この集団は、5.9±3.7%(n=13)のCD34LinABM細胞およびFicoll勾配遠心分離により単離された約0.09%のABM単核細胞を構成する。
【0078】
【表2】

【0079】
表2に示された結果を得るために、表現型分析を、フローサイトメトリーにより98%を上回る選別純度に単離されたCD34Lin細胞において行った。選別細胞をフルオレセインまたはPEと結合させたmAb抗CD45RA、抗CD38、抗HLA-DR、抗CD7、抗CD5、抗CD25(Becton Dickinson)、およびフルオレセイン(Becton Dickinson)またはPE(Amac)に結合させたmAb抗CD10を用いて染色した。Thy-1(クローンGM201)およびc-kit(Amac)に対するMabを、イソ型特異的PE標識化二次試薬および適切なブロッキングを用いる間接的方法において使用した。Lin=CD2、CD4、CD8、CD16、CD56、CD19、CD20、CD14およびグリコホリンA。表2において、結果は、IgG1+IgG2aコントロール(直接染色用)およびIgG1+IgM(間接染色法)を用いるバックグラウンド染色±標準偏差(SD)を引き算した後の正での細胞%および実験数(かっこ内に示す)として示す。
【0080】
実施例3
CD34+細胞サブセットの骨髄赤芽球始原細胞含量、
増殖能およびインビボ骨髄再定住能
1.メチルセルロースコロニー形成アッセイ
細胞を、精製組み換えヒトサイトカイン、c-kitリガンド(KL)(10ng/ml)(R&D Systems)、GM-CSFおよびG-CSF(各25ng/ml)(Amgen)、IL-3(10ng/ml)(Sandoz Pharma)およびエリトロポイエチン(1.2U/ml)(R&D Systems)を追加したIscoveメチルセルロース(Terry FoxLaboratory)1mlあたり500個のCD34+細胞の濃度で混合した。培養細胞を試験する場合、プレート化した細胞数を、PE-抗CD34(HPCA-2、Becton Dickinson)を用いる免疫染色により計算されるように、500 CD34+細胞/mlに等しくなるように調節した。試験した各細胞タイプについて、二重プレートまたはより頻繁には四重プレートを、37℃、湿らせた雰囲気中5%CO2で2週間インキュベートした。バースト形成単位-赤芽球(BFU-E)、単球のみからなるコロニー形成単位(CFU-M)、または単球および顆粒球からなるコロニー形成単位(CFU-GM)、あるいは全てのクラスの顆粒球および単球始原細胞を含有するコロニー形成単位(CFU-C)、ならびに顆粒球、単球および赤芽球細胞を含有する(CFU-mix)コロニーを、倒立顕微鏡(Nikon、Tokyo、Japan)を用いて計算した。
【0081】
2.骨髄分化およびB細胞分化のためのAC6.21細胞上でのインビトロ同時培養
実験前に、50% IMDM(JRH Biosciences)、10%FCSを含む50% RPIM(Hyclone)、4×10-5M 2-メルカプトエタノール、10mM HEPES、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)(P/S)および4mMグルタミン(JRH Biosciences)からなる100μlの培地中に、96ウェルの平底プレートの1ウェルあたり1×104AC6.21細胞をプレート化することにより、実験の1週間前にAC6.21ストローマ細胞単層を樹立した。選別した細胞を、IL-3(10ng/ml)、IL-6(10ng/ml)および白血球阻害因子(LIF)(50ng/ml)(Sandoz Pharma)を含有する培地中に予め樹立させたAC6.21細胞単層上に、1ウェルあたり100細胞で分配した。サイトカイン含有培地の半分を、1週ごとに置き換えた。3週間の培養の最後に、細胞を、ピペットにより採取し、計数し、そして次のアッセイに移した。
【0082】
3.SCID-hu骨アッセイ
本研究者らの設備において飼育したC.B-17 scid/scid(SCID)マウスを、Kyoizumiら(1992) Blood 79:1704-1711に記載の方法に従って、SCID-hu骨マウスの構築のために、6週齢と8週齢との間で使用した。簡単に説明すると、管状胎児長骨(splitfetal long bone)を、麻酔下で、SCIDマウスの乳房脂肪パッドに皮下的に移植した。レピシエント胎児骨およびドナーABM細胞のHLA免疫表現型を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から得られるハイブリドーマ由来のFITC-結合MA2.1、BB7.2、GAP-A3およびW6/32MAbを用いて行った。SCID-hu骨マウスを、HLAミスマッチ選別した細胞集団のレピシエントとして移植8週後に使用し、そして単一全身照射用量(137Cs源からの400cGy、γ細胞40、J.L.Shepherd & Associates)を受容することにより、調節した。次いで、選別した細胞(10μl中、3×104)を、Hamilton注射器を用いて、移植した骨に直接注射した。8週後、マウスを屠殺し、そしてヒト骨を取り出した。フラッシュした骨細胞を、赤芽球細胞が溶解した溶液に再懸濁させ、次いでSB中で2回洗浄し、そしてPE抗-CD19、-CD33、および-CD34と組み合わせて特定のドナーHLAアロタイプに対してFITC標識MAbを用いる2色免疫蛍光検査のために染色する前に、計数した。FITCおよびPEが結合した無関係のマウス免疫グロブリンを、ネガティブコントロールとして用いた。細胞を、FACScan蛍光細胞分析器(Becton Dickinson)で分析した。
【0083】
4.CD45RAサブセットの骨髄および赤芽球能
以前の報告は、赤芽球始原細胞およびLTCIC活性が、CD34+CD45RAlow ABM細胞中で富化されることを記載している。LansdorpおよびDragowska(1992)。本発明者らは、系統マーカーのパネルを用いるので、本発明者らの研究の集団の骨髄始原活性を評価することが必要であった。得られた結果を表3に示す。ここでは結果を、プレートした合計1,000個の細胞あたりのコロニーの平均の数として示す。
【0084】
【表3】

【0085】
メチルセルロースアッセイにおけるクローン原性能は、CFU-mixおよびBFU-Eが、RA-細胞において顕著に富化されたことを示し、以前の知見を確認した。LansdorpおよびDragowska(1992)。
【0086】
マウス骨髄ストローマ細胞株AC6.21上でのABMサブセットの同時培養を、IL-3、IL-6およびLIF存在下で行った。同時培養へのサイトカインの添加は、成体細胞の最適増殖を観察するために必要であった。3週後、RA-細胞およびRA+細胞の両方とも、十分に増殖した(それぞれ3つの実験における投入細胞数の100倍〜500倍および70倍〜200倍)、そして両方のサブセットは、目に見えて分化した細胞を産生した;しかし、RA-細胞の培養は、玉石領域(cobblestone area)に類似する小さな芽球のより多くのクラスターを示した。
【0087】
サイトカインの添加および分析のために選択される比較的初期の時間点からの偏りを回避するために、培養物を、CD34+Lin-細胞の存在について免疫表現型を分類し、そしてそれらの第2CFU活性を測定した。RA-培養物は、RA+培養物よりも良好に第2クローン原性能を維持しているより多くのCD34+Lin-細胞を、明白にかつ一貫して含んでいた。得られた結果を、表4および表3のAC6.21培養後に示す。表4において、実験4および5に使用した細胞もまたCD10-であった。さらに、RA-培養物は、CD34+CD45RA+細胞への分化中にCD34+CD45RA-細胞の比率を一貫して維持した。RA+培養において、全てのCD34+子孫細胞はCD45RAを発現した。
【0088】
【表4】

【0089】
これらのサブセットの初期における階層は、RA-細胞が最も未熟であり、そしてRA+子孫へ直接分化し得ることを推定するための分析から推論され得る。
【0090】
最後に、CD45RAサブセットの長期間の造血再形成能を、インビボSCID-hu骨アッセイで試験した。これは長期間の多重系統造血を支持する。DiGiustoら(1994)。選別した細胞を、代理SCIDマウスに予め移植されたヒト骨の断片に注射した。8週後、RA-細胞を、ドナー由来CD19+B細胞、CD33+骨髄細胞およびCD34+始原細胞の存在により証明されるように、移植した(図3)。子孫はRA+サブセットから回収されなかったが、試験した細胞用量は、CD34+Lin-細胞の移植と一致することが知られている。従って、RA+細胞はインビトロ同時培養およびメチルセルロースアッセイから決定されるような骨髄およびBリンパ球始原細胞活性を含有するが、この集団は、SCID-hu骨アッセイにおける移植に必要とされるより初期の幹細胞を欠く。
【0091】
総合すれば、これらのデータは初期の観察を確認および拡張し、これは骨髄、赤芽球およびBリンパ球系統の中で最も初期の造血活性が、RA-集団中で見出されることを示す。同時に、RA+細胞は、幹細胞および赤芽球始原細胞を欠いているが、骨髄始原細胞を含有することが明らかである。
【0092】
5.RA+サブセットの分別
造血幹細胞分化の下流段階について詳細に調べるために、初期B細胞前駆体を、それらのT細胞再形成能について試験した。初期B細胞前駆体は、CD34およびCD10の膜発現およびCD19およびCD2の非存在により識別可能であることが報告されている。Uckun(1990)。本明細書に示すデータは、CD10を発現するCD34+Lin-(LinはとりわけマーカーCD19およびCD2を含有する)の小さなサブセットが存在することを確認する(図4)。これらのCD34+Lin-CD10+細胞(以後10+という)は、RA+集団中に存在する。なぜなら、CD10+細胞の選別により、約半分のRA+コンパートメントが枯渇したが、一方、RA-集団は10%減少したのみであったからである。産生した赤芽球コロニーを全く伴わず、そして骨髄コロニーをほとんど伴わなければ、マクロファージのみからなるほとんど希なCFU-Cを除いて、メチルセルロースアッセイにおける10+細胞のクローン原性能は、ほとんど存在しなかった(表5)。IL-3、IL-6およびLIF存在下、AC6.12ストローマ上での3週間の10+細胞の同時培養は、あまり大きな増殖ではないが、CD19+B細胞への強力な分化を示した(表5)。
【0093】
【表5】

【0094】
1つの実験は、3週後サイトカインを含むバルク培養中に60%を超えるCD19+ B細胞が存在することを示した。注目すべきは、これらの培養がまた、RA+細胞で開始した培養よりもずっと低い比率ではあるが、CD33+細胞を含有した(表4)。
【0095】
骨髄始原細胞および赤芽球始原細胞は、CD34+Lin-CD10+細胞集団中に実質上存在しない(表6)。メチルセルロース培養を、ヒト組換えIL-3(10ng/ml)(Sandoz Pharma,Basel,Switzerland)、顆粒球-単球コロニー刺激因子(GM-CSF)(25ng/ml)、顆粒球CSF(G-CSF)(25ng/ml)、エリトロポイエチン(EPO)(1.2U/ml)、およびc-kit-リガンド(KL)(10ng/ml)(R&D Systems,Minneapolis,MN)存在下で樹立した。培養を、湿らせた雰囲気中、37℃、5%CO2、95%空気で2週間インキュベートした。骨髄同時培養物を、IL-3(10ng/ml)、IL-6(10ng/ml)およびLIF(50ng/ml)存在下、予め形成したAC6.21マウス骨髄ストローマ上に樹立した。培養3週後、全ての細胞を採取し、そして計数して合計の細胞増殖を計算した。細胞を、フルオレセインおよびPE結合mAbで染色し、そして蛍光活性化細胞スキャナ(Becton Dickinson)で分析した。特異的細胞染色を、サイズ、顆粒度およびヨウ化プロピジウム排除により決定されるように、生細胞ゲートで測定した。バックグラウンドの差し引き(無関係のマウスIgG1およびIgG2a抗体で染色する)後、結果を陽性細胞の%として示す。
【0096】
大きな単核細胞からなる時折認められる骨髄コロニー形成ユニット(CFU)を観察した(1000細胞あたり2)。CD34+Lin-CD10-細胞の選別時の混入物によるこのような希なコロニーは存在しないようである。なぜなら、赤芽球コロニーは決して検出されなかったからである。2ラウンドのフローサイトメトリー選別後に得られた高度に精製されたCD34+Lin-CD10+細胞は、培養期間の延長(3週および4週)後でさえもこのようなコロニーの形成を生じなかった。予想されるように、平行して試験されたCD34+Lin-CD10-集団は、骨髄系統、赤芽球系統または混合(赤芽球および骨髄)系統のいずれかの多数のコロニーを生成した(表6)。
【0097】
また、CD34+Lin-CD10+細胞を、ストローマ支持骨髄培養で評価した。選別した細胞を、IL-3、IL-6および白血球阻害因子(LIF)の存在下、マウスAC6.21ストローマ細胞上で同時培養した。サイトカインの組み合わせは、Murrayら(1994)に記載のように、成体造血細胞の増殖を援助することが知られている。3週後、CD34+Lin-CD10-細胞は、顕著に増殖し(174倍〜500倍の総細胞増殖)、そして3%〜18%のCD34+細胞がなお、培養中に存在し、これは初期造血細胞のある程度の保持を示す。骨髄細胞の形態学的に不均一な集団を観察した。培養細胞の大部分(86%〜97%)が、CD19+リンパ球細胞を検出し得ることなく、骨髄抗原CD33を発現した。
【0098】
対照的に、同一実験条件下で、CD34+Lin-CD10+細胞は、制限された増殖能(3倍〜42倍の総細胞増殖)を示した。CD34+細胞(0.7%〜3%)は、ほとんど培養中に保持されず、そして細胞はCD19+リンパ球細胞へ分化する強力な能力を示した。
【0099】
予備実験は、CD34+Lin-CD10+細胞が、SCIDマウスに移植されたヒト骨断片の長期間(8週間)の造血再形成を提供しないことを示した。また、CD34+Lin-集団からのCD10の枯渇は、SCID-hu骨の造血細胞の再定住を妨げなかった。従って、CD34+Lin-CD10+細胞は、幹細胞と機能および表現型が異なる。
【0100】
得られた結果を表6に示す。ここで、N.T.は試験しなかったことを表す;メチルセルロース培養の結果を、プレートした1000細胞あたりの骨髄始原細胞(CFU-G、MおよびGM)/赤芽球始原細胞(BFU-EおよびCFU-E)/多能性始原細胞(CFU-mix)の数として表す。実験2および3において、CD10-細胞はまたCD45RA-であり、このことからCD-細胞でのより高いCFU-mix含量が明らかにされる。実験4および5において、CD10+細胞を、フローサイトメトリー選別の2回連続ラウンド後に高度に精製した。第1ラウンド後の選別純度の再分析は、実験4および5において、それぞれ91%および98%であった。
【0101】
【表6】

【0102】
実施例4
CD34+CD45RAサブセットのBリンパ系細胞能
胎児および成人骨髄CD34+Lin-細胞からのヒトB細胞の分化を支持することが知られているAC6.21マウス骨髄ストローマ細胞上での共培養の後、B細胞へ分化する能力を分析した。Baumら(1992);およびDiGiustoら(1994)。上記のように、RA+細胞およびRA-細胞を、IL-3、IL-6およびLIFの存在下でAC6.21細胞上で増殖させた。RA+細胞およびRA-細胞由来の培養物は、ほとんどCD33+骨髄細胞のみを含んでいた(表4)。
【0103】
少ないが有意な割合(1〜2%)のCD19+細胞は、しばしば、RA+培養物中で観察されたが、RA-培養物中には観察されなかった。CD19+細胞の前方散乱および側方散乱特性は、それらのB細胞の性質と一致し、そしてRA+培養物はまたCD10+細胞を含んでいた。これらの実験条件下で、RA-培養物からのB細胞の産生は、IL-3を省いて骨髄細胞の増殖を減少させた後でさえも検出されなかった。RA-培養物におけるCD19+B細胞産生の欠如は、緩慢な速度の分化に起因し得る。実際、RA-サブセットにB細胞の初期始原細胞が存在する。なぜならば、前記のように、このサブセットは、SCID-hu骨に移植され、ドナー由来B細胞の産生を維持し得たからである(図3)。対照的に、RA+細胞は、インビトロで容易に分化しそして増殖するが、骨髄を長期間再定住させ得ないB細胞の後期始原細胞を含むようである。
【0104】
相当なBリンパ系細胞の分化が、CD34+Lin-CD10+細胞を用いて開始された、IL-3、IL-6、およびLIFで刺激された骨髄培養物において観察された(表6)。3週間後、このような培養物は、8〜76%のCD19+B細胞を含んでいた。これは、そうでなければ、CD34を欠き、CD10を発現し、そしてリンパ系細胞の特性(サイズおよび粒度)を有していた(表6および図5)。これらのデータは、CD34+Lin-CD10+ABM細胞が、B細胞前駆体として働き得ることを確認し、そしてそれらのB細胞始原細胞能がそれらのCD10-対応物のB細胞始原細胞能より即時的であることを示す。
【0105】
実施例5
CD45RAサブセットのTリンパ系細胞能
1.SCID-hu胸腺アッセイ
レシピエント胸腺およびドナーABM細胞のHLA免疫表現型決定を、上記のように実施した。胎児胸腺のフラグメントを、Galyら(1993)により記載された方法に従って、ゼラチンラフト(gelatinraft;Gelfoam, Upjohn)の上部のニトロセルロースフィルター(0.8μm、Costar Corp., Cambridge, MA)上に置いた。25℃、5%CO2でのインキュベーションの7〜13日後、胸腺フラグメントに、137Cs源(J.L.Shepherd & Associate)からの250cGyを照射し、これを洗浄し、そしてただちにこれに、油を充填したマイクロインジェクター(Narishige)および1mm直径のガラスマイクロピペット(World Precision Instruments)を使用して、1μl容量にてHLA不適合選別細胞をマイクロインジェクトした。フラグメントをフィルター上に戻し、そして37℃、5%CO2にて一晩インキュベートし、次いで本発明者らの施設で飼育した6〜8週齢の麻酔したSCIDマウスの腎臓被膜下に挿入した。マウスを、移植の6〜7週間後に屠殺し、そして胸腺移植物を回収し、単一細胞懸濁液に減数させ、そしてFACScanでの3色免疫蛍光分析にかけた。以下のMAbを使用した:FITC抗HLA抗体、抗CD2またはマウスIgG1無関係(irrelevant)コントロール、PEW6/32、抗CD1a(Coulter)、抗CD4またはマウスIgG1コントロール(Becton Dickinson)およびTricolor(TC)結合抗CD45、抗CD8、抗CD3またはマウスIgG1無関係コントロール(Caltag)。
【0106】
T始原細胞能を、SCID-hu胸腺アッセイにおいて試験した。このアッセイは、胎児および成人の骨髄ならびに成人の動員(mobilized)末梢血から単離されたCD34+Lin-細胞の胸腺内T細胞分化を支持することが示されている。DiGiustoら(1994);およびGalyら(1994)。漸減細胞数(decreasing cell number)のRA+またはRA-サブセットのいずれかを、SCIDマウスへの移植の6〜7週間後に回収し、そして分析した胸腺移植物に注射した。両サブセットとも植え付けられ、T細胞を生成した;しかし、RA+サブセットが、特に低細胞数(移植物あたり2〜3000細胞)で、よりうまく植え付けられることが明らかであった(図6)。ドナー由来の胸腺形成の質を、各移植物において3色免疫染色により検査した。RA+サブセットおよびRA-サブセットの両方とも、大部分は高レベルのCD1を発現し、CD4およびCD8を同時発現し、そしてCD3の格付けされた発現を有するドナー胸腺細胞を生じた。αβまたはγδTCRを有する成熟T細胞を、記載のように、RA+細胞を用いて再構成された胸腺移植物から増殖し得る。Galyら(1994)。
【0107】
胸腺成熟は、CD3抗原の増加、CD1抗原の消失およびCD4抗原とCD8抗原との同時発現に関連する。Galyら(1993);およびTerstappenら(1992)。これらのパラメータの注意深い検査は、RA+サブセットまたはRA-サブセットから生じた胸腺細胞の表現型に顕著な差異を示さなかった。従って、現在設計されているように、SCID-hu胸腺アッセイでは、本発明者らは、検査した時間枠(注射の6〜7週間後)内の初期T始原細胞と後期T始原細胞との間を区別することはできなかった。まとめると、これらのデータは、RA+細胞が、骨髄系統およびB系統の後期始原細胞を含むことを示し、活動的なT始原細胞活性示す。RA-サブセットは、赤芽球系統、骨髄系統およびB細胞系統の原始的な能力を有し、そしてRA+細胞と比較して減少した頻度ではあるがT始原細胞活性もまた含む。
【0108】
2.Thy-1、CD38またはHLA-DRの発現およびT始原細胞活性
これらの結果の一つの実際的な結論は、T始原細胞活性の存在が図2に示される表現型分析から推測され得ることである。RA+細胞はT始原細胞活性を有し、同時にCD38およびHLA-DRについてほぼ完全にポジティブであるので、この活性がCD38+画分またはHLA-DR+コンパートメントにおいて回収されるはずであるということが推測される。このことを確認する結果を表7に示す。表7において、移植の成功は、分析した移植物の数に対する、ドナー細胞についてポジティブな移植物の比率(>1%)として表現される。
【0109】
【表7】

【0110】
Thy-1は、胎児および成人骨髄ならびに臍帯血における非常に原始的な造血細胞に発現されるマーカーである。Baumら(1992);Craigら(1994);ならびにMayaniおよびLansdorp(1994)。CD34+Lin-Thy-1+ABM細胞およびCD34+Lin-Thy-1- ABM細胞の両者ともT細胞を生じ得る。図2に示される表現型プロフィールは、Thy-1-細胞のT細胞再構成能がRA+細胞の存在に起因し得ることを示す。この仮説を試験するために、選別されたCD34+Lin-CD45RA+Thy-1細胞を、SCID-hu胸腺系においてアッセイし、そしてこの細胞は、低い細胞数が使用された場合でさえも、良好なT細胞再構成能を示した(表7)。CD45RAおよびThy-1を有する細胞の小さなサブセットのT細胞再構成活性は試験しなかった。一方、CD34+Lin-CD45RA-Thy-1+細胞は、良好なT細胞再構成能を示す。これらの細胞はまた、培養におけるCD34+Lin-細胞およびCD34+CD45RA-細胞の維持によって示されるように、原始的な造血活性が非常に強力に富化され、CFU-mixおよびBFU-E副次的クローン原性能(secondary clonogenic potential)を有する(表3)。試験したすべてのサブセット(Thy-1+、Thy-1-、CD38+、HLA-DR+)による胸腺生成は、6週間後のCD1、CD3、CD4およびCD8発現に関して、RA+細胞から生じた胸腺生成に量的に等価であった。
【0111】
10+細胞を胸腺フラグメントに注射した場合、T細胞再構成は、低い細胞数(2,000細胞)が試験された場合でさえも、観察された。6週間後、ドナー由来胸腺細胞は、他のサブセット由来の胸腺細胞で見られるように、CD4およびCD8を同時に発現し、高いCD1a発現およびCD3の格付けされた(graded)発現を伴った(図7)。従って、この10+集団は、ほとんどリンパ系統に方向付けられたようである。
【0112】
SCID-hu胸腺アッセイにおいて、T細胞能を、RA-、RA+および10+サブセット中に見出した。上記のように、RA-、RA+および10+細胞の間の階層制の関係は、T細胞祖先の量的な差から推論し得ない。なぜなら、6週間の時点で、再構成された胸腺移植物は、ドナー由来画分におけるCD1ポジティブ細胞、CD3ポジティブ細胞およびCD4/CD8二重ポジティブ細胞の比率は匹敵していたからである。
【0113】
10+細胞およびCD34+Lin-CD10-(10-)細胞のT細胞を再構成する能力を検査するために、速度論的研究を行った。10+細胞および10-細胞は両方とも、細胞注射の8週間後まで、胸腺移植物に再定住し(repopulate)、そして未成熟胸腺細胞(高レベルのCD1aを発現する)を産生し得る。しかし、再構成の8週と11週との間に、10+細胞を注射された移植物は、未成熟T細胞を産生することを停止し、そして表現型的に成熟な胸腺細胞(CD1-、CD4+またはCD8+およびCD3bright)のみを含んだ(図8)。
【0114】
まとめると、これらのデータは、10+細胞が最も成熟しており、そしてリンパ系分化に強く方向付けられていることを強く示した。
【0115】
実施例6
CD45RAサブセットのNK始原細胞能
NK細胞は、IL-2およびストローマによりCD34+骨髄細胞から分化することが最近示された。Millerら(1992)Blood80:2182-2187;およびLotzovaら(1993)J.Immunol. 150:5263-5269。マウスストローマ細胞AC6.21株がNK細胞の分化を支持する能力を検査した。CD34+Lin-サブセットに選別された細胞を、実施例1に記載のように、NK細胞の分化について以下のようにアッセイした。
【0116】
NK細胞の分化のためのAC6.21細胞上でのインビトロ共培養
NK細胞アッセイについて、選別した細胞を、50ng/ml組換えヒトIL-2(Sandoz Pharma, Basel Switzerland)を補充した、10%FCS、40μg/mlトランスフェリン(Boehringer Mannheim)、5μg/mlインシュリン(Sigma)を含むIMDM中で、予め形成したAC6.21単層上にプレートした。1週間後、培地の半分を、rhIL-2(50ng/ml)を含む培地で置き換えた。続いて、IL-2を含む培地を、1週間に2回少なくとも2週間交換してストローマ細胞が出現しないように補った。細胞を、ピッペッティングにより回収し、計数し、そしてPE結合抗CD56MAbおよびFITC結合抗CD3 MAbまたは適切なネガティブコントロール(Becton Dickinson)を用いて免疫染色した。細胞を、FACScan蛍光細胞分析機(Becton Dickinson)で分析した。
【0117】
これらの条件下で、2〜3週間以内に、RA+細胞がCD56を発現するがCD3を発現しないリンパ芽球に成長した(図9および10)。CD56についてのポジティブ反応性、および検出可能な表面CD3の発現の欠如は、NK細胞を象徴する。Lanierら(1992)Immunology Today 13:392-395。RA+培養物は、Millerら(1992)によって記載されたように、一般に、最初の2週間以内にそれらの支持ストローマ層を破壊した。さらに、10+サブセット(これは、骨髄細胞能をほとんど有さないが、実施例2に記載されたTおよびB細胞始原細胞活性を有する)は、NK細胞を生じ得る(図11)。培養物中で生成したCD56+CD3-NK細胞もまた、ストローマを破壊する。
【0118】
しかし、RA-サブセットは、検査した期間(7週間まで)内には非常に効率的にはNK細胞を生じなかった。3週の時点で、培養物は、大きな割合(>90%)のCD33+骨髄細胞を含んだ。このCD3+骨髄細胞は、6週間後非常に十分には拡張しなかった。数個のNK細胞は、時々、RA-培養物中に見られ得たが、それらの割合は、RA+10-培養物および10+培養物と比較して、常に非常に低かった。
【0119】
限界希釈実験を実行して、このアッセイにおいて反応性である細胞の頻度を評価した。増殖中のウェルを、6週の時点で、リンパ芽球細胞の存在について肉眼でスコア付けし、そしてスコア付けをCD56を発現するがCD3を発現しない細胞について免疫染色することによって確認した(表8)。
【0120】
【表8】

【0121】
3つの独立した実験において、RA+(10+および10-)細胞は、NK細胞を生じることが示され、一方、RA-細胞は、ずっと低い効率でNK細胞を生じることが示された。この系におけるNK細胞の分化は、出発RA+集団がCD56を発現しないことから確認された。また、RA+集団におけるNK始原細胞の高頻度は、再分析によりある程度の純度(>90%)を示す成熟細胞の拡張と両立しないようである。さらに、RA+10-細胞は、系統ポジティブ細胞に対する2ラウンドの選別を通じて、CD56+成熟NK細胞を欠いている。RA-サブセットにおけるNK始原細胞のより低い頻度は、未熟性およびリンパ系統に方向づけられていない細胞の高い比率によるマスキングに起因するようである。この仮説を確認するために、RA-細胞を用いて開始したAC6.21の3週間共培養物を、抗CD34抗体および抗CD45RA抗体で免疫染色し、そして培養細胞を、CD34+Lin-CD45RA-サブセットおよびCD34+Lin-CD45RA+サブセットに選別した。BFU-E活性およびCFU-mix活性の富化は、選別されたCD34+CD45RA-細胞に限られていた。そして、また、NK細胞は、選択されたCD34+CD45RA+祖先から優勢に産生された。
【0122】
これらの結果は、表現型の維持と機能との間の良好な相関を示す。このことは、RA-細胞がより未熟であり、そして直前の前駆細胞またはRA+細胞サブセットであるという事実を支持する。
【0123】
ABM CD34+Lin-CD10+細胞のCD34-CD56+CD3-NK細胞への分化は、実施したすべての実験(n=6)において、IL-2の存在下でのマウス骨髄ストローマ細胞AC6.21株上の培養の1〜2週間以内に得られた。CD34+Lin-CD10+細胞のNK分化能を、連続する2ラウンドのフローサイトメトリー選別の後に得られた、高度に精製された細胞を用いて確認した。
【0124】
CD34+Lin-CD10+培養物中に単球系/骨髄細胞は観察されなかったが、このような培養条件は、CD34+Lin-CD10-細胞の培養物における単球系/骨髄細胞の生成を支持する。CD34+Lin-CD10+細胞由来のCD56+CD3-NK細胞(図11−パネルA)は、Sanchezら(1994)J.Exp.Med. 180:569により記載される方法に従って、NK感受性K562標的細胞の用量依存性死滅によって示されるように、機能的であった(図11−パネルB)。Taswell(1981)J.Immunol.126:1614により記載される方法に従う、一つのABMサンプルの限界希釈分析によって、CD34+Lin-CD10-細胞(1/325)と比較して、CD34+Lin-CD10+細胞を用いてより高い頻度(1/75)のNK始原細胞を得た(図11−パネルC)。速度論的研究は、CD56+CD3-NK細胞が、CD34+Lin-CD10-の培養物中(16日目前の培養物において表現型により検出可能ではない)より、CD34+Lin-CD10+細胞を用いて開始された培養物においてより早く現れた(9日目の培養物中において表現型により検出可能)ことを示す。従って、CD34+Lin-CD10+細胞は、残りのCD34+Lin-AMB細胞より、NK細胞を産生する高い能力を有する。
【0125】
結論として、本発明者らは、NK細胞に関する2つの新規な知見を提供する。第1に、本発明者らは、マウス細胞株であるAC6.21が、IL-2の存在下でヒト成人骨髄からのNK細胞の分化を支持し得ることを示す。第2に、CD34+Lin-CD10+細胞の小集団は、BおよびT細胞始原細胞活性に加えて、NK分化能を有するが、骨髄活性を実質的に欠いている。このことは、集団が前胸腺(pre-thymic)リンパ系始原細胞であることと一致する。
【0126】
実施例7
リンパ系始原細胞能の階層制
本明細書で示した結果は、RA-細胞がB系統、骨髄系統および血球系統においてRA+細胞より未熟であること、およびRA+細胞がRA-細胞から直接由来することを明確に示す。次いで、10+サブセットとRA+サブセットとの間の関係を検査してリンパ系発達の階層制モデルを導いた。3つのサブセットCD34+Lin-CD10+、CD34+Lin-CD10-CD45RA+およびCD34+Lin-CD10-CD45RA-を、連続する2つの選別後に得、そしてB細胞およびT細胞分化アッセイにおいて試験した。予想されたように、RA-CD10-細胞は、AC6.21細胞ならびにIL-3、IL-6およびLIFを用いる3週間の培養後、検出可能なCD19+B細胞を産生しなかった。
【0127】
一方、CD10+およびRA+CD10-細胞は、CD19+およびCD10+B細胞に分化した(図5)。さらに、RA+CD10-培養物は、CD34+CD10+細胞の小さなサブセットを産生することが観察された。従って、このことは、これら2つのサブセットの間の直接的な関係を示す。
【0128】
実施例8
樹状細胞前駆体の存在の測定
前記の実施例において、CD33を発現するより大きな細胞は、クローン原性の始原細胞を完全に欠いている高度に精製されたCD34+Lin-CD10+細胞を用いて開始された骨髄培養物においてさえも常に観察された(表9)。しかし、すべての実験において、CD33+細胞の割合は、CD34+Lin-CD10-細胞の培養物中よりかなり小さかった。CD34+Lin-CD10+細胞の分化能を十分に探求するために、液体培養物を、広いスペクトルの造血細胞を発生させるために、9種類のサイトカイン(IL-1、IL-3、IL-6、IL-7、KL、GM-CSF、腫瘍壊死因子(TNF)、FLT3/FLK2-リガンド(FL)およびEPO)を用いて開始した。ABMCD34+Lin-CD10(CD10+およびCD10-)細胞サブセットを、丸底96ウェルプレートにおいて、ヒト組換えIL-3、IL-6、GM-CSF(各25ng/ml)(Sandoz Pharma)、IL-7(10ng/ml)(Genzyme, Cambridge, MA)、IL-1(5ng/ml)、TNF(25ng/ml)(Boehringer Mannheim, Indianapolis, IN)、KL(10ng/ml)、EPO(2U/ml)、KL(10ng/ml)(R&D systems)、FL(10ng/ml)(Hannumら(1994)Nature368:643に公開された配列からのPichia pastorisにおける発現後に精製した)を補充したIMDM培地中で、ウェルあたり2,000細胞にてインキュベートした。培養物を37℃5%CO295%空気にてインキュベートし、そして培地を1週間に2回半分ずつ取り替えた。培養を、CD34+Lin-CD10サブセット(CD10+およびCD10-)を用いて開始し、そして12〜20日後、培養細胞を、図12に示されるように、フルオレセインまたはPE結合mAbを用いる直接2色法で染色した。表9の結果は、マーカーについてポジティブな細胞の百分率(IgG1+IgG2a無関係コントロールを用いてバックグラウンド染色を引いた後)およびポジティブ細胞集団の平均蛍光強度(mfi)として表現する。分析を、同一の実験からのCD10+細胞およびCD10-細胞の培養物に同一の生存(ヨード化プロピジウムネガティブ(propidiumiodide negative))または前方/散乱ゲート(forward/scatter gate)適用して行った。表9において、N/Aは、適用可能でないことを表し、NTは、試験しなかったことを表す。
【0129】
【表9】

【0130】
これらの培養物において、CD34+Lin-CD10+細胞は適度(総細胞拡大は、CD34+Lin-CD10-細胞を用いて開始した培養物より5〜10倍少なかった)に増殖し、そしてすべての場合において、樹状細胞(DC)と関連する形態学的特徴(図13-A)および免疫表現型的特徴(図12-A-B-C-Dおよび表9)を有する細胞に排他的に分化した。Steinman(1991)Ann.Rev.Immunol.9:271。10+培養物は、非常に高い前方散乱および側方散乱特性を有する細胞を含んでおり(図12-A)、40〜63%の細胞が非常に高いレベルのHLA-DRを発現し、23〜42%の細胞がCD1aのはっきりとした発現(bright expression)を有し、18〜26%の細胞が低レベルのCD15を示した。一方、単球抗原CD14を発現した細胞はなかった。サイズおよびCD1a発現の変化性は、DC集団内での微少不均一性と一致する。Steinman(1991)。
【0131】
同じ実験条件下で、CD34+Lin-CD10-細胞は強力に(12〜15日で60〜95倍の細胞拡大)増殖し、そして多様な散乱特性を有する(図12-E)、骨髄細胞、顆粒細胞、単球、マクロファージ、赤芽球、DCおよびマスト細胞の形態学的に不均一な混合物(図13-B)に分化した。これらの観察結果は、培養条件が、多数の造血系統に属する大量の細胞の分化を支持したことを確認する。CD34+Lin-CD10-培養物の免疫表現型分析により、19〜24%の細胞が高レベルのCD14を発現すること、20〜30%の細胞がCD15を有すること、27〜51%の細胞が、CD34+Lin-CD10+細胞の培養物中の細胞より低いレベルではあるがHLA-DRを発現すること、および非常に少数(0〜2%)の細胞がCD1aを発現することが明らかになった。
【0132】
実施例9
細胞集団の巨核球系統への分化を、Mpl-リガンド/トロンボポエチンおよびIL-3(両方とも、巨核球発生の強力な誘導剤である)を補充した液体培養を確立することによって評価した。Kaushanskyら(1994)Nature369:568。ABM CD34+Lin-CD10(CD10+およびCD10-)細胞サブセットを、7日間、5%ヒト血漿を含むIMDM中で、精製したヒト組換えIL3(10ng/ml)、およびBartleyら(1994)Cell77:1117から得られる、Mpl-リガンドcDNA配列でトランスフェクトしたCos-7細胞の10%上清液の存在下で培養した。培地を7日に2回交換した。これらの培養条件下で、ほとんどのCD34+Lin-CD10+細胞が生存せず(トリパンブルー排除で16%の生存可能性)、一方、CD10-の相当部分(98%生存可能)が巨核芽球に分化した。
【0133】
まとめると、データは、CD34+Lin-CD10+細胞は、赤芽球細胞、単球細胞、顆粒球細胞および巨核球細胞を生じないが、DCおよびすべてのクラスのリンパ系細胞に分化し得ることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1:本明細書に記載される実験により定義されるリンパ系成熟の略図。系統特異的マーカーは、CD2、CD4、CD8、CD56、CD16、CD19、CD20およびグリコホリンAである。
【図2−1】図2:CD34+ABM細胞の表現型分析。ABM細胞でのCD45RAの発現は、全てのプロットのX軸上に示される。Y軸上では、CD34はLin-ゲート化細胞のパネルAにあり、パネルB〜Dは、それぞれCD34+Lin-細胞上でのThy-1、CD38およびHLA-DRの発現を示す。系統-はLin-である。系統マーカーは、少なくともCD2、14、16、19、15およびグリコホリンAであり、そしてたいていはCD4、CD8、CD56およびCD20もまた包含する。パネルE〜Hは、CD33(パネルEおよびF)およびc-kit(パネルGおよびH)に対して選別したCD34+Lin-CD45RA-細胞(パネルAおよびG)およびCD34+Lin-CD45RA+細胞(パネルFおよびH)の再染色を示す。
【図2−2】図2:CD34+ABM細胞の表現型分析。ABM細胞でのCD45RAの発現は、全てのプロットのX軸上に示される。Y軸上では、CD34はLin-ゲート化細胞のパネルAにあり、パネルB〜Dは、それぞれCD34+Lin-細胞上でのThy-1、CD38およびHLA-DRの発現を示す。系統-はLin-である。系統マーカーは、少なくともCD2、14、16、19、15およびグリコホリンAであり、そしてたいていはCD4、CD8、CD56およびCD20もまた包含する。パネルE〜Hは、CD33(パネルEおよびF)およびc-kit(パネルGおよびH)に対して選別したCD34+Lin-CD45RA-細胞(パネルAおよびG)およびCD34+Lin-CD45RA+細胞(パネルFおよびH)の再染色を示す。
【図2−3】図2:CD34+ABM細胞の表現型分析。ABM細胞でのCD45RAの発現は、全てのプロットのX軸上に示される。Y軸上では、CD34はLin-ゲート化細胞のパネルAにあり、パネルB〜Dは、それぞれCD34+Lin-細胞上でのThy-1、CD38およびHLA-DRの発現を示す。系統-はLin-である。系統マーカーは、少なくともCD2、14、16、19、15およびグリコホリンAであり、そしてたいていはCD4、CD8、CD56およびCD20もまた包含する。パネルE〜Hは、CD33(パネルEおよびF)およびc-kit(パネルGおよびH)に対して選別したCD34+Lin-CD45RA-細胞(パネルAおよびG)およびCD34+Lin-CD45RA+細胞(パネルFおよびH)の再染色を示す。
【図2−4】図2:CD34+ABM細胞の表現型分析。ABM細胞でのCD45RAの発現は、全てのプロットのX軸上に示される。Y軸上では、CD34はLin-ゲート化細胞のパネルAにあり、パネルB〜Dは、それぞれCD34+Lin-細胞上でのThy-1、CD38およびHLA-DRの発現を示す。系統-はLin-である。系統マーカーは、少なくともCD2、14、16、19、15およびグリコホリンAであり、そしてたいていはCD4、CD8、CD56およびCD20もまた包含する。パネルE〜Hは、CD33(パネルEおよびF)およびc-kit(パネルGおよびH)に対して選別したCD34+Lin-CD45RA-細胞(パネルAおよびG)およびCD34+Lin-CD45RA+細胞(パネルFおよびH)の再染色を示す。
【図3−1】図3:CD34+Lin-CD45RA-細胞で再構成されたSCID-hu骨の表現型組成。パネルAは、CD19で染色されたHLA-ドナー細胞を示す。パネルBは、CD33で染色されたHLA-ドナー細胞を示す。パネルCは、CD34で染色されたHLA-ドナー細胞を示す。骨を30,000のCD34+Lin-CD45RA-細胞の注射後8週で回復した。細胞を、CD19、CD33およびCD34と組み合わせてCD34+Lin-CD45RA-ドナーのHLA決定基に特異的な抗体で染色した。
【図3−2】図3:CD34+Lin-CD45RA-細胞で再構成されたSCID-hu骨の表現型組成。パネルAは、CD19で染色されたHLA-ドナー細胞を示す。パネルBは、CD33で染色されたHLA-ドナー細胞を示す。パネルCは、CD34で染色されたHLA-ドナー細胞を示す。骨を30,000のCD34+Lin-CD45RA-細胞の注射後8週で回復した。細胞を、CD19、CD33およびCD34と組み合わせてCD34+Lin-CD45RA-ドナーのHLA決定基に特異的な抗体で染色した。
【図4】図4:Lin-(LinはCD2、CD4、CD8、CD56、CD16、CD19、CD20およびグリコホリンAである)ABM細胞上でのCD34およびCD10の発現。破線で描かれた右上四分の一内の細胞は、CD34+Lin-細胞の2%であった。CD34+Lin-ABM細胞中のCD10+細胞の平均%は、5.9±3.7%(試験したn=13のABM)であった。
【図5−1】図5:AC6.21培養物の表現型分析。培養を、IL-3、IL-6およびLIF存在下、CD34+Lin-CD10+またはCD34+Lin-CD45RA-集団由来のウェルあたり100細胞で播種し、そして3週後に採集した。細胞をCD33およびCD19、またはCD34およびCD10で免疫染色した。パネルAおよびBは、CD33/CD19(A)およびCD34/CD10(B)のCD10+細胞上での発現を示す。パネルCおよびDは、CD33/CD19(C)およびCD34/CD10(D)のRA+CD10-細胞上での発現を示す。パネルEおよびFは、CD33/CD19(E)およびCD34/CD10(F)のRA-CD10-細胞上での発現を示す。
【図5−2】図5:AC6.21培養物の表現型分析。培養を、IL-3、IL-6およびLIF存在下、CD34+Lin-CD10+またはCD34+Lin-CD45RA-集団由来のウェルあたり100細胞で播種し、そして3週後に採集した。細胞をCD33およびCD19、またはCD34およびCD10で免疫染色した。パネルAおよびBは、CD33/CD19(A)およびCD34/CD10(B)のCD10+細胞上での発現を示す。パネルCおよびDは、CD33/CD19(C)およびCD34/CD10(D)のRA+CD10-細胞上での発現を示す。パネルEおよびFは、CD33/CD19(E)およびCD34/CD10(F)のRA-CD10-細胞上での発現を示す。
【図5−3】図5:AC6.21培養物の表現型分析。培養を、IL-3、IL-6およびLIF存在下、CD34+Lin-CD10+またはCD34+Lin-CD45RA-集団由来のウェルあたり100細胞で播種し、そして3週後に採集した。細胞をCD33およびCD19、またはCD34およびCD10で免疫染色した。パネルAおよびBは、CD33/CD19(A)およびCD34/CD10(B)のCD10+細胞上での発現を示す。パネルCおよびDは、CD33/CD19(C)およびCD34/CD10(D)のRA+CD10-細胞上での発現を示す。パネルEおよびFは、CD33/CD19(E)およびCD34/CD10(F)のRA-CD10-細胞上での発現を示す。
【図6】図6:SCID-hu胸腺アッセイにおけるT細胞再構成。各点は、CD34+Lin-CD45RA+(白丸)またはCD34+Lin-CD45RA-(黒菱形)細胞の種々の数の注射後7週目に分析した1つの胸腺移植片を示す。
【図7−1】図7:CD34+Lin-CD10+細胞で再構成されたSCID-hu胸腺移植片の表現型分析。この代表的な移植片を、9,000のCD34+Lin-CD10+細胞の注射後6週目に分析した。パネルAは、pan-HLAマーカー(W6/32)と組み合わせた宿主細胞に特異的なHLAマーカーの発現を示す。宿主由来T細胞が高MHCクラスI抗原を発現することに注目されたい。パネルBおよびCは、それぞれ宿主のHLAならびにCD1aおよびCD3のHLAの発現を示す。ドナー由来胸腺細胞が高レベルのCD1および段階的な(graded)レベルのCD3を発現することに注目されたい。パネルDは、ドナー細胞でゲートされたCD4およびCD8の発現を示す。
【図7−2】図7:CD34+Lin-CD10+細胞で再構成されたSCID-hu胸腺移植片の表現型分析。この代表的な移植片を、9,000のCD34+Lin-CD10+細胞の注射後6週目に分析した。パネルAは、pan-HLAマーカー(W6/32)と組み合わせた宿主細胞に特異的なHLAマーカーの発現を示す。宿主由来T細胞が高MHCクラスI抗原を発現することに注目されたい。パネルBおよびCは、それぞれ宿主のHLAならびにCD1aおよびCD3のHLAの発現を示す。ドナー由来胸腺細胞が高レベルのCD1および段階的な(graded)レベルのCD3を発現することに注目されたい。パネルDは、ドナー細胞でゲートされたCD4およびCD8の発現を示す。
【図8】図8:時間を横切っての(over time)SDID-hu胸腺アッセイにおける胸腺細胞再構成の定性評価。2,000のCD34+Lin-CD10細胞(斜線棒)および10,000のCD34+Lin-CD10細胞(白棒)細胞注入後4、8および11週目における。胸腺細胞は、ドナー細胞の存在およびCD1aおよびCD3の発現について3色免疫染色により分析された。結果は、CD1a(パネルA)またはCD3(パネルB)±SD(それぞれの時点におけるそれぞれの群に対して、n=4移植片)を発現するドナー細胞の%で表される。
【図9−1】図9:IL-2の存在下で、CD34+Lin-CD45RA+またはCD34+Lin-CD45RA-細胞で開始したAC6.21培養物の代表的な表現型分析。パネルAは、CD56およびCD16に対して染色されたRA+10+細胞の子孫を示す。パネルBは、CD56およびCD16に対して染色されたRA-10-細胞の子孫を示す。パネルCは、CD3およびCD56に対して染色されたRA+細胞の子孫を示す。パネルDは、CD56およびCD33に対して染色されたRA-細胞の子孫を示す。3週間後、CD45RAの培養物中でCD56CD3-CD16-NK細胞を、同定し得た。対照的に、CD45RA-細胞で開始した培養物は、CD56細胞をほとんど含有せず、大部分CD33骨髄細胞から構成された。
【図9−2】図9:IL-2の存在下で、CD34+Lin-CD45RA+またはCD34+Lin-CD45RA-細胞で開始したAC6.21培養物の代表的な表現型分析。パネルAは、CD56およびCD16に対して染色されたRA+10+細胞の子孫を示す。パネルBは、CD56およびCD16に対して染色されたRA-10-細胞の子孫を示す。パネルCは、CD3およびCD56に対して染色されたRA+細胞の子孫を示す。パネルDは、CD56およびCD33に対して染色されたRA-細胞の子孫を示す。3週間後、CD45RAの培養物中でCD56CD3-CD16-NK細胞を、同定し得た。対照的に、CD45RA-細胞で開始した培養物は、CD56細胞をほとんど含有せず、大部分CD33骨髄細胞から構成された。
【図10】図10:4週間目に、IL-2の存在下で、CD34+Lin-CD10+細胞で開始したAC6.21培養物の代表的な表現型分析。パネルAは、大多数の細胞(この場合90%を超える)が、CD56CD3-NK細胞になったことを示している。パネルBは、培養条件がCD14単球またはCD19B細胞への分化を支持しなかったことを示す。
【図11】図11:パネルAは、AC6.21ストローマ+IL-2上のABMCD34+Lin-CD10+細胞培養物に由来するNK細胞の代表的な免疫学的分析を示す。このようなNK細胞は、CD3ではなく、細胞表面CD56を発現する。パネルBは、CD34+Lin-CD10+ABM細胞培養物に由来するNK細胞の、平均的な用量依存性の細胞傷害性(±SD)を実証するK562標的細胞を用いる二つの独立した51Cr放出アッセイの結果を示す。IL-2およびフィトヘマグルチニンの存在下で培養された胎児の胸腺細胞を、コントロールとして用いた。パネルBにおいて、黒四角は、ABMCD34+Lin-CD10+培養物を表し、そして白丸は、胎児のリンパ球培養物を表す。パネルCは、7週間のAC6.21細胞+IL-2上のABMCD10+およびCD10-サブセットの限界希釈分析の結果を示す。ウエルを、検知し得る(バックグランドより1%以上)CD56+CD3-NK細胞の存在について免疫染色し、記録した。パネルCにおいて、白い丸はCD34+Lin-CD10-培養物を表し、黒四角はCD34+Lin-CD10+培養物を表す。
【図12−1】図12:CD34+Lin-CD10+ABM細胞(パネルA、B、C、D)およびCD34+Lin-CD10-ABM細胞(パネルE、F、G、H)で開始した培養物のフローサイトメトリーおよび免疫染色分析の代表的な例。2色染色を行い、ヨウ化プロピジウムを排除する生存細胞上でのCD1a、HLA-DR、CD14およびCD15発現を同定した。
【図12−2】図12:CD34+Lin-CD10+ABM細胞(パネルA、B、C、D)およびCD34+Lin-CD10-ABM細胞(パネルE、F、G、H)で開始した培養物のフローサイトメトリーおよび免疫染色分析の代表的な例。2色染色を行い、ヨウ化プロピジウムを排除する生存細胞上でのCD1a、HLA-DR、CD14およびCD15発現を同定した。
【図12−3】図12:CD34+Lin-CD10+ABM細胞(パネルA、B、C、D)およびCD34+Lin-CD10-ABM細胞(パネルE、F、G、H)で開始した培養物のフローサイトメトリーおよび免疫染色分析の代表的な例。2色染色を行い、ヨウ化プロピジウムを排除する生存細胞上でのCD1a、HLA-DR、CD14およびCD15発現を同定した。
【図12−4】図12:CD34+Lin-CD10+ABM細胞(パネルA、B、C、D)およびCD34+Lin-CD10-ABM細胞(パネルE、F、G、H)で開始した培養物のフローサイトメトリーおよび免疫染色分析の代表的な例。2色染色を行い、ヨウ化プロピジウムを排除する生存細胞上でのCD1a、HLA-DR、CD14およびCD15発現を同定した。
【図13】図13:サイトスピンによりスライド上に沈着させ、Wright-Giemsaで染色した培養細胞(12日目)の顕微鏡写真(対物x100オイル)。A:異なる形態のDCの存在を示すCD34+Lin-CD10+ABM細胞で開始した培養物。B:広範な造血系統の存在を示す、同じABMサンプル由来のCD34+Lin-CD10-細胞で開始した培養物(12日目)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実施例に記載の方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図12−3】
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【図12−4】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−122054(P2006−122054A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342961(P2005−342961)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【分割の表示】特願平8−502123の分割
【原出願日】平成7年3月9日(1995.3.9)
【出願人】(304052318)ノバルティス・アクチエンゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】