説明

高い遮断活性を有する抗C5a結合部分

本発明は、C5a、特にヒトC5aの立体構造エピトープと特異的に結合する結合部分に関する。好ましい結合部分は、この立体構造エピトープと結合する抗C5a抗体である。本明細書に記載される結合部分は、様々な急性疾患及び慢性疾患、特に急性炎症性疾患、例えば全身性炎症反応症候群(SIRS)、並びに敗血症、重度の敗血症、及び敗血症ショックを含む種々の度合いの敗血症の治療及び予防のための医薬組成物における活性作用剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C5a、特にヒトC5aの立体構造エピトープと特異的に結合する結合部分に関する。好ましい結合部分は、この立体構造エピトープと結合する抗C5a抗体である。本明細書に記載される結合部分は、様々な急性疾患及び慢性疾患、特に急性炎症性疾患、例えば全身性炎症反応症候群(SIRS)、並びに敗血症、重度の敗血症、及び敗血症ショックを含む種々の度合いの敗血症の治療及び予防のための医薬組成物における活性作用剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
C5aは、補体の活性化の際にC5から切断される。補体の活性化生成物のうち、C5aは、広範囲の機能を有する最も強力な炎症性ペプチドの1つである(非特許文献1)。C5aは、11.2kDaの分子量を有する、健康なヒトの血液中に存在する糖タンパク質である。C5aのポリペプチド部分は74個のアミノ酸を含有して8.2kDaの分子量に相当し、炭水化物部分はおよそ3kDaに相当する。C5aは、高親和性のC5a受容体(C5aR及びC5L2)によってその効果を発揮する(非特許文献2)。C5aRは、7回膜貫通型セグメントを有するGタンパク質結合型受容体のロドプシン型ファミリーに属する。C5L2は類似しているが、Gタンパク質結合型ではない。現在、C5a−C5L2相互作用に関する生物学的応答はほとんど見出されていないため、C5aは主にC5a−C5aR相互作用によってその生物学的機能を発揮すると考えられている。C5aRは、好中球、好酸球、好塩基球及び単球を含む骨髄細胞、並びに多くの臓器、特に肺及び肝臓における非骨髄細胞において広く発現され、C5a/C5aRシグナル伝達の重要性を示す。C5aは、様々な生物学的機能を有する(非特許文献1)。C5aは、好中球に対する強力な化学誘引物質であり、単球及びマクロファージに対する走化活性も有する。C5aは、好中球における酸化的バースト(O消費)を引き起こし、食作用及び顆粒酵素の放出を増強する。C5aは、血管拡張因子であることも見出されている。C5aは、好中球における接着分子の発現を増強する、様々な細胞型からのサイトカイン発現の変調に関与することが示されている。C5aは、炎症反応連鎖の上流で機能する炎症応答に対する強力な誘導因子及び増強因子であるため、疾患状況において過度に産生された場合、非常に有害となることが見出されている。高用量のC5aは、好中球に対して非特異的な走化性の「脱感作」を引き起こすことによって、広範な機能不全を引き起こす可能性がある(非特許文献3)。
【0003】
C5aが多数の炎症促進性応答を行うことが報告されており、敗血症において有害であることが報告されている。抗体によるC5a又はC5a受容体(C5aR)の阻害が、マウス及びラットの様々な敗血症モデルにおける生存を劇的に改善することが示されている(非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。加えて、様々な報告によって、実験的敗血症における、未損傷の自然免疫及び臓器の機能に対するC5aの有害な効果が実証されている(非特許文献5、非特許文献8、非特許文献3、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13)。C5aはアナフィラトキシンとして作用し、多数の炎症促進効果を発揮することが報告されている。ヒト敗血症においては、様々な研究において高レベルのC5aが顕著な予後の悪化と関連することが報告されている(非特許文献14、非特許文献15、非特許文献16)。
【0004】
敗血症の実験設定において、C5aに対する好中球の曝露によって、好中球機能不全及びシグナル伝達経路の停滞が引き起こされ、NADPHオキシダーゼの集合不全、MAPKシグナル伝達カスケードの停滞、酸化的バースト、食作用及び走化性の大幅な抑制が引き起こされる可能性がある(非特許文献17、非特許文献9)。胸腺細胞のアポトーシス及び遅延化した好中球のアポトーシスは、C5aの存在に依存する、敗血症の発症に関する2つの重要な病理的事象である(非特許文献5、非特許文献18)。実験的敗血症において、C5aは、好中球におけるβ2インテグリン発現を上方調節して、多臓器不全(MOF)の主因の1つである臓器中への細胞遊走を促進する(非特許文献8)。C5aが実験的敗血症において起こる凝固経路の活性化に起因することも見出されている(非特許文献10)。C5aは、ヒト白血球による炎症促進性サイトカイン、例えばTNF−α、IL−β、IL−6、IL−8、及びマクロファージ遊走阻害因子(MIF)の合成及び放出を刺激する(非特許文献19、非特許文献12、非特許文献20)。C5aは、肺胞上皮細胞におけるTNF−α、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)−2、サイトカイン誘導性好中球化学誘引物質(CINC)−1及びIL−1βの産生において、LPSとの強い相乗効果を生じる(非特許文献21、非特許文献22)。補体の活性化が敗血症の開始時に起こる事象であることを考慮すると、C5aは、「炎症性サイトカインストーム」の発生前に作用し始める可能性がある。C5aは、サイトカインネットワークの能力、及び全身性炎症反応症候群(SIRS)の形成を調整する上で主要な役割を果たすと考えられる。実験的敗血症の設定において、C5aの遮断は、MOF及びSIRSを劇的に減弱させる。C5aRの発現の広範な上方調節が敗血症の開始時に起こり、敗血症の齧歯類モデルにおける抗C5a抗体若しくは抗C5aR抗体又はC5aRアンタゴニストによるC5a/C5aR相互作用の遮断によって、非常に保護的な効果がもたらされる(非特許文献4、非特許文献6、非特許文献7)。
【0005】
敗血症の適応に加えて、C5aの遮断が、Klos A. et al(非特許文献23)及びAllegretti M. et al(非特許文献24)によって部分的に概説されたような様々な種における虚血/再灌流損傷、腎疾患、移植片拒絶反応、マラリア、関節リウマチ、感染性腸疾患、炎症性肺疾患、狼瘡様自己免疫疾患、神経変性疾患等の炎症の多くの他のモデルにおいて保護的であることも証明されている。さらに、マウスの腫瘍モデルにおいてC5aの遮断が強い治療的利益を示すことが最近発見された(非特許文献25)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Guo and Ward 2005
【非特許文献2】Ward 2009
【非特許文献3】Huber-Lang et al.2001a
【非特許文献4】Czermak et al.1999
【非特許文献5】Guo et al. 2000
【非特許文献6】Huber-Lang et al.2001b
【非特許文献7】Riedemann et al.2002a
【非特許文献8】Guo et al. 2002
【非特許文献9】Huber-Lang et al.2002
【非特許文献10】Laudes et al.2002
【非特許文献11】Riedemann et al.2003
【非特許文献12】Riedemann et al.2004a
【非特許文献13】Riedemann et al.2004b
【非特許文献14】Bengtson andHeideman 1988
【非特許文献15】Nakae et al.1994
【非特許文献16】Nakae et al.1996
【非特許文献17】Guo et al. 2006a
【非特許文献18】Guo et al. 2006b
【非特許文献19】Hopken et al.1996
【非特許文献20】Strieter et al.1992
【非特許文献21】Riedemann et al.2002b
【非特許文献22】Rittirsch et al.2008
【非特許文献23】Klos et al. 2009
【非特許文献24】Allegretti etal. 2005
【非特許文献25】Markiewski etal. 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
C5のC5a部分と特異的に結合するがC5b部分とは特異的に結合しない抗体が、従来技術から既知である(Klos et al. (1998) J. Immunol. Meth. 111: 241-252、国際公開第01/15731号、国際公開第03/015819号)。
【0008】
しかしながら、過去に作製された抗C5a抗体は、C5aによって誘導される生物学的効果に対して中程度の遮断活性しか示さない。その結果、従来技術の抗C5a抗体は、C5aによって誘導される生物学的効果の完全な遮断を達成することができないか、又はC5a活性の相応に高い遮断を達成するために超化学量論量(superstoichiometric amounts)で使用しなければならなかった。
【0009】
したがって、特に、患者における臨床使用の可能性に鑑み、従来技術において、高い親和性でC5aと特異的に結合し、C5aによって誘導される生物学的効果に対してより強い遮断活性を示す抗C5a抗体又は他の結合部分に対する必要性が依然として存在する。また、好ましくはかかる抗体は、C5bと結合しないものとし、したがってC5bの生物学的活性に影響を及ぼさないものとする。
【0010】
全く驚くべきことに、本発明の発明者らは、上で言及した高度な要求等を満たす対応する結合抗体を用いて、新たな立体構造結合エピトープを特定することができた。本発明の基礎をなす時間のかかる実験において、2000を超える抗体の中から、化学量論量、すなわちC5a 1モル当たり二価抗体0.5モルで利用した場合、C5aによって誘導される生物学的効果に対してかつてない遮断活性を示す2つの抗C5a抗体を作製することができた。
【0011】
上記の概説は必ずしも、本発明によって解決される全ての課題を記載している訳ではない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様では、本発明は、結合部分であって、C5aのアミノ酸配列X1X2ETCEX3RX4(配列番号18)及びX5X6KX7X8X9L(配列番号19)(ここで、X1は、N、H、D、F、K、Y及びTからなる群から選択され、X2は、D、L、Y及びHからなる群から選択され、X3は、Q、E及びKからなる群から選択され、X4は、A、V及びLからなる群から選択され、X5は、S、H、P及びNからなる群から選択され、X6は、H及びNからなる群から選択され、X7は、D、N、H、P及びGからなる群から選択され、X8は、M、L、I及びVからなる群から選択され、X9は、Q、L及びIからなる群から選択される)によって形成される立体構造エピトープと結合する、結合部分に関する。
【0013】
第2の態様では、本発明は、抗体又はその抗原結合断片であって、(i)配列番号6に示されるような重鎖CDR3配列、又は(ii)配列番号7に示されるような重鎖CDR3配列(ここで、該重鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)を含む、抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0014】
第3の態様では、本発明は、医薬組成物であって、(a)第1の態様による結合部分、又は(b)第2の態様による抗体又はその抗原結合断片を含み、1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体、希釈剤、賦形剤、充填剤、結合剤、滑剤、流動促進剤、崩壊剤、吸着剤及び/又は保存料を更に含む、医薬組成物に関する。
【0015】
第4の態様では、本発明は、急性炎症を伴う様々な疾患、例えば全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、重度の敗血症、敗血症ショック、虚血/再灌流関連損傷、例えば虚血性心疾患、急性肺損傷、肺炎、移植患者における急性及び慢性の移植片拒絶反応、移植片対宿主反応、更には慢性型の炎症を伴う疾患、例えば腎糸球体疾患、例えば糸球体腎炎、及びその他の腎不全、関節リウマチ、及び類似の自己免疫疾患、例えばベヒテレフ病、狼瘡型疾患、炎症性腸疾患、クローン病、腫瘍成長、又は固形臓器がんの予防及び/又は治療用の医薬組成物の調製のための、(a)第1の態様による結合部分、又は(b)第2の態様による抗体又はその抗原結合断片の使用に関する。
【0016】
第5の態様では、本発明は、それを必要とする患者において全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、重度の敗血症、敗血症ショック、虚血/再灌流関連損傷、例えば虚血性心疾患、急性肺損傷、肺炎、移植患者における急性及び慢性の移植片拒絶反応、移植片対宿主反応、腎糸球体疾患、例えば糸球体腎炎、及びその他の腎不全、関節リウマチ、及び類似の自己免疫疾患、例えばベヒテレフ病、狼瘡型疾患、炎症性腸疾患、クローン病、腫瘍成長、又は固形臓器がんを治療する方法であって、有効量の(a)第1の態様による結合部分、又は(b)第2の態様による抗体又はその抗原結合断片を該患者に投与することを含む、治療する方法に関する。
【0017】
この本発明の概要は必ずしも、本発明の全ての特質を記載している訳ではない。
【0018】
定義
本発明を以下で詳細に記載する前に、本明細書中に記載する特定の方法論、プロトコル及び試薬は変動し得るので、本発明はこれらに限定されないことを理解すべきである。本明細書中で使用される専門用語が、特定の実施形態を記載するためのものにすぎず、添付した特許請求の範囲のみによって限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも理解すべきである。他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0019】
好ましくは、本明細書中で使用される用語は、"A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPACRecommendations)", Leuenberger, H.G.W, Nagel, B. and Koelbl, H. eds. (1995),Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerlandに記載されているように定義される。
【0020】
以下の本明細書及び添付の特許請求の範囲を通じて、文脈上他に必要な場合以外は、「を含む(comprise)」という単語、並びに「を含む(comprises)」及び「を含む(comprising)」等の変化形は、記載された整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群を包含することを示唆するが、任意の他の整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群を除外することを示唆しないと理解される。
【0021】
複数の文書が、本明細書の文章全体を通じて引用される。本明細書中で引用される文書(全ての特許、特許出願、科学的刊行物、製造業者の仕様書、取扱説明書、GenBankアクセッション番号配列提出書(submissions)等を含む)の各々が、上記のものであるか又は下記のものであるかに関わらず、その全体が参照により本明細書に援用される。本明細書のどの記載も、本発明が従来の発明に基づくかかる開示に先行する権利を有しないことを認めるものと解釈すべきではない。
【0022】
本明細書中で使用する場合、「ヒトC5a」は、以下の74個のアミノ酸のペプチドを表す:
TLQKKIEEIAAKYKHSVVKK CCYDGACVNN DETCEQRAAR ISLGPRCIKA
FTECCVVASQLRANISHKDM QLGR(配列番号1)。
【0023】
「結合部分」という用語は、本明細書中で使用する場合、標的分子又は標的エピトープと特異的に結合することができる任意の分子又は分子の一部を表す。本出願との関連において好ましい結合部分は、(a)抗体又はその抗原結合断片、(b)オリゴヌクレオチド、(c)抗体様タンパク質又は(d)ペプチド模倣物である。本発明を実施するために使用することができる「結合部分」は、2つのアミノ酸配列X1X2ETCEX3RX4(配列番号18)及びX5X6KX7X8X9L(配列番号19)(ここで、X1は、N、H、D、F、K、Y及びTからなる群から選択され、X2は、D、L、Y及びHからなる群から選択され、X3は、Q、E及びKからなる群から選択され、X4は、A、V及びLからなる群から選択され、X5は、S、H、P及びNからなる群から選択され、X6は、H及びNからなる群から選択され、X7は、D、N、H、P及びGからなる群から選択され、X8は、M、L、I及びVからなる群から選択され、X9は、Q、L及びIからなる群から選択される)によって形成される哺乳動物C5aの立体構造エピトープと結合することが可能である。本発明を実施するのに特に好適である「結合部分」は、2つのアミノ酸配列NDETCEQRA(配列番号2)及びSHKDMQL(配列番号3)によって形成されるヒトC5aの立体構造エピトープと結合することが可能である。
【0024】
本明細書中で使用する場合、第1の化合物(例えば抗体)は、該第1の化合物が、1mM以下、好ましくは100μM以下、好ましくは50μM以下、好ましくは30μM以下、好ましくは20μM以下、好ましくは10μM以下、好ましくは5μM以下、より好ましくは1μM以下、より好ましくは900nM以下、より好ましくは800nM以下、より好ましくは700nM以下、より好ましくは600nM以下、より好ましくは500nM以下、より好ましくは400nM以下、より好ましくは300nM以下、より好ましくは200nM以下、更により好ましくは100nM以下、更により好ましくは90nM以下、更により好ましくは80nM以下、更により好ましくは70nM以下、更により好ましくは60nM以下、更により好ましくは50nM以下、更により好ましくは40nM以下、更により好ましくは30nM以下、更により好ましくは20nM以下、更により好ましくは10nM以下の第2の化合物(例えば抗原、例えば標的タンパク質)に対する解離定数Kを有する場合、上記第2の化合物と「結合」するとみなされる。
【0025】
本発明による「結合」という用語は好ましくは、特異的結合に関する。「特異的結合」は、結合部分(例えば抗体)が、別の標的との結合と比較して特異的な標的(例えばエピトープ)とより強く結合することを意味する。結合部分は、該結合部分が第2の標的に対する解離定数より低い解離定数(K)で第1の標的と結合する場合、第2の標的と比較して第1の標的とより強く結合する。好ましくは、結合部分が特異的に結合する標的に対する解離定数(K)は、該結合部分が特異的に結合しない標的に対する解離定数(K)より10倍超、好ましくは20倍超、より好ましくは50倍超、更により好ましくは100倍超、200倍超、500倍超又は1000倍超低い。
【0026】
本明細書中で使用する場合、「K」(「mol/L」(「M」と略されることもある)で測定される)という用語は、結合部分(例えば抗体又はその断片)と標的分子(例えば抗原又はそのエピトープ)との間の特定の相互作用の解離平衡定数を表すことを意図する。
【0027】
抗原決定基としても知られる「エピトープ」は、免疫系によって、具体的には抗体、B細胞又はT細胞によって認識される高分子の一部である。本明細書中で使用する場合、「エピトープ」は、本明細書に記載されるような結合部分(例えば抗体又はその抗原結合断片)と結合することが可能な高分子の一部である。これとの関連で、「結合」という用語は好ましくは、特異的結合に関する。エピトープは、通常、アミノ酸又は糖側鎖等の分子の化学的に活性な表面の基からなり、通常、特定の三次元構造特徴、及び特定の電荷特徴を有する。立体構造エピトープ及び非立体構造エピトープは、変性溶媒の存在下で立体構造エピトープとの結合は失われるが、非立体構造エピトープとの結合は失われない点において区別される。
【0028】
本明細書中で使用する場合、「立体構造エピトープ」は、直鎖高分子(例えばポリペプチド)のエピトープであって、上記高分子の三次元構造によって形成される、直鎖高分子のエピトープを表す。本出願との関連において、「立体構造エピトープ」は、「不連続エピトープ」、すなわち高分子の一次配列(例えばポリペプチドのアミノ酸配列)における少なくとも2つの別々の領域から形成される高分子(例えばポリペプチド)における立体構造エピトープである。換言すれば、エピトープは、該エピトープが本発明の結合部分(例えば抗体又はその抗原結合断片)が同時に結合する一次配列における少なくとも2つの別々の領域(これらの少なくとも2つの別々の領域には、本発明の結合部分が結合しない一次配列におけるもう1つの領域が割り込んでいる)からなる場合、本発明との関連における「立体構造エピトープ」であるとみなされる。好ましくは、かかる「立体構造エピトープ」はポリペプチド上に存在し、一次配列における2つの別々の領域は、本発明の結合部分(例えば抗体又はその抗原結合断片)が結合する2つの別々のアミノ酸配列(これらの少なくとも2つの別々のアミノ酸配列には、本発明の結合部分が結合しない一次配列におけるもう1つのアミノ酸配列が割り込んでいる)である。好ましくは、割り込むアミノ酸配列は、結合部分が結合しない2つ以上のアミノ酸を含む、連続するアミノ酸配列である。本発明の結合部分が結合する少なくとも2つの別々のアミノ酸配列は、その長さに関して特に限定されない。上記少なくとも2つの別々のアミノ酸配列内のアミノ酸の総数が結合部分と立体構造エピトープとの間の特異的結合を達成するのに十分に大きいものであれば、かかる別々のアミノ酸配列は、1個のアミノ酸のみからなっていてもよい。
【0029】
「パラトープ」は、エピトープを認識する抗体の一部である。本発明との関連では、「パラトープ」は、エピトープを認識する本明細書に記載されるような結合部分(例えば抗体又はその抗原結合断片)の一部である。
【0030】
「抗体」という用語は典型的には、ジスルフィド結合によって相互連結された少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖、又はその抗原結合部分を含む糖タンパク質を表す。「抗体」という用語は、全ての組換え型の抗体、特に本明細書に記載される抗体、例えば原核生物において発現される抗体、非グリコシル化抗体、並びに以下で記載されるような任意の抗原に結合する抗体断片及び誘導体も含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてVH又はVと略される)及び重鎖定常領域を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてVL又はVと略される)及び軽鎖定常領域を含む。VH領域及びVL領域は、より保存性の高い領域(フレームワーク領域(FR)と称される)によって散在した、超可変性を有する領域(相補性決定領域(CDR)と称される)に更に細分することができる。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端まで以下の順序で配列した、3つのCDR及び4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)、及び古典的な補体系の第1の成分(C1q)を含む宿主組織又は因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0031】
抗体の「抗原結合断片」(又は単に「結合部分」)という用語は、本明細書中で使用する場合、抗原と特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ又は複数の断片を表す。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片によって発揮され得ることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語内に包含される結合断片の例は、(i)Fab断片、すなわちVLドメイン、VHドメイン、CLドメイン及びCHドメインからなる一価の断片、(ii)F(ab’)断片、すなわちヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片、(iii)VHドメイン及びCHドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一アームのVLドメイン及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al., (1989) Nature 341: 544-546)、(vi)単離相補性決定領域(CDR)、並びに(vii)合成リンカーによって任意に連結することができる2つ以上の単離CDRの組合せを含む。さらに、Fv断片の2つのドメイン(VL及びVH)は別々の遺伝子によってコードされるが、これらは、組換え法を使用して、VL領域及びVH領域が対になって一価の分子(一本鎖Fv(scFv)として知られる。例えば、Bird et al. (1988) Science 242: 423-426、及びHustonet al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883を参照されたい)を形成する単一のタンパク質鎖としてこれらを作製することを可能とする合成リンカーによって連結することができる。かかる一本鎖抗体は、抗体の「抗原結合断片」という用語内に包含されることも意図する。更なる例は、(i)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドと融合した結合ドメインポリペプチド、(ii)該ヒンジ領域と融合した免疫グロブリン重鎖CH2定常領域、及び(iii)該CH2定常領域と融合した免疫グロブリン重鎖CH3定常領域を含む、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質である。結合ドメインポリペプチドは、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域であり得る。結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質は、米国特許出願公開第2003/0118592号及び米国特許出願公開第2003/0133939号に更に開示されている。これらの抗体断片は、当業者に既知の従来の技法を使用して取得され、該断片は、インタクトな抗体がスクリーニングされるのと同じ方法で有用性に関してスクリーニングされる。「抗原結合断片」の更なる例は、単一のCDRから得られるいわゆるマイクロ抗体である。例えば、Heap et al., 2005は、HIV−1のgp120エンベロープ糖タンパク質に指向性を有する抗体の重鎖CDR3由来の17個のアミノ酸残基のマイクロ抗体を記載している。他の例は、好ましくは同族の(cognate)フレームワーク領域によって、互いに融合した2つ以上のCDR領域を含む小抗体模倣物を含む。同族のVのFR2によって連結したVのCDR1及びVのCDR3を含むかかる小抗体模倣物は、Qiu et al., 2007によって記載されている。
【0032】
したがって、「抗体又はその抗原結合断片」という用語は、本明細書中で使用する場合、免疫グロブリン分子、及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち抗原と免疫特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子を表す。例えば、標的分子又は標的エピトープと、例えばアミノ酸配列X1X2ETCEX3RX4(配列番号18)及びX5X6KX7X8X9L(配列番号19)(ここで、X1は、N、H、D、F、K、Y及びTからなる群から選択され、X2は、D、L、Y及びHからなる群から選択され、X3は、Q、E及びKからなる群から選択され、X4は、A、V及びLからなる群から選択され、X5は、S、H、P及びNからなる群から選択され、X6は、H及びNからなる群から選択され、X7は、D、N、H、P及びGからなる群から選択され、X8は、M、L、I及びVからなる群から選択され、X9は、Q、L及びIからなる群から選択される)によって形成されるC5aの立体構造エピトープと、又は配列番号2によるアミノ酸配列及び配列番号3によるアミノ酸配列によって形成されるヒトC5aの立体構造エピトープと、又はアミノ酸配列DETCEQR(配列番号4)及びKDMによって形成されるヒトC5aの立体構造エピトープと特異的に結合させるファージディスプレイを含む技法によって選択される免疫グロブリン様タンパク質も含まれる。本発明の免疫グロブリン分子は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、クラス(例えばIgG1、IgG2、好ましくはIgG2a及びIgG2b、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はサブクラスのものであり得る。
【0033】
本発明において使用可能な抗体及びその抗原結合断片は、鳥及び哺乳動物を含む任意の動物起源由来であり得る。好ましくは、抗体又は断片は、ヒト、チンパンジー、齧歯類(例えばマウス、ラット、モルモット又はウサギ)、ニワトリ、シチメンチョウ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ウシ、ウマ、ロバ、ネコ又はイヌ起源由来である。抗体がヒト又はマウス起源のものであることが特に好ましい。本発明の抗体は、1つの種、好ましくはヒト由来の抗体定常領域を別の種、例えばマウス由来の抗原結合部位と組み合わせたキメラ分子も含む。さらに、本発明の抗体は、非ヒト種(例えばマウス)由来の抗体の抗原結合部位をヒト起源の定常領域及びフレームワーク領域と組み合わせたヒト化分子を含む。
【0034】
本明細書で例示されるように、本発明の抗体は、該抗体を発現するハイブリドーマから直接取得することができ、又はクローニングして、宿主細胞(例えばCHO細胞又はリンパ球細胞)において組換え的に発現させることができる。宿主細胞の更なる例は、微生物、例えば大腸菌及び真菌、例えば酵母である。代替的には、該抗体をトランスジェニック非ヒト動物又は植物において組換え的に作製することができる。
【0035】
「キメラ抗体」という用語は、重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列の各々の一部分が、特定の種由来の又は特定のクラスに属する抗体中の対応する配列に対して相同であり(homologous)、該鎖の残りのセグメントが別の種又はクラスの抗体中の対応する配列に対して相同である抗体を表す。典型的には、軽鎖及び重鎖の両方の可変領域は哺乳動物の1つの種由来の抗体の可変領域を模倣し、定常部分は別の種由来の抗体の配列に対して相同である。かかるキメラ形態の明らかな利点の1つは、例えばヒト細胞調製物由来の定常領域と組み合わせて、可変領域を、非ヒト宿主生物から容易に入手可能なB細胞又はハイブリドーマを使用して、現在既知の供給源から都合良く得ることができることである。この可変領域は調製し易いという利点を有しており、その特異性は供給源によって影響されない一方で、ヒト種のものである定常領域は、非ヒト供給源由来の定常領域の場合よりも、抗体を注入した場合にヒト被験体から免疫応答を誘発する可能性が低い。しかしながら、この定義はこの特定の例に限定されない。
【0036】
「ヒト化抗体」という用語は、実質的に非ヒト種由来の免疫グロブリン由来の抗原結合部位を有する分子であって、該分子の残りの免疫グロブリン構造がヒト免疫グロブリンの構造及び/又は配列に基づくものである、分子を表す。抗原結合部位は、定常ドメイン上に融合した完全な可変ドメイン、又は可変ドメインにおける適切なフレームワーク領域上にグラフティングした相補性決定領域(CDR)のみのいずれかを含み得る。抗原結合部位は、野生型であってもよく、又は1つ若しくは複数のアミノ酸置換によって変更されていてもよく、例えばより密接にヒト免疫グロブリンに類似するように変更されていてもよい。ヒト化抗体の幾つかの形態は、全てのCDR配列を保存している(例えば、マウス抗体由来の6つのCDRを全て含有するヒト化マウス抗体)。他の形態は、元の抗体に対して変化させた1つ又は複数のCDRを有する。
【0037】
Almagro& Fransson, 2008(その内容はその全体が参照によって本明細書に援用される)によって概説されるように、抗体をヒト化する種々の方法が当業者に既知である。Almagro & Franssonによる総説を以下に簡潔に要約する。Almagro& Franssonは、理論的アプローチと経験的アプローチとを区別している。理論的アプローチは、改変した抗体の僅かな変異体を作製するとともに、その結合又は対象となる任意の他の特性を評価することを特徴とする。設計した変異体が期待された結果をもたらさない場合、設計及び結合評価の新たなサイクルを開始する。理論的アプローチは、CDRグラフティング、リサーフェシング(Resurfacing)、超ヒト化(Superhumanization)及びヒトストリング含有量最適化(Human String Content Optimization)を含む。対照的に、経験的アプローチは、ヒト化変異体の大規模ライブラリの作製、及び濃縮技術又はハイスループットスクリーニングを使用する最良のクローンの選択に基づいている。したがって、経験的アプローチは、抗体変異体の広大な空間全体にわたり探索することが可能である、確実な選択及び/又はスクリーニング系に依存する。in vitroのディスプレイ技術、例えばファージディスプレイ及びリボソームディスプレイは、これらの要求を満たし、当業者に既知である。経験的アプローチは、FRライブラリ、誘導選択(Guided selection)、フレームワークシャッフリング(Framework-shuffling)及びヒューマニアリング(Humaneering)を含む。
【0038】
CDRグラフティング
CDRグラフティングプロトコルは典型的には、3つの意思決定点を含む:(1)ドナー抗体、すなわちグラフティングの標的の特異性を決定する領域の規定、(2)FRドナーとして利用されるヒト配列の供給源の特定、及び(3)特異性を規定する領域以外の残基の選択、すなわちヒト化抗体の親和性を回復させる又は改善するための復帰突然変異の標的であるアミノ酸位置の決定。
【0039】
(1)抗体の特異性を決定する領域
抗原と複合体を形成している非ヒト抗体の実験的構造によって、抗原と接触している残基、及びひいてはその特異性の決定に関与する残基の詳細なマップがもたらされる。構造情報を、アラニン走査突然変異誘発及び/又はコンビナトリアル突然変異誘発によって補って、結合エネルギー又は機能的パラトープに最も寄与する残基を特定することができる。機能的パラトープは接触している残基のサブセットであるため、機能的パラトープのみをグラフティングすることによって、ヒト化生成物における非ヒト残基の数が低減すると考えられる。しかしながら、抗原−抗体複合体及び/又は機能的パラトープの実験的構造がヒト化プロトコルの開始時に利用可能であることは極めて稀である。所与の抗体の特異性に関与する残基の正確な規定がない場合、特異性を規定する領域としてCDRが利用されることが多い。グラフティングのための標的としてCDR及びHVループの組合せを使用することも可能である。ヒトFR上にグラフティングされる残基の数を低減するために、SDRグラフティング、すなわち特異性決定残基(SDR)のグラフティングが説明されている。
【0040】
(2)ヒトFRの供給源
典型的なCDRグラフティングプロトコルにおける第2工程は、ヒトFRドナーを特定することである。初期の作業は、非ヒト抗体に対するその相同性に関わらず、既知の構造のヒト抗体のFRを利用するものであった。このアプローチは、「固定FR法」として知られている。後期の作業は、非ヒト抗体に対して最高の相同性を有するヒト配列を使用するものであった。このアプローチは、「ベスト・フィット」と称されている。「ベスト・フィット」戦略はより高い親和性を有する抗体をもたらす傾向があるが、ヒト化のためのFRを選ぶ際には、低免疫原性及び生産収率等の他のパラメータも考慮に入れなければならない。したがって、「ベスト・フィット」及び「固定FR」の組合せも考え得る。例えば、V部分を固定FR法によってヒト化することができ、V部分をベスト・フィット法によってヒト化することができ、又はその逆も考えられる。
【0041】
成熟配列及び生殖系列配列というヒト配列の2つの供給源が利用されている。免疫応答の産物である成熟配列は、ランダムプロセスによって生じる体細胞突然変異を保有し、種の選択下にはなく、潜在的な免疫原性残基をもたらす。したがって、免疫原性残基を回避するために、FRドナーの供給源としてのヒト生殖系列遺伝子の利用が増大している。ヒト生殖系列FRのヌクレオチド配列が、例えばDall’Acqua et al, 2005による論文の付録A及び付録Bに開示されている。さらに、生殖系列遺伝子に基づく抗体は、成熟抗体と比較してより柔軟な傾向がある。このより高い柔軟性は、多様なCDRを、ヒト化抗体の親和性(affinity)を回復させるためのFR中の復帰突然変異をほとんど又は全く伴わずに、より良好に適合させると考えられる。
【0042】
(3)親和性を回復させる又は増強するための復帰突然変異
一般的には、非ヒトCDRとヒトFRとの間の不適合の結果として、CDRグラフティング後に親和性は減少する。したがって、典型的なCDRグラフティングプロトコルにおける第3工程は、親和性喪失を回復させる又は防止すると考えられる突然変異を規定することである。復帰突然変異は、ヒト化抗体の構造又はモデルに基づいて慎重に設計し、実験的に試験しなければならない。WAMと称される自動化抗体モデリングに関するウェブサイトを、URL:http://antibody.bath.ac.ukに見出すことができる。タンパク質構造モデリングに関するソフトウェアを、次のサイト:http://salilab.org/modeller/modeller.html(Modeller)及びhttp://spdbv.vital-it.ch(Swiss PdbViewer)でダウンロードすることができる。
【0043】
リサーフェシング
リサーフェシングは、CDRグラフティングに類似しており、最初の2つの意思決定点を共有する。CDRグラフティングとは対照的に、リサーフェシングは、非ヒト抗体の露出しない残基を保持する。非ヒト抗体における表面残基のみがヒト残基へと変化する。
【0044】
超ヒト化
CDRグラフティングは非ヒト配列とヒト配列との間のFRの比較によるものであるが、超ヒト化はCDRの比較に基づくものであるため、FRの相同性は無関係である。このアプローチは、機能的ヒト生殖系列遺伝子レパートリーとの非ヒト配列の比較を含む。次いで、マウスの配列と同じ又は密接に関連したカノニカル構造をコードするこれらの遺伝子を選択する。次に、非ヒト抗体とカノニカル構造を共有する遺伝子内において、CDR内で最高の相同性を有するものをFRドナーとして選ぶ。最後に、これらのFR上に非ヒトCDRをグラフティングする。
【0045】
ヒトストリング含有量最適化
このアプローチは、ヒトストリング含有量(HSC)と称される、抗体に関する尺度「人間性」に基づくものである。簡潔に述べると、このアプローチは、マウスの配列をヒト生殖系列遺伝子のレパートリーと比較する。差異をHSCとしてスコア化する。全体的な同一性尺度を使用するのではなくそのHSCを最大化することによって標的配列をヒト化して、複数の多様なヒト化変異体を作製する。
【0046】
フレームワークライブラリ(略してFRライブラリ)
FRライブラリアプローチでは、残基変異体の集合物をFR中の特定の位置で導入した後、ライブラリのパニングを行い、グラフティングしたCDRを最も良好に支持するFRを選択する。したがって、このアプローチはCDRグラフティングに類似するが、FR中に数個の復帰突然変異を創出する代わりに、典型的には100個を超える突然変異体のコンビナトリアルライブラリを構築する。
【0047】
誘導選択
このアプローチは、特定の抗原に特異的な所与の非ヒト抗体のVドメイン又はVドメインを、ヒトのV及びVのライブラリと組み合わせることを含む。その後、対象となる抗原に対して特異的なヒトVドメインを選択する。例えば、最初に非ヒトVをヒト軽鎖のライブラリと組み合わせることによって、非ヒト抗体をヒト化することができる。次いで、ファージディスプレイによって標的抗原に対してライブラリを選択し、選択したVをヒトV鎖のライブラリ中にクローニングし、標的抗原に対して選択する。非ヒトVをヒト重鎖のライブラリと組み合わせることから開始することも可能である。次いで、ファージディスプレイによって標的抗原に対してライブラリを選択し、選択したVをヒトV鎖のライブラリ中にクローニングし、標的抗原に対して選択する。結果として、非ヒト抗体と同様の親和性を有する完全なヒト抗体を単離することができる。エピトープドリフトの発生を回避するために、親抗体と同じエピトープを認識するクローンの選択を可能とするいわゆる阻害ELISAを実行することが可能である。代替的には、CDR保持法を適用して、エピトープドリフトを回避することができる。CDR保持法では、1つ又は複数の非ヒトCDRが保持され、好ましくは、重鎖CDR3は抗原結合部位の中心にあるため重鎖CDR3が保持される。
【0048】
フレームワークシャッフリング(略してFRシャッフリング)
FRシャッフリングアプローチでは、FR全体を非ヒトCDRと組み合わせる。FRシャッフリングを使用して、Dall’Acqua及び共同研究者らは、マウス抗体をヒト化した。マウス抗体の6つの全てのCDRをヒト生殖系列遺伝子のFRを全て含有するライブラリ中にクローニングした(Dall’Acqua et al., 2005)。ライブラリを、最初にVを、その後Vをヒト化する2工程選択プロセスにおいて結合に関してスクリーニングした。その後の研究において、1工程FRシャッフリングプロセスを使用することに成功した(Damschroder et al., 2007)。全ての既知のヒト生殖系列軽鎖(κ)フレームワークをコードするオリゴヌクレオチド配列が、Dall’Acqua et al., 2005(付録A)に開示されている。全ての既知のヒト生殖系列重鎖フレームワークをコードするオリゴヌクレオチド配列が、Dall’Acqua et al., 2005(付録B)に開示されている。
【0049】
ヒューマニアリング
ヒューマニアリングによって、ヒト生殖系列遺伝子抗体に対して91%〜96%相同である抗体の単離が可能となる。この方法は、本質的な最小特異性決定基(MSD)の実験的な特定、並びにヒトFRのライブラリ中への非ヒト断片の配列の置き換え及び結合の評価に基づくものである。この方法は、非ヒトV鎖及びV鎖のCDR3の領域から開始され、V及びVの両方のCDR1及びCDR2を含む非ヒト抗体の他の領域をヒトFRへと進行的に置き換える。
【0050】
上で説明される抗体をヒト化する方法は、本明細書に記載される立体構造エピトープと特異的に結合するヒト化抗体を作製する場合に好ましい。しかしながら、本発明は、上で言及される抗体をヒト化する方法に限定されない。
【0051】
上で言及されるヒト化方法の幾つか、すなわち「固定FR法」(CDRグラフティングの変法)、超ヒト化、フレームワークシャッフリング及びヒューマニアリングは、ドナー抗体中のFR配列についての情報を用いずとも行うことができる。「固定FR法」の変形形態は、Qin et al., 2007及びChang et al., 2007によって実施が成功した。特に、Qin et al.は、3つのCDR領域をマウス抗体のCDR配列由来の抗原ペプチドによって置き換えたヒト重鎖可変領域を含む抗体断片を構築した。Chang et al.は、これらの実験を継続し、V部分由来の全てのCDR及びV部分由来のCDR3をマウス抗体のCDR配列由来の抗原ペプチドによって置き換えたscFv断片を構築した。
【0052】
本明細書中で使用する場合、「ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変領域及び定常領域を有する抗体を含む。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、in vitroでランダム突然変異誘発若しくは部位特異的突然変異誘発によって、又はin vivoで体細胞突然変異によって導入される突然変異)を含んでいてもよい。本発明のヒト抗体は、ヒト免疫グロブリンライブラリから、又は例えばKucherlapati & Jakobovitsによる米国特許第5,939,598号に記載されるような、1つ若しくは複数のヒト免疫グロブリンを遺伝子導入し、内在性免疫グロブリンを発現しない動物から単離される抗体を含む。
【0053】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書中で使用する場合、単一分子組成の抗体分子の調製物を表す。モノクローナル抗体は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性及び親和性を示す。1つの実施の形態では、モノクローナル抗体は、不死化細胞と融合した非ヒト動物(例えばマウス)から得られるB細胞を含むハイブリドーマによって産生される。
【0054】
「組換え抗体」という用語は、本明細書中で使用する場合、組換え手段によって調製、発現、創出又は単離される全ての抗体、例えば(a)免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニック若しくはトランスクロモソーマルである動物(例えばマウス)、又はそれから調製されるハイブリドーマから単離される抗体、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞、例えばトランスフェクトーマから単離される抗体、(c)組換えコンビナトリアル抗体ライブラリから単離される抗体、及び(d)免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって調製、発現、創出又は単離される抗体を含む。
【0055】
「トランスフェクトーマ」という用語は、本明細書中で使用する場合、抗体を発現する組換え真核生物宿主細胞、例えばCHO細胞、NS/0細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、植物細胞、又は酵母細胞を含む真菌を含む。
【0056】
本明細書中で使用する場合、「異種抗体」は、かかる抗体を産生するトランスジェニック生物との関係において定義される。この用語は、トランスジェニック生物からなるものでない生物中に見出されるものに対応するアミノ酸配列又はコードする核酸配列を有する、一般的にトランスジェニック生物以外の種由来の抗体を表す。
【0057】
本明細書中で使用する場合、「ヘテロハイブリッド抗体」は、異なる生物起源の軽鎖及び重鎖を有する抗体を表す。例えば、マウス軽鎖と結合したヒト重鎖を有する抗体は、ヘテロハイブリッド抗体である。
【0058】
したがって、本発明における使用に好適な「抗体及びその抗原結合断片」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一価抗体、二重特異性抗体、ヘテロコンジュゲート抗体、多重特異性抗体、組換え抗体、異種抗体、ヘテロハイブリッド抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体(特にCDRグラフティングを行った抗体)、脱免疫化(deimmunized)抗体若しくはヒト抗体、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、Fab発現ライブラリによって作製される断片、Fd、Fv、ジスルフィド結合したFv(dsFv)、一本鎖抗体(例えばscFv)、ダイアボディ又はテトラボディ(Holliger P. et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90(14),6444-6448)、ナノボディ(単一ドメイン抗体としても知られる)、抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば本発明の抗体に対する抗Id抗体を含む)、及び上記のいずれかのエピトープ結合断片を含むが、これらに限定されない。
【0059】
本明細書に記載される抗体は、好ましくは単離されている。「単離抗体」は、本明細書中で使用する場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を表すことを意図する(例えば、C5aと特異的に結合する単離抗体は、C5a以外の抗原と特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、ヒトC5aのエピトープ、アイソフォーム又は変異体と特異的に結合する単離抗体は、例えば他の種由来の他の関連抗原(例えばC5aの種相同体、例えばラットC5a)との交差反応性を有し得る。さらに、単離抗体は、他の細胞性物質及び/又は化学物質を実質的に含まない場合もある。本発明の1つの実施の形態では、「単離」モノクローナル抗体の組合せは、異なる特異性を有し、十分に規定される組成で組み合わせられる抗体に関する。
【0060】
「天然」という用語は、或る対象物に適用されるものとして本明細書中で使用する場合、対象物を自然中に見出すことができることを表す。例えば、自然中の供給源から単離することができる生物(ウイルスを含む)中に存在し、実験室において人間によって意図的に変更されていないポリペプチド配列又はポリヌクレオチド配列は天然のものである。
【0061】
本明細書中で使用する場合、「核酸アプタマー」という用語は、in vitro選択の繰り返し又はSELEX(試験管内進化法)により標的分子と結合するように改変された核酸分子を表す(概説に関してはBrody E.N. and Gold L.(2000), Aptamers as therapeutic and diagnosticagents. J. Biotechnol. 74 (1):5-13を参照されたい)。核酸アプタマーはDNA分子又はRNA分子であり得る。アプタマーは、例えば修飾ヌクレオチド、例えば2’−フッ素置換ピリミジンのように修飾を含有していてもよい。
【0062】
本明細書中で使用する場合、「抗体様タンパク質」という用語は、標的分子と特異的に結合するように改変された(例えばループの突然変異誘発により)タンパク質を表す。典型的には、かかる抗体様タンパク質は、両端でタンパク質骨格と結合した少なくとも1つの可変ペプチドループを含む。この二重の構造的制約により、抗体様タンパク質の結合親和性が抗体の結合親和性に匹敵するレベルまで大幅に増大する。可変ペプチドループの長さは典型的には、10個〜20個のアミノ酸からなる。骨格タンパク質は、良好な溶解特性を有する任意のタンパク質であり得る。好ましくは、骨格タンパク質は小さい球状タンパク質である。抗体様タンパク質は、アフィボディ(affibodies)、アンチカリン(anticalins)、及び設計されたアンキリン反復タンパク質(概説に関してはBinz H.K. et al.(2005) Engineering novel binding proteins fromnonimmunoglobulin domains. Nat. Biotechnol. 23(10):1257-1268を参照されたい)を含むがこれらに限定されない。抗体様タンパク質は、突然変異体の大規模ライブラリ由来のものであってもよく、例えば大規模ファージディスプレイライブラリから選択して(panned)もよく、正規の抗体と同様に単離してもよい。また、抗体様結合タンパク質を、球状タンパク質の表面露出残基のコンビナトリアル突然変異誘発により得ることができる。抗体様タンパク質は「ペプチドアプタマー」と呼ばれることもある。
【0063】
本明細書中で使用する場合、「ペプチド模倣物」は、ペプチドを模倣するように設計される小さいタンパク質様の鎖である。ペプチド模倣物は典型的には、分子の特性を変化させるための既存のペプチドの修飾によって生じる。例えば、ペプチド模倣物は、分子の安定性又は生物学的活性を変化させるための修飾によって生じ得る。これは、既存のペプチド由来の薬剤様化合物の開発において一定の役割を有し得る。これらの修飾は、自然には起こらないペプチドに対する変化(例えば、骨格の変化、及び非天然アミノ酸の組込み)を含む。
【0064】
「保存的置換」は、例えば、関与するアミノ酸残基の極性、電荷、サイズ、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性の類似性に基づいて行われ得る。アミノ酸は、以下の6つの標準的なアミノ酸群に分類することができる:
(1)疎水性:Met、Ala、Val、Leu、Ile、
(2)中性、親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln、
(3)酸性:Asp、Glu、
(4)塩基性:His、Lys、Arg、
(5)鎖の配向性に影響を及ぼす残基:Gly、Pro、及び
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
本明細書中で使用する場合、「保存的置換」は、上で示される6つの標準的なアミノ酸群の同じ群内に列挙される別のアミノ酸による、或るアミノ酸の交換と定義される。例えば、GluによるAspの交換によって、そのように変更されたポリペプチドにおける1つの負電荷は保持される。加えて、グリシン及びプロリンを、α−ヘリックスを破壊するその能力に基づき互いに置換することができる。上の6つの群内における幾つかの好ましい保存的置換は、以下の下位群内における交換である:(i)Ala、Val、Leu及びIle、(ii)Ser及びThr、(ii)Asn及びGln、(iv)Lys及びArg、並びに(v)Tyr及びPhe。既知の遺伝コード、並びに組換えDNA技法及び合成DNA技法を踏まえて、熟練した科学者は、保存的アミノ酸変異体をコードするDNAを容易に構築することができる。
【0065】
本明細書中で使用する場合、「非保存的置換」又は「非保存的アミノ酸交換」は、上で示される6つの標準的なアミノ酸群(1)〜(6)の異なる群に列挙される別のアミノ酸による、或るアミノ酸の交換と定義される。
【0066】
「生物学的活性」は、本明細書中で使用する場合、酵素活性、別の化合物との結合活性(例えば別のポリペプチドとの結合、特に受容体との結合、又は核酸との結合)、阻害活性(例えば酵素阻害活性)、活性化活性(例えば酵素活性化活性)、又は毒性効果を含むがこれらに限定されない、或るポリペプチドが示し得る任意の活性を表す。ポリペプチドの変異体及び誘導体に関して、変異体又は誘導体がかかる活性を親ポリペプチドと同程度示すことは必要とされない。変異体は、親ポリペプチドの活性の少なくとも10%程度、関連する活性を示す場合、本出願との関連内における変異体とみなされる。同様に、誘導体は、親ポリペプチドの活性の少なくとも10%程度、関連する生物学的活性を示す場合、本出願との関連内における誘導体とみなされる。関連する「生物学的活性」は、本発明との関連では、アミノ酸配列X1X2ETCEX3RX4(配列番号18)及びX5X6KX7X8X9L(配列番号19)(ここで、X1は、N、H、D、F、K、Y及びTからなる群から選択され、X2は、D、L、Y及びHからなる群から選択され、X3は、Q、E及びKからなる群から選択され、X4は、A、V及びLからなる群から選択され、X5は、S、H、P及びNからなる群から選択され、X6は、H及びNからなる群から選択され、X7は、D、N、H、P及びGからなる群から選択され、X8は、M、L、I及びVからなる群から選択され、X9は、Q、L及びIからなる群から選択される)によって形成されるC5aの立体構造エピトープとの結合活性である。特に関連する「生物学的活性」は、本発明との関連では、配列番号2によるアミノ酸配列及び配列番号3によるアミノ酸配列によって形成されるヒトC5aの立体構造エピトープとの結合活性である。好ましくは、関連する「生物学的活性」は、本発明との関連では、アミノ酸配列DETCEQR(配列番号4)及びKDMによって形成されるヒトC5aの立体構造エピトープとの結合活性である。結合活性を決定するためのアッセイは、当業者に既知であり、実施例の節において記載されるもの等のELISAを含む。
【0067】
本明細書中で使用する場合、「患者」は、本明細書に記載される標的結合部分による治療から利益を受け得る任意の哺乳動物又は鳥を意味する。好ましくは、「患者」は、実験動物(例えばマウス又はラット)、家畜動物(例えばモルモット、ウサギ、ニワトリ、シチメンチョウ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ウシ、ウマ、ロバ、ネコ又はイヌを含む)、又はチンパンジー及び人間を含む霊長類からなる群から選択される。「患者」は人間であることが特に好ましい。
【0068】
米国胸部専門医学会(American College of Chest Physicians)及び米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine)(Bone R.C.et al. (1992). "Definitions for sepsis and organ failure and guidelinesfor the use of innovative therapies in sepsis. The ACCP/SCCM ConsensusConference Committee. American College of Chest Physicians/Society of CriticalCare Medicine". Chest 101 (6): 1644-55)によれば、種々のレベルの敗血症が存在する:
全身性炎症反応症候群(SIRS):以下の所見のうち2つ以上の存在によって定義される:
体温<36℃(97°F)、又は>38℃(100°F)(低体温又は発熱)。
心拍>毎分100回(頻脈)。
呼吸数>毎分20回、又は血液ガスにおいてP COが32mmHg(4.3kPa)未満(頻呼吸、又は過剰換気による低炭酸ガス症)。
白血球数<4000細胞/mm、若しくは>12000細胞/mm(<4×10細胞/L、若しくは>12×10細胞/L)、又は10%を超える桿状球(band forms)(未熟な白血球)。(白血球減少症、白血球増加症又は多桿状球血液症(bandemia))。
敗血症:確認された感染プロセスに応答したSIRSと定義される。感染は、疑わしいものであっても、若しくは(培養、染色又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって)証明済みのものであってもよく、又は感染に特徴的な臨床症候群であってもよい。感染の具体的な証拠は、通常は無菌状態の液(例えば尿又は脳脊髄液(CSF))中のWBC、内蔵の穿孔の証拠(腹部のx線又はCTスキャンによる自由空気流、急性腹膜炎の徴候)、肺炎と一致する異常な胸部x線(CXR)(局所不透明化を伴う)、又は点状出血、紫斑病若しくは電撃性紫斑病を含む。
重度の敗血症:臓器機能不全、低灌流又は低血圧を伴う敗血症と定義される。
敗血症ショック:十分な輸液蘇生にも関わらず難治性動脈低血圧又は低灌流異常を伴う敗血症と定義される。全身性低灌流の徴候は、終末器官機能不全、又は4mmol/dLを超える血清乳酸であり得る。他の徴候は、乏尿症及び精神状態の変化を含む。患者は、積極的な(aggressive)輸液蘇生(典型的には6リットル又は40ml/kgのクリスタロイドを超える)後に敗血症に加えて低血圧を有する場合、敗血症ショックを有すると定義される。
【0069】
「腫瘍」は、急速で非制御的な細胞増殖によって成長し、新たな成長を開始させる刺激を止めた後も成長し続ける異常な細胞又は組織の群を意味する。腫瘍は、正常組織による構造的機構及び機能的協調の部分的な又は完全な欠如を示し、通常、良性又は悪性であり得る明確な組織の塊を形成する。
【0070】
「転移」は、身体のその元の部位から別の部分へのがん細胞の拡散を意味する。転移の形成は、非常に複雑なプロセスであり、原発性腫瘍からの悪性細胞の脱離、細胞外マトリクスの侵入、体腔及び血管に進入する内皮基底膜の浸透、並びに、その後、血液によって輸送された後での、標的臓器の浸潤に依存する。最後に、標的部位での新たな腫瘍の成長は、血管新生に依存する。腫瘍の転移は多くの場合、原発性腫瘍の除去後であっても起こるが、これは腫瘍細胞又は成分は残存し、転移能を発達させることができるためである。1つの実施の形態では、本発明による「転移」という用語は、原発性腫瘍及び局所リンパ節系から離れた転移に関する「遠隔転移」に関する。
【0071】
本明細書中で使用する場合、或る疾患又は障害に関する「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」又は「治療(treatment)」は、(a)該障害の重症度及び/又は期間を低減すること、(b)治療される該障害(複数も可)に特徴的な症状の発症を制限又は予防すること、(c)治療される該障害(複数も可)に特徴的な症状の悪化を阻止すること、(d)該障害(複数も可)を過去に有していた患者における該障害(複数も可)の再発を制限又は予防すること、及び(e)過去に該障害(複数も可)の症状を示した患者における症状の再発を制限又は予防することのうち1つ又は複数を達成することを意味する。
【0072】
本明細書中で使用する場合、疾患又は障害に関する「予防する(prevent)」、「予防すること(preventing)」、「予防(prevention)」又は「予防法(prophylaxis)」は、被験体において障害が起こることを防ぐことを意味する。
【0073】
本明細書中で使用する場合、「投与すること(administering)」は、in vivoでの投与、及びex vivoでの組織(例えば静脈移植片)への直接の投与を含む。
【0074】
「有効量」は、意図した目的を達成するのに十分な治療剤の量である。所定の治療剤の有効量は、作用剤の性質、投与経路、治療剤の投与対象の動物の大きさ及び種、並びに投与目的等の因子により変動し得る。各々の個別のケースにおける有効量は、当該技術分野において確立された方法に従って当業者が経験的に決定することができる。
【0075】
「薬学的に許容可能な」は、連邦政府若しくは州政府の監督官庁により承認されていること、又は米国薬局方、若しくは動物における、より具体的にはヒトにおける使用のための他の一般的に認められた薬局方にリストされていることを意味する。
【0076】
「担体」という用語は、本明細書中で使用する場合、これとともに治療剤が投与される希釈剤、補助剤、賦形剤又はビヒクルを表す。かかる薬学的担体は、無菌の液体、例えば水、及び石油起源、動物起源、植物起源又は合成起源の油、例えばラッカセイ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等を含む油中の食塩溶液であってもよい。食塩溶液は、医薬組成物を静脈内投与する場合、好ましい担体である。食塩溶液並びにデキストロース及びグリセロールの水溶液を、特に注射用溶液のために、液体担体として利用することもできる。好適な薬学的賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等を含む。必要に応じて、組成物は、微量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有していてもよい。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、丸剤、カプセル、粉末、持続放出製剤等の形態を採り得る。組成物を、伝統的な結合剤及び担体、例えばトリグリセリドを用いて、坐剤として処方することができる。本発明の化合物を、中性形態又は塩形態として処方することができる。薬学的に許容可能な塩は、遊離のアミノ基とともに形成されるもの、例えば塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等由来のもの、及び遊離のカルボキシル基とともに形成されるもの、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等由来のものを含む。好適な薬学的担体の例は、E. W. Martinによる"Remington'sPharmaceutical Sciences"に記載されている。かかる組成物は、患者への適当な投与のための形態をもたらすための好適な量の担体とともに、好ましくは精製形態の、治療的有効量の化合物を含有する。製剤は、投与様式に適合しているものとする。
【0077】
分子生物学、細胞生物学、タンパク質化学及び抗体技法の分野において一般的に知られており実施されている方法は、継続的に更新されている以下の刊行物に十分に記載されている:"Molecular Cloning: A Laboratory Manual",(Sambrook et al.,Cold Spring Harbor)、Current Protocols in MolecularBiology (F. M. Ausubel et al. Eds., Wiley & Sons)、CurrentProtocols in Protein Science (J. E. Colligan et al. eds., Wiley & Sons)、Current Protocols in Cell Biology (J. S. Bonifacino et al., Wiley& Sons)及びCurrent Protocols in Immunology (J. E.Colligan et al., Eds., Wiley & Sons)。細胞培養及び培地に関する既知の技法は、"Large Scale Mammalian Cell Culture" (Hu et al., Curr. Opin., Biotechnol.8: 148, 1997)、"Serum free Media" (K. Kitano,Biotechnol. 17:73, 1991)及び"Suspension Culture ofMammalian Cells" (Birch et al. Bioprocess Technol. 19: 251, 1990)に記載されている。
【0078】
本発明の実施形態
本発明をここでさらに記載する。以下の節では本発明の種々の態様をより詳細に規定する。そのようにして規定した各態様は、反対の内容が明示されない限り、任意の他の態様(単数又は複数)と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であるとして示した任意の特徴を、好ましい又は有利であるとして示した任意の他の特徴(単数又は複数)と組み合わせることができる。
【0079】
第1の態様では、本発明は、結合部分であって、C5aのアミノ酸配列X1X2ETCEX3RX4(配列番号18)及びX5X6KX7X8X9L(配列番号19)(ここで、X1は、N、H、D、F、K、Y及びTからなる群から選択され、X2は、D、L、Y及びHからなる群から選択され、X3は、Q、E及びKからなる群から選択され、X4は、A、V及びLからなる群から選択され、X5は、S、H、P及びNからなる群から選択され、X6は、H及びNからなる群から選択され、X7は、D、N、H、P及びGからなる群から選択され、X8は、M、L、I及びVからなる群から選択され、X9は、Q、L及びIからなる群から選択される)によって形成される立体構造エピトープと結合する、結合部分に関する。換言すれば、第1の態様による結合部分は、配列番号18によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸、及び配列番号19によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸と同時に結合する。
【0080】
配列番号18は、ヒトC5aの30位〜38位のアミノ酸を、チンパンジー(Pan troglodytes)、アカゲザル(Macaca mulatta)、イノシシ(Sus scrofa)、ウマ(Equus caballus)、ウシ(Bos Taurus)、マウス(Mus musculus)、ラット(Rattus norvegicus)、ハイイロオオカミ(Canis lupus)及びハイイロジネズミオポッサム(Monodelphis domestica)における対応するアミノ酸配列と比較することによって決定されるコンセンサス配列である。配列番号19は、ヒトC5aの66位〜72位のアミノ酸を、チンパンジー、アカゲザル、イノシシ、ウマ、ウシ、マウス、ラット、ハイイロオオカミ及びハイイロジネズミオポッサムにおける対応するアミノ酸配列と比較することによって決定されるコンセンサス配列である。
【0081】
第1の態様の好ましい実施の形態では、結合部分は、アミノ酸配列X2ETCEX3R(配列番号20)(ここで、X2及びX3は、上記と同様に規定される)の少なくとも1つのアミノ酸と結合する。配列番号20は、配列番号18によるコンセンサス配列のより短い型であり、ヒトC5aの31位〜37位のアミノ酸に対応する。
【0082】
第1の態様の好ましい実施の形態では、結合部分は、アミノ酸配列X6KX7X8X9(配列番号21)、好ましくはKX7X8(ここで、X6、X7、X8及びX9は、上記と同様に規定される)の少なくとも1つのアミノ酸と結合する。配列番号21は、配列番号19によるコンセンサス配列のより短い型であり、ヒトC5aの67位〜71位のアミノ酸に対応する。KX7X8は、配列番号21によるコンセンサス配列のより短い型であり、ヒトC5aの68位〜70位のアミノ酸に対応する。
【0083】
特に好ましい実施の形態では、結合部分は、アミノ酸配列X2ETCEX3R(配列番号20)内の少なくとも1つのアミノ酸、及びアミノ酸配列KX7X8(ここで、X2、X3、X7及びX8は、上記と同様に規定される)内の少なくとも1つのアミノ酸と同時に結合する。
【0084】
第1の態様の好ましい実施の形態では、立体構造エピトープは、(a)C5aのアミノ酸配列NDETCEQRA(配列番号2)及びSHKDMQL(配列番号3)(ヒト(Homo sapiens)及びチンパンジー由来の配列)、(b)C5aのアミノ酸配列HDETCEQRA(配列番号22)及びSHKDLQL(配列番号23)(アカゲザル由来の配列)、(c)C5aのアミノ酸配列DDETCEERA(配列番号24)及びSHKNIQL(配列番号25)(イノシシ由来の配列)、(d)C5aのアミノ酸配列DLETCEQRA(配列番号26)及びSHKHIQL(配列番号27)(ウマ由来の配列)、(e)C5aのアミノ酸配列DDETCEQRA(配列番号28)及びHHKNMQL(配列番号29)(ウシ由来の配列)、(f)C5aのアミノ酸配列FYETCEERV(配列番号30)及びPHKPVQL(配列番号31)(マウス由来の配列)、(g)C5aのアミノ酸配列KYETCEQRV(配列番号32)及びHHKGMLL(配列番号33)(ラット由来の配列)、(h)C5aのアミノ酸配列YDETCEQRA(配列番号34)及びSNKPLQL(配列番号35)(ハイイロオオカミ由来の配列)、又は(i)C5aのアミノ酸配列THETCEKRL(配列番号36)及びNHKPVIL(配列番号37)(ハイイロジネズミオポッサム由来の配列)によって形成される。
【0085】
第1の態様の好ましい実施の形態では、結合部分は、(a)DETCEQR(配列番号4)、(b)DETCEER(配列番号38)、(c)LETCEQR(配列番号39)、(e)YETCEER(配列番号40)、(f)YETCEQR(配列番号41)及び(g)HETCEKR(配列番号42)からなる群から選択されるアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸と結合する。
【0086】
第1の態様の好ましい実施の形態では、結合部分は、(a)HKDMQ(配列番号5)、好ましくはKDM、(b)HKDLQ(配列番号43)、好ましくはKDL、(c)HKNIQ(配列番号44)、好ましくはKNI、(d)HKHIQ(配列番号45)、好ましくはKHI、(e)HKNMQ(配列番号46)、好ましくはKNM、(f)HKPVQ(配列番号47)、好ましくはKPV、(g)HKGML(配列番号48)、好ましくはKGM、(h)NKPLQ(配列番号49)、好ましくはKPL、及び(i)HKPVI(配列番号50)、好ましくはKPVからなる群から選択されるアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸と結合する。
【0087】
第1の態様の特に好ましい実施の形態では、C5aはヒトC5aである。したがって、結合部分が、ヒトC5aのアミノ酸NDETCEQRA(配列番号2)及びSHKDMQL(配列番号3)によって形成される立体構造エピトープと結合することが好ましい。換言すれば、第1の態様のこの好ましい実施の形態による結合部分は、配列番号2によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸、及び配列番号3によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸と同時に結合する。配列番号2は、ヒトC5aの30位〜38位のアミノ酸に対応する。配列番号3は、ヒトC5aの66位〜72位のアミノ酸に対応する。ヒトC5aのアミノ酸配列を配列番号1に示す。第1の態様のより好ましい実施の形態では、結合部分は、アミノ酸DETCEQR(配列番号4)の少なくとも1つのアミノ酸と結合する。配列番号4は、ヒトC5aの31位〜37位のアミノ酸に対応する。第1の態様のより好ましい実施の形態では、結合部分は、アミノ酸HKDMQ(配列番号5)の少なくとも1つ、より好ましくはアミノ酸KDMの少なくとも1つのアミノ酸と結合する。配列番号5は、ヒトC5aの67位〜71位のアミノ酸に対応し、配列KDMは、ヒトC5aの68位〜70位のアミノ酸に対応する。特に好ましい実施の形態では、結合部分は、アミノ酸配列DETCEQR(配列番号4)内の少なくとも1つのアミノ酸、及びアミノ酸配列KDM内の少なくとも1つのアミノ酸と同時に結合する。
【0088】
第1の態様の好ましい実施の形態では、立体構造エピトープを形成する2つの配列(例えば、配列番号18及び配列番号19、配列番号2及び配列番号3、配列番号22及び配列番号23、配列番号24及び配列番号25、配列番号26及び配列番号27、配列番号28及び配列番号29、配列番号30及び配列番号31、配列番号32及び配列番号33、配列番号34及び配列番号35、配列番号36及び配列番号37による配列対)は、本発明の結合部分との結合に関与しない1個〜50個の連続するアミノ酸によって隔てられる。以下では、本発明の結合部分との結合に関与しないかかるアミノ酸を「非結合アミノ酸」と称する。立体構造エピトープを形成する2つの配列は、好ましくは、6個〜45個の連続する非結合アミノ酸によって、より好ましくは12個〜40個の連続する非結合アミノ酸によって、より好ましくは18個〜35個の連続する非結合アミノ酸によって、より好ましくは24個〜30個の連続する非結合アミノ酸によって、より好ましくは25個〜29個の連続する非結合アミノ酸によって、更により好ましくは26個〜28個の連続する非結合アミノ酸によって、最も好ましくは27個の連続する非結合アミノ酸によって隔てられる。
【0089】
第1の態様の好ましい実施の形態では、結合部分は、10nM以下、好ましくは9nM以下、より好ましくは8nM以下、より好ましくは7nM以下、より好ましくは6nM以下、より好ましくは5nM以下、より好ましくは4nM以下、より好ましくは3nM以下、より好ましくは2nM以下、更により好ましくは1nM以下のK値を伴うC5a、好ましくはヒトC5aに対する結合定数を有する。
【0090】
第1の態様の好ましい実施の形態では、1つの結合部分が、1分子のC5a、好ましくはヒトC5aによって誘導される生物学的効果に対して少なくとも75%の遮断活性、好ましくは少なくとも80%の遮断活性、より好ましくは少なくとも85%の遮断活性、より好ましくは少なくとも90%の遮断活性、より好ましくは少なくとも95%の遮断活性を示す。これらの好ましい遮断活性は、結合部分がC5a、好ましくはヒトC5aと結合する単一のパラトープを含む、これらの実施の形態を表す。結合部分が2つ以上のC5a特異的パラトープを含む実施の形態では、1つの結合部分分子を、結合部分に存在するC5a特異的パラトープの数と等しい数のC5a分子と接触させた場合に、上記の少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%等の遮断活性が達成される。換言すれば、第1の態様の結合部分のパラトープとC5aとが等モル濃度で存在する場合に、第1の態様による結合部分が、C5aによって誘導される生物学的効果に対して少なくとも75%の遮断活性、好ましくは少なくとも80%の遮断活性、より好ましくは少なくとも85%の遮断活性、より好ましくは少なくとも90%の遮断活性、より好ましくは少なくとも95%の遮断活性を示す。遮断される好ましい生物学的効果は、C5aによって誘導されるヒト全血細胞からのリゾチーム放出である。このC5aによって誘導されるリゾチーム放出及びその遮断を決定するためのアッセイを、実施例の節において記載する。
【0091】
第1の態様の好ましい実施の形態では、結合部分は、ヒト血漿におけるCH50活性を阻害しない。CH50活性を決定するためのアッセイは、当業者に既知であり、以下の実施例の節において記載される。
【0092】
第1の態様の好ましい実施の形態では、結合部分は、少なくとも1つのC5bによって誘導される生物学的効果に対して遮断活性を示さず、好ましくは結合部分は、任意のC5bによって誘導される生物学的効果に対して遮断活性を示さない。
【0093】
第1の態様の好ましい実施の形態では、結合部分は、ヒト全血における大腸菌によって誘導されるIL−8産生を低減することが可能である。全血におけるIL−8産生を測定するためのアッセイは、当業者に既知であり、以下の実施例の節において記載される。
【0094】
第1の態様の好ましい実施の形態では、結合部分は、(a)抗体又はその抗原結合断片、(b)オリゴヌクレオチド、(c)抗体様タンパク質、又は(d)ペプチド模倣物から選択される。
【0095】
第1の態様の好ましい実施の形態では、結合部分は抗体又はその抗原結合断片であり、上記抗体がポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一価抗体、二重特異性抗体、ヘテロコンジュゲート抗体、多重特異性抗体、脱免疫化抗体、キメラ抗体、ヒト化(特にCDRグラフティングを行った)抗体及びヒト抗体からなる群から選択される。
【0096】
第1の態様の好ましい実施の形態では、結合部分は抗体の抗原結合断片であり、上記断片がFab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、Fd断片、Fv断片、ジスルフィド結合したFv(dsFv)、単一ドメイン抗体(ナノボディとしても知られる)及び一本鎖Fv(scFv)抗体からなる群から選択される。
【0097】
第1の態様の特に好ましい実施の形態では、結合部分は、抗体又はその抗原結合断片であって、(i)配列番号6に示されるような重鎖CDR3配列、又は(ii)配列番号7に示されるような重鎖CDR3配列(ここで、該重鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)を含む、抗体又はその抗原結合断片である。
【0098】
好ましくは、抗体又はその断片は、(i)配列番号8に示されるような軽鎖CDR3配列、又は(ii)配列番号9に示されるような軽鎖CDR3配列(ここで、該軽鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)を更に含む。
【0099】
好ましくは抗体又は断片は、以下の配列:(i)配列番号10による重鎖CDR2配列、(ii)配列番号11による重鎖CDR2配列、(iii)配列番号12による軽鎖CDR2配列、(iv)配列番号13による軽鎖CDR2配列、(v)配列番号14による重鎖CDR1配列、(vi)配列番号15による重鎖CDR1配列、(vii)配列番号16による軽鎖CDR1配列、又は(viii)配列番号17による軽鎖CDR1配列(ここで、該重鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、該軽鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、該重鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、該軽鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)のうち少なくとも1つを更に含む。好ましくは、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16及び配列番号17によるアミノ酸配列の各々におけるこれらの任意の変化の総数、すなわち各配列における交換、欠失及び付加の総数は、1又は2である。
【0100】
第1の態様の幾つかの実施の形態では、結合部分はオリゴヌクレオチドである。これらの実施の形態では、オリゴヌクレオチドが、核酸アプタマー、例えばDNAアプタマー若しくはRNAアプタマー、又はDNAヌクレオチド及びRNAヌクレオチドを含む混合型アプタマーであることが更に好ましい。幾つかの実施の形態では、1つ又は複数のヌクレオチドを、修飾ヌクレオチド、例えば2’−フッ素置換ピリミジンによって置き換えてもよい。核酸アプタマーが、蛍光レポーター分子、親和性タグ及び/又は高分子と複合体形成していてもよい。例えば、アプタマーをポリエチレングリコール(PEG)又は同等の高分子と複合体形成させることによって、アプタマーの生物学的半減期が増大する。
【0101】
第1の態様の幾つかの実施の形態では、結合部分は、抗体様タンパク質、例えば「定義」の節において上で例示されるような抗体様タンパク質である。
【0102】
第1の態様の幾つかの実施の形態では、結合部分は、ペプチド模倣物である。本発明の実施に好適なペプチド模倣物は好ましくは、上で記載されるような抗体様タンパク質に基づくものである。
【0103】
第1の態様の好ましい実施の形態は、急性炎症を伴う様々な疾患、例えば全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、重度の敗血症、敗血症ショック、虚血/再灌流関連損傷、例えば虚血性心疾患、急性肺損傷、肺炎、移植患者における急性及び慢性の移植片拒絶反応、移植片対宿主反応、更には慢性型の炎症を伴う疾患、例えば腎糸球体疾患、例えば糸球体腎炎、及びその他の腎不全、関節リウマチ、及び類似の自己免疫疾患、例えばベヒテレフ病、狼瘡型疾患、炎症性腸疾患、クローン病、腫瘍成長、又は固形臓器がんの予防及び/又は治療のための結合部分に関する。
【0104】
第2の態様では、本発明は、抗体又はその抗原結合断片であって、(i)配列番号6に示されるような重鎖CDR3配列、又は(ii)配列番号7に示されるような重鎖CDR3配列(ここで、該重鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)を含む、抗体又はその抗原結合断片に関する。好ましくは、配列番号6のアミノ酸配列におけるこれらの任意の変化の総数、すなわち交換、欠失及び付加の総数は、1又は2である。好ましくは、配列番号7のアミノ酸配列におけるこれらの任意の変化の総数、すなわち交換、欠失及び付加の総数は、1又は2である。
【0105】
第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、(i)配列番号8に示されるような軽鎖CDR3配列、又は(ii)配列番号9に示されるような軽鎖CDR3配列(ここで、該軽鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)を更に含む。好ましくは、配列番号8のアミノ酸配列におけるこれらの任意の変化の総数、すなわち交換、欠失及び付加の総数は、1又は2である。好ましくは、配列番号9のアミノ酸配列におけるこれらの任意の変化の総数、すなわち交換、欠失及び付加の総数は、1又は2である。
【0106】
本発明の第2の態様は、抗体又はその抗原結合断片であって、(i)配列番号8に示されるような軽鎖CDR3配列、又は(ii)配列番号9に示されるような軽鎖CDR3配列(ここで、該軽鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)を含む、抗体又はその抗原結合断片にも関する。好ましくは、配列番号8のアミノ酸配列におけるこれらの任意の変化の総数、すなわち交換、欠失及び付加の総数は、1又は2である。好ましくは、配列番号9のアミノ酸配列におけるこれらの任意の変化の総数、すなわち交換、欠失及び付加の総数は、1又は2である。
【0107】
第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、以下の配列:(i)配列番号10による重鎖CDR2配列、(ii)配列番号11による重鎖CDR2配列、(iii)配列番号12による軽鎖CDR2配列、(iv)配列番号13による軽鎖CDR2配列、(v)配列番号14による重鎖CDR1配列、(vi)配列番号15による重鎖CDR1配列、(vii)配列番号16による軽鎖CDR1配列、又は(viii)配列番号17による軽鎖CDR1配列(ここで、該重鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、該軽鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、該重鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、該軽鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)のうち少なくとも1つを更に含む。好ましくは、配列番号10、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16及び配列番号17によるアミノ酸配列の各々におけるこれらの任意の変化の総数、すなわち各配列における交換、欠失及び付加の総数は、1又は2である。
【0108】
第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一価抗体、二重特異性抗体、ヘテロコンジュゲート抗体、多重特異性抗体、脱免疫化抗体、キメラ抗体、ヒト化(特にCDRグラフティングを行った)抗体及びヒト抗体からなる群から選択される。
【0109】
第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体の抗原結合断片は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、Fd断片、Fv断片、ジスルフィド結合したFv(dsFv)、単一ドメイン抗体(ナノボディとしても知られる)及び一本鎖Fv(scFv)抗体からなる群から選択される。
【0110】
第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、C5aのアミノ酸配列X1X2ETCEX3RX4(配列番号18)及びX5X6KX7X8X9L(配列番号19)(ここで、X1は、N、H、D、F、K、Y及びTからなる群から選択され、X2は、D、L、Y及びHからなる群から選択され、X3は、Q、E及びKからなる群から選択され、X4は、A、V及びLからなる群から選択され、X5は、S、H、P及びNからなる群から選択され、X6は、H及びNからなる群から選択され、X7は、D、N、H、P及びGからなる群から選択され、X8は、M、L、I及びVからなる群から選択され、X9は、Q、L及びIからなる群から選択される)によって形成される立体構造エピトープと結合する。換言すれば、第2の態様による抗体又は抗原結合断片は、配列番号18によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸、及び配列番号19によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸と同時に結合する。好ましくは、抗体又はその抗原結合断片は、アミノ酸配列X2ETCEX3R(配列番号20)(ここで、X2及びX3は、上記と同様に規定される)の少なくとも1つのアミノ酸と結合する。好ましくは、抗体又はその抗原結合断片は、アミノ酸配列X6KX7X8X9(配列番号21)、より好ましくはKX7X8(ここで、X6、X7、X8及びX9は、上記と同様に規定される)の少なくとも1つのアミノ酸と結合する。特に好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、アミノ酸配列X2ETCEX3R(配列番号20)内の少なくとも1つのアミノ酸、及びアミノ酸配列KX7X8(ここで、X2、X3、X7及びX8は、上記と同様に規定される)内の少なくとも1つのアミノ酸と同時に結合する。
【0111】
第2の態様の好ましい実施の形態では、立体構造エピトープは、(a)C5aのアミノ酸配列NDETCEQRA(配列番号2)及びSHKDMQL(配列番号3)(ヒト及びチンパンジー由来の配列)、(b)C5aのアミノ酸配列HDETCEQRA(配列番号22)及びSHKDLQL(配列番号23)(アカゲザル由来の配列)、(c)C5aのアミノ酸配列DDETCEERA(配列番号24)及びSHKNIQL(配列番号25)(イノシシ由来の配列)、(d)C5aのアミノ酸配列DLETCEQRA(配列番号26)及びSHKHIQL(配列番号27)(ウマ由来の配列)、(e)C5aのアミノ酸配列DDETCEQRA(配列番号28)及びHHKNMQL(配列番号29)(ウシ由来の配列)、(f)C5aのアミノ酸配列FYETCEERV(配列番号30)及びPHKPVQL(配列番号31)(マウス由来の配列)、(g)C5aのアミノ酸配列KYETCEQRV(配列番号32)及びHHKGMLL(配列番号33)(ラット由来の配列)、(h)C5aのアミノ酸配列YDETCEQRA(配列番号34)及びSNKPLQL(配列番号35)(ハイイロオオカミ由来の配列)、又は(i)C5aのアミノ酸配列THETCEKRL(配列番号36)及びNHKPVIL(配列番号37)(ハイイロジネズミオポッサム由来の配列)によって形成される。第2の態様のより好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、(a)DETCEQR(配列番号4)、(b)DETCEER(配列番号38)、(c)LETCEQR(配列番号39)、(e)YETCEER(配列番号40)、(f)YETCEQR(配列番号41)及び(g)HETCEKR(配列番号42)からなる群から選択されるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸と結合する。第1の態様の更により好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、(a)HKDMQ(配列番号5)、好ましくはKDM、(b)HKDLQ(配列番号43)、好ましくはKDL、(c)HKNIQ(配列番号44)、好ましくはKNI、(d)HKHIQ(配列番号45)、好ましくはKHI、(e)HKNMQ(配列番号46)、好ましくはKNM、(f)HKPVQ(配列番号47)、好ましくはKPV、(g)HKGML(配列番号48)、好ましくはKGM、(h)NKPLQ(配列番号49)、好ましくはKPL、及び(i)HKPVI(配列番号50)、好ましくはKPVからなる群から選択されるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸と結合する。
【0112】
第2の態様の特に好ましい実施の形態では、C5aはヒトC5aである。したがって、抗体又はその抗原結合断片が、ヒトC5aのアミノ酸NDETCEQRA(配列番号2)及びSHKDMQL(配列番号3)によって形成される立体構造エピトープと結合することが好ましい。換言すれば、第2の態様のこの好ましい実施の形態による抗体又はその抗原結合断片は、配列番号2によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸、及び配列番号3によるアミノ酸配列内の少なくとも1つのアミノ酸と同時に結合する。第2の態様のより好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、アミノ酸配列DETCEQR(配列番号4)内の少なくとも1つのアミノ酸と結合する。第2の態様のより好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、アミノ酸配列HKDMQ(配列番号5)内の少なくとも1つのアミノ酸、より好ましくはアミノ酸配列KDM内の少なくとも1つのアミノ酸と結合する。特に好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、アミノ酸配列DETCEQR(配列番号4)内の少なくとも1つのアミノ酸、及びアミノ酸配列KDM内の少なくとも1つのアミノ酸と同時に結合する。
【0113】
第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、10nM以下、好ましくは9nM以下、より好ましくは8nM以下、より好ましくは7nM以下、より好ましくは6nM以下、より好ましくは5nM以下、より好ましくは4nM以下、より好ましくは3nM以下、より好ましくは2nM以下、更により好ましくは1nM以下のK値を伴うC5a、好ましくはヒトC5aに対する結合定数を有する。
【0114】
第2の態様の好ましい実施の形態では、1つの抗体又はその抗原結合断片が、1分子のC5a、好ましくはヒトC5aによって誘導される生物学的効果に対して少なくとも75%の遮断活性、好ましくは少なくとも80%の遮断活性、より好ましくは少なくとも85%の遮断活性、より好ましくは少なくとも90%の遮断活性、より好ましくは少なくとも95%の遮断活性を示す。これらの好ましい遮断活性は、抗体(又はその抗原結合断片)がC5a、好ましくはヒトC5aと結合する単一のパラトープを含む、これらの実施の形態を表す。抗体(又はその抗原結合断片)が2つ以上のC5a特異的パラトープを含む実施の形態では、1つの結合部分分子を、抗体(又はその抗原結合断片)に存在するC5a特異的パラトープの数と等しい数のC5a分子と接触させた場合に、上記の少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%等の遮断活性が達成される。例えば、IgG型の典型的な抗C5a抗体はC5aと結合することが可能なパラトープを2個含むが、IgM型の典型的な抗C5a抗体はC5aと結合することが可能なパラトープを10個含む。したがって、IgG型の抗体の遮断活性は、上記抗体をC5aと1:2のモル比で接触させることによって決定するものとする。IgM型の抗体の遮断活性は、上記抗体をC5aと1:10のモル比で接触させることによって決定するものとする。これらのモル比を選ぶと、抗体内のパラトープとC5aとが等モル濃度で存在する。換言すれば、第2の態様による抗体(又はその抗原結合断片)のパラトープとC5aとが等モル濃度で存在する場合に、該抗体又はその抗原結合断片が、C5aによって誘導される生物学的効果に対して少なくとも75%の遮断活性、好ましくは少なくとも80%の遮断活性、より好ましくは少なくとも85%の遮断活性、より好ましくは少なくとも90%の遮断活性、より好ましくは少なくとも95%の遮断活性を示す。遮断される好ましい生物学的効果は、C5aによって誘導されるヒト全血細胞からのリゾチーム放出である。このC5aによって誘導されるリゾチーム放出及びその遮断を決定するためのアッセイを、実施例の節において記載する。
【0115】
第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、ヒト血漿におけるCH50活性を阻害しない。CH50活性を決定するためのアッセイは、当業者に既知であり、以下の実施例の節において記載される。
【0116】
第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、少なくとも1つのC5bによって誘導される生物学的効果に対して遮断活性を示さず、好ましくは抗体又はその抗原結合断片は、任意のC5bによって誘導される生物学的効果に対して遮断活性を示さない。
【0117】
第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、ヒト全血における大腸菌によって誘導されるIL−8産生を低減することが可能である。全血におけるIL−8産生を測定するためのアッセイは、当業者に既知であり、以下の実施例の節において記載される。
【0118】
第2の態様の好ましい実施の形態は、急性炎症を伴う様々な疾患、例えば全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、重度の敗血症、敗血症ショック、虚血/再灌流関連損傷、例えば虚血性心疾患、急性肺損傷、肺炎、移植患者における急性及び慢性の移植片拒絶反応、移植片対宿主反応、更には慢性型の炎症を伴う疾患、例えば腎糸球体疾患、例えば糸球体腎炎、及びその他の腎不全、関節リウマチ、及び類似の自己免疫疾患、例えばベヒテレフ病、狼瘡型疾患、炎症性腸疾患、クローン病、腫瘍成長、又は固形臓器がんの予防及び/又は治療のための抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0119】
第1の態様及び第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、以下の表1に列挙されるような重鎖CDR3配列、重鎖CDR2配列及び重鎖CDR1配列(ここで、各重鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各重鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各重鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)の組のうちの1つを含む。
【0120】
表1:本発明の抗体又はその断片における使用に好適な重鎖CDR配列の組
重鎖の組の記号
【表1】

【0121】
第1の態様及び第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、以下の表2に列挙されるような軽鎖CDR3配列、軽鎖CDR2配列及び軽鎖CDR1配列(ここで、各軽鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各軽鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各軽鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)の組のうちの1つを含む。
【0122】
表2:本発明の抗体又はその断片における使用に好適な軽鎖CDR配列の組
抗体INab308の軽鎖CDR2配列(配列番号12)は抗体INab708の軽鎖CDR2配列(配列番号13)と同一であるため、配列番号13を含む組は配列番号12を含む組と重複すると考えられる。したがって、この表は4組の軽鎖CDR配列のみを列挙している。
【表2】

【0123】
第1の態様及び第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、上の表1に列挙される重鎖CDRの組A〜Hのうちの1つ、及び上の表2に列挙される軽鎖CDRの組I〜IVのうちの1つ、すなわち以下の組の組合せ:A−I、A−II、A−III、A−IV、B−I、B−II、B−III、B−IV、C−I、C−II、C−III、C−IV、D−I、D−II、D−III、D−IV、E−I、E−II、E−III、E−IV、F−I、F−II、F−III、F−IV、G−I、G−II、G−III、G−IV、H−I、H−II、H−III又はH−IVのうちの1つを含む(ここで、各重鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各重鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各重鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各軽鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各軽鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、各軽鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、好ましくは保存的アミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)。
【0124】
第1の態様及び第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、(i)INab308のVHドメイン、又は(ii)INab708のVHドメインを含む、これから本質的になる、又はこれからなるVHドメインを含む。
【0125】
INab308及びINab708のVHドメインを規定するFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4の配列を以下の表4に示す。
【0126】
第1の態様及び第2の態様の好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、(i)INab308のVLドメイン、又は(ii)INab708のVLドメインを含む、これから本質的になる、又はこれからなるVLドメインを含む。
【0127】
INab308及びINab708のVLドメインを規定するFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4の配列を以下の表4に示す。
【0128】
第1の態様及び第2の態様の更に好ましい実施の形態では、抗体又はその抗原結合断片は、VHドメイン及びVLドメインを含み、
(i)上記VHドメインはINab308のVHドメインを含み、これから本質的になり、又はこれからなり、上記VLドメインはINab308のVLドメインを含み、これから本質的になり、又はこれからなり、又は
(i)上記VHドメインはINab708のVHドメインを含み、これから本質的になり、又はこれからなり、上記VLドメインはINab708のVLドメインを含む、これから本質的になる、又はこれからなる。
【0129】
第1の態様及び第2の態様の好ましい実施の形態では、本明細書に記載されるような1つ又は複数のCDR、CDRの組、又はCDRの組の組合せを含む抗体又はその抗原結合断片は、ヒト抗体のフレームワークにおいて上記CDRを含む。
【0130】
本明細書中における、その重鎖に関して特定の鎖、又は特定の領域若しくは配列を含む抗体に対する言及は、好ましくは、上記抗体の全ての重鎖が上記特定の鎖、領域又は配列を含む状況に関する。このことは、抗体の軽鎖にも同様に適用される。
【0131】
特定の核酸配列及びアミノ酸配列、例えば配列リストに示される核酸配列及びアミノ酸配列に関して本明細書において提示される教示は、上記特定の配列と機能的に同等である配列、例えば該特定のアミノ酸配列の特性と同一又は類似の特性を示すアミノ酸配列、及び該特定の核酸配列によってコードされるアミノ酸配列の特性と同一又は類似の特性を示すアミノ酸配列をコードする核酸配列をもたらす上記特定の配列の変更にも関するように解釈される。1つの重要な特性は、その標的に対する抗体の結合を保持すること、又は抗体のエフェクター機能を維持することである。好ましくは、特定の配列に対して変更された配列は、抗体における特定の配列を置き換えた場合、C5a、特に本明細書中で特定されるC5aの立体構造エピトープに対する上記抗体の結合を保持し、好ましくは、本明細書に記載されるような上記抗体の機能、例えばC5aによって誘導されるヒト全血細胞からのリゾチーム放出の遮断、及び/又はヒト全血における大腸菌によって誘導されるIL−8産生の低減を保持する。
【0132】
C5aと結合する能力を失わなければ、特にCDR、超可変領域及び可変領域の配列を変更してもよいことを、当業者は理解するであろう。例えば、CDR領域は、本明細書において記載される領域と同一又は高度に相同である。「高度に相同」は、CDRにおいて1個〜5個、好ましくは1個〜4個、例えば1個〜3個、又は1個若しくは2個の置換、欠失又は付加がなされてもよいことを意図する。加えて、超可変領域及び可変領域を、本明細書において具体的に開示される領域と実質的な相同性を示すように変更してもよい。
【0133】
さらに、本発明によれば、本明細書に記載されるアミノ酸配列、特にヒト重鎖定常領域のアミノ酸配列を変更して、該配列を所望のアロタイプ、例えば白人集団に見出されるアロタイプに適合させることが望ましい場合がある。
【0134】
本発明は、抗体の機能特性又は薬物動態特性を変化させるためにFc領域に変化を加えた抗体を更に含む。かかる変化によって、C1q結合及びCDC、又はFcγR結合及びADCCの減少又は増大をもたらすことができる。例えば、重鎖定常領域のアミノ酸残基の1つ又は複数において置換を行うことによって、変更した抗体と比較して、抗原と結合する能力を保持しながらエフェクター機能の変化を引き起こすことができる(米国特許第5,624,821号及び米国特許第5,648,260号を参照されたい)。
【0135】
抗体のin vivo半減期を、Ig定常ドメイン又はIg様定常ドメインのサルベージ受容体エピトープを変更して、該分子がインタクトなCH2ドメイン又はインタクトなIg Fc領域を含まないようにすることによって、改善することができる(米国特許第6,121,022号及び米国特許第6,194,551号を参照されたい)。さらに、in vivo半減期を、Fc領域中に突然変異を起こすことによって、例えば252位のロイシンをトレオニンに置換することによって、254位のセリンをトレオニンに置換することによって、又は256位のフェニルアラニンをトレオニンに置換することによって増大させることができる(米国特許第6,277,375号を参照されたい)。
【0136】
さらに、抗体のエフェクター機能を変化させるために、抗体のグリコシル化パターンを変更することができる。例えば、Fc受容体に対するFc領域の親和性を増強してNK細胞の存在下における抗体のADCCの増大をもたらすために、Fc領域の297位のAsnに通常結合しているフコース単位を付加しないトランスフェクトーマにおいて、抗体を発現させることができる(Shield et al. (2002) JBC, 277: 26733を参照されたい)。さらに、ガラクトシル化の変更を、CDCを変更するために行うことができる。
【0137】
代替的には、別の実施の形態では、突然変異を、例えば飽和突然変異誘発によって、抗C5a抗体をコードする配列の全て又は一部に沿ってランダムに導入することができ、得られる変更された抗C5a抗体を、結合活性に関してスクリーニングすることができる。
【0138】
第3の態様では、本発明は、医薬組成物であって、(a)第1の態様による結合部分、又は(b)第2の態様による抗体又はその抗原結合断片を含み、1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体、希釈剤、賦形剤、充填剤、結合剤、滑剤、流動促進剤、崩壊剤、吸着剤及び/又は保存料を更に含む、医薬組成物に関する。
【0139】
第4の態様では、本発明は、急性炎症を伴う様々な疾患、例えば全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、重度の敗血症、敗血症ショック、虚血/再灌流関連損傷、例えば虚血性心疾患、急性肺損傷、肺炎、移植患者における急性及び慢性の移植片拒絶反応、移植片対宿主反応、更には慢性型の炎症を伴う疾患、例えば腎糸球体疾患、例えば糸球体腎炎、及びその他の腎不全、関節リウマチ、及び類似の自己免疫疾患、例えばベヒテレフ病、狼瘡型疾患、炎症性腸疾患、クローン病、腫瘍成長、又は固形臓器がんの予防及び/又は治療用の医薬組成物の調製のための、(a)第1の態様による結合部分、又は(b)第2の態様による抗体又はその抗原結合断片の使用に関する。
【0140】
第5の態様では、本発明は、それを必要とする患者において急性炎症を伴う様々な疾患、例えば全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、重度の敗血症、敗血症ショック、虚血/再灌流関連損傷、例えば虚血性心疾患、急性肺損傷、肺炎、移植患者における急性及び慢性の移植片拒絶反応、移植片対宿主反応、更には慢性型の炎症を伴う疾患、例えば腎糸球体疾患、例えば糸球体腎炎、及びその他の腎不全、関節リウマチ、及び類似の自己免疫疾患、例えばベヒテレフ病、狼瘡型疾患、炎症性腸疾患、クローン病、腫瘍成長、又は固形臓器がんを予防及び/又は治療する方法であって、有効量の(a)第1の態様による結合部分、又は(b)第2の態様による抗体又はその抗原結合断片を該患者に投与することを含む、予防及び/又は治療する方法に関する。
【0141】
本発明の任意の態様の実施において、上で記載されるような医薬組成物、又は結合部分(例えば抗体又はその抗原結合断片)を、患者において十分なレベルの結合部分をもたらす、当該技術分野において確立された任意の経路によって患者に投与することができる。医薬組成物又は結合部分を、全身的に又は局所的に投与することができる。かかる投与は、非経口的に、経粘膜的に、例えば経口的に、経鼻的に、直腸に、膣内に、舌下に、粘膜下に、経皮的に、又は吸入によって行われ得る。好ましくは、投与は、例えば静脈内注射又は腹腔内注射を介した、非経口投与であり、動脈内投与、筋肉内投与、皮内投与及び皮下投与も含むがこれらに限定されない。本発明の医薬組成物を局所的に投与する場合、該医薬組成物を治療対象の臓器又は組織に、例えば腫瘍に罹患した臓器に直接注射することができる。
【0142】
経口投与に適した医薬組成物は、カプセル若しくは錠剤として、粉末若しくは顆粒として、溶液、シロップ若しくは懸濁液(水性液体又は非水性液体中の)として、可食性の泡若しくはホイップとして、又は乳濁液として提供することができる。錠剤又は硬ゼラチンカプセルは、ラクトース、デンプン又はその誘導体、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、ステアリン酸又はその塩を含んでいてもよい。軟ゼラチンカプセルは、植物油、ワックス、脂肪、半固体又は液体のポリオール等を含んでいてもよい。溶液及びシロップは、水、ポリオール及び糖を含んでいてもよい。
【0143】
経口投与を意図した活性作用剤は、胃腸管中で活性作用剤の崩壊及び/又は吸収を遅延化する材料でコーティングしてもよく、又はこれと混和してもよい(例えば、モノステアリン酸グリセリン又はジステアリン酸グリセリンを使用することができる)。したがって、活性作用剤の持続放出を長時間にわたって達成することができ、必要に応じて、活性作用剤を胃内における分解から保護することができる。経口投与のための医薬組成物は、特定のpH又は酵素的条件による特定の胃腸位置での活性作用剤の放出を促進するように処方することができる。
【0144】
経皮投与に適した医薬組成物を、長期間にわたりレシピエントの表皮と密に接触した状態とすることを意図する分離型のパッチとして提供することができる。局所投与に適した医薬組成物を、軟膏、クリーム、懸濁液、ローション、粉末、溶液、ペースト、ゲル、噴霧剤、エアロゾル又はオイルとして提供することができる。皮膚、口、眼又は他の外部組織への局所投与のために、好ましくは局所用の軟膏又はクリームを使用する。軟膏において処方する場合、活性成分をパラフィン系軟膏基剤又は水混和性軟膏基剤とともに利用することができる。代替的には、活性成分を、水中油型基剤又は油中水型基剤を含むクリーム中で処方することができる。眼に対する局所投与に適した医薬組成物は、点眼剤を含む。これらの組成物では、活性成分を、好適な担体、例えば水性溶媒に溶解又は懸濁することができる。口における局所投与に適した医薬組成物は、ロゼンジ、トローチ及び洗口剤を含む。
【0145】
経鼻投与に適した医薬組成物は、固体担体、例えば粉末(好ましくは、20ミクロン〜500ミクロンの範囲の粒子径を有する)を含んでいてもよい。粉末を、嗅ぎタバコを吸うような形で、すなわち、鼻の近くに保持した粉末の容器からの鼻での急速な吸入によって投与することができる。代替的には、経鼻投与に適した(adapted)組成物は、例えば、経鼻噴霧剤又は点鼻剤のように、液体担体を含んでいてもよい。これらの組成物は、活性成分の水溶液又は油溶液を含んでいてもよい。吸入による投与用の組成物を、所定の投与量の活性成分をもたらすように構築することができる加圧エアロゾル、ネブライザ又は吸入器を含むがこれらに限定されない特に適した装置において供給することができる。好ましい実施の形態では、本発明の医薬組成物を、鼻腔を介して肺へと投与する。
【0146】
直腸投与に適した医薬組成物を、坐剤又は注腸剤として提供することができる。経膣投与に適した医薬組成物を、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、泡又は噴霧剤の製剤として提供することができる。
【0147】
非経口投与に適した医薬組成物は、水性及び非水性の無菌の注射用溶液又は懸濁液を含み、これらは抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び組成物を対象のレシピエントの血液と実質的に等張にする溶質を含有していてもよい。かかる組成物中に存在していてもよい他の成分は、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセリン及び植物油を含む。非経口投与に適した組成物は、単位用量又は複数用量の容器、例えば封止アンプル及びバイアルにおいて与えることができ、使用直前に無菌液体担体、例えば注射用無菌食塩溶液を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存することができる。即時注射溶液及び懸濁液を、無菌の粉末、顆粒及び錠剤から調製することができる。
【0148】
好ましい実施の形態では、組成物を、日常的な手法に従って、人間への静脈内投与に適した医薬組成物として処方する。典型的には、静脈内投与用の組成物は、無菌の等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、組成物は、可溶化剤、及び注射部位における疼痛を緩和するための局所麻酔薬、例えばリドカインを含んでいてもよい。概して、成分は、別々に、又は単位投与形態中に混合して、例えば活性作用剤の量を示した気密封止容器、例えばアンプル又は小袋(sachette)中における乾燥凍結乾燥粉末又は水を含まない濃縮物として、供給される。組成物を注入によって投与する場合、該組成物を、無菌の医薬品グレードの水又は生理食塩水を含有する注入ボトルを用いて分注することができる。組成物を注射によって投与する場合、無菌生理食塩水のアンプルを、投与前に成分を混合することができるように提供することができる。
【0149】
別の実施の形態では、例えば、化学誘引の阻害剤を、制御放出システムにおいて送達することができる。例えば、阻害剤を、静脈内注入、埋込み型浸透圧ポンプ、経皮パッチ、リポソーム、又は他の投与様式を使用して投与することができる。1つの実施の形態では、ポンプを使用することができる(Sefton (1987) CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14: 201、Buchwald et al. (1980) Surgery 88:507、Saudeket al. (1989) N. Eng. J. Med. 321: 574を参照されたい)。別の実施の形態では、化合物を、小胞、特にリポソームにおいて送達することができる(Langer (1990) Science 249:1527-1533、Treat etal. (1989) inLiposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer, Lopez-Berestein andFidler (eds.), Liss, N.Y., 353-365、国際公開第91/04014号、米国特許第4,704,355号を参照されたい)。別の実施の形態では、ポリマー材料を使用することができる(Medical Applications of Controlled Release (1974) Langer and Wise(eds.), CRC Press: Boca Raton, Fla.、Controlled DrugBioavailability, Drug Product Design and Performance, (1984) Smolen and Ball(eds.), Wiley: N.Y.、Ranger and Peppas (1953) J.Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23: 61を参照されたい。Levyet al. (1985) Science 228:190、During et al. (1989) Ann.Neurol. 25: 351、Howard et al. (1989) J. Neurosurg. 71:105も参照されたい)。
【0150】
更に別の実施の形態では、制御放出システムを、治療標的、すなわち標的細胞、標的組織又は標的臓器の近くに配置することによって、全身用の用量の一部しか必要でないものとすることができる(例えば、Goodson (1984) 115-138 in Medical Applications of Controlled Release, vol. 2を参照されたい)。他の制御放出システムが、Langerによる概説(1990, Science 249: 1527-1533)において論じられている。
【0151】
特定の実施の形態では、本発明の医薬組成物を、治療を必要とする領域に対して局所的に投与することが望ましい場合がある。これは、例えば、限定するものではないが、外科処置時の局所注入、局所塗布(例えば、外科処置後の創傷被覆と組み合わせて)によって、注射によって、カテーテルを用いて、坐剤を用いて、又は膜、例えばシラスチック膜、若しくは繊維を含む多孔質、非多孔質若しくはゼラチン質の材料のものである埋込み剤を用いて、達成することができる。
【0152】
好ましい有効用量の選択は、当業者に既知である複数の因子の検討に基づいて、熟練技能者によって決定される。かかる因子は、薬学的化合物に対する規制認可を取得する際に典型的に利用される通常の開発手順において確立されている、医薬組成物の特定の形態、例えばポリペプチド又はベクター、及びその薬物動態パラメータ、例えば生物学的利用能、代謝、半減期等を含む。用量を検討する際の更なる因子は、予防及び/若しくは治療すべき病態若しくは疾患、又は正常な個体において達成すべき利益、患者のボディマス、投与経路、投与が急性であるか若しくは慢性であるか、併用薬、並びに投与される薬学的作用剤の有効性に影響を及ぼすことが知られている他の因子を含む。したがって、正確な投与量は、施術医の判断及び各患者の状況によって、例えば標準的な臨床技法によって、個々の患者の病態及び免疫状態に応じて、決定するものとする。
【0153】
腫瘍成長又は固形臓器がんの予防及び/又は治療に関する本発明の任意の態様の実施において、本発明の結合部分又は抗体を投与される被験体は、化学療法剤、放射線、又はFc受容体、例えばFc−γ受容体の発現若しくは活性を変調する、例えば増強若しくは阻害する作用剤、例えばサイトカインによって更に治療される。治療時に投与するための典型的なサイトカインは、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターフェロン−γ(IFN−γ)及び腫瘍壊死因子(TNF)を含む。典型的な治療剤は、とりわけ、抗悪性腫瘍剤、例えばドキソルビシン、シスプラチン、タキソテール、5−フルオロウラシル(fluorouracil)、メトトレキサート(methotrexate)、ゲムシタビン(gemcitabin)及びシクロホスファミドを含む。
【0154】
以下の図及び実施例は、単に本発明を例示するものであり、添付の特許請求の範囲によって示されるような本発明の範囲を限定するものとは決して解釈されないものとする。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】血液細胞からの酵素放出に対するC5a突然変異体の効果を示す図である。抗体のエピトープの構築に関して有望なC5a分子中のアミノ酸を、アラニンへと突然変異させ、これらのC5a突然変異体を、ヒト全血細胞からのリゾチーム放出を誘導するそれらの生物活性に関して試験した。ヒトC5aと比較して50%を超える生物活性喪失をもたらすC5aの部位突然変異を、C5aの生物学的機能のために重要な部位とみなした。これらの部位は、24位、29位、31位、37位、68位及び69位である。図中英語:C5a bioactivity C5aの生物活性Con 対照None なしC-del C−delC5a mutation sites C5aの突然変異部位
【図2】C5a突然変異体に対するINab308の結合能を示す図である。C5a及びC5a突然変異体を、96ウェルプレート上にコーティングした。これらのタンパク質に対するINab308の結合能を、ELISAアプローチによって評価した。50%を超える結合能の喪失を有意とみなす。データは、INab308が2つの領域(31位〜37位及び68位〜69位)と結合することを示す。図中英語:Binding Capability 結合能Con 対照
【図3】C5a突然変異体に対するINab708の結合能を示す図である。C5a及びC5a突然変異体を、96ウェルプレート上にコーティングした。これらのタンパク質に対するINab708の結合能を、ELISAアプローチによって評価した。50%を超える結合能の喪失を有意とみなす。データは、INab708が2つの領域(31位〜37位及び68位〜70位)と結合することを示す。図中英語:Binding Capability 結合能Con 対照
【図4】INab308及びINab708がヒト血漿のCH50活性に影響を及ぼさないことを示す図である。ヒト血漿の溶血活性を、古典的なCH50アッセイによって決定した。INab708、INab308及びF20を含むヒトC5aに対するMabを、ヒト血漿とともにプレインキュベートした後、引き続きCH50アッセイを行った。ヒト全血中で生じるC5濃度(およそ0.4μM)よりはるかに高いおよそ5μMの濃度で使用した場合、これらの抗体の中で、F20はCH50活性を強く阻害するが、INab708及びINab308は影響を有しない。図中英語:Control plasma 対照血漿INab708 treated plasma INab708で処理した血漿INab308 treated plasma INab308で処理した血漿F20 treated plasma F20で処理した血漿plasma 血漿
【図5】C5aの生物活性に対するINab308、INab708及びL2B23の遮断効果の比較を示す図である。INab308、INab708及びL2B23の遮断活性を、C5aによって誘導されるリゾチーム放出のアッセイによって評価した。2個のC5a分子によって誘発される生物学的効果に対する1個の抗体の遮断活性を評価するために、抗体対C5aのモル比を1:2に設定した。データは、INab308及びINab708がC5aの生物活性に対して非常に高い遮断活性(≧90%)を有するが、L2B23は最小限の効果しか示さないことを示す。図中英語:Fluorescence 蛍光
【図6】ヒト全血における大腸菌によって誘導されるIL−8産生に対するINab308及びINab708の阻害効果を示す図である。大腸菌を全血とともに4時間インキュベートし、IL−8レベルをELISAによって評価した。インキュベーション時のINab308及びINab708の存在下においてIL−8レベルは有意に減少した(P<0.01)が、L2B23の存在下において有意な低減は起こらなかった。図中英語:Control 対照None なしE.coli 大腸菌
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0156】
1. 方法
1.1 組換えC5a及びC5a突然変異体の調製:
ヒトC5aをコードするDNA配列を、末梢血白血球から単離されたRNAを使用する逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって取得した。C5a突然変異体を、突然変異部位にGCT(アラニン)を導入することによって、PCR法を使用して作製した。引き続き、C5aのDNAを、pET−32a(Novagen、Gibbstown, NJ)とライゲーションし、ライゲーション混合物を使用して、JM109コンピテント細胞を形質転換した。発現プラスミドを、標準的な塩化カルシウム法を使用して、BL21中に形質転換した。ルリア・ベルターニ・ブロス(LB)プレートからシングルコロニーをピックアップし、アンピシリンを含むLB培地中に接種して、37℃で終夜インキュベートした。培養物を2LのLB培地に移し、指数増殖期中期(A600≒0.6)まで37℃でインキュベートした後、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を0.1mMの最終濃度まで添加した。細胞を、30℃で終夜継続して成長させ、培養物を7000rpm、4℃で15分間遠沈することによって回収した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS;10mM PB、150mM NaCl[pH7.4])で1回洗浄した後、細菌ペレットを、PBS中に再懸濁し、氷上で超音波処理した。12000rpm、4℃で15分間の遠心分離の後、可溶性画分を不溶性ペレットから分離した。ヒト組換えC5aを精製するために、細胞溶解物の上清を、PBSで予め平衡化したニッケルキレート化親和性カラムにロードした。引き続き、カラムを、それぞれPBS中の50mMイミダゾール及び200mMイミダゾールで洗浄した。最後に、結合したタンパク質を500mMイミダゾールによって溶出し、PBSに対して終夜透析し、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分析した。
【0157】
1.2 免疫化、及びELISAによるハイブリドーマスクリーニング:
モノクローナル抗体を、ハイブリドーマ法を使用して作製した。免疫化及びMAbの産生を、標準的なプロトコルを使用して実施した。5匹の4週齢の雌性BALB/cマウスを、動物1匹当たり、完全フロイントアジュバント中の精製した組換えC5a 100μgを用いて皮下的に免疫化した。動物を、不完全フロイントアジュバント中の抗原100μgを使用して4週間隔で2回追加免疫した。最後の追加免疫の3日後、マウスを屠殺し、その脾細胞をNS−1と5:1の比率で融合させ、200μLの細胞を5つの96ウェルプレート上の各ウェルにプレーティングした。ハイブリッド細胞を、20% ウシ胎児血清並びに5×10−3M ヒポキサンチン、2×10−5M アミノプテリン及び8×10−4M チミジン(HAT)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)において選択した。
【0158】
8日後、ヒトC5aに対する抗体を分泌する細胞クローンを、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によってスクリーニングした。簡潔に述べると、96ウェルプレートを、2μg/mLの組換えヒトC5aを用いて4℃で終夜コーティングした。PBS中の5%無脂肪乳を用いて37℃で1時間ブロッキングした後、成長中のクローンの培養培地50μLを各ウェルに添加し、37℃で1時間インキュベートし、その後セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識化したヤギ抗マウス抗体100μLで1時間処理した。ペルオキシダーゼ反応を、5.5mM o−フェニレン−ジアミン塩酸塩(OPD)及び8.5mM Hを含有する発色溶液を用いて進行させた。吸光度を、ELISAリーダー(Anthos、Wals/Salzburg、オーストリア)を用いて492nmで測定した。
【0159】
1.3 モノクローナル抗体の産生及び精製:
大量のMabを作製するために、5×10のハイブリドーマ細胞をマウスの腹腔中に注射した。14日後、腹水を抜き取り、1500rpm、4℃で5分間遠心分離した。上清を収集し、PBS中で予め平衡化したプロテインA−セファロース4Bのカラムに適用した。結合したMabをクエン酸(pH4.0)で溶出し、PBSに対して終夜透析した。精製したタンパク質を、SDS−PAGEによって分析した。
【0160】
1.4 C5aの生物活性に関する酵素放出アッセイ
脱顆粒による酵素放出の誘導は、C5aの重要な生物学的特質である。本発明者らの研究では、健康なボランティアから得た新鮮なヒト全血を使用して、リゾチーム放出に対するC5aの効果を評価した。全血細胞から放出されるリゾチームレベルを、EnzChek(商標)リゾチームアッセイキット(Invitrogen、CA, USA)によって分析した。抗C5a抗体の遮断活性を研究するために、rhC5a(100nM)を、種々の濃度の抗体と混合した。その後、全血細胞を直ぐに添加して、C5aとの抗体のプレインキュベーションを回避した。インキュベーション後、50μlの試料上清を50μlの希釈基質溶液に添加した。プレートを、暗所で37℃で30分間インキュベートし、その後、Perkin Elmer(Massachusetts, USA)の1420マルチラベルカウンターによって読み取った。蛍光強度を、490nmでの励起及び525nmでの発光によって測定し、ゼロの標準値(ブランク)を全ての試料から減算した。抗体の遮断活性を、rhC5aによって誘導されるリゾチーム放出の蛍光強度からrhC5a非依存性のリゾチーム放出(緩衝剤対照)の蛍光強度を減算した後で、算出した。遮断活性を、以下の式を用いて算出した:遮断活性=C5a蛍光−(C5a+Ab)蛍光/C5a蛍光−緩衝剤対照蛍光
【0161】
1.5 ヒトC5a又はC5a突然変異体に対するINab308及びINab708の結合能のELISA分析
結合Elisaを実施して、ヒトC5a及びC5a突然変異体に対するINab308及びINab708の結合活性を決定した。C5a突然変異体は、cDNAレベルからの突然変異部位へのGCTの導入によって対応するアミノ酸をアラニンと置き換えることによって作製される。これらのC5a突然変異体は、24位、29位、30位、31位、32位、35位、36位、37位、30位/37位(二重突然変異)、40位、53位、64位、65位、66位、68位、64位/68位、66位/68位、69位、70位における部位突然変異、及びC−del(C5aのC末端から12個のアミノ酸を欠失させた)を含む。
【0162】
ヒトC5a(Sigma C5788)、組換えC5a及びC5a突然変異体(2μg/mL)を、96ウェルEIAプレート(Costar 9018)上に4℃で終夜コーティングした。PBS中の5%無脂肪乳を用いて37℃で1時間ブロッキングした後、希釈緩衝液を用いて調製した0.08μg/ml、0.4μg/ml、2μg/mlの抗C5a抗体(INab308及びINab708)を各ウェルに添加し、37℃で1時間インキュベートし、その後セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識化したヤギ抗マウス抗体100μLで1時間処理した。ペルオキシダーゼ反応を、5.5mM o−フェニレン−ジアミン塩酸塩(OPD)及び8.5mM Hを含有する発色溶液を用いて進行させた。吸光度を、ELISAリーダー(Anthos、Wals/Salzburg、オーストリア)を用いて492nmで測定した。組換えC5aに対するOD値を100%の結合活性とした。C5a突然変異体の結合能を、ODC5a突然変異体/ODC5aによって算出する。
【0163】
1.6 血漿の溶血活性(CH50):
簡潔に述べると、ヒツジ赤血球(sRBC)を、新鮮なヒツジ全血から遠心分離によって調製した後、抗sRBCで感作させた。健康なボランティア由来の血漿試料を段階希釈し、感作させたsRBCとともにインキュベートした。インキュベーションの30分後、溶解していない細胞を遠沈させ、上清についてプレートリーダーによって542nmで読み取った。C5の活性化に対する抗C5a抗体の効果を決定するために、等体積の抗C5a抗体と血漿とを、感作sRBCの添加の前に1時間プレインキュベートした。
【0164】
1.7 大腸菌感染の全血モデルにおけるIL−8産生:
臨床的敗血症に近い設定における抗C5a抗体の有効性を評価するために、健康なボランティア由来の全血250μlに抗C5a抗体を加え、引き続き、緩衝生理食塩水で希釈した大腸菌(濃度1×10/ml)250μlを添加した。37℃、4時間のインキュベーションの後、上清を、遠沈させ、IL−8に関するELISA分析のために収集した。上清中のIL−8レベルを、IL−8 ELISAキット(BioLegend、USA)によって分析した。
【0165】
1.8 新たな立体構造エピトープと結合する抗体をスクリーニングするためのアッセイ:
コンピュータモデリング法によって得られたC5aの3D構造において、C5aの28位〜40位のペプチド(VNNDETCEQRAAR、配列番号67)及びC5aの65位〜70位のペプチド(ISHKDM、配列番号68)を含有する空間的エピトープは、ランダムコイルとみなすことができる。この2つのペプチドを柔軟なペプチドリンカーGGGGS(配列番号69)によって連結すると、2つのペプチドによる弱い疎水的相互作用がポケット形の立体構造を確保するため、親抗原の立体構造に類似する空間的エピトープが再構築される。ペプチドNH−28〜40−リンカー(GGGGS)−65〜70−COOHのコンピュータモデリング解析結果は、親抗原と同じ立体構造を維持している。この新たなアミノ酸24個のペプチドを合成し、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と複合体形成させて、マウスを免疫化するための免疫原を形成することができ、引き続き、伝統的なハイブリドーマ技術を適用して、この新たなアミノ酸24個のペプチドに基づくELISAをスクリーニングツールとして使用してINab308及びINab708を得ることができる。
【0166】
96ウェルELISAプレートを、立体構造エピトープを有する1μg/mL〜2μg/mLの合成ペプチドを用いて4℃で終夜コーティングする。PBS中の5%無脂肪乳を用いて37℃で1時間ブロッキングした後、ハイブリドーマの成長中のクローン(hybridoma growing clones)の培養培地50μLを各ウェルに添加し、37℃で1時間インキュベートし、その後セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識化したヤギ抗マウス抗体100μLで1時間処理する。ペルオキシダーゼ反応を、5.5mM o−フェニレン−ジアミン塩酸塩(OPD)及び8.5mM Hを含有する発色溶液を用いて進行させる。吸光度を、ELISAリーダーを用いて492nmで測定する。
【0167】
2. 結果
2.1 C5aの活性に関連するアミノ酸の特定
考え得る抗体エピトープを構成するC5a分子内の複数のアミノ酸を、アラニンへと突然変異させた。特に、C5a突然変異体は、24位、29位、30位、31位、32位、35位、36位、37位、30位/37位(二重突然変異)、40位、53位、64位、65位、66位、68位、64位/68位、66位/68位、69位、70位における部位突然変異、及びC−del(C5aのC末端から12個のアミノ酸を欠失させた)を含む。C5a突然変異体を、ヒト全血細胞からのリゾチーム放出を誘導するそれらの生物活性に関して試験した(図1)。
【0168】
ヒトC5aと比較して50%を超える生物活性喪失をもたらすC5aの部位突然変異を、C5aの生物学的機能のために重要な部位とみなした。したがって、24位、29位、31位、37位、68位及び69位のアミノ酸残基を、機能にとって重要な部位として特定した(図1)。
【0169】
2.2 抗体INab308及び抗体INab708によって結合されるC5a上のエピトープの特徴付け
ヒトC5aに対する抗体を分泌する2000個の細胞クローンを、機能的アッセイ(酵素放出)によってスクリーニングした。2つの抗体のみが優れた遮断活性を示した。
【0170】
これら2つの抗体(INab308及びINab708)を、該2つの抗体によって認識されるC5a上の特定のアミノ酸との関係で、更に特徴付けた。
【0171】
特に、1つ又は複数のアミノ酸をアラニンによって置き換えたC5aの複数の突然変異体を作製した。抗体INab308及び抗体INab708をこれらの突然変異体と接触させ、結合の程度をELISAによって決定した(上の1.5節を参照されたい)。(野生型C5aと比較して)50%を超える結合能の喪失を有意とみなした。
【0172】
データは、INab308が2つの領域(31位〜37位及び68位〜69位)と結合することを示す(図2)。同様に、INab708は、2つの領域(31位〜37位及び68位〜70位)と結合する(図3)。
【0173】
注目すべきことには、両方の抗体に関して特定された領域が、上の2.1節においてC5aの機能にとって重要な部位として特定された4つのアミノ酸残基(31位、37位、68位及び69位)を包含している。
【0174】
2.3 ヒト血漿の溶血活性に対する抗体INab308、抗体INab708及び抗体F20の効果
総溶血補体価(CH50)は、古典的な補体経路の活性化を決定するための従来的方法である(1.6節を参照されたい)。
【0175】
C5aに対するモノクローナル抗体(INab708、INab308及びF20)を、およそ5μMの濃度でヒト血漿とともにプレインキュベートし、引き続き、CH50アッセイを行った。これらの抗体の中では、F20はCH50活性を強く阻害するが、INab708及びINab308は影響を有しない(図4)。
【0176】
これらの結果によって、INab708及びINab308がC5bによって媒介される補体の活性化を妨げないことが実証される。
【0177】
2.4 C5aの生物活性に対する抗体INab308、抗体INab708及び抗体L2B23の効果
C5aに対する抗体INab308、抗体INab708及び抗体L2B23の遮断活性を、C5aによって誘導されるリゾチーム放出のアッセイによって評価した(1.4節を参照されたい)。2個のC5a分子によって誘発される生物学的効果に対する1個の抗体の遮断活性を評価するために、抗体対C5aのモル比を1:2に設定した。これらの抗体は、二価抗体である。したがって、上記の1:2というモル比を選ぶことによって、一方では抗体のパラトープと他方ではC5aとが、等モル濃度で存在する。
【0178】
図5のデータは、INab308及びINab708がC5aの生物活性に対して非常に高い遮断活性(それぞれ、94%及び100%)を有するが、L2B23は最小限の効果(約12%)しか示さないことを示す。
【0179】
2.5 ヒト全血における大腸菌によって誘導されるIL−8産生に対する抗体INab308及び抗体INab708の効果
臨床的敗血症に近い設定における抗C5a抗体の有効性を評価するために、全血における大腸菌によって誘導されるIL−8産生を決定した。このアッセイは、大腸菌感染のモデルとみなすことができる(1.7節も参照されたい)。
【0180】
インキュベーション時のINab308及びINab708の存在下において、IL−8レベルは有意に減少した(P<0.01)が、L2B23の存在下では有意な低減は起こらなかった(図6)。
【0181】
3. まとめ
好ましい本発明の抗体INab308及びINab708の重要な特性を、以下の表3に要約する。本発明において特定される立体構造エピトープのアミノ酸配列、すなわち配列番号2及び配列番号3のアミノ酸配列の両方と同時に結合しない比較用抗体8g8、MAb 137−26、Ab11876、G57、F20、L2B23及びG13が更に含まれる。比較用抗体8g8、MAb 137−26、F20、G57、L2B23及びG13は、これらの2つのアミノ酸配列のうち1つのみと結合する(8g8、MAb 137−26、F20、G57及びG13)か、又は異なるアミノ酸配列と結合する(L2B23)。Ab11876の標的エピトープは知られていない。
【0182】
表3:C5aに対する中和抗体、及びそのエピトープ
ヒトC5aに対するモノクローナル抗体は、古典的なハイブリドーマ技術を使用して作製した。ヒトC5に対するMabの結合部位は、アラニンスクリーニング法によって決定した。Mabの遮断活性は、ヒト全血細胞からのC5aによって誘導されるリゾチーム放出の阻害によって定量化した。
【表3】

antibody 抗体
Binding sites 結合部位
Affinity 親和性
Ration of Ab to C5a Ab対C5aの比率
Blocking activity 遮断活性
ND:決定されなかった。欧州特許出願公開第1878441号に開示される抗体に関するATCCクローン番号PTA−3650。**Ab11876は、ABCAM(Cambridge, UK)から取得可能なモノクローナルマウス抗C5/C5a抗体である。

【0183】
表3に示されるように、幾つかの比較用抗体(8g8、MAb 137−26)が、好ましい本発明の抗体、INab308及びINab708より高い、C5aに対する結合親和性を示す。しかしながら、INab308及びINab708は、研究したいずれの比較用抗体よりも高い遮断活性を示す。より具体的には、INab308及びINab708の各々が、化学量論量で、すなわちエピトープ1個当たりパラトープ1個、すなわち標的分子1個当たり抗体分子0.5個の比率で使用した場合でさえも、非常に高い遮断活性(≧90%)を示す。従来技術の抗体(MAb 137−26、Ab11876)は、超化学量論量で使用した場合にのみ、適度の遮断活性を達成した。これらの知見によって、高い結合親和性を高い遮断活性と必ずしも結び付けることができる訳ではないことが実証される。
【0184】
まとめると、本発明は、ちょうど化学量論量で使用した場合でさえも極めて高い遮断活性を示す抗体を初めて提供する。
【0185】
抗体INab308及び抗体INab708の重鎖及び軽鎖の相補性決定領域のアミノ酸配列を、以下の表4に列挙する。
【0186】
表4:抗体INab308及び抗体INab708のCDR配列及びFR配列(Chothiaの分類法)
【表4】

Heavy Chain 重鎖
Light Chain 軽鎖

【0187】
References

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【0188】
Sequence Listing Free text Information

SEQ ID NO: 6 INab308 CDR3 heavy chain
SEQ ID NO: 7 INab708 CDR3 heavy chain
SEQ ID NO: 8 INab308 CDR3 light chain
SEQ ID NO: 9 INab708 CDR3 light chain
SEQ ID NO: 10 INab308 CDR2 heavy chain
SEQ ID NO: 11 INab708 CDR2 heavy chain
SEQ ID NO: 12 INab308 CDR2 light chain
SEQ ID NO: 13 INab708 CDR2 light chain
SEQ ID NO: 14 INab308 CDR1 heavy chain
SEQ ID NO: 15 INab708 CDR1 heavy chain
SEQ ID NO: 16 INab308 CDR1 light chain
SEQ ID NO: 17 INab708 CDR1 light chain
SEQ ID NO: 18 Consensus sequence of C5a in the region of amino acids30-38
SEQ ID NO: 19 Consensus sequence of C5a in the region of amino acids66-72
SEQ ID NO: 20 Consensus sequence of C5a in the region of amino acids31-37
SEQ ID NO: 21 Consensus sequence of C5 in the region of amino acids67-71
SEQ ID NO: 51 INab308 FR1 heavy chain
SEQ ID NO: 52 INab308 FR2 heavy chain
SEQ ID NO: 53 INab308 FR3 heavy chain
SEQ ID NO: 54 INab308 FR4 heavy chain
SEQ ID NO: 55 INab308 FR1 light chain
SEQ ID NO: 56 INab308 FR2 light chain
SEQ ID NO: 57 INab308 FR3 light chain
SEQ ID NO: 58 INab308 FR4 light chain
SEQ ID NO: 59 INab708 FR1 heavy chain
SEQ ID NO: 60 INab708 FR2 heavy chain
SEQ ID NO: 61 INab708 FR3 heavy chain
SEQ ID NO: 62 INab708 FR4 heavy chain
SEQ ID NO: 63 INab708 FR1 light chain
SEQ ID NO: 64 INab708 FR2 light chain
SEQ ID NO: 65 INab708 FR3 light chain
SEQ ID NO: 66 INab708 FR4 light chain
SEQ ID NO: 69 Peptidelinker

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合部分であって、C5aのアミノ酸配列X1X2ETCEX3RX4(配列番号18)及びX5X6KX7X8X9L(配列番号19)
(ここで、
X1は、N、H、D、F、K、Y及びTからなる群から選択され、
X2は、D、L、Y及びHからなる群から選択され、
X3は、Q、E及びKからなる群から選択され、
X4は、A、V及びLからなる群から選択され、
X5は、S、H、P及びNからなる群から選択され、
X6は、H及びNからなる群から選択され、
X7は、D、N、H、P及びGからなる群から選択され、
X8は、M、L、I及びVからなる群から選択され、
X9は、Q、L及びIからなる群から選択される)
によって形成される立体構造エピトープと結合する、結合部分。
【請求項2】
結合部分が、アミノ酸配列X2ETCEX3R(配列番号20)(ここで、X2及びX3は、請求項1の記載と同様に規定される)の少なくとも1つのアミノ酸と結合する、請求項1に記載の結合部分。
【請求項3】
結合部分が、アミノ酸配列X6KX7X8X9(配列番号21)、又はKX7X8(ここで、X6、X7、X8及びX9は、請求項1の記載と同様に規定される)の少なくとも1つのアミノ酸と結合する、請求項1又は2に記載の結合部分。
【請求項4】
立体構造エピトープが、
(a)C5aのアミノ酸配列NDETCEQRA(配列番号2)及びSHKDMQL(配列番号3)、
(b)C5aのアミノ酸配列HDETCEQRA(配列番号22)及びSHKDLQL(配列番号23)、
(c)C5aのアミノ酸配列DDETCEERA(配列番号24)及びSHKNIQL(配列番号25)、
(d)C5aのアミノ酸配列DLETCEQRA(配列番号26)及びSHKHIQL(配列番号27)、
(e)C5aのアミノ酸配列DDETCEQRA(配列番号28)及びHHKNMQL(配列番号29)、
(f)C5aのアミノ酸配列FYETCEERV(配列番号30)及びPHKPVQL(配列番号31)、
(g)C5aのアミノ酸配列KYETCEQRV(配列番号32)及びHHKGMLL(配列番号33)、
(h)C5aのアミノ酸配列YDETCEQRA(配列番号34)及びSNKPLQL(配列番号35)、又は
(i)C5aのアミノ酸配列THETCEKRL(配列番号36)及びNHKPVIL(配列番号37)
によって形成される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項5】
結合部分が、
(a)DETCEQR(配列番号4)、
(b)DETCEER(配列番号38)、
(c)LETCEQR(配列番号39)、
(e)YETCEER(配列番号40)、
(f)YETCEQR(配列番号41)、及び
(g)HETCEKR(配列番号42)
からなる群から選択されるアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸と結合する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項6】
結合部分が、
(a)HKDMQ(配列番号5)、又はKDM、
(b)HKDLQ(配列番号43)、又はKDL、
(c)HKNIQ(配列番号44)、又はKNI、
(d)HKHIQ(配列番号45)、又はKHI、
(e)HKNMQ(配列番号46)、又はKNM、
(f)HKPVQ(配列番号47)、又はKPV、
(g)HKGML(配列番号48)、又はKGM、
(h)NKPLQ(配列番号49)、又はKPL、及び
(i)HKPVI(配列番号50)、又はKPV
からなる群から選択されるアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸と結合する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項7】
10nM以下のK値を伴うC5aに対する結合定数を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項8】
1つの結合部分が、1分子のC5aによって誘導される生物学的効果に対して少なくとも80%の遮断活性を示す、請求項1〜7のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項9】
前記結合部分が、ヒト血漿におけるCH50活性を阻害しない、請求項1〜8のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項10】
前記結合部分が、ヒト全血における大腸菌によって誘導されるIL−8産生を低減することが可能である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項11】
前記結合部分が、
(a)抗体又はその抗原結合断片、
(b)オリゴヌクレオチド、
(c)抗体様タンパク質、又は
(d)ペプチド模倣物
から選択される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の結合部分。
【請求項12】
結合部分が抗体又はその抗原結合断片であり、前記抗体がポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体からなる群から選択される、請求項11に記載の結合部分。
【請求項13】
結合部分が抗体の抗原結合断片であり、前記断片がFab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、Fd断片、Fv断片、ジスルフィド結合したFv(dsFv)、単一ドメイン抗体及び一本鎖Fv(scFv)抗体からなる群から選択される、請求項11又は12に記載の結合部分。
【請求項14】
抗体又はその抗原結合断片であって、
(i)配列番号6に示されるような重鎖CDR3配列、又は
(ii)配列番号7に示されるような重鎖CDR3配列
(ここで、該重鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)
を含み、
以下の配列:
(i)配列番号10による重鎖CDR2配列、
(ii)配列番号11による重鎖CDR2配列、
(iii)配列番号12による軽鎖CDR2配列、
(iv)配列番号13による軽鎖CDR2配列、
(v)配列番号14による重鎖CDR1配列、
(vi)配列番号15による重鎖CDR1配列、
(vii)配列番号16による軽鎖CDR1配列、又は
(viii)配列番号17による軽鎖CDR1配列
(ここで、該重鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、
該軽鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、
該重鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、
該軽鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)
のうち少なくとも1つを更に含む、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項15】
(i)配列番号8に示されるような軽鎖CDR3配列、又は
(ii)配列番号9に示されるような軽鎖CDR3配列
(ここで、該軽鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)
を更に含む、請求項14に記載の抗体又はその断片。
【請求項16】
抗体又はその抗原結合断片であって、
(i)配列番号8に示されるような軽鎖CDR3配列、又は
(ii)配列番号9に示されるような軽鎖CDR3配列
(ここで、該軽鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)
を含む、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項17】
以下の配列:
(i)配列番号10による重鎖CDR2配列、
(ii)配列番号11による重鎖CDR2配列、
(iii)配列番号12による軽鎖CDR2配列、
(iv)配列番号13による軽鎖CDR2配列、
(v)配列番号14による重鎖CDR1配列、
(vi)配列番号15による重鎖CDR1配列、
(vii)配列番号16による軽鎖CDR1配列、又は
(viii)配列番号17による軽鎖CDR1配列
(ここで、該重鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、
該軽鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、
該重鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、
該軽鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)
のうち少なくとも1つを更に含む、請求項16に記載の抗体又はその断片。
【請求項18】
抗体又はその抗原結合断片であって、以下の組:
(i)配列番号6による重鎖CDR3配列、配列番号10による重鎖CDR2配列、及び配列番号14による重鎖CDR1配列、
(ii)配列番号6による重鎖CDR3配列、配列番号10による重鎖CDR2配列、及び配列番号15による重鎖CDR1配列、
(iii)配列番号6による重鎖CDR3配列、配列番号11による重鎖CDR2配列、及び配列番号14による重鎖CDR1配列、
(iv)配列番号6による重鎖CDR3配列、配列番号11による重鎖CDR2配列、及び配列番号15による重鎖CDR1配列、
(v)配列番号7による重鎖CDR3配列、配列番号10による重鎖CDR2配列、及び配列番号14による重鎖CDR1配列、
(vi)配列番号7による重鎖CDR3配列、配列番号10による重鎖CDR2配列、及び配列番号15による重鎖CDR1配列、
(vii)配列番号7による重鎖CDR3配列、配列番号11による重鎖CDR2配列、及び配列番号14による重鎖CDR1配列、又は
(viii)配列番号7による重鎖CDR3配列、配列番号11による重鎖CDR2配列、及び配列番号15による重鎖CDR1配列
(ここで、各重鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、
各重鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、
各重鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)
のうちの1つから選択される重鎖CDR3配列、重鎖CDR2配列及び重鎖CDR1配列の組を含む、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項19】
抗体又はその抗原結合断片であって、以下の組:
(i)配列番号8による軽鎖CDR3配列、配列番号12による軽鎖CDR2配列、及び配列番号16による軽鎖CDR1配列、
(ii)配列番号8による軽鎖CDR3配列、配列番号12による軽鎖CDR2配列、及び配列番号17による軽鎖CDR1配列、
(iii)配列番号9による軽鎖CDR3配列、配列番号12による軽鎖CDR2配列、及び配列番号16による軽鎖CDR1配列、又は
(iv)配列番号9による軽鎖CDR3配列、配列番号12による軽鎖CDR2配列、及び配列番号17による軽鎖CDR1配列、
(ここで、各軽鎖CDR3配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、
各軽鎖CDR2配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含み、
各軽鎖CDR1配列は、1個、2個若しくは3個のアミノ酸交換、1個、2個若しくは3個のアミノ酸欠失、及び/又は1個、2個若しくは3個のアミノ酸付加を任意に含む)
のうちの1つから選択される軽鎖CDR3配列、軽鎖CDR2配列及び軽鎖CDR1配列の組を含む、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項20】
医薬組成物であって、
(a)請求項1〜13のいずれか一項に記載の結合部分、又は
(b)請求項14〜19のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片
を含み、
1つ又は複数の薬学的に許容可能な担体、希釈剤、賦形剤、充填剤、結合剤、滑剤、流動促進剤、崩壊剤、吸着剤及び/又は保存料
を更に含む、医薬組成物。
【請求項21】
急性炎症を伴う様々な疾患、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、重度の敗血症、敗血症ショック、虚血/再灌流関連損傷若しくは虚血性心疾患、急性肺損傷、肺炎若しくは移植患者における急性及び慢性の移植片拒絶反応、移植片対宿主反応、並びに慢性型の炎症を伴う疾患、腎糸球体疾患、糸球体腎炎、及びその他の腎不全、関節リウマチ、及び類似の自己免疫疾患、ベヒテレフ病、狼瘡型疾患、炎症性腸疾患、クローン病、腫瘍成長、又は固形臓器がんの予防及び/又は治療用の医薬組成物の調製のための、
(a)請求項1〜13のいずれか一項に記載の結合部分、又は
(b)請求項14〜19のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片
の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−512209(P2013−512209A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540323(P2012−540323)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007197
【国際公開番号】WO2011/063980
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(512137876)インフラルクス ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】