説明

高ガラス転移温度の装飾インキを有するグレージングシステム

自動車窓用のプラスチックグレージングシステムが開示される。このシステムは、第1表面及び第2表面を含む透明プラスチック基材、及びこの基材の前記第1表面の周辺に配置されたブラックアウト層を含む。ブラックアウト層は、所定のガラス転移温度を有する。このシステムは、さらに、第1表面上に配置された耐摩耗層を含み、この耐摩耗層はブラックアウト層と適合性がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高ガラス転移温度の装飾ブラックアウトインキを有する、プラスチックグレージングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
多年にわたり、ガラスは、自動車産業界において窓に用いられる部品であった。知られているように、ガラスは、乗物の窓として使用するための、消費者に受け入れられる水準の耐摩耗性及び耐紫外線(UV)性を提供する。この点では十分であるが、ガラス基材は、比較的重いことが特徴であり、配送及び設置のコスト高につながる。さらに、ガラスの重量は、最終的に乗物の全重量に影響する。プラスチック材料は、いくつかの自動車技術の用途において使用され、ガラスに取って代わり、乗物のデザインを向上させ、乗物の全重量及びコストを低減させている。透明プラスチック材料の台頭しつつある用途は、自動車窓システムである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、耐摩耗性及び耐UV性などの機能を損なうことなく、製造するのがより容易であり、比較的軽い、プラスチック窓システムなどのガラス代替窓システムを考案することが、産業界において必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、一般に、プラスチックグレージングシステム、並びに向上した歩留り及び効率を有するそのようなシステムを製造する方法を提供する。より具体的には、本発明の実施形態は、比較的軽い重量及びより高い歩留りを有し、製造するのがより容易であるプラスチックグレージングシステムを提供する。
【0005】
一実施形態において、本発明は、自動車窓用のプラスチックグレージングシステムを提供する。このシステムは、第1表面及び第2表面を含む透明プラスチック基材及びこの基材の第1表面の周辺に配置されたブラックアウト層を含む。ブラックアウト層は、所定のガラス転移温度を有する。このシステムは、さらに、第1表面上に配置された耐摩耗層を含み、この耐摩耗層はブラックアウト層と適合性がある。
【0006】
別の実施形態において、本発明は、プラスチックグレージングシステムを製造する方法を提供する。この方法は、透明プラスチック基材の周辺にブラックアウト層を付着することを含む。ブラックアウト層は、所定のガラス転移温度を有する。この方法は、さらに、ブラックアウト層上に配置される耐摩耗層を付着することを含む。この耐摩耗層は、ブラックアウト層と適合性がある。
【0007】
本発明のさらなる目的、特徴及び利点は、以下の説明及び添付の特許請求の範囲を考慮し、同時に添付の図面を考慮することにより、明らかになるはずである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、一般に、歩留りが向上したプラスチックグレージングシステムを提供する。このプラスチックグレージングシステムは、プラスチック基材、基材の第1表面上のブラックアウト層、基材の第2表面上の耐候層、並びにブラックアウト層及び耐候層の両方の上にある摩耗層を含む。本発明の一例には、上記のごとき、本発明の実施形態に従ったプラスチックグレージングシステムを備えた、乗物の窓が含まれる。この例においては、プラスチックグレージングシステムは、耐摩耗性及び耐紫外線性を向上させたことを含め、歩留りを向上させた。
【0009】
図1は、プラスチックグレージングシステム10の断面の一例を図示する。プラスチックグレージングシステム10は、好ましくは、自動車窓として使用するためのシステムである。示されているように、プラスチックグレージングシステム10には、第1表面16及び第2表面18を有する透明プラスチック基材14が含まれる。この実施形態において、第2表面18は、窓の外側又は「A」表面であり、第1表面16は、内側又は「B」表面である。
【0010】
この実施形態において、透明プラスチック基材14は、ポリカーボネート、アクリル、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリスルホン樹脂、ブレンド又はコポリマー或いは任意のその他の適切な透明プラスチック材料、或いはこれらの混合物を含む。好ましくは、透明プラスチック基材14は、ビスフェノール−Aポリカーボネート及びその他の樹脂等級品(分岐又は置換されたものなど)を含み、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ−(アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、又はポリエチレンなどの他のポリマーと共重合されるかブレンドされている。透明プラスチック基材14は、さらに、着色剤、離型剤、酸化防止剤及び紫外線吸収剤などのさまざまな添加物を含むことができる。
【0011】
図1に示されているように、ブラックアウト層20は、透明プラスチック基材14上に配置される。この実施形態において、基材14は、基材14の第1表面16の周辺に付着させたブラックアウト層20を含む。この実施形態において、ブラックアウト層20は、ポリエステル樹脂を含むインキである。例えば、ポリエステルインキは、石油蒸留物、シクロヘキサノン混合物及びナフタレン溶媒などのさまざまな溶媒の混合物中の、ポリエステル樹脂混合物、酸化チタン、カーボンブラック、γ−ブチロラクトン、脂肪族二塩基酸エステル及びその他の着色剤顔料の分散体を含むことができる。この実施形態において、プラスチック基材上に印刷、硬化済みインキは、約3マイクロメートルを超える、好ましくは約5から8マイクロメートルの間の厚さを有し、約98%を超える、好ましくは99.8%から100%の不透明度を有しており、窓を乗物の本体に接着させるのに使用されるいかなる接着剤系をもおおうようにする。ポリエステル樹脂は、約17から29重量%までのポリエステルインキを含む。
【0012】
ブラックアウト層は、情報(例えば、企業、規制などに関するもの)を伝達するために又は他の乗物の部品(例えば、接着剤)をおおう又は隠すために、装飾目的で基材に付着させた実質的に不透明な印刷として、定義され得る。ブラックアウト層は、固体のマスキングへりを形成するために透明基材の周辺に、又は窓の観察領域の部分に付着させ得る。この周辺へりは、へりを窓の観察領域へ移動させるためにフェードアウトパターンをさらに含むことができる。このフェードアウトパターンは、色々ある中でも、ドット、長方形(線)、正方形及び三角形を含む、可変サイズのさまざまな形を含むことができる。ブラックアウト層は、これに限らないが、企業のロゴ、商標及び規制指示を含む、文字、記号及び数字をさらに含むことができる。
【0013】
ポリエステル樹脂は、単一の飽和ポリエステル樹脂タイプ又は異なる飽和ポリエステル樹脂の混合物を含むことができる。このポリエステル樹脂又は樹脂類は、直鎖又は分岐脂肪族若しくは芳香族ポリマーであり得る。これらのポリマーは、相補的反応基を含む他の樹脂(例えば、アミノホルムアルデヒド、メラミン、ポリイソシアネートなど)との縮合重合によって、薄膜を形成するヒドロキシル基又はカルボキシル基のいずれかを含有することができる。飽和ポリエステルは、さまざまなアルコール(二価、三価及び四価アルコール)と、オルトフタル酸無水物、テレフタル酸及びトリメリト酸無水物などの酸(又は酸無水物)との重合から製造される。最も普通には、過剰の多価アルコールが使用され、それにより、最終の樹脂中に過剰のヒドロキシル官能基を提供する。いくつかの多価アルコール、例えば、2,2,4−トリメチル、1,3−ペンタンジオール(TMPD)、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、ネオペンチルグリコール(NPG)及びトリメチロールプロパン(TMP)は、エチレングリコール又はグリセロールよりも加水分解に対して安定なシステムを与えることが、わかっている。過剰の酸を原料として使用した場合は、得られた樹脂は、カルボキシル化官能基を含有することになる。
【0014】
ブラックアウト層20は、所定のガラス転移温度(Tg)を有する。ブラックアウト層のガラス転移温度は、好ましくは約62℃を超え、約69℃を超えることが特に好ましい。異なるポリエステル樹脂が、インキ調合物中で共にブレンドされる場合、得られたシステムのガラス転移温度は、上記の範囲に適合しなければならない。しかし、ポリエステル樹脂の混合物中の1種又は複数種のポリエステルは、特定された範囲外の、個々のTg値を示す可能性がある。
ポリエステルは、フタル酸、イソフタル酸無水物、オルトフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、トリメリト酸無水物、無水コハク酸、環状多官能性無水カルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸無水物(HHPA)及びメチル、ヘキサヒドロフタル酸無水物及び類似のそのような化合物から製造され得る。通常、樹脂のブレンドは、ブレンド中に存在する樹脂のそれぞれによって示される、個々のTg値の間に位置しているTgblendをもたらすことになる。このTgblendは、式1において示されたブレンド済みインキ中に存在する、個々の樹脂の量に依存し、式中、W及びWは、個々に、それぞれTg及びTgのガラス転移温度を示す、それぞれのポリエステル樹脂の重量分率である。ポリエステル樹脂のブレンドを含むブラックアウト層に関しては、このブレンドによって示される1/Tgblendの比が、約0.002985未満、特に好ましくは約0.0029239未満でなければならない。Tはケルビンでなければならない。
1/Tgblend=(W/Tg)+(W/Tg
【0015】
非晶質材料のガラス転移温度(Tg)は、その温度より低い温度では分子が相対的に動けない又は相対的に無視し得る移動度を有する温度を一般に表す。このことは、ポリマーの場合は、物理的に、連結されたポリマー鎖が、実質的に静止することを意味する。換言すれば、ポリマーの骨格の並進運動及びポリマーセグメントが撓むこと又は真直ぐになることは、ガラス転移温度より低い温度では阻止される。より大きな規模では、ポリマーは硬い又は剛直な状態を示す。ポリマーのガラス転移温度より高い温度では、これらのポリマーは、より可撓性又は「ゴム状」になり、これにより、破壊することなく、より大きな弾性又は塑性変形を生じ得る能力を示すことになる。この転移は、ポリマー鎖がもつれの解かれた状態になり、より大きな自由度を得て、回転し、互いにすべりあうことにより生じる。Tgは、非晶質相に通常適用され、ガラス及びプラスチックに普通適用される。熱処理及び分子再配列、空孔、誘導ひずみなどの要因及び材料の状態に影響するその他の要因は、Tgに影響し得る。Tgは、材料の粘弾性特性に依存し、したがって、加荷重の速度と共に変動する。
【0016】
ポリマーの場合、Tgは、ギブズの自由エネルギーが、ポリマーの約50個の要素の協同運動の活性化エネルギーを超えた状態にあるような温度として、しばしば表される。これにより、力が加えられた場合、分子鎖が互いにすべりあうことが可能になる。この定義から、側鎖及び比較的堅い化学基(例えば、ベンゼン環)を導入することにより、流動過程を妨害し、したがって、Tgを増大させることになる。熱可塑性物質については、この効果により、材料の剛性が低下することになる。
【0017】
ポリマーシステムのTgを測定する最も普通の方法は、モジュラスなどの、熱力学特性において生じる変動を、温度の関数として監視することである。図2に示されているように、ポリマー材料のモジュラス(E)は、温度が上昇するにつれて減少する。ガラス転移温度に到達すると、モジュラスは、材料が流れ始めるまでは比較的一定のまま留まっている。モジュラスが一定のまま留まっている領域を、「ゴム状」平坦領域と呼ぶ。ポリマー材料のガラス転移温度を測定するためのその他の多くの手段(2、3の例を挙げれば熱機械分析(TMA)又は示差走査熱量測定(DSC)など)は、ポリマー合成の当業者には公知の普通の分析法である。
【0018】
ポリマーシステムにより示されるTgは、可塑剤をポリマーマトリックス中に添加することにより大幅に低減させることができる。可塑剤の小さな分子は、ポリマー鎖の間に埋もれることができ、それにより、鎖をさらに間隔を空けて配置し(すなわち、自由体積を増大させ)、鎖が互いにより容易に移動することができるようにする。
【0019】
プラスチックパネルの「A」表面に向かって設置されるのは、耐候層32である。耐候層32は、これに限らないが、シリコーン、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル及びエポキシ、並びにそれらの混合物又はコポリマーを含むことができる。耐候層は、好ましくは、とりわけヒドロキシフェニルトリアジン、ヒドロキシベンゾフェノン類、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール類、ヒドロキシフェニルトリアジン類、ポリアロイルレゾルシノール及びシアノアクリレートなどの、紫外線(UV)吸収分子を含む。
【0020】
耐候層32は、単一層又は多重中間層のいずれかを含むことができる。多重中間層の一実施形態には、図1に示されているように、プライマー中間層24及び耐候中間層30を含む2つの中間層システムが含まれる。プライマー中間層24は、耐候中間層30をプラスチック基材の第2表面18に接着する際の助けになる。例えば、プライマー中間層は、これに限らないが、アクリル、ポリエステル、エポキシ、並びにこれらのコポリマー及び混合物を含むことができる。耐候中間層30は、これに限らないが、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリフッ化ビニリデン、シリコーンハードコート、及びこれらの混合物又はコポリマーを含むことができる。多重被覆中間層を含む耐候層の、ある特定の例には、アクリルプライマー(SHP401、GEシリコーンズ、ウォータフォード、ニューヨーク州)及びシリコーンハードコート(AS4000、GEシリコーンズ)の組合せが含まれる。
【0021】
さまざまな添加物、中でも、着色剤(ティント(tints))、レオロジー制御剤、離型剤、酸化防止剤及びIR吸収又は反射顔料などが、耐候層32に添加され得る。任意の多重中間層を含めて、耐候層32は、薄膜として押出し成形又は鋳込成形すること又は離散被覆として付着させることができる。耐候層を含むいずれの被覆でも、ディップコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、カーテンコーティング、又は当業者に公知のその他の技法により、付着させることができる。
【0022】
プラスチックグレージングシステム10は、さらに、プラスチックパネルの第1表面16上のブラックアウト層20上に(例えば、窓の「B」又は内側の表面に向かって)配置される耐摩耗層22を含むことができる。本発明者らは、本発明のブラックアウト層20が、思いがけず、耐摩耗層22及びプラスチック基材14の両方と適合性があることを発見した。すなわち、ブラックアウト層20は、いかなる追加層、例えばプライマー中間層をも使用することなく、耐摩耗層22及びプラスチック基材14の両方に接着している。
【0023】
耐摩耗層34もまた、耐候層32上の窓の「A」又は外側の表面に付着させることができる。耐摩耗層34は、化学組成又は構造のいずれかにおいて、耐摩耗層22と実質的に類似しているか又は異なっている可能性がある。1つ又は両方の耐摩耗層、22及び34は、UV吸収又は阻止剤を含有することができる。両方の耐摩耗層、22及び34は、単一層又は組成が変化している多重中間層の組合せのいずれかを含むことができる。耐摩耗層、22及び34は、これに限らないが、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)、膨張熱プラズマPECVD、プラズマ重合、光化学蒸着、イオンビーム蒸着、イオンプレーティング蒸着、陰極アーク蒸着、スパッタリング、蒸着、ホローカソード活性化蒸着、マグネトロン活性化蒸着、活性化反応性蒸着、熱化学蒸着及び任意の公知のゾル−ゲル被覆法を含む、当業者に公知の任意の真空蒸着技法により、付着させることができる。
【0024】
本発明の一実施形態においては、膨張熱プラズマ反応器を含む、特定の種類のPECVD法が好ましい。この特定の方法(これ以後、膨張熱プラズマPECVD法と呼ぶ)は、米国特許出願10/881949(2004年6月28日出願)及び米国特許出願11/075343(2005年3月8日出願)に詳細に記載されており、両方の前記特許出願は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。膨張熱プラズマPECVD法においては、150Torrを超える圧力、例えば大気圧近傍の圧力下の不活性ガス環境において、直流(DC)電圧を陰極に印加し、対応する陽極プレートにアークを飛ばすことにより、プラズマを発生させる。次いで、大気圧近傍の熱プラズマは、超音速で膨張してプラズマ処理室に入り、処理室内の工程圧力は、プラズマ発生装置における圧力未満であり、例えば、約20から約100mTorrである。
【0025】
膨張熱プラズマPECVD法の反応試薬は、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ビニル−D4又は別の揮発性有機ケイ素化合物を含むことができる。有機ケイ素化合物は、アークプラズマ蒸着装置において、通常酸素及びアルゴンなどの不活性キャリアガスの存在下で、酸化され、分解され、重合されて耐摩耗層を形成する。
【0026】
耐摩耗層、22及び34は、酸化アルミニウム、フッ化バリウム、窒化ホウ素、酸化ハフニウム、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化スカンジウム、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、水素化オキシ炭化ケイ素、炭化ケイ素、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウムスズ、酸化イットリウム、酸化亜鉛、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸ジルコニウム、或いはこれらの混合物又はブレンドを含むことができる。好ましくは、耐摩耗層、22及び34は、堆積層に留まる炭素及び水素原子の量に応じて、SiOからSiOの範囲の組成を有する。
【0027】
耐摩耗層34と共に使用されるプライマー中間層24及び耐候中間層30を含む、耐候層32の一例は、Exatec(登録商標)900vtグレージングシステムである。Exatec(登録商標)900vtグレージングシステムにおいて、自動車のグレージングパネルは、透明ポリカーボネートグレージング基材14と、水性アクリルプライマー24(Exatec(登録商標)SHP 9X、GEシリコーンズによるExatec LLC)及びシリコーンハードコート30(Exatec(登録商標)SHX、GEシリコーンズによるExatec LLC)を含む、基材の第2表面(例えば、窓の「A」の側)上の耐候層32と、膨張熱プラズマPECVD法を用いて堆積された「ガラス様」耐摩耗層とを含む。プラスチック基材の第1表面(例えば、窓の「B」の側)上には、本発明のインキが印刷され、硬化され、次いで、膨張熱プラズマPECVD法を用いて「ガラス様」耐摩耗層22が蒸着される。
【0028】
本発明の一実施形態には、向上した歩留りを有するプラスチックグレージングシステムの製造方法が含まれている。この実施形態において、透明プラスチック基材は、好ましくは、ビスフェノール−Aポリカーボネート及びその他の樹脂等級品(分岐又は置換されたものなど)を含み、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ−(アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、又はポリエチレンなどの他のポリマーと共重合されるかブレンドされている。好ましくは基材は、押出し、鋳造(射出成形、ブロー成形及び圧縮成形を含む)又は熱成形(熱成形、真空成形及び冷間加工を含む)などの、当業者に公知の任意の技法を使用することによって、プラスチックペレット又はシートから窓(例えば乗物の窓)に成形される。プラスチックシートを使用して窓を成形することは、本発明の範囲又は精神を逸脱することなく、印刷の前に、印刷の後に、又はプライマー及び上塗り塗料を付着させた後に行うことができることに注目すべきである。
【0029】
この実施形態において、この方法は、さらに、基材の第1表面の周辺にブラックアウト層を付着させることを含む。ブラックアウト層は、好ましくは約62℃を超える、特に好ましくは約69℃を超える、所定のガラス転移温度を有するポリエステル樹脂を含むインキである。ポリエステルインキは、石油蒸留物、シクロヘキサノン混合物及びナフタレンに分散された、ポリエステル樹脂混合物、酸化チタン、カーボンブラック、γ−ブチロラクトン、脂肪族二塩基酸エステル及び着色剤顔料を含む。インキは、約3マイクロメートルを超える厚さ及び約98%を超える不透明度を有する。
【0030】
この実施形態において、この方法は、さらに、基材上のブラックアウト層を室温で約20分間乾燥すること、及び基材上のブラックアウト層を約90℃と100℃の間で約30分間硬化させることを含む。
【0031】
この実施形態において、この方法は、さらに、フロー、ディップ又はスプレーコーティング法を用いて、プラスチック基材の第2表面上に耐候層を付着させることを含む。耐候層は、最初にプライマー中間層を付着させ、次いで基材上のプライマー中間層を室温で約20分間乾燥し、引き続き、基材上のプライマーを約120℃と130℃の間で、約30分間硬化させることを含むことができる。
【0032】
この方法は、さらに、耐候性を向上させるためにプライマー中間層上に耐候中間層を付着させることを含む。この例においては、耐候中間層は、UV吸収分子を含むシリコーンハードコートである。
【0033】
この実施形態において、この方法は、さらに、ブラックアウト層及び耐候層上に、耐摩耗層をそれぞれ付着させることを含む。耐摩耗層は、SiOからSiOまで変動する組成からなる。耐摩耗層は、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)、膨張熱プラズマPECVD、プラズマ重合、光化学蒸着、イオンビーム蒸着、イオンプレーティング蒸着、陰極アーク蒸着、スパッタリング、蒸着、ホローカソード活性化蒸着、マグネトロン活性化蒸着、活性化反応性蒸着、熱化学蒸着及び任意の公知のゾル−ゲル被覆法を用いて蒸着され、膨張熱プラズマPECVD法が好ましい。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
高いTgを持つ装飾ブラックアウト層を有する基材の、発明者らによって得られた試験結果を、表1に示す。より具体的には、表1は、ポリカーボネート上に付着させ、硬化され、引き続き、Exatec(登録商標)900vtグレージングシステムを用いて被覆された、種々のインキ調合物に関して得られた、接着保持データを示す。接着試験は、自動車の接着技術分野の技術者には、「Cataplasma」試験として知られている。この「Cataplasma」試験に付随する手順は、参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6958189号(2005年)に、適切に記載されている。
【0035】
印刷され、被覆されたプラスチックグレージングシステムに付着させた接着剤系は、シリコーンカップリング剤(Betaseal53520、Dow Essex、ミシガン州)、ウレタンプライマー(Betaseal48520A、Dow Essex)及びウレタン接着剤(Betaseal57302 Dow Essex)からなる。接着剤系は、印刷済みのインキ/被覆にビードとして付着させ、製造業者の推奨条件に従って、室温(約23℃)で96時間硬化させる。接着剤系が硬化した後、印刷され、被覆された基材を高温で高湿度に曝し、次いで、低温衝撃(すなわち、システムを湿った綿の中に包み込み、70℃で7日間、次いで、−20℃で3時間保持する)を与える。室温(約23℃)で平衡に達した後、印刷されたインキの付いたポリカーボネート基材を、光学的な変化又は欠点(ヘーズの発達、色変化、泡、微小亀裂など)の目視検査、並びにASTM手順D3359−95に従って実施されたクロスハッチ接着試験に供する。
【0036】
Cataplasma試験条件が完了すると直ぐに、接着剤を印刷/被覆された基材から引き剥がす。次いで、得られたウレタン接着剤の接着性能は、被覆された飾り板からビードを引っ張る際に測定される。次いで、得られた破壊メカニズムが、ウレタン接着剤の凝集破壊(例えば、接着剤ビードが破壊する又は分裂する)を反映する程度が、測定される。以下の表において、それぞれのインキ(実施番号1〜4)が、80%以上の凝集破壊の格付けを示して、試験に合格した。
【0037】
【表1】

【0038】
しかし、約62℃未満のガラス転移温度を有するすべての印刷済みインキ混合物(実施番号1〜2)は、Cataplasma試験条件下において、インキの大量の破壊又は亀裂が生じる。実施番号1において、ポリエステルインキは、62℃未満の個別のTg値を示す2つのポリエステル樹脂の混合物又はブレンドである。実施番号2におけるポリエステルインキは、50℃のTgを有する単一のポリエステル樹脂タイプを含むインキを表した。
【0039】
69℃のガラス転移温度を有する、印刷済みポリエステルインキ(実施番号3)においては、いかなる亀裂も観察されなかった。実施番号3におけるポリエステルインキは、また単一のポリエステル樹脂タイプを含むインキを表す。実施番号3において使用されるものと同一のポリエステル樹脂(例えば、同一Tg=69℃)を有するが、架橋密度がはるかに高い(例えば、より多くの架橋剤が使用されている)、実施番号4における印刷されたインキは、多少の軽度の亀裂を示すことがわかる。したがって、架橋密度は、この亀裂現象の開始に影響を及ぼし得る。この実施例は、印刷されたインキの亀裂による実質的な欠点が現れないようにするために、インキは、約62℃を超える、好ましくは約69℃を超えるガラス転移温度を示さなければならないことを実証している。
【0040】
(実施例2)
実施例1において得られた結果に基づいて、Exatec(登録商標)900vtグレージングシステムにより被覆された、実施番号3により記述されている印刷済みインキを含む基材を、過酷な熱サイクル試験において評価した。表2は、各サイクルが、ある一定時間、種々の温度及び相対湿度(RH)条件に試験基材を曝すことを含むものとして、全15サイクルからなる、自動車OEM試験条件(PSA Peugot Citroen、D47−1309)を用いた熱サイクルの後で得られた接着データを示す。この試験に含まれる種々の温度、RH及び時間条件は、40℃及び50%RHで30分、40℃及び50%RHで2.5時間、−20℃で30分、−20℃で2.5時間、40℃及び95%RHで45分、40℃及び95%RHで2.5時間、90℃で15分、並びに90℃で2.5時間である。試験の熱サイクルの部分が完了すると直ちに、ASTM手順D3359−95に従った単純なスクライブ(例えば、クロスハッチ)テープ引張り試験を用いて、被覆層剥離の発生を判定する。いかなる被覆層剥離も、いかなる亀裂も観測されない場合、基材は試験に合格する。この試験を、実施番号3に記載のインキ及びグレージングシステムを含む6個の基材(A〜F)について実施した。
【0041】
【表2】

【0042】
全6つの試験(A〜F)においては、インキのいかなる被覆層剥離も又は亀裂も、観測されなかった。したがって、約69℃を超えるTgを有するポリエステルインキ調合物は、熱サイクル試験に合格することがわかる。
【0043】
本発明を、好ましい実施形態の観点から説明してきたが、勿論、当業者にとって、特に前述の教示を考慮して変更を加えることが可能であるので、本発明はこれに限らないことが、理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態に従って描いたプラスチックグレージングシステムの断面図である。
【図2】ガラス転移温度(Tg)の出現を描いた、ポリマーシステムにより示されたモジュラス(E)対温度のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車窓用のプラスチックグレージングシステムであって、
第1表面と第2表面とを含む透明プラスチック基材と、
前記基材の第1表面の周辺に配置され、所定のガラス転移温度を有するブラックアウト層と、
前記第1表面上に配置され、前記ブラックアウト層と適合性のある耐摩耗層と
を含むシステム。
【請求項2】
ブラックアウト層が、ポリエステル樹脂を含むインキである、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
ポリエステルインキが、石油蒸留物、シクロヘキサノン混合物及びナフタレンに分散されたポリエステル樹脂混合物、酸化チタン、カーボンブラック、γ−ブチロラクトン、脂肪族二塩基酸エステル及び着色剤顔料を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
ブラックアウト層が、約62℃を超えるガラス転移温度を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
ブラックアウト層が、約69℃を超えるガラス転移温度を有する、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
ブラックアウト層が、樹脂のW/Tg比の合計が約0.002985未満である樹脂の混合物を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
ブラックアウト層が、樹脂のW/Tg比の合計が約0.0029239未満である樹脂の混合物を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
第2表面上に堆積された耐候層と、
前記耐候層上に堆積された耐摩耗層と
をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記耐候層が、第2表面上に配置されたプライマー中間層を含み、プライマー中間層上に配置された耐候中間層の接着を援助する、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
耐候層上に堆積された耐摩耗層が、ブラックアウト層上に堆積された耐摩耗層に実質的に類似している、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
耐候層が、UV放射を吸収するための紫外線吸収分子を含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
プライマー中間層及び耐候中間層の少なくとも1つが、UV放射を吸収するための紫外線吸収剤を含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
透明プラスチック基材が、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂及びこれらのコポリマー又は混合物の1種を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
ブラックアウト層上に付着した耐摩耗層が、酸化アルミニウム、フッ化バリウム、窒化ホウ素、酸化ハフニウム、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化スカンジウム、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、水素化オキシ炭化ケイ素、炭化ケイ素、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウムスズ、酸化イットリウム、酸化亜鉛、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸ジルコニウム、又はこれらの混合物を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
耐候層上に付着した耐摩耗層が、酸化アルミニウム、フッ化バリウム、窒化ホウ素、酸化ハフニウム、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化スカンジウム、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、水素化オキシ炭化ケイ素、炭化ケイ素、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウムスズ、酸化イットリウム、酸化亜鉛、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、酸化ジルコニウム、チタン酸ジルコニウム、又はこれらの混合物を含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項16】
プライマー中間層が、アクリル、ポリエステル、エポキシ、又はこれらのコポリマー及び混合物の1種を含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項17】
耐候中間層が、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリフッ化ビニリデン、シリコーンハードコート、及びこれらの混合物又はコポリマーの1種を含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項18】
インキが、約3マイクロメートルを超える厚さを有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
インキが、結合システムを隠すために、約98%を超える不透明度を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
インキが、約99.8%から約100.0%の不透明度を有する、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
プラスチックグレージングシステムを製造するための方法であって、
所定のガラス転移温度を有するブラックアウト層を、透明プラスチック基材の周辺に付着すること、及び
ブラックアウト層と適合性のある、ブラックアウト層上に配置する耐摩耗層を付着すること
を含む方法。
【請求項22】
耐候層を、ブラックアウト層に向き合っている透明プラスチック基材上に付着すること、及び
耐摩耗層を耐候層上に付着すること
をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ブラックアウト層が、ポリエステル樹脂を含むインキである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
ポリエステルインキが、石油蒸留物、シクロヘキサノン混合物及びナフタレンに分散された、ポリエステル樹脂混合物、酸化チタン、カーボンブラック、γ−ブチロラクトン、脂肪族二塩基酸エステル及び着色剤顔料を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ブラックアウト層が、約62℃を超えるガラス転移温度を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
ブラックアウト層が、約69℃を超えるガラス転移温度を有する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ブラックアウト層が、樹脂のW/Tg比の合計が約0.002985未満である樹脂の混合物を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
ブラックアウト層が、樹脂のW/Tg比の合計が約0.0029239未満である樹脂の混合物を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
耐摩耗層が、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)、膨張熱プラズマPECVD、プラズマ重合、光化学蒸着、イオンビーム蒸着、イオンプレーティング蒸着、陰極アーク蒸着、スパッタリング、蒸着、ホローカソード活性化蒸着、マグネトロン活性化蒸着、活性化反応性蒸着、熱化学蒸着又は任意の公知のゾル−ゲル被覆法の1つとして選択された方法を用いて堆積される、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
耐摩耗層が、膨張熱プラズマPECVD法を用いて堆積される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
透明プラスチック基材が、プラスチックグレージング樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂及びこれらのコポリマー又は混合物の1種を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項32】
インキが、約3ミクロンを超える厚さを有する、請求項21に記載の方法。
【請求項33】
インキが、結合システムを隠すために、約98%を超える不透明度を有する、請求項21に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−529453(P2009−529453A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558434(P2008−558434)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/006147
【国際公開番号】WO2007/106418
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(505365404)エクスアテック、エル.エル.シー. (51)