説明

高倍率で高物性のフィラメントの製造方法及び製造装置

【課題】 特殊で高精度・高レベルな装置を必要とせずに、マルチフィラメントや機能性フィラメント、高弾性フィラメントなどを、簡便な手段で高倍率で高物性のフィラメントを製造する手段を提供することにある。
【解決手段】 原フィラメントが複数箇所からの赤外線光束で加熱されて、引取装置によって5倍以上の一定倍率で延伸され、延伸されたフィラメントの物性が測定されることにより、物性が最も適するように赤外線光束の出力を低下させていくことにより、高倍率で高物性のフィラメントの製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高倍率で高物性のフィラメント製造方法及びその製造装置に関し、特に赤外線法により、マルチフィラメントや、分割フィラメントや芯鞘フィラメントなどの機能性フィラメント、または高弾性フィラメントなどを、高倍率で物性の良いフィラメントとして製造する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線法によりフィラメントを延伸することは、種々の方式が提案されている(例えば、特開昭63−249732、国際公開WO00/73556A1)。しかしこれらの延伸手段は、マルチフィラメントには適応困難であり、また、芯鞘フィラメントなどに適用すると、芯と鞘のバランスが崩れるなど種々の問題があり、延伸倍率を上げながら高物性の延伸フィラメントを得られていなかった。
【0003】
また本発明人は、赤外線法により、分子配向を伴って、1,000倍以上という超高倍率の延伸倍率で極細フィラメント得る手段について発明を行った(例えば、特開2003−166115、特開2004−107851、国際公開WO2004/085723A1)。これらは、簡便な手段で、極細の分子配向したフィラメントが得られた。本発明は、分割フィラメントや芯鞘フィラメントなどの機能性フィラメントや高弾性フィラメントなどを、延伸倍率は通常のフィラメントの延伸倍率(10倍未満)よりも高倍率で、しかもそれらのフィラメントの持つ物性を最大限に発揮させることができる延伸手段を提供することにある。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−249732号公報(第1頁、第1図)。
【特許文献2】国際公開WO00/73556A1(第22−24頁、図1,図3)。
【特許文献3】特開2003−166115号公報(第1−2頁、図4、図5)。
【特許文献4】特開2004−107851号公報(第1−2頁、図1,図3)。
【特許文献5】国際公開WO2004/085723A1(第27−30頁、図1,図2)。
【非特許文献1】鈴木章泰、他1名 「Journal of Applied Polymer Science」、vol.88、p.3279−3283、2003年、(米国)。
【非特許文献2】鈴木章泰、他1名 「Journal of Applied Polymer Science」、vol.92、p.1449−1453、2004年、(米国)。
【非特許文献3】鈴木章泰、他1名 「Journal of Applied Polymer Science」、vol.92、p.1534−1539、2004年、(米国)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術をさらに発展させたものであって、その目的とするところは、特殊で高精度・高レベルな装置を必要とせずに、簡便な手段で容易に高延伸倍率であって、高物性の延伸フィラメントを、連続的に得ることができるようにすることにある。また他の目的は、従来の赤外線法によるフィラメントの延伸手段は、マルチフィラメントや分割フィラメントや芯鞘フィラメント、または高弾性フィラメントなどを延伸することが困難であったが、本発明では、それらのフィラメントを高物性で高倍率に延伸する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の目的を達成するためになされたものであって、フィラメントの製造方法としての特徴は、下記の通りである。本発明は、原フィラメントがフィラメントの送出手段により送り出される工程と、送り出されてきた原フィラメントを複数箇所からの赤外線光束で加熱される工程と、この加熱されたフィラメントが引取装置によって5倍以上の一定倍率で延伸される工程と、この延伸されたフィラメントの物性が測定されることにより、物性が最も適するように赤外線光束の出力を低下させていく工程と、を含む高倍率で高物性のフィラメントの製造方法に関する。また本発明は、前記原フィラメントがマルチフィラメントである高倍率で高物性のフィラメントの製造方法に関する。また本発明は、前記原フィラメントが機能性フィラメントである高倍率で高物性のフィラメントの製造方法に関する。また本発明は、前記原フィラメントが高弾性率フィラメントである高倍率で高物性のフィラメントの製造方法に関する。また本発明は、前記複数箇所からの赤外線光束による加熱が、フィラメントの走行軸に対して、対称方向からの放射である、高倍率で高物性のフィラメントの製造方法に関する。また本発明は、前記延伸後に、前記延伸されたフィラメントが加熱装置により熱処理される、高倍率で高物性のフィラメントの製造方法に関する。さらに本発明は、前記の手段により最適化された前記延伸フィラメントがコンベア上に集積されることによる連続フィラメントからなる不織布の製造方法に関する。
【0007】
本発明は上記の目的を達成するためになされたものであって、フィラメントの製造装置としての特徴は、下記の通りである。
本発明は、原フィラメントの送出手段と、送り出されてきた原フィラメントが複数箇所からの赤外線光束で加熱されるように構成されている赤外線放射装置と、その加熱されたフィラメントが5倍以上の一定倍率で延伸されるように引き取る引取装置と、その延伸されたフィラメントの物性を測定する装置と、その延伸されたフィラメントの物性が最も適するように赤外線光束の出力を制御する制御装置と、を含む高倍率で高物性のフィラメントの製造装置に関する。また本発明は、前記赤外線放射装置が、炭酸ガスレーザー発振装置である、高倍率で高物性のフィラメントの製造装置に関する。また本発明は、前記赤外線光束の複数箇所からの放射が、一方向から放射される光束を、鏡を用いて反射させて前記原フィラメントに集められたものである、高倍率で高物性のフィラメントの製造装置に関する。また本発明は、前記赤外線光束の複数箇所からの放射が、複数の赤外線光束放射装置からの光束である、高倍率で高物性のフィラメントの製造装置に関する。また本発明は、前記延伸装置に、さらに熱処理装置が備えられ、最適条件下で延伸された前記フィラメントがこの熱処理装置内を通過することにより熱処理されるように構成されている、高倍率で高物性のフィラメントの製造装置に関する。さらに本発明は、前記フィラメント製造装置に、さらにコンベアが備えられ、最適条件下で延伸された前記フィラメントがこのコンベア上に集積されるように構成されている連続フィラメントからなる不織布の製造装置に関する。
【0008】
本発明は、原フィラメントを延伸して、高倍率で高物性の延伸されたフィラメントを提供するものである。本発明における、原フィラメントとは、既にフィラメントとして製造されて、リール等に巻き取られたものであってもよいし、紡糸過程において、溶融または溶解フィラメントが冷却や凝固によりフィラメントとなったものを、紡糸過程に引き続き使用され、本発明の延伸手段の原料とすることができる。ここで、フィラメントとは、実質的に連続した繊維であり、数ミリメータから数十ミリメータの長さである短繊維とは区別される。原フィラメントは、単独で存在することが望ましいが、数本ないし数十本に集合されていても使用することができる。なお、本発明におけるフィラメントは、一本のフィラメントからなるシングルフィラメントである場合と、複数のフィラメントからなるマルチフィラメントである場合が含められる。赤外線法におけるフィラメントの延伸においては、マルチフィラメントの高倍率延伸は困難であったが、本発明では、それを容易にしたことに特徴がある。なお、一本のフィラメントにかかる張力等では、「単糸あたり」と表現するが、一本のフィラメントでは、「その一本のフィラメントあたり」を意味し、マルチフィラメントでは、それを構成する「個々のフィラメント一本あたり」を意味する。
【0009】
本発明の原フィラメントは、ポリエチレンテレフタレートや脂肪族ポリエステルを含むポリエステル、ナイロン(含むナイロン6、ナイロン66)を含むポリアミド、ポリプロピレンやポリエチレンを含むポリオレフィン、ポリビニルアルコール系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、フッ素系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、スチレン系ポリマー、ポリオキシメチレン、エーテルエステル系ポリマーなどの熱可塑性ポリマーからなるフィラメントであれば使用することができる。特に、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン(含むナイロン6、ナイロン66)、ポリプロピレンは、延伸性もよく、分子配向性もよく、本発明の延伸フィラメントの製造に特に適する。またポリ乳酸やポリグリコール酸等の生分解性ポリマーや生体内分解吸収性ポリマー等も本発明の赤外線ビームによる延伸性もよく、本発明の高倍率で高物性のフィラメントの製造に特に適する。
【0010】
本発明の延伸手段は、機能性フィラメントや高弾性フィラメントの延伸に特に適合する。これらのフィラメントは、目的の高度の物性を得るためには、延伸条件の選択が非常に重要である。また、延伸条件の他、延伸において均一に加熱することが特に重要である。機能性フィラメントとは、芯鞘フィラメント、中空フィラメント、異形断面フィラメント、分割フィラメント、海島フィラメントなど種々の構造を持つことで、特殊な機能を発揮できるフィラメントをいう。これらのフィラメントを最適な延伸条件で延伸しないと、例えば、芯鞘フィラメントの芯と鞘との位置関係が大きく崩れてしまったり、中空フィラメントの壁に穴が開いたり、分割フィラメントの延伸による分割性が悪くなるからである。また高弾性率フィラメントとは、延伸により高弾性率を示すフィラメントで、100cN/dtex以上、好ましくは200cN/dtex以上で、300cN/dtex以上であることが最も好ましい。これらは数10cN/dtex程度の弾性率を有する衣料用フィラメントとは区別される。高弾性率フィラメントとしては、アラミドフィラメント、全芳香族ポリエステル、またポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾールなどのヘテロ環系ポリマー、また超高分子量ポリエチレンを超延伸したフィラメントなどがある。
【0011】
本発明の連続法においは、フィラメントを送出手段から送り出された原フィラメントについて延伸が行われる。送出手段は、ニップローラや数段の駆動ローラの組み合わせなどの一定の送出速度で、フィラメントを送り出すことが出来るものであれば種々のタイプのものが使用できる。
【0012】
本発明の延伸においては、赤外線加熱される直前には、原フィラメントの位置を規制する案内具を設けることが好ましい。赤外線光束による加熱は、非常に狭い範囲において加熱されることが特徴であり、また延伸の開始時は延伸張力も小さいので延伸部が振れやすいので、フィラメントの位置を規制する案内具を設ける。案内具は、細い管や溝、コーム、細いバーの組み合わせなどが使用できる。
【0013】
本発明の原フィラメントは、赤外線加熱手段(レーザーを含む)により照射される赤外線光束により延伸適温に加熱される。赤外線は、原フィラメントを加熱するが、延伸適温に加熱される範囲が、フィラメントの中心でフィラメントの軸方向に、上下4mm(長さ8mm)以内であることが好ましく、さらに好ましくは3mm以下、最も好ましくは2mm以下で加熱される。本発明は、狭い領域で急激に延伸することにより、高度の分子配向を伴った延伸を可能にし、しかも超高倍率延伸であっても、延伸切れを少なくすることができた。なお、この赤外線光束が照射されるフィラメントが、マルチフィラメントである場合は、上記のフィラメントの中心は、マルチフィラメントのフィラメント束の中心を意味する。
【0014】
本発明の赤外線加熱には、レーザーによる加熱が特に好ましい。中でも、10.6μmの波長の炭酸ガスレーザーと、1.06μmの波長のYAG(イットリウム、アルミニウム、ガーネット系)レーザーが特に好ましい。レーザーは、放射範囲を小さく絞り込むことが可能であり、また、特定の波長に集中しているので、無駄なエネルギーも少ない。本発明の炭酸ガスレーザーは、パワー密度が10W/cm2以上、好ましくは20W/cm2以上、最も好ましくは、30W/cm2以上である。狭い延伸領域に高パワー密度のエネルギーを集中することによって、本発明の高倍率延伸が可能となるからである。なお、複数箇所からフィラメント上に照射された場合のパワー密度は、それぞれのパワー密度を合計して示す。
【0015】
なお、この場合の赤外線光束の照射は、複数箇所から照射されることが好ましい。フィラメントの片側のみからの加熱は、そのポリマーの融解温度が高い場合や、良い物性を得るための均一加熱が必要な場合は、非対称加熱により、延伸が困難になるからである。なお、複数箇所からの照射は、フィラメントの走行軸に対して、対称方向からの照射であることが好ましい。高倍率で高物性のフィラメントを得るためには、対称加熱を徹底する必要があるからである。このような複数箇所からの照射は、複数個の赤外線光束の光源から照射してもよいが、一つの光源からの光束を鏡によって反射させることにより、複数回、原フィラメントの通路に沿って照射させることによって達成することもできる。鏡は、固定型ばかりでなく、ポリゴンミラーのように回転するタイプも使用することができる。
【0016】
また、複数箇所からの照射の別な手段として、複数光源からの光源を原フィラメントに複数箇所から照射する手段がある。比較的小規模のレーザー光源で安定してコストの安いレーザー発振装置を複数セット用いて、高パワーの光源とすることができる。
【0017】
本発明において、得られた延伸フィラメントの延伸倍率が5倍以上、好ましくは10倍以上、さらに好ましくは30倍以上、最も好ましくは50倍以上の高倍率で延伸されることを特徴とする。通常の合成繊維の延伸では、3〜7倍であり、PET繊維のスーパードローイングでは10数倍程度延伸するが、それは高物性は期待されていない。本発明人の先願発明(特許文献1ー3)では、数百倍や数千倍といった超高延伸倍率を行うことで、極細フィラメントを得ることを目的とした。本発明では、高物性を得る延伸手段を提供することにあるので、必ずしも高倍率延伸を必要としない。装置の延伸倍率は、原フィラメントの送出手段と引取手段によって決められるが、本発明では、5倍以上好ましくは10倍以上の延伸倍率において、物性が最も良くなる条件において延伸される。高弾性率フィラメントにおいては、5倍から10倍の範囲に最も物性が良くなる場合がある。
【0018】
本発明では、最初は5倍以上の一定延伸倍率において、充分に過剰のエネルギーの赤外線光束によって延伸される。この延伸切れのない安定した延伸状態から、徐々に赤外線光束のエネルギー出力を低下していき、延伸されたフィラメントの物性を測定して、最適な延伸条件を検討する。本発明における延伸されたフィラメントの物性は、延伸されたフィラメントの複屈折に顕著性のあるフィラメント例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどでは、複屈折が有効に利用される。複屈折は、インラインでも測定できるので、本発明の延伸手段の後工程に複屈折測定手段を設けて連続的に測定して最適値を求めることができる。また、強度や弾性率に特徴のあるフィラメントでは、弾性率を測定する。弾性率は、振動法や音波法でインラインで測定できるが、バッチで、延伸されたフィラメントを力学的に測定して、強度や弾性率を求めることもできる。
【0019】
芯鞘フィラメント、中空フィラメント、異形断面フィラメント、分割フィラメント、海島フィラメントなどの機能性フィラメントにおいては、その物性として、上述の複屈折や弾性率などの他、例えば、分割性フィラメントにおいては、その分割性を物性とすることが出来る。また、芯鞘フィラメントでは、芯と鞘との位置関係より偏芯度を物性とすることも出来る。これらの物性は、目的とするフィラメントの種類により適当なものが選ばれ、インラインで測定することが望ましいが、バッチにおいても測定することができる。
【0020】
なお、本発明における原フィラメントの複屈折で測定した配向度fは、下式により示される。なお、この式では、密度の補正が必要であるが、煩雑になるので無視して計算する。
f(%)=(Δn/Δnc)×100
ここで、Δnは実測で得た複屈折で、Δncは、それぞれのポリマーの結晶の複屈折で、理論値等から求められており、それらの値は必ずしも一致しないが、一般に多く用いられる値として、ポリエチレンテレフタレートでは、0.24であり、ナイロン6または66では、0.096であり、アイソタクチックポリプロピレンでは、0.042である。また、本発明における延伸倍率λは、原フィラメントの径doと延伸後のフィラメントの径dより、下記の式で表される。この場合、フィラメントの密度は一定として計算する。繊維径の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)で、原フィラメントは350倍、延伸フィラメントは1000倍での撮影写真に基づき、10点の平均値で行う。
λ=(do/d)2
【0021】
本発明の延伸工程の後に、加熱ゾーンを有する加熱装置を設け、延伸されたフィラメントを熱処理することもできる。加熱は、加熱気体中を通過させる手段や、赤外線加熱等の輻射加熱、加熱ローラ上を通す、またはそれらの併用などの手段で行うことができる。熱処理は、延伸フィラメントの熱収縮を小さくすることや、結晶化度を上げ、フィラメントの経時変化を小さくしヤング率を向上させるなど、種々の効果をもたらす。
【0022】
本発明の延伸されたフィラメントを、さらに延伸した後に巻き取ることもできる。後段階の延伸の手段は、前の段階で行った延伸手段を用いることもできるが、前の段階で充分に高倍率延伸されている場合は、通常のゴデットローラ等のローラ間延伸や、ピン延伸などを用いることもできる。また、本発明の後延伸の手段として、本発明人による(非特許文献1、2、3)ゾーン延伸法やゾーン熱処理法が用いられることが望ましい。
【0023】
本発明の延伸されたフィラメントは、その後続工程で、ボビン、チーズ、リール等(以下リールで代表させる場合がある)に巻き取られ、リールやチーズ巻の形態の製品とされる。これらの巻き取りにおいては、延伸フィラメントはトラバースされながら巻き取られることが望ましい。トラバースされることにより、均一な巻き上げ形態を確保できるからである。マルチフィラメントの巻取に際しては、空気交絡ノズルなどを用いて、フィラメント間を交絡させて巻き取ることが望ましい。本発明におけるフィラメントの巻取速度は、ニップローラや数段の駆動ローラの組み合わせなどの一定の送出速度で、フィラメントを巻き取る手段が使用される。
【0024】
本発明の最適条件で延伸されてフィラメント、または延伸され必要に応じて熱処理されたフィラメントは、コンベア上に集積されて、連続したフィラメントからなる不織布とすることができる。従来のフィラメントからなる不織布の代表であるスパンボンド不織布は、フィラメント強度が1〜2cN/dtexと不十分であるが、本発明においては、充分に強度が出せる。また本発明における不織布は、芯鞘フィラメントや分割フィラメント、中空フィラメント、異形断面フィラメントなどの連続フィラメントからなる不織布を、簡便な手段で提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、上記のように、特殊で高精度・高レベルな装置を必要とせずに、簡便な手段で容易に高倍率で高物性のフィラメントが得られることを特徴とする。また、従来の赤外線法によるフィラメントの延伸手段が、マルチフィラメントや、異径断面フィラメント、分割フィラメント、中空フィラメント、芯鞘フィラメント、または高弾性フィラメントなどを延伸することが困難であったが、本発明では、それらのフィラメントを高物性で高倍率に延伸する手段を提供することにある。また、機能性フィラメントとしての芯鞘フィラメントは、偏芯度を大きくすることで、捲縮性をアップさせるとができる。また、鞘が接着性ポリマーである場合は、芯のポリマーの強度を充分にアップさせたフィラメントとすることができる。また、分割フィラメントにおいては、得られたフィラメントは、分割性が良く、後工程の織機やウオータジェット等での叩打効果によりファインなフィラメントに分割され易くなっている。また本発明により最適に延伸されたフィラメントからなる長繊維不織布は、フィラメントの強度が高く、また、種々の機能を有するフィラメントからなる不織布とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態の例を、図面に基づいて説明する。図1は、本発明の連続法のプロセスの例を示した。原フィラメント1は、リール11に巻かれた状態から繰り出され、コーム12を経て、繰出ニップローラ13a、13bより一定速度で送り出される。原フィラメント1は、シングルフィラメントであっても、マルチフィラメントであってもよい。また、複数のリール11から繰り出され、コーム12で合わされて次工程にに送り出されてもよい。送り出された原フィラメント1は、案内具15で位置を規制されて一定速度で下降する。案内具15は、レーザーの照射位置とフィラメントの走行位置を正確に定めるもので、図では、内径が0.5mmの注射針を使用したが、細いパイプやコーム、スネイルワイヤなども使用できる。案内具15の直下に、レーザー発振装置5より、走行する原フィラメント1に対して、一定幅の加熱域Mにレーザー光束6が照射される。このレーザー光束6は、図2で詳細に説明される鏡22、24,25等で反射されて、フィラメント1を複数箇所からの照射する。レーザー光束6により加熱された原フィラメント1は、送出ニップロール13と引取ニップローラ16によって定められる5倍以上の一定延伸倍率で延伸され、延伸されたフィラメント17となって下降する。下降過程には、複屈折測定装置18が備えられ、複屈折が測定される。この最初の段階では、レーザー発振装置5のレーザー光束6の出力は、延伸切れがない大きな値に保つ。そしてその後に、この複屈折測定装置18により測定された複屈折を、目的の複屈折に近づけるよう、レーザー発振装置5のレーザー光束6の出力を低下していき、最適複屈折を有する延伸フィラメント17として巻取リール19に巻かれていく。
【0027】
本発明においては、延伸されたフィラメント17が巻取リール19に巻かれている過程において、図では省略してあるが、熱処理工程を設けることもできる。また他の熱処理手段として、巻取リールに巻かれているフィラメントを熱風発生器等により発生する熱風で加熱されることにより熱処理することもできる。この熱処理は、巻かれている時間が長いので、長時間の熱処理が可能となる。
【0028】
図2に、本発明で採用されている赤外線光束を、複数箇所から原フィラメントに照射する手段の例を示す。図Aは平面図であり、図Bは側面図である。赤外線照射器より照射された赤外線光束21aは、原フィラメント1の通る領域P(図の点線内)を通って、鏡22に達し、鏡22で反射された赤外線光束21bとなり、鏡23で反射されて赤外線光束21cとなる。赤外線光束21cは、領域Pを通って、最初の原フィラメントの照射位置から120度後から、原フィラメントを照射する。領域Pを通過した赤外線光束21cは、鏡24で反射されて、赤外線光束21dとなり、鏡25で反射されて、赤外線光束21eとなる。赤外線光束21eは領域Pを通って、最初の原フィラメントの照射位置の赤外線光束21cとは逆の120度後から、原フィラメント1を照射する。このように、原フィラメント1は、3つの赤外線光束21a、21c、21eにより、120度ずつ対称の位置から均等に原フィラメント1を加熱することができる。このように原フィラメント1に対して、赤外線光束21を対称位置位置から照射できるようにすることが重要で、非対称では、均一加熱にならず、良い物性のフィラメントとすることが困難である。
【0029】
図3に、本発明で採用されている赤外線光束を、複数箇所から原フィラメントに照射する手段の他の例で、複数の光源を使用する例を、平面図で示す。赤外線放射装置から放射された赤外線光束27aは、原フィラメント1へ放射される。また、別の赤外線放射装置から放射された赤外線光束27bも、原フィラメント1へ放射される。さらに別の赤外線放射装置から放射された赤外線光束27cも、原フィラメント1へ放射される。このように、複数の光源からの放射は、比較的小規模の光源で安定したコストの安いレーザー発信装置を複数用いて、高パワーの光源とすることができる。なお、図では光源が3個の場合を示したが、2個でもよいし、4個以上も使用できる。特に、複数本延伸では、このような複数光源による延伸が特に有効である。
【0030】
図4に、本発明で使用される機能性原フィラメントの例を示す。図Aは、芯鞘型複合フィラメントの例で、図Bはサイダバイサイド型のフィラメントの例を示す。また、図Cは中空フィラメントの例で、図Dは他の形態の中空フィラメントの例である。図Eは、中空フィラメントからなる分割フィラメントの例で、延伸やその後の工程で、斜線部と斜線部でない部分に分割される。図Fは、剥離型分割フィラメントの例である。図Gは、海島フィラメントの例である。図Hは、異形断面フィラメントの例として、絹ずれの音が発生する切り込みが入っている三角断面のフィラメントの例を示す。これらは形状や伝熱に異方性があり、多方面からの均一加熱が求められる。

【実施例1】
【0031】
芯がポリプロピレンで鞘部がポリエチレンである複合フィラメント(フィラメント径154μ)を原フィラメントとして使用して、図1の装置を使用して延伸を行った。レーザーは、株式会社鬼塚硝子社製で、最大10Wの炭酸ガスレーザー発振機延伸倍率を使用した。このときビーム径は4mmで、パワー密度は23.7W/cm2であった。この状態で、延伸倍率を11倍にセットして原フィラメントを延伸しておき、その倍率でパワー密度を徐々に低下していく。そして、それぞれの延伸状態で、芯鞘の偏芯度、鞘部の剥離の有無、得られたフィラメントの強度、弾性率等を測定する。そして、パワー密度が6.4W/cm2であるとき、それらの物性が最もバランスの取れたものとすることができた。

【産業上の利用可能性】
【0032】
これらの高度の物性を備えた延伸されたフィラメントは、衣料分野ばかりでなく、産業資材等の広い分野において使用される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の高倍率で物性を向上させた延伸フィラメントを製造するための連続法のプロセス概念図。
【図2】本発明の原フィラメントに赤外線光束を複数箇所から照射するための鏡の配置の例を示し、A図は平面図、B図は側面図で示す。
【図3】本発明の原フィラメントに赤外線光束を複数箇所から照射する他の例で、複数の光源を有する場合で、平面図で示す。
【図4】本発明の機能性フィラメントの様々なタイプの例を示す概念図。
【符号の説明】
【0034】
1:原フィラメント、 5:レーザー発振器装置、 6:レーザー光束、
11:リール、 12:コーム、 13a、13b:繰出ニップロール、
15:案内具、 16a、16b:引取ニップロール、
17:延伸されたフィラメント、 18:複屈折測定装置、
19:巻取リール、
21a、21b、21c、21d、21e:赤外線光束、
22、23、24、25:鏡、 P:領域。
27a、27b、27c:赤外線光束、 Q:領域。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原フィラメントがフィラメントの送出手段により送り出される工程と、
送り出されてきた該原フィラメントを複数箇所からの赤外線光束で加熱される工程と、
該加熱されたフィラメントが引取装置によって5倍以上の一定倍率で延伸される工程と、
該延伸されたフィラメントの物性が測定されることにより、物性が最も適するように該赤外線光束の出力を低下させていく工程と、
を含む高倍率で高物性のフィラメントの製造方法。
【請求項2】
請求項1の前記原フィラメントがマルチフィラメントである高倍率で高物性のフィラメントの製造方法。
【請求項3】
請求項1の前記原フィラメントが機能性フィラメントである高倍率で高物性のフィラメントの製造方法。
【請求項4】
請求項1の前記原フィラメントが高弾性率フィラメントである高倍率で高物性のフィラメントの製造方法。
【請求項5】
請求項1における前記複数箇所からの赤外線光束による加熱が、フィラメントの走行軸に対して、対称方向からの加熱である、高倍率で高物性のフィラメントの製造方法。
【請求項6】
請求項1における前記延伸後に、前記延伸されたフィラメントが加熱装置により熱処理される、高倍率で高物性のフィラメントの製造方法。
【請求項7】
請求項1における最適化された前記延伸フィラメントがコンベア上に集積されることによる連続フィラメントからなる不織布の製造方法。
【請求項8】
原フィラメントの送出手段と、
送り出されてきた該原フィラメントが複数箇所からの赤外線光束で加熱されるように構成されている赤外線放射装置と、
該加熱されたフィラメントが5倍以上の一定倍率で延伸されるように引き取る引取装置と、
該延伸されたフィラメントの物性を測定する装置と、
該延伸されたフィラメントの物性が最も適するように該赤外線光束の出力を制御する制御装置と、
を含む高倍率で高物性のフィラメントの製造装置。
【請求項9】
請求項8における前記赤外線放射装置が、炭酸ガスレーザー発振装置である、高倍率で高物性のフィラメントの製造装置。
【請求項10】
請求項8における前記赤外線光束の複数箇所からの放射が、一方向から放射される光束を、鏡を用いて反射させて前記原フィラメントに集められたものである、高倍率で高物性のフィラメントの製造装置。
【請求項11】
請求項8における前記赤外線光束の複数箇所からの放射が、複数の赤外線光束放射装置からの光束である、高倍率で高物性のフィラメントの製造装置。
【請求項12】
請求項8における前記延伸装置に、さらに熱処理装置が備えられ、最適条件下で延伸された前記フィラメントが該熱処理装置内を通過することにより熱処理されるように構成されている、高倍率で高物性のフィラメントの製造装置。
【請求項13】
請求項8における前記フィラメント製造装置に、さらにコンベアが備えられ、最適条件下で延伸された前記フィラメントが該コンベア上に集積されるように構成されている連続フィラメントからなる不織布の製造装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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