説明

高分子感温材とこれを用いた感温電線

【構成】ポリ塩化ビニルまたはその共重合体にイオン伝導性物質を配合してなる基材中に、低融点高分子物質にイオン伝導性物質を配合した混和物が分散されている高分子感温材、および芯上に1次導体層11、感温材層12、2次導体層13を順次設けてなる感温電線の感温材層をこの高分子感温材にて形成した感温電線。
【効果】本高分子感温材は20〜100℃で優れたサーミスタ特性を発揮しかつ高い耐熱性を有する。また、本高分子感温材を感温材層に用いて製造した感温電線は、その感温材層が20〜100℃の温度領域にて優れたサーミスタ特性を発揮しかつ高い耐熱性を有するので、大型の電気カーペットなどの床暖房電気機器に用いれば即暖性と温度調節性と安全性とを具備させ得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、特定の温度範囲で急激に電気抵抗が変化するサーミスタ特性を有する高分子感温材、およびこの高分子感温材を感温材層に用いた電気毛布、電気カーペットなどに用いられる感温電線に関する。
【0002】
【従来の技術】電気毛布、電気カーペットなどに用いられる感温電線に使用される高分子感温材として、従来からポリアミド系高分子感温材およびポリ塩化ビニル系高分子感温材が知られている。ところが、ポリアミド系高分子感温材はサーミスタ特性が小さく、さらに比較的に吸湿性が高いために、このポリアミド系高分子感温材を用いた感温電線を長期間保管した場合、使用初期のサーミスタ特性が大きく変動する。そのため、このポリアミド系高分子感温材は、迅速に暖めること並びに長期間にわたり安全に機能することが要求される電気カーペットなどに組み込まれる感温電線の感温材には好ましくない。
【0003】一方、従来公知のポリ塩化ビニル系高分子感温材は、低吸湿性のベースポリマーであるポリ塩化ビニルに可塑剤、熱安定剤、およびイオン伝導性物質を添加したものである。このポリ塩化ビニル系高分子感温材は、比較的高いサーミスタ特性が得られるので、即暖性および微妙な温度調節ができることが要求される電気カーペットなどの感温電線の感温材として好適である。しかしながら、このポリ塩化ビニル系高分子感温材は、高温域におけるサーミスタ特性が充分でないため、上記のポリ塩化ビニル系高分子感温材の特長を保持しつつ、特定の温度範囲で急激に電気抵抗が変化するサーミスタ特性を有する高分子感温材の開発が要望されていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】近年、電気カーペットも大型化して来ており、大面積を迅速に暖めることが要求されてきているため、この電気カーペットに配線される感温電線は長尺化している。しかし、従来の高分子感温材では、長尺化した感温電線の一部における局所的な高温を検知できないと言う問題を有していた。そのため、電気カーペットが局所的に高温になっても制御装置が作動せずに発熱体の加熱作用が継続し、電気カーペットに局所過熱を引き起こすと言う問題があった。
【0005】従来の高分子感温材がこの局所加熱を検知できない原因は、高温領域でのインピーダンス変化が小さく、長尺の感温電線の一部が局所的に高温になっただけでは感温電線全体のインピーダンスは殆ど変化しないことにある。従って、このような局所的過熱の危険を回避するためには、感温電線の一部における局所的な高い温度をも検知できる特定の高温度領域において急激にインピーダンスが低下する優れたサーミスタ特性を有する高分子感温材が必要とされる。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、かかる要望に応じるため鋭意研究を行つた結果、検知すべき特定の高い温度領域で優れたサーミスタ特性を発揮し、かつ長期間にわたり確実に機能を果たす高分子感温材を開発し、また、この高分子感温材を用いて良性能の感温電線を開発し得たものである。即ち、請求項1の発明は、ポリ塩化ビニルまたはその共重合体にイオン伝導性物質を配合してなる基材中に、低融点高分子物質にイオン伝導性物質を配合した混和物が分散されていることを特徴とする高分子感温材である。また、請求項2の発明は、芯線上に1次導体層、感温材層、2次導体層を順次設けてなる感温電線において、前記感温材層を請求項1記載の高分子感温材にて形成したことを特徴とする感温電線である。
【0007】本発明で言う、ポリ塩化ビニルまたはその共重合体には、例えばポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニルとフッ素樹脂との共重合体、エチレンとの共重合体などがある。また、本発明で、ポリ塩化ビニルまたはその共重合体を主体とした基材に配合する低融点高分子物質は融点を20〜100℃の範囲の高分子物質であることが望ましい。20℃未満のものを用いると、通常の電気カーペットなどの使用温度域(20〜60℃)より低い温度で感温材が作用するので、暖房という電気カーペットなどの本来の目的には適さない。また、100℃を越えるものであると、配合して得た感温材は局所過熱検知能は有するが、低温火傷など人体の危険を防止する目的から、電気カーペットなどに使用する感温材としては適当でないものとなるからである。このような温度範囲の低融点高分子物質を例記すると、融点が40〜80℃の範囲内にあるエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、ポリエチレングリコール(PEG)、融点が80〜100℃のポリウレタン(PU)、共重合ポリアミド、融点が85〜95℃の共重合ポリエステルなどを挙げることができる。人体などに対する危険防止の点からは、融点が60〜80℃の範囲内の低融点高分子物質を配合するのが好ましい。なお、この低融点高分子物質の配合量は、基材中のポリ塩化ビニルまたはその共重合体100重量部に対して10〜50重量部程度配合すると良い。
【0008】イオン伝導性物質とは、イオンの運動によって現れる電流によって電気伝導する物質で、その種類は特に限定されないが、例えば、陰イオン系ではアルキル硫酸エステル、アルキル硫酸エステル塩、アルキルフェニルエーテル硫酸エステルなどの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホンコハク酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル塩、N−メチルN−アルキルタウリン塩などのスルホン酸塩、N−アミノアミノ酢酸塩、脂肪酸塩などのカルボン酸塩、アルキル燐酸エステル塩、アルキルフェニル燐酸塩、アルキルエーテル燐酸塩などの燐酸塩、陽イオン系では、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジヒドロキシエチルメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、イミダゾリニウム塩などの第4級アンモニウム塩、N,N−ビス2−ヒドロキシエチルアルキルアミンなどの脂肪族アミン塩、両性系では、カルボキシベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸イミダゾリウムベタイン、レシチンなどがあるが、特に陽イオン系の過塩素酸塩、例えば高分子物質への分散性の優れている過塩素酸ベンザルコニウム塩などが好ましい。また、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸モノエステルなどの非イオン系の物質を上記陽イオン系または陰イオン系と併用してもかまわない。
【0009】なお、このイオン伝導性物質の配合量はベース樹脂(低融点高分子物質、ポリ塩化ビニルまたはその共重合体)100重量部に対して、0 . 5〜10重量部の範囲内で添加すればよい。本発明の高分子感温材には、必要に応じて可塑剤、熱安定剤、難燃剤などを配合することができる。
【0010】
【作用】本発明の高分子感温材は、予めイオン伝導性物質が添加されている基材に、予めイオン伝導性物質を添加した低融点高分子物質を配合したもので、常温では、感温材中の低融点高分子物質中のイオン伝導性物質中からなるイオンキャリアーは、低融点高分子物質の高い結晶性により、移動度が小さく抑えられている。このため、低融点高分子物質が高分子感温材全体のイオン伝導度の律速的役割を果たし、体積固有インピーダンスを高めるので、高分子感温材は常温では比較的高い体積固有インピーダンスを有している。ところが、発熱体の熱により、感温材中の低融点高分子物質の融点、例えば、20〜100℃内の特定の温度付近に到達すると、感温材中の低融点高分子物質は結晶融解し、基材中に溶融した島構造をとる。この時、低融点高分子物質中のイオン伝導性物質からなるイオンキャリアーの移動度が急増して、イオン伝導度が大きくなる。従って、本発明の高分子感温材は配合した低融点高分子物質の融点以上の温度領域で、体積固有インピーダンスが急激に低下し、優れたサーミスタ特性を示す。更に、低融点高分子物質は基材中に均一に分散しているので、かかる本発明の高分子感温材を感温材層に用いて作製した本発明の感温電線の温度特性は電線の長手方向にバラツキが極めて小さく、局所過熱の検知に対する信頼性の高い感温電線となる。
【0011】
【実施例】以下に本発明の実施例を示す。表1に示す配合割合にて、それぞれの低融点高分子物質にイオン伝導性物質を配合し、これを2軸押出機により約100℃で混練押出し、粉砕してペレットとなした。
【0012】
【表1】 (重量部)


表中、EVA(1) : エチレンー酢酸ビニル共重合体(商品名エルバロイ741)(三井・デュポンポリケミカル社製)EVA(2) : エチレンー酢酸ビニル共重合体 (商品名プラタボンドM1184)(アトケム社製)* : 商品名プラタミド H 103 ( アトケム社製)** : 商品名プラサーム M 1333 ( アトケム社製)
【0013】次に、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、可塑剤としてトリオクチルトリメリテート50重量部、熱安定剤として三塩基性硫酸鉛6重量部、イオン伝導剤として過塩素酸ベンザルコニウムを0. 5 重量部を配合し、これに表1の組成の低融点高分子配合物(1)〜(6)を表2に示す配合割合にてそれぞれ配合し、これを2軸押出機により180℃で混練押出し、粉砕して本発明及び比較例の高分子感温材を得た。
【0014】得られた本発明および比較例の高分子感温材を用いて図1に示す感温電線を次のように作り特性を評価した。先ず、ポリエステル糸からなる芯10上に銅合金箔を巻きつけて1次導体層11を設け、この1次導体層11上にそれぞれの高分子感温材を押出被覆して感温材層12を形成し、この感温材層12上に銅合金箔を巻きつけて2次導体層13を設け、この2次導体層13上にポリエチレンテレフタレート(PET)フイルムを巻きつけて遮蔽層14を設け、この遮蔽層14上にポリ塩化ビニル(PVC)を押出被覆して外部シース層15を形成して、感温電線を製作した。
【0015】上述のようにして製作したそれぞれの感温電線について、60Hzでの体積固有インピーダンスを30〜100℃の温度範囲で測定し、得られた測定値から30〜60℃および60〜100℃のサーミスタB定数を算出し表2に併記した。なお、サーミスタB定数値が大きい方がサーミスタ特性は高いものである。また、80℃におけるそれぞれの感温電線のインピーダンスの初期値と2000時間経過後のインピーダンスの値を測定してその変化率を算出した。得られた結果を表2に併記する。なお、高分子感温材はその変化率が小さいほど耐熱性があると評価できる。
【0016】
【表2】


【0017】表2から、低融点高分子物質とイオン伝導性物質との混和物が配合された発明品1〜6は比較品1〜2と比べて、低融点高分子物質の融点の含まれる温度範囲60〜100℃でのサーミスタB定数が、その下の30〜60℃での値より大となっており高温側の検出感度が高い事が判る。従って、検知すべき特定の温度とほぼ同じ温度の融点を有する低融点高分子物質にイオン伝導性物質を配合した混合物を配合すれば、用いた低融点高分子物質の融点付近で体積固有インピーダンスが低下して優れたサーミスタ特性を発揮し、特定温度に対する高分子感温材としての機能を果たすことができることが表2から判る。また、表2に示した比較品(イオン伝導性物質を含有した低融点高分子物質を配合しない感温材を用いたもの)、比較品2(イオン伝導性物質を含有しない低融点高分子物質を配合した感温材を用いたもの)および発明品1〜6の感温電線の特性を対比すると、発明品1〜6の感温電線は、比較品1〜2の感温電線に比べて温度検知を所望する高温領域(60〜100℃)においてサーミスタB定数が大きく、遙に優れたサーミスタ特性を有し、かつ従来のポリ塩化ビニル系感温材を用いた感温電線に相当する比較品1と同等のインピーダンス変化率を示しているので、同等の耐熱性を保持していることが判る。
【0018】
【発明の効果】本発明の高分子感温材は優れたサーミスタ特性を発揮し、かつ高い耐熱性を有している。また、本発明の高分子感温材を感温材層に用いて製造した感温電線は、優れたサーミスタ特性を発揮し、かつ高い耐熱性を有しているので、大型の電気カーペットなどの床暖房電気機器に用いれば、即暖性と温度調節性と安全性とを具備させ得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の感温電線の一実施例品の段剥ぎ説明図。
【符号の説明】
10 ポリエステル糸製芯
11 1次導体層
12 感温材層
13 2次導体層
14 遮蔽層
15 外部シース層

【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリ塩化ビニルまたはその共重合体にイオン伝導性物質を配合してなる基材中に、低融点高分子物質にイオン伝導性物質を配合した混和物が分散されていることを特徴とする高分子感温材。
【請求項2】芯線上に1次導体層、感温材層、2次導体層を順次設けてなる感温電線において、前記感温材層を請求項1記載の高分子感温材にて形成したことを特徴とする感温電線。

【図1】
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